以下、本発明において用いられるポリカーボネート樹脂、本発明のゴム質グラフト重合体からなるポリカーボネート樹脂用強化剤、及び本発明のポリカーボネート樹脂組成物について順次説明する。尚、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することが出来る。
〔ポリカーボネート樹脂〕
本発明において、ポリカーボネート樹脂としては、従来公知の任意のものを使用することができる。即ち本発明では、ポリカーボネート樹脂として、芳香族ポリカーボネート樹脂、脂肪族ポリカーボネート樹脂、芳香族−脂肪族ポリカーボネート樹脂を使用できる。
ポリカーボネート樹脂(以下、「PC樹脂」という場合がある。)は、種々のジヒドロキシジアリール化合物とホスゲンとを反応させるホスゲン法、またはジヒドロキシジアリール化合物とジフェニルカーボネート等の炭酸エステルとを反応させるエステル交換法等によって得られる重合体である。代表的なものとしては、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)から製造されたポリカーボネートが挙げられる。
上記ジヒドロキシジアリール化合物としては、ビスフェノールAの他に、以下のものが挙げられる。ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)フェニルメタン等。これらは単独でまたは2種類以上を組み合わせて用いることができる。
本発明において、ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量は、10,000〜40,000であることが好ましく、15,000〜30,000であることがより好ましい。ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量が10,000以上であれば、成形体を高温で成形した際に分子量の低下が起こりにくく、衝撃強度保持率や耐熱着色性に優れる。また、粘度平均分子量が40,000以下であれば、得られるポリカーボネート樹脂組成物は溶融流動性に優れる。尚、「粘度平均分子量」は、溶媒としてメチレンクロライドを用い、温度25℃で測定された溶液粘度より換算して得られる分子量である。
本発明において、ポリカーボネート樹脂としては、構造の一部に下記式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含有するポリカーボネート樹脂(以下、「PC樹脂(B)」という場合がある。)が好ましく、構造の一部に下記式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含有し、ガラス転移温度(Tg)が145℃未満のポリカーボネート樹脂がより好ましい。またこのポリカーボネート樹脂の屈折率と本発明のゴム質グラフト重合体の屈折率との差は0.005以下であることが好ましい。
但し、上記式(1)で表される部位が−CH2−O−Hの一部である場合を除く。
<式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物>
本発明のPC樹脂(B)は、構造の一部に前記式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物に由来する構造単位(以下、「構造単位(1)」と称す場合がある。)を少なくとも有する。
PC樹脂(B)において、構造単位(1)の含有量は、ポリカーボネート樹脂に含まれる全ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位に対して、1モル%以上かつ90モル%未満であることが好ましい。構造単位(1)の含有量が上述の範囲より少ない場合には、樹脂の耐熱性が不足し、熱により成形品が変形するおそれがある。一方、上述の範囲より多い場合には、高分子量とすることが困難となるため、樹脂の耐衝撃性が不足し、成形品の使用時に破断するおそれがある。PC樹脂(B)中の構造単位(1)の含有量は、ポリカーボネート樹脂に含まれる全ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位に対して、30モル%以上がより好ましく、50モル%以上がさらに好ましい。また、PC樹脂(B)中の構造単位(1)の含有量は、ポリカーボネート樹脂に含まれる全ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位に対して、より好ましくは80モル%未満、さらに好ましくは70モル%未満、さらに好ましくは65モル%以下であり、最も好ましくは60モル%以下である。
構造の一部に前記式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物(以下、「ジヒドロキシ化合物(1)」という場合がある。)としては、分子構造の一部に前記式(1)で表されるものを含んでいれば特に限定されるものではないが、具体的には以下のものが挙げられる。ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコールなどのオキシアルキレングリコール類、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−メチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−イソプロピルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−イソブチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−tert−ブチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−シクロヘキシルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−フェニルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ジメチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−tert−ブチル−6−メチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(3−ヒドロキシ−2,2−ジメチルプロポキシ)フェニル)フルオレン等、側鎖に芳香族基を有し、主鎖のエーテル基が前記式(1)で表される部位であるジヒドロキシ化合物が挙げられる。
また、下記式(1A)で表されるジヒドロキシ化合物に代表される無水糖アルコール、下記式(1B)で表されるスピログリコール等の環状エーテル構造を有する化合物等の複素環基の一部が前記式(1)で表される部位であるジヒドロキシ化合物が挙げられる。ジヒドロキシ化合物(1)としては、特に、複素環基の一部が前記式(1)で表される部位であるジヒドロキシ化合物が好ましい。
上記一般式(1B)中、R11〜R14はそれぞれ独立に、炭素数1〜3のアルキル基である。
上記式(1A)で表されるジヒドロキシ化合物としては、立体異性体の関係にある、イソソルビド、イソマンニド、イソイデットが挙げられる。また、上記式(1B)で表されるジヒドロキシ化合物としては、例えば以下のものが挙げられる。3,9−ビス(1,1−ジメチル−2−ヒドロキシエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ(5.5)ウンデカン(慣用名:スピログリコール)、3,9−ビス(1,1−ジエチル−2−ヒドロキシエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ(5.5)ウンデカン、3,9−ビス(1,1−ジプロピル−2−ヒドロキシエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ(5.5)ウンデカン、ジオキサングルコールなど。
これらのジヒドロキシ化合物(1)は、1種を単独で用いても良く、2種以上を組み合わせて用いても良い。
これらのジヒドロキシ化合物(1)のうち、資源として豊富に存在し、容易に入手可能であるという観点から、複素環基を有する化合物がより好ましく、上記式(1A)で表されるジヒドロキシ化合物が特に好ましい。また、種々のデンプンから製造されるソルビトールを脱水縮合して得られるイソソルビドが、入手及び製造のし易さ、光学特性、成形性の面から最も好ましい。
尚、イソソルビド等、環状エーテル構造を有するジヒドロキシ化合物(1)は、酸素によって徐々に酸化されやすい。このため、保管や、製造時の取り扱いの際には、酸素による分解を防ぐため、水分が混入しないようにすることが必要である。また、脱酸素剤を用いたり、窒素雰囲気下で取り扱うことが好ましい。イソソルビドが酸化されると、蟻酸をはじめとする分解物が発生する。例えば、これら分解物を含むイソソルビドを用いてポリカーボネート樹脂を製造すると、得られるポリカーボネート樹脂に着色が発生したり、物性を著しく劣化させる原因となる。また、重合反応に影響を与え、高分子量の重合体が得られないこともあり、好ましくない。
そこで、ジヒドロキシ化合物(1)には安定剤を用いることが好ましい。安定剤としては、還元剤、制酸剤、抗酸化剤、脱酸素剤、光安定剤、pH安定剤、熱安定剤等の安定剤を用いることが好ましく、特に酸性下ではジヒドロキシ化合物(1)が変質しやすいことから、塩基性安定剤を用いることが好ましい。このうち還元剤としては、ナトリウムボロハイドライド、リチウムボロハイドライド等が挙げられ、制酸剤としては水酸化ナトリウム等のアルカリが挙げられる。ただし、このようなアルカリ金属塩の添加は、添加したアルカリ金属がポリカーボネート樹脂製造時の重合触媒となる場合があるので、過剰に添加し過ぎると重合反応を制御できなくなり、好ましくない。
塩基性安定剤としては、例えば以下のものが挙げられる。長周期型周期表(Nomenclature of Inorganic Chemistry IUPAC Recommendations 2005)における1族又は2族の金属の水酸化物、炭酸塩、リン酸塩、亜リン酸塩、次亜リン酸塩、硼酸塩、脂肪酸塩や、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルエチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルメチルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、トリブチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリブチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、テトラフェニルアンモニウムヒドロキシド、ベンジルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド、メチルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド、ブチルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド等の塩基性アンモニウム化合物、4−アミノピリジン、2−アミノピリジン、N,N−ジメチル−4−アミノピリジン、4−ジエチルアミノピリジン、2−ヒドロキシピリジン、2−メトキシピリジン、4−メトキシピリジン、2−ジメチルアミノイミダゾール、2−メトキシイミダゾール、イミダゾール、2−メルカプトイミダゾール、2−メチルイミダゾール、アミノキノリン等のアミン系化合物。その中でも、その効果と後述する蒸留除去のしやすさから、ナトリウム又はカリウムのリン酸塩、亜リン酸塩が好ましく、中でもリン酸水素2ナトリウム、亜リン酸水素2ナトリウムが好ましい。
これら塩基性安定剤のジヒドロキシ化合物(1)中の含有量に特に制限はないが、通常、ジヒドロキシ化合物(1)に対して、0.0001質量%〜1質量%、好ましくは0.001質量%〜0.1質量%である。この含有量が少なすぎるとジヒドロキシ化合物(1)の変質を防止する効果が得られない可能性があり、多すぎるとジヒドロキシ化合物(1)の変性を招く場合がある。
これらの安定剤を添加したジヒドロキシ化合物(1)をポリカーボネート樹脂原料として用いると、安定剤の種類によっては、得られるポリカーボネート樹脂に着色を発生したり、物性を著しく劣化させたりする場合がある。例えば、上記の塩基性安定剤を含有したジヒドロキシ化合物(1)をポリカーボネート樹脂の製造原料として用いると、塩基性安定剤自体が重合触媒となり、重合速度や品質の制御が困難になるだけでなく、初期色相の悪化を招き、結果的に得られるポリカーボネート樹脂成形品の耐光性を悪化させる。このため、ジヒドロキシ化合物(1)をポリカーボネート樹脂の製造原料として使用する前に、塩基性安定剤等の安定剤は、イオン交換樹脂や蒸留等で除去することが好ましい。
また、前述の如く、ジヒドロキシ化合物(1)の酸化分解生成物を含むジヒドロキシ化合物(1)をポリカーボネート樹脂の製造原料として使用すると、得られるポリカーボネート樹脂の着色を招く可能性があり、また、物性を著しく劣化させる可能性があるだけではなく、重合反応に影響を与え、高分子量の重合体が得られないことがある。このため、酸化分解物を含まないジヒドロキシ化合物(1)を得るために、また、前述の塩基性安定剤を除去するために、ジヒドロキシ化合物(1)の蒸留精製を行うことが好ましい。この場合の蒸留とは単蒸留であっても、連続蒸留であってもよく、特に限定されない。蒸留の条件としてはアルゴンや窒素等の不活性ガス雰囲気において、減圧下で蒸留を実施することが好ましく、熱による変性を抑制するためには、250℃以下、好ましくは200℃以下、特には180℃以下の条件で行うことが好ましい。
このような蒸留精製により、ジヒドロキシ化合物(1)中の酸化分解生成物、例えば、蟻酸含有量を20質量ppm以下、好ましくは10質量ppm以下、特に好ましくは5質量ppm以下にすることにより、ポリカーボネート樹脂製造時の重合反応性を損なうことなく、色相や熱安定性に優れたポリカーボネート樹脂の製造が可能となる。
なお、ジヒドロキシ化合物(1)の「蟻酸含有量」の測定はイオンクロマトグラフィーを使用し、以下の手順に従い行われる。以下の手順では、代表的なジヒドロキシ化合物(1)として、イソソルビドを例とする。
イソソルビド約0.5gを精秤し50mlのメスフラスコに採取して純水で定容する。標準試料として蟻酸ナトリウム水溶液を用い、標準試料とリテンションタイムが一致するピークを蟻酸とし、ピーク面積から絶対検量線法で定量する。イオンクロマトグラフは、Dionex社製のDX−500型を用い、検出器には電気伝導度検出器を用いる。測定カラムとして、Dionex社製ガードカラムにAG−15、分離カラムにAS−15を用いる。測定試料を100μlのサンプルループに注入し、溶離液に10mM−NaOHを用い、流速1.2ml/分、恒温槽温度35℃で測定する。サプレッサーには、メンブランサプレッサーを用い、再生液には12.5mM−H2SO4水溶液を用いる。
<ジヒドロキシ化合物(1)以外のジヒドロキシ化合物>
PC樹脂(B)は、構造の一部に前記構造単位(1)以外に、下記式(2)〜(5)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構造単位よりなる群から選ばれる何れかの構造単位を有することが好ましい。
以下において、式(2)、(3)、(4)、(5)で表されるジヒドロキシ化合物を、それぞれ、「ジヒドロキシ化合物(2)」、「ジヒドロキシ化合物(3)」、「ジヒドロキシ化合物(4)」、「ジヒドロキシ化合物(5)」と称す場合がある。また、ジヒドロキシ化合物(2)、(3)、(4)、(5)に由来する構造単位を、それぞれ、「構造単位(2)」、「構造単位(3)」、「構造単位(4)」、「構造単位(5)」と称す場合がある。
式(2)中、R1は炭素数4〜20の置換若しくは無置換のシクロアルキレン基を表す。式(3)中、R2は炭素数4〜20の置換若しくは無置換のシクロアルキレン基を表す。式(4)中、R3は炭素数2〜10の置換若しくは無置換のアルキレン基を表し、pは2〜100の整数である。式(5)中、R4は炭素数2〜20の置換若しくは無置換のアルキレン基、又は置換若しくは無置換のアセタール環を有する基を表す。
上記ジヒドロキシ化合物(2)〜(5)のうち、特に、脂肪族ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含むことが好ましく、なかでも、脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含むことが好ましく、この場合には、得られるポリカーボネート樹脂に柔軟性を付与することができる。
(脂肪族ジヒドロキシ化合物)
脂肪族ジヒドロキシ化合物としては、前記式(5)で表されるジヒドロキシ化合物のうち、R4が炭素数2〜20の置換若しくは無置換のアルキレン基である脂肪族ジヒドロキシ化合物が挙げられ、このような脂肪族ジヒドロキシ化合物として、例えば以下のものが挙げられる。1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール、2−エチル−1,6−ヘキサンジオール、2,2,4−トリメチル−1,6−ヘキサンジオール、1,10−デカンジオール、水素化ジリノレイルグリコール、水素化ジオレイルグリコール等。
尚、前記例示化合物は、本発明に使用し得る脂肪族ジヒドロキシ化合物の一例であって、何らこれらに限定されるものではない。これらの脂肪族ジヒドロキシ化合物は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
(脂環式ジヒドロキシ化合物)
脂環式ジヒドロキシ化合物としては、特に限定されないが、通常、5員環構造又は6員環構造を含む化合物が挙げられる。脂環式ジヒドロキシ化合物が5員環構造又は6員環構造であることにより、得られるポリカーボネート樹脂の耐熱性が高くなる可能性がある。6員環構造は共有結合によって椅子形もしくは舟形に固定されていてもよい。脂環式ジヒドロキシ化合物に含まれる炭素数は通常70以下であり、好ましくは50以下、さらに好ましくは30以下である。脂環式ジヒドロキシ化合物は、炭素数が多い程、樹脂の耐熱性が高くなるが、合成が困難になったり、精製が困難になったり、コストが高価になる傾向がある。脂環式ジヒドロキシ化合物は、炭素数が少ないほど、精製しやすく、入手しやすい傾向がある。
5員環構造又は6員環構造を含む脂環式ジヒドロキシ化合物としては、具体的には前記ジヒドロキシ化合物(2)及び(3)が挙げられる。
前記式(3)で表される脂環式ジヒドロキシ化合物であるシクロヘキサンジメタノールとしては、前記式(3)において、R2が下記式(3a)(式中、R5は水素原子、又は、置換若しくは無置換の炭素数1〜炭素数12のアルキル基を表す。)で示される種々の異性体を包含する。このようなものとしては、具体的には、1,2−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノール等が挙げられる。
前記式(3)で表される脂環式ジヒドロキシ化合物であるトリシクロデカンジメタノール、ペンタシクロペンタデカンジメタノールとしては、前記式(3)において、R2が下記式(3b)(式中、nは0又は1を表す。)で表される種々の異性体を包含する。
前記式(3)で表される脂環式ジヒドロキシ化合物であるデカリンジメタノール又は、トリシクロテトラデカンジメタノールとしては、前記式(3)において、R2が下記式(3c)(式中、mは0又は1を表す。)で表される種々の異性体を包含する。このようなものとしては、具体的には、2,6−デカリンジメタノール、1,5−デカリンジメタノール、2,3−デカリンジメタノール等が挙げられる。
また、前記式(3)で表される脂環式ジヒドロキシ化合物であるノルボルナンジメタノールとしては、前記式(3)において、R2が下記式(3d)で表される種々の異性体を包含する。このようなものとしては、具体的には、2,3−ノルボルナンジメタノール、2,5−ノルボルナンジメタノール等が挙げられる。
前記式(3)で表される脂環式ジヒドロキシ化合物であるアダマンタンジメタノールとしては、前記式(3)において、R2が下記一般式(3e)で表される種々の異性体を包含する。このようなものとしては、具体的には、1,3−アダマンタンジメタノール等が挙げられる。
また、前記式(2)で表される脂環式ジヒドロキシ化合物であるシクロヘキサンジオールは、前記式(2)において、R1が下記式(2a)(式中、R5は水素原子、置換又は無置換の炭素数1〜炭素数12のアルキル基を表す。)で表される種々の異性体を包含する。このようなものとしては、具体的には、1,2−シクロヘキサンジオール、1,3−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、2−メチル−1,4−シクロヘキサンジオール等が挙げられる。
前記式(2)で表される脂環式ジヒドロキシ化合物であるトリシクロデカンジオール、ペンタシクロペンタデカンジオールとしては、前記式(2)において、R1が下記一般式(2b)(式中、nは0又は1を表す。)で表される種々の異性体を包含する。
前記式(2)で表される脂環式ジヒドロキシ化合物であるデカリンジオール又は、トリシクロテトラデカンジオールとしては、前記式(2)において、R1が下記一般式(2c)(式中、mは0又は1を表す。)で表される種々の異性体を包含する。このようなものとしては、具体的には、2,6−デカリンジオール、1,5−デカリンジオール、2,3−デカリンジオール等が用いられる。
前記式(2)で表される脂環式ジヒドロキシ化合物であるノルボルナンジオールとしては、前記式(2)において、R1が下記一般式(2d)で表される種々の異性体を包含する。このようなものとしては、具体的には、2,3−ノルボルナンジオール、2,5−ノルボルナンジオール等が用いられる。
前記式(2)で表される脂環式ジヒドロキシ化合物であるアダマンタンジオールとしては、前記式(2)において、R1が下記式(2e)で表される種々の異性体を包含する。このようなものとしては具体的には、1,3−アダマンタンジオール等が用いられる。
上述した脂環式ジヒドロキシ化合物の具体例のうち、シクロヘキサンジメタノール類、トリシクロデカンジメタノール類、アダマンタンジオール類、ペンタシクロペンタデカンジメタノール類が好ましい。また、入手のしやすさ、取り扱いのしやすさという観点から、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,2−シクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンジメタノールが特に好ましい。
尚、前記例示化合物は、本発明に使用し得る脂環式ジヒドロキシ化合物の一例であって、何らこれらに限定されるものではない。これらの脂環式ジヒドロキシ化合物は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
(ポリオキシアルキレンジヒドロキシ化合物)
前記式(4)で表されるジヒドロキシ化合物であるポリオキシアルキレンジヒドロキシ化合物は、R3が炭素数2〜10、好ましくは炭素数2〜5の置換若しくは無置換のアルキレン基である化合物である。pは2〜100の整数であり、好ましくは2〜50、より好ましくは6〜30、特に好ましくは12〜15である。前記式(4)で表されるジヒドロキシ化合物であるポリオキシアルキレンジヒドロキシ化合物の具体例としては、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール(分子量150〜4000)などが挙げられるが、何らこれらに限定されるものではない。前記式(4)の化合物としては、分子量300〜2000のポリエチレングリコールが好ましく、中でも分子数600〜1500のポリエチレングリコールが好ましい。これらは得られるポリカーボネート共重合体の要求性能に応じて、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
尚、前記例示化合物は、本発明に使用し得るポリオキシアルキレンジヒドロキシ化合物の一例であって、何らこれらに限定されるものではない。これらのポリオキシアルキレンジヒドロキシ化合物は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
(アルキレン基、又はアセタール環を有する基を有するジヒドロキシ化合物)
前記式(5)で表されるジヒドロキシ化合物(以下、「式(5)の化合物」と略称することがある。)は、R4が炭素数2〜20、好ましくは炭素数2〜10の置換若しくは無置換のアルキレン基、又は置換若しくは無置換のアセタール環を有する基であるジヒドロキシ化合物である。R4のアルキレン基が置換基を有する場合、当該置換基としては炭素数1〜5のアルキル基が挙げられる。また、R4のアセタール環を有する基が置換基を有する場合、当該置換基としては炭素数1〜3のアルキル基が挙げられる。
前記式(5)の化合物のうち、R4が炭素数2〜20の置換若しくは無置換のアルキレン基であるジヒドロキシ化合物としては、例えば、1,3−プロパンジオール、1,2−プロパンジオール等のプロパンジオール類、1,4−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール等のブタンジオール類、1,5−ヘプタンジオール等のヘプタンジオール類、1,6−ヘキサンジオール等のヘキサンジオール類などが挙げられるが、何らこれらに限定されるものではない。これらの中で、ヘキサンジオール類が好ましい。
一方、R4が置換若しくは無置換のアセタール環を有する基であるジヒドロキシ化合物としては、特に限定されるものではないが、中でも、下記式(8)、式(9)で表されるようなスピロ構造を有するジヒドロキシ化合物が好ましく、特には下記式(8)で表されるような複数の環構造を有するジヒドロキシ化合物が好ましい。
これらのジヒドロキシ化合物のなかでも、入手のし易さ、取扱いの容易さ、重合時の反応性の高さ、得られるポリカーボネー共重合体の色相の観点からは、1,3−プロパンジオール、1,6−ヘキサンジオールが好ましい。また樹脂の耐熱性の観点からは、アセタール環を有する基を有するジヒドロキシ化合物類が好ましく、特には上記式(8)に代表されるような複数の環構造を有するものが好ましい。これらは得られるポリカーボネート共重合体の要求性能に応じて、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
PC樹脂(B)が脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を有する場合、PC樹脂(B)中の構造単位(1)と、前述のジヒドロキシ化合物(2)〜(5)に由来する構造単位とのモル比率は、任意の割合で選択できるが、前記モル比率を調整することで、衝撃強度(例えば、ノッチ付きシャルピー衝撃強度)が向上する可能性があり、更にポリカーボネート樹脂に所望のガラス転移温度を付与することが可能である。
PC樹脂(B)において、構造単位(1)とジヒドロキシ化合物(2)〜(5)に由来する構造単位とのモル比率は、30:70〜99:1であることが好ましく、40:60〜90:10であることがより好ましく、50:50〜80:20であることが特に好ましい。前記の好ましい範囲内であれば、着色が少なく、高分子量であり、衝撃強度が高く、さらに、ガラス転移温度を高いポリカーボネート樹脂を得ることができる。
(その他のジヒドロキシ化合物)
PC樹脂(B)においては、前記構造単位(1)及び構造単位(2)〜(5)に加えて、更にその他のジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含むことができる。その他のジヒドロキシ化合物としては、芳香族系ジヒドロキシ化合物等が挙げられる。
芳香族系ジヒドロキシ化合物としては、置換若しくは無置換のビスフェノール化合物が挙げられ、具体的には例えば以下のものが挙げられる。ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、3,3−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3−メチルブタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサン、3,3−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−4−メチルペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン等の芳香族環上に置換基を有しないビスフェノール化合物;ビス(3−フェニル−4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(3−フェニル−4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,1−ビス(3−フェニル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−フェニル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン等の芳香族環上に置換基としてアリール基を有するビスフェノール化合物;ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)エタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)シクロヘキサン、ビス(4−ヒドロキシ−3−エチルフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−エチルフェニル)エタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−エチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−エチルフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−エチルフェニル)シクロヘキサン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−イソプロピルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−(sec−ブチル)フェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)シクロヘキサン、ビス(4−ヒドロキシ−3,6−ジメチルフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3,6−ジメチルフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,6−ジメチルフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシ−2,3,5−トリメチルフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−2,3,5−トリメチルフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−2,3,5−トリメチルフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシ−2,3,5−トリメチルフェニル)フェニルメタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−2,3,5−トリメチルフェニル)フェニルエタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−2,3,5−トリメチルフェニル)シクロヘキサン等の芳香族環上に置換基としてアルキル基を有するビスフェノール化合物;ビス(4−ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルプロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ジベンジルメタン等の芳香族環を連結する2価基が置換基としてアリール基を有するビスフェノール化合物;4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル等の芳香族環をエーテル結合で連結したビスフェノール化合物;4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン等の芳香族環をスルホン結合で連結したビスフェノール化合物;4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルフィド、3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルフィド等の芳香族環をスルフィド結合で連結したビスフェノール化合物等。好ましくは2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(以下、「ビスフェノールA」と略記することがある。)が挙げられる。
PC樹脂(B)において、上述の芳香族ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位の含有量は、PC樹脂(B)に含まれる全ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位に対して、0モル%以上かつ1モル%未満が好ましく、0モル%以上かつ0.8モル%未満がより好ましく、0モル%以上かつ0.5モル%未満がさらに好ましい。ポリカーボネート樹脂が芳香族ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含むことにより、耐熱性、耐面衝撃性、成形加工性等の改良が期待できるが、芳香族ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位の含有量が多すぎる場合には、着色が顕著になってしまうおそれがある。
上述のその他のヒドロキシ化合物は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
<炭酸ジエステル>
PC樹脂(B)は、一般に用いられる重合方法で製造することができ、その重合方法は、ホスゲンを用いた界面重合法、炭酸ジエステルとエステル交換反応させる溶融重合法のいずれの方法でもよいが、重合触媒の存在下に、ジヒドロキシ化合物を、より環境への毒性の低い炭酸ジエステルと反応させる溶融重合法が好ましい。
この場合、PC樹脂(B)は、上述したジヒドロキシ化合物(1)を含むジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとをエステル交換反応させる溶融重合法により得ることができる。用いられる炭酸ジエステルとしては、通常、下記式(6)で表されるものが挙げられる。これらの炭酸ジエステルは、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
上記式(6)において、A1及びA2は、それぞれ独立に、置換若しくは無置換の炭素数1〜18の脂肪族基、又は、置換若しくは無置換の芳香族基である。
上記式(6)で表される炭酸ジエステルとしては、例えば、ジフェニルカーボネート、ジトリルカーボネート等の置換ジフェニルカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート及びジ−t−ブチルカーボネート等が挙げられる。好ましくはジフェニルカーボネート、置換ジフェニルカーボネートであり、特に好ましくはジフェニルカーボネートである。なお、炭酸ジエステルは、塩化物イオンなどの不純物を含む場合があり、これらの不純物は重合反応を阻害したり、得られるポリカーボネート樹脂の色相を悪化させたりする場合があるため、必要に応じて、蒸留などにより精製したものを使用することが好ましい。
炭酸ジエステルは、溶融重合に使用した全ジヒドロキシ化合物に対して、0.90〜1.20のモル比率で用いることが好ましく、0.95〜1.10のモル比率で用いることがより好ましく、0.96〜1.10のモル比率で用いることがさらにより好ましく、0.98〜1.04のモル比率で用いることが特に好ましい。このモル比率が0.90より小さいと、製造されたポリカーボネート樹脂の末端ヒドロキシル基が増加して、ポリマーの熱安定性が悪化し、ポリカーボネート樹脂組成物を成形する際に着色を招いたり、エステル交換反応の速度が低下したり、所望の高分子量体が得られない可能性がある。また、このモル比率が1.20より大きいと、同一条件下ではエステル交換反応の速度が低下し、所望とする分子量のポリカーボネート樹脂の製造が困難となるばかりか、製造されたポリカーボネート樹脂中の残存炭酸ジエステル量が増加し、この残存炭酸ジエステルが、成形時の臭気の原因、或いは成形品の臭気の原因となり好ましくない場合がある。またこのモル比率が1.20より大きいと、重合反応時の熱履歴を増大させ、結果的に得られたポリカーボネート樹脂の色相や耐候性を悪化させる可能性がある。
更には、全ジヒドロキシ化合物に対する、炭酸ジエステルのモル比率が増大すると、得られるポリカーボネート樹脂中の残存炭酸ジエステル量が増加し、これらが紫外線を吸収してポリカーボネート樹脂の耐光性を悪化させる場合があり、好ましくない。PC樹脂(B)中に残存する炭酸ジエステルの濃度は、好ましくは200質量ppm以下、更に好ましくは100質量ppm以下、特に好ましくは60質量ppm以下、中でも30質量ppm以下が好適である。ただし、現実的にポリカーボネート樹脂は未反応の炭酸ジエステルを含むことがあり、ポリカーボネート樹脂中の未反応の炭酸ジエステル濃度の下限値は通常1質量ppmである。
<エステル交換反応触媒>
PC樹脂(B)は、上述のようにジヒドロキシ化合物(1)を含むジヒドロキシ化合物と前記式(6)で表される炭酸ジエステルをエステル交換反応させて製造することができる。より詳細には、エステル交換反応させ、副生するモノヒドロキシ化合物等を系外に除去することによって得られる。この場合、通常、エステル交換反応触媒の存在下でエステル交換反応により溶融重合を行う。
PC樹脂(B)の製造時に使用し得るエステル交換反応触媒(以下、単に「触媒」と称する場合がある。)としては、例えば長周期型周期表(Nomenclature of Inorganic Chemistry IUPAC Recommendations 2005)における1族又は2族(以下、単に「1族」、「2族」と表記する。)の金属化合物、塩基性ホウ素化合物、塩基性リン化合物、塩基性アンモニウム化合物、アミン系化合物等の塩基性化合物が挙げられる。これらの中でも、好ましくは1族金属化合物及び/又は2族金属化合物が使用される。
1族金属化合物及び/又は2族金属化合物と共に、補助的に、塩基性ホウ素化合物、塩基性リン化合物、塩基性アンモニウム化合物、アミン系化合物等の塩基性化合物を併用することも可能であるが、1族金属化合物及び/又は2族金属化合物のみを使用することが特に好ましい。また、1族金属化合物及び/又は2族金属化合物の形態としては通常、水酸化物、又は炭酸塩、カルボン酸塩、フェノール塩といった塩の形態で用いられるが、入手のし易さ、取扱いの容易さから、水酸化物、炭酸塩、酢酸塩が好ましく、ポリカーボネート樹脂の色相と重合活性の観点からは酢酸塩が好ましい。
1族金属化合物としては、例えば以下のものが挙げられる。水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化セシウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素リチウム、炭酸水素セシウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸リチウム、炭酸セシウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸リチウム、酢酸セシウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カリウム、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸セシウム、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素カリウム、水素化ホウ素リチウム、水素化ホウ素セシウム、フェニル化ホウ素ナトリウム、フェニル化ホウ素カリウム、フェニル化ホウ素リチウム、フェニル化ホウ素セシウム、安息香酸ナトリウム、安息香酸カリウム、安息香酸リチウム、安息香酸セシウム、リン酸水素2ナトリウム、リン酸水素2カリウム、リン酸水素2リチウム、リン酸水素2セシウム、フェニルリン酸2ナトリウム、フェニルリン酸2カリウム、フェニルリン酸2リチウム、フェニルリン酸2セシウム、ナトリウム、カリウム、リチウム、セシウムのアルコレート、フェノレート、ビスフェノールAの2ナトリウム塩、2カリウム塩、2リチウム塩、2セシウム塩等。中でもセシウム化合物、リチウム化合物が好ましい。
2族金属化合物としては、例えば以下のものが挙げられる。水酸化カルシウム、水酸化バリウム、水酸化マグネシウム、水酸化ストロンチウム、炭酸水素カルシウム、炭酸水素バリウム、炭酸水素マグネシウム、炭酸水素ストロンチウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、炭酸マグネシウム、炭酸ストロンチウム、酢酸カルシウム、酢酸バリウム、酢酸マグネシウム、酢酸ストロンチウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸バリウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸ストロンチウム等。中でもマグネシウム化合物、カルシウム化合物、バリウム化合物が好ましく、マグネシウム化合物及び/又はカルシウム化合物が更に好ましい。
塩基性ホウ素化合物としては、例えば以下のものが挙げられる。テトラメチルホウ素、テトラエチルホウ素、テトラプロピルホウ素、テトラブチルホウ素、トリメチルエチルホウ素、トリメチルベンジルホウ素、トリメチルフェニルホウ素、トリエチルメチルホウ素、トリエチルベンジルホウ素、トリエチルフェニルホウ素、トリブチルベンジルホウ素、トリブチルフェニルホウ素、テトラフェニルホウ素、ベンジルトリフェニルホウ素、メチルトリフェニルホウ素、ブチルトリフェニルホウ素等のナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩、カルシウム塩、バリウム塩、マグネシウム塩、あるいはストロンチウム塩等。
塩基性リン化合物としては、例えば以下のものが挙げられる。トリエチルホスフィン、トリ−n−プロピルホスフィン、トリイソプロピルホスフィン、トリ−n−ブチルホスフィン、トリフェニルホスフィン、トリブチルホスフィン、あるいは四級ホスホニウム塩等。
塩基性アンモニウム化合物としては、例えば以下のものが挙げられる。テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルエチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルメチルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、トリブチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリブチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、テトラフェニルアンモニウムヒドロキシド、ベンジルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド、メチルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド、ブチルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド等。
アミン系化合物としては、例えば以下のものが挙げられる。4−アミノピリジン、2−アミノピリジン、N,N−ジメチル−4−アミノピリジン、4−ジエチルアミノピリジン、2−ヒドロキシピリジン、2−メトキシピリジン、4−メトキシピリジン、2−ジメチルアミノイミダゾール、2−メトキシイミダゾール、イミダゾール、2−メルカプトイミダゾール、2−メチルイミダゾール、アミノキノリン等。
上記の中でも、2族金属化合物及びリチウム化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属化合物を触媒として用いるのが、得られるポリカーボネート樹脂の透明性、色相、耐光性等の種々の物性を優れたものとするために好ましい。また、上記ポリカーボネート樹脂の透明性、色相、耐光性を特に優れたものとするために、触媒が、マグネシウム化合物及びカルシウム化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属化合物であることが好ましい。
前記触媒の使用量は、1族金属化合物及び/又は2族金属化合物の場合、反応に供する全ジヒドロキシ化合物1モルに対して、金属換算量として、好ましくは0.1〜300μモル、より好ましくは0.1〜100μモル、さらに好ましくは0.5〜50μモル、更により好ましくは1〜25μモルの範囲内である。
上記の中でもリチウム及び2族金属からなる群より選ばれた少なくとも1種の金属を含む化合物を用いる場合、特にはマグネシウム化合物及び/又はカルシウム化合物を用いる場合、触媒の使用量は、金属換算量として、反応に供する全ジヒドロキシ化合物1モル当たり、好ましくは0.1μモル以上、更に好ましくは0.5μモル以上、特に好ましくは0.7μモル以上である。また触媒の使用量の上限は、好ましくは20μモル、更に好ましくは10μモル、特に好ましくは3μモル、最も好ましくは2.0μモルである。
触媒の使用量が少なすぎると、所望の分子量のポリカーボネート樹脂を製造するのに必要な重合活性が得られず、充分な破壊エネルギーが得られない可能性がある。一方、触媒の使用量が多すぎると、得られるポリカーボネート樹脂の色相が悪化するだけでなく、副生成物が発生したりして流動性の低下やゲルの発生が多くなり、脆性破壊の起因となる場合があり、目標とする品質のポリカーボネート樹脂の製造が困難になる可能性がある。
<ポリカーボネート樹脂の製造方法>
PC樹脂(B)は、ジヒドロキシ化合物(1)を含むジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとをエステル交換反応により溶融重合させることによって得られるが、原料であるジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルは、エステル交換反応前に均一に混合することが好ましい。混合の温度は通常80℃以上、好ましくは90℃以上であり、その上限は通常250℃以下、好ましくは200℃以下、更に好ましくは150℃以下である。中でも100℃以上120℃以下が好適である。混合の温度が低すぎると溶解速度が遅かったり、溶解度が不足する可能性があり、しばしば固化等の不具合を招き、一方、混合の温度が高すぎるとジヒドロキシ化合物の熱劣化を招く場合があり、結果的に得られるポリカーボネート樹脂の色相が悪化し、耐光性に悪影響を及ぼす可能性がある。
また、ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとを混合する操作は、酸素濃度10体積%以下、更には0.0001体積%〜10体積%、中でも0.0001体積%〜5体積%、特には0.0001体積%〜1体積%の雰囲気下で行うことが、得られるポリカーボネート樹脂の色相の悪化防止の観点から好ましい。
PC樹脂(B)は、触媒を用いて、複数の反応器を用いて多段階で溶融重合させて製造することが好ましい。溶融重合を複数の反応器で実施する理由は、溶融重合反応初期においては、反応液中に含まれるモノマーが多いために、必要な重合速度を維持しつつ、モノマーの揮散を抑制してやることが重要であり、その一方、溶融重合反応後期においては、平衡を重合側にシフトさせるために、副生するモノヒドロキシ化合物を十分留去させることが重要になるためである。このように、異なった重合反応条件を設定するには、直列に配置された複数の反応器を用いることが、生産効率の観点から好ましい。前記反応器は、上述の通り、2つ以上であればよいが、生産効率などの観点からは、3つ以上、好ましくは3〜5つ、特に好ましくは、4つである。
反応の形式は、バッチ式、連続式、あるいはバッチ式と連続式の組み合わせのいずれの方法でもよい。
更には、留出するモノマーの量を抑制するために、重合反応器に還流冷却器を用いることは有効であり、特に未反応モノマー成分が多い重合初期の反応器でその効果は大きい。還流冷却器に導入される冷媒の温度は使用するモノマーに応じて適宜選択することができるが、通常、還流冷却器に導入される冷媒の温度は該還流冷却器の入口において45〜180℃であり、好ましくは80〜150℃、特に好ましくは100〜130℃である。還流冷却器に導入される冷媒の温度が高すぎると還流量が減り、その効果が低下し、また冷媒の温度が低すぎると、本来留去すべきモノヒドロキシ化合物の留去効率が低下する傾向にある。冷媒としては、温水、蒸気、熱媒オイル等が用いられ、蒸気、熱媒オイルが好ましい。
重合速度を適切に維持し、モノマーの留出を抑制しながら、最終的に得られるポリカーボネート樹脂の色相や熱安定性、耐光性等を損なわないようにするためには、前述の触媒の種類と量の選定が重要である。
PC樹脂(B)の製造にあたっては、前記反応器が2つ以上であれば、その反応器中で、更に条件の異なる反応段階を複数持たせることもでき、また、連続的に温度・圧力を変えることもできる。
PC樹脂(B)の製造において、触媒は原料調製槽、原料貯槽に添加することもでき、反応器に直接添加することもできる。触媒供給の安定性、溶融重合の制御の観点からは、反応器内に供給される前の原料ラインの途中に触媒供給ラインを設置することが好ましく、水溶液で供給することが好ましい。
重合条件としては、重合初期においては相対的に低温、低真空でプレポリマーを得、また、重合後期においては相対的に高温、高真空で所定の値まで分子量を上昇させることが好ましい。重合初期から重合後期までの各段階において、ジャケット温度と内温、反応系内の圧力を適切に選択することが、得られるポリカーボネート樹脂の色相や耐光性の観点から重要である。例えば、重合反応開始時の運転条件に到達する前に温度、圧力のどちらか一方でも早く変化させすぎると、未反応のモノマーが反応容器から留出し、反応容器内におけるジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルのモル比を狂わせ、重合速度の低下を招いたり、所定の分子量や末端基を持つポリマーが得られなかったりして、結果的に本発明の目的を達成することができない可能性がある。
エステル交換反応の温度は、低すぎると生産性の低下や製品の耐熱老化性の低下を招き、高すぎるとモノマーの揮散を招くだけでなく、ポリカーボネート樹脂の分解や着色を助長する可能性がある。
本発明のポリカーボネート樹脂の製造において、ジヒドロキシ化合物(1)を含むジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとを触媒の存在下、エステル交換反応させる方法は、通常、2段階以上の多段工程で実施される。具体的には、第1段目のエステル交換反応温度(以下、「内温」と称する場合がある。)は好ましくは140℃以上、より好ましくは150℃以上、さらに好ましくは180℃以上、さらにより好ましくは200℃以上である。また、第1段目のエステル交換反応温度は、好ましくは270℃以下、より好ましくは240℃以下、さらに好ましくは230℃以下、さらにより好ましくは220℃以下である。第1段目のエステル交換反応における滞留時間は、通常0.1〜10時間、好ましくは0.5〜3時間であり、第1段目のエステル交換反応は、発生するモノヒドロキシ化合物を反応系外へ留去しながら実施される。第2段目以降のエステル交換反応は反応温度を上げていき、通常、210〜270℃、好ましくは220〜250℃の温度でエステル交換反応を行い、同時に発生するモノヒドロキシ化合物を反応系外へ除きながら、反応系の圧力を第1段目のエステル交換反応の圧力から徐々に下げながら最終的には反応系の圧力が200Pa以下となるように、通常0.1〜10時間、好ましくは0.5〜6時間、特に好ましくは1〜3時間、反応が行われる。
エステル交換反応温度が過度に高いと、得られるポリカーボネート樹脂を成形品としたときに色相が悪化し、脆性破壊しやすい可能性がある。エステル交換反応温度が過度に低いと、ポリカーボネート樹脂の目標とする分子量が上がらず、また、分子量分布が広くなり、衝撃強度が劣る場合がある。また、エステル交換反応の滞留時間が過度に長いと、得られるポリカーボネート樹脂が脆性破壊しやすい場合がある。滞留時間が過度に短いと、ポリカーボネート樹脂の目標とする分子量が上がらず衝撃強度が劣る場合がある。
副生したモノヒドロキシ化合物は、資源有効活用の観点から、必要に応じ精製を行った後、炭酸ジエステルや、各種ビスフェノール化合物の原料として再利用することが好ましい。
特にポリカーボネート樹脂の着色や熱劣化あるいは樹脂焼けを抑制し、衝撃強度が高い良好なポリカーボネート樹脂を得るには、全反応段階における反応器内温の最高温度が255℃未満、より好ましくは250℃以下、特に225〜245℃であることが好ましい。また、重合反応後半の重合速度の低下を抑止し、ポリカーボネート樹脂の熱劣化を最小限に抑えるために、反応の最終段階でプラグフロー性と界面更新性に優れた横型反応器を使用することが好ましい。
また、衝撃強度の高いポリカーボネート樹脂を企図し、分子量の高いポリカーボネート樹脂を得るため、出来るだけ重合温度を高め、重合時間を長くする場合があるが、この場合には、ポリカーボネート樹脂中の異物や樹脂焼けが発生し、脆性破壊しやすくなる傾向にある。よって、衝撃強度を高くすることと脆性破壊をしにくくすることの双方を満足させるためには、重合温度を低く抑え、重合時間短縮のための高活性触媒の使用、反応系の適正な圧力設定等の調整を行なうことが好ましい。更に、反応の途中あるいは反応の最終段階において、フィルター等により反応系で発生した異物や樹脂焼け物等を除去することも脆性破壊をしにくくするために好ましい。
なお、前記式(6)で表される炭酸ジエステルとして、ジフェニルカーボネート、ジトリルカーボネート等の置換ジフェニルカーボネートを用いてポリカーボネート樹脂を製造する場合は、フェノール、置換フェノールが副生し、ポリカーボネート樹脂中に残存することは避けられない。フェノール、置換フェノールも芳香環を有することから紫外線を吸収し、ポリカーボネート樹脂の耐光性の悪化要因になる場合があるだけでなく、成形時の臭気の原因となる場合がある。ポリカーボネート樹脂中には、通常のバッチ反応後は1000質量ppm以上の副生フェノール等の芳香環を有する芳香族モノヒドロキシ化合物が含まれているが、耐光性や臭気低減の観点からは、脱揮性能に優れた横型反応器や真空ベント付の押出機を用いて、該芳香族モノヒドロキシ化合物を除去することが好ましい。ポリカーボネート樹脂中の芳香族モノヒドロキシ化合物の含有量を好ましくは700質量ppm以下、更に好ましくは500質量ppm以下、特には300質量ppm以下にすることが好ましい。ただし、芳香族モノヒドロキシ化合物を工業的に完全に除去することは困難であり、ポリカーボネート樹脂中の芳香族モノヒドロキシ化合物の含有量の下限は通常1質量ppmである。尚、これら芳香族モノヒドロキシ化合物は、用いる原料により、当然置換基を有していてもよく、例えば、炭素数が5以下であるアルキル基等を有していてもよい。
また、1族金属、中でもリチウム、ナトリウム、カリウム、セシウム、特にはナトリウム、カリウム、セシウムは、使用する触媒からのみではなく、原料や反応装置からポリカーボネート樹脂中に混入する場合がある。これらの金属がポリカーボネート樹脂中に多く含まれると色相に悪影響を及ぼす可能性があるため、本発明のポリカーボネート樹脂中のこれらの化合物の合計の含有量は、少ない方が好ましく、ポリカーボネート樹脂中の金属量として、通常1質量ppm以下、好ましくは0.8質量ppm以下、より好ましくは0.7質量ppm以下である。
なお、ポリカーボネート樹脂中の金属量は、従来公知の種々の方法により測定可能であるが、湿式灰化等の方法でポリカーボネート樹脂中の金属を回収した後、原子発光、原子吸光、ICP(Inductively Coupled Plasma)等の方法を使用して測定することが出来る。
本発明のポリカーボネート樹脂は、上述の通り溶融重合後、通常、冷却固化させ、回転式カッター等でペレット化される。ペレット化の方法は限定されるものではないが、例えば、(1)最終重合反応器からポリカーボネート樹脂を溶融状態で抜き出し、ストランドの形態で冷却固化させてペレット化させる方法、(2)最終重合反応器から溶融状態で一軸又は二軸の押出機に樹脂を供給し、溶融押出しした後、冷却固化させてペレット化させる方法、又は、(3)最終重合反応器から溶融状態で抜き出し、ストランドの形態で冷却固化させて一旦ペレット化させた後に、再度一軸又は二軸の押出機に樹脂を供給し、溶融押出しした後、冷却固化させてペレット化させる方法等が挙げられる。
その際、押出機中で、残存モノマーを減圧脱揮することが出来る。また、通常知られている、熱安定剤、中和剤、紫外線吸収剤、離型剤、着色剤、帯電防止剤、滑剤、潤滑剤、可塑剤、相溶化剤、難燃剤等を押出機中に添加して、混練することも出来る。
押出機中の、溶融混練温度は、ポリカーボネート樹脂のガラス転移温度や分子量に依存するが、通常150〜300℃、好ましくは200〜270℃、更に好ましくは230〜260℃である。溶融混練温度が150℃より低いと、ポリカーボネート樹脂の溶融粘度が高く、押出機への負荷が大きくなり、生産性が低下する。300℃より高いと、ポリカーボネート樹脂の熱劣化が激しくなり、分子量の低下による機械的強度の低下や、着色、ガスの発生、異物の発生、更には樹脂焼けの発生を招く。前記異物や樹脂焼け物の除去のためのフィルターは該押出機中あるいは押出機出口に設置することが好ましい。
前記フィルターの異物除去の大きさ(目開き)は、99%以上の異物を除去するという濾過精度を目標として、通常400μm以下、好ましくは200μm以下、特に好ましくは100μm以下である。フィルターの目開きが過度に大きいと、異物や樹脂焼け物をフィルターで除去できない場合があり、ポリカーボネート樹脂を成形した場合、成形品が脆性破壊を起こす可能性がある。また前記フィルターの目開きは、本発明のポリカーボネート樹脂組成物の用途に応じて調整することができる。例えばフィルム用途に適用する場合には、欠陥を排除するという要求から前記フィルターの目開きは40μm以下であることが好ましく、10μm以下であることがより好ましい。
更に、前記フィルターは複数個を直列に設置して使用してもよく、また、リーフディスク型ポリマーフィルターを複数枚積層した濾過装置を使用してもよい。
また、溶融押出されたポリカーボネート樹脂を冷却してペレット化する際は、空冷、水冷等の冷却方法を使用することが好ましい。空冷の際に使用する空気は、HEPAフィルター(JIS Z8112で規定されるフィルターが好ましい。)等で空気中の異物を事前に取り除いた空気を使用し、空気中の異物の再付着を防ぐことが望ましい。より好ましくはJIS B 9920(2002年)に定義されるクラス7、更に好ましくはクラス6より清浄度の高いクリーンルームのなかで実施することが好ましい。水冷を使用する際は、イオン交換樹脂等で水中の金属分を取り除き、更にフィルターにて水中の異物を取り除いた水を使用することが望ましい。用いるフィルターの目開きは種々あるが、目開き0.01〜0.45μmのフィルターが好ましい。
本発明のポリカーボネート樹脂を溶融重合法で製造する際に、着色を防止する目的で、リン酸化合物や亜リン酸化合物の1種又は2種以上を重合時に添加することができる。
リン酸化合物としては、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル等のリン酸トリアルキルの1種又は2種以上が好適に用いられる。これらは、反応に供する全ヒドロキシ化合物に対して、0.0001モル%以上0.005モル%以下添加することが好ましく、0.0003モル%以上0.003モル%以下添加することがより好ましい。リン化合物の添加量が前記下限より少ないと、ポリカーボネート樹脂の着色防止効果が小さく、前記上限より多いと、透明性を低下させたり、逆に着色を促進させたり、耐熱性を低下させたりする。
また、亜リン酸化合物としては、下記に示す熱安定剤を任意に選択して使用できる。特に、亜リン酸トリメチル、亜リン酸トリエチル、トリスノニルフェニルホスファイト、トリメチルホスフェート、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイトの1種又は2種以上が好適に使用できる。これらの亜リン酸化合物は、反応に供する全ヒドロキシ化合物に対して、0.0001モル%以上0.005モル%以下添加することが好ましく、0.0003モル%以上0.003モル%以下添加することがより好ましい。亜リン酸化合物の添加量が前記下限より少ないと、ポリカーボネート樹脂の着色防止効果が小さく、前記上限より多いと、透明性を低下させたり、逆に着色を促進させたり、耐熱性を低下させたりする。
上記のリン酸化合物と亜リン酸化合物は併用して添加することもできるが、その場合の添加量は、リン酸化合物と亜リン酸化合物の総量で、反応に供する全ヒドロキシ化合物に対して、0.0001モル%以上0.005モル%以下とすることが好ましく、更に好ましくは0.0003モル%以上0.003モル%以下である。この添加量が前記下限より少ないと、ポリカーボネート樹脂の着色防止効果が小さく、前記上限より多いと、透明性を低下させたり、逆に着色を促進させたり、耐熱性を低下させたりする。
また、このようにして製造されたポリカーボネート樹脂には、成形時等における分子量の低下や色相の悪化を防止するために熱安定剤の1種又は2種以上が配合されていてもよい。
かかる熱安定剤としては、亜リン酸、リン酸、亜ホスホン酸、ホスホン酸、及びこれらのエステル等が挙げられ、具体的には例えば以下のものが挙げられる。トリフェニルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、トリデシルホスファイト、トリオクチルホスファイト、トリオクタデシルホスファイト、ジデシルモノフェニルホスファイト、ジオクチルモノフェニルホスファイト、ジイソプロピルモノフェニルホスファイト、モノブチルジフェニルホスファイト、モノデシルジフェニルホスファイト、モノオクチルジフェニルホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、ビス(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、トリブチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリメチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、ジフェニルモノオルソキセニルホスフェート、ジブチルホスフェート、ジオクチルホスフェート、ジイソプロピルホスフェート、4,4’−ビフェニレンジホスフィン酸テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)、ベンゼンホスホン酸ジメチル、ベンゼンホスホン酸ジエチル、ベンゼンホスホン酸ジプロピル等。なかでも、トリスノニルフェニルホスファイト、トリメチルホスフェート、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、及びベンゼンホスホン酸ジメチルが好ましく使用される。
かかる熱安定剤は、溶融重合時に添加すると共に成形時等に追加添加することができる。即ち、適当量の亜リン酸化合物やリン酸化合物を重合用原料中に配合して、ポリカーボネート樹脂を得た後に、後に記載する配合方法で、成形時等において更に亜リン酸化合物を配合することによって、重合時における樹脂の透明性の低下、着色、及び耐熱性の低下を回避して、成形品中には多くの熱安定剤を配合でき、色相の悪化の防止が可能となる。
これらの熱安定剤の含有量は、ポリカーボネート樹脂100質量部に対して、0.0001〜1質量部が好ましく、0.0005〜0.5質量部がより好ましく、0.001〜0.2質量部が更に好ましい。
<ポリカーボネート樹脂の物性>
PC樹脂(B)の好ましい物性について、以下に示す。
(ガラス転移温度)
PC樹脂(B)のガラス転移温度(Tg)は、145℃未満であることが好ましい。ポリカーボネート樹脂のガラス転移温度がこの温度より高い場合には、着色し易くなり、衝撃強度を向上させることが困難になるおそれがある。また、この場合には、成形時において金型表面の形状を成形品に転写させる際に、金型温度を高く設定する必要がある。そのため、選択できる温度調節機が制限されてしまったり、金型表面の転写性が悪化したりするおそれがある。
PC樹脂(B)のガラス転移温度は、より好ましくは140℃未満、さらに好ましくは135℃未満である。また、PC樹脂(B)のガラス転移温度は通常90℃以上であり、好ましくは95℃以上である。
本発明のポリカーボネート樹脂のガラス転移温度を145℃未満とする方法としては、〔1〕ポリカーボネート樹脂中の構造単位(1)の割合を少なくする方法、〔2〕ポリカーボネート樹脂の製造に用いるジヒドロキシ化合物として、耐熱性の低い脂環式ジヒドロキシ化合物を選定する方法、〔3〕ポリカーボネート樹脂中のビスフェノール化合物等の芳香族系ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位の割合を少なくする方法等が挙げられる。なお、ポリカーボネート樹脂のガラス転移温度の測定方法は後述する。
(還元粘度)
PC樹脂(B)の重合度の指標である「還元粘度」は、0.40dl/g以上、2.0dl/g以下であることが好ましい。本発明において「還元粘度」は、溶媒としてフェノールと1,1,2,2,−テトラクロロエタンの質量比1:1の混合溶媒100ml中に、ポリカーボネート樹脂1.00gを溶解し、温度30.0℃±0.1℃にて測定される値である。この還元粘度の下限は、更に好ましくは0.42dl/g以上、特に好ましくは0.45dl/g以上であるが、本発明のポリカーボネート樹脂組成物の用途によっては、0.60dl/g以上、更には0.85dl/g以上のものが好適に用いられる場合がある。また、この還元粘度の上限は、更に好ましくは1.7dl/g以下、特に好ましくは1.4dl/g以下である。ポリカーボネート樹脂の還元粘度が過度に低いと、機械的強度が弱くなる場合があり、ポリカーボネート樹脂の還元粘度が過度に高いと、成形する際の流動性が低下し、リサイクル性を低下させ、成形品の歪みが大きくなり熱により変形し易い傾向がある。
〔ポリカーボネート樹脂用強化剤〕
本発明のゴム質グラフト重合体からなるポリカーボネート樹脂用強化剤は、該ゴム質グラフト重合体3質量部と粘度平均分子量24,000の芳香族ポリカーボネート樹脂(三菱エンジニアリングプラスチック(株)製ユーピロンS−2000F)97質量部とからなるポリカーボネート樹脂組成物を下記条件で成形した試験片の△YI値が36以下であり、該ポリカーボネート樹脂組成物のペレットの△MFR値が3以下であることを特徴としている。
「条件1」ペレット及び試験片の作製条件:
前記ポリカーボネート樹脂組成物をバレル温度280℃に加熱した脱揮式押出機((株)池貝製PCM−30)にてスクリュー回転数150rpmの条件で混練してペレットを得る。このペレットを100t射出成形機(住友重機(株)製SE−100DU)にて、シリンダー温度280℃、金型温度90℃の条件で成形して平板状の試験片(長さ100mm、幅50mm、厚み2mm)を得る。
「条件2」△YI値の測定条件:
試験片のYI値は、JIS K7105に準拠し、分光色差計(機種名「SE2000」日本電色工業(株)製)を用いて、C光源、2度視野の条件で反射光測定法にて測定する。先ず、ヒートエージング前の試験片のYI値(YIB)を測定する。次いで、前記試験片を、ハイテンプオーブン(機種名「PMS−B」タバイスペック(株)製)を使用して温度140℃で12時間ヒートエージングした後、そのYI値(YIA)を測定する。以下の式により△YI値を算出する。
△YI=YIA−YIB 。
「条件3」△MFR値の測定条件:
ペレットのメルトマスフローレート(MFR)値は、ISO1133に準拠し、メルトインデクサー(機種名「S−111」、(株)東洋精機製作所製)を用いて、シリンダー温度300℃、荷重1.2kgにて測定する。先ず、ヒートエージング前のペレットのMFR値(MFRB)を測定する。次いで、別の前記ペレットを、プレッシャークッカー(機種名「不飽和型超加速寿命試験装置PC−422R」、(株)平山製作所)を用いて、温度120℃、相対湿度100%の条件下で60時間ヒートエージングした後、そのMFR値(MFRA)を測定する。以下の式により△MFR値を算出する。
△MFR=MFRA−MFRB 。
〔ゴム質グラフト重合体〕
前記△YI値及び△MFR値を示す本発明のゴム質グラフト重合体(以下、「ゴム重合体(A)」という場合がある。)は、このゴム重合体(A)及びポリカーボネート樹脂を含有するポリカーボネート樹脂組成物においてポリカーボネート樹脂の耐熱着色性および耐湿熱性の低下を抑制する効果を奏する。ゴム重合体(A)は、重合の際に使用する乳化剤及び粉体回収の際に使用する凝析剤を選定することによって得ることができる。
ゴム粒子用の単量体を重合する際やグラフト重合の際に強酸と強塩基との塩である乳化剤を用いる場合や、ゴム質グラフト重合体のラテックスを凝析してゴム質グラフト重合体を回収する際に強酸または強酸と強塩基との塩である凝析剤を用いる場合、ゴム質グラフト重合体中に、乳化剤または凝析剤由来の強酸または塩が微量残存する。前記の強酸または塩から遊離した強酸性のイオンによってゴム質グラフト重合体のゴム部中に含まれるブタジエンゴムが酸化劣化されるので、好ましくない。またこのゴム質グラフト重合体をポリカーボネート樹脂に配合した際には、前記の遊離した強酸性のイオンがポリカーボネート樹脂を分解させるため、耐熱着色性、耐湿熱性が低下し、好ましくない。そこで、本発明のゴム質グラフト重合体の製造においては、弱酸と強塩基との塩である乳化剤と、弱酸と強塩基との塩である凝析剤を用いることで、上述の欠点を改良し、△YI値及び△MFR値の改善を達成することができる。または弱酸と強塩基との塩である乳化剤を用いてグラフト重合した後、得られたゴム質グラフト重合体のラテックスを噴霧回収してゴム質グラフト重合体を回収することにより、達成することができる。噴霧回収であれば、強酸または強酸と強塩基との塩である凝析剤を使用しないからである。さらに、本発明のゴム質グラフト重合体と分子量が700以上のチオエーテル系の酸化防止剤を組み合わせることにより、これらが未添加のポリカーボネート樹脂と比較して、△YI値を相乗的に改善させることができる。
<△YI>
本発明のゴム質グラフト重合体を含むポリカーボネート樹脂組成物より得られる成形品は、△YI値が36以下であることが必要である。△YI値が36以下であれば、ゴム質グラフト重合体を含むポリカーボネート樹脂組成物は耐熱着色性が優れる。△YI値を36以下とするためには、弱酸と強塩基との塩である乳化剤や、弱酸と強塩基との塩である凝析剤を用いればよい。または、噴霧回収によりゴム質グラフト重合体を回収すればよい。また、分子量が700以上であるチオエーテル系の酸化防止剤及びゴム質グラフト重合体を併用することによって得られるポリカーボネート樹脂組成物の耐熱着色性はより改善され優れる。自動車分野、プリンタ等のOA機器分野、携帯電話等電気・電子分野等への適用性を考慮すると、この△YI値は好ましくは30以下、より好ましくは25以下、もっとも好ましくは20以下である。
<△MFR>
また、本発明のゴム質グラフト重合体を含むポリカーボネート樹脂組成物より得られる成形品は、△MFR値が3以下であることが必要である。△MFR値が3以下であれば、ゴム質グラフト重合体を含むポリカーボネート樹脂組成物は耐湿熱性が優れる。△MFR値を3以下とするためには、弱酸と強塩基との塩である乳化剤や、弱酸と強塩基との塩である凝析剤を用いればよい。または、噴霧回収によりゴム質グラフト重合体を回収すればよい。自動車分野等への適用性を考慮すると、この△MFR値は好ましくは2.6以下、より好ましくは2.3以下、もっとも好ましくは2以下である。
<ゴム質グラフト重合体の製造方法>
本発明においてゴム質グラフト重合体は、ゴムラテックスの存在下で、ビニル単量体を重合して得られる。本発明のゴム質グラフト重合体としては、前記ゴム重合体(A))及び後述する「ゴム重合体(A’)」が挙げられる。
[ゴム部]
ゴム重合体(A)のゴム部は、エラストマーを用いることが好ましく、中でも熱可塑性のエラストマーを用いることが好ましい。熱可塑性エラストマーとしては、各種共重合樹脂が用いられるが、ガラス転移温度が通常−20℃以下であり、中でも−30℃以下のものが好ましく、−50℃以下のものがより好ましく、−70℃以下のものが更に好ましい。
ゴム重合体(A)のゴム部は、ジエン構造単位、アルキル(メタ)アクリレート構造単位、及びオルガノシロキサン構造単位などの、ガラス転移温度が−20℃以下の構造単位を有する重合体であり、ゴム部の構造単位は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。ゴム重合体(A)のゴム部は、ゴム質グラフト重合体を含むポリカーボネート樹脂組成物の低温時の衝撃強度発現性や、発色性の観点から、ジエン構造単位を含むことが好ましく、ブタジエン構造単位を含むことがより好ましい。
ジエン構造単位の原料となる単量体としては、特に限定されないが、ブタジエン、イソプレンなどのジエン系モノマー、例えば1,3−ブタジエンが挙げられる。
ゴム重合体(A)のゴム部は、ゴム部を100質量%とした際に、ブタジエン構造単位を70質量%以上含むことが好ましく、80質量%以上含むことがより好ましく、90質量%以上含むことがさらに好ましい。ゴム部がブタジエン構造単位を70質量%以上含むと、ゴム質グラフト重合体を含むポリカーボネート樹脂組成物より得られる成形品の低温時の衝撃強度が優れる。
アルキル(メタ)アクリレート構造単位の原料となる単量体としては、特に限定されないが、例えばメチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、ラウリルアクリレート、ステアリルアクリレート、t−ブチルアクリレートが挙げられる。これらの単量体は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。乳化重合の重合安定性の観点から、アルキルアクリレート単量体としては、炭素数が2〜8のアルキルアクリレートが好ましく、炭素数が3〜6のアルキルアクリレートがより好ましく、ブチルアクリレートが特に好ましい。
オルガノシロキサン構造単位の原料となる単量体としては、特に限定されないが、例えば、オルガノシロキサン、ビニル重合性官能基を有するシロキサン、必要に応じて、シロキサン系架橋剤、末端封鎖基を有するシロキサンが挙げられる。オルガノシロキサンとしては、例えば、ヘキサメチルシクロトリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサンが挙げられる。ビニル重合性官能基を有するシロキサンとしては、例えば、β−(メタ)アクリロイルオキシエチルジメトキシメチルシラン、γ−(メタ)アクリロイルオキシプロピルジメトキシメチルシランが挙げられる。シロキサン系架橋剤としては、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシランが挙げられる。末端封鎖基を有するシロキサンとしては、例えば、ヘキサメチルジシロキサン、1,3−ビス(3−グリシドキシプロピル)テトラメチルジシロキサンが挙げられる。これらの単量体は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
本発明のゴム質グラフト重合体は、ゴム部がブタジエン構造単位及びアルキルアクリレート構造単位を有するゴム質グラフト重合体(以下、「ゴム重合体(A’)」という場合がある。)であることが好ましい。ゴム重合体(A’)は、好ましくは、脂肪族系乳化剤を用いた乳化重合により得られたゴム質グラフト重合体ラテックスを、アルカリ土類金属塩を用いて凝析して回収して得られる。このゴム質グラフト重合体ラテックスは、好ましくは、ブタジエン構造単位及びアルキルアクリレート構造単位を有するゴムラテックスの存在下でビニル単量体(g’)、好ましくは極性基を有するビニル単量体(p)を含有するビニル単量体(g’)を重合して得られる。
上記の「ゴム重合体(A’)」の原料となるゴムラテックスとしては、エラストマーを用いることが好ましく、中でも熱可塑性のエラストマーを用いることが好ましい。熱可塑性エラストマーとしては、各種共重合樹脂が用いられるが、ガラス転移温度が通常−20℃以下であり、中でも−30℃以下のものが好ましく、−50℃以下のものがより好ましく、−70℃以下のものが更に好ましい。
「ゴム重合体(A’)」の原料となるブタジエン構造単位及びアルキルアクリレート構造単位を有するゴムラテックスは、ブタジエン構造単位1〜99質量%、アルキルアクリレート構造単位99〜1質量%及びその他のビニル単量体構造単位0〜30質量%を有する(ただし、ゴムラテックス中の固形分全体を100質量%とする)ことが好ましい。また、ブタジエン構造単位1〜99質量%、アルキルアクリレート構造単位99〜1質量%及びその他のビニル単量体構造単位0〜10質量%を有することがより好ましい。ゴムラテックス中のブタジエン構造単位の含有率が1質量%以上であれば、耐衝撃性の点で好ましく、99質量%以下であれば、YI値(熱着色性)の点で好ましい。その他のビニル単量体構造単位が30質量%以下であれば、本発明のゴム質グラフト重合体と本発明のポリカーボネート樹脂の屈折率の差が小さくなるため好ましい。
なお、ここで、ブタジエン構造単位とは、ゴムラテックスの製造に用いるブタジエン単量体に由来する構造単位を意味し、アルキルアクリレート構造単位とは、ゴムラテックスの製造に用いるアルキルアルキレート単量体に由来する構造単位を意味し、ビニル単量体構造単位とは、ゴムラテックスの製造に必要に応じて用いられるその他のビニル単量体に由来する構造単位を意味する。
前記ゴムラテックスはブタジエン単量体、アルキルアクリレート単量体及び必要に応じて用いられる「その他のビニル単量体」を重合することにより得られる。
ブタジエン単量体としては、特に限定されないが、ブタジエン、イソプレンなどのジエン系モノマー、例えば1,3−ブタジエンが挙げられる。アルキルアクリレート単量体としては、特に限定されないが、例えばメチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、ラウリルアクリレート、ステアリルアクリレート、t−ブチルアクリレートが挙げられる。これらの単量体は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
乳化重合の重合安定性の理由から、アルキルアクリレート単量体としては、炭素数が2〜8のアルキルアクリレートが好ましく、炭素数が3〜6のアルキルアクリレートがより好ましく、ブチルアクリレートが特に好ましい。
「その他のビニル単量体」としては、ブタジエン単量体やアルキルアクリレート単量体と共重合性の、単官能性又は多官能性のビニル単量体を用いることができ、例えば以下のものが挙げられる。アクリロニトリル、アルキルメタクリレートに代表される単官能性単量体;ジビニルベンゼン、エチレングリコールジメタクリレート、ブチレングリコールジアクリレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート等の多官能性単量体。これらの単量体も1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
「ゴム重合体(A)」及び「ゴム重合体(A’)」の原料となるゴム粒子を製造する際の重合方法は特に限定されないが、水系では乳化重合や懸濁重合、溶液系では溶液重合などが挙げられる。ゴム粒子の粒径制御、コア・シェル構造のゴム粒子が得られ易いという理由から、乳化重合が好ましい。
前記重合に用いる重合開始剤は特に限定されず、例えばアゾ系開始剤、過酸化物系開始剤を使用することができる。これらの重合開始剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。重合開始剤の使用量は、通常単量体100質量部に対して0.05〜1.0質量部、特に0.1〜0.3質量部程度とすることが好ましい。
<乳化剤>
ゴム質グラフト重合体が前記「ゴム重合体(A)」である場合、原料となるゴム粒子を製造する際の重合に用いる乳化剤は、弱酸と強塩基との塩である乳化剤が好ましく、カルボン酸系乳化剤、リン酸系乳化剤、又は非イオン性乳化剤から選ばれる少なくとも1種以上の乳化剤が用いられる。ゴムラテックスを含有するゴム質グラフト重合体のラテックスを凝析すると、ゴム質グラフト重合体中に、乳化剤が酸または塩基、もしくは塩の状態で微量残存し、これらの塩等から遊離したイオンによってゴム部中に含まれるブタジエンゴムを酸化劣化させる恐れがある。またゴム質グラフト重合体をポリカーボネート樹脂に配合した際には、この遊離したイオンがポリカーボネート樹脂を分解させる恐れがある。このため、イオンが遊離した際の酸性度が低いリン酸系乳化剤もしくはカルボン酸系乳化剤、またはイオンを発生しない非イオン性乳化剤が好ましい。またスルホン酸系乳化剤は好ましくない。
カルボン酸系乳化剤としては、例えば以下のものが挙げられる。カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、モンタン酸、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、エライジン酸、バクセン酸、リシノール酸、ガドレイン酸、エイコセン酸、エルカ酸、ネルボン酸、リノール酸、エイコサジエン酸、ドコサジエン酸、リノレン酸、ピノレン酸、エレオステアリン酸、ミード酸、エイコサトリエン酸、ステアリドン酸、アラキドン酸、エイコサテトラエン酸、アドレン酸、ボセオペンタエン酸、エイコサペンタエン酸、オズボンド酸、イワシ酸、テトラコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸、ニシン酸等の炭素数8〜28のアルキル基を有する飽和/不飽和脂肪酸の金属塩;アルケニルコハク酸等のオリゴカルボン酸化合物の金属塩;N−ラウロイルサルコシン、N−ココイルサルコシン等のサルコシン誘導体の金属塩。
カルボン酸系乳化剤の市販品としては、例えば、花王(株)製の「NSソープ」、「SS−40N」、「FR−14」、「FR−25」、「ラテムルASK」、東邦化学工業(株)製の「ディプロジンK−25」、「ネオスコープSLN−100」等が挙げられる。
リン酸系乳化剤としては、例えば、ポリオキシエチレンフェニルエーテルリン酸、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルリン酸、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸、アルキルリン酸等が挙げられる。これらのリン酸系乳化剤は、酸型でもよく、ナトリウム塩、カリウム塩等の塩型でもよい。
リン酸系乳化剤の市販品としては、例えば、東邦化学工業(株)製の「フォスファノールML−200」、「フォスファノールGF−199」、「フォスファノールRA−600」、「フォスファノールRS−610NA」、「フォスファノールSC−6103」、「フォスファノールLP−700」等が挙げられる。
非イオン性乳化剤としては、例えば以下のものが挙げられる。ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル、ポリオキシエチレントリベンジルフェニルエーテル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル等。
非イオン性乳化剤の市販品としては、例えば、花王(株)製の「エマルゲン120」、「エマルゲンLS−114」、「エマルゲンA−90」、「レオドールSP−L10」、「レオドールTW−L120」、「エマノーン1112」等が挙げられる。
上記のカルボン酸系乳化剤、リン酸系乳化剤及び非イオン性乳化剤は単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。また、凝析を容易に行うためには、上記の乳化剤のうち、カルボン酸系乳化剤及びリン酸系乳化剤から選ばれる少なくとも1種の乳化剤を含むことが好ましい。
上記乳化剤の使用量は、特に限定されないが、ゴムラテックス中の樹脂固形分100質量部に対して、0.1〜20.0質量部が好ましく、0.1〜15.0質量部がより好ましく、0.1〜10.0質量部がさらに好ましく、0.1〜8.0質量部が特に好ましく、1.5〜8.0質量部が最も好ましい。乳化剤の使用量が、0.1質量部以上であると、乳化安定性に優れ、20.0質量部以下であると、ゴム質グラフト重合体のラテックスの凝析が容易になる。
ゴム質グラフト重合体が前記「ゴム重合体(A’)」である場合、原料となるゴム粒子を製造する際の重合に用いる乳化剤としては、アニオン系乳化剤、ノニオン系乳化剤、カチオン系乳化剤、ノニオンアニオン系乳化剤を使用することができる。これらの重合開始剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。ポリカーボネート樹脂の熱着色低減の観点から、乳化剤としては、N−ラウロイルサルコシン酸ナトリウム、オレイン酸カリウム等の脂肪族系乳化剤を用いることが好ましい。脂肪族系乳化剤等の乳化剤の使用量は、通常単量体100質量部に対して0.05〜3質量部、特に0.1〜2質量部程度とすることが好ましい。
(ゴム粒子の体積平均粒子径)
本発明のゴム質グラフト重合体の原料となるゴムラテックス中のゴム粒子の「体積平均粒子径」は、0.1〜1μmであることが好ましく、0.15μm以上がより好ましい。またゴムラテックス中のゴム粒子の体積平均粒子径は0.7μm以下がより好ましく、0.5μm以下がさらに好ましい。ゴムラテックス中のゴム粒子の体積平均粒子径が0.1μm以上であると、ポリカーボネート樹脂にゴム質グラフト重合体を添加した本発明のポリカーボネート樹脂組成物の低温での耐衝撃性を向上させることができる。またこのゴム粒子の体積平均粒子径が1μm以下であると、ゴム重合体(A)の製造時にカレットが発生しにくい。ここでゴムラテックス中のゴム粒子の「体積平均粒子径」は、光散乱粒子計を用いて測定したゴムラテックス中のゴム粒子の50%体積平均粒子径を意味する。その測定方法は後述する。
(ゴム粒子の肥大化)
ゴムラテックス中のゴム粒子の体積平均粒子径は、通常の乳化重合によれば、約0.1μmとなる。その体積平均粒子径を0.1〜1μmとするには、肥大化剤によりゴムラテックス中のゴム粒子を肥大化するなどの方法が用いられる。ゴム粒子の肥大化は、ゴムラテックスに対して肥大化剤を添加することで行うことができる。肥大化剤は公知のものから任意に選択することができるが、酸基含有共重合体(K)及び/又は酸素酸塩(M)を用いることが好ましい。
酸基含有共重合体(K)は、不飽和酸、アルキルアクリレート及び必要に応じて用いられる「その他の共重合可能な単量体」を重合して得られる重合体が好ましい。
不飽和酸としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、マレイン酸、フマール酸、ケイヒ酸、ソルビン酸及びp−スチレンスルホン酸が挙げられる。なかでも、入手しやすさ、及び取り扱いやすさの点で、アクリル酸、メタクリル酸が好ましい。これらの不飽和酸は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
アルキルアクリレートとしては、アルキル基の炭素数が1〜12のアルキルアクリレートが好ましく、例えば、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、ブチルアクリレート、イソプロピルアクリレート、ヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、ステアリルアクリレートが挙げられる。これらのアルキルアクリレートは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
「その他の共重合可能な単量体」としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン等のスチレン誘導体、アルキルメタクリレート、及びアクリロニトリルが挙げられる。これらの「その他の共重合可能な単量体」は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
酸基含有共重合体(K)に用いる単量体混合物の割合としては、不飽和酸3〜40質量%、アルキルアクリレート97〜35質量%及び「その他の共重合可能な単量体」0〜40質量%が好ましく、不飽和酸5〜35質量%、アルキルアクリレート95〜40質量%及び「その他の共重合可能な単量体」0〜35質量%がより好ましい。組成が上記範囲内にあることで、肥大化を行う際のラテックスの安定性が優れ、肥大化して得られるゴムラテックスのゴム粒子径を制御しやすい。
酸基含有共重合体(K)は、前記組成の単量体混合物を、公知の乳化重合法によって重合することにより得ることができる。重合は一段階で行っても多段階で行ってもよい。多段階で重合することによって、2層以上の多層構造を有する酸基含有共重合体(K)を得ることができる。
ゴム粒子の肥大化の際には、ゴム質グラフト重合体の性能を妨げない範囲で、酸素酸塩(M)を用いることができる。
酸素酸塩(M)は、酸素酸のアルカリ金属塩もしくはアルカリ土類金属塩、又は亜鉛、ニッケル及びアルミニウムの塩の中から選ばれた少なくとも一種の酸素酸塩(M)であることが好ましい。このような酸素酸塩(M)の例としては、硫酸、硝酸、リン酸等と、カリウム、ナトリウム、マグネシウム、カルシウム、ニッケル、アルミニウム等との塩が挙げられる。酸素酸塩(M)は、肥大化を行う際の粒子径制御の行いやすさ、入手しやすさ、及び取り扱いやすさの点で、硫酸カリウム、硫酸ナトリウム、硫酸マグネシウム、硫酸アルミニウム、リン酸ナトリウム、リン酸マグネシウムなどが好ましい。
これらの酸基含有共重合体(K)及び酸素酸塩(M)は、それぞれ1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの酸基含有共重合体(K)及び酸素酸塩(M)を各々単独で用いる場合、酸基含有共重合体(K)の添加量は、ポリマー固形分として、ゴムラテックスの固形分100質量部当たり0.1〜5質量部が好ましく、0.5〜4質量部がより好ましく、0.5〜3質量部がさらに好ましい。また、酸素酸塩(M)の添加量は、ゴムラテックスの固形分100質量部当たり0.1〜5質量部が好ましく、0.1〜4質量部がより好ましい。酸基含有共重合体(K)及び酸素酸塩(M)をこれらの範囲内で添加することでゴムラテックス中のゴム粒子の肥大化がより効率的に行われ、得られる肥大化ゴムラテックスの安定性も大幅に向上する。
なお、酸基含有共重合体(K)を用いて肥大化処理を行う場合、ゴムラテックスのpHは7以上であることが好ましい。pHが酸性側にある場合には、酸基含有共重合体(K)を添加しても肥大化効率が低い場合がある。ゴムラテックスのpHは、ゴムラテックスの製造中に調製しても良く、また、肥大化処理の前に別途行っても良い。
[グラフト部]
本発明のゴム質グラフト重合体は、ゴム部からなるゴム粒子を含むゴムラテックスの存在下で、ビニル単量体を重合して得られる重合体である。ゴムラテックスの存在下で重合するビニル単量体は、グラフト単量体成分であり、(メタ)アクリレート、芳香族ビニル単量体及びシアン化ビニル単量体から選ばれる少なくとも1種の単量体である。本発明のゴム質グラフト重合体がゴム重合体(A)である場合、グラフト単量体成分の少なくとも一部はゴム部にグラフト結合してグラフト重合体を形成していることが好ましい。
グラフト用の(メタ)アクリレートとしては、特に限定されないが、例えば以下のものが挙げられる。メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、i−プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
グラフト用の芳香族ビニル単量体としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、クロルスチレンが挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。グラフト用のシアン化ビニル単量体としては、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリルが挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
本発明のゴム質グラフト重合体がゴム重合体(A)である場合、グラフト部はメチルメタクリレート構造単位を含むことが好ましい。グラフト用のビニル単量体(g)100質量%中のメチルメタクリレートの割合は0.1〜99.9質量%が好ましく、20〜80質量%がより好ましい。ビニル単量体(g)がメチルメタクリレートを0.1質量%以上含有すると、ポリカーボネート樹脂中にゴム重合体(A)を均一に分散させることができる。
本発明のゴム質グラフト重合体がゴム重合体(A’)である場合、ゴム質グラフト重合体ラテックスは、前記ゴムラテックスに、ビニル単量体(g’)をグラフト重合することで得られる。ビニル単量体(g’)は、それを重合して得られる重合体のガラス転移温度が70〜120℃となる成分を用いることが、ゴム質グラフト重合体ラテックスを凝析して粉体として回収する際に粉体の粒子径や嵩密度を制御する観点から好ましい。
ビニル単量体(g’)としては、極性基を有さないビニル単量体として、例えば以下のものが挙げられる。メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、イソボロニル(メタ)アクリレート、t−ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、4−t−ブチルフェニル(メタ)アクリレート、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−t−ブチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、クロロスチレン、ブロモスチレン、ビニルトルエン、ビニルナフタレン、ビニルアントラセン、安息香酸ビニル、酢酸ビニル等。なお、ここで「(メタ)アクリレート」とは「アクリレート」と「メタアクリレート」の一方又は双方を意味する。これらの単量体は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
ビニル単量体(g’)は極性基を有するビニル単量体(p)を含有することが好ましい。ビニル単量体(g’)が極性基を有するビニル単量体(p)を含有することで、本発明のポリカーボネート樹脂に本発明のゴム質グラフト重合体を均一に分散させることができる。また、それにより、得られるポリカーボネート樹脂組成物の耐衝撃性を向上させることができる。
極性基を有するビニル単量体(p)としては、例えば以下のものが挙げられる。2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸、ジメチルアクリルアミド、ジメチルアミノエチルアクリレート塩化メチル4級塩、アクリロイルモルホリン、ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、ジメチルアミノプロピルアクリルアミド塩化メチル4級塩、イソプロピルアクリルアミド、ジエチルアクリルアミド、ブロモフェニル(メタ)アクリレート、ジブロモフェニル(メタ)アクリレート、2,4,6−トリブロモフェニル(メタ)アクリレート、モノクロルフェニル(メタ)アクリレート、ジクロルフェニル(メタ)アクリレート、トリクロルフェニル(メタ)アクリレート、2−ビニル−2−オキサゾリン、p−メトキシスチレン、o−メトキシスチレン、無水マレイン酸、N−フェニルマレイミド、シクロヘキシルマレイミド。乳化重合のしやすさ(カレットの生成が少ない、他のグラフトモノマーとの共重合性が優れる等)の観点から、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレートが好ましい。これらの単量体は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
ビニル単量体(g’)100質量%中の極性基を有するビニル単量体(p)の割合は任意に設定することができるが、0.1〜20質量%が好ましく、0.5〜5質量%がより好ましい。ビニル単量体(g’)が極性基を有するビニル単量体(p)を0.1質量%以上含有することにより、ポリカーボネート樹脂中にゴム重合体(A’)を均一に分散させることができる。一方、ビニル単量体(g’)が極性基を有するビニル単量体(p)を20質量%以下含有することが、ポリカーボネート樹脂とゴム重合体(A’)との屈折率差を小さくする観点や重合中のカレット量を少なくする観点から好ましい。
ゴム質グラフト重合体100質量%中のゴム粒子の割合は任意に設定することができるが、50〜90質量%が好ましい。この値が50質量%以上であれば、強度発現の面で好ましい。また、この値が90質量%以下であれば、本発明のポリカーボネート樹脂への分散性、ゴム質グラフト重合体の凝固、回収の観点から好ましい。
ゴムラテックスへのビニル単量体のグラフト重合方法は特に限定されないが粒子径の制御、コア・シェル構造を容易に形成できるという理由から、乳化重合が好ましい。乳化重合法としては、単量体の一括添加重合、単量体の連続添加重合、多段階重合などの一般に知られている乳化重合法を採用することができる。乳化剤の添加も単量体の添加と同様の方法を採用することができる。
グラフト層は1層であっても2層以上であってもかまわない。ブタジエン構造単位を有するゴムに、疎水性が高くかつ重合性が低いビニル単量体、例えばスチレンを共重合すると、ブタジエンゴムとスチレンが共重合してしまい、ゴムが硬くなったりゴム質グラフト重合体の屈折率が振れやすくなることがある。そのため、グラフト重合においては、親水性が高く重合性が高く、かつガラス転移温度の高い単量体、例えばメチルメタクリレートを主成分とする単量体をグラフト重合をした後、スチレンのような疎水性の高いビニル単量体を重合することが好ましい。
ゴム質グラフト重合体ラテックスの重合に用いる重合開始剤は、ゴムラテックスを重合する際の重合開始剤と同じものを使用することができ、その使用量は通常単量体100質量部に対して0.05〜1.0質量部、特に0.1〜0.3質量部程度とすることが好ましい。また、ゴム質グラフト重合体ラテックスの重合に用いる乳化剤は、ゴムラテックスを重合する際の乳化剤と同じものを使用することができ、その使用量は、通常単量体100質量部に対して0.05〜3質量部、特に0.1〜2質量部程度とすることが好ましい。
(ゴム質グラフト重合体の回収)
本発明のゴム質グラフト重合体は、上記のようにして得られるゴム質グラフト重合体ラテックスから噴霧回収、又は凝析して回収することにより得られる。本発明において、粉体を得るために用いるゴム質グラフト重合体のラテックスは、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
ゴム質グラフト重合体ラテックスの凝析法は、例えば、該ラテックスを、凝析剤を溶解させた熱水と接触させ、攪拌しながら重合体を凝析させてスラリーとし、生成した析出物を脱水、洗浄、乾燥する方法が挙げられる。
本発明のゴム質グラフト重合体がゴム重合体(A)である場合、ゴム質グラフト重合体ラテックスを凝析する際の凝析剤が強酸または強酸と強塩基との塩であると、得られるゴム質グラフト重合体中に凝析剤由来の強酸または塩が微量残存し、この強酸または塩から遊離した強酸性のイオンによってゴム部中に含まれるブタジエンゴムが酸化劣化する恐れがある。またこの重合体をポリカーボネート樹脂に配合した際には、前記強酸性のイオンがポリカーボネート樹脂を分解させる恐れがあるため、好ましくない。よって本発明のゴム重合体(A)を製造する場合、凝析剤として、弱酸と強塩基との塩を用いることが好ましく、弱酸のアルカリ(土類)金属塩が用いることがより好ましい。
弱酸と強塩基との塩である凝析剤としては、例えば以下のものが挙げられる。酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸カルシウム、酢酸マグネシウム、酢酸バリウム等の有機酸のアルカリ(土類)金属塩;リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸カルシウム等の硫酸以外の無機酸のアルカリ(土類)金属塩。これらの凝析剤は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの凝析剤は、水溶液として使用するため、水溶性が高いことが好ましい。また凝析剤は、凝析時に、ゴム質グラフト重合体を含有するラテックスに含まれる乳化剤と難解離性の塩を形成するものが好ましい。このような凝析剤は、ゴム質グラフト重合体中に微量残存しても、該重合体をポリカーボネート樹脂に配合して得られる樹脂組成物の熱安定性を低下させ難いからである。
以上2つの観点から、上記凝析剤のうち、有機酸のアルカリ土類金属塩または硫酸以外の無機酸のアルカリ土類金属塩が好ましく、中でもカルシウム塩、マグネシウム塩がより好ましく、酢酸カルシウムがさらに好ましい。
凝析回収法によって得られた凝析物の洗浄方法としては、特に限定されるものではないが、洗浄効率を高めるために、水、またはメタノール、エタノール、イソプロピルアルコールなどの炭素原子数4以下のアルコールで洗浄することが好ましく、特に水及び/又はメタノールで洗浄することが好ましい。
ゴム質グラフト重合体ラテックスからのゴム重合体(A)の回収は、凝析によってではなく、噴霧回収により行うことができる。噴霧回収であれば、凝析剤として強酸または強酸と強塩基との塩を使用する必要がないためである。但し、ゴム重合体(A)の回収方法としては、噴霧回収法よりも、弱酸と強塩基との塩である凝析剤を用いた凝析回収法が好ましい。凝析回収は洗浄工程を含むため、ゴム中に残存するイオン量を更に低減することができるからである。
本発明のゴム質グラフト重合体がゴム重合体(A’)である場合、ゴム質グラフト重合体ラテックスを凝析する際の凝析剤としては、硫酸、塩酸、リン酸、硝酸などの無機酸;酢酸などの有機酸;ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、アルミニウムなどと無機酸、有機酸との塩などを用いることができる。これらの凝析剤は、単独であるいは2種以上組み合わせて用いることができる。その中でも得られるポリカーボネート樹脂組成物の黄変が防止できることからアルカリ土類金属塩が好ましく、硫酸塩を含まないアルカリ土類金属塩がより好ましく、酢酸カルシウムが特に好ましい。これらの凝固剤は水溶液として用い、その添加量は特に限定されるものではないが、ラテックスを充分に凝固させる量が使用される。
本発明のゴム質グラフト重合体がゴム重合体(A)又はゴム重合体(A’)である場合、ゴム質グラフト重合体ラテックスを凝析する際の凝析剤の使用量は、ラテックスを充分に凝析させる量であれば、特に限定されないが、ゴム質グラフト重合体を含有するラテックス中の樹脂固形分100質量部に対して、0.1〜20質量部が好ましく、0.1〜12質量部がより好ましく、0.5〜10質量部がさらに好ましく、0.5〜8質量部が特に好ましい。凝析剤の使用量が0.1質量部以上であると、ゴム質グラフト重合体の粉体回収性及び粉体取り扱い性が良好である。凝析剤の使用量が20質量部以下であると、得られたゴム質グラフト重合体をポリカーボネート樹脂に配合した樹脂組成物は熱安定性が良好である。
本発明のゴム質グラフト重合体ラテックスを噴霧回収する際には、ゴム質グラフト重合体のラテックスに、必要に応じて酸化防止剤等の添加剤を加えることができる。「噴霧回収」は、噴霧回収装置中にゴム質グラフト重合体のラテックスを微小液滴状に噴霧した後に熱風を当てることによる乾燥をいう。
噴霧回収装置中にゴム質グラフト重合体のラテックスを微小液滴状に噴霧する方法としては、例えば、回転円盤式、圧力ノズル式、二流体ノズル式、加圧二流体ノズル式等の方法が挙げられる。噴霧回収装置の容量としては、実験室で使用するような小規模な容量から工業的に使用するような大規模な容量までのいずれであってもよい。噴霧回収装置における乾燥用加熱ガスの供給部の構造、乾燥用加熱ガス及び乾燥粉末の排出部の構造は、目的に応じて適宜選択すればよい。乾燥用加熱ガスの温度は200℃以下が好ましく、120〜180℃がより好ましい。
本発明において、噴霧回収時の粉体のブロッキング防止や嵩比重の増加等の粉体特性を向上させるために、ゴム質グラフト重合体のラテックスにシリカ等の無機微粒子を添加して噴霧回収することができる。
本発明のゴム質グラフト重合体からなるポリカーボネート樹脂用強化剤の製造方法は、下記工程(1)及び工程(2)を含む方法であることが好ましい。
工程(1):弱酸と強塩基との塩である乳化剤を含むゴムラテックスの存在下でビニル単量体(g)を乳化重合してゴム質グラフト重合体ラテックスを得る工程。
工程(2):前記ゴム質グラフト重合体ラテックスを噴霧回収又は弱酸と強塩基との塩である凝析剤を用いて凝析回収する工程。
(硫酸イオン(SO4 2−)、亜硫酸イオン(SO3 2−)量)
本発明において、ゴム質グラフト重合体20.0gを温度95℃以上の熱水200ml中に20時間浸漬した後に該熱水中に抽出された硫酸イオン(SO4 2−)と亜硫酸イオン(SO3 2−)量の濃度測定によって得られる、該ゴム質グラフト重合体中に含まれる硫酸イオン(SO4 2−)と亜硫酸イオン(SO3 2−)の合計量(g/g)は、3.5ppm以下が好ましく、また3ppm以下がより好ましく、2.5ppm以下がもっとも好ましい。これらの両イオンの合計量が、3.5ppmより多い場合、ゴム質グラフト重合体の粉体中に乳化剤、または凝析剤由来の硫酸塩が残存しており、この硫酸塩から遊離したイオンによってゴム質中に含まれるブタジエンゴムが酸化劣化されるので好ましくない。またこのゴム質グラフト重合体をポリカーボネート樹脂に配合した際には、遊離したイオンがポリカーボネート樹脂を分解させるため耐熱着色性、耐湿熱性が低下し、好ましくない。
前記両イオンの合計量を3.5ppm以下とするには、ゴム質グラフト重合体100質量部に対する前記イオンが含まれる乳化剤や凝析剤の使用量を1.0質量部以下とすることが好ましく、0.5質量部以下とすることがより好ましく、使用しないことがさらに好ましい。
(塩素イオン(Cl−)量)
本発明において、ゴム質グラフト重合体に含まれる塩素イオン(Cl−)量(g/g)は、150ppm以下が好ましく、100ppm以下がより好ましく、50ppm以下がもっとも好ましい。塩素イオン(Cl−)量が150ppmより多い場合、本発明のゴム質グラフト重合体を製造する際や、ポリカーボネート樹脂に配合して射出成形を行う際に、製造ラインの金属製配管や、成形機の金型などを腐食させるため、好ましくない。前記塩素イオン(Cl−)量を150ppm以下とするには、ゴム質グラフト重合体100質量部に対する前記のイオンが含まれる乳化剤や凝析剤の使用量を1.0質量部以下とすることが好ましく、0.5質量部以下とすることがより好ましく、使用しないことがさらに好ましい。
(酸化防止剤)
本発明のゴム質グラフト重合体には、酸化防止の目的で通常知られた酸化防止剤の1種又は2種以上を添加することができる。ゴム質グラフト重合体への酸化防止剤の添加方法は特に限定されるものではないが、数百μmの粒子径を有する粉体や錠剤として、または水に分散させた状態(ディースパージョン)で添加する方法などが挙げられる。本発明においては、ゴム質グラフト重合体を含むラッテクスに酸化防止剤をディスパージョンにて添加する方法がもっとも好ましい。酸化防止剤をディスパージョンで添加することで、酸化防止剤をゴム質グラフト重合体に近く、より均一に添加することが出来るため、ブタジエンゴム等のゴム部の酸化劣化を抑制し、優れた耐熱着色性が得られる。
酸化防止剤を用いる場合には、本発明のゴム質グラフト重合体100質量部に対し、通常0.0001質量部以上10質量部以下であり、その下限量は、好ましくは0.001質量部以上、より好ましくは0.01質量部以上である。また、その上限量は、好ましくは6質量部以下、より好ましくは3質量部以下である。酸化防止剤の含有量が上記下限値以上であると成形時の着色の抑制効果が良好となる傾向がある。酸化防止剤の含有量が上記上限値以下であると射出成形時における金型への付着物が抑制されることにより、表面外観が良好な製品を得ることができる。
酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、チオエーテル系酸化防止剤及びホスフェイト系酸化防止剤からなる群より選ばれた少なくとも1種であることが好ましく、フェノール系酸化防止剤及び/又はチオエーテル系酸化防止剤が更に好ましい。
フェノール系酸化防止剤としては、例えば以下のものが挙げられる。ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトプロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3−ラウリルチオプロピオネート)、グリセロール−3−ステアリルチオプロピオネート、トリエチレングリコール−ビス[3−(3−tert−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,6−ヘキサンジオール−ビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、ペンタエリスリトール−テトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、N,N−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナマイド)、3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−ベンジルホスホネート−ジエチルエステル、トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、4,4’−ビフェニレンジホスフィン酸テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)、3,9−ビス{1,1−ジメチル−2−[β−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ]エチル}−2,4,8,10−テトラオキサスピロ(5,5)ウンデカンなど。
これらの化合物の中でも、炭素数5以上のアルキル基によって1つ以上置換された芳香族モノヒドロキシ化合物が好ましく、具体的には以下のものが挙げられる。オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、ペンタエリスリトール−テトラキス{3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート}、1,6−ヘキサンジオール−ビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼンなど。上記のうち、ペンタエリスリトール−テトラキス{3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネートが特に好ましい。
チオエーテル系酸化防止剤としては、例えば以下のものが挙げられる。ジラウリル−3,3’−チオジプロピオン酸エステル、ジトリデシル−3,3’−チオジプロピオン酸エステル、ジミリスチル−3,3’−チオジプロピオン酸エステル、ジステアリル−3,3’−チオジプロピオン酸エステル、ラウリルステアリル−3,3’−チオジプロピオン酸エステル、ペンタエリスリトールテトラキス(3−ラウリルチオプロピオネート)、ビス[2−メチル−4−(3−ラウリルチオプロピオニルオキシ)−5−tert−ブチルフェニル]スルフィド、オクタデシルジスルフィド、メルカプトベンズイミダゾール、2−メルカプト−6−メチルベンズイミダゾール、1,1’−チオビス(2−ナフトール)(ビス[3−(ドデシルチオ)プロピオン酸]2,2−ビス[[3−(ドデシルチオ)−1−オキソプロピルオキシ]メチル]−1,3−プロパンジイル)など。上記のうち、(ビス[3−(ドデシルチオ)プロピオン酸]2,2−ビス[[3−(ドデシルチオ)−1−オキソプロピルオキシ]メチル]−1,3−プロパンジイル)が好ましい。
チオエーテル系酸化防止剤としては、分子量が700以上のものが好ましい。分子量が700以上であれば、低揮発性であるため、ポリカーボネート樹脂組成物の高温成形時のおいても優れた耐熱着色性を示す。
ホスフェイト系酸化防止剤としては、例えば以下のものが挙げられる。トリフェニルホスファイト、トリスノニルフェニルホスファイト、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、トリデシルホスファイト、トリオクチルホスファイト、トリオクタデシルホスファイト、ジデシルモノフェニルホスファイト、ジオクチルモノフェニルホスファイト、ジイソプロピルモノフェニルホスファイト、モノブチルジフェニルホスファイト、モノデシルジフェニルホスファイト、モノオクチルジフェニルホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、ビス(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイトなど。
これらの中でも、トリスノニルフェニルホスファイト、トリフェニルホスファイト、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイトが好ましく、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイトが更に好ましい。
[ポリカーボネート樹脂組成物]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、ポリカーボネート樹脂と、本発明のゴム質グラフト重合体(即ち、ゴム重合体(A))とを含む樹脂組成物である。このポリカーボネート樹脂は、構造の一部に前記式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含有するポリカーボネート樹脂であることが好ましい。
また本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、構造の一部に前記式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含有するポリカーボネート樹脂(即ち、PC樹脂(B))と、本発明のゴム質グラフト重合体とを含有するポリカーボネート樹脂組成物であって、該ゴム質グラフト重合体と該ポリカーボネート樹脂との屈折率の差が0.005以下であり、該ゴム質グラフト重合体がブタジエン構造単位及びアルキルアクリレート構造単位を有する重合体(即ち、ゴム重合体(A’))であることが好ましい。
ガラス転移温度145℃未満の本発明のポリカーボネート樹脂は、着色が少なく、耐熱性及び耐衝撃性においてバランスのとれた樹脂ではあるが、実用的には耐衝撃性のさらなる改良が必要となる場合がある。そこで、本発明のポリカーボネート樹脂組成物においては、前記構造単位(1)を含有するポリカーボネート樹脂と共に本発明のゴム質グラフト重合体を含有させることにより、上述の欠点を改良し、YI値、全光線透過率、ヘーズ等の改善を達成している。さらに、前記ポリカーボネート樹脂のガラス転移温度を145℃未満とすると、低い溶融粘度のままで高い還元粘度を達成することができる。そして、かかるポリカーボネート樹脂と本発明のゴム質グラフト重合体とを組み合わせることにより、ガラス転移温度が145℃以上のポリカーボネート樹脂の場合と比較して、相乗的に耐衝撃性を向上させることができる。その上、本発明のポリカーボネート樹脂組成物においては、溶融粘度を抑えたまま、還元粘度を高くすることにより、成形性と耐衝撃性の両立も容易となる。また、本発明のポリカーボネート樹脂組成物においては、ゴム質グラフト重合体を含有しているにもかかわらず、透明性を大きく損なうこともない。
<屈折率>
本発明のポリカーボネート樹脂組成物において、ゴム重合体(A’)の屈折率とPC樹脂(B)の屈折率との差が0.005以下であることが好ましい。この屈折率の差が0.005以下であれば、得られるポリカーボネート樹脂組成物は透明性に優れる。透明部材への適用性や透明淡色着色時の鮮映性を考慮すると、この屈折率の差は好ましくは0.003以下、より好ましくは0.001以下である。屈折率差の下限値としては、特に限定されないが、同様の理由で、好ましくは0以上である。前記構造単位(1)を有するPC樹脂(B)の屈折率は通常1.49〜1.52であるから、ゴム重合体(A)の屈折率は1.49〜1.52であることが好ましい。なお、ポリカーボネート樹脂及びゴム質グラフト重合体の屈折率の測定方法は後述する。
ゴム質グラフト重合体の屈折率を1.49〜1.52とするためには、ゴム部を構成するポリマーの屈折率とグラフト部を構成するポリマーの屈折率をそれぞれ1.49〜1.52とすることが好ましい。ゴム質グラフト重合体のゴム部を構成するポリマーの屈折率を1.49〜1.52とするためには、例えば、前述のゴムラテックスの製造に当たり、用いるブタジエン単量体とアルキルアクリレート単量体との使用割合を調整する方法が挙げられる。即ち、ポリブタジエンの屈折率が1.52前後、ポリアルキルアクリレートの屈折率が1.49前後であるため、ブタジエン単量体を多く用いればゴム部を構成するポリマーの屈折率は1.52に近づき、アルキルアクリレート単量体を多く用いればゴム部を構成するポリマーの屈折率は1.49に近づく。
<樹脂組成比>
本発明のポリカーボネート樹脂組成物において、ポリカーボネート樹脂100質量部に対する本発明のゴム質グラフト重合体の配合量は0.1質量部以上、30質量部以下であることが好ましい。ゴム質グラフト重合体の配合量は、0.5質量部以上がより好ましく、1質量部以上がもっとも好ましい。ゴム質グラフト重合体の配合量は、20質量部以下がより好ましく、15質量部以下が更に好ましく、12.5質量部以下がまた更に好ましく、10質量部以下がもっとも好ましい。
本発明のゴム質グラフト重合体の配合量が上述の範囲より少ない場合には、充分な衝撃強度の改質効果が得られず、成形部材が破断するおそれがある。一方、上述の範囲より多い場合には、良好な成形性が損なわれて成形時に樹脂焼けが発生したり、発色性が損なわれたりするおそれがある。
[ポリカーボネート樹脂組成物の製造方法]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、ポリカーボネート樹脂と本発明のゴム質グラフト重合体とを混合することにより製造することができる。具体的には、例えばペレット状のポリカーボネート樹脂と、本発明のゴム質グラフト重合体とを押出機を用いて混合し、ストランド状に押出し、回転式カッター等でペレット状にカットすることにより本発明のポリカーボネート樹脂組成物を得ることができる。
<添加剤>
ポリカーボネート樹脂と本発明のゴム質グラフト重合体との混合時には、必要に応じて適宜下記の酸化防止剤、離型剤等の添加剤を添加することができる。
(酸化防止剤)
本発明のポリカーボネート樹脂組成物には、ポリカーボネート樹脂と本発明のゴム質グラフト重合体とを混合する際に酸化防止の目的で通常知られた酸化防止剤の1種又は2種以上を配合することができる。酸化防止剤の使用量は、ポリカーボネート樹脂100質量部に対し、通常0.0001質量部以上1質量部以下であり、好ましくは0.001質量部以上、より好ましくは0.01質量部以上であり、また、通常1質量部以下であり、好ましくは0.5質量部以下、より好ましくは0.3質量部以下である。酸化防止剤の含有量が上記下限以上であると成形時の着色抑制効果が良好となる傾向があるが、酸化防止剤の含有量が上記上限より多いと射出成形時における金型への付着物が多くなったり、押出成形によりフィルムを成形する際にロールへの付着物が多くなったりすることにより、製品の表面外観が損なわれるおそれがある。
酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、ホスフェイト系酸化防止剤及びイオウ系酸化防止剤からなる群より選ばれた少なくとも1種であることが好ましく、フェノール系酸化防止剤及び/又はホスフェイト系酸化防止剤が更に好ましい。
フェノール系酸化防止剤及びホスフェイト系酸化防止剤としては、ゴム質グラフト重合体の項にて記載したものと同様のものが挙げられ、また、好ましい酸化防止剤として同様のものが挙げられる。
イオウ系酸化防止剤としては、例えば以下のものが挙げられる。ジラウリル−3,3’−チオジプロピオン酸エステル、ジトリデシル−3,3’−チオジプロピオン酸エステル、ジミリスチル−3,3’−チオジプロピオン酸エステル、ジステアリル−3,3’−チオジプロピオン酸エステル、ラウリルステアリル−3,3’−チオジプロピオン酸エステル、ペンタエリスリトールテトラキス(3−ラウリルチオプロピオネート)、ビス[2−メチル−4−(3−ラウリルチオプロピオニルオキシ)−5−tert−ブチルフェニル]スルフィド、オクタデシルジスルフィド、メルカプトベンズイミダゾール、2−メルカプト−6−メチルベンズイミダゾール、1,1’−チオビス(2−ナフトール)など。上記のうち、ペンタエリスリトールテトラキス(3−ラウリルチオプロピオネート)が好ましい。
(離型剤)
本発明のポリカーボネート樹脂組成物には、シート成形時の冷却ロールからのロール離れ、或いは射出成形時の金型からの離型性をより向上させるなどのために、本発明の目的を損なわない範囲で離型剤が配合されていてもよい。かかる離型剤としては、例えば以下のものが挙げられる。一価又は多価アルコールの高級脂肪酸エステル、高級脂肪酸、パラフィンワックス、蜜蝋、オレフィン系ワックス、カルボキシ基及び/又はカルボン酸無水物基を含有するオレフィン系ワックス、シリコーンオイル、オルガノポリシロキサン等。離型剤は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
高級脂肪酸エステルとしては、炭素数1〜炭素数20の一価又は多価アルコールと炭素数10〜炭素数30の飽和脂肪酸との部分エステル又は全エステルが好ましい。かかる一価又は多価アルコールと飽和脂肪酸との部分エステル又は全エステルとしては、例えば以下のものが挙げられる。ステアリン酸モノグリセリド、ステアリン酸ジグリセリド、ステアリン酸トリグリセリド、ステアリン酸モノソルビテート、ステアリン酸ステアリル、ベヘニン酸モノグリセリド、ベヘニン酸ベヘニル、ペンタエリスリトールモノステアレート、ペンタエリスリトールテトラステアレート、ペンタエリスリトールテトラペラルゴネート、プロピレングリコールモノステアレート、ステアリルステアレート、パルミチルパルミテート、ブチルステアレート、メチルラウレート、イソプロピルパルミテート、ビフェニルビフェネ−ト、ソルビタンモノステアレート、2−エチルヘキシルステアレート等。なかでも、ステアリン酸モノグリセリド、ステアリン酸トリグリセリド、ペンタエリスリトールテトラステアレート、ベヘニン酸ベヘニルが好ましく用いられる。離型性と透明性の観点から離型剤としてより好ましいのはステアリン酸エステルである。
ステアリン酸エステルとしては、置換又は無置換の炭素数1〜炭素数20の一価又は多価アルコールとステアリン酸との部分エステル又は全エステルが好ましい。かかる一価又は多価アルコールとステアリン酸との部分エステル又は全エステルのより好ましいものとして、以下のものが挙げられる。エチレングリコールジステアレート、ステアリン酸モノグリセリド、ステアリン酸ジグリセリド、ステアリン酸トリグリセリド、ステアリン酸モノソルビテート、ステアリン酸ステアリル、ペンタエリスリトールモノステアレート、ペンタエリスリトールテトラステアレート、プロピレングリコールモノステアレート、ステアリルステアレート、ブチルステアレート、ソルビタンモノステアレート、2−エチルヘキシルステアレートなど。なかでも、ステアリン酸モノグリセリド、ステアリン酸トリグリセリド、ペンタエリスリトールテトラステアレート、ステアリルステアレートが更に好ましく、エチレングリコールジステアレート、ステアリン酸モノグリセリドが特に好ましい。
高級脂肪酸としては、置換又は無置換の炭素数10〜炭素数30の飽和脂肪酸が好ましい。なかでも無置換の炭素数10〜炭素数30の飽和脂肪酸がより好ましく、このような高級脂肪酸としては、ミリスチン酸、ラウリン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘニン酸等が挙げられる。中でも炭素数16〜18の飽和脂肪酸が更に好ましく、このような飽和脂肪酸としてパルミチン酸、ステアリン酸などが挙げられるが、ステアリン酸が特に好ましい。
離型剤を用いる場合には、その配合量はポリカーボネート樹脂100質量部に対し、通常0.001質量部以上、好ましくは0.01質量部以上、より好ましくは0.1質量部以上であり、また、通常2質量部以下、好ましくは1質量部以下、より好ましくは0.5質量部以下である。離型剤の含有量が過度に多いと成形時に金型付着物が増える場合があり、大量に成形を実施した場合には金型の整備に労力を要する可能性があり、また、得られる成形品に外観不良をきたす可能性がある。ポリカーボネート樹脂組成物中の離型剤の含有量が上記下限以上であると成形時、成形品が金型から離型しやすくなり、成形品が取得しやすいという利点がある。
(紫外線吸収剤・光安定剤)
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、紫外線による変色は従来のポリカーボネート樹脂組成物に比較して著しく小さいが、更に改良の目的で、本発明の目的を損なわない範囲で、ポリカーボネート樹脂組成物中には紫外線吸収剤、光安定剤の1種又は2種以上が配合されていてもよい。ここで、紫外線吸収剤としては、紫外線吸収能を有する化合物であれば特に限定されない。紫外線吸収能を有する化合物としては、有機化合物、無機化合物が挙げられる。なかでも有機化合物はポリカーボネート樹脂との親和性を確保しやすく、均一に分散しやすいので好ましい。
紫外線吸収能を有する有機化合物の分子量は特に限定されないが、通常200以上、好ましくは250以上である。また。通常600以下、好ましくは450以下、より好ましくは400以下である。分子量が過度に小さいと、長期間使用での耐紫外線性能の低下を引き起こす可能性がある。分子量が過度に大きいと、長期間使用での樹脂組成物の透明性低下を引き起こす可能性がある。
好ましい紫外線吸収剤としては、ベンゾトリアゾール系化合物、ベンゾフェノン系化合物、トリアジン系化合物、ベンゾエート系化合物、サリチル酸フェニルエステル系化合物、シアノアクリレート系化合物、マロン酸エステル系化合物、シュウ酸アニリド系化合物などが挙げられる。なかでも、ベンゾトリアゾール系化合物、ヒドロキシベンゾフェノン系化合物、マロン酸エステル系化合物が好ましく用いられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
ベンゾトリアゾール系化合物のより具体的な例としては、以下のものが挙げられる。2−(2’−ヒドロキシ−3’−メチル−5’−ヘキシルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’−t−ブチル−5’−ヘキシルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−t−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’−メチル−5’−t−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−t−ドデシルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’−メチル−5’−t−ドデシルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−t−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、メチル−3−(3−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−5−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネートなど。
ベンゾフェノン系化合物としては、2,2’−ジヒドロキシベンゾフェノン、2,2’,4,4’−テトラヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−オクトキシベンゾフェノンなどのヒドロキシベンゾフェノン系化合物などが挙げられる。
マロン酸エステル系化合物としては、2−(1−アリールアルキリデン)マロン酸エステル類、テトラエチル−2,2’−(1,4−フェニレン−ジメチリデン)−ビスマロネートなどが挙げられる。
トリアジン系化合物としては、以下のものが挙げられる。2−[4−[(2−ヒドロキシ−3−ドデシルオキシプロピル)オキシ]−2−ヒドロキシフェニル]−4,6−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−6−(2−ヒドロキシ−4−イソオクチルオキシフェニル)−s−トリアジン、2−(4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5−[(ヘキシル)オキシ]−フェノール(チバガイギー社製、Tinuvin1577FF)など。
シアノアクリレート系化合物としては、エチル−2−シアノ−3,3−ジフェニルアクリレート、2’−エチルヘキシル−2−シアノ−3,3−ジフェニルアクリレートなどが挙げられる。
シュウ酸アニリド系化合物としては、2−エチル−2’−エトキシ−オキサルアニリド(Clariant社製、SanduvorVSU)などが挙げられる。
かかる紫外線吸収剤、光安定剤の含有量は、紫外線吸収剤、光安定剤の種類に応じて適宜選択することが可能であるが、ポリカーボネート樹脂組成物100質量%中において、紫外線吸収剤、光安定剤を0.001〜5質量%含有することが好ましく、ポリカーボネート樹脂100質量部に対する添加量で、0.01〜2質量部が好ましい。
(ブルーイング剤)
本発明のポリカーボネート樹脂組成物には、黄色味を打ち消すためにブルーイング剤の1種又は2種以が配合されていてもよい。ブルーイング剤としては、従来のポリカーボネート樹脂に使用されるものであれば、特に支障なく使用することができる。一般的にはアンスラキノン系染料が入手容易であり好ましい。
具体的なブルーイング剤としては、例えば以下のものが挙げられる。一般名Solvent Violet13[CA.No.(カラーインデックスNo.)60725]、一般名Solvent Violet31[CA.No.68210]、一般名Solvent Violet33[CA.No.60725]、一般名Solvent Blue94[CA.No.61500]、一般名Solvent Violet36[CA.No.68210]、一般名Solvent Blue97[バイエル社製「マクロレックスバイオレットRR」]、及び一般名Solvent Blue45[CA.No.61110]等。
本発明のポリカーボネート樹脂組成物におけるこれらブルーイング剤の含有量は、通常、ポリカーボネート樹脂100質量部に対して、0.1×10−4〜2×10−4質量部が好ましい。
(その他の添加剤等)
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、上記の添加剤の他、本発明の目的を損なわない範囲で、周知の種々の添加剤、例えば、難燃剤、難燃助剤、加水分解抑制剤、帯電防止剤、発泡剤、染顔料等を含有することができる。また、例えば、芳香族ポリカーボネート樹脂、芳香族ポリエステル、ポリアミド、ポリスチレン、ポリオレフィン、アクリル、アモルファスポリオレフィン等の合成樹脂、ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネート等の生分解性樹脂等が混合された樹脂組成物であってもよい。
<配合方法>
本発明のポリカーボネート樹脂組成物への上述のような各種の添加剤等の配合方法としては、通常用いられるブレンド方法であればどのような方法を用いてもよい。例えばタンブラー、V型ブレンダー、スーパーミキサー、ナウターミキサー、バンバリーミキサー、混練ロール、押出機等で混合・混練する方法、或いは、例えば塩化メチレン等の共通の良溶媒に溶解させた状態で混合する溶液ブレンド方法等が挙げられるが、これは特に限定されない。
こうして得られる本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、これに各種添加剤等が添加され、直接に、或いは溶融押出機で一旦ペレット状にしてから、押出成形法、射出成形法、圧縮成形法等の通常知られている成形方法で、所望形状に成形することができる。
[ポリカーボネート樹脂組成物の物性]
以下に、本発明のポリカーボネート樹脂組成物の好ましい物性を示す。
<YI値>
本発明のポリカーボネート樹脂組成物において、透明淡色着色時の明度を考慮すると、240℃で溶融成形して得られた3mmの厚さの成形品を、JIS K7105に従って測定したYI値が30以下であることが好ましく、より好ましくは10以下である。このYI値の下限値としては、同様の理由で、好ましくは−5以上、より好ましくは0以上である。このYI値は重合触媒の種類、添加量や触媒失活剤の種類、添加量により制御することができる。なお、上記YI値は、より具体的には後掲の実施例の項に記載される方法で測定される。
<全光線透過率>
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、その全光線透過率が60%未満の場合には、建築材料分野、電気・電子分野、自動車分野、光学部品分野等において好適に用いることが困難になるおそれがある。本発明のポリカーボネート樹脂組成物の全光線透過率は70%以上が好ましく、80%以上がより好ましくい。また、実現の困難性という観点から、全光線透過率の上限は94%である。本発明のポリカーボネート樹脂組成物の全光線透過率は、本発明のポリカーボネート樹脂の製造に用いるジヒドロキシ化合物の種類とそのモル比率、本発明のゴム質グラフト重合体の種類とその含有量等を調整することにより制御することができる。なお、全光線透過率の測定方法は後述する。
<ノッチ付シャルピー衝撃強度>
本発明のポリカーボネート樹脂組成物のノッチ付シャルピー衝撃強度は、15kJ/m2以上が好ましく、20kJ/m2以上がより好ましく、25kJ/m2以上がさらに好ましく、40kJ/m2以上がさらにより好ましく、49kJ/m2以上が特に好ましい。また、実現の困難性という観点から、本発明のポリカーボネート樹脂組成物のノッチ付シャルピー衝撃強度の上限は200kJ/m2である。ノッチ付シャルピー衝撃強度は、ポリカーボネート樹脂の分子量(還元粘度)、ポリカーボネート樹脂の製造に用いるジヒドロキシ化合物の種類とモル比率、本発明のゴム質グラフト重合体の種類とその含有量等を調整することにより制御することができる。なお、ノッチ付シャルピー衝撃強度の測定方法は後述する。
<溶融粘度>
本発明のポリカーボネート樹脂組成物の溶融粘度は100Pa・s以上が好ましい。溶融粘度が上記下限よりも低すぎる場合には、機械的強度が不足し、射出成形等の成形後に金型から取り出す際に成形品が割れたり、成形品の使用時にクラックが発生したりするおそれがある。本発明のポリカーボネート樹脂組成物の溶融粘度は、200Pa・s以上がより好ましく、500Pa・s以上がさらに好ましい。また、本発明のポリカーボネート樹脂組成物の溶融粘度は800Pa・s以下が好ましい。溶融粘度が上記上限より高すぎる場合には、強度の高い成形品を工業的に製造することが困難になるおそれがある。また、この場合には、流動性の悪化や成形温度の上昇による着色、分子量の低下、分解ガスの発生等を招きやすくなるおそれがある。本発明のポリカーボネート樹脂組成物の溶融粘度は、700Pa・s以下がより好ましく、640Pa・s以下がさらに好ましい。
本発明のポリカーボネート樹脂組成物の溶融粘度は、重合反応の温度、圧力、重合時間を調整することにより制御することができる。なお、ポリカーボネート樹脂組成物の「溶融粘度」は、キャピログラフを用いて測定され、測定温度240℃、剪断速度912sec−1にて、測定される。
〔ポリカーボネート樹脂成形品〕
本発明のポリカーボート樹脂組成物を成形することにより、本発明のポリカーボネート樹脂成形品を得ることができる。好ましくは、本発明のポリカーボネート樹脂成形品は、射出成形法により成形されたものである。この場合には、複雑な形状の本発明のポリカーボネート樹脂成形品が作成可能となる。そして、複雑な形状に成形すると応力集中部が発生し易くなるが、本発明のポリカーボネート樹脂組成物においては上述のごとく衝撃強度の向上効果が得られるため、応力集中による破断を抑制することができる。
本発明のポリカーボネート樹脂成形品はまた、本発明のポリカーボネート樹脂組成物の押出成形法等によりフィルム又はシートに成形されたものであってもよい。また、本発明のポリカーボネート樹脂成形品は、射出成形法又は押出成形法等により成形されたプレートであってもよい。
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。実施例1〜5は、第一発明群(ゴム重合体(A)を使用する発明群)に関する例であり、実施例11〜14及び21〜25は、第二発明群(PC樹脂(B)及びゴム重合体(A’)を使用する発明群)に関する例である。先ず、評価方法について説明する。評価(1)〜(9)は、第一発明群についての評価方法であり、評価(10)〜(18)は第二発明群についての評価方法である。
〔第一発明群の評価方法〕
(1)ゴム質グラフト重合体中に含まれる硫酸イオン及び亜硫酸イオン量
ゴム質グラフト重合体20.0gをガラス製耐圧容器に量り取り、これに脱イオン水200mlを加えて、ギアオーブン内にて95℃、20時間、熱水による抽出処理を行う。この液を室温に冷却してから目開き0.2μmのセルロース混合エステル製メンブランフィルターで濾過し、濾液を試料液とする。
イオンクロマトグラフ(日本ダイオネクス(株)製、商品名;IC−20型、分離カラム:IonPac AS12A)を用いて前記試料液中の硫酸イオン(SO4 2−)及び亜硫酸イオン(SO3 2−)の量を測定する。検量線は硫酸ナトリウムの標準液(キシダ化学(株)製、イオンクロマトグラフィー用硫酸イオン標準液(SO4 2−):1000mg/L)及び亜硫酸ナトリウムの標準液(キシダ化学(株)製、イオンクロマトグラフィー用亜硫酸イオン標準液(SO3 2−):1000mg/L)を用い、SO4 2−及びSO3 2−:各20ppmの一点で作成して行なう。イオンクロマトグラフより定量した濃度から、ゴム質グラフト重合体中に含まれる硫酸イオン量及び亜硫酸イオン量の合計量(g/g)を算出する。
(2)ゴム質グラフト重合体粉体中の塩素イオン量
ゴム質グラフト重合体0.05gを、試料燃焼装置(三菱化学(株)製、商品名;QF−02)にて完全燃焼させ、発生ガスを0.3%過酸化水素水20mlに吸収させたものを試料液とする。イオンクロマトグラフ(日本ダイオネクス(株)製、商品名;IC−20型、分離カラム:IonPac AS12A)を用いて試料液中の塩素(Cl−)の量を測定する。検量線はキシダ化学(株)製、イオンクロマトグラフィー用塩化物イオン標準液(Cl−):1000mg/Lを用い、Cl−:20ppmの一点で作成して行なう。イオンクロマトグラフより定量した濃度から、ゴム質グラフト重合体中に含まれる塩素含有量(g/g)を算出する。
(3)耐金属腐食性
ゴム質グラフト重合体の粉体10gを耐熱ガラス製の容器に計量し、脱イオン水を10g加えた中に、合金工具鋼製のクリップを入れる。常温(23℃)にて、10日間保持した後に合金工具鋼製のクリップの腐食状態を目視で確認する。
a:腐食無し。
c:腐食有り(錆有り)。
(4)ペレット及び試験片の作製方法
ゴム質グラフト重合体3質量部と粘度平均分子量24,000の芳香族ポリカーボネート樹脂(三菱エンジニアリングプラスチック(株)製ユーピロンS−2000F)97質量部とを配合し、バレル温度280℃に加熱した脱揮式押出機((株)池貝製PCM−30)にてスクリュー回転数150rpmの条件で混練して「ペレット」を得る。このペレットを、熱風乾燥機を用いて80℃で6時間乾燥した後、100t射出成形機(住友重機(株)製SE−100DU)にて、シリンダー温度280℃、金型温度90℃の条件で成形して平板状の「試験片1」(長さ100mm、幅50mm、厚み2mm)及び「試験片2」(長さ80mm、幅8mm、厚み4mm)を得る。
(5)△YI値(耐熱着色性)
前記「試験片1」のYI値を、JIS K7105に準拠し、分光色差計(機種名「SE2000」、日本電色工業(株)製)を用いて、C光源、2度視野の条件で反射光測定法にて測定する。先ず、ヒートエージング前の試験片のYI値(YIB)を測定する。次いで、前記試験片を、ハイテンプオーブン(機種名「PMS−B」、タバイスペック(株)製)を使用して温度140℃で12時間ヒートエージングした後、そのYI値(YIA)を測定する。以下の式により△YI値を算出する。
△YI=YIA−YIB 。
なお、△YIは、36以下を合格とする。
(6)△MFR値(耐湿熱性)
前記「ペレット」のメルトマスフローレート(MFR)値を、ISO1133に準拠し、メルトインデクサー(機種名「S−111」、(株)東洋精機製作所製)を用いて、シリンダー温度300℃、荷重1.2kgにて測定する。先ず、ヒートエージング前のペレットのMFR値(MFRB)を測定する。次いで、別の前記ペレットを、プレッシャークッカー(機種名「不飽和型超加速寿命試験装置PC−422R」、(株)平山製作所)を用いて、温度120℃、相対湿度100%の条件下で60時間ヒートエージングした後、そのMFR値(MFRA)を測定する。以下の式により△MFR値を算出する。
△MFR=MFRA−MFRB 。
なお、△MFRは、3以下を合格とする。
(7)ノッチ付きシャルピー衝撃強度
前記「試験片2」を用いてJIS K7111に準じ、−30℃及び23℃の測定温度で測定する。
(8)ゴムラテックス中のゴム粒子の体積平均粒子径
ゴムラテックスを脱イオン水で希釈し、レーザー回折散乱式粒度分布計(島津製作所製:SALD−7100)を用い、ゴム粒子の体積平均粒子径を測定する。体積平均粒子径の算出は、ゴム粒子の屈折率を1.50として行う。
(9)ゴム質グラフト重合体の体積平均粒子径
ゴム質グラフト重合体のラテックスを脱イオン水で希釈し、レーザー回折散乱式粒度分布計(島津製作所製:SALD−7100)を用い、ゴム質グラフト重合体粒子の体積平均粒子径を測定する。体積平均粒子径の算出は、ゴム質グラフト重合体の屈折率を1.50として行う。
〔第二発明群の評価方法〕
(10)ポリカーボネート樹脂の屈折率
ポリカーボネート樹脂をヒーター温度300℃に加熱したプレス成形機(庄司鉄工(株)製)にて10MPaの条件でプレスして、厚みが0.5mmのポリカーボネート樹脂の「プレスシート3」を得る。前記プレスシート3についてアッベ屈折計(アタゴ社製「DR−M4」)で、589nm(D線)の干渉フィルターを用いて、屈折率nDを測定する。
(11)ポリカーボネート樹脂のガラス転移温度
示差走査熱量計(エスアイアイ・ナノテクノロジー社製DSC6220)を用いてポリカーボネート樹脂のガラス転移温度を測定する。樹脂試料約10mgを同社製アルミニウム製パンに入れて密封し、50mL/分の窒素気流下、昇温速度20℃/分で室温から250℃まで昇温する。この温度を3分間維持した後、30℃まで20℃/分の速度で冷却する。30℃で3分間維持し、再び200℃まで20℃/分の速度で昇温する。2回目の昇温で得られた測定データのDSCのピークトップの値をTgとする。
(12)試験片の作成方法
ポリカーボネート樹脂100質量部に対して、ゴム質グラフト重合体を5質量部又は10質量部配合し、バレル温度240℃に加熱した脱揮式押出機((株)池貝製PCM−30)にてスクリュー回転数150rpmの条件で混練してペレットを得る。ポリカーボネート樹脂組成物のペレットを、熱風乾燥機を用いて、80℃で6時間乾燥する。次に、乾燥したポリカーボネート樹脂組成物のペレットを射出成形機(日本製鋼所社製J75EII型)に供給し、樹脂温度240℃、金型温度60℃、成形サイクル40秒間の条件で、「射出成形板4」(長さ60mm×幅60mm×厚み3mm)、「射出成形シート5」(長さ100mm×幅100mm×厚み2mm)及び機械物性用ISO「試験片6」を成形する。
(13)全光線透過率及びヘーズ
前記「射出成形板4」についてJIS K7105(1981年)に準拠し、ヘーズメーター(日本電色工業社製NDH2000)を使用し、D65光源にて全光線透過率及びヘーズ値を測定する。なお、全光線透過率は、85%以上を合格とし、ヘーズ値は20%以下を合格とする。
(14)色相
前記「射出成形板4」についてJIS K7105(1981年)に準拠し、分光色差計(日本電色工業社製SE2000)を使用し、C光源透過法にてイエローインデックス(YI)値を測定する。YI値が小さい程、黄色味がなく品質が優れることを示し、10以下を合格とする。
(15)面衝撃脆性破壊率
前記「射出成形シート5」について、ISO 6603−2に準拠し、高速パンクチャー衝撃試験機(島津製作所社製:ハイドロショットHITS−P10)により、衝撃エネルギーの測定及び破壊形態を観察する。尚、試験速度は4.4m/s、打ち抜きストライカーの直径は20mm、先端形状は半球状、ロードセル容量10kN、押え治具の穴径は40mmのものを使用する。
脆性破壊率の測定は、23℃の各環境下に前記射出成形シートを1時間以上置いて行う。試験回数を5回とし、1枚のシートが複数片に破断した場合に破壊を生じたものとし、破壊を生じた回数を試験回数で除することにより前記面衝撃脆性破壊率(%)を求める。この値が低いほど破壊しにくいことを示し、0%は試験中1回も破壊を生じなかったことを示す。
(16)ノッチ付シャルピー衝撃強度
前記「試験片6」についてISO179(2000年)に準拠してノッチ付シャルピー衝撃試験を実施する。なお、ノッチ付シャルピー衝撃強度は、20kJ/m2以上を合格とする。
(17)ゴム質グラフト重合体の屈折率
ゴム質グラフト重合体を、ヒーター温度180℃に加熱したプレス成形機(庄司鉄工(株)製)にて10MPaの条件でプレスして、厚みが0.5mmのゴム質グラフト重合体の「プレスシート7」を得る。このプレスシート7についてアッベ屈折計(アタゴ社製「DR−M4」)で、589nm(D線)の干渉フィルターを用いて、屈折率nDを測定する。
(18)ゴムラテックス中のゴム粒子の体積平均粒子径
前記(8)と同様にして測定し、算出する。
〔材料〕
また、以下の実施例及び比較例において用いた化合物の略号は次の通りである。
なお、メタブレンC−223A、パラロイドEXL2603のそれぞれを200℃でプレス成形し、アッベ屈折率計にて屈折率を測定したところ、メタブレンC−223Aの屈折率は1.5210であり、パラロイドEXL2603の屈折率は1.5080であった。
また、1〜2gのメタブレンC−223Aを乾式灰化法にて灰化させ、塩酸水溶液で灰分を溶解して水で希釈し、ICP発光分光分析装置(Themo Fisher Scientific社 IRIS IntrepidII XSP)を用いて測定した結果、メタブレンC−223A中にはアルカリ土類金属成分のCaは検出されなかった。
また、0.2gのパラロイドEXL2603を三フッ化ホウ素メタノール溶液にてメチルエステル化し、キャピラリーガスクロクロマトグラフィー(Agilent製6890、キャピラリーカラムHP−5、長さ30m×内径0.32mm×膜厚0.25μm、検出器FID)を用いて測定した結果、パラロイドEXL2603中には脂肪酸由来成分は検出されなかった。
[実施例1]
<1.ゴムラテックス(H−1)の製造>
表2中の成分(1)の欄に示す6種類の材料を容量70Lのオートクレーブ中に仕込み、昇温して43℃となった時点で、表2中の成分(2)の欄に示す4種類の材料からなるレドックス系開始剤をオートクレーブ内に添加し、重合を開始した後、さらに60℃まで昇温した。重合開始から8時間反応させて、ブタジエン系ゴム重合体ラテックス(H−1)を得た。得られたブタジエン系ゴム重合体ラテックス(H−1)中のブタジエン系ゴム重合体の体積平均粒子径は90nmであった。
<2.肥大化用酸基含有共重合体ラテックス(K−1)の製造>
表3中の成分(3)の欄に示す6種類の材料を反応容器内に仕込み、内温を60℃に昇温した後、表3中の成分(4)の欄に示す3種類の材料からなる混合物を、2時間にわたり連続滴下で投入して重合させた。さらに2時間撹拌を続けることにより、モノマー転化率97%以上の酸基含有共重合体ラテックス(K−1)を得た。
<3.肥大化ゴムラテックス(H−1’)の製造>
製造したゴムラテックス(H−1)のうち、ポリマー固形分として75質量部のゴムラテックス(H−1)をガラスフラスコに配合し、内温50℃にてポリマー固形分として2質量部の酸基含有共重合体ラテックス(K−1)を加えて30分間保持した。得られた肥大化ゴムラテックス(H−1’)のゴム粒子の体積平均粒子径は200nmであった。
<4.ゴム質グラフト重合体(A−1)の製造>
前記肥大化ゴムラテックス(H−1’)の入った反応容器内に、表4中の初期仕込みの欄に示す5種類の材料を加え、温度を65℃まで昇温した。次いで、表4中の「1段目グラフト」の欄に示す3種類の材料からなる混合物を25分間かけて滴下し重合を進行させた後、40分間保持し、第1グラフト重合工程を行った。
その後、該重合体の存在下で、表4中の「2段目グラフト」の欄に示す2種類の材料からなる混合物を30分間かけて滴下した後、1時間保持し、第2グラフト重合工程を行った。
その後、該重合体の存在下で、表4中の「3段目グラフト」の欄に示す2種類の材料からなる混合物を10分間かけて滴下した後、2時間保持し、第3グラフト重合工程を行い、ゴム質グラフト重合体ラテックスを得た。
得られたゴム質グラフト重合体ラテックスに、フェノール系酸化防止剤のIrg1076(n−オクタデシル−3−(3´,5´ジ−t−ブチル−4´−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)0.25質量部と、チオエーテル系酸化防止剤であるAO−412S(ビス[3−(ドデシルチオ)プロピオン酸]2,2−ビス[[3−(ドデシルチオ)−1−オキソプロピルオキシ]メチル]−1,3―プロパンジイル)を0.75質量部添加した。次いで、酢酸カルシウム5質量部が入った脱イオン水460質量部に添加して重合物を凝析し、水洗、脱水、乾燥してゴム質グラフト重合体(A−1)を得た。
<5.ゴム質グラフト重合体(A−1)の評価>
ゴムラテックス中のゴム粒子の体積平均粒子径、ゴム質グラフト重合体の体積平均粒子径、ゴム質グラフト重合体粉体中の硫酸イオン量、亜硫酸イオン量、及び塩素イオン量、ゴム質グラフト重合体粉体による金属腐食性を、それぞれ、前記評価方法に従って測定した。また、ゴム質グラフト重合体(A−1)と芳香族ポリカーボネート樹脂から得られた試験片1の△YI値、ゴム質グラフト重合体(A−1)と芳香族ポリカーボネート樹脂からなるペレットの△MFR、ゴム質グラフト重合体(A−1)と芳香族ポリカーボネート樹脂から得られた試験片2のシャルピー衝撃強度を、それぞれ、前記評価方法(1)〜(9)に従って測定した。表6に示す評価結果を得た。
[実施例2〜5]
酸化防止剤の種類及び又は使用量を表5に示す条件に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、ゴム質グラフト重合体(A−2)〜(A−5)を得た。また、表6に示す評価結果を得た。なお、実施例5は請求項に係る発明の参考例である。
[比較例1]
凝析剤の酢酸カルシウムを硫酸1.3質量部に変更したこと以外は、実施例5と同様にして、ゴム質グラフト重合体(A”−1)を得た。また、表6に示す評価結果を得た。
[比較例2]
ゴムラテックス(H−1)の製造に使用する乳化剤をアルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム(花王(株)製、商標名:ぺレックスSSL)1.5質量部に変更したこと以外は、実施例5と同様にして、ゴム質グラフト重合体(A”−2)を得た。また、表6に示す評価結果を得た。
[比較例3]
凝析剤の酢酸カルシウムを塩化カルシウム5質量部に変更したこと以外は、実施例5と同様にして、ゴム質グラフト重合体(A”−3)を得た。また、表6に示す評価結果を得た。
[樹脂組成物の性能比較]
実施例5の樹脂組成物は、比較例1、2及び3の樹脂組成物に比べ、耐熱着色性(△YI)や耐湿熱性(△MFR)が優れることが分かった。また、分子量700硫黄のチオエーテル系の酸化防止剤を含む実施例1〜4の樹脂組成物は、実施例5の樹脂組成物に比べ、更に優れる耐熱着色性を示すことが分かった。
比較例1の樹脂組成物は、凝析剤として硫酸(強酸)を使用しているため、硫酸イオン(SO4 2−)量が多く、耐熱着色性や耐湿熱性が劣っていた。比較例2の樹脂組成物は、乳化剤としてスルホン酸塩(強酸―強塩基の塩)を使用しているため、硫酸イオン(SO4 2−)と亜硫酸イオン(SO3 2−)の合計量が多く、耐熱着色性が劣っていた。比較例3の樹脂組成物は、凝析剤として塩化カルシウム(強酸−強塩基の塩)を使用しているため、塩素(Cl−)イオン量が多く、耐熱着色性や耐金属腐食性が劣っていた。
なお、比較例2で使用したスルホン酸塩(R−SO3 −構造を有する塩)である乳化剤の場合、乳化剤中に不純物として硫酸イオン(SO4 2−)と亜硫酸イオン(SO3 2−)とが含まれるため、両イオンを検出することにより、R−SO3 −構造を有する塩の有無を確認することができる。
表6より明らかなように、本発明のポリカーボネート樹脂用強化剤を配合したポリカーボネート樹脂組成物は、比較例のポリカーボネート樹脂組成物に比べて高い耐熱着色性と高い耐湿熱性、耐金属腐食性を示した。したがって、本発明のポリカーボネート樹脂用強化剤を配合したポリカーボネート樹脂組成物から得られる成形品は、優れた耐熱着色性と耐湿熱性を兼ね備え、自動車分野、プリンタ等のOA機器分野、携帯電話等電気・電子分野等において好適に用いることができる。
[実施例11]
<1.ゴムラテックス(H−11)の製造>
表7中の成分(11)の欄に示す9種類の材料を準備した。1,3−ブタジエンを除く材料については、窒素ガスを注入し、実質上重合反応を阻害する酸素を含まない状態とした。その後、これらの材料をポリマー固形分として100質量部となるようにオートクレーブに仕込んだ。50℃で9時間かけて重合を行った。その結果、モノマー転化率97%前後、体積平均粒子径0.08μmのゴムラテックス(H−11)を得た。
<2.肥大化用酸基含有共重合体ラテックス(K−11)の製造>
表8中の成分(12)の欄に示す6種類の材料を反応容器内に仕込み、内温を60℃に昇温した後、表8中の成分(13)の欄に示す3種類の材料からなる混合物を、2時間にわたり連続滴下で投入して重合させた。さらに2時間撹拌を続けることにより、モノマー転化率97%以上の酸基含有共重合体ラテックス(K−11)を得た。
<3.肥大化ゴムラテックス(H−11’)の製造>
前記ゴムラテックス(H−11)のうち、ポリマー固形分として70質量部のゴムラテックス(H−11)をガラスフラスコ内に投入し、内温50℃にてポリマー固形分として1.4質量部の酸基含有共重合体ラテックス(K−11)を加えて30分間保持した。得られた肥大化ゴムラテックス(H−11’)の中のゴム粒子の体積平均粒子径は0.15μmであった。
<4.ゴム質グラフト重合体ラテックスの製造>
前記肥大化ゴムラテックス(H−11’)の入った反応容器内に、表9中の「初期仕込み」の欄に示す5種類の材料を加え、温度を80℃まで昇温した。次いで、表9中の「1段目グラフト」の欄に示す3種類の材料からなる混合物を20分間かけて滴下し重合を進行させた。30分間保持した後、さらに表9中の「2段目グラフト」の欄に示す3種類の材料からなる混合物を70分間かけて滴下し、重合を進行させた。さらに60分間保持した後に、再度表9中の「3段目グラフト」の欄に示す4種類の材料からなる混合物を30分間かけて滴下し、重合を進行させた。120分間保持して、ゴム質グラフト重合体ラテックスを得た。
得られたゴム質グラフト重合体ラテックスを、酢酸カルシウム5質量部が入った脱イオン水460質量部に添加することで、凝集させ、ゴム質グラフト重合体(A’−11)を得た。
<5.ゴム質グラフト重合体の評価>
前記評価方法(17)に従って、ゴム質グラフト重合体(A’−11)の屈折率を測定した。ゴム質グラフト重合体(A’−11)の屈折率は、1.4975であった。
[実施例12]
実施例11と同様にして肥大化ゴムラテックス(H−11’)を製造した。その後、肥大化ゴムラテックス(H−11’)の入った反応容器内に、実施例11と同様にして表9中の「初期仕込み」の欄に示す5種類の材料を加え、温度を80℃まで昇温した。次いで、第1グラフト重合工程から第3グラフト重合工程までの材料の使用量を表9に示す条件に変更したこと以外は実施例11と同様にして、ゴム質グラフト重合体(A’−12)を得た。ゴム質グラフト重合体(A’−12)の屈折率は、1.5000であった。
[実施例13]
この実施例においては、ゴムラテックスのゴム粒子を肥大化させることなく、ゴム質グラフト重合体を製造した。実施例11と同様にしてゴムラテックス(H−11)を製造した。製造したゴムラテックス(H−11)のうち、ポリマー固形分として70質量部のゴムラテックス(H−11)を反応容器に仕込んだ。次いで、この反応容器内に、実施例11と同様にして表9中の「初期仕込み」の欄に示す5種類の材料を加え、温度を80度まで昇温した。次いで、実施例11と同様にして、第1グラフト重合工程から第3グラフト重合工程及び凝集処理を行い、ゴム質グラフト重合体(A’−13)を得た。ゴム質グラフト重合体(A’−13)の屈折率は、1.4975であった。
[実施例14]
この実施例においては、ゴムラテックスのゴム粒子を肥大化させることなく、ゴム質グラフト重合体を製造した。実施例11と同様にしてゴムラテックス(H−11)を製造した。製造したゴムラテックス(H−11)のうち、ポリマー固形分として70質量部のゴムラテックス(H−11)を反応容器に仕込んだ。次いで、この反応容器内に、実施例12と同様にして表9中の「初期仕込み」の欄に示す5種類の材料を加え、温度を80度まで昇温した。次いで、実施例12と同様にして、第1グラフト重合工程から第3グラフト重合工程及び凝集処理を行い、ゴム質グラフト重合体(A’−14)を得た。ゴム質グラフト重合体(A’−14)の屈折率は、1.5000であった。
[実施例21]
撹拌翼及び100℃に制御された還流冷却器を具備した重合反応装置に、ISB及びCHDMと、蒸留精製して塩化物イオン濃度を10ppb以下にしたDPC及び酢酸カルシウム1水和物を、モル比率でISB/CHDM/DPC/酢酸カルシウム1水和物=0.70/0.30/1.00/1.3×10−6になるように仕込み、十分に窒素置換した(酸素濃度0.0005〜0.001体積%)。
続いて熱媒で加温を行い、内温が100℃になった時点で撹拌を開始し、内温が100℃になるように制御しながら内容物を融解させた。その後、昇温を開始して、40分後に内温が210℃に到達した時点でこの温度を維持しながら減圧を開始した。210℃に到達してから90分間かけて13.3kPa(絶対圧力、以下同様)にして、この圧力を維持しながら、さらにこの温度を60分間維持した。
重合反応とともに副生するフェノール蒸気は、還流冷却器への入口温度として100℃に制御された蒸気を冷媒として用いた還流冷却器に導き、フェノール蒸気中に若干量含まれるモノマー成分を重合反応器に戻し、凝縮しないフェノール蒸気は続いて45℃の温水を冷媒として用いた凝縮器に導いて回収した。
このようにしてオリゴマー化させた内容物を、一旦大気圧にまで復圧させた後、撹拌翼及び前記同様に制御された還流冷却器を具備した別の重合反応装置に移し、昇温及び減圧を開始して、60分間かけて内温220℃、圧力200Paにした。その後、20分間かけて内温230℃、圧力133Pa以下にして、所定撹拌動力になった時点で復圧し、内容物をストランドの形態で抜出し、回転式カッターでペレット(ポリカーボネート樹脂1)にした。
前記評価方法(10)及び(11)により測定したポリカーボネート樹脂1のガラス転移温度は121℃であり、屈折率は1.4990であった。
次に、ポリカーボネート樹脂1のペレット、衝撃強度改質剤としてゴム質グラフト重合体(A’−11)(屈折率:1.4975)、離型剤としてユニスターE−275、更に酸化防止剤としてイルガノックス1010及びアデカスタブ2112とを、表10に示した組成で配合した樹脂組成物を得た。この樹脂組成物を2つのベント口を有する日本製鋼所社製2軸押出機(LABOTEX30HSS−32)に供給して、押出機の出口の樹脂温度が250℃になるようにストランド状に押し出し、ストランドを水で冷却固化させた後、回転式カッターでペレット化した。この際、ベント口は真空ポンプに連結し、ベント口での圧力が500Paになるように制御した。得られたペレット状のポリカーボネート樹脂組成物について前記評価方法(12)〜(16)による評価を行い、表10に示す評価結果を得た。
[実施例22〜24]
ゴム質グラフト重合体(A’−11)の代わりに、ゴム質グラフト重合体(A’−12)(屈折率:1.5000)、ゴム質グラフト重合体(A’−13)(屈折率:1.4975)、またはゴム質グラフト重合体(A’−14)(屈折率:1.5000)を用いたこと以外は、実施例21と同様にしてポリカーボネート樹脂組成物の製造と評価を行い、表10に示す評価結果を得た。
[比較例11]
ゴム質グラフト重合体(A’−11)を添加しないこと以外は、実施例21と同様にしてポリカーボネート樹脂組成物の製造と評価を行い、表10に示す評価結果を得た。
[比較例12及び13]
ゴム質グラフト重合体(A’−11)の代りにメタブレンC−223A(屈折率:1.5210)またはパラロイドEXL2603(屈折率:1.5080)を用いたこと以外は、実施例21と同様にしてポリカーボネート樹脂組成物の製造と評価を行い、表10に示す評価結果を得た。
[実施例25]
撹拌翼及び100℃に制御された還流冷却器を具備した重合反応装置に、反応原料として、ISBとCHDM、蒸留精製して塩化物イオン濃度を10ppb以下にしたDPC及び酢酸カルシウム1水和物を、モル比率でISB/CHDM/DPC/酢酸カルシウム1水和物=0.50/0.50/1.00/1.3×10−6になるように仕込んだこと以外は実施例21と同様にして「ポリカーボネート樹脂2」を得た。このポリカーボネート樹脂2のガラス転移温度は99℃であり、アッベ屈折率計により測定した屈折率は1.4985であった。
ポリカーボネート樹脂1の代りにポリカーボネート樹脂2を用い、ポリカーボネート樹脂2の100質量部に対して、ゴム質グラフト重合体(A’−11)の配合量を5.0質量部としたこと以外は実施例21と同様にポリカーボネート樹脂組成物の製造と評価を行い、表11に示す評価結果を得た。
[比較例14]
ゴム質グラフト重合体(A’−11)を添加しないこと以外は、実施例25と同様にしてポリカーボネート樹脂組成物の製造と評価を行い、表11に示す評価結果を得た。
[比較例15及び16]
ゴム質グラフト重合体(A’−11)の代りにメタブレンC−223A(屈折率:1.5210)またはパラロイドEXL2603(屈折率:1.5080)を用いたこと以外は、実施例25と同様にしてポリカーボネート樹脂組成物の製造と評価を行い、表11に示す評価結果を得た。
表10及び11より明らかなように、本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、比較例のポリカーボネート樹脂組成物に比べて高い全光線透過率と高いノッチ付シャルピー衝撃強度を示した。したがって、本発明のポリカーボネート樹脂成形品は、優れた透明性と衝撃強度を兼ね備え、建築材料分野、電気・電子分野、自動車分野、光学部品分野等において好適に用いることができることが分かる。