JP6350129B2 - 電線被覆材用組成物、絶縁電線およびワイヤーハーネス - Google Patents

電線被覆材用組成物、絶縁電線およびワイヤーハーネス Download PDF

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Description

本発明は、電線被覆材用組成物、絶縁電線およびワイヤーハーネスに関し、さらに詳しくは、例えば自動車のワイヤーハーネスのように高い耐熱性が要求される場所で使用される絶縁電線の被覆材として好適な電線被覆材用組成物、絶縁電線およびワイヤーハーネスに関するものである。
近年、ハイブリッド自動車などの普及により、自動車部品である電線やコネクタなどは、高耐電圧性、高耐熱性などが求められている。従来、自動車のワイヤーハーネスなどのように、高温を発する箇所に用いられる絶縁電線としては、塩化ビニル樹脂の架橋電線や、ポリオレフィン架橋電線が用いられていた。これらの絶縁電線の架橋方法は、電子線で架橋する方式が主流であった(例えば、特許文献1参照)。
しかし、電子線架橋は、高価な電子線架橋装置などを必要とし、設備費用が高価であり、製品コストが上昇してしまうという問題があった。そこで安価な設備で架橋が可能であるシラン架橋が注目されている。電線、ケーブルなどの被覆材に用いられる、シラン架橋が可能なポリオレフィン組成物が公知である(例えば特許文献2〜3参照)。
特開2000−294039号公報 特開2000−212291号公報 特開2006−131720号公報
シラン架橋ポリオレフィン組成物などのシラン架橋材料は、別名水架橋と呼ばれるように、加熱成形時に空気中の水分で架橋促進される。そのため、加熱成形時に異物発生の懸念があり、加熱工程は極力、回数を抑える必要がある。そこで、組成物中の難燃剤成分は、非シラン樹脂を用いてマスターバッチ化した後に、シラン架橋ポリオレフィンと混合することが一般的である。しかし、非シラン樹脂は未架橋樹脂であるから、非シラン樹脂が添加されると、架橋樹脂の架橋度が低下する。絶縁電線は、被覆材の架橋度が低下すると、耐熱性、ゲル分率などが低下して、自動車用規格を満足させることが困難になってしまう。
また近年、自動車の高電圧、高電流化に伴い、電線直径が大きくなってきているため、電線が硬くなっている。電線が硬くなると。ワイヤーハーネスの組立作業性などが低下する。そのため、自動車用絶縁電線では、電線自体を柔軟化することが要求されている。
例えば、電線の柔軟化のためにポリウレタンゴムや、シリコーンゴムなどを絶縁被覆に添加することが考えられる。しかし、ポリウレタンゴムやシリコーンゴムを絶縁被覆に添加すると、耐薬品性や耐摩耗性等が低下する恐れがある。
本発明の課題は、電子線架橋を用いずに耐熱性を向上させることが可能であり、皮膜を柔軟化して電線取扱い時の作業性が良好であり、高い耐摩耗性と耐薬品性を有する、電線被覆材用組成物、絶縁電線およびワイヤーハーネスを提供することにある。
上記課題を解決するために本発明に係る電線被覆材用組成物は、
(A)ポリオレフィンにシランカップリング剤がグラフトされたシラングラフトポリオレフィン、
(B)未変性ポリオレフィン、
(C)カルボン酸基、酸無水物基、アミノ基、アクリル基、メタクリル基およびエポキシ基から選択される1種または2種以上の官能基により変性された変性ポリオレフィン、
(D)水酸化マグネシウム/または臭素系難燃剤および三酸化アンチモン、
(E)架橋触媒、
(F)シリコーン変性ポリウレタン、
(G)酸化防止剤、
(H)金属不活性剤、
(I)滑剤、
を含むことを要旨とするものである。
本発明の電線被覆材用組成物において、
前記(A)シラングラフトポリオレフィンのシラングラフト前のポリオレフィンの密度が、0.855〜0.885g/cmであり、前記(B)未変性ポリオレフィンの密度が、0.890〜0.955g/cmであることが好ましい。
本発明の電線被覆材用組成物において、
前記(A)シラングラフトポリオレフィンが、シラングラフト前のポリオレフィンの、密度が0.865〜0.885g/cmであり、結晶化度が10〜25%であり、190℃×2.16kg荷重のメルトフローレイトが0.5〜5g/10分であり、ショアA硬度が55〜80であり、曲げ弾性率が3〜50MPaであり、シラングラフトポリオレフィンのゲル分率が80〜95%であり、
前記(B)未変性ポリオレフィンが、190℃×2.16kg荷重のメルトフローレイトが0.5〜5g/10分であり、曲げ弾性率が50〜1000MPaであり、密度が0.910〜0.930g/cmであり、
前記(D)臭素系難燃剤が、融点が200℃以上であるか、もしくはエチレンビステトラブロモフタルイミドまたはエチレンビスペンタブロモフェニルのいずれかであり、
前記(F)シリコーン変性ポリウレタンが、エステル系またはエーテル系であり、
前記(G)酸化防止剤が、融点200℃以上のヒンダードフェノールであり、
前記(H)金属不活性剤が、サリチル酸誘導体であり、
前記(I)滑剤が、エルカ酸、オレイン酸、ステアリン酸のいずれかの誘導体、またはポリエチレン系パラフィンワックスから選択されるいずれか1種以上であることが好ましい。
本発明の電線被覆材用組成物において、
前記(A)シラングラフトポリオレフィンが30〜90質量部、
前記(B)未変性ポリオレフィンと前記(C)変性ポリオレフィンとを合計で10〜70質量部、
前記(F)シリコーン変性ポリウレタンが10〜40質量部、
前記(A)、(B)、(C)および(F)の合計100質量部に対し、
前記(D)水酸化マグネシウム50〜150質量部/または臭素系難燃剤および三酸化アンチモンが10〜70質量部、
前記(E)架橋触媒として、ポリオレフィン100質量部に架橋触媒を0.5〜5質量部含む分散物からなる架橋触媒バッチが2〜20質量部、
前記(G)酸化防止剤が1〜10質量部、
前記(H)金属不活性剤が1〜10質量部、
前記(I)滑剤が1〜10質量部、
さらに(J)酸化亜鉛およびイミダゾール化合物がおのおの1〜15質量部、/または硫化亜鉛が1〜15質量部、
を含むことが好ましい。
本発明の電線被覆材用組成物において、前記シラングラフトポリオレフィンおよび前記未変性ポリオレフィンが、超低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、および低密度ポリエチレンから選択される1種または2種以上であることが好ましい。
本発明の絶縁電線は、上記の電線被覆材用組成物を水架橋させてなる電線被覆材を有することを要旨とするものである。
本発明の絶縁電線は、
上記の電線被覆材用組成物を、
前記(A)シラングラフトポリオレフィンを含むa成分と、
前記(B)未変性ポリオレフィン、前記(C)変性ポリオレフィン、前記(D)水酸化マグネシウム/または臭素系難燃剤および三酸化アンチモン、前記(F)シリコーン変性ポリウレタン、前記(G)酸化防止剤、前記(H)金属不活性剤、前記(I)滑剤を含むb成分と、
前記(E)架橋触媒の架橋触媒バッチを含むc成分とから構成され、
前記a成分、b成分、c成分が混練されて、電線被覆材として成形され、水架橋されていることが好ましい。
本発明のワイヤーハーネスは、上記の絶縁電線を有することを要旨とするものである。
本発明は、上記(A)〜(I)成分を含む電線被覆材用組成物を用いるものであるから、設備の高価な電子線架橋を用いず設備の安価な水架橋を利用でき、電線被覆材組成物から得られる被覆材は、ゲル分率が高く耐熱性に優れていると共に、シリコーン変性ポリウレタンが添加されていることにより、被覆材が柔軟性を有し電線取扱い時の作業性が良好であり、しかも耐薬品性および耐摩耗性に優れた、電線被覆材用組成物、絶縁電線およびワイヤーハーネスを得ることができる。
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。(A)シラングラフトポリオレフィンに用いられるグラフト前のポリオレフィン(ベース樹脂ということもある)、(B)未変性ポリオレフィン、(C)官能基により変性された変性ポリオレフィンに用いられる変性前のポリオレフィン(ベース樹脂)としては以下のものが例示される。
上記ポリオレフィンとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、その他のオレフィンの単独重合体、エチレン−αオレフィン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸エステル共重合体、エチレン−メタクリル酸エステル共重合体などのエチレン系共重合体、プロピレン−αオレフィン共重合体、プロピレン−酢酸ビニル共重合体、プロピレン−アクリル酸エステル共重合体、プロピレン−メタクリル酸エステル共重合体などのプロピレン系共重合体などを例示することができる。これらは単独で用いてもよいし、併用してもよい。好ましくは、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸エステル共重合体、エチレン−メタクリル酸エステル共重合体である。
上記ポリエチレンとしては、高密度ポリエチレン(HDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、超低密度ポリエチレン(VLDPE)、メタロセン超低密度ポリエチレンなどを例示することができる。これらは単独で用いてもよいし、併用しても良い。ポリオレフィンは、好ましくはメタロセン超低密度ポリエチレンを代表とする低密度ポリエチレンである。低密度ポリエチレンを用いると、電線の柔軟性が良好となり、押出性に優れ、生産性が向上する。
また上記ポリオレフィンとしては、オレフィンをベースとするポリオレフィンエラストマーを用いてもよい。ポリオレフィンエラストマーは、被膜に柔軟性を付与することができる。ポリオレフィンエラストマーは、例えばエチレン系エラストマー(PEエラストマー)、プロピレン系エラストマー(PPエラストマー)などのオレフィン系熱可塑性エラストマー(TPO)、エチレン−プロピレン共重合体(EPM、EPR)、エチレンプロピレン−ジエン共重合体(EPDM、EPT)などが挙げられる。
(A)シラングラフトポリオレフィンに用いられるポリオレフィンは、密度が、0.855〜0.885g/cmの範囲のものが好ましく用いられる。ポリオレフィンは、より低密度である方がシランカップリング剤をグラフトし易いが、密度が0.855g/cm未満では電線の耐熱性、耐薬品性、耐摩耗性が低下し易く、ペレットのブロッキングが発生し易くなる恐れがある。一方、オレフィン系樹脂の密度が0.885g/cmを超えると、グラフト率が低下してゲル分率が低下したり、高密度になることで柔軟性が低下する恐れがある。シラングラフトポリオレフィンに用いられるオレフィン系樹脂の密度は、0.865〜0.885g/cmであるのが更に好ましい。
本発明において、ポリオレフィンの密度は、ASTM規格のD790に準拠して測定される値のことである。
またポリオレフィンの結晶化度は、密度と相関関係があり、結晶化度が低いものは密度も低くなり、結晶化度が高いものは密度も高くなる。シラングラフトポリオレフィンに用いられるポリオレフィンの好ましい結晶化度は、10〜25%の範囲内である。
本発明のポリオレフィンの結晶化度は、示差走査熱量計を用いて、樹脂ペレットの融解熱量を測定し、ポリエチレン系樹脂の場合は、高密度ポリエチレン(HDPE)の完全結晶体理論熱量文献値293J/gから算出し、ポリプロピレン系樹脂の場合はホモポリプロピレンの209J/gから算出した値である。上記示差走査熱量計としては、日立ハイテクサイエンス社製、製品名「DSC6200」を用いた。
シラングラフトポリオレフィンに用いられるポリオレフィンは、190℃×2.16kg荷重のメルトフローレイト(以下、MFRということもある)が、0.5〜5g/10分であることが好ましい。ポリオレフィンのMFRを規定することは、電線および混合被覆材料の成形性に寄与するものである。シラングラフトポリオレフィンのMFRが、0.5g/10分未満であると、押出成形性が乏しくなり、単位時間当たりの生産量が低下する恐れがある。一方MFRが5g/10分を超えると、電線成形時に樹脂垂れなどが発生し易くなり生産性が低下する恐れや、分子量低下による耐摩耗性や耐熱性が低下する懸念がある。本発明において、MFRは、ASTM規格のD1238に準拠して測定された値のことである。
シラングラフトポリオレフィンのベース樹脂のポリオレフィンは、ショアA硬度が55〜80の範囲内が好ましい。ショアA硬度は、ASTM規格のD2240に準拠して測定された値のことである。また上記ポリオレフィンは、曲げ弾性率が3〜50MPaの範囲内が好ましい。曲げ弾性率は、ASTM規格のD790に準拠して常温で測定された値のことである。オレフィン系樹脂のショアA硬度及び曲げ弾性率を上記範囲に特定することにより、電線の柔軟性や耐摩耗性などの向上に寄与する。
(A)シラングラフトポリオレフィンは、ゲル分率が80〜95%であることが好ましい。ゲル分率が上記範囲であると、耐熱性、耐薬品性などが更に良好となる。
本発明においてシラングラフトポリオレフィンのゲル分率は、下記の測定方法により得られたものである。先ずシラングラフトポリオレフィンを100質量部に対して、架橋触媒バッチ(詳細は実施例の欄に記載した)を5質量部加えた配合材料を東洋精機社製、「ラボプラストミル」で200℃×5分間混練し、得られた塊状体を200℃×3分間圧縮プレス加工し、1mm厚さのシートを成形する。得られた成形シートを60℃×12時間×湿度95%の条件で水架橋を行った後、次いで、得られた成形シートから0.1gを採取し試験体とし秤量し、キシレン浸漬前の質量を求めた。次いで、試験体を120℃のキシレン溶媒中に浸漬して20時間後に取り出し、取り出した試験体を100℃×6時間乾燥した後、乾燥後の試験体を秤量して、キシレン浸漬後の質量を求めた。キシレン溶媒に浸漬する前の質量に対する浸漬後の質量百分率をもって、下記式によりゲル分率を求めた。
ゲル分率%=(キシレン浸漬後の質量/キシレン浸漬前の質量)×100
(A)シラングラフトポリオレフィンに用いられるシランカップリング剤は、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリブトキシシランなどのビニルアルコキシシランやノルマルヘキシルトリメトキシシラン、ビニルアセトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシランなどを例示することができる。これらは、1種または2種以上併用しても良い。
(A)シラングラフトポリオレフィンにおけるシランカップリング剤の配合量は、シランカップリング剤をグラフトするポリオレフィン100質量部に対して、0.5〜5質量部の範囲内であることが好ましく、より好ましくは、3〜5質量部の範囲内である。シランカップリング剤の配合量が0.5質量部未満では、シランカップリング剤のグラフト量が少なく、シラン架橋時に十分な架橋度が得られ難い。一方、シランカップリング剤の配合量が5質量部を超えると、混練時に架橋反応が進みすぎてゲル状物質が発生しやすくなる。そうすると、製品表面に凹凸が発生しやすく、量産性が悪くなりやすい。また、溶融粘度も高くなりすぎて押出機に過負荷がかかり、作業性が悪化しやすくなる。
シランカップリング剤のグラフト量(シラングラフト前のポリオレフィンに占めるグラフトされているシランカップリング剤の質量割合)の上限は、電線被覆工程での過剰な架橋による異物発生などの観点から、好ましくは、15質量%以下、より好ましくは、10質量%以下、さらに好ましくは、5質量%以下であると良い。一方、上記グラフト量の下限は、電線被覆の架橋度(ゲル分率)などの観点から、好ましくは、0.1質量%以上、より好ましくは、1質量%以上、さらに好ましくは、2.5質量%以上であると良い。
ポリオレフィンにシランカップリング剤をグラフトしてシラングラフトポリオレフィンを製造する方法としては、例えばポリオレフィンとシランカップリング剤に遊離ラジカル発生剤を加え、二軸あるいは短軸の押出機で混合する方法が一般的である。この他にも、ポリオレフィンを重合する際に、シランカップリング剤を添加する方法を用いてもよい。
シランカップリング剤をグラフトしたシラングラフトポリオレフィンは、シラングラフトバッチ(a成分)として保持され、組成物を混練するまでの間、後述する他の難燃剤バッチ(b成)、触媒バッチ(c成分)とは別に保管される。
上記の遊離ラジカル発生剤としては、ジクミルパーオキサイド(DCP)、ベンゾイルパーオキサイド、ジクロロベンゾイルパーオキサイド、ジ−tert−ブチルパーオキサイド、ブチルパーアセテート、tert−ブチルパーベンゾエート、2,5−ジメチル−2,5−ジ(tert−ブチルパーオキシ)ヘキサンなどの有機過酸化物を例示することができる。遊離ラジカル発生剤は、上記に限定されるものではなく、その他のパーオキサイドやラジカル発生剤を使用してもよい。
遊離ラジカル発生剤として、より好ましくは、ジクミルパーオキサイド(DCP)である。遊離ラジカル発生剤として、ジクミルパーオキサイド(DCP)を用いる場合には、ポリオレフィンにシランカップリング剤をグラフト重合させる際のシラングラフトバッチを調製する温度を120℃以上にすると良く、好ましくは160℃以上にすると良い。グラフト効率が良く、反応時間が短縮されるためである。
遊離ラジカル発生剤の配合量は、シラン変性されるポリオレフィン100質量部に対して0.025〜0.5質量部の範囲内であることが好ましい。遊離ラジカル発生剤の配合量が0.025質量部未満では、シランカップリング剤のグラフト化反応が十分進行し難く、所望のゲル分率が得られにくい。一方、遊離ラジカル発生剤の配合量が0.5質量部を越えると、ポリオレフィンの分子が切断あるいはポリオレフィン同士の架橋が発生する割合が多くなり、目的としない過酸化物架橋や劣化が進行し易い。そうすると、ポリオレフィンの架橋反応が進み過ぎて、難燃剤バッチや触媒バッチと混練する際に製品表面に凹凸が発生し易くなり、加工性や外観が悪化する恐れがある。
また上記遊離ラジカル発生剤は、不活性物質のタルクや炭酸カルシウムで希釈してもよいし、エチレンプロピレンゴムやエチレンプロピレンジエンゴムやポリオレフィン‐αオレフィン共重合体で希釈しペレット化してもよい。
(B)未変性ポリオレフィンは、シランカップリング剤や官能基などにより変性されていないポリオレフィンが用いられる。未変性ポリオレフィンは、密度が0.890〜0.955g/cmのものが好ましく用いられる。未変性ポリオレフィンの密度が0.890未満では、電線の耐熱性、耐薬品性、耐摩耗性、耐屈曲性等が低下し易くなる。また未変性ポリオレフィンの密度が0.955g/cm超では、柔軟性が低下する恐れがある。更に好ましい未変性ポリオレフィンの密度は、0.910〜0.930g/cmの範囲内である。
(B)未変性ポリオレフィンは、190℃×2.16kgの荷重のMFRが0.5〜5g/10分であるのが好ましい。未変性ポリオレフィンのMFRは、シラングラフトポリオレフィンのMFRの規定と同様に、0.5g/10分未満であると、押出成形性が乏しくなり、単位時間当たりの生産量が低下する恐れがある。一方MFRが5g/10分を超えると、電線成形時に樹脂垂れなどが発生し易くなり生産性が低下する恐れや、分子量低下による耐摩耗性や耐熱性が低下する懸念がある。
(C)官能基により変性されたポリオレフィン(以下、官能基変性ポリオレフィンあるいは変性ポリオレフィンということもある)に用いられるポリオレフィンとしては、未変性ポリオレフィンとして使用する樹脂と同系列の樹脂を使用することがが相溶性の面で好ましく、加えてVLDPEやLDPEなどのポリエチレンは電線への柔軟性寄与や難燃剤であるフィラーが良分散する理由から好ましい。
(C)官能基変性ポリオレフィンに用いられる官能基は、カルボン酸基、酸無水物基、アミノ基、アクリル基、メタクリル基、およびエポキシ基から選択される1種または2種以上である。上記官能基のうち、マレイン酸基、エポキシ基、アミノ基などが好ましい。これらは臭素系難燃剤、三酸化アンチモン、酸化亜鉛などのフィラーとの接着性が良好になり樹脂の強度が低下しにくくなるからである。また官能基の変性割合は、ポリオレフィン100質量部に対し、0.05〜10質量部の範囲が好ましい。10質量部を超えると端末加工時の被覆ストリップ性が低下するおそれがある。0.5質量部未満では、官能基による変性の効果が不十分となるおそれがある。
ポリオレフィンを官能基により変性する方法としては、具体的には、官能基を有する化合物をポリオレフィンにグラフト重合する方法や、官能基を有する化合物とオレフィンモノマとを共重合させてオレフィン共重合体とする方法などが挙げられる。
官能基としてカルボキシル基や酸無水物基を導入する化合物としては、具体的には、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、イタコン酸などのα、β−不飽和ジカルボン酸、またはこれらの無水物、アクリル酸、メタクリル酸、フラン酸、クロトン酸、ビニル酢酸、ペンテ酸などの不飽和モノカルボン酸などが挙げられる。
官能基としてアミノ基を導入する化合物としては、具体的には、アミノエチル(メタ)アクリレート、プロピルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジブチルアミノエチル(メタ)アクリレート、アミノプロピル(メタ)アクリレート、フェニルアミノエチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシルアミノエチル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
官能基としてエポキシ基を導入する化合物としては、具体的には、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、イタコン酸モノグリシジルエステル、ブテントリカルボン酸モノグリシジルエステル、ブテントリカルボン酸ジグリシジルエステル、ブテントリカルボン酸トリグリシジルエステル、α−クロロアクリル酸、マレイン酸、クロトン酸、フマル酸などのグリシジルエステル類、ビニルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、グリシジルオキシエチルビニルエーテル、スチレン−p−グリシジルエーテルなどのグリシジルエーテル類、p−グリシジルスチレンなどが挙げられる。
上記樹脂成分(A)〜(C)は、樹脂成分の合計を100質量部とした場合の配合割合が、(A)シラングラフトポリオレフィンが30〜90質量部、(B)未変性ポリオレフィンと(C)変性ポリオレフィンとの合計が10〜70質量部である。(B)未変性ポリオレフィンと(C)変性ポリオレフィンの混合割合は、(B):(C)=95:5〜50:50の範囲が相溶性に優れ、生産性や難燃剤の分散性が良好となる理由から好ましい。
(F)シリコーン変性ポリウレタンは、組成物から構成される被膜に柔軟性を付与するために用いられる。シリコーン変性ポリウレタンは、ジオールとジイソシアネートから形成される熱可塑性ポリウレタンがシリコーン樹脂により変性された熱可塑性ポリウレタンエラストマーであり、シリコーンゴムとポリウレタンの特徴を併せ持っている。シリコーン変性ポリウレタンは、具体的には、市販品として、大日精化工業社製、商品名「レザミンPSシリーズ」を用いることができる。
(F)シリコーン変性ポリウレタンは、シリコーンゴムや、未変性熱可塑性ポリウレタンと比較して、耐薬品性や耐摩耗性等が良好である。シリコーン変性ポリウレタンは、ポリウレタン構造のジオール成分の種類により、エステル系、エーテル系、カプロラクトン系、カーボネート系などに分類される。エステル系は耐摩耗性が良好であり、エーテル系は柔軟性が良好である。
組成物中の(F)シリコーン変性ポリウレタンの配合量は、上記(A)〜(C)成分の合計(A)+(B)+(C)=100質量部とした場合、10〜40質量部の範囲内であるのが好ましい。シリコーン変性ポリウレタンの配合量が、10質量部未満では、十分な柔軟性効果が得られなくなる恐れがあり、40質量部を超えるとポリオレフィンとベース材が入れ替わり、機械的強度が低下する恐れがある。
(D)成分は、難燃剤成分である。難燃剤は、(a)水酸化マグネシウムのみを使用、(b)臭素系難燃剤と三酸化アンチモンの併用、(c)上記(a)と(b)の両方を使用する、の中から選択することができる。
(D)成分の水酸化マグネシウムは、化学合成された合成水酸化マグネシウム、あるいは天然に算出する鉱物を粉砕した天然水酸化マグネシウムのいずれを用いてもよい。また水酸化マグネシウムは、表面処理剤により処理されたものでも、表面処理さねない未処理のものでもいずれでもよい。
上記合成水酸化マグネシウムとしては、例えば、海水中の塩化マグネシウムを原料とし、水酸化カルシウムとの水溶液反応により得られた水酸化マグネシウムの微粒子を結晶成長させることにより得られるもの、イオン苦汁法によるもの等が挙げられる。
上記天然水酸化マグネシウムとしては、例えば、天然ブルーサイトを粉砕機、クラッシャー、ボールミル等で乾式粉砕するか、或いは湿式粉砕等で粉砕し、必要に応じサイクロン機や篩等で所望の平均粒子径となるように分級したものが挙げられる。上記粉砕方法としては、乾式法が好ましい。
水酸化マグネシウムは、通常、平均粒径が0.1〜20μmであり、好ましくは0.2〜10μm、更に好ましくは0.5〜5μmである。水酸化マグネシウムの平均粒径が、0.1μm未満では二次凝集が起こり易く、組成物の機械的特性が低下する虞がある。また水酸化マグネシウムの平均粒径が20μmを超えると、水酸化マグネシウムを添加した難燃性樹脂組成物を電線被覆材として用いた場合に、得られた電線の外観が不良になる虞がある。
(D)成分の水酸化マグネシウムの配合量は、上記樹脂成分(A)〜(C)、(F)成分の合計(A)+(B)+(C)+(F)=100質量部に対し、50〜150質量部の範囲内であるのが好ましい。水酸化マグネシウムの添加量が50質量部未満では、難燃性が不十分になる恐れなどがあり、また150質量部を超えると、十分な機械的特性が得られなくなる恐れや、分散不良による外観悪化の懸念などがある。
(D)成分の臭素系難燃剤としては、エチレンビステトラブロモフタルイミド、エチレンビストリブロモフタルイミドなどのフタルイミド構造を持つ臭素系難燃剤、あるいは、エチレンビスペンタブロモフェニルが適している。これらは、熱キシレンへの溶解度が他と比較して低いためにゲル分率が良好であり、融点が高く耐熱性が優れているという特徴がある。臭素系難燃剤は、融点が200℃以上であるか、エチレンビステトラブロモフタルイミドまたはエチレンビスペンタブロモフェニルのいずれかであるのが好ましい。
臭素系難燃剤としては、上記のフタルイミド系の臭素系難燃あるいはエチレンビスペンタブロモフェニルを単独で使用してもよいが、下記の臭素系難燃剤と併用してもよい。具体的には、エチレンビス(ペンタブロモベンゼン)〔別名:ビス(ペンタブロモフェニル)エタン〕、テトラブロモビスフェノールA(TBBA)、ヘキサブロモシクロドデカン(HBCD)、TBBA−カーボネイト・オリゴマー、TBBA−エポキシ・オリゴマー、臭素化ポリスチレン、TBBA−ビス(ジブロモプロピルエーテル)、ポリ(ジブロモプロピルエーテル)、ヘキサブロモベンゼン(HBB)などである。電線に難燃性を付与するだけならば、これらの難燃剤だけを使用してもよいが、十分なゲル分率、あるいは耐熱性を電線に付与するためには、フタルイミド系難燃剤と併用することが好ましい。
(D)成分の臭素系難燃剤および三酸化アンチモンのうち三酸化アンチモンは、臭素系難燃剤の難燃助剤として用いられ、臭素系難燃剤と併用することで相乗効果が得られ、難燃性をさらに向上させることができる。三酸化アンチモンは純度99%以上のものを用いるのが好ましい。三酸化アンチモンは、鉱物として産出される三酸化アンチモンを粉砕処理して微粒化して用いる。その際、平均粒子系が3μm以下であるのが好ましく、更に好ましくは1μm以下である。三酸化アンチモンの平均粒径が大きくなると樹脂との界面強度が低下する恐れがある。また三酸化アンチモンは、粒子系を制御することや樹脂との界面強度を向上させる目的で、表面処理を施しても良い。表面処理剤としては、シランカップリング剤、高級脂肪酸、ポリオレフィンワックスなどを用いるのが好ましい。
(D)成分の臭素系難燃剤および三酸化アンチモンでは、臭素系難燃剤と三酸化アンチモンとの混合比率は、当量比で、臭素系難燃剤:三酸化アンチモン=3:1〜2:1の範囲内であるのが好ましい。
(D)成分の臭素系難燃剤と三酸化アンチモンの配合量は、上記樹脂成分(A)〜(C)の合計100質量部に対し、臭素系難燃剤と三酸化アンチモンの合計量で10〜70質量部の範囲で配合するのが好ましく、さらに好ましくは、20〜60質量部の範囲である。難燃剤成分の配合量が10質量部未満では、難燃性が不十分となるおそれがあり、70質量部を超えると混合不良などによる難燃剤の凝集、難燃剤と樹脂との界面強度の低下などを引き起こし、電線の機械的特性が低下するおそれがある。
(E)架橋触媒は、シラングラフトポリオレフィンをシラン架橋させるためのシラノール縮合触媒を含む。架橋触媒として、例えば、錫、亜鉛、鉄、鉛、コバルトなどの金属カルボン酸塩や、チタン酸エステル、有機塩基、無機酸、有機酸などを例示することができる。具体的には、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジマレート、ジブチル錫メルカプチド(ジブチル錫ビスオクチルチオグリコールエステル塩、ジブチル錫β−メルカプトプロピオン酸塩ポリマーなど)、ジブチル錫ジアセテート、ジオクチル錫ジラウレート、酢酸第一錫、カプリル酸第一錫、ナフテン酸鉛、ナフテン酸コバルト、ステアリン酸バリウム、ステアリン酸カルシウム、チタン酸テトラブチルエステル、チタン酸テトラノニルエステル、ジブチルアミン、ヘキシルアミン、ピリジン、硫酸、塩酸、トルエンスルホン酸、酢酸、ステアリン酸、マレイン酸などを例示することができる。架橋触媒として好ましくは、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジマレート、ジブチル錫メルカプチドなどである。
(E)架橋触媒は、シラングラフトポリオレフィンを含むシラングラフトバッチ(a成分)に直接混合すると架橋が進行してしまうため、電線の被覆工程で添加する。(E)架橋触媒は、架橋触媒とバインダー樹脂を混合した架橋触媒バッチとして構成することが好ましい。上記架橋触媒は、架橋触媒バッチとして用いることで、難燃剤と共に混合することで起こりうる余剰反応を抑制可能であり、触媒添加量の制御が容易である。架橋触媒バッチは、それだけでc成分として使用することができる。またc成分は、架橋触媒バッチに、目的を阻害しない範囲で、他の成分を添加して構成してもよい。
上記架橋触媒バッチに用いられるバインダー樹脂としては、ポリオレフィンが適しており、特にLDPE、LLDPE、VLDPEなどが好ましい。これは、シラングラフトポリオレフィンや未変性ポリオレフィン、変性ポリオレフィンなどのポリオレフィンを選択する理由と同じである。また相溶性の面では、シラングラフトポリオレフィンや未変性ポリオレフィン、変性ポリオレフィンと同系統の樹脂をすることが好ましい。架橋触媒バッチに使用可能な樹脂としては、前述の(A)〜(C)成分のベース樹脂として例示したポリオレフィンが挙げられる。
架橋触媒バッチにおける架橋触媒の配合割合は、架橋触媒バッチの樹脂成分100質量部に対して、0.5〜5質量部の範囲内であるのが好ましく、より好ましくは1〜5質量部の範囲である。0.5質量部未満では架橋反応が進み難く、5質量部を超えると触媒の分散が悪くなり、1質量部を下回ると反応性に乏しくなる恐れがある。
(E)架橋触媒バッチは、上記(A)〜(C)、(F)成分の合計(A)+(B)+(C)+(F)=100質量部に対して、2〜20質量部の範囲で添加することが望ましく、さらに好ましくは5〜15質量部である。2質量部未満では架橋が進みにくくなり部分架橋の恐れがあり、20質量部を超えると、成分中の非架橋性樹脂、非難燃性樹脂の割合が増加することにより、難燃性や耐熱性が低下する恐れがある。
(G)酸化防止剤は、ヒンダードフェノール系酸化防止剤が好ましく用いられ、特に融点が200℃以上のヒンダードフェノールが好ましい。ヒンダードフェノール系酸化防止剤としては、ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、チオジエチレンビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、N,N’−ヘキサン−1,6−ジイルビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニルプロピオンアミド)、ベンゼンプロパン酸,3,5−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシ,C7−C9側鎖アルキルエステル、2,4−ジメチル−6−(1−メチルペンタデシル)フェノール、ジエチル[[3,5−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシフェニル]メチル]ホスフォネート、3,3’,3”,5,5’5”−ヘキサ−tert−ブチル−a,a’,a”−(メシチレン−2,4,6−トリイル)トリ−p−クレゾール、カルシウムジエチルビス[[[3,5−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシフェニル]メチル]ホスフォネート]、4,6−ビス(オクチルチオメチル)−o−クレゾール、エチレンビス(オキシエチレン)ビス[3−(5−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−m−トリル)プロピオネート]、ヘキサメチレンビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、1,3,5−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオン、1,3,5−トリス[(4−tert−ブチル−3−ヒドロキシ−2,6−キシリル)メチル]−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオン、2,6−tert−ブチル−4−(4,6−ビス(オクチルチオ)−1,3,5−トリアジン−2−イルアミノ)フェノール、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−チオビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、3,9−ビス[2−(3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)−プロピノキ)−1,1−ジメチルエチル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ(5,5)ウンデカンなどが挙げられる。これらは1種で用いても2種以上併用しても良い。融点が200℃以上のヒンダードフェノール系酸化防止剤としては、3,3’,3”,5,5’5”−ヘキサ−tert−ブチル−a,a’,a”−(メシチレン−2,4,6−トリイル)トリ−p−クレゾール、1,3,5−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオン等が挙げられる。
(G)酸化防止剤の添加量は、上記樹脂成分である(A)〜(C)、(F)成分の合計(A)+(B)+(C)+(F)=100質量部とした場合、好ましくは1〜10質量部、より好ましくは1〜5質量部の範囲である。(G)酸化防止剤の添加量が上記範囲内であると、老化特性に優れ、多量添加時に発生するブルーム等を抑制できる。
(H)金属不活性剤は、銅などの重金属に対する接触酸化を防ぐことが可能な、銅不活性剤またはキレート化剤などが用いられる。金属不活性化剤は、2,3-ビス{3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオニル}プロピオノヒドラジド等のヒドラジド誘導体や、サリチル酸誘導体等が挙げられる。金属不活性剤は、3−(N−サリチロイル)アミノ−1,2,4−トリアゾールなどのサリチル酸誘導体が好ましい。組成物に(H)金属不活性剤を含むことで、耐熱性が向上している。
(H)金属不活性剤の添加量は、上記樹脂成分である(A)〜(C)、(F)成分の合計(A)+(B)+(C)+(F)=100質量部とした場合、1〜10質量部の範囲内が好ましい。より好ましくは1〜5質量部の範囲である。(H)金属不活性剤の添加量が上記範囲内であると、より効果的に導体からの銅害を防止するだけでなく、金属不活性剤のブルーム防止や、金属不活性剤と架橋触媒が反応してしまい、シラングラフト樹脂の架橋を阻害することを防止できる利点がある。
(I)滑剤は、この種の電線被覆材に用いられる滑剤を使用することができる。滑剤は、内部滑剤、外部滑剤のいずれを用いてもよい。滑剤としては、流動パラフィン、パラフィンワックス、ポリオレフィン系ワックスなどの炭化水素、脂肪酸、高級アルコール、ステアリン酸アミド、オレイン酸アミド、エルカ酸アミドの脂肪酸アミド、メチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミドのアルキレン脂肪酸アミド、ステアリン酸金属塩などの金属せっけん、ステアリン酸モノグリセリド、ステアリルステアレート、硬化油などのエステル系滑剤が挙げられる。上記ポリオレフィン系ワックスとしては、ポリプロピレンワックス、ポリエチレンワックス、ポリブタジエンワックスなどが挙げられる。ポリオレフィン系ワックスの中では、分子量の小さいポリエチレンワックスは、樹脂との相溶性が良いという点から好ましい。
滑剤としては、エルカ酸、オレイン酸、ステアリン酸のいずれかの誘導体、またはポリエチレン系パラフィンワックスを用いるのが、ポリオレフィンとの相溶性の点から好ましい。
(I)滑剤の添加量は、上記樹脂成分である(A)〜(C)、(F)成分の合計(A)+(B)+(C)+(F)=100質量部とした場合、1〜10質量部の範囲内が好ましい。より好ましくは1〜5質量部の範囲である。(I)滑剤の添加量が上記範囲内であると十分な滑性効果を生み出し電線表面が良好になるとともに、樹脂混合加工時のせん断力が下がり、樹脂温度を低下できる利点がある。
(J)酸化亜鉛およびイミダゾール系化合物/または硫化亜鉛は、耐熱性を向上させるための添加剤として用いられる。硫化亜鉛のみの添加、或いは酸化亜鉛とイミダゾール系化合物の併用のいずれを選択しても、同様の耐熱性の効果が得られる。
上記酸化亜鉛は、例えば、亜鉛鉱石にコークスなどの還元剤を加え、焼成して発生する亜鉛蒸気を空気で酸化する方法、硫酸亜鉛や塩化亜鉛を塩量に用いる方法で得られる。酸化亜鉛は特に製法は限定されず、いずれの方法で製造されたものでもよい。また硫化亜鉛についても、製法は既知の方法で製造されたものを用いることができる。酸化亜鉛および硫化亜鉛の平均粒径は、好ましくは3μm以下であり、更に好ましくは1μm以下である。酸化亜鉛および硫化亜鉛は、平均粒径が小さくなると、樹脂との界面強度が向上し、分散性も向上する。
上記イミダゾール系化合物としてはメルカプトベンズイミダゾールが好ましい。メルカプトベンズイミダゾールとしては、2−メルカプトベンズイミダゾール、2−メルカプトメチルベンズイミダゾール、4−メルカプトメチルベンズイミダゾール、5−メルカプトメチルベンズイミダゾールなどや、これらの亜鉛塩などが挙げられる。特に好ましいメルカプトベンズイミダゾールは、融点が高く、混合中の昇華も少ないため高温で安定である理由から2−メルカプトベンズイミダゾールおよびその亜鉛塩である。
組成物には、さらに、(J)成分として硫化亜鉛、或いは酸化亜鉛およびイミダゾール系化合物を配合するのが好ましい。硫化亜鉛、或いは酸化亜鉛およびイミダゾール系化合物の添加量は、少ないと耐熱性向上効果が十分得られない恐れがあり、多すぎると粒子が凝集し易くなり電線の外観が低下し耐摩耗性などの機械的特性が低下する恐れがあることから、下記の範囲が好ましい。上記(A)〜(C)、(F)成分の合計(A)+(B)+(C)+(F)=100質量部に対し、硫化亜鉛1〜15質量部、或いは酸化亜鉛、イミダゾール系化合物が各々1〜15質量部であるのが好ましい。
電線被覆材用組成物には、本発明の目的を阻害しない範囲であれば、上記以外にも、一般的な、この種の電線被覆材組成物に用いられる添加剤を配合してもよい。
電線被覆材用組成物には、添加剤として、酸化マグネシウム、炭酸カルシウムなどの無機フィラーを少量用いることができる。無機フィラーの添加により、樹脂の硬度を調製することが可能であり、加工性や耐高温変形特性を向上させることが可能である。ただし上記無機フィラーを多量に添加すると、樹脂強度が低下しやすいため、上記無機フィラーの添加量は、好ましくは樹脂成分である上記(A)〜(C)、(F)成分の合計(A)+(B)+(C)+(F)=100質量部に対して30質量部以下、より好ましくは5質量部以下である。
以下、本発明の絶縁電線及びワイヤーハーネスについて説明する。本発明に係る絶縁電線は、導体の外周が、上記の電線被覆材用組成物を水架橋させてなる電線被覆材(単に被覆材ということもある)からなる絶縁層により被覆されている。絶縁電線の導体は、その導体径や導体の材質などは特に限定されるものではなく、絶縁電線の用途などに応じて適宜選択することができる。導体としては例えば、銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金などが挙げられる。また電線被覆材の絶縁層は、単層であっても、2層以上の複数層であってもいずれでも良い。
本発明の絶縁電線において、架橋後の被覆材の架橋度は、耐熱性の観点から、ゲル分率で50%以上であることが好ましい。より好ましくは被覆材のゲル分率が60%以上である。絶縁電線の被覆材のゲル分率は、一般的な架橋電線の架橋状態の割合である架橋度を表す指標として用いられている。被覆材のゲル分率は、例えば自動車用架橋電線のゲル分率である、JASO−D608−92に準拠して測定することができる。
絶縁電線の被覆材の架橋度(ゲル分率)は、(A)シラングラフトポリオレフィンにおけるシランカップリング剤のグラフト量や、架橋触媒の種類や量、水架橋条件(温度、時間など)により調整することができる。
本発明の絶縁電線を製造するには、上記(A)シラングラフトポリオレフィンを含むa成分(シラングラフトバッチということもある)と、上記(B)未変性ポリオレフィン、前記(C)変性ポリオレフィン、前記(D)水酸化マグネシウム/または臭素系難燃剤および三酸化アンチモン、前記(F)シリコーン変性ポリウレタン、前記(G)酸化防止剤、前記(H)金属不活性剤、前記(I)滑剤を含むb成分(難燃剤バッチということもある)と、前記(E)架橋触媒バッチを含むc成分を、加熱、混練して(混練工程)、導体の外周に押出し被覆した(被覆工程)後、水架橋(水架橋工程)すればよい。
上記組成物が(J)酸化亜鉛およびイミダゾール化合物を含む場合は、(J)成分は、難燃剤バッチに添加すればよい。
上記b成分とc成分は、予め混練されていてペレット化されていてもよいし、b成分とc成分が、それぞれ別々にペレット化されていてもよい。またa成分のシラングラフトポリオレフィンもペレット化することができる。
上記混練工程では、ペレット形状の各バッチをミキサーや押し出し機などを用いて混合する。上記被覆工程では通常の押出し成形機などを用いて押出し被覆をする。上記水架橋工程は、被覆電線の被覆樹脂を水蒸気あるいは水にさらすことにより行う。上記水架橋工程は、常温〜90℃の温度範囲内で、48時間以内で行うことが好ましい。上記水架橋工程は、好ましくは、温度が50〜80℃の範囲内で、8〜24時間の範囲内で行うことである。
本発明のワイヤーハーネスは、上記の絶縁電線を有するものである。ワイヤーハーネスは、上記絶縁電線のみがひとまとまりに束ねられた単独電線束の形態、あるいは上記の絶縁電線と他の絶縁電線とが混在状態で束ねられた混在電線束の形態のいずれでもよい。電線束は、コルゲートチューブなどのワイヤーハーネス保護材や、粘着テープのような結束材などで束ねられてワイヤーハーネスとして構成される。
ISO6722は自動車用電線に用いられる国際規格である。絶縁電線は、この規格によれば許容耐熱温度によってA〜Eまでのクラスに分類される。本発明の絶縁電線は上記の電線被覆材組成物から形成されたものであるから、耐熱性に優れ、高電圧がかかるバッテリーケーブルなどに最適であり、耐熱温度125℃のCクラスや、150℃のDクラスの特性を得ることが可能である。
以下、本発明の実施例、比較例を示す。本発明はこれらによって限定されるものではない。
〔供試材料および製造元など〕
本実施例および比較例において使用した供試材料を製造元、商品名などとともに示す。
〔シラングラフトポリオレフィン(シラングラフトPE1〜シラングラフトPE5、シラングラフトPP1)〕
シラングラフトポリオレフィンは、ポリオレフィンとして下記の表1に示す特性のベース樹脂を用いて、ベース樹脂100質量部に対してビニルトリメトキシシラン(信越化学社製、商品名「KBM1003」を1〜4質量部、ジクミルパーオキサイド(日油社製、商品名「パークミルD」)を0.1〜0.5質量部をドライブレンドした材料を140℃の内径25mmの単軸押出機で混合して調製した。得られたシラングラフト樹脂のゲル分率を、上述したように架橋触媒バッチ(下記の実施例で用いたものと同じものを用いた)を加えて硬化させた後、キシレン浸漬前後の質量の比率から求める方法により測定した。各シラングラフトポリオレフィンのゲル分率の測定結果を表1に合わせて示す。
表1のシラングラフトポリオレフィンのベース樹脂は、下記の樹脂を用いた。
・シラングラフトPE1:密度が0.850のポリエチレン(VLDPE)
・シラングラフトPE2:ダウエラストマー社製、商品名「エンゲージ7467」(VLDPE)
・シラングラフトPE3:ダウエラストマー社製、商品名「エンゲージ8400」(VLDPE)
・シラングラフトPE4:ダウエラストマー社製、商品名「ENR7256.02」(VLDPE)
・シラングラフトPE5:住友化学社製、商品名「エクセレンFX555」(LLDPE)
・シラングラフトPP1:日本ポリプロ社製、商品名「ノバテックEC9」
Figure 0006350129
〔未変性ポリオレフィン(未変性PE1〜未変性PE4、未変性PP1)〕
未変性ポリオレフィンは、下記の樹脂を用いた。具体的な物性を表2に示す。
・未変性PE1:ダウエラストマー社製、商品名「エンゲージ8480」(VLDPE)
・未変性PE2:住友化学社製、商品名「スミカセンC215」(LDPE)
・未変性PE3:日本ポリエチ社製、商品名「ノバテックHDHY331」(HDPE)
・未変性PE4:日本ポリエチ社製、商品名「ノバテックHDHB530」(HDPE)
・未変性PP1:日本ポリプロ社製、商品名「ノバテックEC9」
Figure 0006350129
〔上記以外の成分〕
上記以外の成分は、下記の通りである。
・PPエラストマー:日本ポリプロ社製、商品名「ニューコンNAR6」
・マレイン酸変性PE:日本油脂社製、商品名「モディックAP512P」
・エポキシ変性PE:住友化学社製、商品名「ボンドファーストE」(E−GMA)
・マレイン酸変性PP:三菱化学社製、商品名「アドマーQB550」
・メタクリル変性PE:住友化学社製、商品名「アクリフトWH102」
・臭素系難燃剤1:エチレンビス(ペンタブロモベンゼン)、アルベマール社製、商品名「SAYTEX8010」
・臭素系難燃剤2:TBBA−ビス(ジブロモプロピルエーテル)、鈴裕化学社製、商品名「FCP−680」
・臭素系難燃剤3:エチレンビステトラブロモフタルイミド、アルベマール社製、商品名「SAYTEXBT−93」
・三酸化アンチモン:山中産業社製、商品名「三酸化アンチモンMSWグレード」
・酸化防止剤1:Basfジャパン社製、商品名「イルガノックス1010」
・酸化防止剤2:Basfジャパン社製、商品名「イルガノックス3114」]
・水酸化マグネシウム:協和化学社製、商品名「キスマ5C」
・炭酸カルシウム:白石カルシウム社製、商品名「Vigot15」
・金属不活性剤:ADEKA社製、商品名「CDA−1」
・酸化亜鉛:ハクスイテック社製、商品名「亜鉛華二種」
・硫化亜鉛:Sachtleben Chemie Gmbh社製、商品名「SachtolithHD−S」
・イミダゾール化合物:川口化学社製、商品名「アンテージMB」
・滑剤1:日本油脂社製、商品名「アルフローP10」(エルカ酸アミド)
・滑剤2:日本油脂社製、商品名「アルフローS10」(ステアリン酸アミド)
・滑剤3:日本油脂社製、商品名「アルフローE10」(オレイン酸アミド)
・滑剤4:三井化学社製、商品名「ハイワックス110P」(ポリエチレンワックス)
・シリコーン変性PU1:シリコーン変性ポリウレタン(エステル系)、大日精化工業社製、商品名「レザミンPS62470」
・シリコーン変性PU2:シリコーン変性ポリウレタン(カプロラクタム系)、大日精化工業社製、商品名「レザミンPS42490」
・シリコーン変性PU3:シリコーン変性ポリウレタン(エーテル系)、大日精化工業社製、商品名「レザミンPS22470」
・未変性PU1:熱可塑性ポリウレタン、日本ミラクトラン社製、商品名「ミラクトランE100」
・架橋触媒バッチ:三菱化学社製、商品名「リンクロンLZ015H」を架橋触媒バッチ(c成分)として用いた。「リンクロンLZ015H」は、バインダー樹脂としてポリエチレンを含み、架橋触媒として錫化合物を1%未満含有している。
〔シラングラフトバッチ(a成分)の調製〕
表3および表4の実施例・比較例に示すa成分をペレット化したものをシラングラフトバッチとして用いた。
〔難燃剤バッチ(b成分)の調製〕
表3および表4の実施例・比較例に示すb成分の配合量比で各材料を2軸押出混練機に加え、200℃で0.1〜2分間加熱混練した後、ペレット化して、難燃剤バッチを調製した。
〔架橋触媒バッチ(c成分)の調製〕
またc成分は、予めペレットの状態で供給されている上記市販品を架橋触媒バッチとして用いた。
〔絶縁電線の作製〕
表3および表4の実施例・比較例に示す配合量比で,シラングラフトバッチ(a成分)、難燃剤バッチ(b成分)、架橋触媒バッチ(c成分)を押出機のホッパーで混合して押出機の温度を約140〜200℃に設定して、押出加工を行った。押出加工は外径2.4mmの導体上に、厚さ0.7mmの絶縁体として押出被覆して被覆材を形成した(被覆外径3.65mm)。その後、60℃95%湿度の高湿高温槽で24時間水架橋処理を施して絶縁電線を作製した。
得られた絶縁電線について、ゲル分率、電線外観、融着性、ISO加熱変形性、ISO耐温水性、ISO耐摩耗性、柔軟性、ISO耐薬品性、ISO難燃性、ISO長期加熱性について試験を行い、評価した。評価結果を表1および表2に合わせて示す。尚、各試験方法と評価基準については下記の通りである。
〔ゲル分率〕
JASO−D608−92に準拠して、ゲル分率を測定した。すなわち、水架橋させた後の絶縁電線の被覆材を採取した試料を約0.1g秤量しこれを試験管に入れ、キシレン20mlを加えて、120℃の恒温油槽中で24時間加熱する。その後試料を取り出し、100℃の乾燥機内で6時間乾燥後、常温になるまで放冷してから、その重量を精秤し、試験前の質量に対する質量百分率をもってゲル分率とした。ゲル分率50%以上のものを合格「○」とし、ゲル分率50%未満のものを不合格「×」とした。
〔電線外観〕
電線外観の評価として、成形後の絶縁電線の表面を、針形の検出器を用いて平均粗さ(Ra)を測定してその数値を比較した。Ra=2未満を合格「○」とし、Ra=1未満を良好「◎」とし、Ra=2以上を不合格「×」とした。表面粗さの測定は、Mitutoyo社製、商品名「サーフテストSJ301」を使用した。
〔融着性〕
成形後の水架橋前の絶縁電線を外径600mmのリールに巻き付け、60℃×12時間×湿度95%の条件で水架橋を行った後、絶縁電線をリールから引き出した際に、絶縁電線どうしが融着して融着跡が目視確認された場合を不合格「×」とし、絶縁電線どうしが融着しないか、あるいは融着後が目視確認されない場合を合格「○」とした。
〔ISO加熱変形性〕
ISO6722に準拠し、水架橋させた後の絶縁電線に0.7mmのブレードを荷重190gで押し当て、150℃恒温槽中に4時間放置した後、絶縁電線を1%食塩水中で1kv×1分間の耐電圧試験を行い、絶縁破断しなかった場合を合格「○」とし、絶縁破断した場合を不合格「×」とした。
〔ISO耐温水性〕
ISO6722に準拠し、水架橋させた後の絶縁電線を85℃の10g/リットルの濃度の食塩水に浸漬し、絶縁電線に48Vの直流電圧を35日間印加し、絶縁被覆の体積固有抵抗が10Ωmmを下回らないことを確認した上で、絶縁電線を電線外径の5倍のマンドレルに巻き付けた後、絶縁電線を1kv×1minの耐電圧試験を行い、絶縁破壊せず耐電圧試験に耐えることができた場合を合格「○」とし、耐えることができなかった場合を不合格「×」とし、上記の48Vの印加時間を48日間に延長して、上記と同様の耐電圧試験を行った際に、耐電圧試験に耐えることができた場合を良好「◎」とした。
〔ISO耐摩耗性〕
ISO6722に準拠し、外径0.45mmの鉄線を水架橋させた後の絶縁電線に対して荷重7Nで押し当て、55回/分の速さで往復動させ、鉄線と導体である銅が導通するまでの回数を測定し、700回以上の場合を合格「○」とし、700回未満の場合を不合格「×」とした。
〔柔軟性〕
JISK7171を参考にし、shimadzu製オートグラフAG-01を用いて3点曲げ柔軟性の評価を行った。すなわち、水架橋させた後の絶縁電線を100mmの長さに切り取り、3本を横一列に並べ先端をポリ塩化ビニルテープで固定した状態で、支柱間50mmの治具上にセットし、支柱間の中心から1mm/分の速度で上方からサンプルを押し込み、最大荷重を測定した。荷重が2N以下の場合を合格「○」とし、荷重が2N超の場合を不合格「×」とした。
〔ISO耐薬品性〕
ISO耐薬品性メソッド2に準ずる。水架橋させた後の絶縁電線を600mmの長さに切り出し、トルエンと2,2,4トリメチルペンタンの混合液(質量比で50:50)に20℃で20時間浸漬させた後、絶縁電線を取り出し、表面を軽くキムタオル(日本製紙クレシア社の紙ワイパーの商品名)で拭き、30分間放置した後、5分以内に外径を測定した。浸漬前後の外径から、下記式より外径変化率を求め、15%以下の場合を合格「○」とし、15%超の場合を不合格「×」とした。
外径変化率(%)=(浸漬後の外径−浸漬前の外径)/浸漬前の外径×100
〔ISO難燃性〕
ISO6722に準拠し、70秒以内に消火する場合を合格「○」とし、70秒以内に消火しない場合を不合格「×」とした。
〔ISO長期加熱試験〕
ISO6722に準拠し、絶縁電線に対して120℃×3000時間の老化試験を行った後、1kv×1minの耐電圧試験を行った。その結果、絶縁破壊せず耐電圧試験に耐えることができた場合を合格「○」とし、耐えることができなかった場合を不合格「×」とした。また150℃×3000時間の老化試験の後、1kv×1minの耐電圧試験を行い、絶縁破壊せず耐電圧試験に耐えることができた場合を良好「◎」とした。
実施例1〜7は表3に示すように、本発明に規定された各成分を含有しているため、ゲル分率、電線外観、融着性、ISO加熱変形性、ISO耐温水性、ISO耐摩耗性、柔軟性、ISO耐薬品性、ISO難燃性、ISO長期加熱試験の評価がいずれも合格以上の絶縁電線が得られた。これに対し、表4に示すように、比較例1〜6は、本発明に規定された各成分を全て含有しているものではないから、全ての特性を満足する絶縁電線は得られなかった。
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。
Figure 0006350129
Figure 0006350129

Claims (7)

  1. (A)ポリオレフィンにシランカップリング剤がグラフトされたシラングラフトポリオレフィン、
    (B)未変性ポリオレフィン、
    (C)カルボン酸基、酸無水物基、アミノ基、アクリル基、メタクリル基およびエポキシ基から選択される1種または2種以上の官能基により変性された変性ポリオレフィン、
    (D)水酸化マグネシウム/または臭素系難燃剤および三酸化アンチモン、
    (E)架橋触媒、
    (F)シリコーン変性ポリウレタン、
    (G)酸化防止剤、
    (H)金属不活性剤、
    (I)滑剤、
    を含むことを特徴とする電線被覆材用組成物。
  2. 前記(A)シラングラフトポリオレフィンのシラングラフト前のポリオレフィンの密度が、0.855〜0.885g/cmであり、前記(B)未変性ポリオレフィンの密度が、0.890〜0.955g/cmであることを特徴とする請求項1に記載の電線被覆材用組成物。
  3. 前記(A)シラングラフトポリオレフィンが、シラングラフト前のポリオレフィンの、密度が0.865〜0.885g/cmであり、結晶化度が10〜25%であり、190℃×2.16kg荷重のメルトフローレイトが0.5〜5g/10分であり、ショアA硬度が55〜80であり、曲げ弾性率が3〜50MPaであり、シラングラフトポリオレフィンのゲル分率が80〜95%であり、
    前記(B)未変性ポリオレフィンが、190℃×2.16kg荷重のメルトフローレイトが0.5〜5g/10分であり、曲げ弾性率が50〜1000MPaであり、密度が0.910〜0.930g/cmであり、
    前記(D)臭素系難燃剤が、融点が200℃以上であるか、もしくはエチレンビステトラブロモフタルイミドまたはエチレンビスペンタブロモフェニルのいずれかであり、
    前記(F)シリコーン変性ポリウレタンが、エステル系またはエーテル系であり、
    前記(G)酸化防止剤が、融点200℃以上のヒンダードフェノールであり、
    前記(H)金属不活性剤が、サリチル酸誘導体であり、
    前記(I)滑剤が、エルカ酸、オレイン酸、ステアリン酸のいずれかの誘導体、またはポリエチレン系パラフィンワックスから選択されるいずれか1種以上であることを特徴とする請求項1に記載の電線被覆材用組成物。
  4. 前記シラングラフトポリオレフィンおよび前記未変性ポリオレフィンが、超低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、および低密度ポリエチレンから選択される1種または2種以上であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の電線被覆材用組成物。
  5. 請求項1から4のいずれか1項に記載の電線被覆材用組成物を水架橋させてなる電線被覆材を有することを特徴とする絶縁電線。
  6. 前記請求項1に記載の電線被覆材用組成物を、
    前記(A)シラングラフトポリオレフィンを含むa成分と、
    前記(B)未変性ポリオレフィン、前記(C)変性ポリオレフィン、前記(D)水酸化マグネシウム/または臭素系難燃剤および三酸化アンチモン、前記(F)シリコーン変性ポリウレタン、前記(G)酸化防止剤、前記(H)金属不活性剤、前記(I)滑剤を含むb成分と、
    前記(E)架橋触媒の架橋触媒バッチを含むc成分とから構成され、
    前記a成分、b成分、c成分が混練されて、電線被覆材として成形され、水架橋されていることを特徴とする請求項5に記載の絶縁電線。
  7. 請求項5または6に記載の絶縁電線を有することを特徴とするワイヤーハーネス。
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