以下、下記の順序に従って本発明を説明する。
(1)第1の実施形態:
(2)第2の実施形態:
(3)第3の実施形態:
(4)実施例1:
(5)実施例2:
(6)実施例3:
(1)第1の実施形態:
図1は、本実施形態に係る相当ひずみ付与装置1の概略構成を示す斜視図、図2は、本実施形態に係る相当ひずみ付与装置1の概略構成を示す正面図、図3は、本実施形態に係る相当ひずみ付与装置1の概略構成を示す側面図、図4は、上アンビル10、プランジャー20、下アンビル30等の金型を示す斜視図、図5は、当該金型の構成を示す正面図、である。
相当ひずみ付与装置1は、上金型としての上アンビル10、スライド金型としてのプランジャー20、下金型としての下アンビル30、本体フレーム60、上アンビル10と下アンビル30とでプランジャー20を挟持する第1方向(加圧方向D1)へ上アンビル10を駆動する第1加圧手段としての第1油圧装置40、プランジャー20を上アンビル10及び下アンビル30に対してスライドさせるべく第1方向と略垂直な第2方向(スライド方向D2)へプランジャー20を駆動する第2加圧手段としての第2油圧装置50、及びこれら加圧装置の駆動を制御する制御手段としての制御部70、を備えている。
本体フレーム60には、下アンビル30を固定するためのベッド44、及び、上アンビル10を固定するためのスライド43を一体化された第1油圧装置40が固定されている。第1油圧装置40は、本体フレーム60に固定されたシリンダ部41と、シリンダ部41に対して伸縮自在に構成されたピストン部42とを有しており、ピストン部42にはスライド43が固定されている。
上アンビル10、プランジャー20、下アンビル30等が配設される金型部、及び、第1油圧装置40や第2油圧装置50等の加圧装置は、金型や被処理物の交換/設置/取り出しを行うための開口部を除く略全体が、本体フレーム60を覆うように設けられる筐体によって覆われている。開口部には、シャッター及び光線式安全器が配設されており、シャッターが閉じていない時は光線式安全器の機能に応じて第1油圧装置40や第2油圧装置50の動作が規制される構成になっている。これにより、金型や被処理物の交換/設置/取り出し時の作業者の安全性を確保することができる。
スライド43の下面側には金型固定用の固定凹部431が形成されており、この固定凹部431に上アンビル10の基部10aが埋設状態で固定される。このとき、上アンビル10の金型部10bがスライド43から下アンビル30に向けて突出状態で固定される。この金型部10bには後述する第1矩形溝13が形成されている。
固定凹部431への上アンビル10の固定方法は様々な態様が考えられるが、例えば、固定凹部431を上アンビル10の基部10aより幅広に形成するとともに上アンビル10の形状を基端に近づくほど幅広となる裾広がり状とし、上アンビル10と固定凹部431の隙間に楔状のスペーサを嵌合させて固定する方法がある。その他、上アンビル10の基部から側方へ突出するフランジ状の張出部を設けて、この張出部を油圧クランパ等の固定具を用いてスライド43に固定してもよい。
ベッド44の上面側には金型固定用の固定凹部441が形成されており、この固定凹部441に下アンビル30の基部30aが埋設状態で固定される。このとき、下アンビル30の金型部30bがベッド44から上アンビル10に向けて突出状態で固定される。この金型部30bには後述する第2矩形溝33が形成されている。
固定凹部441への下アンビル30の固定方法は様々な態様が考えられるが、例えば、固定凹部441を下アンビル30の基部30aより幅広に形成するとともに下アンビル30の形状を基端に近づくほど幅広となる裾広がり状とし、下アンビル30と固定凹部441との隙間に楔状のスペーサを嵌合させて固定する方法がある。その他、下アンビル30の基部から側方へ突出するフランジ状の張出部を設けて、この張出部を油圧クランパ等の固定具を用いてベッド44に固定してもよい。
スライド43とベッド44は、上アンビル10が固定されたスライド43の下面と、下アンビル30が固定されたベッド44の上面と、が互いに対面するように対向配置されており、ピストン部42の伸縮動作に応じて、下アンビル30と上アンビル10の被処理物挟持方向である第1方向へ接近/離間するようになっている。すなわち、第1油圧装置40のピストン部42を伸長させると上アンビル10の金型部10bと下アンビル30の金型部30bとをプランジャー20や被処理物を介して互いに作用させ合うことができる。
上アンビル10は、金型部10bにプランジャー20に対向する第1対向面11を有し、基部10aに第1対向面11と略平行な第1加圧面12を有している。第1加圧面12は、第1油圧装置40によって略垂直な第1方向に加圧されており、これにより第1対向面11がプランジャー20に向けて押圧される。
第1対向面11には、断面凹状の第1矩形溝13が、図4に示すスライド方向D2に沿って横断状に形成されている。第1矩形溝13の底面13aには、スライド方向D2に沿って横断状に断面半円状の第1半円溝14が形成されている。スライド方向D2は、第2油圧装置50の駆動によりプランジャー20が上アンビル10や下アンビル30に対して相対移動する方向である。
第1矩形溝13の幅寸法は、プランジャー20の後述する第2対向面21の幅寸法と略一致させてあり、上アンビル10とプランジャー20とを所定の位置関係で配置したときに、プランジャー20が第1矩形溝13に凹凸係合する。これにより、第1矩形溝13が、プランジャー20のスライド方向D2へのスライド移動を案内する。
プランジャー20は、上アンビル10の第1矩形溝13に対向する第2対向面21を有している。第2対向面21には、スライド方向D2に沿って横断状に、断面半円状の第2半円溝22が形成されている。
第1半円溝14と第2半円溝22は、上アンビル10とプランジャー20を凹凸係合させたときに対向し合う位置に形成されており、上アンビル10の第1矩形溝13の底面13aとプランジャー20の第2対向面21との間にスライド方向D2に貫通状に、第1半円溝14と第2半円溝22が内側壁を構成する円筒状の第1被処理物配置部USを形成する。
第1被処理物配置部USには、相当ひずみを付与すべき円柱状(丸棒状)の第1被処理物S1が配設される。第1被処理物S1の径は、第1被処理物配置部USの径と略一致するサイズに形成されており、上アンビル10とプランジャー20を所定の位置関係で配置すると、第1被処理物配置部USに収容された第1被処理物S1は上アンビル10とプランジャー20の間に挟持される。なお、第1被処理物配置部USの径を第1被処理物S1の径よりも若干小さくして、第1被処理物S1のクランプを確実にしてもよい。
下アンビル30は、その金型部30bにプランジャー20と対向する第3対向面31を有し、その基部30aに第3対向面31と略平行な第2加圧面32とを有している。第2加圧面32は、支持基台としてのベッド44に固定されている。このため、上アンビル10の第1加圧面12が第1油圧装置40によって圧力P1で加圧されると、その反力により、下アンビル30の第3対向面31も圧力P2(P1=P2)でプランジャー20に向けて押圧する。
第3対向面31には、断面凹状の第2矩形溝33が、スライド方向D2に沿って横断状に形成されている。第2矩形溝33と第1矩形溝13は、上アンビル10と下アンビル30を対向配置したときに、その境界に沿ってプランジャー20を収容するためのスライド方向D2に貫通状に形成される金型収容部を構成する。第2矩形溝33の底面33aには、スライド方向D2に沿って横断状に、断面半円状の第3半円溝34が形成されている。第2矩形溝33は、プランジャー20と凹凸係合してスライド方向D2へのプランジャー20のスライド移動を案内する。
第2矩形溝33の幅寸法は、プランジャー20の後述する第4対向面23の幅寸法と略一致させてあり、下アンビル30とプランジャー20とを所定の位置関係に配置したときに、プランジャー20が第2矩形溝33に凹凸係合する。これにより、第2矩形溝33は、スライド方向D2へのプランジャー20のスライド移動を案内する。
プランジャー20は、下アンビル30の第2矩形溝33に対向する第4対向面23を有している。第4対向面23には、スライド方向D2に沿って横断状に、断面半円状の第4半円溝24が形成されている。
第3半円溝34と第4半円溝24は、下アンビル30とプランジャー20を凹凸係合させたときに対向し合う位置に形成されており、下アンビル30の第2矩形溝33の底面33aとプランジャー20の第4対向面23との間にスライド方向D2に貫通状に、第3半円溝34と第4半円溝24が内側壁を構成する円筒状の第2被処理物配置部LSを形成する。
第2被処理物配置部LSには、相当ひずみを付与すべき円柱状(丸棒状)の第2被処理物S2が配設される。第2被処理物S2の径は、第2被処理物配置部LSの径と略一致するサイズに形成されており、下アンビル30とプランジャー20を所定の位置関係で配置すると、第2被処理物配置部LSに収容された第2被処理物S2は下アンビル30とプランジャー20の間に挟持される。円筒状の第1被処理物配置部USと第2被処理物配置部LSとが軸平行に形成されたとき、円柱状の第1被処理物S1と第2被処理物S2も軸平行に配置されることになる。
プランジャー20は、そのスライド方向D2と略垂直な面F1を、第2油圧装置50によって押圧可能に配設されている。具体的には、第2油圧装置50は、本体フレーム60に固定されたシリンダ部51と、このシリンダ部51に対して伸縮自在のピストン部52とを有しており、このピストン部52の伸縮方向はスライド方向D2と略平行な方向になっている。ピストン部52のプランジャー20の面F1に対向する面には、プランジャー20をスライド方向に押圧するための押棒53が設けてある。
プランジャー20の面F1は、ピストン部52を伸縮させた時の押棒53の加圧軌道としての動線上に位置しており、この動線は、上アンビル10と下アンビル30の間に挟持された状態でプランジャー20がスライドする動線と略一致している。従って、押棒53をプランジャー20の面F1に当接させて第2油圧装置50のピストン部52を伸長させると、プランジャー20がスライド方向D2に沿ってスライド移動することになる。
以上説明したように、本実施形態に係る相当ひずみ付与装置1は、上アンビル10と下アンビル30の間にプランジャー20を挟んだ状態で、上アンビル10と下アンビル30とを互いに近づける方向に加圧している。このため、上アンビル10とプランジャー20の間の第1被処理物配置部USに配置される第1被処理物S1と、下アンビル30とプランジャー20の間の第2被処理物配置部LSに配置される第2被処理物S2の2つの被処理物を、同時に押圧挟持することが出来るようになっている。なお、第1被処理物S1については、上アンビル10が第1金型を構成し、プランジャー20が第2金型を構成し、第2被処理物S2については、下アンビル30が第1金型を構成し、プランジャー20が第2金型を構成することになる。
なお、本実施形態に係る相当ひずみ付与装置1は、第1被処理物配置部USと第2被処理物配置部LSをそれぞれ1つずつ設ける場合を例に取り説明を行ったが、これら第1被処理物配置部USと第2被処理物配置部LSは複数設けても構わない。すなわち、上アンビル10とプランジャー20の間に第1被処理物配置部USを複数設けたり、下アンビル30とプランジャー20の間に第2被処理物配置部LSを複数設けたりしても構わない。金型の間に被処理物配置部を複数設けることにより、同時に複数の被処理物を加工することができるため、相当ひずみ付与加工の効率を向上することができる。
また、金型の間に被処理物配置部を複数設ける場合、溝の径を各々異なるものとしてもよい。これにより、サイズが異なる複数の被処理物に対し、同時に相当ひずみ付与加工を行う事が出来る。また、後述するマルチパス加工を行う際には、パス数の進行と共に被処理物の配置先を段階的に挟径の被処理物配置部に変更していってもよい。これにより、相当歪み付与加工の応力によって被処理物断面が徐々に縮径されるように圧縮された場合にも、マルチパス加工を構成する各パスにおいて、最適な径の被処理物配置部で相当ひずみ付与加工を行うことができるようになる。
また、本実施形態では、1つの第1油圧装置40を用いて、上アンビル10の第1対向面11とプランジャー20の第2対向面21とを近づける方向に圧力P1で加圧するとともに、下アンビル30の第3対向面31とプランジャー20の第4対向面23とを近づける方向に圧力P2で加圧しているため、1つの第1油圧装置40で2つの被処理物を同時に押圧挟持することができるが、むろん、加圧部位毎にそれぞれ加圧装置を設けても構わない。
また、本実施形態では被処理物の形状を丸棒状としたが、被処理物の形状はこれに限るものではなく平板状としてもよく、長手状のものであれば様々なものを採用可能である。また、被処理物配置部の形状も円筒状に限るものではなく、被処理物の形状に合わせて長手状の様々な筒状とすることができる。そして、第1被処理物配置部USの形状と第2被処理物配置部LSの形状は互いに異なってもよい。例えば、第1被処理物配置部USについては丸棒状の被処理物を処理するべく円筒状とし、第2被処理物配置部LSについては平板状の被処理物を処理するべく扁平角筒状としてもよい。これにより、異なる形状の被処理物に同時に相当ひずみ付与加工を行うことができる。
また、第1被処理物配置部USと第2被処理物配置部LSのいずれか一方だけを設けても良い。この場合、被処理物配置部を設けない側のプランジャーとアンビルが直接摺動することになるため、この被処理物配置部を設けない側のプランジャーとアンビルの間に潤滑物質を挟持する。この潤滑物質としては、相当ひずみ付与加工の高圧挟持条件下でも排出されずに流動性を維持できる物質であれば様々なものを採用できる。一例を挙げると、鉛や真鍮がある。また、特に、下アンビル30とプランジャー20の間に第2被処理物配置部LSを設けず、潤滑物質を挟持する構成とした場合、相当ひずみ付与加工の作業から重量あるプランジャーの取外し作業を省略することができる。
次に、上述した相当ひずみ付与装置1の動作を説明する。図6は、相当ひずみ付与装置1の動作を示すタイムチャートである。
相当ひずみ付与処理においては、まず、作業者が相当ひずみ付与装置1に被処理物をセットする。作業者は、スライド43に上アンビル10をセットし、ベッド44に下アンビル30をセットする。そして、第2矩形溝33(第2被処理物配置部LS)に被処理物を配置して、その上から第2矩形溝33にプランジャー20をセットする。また、プランジャー20の第2半円溝22(第1被処理物配置部US)にも被処理物を配置する。
被処理物のセットが完了すると、次に、作業者は、制御部70の操作盤71に対して所定の操作入力を行って相当ひずみ付与装置1に相当ひずみ付与動作を開始させる。
制御部70の操作盤71に対して所定の操作入力がなされると、相当ひずみ付与装置1は、第1油圧装置40の駆動を開始する(時刻t1)。これにより、第1油圧装置40のピストン部42が伸長を開始し、ピストン部42の先端のスライド43に固定された上アンビル10が、ベッド44に固定された下アンビル30及びこの上に配置されたプランジャー20へ向かって速度v1で下降を開始する。速度v1は例えば60mm/sとする。
上アンビル10が下アンビル30及び/又はプランジャー20から一定距離まで近づくと、下アンビル30及び/又はプランジャー20との接触前に上アンビル10の下降速度を速度v1よりも低速な速度v2に減速する(時刻t2)。速度v2は例えば速度v1の半分以下の20mm/sとする。速度切り替えのタイミングは、例えば、上アンビル10が下降を開始してから所定時間が経過したことにより検知してもよいし、上アンビル10の位置を検出するためのセンサを設けてそのセンサ出力に基づいて検知してもよい。このように上アンビル10の第1矩形溝13にプランジャー20が侵入する前に上アンビル10のプランジャー20への接近速度を低速化しているため、プランジャー20を上アンビル10の第1矩形溝13に安定して案内することができる。これにより上アンビル10とプランジャー20とが仮に接触した場合にもその衝撃が緩和され、金型の保護、被処理物の位置ズレ防止等が実現される。
その後、上アンビル10と下アンビル30及び/又はプランジャー20との接触までに、上アンビル10は、速度v2よりも更に低速な速度v3に減速しつつも下降を継続する(時刻t3〜時刻t4)。速度v3は、例えば速度v2の1/10以下の0.5〜1.5mm/sの範囲内になる。このように、上アンビル10とプランジャー20と下アンビル30とが合体するまでに上アンビル10のプランジャー20への接近速度をさらに減速して低速で接触させることにより、上アンビル10とプランジャー20と下アンビル30との合体直後の圧力急上昇を防止することができる。
速度v3での下降は、被処理物に接触した後も被処理物に対する加圧力が目標圧力に達するまで継続される。すなわち、上アンビル10と下アンビル30及び/又はプランジャー20とが接触合体した後も、第1油圧装置40の駆動を負荷状態で継続する。これにより、上アンビル10と下アンビル30及びプランジャー20とに挟持された被処理物への加圧力が徐々に上昇していく。このとき、被処理物と金型の密着度が徐々に上昇し、被処理物や金型の剛性や弾性及び印加される加圧力に応じて被処理物や金型が徐々に変形する。目標圧力の検出は、例えば第1油圧装置40に設けた圧力センサで行う。または、上アンビル10の位置の変動量の検出により、上アンビル10の単位時間あたりの移動量が所定値以下になったことをもって被処理物に対する加圧力が目標圧力に達したと判断してもよい。被処理物に対する加圧力が目標圧力に達すると(時刻t4)、その後、後述する一連の相当ひずみ付与処理(時刻t4〜時刻t9)が終了するまで、例えば圧力センサのセンサ出力に基づく油圧回路のフィードバック制御により加圧力が目標圧力に維持される。
被処理物に対する加圧力が目標圧力に達すると、第2油圧装置50の駆動が開始される。すなわち、第2油圧装置50のピストン部52及びその先端に設けられた押棒53が速度v4でプランジャー20に向けて伸長を開始する(時刻t4)。速度v4は、例えば60mm/sとする。なお、時刻t1〜時刻t5において、プランジャー20は、その面F1が上アンビル10と下アンビル30の間から第2油圧装置50側へ突出した状態になっている。従って、押棒53は、速度v4でプランジャー20の面F1に向けて伸長する。
押棒53がプランジャー20の面F1から一定距離まで近づくと、プランジャー20の面F1との接触前に、第2油圧装置50の吐出しバルブが切り替わって低速高圧力モードに変化する。これにより、押棒53の伸長速度が速度v4よりも低速な速度v5に減速する(時刻t5)。速度v5は、被処理物に相当ひずみを付与しつつ行う上アンビル10及び下アンビル30に対するプランジャー20の移動速度と同等とする。
ここで、本実施形態にかかる第2油圧装置50の低速高圧力モードではフィードバック制御に追従するサーボバルブを使用しており、位置、速度、又は圧力に基づくフィードバック制御により負荷の有無に関わらず押棒53を一定速度で伸長させることができる。このため、低速高圧力モードでは、プランジャー20を上アンビル10及び下アンビル30に対して一定速度で移動させることができる。
すなわち、速度v5は、例えば0.1〜1.5mm/sの範囲で0.1mm/s単位で任意の一定速度に設定することができる。速度切り替えのタイミングは、例えば、押棒53の位置を検出するためのセンサを設けてそのセンサ出力に基づいて検知してもよいし、押棒53が伸長を開始してから所定時間が経過したことにより検知してもよい。
このように、押棒53の伸長をプランジャー20との接触前は高速で行いつつプランジャー20との接触までに減速して低速で接触させることにより、押棒53とプランジャー20との接触時の衝撃が緩和され、これにより金型が保護され、更には被処理物の位置ズレも防止できる。
この速度v5で伸張している間、プランジャー20は上アンビル10及び下アンビル30に対してスライド方向D2へ一定速度で相対的に移動する。プランジャー20に対する速度v5での加圧は上アンビル10及び下アンビル30に対するプランジャー20の相対移動が所定距離を達するまで継続される(時刻t5〜時刻t6)。上アンビル10及び下アンビル30に対するプランジャー20の相対移動距離は、押棒53の位置又はプランジャー20の位置を検出する検出手段としての位置センサによって検出してもよいし、プランジャー20を速度v5に減速してからの経過時間に基づいて検出してもよい。
このようにプランジャー20が上アンビル10及び下アンビル30に対して相対的に移動すると、第1被処理物配置部USに収容された被処理物と第2被処理物配置部LSに収容された被処理物とに相当ひずみが付与される。すなわち、第1被処理物配置部USに収容された被処理物は、上アンビル10との当接面が上アンビル10に略固定され、且つプランジャー20との当接面がプランジャー20に略固定されるため、プランジャー20との当接面付近の部位と上アンビル10との当接面付近の部位とが互いに逆方向に移動する。このため、上アンビル10とプランジャー20のいずれにも固定されていない内部に剪断応力が加わって相当ひずみが導入される。
同様に、第2被処理物配置部LSに収容された被処理物は、プランジャー20との当接面はプランジャー20に略固定されるとともに下アンビル30との当接面は下アンビル30に略固定されるため、プランジャー20との当接面付近の部位と下アンビル30との当接面付近の部位とが互いに逆方向に移動する。このため、プランジャー20と下アンビル30のいずれにも固定されていない内部に剪断応力が加わって相当ひずみが導入される。
プランジャー20への加圧が終了すると、第2油圧装置50の圧抜きを行う(時刻t6〜時刻t7)。この圧抜きの時間は、例えば0.5sとする。この圧抜きにより、ピストン部52に印加していた油圧が解除されて、金型や被処理物の弾性による反力に応じた位置までピストン部52が自然に戻ることになる。
第2油圧装置50の圧抜きが終了すると、押棒53を速度v7で後退させて、初期位置に戻す(時刻t7〜時刻t8)。速度v7は、例えば速度v4と同等又はそれ以上の速度の120mm/sとする。すなわち、後退移動は、加圧対象に向けた移動でないため、第2油圧装置50のピストン部52の移動速度の中で可能な限り早い速度で行い、これにより相当ひずみ導入処理の所要時間を全体的に短縮している。
プランジャー20が後退して初期位置に戻ると、次に、第1油圧装置40の圧抜きを行う(時刻t8〜時刻t9)。この圧抜きの時間は、例えば0.5sとする。この圧抜きにより、ピストン部42に印加していた油圧を解除されて、金型や被処理物の弾性による反力に応じた位置までピストン部42が自然に戻ることになる。
第1油圧装置40の圧抜きが終了すると、ピストン部42を速度v9で上昇させる(時刻t9〜時刻t10)。速度v9は、例えば速度v1と同等又はそれ以上の速度の120mm/sとする。すなわち、上昇移動は、加圧対象に向けた移動でないため、第1油圧装置40のピストン部42の移動速度の中で可能な限り速い速度で行い、相当ひずみ導入処理の所要時間を全体的に短縮している。
その後、ピストン部42が初期位置付近まで後退するとピストン部42の上昇速度を速度v9よりも低速な速度v10に減速する(時刻t10)。速度v9は例えば速度v9の半分以下の40mm/sとする。速度切り替えのタイミングは、例えば、上アンビル10が上昇を開始してから所定時間が経過したことにより検知してもよいし、上アンビル10の位置検出センサを設けてその出力に基づいて検知してもよい。
このように、上アンビル10の上昇を、初期位置に戻る前は高速で行いつつ、初期位置に到達する前に減速して低速化することにより、ピストン部42の停止時に第1油圧装置40へ加わる衝撃によるダメージが緩和され、スライド43に固定されている上アンビル10に加わる衝撃も緩和される。従って、上アンビル10が衝撃でスライド43から落下する等のアクシデントを防止できる。
以上説明したように、本実施形態にかかる相当ひずみ付与装置1では、制御部70が、プランジャー20に対する上アンビル10の速度を徐々に低下させつつ接近させながら第1油圧装置40の被処理物に対する加圧力を目標圧力に向けて徐々に増大させる。従って、上アンビル10が押棒53の動線に近づくほど上アンビル10のプランジャー20に対する速度が減少することになる。そして、第1油圧装置40の加圧力が目標圧力に達した後に第2油圧装置50による加圧を開始させ、プランジャー20のスライド中は第1油圧装置40の加圧力を目標圧力に維持し、プランジャー20のスライドが完了すると第2油圧装置の圧抜きを行ってから押棒53を後退させた後、第1油圧装置40の圧抜きをし、プランジャー20に対する上アンビル10の速度を徐々に低下させつつ上アンビル10をプランジャー20から離間させて初期位置に戻す。
以上のように構成された相当ひずみ付与装置1では、第1油圧装置40を用いて、被処理物に加圧方向D1への挟み込み圧力を加えながら、第2油圧装置50を用いて圧力P3を作用させることによりプランジャー20を上アンビル10や下アンビル30に対してスライド方向D2へ相対的にスライド移動させて、被処理物の内部に相当ひずみを導入し、被処理物の結晶粒径をナノレベル又はサブミクロンレベルに超微細化することができる。
ここで、上述した第1被処理物S1及び第2被処理物S2は、従来のHPS法やHPT法で扱う被処理物より大きな厚みを有する。特に、相当ひずみ付与装置1が被処理物に与える相当ひずみは、後述する実施例の被処理物断面の光学顕微鏡写真や硬度分布から分かるように、スライド方向D2と垂直な方向に一定以上の幅(以下、「有効相当ひずみ付与厚み」と記載する。)を持つが、従来のHPS法やHPT法では、この有効相当ひずみ付与厚みよりも薄い被処理物にしか被処理物全体に略均一な相当ひずみを導入することができなかった。
これに対し、本実施形態に係る相当ひずみ付与装置1では、加圧方向D1における被処理物配置部のサイズを有効相当ひずみ付与厚み以上としてあるため、加圧方向D1において被処理物の断面の所定範囲に限定的に相当ひずみが形成される。このため、この所定範囲が被処理物の断面全体を包含しない場合がある。このような場合、被処理物を長軸周りに回転させて加圧方向D1を変更して別の角度で相当ひずみを再度付与するマルチパス加工を行うことにより、相当ひずみの形成範囲が被処理物の断面全体を包含するように調整することができる。
図7〜図9は、マルチパス加工を説明する図である。図7,図8には、軸回転式のマルチパス加工を示し、図9には、往復動式のマルチパス加工を示してある。なお、図7には軸回転式の2パス加工について示し、図8には軸回転式の3パス加工について示してある。
マルチパス加工では、第1被処理物S1や第2被処理物S2を基準にしたときに、第1油圧装置40の加圧方向D1とプランジャー20のスライド方向D2との少なくとも一方が互いに異なる2種以上の相当ひずみ付与加工を行うことにより、第1被処理物S1や第2被処理物S2内に形成する相当ひずみを均一化する。
より具体的には、軸回転式のマルチパス加工では、相当ひずみ付与加工を少なくとも1回行った第1被処理物S1や第2被処理物S2を、第1油圧装置40の加圧方向D1と略垂直な何れかの軸周りに所定角度だけ回転させて第1被処理物配置部USや第2被処理物配置部LSに再配置し、金型の間に第1被処理物S1や第2被処理物S2を押挟持しつつ、プランジャー20を上アンビル10や下アンビル30に対して相対的に押圧方向と略垂直な方向にスライド移動させることにより、第1被処理物S1や第2被処理物S2に再び相当ひずみ付与加工を行う。所定角度は、再配置前の第1被処理物S1や第2被処理物S2の軸周りの角度をx°とすると、x°+πn(nは整数)以外である。
2パス加工を行う際は、図7に示すように、被処理物に1パス加工を施した後に、被処理物をいったん第1被処理物配置部USや第2被処理物配置部LSから取り出して、例えば長軸周りに被処理物を90°(180°/2)回転させて、第1被処理物配置部USや第2被処理物配置部LSに再配置して次パスの相当ひずみ付与加工を行う。
3パス加工を行う際は、図8に示すように、被処理物に1パス加工及び2パス加工を行った後に、それぞれ被処理物をいったん第1被処理物配置部USや第2被処理物配置部LSから取り出して、例えばそれぞれ長軸周りに60°(180°/3)回転させてから第1被処理物配置部USや第2被処理物配置部LSに再配置して次パスの相当ひずみ付与加工を行う。
このようなマルチパス加工を行うことにより、被処理物の断面における相当ひずみ導入範囲を増やして、被処理物に導入する相当ひずみを略均一に近づけることができる。すなわち、被処理物の断面において、1パス目で充分な相当ひずみを付与できなかった部位にも、2パス目、3パス目で相当ひずみが付与されることとなり、被処理物全体に導入される相当ひずみを略均一に近づけることができる。
また、往復動式のマルチパス加工では、第1油圧装置40が加圧方向D1に第1被処理物S1や第2被処理物S2を加圧しつつ第2油圧装置50がプランジャー20をスライド方向D2にスライドさせた後、第1被処理物S1や第2被処理物S2の向きをスライド方向D2において反転させ、再び第1油圧装置40が加圧方向D1に第1被処理物S1や第2被処理物S2を加圧しつつ第2油圧装置50がプランジャー20をスライド方向D2にスライドさせる。すなわち、被処理物を基準にすると、加圧方向が同一でスライド方向が異なる相当ひずみ付与加工を行う。
また、往復動式のマルチパス加工の他の例として、後述する第2の実施形態のように、上アンビル10等の金型を挟んで第2油圧装置50とスライド方向D2において反対側に第2油圧装置50とは別の第3油圧装置180を設けて、第1油圧装置40が加圧方向D1に第1被処理物S1や第2被処理物S2を加圧しつつ第2油圧装置50がプランジャー20をスライド方向D2にスライドさせた後、その位置にプランジャー20を残したまま第2油圧装置50は後退し、第1油圧装置40が加圧方向D1に第1被処理物S1や第2被処理物S2に加圧継続したまま第3油圧装置180がプランジャー20をスライド方向D2’にスライドさせる方法もある。この場合においても、被処理物を基準にして、加圧方向が同一でスライド方向が異なる相当ひずみ付与加工を行うことができる。
図9は、往復動式のマルチパス加工により被処理物内部に形成される相当ひずみを説明する図である。同図には、第1被処理物S1の内部に形成される相当ひずみを例示してあり、第1被処理物S1において、往動パスでプランジャー20によって押し出される側をFront、押し込まれる側をRear、その中間部をCenterとし、Front側近傍の部位を「F部」、Rear側近傍の部位を「R部」、Center付近の部位を「C部」としてある。
同図に示すように、往動パスと復動パスにいずれにおいても、C部では第1被処理物S1の厚み方向略中央付近に歪みが導入される。一方、F部では、往動パスにおいては厚み方向略中央よりも上アンビル10寄りの部位に歪が導入され、復動パスにおいては厚み方向略中央よりもプランジャー20寄りの部位に歪が導入される。他方、R部では、往動パスにおいては厚み方向略中央よりもプランジャー20寄りの部位に歪が導入され、復動パスにおいては厚み方向略中央よりも上アンビル10寄りの部位に歪が導入される。
このように、加圧方向が同一でスライド方向が異なる往動パスと復動パスとでは、導入される歪の態様が互いに異なるため、往動パスと復動パスとを併用することにより、より被処理物の全体的に歪が導入されるようになり、被処理物内部へのひずみ導入範囲を均一化することができる。
しかも、第1油圧装置40による加圧を解除せずに継続して往復動式のマルチパス加工を行うこともできるため、第1油圧装置40の上下動及び加減圧に係る時間短縮や作業負担軽減の効果がある。また、被処理物の再セットによる位置ズレも無いため、後述する往復動式のマルチパス加工による導入ひずみの均一化にも効果がある。
なお、第1被処理物配置部USに第1被処理物S1を配置して第1被処理物S1に相当ひずみを加えるとき、上アンビル10の第1対向面11(第1矩形溝13の底面13a)とプランジャー20の第2対向面21の間には隙間R1が形成されるようになっており、上アンビル10とプランジャー20が加圧方向D1において直接接触しないように構成されている。これにより、上アンビル10の第1対向面11(第1矩形溝13の底面13a)とプランジャー20の第2対向面21との摩擦による損耗を防止できる。
同様に、第2被処理物配置部LSに第2被処理物S2を配置して第2被処理物S2に相当ひずみを加えるとき、下アンビル30の第3対向面31(第2矩形溝33の底面33a)とプランジャー20の第4対向面23の間には隙間R2が形成されるようになっており、下アンビル30とプランジャー20が加圧方向D1において直接接触しないように構成されている。これにより、下アンビル30の第3対向面31(第2矩形溝33の底面33a)とプランジャー20の第4対向面23との摩擦による損耗を防止できる。
また、第1被処理物配置部USや第2被処理物配置部LSに被処理物を配置して相当ひずみを加えるとき、上アンビル10の第1対向面11と下アンビル30の第3対向面31との間にも、隙間R3が形成されるようになっており、上アンビル10と下アンビル30とが加圧方向D1において直接接触しないようになっている。これにより、上アンビル10の第1対向面11と下アンビル30の第3対向面31との摩擦による損耗を防止できる。
ところで、相当ひずみ付与装置1が被処理物に加える相当ひずみεは、下記の式(1)で表すことができる。下記(1)式において、xはプランジャー20のスライド距離、tは被処理物厚さ、をそれぞれ表す。
すなわち、相当ひずみ付与装置1が被処理物に与える相当ひずみεは、スライド距離xに比例し、被処理物の厚みtに反比例する。更に言えば、相当ひずみεは、被処理物に加えた変形による剪断応力に比例する。
(2)第2の実施形態:
図10は、本実施形態に係る相当ひずみ付与装置の概略構成を示す側面図である。なお、本実施形態に係る相当ひずみ付与装置100は、第3油圧装置180及び本体フレーム170の形状を除くと、第1の実施形態に係る相当ひずみ付与装置1と同様の構成であるため、同じ符号を付して以下では詳細な説明を省略する。本体フレーム170は、第3油圧装置180の配設スペース分を本体フレーム60から拡張した構成になっている。
第3油圧装置180は、上アンビル10や下アンビル30等の金型配設部Anvを挟んで第2油圧装置50の反対側に設けてある(図10では金型配設部Anvの左側)。第3油圧装置180は、第2油圧装置50と同様にシリンダ部181、ピストン部182及び押棒183を有しており、シリンダ部181が本体フレーム170に対して固定されており、このシリンダ部181から金型配設部Anvに向けてピストン部182が伸縮/後退する構成である。
第3油圧装置180は、第2油圧装置50に比べて、ピストン部182の可動域が広くなるように長ストローク構成を採用してある。これにより、ピストン部182の最大後退時に第3油圧装置180と金型配設部Anvとの間に広い空間を確保することができる。従って、金型配設部Anvにおける被処理物設置作業、被処理物回収作業、金型交換作業等を第3油圧装置180の側から行うことが可能となる。
図11は、本実施形態に係る相当ひずみ付与装置100の動作を示すタイムチャートである。なお、同図には、往復動式のひずみ付与加工を例に取り示してあるが、軸回転式のひずみ付与加工を組み合わせて行ってもよい。
本実施形態にかかる相当ひずみ付与処理は、時刻t1〜t8については上述した第1の実施形態にかかる相当ひずみ付与処理と同様であるため、説明を省略する。
時刻t8において第2油圧装置50のピストン部52が初期位置に戻ると、次に、第3油圧装置180の駆動を開始する。すなわち、第3油圧装置180のピストン部182の先端に設けられた押棒183が、速度v11でプランジャー20に向けて伸長を開始する(時刻t8)。速度v11は、例えば60mm/sとする。なお、時刻t8において、プランジャー20は、その面F2(図4参照)が上アンビル10と下アンビル30の間から第3油圧装置180側へ突出した状態になっている。従って、押棒183は、速度v11でプランジャー20の面F2に向けて伸長することになる。
押棒53がプランジャー20の面F2から一定距離まで近づくと、プランジャー20の面F2との接触前に、第2油圧装置50の吐出しバルブが切り替わって低速高圧力モードに変化する。これにより、押棒53の伸長速度が速度v11よりも低速な速度v12に減速する(時刻t9)。速度v11は、被処理物に相当ひずみを付与しつつ行う上アンビル10及び下アンビル30に対するプランジャー20の移動速度と同等とする。
上述したように、実施形態にかかる第2油圧装置50の低速高圧力モードでは、例えば0.1〜1.5mm/sの範囲で0.1mm/s単位で任意の一定速度に設定することが可能であり、速度v12は、位置、速度、又は圧力に基づくフィードバック制御により負荷の有無に関わらず一定速度である。速度切り替えのタイミングは、例えば、押棒53の位置を検出するためのセンサを設けてそのセンサ出力に基づいて検知してもよいし、押棒53が伸長を開始してから所定時間が経過したことにより検知してもよい。
このように、押棒53の伸長をプランジャー20との接触前は高速で行いつつプランジャー20との接触までに減速して低速で接触させることにより、押棒53とプランジャー20との接触時の衝撃が緩和され、これにより金型が保護され、更には被処理物の位置ズレも防止できる。
この間、プランジャー20は、上アンビル10及び下アンビル30に対して、スライド方向D2’へ一定速度で相対的に移動する。プランジャー20に対する速度v12での加圧は、上アンビル10及び下アンビル30に対するプランジャー20の相対移動が所定距離を達するまで継続される(時刻t9〜時刻t10)。
上アンビル10及び下アンビル30に対するプランジャー20の相対移動距離は、押棒183の位置又はプランジャー20の位置を検出する位置センサによって検出してもよいし、プランジャー20を速度v5に減速してからの経過時間に基づいて検出してもよい。
このようにプランジャー20が上アンビル10及び下アンビル30に対してスライド方向D2’へ相対的に移動すると、第1被処理物配置部USに収容された被処理物と第2被処理物配置部LSに収容された被処理物とにおいて、第2油圧装置50の押圧によりプランジャー20が上アンビル10及び下アンビル30に対してスライド方向D2へ相対的に移動した場合とは異なる態様で相当ひずみが付与される。
プランジャー20への加圧が終了すると、第3油圧装置180の圧抜きを行う(時刻t10〜時刻t11)。この圧抜きの時間は、例えば0.5sとする。この圧抜きにより、ピストン部182に印加していた油圧が解除されて、金型や被処理物の弾性による反力に応じた位置までピストン部182が自然に戻ることになる。
第3油圧装置180の圧抜きが終了すると、ピストン部182を速度v14で後退させる(時刻t11〜時刻t12)。このとき、ピストン部182は第3油圧装置180のフルストロークを後退する必要はなく、その手前の加工待機位置まで後退すればよい。速度v14は、例えば速度v11と同等又はそれ以上の速度の120mm/sとする。すなわち、後退移動は、加圧対象に向けた移動でないため、第3油圧装置180のピストン部182の移動速度の中で可能な限り早い速度で行っており、これにより相当ひずみ導入処理の所要時間を全体的に短縮している。
その後、第2油圧装置50にて行う図10中右側からのプランジャー20の押圧推進と、第3油圧装置180にて行う図中左側からのプランジャー20の押圧推進と、を必要な数だけ繰り返した後、上述した第1の実施形態と同様の第1油圧装置40の圧抜き及び上昇を行う。
以上説明したように、本実施形態にかかる相当ひずみ付与装置100は、第1油圧装置40で上アンビル10及び下アンビル30とプランジャー20の間に第1被処理物S1及び第2被処理物S2を押圧挟持しつつ、第2油圧装置50と第3油圧装置180とでプランジャー20をスライド方向D2とスライド方向D2’に交互にスライド移動させることができるため、往復動式のマルチパス加工を短時間で精度よく行うことができる。
(3)第3の実施形態:
図12、図13は、本実施形態に係る相当ひずみ付与装置の概略構成を示す側面図である。なお、本実施形態に係る相当ひずみ付与装置200(不図示)は、プランジャー、及びプランジャーと対面して第1被処理物収容部や第2被処理物収容部を形成する上アンビル及び下アンビルの矩形溝の底部を除くと、第1の実施形態に係る相当ひずみ付与装置1や第2の実施形態にかかる相当ひずみ付与装置100と同様の構成であるため、以下では詳細な説明を省略する。
本実施形態にかかるプランジャー220は、断面が略矩形であり、互いに対向する第1面221aと第3面221cには、上述した第1実施形態にかかるプランジャー20と同様の半円溝が形成されており、他の互いに対向する第2面221bと第4面221dには、矩形溝が形成されている
上アンビル210のプランジャー220と凹凸係合する矩形溝の内底部は、底部211aと底部211bとを取り換えて固定可能になっている。底部211aは、第1面221aの半円溝と対面して円筒状の被処理物配置部USaを形成する半円溝を有し、底部211bは、第2面221bの矩形溝と対面して断面矩形の被処理物配置部USbを形成する矩形溝を有する。
下アンビル230のプランジャー220と凹凸係合する矩形溝の内底部は、底部231aと底部231bとを取り換えて固定可能になっている。底部231aは、第3面221cの半円溝と対面して円筒状の被処理物配置部LSaを形成する半円溝を有し、底部231bは、第4面221dの矩形溝と対面して断面矩形の被処理物配置部LSbを形成する矩形溝を有する。
すなわち、丸棒状の被処理物に相当ひずみ付与加工を行う場合は、上アンビル210の矩形溝の内底部に第1底部211aを固定し、下アンビル230の矩形溝の内底部に第1底部231aを固定し、プランジャー220の第1面221aと第3面221cを上アンビル210と下アンビル230にそれぞれ対向させて配置することにより被処理物配置部USa,LSaを形成する。
一方、断面矩形の被処理物に相当ひずみ付与加工を行う場合は、上アンビル210の矩形溝の内底部に第2底部211bを固定し、下アンビル230の矩形溝の内底部に第2底部231bを固定し、プランジャー220の第2面221bと第4面221dを上アンビル210と下アンビル230にそれぞれ対向させて配置することにより被処理物配置部USb,LSbを形成する。
このように、プランジャー220を断面矩形に形成してプランジャー20の4つの面にそれぞれ溝形状を形成するとともに、上アンビル10及び下アンビル30のプランジャー220に対向する底部を取り替え可能に構成することにより、様々な形状の被処理物に相当ひずみ付与加工を行うことができる。なお、本実施形態では、第1面221aと第3面221cの溝形状を一致させ、第2面221bと第4面221dの溝形状を一致させてあるが、各面の溝形状の選択は様々に変更可能である。
以下、相当ひずみ付与装置1又は相当ひずみ付与装置100を用いて被処理物に相当ひずみを付与した実施例について説明する。
(4)実施例1:
本実施例では、純度99.99%の純アルミ(4N−Al)の丸棒材に対し、上述した相当ひずみ付与装置100を用いて行った相当ひずみ付与加工の結果を説明する。本実施例では、径が3mm、長さが100mmの4N−Alを733Kで焼鈍した丸棒材を被処理物とし、相当ひずみ付与加工を行った。相当ひずみ付与の条件は、室温下で、第1油圧装置40による圧力を1.0GPaとし、第2油圧装置50によるプランジャー20の押し出し長さxを5mm,10mm,15mmとし、パス数は1,2,3とした。
図14は、HPS加工後の断面観察位置を示す図である。同図に示すように、被処理物において、プランジャー20のスライドによって押し出される側をFront、押し込む側をRear、中心をCenterとし、Front側から15mmの「F部」、Rear側から15mmの「R部」、中心付近の「C部」の3箇所の断面に対して、組織観察と硬度試験を行った。硬度試験は、被処理物の断面全体に0.25mm間隔で複数設定された測定点に対し、50gfの試験力を15秒掛けることにより行った。
図15は、HPS加工前のC部における断面の光学顕微鏡写真を示している。同図に示すように、被処理物断面は、平均結晶粒径が数百μmの粗大な結晶粒で構成されている。なお、4N−Alの初期硬度は20Hvであった。
図16は、押し出し長さ5mm,10mm,15mmの1パス加工後のF部,R部,C部における断面の光学顕微鏡写真であり、図17は、押し出し長さ5mm,10mm,15mmの1パス加工後のF部,R部,C部における硬度試験の結果を示している。これらの図において、図の上下方向が加圧方向D1である。
5mmのHPS加工を1パス行うと、C部の断面の厚さ方向(加圧方向D1)の略中心部に幅方向を長軸とする楕円状の歪みが導入され、その他の厚さ方向上部や下部に粗大な結晶粒が残存している。また、歪みが導入された部位近くで硬度が上昇している。
10mmのHPS加工を1パス行うと、C部の断面の厚さ方向(加圧方向D1)の略中心部の楕円状の歪みがより顕著になり、その他の厚さ方向上部や下部との結晶粒サイズのコントラストが鮮明になっている。なお、純アルミの硬度はある量以上の相当ひずみが導入されると減少して飽和することに由来して、押し出し長さの増加に伴い歪みが導入された部位で硬度が減少している。
15mmのHPS加工を1パス行うと、C部の断面の厚さ方向(加圧方向D1)の略中心部の楕円状の歪みが更に顕著になる。また、歪みが導入された部位ではさらに硬度が低下する一方で硬度が高かった領域の周囲の硬度が上昇している。なお、断面厚さ方向において、歪み導入位置や硬度上昇位置は、被処理物の長さ方向で異なっている。
なお、いずれの押し出し長さであっても、断面厚さ方向における歪み導入位置や硬度変化位置は、被処理物の長さ方向で異なっている。例えば、F部では上寄りの位置に、C部では中央部に、R部では下寄りの位置に、それぞれ歪みが導入され、硬度が上昇している。
図18は、押し出し長さ5mm,10mm、15mmの2パス加工後のF部,R部,C部における断面の光学顕微鏡写真であり、図19は、押し出し長さ5mm,10mm、15mmの2パス加工後のF部,R部,C部における断面の硬度試験の結果を示している。これらの図において、図の左右方向が2パス加工時の加圧方向D1であり、図の上下方向が1パス加工時の加圧方向D1である。
5mmのHPS加工を2パス行うと、C部の断面の上下方向(2パス目の加圧方向D1)の略中心部に左右を長軸方向とする楕円状の微細化領域と、C部の断面の左右方向(1パス目の加圧方向D1)の略中心部に上下を長軸方向とする楕円状の微細化領域が形成され、その他の部分に粗大な結晶粒が残存する。また、微細化領域及びその近くで硬度が上昇している。
10mmのHPS加工を2パス行うと、C部の断面の略中心部における微細化領域がより顕著になり、その他の厚さ方向上部や下部との結晶粒サイズのコントラストが鮮明になっている。なお、上述した純アルミの硬度特性に由来して、微細化領域及びその近くで硬度が低下する一方で、硬度の高い領域が外側へ広がっている。
15mmのHPS加工を2パス行うと、C部の断面の微細化領域が更に顕著になる。また、微細化領域及びその近くで硬度が低下しており、硬度の高い領域が外側へ広がっている。なお、断面厚さ方向において、微細化領域は被処理物の長さ方向で異なる位置に形成されている。
図20は、押し出し長さ5mm,10mmの3パス加工後のC部における断面の光学顕微鏡写真であり、図21は、押し出し長さ5mm,10mmの3パス加工後のC部における断面の硬度試験の結果を示している。
5mmのHPS加工を3パス行うと、C部の断面の厚さ方向(各対向面に垂直な方向)の略中心部に長軸方向が略60°異なる楕円状の微細化領域が3つ形成され、C部の断面のほぼ全体が微細化される。また、C部の断面全体でほぼ均一な硬度分布となる。
10mmのHPS加工を3パス行うと、C部の断面の厚さ方向(各対向面に垂直な方向)の略中心部の楕円状の微細化領域がより顕著になる。また、微細化領域及びその近くで硬度が低下しており、C部の断面全体が均一な硬度になっている。
(5)実施例2:
本実施例は、Al−3%Mg−0.2%Sc(%はwt%)の丸棒材に対し、上述した相当ひずみ付与装置100を用いて行った相当ひずみ付与試験の結果を示す。本実施例では、溶体化処理を行ったAl−3%Mg−0.2%Sc合金の丸棒材を被処理物として、相当ひずみ付与加工を行った。なお、溶体化処理は、T=873K、τ=1hで行った。相当ひずみ付与加工条件は、室温下で、第1油圧装置40による圧力Pを1.0GPaとし、第2油圧装置50によるプランジャー20の押し出し長さxを5mm,10mm,15mmとし、パス数は1,2,3とした。
組織観察と硬度試験は、上述した実施例1と同様に、Front側から15mmの「F部」、Rear側から15mmの「R部」、中心付近の「C部」の3箇所の断面に対して行った。硬度試験も、第1実施例と同様に、被処理物の断面全体に0.25mm間隔で複数設定された測定点に対し、50gfの試験力を15秒掛けることにより行った。
図22は、HPS加工前のC部における断面の光学顕微鏡写真と硬度試験の結果を示している。同図に示すように、被処理物の断面は、平均結晶粒径が26μmの粗大な結晶粒で構成されており、平均硬度が54.7Hvである。
図23は、押し出し長さ5mm,10mm,15mmの1パス加工後のF部,R部,C部における断面の光学顕微鏡写真であり、図24は、押し出し長さ5mm,10mm,15mmの1パス加工後のF部,R部,C部における断面の硬度試験の結果を示している。
5mmのHPS加工を1パス行うと、C部の断面の厚さ方向(各対向面に垂直な方向)の略中心部に幅方向を長軸とする楕円状の歪みが導入され、その他の厚さ方向上部や下部に粗大な結晶粒が残存する。また、歪みが導入された部位近くで硬度が上昇している。
10mmのHPS加工を1パス行うと、C部の断面の厚さ方向(各対向面に垂直な方向)の略中心部の楕円状の歪みがより顕著になり、その他の厚さ方向上部や下部との結晶粒サイズのコントラストが鮮明になっている。また、歪みが導入された部位で硬度が上昇しており、特に被処理物の幅方向の両端で硬度が上昇している。
15mmのHPS加工を1パス行うと、C部の断面の厚さ方向(各対向面に垂直な方向)の略中心部の楕円状の歪みが更に顕著になる。また、歪みが導入された部位で硬度が上昇しており、特に被処理物の幅方向の両端の硬度は150Hvまで上昇している。
図25は、押し出し長さ10mmの1パス加工,2パス加工及び3パス加工後のC部における断面の光学顕微鏡写真及び硬度試験の結果を対比して示している。
1パス加工では、C部の断面の厚さ方向(加圧方向D1)の略中心部に幅方向を長軸とする楕円状の微細化領域が形成され、その他の厚さ方向上部や下部に粗大な結晶粒が残存しているが、2パス加工では、C部の断面の上下方向(2パス目の加圧方向D1)の略中心部に左右を長軸方向とする楕円状の微細化領域と、C部の断面の左右方向(1パス目の加圧方向D1)の略中心部に上下を長軸方向とする楕円状の微細化領域が形成され、その他の部分に粗大な結晶粒が残存する。そして、3パス加工では、C部の断面の厚さ方向(各対向面に垂直な方向)の略中心部に長軸方向が略60°異なる楕円状の微細化領域が3つ形成され、C部の断面のほぼ全体が微細化されている。
硬度は、各パス加工で形成した微細化領域を中心に上昇しつつ、被処理物断面全体で上昇している。特に、3パス加工後の被処理物断面では、被処理物断面のほぼ全体が微細化されていることに対応して被処理物断面のほぼ全体で一定以上の硬度になっており、特に、被処理物中心部では非常に高い硬度が実現されていることが分かる。
図26は、10mmの1パス加工後の被処理物断面の透過型電子顕微鏡写真、図27は、10mmの3パス加工後の被処理物断面の透過型電子顕微鏡写真である。図26,図27において、上部左写真、上部右写真、下部左写真は、それぞれ、明視野像、暗視野像、制限視野回折パターンであり、暗視野像は制限視野回折パターン中の矢印の回折ビームで撮影したものである。これらの図に示すように、1パス加工後の粒径は左右に細長い比較的大きな結晶粒径であるのに対し、3パス加工後の被処理物は全体的に平均結晶粒径が約270nmに微細化されており、パス数の増大に伴い微細化が進行することが分かる。
このように、4N−Alに比べて高硬度のAl−Mg−Sc合金であっても、相当ひずみ付与装置100を用いて被処理物を微細化し、硬度を上昇することが出来ることが分かる。従って、相当ひずみ付与装置100を用いて材料の硬度を上昇させて、機械的特性や機能的特性を向上させることができる。
図28,図29は、Al−Mg−Sc合金の引張試験の結果を示す図である。図28には、相当ひずみ付与加工前(溶体化処理後)の被処理物、10mmの1パス加工後の被処理物、10mmの2パス加工後の被処理物、10mmの3パス加工後の被処理物、のそれぞれについて573Kで引張試験を行い、被処理物が破断するまでの引張応力(MPa)と伸長長さ(%)の関係をプロットしてある。図29は、各被処理物が破断したときの伸長長さを対比して示してある。
図28,図29に示すように、相当ひずみ付与加工前(溶体化処理後)の被処理物では、約60%の伸長で破断するが、1パス加工後の被処理物では破断までに約470%も伸長し、2パス加工後の被処理物では破断までに約880%も伸長し、3パス加工後の被処理物では破断までに約1030%も伸長する。一般的に、合金であれば約400%伸長すれば超塑性材料と言われるところ、本実施例では、1パス加工後の被処理物が既に超塑性を示し、2パス加工、3パス加工後の被処理物では更に高い超塑性の特性を示すことが分かる。
このように、相当ひずみ付与加工により微細化した材料は、室温ではホールペッチの関係に従い強度が高いものの、高温(融点の約半分以上の温度)になると微細結晶粒が示す超塑性による粒界滑りで逆に柔らかくなる。従って、上述した実施例1,2に係る被処理物についても高温にすることで材料の硬度を大きく低下させて加工容易性を向上することができる。
本実施例では、Al−Mg−Sc合金の融点が933Kであり、引張試験を573Kで行っている。その結果、図28に示すように、最大引張応力は、相当ひずみ付与加工前(溶体化処理後)の被処理物では約86MPaも必要であるのに対し、1パス加工後の被処理物では約45MPa、2パス加工後の被処理物では約32MPa、3パス加工後の被処理物では約21MPa、と微細化が進むにつれて伸長に必要な引張応力が徐々に低下しており、パス数の増加に伴って徐々に高い超塑性の特性を示すようになることが分かる。
(6)実施例3:
本実施例は、AZ61マグネシウム合金(以下、AZ61と略す。)の丸棒材に対し、上述した相当ひずみ付与装置100を用いて行った相当ひずみ付与加工の結果を説明する。本実施例では、径が3mm、長さが100mmのAZ61を773Kで焼鈍した丸棒材を被処理物とし、相当ひずみ付与加工を行った。相当ひずみ付与の条件は、473Kの温度で、第1油圧装置40による圧力を1.4GPaとし、第2油圧装置50によるプランジャー20の押し出し長さxを10mmとし、押出速度を0.2mm/sとしてある。
図30は、往動パスのみを行った場合のF部,R部,C部における断面の光学顕微鏡写真と、F部,R部,C部における断面の硬度試験の結果を示し、図31は、往復動パスを行った場合のF部,R部,C部における断面の光学顕微鏡写真と、F部,R部,C部における断面の硬度試験の結果を示している。これらの図において、図の上下方向が加圧方向D1である。
組織観察と硬度試験は、上述した実施例1と同様に、Front側から15mmの「F部」、Rear側から15mmの「R部」、中心付近の「C部」の3箇所の断面に対して行った。硬度試験も、第1実施例と同様に、被処理物の断面全体に0.25mm間隔で複数設定された測定点に対し、50gfの試験力を15秒掛けることにより行った。なお、FrontとRearの関係は、往動パスにおけるプランジャー20のスライド方向を基準にして決めてある。
往動パスのみを行った場合、C部では、断面の厚さ方向(各対向面に垂直な方向)の略中央部に幅方向に沿って集中的に歪みが導入され、その他の厚さ方向上部や下部にはほとんど歪みが導入されていない。また、歪みが導入された部位近くで硬度が上昇し、その他の部位ではほとんど硬度が上昇していない。
一方、F部では、断面の厚さ方向の略中央部よりも上側に広がりを持って歪みが導入され、略中央部よりも下側にはほとんど歪みが導入されていない。また、歪みが導入された部位近くで硬度が上昇し、その他の部位ではほとんど硬度が上昇していない。
他方、R部では、断面の厚さ方向の略中央部よりも下側に広がりを持って歪みが導入され、略中央部よりも上側にはほとんど歪みが導入されていない。また、歪みが導入された部位近くで硬度が上昇し、その他の部位ではほとんど硬度が上昇していない。
これに対し、往復動パスを行った場合、C部については、往動パスのみの場合と同様に断面の厚さ方向の略中心部に集中的に歪みが導入されているが、F部については、断面の厚さ方向の略中央部よりも下側に広がりを持って歪みが導入され、R部については断面の厚さ方向の略中央部よりも上側に広がりを持って歪みが導入されている。
すなわち、図9に示すように、往動パスにおけるひずみ導入範囲と復動パスにおけるひずみ導入範囲とが相違する。このため、往復動式のマルチパス加工を行うことにより、被処理物内に導入されるひずみを、一方向のみのパス加工の場合に比べて均一化することができる。特に、被処理物端部に近いF部やR部に導入されるひずみを被処理物断面方向において均一に近づけることができる。
図32〜図37は、往復動パスにより相当ひずみ付与加工を行ったAZ61の引張試験の結果を示す図である。図32,図33は1パス加工、図34,図35は2パス加工、図36,図37は3パス加工を行ったAZ61に関する。
図32,図34,図36には、それぞれ、相当ひずみ付与加工前(溶体化処理後)の被処理物、被処理物のF部(L=15mm)、被処理物のC部(L=50mm)、被処理物のR部(L=85mm)、のそれぞれから切り出したサンプルについて473Kで引張試験を行い、被処理物が破断するまでの引張応力(MPa)と伸長長さ(%)の関係をプロットしてある。図33,図35,図37には、各被処理物が破断したときの伸長長さを対比して示してある。
図32〜図37から分かるように、被処理物のF部やR部から切り出したサンプルは、いずれも被処理物のC部から切り出したサンプルよりも高い伸長長さを示している。また、被処理物のF部やR部の伸長長さを各パスで比較すると、1パス加工を行った被処理物の破断までの伸長長さは100%であったのに対し、2パス加工を行った被処理物は320%の伸長長さを示し、3パス加工を行った被処理物のR部では伸長長さが500%を超えて超塑性が出現する状態になっている。すなわち、パス回数を重ねるにつれて破断までの伸長長さが改善することが分かる。
なお、本発明は上述した実施形態および変形例に限られず、上述した実施形態および変形例の中で開示した各構成を相互に置換したり組み合わせを変更したりした構成、公知技術並びに上述した実施形態および変形例の中で開示した各構成を相互に置換したり組み合わせを変更したりした構成、等も含まれる。また,本発明の技術的範囲は上述した実施形態に限定されず,特許請求の範囲に記載された事項とその均等物まで及ぶものである。