以下、下記の順序に従って本発明を説明する。
(1)第1の実施形態:
(2)第2の実施形態:
(3)第3の実施形態:
(4)実施例:
(1)第1の実施形態:
図1は、本実施形態に係る相当ひずみ付与装置の概要を説明する図である。
相当ひずみ付与装置100は、対向面11を有する第1金型10、対向面11に対向する対向面21を有する第2金型20、第1金型10の対向面11と第2金型20の対向面21とを互いに近づける方向に加圧する駆動装置30(図1には不図示)、第1金型10と第2金型20とを対向面11,21の長さ方向D1(図1においては紙面に垂直な方向)に沿う方向に相対的にスライド移動させるスライド装置40(図1には不図示)、及び、シート状材料SMを対向面11,21の幅方向D2に搬送する搬送装置90と、を備える。
シート状材料SMは、そのシート面が対向面11,21の面方向に沿うような位置関係で、対向面11,21の間を対向面11,21に沿う方向に通過するように搬送装置90によって搬送される。シート状材料SMは、相当ひずみ付与時において対向面11,21の間に挟持され、駆動装置30によって第1金型10と第2金型20を介してシート面と略垂直な加圧方向D3に加圧される。
シート状材料SMは、その幅が第1金型10の対向面11の幅w1や第2金型20の対向面21の幅w2よりも広く、特に、後述する高摩擦面12,22の幅よりも広い。従って、第1金型10と第2金型20との間にシート状材料SMを加圧挟持する際は、シート状材料SMの一部は第1金型10と第2金型20との間に挟持されるものの、対向面11,21の幅方向D2の少なくとも一方からシート状材料SMがはみ出した状態となる。
相当ひずみ付与装置100は、第1金型10の対向面11と第2金型20の対向面21との間にシート状材料SMを挟持した状態で、第1金型10の対向面11と第2金型20の対向面21とが接近する方向に駆動装置30が加圧し、スライド装置40が第1金型10と第2金型20とを対向面11,21の長さ方向D1に相対スライドさせる。これにより、シート状材料SMの第1金型10と第2金型20の間に加圧挟持されている部分に相当ひずみが付与される。
相当ひずみ付与装置100が被処理物に加える相当ひずみεは、下記の式(1)で表すことができる。下記(1)式において、xは第2金型20のスライド距離、tは被処理物厚さ、をそれぞれ表す。
すなわち、相当ひずみ付与装置100が被処理物に与える相当ひずみεは、スライド距離xに比例し、被処理物であるシート状材料SMの厚みtに反比例する。更に言えば、相当ひずみεは、被処理物に加えた変形による剪断応力に比例する。
相当ひずみは、駆動装置30の加圧力、対向面11,21と被処理物との間のグリップ力、スライド装置40が行う第1金型10と第2金型20の相対スライドの距離、相対スライドを行う回数(往動のみ、往復動、複数回の往復動、等)、に応じた程度で、シート状材料SMに付与される。付与される相当ひずみの程度は、シート状材料の材質や形状にもよる。すなわち、特定の材質や形状のシート状材料SMに付与される相当ひずみは、駆動装置30の加圧力、スライド装置40が行う第1金型10と第2金型20の相対スライドの距離、相対スライドを行う回数の選択により、調整することができる。
相当ひずみ付与装置100は、第1金型10の対向面11と第2金型20の対向面21の間隔を駆動装置30により変更することができる。すなわち、駆動装置30は、シート状材料SMに相当ひずみを付与する際に第1金型10の対向面11と第2金型20の対向面21とを近づける方向に駆動し、相当ひずみの付与が終了すると第1金型10と第2金型20を離間させる。シート状材料SMが第1金型10と第2金型20の加圧挟持から解放されてから、搬送装置90がシート状材料SMを対向面11.21の幅方向D2に搬送する。
なお、以下では、第1金型10と第2金型20の間にシート状材料の一部を加圧挟持して拘束してから次に第1金型10と第2金型20とを離間してシート状材料の加圧挟持を開放するまでを「1回のHPS加工」と呼ぶことにする。
図2は、シート状材料SMを挟持する第1金型10と第2金型20の対向面11,21の形状を説明する図である。
第1金型10と第2金型20の対向面11,21には、互いに対向する部位に、長さ方向D1に沿う方向の全長に亘って形成された高摩擦面12,22と、高摩擦面12,22を挟んで対向面11,21の幅方向D2両側において長さ方向D1に沿って形成された低摩擦面13,23とを有する。高摩擦面12,22は滑り性が相対的に低く(摩擦力が相対的に高い)、低摩擦面13,23は滑り性が相対的に高い(摩擦力が相対的に低い)。高摩擦面12,22及び低摩擦面13,23の滑り性の相対的な相違は、例えば対向面11,21に対して行う高摩擦加工又は低摩擦加工により実現される。
高摩擦加工のシンプルな一例としては放電加工等で金型表面に微細な凹凸(例えば深さ20〜30μm程度の凹凸)を砂地状に形成して面粗度を高める方法がある。低摩擦加工のシンプルな一例としては金型表面を研磨して面粗度を低める方法がある。むろん、これら方法は一例であり、その他様々な方法で金型表面の滑り性を調整できる。
高摩擦面12,22は、互いに平行な平坦面であり、対向面11,21の中で最も近接した部位、又は、最も近接した部位の1つである。このため、例えば相当ひずみ付与装置100にシート状材料Mをセットせずに対向面11,21を互いに接近させた場合、高摩擦面12と高摩擦面22は、対向面11,21の各部位の中で最初に当接し合う部位、又は、最初に当接し合う部位の1つとなる。すなわち、対向面11,21の間に加圧挟持されたシート状材料SMは、高摩擦面12,22の間に挟持される部位に対する加圧挟持力が最大になる構造である。
一方、低摩擦面13,23は、その少なくとも一部が、高摩擦面12,22がシート状材料SMを加圧挟持する圧力以下の圧力で加圧挟持する。この低摩擦面13,23がシート状材料SMを加圧挟持する部位は、高摩擦面12,22が加圧挟持するシート状材料SMに相当ひずみを付与するにあたり、高摩擦面12,22が加圧挟持する部位の幅方向D2への圧潰伸長を抑制する圧潰伸長抑制部として機能する。
圧潰伸長抑制部としての低摩擦面13,23は、高摩擦面12,22と対向面11,21の幅方向D2における縁部との間の全体に亘って設けられている。すなわち、高摩擦面12,22と対向面11,21の各縁部との間にそれぞれ長さ方向D2の略全体にわたって圧潰伸長抑制部が分布するように設けられている。
圧潰伸長抑制部は、低摩擦面13,23によって構成されるため、高摩擦面12,22と当接するシート状材料SMの表面は対応する金型の対向面11,21にグリップされて追従して変位するのに対し、低摩擦面13,23と当接するシート状材料SMの表面は対応する金型の対向面11,21にグリップされずほとんど追従せずに摺動する。このため、スライド装置40で第1金型10と第2金型20とを相対スライドさせる際に、圧潰伸長抑制部で加圧挟持されているシート状材料SMの部位には高摩擦面12,22で挟持される部位に比べて付与される相当ひずみが小さい。
従って、高摩擦面12,22の両側に沿って圧潰伸長抑制部を構成する低摩擦面13,23を設けることにより、高摩擦面12,22の間に加圧挟持されているシート状材料SMの内部に相当ひずみを選択的に付与しつつ、シート状材料SMの幅方向D2へ圧潰伸長を抑制できる。
なお、シート状材料SMは、対向面11,21の幅方向D2の少なくとも一方からはみ出した状態で第1金型10と第2金型20との間に加圧挟持されるため相当ひずみ付与中にシート状材料Mが変形して破断・剪断等しないように対向面11,21は略平坦面として形成されている。ただし、後述するようにシート状材料SMが破断・剪断等しない程度の歪みを起こす程度の凹凸形状は形成してもよい。
図3は、各回のHPS加工の対象部位を説明する図である。
第1金型10の対向面11と第2金型20の対向面21とを離間させ、対向面11,21の間にシート状材料SMの対象部位R1が高摩擦面12,22の間に位置するように搬送装置90でシート状材料SMを幅方向D2に搬送し、高摩擦面12,22の間にシート状材料SMを加圧挟持する。そして、スライド装置40が第1金型10と第2金型20を長さ方向D1に相対スライドさせて対象部位R1に相当ひずみを付与した後、駆動装置30が第1金型10と第2金型20を離間させる。
対象部位R1に対する1回のHPS加工が終了し、第1金型10と第2金型20とを離間してシート状材料SMを加圧挟持から解放すると、シート状材料SMを幅方向D2に所定距離搬送して高摩擦面12,22の間に位置する部位を対象部位R1から対象部位R2に変更する。
対象部位R1から対象部位R2への移動距離は高摩擦面11,21の幅員以下とする。すなわち、シート状材料SMにおいて、直前に相当ひずみが付与された範囲と次に相当ひずみが付与される範囲との少なくとも一部が幅方向D2において重複する。このため、幅方向D2においてシート状材料SMに万遍なく相当ひずみを付与していくことができる。
相当ひずみを重複付与される部位には、直前の付与分の相当ひずみに次の付与分の相当ひずみが積算的に付与される。特に、図3に示すように、シート状材料SMの1回の搬送距離を高摩擦面12,22の幅員の略半分とすると、初回に相当ひずみを付与する範囲の前半と最終回に相当ひずみを付与する範囲の後半とを除いて幅方向D2においてシート状材料SMの略全体に2回ずつHPS加工が為された状態となる。この場合、シート状材料SMに付与する相当ひずみが幅方向D2において均等化しつつ1回のHPS加工で付与する相当ひずみの程度を少なくできるためHPS処理を効率化できる。
図4(a)〜(c)は、上述した特徴を持つ第1金型10及び第2金型20の具体的形状の一例を示す図である。
図4(a)に示す第1金型10及び第2金型20には、幅方向D2の略中央部に長さ方向D1に沿って延びるように平坦な高摩擦面12,22が形成されている。高摩擦面12,22の幅方向D2の両側には、幅方向断面形状において幅方向D2において対向面11,21の縁に近づくほど互いに遠ざかるように傾斜が付けてある低摩擦面13.23が形成されている。
低摩擦面13,23の傾斜の角度は、高摩擦面12,22に対して0°〜20°程度とし、例えば5°程度とする。これにより、対向面11,21でシート状材料SMを加圧挟持した際に高摩擦面12,22がシート状材料SMに当接して加圧挟持することはもちろん、低摩擦面13.23の高摩擦面12,22寄りの部位もシート状材料SMに高摩擦面12,22より弱く当接して加圧挟持することになる。このように、高摩擦面12,22の両側に沿って設けた傾斜した低摩擦面13,23の一部が上述した圧潰伸長抑制部を構成する。
図4(b)に示す第1金型10及び第2金型20には、幅方向D2の略中央部に長さ方向D1に沿って延びるように平坦な高摩擦面12,22が形成されている。高摩擦面12,22の幅方向D2の両側には、幅方向断面形状において幅方向D2において対向面11,21の縁に近づくほど互いに遠ざかるように徐々に傾斜が大きくなる低摩擦面13.23が形成されている。低摩擦面13,23の傾斜の最大角度は、高摩擦面12,22に対して0°〜20°程度とし、例えば5°程度とする。
対向面11,21でシート状材料SMを加圧挟持すると、高摩擦面12,22がシート状材料SMに当接して加圧挟持することはもちろん、低摩擦面13.23の高摩擦面12,22寄りの部位もシート状材料SMに当接して加圧挟持することになる。このように、高摩擦面12,22の両側に沿って設けた幅方向D2の縁に近づくほど大きくなる傾斜を持つ低摩擦面13,23の一部が上述した圧潰伸長抑制部を構成する。
図4(c)に示す第1金型10の対向面11には、長さ方向D1に沿って延びる条溝14が設けられており、第2金型20の対向面21には、長さ方向D1に沿って延びる突条24が設けられている。条溝14及び突条24の深さはいずれも0.5mm程である。条溝14の底面には長さ方向D1に沿って延びる高摩擦面12が形成され、突条24の頂面には長さ方向D1に沿って延びる高摩擦面22が形成されている。
突条24の幅は条溝14の幅よりも若干幅狭に形成されており、突条24と条溝14とを接近当接させると凹凸係合する。なお、突条24の段差を図に示すように裾広がり状の傾斜とし、条溝14の段差を開口に近づく程徐々に拡幅する傾斜とすると、第1金型10と第2金型20の間に挟持されるシート状材料SMの過度の屈曲を抑えつつシート状材料SMの幅方向D2への伸長を抑制する係止構造を実現できる。
このように、高摩擦面12,22の両側に沿って第1金型10と第2金型20との間で凹凸係合する若干の段差構造を設けることにより、この段差の部位でシート状材料SMが幅方向D2において係止されることになる。この段差構造が上述した圧潰伸長抑制部を構成する。
このように、第1金型10及び第2金型20は様々な形状で実現可能であり、圧潰伸長抑制部についても様々な形状で実現可能である。すなわち、第1金型10及び第2金型20の対向面11,21に高摩擦面12,22を有し、その幅方向D2両側に長さ方向D1に沿って低摩擦面13,23を有し、高摩擦面12,22がシート状材料SMを加圧挟持する際に低摩擦面13,23の少なくとも一部がシート状材料SMを加圧挟持する構成が実現できればその他様々な形状で圧潰伸長抑制部を実現することができる。
(2)第2の実施形態:
図5は、相当ひずみ付与装置100の具体的な一例の概略構成を示す斜視図、図6は、相当ひずみ付与装置100の具体的な一例の概略構成を示す正面図、図7は、相当ひずみ付与装置100の具体的な一例の概略構成を示す側面図である。
相当ひずみ付与装置100は、第1金型10、第2金型20、上アンビル15、下アンビル25、ベッド44、スライド43、駆動装置としての第1油圧装置40、スライド装置としての第2油圧装置50、これら油圧装置の駆動を制御する制御部70、及び、本体フレーム60(不図示)を備えている。
第1油圧装置40、第2油圧装置50及びベッド44は、本体フレーム60に固定されている。相当ひずみ付与装置100は、略全体が本体フレーム60を覆うように設けられた筐体80によって覆われている。
筐体80には、金型の設置/取り出し/交換等を行うための開口部81と、シート状材料SMを第1金型10と第2金型20の間に搬入する搬入口82と、シート状材料SMを第1金型10と第2金型20の間から搬出する搬出口83とが設けられている。
開口部81、搬入口82及び搬出口83には、それぞれ、シャッター及び光線式安全器が配設されており、シャッターが閉じていない時は光線式安全器の機能に応じて第1油圧装置40や第2油圧装置50の動作が規制される構成になっている。これにより、金型や被処理物の交換/設置/搬入、搬出時の作業者の安全性を確保することができる。
第1油圧装置40は、本体フレーム60に固定されたシリンダ部41と、シリンダ部41に対して伸縮自在に構成されたピストン部42とを有している。ピストン部42は、シリンダ部41に対して加圧方向D3に伸縮するべく構成されており、ピストン部42の先端にはスライド43が固定されている。
スライド43の下面には、金型固定用の固定凹部431が形成されており、固定凹部431に上アンビル15が固定される。図5〜図7に示す例では、上アンビル15の基部を固定凹部431に埋設状態で固定されており、上アンビル15はスライド43から下アンビル25に向けて突出した状態になっている。上アンビル15の下面の条溝には、第1金型10が入れ子状に固定されている。
スライド43に対する上アンビル15の固定は、例えば、上アンビル15の基部より幅広に形成した固定凹部431に、基端に近づくほど幅広となる裾広がり状に形成した上アンビル15を挿入し、上アンビル15と固定凹部431の隙間に楔状のスペーサを嵌合させることにより行うことができる。第1金型10も同様の方法で上アンビル15に対して固定することができる。
上アンビル15及び第1金型10を固定されたスライド43の下面は、下アンビル25を固定されたベッド44の上面に対面するように対向配置されている。
ベッド44の上面には、金型固定用の固定凹部441が形成されており、固定凹部441に下アンビル25が固定される。図5〜7に示す例では、下アンビル25の基部が固定凹部441に埋設状態で固定されており、下アンビル25の金型部についてはベッド44から上アンビル15に向けて突出した状態となっている。下アンビル25の上面の条溝には、第2金型20が入れ子状に嵌合されており、長さ方向D1(条溝の延びる方向)に沿って摺動可能になっている。すなわち、第2金型20の摺動移動は下アンビル25の条溝によって案内される。
ベッド44に対する下アンビル25の固定は、例えば、下アンビル25の基部より幅広に形成した固定凹部441に、基端に近づくほど幅広となる裾広がり状に形成した下アンビル25を挿入し、下アンビル25と固定凹部441の隙間に楔状のスペーサを嵌合させることにより行うことができる。
以上のように構成された相当ひずみ付与装置100によれば、第1油圧装置40のピストン部42を加圧方向D3に伸縮してスライド43を駆動すると、上アンビル15が下アンビル25に近づく方向に駆動され、ひいては第1金型10が第2金型20に近づく方向に駆動される。
第1金型10は、第2金型20に対向する対向面11の長さ方向D1に沿って上述した高摩擦面12形成されている。同様に、第2金型20にも、第1金型10に対向する対向面21の長さ方向D1に沿って上述した高摩擦面22が形成されている。第2金型20は、第2油圧装置50によって第1金型10に対して相対的に長さ方向D1にスライド移動するように駆動される。
第2油圧装置50は、本体フレーム60に固定されたシリンダ部51と、このシリンダ部51から伸縮自在のピストン部52とを有しており、ピストン部52の先端には第2金型20を押すための押棒53が設けてある。ピストン部52は、長さ方向D1に伸縮する。第2油圧装置50のピストン部52を長さ方向D1に伸縮して押棒53を駆動すると、押棒53が第2金型20に当接して第2金型20を第1金型10に対してスライド移動させる。
搬送装置90は、筐体80に設けられた搬入口82からシート状材料SMを第1金型10の対向面11と第2金型20の対向面21との間に送り込むとともに第1金型10の対向面11と第2金型20の対向面21との間からシート状材料SMを送り出すシート状材料SMの搬送を行う。
次に、上述した相当ひずみ付与装置100の動作を説明する。図8は、相当ひずみ付与可能の流れを示すフローチャートである。
相当ひずみの付与においては、まず、搬送装置90を用いてシート状材料SMを筐体80の中に搬入する(S1)。すなわち、作業者は制御部70を操作してシート状材料SMが搬入口82から搬出口83へ向かうように搬送する。このとき、最初に相当ひずみの付与を行うシート状材料SMの領域R1が第1金型10の対向面11の高摩擦面12と第2金型20の対向面21の高摩擦面22の間に位置するまでシート状材料SMを搬送する。これにより、シート状材料SMは、領域R1が高摩擦面22の上に載置された状態となる。
シート状材料SMを所定の位置まで搬送完了すると、次に、作業者は、制御部70に対して所定の操作入力を行って相当ひずみ付与装置100に相当ひずみ付与動作を開始させる。
制御部70に対して所定の操作入力がなされると、相当ひずみ付与装置100は、第1油圧装置40の駆動を開始する。これにより、第1油圧装置40のピストン部42が伸長を開始し、ピストン部42の先端のスライド43に上アンビル15を介して固定された第1金型10が、ベッド44に下アンビル25に嵌合された第2金型20へ向かって下降する。そして、シート状材料SMの領域R1に第1金型10が接触した後も加圧力が目標圧力に達するまでピストン部42の伸長が継続される。目標圧力の検出は、例えば第1油圧装置40に設けた圧力センサで行う。又は、第1金型10の位置の変動量の検出により、第1金型10の単位時間あたりの移動量が所定値以下になったことをもって被処理物に対する加圧力が目標圧力に達したと判断してもよい。シート状材料SMに対する加圧力が目標圧力に達すると、その後、後述する一連の相当ひずみ付与処理が終了するまで、例えば圧力センサのセンサ出力に基づく油圧回路のフィードバック制御により加圧力が目標圧力に維持される(S2)。
シート状材料SMに対する加圧力が目標圧力に達すると、第2油圧装置50の駆動が開始される。すなわち、第2油圧装置50のピストン部52及びその先端に設けられた押棒53が第2金型20の押圧面20aに向けて伸長を開始する。
押棒53が第2金型20の押圧面20aから一定距離まで近づくと、第2金型20の押圧面20aとの接触前に第2油圧装置50の吐出しバルブが切り替わって低速高圧力モードに変化する。この低速高圧力モードにおけるピストン部52の伸長速度は、シート状材料SMに相当ひずみを付与する際の第2金型20の移動速度と同等とする。また、低速高圧力モードではフィードバック制御に追従するサーボバルブを使用しており、位置、速度、又は圧力に基づくフィードバック制御により負荷の有無に関わらず押棒53を一定速度で伸長させることができる。すなわち、第2金型20を第1金型10に対して相対的に一定速度でスライド移動させることができる(S3)。
このように、押棒53の伸長を第2金型20との接触前は高速で行いつつ第2金型20との接触までに減速して低速で接触させることにより、押棒53と第2金型20との接触時の衝撃が緩和され、これにより金型が保護され、更には被処理物の位置ズレも防止できる。
第2油圧装置50を用いた第2金型20の駆動は、第1金型10に対する第2金型20の相対移動が所定距離に達するまで継続される。第1金型10に対する第2金型20の相対移動距離は、押棒53の位置又は第2金型20の位置を検出する位置センサを設けて検出してもよいし第2金型20を低速高圧力モードに切り替えてからの経過時間に基づいて検出してもよい。
このように第2金型20が第1金型10に対して相対的に移動するとシート状材料SMの領域R1に相当ひずみが付与される。すなわち、シート状材料SMは、高摩擦面12との当接面が第1金型10に略固定され、且つ高摩擦面22との当接面が第2金型20に略固定されるため、高摩擦面22との当接面付近の部位と高摩擦面12との当接面付近の部位とが互いに逆方向に移動する。このため、高摩擦面12と高摩擦面22のいずれにも固定されていない内部に剪断応力が加わって相当ひずみが付与される。また、高摩擦面12,22に加圧挟持された領域R1の両側は、低摩擦面13,23に加圧挟持されており領域R1のシート状材料SMの幅方向D2への伸長を抑制している。
第2金型20のスライド移動が終了すると第2油圧装置50の圧抜きを行う。圧抜きにより、ピストン部52に印加していた油圧が解除されて金型や被処理物の弾性による反力に応じた位置までピストン部52が自然に戻る。第2油圧装置50の圧抜きが終了すると、押棒53を後退させて初期位置に戻す。
押棒53が後退して初期位置に戻ると、次に第1油圧装置40の圧抜きを行う。圧抜きにより、ピストン部42に印加していた油圧を解除されて、金型や被処理物の弾性による反力に応じた位置までピストン部42が自然に戻る。第1油圧装置40の圧抜きが終了するとピストン部42を上昇させて初期位置(又は待機位置)に戻す(S4)。待機位置は初期位置よりも第2金型20に近い位置である。
次に、搬送装置90を用いてシート状材料SMを搬送方向(幅方向D2)へ一定量だけ搬送する(S5)。すなわち、作業者は搬送装置90を操作して、シート状材料SMが搬入口82から搬出口83へ一定量だけ移動するように搬送する。このとき、相当ひずみが付与された領域R1と搬送方向において半分だけ重複する領域R2が第1金型10の対向面11の高摩擦面12と第2金型20の対向面21の高摩擦面22の間に位置するようにシート状材料SMを搬送する。これにより、シート状材料SMは、領域R2が高摩擦面22の上に載置された状態となる。
その後、領域R2に対し、領域R1と同様の相当ひずみの付与を行い、押棒53の後退及びピストン部42の上昇を行った後、搬送装置90を用いてシート状材料SMを搬送して、次の領域R3に対する相当ひずみの付与を行う。このようにしてシート状材料SMの所望の範囲の全域を網羅するように相当ひずみの付与が完了するまでステップS2〜S5を繰り返し行う(S6)。
このように、シート状材料SMを順次搬送しつつ行う相当ひずみの付与では1回のHPS加工で相当ひずみを付与できる面積よりも広い範囲に対して相当ひずみを付与することができる。すなわち、シート状材料SMの内部に全体的に相当ひずみを付与し、結晶粒径をナノレベル又はサブミクロンレベルに超微細化することができる。
(3)第3の実施形態:
図9は、本実施形態に係る相当ひずみ付与装置の概略構成を示す側面図である。なお、本実施形態に係る相当ひずみ付与装置100は、第3油圧装置200及び筐体180(及び不図示の本体フレーム)の形状を除くと、第2の実施形態に係る相当ひずみ付与装置100と同様の構成であるため共通する構成については同じ符号を付して詳細な説明を省略する。筐体180は、第3油圧装置200の配設スペース分を筐体80から拡張した構成になっている。
第3油圧装置200は、上アンビル15や下アンビル25等の金型配設部Anvを挟んで第2油圧装置50の反対側に設けてある(図10では金型配設部Anvの左側)。第3油圧装置200は、第2油圧装置50と同様にシリンダ部201、ピストン部202及び押棒203を有しており、シリンダ部201が本体フレームに対して固定されており、このシリンダ部201から金型配設部Anvに向けてピストン部202が伸縮/後退する構成である。
第3油圧装置200は、第2油圧装置50に比べて、ピストン部202の可動域が広くなるように長ストローク構成を採用してある。これにより、ピストン部202の最大後退時に第3油圧装置200と金型配設部Anvとの間に広い空間を確保することができる。従って、金型配設部Anvにおける被処理物設置作業、被処理物回収作業、金型交換作業等を第3油圧装置200の側から行うことが可能となる。
第3油圧装置200を設けることにより、図10における右側から第2油圧装置50を用いて行う第2金型20の押圧推進と、図10における左側から第3油圧装置200を用いて行う第2金型20の押圧推進と、を必要な数だけ交互に行った後、上述した第2の実施形態と同様の第1油圧装置40の圧抜き及び上昇を行う。
以上説明したように、本実施形態にかかる相当ひずみ付与装置100は、第1油圧装置40で第1金型10及び第2金型20の間に押圧挟持するシート状材料SMの位置を順次変更しつつ第2油圧装置50と第3油圧装置200とで第2金型20を長さ方向D1’に往復動させることができるため、往復動式の相当ひずみ付与加工を短時間で精度よく行うことができる。
(4)実施例:
図10は、上述した相当ひずみ付与装置100を用いて相当ひずみを付与したTi−6Al−7Nb合金の板材に対する試験方法を説明する図、図11,図12は、図10(a)に示すA−A断面の硬度試験の結果を示す図、図13,図14は、図10(a)に示すI字状部分から採取した試料を用いて行った引張試験の結果を示す図である。
なお、試験で使用したTi−6Al−7Nb合金の板材は、長さ方向D1が100mm、幅方向D2が30mm、厚みが1mmである。HPS加工は、室温下で、加圧方向D3の加圧力Pが3GPa、長さ方向D1への相対スライド距離xが10mm、相対スライドの速度vが1mm/s、の条件で行った。
図11,図12に示す硬度分布は、図10(a)に示すA−A断面において図10(b)に示すような複数の測定点に対して行った硬度測定の結果を示したものである。図13,図14に示す引張試験は、図10(a)に示すI字状部分から採取した試料について1023Kの温度下で行い、図13には試料が破断するまでの引張応力(MPa)と伸長長さ(%)の関係をプロットしてあり、図14には、各被処理物が破断したときの伸長長さを対比して示してある。
図11,図12から、相当ひずみを付与した領域R1,R2の幅方向D2の略全域において硬度が上昇し、同範囲内の厚み方向略中心付近まで硬度が上昇していることが分かる。相当ひずみ付与加工により微細化した材料は、室温ではホールペッチの関係に従い強度が高いものの、例えば図13,図14に示すように、高温(融点の約半分以上の温度)になると微細結晶粒が示す超塑性による粒界滑りで逆に柔らかくなる。
一般的に合金であれば約400%伸長すれば超塑性材料と言われており、領域R1と領域R2の重複部分は超塑性が発現し、領域R1と領域R2の非重複部分についても超塑性に近い塑性が発現している。従って、HPS加工の加工強度を高める(スライド距離xを長くする、スライドを往復とする、等)ことで、領域R1と領域R2の非重複部分についても超塑性を発現させられものと考えられる。
図13,図14から、領域R1と領域R2の重複部分(HPS加工が2回施された部位)から採取した試料は破断までに580%伸長し、領域R1と領域R2の非重複部分(HPS加工が1回施された部位)から採取した試料は破断までに350%,380%伸長していることが分かる。なお、この伸長の傾向は、採取するI字状試料の長さ方向(引張方向)が長さ方向D1と略平行な場合と略垂直な場合とでほぼ同じ結果であった。
なお、本発明は上述した各実施形態に限られず、上述した各実施形態の中で開示した各構成を相互に置換したり組み合わせを変更したりした構成、公知技術並びに上述した各実施形態の中で開示した各構成を相互に置換したり組み合わせを変更したりした構成、等も含まれる。また、本発明の技術的範囲は上述した実施形態に限定されず、特許請求の範囲に記載された事項とその均等物まで及ぶものである。