本発明の実施形態における型固定装置900及び型押し装置800を含む型押しシステム1、並びに機能性デバイスの一例である薄膜トランジスタ100及びその製造方法を、添付する図面に基づいて詳細に述べる。なお、この説明に際し、全図にわたり、特に言及がない限り、共通する部分には共通する参照符号が付されている。また、図中、本実施形態の要素は必ずしも互いの縮尺を保って記載されるものではない。さらに、各図面を見やすくするために、一部の符号が省略され得る。
<第1の実施形態>
図1は、本実施形態の型固定装置900を用いた位置決め装置600及び型押し装置800を含む、型押しシステム1全体の概要を示すブロック図である。また、図2は、本実施形態の位置決め装置600の主たる構成を示す側面図である。また、図3Aは、本実施形態における型固定装置900の(a)平面図、(b)一方側面図、及び(c)他方側面図である。また、図4は、図3Aの(矢印方向から見た)領域Zの拡大側面図(a)と、被処理体10が型M1と基体部901との間に挟まれ、磁気回路が形成されている態様を示す領域Zの拡大側面図(b)である。加えて、図8は、後述する本実施形態の位置決め工程、型固定工程、及び型押し工程を含む型押しシステム1による型押し構造の製造工程のフロー図である。
図1で示すように、本実施形態の型押しシステム1は、微細な転写用のパターン(微細な凹凸で形成された転写用パターン)を備える型(モールド)M1を用いて、被処理体(例えば、基板)10上又はその上方に形成された機能性固体材料前駆体層(例えば、ゲート電極用前駆体層)20aに対して型押し加工を施すことにより、型押し構造を形成するシステムである。従って、機能性固体材料前駆体層20aの型押し構造は、型M1が備える転写パターンに対して反転している微細な凹凸構造が形成されることになる。なお、微細な凹凸構造の高さやピッチの一例は、可視光線の波長程度の高さ又は長さである。
また、型押しシステム1は、位置決め装置600と型押し装置800とを備えている。まず、基板ストッカー300に格納されている被処理体10(例えば、ガラス基板)は、位置決め装置600に搬送される。次に、少なくとも一部が磁性体からなる型(例えば、ニッケル(Ni)製の型)M1と被処理体10との相対的な位置関係について位置決めされた後に、磁気回路を利用する型固定装置900を利用して型M1と被処理体10との位置関係が相対的に固定される。なお、上述した被処理体10の搬送は、図示しないロボット等の搬送装置によってなされる。位置決め装置600の位置決め工程、型固定装置900による固定工程、及び型押し装置800による型押し工程については後述する。
本実施形態の位置決め装置600においては、型M1に対する被処理体10の位置決め工程及び型M1と被処理体10との相対的な位置関係の固定工程が行われる。位置決め装置600において被処理体10の位置に対して相対的に固定された型M1は、型押し加工が施された後、分離されることになる。なお、本実施形態においては、型押し加工後に機能性固体材料前駆体層20aを介して相対的な位置関係が固定されている、型M1と被処理体10並びに型固定装置900を、それぞれ分離させる。また、図示しないロボット等の公知の搬送装置によって後述する型押し装置800から位置決め装置600に供給されるようになっている。
また、本実施形態の型押し装置800は、型M1を被処理体10に向けて押圧する押圧工程によって、被処理体10が備える機能性固体材料前駆体層20aに対して型押し加工を施す。上述と同様に、転写するようになっている。位置決め装置600から型押し装置800に型M1と被処理体10(機能性固体材料前駆体層20a)とを搬送する搬送装置700は、公知の搬送ロボット等である。
さらに、型押し装置800を用いて型押し構造が形成された機能性固体材料前駆体層20aを備える被処理体10が磁気を用いていわば一体化されている型M1(図7B参照)は、被処理体10(より正確には、機能性固体材料前駆体層20a)とから分離される(図7C参照)。型M1から分離された被処理体10と機能性固体材料前駆体層20aとは、ストッカー400に搬送されるようになっている。図1における型押し装置800以降の各工程においても、被処理体10等の搬送も、図示しないロボット等の搬送装置によってなされる。
ところで、型押しシステム1における被処理体10、型M1、及び型固定装置900等の搬送工程、位置決め工程、及び/又は型押し工程を含む一連の各工程並びにそれらを実施する各装置は、制御装置500によって監視され、及び/又は統合的に制御される。代表的には、本実施形態の制御装置500は、図示しないコンピューターに接続されている。このコンピューターは、上述の各工程を実行するための型固定プログラム及び型押し加工プログラムにより、上述の各工程を監視し、及び/又は統合的に制御する。なお、本実施形態においては、上述の型固定プログラム及び型押し加工プログラムがコンピューター内のハードディスクドライブ、又はコンピューターに設けられた光ディスクドライブ等に挿入される光ディスク等の公知の記録媒体に保存されているが、この型固定プログラム及び型押し加工プログラムの保存先はこれに限定されない。例えば、この型固定プログラム及び型押し加工プログラムの一部又は全部は、本実施形態における各工程に備えられている図示しない制御部内に保存されていてもよい。また、この型固定プログラム及び型押し加工プログラムは、ローカルエリアネットワークやインターネット回線等の公知の技術を介して上述の各工程を監視し、又は制御することもできる。
また、本実施形態においては、少なくとも一部が磁性体からなる型M1が採用される。具体的な磁性体材料の例は、ニッケル(Ni)、SUS430、及び純鉄の群から選択される1種の金属である。なお、具体的な磁性体材料の例は、前述の例に限定されず、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、又は鉄(Fe)を含む磁性体材料であれば採用され得る。また、型M1は、例えば母材が矩形の平板状に形成されており、被処理体10に対向する面は微細な凹凸構造(転写用パターン)を備えている。なお、被処理体10に対向する面の全面(例えば、図6(b)のX1の領域)がその微細な転写等パターンを備えるか、その一部のみがその微細な転写等パターンを備えるかは、被処理体10の要求される仕様に基づいて適宜選定される。例えば、その微細な転写等パターンが形成されている面のうち、被処理体10に対向する領域の周辺には、転写等パターンが形成されていても被処理体10の接しない領域(例えば、図6のX2)が設けられる場合もある。
また、本実施形態においては、代表的な一例として、非磁性体の材料からなる被処理体10が採用される。具体的な被処理体10の例は、ガラス、シリコン(Si)、樹脂(プラスチック)を含むフレキシブル材等の群から選択される1種の材料である。また、被処理体10は、例えば矩形の平板状に形成されている。加えて、その大きさは、型M1とほぼ同じか、もしくは僅かに大きいか、又は僅かに小さい。
また、本実施形態の機能性固体材料前駆体層20a(例えば、ゲート電極用前駆体層)は、機能性固体材料前駆体溶液を出発材として、例えば、スピンコート法、インクジェット法、又はスリットコート法によって被処理体10上又はその上方に形成される。なお、本実施形態の機能性固体材料前駆体溶液の溶質の一例はRu(III) nitrosylacetate(Alfa Aesar)であり、その溶媒の一例はプロピオン酸である。なお、その溶媒(プロピオン酸)の沸点は141℃である。また、前述の溶質から形成される機能性固体材料前駆体層(例えば、酸化ルテニウム前駆体層)が機能性固体材料層に変化する代表的な温度(本焼成の温度)は300℃以上である。また、必要に応じて、機能性固体材料前駆体層20aを予備的に加熱された後に本焼成が行われる。
本実施形態においては、機能性デバイスの一例である薄膜トランジスタ100を製造するための機能性固体材料前駆体層20aが採用されているが、型押し加工が施される対象は、機能性固体材料前駆体層20aに限定されない。例えば、熱硬化性樹脂、又は紫外線硬化樹脂等の樹脂材料によって形成された層であっても、本実施形態の効果と同等の効果が奏され得る。
(位置決め装置)
[位置決め装置600の構成]
次に、位置決め装置600について詳述する。説明の便宜のため、図2に示すように、紙面に直行する軸をY軸とし、該Y軸に垂直な互いに直行する紙面に平行な2つの軸をX軸(該装置の設置面に対する水平方向)及びZ軸(該装置の設置面に対する垂直方向)として表記する。なお、この表記は、後述する図5においても適用される。
位置決め装置600は、図2乃至図4に示すように、平面視において非磁性部902を介して隣り合う位置に磁極が互いに異なる磁性部904が設けられた平板状の基体部901上に配置された被処理体10と型M1との相対的な位置決めをするように構成されている。また、後述するように、位置決め装置600内においては、位置決めされた後に、磁気を利用する型固定装置900を用いて型M1と被処理体10との相対的な位置関係が固定される。その結果、基体部901と型M1との間に挟まれて配置される被処理体10が、基体部901及び型M1といわば一体化されることになる。
本実施形態の位置決め装置600は、被処理体10が載置された基体部901を載置及び保持するためのXYθステージ19と型M1を保持するための型保持体21とを備えている。
XYθステージ19は、XYθステージ基台23と、XYθステージテーブル25とを備えている。XYθステージ基台23は、平面状のベース体27の上面の中央部においてベース体27と一体的に設けられている。XYθステージテーブル25は、XYθステージ基台23の上方に設けられており、図示しないベアリング等のガイド手段(他の表現として、ガイド部又はガイド機構。本願では代表的に「ガイド手段」という。)によってガイドされている。また、XYθステージテーブル25は、制御装置500による制御及び/又は監視の下、図示しないサーボモータ等のアクチュエータを適宜駆動することによって、XYθステージ基台23に対してX軸方向、Y軸方向、及びθ軸回りに移動(又は回動)しながら位置決めできるように構成されている。なお、θ軸とは、Z軸方向に延びた軸であって、たとえば、XYθステージ19の中心を通る軸である。
また、XYθステージテーブル25の平面状の上面の中央部に、平板状のステージ29がXYθステージテーブル25と一体的に設けられている。ステージ29の平面状の上面は、水平に展開している。そして、本実施形態の位置決め装置600は、基体部901上に載置される被処理体10を容易に着脱自在な基板保持手段31によって、ステージ29上の略中央部において被処理体10を保持するように構成されている。
被処理体10は、厚さ方向の他方の面(機能性固体材料前駆体層20aが設けられていない面)が下側に位置して、基体部901の上面に面接触し、基体部901はステージ29上に載置されるとともにステージ29によって保持される。したがって、基体部901上に載置された被処理体10の一方の面(水平方向に展開している上面)上又はその上方に機能性固体材料前駆体層20aが存在している。さらに、本実施形態においては、機能性固体材料前駆体層20aに接触するように型M1が配置されるとともに、上述のとおり、磁性部904及び型M1によって形成される磁気回路によって型M1と被処理体10との相対的な位置関係が固定されている。なお、後述する、型押し構造を形成するための押圧工程が行われる前の段階においては、型M1と被処理体10との相対的な位置関係が固定されていたとしても、機能性固体材料前駆体層20aに対して実質的に型M1の自重程度の押圧力しか掛かっていない。
型保持体21は型保持体支持体33を介してベース体27に支持されている。型保持体支持体33は、支柱35と水平梁37とを備えている。支柱35は、例えば水平梁37と一対となって、いわば門形に形成されていても良い。また、一方の支柱35は、X軸方向の一端部側でXYθステージ19から離れて、ベース体27の上面から立設してベース体27に一体的に設けられている。他方の支柱35は、X軸方向の他端部側でXYθステージ19から離れて、ベース体27の上面から立設してベース体27に一体的に設けられている。また、水平梁37は、XYθステージ19の上方でXYθステージ19から離れて、X軸方向に長く延びている。
型保持体21は、型保持体本体部39と型保持部(例えば、バキュームチャック)41とを備えて構成されている。型保持体本体部39は、図示しないベアリング等のガイド手段でガイドされている。そして、型保持体21は、制御装置500の制御の下、図示しないサーボモータ等のアクチュエータを適宜駆動することで、XYθステージ19の上方でXYθステージ19から離れ、Z軸方向で(XYθステージ19に接近・離反する方向で)、型保持体支持体33(ベース体27;XYθステージ19)に対して移動位置決め自在になっている。
バキュームチャック41は型保持体本体部39の下端部で型保持体本体部39に一体的に設けられている。バキュームチャック41の下面は、水平方向に展開しており、この下面の中央部に型M1の厚さ方向の他方の面(転写パターンが形成されていない面)が面接触し、真空吸着によって型M1を着脱自在に保持するようになっている。
なお、XYθステージ19のステージ29上に基体部901が載置され、型保持体21に型M1が保持されている状態でZ軸方向から見ると、平面視における被処理体10の中心と平面視における型M1の中心とがお互いにほぼ一致している。加えて、被処理体10の縦方向と型M1の縦方向とがX軸方向とほぼ一致している。また、XYθステージ19のステージ29上に基体部901が載置されるとともに、型保持体21が型M1を保持している状態では、基体部901上に載置された被処理体10の上方に型M1が存在している。そして、型M1が被処理体10(及び機能性固体材料前駆体層20a)から離れた上方の位置からZ軸方向(下方向)に移動することによって、被処理体10の機能性固体材料前駆体層20aと型M1とがお互いに接触するようになっている。
XYθステージ19の内側には、空洞43が形成されており、空洞43の上側は、ステージ29によって蓋がされている。この空洞43内にカメラ45とリフトピン47とが設けられている。リフトピン47は、図示しないガイドベアリング等のガイド手段を用いてガイドされるとともに、図示しないシリンダ等のアクチュエータを適宜駆動することによって、上下方向で移動するように、制御装置500に制御される。
カメラ45は、たとえば、X軸方向とY軸方向とで移動位置決め自在に構成される。また、カメラ45が、X軸方向やY軸方向で位置決めされている状態で、ステージ29を通して、被処理体10と型M1とを撮影することができるようになっている。被処理体10は、ガラス等の可視光線が透過可能な材料で構成されている。
なお、ステージ29が金属等を用いて形成されている場合には、ステージ29が備える貫通孔49を通して、被処理体10、基体部901、及び型M1をカメラ45で撮影することができるようになっている。
また、図2においては、カメラ45を用いて型M1を見た場合、機能性固体材料前駆体層20aを通して型M1を撮影するように描かれているが、実際には、機能性固体材料前駆体層20aのX軸方向又はY軸方向の寸法は、もっと小さい。従って、貫通孔49を通じてカメラ45を用いた型M1を撮影した場合、機能性固体材料前駆体層20aを通さずに型M1を撮影することができる。
なお、位置決め装置600のステージ29に対しては、型押し加工の際の押圧力がかからないため、被処理体10を載置等することができる最低限の強度であれば良い。従って本実施形態のステージ29の厚みは極力薄くなるように調整されている。
カメラ45は、少なくとも一対が設けられており、XYθステージ19の一方の側に1つのカメラ45が設けられており、XYθステージ19の他方の側に1つのカメラ45が設けられている。
位置決め工程の一例は次のとおりである。まず、各カメラ45を用いて、被処理体10の隅に描かれている位置決め用のマーク(図示せず)と、型M1の隅に描かれている位置決め用のマーク(図示せず)とを撮影する。この撮影結果に応じて、制御装置500の制御の下、XYθステージテーブル25を適宜動かすことによって、型M1の位置決め用のマークと被処理体10の位置決め用のマークとをお互いに一致させる。その結果、型保持体21によって保持されている型M1に対する、ステージ29上の基体部901上に載置されている被処理体10の位置(X軸方向、Y軸方向、及びθ軸まわりの位置)が正しいものとなるように調整することができる。
なお、被処理体10がシリコン等の可視光線を透過しない材料で構成されている場合にあっては、カメラ45を適宜移動して被処理体10の位置決め用のマークと型M1の位置決め用のマークとを別個に撮影することになる。このとき、被処理体10の位置決め用のマーク撮影用に、2つのカメラを設け、型M1の位置決め用のマーク撮影用に、別の2つのカメラを設けてあってもよい。上述のとおり、2つのカメラ45を移動する場合又は4つのカメラを設けた場合、被処理体10を型M1よりも小さく形成するか、又は、被処理体10に貫通孔を設けることは採用し得る一態様である。型M1の位置決め用のマーク撮影用のカメラが、被処理体10を通さずに型M1の位置決め用のマークを撮影することができるように構成されることが好ましい。また、本実施形態のようなカメラを採用する代わりに、被処理体10又は型M1の裏面側にアライメントのためのマークを刻印すること、鏡を用いること、あるいは、被処理体10を透過する赤外線又は紫外線を用いることも、採用し得る他の一態様である。
さらに、XYθステージ19がカメラ45を備えることに代えて、又は加えて、型保持体本体部39がカメラを備えてもよい。例えば、XYθステージ19が備えるカメラ45によって被処理体10の位置決め用のマークが撮影され、また、型保持体本体部39が備えるカメラによって型M1の位置決め用のマークを撮影されることも、採用し得る他の一態様である。
リフトピン47は、下端に位置している場合、ステージ29上に載置されている基体部901から下方に離れている。一方、リフトピン47が上端に位置している場合には、ステージ29の中央に設けられている貫通孔51を通して、リフトピン47の上端部が、ステージ29の上面から上方に僅かに突出するようになっている。基体部901がステージ29によるバキューム吸着状態から解放されると、リフトピン47がステージ29の上面から上方に僅かに突出することにより、ステージ29に設置されていた基体部901がステージ29から容易に離れるようになっている。その後、被処理体10を挟み込んだ型固定装置900は、搬送装置700を用いて、型押し装置800に向けて搬送される。
(型固定工程)
[型固定装置900の構成]
ここで、本実施形態の型固定装置900の構成及びその作用効果について説明する。図3A及び図4に示すように、本実施形態の型固定装置900は、主として、平面視において非磁性部902を介して隣り合う位置に磁極が互いに異なる磁性部904が設けられた平板状の基体部901と、少なくとも一部が磁性体からなる型M1とによって構成される。また、図示しないコイル(例えば、基体部901のN極及びS極の各磁性部904に対して着脱可能に接続し得る、図3Bに示すU字形のコイル952)が、基体部901が備える各磁性部904に接続している。なお、本実施形態の基体部901の長さ(図3A(a)のL1)の一例は、約250mmであり、幅(図3A(a)のW1)の一例は、約200mmであり、高さ(図3A(a)のH1)の一例は、約20mmである。しかしながら、本実施形態の型固定装置900の固定方法を採用すれば、上述の各値よりもさらに大型化された被処理体10の処理も容易に実現することができる。
ところで、図3Bに示す例においては、コイル952が制御部950によって基体部901のN極及びS極の各磁性部904に対して着脱可能に接続し得るように制御され得る。このような構成を採用し得る型固定装置900は、コイル952を用いることによって基体部901を容易に薄くすることが可能となる利点が得られる。それ以外の効果として、例えば、基体部901内にコイル952が存在しないため、コイル952に加重が加わらないという利点、及び/又は型固定装置900を加熱してもコイル952の温度を上昇させ難いという利点が得られる。なお、基体部901とコイル952とが一体物ではないため、コイル952のみを冷却することも可能となる。また、言うまでもなく、図3Bに示す例において採用されるコイルはU字形の態様に限定されることはない。
また、代表的な非磁性部902の材質はニッケル合金(例えば、ALLOY C276及び/又はインコネル600であり、代表的な磁性部904の材質は、磁性材料であるSS400鋼材である。加えて、非磁性部902と磁性部904とを接合する方法の一例は、熱間等方圧加圧法(HIP法)である。非磁性部902の熱膨張率と磁性部904の熱膨張率とをほぼ等しくする組み合わせを選択することにより、図3A(b)に示すように、基体部901が加熱されたとしても、表面に凹凸が殆ど形成されない、実質的に平面906の状態を維持することができる。その結果、後述する型押し加工が施される際の押圧工程が行われたとしても、被処理体10に対して局所的な負荷(応力集中)の発生を無くす又は大幅に抑えることが可能となるため、被処理体10の破損等の不具合の発生を無くす又は抑制することができる。なお、本実施形態においては、図3A(a)のP1に示すように、応力集中による非磁性部902又は磁性部904への負荷を緩和するように、曲線又は曲面をなす磁性部904が非磁性部902と接合されている。このように、鋭角な角が形成されないように磁性部904と非磁性部902とが接合されることにより、特に基体部901が加熱された場合であっても、より確度高く平面906の状態を維持することができる。
また、本実施形態の基体部901は、2つの小さな貫通孔910と該貫通孔910に連通する非貫通孔である溝部912を備える。小さな貫通孔910は、容易に着脱自在な基板保持手段(他の表現として、基板保持部又は基板保持機構。代表的には、バキュームチャック。本願では代表的に「基板保持手段」という。)によって、基体部901上に載置される被処理体10を型押しシステム1の各装置のステージ上、又は下部型押し部上に保持するために用いられる。なお、本実施形態においては、貫通孔910と貫通孔910に連通する非貫通孔である溝部912の両方が形成されているが、これらの一方によって基板保持手段を実現することも採用し得る一態様である。
また、配管908は、被処理体10を型固定装置900に、バキューム方式を用いて取り付けるために用いられる。さらに、本実施形態の基体部901が備える他の幾つかの貫通孔920は、位置決め工程の際に、カメラによって位置決め用のマーク(図示せず)を視認するために、及び/又は被処理体10を基体部901から離すためのリフトピンが利用するために設けられる。加えて、基体部901の一方の側面が備える構造物907は、基体部901を持ち上げる又は移動させるための取っ手として利用される。
ここで、上述の、非磁性部902を介して隣り合う位置に磁極が互いに異なる磁性部904の一例は、図4(a)に示すような、N極の磁性部904とS極の磁性部904とが交互に配置される態様である。また、本実施形態の型固定装置900は、基体部901が備える各磁性部904に接続し得る図示しないコイルを電磁石として用いることによって、磁界を必要に応じて生じさせる。その結果、型M1と被処理体10との相対的な位置関係を固定するか否かを、コイルへ流す電流のオン/オフのみによって調整することができるという、位置決め工程における極めて高い自由度を得ることができる。
そのため、本実施形態の型固定工程が行われる際には、位置決め装置600において、基体部901上に載置され(図8のS1)、型M1と被処理体10との相対的な位置決めが行われた後(図8のS5)、型M1と被処理体10とが重ね合わされる(図8のS7)。なお、型M1及び基体部901が図示しないヒーターによって、機能性固体材料前駆体層20aの溶媒が消失しない範囲で同程度の温度(例えば、150℃)に加熱された状態(図8のS3)で位置決め工程が行われることも、位置決めの精度を高める観点からいえば、好適な一態様である。
その後、制御装置500が、基体部901が備えるコイルに所定の電流を流すように制御する。なお、代表的な起磁力の一例は、500A(アンペア)・T(ターン)(5.6e4A/m,SI単位系においては、500A)である。また、本実施形態のコイルの磁心は純鉄SUYであり、巻き数は11250巻である。その結果、図4(b)に示すように、そのコイルに電流が流れると、基体部901と少なくとも一部が磁性体からなる型M1との間に、磁性部904から発生する磁界が一方の磁極(例えば、N極)から型M1を経由して他方の磁極(例えば、S極)へ至る磁気回路(概念的には、図4(b)の矢印)が形成されることになる。
その結果、基体部901と型M1との間に挟まれて配置される被処理体10が、基体部901及び型M1といわば一体化されるため、型M1と被処理体10との相対的な位置関係が固定されることになる(図8のS9)。本実施形態においては、約500Gの磁束密度の形成によって相対的な位置関係が固定される。従って、その固定された被処理体10及び型固定装置900を、後述する型押し装置800の下部型押し部に向けて搬送したとしても、高い精度を保ったまま型M1と被処理体10との相対的な位置関係を維持することができる。
上述の型固定工程を採用することにより、以下に示す多くの利点が得られる。
例えば、
(1)上述の磁気回路を形成しない状態であれば、型M1と被処理体10との相対的な位置関係が固定されないため、仮に精度の高い位置決めがなされない状態で両者の相対関係が一旦固定されたとしても、極めて容易に再度やり直しをすることができる。
(2)従来技術のように、接着剤を用いた固定方法ではないため、接着剤の厚みの偏在による、後述する型押し加工時の不具合(パターニングの寸法精度の低下等)が生じ難い。
(3)本実施形態の機能性固体材料前駆体層20aのように、型押し加工を施す際に型M1を高温(例えば、300℃)に加熱する必要が生じたとしても、上述の磁気回路による固定方法を採用すれば、その加熱によって生じる型M1の反りや熱膨張の影響を緩和することができる。
(4)磁気回路を形成する磁性部904の基体部901における配置の自由度が高いため、基体部901の必要な箇所に必要な数の磁性部904を設ければ、被処理体10の大型化(例えば、大型ガラス基板)にも容易に対応することができる。
この型固定装置は、被処理体の大面積化にも容易に対応することができる。
(型押し工程)
図5は、本実施形態の型押し装置800の主たる構成を示す正面図である。また、図6は、本実施形態における型M1と被処理体10との相対位置が固定された状態の概略構成と、型押し装置800のローラー822との相対的な位置を示す概略図((a)正面図,(b)平面図)である。本実施形態では、型押し装置800を用いた型押し工程の例を説明する。
[型押し装置800の構成]
図1、図5、及び図6に示すように、本実施形態の型押し装置800は、ロールツーシート方式を採用している。型押し装置800は、位置決め装置600とは別の装置であり、大別して3つの構成部分、すなわち、円柱状もしくは円筒状であって被処理体10の搬送経路に設けられた回転軸を中心に回転自在なローラー822を除いて固定された上部型押し部、磁気によって型と被処理体(代表的には基板)10との相対的な位置が固定された型固定装置900が載置された略水平方向に移動(又は搬送)可能な下部型押し部、及びそれらの制御装置500とから構成されている。本実施形態においては、型押し装置800は、位置決め装置600から搬送された(図8のS11)型固定装置900を所定の位置に載置した(図8のS13)後、型M1を被処理体10に向けて押圧する(図8のS15)装置である。前述の構成により、被処理体10を略水平方向に搬送しながらローラー822を用いて押圧することが可能となる。
なお、本実施形態においては、上部型押し部と下部型押し部とをまとめて「型押し部」という。また、下部型押し部が被処理体10を移動させる場合、水平方向に移動させることが理想的であるが、厳密な水平性を要求されない。また、本実施形態の型押し装置800は、位置決め装置600とは別の装置であるが、本実施形態はこの構成群に限定されない。例えば、型押し装置800が、位置決め装置600の有する位置決め機能を備えていることも、採用し得る好適な一態様である。
本実施形態の型押し装置800の具体的な構成は次のとおりである。図5及び図6に示すように、本実施形態の上部型押し部は、回転しながら型(例えば、M1)を押圧する円柱状のローラー822と、ローラー822を保持するローラー保持部823、及びローラー822内に収容され、ローラー822を加熱するローラー用ヒーター824とを備えている。本実施形態においては、位置決め装置600内によって位置決めされた後に型M1と被処理体10との相対的な位置関係が固定された型固定装置900が、基台812上に載置(一時的な載置を含む)される。なお、既に述べたとおり、処理対象となる機能性固体材料前駆体層20aが被処理体10上、又はその上方に配置されている。
また、本実施形態の型押し装置800は、公知のフィードバック制御による上部型押し部を利用したローラー822の回転運動及び昇降移動の制御、ローラー822による型への押圧力の制御、移動台818の水平移動、ローラー用ヒーター824の温度の制御、及び基台用ヒーター814の温度の制御を含む、型押し加工の際の各種制御を担う制御装置500を備えている。
本実施形態においては、図示しない減圧手段(代表的には、真空ポンプ)と連結又は連通することによって吸引部816から吸引されるバキュームチャックを採用することにより、被処理体10を配置した基体部901が基台812に吸着するとともに、吸引部816に連通する小さな貫通孔910を利用して被処理体10も基台812に吸着する。ここで、特に被処理体10がガラス基板である場合、型固定装置900による磁気を用いた固定に加えて、上述のバキュームチャックを補助的に併用することは、より確度高く型固定装置900の固定に寄与することから、好適な一態様である。加えて、本実施形態では、型押し加工の際に機能性固体材料前駆体層20aに対して熱を供給する他の熱源として、被処理体10並びに機能性固体材料前駆体層20aを加熱するための基台用ヒーター814が、基台812に接続している。また、本実施形態の下部型押し部は、基台812及び基台用ヒーター814を支持するとともに、装置設置台811上を水平方向に移動する移動台818を備えている。なお、基台用ヒーター814に加えて、ローラー822によって押圧される前に型M1及び/又はローラー822を加熱する図示しない予備加熱装置が設けられることも採用し得る一態様である。さらに、移動台818は、公知の昇降機構によって型固定装置900を持ち上げて型固定装置900を基台から離れさせるリフト817が設けられたリフト支持部825を備えている。従って、リフト支持部825も、移動台818が装置設置台811上を水平方向に移動するのに伴って移動する。
本実施形態のリフト支持部825が備えるリフト817は、図示しないサーボモータ等のアクチュエータを適宜駆動することで、Z軸方向において、リフト支持部825(移動台818)に対して移動及び位置決め自在に制御される。また、他方のリフト817も、一方のリフト817と同期して移動するように制御される。
各リフト817を上昇させると、各リフト817の先端部とのこの近傍の部位とが型固定装置900の下面(X軸方向における両端部の下面)に接触し、さらに各リフト817を用いて型固定装置900を持ち上げることにより、型固定装置900を基台812との接触状態から離すことができるように構成される。
なお、図5においては、リフト817が右側に1つ左側に1つしか描かれていないが、型固定装置900を安定して持ち上げるために、リフト817が少なくとも3つ以上設けられていることが好ましい。例えば、図3Aの紙面右側のリフト817は1つであり、Y軸方向における型固定装置900の中央部に設けられている。また、図5の紙面左側のリフト817は2つであり、一方のリフト817がY軸方向における型固定装置900の一方の端部側(図5の紙面の奥側)に設けられており、他方のリフト817がY軸方向における型固定装置900の他方の端部側(図5の紙面の手前側)に設けられている。
また、上部型押し部は、ローラー822を回転させる公知の回転機構、昇降させるための公知の昇降機構(いずれも図示しない)を備えている。また、上部型押し部が、型押し加工を施す際の処理対象となる機能性固体材料前駆体層(例えば、ゲート電極用前駆体層)20aに対するゲート電極用型M1等に対するローラー822の押圧力(図1において、概念的に示した下向きの矢印)をモニターする圧力センサー(図示しない)を備えることは、好適な一態様である。
より具体的には、図6に示すように、上部型押し部が備えるローラー822は、装置設置台811と一体的に設けられたローラー保持部823によって支持されている。なお、ローラー822の回転中心軸C1は、Y軸方向に延びている。
ローラー保持部823は、図4(b)で示すように、一対で設けられている。一方のローラー保持部823は、Y軸方向の一端部側で移動台818から離れて、装置設置台811から立設して装置設置台811と一体的に設けられている。他方のローラー保持部823は、Y軸方向の他端部側で移動台818から離れて、装置設置台811から立設して装置設置台811に一体的に設けられている。
ローラー822は、一対のローラ支持体85によって支持される。具体的には、ローラー822の軸C1の延伸方向の一端部がベアリング(図示せず)を介して一方のローラ支持体85によって支持されており、ローラー822の軸C1の延伸方向の他端部がベアリング(図示せず)を介して他方のローラ支持体85によって支持される。
一方のローラ支持体85は、図示しないベアリング等のガイド手段を介して一方のローラー保持部823によって支持される。また、一方のローラ支持体85は、制御装置500により、図示しないサーボモータ等のアクチュエータを適宜駆動することによって、一方のローラー保持部823に対してZ軸方向の移動及び位置決め自在に制御される。
また、他方のローラ支持体85も、図示しないベアリング等のガイド手段を介して他方のローラー保持部823に支持される。また、他方のローラ支持体85は、制御装置500により、図示しないサーボモータ等のアクチュエータを適宜駆動することによって、上述の一方のローラ支持体85と同期して、他のローラー保持部823に対してZ軸方向の移動及び位置決め自在に制御される。
上述の構成を用いることにより、ローラー822の回転中心軸C1が水平になった(Y軸方向に延伸している)状態で、ローラー822が上下方向に移動することができる。
また、型固定装置900が基台812上に載置(一時的な載置を含む)される際には、一対のローラ支持体85によって支持されているローラー822は、基台812の上方に離れている。そして、一対のローラ支持体85が上方向に移動することにより、基台812上に載置されている型固定装置900の上方において、型固定装置900からローラー822が離れるように制御される。また、一対のローラ支持体85が下方向に移動することにより、基台812上に載置(一時的な載置を含む)されている型固定装置900の上方で型固定装置900に接触し、さらに型固定装置900を基台812と協働して押圧(挟圧)するように制御される。
なお、ローラー822が型固定装置900を押圧している際、ローラー822の母線が、型固定装置900の型Mにほぼ線接触している。
そして、本実施形態の制御装置500は、移動台818を移動させるとともに、移動台818の移動速度に同期してローラー822を回転させる。例えば、ローラー822の周速度と移動台818の移動速度とがお互いに一致するようにしてローラー822を回転させるように制御される。その結果、型固定装置900のX軸方向の一端部から他端部に向かって(図6の紙面右から左に向かって)、機能性固体材料前駆体層20a(型固定装置900)の押圧、すなわち、型押し加工が行われる。
ローラー822の長さ(Y軸方向の寸法)は、例えば、図6(b)で示すように、型M1の寸法、及び被処理体10の寸法よりも小さくなっている。また、Y軸方向においては、型固定装置900の中心とローラー822の中心とがお互いに一致している。これにより、Y軸方向に関しては、型固定装置900の内側にローラー822が位置することになる。
なお、ローラー822の長さ(Y軸方向の寸法)が、転写パターンの形成領域(X1)又は機能性固体材料前駆体層20aの配置領域よりも小さくなっていてもよいし、転写パターンの形成領域(X1)又は機能性固体材料前駆体層20aの配置領域とほぼ等しくてもよいし、転写パターンの形成領域(X1)又は機能性固体材料前駆体層20aの配置領域よりも大きくなっていてもよい。
制御装置500によって温度制御された、ローラー用ヒーター824、及び/又は基台用ヒーター814は、機能性固体材料前駆体層20aに対してそれぞれ熱を供給する。代表的には、ローラー822の温度が25℃以上300℃以下であり、基台用ヒーター814の温度が、25℃以上150℃以下である。なお、基台用ヒーター814は、機能性固体材料前駆体層20aに対して型押し加工が施される前に、機能性固体材料前駆体層20aから溶媒を確度高く蒸発させるのみならず機能性固体材料前駆体層20aの昇温を補助することによって、型押し構造の形成をより確度高く実現し得る役割を果たす。
型押し加工が施された後、制御装置500によってローラー822を上昇させる。本実施形態においては、その後、型固定装置900は、型押し装置800から搬出される(図8のS17)。
その後、制御装置500によってローラー822を上昇させる。本実施形態においては、その後、型固定装置900における電磁石を構成するコイルへ流す電流値を低下又は0にすることにより、型M1と被処理体10との相対的な位置関係の固定状態を解消する。その結果、被処理体10から型M1を離すことができる(図8のS19)。そして、被処理体10上又はその上方に配置されている機能性固体材料前駆体層20aは型押し構造を備えることができる。
なお、本実施形態においては、型押し構造を形成する対象が機能性固体材料前駆体層20aであったが、本実施形態の対象はそれに限定されない。例えば、100℃〜200℃程度の間の所定の温度で型押し加工を施し、150℃〜350℃程度の間の所定の温度(代表的には、250℃〜300℃)で焼成(本焼成)する材料又は硬化する材料であれば、本実施形態の効果と同様の効果が奏され得る。
また、本実施形態においては、型押し工程の後、例えば、RTA(rapid thermal anealing)装置を用いて機能性固体材料前駆体層を加熱する本焼成工程を経ることにより、確度高く、及び/又は精度良く型押し構造が形成された機能性固体材料層が得られる。
なお、本実施形態の他の1つの変形例として、上部型押し部が水平移動可能であって、型を保持するとともに被処理体10が載置(一時的な載置を含む)された下部型押し部が固定された装置及び方法の態様も、本実施形態の効果と同等の効果が奏され得る。
また、本実施形態における被処理体10の種類又は材質は特に限定されない。例えば、被処理体10がSiO2/Si基板、絶縁性基板(例えば、石英ガラス(SiO2)基板、Si基板の表面にSiO2層及びTi層を介してSTO(SrTiO3)層を形成した絶縁性基板、アルミナ(Al2O3)基板、SRO(SrRuO3)基板、STO(SrTiO3)基板)、又は半導体基板(例えば、シリコン(Si)基板、炭化硅素(SiC)基板)等の固体基板を用いることができる。加えて、フレキシブル基板(代表的には、樹脂製基板)も、本実施形態における被処理体10に含まれ得る。
<第2の実施形態>
本実施形態においては、第1の実施形態の型固定装置900、位置決め装置600、及び型押し装置800を用いた、機能性デバイスの一例である薄膜トランジスタ100の製造方法について説明する。
図7A〜図7Fは、それぞれ、本実施形態における薄膜トランジスタ100の製造方法の一過程を示す断面模式図である。なお、本実施形態の薄膜トランジスタは、いわゆるボトムゲート構造を採用しているが、本実施形態はこの構造に限定されない。従って、当業者であれば、通常の技術常識を以って本実施形態の説明を参照することにより、工程の順序を変更することにより、トップゲート構造を形成することができる。加えて、図面を簡略化するため、各電極からの引き出し電極のパターニングについての記載は省略する。なお、本実施形態における機能性固体材料層20は、機能性固体材料前駆体溶液を出発材とする機能性固体材料前駆体層を焼成することによって形成されている。本出願では、前述のように、前駆体溶液を出発材とし、それを焼成することによって機能性固体材料層20を形成する方法を、便宜上、「溶液法」とも呼ぶ。
(1)ゲート電極の形成
[予備加熱工程]
本実施形態では、まず、図7Aに示すように、被処理体10上に、公知のスピンコーティング法により、機能性固体材料前駆体溶液である、インジウム(In)を含む前駆体(例えば、塩化インジウムやインジウムアセチルアセトナート)及び錫(Sn)を含む前駆体(例えば、塩化錫)を溶質とする前駆体溶液(ここでは、ゲート電極用前駆体溶液)を出発材とする機能性固体材料前駆体層(ゲート電極用前駆体層)20aを形成する。加えて、位置決め装置600及び型固定装置900を利用して型M1と被処理体10との位置関係が相対的に固定される。
その後、型押し装置800において、制御装置500が、予備加熱工程として、基台用ヒーター814を用いて、機能性固体材料前駆体層20aを大気中において加熱する。本実施形態のローラー822の温度が200℃であるため、本実施形態の基台用ヒーター814の温度は、150℃以上350℃以下である。なお、基台用ヒーター814による被処理体10及び機能性固体材料前駆体層20aの加熱は、型押し工程の前に、約5分間行われる。また、前述の各前駆体の例の他にも、例えば、インジウム(In)を含む前駆体として、インジウムイソプロポキシド、酢酸インジウム、2−エチルヘキサン酸インジウムを採用することができる。また、錫(Sn)を含む前駆体の例として、錫アセチルアセトナート、2−エチルヘキサン酸錫を採用することができる。
ここで、本実施形態の基台用ヒーター814の役割は、機能性固体材料前駆体層中の溶媒を蒸発させるとともに、将来的な塑性変形を可能にする特性を発現させるために好ましいゲル状態(熱分解前であって有機鎖が残存している状態と考えられる)を形成することである。これらの観点から、基台用ヒーター814の温度を上述の温度範囲に設定される。その結果、十分な型押し加工の効果を得ること(代表的には、型押し構造を確度高く、又は寸法精度良く形成すること)ができる。予備加熱工程における上述の好適な各温度範囲は、機能性固体材料前駆体層20aのみならず、後述する他の前駆体層に対しても適用し得るため、重複する説明は省略する。
[型押し工程]
その後、ゲート電極のパターニングを行うために、図7Bに示すように型押し工程が行われる。本実施形態では、図5に示すように、制御装置500により、上部型押し部の移動と温度制御、及び下部型押し部の温度制御が行われながら、型押し加工が施される。以下に、図7Gに示す機能性デバイス(本実施形態では、薄膜トランジスタ100)の製造工程の一部である各層の形成及び型押し工程を示しながら具体的な処理を説明する。
まず、型押し工程の処理対象となる機能性固体材料前駆体層20aを備えた被処理体10が載置された基体部901を基台812に吸着させる。
なお、基体部901を基台812に吸着させると同時に、又はその前に、制御装置500は、基台用ヒーター814を昇温させる。その結果、制御装置500は、機能性固体材料前駆体層20aを、基台用ヒーター814によって被処理体10の裏面側から加熱することによって機能性固体材料前駆体層20aを加熱する。加えて、制御装置500は、基体部901を基台812に吸着させると同時に、又はその前に、ローラー用ヒーター824を加熱することによってローラー822の温度を、例えば、200℃にまで上昇させる。
その後、基台用ヒーター814によって加熱された機能性固体材料前駆体層20aに対して、制御装置500は、上部型押し部を下方に移動させる。そして、例えば、機能性固体材料前駆体層20aに対して、型固定装置900における型M1を押圧する。なお、本実施形態では、型M1を用いて、10MPaの圧力で型押し加工が施される。
図7Bに示すようにゲート電極用の型M1を用いて型押し加工を施した後、型固定装置900における電磁石を構成するコイルへ流す電流値を低下又は0にすることにより、型M1と被処理体10との相対的な位置関係の固定状態が解消されるため、図7Cに示すように、被処理体10から型M1を離すことができる。
その結果、図7Dに示すように、層厚が約100nm〜約300nmの厚層部と層厚が約10nm〜約100nmの薄層部とを備える、最終的にゲート電極層となる機能性固体材料前駆体層20aが形成される。
その後、図7Eに示すように、機能性固体材料前駆体層20aを全面エッチングすることにより、ゲート電極に対応する領域以外の領域から機能性固体材料前駆体層20aを除去する(機能性固体材料前駆体層20aの全面に対するエッチング工程)。なお、本実施形態のエッチング工程は、真空プロセスを用いることないウェットエッチング技術を用いて行われたが、プラズマを用いた、いわゆるドライエッチング技術によってエッチングされることを妨げない。なお、プラズマ処理を大気圧下において行う技術を採用することも可能である。
[熱処理(本焼成)工程]
さらにその後、本焼成として、機能性固体材料前駆体層20aを酸素雰囲気中(例えば100体積%であるが、これに限定されない。以下の「酸素雰囲気」についても同じ。)において約15分間加熱する。本実施形態では、RTA(rapid thermal anealing)装置を用いて機能性固体材料前駆体層20aを加熱する。その結果、図2Fに示すように、被処理体10上に、機能性固体材料層20であるゲート電極層として、インジウム(In)と錫(Sn)とからなる酸化物層が形成される。なお、インジウム(In)と錫(Sn)とからなる酸化物層は、ITO(indium tin oxide)層とも呼ばれる。
上述のとおり、ゲート電極用の型M1を用いて型押し加工を施し、その後、本焼成を行うことにより、確度高く、及び/又は精度良く型押し構造が形成された機能性固体材料層20を形成することが可能となる。
ところで、上述のインジウム(In)を含む前駆体の例は、酢酸インジウム、硝酸インジウム、塩化インジウム、又は各種のインジウムアルコキシド(例えば、インジウムイソプロポキシド、インジウムブトキシド、インジウムエトキシド、インジウムメトキシエトキシド)が採用され得る。また、錫(Sn)を含む前駆体の例として、酢酸錫、硝酸錫、塩化錫、又は各種の錫アルコキシド(例えば、錫イソプロポキシド、錫ブトキシド、錫エトキシド、錫メトキシエトキシド)が採用され得る。
また、本実施形態では、インジウム(In)と錫(Sn)とからなる酸化物であるゲート電極層となる機能性固体材料層20が採用されているが、機能性固体材料層20はこの組成に限定されない。例えば、他の機能性固体材料層20として、酸化インジウム(In2O3)、アンチモンドープ酸化錫(Sb−SnO2)、酸化亜鉛(ZnO)、アルミニウムドープ酸化亜鉛(Al−ZnO)、ガリウムドープ酸化亜鉛(Ga−ZnO)、酸化ルテニウム(RuO2)、酸化イリジウム(IrO2)、酸化錫(SnO2)、一酸化錫SnO、ニオブドープ二酸化チタン(Nb−TiO2)などの酸化物導電体材料を用いることができる。また、本発明の他の一態様の薄膜トランジスタは、前述の機能性固体材料層20として、インジウムガリウム亜鉛複合酸化物(IGZO)、ガリウムドープ酸化インジウム(In−Ga−O(IGO))、インジウムドープ酸化亜鉛(In−Zn−O(IZO))などのアモルファス導電性酸化物を用いることができる。また、本発明の他の一態様の薄膜トランジスタは、前述の機能性固体材料層20として、チタン酸ストロンチウム(SrTiO3)、ニオブドープチタン酸ストロンチウム(Nb−SrTiO3)、ストロンチウムバリウム複合酸化物(SrBaO2)、ストロンチウムカルシウム複合酸化物(SrCaO2)、ルテニウム酸ストロンチウム(SrRuO3)、酸化ニッケルランタン(LaNiO3)、酸化チタンランタン(LaTiO3)、酸化銅ランタン(LaCuO3)、酸化ニッケルネオジム(NdNiO3)、酸化ニッケルイットリウム(YNiO3)、酸化ランタンカルシウムマンガン複合酸化物(LCMO)、鉛酸バリウム(BaPbO3)、LSCO(LaxSr1−xCuO3)、LSMO(La1−xSrxMnO3)、YBCO(YBa2Cu3O7−x)、LNTO(La(Ni1−xTix)O3)、LSTO((La1−xSrx)TiO3)、STRO(Sr(Ti1−xRux)O3)、その他のペロブスカイト型導電性酸化物、又はパイロクロア型導電性酸化物を用いることができる。
また、本実施形態における効果を適切に奏させるために、ゲート電極用前駆体溶液の溶媒は、以下の(1)乃至(3)のいずれかの溶媒であることが好ましい。
(1)エタノール、プロパノール、ブタノール、2−メトキシエタノール、2−エトキシエタノール、及び2−ブトキシエタノールの群から2種が選択されるアルコールの混合溶媒。
(2)エタノール、プロパノール、ブタノール、2−メトキシエタノール、2−エトキシエタノール、及び2−ブトキシエタノールの群から選択される1種のアルコール溶媒。
(3)酢酸、プロピオン酸、及びオクチル酸の群から選択される1種又は2種のカルボン酸たる溶媒。
なお、ゲート電極用前駆体溶液についての前述の好適な溶媒の例は、ゲート電極用前駆体溶液のみならず、後述する他の機能性固体材料前駆体層の出発材としての機能性固体材料前駆体溶液に対しても適用し得るため、重複する説明は省略する。
(2)その後の薄膜トランジスタ100の製造工程
その後、パターニングされた機能性固体材料層20上に、公知のシリコン(Si)を含む前駆体を溶質とする前駆体溶液を出発材とするゲート絶縁層用前駆体層を焼成することによって形成されるゲート絶縁層30(代表的な厚みは約170nm)が形成される。その後、ゲート絶縁層30上に、インジウム(In)と亜鉛(Zn)とからなる酸化物である、公知のチャネル用酸化物層40(代表的な厚みは約20nm)が形成される。さらにその後、ランタン(La)とニッケル(Ni)とからなる酸化物である、公知のソース/ドレイン電極用酸化物層50が形成されることにより、ドレイン電極52及びソース電極54が形成される。その結果、図7Gに示す薄膜トランジスタ100が製造される。
上述のように、本実施形態では、少なくとも一部の酸化物層に対して型押し加工を施すことによって型押し構造を形成する、「型押し工程」が採用されている。この型押し工程が採用されることにより、真空プロセスやフォトリソグラフィー法を用いたプロセス、あるいは紫外線の照射プロセス等、比較的長時間、及び/又は高価な設備を必要とするプロセスが不要になる。また、本実施形態では、ゲート電極が溶液法によって形成されているが、ゲート絶縁膜、チャネル、ソース電極、及びドレイン電極に対しても溶液法を採用し得る。従って、本実施形態の薄膜トランジスタ100は、極めて工業性ないし量産性に優れている。
また、本実施形態における「機能性固体材料前駆体溶液」は、金属アルコキシドを含む溶液、金属有機酸塩を含む溶液、金属無機酸塩を含む溶液、金属ハロゲン化物を含む溶液、金属、窒素、及び水素を含む無機化合物を含む溶液、金属水素化物を含む溶液、及び金属ナノ粒子を含む溶液の群から選ばれる少なくとも1種類を含む溶液であることが好ましい。
<その他の実施形態1>
上述の各実施形態において用いられた基体部901の代わりに、図9(a)のP2に示すような、角部を有する磁性部904が非磁性部902と接合されている基体部951が設けられる態様も、採用し得る他の一態様である。しかしながら、図9に示す例は、応力集中による非磁性部902又は磁性部904への負荷が生じやすいと考えられる。従って、基体部951よりも、第1の実施形態の基体部901を採用する方がより好ましい。
<その他の実施形態2>
また、上述の各実施形態において用いられたロールツーシート方式の型押し装置800の代わりに、被処理体10を個別に、すなわち非連続的に押圧する、平板状の押圧部を備えるバッチ方式の型固定装置960を備えた型押し装置も、採用し得る他の一態様である。
図10は、平板状の押圧部(図示しない)を備える型押し装置に採用される型固定装置960の(a)側面図と、(b)基体部961の平面図である。この実施形態においては、基体部961の外周部に周状に設けられた凹部内に収められるコイル963が、第1の実施形態の基体部901が備える各磁性部904に接続するコイルの役割を果たす。なお、この実施形態の基体部961も、詳細には図示しないが、非磁性部を介して隣り合う位置に磁極が互いに異なる磁性部が設けられる。また、貫通孔968は、第1の実施形態の貫通孔920と同様の役割を果たす。なお、被処理体10の基体部961上への載置は、例えば搬送装置H1によって行われる。また、押圧部による型M1の押圧の際の被処理体10の破損等を防止するために、基体部961の外周領域にはその中央部との間に僅かな段差(図10のd1)が設けられている。
このバッチ方式の型押し装置によれば、押圧時間を十分に長く確保することができるため、ロールツーシート方式の型押し装置800に対して優位性を有する。他方、非連続の処理のため、複数の被処理体10を処理する際に、全体として型押し工程の時間が長くなるという不利な点も存在する。従って、被処理体10に対して型を押圧する型押し工程においては、事情に応じて方式が適宜選択される。
<その他の実施形態3>
また、上述の第2の実施形態では、薄膜トランジスタを例にとって説明したが、上述の各実施形態で採用された製造方法は、それらに限定されない。例えば、他の機能性デバイスの製造方法の実施形態として、メモリ型トランジスタ、圧電式インクジェットヘッド、及び被処理体上に金属酸化物セラミックス層又は金属層が格子状に形成された構造を有する反射型偏光板その他の各種光学デバイスを製造する際、あるいは、キャパシタを製造する際にも第1の実施形態で採用された製造方法を適用することができる。
<その他の実施形態4>
また、第2の実施形態における「型押し工程」においては、型による圧力は、代表的に例示されている10MPaには限定されない。この型押し工程における圧力が0.1MPa以上20MPa以下の範囲内の圧力であれば、第2の実施形態の少なくとも一部の効果が奏され得る。
なお、第2の実施形態では、高い塑性変形能力を得た各前駆体層に対して型押し加工を施すこととしている。その結果、型押し加工を施す際に印加する圧力を0.1MPa以上20MPa以下という低い圧力であっても、各前駆体層が型の表面形状に追随して変形するようになり、所望の型押し構造を高い精度で形成することが可能となる。また、その圧力を0.1MPa以上20MPa以下という低い圧力範囲に設定することにより、型押し加工を施す際に型が損傷し難くなるとともに、大面積化にも有利となる。
ここで、上記の圧力を「0.1MPa以上20MPa以下」の範囲内としたのは、以下の理由による。まず、その圧力が1MPa未満の場合には、圧力が低すぎて前駆体層(例えば、機能性固体材料前駆体層20a)を型押しすることができなくなる場合があるからである。他方、その圧力が20MPaもあれば、十分にその前駆体層を型押しすることができるため、これ以上の圧力を印加する必要がないからである。前述の観点から言えば、1MPa以上10MPa以下の範囲内にある圧力で型押し加工を施すことがより好ましい。
<その他の実施形態5>
また、上述の各実施形態の型押し工程においては、上述の型押し装置800の代わりに、ローラー822の表面に型M1を取り付けることも他の採用し得る一態様である。
<その他の実施形態6>
また、上述の各実施形態においては型押し構造を形成する対象が機能性固体材料前駆体層であったが、型押し構造を形成する対象は機能性固体材料前駆体層に限定されない。例えば、熱及び/又は圧力によって変形し得る材料であれば、上述の各実施形態の効果の少なくとも一部の効果が奏され得る。
<その他の実施形態7>
さらに、上述の各実施形態の予備加熱工程においては、機能性固体材料前駆体層を外部から加熱するヒーターが例示されているが、上述の各実施形態の予備加熱工程は、そのような態様に限定されない。例えば、上述の各実施形態の予備加熱工程が型押し加工を施す際の型(例えば、型M1)の内部に配置されることによって、その型自身が機能性固体材料前駆体層を加熱するヒーターも採用し得る一態様である。
以上述べたとおり、上述の各実施形態の開示は、それらの実施形態の説明のために記載したものであって、本発明を限定するために記載したものではない。加えて、各実施形態の他の組合せを含む本発明の範囲内に存在する変形例もまた、特許請求の範囲に含まれるものである。