JP6378937B2 - アルミニウム合金部材の製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、アルミニウム合金部材の製造方法に関し、特に、形状精度に優れたアルミニウム合金部材が得られるアルミニウム合金部材の製造方法に関する。
従来、自動車用及び航空機用などの構造部材においては、高耐力及び高強度化が可能なAl−Cu系のJIS2000系アルミニウム合金、及びAl−Cu−Mg−Zn系のJIS7000系アルミニウム合金が用いられている(例えば、特許文献1参照)。これらのアルミニウム合金では、曲げ加工などの成形加工性を改善するために、加熱しながら剛性を下げて成形する熱間成形や、アルミニウム合金を加熱処理(溶体化処理)により軟化させて成形するW成形加工を行った後、再び加熱処理(時効処理)により高強度化させて構造部材用のアルミニウム合金部材が製造される。
特開2011−241449号公報
しかしながら、従来のアルミニウム合金部材の製造方法では、加熱処理による溶体化処理後、成形加工までの常温保持時に自然時効が生じて成形加工前のアルミニウム合金の剛性が徐々に増大する場合がある。このため、従来のアルミニウム合金部材の製造法では、アルミニウム合金の自然時効により成形加工に必要な荷重が増加すると共に、溶体化処理後の冷却によりアルミニウム合金の内部に生じた残留応力に基づくスプリングバックによる変形が生じやすくなり成形加工後に所望の形状精度が得られない場合があった。
また、室温での成形性が良好なアルミニウム合金を用いたり、押出成形の際に生じる熱を利用して溶質原子を固溶化させることで溶体化処理を施さずに人工時効のみで強度を増大させるT5処理によるアルミニウム合金部材の製造方法も検討されている。しかしながら、これらの場合であっても、JIS7000系及びJIS2000系アルミニウム合金を用いた場合と比較して十分な強度が得られない場合があった。
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、高強度かつ高耐力であり、しかも、形状精度に優れたアルミニウム合金部材が製造可能なアルミニウム合金部材の製造方法を提供することを目的とする。
本発明のアルミニウム合金部材の製造方法は、1.6質量%以上2.6質量%以下のマグネシウム(Mg)、6.0質量%以上7.0質量%以下の亜鉛(Zn)、0.5質量%以下の銅(Cu)又は銀(Ag)であって銅(Cu)と銀(Ag)との総量が0.5質量%以下、0.01質量%以上0.05質量%以下のチタニウム(Ti)及び残部がアルミニウム(Al)と不可避的不純物とからなるアルミニウム(Al)合金を400℃以上500℃以下の条件に加熱して成形加工する成形工程と、成形加工した前記アルミニウム合金を2℃/秒以上30℃/秒以下の冷却速度で冷却してアルミニウム合金部材を得る冷却工程とを含むことを特徴とする。
このアルミニウム合金部材の製造方法によれば、アルミニウム合金が所定量のマグネシウム、亜鉛及び銅又は銀を含有するので、アルミニウム合金の成形性が向上し、溶体化処理を施さずに成形することが可能となる。そして、チタニウムは溶湯の結晶粒を微細化する効果があるため、強度を向上させることが可能となる。このアルミニウム合金は、成形後の冷却時に30℃/秒以下の冷却速度で冷却しても高強度及び高耐力を維持することができるので、冷却に伴う熱歪み及び残留応力の発生を防ぐことができ、成形加工時の形状精度の低下を防ぐことが可能となる。したがって、高強度かつ高耐力であり、しかも、形状精度に優れたアルミニウム合金部材が製造可能なアルミニウム合金部材の製造方法を実現することができる。
本実施の形態のアルミニウム合金部材の製造方法においては、前記アルミニウム合金は、マンガン(Mn)、クロム(Cr)及びジルコニウム(Zr)のうち1種又は2種以上の合計で0.15質量%以上0.6質量%以下をさらに含有することが好ましい。この構成により、アルミニウム合金の結晶粒の粗大化を抑制し、強度、応力腐食割れに対する耐性、及び疲労寿命を改善する効果がある。
本発明のアルミニウム合金部材の製造方法においては、さらに、前記アルミニウム合金部材を100℃以上200℃以下の条件で保持して時効処理する時効処理工程を含むことが好ましい。この方法により、アルミニウム合金に析出物が生成し、アルミニウム合金の強度が向上する。
本発明のアルミニウム合金部材の製造方法においては、前記時効処理工程において、前記アルミニウム合金部材を2時間以上時効処理することが好ましい。この方法により、時効によるアルミニウム合金の強度が向上する。
本発明のアルミニウム合金部材の製造方法においては、前記冷却工程において、前記アルミニウム合金を空冷することが好ましい。この方法により、アルミニウム合金を容易かつ安価に冷却することができる。
本発明のアルミニウム合金部材は、上記アルミニウム合金部材の製造方法によって得られたことを特徴とする。
このアルミニウム合金部材によれば、所定量のマグネシウム、亜鉛、銅又は銀、及びチタニウムを含有するアルミニウム合金を用いて製造されるので、アルミニウム合金の成形性が向上し、溶体化処理を施さずに成形することが可能となる。そして、このアルミニウム合金は、成形後の冷却時に30℃/秒以下の冷却速度で冷却冷却しても高強度及び高耐力を維持することができるので、冷却に伴う熱歪み及び残留応力の発生を防ぐことができ、成形加工時の形状精度の低下を防ぐことが可能となる。したがって、高強度かつ高耐力であり、しかも、形状精度に優れたアルミニウム合金部材を実現することができる。
本発明によれば、高強度かつ高耐力であり、しかも、形状精度に優れたアルミニウム合金部材が製造可能なアルミニウム合金部材の製造方法及びそれを用いたアルミニウム合金部材を実現できる。
図1は、本発明の実施の形態に係るアルミニウム合金部材の製造方法のフロー図である。 図2は、本発明の実施の形態に係るアルミニウム合金と一般的なアルミニウム合金の冷却温度と冷却時間との関係を示す図である。
自動車用及び航空機用などの構造部材としては、JIS7000系アルミニウム合金などの比強度に優れたアルミニウム合金が広く用いられている。このようなアルミニウム合金においては、十分な成形性及び形状精度を得るためには成形加工前(又は成形加工後)に所定温度に加熱処理してアルミニウム合金を軟化させるW処理又は溶体化処理が必要となり、また十分な強度を得るためには溶体化処理後のアルミニウム合金を急冷する必要がある(例えば、30℃/秒以上)。
本発明者らは、所定の組成のアルミニウム合金を用いてアルミニウム合金を熱間成形することにより、十分な成形性及び形状精度が得られるだけでなく、成形加工後のアルミニウム合金を冷却してもアルミニウム合金の強度の低下を防ぐことができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
以下、本発明の一実施の形態について、添付図面を参照して詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、適宜変更して実施可能である。なお、以下においては、アルミニウム合金の鋳塊を熱間押出して製造する押出形材のアルミニウム合金部材を例に説明するが、本発明は、鋳塊を熱間圧延及び熱間プレスして製造する圧延板のアルミニウム合金部材の製造にも適用可能である。
図1は、本発明の一実施の形態に係るアルミニウム合金部材の製造方法のフロー図である。図1に示すように、本実施の形態に係るアルミニウム合金部材の製造方法は、1.6質量%以上2.6質量%以下のマグネシウム(Mg)、6.0質量%以上7.0質量%以下の亜鉛(Zn)、0.5質量%以下の銅(Cu)又は銀(Ag)であって銅(Cu)と銀(Ag)との総量が0.5質量%以下、0.01質量%以上0.05質量%以下のチタニウム(Ti)及び残部がアルミニウム(Al)と不可避的不純物とからなるアルミニウム(Al)合金を400℃以上500℃以下に加熱して耐圧性の型枠から押し出す押出工程ST1と、型枠から押し出したアルミニウム合金を所望の形状に成形加工する成形工程ST2と、成形加工したアルミニウム合金を2℃/秒以上30℃/秒以下、好ましくは2℃/秒以上10℃/秒以下の冷却速度で冷却してアルミニウム合金部材を得る冷却工程ST3と、冷却したアルミニウム合金部材を100℃以上200℃以下に保持して時効処理する時効処理工程ST4と、時効処理したアルミニウム合金部材に表面処理及び塗装を施す後工程ST5とを含む。
なお、図1に示す例では、成形工程ST2の前に押出工程ST1を実施する例について説明するが、アルミニウム合金を400℃以上500℃以下に加熱して熱間成形により成形工程ST2を実施できれば必ずしも押出工程ST1は実施する必要はない。また、図1に示した例では、冷却工程ST3の後に時効処理工程ST4及び後工程ST5を実施する例について説明するが、時効処理工程ST4及び後工程ST5は必要に応じて実施すればよい。以下、本実施の形態に係るアルミニウム合金部材の製造方法に用いられるアルミニウム合金について詳細に説明する。
(アルミニウム合金)
アルミニウム合金としては、JIS規格及びAA規格を含むAl−Zn−Mg系組成及びAl−Zn−Mg−Cu系組成を有する7000系アルミニウム合金(以下、単に、「7000系アルミニウム合金」ともいう)を用いる。この7000系アルミニウム合金を用いることにより、例えば、T5−T7における120℃以上160℃以下での6時間以上16時間以下の条件での人工時効処理を施すことにより、強度が0.2%耐力で400MPa以上となる高強度のアルミニウム合金部材を得ることができる。
アルミニウム合金としては、1.6質量%以上2.6質量%以下のマグネシウム(Mg)、6.0質量%以上7.0質量%以下の亜鉛(Zn)、0.5質量%以下の銅(Cu)又は銀(Ag)であって銅(Cu)と銀(Ag)との総量が0.5質量%以下、0.01質量%以上0.05質量%以下のチタニウム(Ti)及び残部がアルミニウム(Al)と不可避的不純物とからなる組成のものを用いる。このような組成のアルミニウム合金を用いることにより、アルミニウム合金部材の強度を0.2%耐力で400MPa以上とすることができる。また、アルミニウム合金は,ジルコニウム(Zr)、クロム(Cr)、又はマンガン(Mn)のうち1種又は2種以上の合計で0.15質量%以上0.6質量%以下を含有することが好ましい。
チタニウム(Ti)は、アルミニウム合金の鋳造時においてAlTiを形成し、結晶粒を微細化する効果があるので、アルミニウム合金の全質量に対して0.01質量%以上が好ましい。また、0.05質量%以下であれば応力腐食割れに対する耐性が向上する。チタニウムの含有量としては、0.01質量%以上0.05質量%以下が好ましい。
マグネシウム(Mg)は、アルミニウム合金部材の強度を向上させる元素である。マグネシウム(Mg)の含有量としては、アルミニウム合金部材の強度を向上する観点から、アルミニウム合金の全質量に対して、1.6質量%以上であり、また押出加工の際の押出圧力を低減すること及び押出速度の向上など押出材の生産性を向上する観点から、マグネシウム(Mg)の含有量は2.6質量%以下であり、1.9質量%以下が好ましい。以上を考慮すると、マグネシウム(Mg)の含有量としては、アルミニウム合金の全質量に対して、1.6質量%以上2.6質量%以下の範囲であり、1.6質量%以上1.9質量%以下の範囲が好ましい。
亜鉛(Zn)は、アルミニウム合金部材の強度を向上させる元素である。亜鉛(Zn)の含有量としては、アルミニウム合金部材の強度を向上する観点から、アルミニウム合金の全質量に対して、6.0質量%以上であり、6.4質量%以上が好ましく、また粒界析出物MgZnが減少して耐応力腐食割れに対する耐性が向上する観点から、7.0質量%以下である。以上を考慮すると、亜鉛(Zn)の含有量としては、アルミニウム合金の全質量に対して、6.0質量%以上7.0質量%以下の範囲であり、6.4質量%以上7.0質量%以下の範囲が好ましい。
銅(Cu)は、アルミニウム合金部材の強度と応力腐食割れ(SCC)に対する耐性を向上させる元素である。銅(Cu)の含有量としては、アルミニウム合金部材の強度と応力腐食割れ(SCC)に対する耐性を向上する観点及び押出成形性の観点から、アルミニウム合金の全質量に対して、0質量%以上0.5質量%以下である。なお、銅(Cu)の一部又は全部を銀(Ag)に変えても同様の効果が得られる。
ジルコニウム(Zr)は、AlZrを形成してアルミニウム合金の強度向上や回復再結晶を阻止し、結晶粒の粗大化を抑制するため応力腐食割れに対する耐性を向上させる効果がある観点、及びファイバー組織を形成するためき裂発生特性が向上し疲労寿命が改善されることがある観点から、アルミニウム合金の全質量に対して0.15質量%以上が好ましい。また、0.6質量%以下であれば、焼き入れ感受性が鋭くなくなり強度が向上する。ジルコニウム(Zr)の含有量としては、アルミニウム合金の全質量に対して、0.15質量%以上0.6質量%以下が好ましい。また、ジルコニウム(Zr)の一部又は全量をクロム(Cr)又はマンガン(Mn)に置き換えても同等の効果が得られるため、(Zr、Mn、Cr)の合計量が0.15質量%以上0.6質量%以下を含んでもよい。
不可避的不純物としては、アルミニウム合金の地金及びスクラップなどから必然的に混入する鉄(Fe)、及び珪素(Si)などが挙げられる。不可避的不純物の含有量としては、アルミニウム合金部材の成形性、耐食性及び溶接性などの製品としての諸特性を維持する観点から、鉄(Fe)の含有量を0.25質量%以下とし、珪素(Si)の含有量を0.05質量%以下とすることが好ましい。
<押出工程:ST1>
押出工程では、上述した組成の範囲内に調整したアルミニウム合金を溶解させた後、半連続鋳造法(DC鋳造法)などの溶解鋳造法により鋳造して鋳塊(ビレット)とする。次に、鋳造されたアルミニウム合金の鋳塊を所定の温度範囲(例えば、400℃以上500℃以下)に加熱して均質化熱処理(均熱処理)する。これにより、アルミニウム合金の鋳塊中の結晶粒内の偏析などが消失してアルミニウム合金部材の強度が向上する。加熱時間は、例えば、2時間以上である。次に、均質化したアルミニウム合金の鋳塊を所定の温度範囲(例えば、400℃以上500℃以下)で耐圧性の型枠から熱間押出する。
<成形工程:ST2>
成形工程では、押出したアルミニウム合金を400℃以上500℃以下の温度範囲で成形加工する。また、成形加工は、押出工程での型枠からの熱間押出と同時に実施してもよく、押出工程後のアルミニウム合金を400℃以上500℃以下の温度範囲に維持した状態で実施してもよい。
成形加工としては、アルミニウム合金を所望のアルミニウム合金部材の形状に成形できるものであれば特に制限はない。成形加工としては、例えば、アルミニウム合金の押出形材の長手方向全体又は部分的な曲げ加工、押出形材断面の部分的な潰し加工、押出形材への打抜き加工及び押出形材のトリム加工などの残留応力の発生を伴う塑性加工が挙げられる。これらの成形加工は、1種のみを実施してもよく、2種以上を実施してもよい。
<冷却工程:ST3>
冷却工程では、所望の形状に成形されたアルミニウム合金を2℃/秒以上30℃/秒以下、好ましくは2℃/秒以上10℃/秒以下の冷却速度で冷却する。冷却工程での冷却後の温度は、例えば、250℃以下である。このような冷却速度で冷却することにより、成形工程での成形加工によってアルミニウム合金内部に生じた残留応力を除去することが可能となるので、アルミニウム合金部材の形状精度が向上する。さらに、本実施の形態においては、上述した組成のアルミニウム合金を用いることにより、アルミニウム合金を2℃/秒以上30℃/秒以下、好ましくは2℃/秒以上10℃/秒以下の冷却速度で冷却した場合であっても、高強度のアルミニウム合金部材を製造することが可能となる。
ここで、図2を参照して、本実施の形態に係る冷却工程の冷却条件とアルミニウム合金の強度との関係について詳細に説明する。図2は、本実施の形態に係るアルミニウム合金及び一般的なアルミニウム合金の冷却温度と冷却時間との関係を示す図である。なお、図2においては、冷却時間を横軸に示し、アルミニウム合金の温度を縦軸に示している。また、本実施の形態に係るアルミニウム合金の高強度化が可能な冷却温度と冷却時間との関係を示す範囲を実線の曲線L1の外側(左側)の領域に示し、一般的なアルミニウム合金の高強度化が可能な冷却温度と冷却時間との関係を示す範囲を破線の曲線L2の外側(左側)の領域に示している。さらに、アルミニウム合金を500℃及び550℃から2℃/秒の冷却速度で冷却した際の冷却曲線L5,L6を一点鎖線に示し、アルミニウム合金を500℃及び550℃から30℃/秒の冷却速度で冷却した際の冷却曲線L3,L4を二点鎖線に示している。
図2に示すように、本実施の形態に係るアルミニウム合金においては、30℃/秒の冷却速度でアルミニウム合金を冷却した場合、500℃及び550℃のいずれの温度からアルミニウム合金を冷却した場合であっても、冷却曲線L3,L4が実線の曲線L1の外側(左側)の領域に存在する。この結果から、本実施の形態に係るアルミニウム合金においては、30℃/秒の冷却速度で急冷した場合には、アルミニウム合金の強度の低下を防ぐことができることが分かる。
また、本実施の形態に係るアルミニウム合金においては、2℃/秒の冷却速度でアルミニウム合金を冷却した場合、550℃からアルミニウム合金を冷却した場合には、冷却曲線L6が実線の曲線L1の内側(右側)の領域を通過するのに対し、500℃からアルミニウム合金を冷却した場合には、冷却曲線L5が実線の曲線L1の内側(右側)に入ることがなく、実線の曲線L1上を通過する。この結果から、本実施の形態に係るアルミニウム合金においては、アルミニウム合金内部の残留応力が残存する冷却速度である30℃/秒の条件でアルミニウム合金を急冷する必要はなく、500℃のアルミニウム合金をアルミニウム合金内部の残留応力が解消する冷却速度である2℃/秒の条件で冷却した場合であっても、高強度のアルミニウム合金を得ることが可能となる。これにより、本実施の形態においては、高強度のアルミニウム合金が得られるだけでなく、成形工程で発生したアルミニウム合金内部の残留応力に基づくアルミニウム合金部材の形状精度の低下を防ぐことが可能となることが分かる。
一方で、一般的なアルミニウム合金を用いて同様に加熱して500℃及び550℃からアルミニウム合金を冷却した場合、2℃/秒及び30℃/秒のいずれの冷却速度でアルミニウム合金を冷却しても、冷却曲線L3−L6が破線の曲線L2の内側(右側)を通過する。したがって、一般的なアルミニウム合金を用いて高強度のアルミニウム合金部材を製造する場合には、30℃/秒以上の冷却速度でアルミニウム合金を急冷する必要があり、アルミニウム合金の残留応力を解消することはできない。また、一般的なアルミニウム合金を用いて30℃/秒以下の冷却速度でアルミニウム合金を冷却した場合、アルミニウム合金内部の残留応力を解消できる可能性がある一方、高強度のアルミニウム合金を得ることはできない。
このように、本実施の形態に係るアルミニウム合金部材の製造方法においては、所定の組成を有するアルミニウム合金を用いるので、熱間成形後に2℃/秒の冷却速度で冷却して残留応力を除去した場合であっても、高強度のアルミニウム合金を製造することが可能となる。したがって、溶体化処理を施さずに高強度のアルミニウム合金部材を容易に製造できるアルミニウム合金部材の製造方法及びアルミニウム合金部材を実現できる。
冷却工程におけるアルミニウム合金の冷却速度としては、上述したように2℃/秒以上30℃/秒以下、好ましくは2℃/秒以上10℃/秒以下である。冷却速度が2℃/秒以上であれば、図2に示したようにアルミニウム合金の強度の低下を防ぐことができ、冷却速度が10℃/秒以下であれば、アルミニウム合金内部の熱歪み及び残留応力を十分に除去できるので、アルミニウム合金部材の形状精度が向上する。アルミニウム合金の冷却速度としては、上述した効果が一層向上する観点から、3℃/秒以上がより好ましく、4℃/秒以上が更に好ましく、また9℃/秒以下がより好ましく、8℃/秒以下が更に好ましい。
冷却工程では、アルミニウム合金を空冷することが好ましい。これにより、アルミニウム合金を容易かつ安価に冷却することができる。空冷の条件としては、冷却速度が2℃/秒以上30℃/秒以下、好ましくは2℃/秒以上10℃/秒以下となるものであれば特に制限はない。空冷の条件としては、例えば、常温(−10℃以上50℃以下)の環境下に放置してもよく、常温環境下に放置したアルミニウム合金に送風して冷却してもよい。
<時効処理工程:ST4>
時効処理工程では、アルミニウム合金部材を加熱処理(例えば、100℃以上200℃以下)で保持して時効処理する。これにより、自然時効によるアルミニウム合金の剛性の変化が低減して安定するので、アルミニウム合金部材の形状精度が向上する。時効処理の温度としては、アルミニウム合金部材の強度の観点から、100℃以上が好ましく、125℃以上がより好ましく、200℃以下が好ましく、175℃以下がより好ましい。
時効処理の時間としては、2時間以上が好ましい。これにより、時効処理によるアルミニウム合金の析出が生じるので、アルミニウム合金部材の強度が向上する。時効処理の時間としては、6時間以上がより好ましく、48時間以下が好ましく、24時間以下がより好ましい。
<後工程:ST5>
後工程では、冷却したアルミニウム合金部材の耐食性、耐摩耗性、装飾性、光反射防止性、導通性、膜厚均一性、及び作業性などを向上する観点から、表面処理及び塗装を施す。表面処理としては、例えば、アルマイト処理、クロメート処理、ノンクロメート処理、電解メッキ処理、無電解メッキ処理、化学研磨及び電解研磨などが挙げられる。
以上説明したように、本実施の形態に係るアルミニウム合金部材の製造方法によれば、アルミニウム合金が所定量のマグネシウム、亜鉛及び銅又は銀を含有するので、溶体化処理を施さずに高強度のアルミニウム合金を成形することが可能となる。そして、このアルミニウム合金は、成形後の冷却時に30℃/秒以下、好ましくは10℃/秒以下の冷却速度で冷却しても表面の再結晶組織化及び内部の加工組織の結晶粒粗大化を防ぐことが可能となり、高強度を維持することができるので、冷却に伴う熱歪み及び残留応力の発生を防ぐことができる。これにより、0.2%耐力が430MPa以上であり、引張強度が500MPa以上のアルミニウム合金を高い形状精度で製造することが可能となる。
以下、本発明の効果を明確にするために行った実施例に基づいて本発明をより詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
(実施例1)
1.68質量%のマグネシウム(Mg)、6.70質量%の亜鉛(Zn)、0.26質量%の銅(Cu)、0.02質量%のチタニウム(Ti)、0.25質量%のマンガン(Mn)、0.19質量%のジルコニウム(Zr)を含有するアルミニウム(Al)合金を押出し、500℃で加熱処理により成形した。その後、成形したアルミニウム合金を2.45℃/秒の冷却速度で100℃まで冷却してアルミニウム合金部材を製造した。その後、製造したアルミニウム合金部材の任意の位置から採取した米国材料試験規格ASTM E557の平板引張試験片を用い、ASTM E557に規定する金属材料試験方法に準じ、引張強さ、及び耐力を測定した。その結果、0.2%耐力は、492MPaであり、引張強度が531MPaであった。なお、これらの測定値は、各例とも3つの採取試験片の測定値の平均値とした。結果を下記表1に示す。
(比較例1)
1.68質量%のマグネシウム(Mg)、6.70質量%の亜鉛(Zn)、0.26質量%の銅(Cu)、0.02質量%のチタニウム(Ti)、0.25質量%のマンガン(Mn)、0.19質量%のジルコニウム(Zr)を含有するアルミニウム(Al)合金を押出し、500℃で加熱処理により成形した。その後、成形したアルミニウム合金を0.36℃/秒の冷却速度で200℃まで冷却してアルミニウム合金部材を製造した。その後、製造したアルミニウム合金部材の任意の位置から採取した米国材料試験規格ASTM E557の平板引張試験片を用い、ASTM E557に規定する金属材料試験方法に準じ、引張強さ、及び耐力を測定した。その結果、0.2%耐力は、393MPaであり、引張強度が467MPaであった。なお、これらの測定値は、各例とも3つの採取試験片の測定値の平均値とした。結果を下記表1に示す。
(比較例2)
市販の7000系アルミニウム合金(マグネシウム(Mg)の含有量:2.5質量%、亜鉛(Zn)の含有量:5.5質量%、銅(Cu)の含有量:1.6質量%)を用いたこと、及びアルミニウム合金を466℃から100℃以下に35℃/秒で冷却したこと以外は、実施例1と同様にしてアルミニウム合金部材を製造して評価した。その結果、0.2%耐力は、466MPaであり、引張強度は、532MPaであった。この結果は、実施例1と組成が異なるアルミニウム合金を用いたために、アルミニウム合金の熱安定性が低下したためと考えられる。結果を下記表1に示す。
(比較例3)
市販の7000系アルミニウム合金(マグネシウム(Mg)の含有量:2.5質量%、亜鉛(Zn)の含有量:5.5質量%、銅(Cu)の含有量:1.6質量%)を用いたこと、及びアルミニウム合金を400℃から100℃まで2.43℃/秒で冷却したこと以外は、実施例1と同様にしてアルミニウム合金部材を製造して評価した。その結果、0.2%耐力は、230MPaであり、引張強度は、352MPaであった。この結果は、実施例1と組成が異なるアルミニウム合金を用いたために、アルミニウム合金の熱安定性が低下したためと考えられる。結果を下記表1に示す。
Figure 0006378937
表1から分かるように、本実施の形態に係るアルミニウム合金部材の製造方法によれば、0.2%耐力及び引張強度に優れるアルミニウム合金が得られることが分かる(実施例1)。これに対して、冷却速度が速すぎる場合及び遅すぎる場合には、0.2%耐力及び引張強度が低下することが分かる(比較例1及び比較例2)。またアルミニウム合金の組成が本実施の形態に係るアルミニウム合金の範囲外となる場合にも、0.2%耐力及び引張強度が低下することが分かる(比較例2及び比較例3)。

Claims (6)

  1. 1.6質量%以上2.6質量%以下のマグネシウム(Mg)、6.0質量%以上7.0質量%以下の亜鉛(Zn)、0.5質量%以下の銅(Cu)又は銀(Ag)であって銅(Cu)と銀(Ag)との総量が0.5質量%以下、0.01質量%以上0.05質量%以下のチタニウム(Ti)及び残部がアルミニウム(Al)と不可避的不純物とからなるアルミニウム(Al)合金を400℃以上500℃以下の条件に加熱して、曲げ加工、潰し加工、打抜き加工及びトリム加工から成る群から選択された少なくとも1種の成形加工する成形工程と、
    成形加工した前記アルミニウム合金を2℃/秒以上30℃/秒以下の冷却速度で冷却してアルミニウム合金部材を得る冷却工程とを含むことを特徴とする、アルミニウム合金部材の製造方法。
  2. 前記成形加工が曲げ加工である、請求項1に記載のアルミニウム合金部材の製造方法。
  3. 前記アルミニウム合金は、マンガン(Mn)、クロム(Cr)及びジルコニウム(Zr)のうち1種又は2種以上の合計で0.15質量%以上0.6質量%以下を含有する、請求項1又は請求項2に記載のアルミニウム合金部材の製造方法。
  4. さらに、前記アルミニウム合金部材を100℃以上200℃以下の条件で保持して時効処理する時効処理工程を含む、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のアルミニウム合金部材の製造方法。
  5. 前記時効処理工程において、前記アルミニウム合金部材を2時間以上時効処理する、請求項に記載のアルミニウム合金部材の製造方法。
  6. 前記冷却工程において、前記アルミニウム合金を空冷する、請求項1から請求項のいずれか1項に記載のアルミニウム合金部材の製造方法。
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