本発明は、結着樹脂、及び着色剤を含有するトナー粒子と、無機微粒子とを含有するトナーであって、
該トナーの熱伝導率が0.230W/(m・K)以上0.270W/(m・K)以下であり、
該トナーの流出開始温度Tr(℃)が80℃以上100℃以下であり、
該トナーの軟化温度Tn(℃)と該流出開始温度Trとの差が下記式(1)の関係を満たすことを特徴とする。
Tr−Tn≦30 (1)
本発明者らの検討によると、上記トナーを用いることにより、使用環境によらず安定して高画質な画像が得られ、特に定着時の飛び散りを抑制できるトナーを提供することが可能となることを見出した。この定着飛び散り良化のメカニズムについて、本発明者らは以下のように考えている。
定着時のトナーの推移を考えると、定着ニップの通過前には紙などのメディア上にトナーがある程度の厚みをもって層を形成している状態である。その後定着ニップを通過する際に、熱と圧によりトナー同士、またはトナーと紙が接着し、メディア上に固定される。
さらにニップ通過時を詳細に考えると、層を形成したトナーが、定着ニップ端に到達すると、除々に定着器からの熱を受け、定着ニップに完全に突入すると十分な熱が供給され、溶融、定着する。熱が伝わり始める定着ニップ端では、トナーに十分に熱が伝わらない場合、定着していないトナーが、トナー層の後端に押し出され、トナーが飛び散ってしまう。これにより、本来必要のない部分にトナーが存在し、画像のシャープ性が損なわれる。これが定着飛び散りと呼ばれる現象である。
特に、着色剤として磁性体を使用し、磁性一成分現像(以下、ジャンピング現像方式とも呼ぶ)の場合、スリーブ上でトナーが磁力により穂を形成し、その穂が感光体上に現像されるため、画像を形成するトナー層は厚く、不均一になりやすい傾向がある。
よって、定着ニップ端での熱の伝わり方も不利になり、定着飛び散りの観点でも厳しい状況となる。
本発明者らの検討の結果、本発明のトナーによれば、そのような厳しい状態においても定着飛び散りを大幅に抑制し、画像のシャープ性を向上できることが分かった。
ここで、定着器からトナーへの熱の伝わり方について再度考察してみる。
定着ニップにトナーが接触した瞬間から熱は伝わり、層を形成しているトナー間で熱が伝わり、変形するに十分な熱量が加わることでトナー間及びトナーとメディア間で接着する。本発明者らは、トナー定着ニップ部に接触し、熱が加わる最初の瞬間に着目し、素早くトナー間で熱を伝達し、且つ素早く溶融変形することが出来れば定着飛び散りを抑制できると考えた。
鋭意検討の結果、本発明においてはトナー中の磁性体の存在状態を制御し、且つトナーの溶融変形性を端的に表す流出開始温度及び軟化温度、さらにその関係を制御することが定着飛び散りを抑制するために重要であることが分かった。これは伝熱性の高い磁性体のような金属粉の存在状態はトナー間の熱伝導性を向上させるためには寄与が大きいことを示していると考えられる。
また流出開始温度は、後述するフローテスターによる測定においてトナーが溶融し、流出する温度であり、十分に熱が加わり、溶融する温度と考えられる。同じく、フローテスターによる測定において軟化温度とはトナーが変形し始める温度であり、即ち溶け始める温度と考えられる。ここで流出開始温度(Tr)と軟化温度(Tn)の差は、トナーが溶融し始めてから完全に溶融するまでに必要な熱量と相関するものと考えられ、つまりはトナーの変形性を表すものと考えられる。
つまり、磁性体の制御による熱伝導率の向上とトナーの変形性を表す流出開始温度(Tr)と軟化温度(Tn)の差を制御することで、素早い熱の伝達とそれに呼応できる変形性を有することが可能となる。それにより、定着ニップ部での少ない熱量においても、トナー間及びトナーと紙間で接着し、トナーがニップ部において押し出されず、定着飛び散りが抑制できるものと考えられる。
即ち、本発明においては、結着樹脂、及び着色剤を含有するトナー粒子と、無機微粒子とを含有するトナーであって、
該トナーの熱伝導率が0.230W/(m・K)以上0.270W/(m・K)以下であり、
該トナーの流出開始温度Tr(℃)が80℃以上100℃以下であり、
該トナーの軟化温度Tn(℃)と該流出開始温度Tr(℃)との差が下記式(1)の関係を満たすことが重要となる。
Tr−Tn≦30 (1)
トナーの熱伝導率が0.270W/(m・K)超では、トナーの熱伝導率が高いため、昇温に厳しい定着器端部などで融着が発生しやすいため、好ましくない。
また、流出開始温度Tr(℃)が80℃未満の場合、定着性は良好になるものの、耐久性に劣るため好ましくない。流出開始温度Tr(℃)が100℃超の場合、定着性に劣るため好ましくない。
また、トナーの軟化温度Tn(℃)と該流出開始温度Tr(℃)との差が30℃よりも大きくなる場合、トナーが軟化してから溶融するまでに必要な熱量が多いことを表しており、熱に対する溶融スピードが低いため、定着飛び散りに対し、所望の性能が得られない。
また上記してきた通り、熱伝導率の制御には磁性体の分散性の制御が重要となる。本発明においては、磁性体分散性の指標の一つである誘電正接tanδが1.0×10-2以上2.0×10-2以下であることが好ましい。
誘電正接tanδはトナー中、トナー間での磁性体の凝集性、分散性に関係し、値が小さい程粒子内及び粒子間で均一分散に近いと考えられる。一方で、本発明では磁性体の分散状態を粒子間では均一な存在状態ではあるものの、トナー一粒で考えると表面近傍に分散させて熱伝導率を高めている。本発明者らの検討の結果、誘電正接tanδは1.0×10-2以上2.0×10-2以下であることで、粒子間の磁性体の分散性が良好であり、且つ粒子内で表面近傍に存在しており、現像性、特にカブリと熱伝導率が良化するため好ましい。
また、本発明においては、トナーの磁場79.6kA/mにおける飽和磁化(σs)が、20.0Am2/kg以上30.0Am2/kg以下であり、残留磁化(σr)が1.5Am2/kg以上2.0Am2/kg以下であることが、スリーブ上でのトナーの穂立ちが良好であり、現像性が良好なため好ましい。
また、本発明のトナーに使用する磁性体は、磁性酸化鉄をシラン化合物により表面処理した処理磁性体であることが好ましい。これは磁性体の分散性を制御する際に好ましく用いられる懸濁重合法による製造の際に、磁性体を疎水化処理することが必要であるためである。磁性体の分散性について鋭意検討の結果、シラン化合物で処理することが好ましいことが分かった。具体的には懸濁重合法では、水系媒体中で磁性体を含む単量体組成物を分散して、造粒し、造粒された粒子中に含有される重合性単量体を重合するため、使用される磁性体は水系に露出しないように表面を疎水化処理する必要がある。これは通常未処理の磁性酸化鉄では、表面に水酸基等の官能基が存在するため、親水性が高いためである。
ここで、表面処理剤としては一般的にシラン化合物、チタネート化合物、アルミネート化合物等が知られているが、これらの表面処理剤はいずれも加水分解し、磁性酸化鉄表面の水酸基と縮合反応することで強固な化学結合を有し、疎水性を発揮する。しかし、加水分解したこれら化合物は自己縮合を生じてしまい、ポリマーやオリゴマーを生じ易いことが知られている。本発明者等が鋭意検討したところ、チタネート化合物やアルミネート化合物は加水分解後の自己縮合が生じ易く、磁性酸化鉄表面を均一に処理することが困難であった。これは、チタネート化合物やアルミネート化合物が有するチタンやアルミの活性が高いためであると考えられる。これに対し、シラン化合物は加水分解条件を制御することにより加水分解率を高めつつ自己縮合を抑制することが可能であり、磁性酸化鉄表面を均一に処理することが可能であった。これは、シラン化合物が有する珪素の活性がチタンやアルミに比して高くないためであると本発明者らは考えている。このため、シラン化合物を用いることが好ましい。
また、本発明に使用される磁性酸化鉄は、表面に珪素元素を有しており、該磁性酸化鉄を鉄元素の溶解率が5.00質量%になるまでに溶解したときに溶出する珪素の量が、該磁性酸化鉄を基準として0.05質量%以上0.50質量%以下であることが好ましい。
これは、磁性酸化鉄表面とシラン化合物との親和性が向上し、シラン化合物による処理の均一性がより向上するため考えている。また、磁性酸化鉄表面とシラン化合物の親和性が向上することにより、磁性酸化鉄表面に結合するシラン化合物の量が増加する。
上記の理由から、本発明においては磁性酸化鉄表面及びその近傍に珪素元素を特定量存在させることが重要である。具体的には、塩酸水溶液中に前記磁性酸化鉄を分散させて、鉄元素の溶解率が磁性酸化鉄に含まれる全鉄元素量に対して5.00質量%になるまで磁性酸化鉄を溶解させ、その時点までに溶出した珪素の量が、磁性酸化鉄に対して0.05質量%以上0.50質量%以下であることが重要となる。
ここで、磁性酸化鉄の鉄元素の溶解率についてであるが、鉄元素の溶解率が100質量%とは磁性酸化鉄が完全に溶解した状態であり、数値が100質量%に近い程、磁性酸化鉄全体が溶けたことを意味する。本発明者らが鋭意検討したところ、磁性酸化鉄は酸性条件下において表面から均一に溶解する。
よって、鉄元素の溶解率が5.00質量%となる時点までに溶出する元素の量は、磁性酸化鉄表面及びその近傍に存在する元素の量を示していると考えられる。磁性酸化鉄表面及びその近傍に存在する珪素量が0.05質量%以上であると、上述のように、シラン化合物と磁性酸化鉄との親和性が向上し、処理の均一性等が向上する。このため、磁性体のトナー中での分散性を向上できる。
一方、磁性酸化鉄表面及びその近傍に存在する珪素量が0.50質量%より多いと、トナーの環境安定性が低下しやすくなり、好ましくない。この理由についてであるが、以下のように考えている。
磁性酸化鉄表面を表面処理するシラン化合物は、1分子で被覆できる面積(被覆面積)が決まっている。このため、単位面積あたりに縮合できるシラン化合物の最大量は被覆面積により上限値が決まってしまう。このような理由から、珪素含有量が0.50質量%より多い場合、珪素とそれに由来するシラノール基が磁性酸化鉄表面に残存し過ぎることになり、結果として水分を吸着し易い表面になり、環境安定性に劣るようになる。
また、そのような磁性体の表面状態を制御する上では、本発明によって製造される磁性トナー製造過程を想定して制御する必要がある。
つまり、例えばスチレンのような重合性単量体中でも表面のシラン化合物の量を維持する必要がある。本発明者らが鋭意検討した結果、スチレン洗浄した後の該シラン化合物に由来する残存炭素量が、磁性酸化鉄を基準として、0.40質量%以上1.2質量%以下であることが好ましい。スチレンで洗浄することで、本発明によって製造される磁性トナー製造時の磁性体表面のシラン化合物の付着量を残存炭素量で見積もることができる。これは一般的にシラン化合物が疎水性を発揮するためには炭化水素基が重要であり、即ち炭素の量が疎水能力を見積もる上で有効であるためだと本発明者らは考えている。
この付着量が0.40質量%未満であると、十分な疎水能力が得られず、本発明の製造方法において水系への磁性体の露出を招きやすい。また、1.2質量%超の付着量では、処理剤の被覆性にムラが生じやすく、処理の均一性の低下を招き、トナー粒子間での磁性体の存在状態にムラが生まれ、結果として、トナー粒子の均一性が劣り、所望の性能が得られない。
また、磁性トナーの製造方法において用いられる磁性体を処理したシラン化合物は、アルコキシシランに加水分解処理を施したものであり、かつアルコキシシランの加水分解率が50%以上であることが好ましい。一般に、シラン化合物は加水分解せずに用いられ、そのまま処理されることが多いが、これでは磁性酸化鉄表面の水酸基等と化学結合を有することが出来ず、物理的な付着程度の強度しか有さない。この状態ではトナー化の際に受けるシェアによりシラン化合物が脱離してしまいやすい。
上記の理由から、本発明においてシラン化合物はアルコキシシランに加水分解処理を施したものであることが好ましい。加水分解処理を施すことにより、シラン化合物は磁性酸化鉄表面の水酸基等と水素結合を介し吸着し、これを加熱・脱水することにより強固な化学結合を形成する。また、水素結合を形成することで、加熱時にシラン化合物の揮発を抑制でき、水分吸着量に関する規定を満たすものが得られやすくなる。
このような理由から、本発明において、シラン化合物の加水分解率が50%以上であることが好ましく、より好ましくは80%以上、更に好ましくは90%以上である。シラン化合物の加水分解率が50%以上の場合、上述の理由で多くの処理剤で磁性酸化鉄表面を処理することが出来る。さらに、表面処理の均一性も高まり、磁性体の分散性が更に良化する。このためトナー間の均一性が増し、例えば耐久試験などの連続的にトナーが使用される場合においてもトナー帯電が安定し、その結果、安定した画像が得られるため好ましい。なお、シラン化合物の加水分解率はアルコキシシランが完全に加水分解した状態を加水分解率100%とし、残存するアルコキシ基の割合を引いた値である。
次に本発明によって製造される磁性トナーの製造方法において用いられる磁性体はシラン化合物により、気相中で表面処理されることが好ましい。
磁性体を表面処理する方法としては乾式と湿式の2種類がある。乾式にて表面処理をする場合、乾燥した磁性体にシラン化合物を投入し、気相中にて表面処理を行う。
湿式にて表面処理を行う場合、乾燥させたものを水系媒体に再分散させる、又は、酸化反応終了後、酸化鉄を乾燥せずに別の水系媒体に再分散させて、シラン化合物による表面処理を行う。本発明に使用する磁性体はシラン化合物により気相中で表面処理(以下、乾式法とも呼ぶ)された磁性体であることが、本発明によって製造される磁性トナー間の磁性体分散性の向上を達成するために好ましい。この理由については、以下のように考えている。
乾式法では、反応系内に水が少量しか存在しないため、シラン化合物に含まれる親水基と水とで水素結合を形成しにくい。よって、水が存在する湿式処理に比べ、磁性体表面との水素結合率が高くなり、より均一で効率的なシラン化合物による疎水化処理を行うことができる。また、処理剤の親水基が水と水素結合を形成して水をトラップしたまま磁性体表面に吸着及び反応すると、親水基が未反応のまま処理磁性体表面に残る。親水基は水と馴染みやすいため、磁性体親水基が多く存在する場合、トナー製造時の磁性体の偏在にばらつきが生まれやすい。乾式処理法はこうした水素結合に由来する不具合を防止できるため、本発明によって製造される磁性トナーに用いられる磁性体のシラン化合物の均一被覆性が向上する。その結果、磁性体分散性の更なる向上を達成でき、トナーの均一帯電性が向上するため、例えばカブリなどの面で有利である。
以下、本発明の製造方法により製造される磁性トナーに用いられる磁性体の製造方法についての詳細を述べる。
本発明に使用される磁性体に用いられるアルコキシシランの加水分解は以下の如く行うことが好ましい。具体的には、pHを4.0以上6.5以下に調整した水溶液もしくはアルコールと水との混合溶液にアルコキシシランを徐々に投入し、例えばディスパー翼などを用いて均一に分散させる。この時、分散液の液温は35℃以上60℃以下であることが好ましい。一般的に、pHが低いほど、そして液温が高いほどアルコキシシランは加水分解しやすい。本発明者らが鋭意検討したところ、加水分解し難い条件であってもディスパー翼のように、高せん断を付与できる分散装置を用いると、アルコキシシランと水の接触面積が増加し、効率良く加水分解を促進させることができた。これにより、加水分解率を高めつつ、自己縮合を抑制することが可能となった。具体的には、pHを4.0以上6.5以下に調整した水溶液もしくはアルコールと水との混合溶液にアルコキシシランを徐々に投入し、例えばディスパー翼などを用いて均一に分散させる。この時、分散液の液温は35℃以上60℃以下であることが好ましい。本発明において、気相中にて、シラン化合物により磁性酸化鉄の表面を処理することが好ましい。これまで述べてきたように、本発明の磁性体は磁性酸化鉄表面にシラン化合物が水素結合により吸着し、これを脱水することにより強固な化学結合を有することが出来る。しかし、シラン化合物と磁性酸化鉄表面との水素結合は可逆反応であるため、系中に水が少ない方が多くのシラン化合物で磁性酸化鉄表面を処理する事が可能である。これにより処理磁性体の疎水性が非常に高まり、トナーの帯電の立ち上がりが早くなる。更に、ゴーストが生じ難くなるために好ましい。
磁性酸化鉄を表面処理するための装置としては、公知の撹拌装置を用いることが出来る。具体的には、ヘンシェルミキサー(三井三池化工機)、ハイスピードミキサー(深江パウテック)、ハイブリタイザー(奈良機械製作所)等が好ましい。
磁性酸化鉄は、四三酸化鉄やγ−酸化鉄などを主成分とするものであり、リン、コバルト、ニッケル、銅、マグネシウム、マンガン、アルミニウムなどの元素を含んでもよい。磁性体は、窒素吸着法によるBET比表面積が2.0m2/g以上20.0m2/g以下であることが好ましく、3.0m2/g以上10.0m2/g以下であることがより好ましい。磁性体の形状としては、多面体、8面体、6面体、球形、針状、鱗片状などがあるが、多面体、8面体、6面体、球形等の異方性の少ないものが、画像濃度を高める上で好ましい。磁性体は、トナー中での均一分散性や色味の観点から、体積平均粒径(Dv)が0.10μm以上0.40μm以下であることが好ましい。なお、処理磁性体の体積平均粒径(Dv)は、透過型電子顕微鏡を用いて測定できる。具体的には、エポキシ樹脂中へ観察すべきトナー粒子を十分に分散させた後、温度40℃の雰囲気中で2日間硬化させ得られた硬化物を得る。得られた硬化物をミクロトームにより薄片状のサンプルとして、透過型電子顕微鏡(TEM)において1万倍ないしは4万倍の拡大倍率の写真で視野中の100個の処理磁性体の粒子径を測定する。そして、処理磁性体の投影面積に等しい円の相当径を基に、体積平均粒径(Dv)の算出を行う。また、画像解析装置により粒径を測定することも可能である。
本発明によって製造される磁性トナーに用いられる処理磁性体は、例えば下記の方法で製造することができる。具体的には、第一鉄塩水溶液に鉄成分に対して当量又は当量以上の水酸化ナトリウム等のアルカリを加え、水酸化第一鉄を含む水溶液を調製する。調製した水溶液のpHを7.0以上に維持しながら空気を吹き込み、水溶液を70℃以上に加温しながら水酸化第一鉄の酸化反応を行い、磁性酸化鉄粒子の芯となる種晶をまず生成する。次に、種晶を含むスラリー状の液に、前に加えたアルカリの添加量を基準として約1当量の硫酸第一鉄を含む水溶液を加える。液のpHを5.0以上10.0以下に維持し、空気を吹き込みながら水酸化第一鉄の反応を進め、種晶を芯にして磁性酸化鉄粒子を成長させる。この時、任意のpH及び反応温度、撹拌条件を選択することにより、磁性酸化鉄の形状及び磁気特性をコントロールすることが可能である。酸化反応が進むにつれて液のpHは酸性側に移行していくが、液のpHは5.0未満にしない方が好ましい。酸化反応終了後、珪酸ソーダ等の珪素源を添加し、液のpHを5.0以上8.0以下に調整する。このようにすることで磁性酸化鉄粒子表面に珪素の被覆層が形成される。以上のように得られた磁性酸化鉄粒子を定法によりろ過、洗浄、乾燥することにより磁性酸化鉄を得ることができる。
磁性酸化鉄表面に存在する珪素元素量は、酸化反応終了後に添加する珪酸ソーダ等の珪素源の添加量を調整することにより制御することが出来る。
次いで、本発明に必須のシラン化合物による表面処理を行う。具体的には、pHを3.0以上6.5以下に調整した水溶液を35℃以上50℃以下になるように液温を調整する。この水溶液にアルコキシシランを徐々に投入し、例えばディスパー翼などを用いて均一に撹拌・分散させ、加水分解を行う。このようにして得られた加水分解物を磁性酸化鉄に添加し、ハイスピードミキサーやヘンシェルミキサー等の撹拌・混合機にて均一に混合する。その後80℃以上160℃以下の温度で乾燥・解砕し、表面処理がなされた磁性体を得ることが出来る。
湿式にて表面処理を行う場合、酸化反応終了後、乾燥させたものを再分散させる、又は酸化反応終了後、洗浄、濾過して得られた酸化鉄体を乾燥せずに別の水系媒体中に再分散させ、表面処理を行う。具体的には、再分散液を十分撹拌しながらアルコキシシランを添加し、加水分解後温度を上げる、或いは、加水分解後に分散液のpHをアルカリ域に調整することで表面処理を行う。
磁性酸化鉄の表面処理に用いることが出来るシラン化合物としては、例えば一般式(1)で示されるものが挙げられる。
RmSiYn (1)
(式中、Rはアルコキシ基、或いは、水酸基を示し、mは1から3の整数を示し、Yはアルキル基或いはビニル基を示し、該アルキル基は、置換基として、アミノ基、ヒドロキシル基、エポキシ基、アクリル基、メタクリル基などの官能基を有していても良い。nは1から3の整数を示す。但し、m+n=4である。)
一般式(1)で示されるシラン化合物としては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、β−(3,4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、n−ブチルトリメトキシシラン、イソブチルトリメトキシシラン、トリメチルメトキシシラン、n−ヘキシルトリメトキシシラン、n−オクチルトリメトキシシラン、n−オクチルトリエトキシシラン、n−デシルトリメトキシシラン、ヒドロキシプロピルトリメトキシシラン、n−ヘキサデシルトリメトキシシラン、n−オクタデシルトリメトキシシラン、及びこれらの加水分解物等を挙げることができる。
上記シラン化合物を用いる場合、単独で処理する、或いは複数の種類を併用して処理することが可能である。複数の種類を併用する場合、それぞれのシラン化合物で個別に処理してもよいし、同時に処理してもよい。
本発明において、磁性体の含有量は、結着樹脂100質量部に対して20質量部以上150質量部以下であることが好ましく、50質量部以上100質量部未満が更に好ましい。
なお、トナー中の磁性体の含有量の測定は、パーキンエルマー社製熱分析装置、TGA7を用いて測定することができる。測定方法は以下の通りである。窒素雰囲気下において昇温速度25℃/分で常温から900℃までトナーを加熱する。100℃から750℃まで間の減量質量%を結着樹脂量とし、残存質量を近似的に処理磁性体量とする。
本発明によって製造される磁性トナーの重量平均粒径(D4)は3.0μm以上12.0μm以下であることが好ましく、より好ましくは4.0μm以上10.0μm以下である。重量平均粒径(D4)が3.0μm以上12.0μm以下であると良好な流動性が得られ、潜像に忠実に現像することが出来る。
本発明によって製造される磁性トナーは、平均円形度が0.960以上であることが好ましく、モード円形度が0.97以上であるとより好ましい。トナーの平均円形度が0.960以上だとトナーの形状は球形又はこれに近い形になり、流動性に優れ均一な摩擦帯電性を得られやすい。このため、耐久後半においても高い現像性を維持し易くなるために好ましい。
本発明によって製造される磁性トナーに用いられる結着樹脂としては、ポリスチレン、ポリビニルトルエンなどのスチレン及びその置換体の単重合体、スチレン−プロピレン共重合体、スチレン−ビニルトルエン共重合体、スチレン−ビニルナフタリン共重合体、スチレン−アクリル酸メチル共重合体、スチレン−アクリル酸エチル共重合体、スチレン−アクリル酸ブチル共重合体、スチレン−アクリル酸オクチル共重合体、スチレン−アクリル酸ジメチルアミノエチル共重合体、スチレン−メタクリル酸メチル共重合体、スチレン−メタクリル酸エチル共重合体、スチレン−メタクリル酸ブチル共重合体、スチレン−メタクリル酸ジメチルアミノエチル共重合体、スチレン−ビニルメチルエーテル共重合体、スチレン−ビニルエチルエーテル共重合体、スチレン−ビニルメチルケトン共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−イソプレン共重合体、スチレン−マレイン酸共重合体、スチレン−マレイン酸エステル共重合体などのスチレン系共重合体、ポリメチルメタクリレート、ポリブチルメタクリレート、ポリ酢酸ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリビニルブチラール、シリコーン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、エポキシ樹脂、ポリアクリル酸樹脂を用いることができ、これらは単独で又は複数種を組み合わせて用いることができる。この中でも特にスチレン−アクリル樹脂が現像特性、定着性等の点で好ましい。
本発明によって製造される磁性トナーには、帯電特性向上のために必要に応じて荷電制御剤を配合しても良い。荷電制御剤としては、公知のものが利用できるが、帯電スピードが速く、且つ一定の帯電量を安定して維持できる荷電制御剤が特に好ましい。更に、トナーを後述するような重合法を用いて製造する場合には、重合阻害性が低く、水系分散媒体への可溶物が実質的にない荷電制御剤が特に好ましい。荷電制御剤のうち、ネガ系荷電制御剤として具体的には、サリチル酸、アルキルサリチル酸、ジアルキルサリチル酸、ナフトエ酸、ダイカルボン酸などの芳香族カルボン酸の金属化合物、アゾ染料又はアゾ顔料の金属塩又は金属錯体、スルフォン酸又はカルボン酸基を側鎖に持つ高分子型化合物、ホウ素化合物、尿素化合物、ケイ素化合物、カリックスアレーン等が挙げられる。ポジ系荷電制御剤としては、四級アンモニウム塩、前記四級アンモニウム塩を側鎖に有する高分子型化合物、グアニジン化合物、ニグロシン系化合物、イミダゾール化合物等が挙げられる。
これらの荷電制御剤の使用量は、結着樹脂の種類、他の添加剤の有無、分散方法を含めたトナー製造方法によって決定されるものであり、一義的に限定されるものではない。しかし、トナー粒子に内部添加する場合、好ましくは結着樹脂100質量部に対して0.1質量部以上10.0質量部以下、より好ましくは0.1質量部以上5.0質量部以下の範囲で用いられる。また、トナー粒子に外部添加する場合、トナー粒子100質量部に対し、好ましくは0.005質量部以上1.000質量部以下、より好ましくは0.01質量部以上0.30質量部以下である。
本発明によって製造される磁性トナーには、定着性向上のために必要に応じて離型剤を配合しても良い。離型剤としては公知の全ての離型剤を用いることが出来る。具体的には、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ペトロラタム等の石油系ワックス及びその誘導体、モンタンワックス及びその誘導体、フィッシャートロプシュ法による炭化水素ワックス及びその誘導体、ポリエチレンに代表されるポリオレフィンワックス及びその誘導体、カルナバワックス、キャンデリラワックス等天然ワックス及びその誘導体、エステルワックスなどである。ここで、誘導体とは酸化物や、ビニル系モノマーとのブロック共重合物、グラフト変性物を含む。また、エステルワックスとしては1官能エステルワックス、2官能エステルワックスをはじめ、4官能や6官能等の多官能エステルワックスを用いることが出来る。
本発明では、該トナーが結着樹脂100質量部に対して10質量部以上30質量部以下の離型剤を含有することが耐久性と定着性の両立の観点で好ましい。
また、本発明に使用される離型剤はエステルワックスと炭化水素系ワックスとを含むことがトナーの溶融性向上のために好ましい。この理由は定かではないが、比較的嵩高いエステルワックスはトナーへの可塑効果に加え、染み出し効果も期待できる。対して、炭化水素系ワックスはトナーへの可塑性の効果が大きいものと推測される。そういった観点でみるとエステルワックスと炭化水素系ワックスを併用することで、エステルワックスの押し出し効果で炭化水素系ワックスの可塑効果がよりトナー全体に広がり、トナーの溶融性がより向上するものと推測される。
また、本発明のトナーに含有される離型剤の内、エステルワックスの含有量をWA質量部、該炭化水素系ワックスの含有量をWBとすると、WA/WBが1.0以上であることが、上記エステルワックスの効果がより顕著に得られるため、好ましい。また、本発明のトナーに使用されるエステルワックスは2官能のエステルワックスであることが、上記のエステルワックスの押し出し効果と可塑効果のバランスが良好であるため好ましい。
本発明によって製造されるトナーは保存安定性の向上、現像性の更なる向上のためにコア−シェル構造を有していることが好ましい。これは、シェル層を有することによりトナーの表面性が均一になり、流動性が向上すると共に帯電性が均一になるためである。また、高分子量体のシェルが均一に表層を覆うため、長期保存においても低融点物質の染み出し等が生じ難く保存安定性が向上する。このため、シェル層には非晶質のポリエステル系樹脂を用いることが好ましく、本発明においては磁性体の分散性向上の観点から、酸価は0.1mgKOH/g以上5.0mgKOH/g以下であることが重要である。
シェルを形成させる具体的手法としては、懸濁重合法においてはシェル用の高分子量体の親水性を利用し、水との界面、即ち、トナー表面近傍にこれら高分子量体を偏在せしめ、シェルを形成することが可能である。さらには、所謂シード重合法によりコア粒子表面にモノマーを膨潤させ、重合することによりシェルを形成することができる。
本発明に使用されるポリエステル樹脂は、飽和ポリエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、あるいはその両者を適宜選択して使用することが可能である。本発明に使用されるポリエステル樹脂は、アルコール成分と酸成分から構成される通常のものが使用でき、両成分については以下に例示する。
アルコール成分としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール、ブテンジオール、オクテンジオール、シクロヘキセンジメタノール、水素化ビスフェノールA、また式(I)で表されるビスフェノール誘導体;
[式中、Rはエチレンまたはプロピレン基であり、x,yはそれぞれ1以上の整数であり、かつx+yの平均値は2以上10以下である。]
あるいは式(I)の化合物の水添物、また、式(II)で示されるジオール;
あるいは式(II)の化合物の水添物のジオールが挙げられる。
2価のカルボン酸としてはフタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、無水フタル酸の如きベンゼンジカルボン酸またはその無水物;コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸の如きアルキルジカルボン酸またはその無水物、またさらに炭素数6以上18以下のアルキルまたはアルケニル基で置換されたコハク酸もしくはその無水物;フマル酸、マレイン酸、シトラコン酸、イタコン酸の如き不飽和ジカルボン酸またはその無水物などが挙げられる。
さらに、アルコール成分としてグリセリン、ペンタエリスリトール、ソルビット、ソルビタン、ノボラック型フェノール樹脂のオキシアルキレンエーテルの如き多価アルコールが挙げられ、酸成分としてトリメリット酸、ピロメリット酸、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸やその無水物等の多価カルボン酸が挙げられる。
上記ポリエステル樹脂の中では、帯電特性、環境安定性が優れておりその他の電子写真特性においてバランスのとれた前記のビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物が好ましく使用される。この化合物の場合には、定着性やトナーの耐久性の点においてアルキレンオキサイドの平均付加モル数は2以上10以下が好ましい。
上記ポリエステル樹脂は全成分中45モル%以上55モル%以下がアルコール成分であり、55モル%以上45モル%以下が酸成分であることが好ましい。
懸濁重合法でトナーを製造する場合、これら樹脂の添加量としては、重合性単量体100質量部に対し総量で1.0質量部以上30.0質量部以下であることが好ましく、より好ましくは1.0質量部以上20.0質量以下である。
また、シェルを形成する高分子量体の数平均分子量(Mn)は2500以上20000以下が好ましく用いられる。数平均分子量(Mn)が2500以上20000以下では定着性を阻害せずに現像性、耐ブロッキング性、耐久性を向上できるために好ましい。なお、数平均分子量(Mn)はGPCにより測定できる。
次に本発明に用いられる懸濁重合法について述べる。
懸濁重合法とは、重合性単量体及び処理磁性体(更に必要に応じて重合開始剤、架橋剤、荷電制御剤、その他の添加剤)を均一に溶解又は分散させて重合性単量体組成物を得る。その後、この重合性単量体組成物を分散安定剤を含有する連続層(例えば水相)中に適当な撹拌器を用いて分散し同時に重合反応を行わせ、所望の粒径を有するトナーを得るものである。この撹拌時の強度は材料分散性に寄与し生産性等の必要に応じて適正な分散強度で撹拌を行う。
この懸濁重合法で得られるトナー(以後「重合トナー」ともいう)は、個々のトナー粒子形状がほぼ球形に揃っているため、帯電量の分布も比較的均一となるために好ましい。
懸濁重合法によるトナーの製造において、重合性単量体組成物を構成する重合性単量体としては以下のものが挙げられる。
重合性単量体としては、スチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−メトキシスチレン、p−エチルスチレン等のスチレン系単量体、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸n−オクチル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ステアリル、アクリル酸2−クロルエチル、アクリル酸フェニル等のアクリル酸エステル類、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸n−オクチル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸ステアリル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸ジエチルアミノエチル等のメタクリル酸エステル類、その他のアクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリルアミド等の単量体が挙げられる。これらの単量体は単独で、又は混合して使用し得る。上述の単量体の中でも、スチレン又はスチレン誘導体を単独で、或いは他の単量体と混合して使用することがトナーの現像特性及び耐久性の点から好ましい。
本発明によって製造される磁性トナーの重合法による製造において使用される重合開始剤としては、トナーの溶融性を制御する上で重合反応時における半減期が0.5時間以上30.0時間以下であるものが好ましい。また、重合開始剤の添加量は重合性単量体100質量部に対して0.5質量部以上20.0質量部以下であることが好ましく、5.0質量部以上15.0質量部以下であることが更に好ましく、6.0質量部以上10.0質量部以下であることが更に好ましい。
重合開始剤は公知のものを使用可能であり、具体的にはアゾ系開始剤、過酸化物系開始剤等を用いることができる。過酸化物系開始剤の中でも特にパーオキシジカーボネート、ジアシルパーオキサイドから選ばれるものであることが好ましい。具体的な重合開始剤例としては、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジsec−ブチルパーオキシジカーボネート、イソブチリルパーオキサイド等が挙げられる。
本発明の磁性トナー粒子の製造においては必要に応じて架橋剤を添加することが出来る。好ましい添加量としては、重合性単量体100質量部に対して0.01質量部以上10.00質量部以下である。
ここで架橋剤としては、主として2個以上の重合可能な二重結合を有する化合物が用いられ、例えば、ジビニルベンゼン、ジビニルナフタレン等のような芳香族ジビニル化合物、例えばエチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、1,3−ブタンジオールジメタクリレート等のような二重結合を2個有するカルボン酸エステル、ジビニルアニリン、ジビニルエーテル、ジビニルスルフィド、ジビニルスルホン等のジビニル化合物、及び3個以上のビニル基を有する化合物、が単独で、又は2種以上の混合物として用いられる。
本発明によって製造される磁性トナーを重合法で製造する方法では、一般に上述のトナー組成物等を適宜加えて、ホモジナイザー、ボールミル、超音波分散機等の分散機に依って均一に溶解又は分散させた重合性単量体組成物を、分散安定剤を含有する水系媒体中に懸濁する。この時、高速撹拌機もしくは超音波分散機のような分散機を使用して一気に所望のトナー粒子のサイズとするほうが、得られるトナー粒子の粒径がシャープになる。重合開始剤添加の時期としては、重合性単量体中に他の添加剤を添加する時に同時に加えても良いし、水系媒体中に懸濁する直前に混合しても良い。また、造粒直後、重合反応を開始する前に重合性単量体又は溶媒に溶解した重合開始剤を加えることもできる。造粒後は、通常の撹拌機を用いて、粒子状態が維持され且つ粒子の浮遊・沈降が防止される程度の撹拌を行えば良い。
本発明によって製造される磁性トナーを製造する場合には、分散安定剤として公知の界面活性剤や有機分散剤・無機分散剤が使用できる。中でも無機分散剤は、有害な超微粉を生じ難く、その立体障害性により分散安定性を得ているので反応温度を変化させても安定性が高く、洗浄も容易でトナーに悪影響を与え難いため、好ましく使用できる。こうした無機分散剤の例としては、燐酸三カルシウム、燐酸マグネシウム、燐酸アルミニウム、燐酸亜鉛、ヒドロキシアパタイト等の燐酸多価金属塩、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等の炭酸塩、メタ硅酸カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム等の無機塩、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム等の無機化合物が挙げられる。
これらの無機分散剤は、重合性単量体100質量部に対して0.20質量部以上20.0質量部以下の量を用いることが好ましい。また、上記分散安定剤は単独で用いても良いし、複数種を併用してもよい。更に、分散安定剤に加えて、界面活性剤を併用しても良い。
上記重合性単量体を重合する工程において、重合温度は40℃以上、一般には50℃以上90℃以下の温度に設定される。
上記重合性単量体の重合終了後、得られた重合体粒子を公知の方法によって濾過、洗浄、乾燥することによりトナー粒子が得られる。このトナー粒子に、後述するような無機微粉体を必要に応じて混合して前記トナー粒子の表面に付着させることで、本発明によって製造される磁性トナーを得ることができる。また、製造工程(無機微粉体の混合前)に分級工程を入れ、トナー粒子中に含まれる粗粉や微粉をカットすることも可能である。
本発明によって製造される磁性トナーは無機微粉体を有するが、無機微粉体としては個数平均1次粒径(D1)が4nm以上50nm以下、好ましくは5nm以上40nm以下、より好ましくは5nm以上20nm以下であることが好ましい。無機微粉体の個数平均1次粒径(D1)が4nm以上80nm以下であるとトナーの流動性が優れたものとなり、均一な帯電性を得ることが出来ると共に、長期使用においても均一な画像を得ることが出来る。
本発明において、無機微粉体の個数平均1次粒径(D1)の測定法は、走査型電子顕微鏡により拡大撮影したトナーの写真を用いて行う。
本発明で用いられる無機微粉体としては、シリカ、酸化チタン、アルミナなどが使用できる。シリカ微粉体としては、例えば、ケイ素ハロゲン化物の蒸気相酸化により生成されたいわゆる乾式法又はヒュームドシリカと称される乾式シリカ、及び水ガラス等から製造されるいわゆる湿式シリカの両者が使用可能である。しかし、表面及びシリカ微粉体の内部にあるシラノール基が少なく、またNa2O、SO3 2-等の製造残滓の少ない乾式シリカの方が好ましい。また乾式シリカにおいては、製造工程において例えば、塩化アルミニウム、塩化チタン等他の金属ハロゲン化合物をケイ素ハロゲン化合物と共に用いることによって、シリカと他の金属酸化物の複合微粉体を得ることも可能であり、それらも包含する。
本発明において無機微粉体の添加量は、磁性トナー粒子100質量部に対して0.1質量部以上5.0質量部以下、好ましくは0.3質量部以上2.0質量部以下、0.3質量部以上1.5質量部以下、であることが好ましい。無機微粉体の添加量が上記範囲であると、トナーに良好な流動性を与えることが出来、定着性も阻害しないので好ましい。
なお、無機微粉体の含有量は、蛍光X線分析を用い、標準試料から作成した検量線を用いて定量できる。
次に、本発明のトナーを好適に用いることのできる画像形成装置の一例を図1に沿って具体的に説明する。図1において、100は静電潜像担持体(以下、感光体とも呼ぶ)であり、その周囲に帯電ローラー117、現像スリーブ102を有する現像器140、転写帯電ローラー114、クリーナー容器116、定着器126、ピックアップローラー124などが設けられている。静電潜像担持体100は帯電ローラー117によって帯電される。そして、レーザー発生装置121によりレーザー光を静電潜像担持体100に照射することによって露光が行われ、目的の画像に対応した静電潜像が形成される。静電潜像担持体100上の静電潜像は現像器140によって一成分トナーで現像されてトナー画像を得、トナー画像は転写材を介して静電潜像担持体に当接された転写ローラー114により転写材上へ転写される。トナー画像を載せた転写材は定着器126へ運ばれ転写材上に定着される。また、一部静電潜像担持体上に残された磁性トナーはクリーニングブレードによりかき落とされ、クリーナー容器116に収納される。
次に、本発明に係る各物性の測定方法に関して記載する。
<熱伝導率の方法>
(1)測定試料の調整
測定試料は、トナー約5g程度(試料の比重により可変する。)を、25℃の環境下で、錠剤成型圧縮機を用いて約20MPaで、60秒間圧縮成形し、直径25mm、高さ6mmの円柱状としたものを2個作成する。
(2)熱伝導率の測定
測定装置:ホットディスク法熱物性測定装置TPS2500S
試料ホルダ:室温用試料ホルダ
センサ:標準付属(RTK)センサ
ソフトウェア:Hot disk analysis 7
測定試料を室温用試料ホルダの取りつけテーブル台におき、測定試料表面がセンサと同じ高さになるようにテーブルの高さを調整する。
センサの上に2個目の測定試料、さらに付属の金属片を置き、センサの上にあるネジを使用し圧力を加える。圧力はトルクレンチにて30cN・mに調整する。測定試料およびセンサの中心がネジの真下にあることを確認する。
Hot disk analysisを起動し、実験タイプをBulk(Type I)を選択する。
入力項目に以下の通り入力する。
Available Probing Depth:6mm
Measurement time:40s
Heating Power:60mW
Sample Temperrature:23℃
TCR:0.004679K-1
Sesor Type:Disk
Senor Material Type:Kapton
Sensor Design:5465
Sensor Radius:3.189mm
上記入力後、測定を開始する。測定終了後、Calculateボタンを選択し、Start Point:10、End Point:200を入力し、Standard Analysisボタンを選択し、Thermal Conductivity[W/mK]を算出する。
<トナーの重量平均粒径(D4)の測定方法>
トナーの重量平均粒径(D4)は、以下のようにして算出する(トナー粒子の場合も同様に算出する)。測定装置としては、100μmのアパーチャチューブを備えた細孔電気抵抗法による精密粒度分布測定装置「コールター・カウンター Multisizer 3」(登録商標、ベックマン・コールター社製)を用いる。測定条件の設定及び測定データの解析は、付属の専用ソフト「ベックマン・コールター Multisizer 3 Version3.51」(ベックマン・コールター社製)を用いる。尚、測定は実効測定チャンネル数2万5千チャンネルで行う。
測定に使用する電解水溶液は、特級塩化ナトリウムをイオン交換水に溶解して濃度が約1質量%となるようにしたもの、例えば、「ISOTON II」(ベックマン・コールター社製)が使用できる。
尚、測定、解析を行う前に、以下のように専用ソフトの設定を行う。
専用ソフトの「標準測定方法(SOM)を変更」画面において、コントロールモードの総カウント数を50000粒子に設定し、測定回数を1回、Kd値は「標準粒子10.0μm」(ベックマン・コールター社製)を用いて得られた値を設定する。「閾値/ノイズレベルの測定ボタン」を押すことで、閾値とノイズレベルを自動設定する。また、カレントを1600μAに、ゲインを2に、電解液をISOTON IIに設定し、「測定後のアパーチャチューブのフラッシュ」にチェックを入れる。
専用ソフトの「パルスから粒径への変換設定」画面において、ビン間隔を対数粒径に、粒径ビンを256粒径ビンに、粒径範囲を2μmから60μmまでに設定する。
具体的な測定法は以下の通りである。
(1)Multisizer 3専用のガラス製250ml丸底ビーカーに前記電解水溶液約200mlを入れ、サンプルスタンドにセットし、スターラーロッドの撹拌を反時計回りで24回転/秒にて行う。そして、専用ソフトの「アパーチャのフラッシュ」機能により、アパーチャチューブ内の汚れと気泡を除去しておく。
(2)ガラス製の100ml平底ビーカーに前記電解水溶液約30mlを入れる。この中に分散剤として「コンタミノンN」(非イオン界面活性剤、陰イオン界面活性剤、有機ビルダーからなるpH7の精密測定器洗浄用中性洗剤の10質量%水溶液、和光純薬工業社製)をイオン交換水で約3質量倍に希釈した希釈液を約0.3ml加える。
(3)発振周波数50kHzの発振器2個を、位相を180度ずらした状態で内蔵し、電気的出力120Wの超音波分散器「Ultrasonic Dispersion System Tetora150」(日科機バイオス社製)を準備する。超音波分散器の水槽内に約3.3lのイオン交換水を入れ、この水槽中にコンタミノンNを約2ml添加する。
(4)前記(2)のビーカーを前記超音波分散器のビーカー固定穴にセットし、超音波分散器を作動させる。そして、ビーカー内の電解水溶液の液面の共振状態が最大となるようにビーカーの高さ位置を調整する。
(5)前記(4)のビーカー内の電解水溶液に超音波を照射した状態で、トナー約10mgを少量ずつ前記電解水溶液に添加し、分散させる。そして、さらに60秒間超音波分散処理を継続する。尚、超音波分散にあたっては、水槽の水温が10℃以上40℃以下となる様に適宜調節する。
(6)サンプルスタンド内に設置した前記(1)の丸底ビーカーに、ピペットを用いてトナーを分散した前記(5)の電解水溶液を滴下し、測定濃度が約5%となるように調整する。そして、測定粒子数が50000個になるまで測定を行う。
(7)測定データを装置付属の前記専用ソフトにて解析を行い、重量平均粒径(D4)を算出する。尚、専用ソフトでグラフ/体積%と設定したときの、「分析/体積統計値(算術平均)」画面の「平均径」が重量平均粒径(D4)である。
<トナー粒子の平均円形度の測定方法>
トナー粒子の平均円形度は、フロー式粒子像分析装置「FPIA−3000」(シスメックス社製)によって、校正作業時の測定及び解析条件で測定する。
具体的な測定方法は、以下の通りである。まず、ガラス製の容器中に予め不純固形物などを除去したイオン交換水約20mlを入れる。この中に分散剤として「コンタミノンN」(非イオン界面活性剤、陰イオン界面活性剤、有機ビルダーからなるpH7の精密測定器洗浄用中性洗剤の10質量%水溶液、和光純薬工業社製)をイオン交換水で約3質量倍に希釈した希釈液を約0.2ml加える。更に測定試料を約0.02g加え、超音波分散器を用いて2分間分散処理を行い、測定用の分散液とする。その際、分散液の温度が10℃以上40℃以下となる様に適宜冷却する。超音波分散器としては、発振周波数50kHz、電気的出力150Wの卓上型の超音波洗浄器分散器(例えば「VS−150」(ヴェルヴォクリーア社製))を用い、水槽内には所定量のイオン交換水を入れ、この水槽中に前記コンタミノンNを約2ml添加する。
測定には、対物レンズとして「UPlanApro」(倍率10倍、開口数0.40)を搭載した前記フロー式粒子像分析装置を用い、シース液にはパーティクルシース「PSE−900A」(シスメックス社製)を使用した。前記手順に従い調整した分散液を前記フロー式粒子像分析装置に導入し、HPF測定モードで、トータルカウントモードにて3000個のトナー粒子を計測する。そして、粒子解析時の2値化閾値を85%とし、解析粒子径を円相当径1.985μm以上39.69μm未満に限定し、トナー粒子の平均円形度を求める。
測定にあたっては、測定開始前に標準ラテックス粒子(例えば、Duke Scientific社製の「RESEARCH AND TEST PARTICLES Latex Microsphere Suspensions 5200A」をイオン交換水で希釈)を用いて自動焦点調整を行う。その後、測定開始から2時間毎に焦点調整を実施することが好ましい。
なお、本発明においては、シスメックス社による校正作業が行われた、シスメックス社が発行する校正証明書の発行を受けたフロー式粒子像測定装置を使用する。解析粒子径を円相当径1.985μm以上39.69μm未満に限定した以外は、校正証明を受けた時の測定及び解析条件で測定を行う。
フロー式粒子像測定装置「FPIA−3000」(シスメックス社製)の測定原理は、流れている粒子を静止画像として撮像し、画像解析を行うというものである。試料チャンバーへ加えられた試料は、試料吸引シリンジによって、フラットシースフローセルに送り込まれる。フラットシースフローに送り込まれた試料は、シース液に挟まれて扁平な流れを形成する。フラットシースフローセル内を通過する試料に対しては、1/60秒間隔でストロボ光が照射されており、流れている粒子を静止画像として撮影することが可能である。また、扁平な流れであるため、焦点の合った状態で撮像される。粒子像はCCDカメラで撮像され、撮像された画像は512×512画素の画像処理解像度(一画素あたり0.37×0.37μm)で画像処理され、各粒子像の輪郭抽出を行い、粒子像の投影面積Sや周囲長L等が計測される。
次に、上記面積Sと周囲長Lを用いて円相当径と円形度を求める。円相当径とは、粒子像の投影面積と同じ面積を持つ円の直径のことであり、円形度は、円相当径から求めた円の周囲長を粒子投影像の周囲長で割った値として定義され、次式で算出される。
円形度=2×(π×S)1/2/L
粒子像が円形の時に円形度は1.000になり、粒子像の外周の凹凸の程度が大きくなればなるほど円形度は小さい値になる。各粒子の円形度を算出後、円形度0.200乃至1.000の範囲を800分割し、得られた円形度の相加平均値を算出し、その値を平均円形度とする。
<シラン化合物の加水分解率測定方法>
シラン化合物の加水分解率について述べる。アルコキシシランに加水分解処理を施すと、加水分解物と未加水分解物及び縮合物により構成される混合物が得られる。下記に述べるのは、得られる混合物中における加水分解物の比率である。この混合物は上述したシラン化合物に該当するものである。
まず、アルコキシシランの加水分解反応に関して、メトキシシランを例に取って説明する。メトキシシランが加水分解すると、メトキシ基がヒドロキシル基になると共にメタノールが生成する。したがって、メトキシ基とメタノールの量比から加水分解の進行度を知ることが出来る。本発明では、1H−NMR(核磁気共鳴)によって上記量比を測定し、加水分解率を求めた。メトキシシランを例として、具体的な測定及び計算手法を下記に示す。
まず、加水分解処理を施す前のメトキシシランの1H−NMR(核磁気共鳴)を重クロロホルムを用いて測定し、メトキシ基由来のピーク位置を確認した。その後、メトキシシランに対して加水分解処理を施してシラン化合物とし、未処理の磁性体に対して加える直前のシラン化合物水溶液をpH7.0、温度10℃にすることで加水分解反応を停止させた。得られた水溶液の水分を除去してシラン化合物の乾固物を得た。この乾固物に重クロロホルムを少量添加して1H−NMRを測定した。得られたスペクトルにおけるメトキシ基由来のピークは、予め確認したピーク位置を元に決定した。メトキシ基由来のピーク面積をAとし、メタノールのメチル基由来のピーク面積をBとして加水分解率を下式で求めた。
加水分解率(%)={B/(A+B)}×100
なお、1H−NMRの測定条件は下記のように設定した。
測定装置 :FT NMR装置 JNM−EX400(日本電子社製)
測定周波数:400MHz
パルス条件:5.0μs
周波数範囲:10500Hz
積算回数 :1024回
測定温度 :40℃
<ポリエステル樹脂の酸価の測定方法>
ポリエステル樹脂の酸価はJIS K1557−1970に準じ、測定される。具体的な測定方法を以下に示す。試料の粉砕品を2.0gを精秤する(W(g))。200mlの三角フラスコに試料を入れ、トルエン/エタノール(2:1)の混合溶液100mlを加え、5時間溶解する。指示薬としてフェノールフタレイン溶液を加える。0.1規定のKOHもアルコール溶液を用いて上記溶液をビュレットを用いて滴定する。この時のKOH溶液の量をS(ml)とする。ブランクテストをし、この時のKOH溶液の量をB(ml)とする。
次式により酸価を計算する。
酸価=〔(S−B)×f×5.61〕/W
(f:KOH溶液のファクター)
<処理磁性体に含有されるシラン化合物のスチレンによる溶出する成分量測定方法>
50ml容量のガラス製バイアルに、スチレン20g及び処理磁性体1.0gを仕込み、ガラス製バイアルをいわき産業社製「KM Shaker」(model:V.SX)にセットする。speedを50に設定して1時間振とうして処理磁性体中の処理剤をスチレンに溶出させる。その後、処理磁性体とスチレンを分離し、真空乾燥機にて十分に乾燥する。
乾燥した処理磁性体及びスチレンによる溶出を行う前の処理磁性体について、HORIBA製炭素・硫黄分析装置 EMIA−320Vにて単位質量あたりの炭素量を測定する。スチレン溶出前後の炭素量値を用いて、処理磁性体に含有されるシラン化合物のスチレンへの溶出率を算出する。なお、EMIA−320V測定時のサンプル仕込み量は0.20gとし、助燃剤としてはタングステンとスズを用いる。
<鉄元素溶解率及び、珪素量の測定方法>
本発明において、磁性酸化鉄の鉄元素の溶解率及び鉄元素溶解率に対する鉄以外の金属元素の含有量は、次のような方法によって求めることができる。具体的には、5リットルのビーカーに3リットルの脱イオン水を入れ50℃になるようにウォーターバスで加温する。これに磁性酸化鉄25gを加え撹拌する。次いで、特級塩酸を加え、3モル/Lの塩酸水溶液とし、磁性酸化鉄を溶解させる。溶解開始から、すべて溶解して透明になるまでの間に十数回サンプリングし、目開き0.1μmのメンブランフィルターでろ過し、ろ液を採取する。ろ液をプラズマ発光分光(ICP)によって、鉄元素及び鉄元素以外の金属元素の定量を行い、次式によって、各サンプルの鉄元素溶解率を求める。
鉄元素溶解率=(サンプル中の鉄元素濃度/完全に溶解した時の鉄元素濃度)×100
また、各サンプルの珪素の含有量を求め、上記の測定により得られた鉄元素溶解率と、その時に検出された元素の含有率の関係から、鉄元素溶解率が5%までに存在する珪素の含有量を求める。
<磁性トナーの流出開始温度(Tr)および軟化温度(Tn)の測定方法>
磁性トナーの流出開始温度(Tr)および軟化温度(Tn)の測定は、定荷重押し出し方式の細管式レオメータ「流動特性評価装置 フローテスターCFT−500D」(島津製作所社製)を用い、装置付属のマニュアルに従って行う。本装置では、測定試料の上部からピストンによって一定荷重を加えつつ、シリンダに充填した測定試料を昇温させて溶融し、シリンダ底部のダイから溶融された測定試料を押し出す。この際のピストン降下量と温度との関係を示す流動曲線を得ることができる(流動曲線の模式図を図2に示す)。
本発明においては、軟化温度(Tn)は、流動曲線における最初の極大点とする。流出開始温度(Tr)は、ピストン降下量Sが減少方向に転じた時点の温度とする。ピストン降下量が減少するのは、測定試料である磁性トナーが溶融することで、体積が膨張するためである。
測定試料は、約1.5gのトナーを、25℃の環境下で、錠剤成型圧縮機(NT−100H、エヌピーエーシステム社製)を用いて約10MPaで、約60秒間圧縮成型し、直径約8mmの円柱状としたものを用いる。
フローテスターCFT−500Dの測定条件は、以下の通りである。
試験モード:昇温法
開始温度:35℃
到達温度:200℃
測定間隔:1.0℃
昇温速度:4.0℃/min
ピストン断面積:1.000cm2
試験荷重(ピストン荷重):10.0kgf(0.9807MPa)
予熱時間:300秒
ダイの穴の直径:1.0mm
ダイの長さ:1.0mm
以下、本発明を製造例及び実施例により具体的に説明するが、これは本発明をなんら限定するものではない。尚、以下の配合における部数は全て質量部である。
<磁性酸化鉄の製造例1>
Fe2+を2.0mol/L含有する硫酸鉄第一水溶液50リットルに、4.0mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液55リットルを混合撹拌し、水酸化第一鉄コロイドを含む第一鉄塩水溶液を得た。この水溶液を85℃に保ち、20L/minで空気を吹き込みながら酸化反応を行い、コア粒子を含むスラリーを得た。
得られたスラリーをフィルタープレスにてろ過・洗浄した後、コア粒子を水中に再度分散させ、リスラリーした。このリスラリー液に、コア粒子100部あたり珪素換算で0.20質量%となる珪酸ソーダを添加し、スラリー液のpHを6.0に調整し、撹拌することで珪素リッチな表面を有する磁性酸化鉄粒子を得た。得られたスラリーをフィルタープレスにてろ過、洗浄、更にイオン交換水にてリスラリーを行った。このリスラリー液(固形分50g/L)に500g(磁性酸化鉄に対して10質量%)のイオン交換樹脂SK110(三菱化学製)を投入し、2時間撹拌してイオン交換を行った。その後、イオン交換樹脂をメッシュでろ過して除去し、フィルタープレスにてろ過・洗浄し、乾燥・解砕して個数平均粒径が0.23μmの磁性酸化鉄1を得た。
<磁性酸化鉄の製造例2>
磁性酸化鉄1の製造において、添加する珪酸ソーダの量を0.05部に変えたこと以外は同様にして、体積平均粒径が0.23μmの磁性酸化鉄2を得た。
<磁性酸化鉄の製造例3>
磁性酸化鉄1の製造において、添加する珪酸ソーダの量を0.5部に変えたこと以外は同様にして、体積平均粒径が0.23μmの磁性酸化鉄3を得た。
<磁性酸化鉄の製造例4>
磁性酸化鉄1の製造において、添加する珪酸ソーダの量を0.01部に変えたこと以外は同様にして、体積平均粒径が0.23μmの磁性酸化鉄4を得た。
<磁性酸化鉄の製造例5>
磁性酸化鉄1の製造において、添加する珪酸ソーダの量を0.55部に変えたこと以外は同様にして、体積平均粒径が0.23μmの磁性酸化鉄5を得た。
<比較用磁性酸化鉄の製造例1>
磁性酸化鉄1の製造において、添加する珪酸ソーダの量を0.1部に変えたこと以外は同様にして、体積平均粒径が0.23μmの比較用磁性酸化鉄1を得た。
<比較用磁性酸化鉄の製造例2>
硫酸第一鉄溶液中に、Fe2+に対して0.95当量の水酸化ナトリウム水溶液を混合した後、Fe(OH)2を含む第一鉄塩水溶液の生成を行った。その後、ケイ酸ソーダを鉄元素に対してケイ素元素換算で、1.0質量%となるように添加した。次いでFe(OH)2を含む第一鉄塩水溶液に温度90℃において空気を通気してpH6乃至7.5の条件下で酸化反応をすることにより、ケイ素元素を含有する磁性酸化鉄粒子を生成した。
さらにこの懸濁液に(鉄元素に対してケイ素元素換算)0.1質量%のケイ酸ソーダを溶解した水酸化ナトリウム水溶液を残存Fe2+に対して1.05当量添加し、さらに温度90℃で加熱しながら、pH8乃至11.5の条件下で酸化反応してケイ素元素を含有した磁性酸化鉄粒子を生成させた。
生成した磁性酸化鉄粒子を常法により濾過した後、洗浄、乾燥した。得られた磁性酸化鉄粒子の一次粒子は、凝集して凝集体を形成しているので、ミックスマーラーを使用して該凝集体を解砕して磁性酸化鉄粒子を一次粒子にするとともに、磁性酸化鉄粒子の表面を平滑にし、比較用磁性酸化鉄2を得た。比較用磁性酸化鉄2の平均粒径は0.21μmであった。
<シラン化合物1の製造例>
iso−ブチルトリメトキシシラン30部をイオン交換水70部に撹拌しながら滴下した。その後、この水溶液をpH5.5、温度55℃に保持し、ディスパー翼を用いて、周速0.46m/sで120分間分散させて加水分解を行った。その後、水溶液のpHを7.0とし、10℃に冷却して加水分解反応を停止させた。こうして加水分解率が99%、のシラン化合物1を含有する水溶液を得た。
<シラン化合物2〜7の製造例>
シラン化合物2〜7については、シラン化合物1の製造例からシラン化合物の種類、pH、温度、時間を表1の様に変更した以外は同様にして、シラン化合物2〜7を得た。得られたシラン化合物の物性を表1にまとめる。尚、シラン化合物6及び7については加水分解は行っていない。
<磁性体1の製造例>
磁性酸化鉄1の100部をハイスピードミキサー(深江パウテック社製 LFS−2型)に入れ、回転数2000rpmで撹拌しながら、シラン化合物1を含有する水溶液8.0部を2分間かけて滴下した。その後5分間混合・撹拌した。次いで、シラン化合物の固着性を高めるために、40℃で1時間乾燥し、水分を減少させた後に、混合物を110℃で3時間乾燥し、シラン化合物の縮合反応を進行させた。その後、解砕し、目開き100μmの篩を通して処理磁性体1を得た。磁性体1の物性を表2に示す。
<磁性体2〜10の製造>
処理磁性体1の製造において、磁性酸化鉄、シラン化合物及びその添加量を表2に記載したように変更すること以外は同様にして、磁性体2〜10を得た。得られた磁性体の物性を表2に示す。
<比較用磁性体1の製造例>
100部の磁性酸化鉄1をハイスピードミキサ(深江パウテック社製 LFS−2型)に入れ、回転数2000rpmで撹拌しながら、シラン化合物1を含有する上記水溶液8.3部を2分間かけて滴下した。その後、3分間混合・撹拌した。次いで、混合物を120℃で1時間乾燥すると共に、シラン化合物の縮合反応を進行させた。その後、解砕し、目開き100μmの篩を通し比較用磁性体1を得た。得られた処理磁性体1の物性を表2に示す。
<比較用磁性体2の製造例>
硫酸第一鉄水溶液中に、鉄イオンに対して1.0当量以上1.1当量以下の苛性ソーダ溶液(Feに対しP換算で1質量%のヘキサメタリン酸ナトリウムを含有)を混合し、水酸化第一鉄を含む水溶液を調製した。水溶液をpH9に維持しながら、空気を吹き込み、80℃以上90℃以下で酸化反応を行い、種晶を生成させるスラリー液を調製した。
次いで、このスラリー液に当初のアルカリ量(苛性ソーダのナトリウム成分)に対し0.9当量以上1.2当量以下となるよう硫酸第一鉄水溶液を加えた後、スラリー液をpH8に維持して、空気を吹込みながら酸化反応を進める。酸化反応の終期にpHを約6に調整し、シランカップリング剤として、n−ヘキシルトリメトキシシランを磁性酸化鉄100部に対し1.0部添加し、十分に撹拌した。生成した疎水性酸化鉄粒子を常法により洗浄、濾過、乾燥し、次いで凝集している粒子を解砕処理し、比較用磁性体2を得た。得られた磁性体の物性を表2に示す。
<比較用磁性体3の製造例>
比較用磁性酸化鉄2の100部をシンプソン・ミックスマーラーに投入し、これにシランカップリング剤として炭素数10個のアルキル基を有するデシルトリメトキシシランの10質量%のメタノール溶液3部(デシルトリメトキシシラン0.3部相当)を均一に噴霧した。その後、50乃至60℃の温度範囲で45分間作動することにより、比較用磁性酸化鉄の粒子表面を該シランカップリング剤で被覆処理を施すと共にメタノール等の揮発成分を気化させ表面にデシル基を有する比較用磁性体3を得た。得られた磁性体の物性を表2に示す。
<トナー1の製造>
イオン交換水720部に0.1モル/L−Na3PO4水溶液450部を投入して60℃に加温した後、1.0モル/L−CaCl2水溶液67.7部を添加して、分散安定剤を含む水系媒体を得た。
・スチレン 79.0部
・n−ブチルアクリレート 21.0部
・ジビニルベンゼン 0.6部
・モノアゾ染料の鉄錯体(T−77:保土ヶ谷化学社製) 1.5部
・磁性体1 90.0部
・飽和ポリエステル樹脂 3.0部
(ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物とテレフタル酸との縮合反応により得られる飽和ポリエステル樹脂;Mn=5000、酸価=6mgKOH/g、Tg=68℃)
上記処方をアトライター(三井三池化工機(株))を用いて均一に分散混合して単量体組成物を得た。この単量体組成物を63℃に加温し、そこにエステルワックスとしてセバシン酸ジベヘニル(融点73℃)15部及びパラフィンワックス(HNP−9:日本精蝋社製)を10部、を添加混合し、溶解した。その後重合開始剤としてジセカンダリーブチルパーオキシジカーボネート(10時間半減期温度51℃)7.0部を溶解した。
上記水系媒体中に上記単量体組成物を投入し、60℃、N2雰囲気下においてTK式ホモミキサー(特殊機化工業(株))にて12000rpmで10分間撹拌し、造粒した。その後パドル撹拌翼で撹拌しつつ70℃で6時間反応させた。反応終了後、懸濁液を冷却し、塩酸を加えて洗浄した後に濾過・乾燥してトナー粒子1を得た。このトナー粒子1を100部と個数平均1次粒径10nmの疎水性シリカ微粉体0.7部をヘンシェルミキサー(三井三池化工機(株))で混合し、重量平均粒径(D4)が7.5μmのトナー1を得た。得られたトナー1の物性を表3にまとめる。
<トナー2〜27及び比較用トナー1〜8の製造>
磁性トナー粒子1の製造において、磁性体の種類、量、重合開始剤の種類、量及びワックスの種類、量及び造粒時の回転数を表3の通りに変更したこと以外はトナー1の製造と同様にし、磁性トナー粒子2〜27、及び比較用磁性トナー粒子1〜8を得た。得られたトナーの物性を表3にまとめる。
<実施例1>
トナー1を用いて以下の評価を行った。
画像形成装置としては、市販のLaserJet P2055(ヒューレットパッカード社製)を用い、印刷速度を35枚/分から40枚/分に変更した。使用した紙種は市販のA4紙Red Label(80g/m2)を用いた。
評価環境は定着性及びチャージアップに不利な低温低湿(15.0℃/10%)環境下で、定着飛び散り試験及びカブリ評価及び耐久後のカブリ評価を行った。トナー1を用い以下の評価を行ったがいずれの評価においても良好な結果が得られた。評価結果を表4に示す。
本発明の実施例及び比較例で行った各評価の評価方法とその判断基準について以下に述べる。
[L/L初期 定着飛び散り評価]
定着性に不利なL/L環境において、定着飛び散りの影響を測定しやすい横線画像を出力し、そのライン幅に対し、飛び散ったトナーがどの範囲まで存在するかによって判定を行った。
ライン幅は200μmになるように調節し、横線画像は印字率1%の画像を出力し、画像の上端、中心、下端の3本のラインの飛び散りを顕微鏡にて確認し、3本の平均を算出した。
判断基準は以下の通りである。
A:ライン画像の幅に対し、飛び散りが5%の範囲に存在している
B:ライン画像の幅に対し、飛び散りが10%の範囲に存在している
C:ライン画像の幅に対し、飛び散りが20%の範囲に存在している
D:ライン画像の幅に対し、飛び散りが30%の範囲に存在している
E:ライン画像の幅に対し、飛び散りが30%を超えて存在している
[L/L初期 感光体上カブリ評価]
L/L環境では、水分などが少なく、トナーの帯電量が高くなりやすく、チャージアップしやすい。特に磁性体の分散性の低いトナーが存在する場合、帯電量のばらつきが顕著に表れやすいため、カブリには厳しい環境である。尚、転写、定着工程の影響を受けないよう、感光体上のトナーのカブリ状態を評価することで、より厳密なトナーのカブリ評価を行った。
具体的には画像出力中に感光体へトナーが飛翔したタイミングで装置を停止させ、その感光体上のトナーをテープで採取する。そのテープを紙上に貼りつけ、テープ上から反射率を東京電色社製のREFLECTMETER MODEL TC−6DSを使用して測定した。フィルターは、グリーンフィルターを用いた。テープのみを貼りつけたものについて同様に反射率を測定し、下記式を用いてカブリを算出した。
感光体上カブリ(反射率)(%)= 感光体上のトナーを採取したテープを標準紙に貼ったものの反射率(%)−テープのみを標準紙に貼ったものの反射率(%)
判断基準は以下の通りである。
A:4%未満
B:4%以上6%未満
C:6%以上8%未満
D:8%以上10%未満
E:10%以上
[L/L耐久後 感光体上カブリ評価]
印字率2%の横線を2秒に1枚の間欠モードで10000枚出力した後に、初期と同様に感光体上のトナーのカブリ評価を行った。判断基準は以下の通りである。
A:4%未満
B:4%以上6%未満
C:6%以上8%未満
D:8%以上10%未満
E:10%以上
[L/L低温定着性評価]
<低温定着性>
低温定着性は、195℃の設定温度で市販のA4紙Red Label(80g/m2)紙に画像濃度が0.70以上0.75以下となるようにハーフトーン画像濃度を調整し画出しを行う。
その後定着器の設定温度を195℃から5℃ずつ低下させて画出しを行った。その後、55g/cm2の加重をかけたシルボン紙で定着画像を10回摺擦し、摺擦後の定着画像の濃度低下率が10%を超える温度を定着下限温度とした。尚、この温度が低いほど低温定着性に優れたトナーである。
以下に、判断基準を以下に示す。
A:165℃未満
B:165℃以上175℃未満
C:175℃以上185℃未満
D:185℃以上195℃未満
E:195℃以上
<実施例2〜27、及び比較例1〜8>
トナーとして、トナー2〜27、及び比較用トナー1〜8を使用し、実施例1と同様の条件でトナー評価を行った。評価結果を表4に示す。