以下に、本発明実施の形態を説明する。
<環式ポリアリーレンスルフィド>
本発明における環式ポリアリーレンスルフィド組成物の成分である環式ポリアリーレンスルフィドとは式、−(Ar−S)−の繰り返し単位を主要構成単位とし、好ましくは当該繰り返し単位を80モル%以上含有する下記一般式(C)のごとき環式化合物を、少なくとも50重量%以上含むものが好ましい。下記一般式(C)のごとき環式化合物を、より好ましくは70重量%以上、さらに好ましくは80重量%以上、よりいっそう好ましくは90重量%以上含むものが好ましい。ここで、Arはアリーレン基を表し、下記の式(D)〜式(N)などで表される単位などがあるが、なかでも式(D)が特に好ましい。
なお、環式ポリアリーレンスルフィド中の前記(C)式の環式化合物においては前記式(D)〜式(N)などの繰り返し単位をランダムに含んでもよいし、ブロックで含んでもよく、それらの混合物のいずれかであってもよい。これらの代表的なものとして、環式ポリフェニレンスルフィド、環式ポリフェニレンスルフィドスルホン、環式ポリフェニレンスルフィドケトン、これらが含まれる環式ランダム共重合体、環式ブロック共重合体及びそれらの混合物などが挙げられる。特に好ましい前記(C)式の環式化合物としては、主要構成単位としてp−フェニレンスルフィド単位
を80モル%以上、特に90モル%以上含有する環式化合物が挙げられる。
環式ポリアリーレンスルフィドに含まれる前記(C)式中の繰り返し数qに特に制限は無いが、4〜50が好ましく、4〜25がより好ましく、4〜15がさらに好ましい範囲として例示できる。ここで下限は、qが3以下の場合、小さい環式化合物が昇華もしくは沸騰する温度が低くなる傾向があるため、溶融加工時のガス発生量が少ない特長を有する環式ポリアリーレンスルフィド組成物が得られるようになるとの観点ではqを前記範囲にすることが好ましい。一方上限は50以下が好ましく、25以下がより好ましく、15以下がさらに好ましい。qが大きくなると環式ポリアリーレンスルフィドが融解する温度や溶融粘度が高くなる傾向にある。そのため、環式ポリアリーレンスルフィドによる流動性向上効果ためには、qを前記範囲にすることが好ましい。
また、環式ポリアリーレンスルフィドに含まれる前記(C)式の環式化合物は、単一の繰り返し数を有する単独化合物、異なる繰り返し数を有する環式化合物の混合物のいずれでもよいが、異なる繰り返し数を有する環式化合物の混合物の方が単一の繰り返し数を有する単独化合物よりも融解する温度が低い傾向があり、異なる繰り返し数を有する環式化合物の混合物の使用は、熱可塑性樹脂の一般的な加工可能温度に近づくという特徴、および該環式ポリアリーレンスルフィドを熱可塑性樹脂に配合することにより、溶融加工時の流動性向上効果に優れるという特徴を有し、このことは熱可塑性樹脂組成物を溶融加工する際に、加熱温度が低くても溶融加工性に優れるという特徴を発現することになる。
例えば、q=6の環式PPS(シクロヘキサ(p−フェニレンスルフィド))は、融点が348℃と、例えば熱可塑性樹脂であるPPSの融点(277〜282℃)に比べ60℃以上も高く、それゆえ溶融加工温度を高温にしないと該環式化合物が融解しないという問題がある。このような特徴から、本発明で使用する環式ポリアリーレンスルフィドに含まれる前記(C)式の環式化合物は、溶融加工時の流動性向上効果の面から、異なる繰り返し数を有する環式化合物の混合物であることが望ましい。
環式ポリアリーレンスルフィド中の異なるqのそれぞれの比率に特に制限はないが、本発明の効果を発現させるためには、環式化合物の中で、最も融点が高く、結晶化しやすいq=6の環式ポリアリーレンスルフィドの含有量が50重量%未満であることが好ましく、さらに好ましくは30重量%であり、特に好ましくは10重量%未満である(q=6の環式化合物(重量)/(環式ポリアリーレンスルフィド(重量)×100)。ここで、環式ポリアリーレンスルフィド中のq=6の環式化合物含有率は、環式ポリアリーレンスルフィドをUV検出器を具備した高速液体クロマトグラフィーで成分分割した際の、ポリアリーレンスルフィド構造を有する化合物に帰属される全ピーク面積に対する、q=6の環式化合物に帰属されるピーク面積の割合として求めることができる。ここで、ポリアリーレンスルフィド構造を有する化合物としては、例えば環式ポリアリーレンスルフィド、ポリアリーレンスルフィドオリゴマーであり、アリーレンスルフィド以外の構造をその一部に有する(例えば末端構造として)化合物が挙げられる。なお、この高速液体クロマトグラフィーで成分分割された各ピークの定性は、各ピークを分取液体クロマトグラフィーで分取し、赤外分光分析における吸収スペクトルや質量分析を行うことで可能である。
環式ポリアリーレンスルフィドにおける前記(C)式の環式化合物以外の成分はポリアリーレンスルフィドオリゴマーであることが特に好ましい。ここでポリアリーレンスルフィドオリゴマーとは、式、−(Ar−S)−の繰り返し単位を主要構成単位とする、好ましくは当該繰り返し単位を80モル%以上含有する線状のホモオリゴマーまたはコオリゴマーである。Arとしては前記した式(D)〜式(N)などであらわされる単位などがあるが、なかでも式(D)が特に好ましい。ポリアリーレンスルフィドオリゴマーはこれら繰り返し単位を主要構成単位とする限り、下記の式(O)〜式(Q)などで表される少量の分岐単位または架橋単位を含むことができる。これら分岐単位または架橋単位の共重合量は、−(Ar−S)−の単位1モルに対して0〜1モル%の範囲であることが好ましい。また、ポリアリーレンスルフィドオリゴマーは上記繰り返し単位を含むランダム共重合体、ブロック共重合体及びそれらの混合物のいずれかであってもよい。
これらの代表的なものとして、ポリフェニレンスルフィドオリゴマー、ポリフェニレンスルフィドスルホンオリゴマー、ポリフェニレンスルフィドケトンオリゴマー、これらのランダム共重合体、ブロック共重合体及びそれらの混合物などが挙げられる。特に好ましいポリアリーレンスルフィドオリゴマーとしては、ポリマーの主要構成単位としてp−フェニレンスルフィド単位を80モル%以上、特に90モル%以上含有するポリフェニレンスルフィドオリゴマーが挙げられる。
ポリアリーレンスルフィドオリゴマーの分子量としては、ポリアリーレンスルフィドよりも低分子量のものが例示でき、具体的には重量平均分子量で10,000未満であることが好ましい。環式ポリアリーレンスルフィドが含有するポリアリーレンスルフィドオリゴマーの重量平均分子量で10,000未満である場合、環式ポリアリーレンスルフィドの融解する温度が低くなる傾向にあり、熱可塑性樹脂の一般的な加工可能温度に近づくという特徴、および該環式ポリアリーレンスルフィドを熱可塑性樹脂に配合することにより、溶融加工時の流動性向上効果に優れるという特徴を有し、このことは熱可塑性樹脂組成物を溶融加工する際に、加熱温度が低くても溶融加工性に優れるという特徴を発現することになる。なお、前記重量平均分子量は例えば示差屈折率検出器を具備したSEC(サイズ排除クロマトグラフィー)を使用して求めることができる。
環式ポリアリーレンスルフィドが含有するポリアリーレンスルフィドオリゴマー量は、環式ポリアリーレンスルフィドが含有する前記(C)式の環式化合物よりも少ないことが特に好ましい。即ち環式ポリアリーレンスルフィド中の前記(C)式環式化合物とポリアリーレンスルフィドオリゴマーの重量比(前記(C)式の環式化合物/ポリアリーレンスルフィドオリゴマー)は1を超えることが好ましく、2.3以上がより好ましく、4以上がさらに好ましく、9以上がよりいっそう好ましく、このような環式ポリアリーレンスルフィドを用いることで、粘度が低く、高い流動性向上効果を有する環式ポリアリーレンスルフィド組成物を得ることが可能である。
環式ポリアリーレンスルフィド中の前記(C)式の環式化合物とポリアリーレンスルフィドオリゴマーの重量比は、HPLCを用いて定量した環式ポリアリーレンスルフィド中の前記(C)式の環式化合物量から算出することができる。例えば環式ポリアリーレンスルフィドにおける前記(C)式の環式化合物以外の成分がポリアリーレンスルフィドオリゴマーである場合には、
重量比=前記(C)式の環式化合物量(%)/(100−前記(C)式の環式化合物量(%))
のように算出できる。
環式ポリアリーレンスルフィドの製造方法は、上記特性を有する環式ポリアリーレンスルフィドを得られる方法であれば特に限定はされないが、例えば、特開2009−030012に開示されているような、スルフィド化剤とジハロゲン化芳香族化合物を有機極性溶媒中、希薄条件下で接触させて環式ポリアリーレンスルフィドを得る方法や、特開2007−231255に開示されているような、線状ポリアリーレンスルフィドと環式ポリアリーレンスルフィドを含むポリアリーレンスルフィド混合物を、環式ポリアリーレンスルフィドを溶解可能な溶剤と接触させて環式ポリアリーレンスルフィドを得る方法などを用いることができる。
<カルボン酸銅化合物>
本発明において、環式ポリアリーレンスルフィドを加熱した際の環式ポリアリーレンスルフィドの熱劣化による溶融粘度の増加を抑制し、各種樹脂に対する流動性向上効果を維持するために環式ポリアリーレンスルフィドに添加される安定剤として、カルボン酸銅化合物が用いられる。下記一般式(A)で示されるカルボン酸構造と銅からなる種々のカルボン酸銅化合物が用いられる。また、カルボン酸銅化合物は、無水物または水和物のどちらであってもよい。
(ここで、Rは水素、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数6〜24のアリール基、炭素数2〜12のアルケニル基、炭素数2〜12のアルキニル基、および式(B)で表される構造(置換基)からなる群より選ばれる置換基を表し、各置換基の水素は炭素数1〜12のアルキル基で置換されていてもよく、式(B)中のkは0〜6の整数を表し、mは0または1の整数を表し、nは0〜6の整数を表す。)
Rは水素、炭素数1〜12のアルキル基、アリール基、炭素数2〜12のアルケニル基、アルキニル基、および前記式(B)で表される構造(置換基)からなる群より選ばれる置換基であれば安定剤として有効であり、各置換基の水素は炭素数1〜12のアルキル基で置換されていてもよい。例えば、水素、アルキル基として、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、s−ブチル、t−ブチル、n−ペンチル、イソペンチル、t−ペンチル、n−ヘキシル、イソヘキシル、s−ヘキシル、t−ヘキシル、n−ヘプチル、イソヘプチル、s−ヘプチル、t−ヘプチル、n−オクチル、イソオクチル、s−オクチル、t−オクチル、n−ノニル、イソノニル、s−ノニル、t−ノニル、n−デカニル、イソデカニル、s−デカニル、t−デカニル、n−ウンデカニル、イソウンデカニル、s−デカニル、t−デカニル、n−ドデカニル、イソドデカニル、s−ドデカニル、t−ドデカニル、アリール基としてフェニル、ベンジル、トリル、キシリル、ビフェニル、ナフチル、アルケニル基として、エテニル、プロペニル、ブテニル、ペンテニル、ヘキセニル、ヘプテニル、オクテニル、ノネニル、デセニル、ウンデセニル、ドデセニル、アルキニル基として、エチニル、プロピニル、ブチニル、ペンチニル、ヘキシニル、ヘプチニル、オクチニルなどが例示できる。カルボン酸としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、2−メチル酪酸、ピバル酸、ヘキサン酸、4−メチル吉草酸、2,2−ジメチル酪酸、2,4−ジメチル吉草酸、2,2−ジメチル吉草酸、カプリル酸、イソカプリル酸、2−メチルヘプタン酸、2,2−ジメチルヘキサン酸、ノナン酸、7−メチルオクタン酸、2−メチルオクタン酸、2,2−ジメチルヘプタン酸、デカン酸、8−メチルノナン酸、2−メチルノナン酸、2,2−ジメチルオクタン酸、ウンデカン酸、9−メチルデカン酸、2−メチルデカン酸、2,2−ジメチルノナン酸、安息香酸、2−フェニル酢酸、2‐メチル安息香酸、3‐メチル安息香酸、4‐メチル安息香酸、2,3−ジメチル安息香酸、2,4−ジメチル安息香酸、2,5−ジメチル安息香酸、2,6−ジメチル安息香酸、2−フェニル安息香酸、3−フェニル安息香酸、4−フェニル安息香酸、1−ナフトエ酸、2−ナフトエ酸、アクリル酸、3−ブテン酸、4−ペンテン酸、5−ヘキセン酸、6−ヘプテン酸、7−オクテン酸、8−ノネン酸、9−デセン酸、10−ウンデセン酸、11−ドデセン酸、プロピオール酸、エチニル酢酸、4−ペンチン酸、5−ヘキシン酸、6−ヘプチン酸、7−オクチン酸などが例示できる。カルボン酸銅化合物として具体的には、ギ酸銅(I)、ギ酸銅(II)、酢酸銅(I)、酢酸銅(II)、プロピオン酸銅(I)、酪酸銅(I)、酪酸銅(II)、イソ酪酸銅(I)、イソ酪酸銅(II)、吉草酸銅(I)、吉草酸銅(II)、イソ吉草酸銅(I)、イソ吉草酸銅(II)2−メチル酪酸銅(I)、2−メチル酪酸銅(II)、ピバル酸銅(I)、ピバル酸銅(II)、ヘキサン酸銅(I)、ヘキサン酸銅(II)、4−メチル吉草酸銅(I)、4−メチル吉草酸銅(II)、2,2−ジメチル酪酸銅(I)、2,2−ジメチル酪酸銅(II)、2,4−ジメチル吉草酸銅(I)、2,4−ジメチル吉草酸銅(II)、2,2−ジメチル吉草酸銅(I)、2,2−ジメチル吉草酸銅(II)、カプリル酸銅(I)、カプリル酸銅(II)、イソカプリル酸銅(I)、イソカプリル酸銅(II)、2−メチルヘプタン酸銅(I)、2−メチルヘプタン酸銅(II)、2,2−ジメチルヘキサン酸銅(I)、2,2−ジメチルヘキサン酸銅(II)、ノナン酸銅(I)、ノナン酸銅(II)、7−メチルオクタン酸銅(I)、7−メチルオクタン酸銅(II)、2−メチルオクタン酸銅(I)、2−メチルオクタン酸銅(II)、2,2−ジメチルヘプタン酸銅(I)、2,2−ジメチルヘプタン酸銅(II)、デカン酸銅(I)、デカン酸銅(II)、8−メチルノナン酸銅(I)、8−メチルノナン酸銅(II)、2−メチルノナン酸銅(I)、2−メチルノナン酸銅(II)、2,2−ジメチルオクタン酸銅(I)、2,2−ジメチルオクタン酸銅(II)、ウンデカン酸銅(I)、ウンデカン酸銅(II)、9−メチルデカン酸銅(I)、9−メチルデカン酸銅(II)、2−メチルデカン酸銅(I)、2−メチルデカン酸銅(II)、2,2−ジメチルノナン酸銅(I)、2,2−ジメチルノナン酸銅(II)、安息香酸銅(I)、安息香酸銅(II)、2−フェニル酢酸銅(I)、2−フェニル酢酸銅(II)、2‐メチル安息香酸銅(I)、2‐メチル安息香酸銅(II)、3‐メチル安息香酸銅(I)、3‐メチル安息香酸銅(II)4‐メチル安息香酸銅(I)、4‐メチル安息香酸銅(II)、2,3−ジメチル安息香酸銅(I)、2,3−ジメチル安息香酸銅(II)、2,4−ジメチル安息香酸銅(I)、2,4−ジメチル安息香酸銅(II)、2,5−ジメチル安息香酸銅(I)、2,6−ジメチル安息香酸銅(II)、2,6−ジメチル安息香酸銅(II)、2−フェニル安息香酸銅(I)、2−フェニル安息香酸銅(II)、3−フェニル安息香酸銅(I)、3−フェニル安息香酸銅(II)4−フェニル安息香酸銅(I)、4−フェニル安息香酸銅(II)、1−ナフトエ酸銅(I)、1−ナフトエ酸銅(II)、2−ナフトエ酸銅(I)、2−ナフトエ酸銅(II)、アクリル酸銅(I)、アクリル酸銅(II)、3−ブテン酸銅(I)、3−ブテン酸銅(II)、4−ペンテン酸銅(I)、4−ペンテン酸銅(II)、5−ヘキセン酸銅(I)、5−ヘキセン酸銅(II)、6−ヘプテン酸銅(I)、6−ヘプテン酸銅(II)、7−オクテン酸銅(I)、7−オクテン酸銅(II)、8−ノネン酸銅(I)、8−ノネン酸銅(II)、9−デセン酸銅(I)、9−デセン酸銅(II)、10−ウンデセン酸銅(I)、10−ウンデセン酸銅(II)、11−ドデセン酸銅(I)、11−ドデセン酸銅(II)、プロピオール酸銅(I)、プロピオール酸銅(II)、エチニル酢酸銅(I)、エチニル酢酸銅(II)、4−ペンチン酸銅(I)、4−ペンチン酸銅(II)、5−ヘキシン酸銅(I)、5−ヘキシン酸銅(II)、6−ヘプチン酸銅(I)、6−ヘプチン酸銅(II)、7−オクチン酸銅(I)、7−オクチン酸銅(II)などが例示できる。また例えば、前記式(B)で表される構造からなるカルボン酸として、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、マレイン酸、フマル酸、フタル酸などが例示できる。カルボン酸銅化合物として具体的には、シュウ酸銅(I)、シュウ酸銅(II)、マロン酸銅(I)、マロン酸銅(II)、コハク酸銅(I)、コハク酸銅(II)、グルタル酸銅(I)、グルタル酸銅(II)、アジピン酸銅(I)、アジピン酸銅(II)、マレイン酸銅(I)、マレイン酸銅(II)、フマル酸銅(I)、フマル酸銅(II)、フタル酸銅(I)、フタル酸銅(II)などが例示できる。本発明におけるカルボン酸銅の作用機構は現時点不明であるが、加熱による分解反応時に生成した銅化合物が環式ポリアリーレンスルフィド構造との相互作用を生じやすいため、と考えている。
中でも、カルボン酸銅化合物の構造中に炭素−炭素間の多重結合を含まないカルボン酸銅化合物では、前記した銅化合物の生成以外の反応が生じにくい傾向にあると考えられ、Rは水素、炭素数1〜12のアルキル基、または前記式(A)で表される構造のうちmが0である構造から選ばれる置換基であることがより好ましい。例えば、Rが水素であるギ酸、Rが炭素数1〜12のアルキル基である、酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、2−メチル酪酸、ピバル酸、ヘキサン酸、4−メチル吉草酸、2,2−ジメチル酪酸、2,4−ジメチル吉草酸、2,2−ジメチル吉草酸、カプリル酸、イソカプリル酸、2−メチルヘプタン酸、2,2−ジメチルヘキサン酸、ノナン酸、7−メチルオクタン酸、2−メチルオクタン酸、2,2−ジメチルヘプタン酸、デカン酸、8−メチルノナン酸、2−メチルノナン酸、2,2−ジメチルオクタン酸、ウンデカン酸、9−メチルデカン酸、2−メチルデカン酸、2,2−ジメチルノナン酸、前記式(A)で表される構造からなるカルボン酸として、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸などが例示できる。カルボン酸銅化合物としては、ギ酸銅(I)、ギ酸銅(II)、酢酸銅(I)、酢酸銅(II)、プロピオン酸銅(I)、酪酸銅(I)、酪酸銅(II)、イソ酪酸銅(I)、イソ酪酸銅(II)、吉草酸銅(I)、吉草酸銅(II)、イソ吉草酸銅(I)、イソ吉草酸銅(II)2−メチル酪酸銅(I)、2−メチル酪酸銅(II)、ピバル酸銅(I)、ピバル酸銅(II)、ヘキサン酸銅(I)、ヘキサン酸銅(II)、4−メチル吉草酸銅(I)、4−メチル吉草酸銅(II)、2,2−ジメチル酪酸銅(I)、2,2−ジメチル酪酸銅(II)、2,4−ジメチル吉草酸銅(I)、2,4−ジメチル吉草酸銅(II)、2,2−ジメチル吉草酸銅(I)、2,2−ジメチル吉草酸銅(II)、カプリル酸銅(I)、カプリル酸銅(II)、イソカプリル酸銅(I)、イソカプリル酸銅(II)、2−メチルヘプタン酸銅(I)、2−メチルヘプタン酸銅(II)、2,2−ジメチルヘキサン酸銅(I)、2,2−ジメチルヘキサン酸銅(II)、ノナン酸銅(I)、ノナン酸銅(II)、7−メチルオクタン酸銅(I)、7−メチルオクタン酸銅(II)、2−メチルオクタン酸銅(I)、2−メチルオクタン酸銅(II)、2,2−ジメチルヘプタン酸銅(I)、2,2−ジメチルヘプタン酸銅(II)、デカン酸銅(I)、デカン酸銅(II)、8−メチルノナン酸銅(I)、8−メチルノナン酸銅(II)、2−メチルノナン酸銅(I)、2−メチルノナン酸銅(II)、2,2−ジメチルオクタン酸銅(I)、2,2−ジメチルオクタン酸銅(II)、ウンデカン酸銅(I)、ウンデカン酸銅(II)、9−メチルデカン酸銅(I)、9−メチルデカン酸銅(II)、2−メチルデカン酸銅(I)、2−メチルデカン酸銅(II)、2,2−ジメチルノナン酸銅(I)、2,2−ジメチルノナン酸銅(II)、シュウ酸銅(I)、シュウ酸銅(II)、マロン酸銅(I)、マロン酸銅(II)、コハク酸銅(I)、コハク酸銅(II)、グルタル酸銅(I)、グルタル酸銅(II)、アジピン酸銅(I)、アジピン酸銅(II)が例示できる。
さらに、カルボン酸銅におけるカルボン酸構造中の炭素数が少ない方が、添加した銅原子量に対する環式ポリアリーレンスルフィドを加熱した際の環式ポリアリーレンスルフィドの熱劣化による溶融粘度の増加を抑制し、各種樹脂に対する流動性向上効果を維持する傾向にあり、前記した銅化合物の生成以外の反応が生じにくい傾向にあると考えられ、Rは水素、メチル基、エチル基、または、前記式(A)で表される構造のうちk、nが0である構造から選ばれる置換基であることがより好ましい。例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、シュウ酸などが例示できる。カルボン酸銅化合物としては、ギ酸銅(I)、ギ酸銅(II)、酢酸銅(I)、酢酸銅(II)、プロピオン酸銅(I)、プロピオン酸銅(II)、シュウ酸銅(I)、シュウ酸銅(II)などが例示できる。
前記したカルボン酸銅化合物の中でも、ギ酸銅および酢酸銅が、加熱による分解反応時に生成した銅化合物が環式ポリアリーレンスルフィド構造との相互作用を生じやすい傾向にあるためより好ましい。
銅原子は理論的に−II、−I、0、I、II、III、IV価の価数状態を取りうることが知られており、ここで、カルボン酸銅化合物の価数は、I〜IV価の価数を有する銅化合物が挙げられるが、銅化合物の安定性、取り扱いの容易さ、入手のしやすさ等から、本発明におけるカルボン酸銅化合物としては、I価、II価の銅化合物が好ましく用いられ、その中でも特にII価の銅化合物が好ましい。II価の銅化合物の方が安定であることに加えて、発明におけるカルボン酸銅化合物の作用機構は現時点不明であるが、II価の銅化合物の加熱による分解反応時に生成した銅化合物が環式ポリアリーレンスルフィド構造との相互作用を生じやすいため、と考えている。
本発明では、一般式で示されるカルボン酸構造と銅とからなるカルボン酸銅を添加することが特徴であり、カルボン酸銅を原料として添加してもよいし、系内でカルボン酸銅を生成させてもよい。また、1種単独で用いてもよいし2種以上併用してもよい。ここで後者のように系内でカルボン酸銅を生成させるには、例えば一般的な溶液中でのカルボン酸銅合成方法で用いられるような、例えば硫酸塩、硝酸塩、ハロゲン化物などの銅塩とカルボン酸とから生成させる方法などが挙げられる。
銅原子の価数状態、銅原子と酸素原子の結合または配位状態などは、例えばX線吸収微細構造(XAFS)解析により把握が可能である。本発明において添加物として用いられるカルボン酸銅、または、カルボン酸銅を含む環式ポリアリーレンスルフィド、または、カルボン酸銅を含むポリアリーレンスルフィドに、X線を照射し、その吸収スペクトルを比較することで把握できる。
使用するカルボン酸銅の銅原子の濃度は、環式ポリアリーレンスルフィドの組成やカルボン酸銅の種類により異なるが、通常、下限としては、環式ポリアリーレンスルフィド中の硫黄原子に対して、環式ポリアリーレンスルフィド組成物の熱安定性向上の観点からは、0.01モル%以上が好ましく、より好ましくは0.1モル%以上が例示できる。一方、上限としては、環式ポリアリーレンスルフィド中の硫黄原子に対して、環式ポリアリーレンスルフィドの流動性向上効果および加熱時に発生するガス成分の観点からは、20モル%以下が好ましく、より好ましくは15モル%以下、さらに好ましくは10モル%以下が例示できる。20モル%以下では前述した特性を有する環式ポリアリーレンスルフィド組成物を得ることができる。ここでいうカルボン酸銅の濃度とは、カルボン酸銅を原料として添加する場合は、カルボン酸銅の銅原子の濃度をいう。一方、系内でカルボン酸銅を生成させる場合は、原料として添加する銅塩などの銅原子の濃度をいう。
カルボン酸銅、系内でカルボン酸銅を生成させるため銅塩の添加に際しては、そのまま添加してもよいが、環式ポリアリーレンスルフィド中に均一に分散させることが好ましい。均一に分散させる方法として、例えば機械的に分散させる方法、溶媒を用いて分散させる方法、環式ポリアリーレンスルフィドを溶融し分散させる方法、あらかじめ溶融混練機などの装置内に分散させる方法、などが挙げられる。
機械的に分散させる方法として、具体的には粉砕機、撹拌機、混合機、振とう機、乳鉢を用いる方法などが例示できる。
溶媒を用いて分散させる方法として、具体的には環式ポリアリーレンスルフィドを適宜な溶媒に溶解または分散し、これにカルボン酸銅を所定量加えた後、溶媒を除去する方法などが例示できる。
環式ポリアリーレンスルフィドを溶融し分散させる方法としては、固体状態の環式ポリアリーレンスルフィドにカルボン酸銅を添加した後、加熱により環式ポリアリーレンスルフィドを溶融させる方法、あらかじめ環式ポリアリーレンスルフィドを溶融した後にカルボン酸銅を添加する方法などが例示できる。
あらかじめ溶融混練機などの装置内に分散させる方法としては、そのまま分散させる方法、適宜な溶媒にカルボン酸銅を所定量加えた後、溶融混練機などの装置内で溶媒を除去することで分散させる方法などが例示できる。
また、2種以上の化合物を添加する場合には、添加する化合物の安定性にもよるが、一度に添加してもよいし、別々に添加した後に、溶融混練機などの装置内外で混合してもよい。
また、カルボン酸銅化合物が固体である場合、より均一な分散が可能となるため、それらの平均粒径は1mm以下であることが好ましい。
また、本発明で用いるカルボン酸銅化合物の種類とその安定性にもよるが、非酸化性雰囲気下または大気中で添加することができる。非酸化性雰囲気とは環式ポリアリーレンスルフィド、およびカルボン酸銅化合物、銅塩が接する気相における酸素濃度が5体積%以下、好ましくは2体積%以下、さらに好ましくは酸素を実質的に含有しない雰囲気、すなわち窒素、ヘリウム、アルゴンなどの不活性ガス雰囲気であることを指し、経済性及び取扱いの容易さの面からは窒素雰囲気が好ましい。大気中とは、酸素濃度21体積%程度の一般的な組成の雰囲気であることを指す。
カルボン酸銅、系内でカルボン酸銅を生成させるための銅塩を添加する際の温度は、添加に用いる方法が実施可能な温度範囲であれば特に制限はないが、上限としては、環式ポリアリーレンスルフィドがポリアリーレンスルフィドへ転化しにくい温度領域であることが好ましく、例えば300℃以下、好ましくは260℃以下、より好ましくは240℃以下、さらに好ましくは220℃以下、よりいっそう好ましくは200℃以下、さらにいっそう好ましくは180℃以下が例示できる。また、使用するカルボン酸銅の種類によって異なるが、カルボン酸銅が環式ポリアリーレンスルフィドのポリアリーレンスルフィドへの転化を促進しにくい温度領域であることが好ましい。
<本発明の環式ポリアリーレンスルフィド組成物の熱安定性とガス発生量>
本発明の環式ポリアリーレンスルフィド組成物が、各種熱可塑性樹脂に配合され溶融加工時に安定な流動性向上効果を発現するためには、溶融加工温度に加熱された際にも環式ポリアリーレンスルフィド組成物の粘度が低く、高い流動性向上効果を有することが好ましい。そのためには溶融加工温度に加熱された際に、環式ポリアリーレンスルフィド組成物中に含まれる環式ポリアリーレンスルフィドがポリアリーレンスルフィドに転化しないことが好ましい。
環式ポリアリーレンスルフィド組成物が、溶融加工時に安定な流動性向上効果を発現するために好ましい溶融粘度としては、各種樹脂の種類、各種樹脂に対する環式ポリアリーレンスルフィド組成物の配合量及び環式ポリアリーレンスルフィド組成物の組成により異なるが、例えば環式ポリアリーレンスルフィド組成物を300℃で60分間加熱した際の、加熱後の環式ポリアリーレンスルフィド組成物を300℃、剪断速度200s−1で測定した溶融粘度が10Pa・s以下であることが好ましい範囲として例示できる。より好ましくは1Pa・s以下、さらに好ましくは0.1Pa・s以下であり、このような範囲であれば、環式ポリアリーレンスルフィド組成物は高い流動性向上効果を発現する傾向にある。
また、環式ポリアリーレンスルフィド組成物の溶融粘度が上記のような範囲にあるためには、環式ポリアリーレンスルフィド組成物中に含まれる環式ポリアリーレンスルフィドが溶融加工温度に加熱された際にポリアリーレンスルフィドに転化せず安定に存在することが好ましい。
環式ポリアリーレンスルフィド組成物の溶融粘度が上記のような範囲にあるために好ましい環式ポリアリーレンスルフィド組成物の熱安定性を示す指標としては、環式ポリアリーレンスルフィド組成物の組成により異なるが、例えば環式ポリアリーレンスルフィド組成物を300℃で60分間加熱した際の、加熱後の環式ポリアリーレンスルフィド組成物中に含まれる環式ポリアリーレンスルフィド量の、加熱前の環式ポリアリーレンスルフィド組成物中に含まれる環式ポリアリーレンスルフィド量に対する割合(環式ポリアリーレンスルフィド残存率)が70%以上であることが好ましい範囲として例示できる。より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上であり、このような範囲であれば、環式ポリアリーレンスルフィド組成物は高い流動性向上効果を発現する傾向にある。環式ポリアリーレンスルフィド残存率は、加熱前の原料に含まれる環式ポリアリーレンスルフィドの重量、および、加熱により得られる生成物に含まれる未反応の環式ポリアリーレンスルフィドの重量を、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて定量し、その値から算出することができる。具体的には、
残存率=未反応の環式ポリアリーレンスルフィドの重量/加熱前の原料に含まれる環式ポリアリーレンスルフィドの重量
のように算出することができる。
本発明の環式ポリアリーレンスルフィド組成物は、公知の亜リン酸金属塩や次亜リン酸金属塩などの添加剤を使用しないことなどから、溶融加工時のガス発生量が少ない特長を有する。このガス発生量は、一般的な熱重量分析によって求められる、下記式で表される、加熱した際の重量減少率ΔMr300から評価できる。
ΔMr300=(M1−M2)/M1×100≦0.35(%)
なお、ΔMr300は常圧の非酸化性雰囲気下で50℃から300℃温度まで昇温速度20℃/分で昇温し、300℃で30分保持する熱重量分析を行った際に、300℃到達時点の試料重量(M1)を基準とした300℃到達後20分後の試料重量(M2)から求められる値である。
この熱重量分析における雰囲気は常圧の非酸化性雰囲気を用いる。非酸化性雰囲気とは試料が接する気相における酸素濃度が5体積%以下、好ましくは2体積%以下、さらに好ましくは酸素を実質的に含有しない雰囲気、即ち窒素、ヘリウム、アルゴンなどの不活性ガス雰囲気であることを指し、この中でも特に経済性及び取り扱いの容易さの面からは窒素雰囲気が特に好ましい。また、常圧とは大気の標準状態近傍における圧力のことであり、約25℃近傍の温度、絶対圧で101.3kPa近傍の大気圧条件のことである。測定の雰囲気が前記以外では、測定中の環式ポリアリーレンスルフィドの酸化などが起こり、実際に環式ポリアリーレンスルフィド組成物を添加剤に用いた樹脂の成形加工で用いられる雰囲気と大きく異なるなど、環式ポリアリーレンスルフィド組成物の実使用に即した測定になり得ない可能性が生じる。
また、ΔMr300の測定においては50℃から300℃まで昇温速度20℃/分で昇温して熱重量分析を行う。好ましくは50℃で1分間ホールドした後に昇温速度20℃/分で昇温して熱重量分析を行う。この温度範囲はポリフェニレンスルフィドに代表されるポリアリーレンスルフィドを実使用する際に頻用される温度領域であり、また、固体状態のポリアリーレンスルフィドを溶融させ、その後任意の形状に成形する際に頻用される温度領域でもある。このような実使用温度領域における重量減少率は、実使用時のポリアリーレンスルフィドからのガス発生量や成形加工の際の口金や金型などへの付着成分量などに関連する。従って、このような温度範囲における重量減少率が少ない環式ポリアリーレンスルフィド組成物の方が良流動化材としての品質の高い優れた環式ポリアリーレンスルフィド組成物であるといえる。
ΔMr300の測定は約10mg程度の試料量で行うことが望ましく、またサンプルの形状は約2mm以下の細粒状であることが望ましい。
本発明の環式ポリアリーレンスルフィド組成物は上記にて加熱した際の重量減少率ΔMr300は使用するカルボン酸銅化合物の濃度ならびにカルボン酸銅化合物の種類により異なるが、0.35%以下であることが好ましく、0.30%以下がより好ましい。
ΔMr300が前記範囲内の場合は、例えば、環式ポリアリーレンスルフィド組成物を添加剤に用いたポリアリーレンスルフィドを成形加工する際に発生ガス量が少なくなる傾向があり、押出成形時の口金やダイスおよび射出成形時の金型への付着物を低減する傾向となり、成型加工性が高くなるため望ましい。
<本発明の環式ポリアリーレンスルフィド組成物を配合した樹脂組成物>
本発明の環式ポリアリーレンスルフィド組成物は、各種樹脂に配合して用いることが可能であり、このような高い熱安定性を有する環式ポリアリーレンスルフィド組成物を配合した樹脂組成物は、溶融加工時の優れた流動性を発現し、かつ流動性向上効果が安定に維持される傾向にある。このような安定な流動性向上効果は、樹脂組成物を溶融加工する際の加熱温度が低くても溶融加工性に優れるという特徴を発現するため、射出成形品や繊維、フィルムなどの押出成形品に加工する際の溶融加工性の向上をもたらす点で大きなメリットとなる。環式ポリアリーレンスルフィド組成物を配合した際にこの様な特性の向上が発現する理由は定かではないが、環式ポリアリーレンスルフィドの構造の特異性、すなわち環状構造であるために通常の線状化合物と比較してコンパクトな構造をとりやすいため、マトリックスである各種樹脂との絡み合いが少なくなりやすいこと、各種樹脂に対して可塑剤として作用すること、またマトリックス樹脂どうしの絡み合い抑制にも奏効するためと推測している。
環式ポリアリーレンスルフィド組成物を配合する各種樹脂に特に制限はなく、結晶性樹脂及び非晶性樹脂の熱可塑性樹脂、また熱硬化性樹脂にも適用が可能である。
ここで結晶性樹脂の具体例としては例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、シンジオタクチックポリスチレンなどのポリオレフィン系樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリケトン樹脂、ポリイミド樹脂及びこれらの共重合体などが挙げられ、1種または2種以上併用してもよい。中でも、耐熱性、成形性、流動性及び機械特性の点で、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂が好ましい。また、得られる成形品の透明性の面からはポリエステル樹脂が好ましい。各種樹脂として結晶性樹脂を用いる場合は、上述した流動性の向上の他に結晶化特性も向上する傾向がある。また、各種樹脂としてポリフェニレンスルフィド樹脂を用いることも特に好ましく、この場合、流動性の向上と共に、結晶性の向上、さらにはこれらが奏効した効果として射出成形時のバリ発生が顕著に抑制されるという特徴が発現しやすい傾向にある。
非晶性樹脂としては非晶性を有する溶融成形可能な樹脂であれば、特に限定されないが、耐熱性の点で、ガラス転移温度が50℃以上であることが好ましく、60℃以上であることがより好ましく、70℃以上であることがさらに好ましく、80℃以上であることが特に好ましい。上限は、特に限定されないが、成形性などの点から300℃以下であることが好ましく、280℃以下であることがより好ましい。なお、本発明において、非晶性樹脂のガラス転移温度は、示差熱量測定において非晶性樹脂を30℃〜予測されるガラス転移温度以上まで、20℃/分の昇温条件で昇温し1分間保持した後、20℃/分の降温条件で0℃まで一旦冷却し、1分間保持した後、再度20℃/分の昇温条件で測定した際に観察されるガラス転移温度(Tg)を指す。この具体例としては、非晶性ナイロン樹脂、ポリカーボネート(PC)樹脂、ポリアリレート樹脂、ABS樹脂、ポリ(メタ)アクリレート樹脂、ポリ(メタ)アクリレート共重合樹脂、ポリスルホン樹脂、およびポリエーテルスルホン樹脂から選ばれる少なくとも1種が例示でき、1種または2種以上併用してもよい。これら非晶性樹脂の中でも、特に高い透明性を有するポリカーボネート(PC)樹脂、ABS樹脂の中でも透明ABS樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリ(メタ)アクリレート樹脂、ポリ(メタ)アクリレート共重合樹脂、およびポリエーテルスルホン樹脂を好ましく使用することができる。各種樹脂として非晶性樹脂を用いる場合には、前述の溶融加工時の流動性向上に加えて、透明性に優れる非晶性樹脂を使用した場合においては、高い透明性を維持させることができるという特徴を発現できる。ここで、非晶性樹脂組成物に高い透明性を発現させたい場合には、環式ポリアリーレンスルフィド組成物として、環式ポリアリーレンスルフィドに含まれる前記(C)式の環式化合物が異なる繰り返し数を有する環式化合物の混合物である環式ポリアリーレンスルフィド組成物を用いることが好ましい。なお、環式ポリアリーレンスルフィド組成物として、環式ポリアリーレンスルフィドに含まれる前記(C)式の環式化合物が単一の繰り返し数を有する単独化合物であるものを用いる場合、このような環式ポリアリーレンスルフィド組成物は融点が高い傾向にあるため、非晶性樹脂と溶融混練する際に十分に溶融分散せずに樹脂中に凝集物となり透明性が低下する傾向にあるが、前述したように環式ポリアリーレンスルフィド組成物中の環式ポリアリーレンスルフィドに含まれる前記(C)式のqが異なる繰り返し数を有する環式化合物の混合物である環式ポリアリーレンスルフィド組成物はその融解温度が低い傾向にあり、このことは溶融混練時の均一性の向上に効果的である。ここで、本発明の環式ポリアリーレンスルフィド組成物中の環式ポリアリーレンスルフィドに含まれる前記(C)式の環式化合物は、異なる繰り返し数を有する環式化合物の混合物であるため、高い透明性を有する非晶性樹脂組成物を得たい場合に特に有利である。
各種樹脂に対する、本発明の環式ポリアリーレンスルフィド組成物を配合した樹脂組成物中の環式ポリアリーレンスルフィド量により、流動性向上効果の発現が依存する傾向にある。このため、各種樹脂に対する、本発明の環式ポリアリーレンスルフィド組成物を配合した樹脂組成物中の環式ポリアリーレンスルフィド量によって、環式ポリアリーレンスルフィド組成物を各種樹脂に配合する際の配合量が規定される。各種樹脂100重量部に対して、本発明の環式ポリアリーレンスルフィド組成物を配合した樹脂組成物中の環式ポリアリーレンスルフィド量の下限は、0.1重量部以上であることが好ましく、0.5重量部以上であることがより好ましく、1重量部以上であることがさらに好ましく、5重量部以上であることがよりいっそう好ましい。上記範囲の場合、十分な流動性向上効果を発現する。上限としては、50重量部以下であることが好ましく、20重量部以下であることがより好ましく、10重量部以下であることがさらに好ましい。上記範囲の場合は、樹脂そのものの特性を低下させることなく、また樹脂組成物の過度の粘度低下を招くことがないため、成形加工性も良好となる。
また、ポリフェニレンスルフィド樹脂への環式ポリアリーレンスルフィド組成物の配合に関して、ポリフェニレンスルフィド樹脂はその製造における重合時に副生成物として生成する環式ポリフェニレンスルフィドを含有しているが、一般的な方法で得られるポリフェニレンスルフィド中に含まれる環式ポリフェニレンスルフィド量は通常5重量%未満と少なく、重合時に副生する環式ポリフェニレンスルフィド量だけではポリフェニレンスルフィド樹脂の流動性向上効果は不十分である。
ポリフェニレンスルフィド樹脂への環式ポリアリーレンスルフィド組成物の配合に関して、ポリフェニレンスルフィド樹脂100重量部に対して、本発明の環式ポリアリーレンスルフィド組成物を配合した樹脂組成物中の環式ポリアリーレンスルフィド量の下限は、0.1重量部以上であることが好ましく、0.5重量部以上であることがより好ましく、1重量部以上であることがさらに好ましく、5重量部以上であることがよりいっそう好ましいが、十分な流動性向上効果を発現するためには、一般的な方法で得られるポリフェニレンスルフィド中に含まれる環式ポリフェニレンスルフィド量と環式ポリアリーレンスルフィド組成物中に含まれる環式ポリアリーレンスルフィド量との合計が、5重量%以上となることがさらにいっそう好ましい。
また、上記樹脂組成物には必要に応じてさらに繊維状及び/または非繊維状の充填材を配合することも可能であり、その配合量は前記各種樹脂100重量部に対して0.5〜400重量部、好ましくは0.5〜300重量部、より好ましくは1〜200重量部、さらに好ましくは1〜100重量部の範囲が例示でき、これにより優れた流動性を維持しつつ機械的強度が向上できる傾向にある。充填剤の種類としては、繊維状、板状、粉末状、粒状などのいずれの充填剤も使用することができる。これら充填剤の好ましい具体例としてはガラス繊維、タルク、ワラステナイト、及びモンモリロナイト、合成雲母などの層状珪酸塩が例示でき、特に好ましくはガラス繊維である。ガラス繊維の種類は、一般に樹脂の強化用に用いるものなら特に限定はなく、例えば長繊維タイプや短繊維タイプのチョップドストランド、ミルドファイバーなどから選択して用いることができる。また、上記の充填剤は2種以上を併用して使用することもできる。なお、本発明に使用する上記の充填剤はその表面を公知のカップリング剤(例えば、シラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤など)、その他の表面処理剤で処理して用いることもできる。また、ガラス繊維はエチレン/酢酸ビニル共重合体などの熱可塑性樹脂、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂で被覆あるいは集束されていてもよい。
また、樹脂組成物の酸化防止のために、フェノール系化合物などの中から選ばれた1種以上の酸化防止剤を含有せしめることも可能である。かかる酸化防止剤の配合量は、酸化防止効果の点から前記各種樹脂100重量部に対して、0.01重量部以上、特に0.02重量部以上であることが好ましく、成形時に発生するガス成分の観点からは、5重量部以下、特に1重量部以下であることが好ましい。
さらに、前記樹脂組成物には以下のような化合物、すなわち、有機チタネート系化合物、有機ボラン系化合物などのカップリング剤、ポリアルキレンオキサイドオリゴマ系化合物、チオエーテル系化合物、エステル系化合物、有機リン系化合物などの可塑剤、タルク、カオリン、有機リン系化合物、ポリエーテルエーテルケトンなどの結晶核剤、モンタン酸ワックス類、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸アルミなどの金属石鹸、エチレンジアミン・ステアリン酸・セバシン酸重縮合物、シリコーン系化合物などの離型剤、次亜リン酸塩などの着色防止剤、その他、滑剤、紫外線防止剤、着色剤、難燃剤、発泡剤などの通常の添加剤を配合することができる。上記化合物はいずれも前記各種樹脂100重量部に対して20重量部未満、好ましくは10重量部以下、さらに好ましくは1重量部以下の添加でその効果が有効に発現する傾向にある。
上記のごとき環式ポリアリーレンスルフィド組成物を配合してなる樹脂組成物を製造する方法は特に限定されるものではないが、例えば環式ポリアリーレンスルフィド組成物、各種樹脂及び必要に応じてその他の充填材や各種添加剤を予めブレンドした後、各種樹脂及び環式ポリアリーレンスルフィドの融点以上において一軸または二軸押出機、バンバリーミキサー、ニーダー、ミキシングロールなどの通常公知の溶融混合機で溶融混練する方法、溶液中で混合した後に溶媒を除く方法などが用いられる。ここで環式ポリアリーレンスルフィド組成物として、環式ポリアリーレンスルフィドに含まれる前記(C)式の環式化合物が単一の繰り返し数を有する単独化合物であるものを用いる場合や、異なる繰り返し数を有する環式化合物の混合物であるものであっても結晶性が高く融点が高いものを用いる場合は、環式ポリアリーレンスルフィド組成物を環式ポリアリーレンスルフィド組成物が溶解する溶媒に予め溶解して供給し溶融混練の際に溶媒を除去する方法、環式ポリアリーレンスルフィド組成物をその融点以上で一旦溶解した後に急冷することで結晶化を抑え、非晶状としたものを供給する方法、あるいはプリメルターを環式ポリアリーレンスルフィド組成物の融点以上に設定し、プリメルター内で環式ポリアリーレンスルフィド組成物のみを溶融させ、融液として供給する方法などを採用することができる。
上記で得られる、各種樹脂に環式ポリアリーレンスルフィド組成物を配合した樹脂組成物は通常公知の射出成形、押出成形、ブロー成形、プレス成形、紡糸などの任意の方法で成形することができ、各種成形品に加工し利用することができる。成形品としては、射出成形品、押出成形品、ブロー成形品、フィルム、シート、繊維などとして利用できる。またこれにより得られた各種成形品は、自動車部品、電気・電子部品、建築部材、各種容器、日用品、生活雑貨及び衛生用品など各種用途に利用することができる。また、上記樹脂組成物及びそれからなる成形品は、リサイクルすることが可能である。例えば、樹脂組成物及びそれからなる成形品を粉砕し、好ましくは粉末状とした後、必要に応じて添加剤を配合して得られる樹脂組成物は、上記樹脂組成物と同じように使用でき、成形品とすることも可能である。
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。これら例は例示的なものであって限定的なものではない。
<1>環式ポリアリーレンスルフィド組成物の特性の評価
<環式ポリアリーレンスルフィド量の測定>
環式ポリアリーレンスルフィド組成物中の環式ポリアリーレンスルフィド量の定量は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて下記方法で行った。
環式ポリアリーレンスルフィド組成物の加熱により得られた生成物約10mgを250℃で1−クロロナフタレン約5gに溶解させた。室温に冷却すると沈殿が生成した。孔径0.45μmのメンブランフィルターを用いて1−クロロナフタレン不溶成分を濾過し、1−クロロナフタレン可溶成分を得た。得られた可溶成分のHPLC測定により、残存の環式ポリアリーレンスルフィド量を定量し、環式ポリアリーレンスルフィドの残存率を算出した。HPLCの測定条件を以下に示す。
装置:島津株式会社製 LC−10Avpシリーズ
カラム:Mightysil RP−18 GP150−4.6(5μm)
検出器:フォトダイオードアレイ検出器(UV=270nm)。
<赤外分光分析>
装置 :Perkin Elmer System 2000 FT−IR
サンプル調製:KBr法。
<分子量の測定>
環式ポリアリーレンスルフィド組成物の分子量はサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)の一種であるゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、ポリスチレン換算で数平均分子量(Mn)と重量平均分子量(Mw)を算出した。GPCの測定条件を以下に示す。
装置:センシュー科学 SSC−7110
カラム名:Shodex UT806M×2
溶離液:1−クロロナフタレン
検出器:示差屈折率検出器
カラム温度:210℃
プレ恒温槽温度:250℃
ポンプ恒温槽温度:50℃
検出器温度:210℃
流量:1.0mL/min
試料注入量:300μL (スラリー状:約0.2重量%)。
<環式ポリアリーレンスルフィド組成物の加熱時重量減少率の測定>
環式ポリアリーレンスルフィド組成物の加熱時重量減少率は熱重量分析機を用いて下記条件で行った。なお、試料は2mm以下の細粒物を用いた。
装置:パーキンエルマー社製 TGA7
測定雰囲気:窒素気流下
試料仕込み重量:約10mg
測定条件
(a)プログラム温度50℃で1分保持
(b)プログラム温度50℃から300℃まで昇温。この際の昇温速度20℃/分
(c)300℃で30分保持
加熱した際の重量減少率ΔMr300は下式より求められる。
ΔMr300=(M1−M2)/M1×100(%)
なお、ΔMr300は常圧の非酸化性雰囲気下で50℃から300℃温度まで昇温速度20℃/分で昇温し、300℃で30分保持する熱重量分析を行った際に、300℃到達時点の試料重量(M1)を基準とした300℃到達後20分後の試料重量(M2)から求められる値である。
<溶融粘度の測定>
溶融粘度測定は、Physica MCR501を用いて、測定温度である300℃において、剪断速度を0.3〜210s−1まで段階的に昇速、その後降速した値を測定し、200s−1における昇速と降速の平均値を算出した。
参考例1 環式ポリアリーレンスルフィドの調製
攪拌機を具備したステンレス製オートクレーブに、水硫化ナトリウムの48重量%水溶液を28.06g(0.240モル)、96%水酸化ナトリウムを用いて調製した48重量%水溶液21.88g(0.252モル)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)615.0g(6.20モル)、及びp−ジクロロベンゼン(p−DCB)36.16g(0.246モル)を仕込んだ。反応容器内を十分に窒素置換した後、窒素ガス下に密封した。
400rpmで撹拌しながら、室温から200℃まで約1時間かけて昇温した。次いで200℃から250℃まで約30分かけて昇温した。250℃で2時間保持した後、室温近傍まで急冷してから内容物を回収した。
得られた内容物500gを約1500gのイオン交換水で希釈したのちに平均目開き10〜16μmのガラスフィルターで濾過した。フィルターオン成分を約300gのイオン交換水に分散させ、70℃で30分攪拌し、再度前記同様の濾過を行う操作を計3回行い、白色固体を得た。これを80℃で一晩真空乾燥し、乾燥固体を得た。
得られた固形物を円筒濾紙に仕込み、溶剤としてクロロホルムを用いて約5時間ソックスレー抽出を行うことで固形分に含まれる低分子量成分を分離した。
クロロホルム抽出操作にて得られた抽出液から溶媒を除去した後、約5gのクロロホルムを加えてスラリーを調製し、これを約600gのメタノールに攪拌しながら滴下した。これにより得られた沈殿物を濾過回収し、70℃で5時間真空乾燥を行い、白色粉末を得た。この白色粉末は赤外分光分析における吸収スペクトルよりフェニレンスルフィド単位からなる化合物であることを確認した。また、、高速液体クロマトグラフィーおよび高速液体クロマトグラフィーにより成分分割した成分のマススペクトル分析(装置;日立製M−1200H)による分子量情報より、この白色粉末はp−フェニレンスルフィド単位を主要構成単位とし繰り返し単位数4〜13の環式化合物を約96重量%含み、本発明の環式ポリアリーレンスルフィド組成物に好適に用いられる環式ポリフェニレンスルフィドであることが判明した。なお、GPC測定を行った結果、環式ポリフェニレンスルフィドは室温で1−クロロナフタレンに全溶であり、重量平均分子量は900であった。300℃、剪断速度200s―1で測定した環式ポリフェニレンスルフィドの溶融粘度は0.1Pa・s以下(0.01Pa・s)であり十分に低粘度であった。
実施例1
参考例1で得られた環式ポリフェニレンスルフィドに、ギ酸銅(II)4水和物(和光純薬工業製、表中にCu(HCOO)2・4H2Oと記載、以下同様)を環式ポリフェニレンスルフィド中の硫黄原子に対して1モル%混合し環式ポリアリーレンスルフィド組成物を得た。環式ポリフェニレンスルフィド組成物の熱安定性を評価するために、この粉末300mgをガラス製アンプルに仕込み、アンプル内を窒素で置換した後、真空ポンプを用いて約0.4kPaに減圧した。約0.4kPaに減圧してから約10秒後、300℃に温調した電気炉内にアンプルを設置し、真空ポンプによってアンプル内を約0.4kPaに保ちながら60分間加熱した後、アンプルを取り出し室温まで冷却し、黒色固体を得た。固体は1−クロロナフタレンに250℃で一部不溶であったが、不溶部はフェニレンスルフィド構造からなる化合物ではなく銅化合物であった。HPLC測定の結果、環式ポリフェニレンスルフィド残存率は99%であることがわかった。300℃、剪断速度200s−1で測定した、得られた固体の溶融粘度は0.1Pa・s以下(0.01Pa・s)であった。ギ酸銅(II)4水和物を含有する環式ポリフェニレンスルフィド組成物の加熱時重量減少率の測定を行った結果、ΔMr300は0.23%であった。結果を表1に示した。
実施例2
酢酸銅(II)(和光純薬工業製、表中にCu(OAc)2と記載、以下同様)を環式ポリフェニレンスルフィド中の硫黄原子に対して1モル%混合したことに変更した以外は実施例1と同様の操作を行い、黒色固体を得た。固体は1−クロロナフタレンに250℃で一部不溶であったが、不溶部はフェニレンスルフィド構造からなる化合物ではなく銅化合物であった。HPLC測定の結果、環式ポリフェニレンスルフィド残存率は90%であることがわかった。300℃、剪断速度200s−1で測定した、得られた固体の溶融粘度は0.1Pa・s以下(0.02Pa・s)であった。酢酸銅(II)を含有する環式ポリフェニレンスルフィド組成物の加熱時重量減少率の測定を行った結果、ΔMr300は0.29%であった。結果を表1に示した。
比較例1
参考例1で得られた環式ポリフェニレンスルフィド300mgを、ガラス製アンプルに仕込み、アンプル内を窒素で置換した。300℃に温調した電気炉内にアンプルを設置し60分間加熱した後、アンプルを取り出し室温まで冷却し、茶色固体を得た。生成物は1−クロロナフタレンに250℃で全溶であった。HPLC測定の結果、環式ポリフェニレンスルフィド残存率は63%であった。300℃、剪断速度200s―1で測定した、得られた固体の溶融粘度は30Pa・sであった。結果を表1に示した。
実施例1〜2および比較例1の比較から、カルボン酸銅化合物を含む本発明の環式ポリアリーレンスルフィド組成物を加熱しても、熱劣化による溶融粘度の増加は認められず、高い熱安定性を有する環式ポリフェニレンスルフィド組成物であることがわかった。
比較例2
ギ酸ニッケル2水和物(和光純薬工業製、表中にNi(HCOO)2・2H2Oと記載)を環式ポリフェニレンスルフィド中の硫黄原子に対して1モル%混合したことに変更した以外は実施例1と同様の操作を行い、黒色固体を得た。固体の赤外分光分析における吸収スペクトルより、固体はフェニレンスルフィド単位からなる化合物(PPS)であることを確認した。固体は1−クロロナフタレンに250℃で一部不溶であったが、不溶部はフェニレンスルフィド構造からなる化合物ではなくニッケル化合物であった。HPLC測定の結果、環式ポリフェニレンスルフィド残存率は9%であった。300℃、剪断速度200s―1で測定した、得られた固体の溶融粘度は530Pa・sであった。結果を表1に示した。
比較例3
酢酸パラジウム(和光純薬工業製、表中にPd(OAc)2と記載)を環式ポリフェニレンスルフィド中の硫黄原子に対して0.5モル%混合したことに変更した以外は実施例1と同様の操作を行い、黒色固体を得た。生成物は1−クロロナフタレンに250℃で全溶であった。HPLC測定の結果、環式ポリフェニレンスルフィド残存率は43%であった。300℃、剪断速度200s―1で測定した、得られた固体の溶融粘度は43Pa・sであった。結果を表1に示した。
比較例4
4−クロロフェニル酢酸ナトリウム塩を環式ポリフェニレンスルフィド中の硫黄原子に対して1モル%混合したことに変更した以外は実施例1と同様の操作を行い、黒色固体を得た。生成物は1−クロロナフタレンに250℃で全溶であった。HPLC測定の結果、環式ポリフェニレンスルフィド残存率は50%であった。300℃、剪断速度200s―1で測定した、得られた固体の溶融粘度は58Pa・sであった。結果を表1に示した。
実施例1〜2および比較例2〜4の比較から、カルボン酸パラジウム化合物やカルボン酸ナトリウム化合物を含む環式ポリアリーレンスルフィド組成物は加熱による溶融粘度の増加を抑制する効果はなく、カルボン酸銅化合物を含む本発明の環式ポリアリーレンスルフィド組成物を加熱しても、熱劣化による溶融粘度の増加は認められず、高い熱安定性を有する環式ポリフェニレンスルフィド組成物であることがわかった。
比較例5
次亜リン酸ナトリウム(アルドリッチ社製、表中にNaH2PO2と記載)を環式ポリフェニレンスルフィド中の硫黄原子に対して1モル%混合したことに変更した以外は実施例1と同様の操作を行い、黄色固体を得た。生成物は1−クロロナフタレンに250℃で全溶であった。HPLC測定の結果、環式ポリフェニレンスルフィド残存率は91%であった。300℃、剪断速度200s―1で測定した、得られた固体の溶融粘度は0.1Pa・s以下(0.02Pa・s)であった。結果を表1に示した。次亜リン酸ナトリウムを含有する環式ポリフェニレンスルフィド組成物の加熱時重量減少率の測定を行った結果、ΔMr300は0.40%であった。結果を表1に示した。
比較例6
次亜リン酸カルシウム(和光純薬工業製、表中にCa(H2PO2)2と記載)を環式ポリフェニレンスルフィド中の硫黄原子に対して0.5モル%混合したことに変更した以外は実施例1と同様の操作を行い、黄色固体を得た。生成物は1−クロロナフタレンに250℃で全溶であった。HPLC測定の結果、環式ポリフェニレンスルフィド残存率は80%であった。300℃、剪断速度200s―1で測定した、得られた固体の溶融粘度は0.1Pa・s以下(0.08Pa・s)であった。結果を表1に示した。次亜リン酸カルシウムを含有する環式ポリフェニレンスルフィド組成物の加熱時重量減少率の測定を行った結果、ΔMr300は0.39%であった。結果を表1に示した。
実施例1〜2および比較例5〜6の比較から、カルボン酸銅化合物を含む本発明の環式ポリアリーレンスルフィド組成物を加熱時の重量減少量は、次亜リン酸塩化合物を含む環式ポリアリーレンスルフィド組成物の重量減少量よりも少ないことがわかった。