JP6370226B2 - 哺乳動物細胞内で増幅された目的遺伝子の発現を高めるポリヌクレオチド - Google Patents
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(1)発現させるべきタンパク質をコードする遺伝子(以下、適宜「目的遺伝子」という。)の細胞内コピー数を1万コピー程度にまで増幅できること、および、
(2)目的遺伝子はIR/MARベクターに対して同一の遺伝子構築物(シス)として導入した場合であっても、別の遺伝子構築物(トランス)として導入した場合であっても、高度に増幅することができるということを見出し、上記IR/MARベクターを用いて目的遺伝子を高度に増幅する系(「高度遺伝子増幅系」または「IR/MAR遺伝子増幅系」という。)を完成させるに至った(例えば、特許文献1、特許文献2、非特許文献1、および非特許文献2参照を参照のこと。)。ここで、高度遺伝子増幅系(IR/MAR遺伝子増幅系)を用いた遺伝子増幅法を、「IR/MAR遺伝子増幅法」と呼ぶ。
(a)配列番号1に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド、
(b)配列番号1に示される塩基配列において1または数個の塩基が欠失、置換、若しくは付加され、且つ増幅された目的遺伝子の発現を高める活性を有するポリヌクレオチド。
(a)配列番号1に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド、
(b)配列番号1に示される塩基配列において1または数個の塩基が欠失、置換、若しくは付加され、且つ増幅された目的遺伝子の発現を高める活性を有するポリヌクレオチド。
(a)配列番号1に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド、
(b)配列番号1に示される塩基配列において1または数個の塩基が欠失、置換、若しくは付加され、且つ増幅された目的遺伝子の発現を高める活性を有するポリヌクレオチド。
本発明の一実施形態は、哺乳動物細胞内で増幅された目的遺伝子の発現を高める方法(以下、適宜「本発明の方法」という。)に関する。本発明の方法は、哺乳動物細胞内で機能する哺乳動物複製開始領域および哺乳動物細胞内で機能する核マトリックス結合領域を具備するベクターと、目的遺伝子と、下記(a)または(b)を含む発現促進ポリヌクレオチドとを、哺乳動物細胞に同時に導入する工程を含むことを特徴としている。
(a)配列番号1に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド、
(b)配列番号1に示される塩基配列において1または数個の塩基が欠失、置換、若しくは付加され、且つ増幅された目的遺伝子の発現を高める活性を有するポリヌクレオチド。特に、本発明は培養細胞等を用いたEx vivoの系において好ましく実施され得る。
本発明の方法は、IR/MAR遺伝子増幅法によって目的遺伝子が高度に増幅されたにもかかわらず、目的遺伝子の発現量が必ずしも比例しない場合があるという課題を解決するための方法である。換言すれば、IR/MAR遺伝子増幅法において、目的遺伝子の発現量を向上するための方法である。上記の課題は、IR/MAR遺伝子増幅法によって目的遺伝子の反復配列が生じ、これに起因して目的遺伝子の発現抑制が起こると考えられた。本発明者が考案した独自のスクリーニング方法によりスクリーニングを行った結果、ヒトゲノムから目的遺伝子の発現を高める活性を備えるポリヌクレオチド「B−3−31」を見出すことに成功した。本発明の方法は、当該B−3−31を発現促進ポリヌクレオチドとして利用する。「発現促進ポリヌクレオチド」とは、増幅された目的遺伝子の発現を高める活性(「発現促進活性」ともいう。)を有するポリヌクレオチドを意味する。
本発明にかかる方法は、上述の発現促進ポリヌクレオチドとともに、哺乳動物細胞内で機能する哺乳動物複製開始領域および哺乳動物細胞内で機能する核マトリックス結合領域を具備するベクター(「IR/MARベクター」という。)と、目的遺伝子とを、哺乳動物細胞に同時に導入する工程を含む方法である。
本発明にかかる方法は、IR/MARベクターと、目的遺伝子と、発現促進ポリヌクレオチドとを、哺乳動物細胞に同時に導入する工程(「導入工程」という。)を含む方法である。
なお本発明にかかる方法には、上記導入工程の他に、目的遺伝子とベクターと発現促進ポリヌクレオチドとが導入された哺乳動物細胞を分離する工程(以下、「選抜工程」という)や、当該選抜工程によって選抜された哺乳動物細胞(すなわち形質転換細胞)を培養する培養工程(以下、「培養工程」という)が含まれていてもよい。また、上記培養工程によって生産された目的タンパク質を精製する方法(以下、「精製工程」という)が含まれていてもよい。すなわち本発明は、目的遺伝子とベクターと発現促進ポリヌクレオチドとが導入された哺乳動物細胞を用いた目的タンパク質を生産する方法をも包含する。
上述した発現促進ポリヌクレオチドを少なくとも含むことで、哺乳動物細胞内で増幅された目的遺伝子の発現を高めるためのキット(「本発明のキット」という。)を構成することができる。本発明のキットによれば、IR/MAR遺伝子増幅法によって高度に増幅された目的遺伝子の発現量を高めることができる。発現促進ポリヌクレオチドに関する説明については、前項の説明を援用する。なお、本発明に係るキットは、遺伝子増幅によって生じた反復配列が原因で起こる発現抑制を回避または軽減することによって、目的遺伝子の発現を高めることを原理としている為、IR/MAR遺伝子増幅法のみならず、他の遺伝子増幅法においても奏功する可能性が有る。
本発明は、IR/MARベクターと、目的遺伝子と、発現促進ポリヌクレオチドとが導入されてなる哺乳動物細胞をも包含する。当該哺乳動物細胞は、本発明の方法が施された哺乳動物細胞の形質転換体であり、高度に増幅された目的遺伝子が高発現し得る細胞である。当該哺乳動物細胞を培養することによって、目的タンパク質を大量に生産することが可能となる。IR/MARベクター、目的遺伝子、発現促進ポリヌクレオチド、哺乳動物細胞等の説明については、前項の説明を援用する。
(1)プラスミドの構築
本実施例に用いたプラスミド名と構築法を示す。全てのプラスミドは、HighPure Plasmid Midiprep Kit(Invitrogen社)を用いて、推奨されるプロトコルに従って精製されたものが使用された。
pSFVdhfr(10,986bp、図2参照のこと。)はJohn Kolman博士とGeoffrey M.Wahl博士(The Salk Institute, CA)から供与された。このプラスミドは、チャイニーズハムスターDHFR遺伝子座由来の4.6kbpのIRを持つ。このIRはDHFR遺伝子座内で優先的に複製が開始するOriβ領域に由来する(参考文献:Altman, A.L., and Fanning, E. (2001). Molecular and cellular biology21, 1098-1110.、およびPelizon, C., Diviacco, S., Falaschi, A., and Giacca, M. (1996). Molecular and cellular biology 16, 5358-5364.)。また上記IRは、その中にMAR活性を示す配列が存在する(参考文献:Shimizu, N., Miura, Y., Sakamoto, Y., and Tsutsui, K. (2001). Cancer research 61, 6987-6990.)。このプラスミドは、ブラストサイジン抵抗性遺伝子(BSR)およびヒグロマイシン抵抗性遺伝子(Hyg)の2つの薬剤耐性遺伝子を持つ。
p△BM-MCSは、以下のようにして構築された(参考文献:Harada, S., Uchida, M., and Shimizu, N. (2009).J Biol Chem 284, 24320-24327.、図2参照のこと。)。
p△BM-d2EGFPは以下のようにして、構築された(参考文献:Harada, S., Uchida, M., and Shimizu, N. (2009).J Biol Chem 284, 24320-24327.、図2参照のこと。)。
p△BM d2EGFP-Asc Iは、以下のようにして構築された(図3を参照のこと。)。
(2−1)COLO320DM細胞株:神経内分泌細胞由来ヒト大腸がん細胞株(ATCC CCL−220)。COLO 320DM細胞は、がん遺伝子c−mycを含む単一の増幅単位が、DMの形態で、約62倍に増幅した細胞である。増幅遺伝子は分裂期中期染色体標本中に見られる平均して43.6±27.6個のDM上に位置している(参考文献:Alitalo, K., Schwab, M., Lin, C.C., Varmus, H., and Bishop, J.M. (1983). Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 80, 1701-1711.、およびShimizu, N., Kanda, T., and Wahl, G.M. (1996). Nat Genet 12, 65-71.)。
ベクタープラスミドp△BM d2EGFP-Asc Iに、ランダムに断片化したヒトゲノムDNAを挿入することで、1次ゲノムライブラリーを構築した。以下にその工程を記す。
対数増殖期のヒトCOLO 320 DM細胞培養液を50mL遠心管(住友ベークライト社製)に移し、遠心分離を行った(TSローター、1,000rpm、5分間、室温、トミー精工LC06-SSp遠心機、以下同じ。)。上清を除いた後、PBS(−)50mLで再懸濁し、遠心分離を行うという遠心洗浄を2回繰り返した。10mLのDNA lysis buffer(50mM Tris-Cl, pH 8.0、1 mM EDTA-Na, pH8.0、0.5 % SDS)を、細胞の沈殿に加えて穏やかに混合した。続いて、RNase A (シグマ−アルドリッチ社)を100μg/mLの濃度で37℃、1時間処理することによりRNAを消化した後、Proteinase K (シグマ−アルドリッチ社)を100μg/mLの濃度で50℃、一晩処理した。その溶液を1時間以上かけてフェノール処理し、フェノール/クロロホルム処理を2回(1時間および30分間)行った後、エタノール沈殿法によってDNAを回収した。これにTEを1mL加え、DNA塊が融解するまで50℃で加温し、融解後4℃で保存した。
ヒトゲノム断片をベクタープラスミドに組み込むため、予めヒトゲノムDNAを超音波処理により、ランダムに1,000〜3,000bp程度に断片化した。
高分子量のポリエチレングリコールを添加して遠心すると、短いDNAは沈殿せずに長いDNAのみを沈殿させることが出来る。前項で断片化したDNA50μgをTEに溶かし全量を200μLとした。これに20%(w/v)のPEG8000(Powder Molecular Biology Grade, Promega社)/30mM MgCl2溶液100μLを混ぜ(終濃度約6.7% PEG、10mM MgCl2)、ボルテックスミキサーにかけた。その後、ただちに15,000rpm、室温、10分間、遠心分離を行い、上清を除いた。70%(v/v)エタノールを300μL加え、15,000rpm、室温で5分間遠心分離を行い、上清を除いてドライアップした後、20μLの超純水に溶かした。この操作により約600bp以下のサイズのヒトゲノム断片を除いた。
ランダムに断片化されたヒトゲノムDNAの末端を、3’→5’エキソヌクレアーゼ活性を持つKOD DNA Polymerase(東洋紡株式会社)を用いて平滑化(Blunting)した。すなわち、10×KOD Buffer (東洋紡株式会社)5.0μL、2mM dNTP(東洋紡株式会社)5.0μL、25mM MgCl2 2.0μL、KOD DNA polymerase (2.5U/mL) 2.5μLを、前項でPEG沈殿を行なったDNA断片溶解液に加え、超純水を加えて全量50μLにメスアップした。この溶液を72℃で5分間反応させ、DNA末端を平滑化した。
ベクタープラスミド(p△BM d2EGFP-Asc I)をAsc Iで切断した時の末端15塩基対と相同な2本鎖DNAを合成した。すなわち、AscI-S鎖(5'-aagcagtggtatcaaggcgcgcc-3':配列番号4)およびAscI−AS鎖(3'-ggcgcgccttgataccactgcttac-5':配列番号5)の各10pMの溶液を100μLずつ混合し、これに5M NaCl 4μLを加え、95℃、10分間、熱変性した後、30秒毎に0.5℃ずつ温度を低下させ、12℃まで反応さることにより、リンカーDNA(AscI−S/AscI−AS リンカーDNA)を作製した。
前項にて作製したリンカーDNAを、ヒトゲノム断片の末端にライゲーションした。すなわち、Bluntingを行ったヒトゲノム断片と作製したリンカーDNAとを、ヒトゲノム断片:リンカーDNAのモル比が1:1000で全量100μLになるように溶液を調製した。この溶液にLigation high(東洋紡株式会社)を50μL加え、16℃で1時間反応させた。その後、PCR精製カラム(Roche High pure PCR cleanup micro kit)を用いて付属のプロトコル通りにDNA溶液を精製し、さらに、PEG沈殿(終濃度10%(w/v))を行うことで余分なリンカーDNAを除去した。
リンカーDNAを付加したヒトゲノム断片とAscIで切断した直鎖状ベクターp△BM d2EGFP-Asc IをIn-Fusion(登録商標) HD Cloning Kit(タカラバイオ株式会社)を用いて連結した(図4を参照のこと。)。その後、In-Fusion反応液で大腸菌DH5α株のコンピテントセルを形質転換し、Ampicillin sodium salt(ナカライテスク株式会社)100μg/mLを含むLB寒天培地上にまき広げて37℃で一晩培養した。多数の異なる大きさのヒトゲノム断片を含む大腸菌コロニーから成る、大腸菌1次ゲノムライブラリーを得た。
各ライブラリーで、コロニーごとの挿入ヒトゲノム断片の鎖長を確認するため、ヒトゲノム断片が挿入された領域がPCRで増幅されるように、ヒトゲノム断片にライゲーションしたリンカーDNAの配列とアニールするようなプライマー(in-fusion AscI−S:5'-aagcagtggtatcaagg-3':配列番号6)を設計した。このプライマーと Blend Taq(登録商標) -Plus-(東洋紡株式会社)を使用して、各大腸菌1次ライブラリーについてコロニーPCRを行った。PCR反応液10μLは1×Blend Taq(登録商標) Buffer(東洋紡株式会社)、200μM dNTPs(東洋紡株式会社)、0.25units Blend Taq(登録商標) -Plus-(東洋紡株式会社)、2pMプライマーを含む。大腸菌コロニーのピックには200μL ピペットチップ(WATSON社)を用いた。チップの先端部でシングルコロニーをピックアップし、PCR反応液に浸すことで、菌体内で複製されたプラスミドを反応液内に溶かし出し、PCRの鋳型とした。PCR反応条件は、変性を94℃、30秒間、アニーリングを59℃、30秒間、伸長を72℃、2分間とし、35サイクル行った。反応産物は、1.0%アガロースゲルで100V、30分間、アガロースゲル電気泳動することで解析した。
10cm dishのLB寒天培地上の大腸菌コロニーに、プレート1枚あたりLB液体培地を10mL加え、コンラージ棒を使用して掻き取り、PureLinkTM Hipure Plasmid Midiprep Kit(Invitrogen社)を用いて付属のプロトコルに従いプラスミドDNAを精製した。その後、大腸菌プレート3枚から精製したプラスミドDNAあたり、TE 100μLに溶解した。
全ての形質転換には、Lipofectamine(登録商標) 2000 (Invitrogen社)を用いて、リポフェクション法により行った。初めに、対数増殖期にあるCHO DG44細胞(4.0×105 cells/mL、2mL)を、3cm dish(住友ベークライト株式会社)に植え継ぎ、CO2インキュベーター内で1日培養した。次にOpti−MEM(Life Technologies社)250μLに対し、導入するプラスミドDNA(4.0μg)を加え、ピペッティングにより混合して「DNA希釈液」を調製した。10.5μLのLipofectamine(登録商標)2000と262.5μLのOpti-MEMとを混ぜ、ピペッティングした後、5分間静置し、「Lipofectamine(登録商標)希釈液」を調製した。Lipofectamine(登録商標)希釈液 260μLをDNA希釈液に加え、ピペッティング操作でよく混合した後、20分間静置した。この溶液を培養しておいた細胞に全量加え、4時間後に新鮮なF−12培地(10%(w/v)FBSを含む)と入れ替えた。さらに翌日(トランスフェクション1日後)、細胞を10cm dish(住友ベークライト株式会社)にスケールアップし、全量10mLとした。さらに、その翌日(トランスフェクション2日後)に Blasticidin S Hydrochloride(フナコシ株式会社)を終濃度10μg/mLで加え、形質転換された細胞を選択した。その後、細胞がコンフルエントになったら植え継ぎ、ブラストサイジンによる薬剤選択圧を終濃度100μg/mLに上げて培養した。増殖の程度を見ながら、培地を一部交換して培養を続け、約4週間培養することで安定した形質転換体を得た。
(5−1)FACS AriaによるGFP高発現細胞のソーティング
FACS(Fluorescence activated Cell Sorter)は、一点に集められたレーザー光を、フローセル中を通過する細胞に照射し、そこから生じる散乱光と、蛍光を同時に測定する。加えて、その情報に基づき特定の細胞だけを、生きたまま分取することが可能である。
96ウェルプレートにソートした細胞を、培地が蒸発してしまわないようにF−12培地(10μg/mLのブラストサイジンを含む)を加えて3〜4週間培養した。その後、蛍光顕微鏡を用いて各細胞コロニーのGFP発現を観察し、特に発現の強い細胞コロニーを24ウェルプレートにスケールアップし、更に1週間程度培養した。再び蛍光顕微鏡で各細胞コロニーのGFP発現を観察し、発現の特に強い細胞については個別に細胞を回収し、比較的弱い細胞については10ウェル程度の細胞をまとめて回収した。
Dishから剥がした細胞を遠心分離(TSローター、1000rpm、5分、室温、トミー精工LC06-SSp遠心機、以下同じ。)して沈殿とした後、上清を除き、回収したときの培地と等量のPBS(−)を加えて、遠心することによる遠心洗浄を2回繰り返した。細胞濃度が2×106 cells/mLとなるようにlysis buffer(65mM Tris HCl, pH8.8、16.6mM ammonium sulfate、1mM mercaptoethanol、6.7mM EDTA、0.5% TritonX-100)を加え、Proteinase Kを終濃度0.06mg/mLとなるように加えた。ウォーターバスで50℃、1時間以上加温し、その後、94℃で12分間加温して1.5mLチューブに移し、10,000g、3分間、室温で遠心分離を行い、上清を回収して4℃で保存した。
前項で抽出した1次ゲノムライブラリー導入CHO DG44細胞のDNAを鋳型として、PCR法によりヒトゲノム断片を増幅した。この時プライマーとしてin-fusion AscI−Sを使用した。PCR反応条件は、変性を94℃、30秒間、アニーリングを59℃、30秒間、伸長を72℃、2分間とし、30サイクル行なった。PCR産物と、AscIで切断した直鎖状ベクターp△BM d2EGFP-Asc IとをIn-Fusion反応で連結した。その後、In-Fusion反応液で大腸菌コンピテントセルDH5αを形質転換し、大腸菌2次ゲノムライブラリーを構築した。そして、大腸菌1次ライブラリーと同じようにコロニーPCR法により挿入ヒトゲノム断片の鎖長と割合を計測した。
(7−1)細胞の調製
対数増殖期にある細胞培養液5mLを15mL容の遠心管に回収し、遠心して上清を除き、PBS 2mLで懸濁した。測定を行うまで細胞懸濁液を氷中で保存し、測定直前に5mL容のポリスチレンチューブ付きセルストレーナー(Becton, Dickinson and Company)に通して細胞凝集塊を除いた。
Becton Dickinson社のFACS Caliburを使用し、Cell Quest Pro Softwareを用いて細胞あたりの蛍光強度を測定した。細胞の大きさ(前方散乱光 forward scatter、FSC)、内部構造(side scatter、SSC)を測定し、この情報をもとに生細胞についてのみゲートをかけた。ゲートをかけた20,000の細胞集団について、GFPの蛍光強度を定量した。測定条件は下記の通り。
測定条件;
Detectors/Amps:
Parameter P1;Detector:FCS、Voltage:E00、AmpGain:1.50、Mode:Lin、
Parameter P2;Detector:SSC、Voltage:350、AmpGain:1.35、Mode:Lin、
Parameter P3;Detector:FL1、Voltage:600、AmpGain:1.00、Mode:Log。
再現性良くGFP高発現を示すライブラリーのプラスミドDNAで、大腸菌コンピテントセルSURE2株(Agilent Technologies社)を形質転換し、コロニーを形成させた。SURE2はこれまで用いてきた大腸菌DH5αのコンピテントセルに比べて、反復配列(Inverted Repeat)や、Z−DNAなどの二次構造を作りやすい不安定な配列をもつDNAのクローニングに適したコンピテントセルである。Tks Gflex(登録商標) DNA Polymerase(タカラバイオ株式会社)を用いたコロニーPCR法により、各大腸菌コロニーのヒトゲノム断片の有無、及びその鎖長を確認した。PCR反応液10μLは1×Tks Gflex(登録商標) DNA Polymerase(タカラバイオ株式会社)、2× Gflex(登録商標) PCR Buffer(Mg2+、dNTP plus)(タカラバイオ株式会社)、2pM Primer (in-fusion AscI-S)を含む。PCR反応条件は(3−8)の項で示した条件と同条件で行った。さらに、同じ鎖長のPCR産物を区別するために、4塩基認識制限酵素Sau3AI(タカラバイオ株式会社)で37℃、90分間処理した後、電気泳動で解析することも行った。このようにして単離した大腸菌を、アンピシリン 100μg/mLを含むLB液体培地50mL、37℃、140rpmの条件で12時間、振盪培養を行った。大量培養した大腸菌はPureLinkTM Hipure Plasmid Midiprep Kit(Invitrogen社)を用いて付属のプロトコルに従い精製を行った。精製したプラスミドはオートクレーブ・フィルター滅菌済みTE 100μLに溶解し、4℃で保存した。
(9−1)DNAシークエンス反応
4種類の蛍光色素で標識されたddNTPを含むDNA合成系(Dye Terminator法)を利用して、標識されたDNAフラグメントを内径50μmのキャピラリー管の中で電気泳動を行い、A(アデニン)、G(グアニン)、C(シトシン)、T(チミン)それぞれの蛍光をCCDカメラで検出し、塩基配列を読み取った。
シーケンスにより読み取った挿入ヒトゲノム断片の塩基配列について、ヒト染色体上での位置を同定するためにNCBIのHomo sapiens (human) Nucleotide BLAST (Basic Local Alignment Search Tool)(http://blast.ncbi.nlm.nih.gov/Blast.cgi?PAGE_TYPE=BlastSearch&BLAST_SPEC=OGP__9606__9558)を使用した。さらに、塩基配列の物理的特性を解析する目的には、次に示すウェブ上のツールを使用した。non-B DB Motif Search Tool (http://nonb.abcc.ncifcrf.gov/apps/nBMST/default/) は、塩基配列からB型DNA立体構造以外の構造、例えばクルシフォーム構造やヘアピン構造、Z−DNAといった構造を取りやすい領域を検索するツールである。MARSCAN(http://emboss.bioinformatics.nl/cgi-bin/emboss/marscan)は、MAR活性を示す領域に認められるモチーフ配列8bp(aataayaa)と16bp(awwrtaannwwgnnnc:配列番号11)とを、200bpの範囲内に持つ領域を検索するツールである。SIDD/ZDNA Analysis(http://benham.genomecenter.ucdavis.edu/sibz/)は、熱や塩によるストレスより誘導されるDNAの不安定化、すなわちStress-induced Duplex Destabilization(SIDD)を起こしやすい領域を検索するツールである。
FISH法は、ある塩基配列に特異的なDNAもしくはRNAプローブを、細胞内のDNAもしくはRNAにハイブリダイズさせた後、蛍光物質によりプローブを可視化させ、それを蛍光顕微鏡下で検出する方法である。この技術は、遺伝子マッピングや間期細胞における染色体分布など、幅広い分野で必須の手法となっている。本実施例では、様々な種類のプラスミドを導入した細胞について、プラスミド配列をFISH法により検出した。
各ライブラリー導入細胞の遺伝子増幅の度合いと、コントロールとして作製したヒトゲノム配列を含まないp△BM d2EGFP-Asc IをトランスフェクションしたCHO DG44細胞の遺伝子増幅の度合いを比較することを目的として染色体標本を調製した。
DIG(digoxigenen)標識プローブを、 BioPrime DNA Labeling System(Invitrogen社)を用いてランダムプライム法により行った。鋳型となるDNAは、プラスミドを用いる場合は、制限酵素処理で直鎖状DNAとしたものを用いた。鋳型DNA200ngに、2.5×Random Primers Solution(125mM Tris-HCl(pH 6.8)、12.5mM MgCl2、25mM2-mercaptoethanol、750μg/mLoligodeoxyribonucleotide primers(random octamers)を20μLと、高純水を加えて44μLにした。熱湯で5分間処理した後、氷中で急冷し、DNAを変性させた。10×DIG DNA Labeling Mixture (1mM dATP、1mM dCTP、1mM dGTP、0.65mM dTTP、0.35mM DIG-dUTP(Roche社))を5μL加えて混合した後、Klenow Fragment(large fragment of DNA polymerase I、40U/μL invitrogen社製)を1μL加えてゆっくり混和させ、37℃で1時間反応させた。反応後、氷中に移し、Stop buffer(10mM Na2EDTA(pH8.0))を5μL加えて反応を停止させた。未反応ヌクレオチドの除去には、High pure PCR cleanup micro kit(Roche社)を付属のプロトコルに従い用いた。精製したプローブ溶液を本実施例において用いた。鋳型となるDNAにはpSFV-V △BNを用いた。pSFV-V △BNは、CHO DG44細胞に存在しないDNA配列であるブラストサイジン耐性遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子、大腸菌複製開始領域を持つプラスミドであり、これをプローブとすることで導入したプラスミドに特異的にハイブリダイズする。
標本に、終濃度100μg/mLのRNaseA(シグマ‐アルドリッチ社)を含む2×SSC溶液を80μL滴下し、その上にカバーグラス(松浪硝子工業株式会社)を被せ、モイストチャンバー内で37℃、30分間処理した。処理後、カバーグラスを除き、2×SSCで洗浄した。次に70、80、90、100%(v/v)エタノール中でそれぞれ3分間ずつ順に脱水処理を行った。十分に乾燥させ、5〜10分間ヒートブロック(DRI-BLOCK DB-3L、エムエス機器株式会社)上で70℃まで温めた後、70%(v/v)ホルムアミド(シグマ‐アルドリッチ社)を含む2×SSC溶液中で72℃、2分間処理し、DNAを変性させた。変性の後、すぐに‐20℃であらかじめ保冷しておいた70、80、90、100%(v/v)エタノール中で、それぞれ3分間ずつ順に脱水処理を行った。スライドグラス1枚分のハイブリダイゼーション溶液は以下の手順で調製した。FISH用プローブ20ngに、10ng/mL Salmon Sperm DNA(GIBCO BRL)を0.7μL、超純水を加え、20μLとした。さらに、1/10量の3M 酢酸ナトリウムを加え、十分に混合した後、2.1倍量の100%(v/v)エタノールを加えた。これを−80℃で30分間静置し、14,000rpm、15分間遠心してエタノール沈殿を行った。上清を除いて風乾後、超純水3μLを加え、完全に溶解させ、60%(v/v)ホルムアミド、12%(w/v)Dextran Salfateを含む2×SSC溶液を12.5μL加えた。その後、75℃で5分間処理してDNAを変性させた。スライドグラスにハイブリダイゼーション溶液をそれぞれ15μLずつ滴下し、22mm×40mmカバーグラス(松浪硝子工業株式会社)をのせた。パラフィルムをのせ、標本の乾燥を防ぐためにハイブリパック(コスモ・バイオ株式会社)に入れてポリシーラー(富士インパルス株式会社)で密封し、37℃で一晩保温した。その後、カバーグラスをスライドグラスから慎重に取り除き、45℃のウォーターバス(SM-05、タイテック株式会社)中で、50%(v/v)ホルムアミドを含む2×SSC溶液で3回、2×SSCで3回、3分間ずつ順に洗うことで、非特異的に結合しているプローブを除いた。
非特異的に結合しているプローブを除いた後、ブロッキング溶液(4%(w/v)Block Ace(大日本住友製薬株式会社)、0.1%(w/v)Tween20(シグマ‐アルドリッチ社)を含む2×SSC溶液)100μLをスライドグラスに滴下して37℃、30分間処理し、シグナル検出のための抗体が非特異的に結合するのを防いだ。次に、一次抗体の終濃度が10μg/mLになるように調製した溶液(一次抗体、1%(w/v)Block Aceを含む1×PBS(−)溶液)を90μL滴下してパラフィルムを被せ、モイスチャーチャンバー内で37℃、60分間処理した。抗体を反応させた後、1×PBS(−)、0.05%(w/v)Tween20/1×PBS(−)、1×PBS(−)、1×PBS(1)中で、それぞれ3分間ずつ順に洗浄し、非特異的に結合した一次抗体を除いた。DIG標識したプローブの検出にFITC-conjugated Anti-DIG, Fab fragments(Roche社)を用いた。プローブの検出を行った後、蛍光褪色防止剤であるVECTASHIELD Mounting Medium(VECTOR Laboratories社)を用いて1μg/mLに希釈したPI(propidium iodide)を、スライドグラスに15μL滴下し、DNAの染色を行った。22×40mmカバーグラスを気泡が入らないように被せた後、4℃で遮光保存した。
蛍光顕微鏡はECLIPSE TE2000-U(株式会社ニコン)を用い、60倍の油浸対物レンズ(Nikon Plan Fluor, NA 1.40 oil)によりスライドを観察した。画像の撮影には、CCDカメラ(株式会社ニコン、DIGITALSIGHT DS-QilMc)を用い、画像の取り込みにはCamera Control Pro2(株式会社ニコン)を用いた。その後、Photoshop(登録商標) R CS(Adobe Systems Incorporated)により画像処理を行った。
DNAサンプルを、1.0%(w/v)アガロースゲル、TAE(Tris Acetate EDTA)緩衝溶液中で100V、30分間、室温で電気泳動することにより分画した。泳動槽にはMupid(登録商標) - 2X(株式会社アドバンス)、泳動マーカーには6×Loading Buffer(東洋紡株式会社)を用いた。電気泳動後、0.5μg/mL ethidium bromide(EtBr)溶液中で15分間染色した後、紫外線を照射し、FASII(東洋紡株式会社)により写真を撮影した。
(1)1次ゲノムライブラリーの構築
大腸菌DH5αを宿主とした大腸菌1次ゲノムライブラリー6種類(ライブラリーA,B,C,D,E,F)構築した。独立コロニーの総数は約230,000個であり、コロニーPCRによりインサートの有無を確認した結果、ヒトゲノム断片が挿入されたプラスミドの割合は約45%で、インサートの平均鎖長はおよそ1.27kbpであった。この結果から1次ゲノムライブラリー全体で1.3×107bpのヒトゲノムを含むことになるため、ヒト全ゲノム3.0×109bpのおよそ4.2%をカバーしていることが分かった。
ライブラリーAのDNAを導入したCHO DG44細胞を、ブラストサイジン存在下で4週間培養することにより安定した形質転換体を選択した。これらについて、FACS Ariaを用いてGFP発現強度を解析し、GFP強度で上位0.5%の細胞2,280個、および上位2.0%の細胞2,280個を、96ウェルプレートに1ウェルあたり1〜10個の細胞が入るようにソートした。同様に、ライブラリーBについても同様にした。また、ライブラリーC〜Fをそれぞれ導入したCHO DG44細胞を混合した細胞集団より、GFP強度上位0.1%の細胞1,824個、および上位0.3%の細胞2,016個を、96ウェルプレートに1ウェルあたり1〜10個の細胞が入るようにソートした。ソートした細胞の入った96ウェルプレートは、さらに3週間程度培養してから、さらに蛍光顕微鏡観察により、GFP発現の高い細胞が増殖しているウェルを選別し、それらを24ウェルへとスケールアップして1週間程度培養してから、6ウェルプレートにスケールアップした。また、GFP発現は中程度であるが、コロニー全体がGFPの発現を示している細胞については5〜6個のウェルからまとめて6ウェルプレートにスケールアップして培養した。
上記で得られたGFP高発現細胞集団26種類と、GFP中程度発現細胞集団をミックスした細胞集団4種類から、ゲノムDNAを抽出し、それを鋳型として、PCR法によりベクターに挿入されていたヒトゲノム断片を増幅した。この際、5種類のGFP高発現細胞集団のゲノムDNAを鋳型としたPCR産物からは、電気泳動でバンドが検出されなかった。これはヒトゲノム断片を持たないコントロールベクターが、遺伝子導入時に染色体上で活発に転写されるような領域の近くに組み込まれた結果生じた位置効果により、GFPの高発現を示した形質転換細胞がソートされたためだと考えられた。増幅バンドが検出されたPCR産物を、ベクターp△BM d2EGFP Asc IのAscIサイトにIn-Fusion反応により連結し、大腸菌DH5αコンピテントセルを形質転換して、大腸菌を宿主とした2次ゲノムライブラリーを計25種類構築した。それぞれのライブラリーのコロニー数は約10,000個程度であった。ランダムに選んだコロニーから、コロニーPCRによりヒトゲノム断片を増殖させ、その平均鎖長を求めると1.71kbpであった。1次ライブラリーの段階ではインサートの平均鎖長は1.27kbpであり、これに比べて平均鎖長が長くなっていたことから、スクリーニングにより、発現に影響を与えない短い断片が除かれたことが考えられた。
大腸菌2次ライブラリーのプラスミドDNAでシングルウェルから回収したGFP高発現細胞集団21種類、および複数ウェルの細胞を混合した細胞集団4種類、合計25種類、および、コントロールとして用いたベクターDNA(p△BM d2EGFP-Asc I)をCHO DG44細胞に導入し、ブラストサイジン存在下で4週間ほど培養して得られた安定形質転換細胞について、GFP発現量をFACS Caliburを用いて測定した。
コントロールと比較してGFP発現が高まった6種類の2次ライブラリー(Library A9 E3、Library B-3、Library Mix9 G10、Library Mix6 C4、Library Mix9 D8、Library Mix7 F7)と、コントロールのベクター(p△BM d2EGFP-Asc I)について、それらのDNAを再度CHO DG44細胞へ導入し、約4週間ブラストサイジン存在下で培養して安定した形質転換体を獲得した。それらの細胞について、FACS Caliburを用いてGFP発現をコントロールと比較した。
前項で同定された4種類の陽性2次ライブラリーDNAを用いて、大腸菌コンピテントセルを形質転換した。この時、4種類の陽性2次ライブラリーのうち、2つ(Library A 9E3、Library Mix 6C4)についてはこれまでと同じ大腸菌DH5αのコンピテントセルに形質転換を行った。残りの2つの陽性2次ライブラリー(Library mix9 G10、Library B-3)については大腸菌SURE2のコンピテントセルに形質転換を行なった。これは、これまで用いてきた大腸菌DH5αのコンピテントセルでは逆位反復配列やZ-DNAといった不安定なDNAを含むプラスミドのクローニングには適しておらず、そのような配列の取りこぼしが起きていた可能性が考えられた。そこで、不安定な配列のクローニングに適した大腸菌SURE2のコンピテントセルを用いてのクローニングを行った。
前項で得られた、Library A9 E3由来の6種類のプラスミド、Library Mix6 C4由来の2種類のプラスミド、Library Mix9 G10由来の5種類のプラスミド、LibraryB-3由来の8種類のプラスミド、及びコントロールのベクター(p△BM d2EGFP-Asc I)をそれぞれCHO DG44細胞へ導入し、約4週間ブラストサイジン存在下で培養して安定した形質転換体を獲得した。これらについてFACS Caliburを用いてGFPの発現強度を解析し、コントロールと比較した。
LibraryB-3 3926 31 3.0 kbpを導入したCHO DG44細胞の染色体標本を作製し、プラスミド配列をプローブとしたFISH法により、プラスミド配列の増幅構造を観察した。
コントロールと比較して再現性良くGFP高発現が確認できたLibraryB-3 3926 31 3.0 kbp中のヒトゲノム由来の塩基配列をABI PRISM(登録商標)310 Genetic Analyzer(Applied biosystems社)を用いて決定した。その結果、両末端から約300bpの塩基配列が得られた。この配列を用いて、ヒト染色体上で相同性が高い領域を、NCBIのHomo sapiens nucleotide BLAST (Basic Local Alignment Search Tool)で検索したところ、ヒト2番染色体上の3,271bp(位置番号57,315,359 から 57,318,630)のDNAであることが分かった(図1を参照のこと。)。この鎖長は、LibraryB-3 3926 31 3.0 kbpのアガロースゲル電気泳動での結果と良く一致していたことから、間違いないと判断した。
(1)IR/MAR遺伝子増幅法の増幅遺伝子の発現を増強させるヒトゲノム配列
本実施例で、IR/MAR遺伝子増幅法で増幅させた遺伝子からの発現を増強させるヒトゲノム配列をスクリーニングした結果、2次ライブラリーLibraryB-3 に含まれていたクローン3926-31の3.0kbp断片が、所望の配列として単離された。このような発現増強効果は、3回の独立した実験で、再現性が得られた。この配列の存在により、IR/MARプラスミドによる増幅構造の形成自体には変化がなかったことから、このヒトゲノム配列(「B−3−31」)は、遺伝子増幅の過程には影響を与えず、増幅された遺伝子からの発現を高める配列であることが示唆された。
本実施例では、ヒトゲノムDNAのスクリーニングにおいて、通常の大腸菌(DH5α)を宿主としたライブラリーの構築と、通常のPCR酵素(Blend taq(登録商標) -Plus-)によるヒトゲノム領域の増幅を行なった。大腸菌を用いたプラスミドDNAのクローニングでは、Inverted RepeatやZ−DNAなどの二次構造を作りやすい配列を含んでいる場合、大腸菌の修復システムにより組み換えられたり、削除されたりしてしまうことがある。また、PCR法によるDNAの増幅においても、AT−リッチやGC−リッチな配列や、Inverted Repeatの増幅は困難である。一方、発現を促進するプロモーター配列やMAR配列にはAT−リッチな領域や二次構造を作りやすい配列が含まれていることが多く、これらの配列を取りこぼしている可能性が考えられる。
Claims (14)
- 哺乳動物細胞内で増幅された目的遺伝子の発現を高める方法であって、
哺乳動物細胞内で機能する哺乳動物複製開始領域および哺乳動物細胞内で機能する核マトリックス結合領域を具備するベクターと、目的遺伝子と、下記(a)または(b)を含む発現促進ポリヌクレオチドとを、哺乳動物細胞に同時に導入する工程を含む方法:
(a)配列番号1に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド、
(b)配列番号1に示される塩基配列において1または数個の塩基が欠失、置換、若しくは付加され、且つ増幅された目的遺伝子の発現を高める活性を有するポリヌクレオチド。 - 上記哺乳動物複製開始領域が、c−myc遺伝子座、ジヒドロ葉酸リダクターゼ遺伝子座、およびβ−グロビン遺伝子座の複製開始領域のいずれか1つに由来する、請求項1に記載の方法。
- 上記核マトリックス結合領域が、Igκ遺伝子座、SV40初期領域、およびジヒドロ葉酸リダクターゼ遺伝子座の核マトリックス結合領域のいずれか1つに由来する、請求項1または2に記載の方法。
- 上記目的遺伝子と、上記ポリヌクレオチドとが、上記ベクターに含まれた状態で、哺乳動物細胞に導入することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
- 哺乳動物細胞内で増幅された目的遺伝子の発現を高めるためのキットであって、
下記(a)または(b)を含む発現促進ポリヌクレオチドを少なくとも備えることを特徴とするキット:
(a)配列番号1に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド、
(b)配列番号1に示される塩基配列において1または数個の塩基が欠失、置換、若しくは付加され、且つ増幅された目的遺伝子の発現を高める活性を有するポリヌクレオチド。 - 哺乳動物細胞内で機能する哺乳動物複製開始領域と哺乳動物細胞内で機能する核マトリックス結合領域とを具備するベクターをさらに備える、請求項5に記載のキット。
- 上記哺乳動物複製開始領域が、c−myc遺伝子座、ジヒドロ葉酸リダクターゼ遺伝子座、およびβ−グロビン遺伝子座の複製開始領域のいずれか1つに由来する、請求項6に記載のキット。
- 上記核マトリックス結合領域が、Igκ遺伝子座、SV40初期領域、およびジヒドロ葉酸リダクターゼ遺伝子座の核マトリックス結合領域のいずれか1つに由来する、請求項6または7に記載のキット。
- 上記ベクターは目的遺伝子が挿入されるベクターであり、
上記発現促進ポリヌクレオチドは、上記ベクターに含まれていることを特徴とする請求項6〜8のいずれか1項に記載のキット。 - 哺乳動物細胞内で機能する哺乳動物複製開始領域および哺乳動物細胞内で機能する核マトリックス結合領域を具備するベクターと、目的遺伝子と、下記(a)または(b)を含む発現促進ポリヌクレオチドとが導入されてなる哺乳動物細胞:
(a)配列番号1に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド、
(b)配列番号1に示される塩基配列において1または数個の塩基が欠失、置換、若しくは付加され、且つ増幅された目的遺伝子の発現を高める活性を有するポリヌクレオチド。 - 上記哺乳動物複製開始領域が、c−myc遺伝子座、ジヒドロ葉酸リダクターゼ遺伝子座、およびβ−グロビン遺伝子座の複製開始領域のいずれか1つに由来する、請求項10に記載の哺乳動物細胞。
- 上記核マトリックス結合領域が、Igκ遺伝子座、SV40初期領域、およびジヒドロ葉酸リダクターゼ遺伝子座の核マトリックス結合領域のいずれか1つに由来する、請求項10または11に記載の哺乳動物細胞。
- 上記目的遺伝子と、上記発現促進ポリヌクレオチドとが、上記ベクターに含まれた状態で、哺乳動物細胞に導入されていることを特徴とする請求項10〜12のいずれか1項に記載の哺乳動物細胞。
- 請求項10〜13のいずれか1項に記載の哺乳動物細胞を用いた、目的タンパク質を生産する方法。
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