JP6348436B2 - 高強度高延性鋼板 - Google Patents

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Description

本発明は、自動用薄鋼板などとして有用な高強度高延性鋼板に関し、詳しくは、鋼板の強度・延性バランス向上技術に関するものである。
例えば自動車の骨格部品などに使用される鋼板には、衝突安全性や車体軽量化による燃費軽減などを目的としてさらなる高強度が求められるとともに、形状の複雑な骨格部品に加工するために優れた成形加工性も要求される。このため、1180MPa級で具体的に要求される機械的特性(以下、単に「特性」ともいう。)としては、引張強度(TS)×伸び(EL)×伸びフランジ性(λ)が500000MPa・%・%以上を確保しうる鋼板の開発が要望されている。
1180MPa級以上の高強度鋼板において、高強度化と高延性確保を両立させるには、残留オーステナイトによるTRIP効果を活用したTRIP鋼やTBF鋼等を用いることが有効である。これらの鋼の強度−延性バランスをさらに向上させるべく、残留オーステナイトの量、平均炭素濃度、形態について種々検討がなされ、より良好な特性を有する鋼板が提案されている(例えば、特許文献1〜3参照)。
たとえば、特許文献1には、鋼組織中の残留オーステナイトの形態をラス状と島状に分類した場合、島状の残留オーステナイトの割合を一定の範囲に制御することで、伸びとプレス成形安定性に優れた高強度薄鋼板が提案されている。この技術では、室温での良好な伸びに加え、100〜200℃の温間での良好な伸びが実現されているものの、衝突特性として有効な材料因子であるYRと強度−延性バランスが十分に確保できていないと想定され、上記要望レベルを満足させるものとは考えられない。
また、特許文献2には、鋼組織中におけるオーステナイト相の結晶方位の集積度を高めることで、圧延方向に対して45°方向の均一伸びを顕著に改善した高強度冷延鋼板が提案されている。しかしながら、一般的な延性評価方向である、圧延方向および圧延直角方向の特性は特筆するものでなく、上記要望レベルを満足させるものとは考えられない。
また、特許文献3には、鋼組織中の残留オーステナイト粒の表面と内部にC濃度差を付与することで、塗装焼付け硬化性と強度−延性バランスが改善された高強度薄鋼板が提案されている。しかしながら、この技術における、残留オーステナイト粒へのC濃度差の付与は、塗装焼付け硬化性の改善を主目的としたものにすぎず、本発明のように、残留オーステナイトの安定性を改善することで延性を高めるために、残留オーステナイトに必要な炭素濃度分布を付与することを意図したものではなく、本願発明とは全く技術的思想を異にするものである。
特開2012−41573号公報 特開2012−21225号公報 特開2012−31505号公報
そこで本発明の目的は、引張強度(TS)が1180MPa以上で、引張強度(TS)×伸び(EL)×伸びフランジ性(λ)が500000MPa・%・%以上を確保しうる、強度−延性バランスに優れた高強度高延性鋼板を提供することにある。
本発明の第1発明に係る高強度高延性鋼板は、
成分組成が、質量%で、
C:0.40〜0.60%、
Si+Al:0.5〜2.0%、
Mn:1.0〜4.0%、
P:0〜0.05%、
S:0〜0.01%
であり、残部が鉄および不可避的不純物からなり、
鋼組織が、
残留オーステナイトが全組織に対する面積率で20〜40%
であり、残部がベイナイト、マルテンサイト、焼戻しベイナイト、および焼戻しマルテンサイトの1種または2種以上からなるとともに、
前記残留オーステナイト中の炭素濃度に関し、
その平均炭素濃度が0.9〜1.2質量%、
その炭素濃度分布の標準偏差が0.29質量%以上、
その炭素濃度が1.5質量%以上の領域が全組織に対する面積率で2.0%以上
であることを特徴とする。
本発明の第2発明に係る高強度高延性鋼板は、
上記第1発明において、
成分組成が、質量%で、さらに、
Cu、Ni、Mo、CrおよびBの1種または2種以上を合計で1.0%以下含むものである。
本発明の第3発明に係る高強度高延性鋼板は、
上記第1または第2発明において、
成分組成が、質量%で、さらに、
V、Nb、Ti、ZrおよびHfの1種または2種以上を合計で0.2%以下含むものである。
本発明の第4発明に係る高強度高延性鋼板は、
上記第1〜第3発明のいずれか1つの発明において、
成分組成が、質量%で、さらに、
Ca、MgおよびREMの1種または2種以上を合計で0.01%以下含むものである。
本発明によれば、残留オーステナイトの量(面積率)と平均の炭素濃度を規定するだけでなく、炭素濃度の分布をも制御することで、変形の初期から後期までTRIP現象を発現させることにより高い加工硬化率を実現することにより、引張強度(TS)が1180MPa以上で、引張強度(TS)×伸び(EL)×伸びフランジ性(λ)が500000MPa・%・%以上を確保しうる、強度−延性バランスに優れた高強度高延性鋼板を提供できるようになった。
X線回折法により測定された残留γの回折ピークを模式的に示す図である。 本発明に係る高強度高延性鋼板を製造するための熱処理条件を模式的に示す図である。
本発明者らは、上記課題を解決するために、TBF鋼からなる鋼板において、その機械的特性として、引張強度(TS)が1180MPa以上で、引張強度(TS)×伸び(EL)×伸びフランジ性(λ)が500000MPa・%・%以上を確保しうる方策について種々検討を重ねてきた。その結果、以下の思考研究により、上記所望の特性を確保しうることに想到した。
すなわち、強度−延性バランスを従来技術よりもさらに向上させるためには、TRIP現象を促進する残留オーステナイト(以下、「残留γ」とも表記する。)をより有効に活用する必要がある。
そこで、本発明者らは、残留γ中の炭素濃度分布に着目した。すなわち、TRIP現象により、高強度かつ高延性を達成するためには、変形の初期から中期にかけて高い加工硬化率を実現することが重要であり、そのためには、炭素濃度の低い不安定な残留γが一部存在する必要がある。一方で、変形量が大きくなってきた際、すなわち変形の後期においても高い加工硬化率を維持するためには、炭素濃度が高く安定な残留γをも作り込む必要がある。
つまり、残留γは、安定度の高いものだけでも、あるいは安定度の低いものだけでもだめで、安定度、すなわち、炭素濃度分布が幅広く存在していることが重要である。
本発明者らは、上記知見に基づいてさらに検討を進めた結果、本発明を完成するに至った。
以下、まず本発明に係る高強度高延性鋼板(以下、「本発明鋼板」ともいう。)を特徴づける鋼組織(以下、単に「組織」ということもある。)について説明する。
〔本発明鋼板の鋼組織〕
上述したとおり、本発明鋼板は、TBF鋼の組織をベースとするものであるが、特に、所定の炭素濃度の残留γを所定量含有したうえで、その残留γ中の炭素濃度分布が制御されている点で、上記従来技術と相違している。
<残留オーステナイト:全組織に対する面積率で20〜40%>
残留γは延性の向上に有用であり、このような作用を有効に発揮させるためには、全組織に対する面積率で20%以上、好ましくは21%以上、さらに好ましくは22%以上存在させることが必要である。ただし、残留γが過剰に存在すると伸びフランジ性が劣化するので、残留γの全組織に対する面積率は40%以下、好ましくは37%以下、さらに好ましくは34%以下に制限する。
<残部:ベイナイト、マルテンサイト、焼戻しベイナイト、および焼戻しマルテンサイトの1種または2種以上>
フェライトの生成を防止し、微細で均一な組織であるベイナイトやマルテンサイト、および/またはそれらの焼戻し組織で母相を構築することで、母相組織の微細化によって、低荷重時における変形防止による降伏強度YSの上昇が可能となる。
<残留γ中の平均炭素濃度(%Cγ):0.9〜1.2質量%>
%Cγは、変形時に残留γがマルテンサイトに変態する安定度に影響する指標である。%Cγが低すぎると、残留γが不安定なため、応力付与後、塑性変形する前に加工誘起マルテンサイト変態が起るため、所要の伸びが得られなくなる。一方、%Cγが高すぎると、残留γが安定になりすぎて、加工を加えても加工誘起マルテンサイト変態が起らないため、やはり所要の伸びフランジ性が得られなくなる。所要の伸びを得るためには、%Cγは0.9〜1.2質量%とする必要がある。好ましくは1.0〜1.2質量%である。
<残留γ中の炭素濃度分布の標準偏差:0.29質量%以上>
変形の初期から後期にかけて加工硬化率を高め維持するために、残留γ中の炭素濃度分布を広げることで、安定性の異なる残留γを作り込むためである。このような作用を有効に発揮させるためには、残留γ中の炭素濃度分布の標準偏差は0.29質量%以上、好ましくは0.35質量%以上、さらに好ましくは0.40質量%以上とする必要がある。
<残留γ中の炭素濃度が1.5質量%以上の領域:全組織に対する面積率で2.0%以上>
伸びを高めるためには、ひずみ量が増加した際における、残留γの安定度が高いことが重要であり、そのためには、平均的に炭素濃度が高いだけでは十分でなく、安定度の高い、すなわち炭素濃度の高い残留γが一定量以上存在することが必要である。具体的には、残留γ中の炭素濃度が1.5質量%以上の領域が全組織に対する面積率で2.0%以上、好ましくは2.5%以上、さらに好ましくは3.0%以上存在させる必要がある。
〔残留γの面積率、残留γ中の平均炭素濃度(%Cγ)、およびその炭素濃度分布の各測定方法〕
ここで、残留γの面積率、平均炭素濃度(%Cγ)および炭素濃度分布の各測定方法について説明する。
残留γの面積率(Vγ)および平均炭素濃度(%Cγ)については、鋼板の1/4の厚さまで研削した後、化学研磨してからX線回折法により測定した(ISIJ Int.Vol.33,(1933),No.7,p.776)。なお、本発明においては、X線回折装置として、(株)リガク製 2次元微小部X線回折装置(RINT−RAPIDII)を用い、X線としてCo−Kα線を用いた。
なお、残留γ以外の組織については、鋼板をナイタール腐食し、光学顕微鏡(倍率400倍)で観察して残留γ以外の組織を同定した。
次いで、残留γ中の炭素濃度の分布については、上記X線回折装置で測定された、(200)γ、(220)γおよび(311)γの3つの回折ピークを用いて以下のようにして求めた。
まず、図1の模式図に示すように、(200)γ、(220)γおよび(311)γの3つの回折ピークについて、それぞれ、回折強度が最大となる2θ(2θavg(hkl))とその半価幅Δ2θ(hkl)を求めた。ここに、(hkl)は、(200)、(220)または(311)を意味するものとする(以下同じ。)。
次いで、上記2θavg(hkl)から、ブラッグ条件:λ=2dsinθ(d:回折格子定数、λ:Co−Kα線の波長)を用いて、下記式(1)より、d(hkl)を求めた。
d(hkl)=λ/{2sin(2θavg(hkl)/2)}・・・式(1)
そして、下記式(2)により、結晶格子定数a(hkl)を求め、それら3つの結晶格子定数a(hkl)を算術平均して結晶格子定数aを求めた。
(hkl)=d(hkl)√(h+k+l)・・・式(2)
そして、下記式(3)に示すDysonの式(Dyson D.J.,Holmes B.(1970),“Effect of alloying additions on the lattice parameter austenite”,J. Iron Steel Inst.,208:469−474.)を用いて炭素濃度%Cavg(単位:質量%)を求めた。(なお、この炭素濃度%Cavgは、炭素濃度分布を規定するための指標としてだけ用いるものであり、別途測定された上記平均炭素濃度%Cγとは、厳密には必ずしも一致するとは限らないことを注記しておく。)
%Cavg=(1/0.033)・(a0−0.0012・%Mn+0.00157・%Si−0.0056・%Al)・・・式(3)
ここに、%Mn、%Si、%Alは、それぞれ、鋼板中のMn、Si、Alの含有量(質量%)である。
次に、残留γ中の炭素濃度分布の半価幅Δ%Cを以下の手順で求めた。
まず、各ピークの回折角度2θ(hkl)の半価幅Δ2θ(hkl)の上下限における回折角度を、下記式(4)および(5)で求めた(図1参照)。
2θ(hkl)=2θavg(hkl)−Δ2θ(hkl)/2・・・式(4)
2θ(hkl)=2θavg(hkl)+Δ2θ(hkl)/2・・・式(5)
そこで、上記2θ(hkl)および2θ(hkl)をそれぞれ用いて、上記と同様の手順でブラッグ条件および上記式(1)〜(3)を用いることで、炭素濃度分布の半価幅の上下限値%Cおよび%Cを求めた。そして、炭素濃度分布の半価幅Δ%Cを下記式(6)で求めた。
Δ%C=%C−%C・・・式(6)
そして、炭素濃度分布が正規分布であると仮定して、以下のようにして、上記半価幅Δ%Cから標準偏差σ%Cを算出した。
すなわち、正規分布の確率密度関数f(x)は、平均値uと標準偏差σから、下記式(7)で表される。
f(x)={1/√(2πσ)}・exp{−(x−u)/(2σ)}・・・式(7)
平均値における確率f(u)は、上記式(7)にx=uを代入することで下記式(8)にて求まる。
f(u)=1/√(2πσ)・・・式(8)
そして、平均値u=%Cavgから半価幅Δ%Cの1/2だけ上下に移動した値(%Cavg±Δ%C/2)での確率密度f(%Cavg±Δ%C/2)は、平均値u=%Cavgでの確率密度f(u)=f(%Cavg)の1/2になるので、式(7)および(8)より、下記式(9)の関係が得られる。
{1/√(2πσ%C)}・exp{−(Δ%C/2)/(2σ%C )}=1/{2√(2πσ%C)}・・・式(9)
上記式(9)を変形することで、半価幅Δ%Cから標準偏差σ%Cを求める式として下記式(10)が導出されるので、この式(10)に半価幅Δ%Cを代入することで標準偏差σ%Cを算出した。
σ%C=√{(Δ%C/2)/(2ln2)}・・・式(10)
そして、上記のようにして求めた残留γ中の炭素濃度分布の平均値%Cavgとσ%Cを用いて、下記式(11)に示す累積密度関数g(x)により、炭素濃度が1.5質量%以上の領域の、全組織に対する面積率Vγ(C≧1.5%)を求める式として下記式(12)を導出し、この式(12)を用いてVγ(C≧1.5%)を算出した。
g(x)=(1/2)・[1+erf{(x−u)/√(2σ)}]・・・式(11)
Vγ(C≧1.5%)=Vγ{1−g(1.5)}
=Vγ[0.5−erf{(1.5−%Cavg)/√(2σ%C )}]・・・式(12)
ここに、Vγは全残留γの面積率である。
次に、本発明鋼板を構成する成分組成について説明する。以下、化学成分の単位はすべて質量%である。また、各成分の「含有量」を単に「量」と記載することもある。
〔本発明鋼板の成分組成〕
C:0.40〜0.60%
Cは、残留オーステナイトの量(面積率)の確保に寄与することで、強度と延性を確保するために必須の元素である。このような作用を有効に発揮させるためには、Cを0.40%以上、好ましくは0.42%以上、さらに好ましくは0.44%以上含有させる必要がある。ただし、C量が過剰になると、溶接性を劣化させるので、C量は0.60%以下、好ましくは0.58%以下、より好ましくは0.56%以下、さらに好ましくは0.54%以下とする。
Si+Al:0.5〜2.0%
SiおよびAlは、残留オーステナイトが分解して炭化物が生成するのを有効に抑制する元素である。このような作用を有効に発揮させるためには、SiおよびAlを合計で0.5%以上、好ましくは0.7%以上、さらに好ましくは0.9%以上含有させる必要がある。ただし、SiおよびAlを過剰に含有させても、上記効果が飽和してしまい、経済的に無駄であるばかりでなく、熱間脆性を引き起こすため、SlおよびAlの合計量は2.0%以下、好ましくは1.9%以下、さらに好ましくは1.8%以下とする。
Mn:1.0〜4.0%
Mn は、オーステナイトを安定化し、所望の残留オーステナイトを得るために必要な元素である。このような作用を有効に発揮させるためには、Mnを1.0 % 以上、好ましくは1.3%以上、さらに好ましくは1.6%以上含有させることが必要である。ただし、Mn量が過剰になると、鋳片割れが生じる等の悪影響が見られるので、Mn量は4.0%以下、好ましくは3.5 %以下、さらに好ましくは3.0 %以下とする。
P:0〜0.05%
Pは不純物元素として不可避的に存在するが、所望の残留γを確保するために含有させてもよい元素である。ただし、Pを過剰に含有させると二次加工性が劣化するので、P量は0.05%以下、好ましくは0.03%以下、さらに好ましくは0.02%以下とする。
S:0〜0.01%
Sも不純物元素として不可避的に存在し、MnS等の硫化物系介在物を形成し、割れの起点となって加工性を劣化させる元素であるので、S量は0.01%以下、好ましくは0.005%以下、さらに好ましくは0.003%以下とする。
本発明の鋼は上記元素を必須の成分として含有し、残部は鉄および不可避的不純物であるが、その他、本発明の作用を損なわない範囲で、以下の許容成分を含有させることができる。
Cu、Ni、Mo、CrおよびBの1種または2種以上:合計で1.0%以下
これらの元素は、鋼の強化元素として有用であるとともに、残留γの安定化や所定量の確保に有効な元素である。このような作用を有効に発揮させるためには、これらの元素は合計量で0.001%以上、さらには0.01%以上含有させることが推奨される。ただし、これらの元素を過剰に含有させても上記効果が飽和してしまい、経済的に無駄であるので、これらの元素は合計量で1.0%以下、さらには0.5%以下とするのが好ましい。
V、Nb、Ti、ZrおよびHfの1種または2種以上:合計で0.2%以下
これらの元素は、析出強化および組織微細化の効果があり、高強度化に有用な元素である。このような作用を有効に発揮させるためには、これらの元素を合計量で0.01%以上、さらには0.02%以上含有させることが推奨される。ただし、これらの元素を過剰に含有させても、上記効果が飽和してしまい、経済的に無駄であるので、これらの元素は合計量で0.2%以下、さらには0.1%以下とするのが好ましい。
Ca、MgおよびREMの1種または2種以上:合計で0.01%以下
これらの元素は、鋼中硫化物の形態を制御し、加工性向上に有効な元素である。ここで、本発明に用いられるREM(希土類元素)としては、Sc、Y、ランタノイド等が挙げられる。上記作用を有効に発揮させるためには、これらの元素を合計量で0.001%以上、さらには0.002%以上含有させることが推奨される。ただし、これらの元素を過剰に含有させても、上記効果が飽和してしまい、経済的に無駄であるので、これらの元素は合計量で0.01%以下、さらには0.005%以下とするのが好ましい。
次に、上記本発明鋼板を得るための好ましい製造条件を以下に説明する。
〔本発明鋼板の好ましい製造方法〕
本発明鋼板は、上記成分組成を満足する鋼材を、熱間圧延し、ついで冷間圧延した後、例えば下記の工程(1)〜(4)の条件にて熱処理を行って製造することができる(図2参照)。
[熱処理条件]
(1)冷延板を第2加熱温度T2:[0.3×Ac1+0.7×Ac3]〜[0.2×Ac1+0.8×Ac3]に加熱してその温度で第2保持時間t2:5s以上保持するか、または、同温度範囲を4℃/s以下の平均加熱速度で加熱した後、
(2)さらに第3加熱温度T3:[Ac3+10℃]〜950℃に加熱し、その温度で第3保持時間t3:180s以下保持したのち、
(3)上記第3加熱温度T3から500℃までを平均冷却速度CR1:20℃/s以上で冷却した後、
(4)オーステンパ温度T4:350〜480℃でオーステンパ保持時間t4:10s以上保持後、室温まで冷却する。
以下、上記熱処理条件が推奨される理由について説明する。
<(1)第2加熱温度T2:[0.3×Ac1+0.7×Ac3]〜[0.2×Ac1+0.8×Ac3]で第2保持時間t2:5s以上保持するか、または、同温度範囲を4℃/s以下の平均加熱速度で加熱>
フェライト/オーステナイトの2相域温度領域にて所定時間保持または徐加熱することで、この2相域温度領域にて逆変態中にMn濃度分配を起こさせることにより、上記工程(4)におけるオーステンパ処理時のベイナイト変態の局所的な速度差を大きくし、残留γ中の炭素濃度分布を広くするためである。
当該温度範囲における保持時間t2は、より好ましくは10s以上、さらに好ましくは20s以上であるが、生産性の観点から200s以下とすることが推奨される。
なお、Ac1およびAc3は、鋼板の化学成分から、レスリー著、「鉄鋼材料科学」、幸田成靖 訳、丸善株式会社、1985年、p.273に記載の式を用いて求めることができる。
<(2)さらに第3保持温度T3:[Ac3+10℃]〜950℃で第3保持時間t3:180s以下保持>
オーステナイト単相域温度領域にて保持することで、組織をオーステナイト単相組織とすることにより、その後の冷却時にまでフェライトが残存することを防止するためである。
第3加熱温度T3を[Ac3+10℃]未満とすると、フェライトが残存し、その後の上記工程(3)の冷却過程でフェライトの成長を抑制できず、フェライトが過剰に形成される。一方、第3加熱温度T3を950℃超、または、第3保持時間t3を180s超とすると、上記工程(1)にて2相域加熱時に分布したMnが均一化してしまい、残留γ中の炭素濃度分布を広くできなくなる。
<(3)第3加熱温度T3から500℃までを平均冷却速度HR1:20℃/s以上で冷却>
フェライトの形成を防止し、ベイナイト主体の組織にするためである。
この温度範囲における平均冷却速度HR3は、より好ましくは25℃/s以上、さらに好ましくは30℃/s以上である。
<(4)オーステンパ温度T4:350〜480℃でオーステンパ保持時間t4:10s以上保持後、室温まで冷却>
ベイナイト変態を促進させて、未変態オーステナイトへ炭素を濃化させることで、安定な残留γを得るためである。
[熱処理条件の変形例]
なお、上記工程(1)は、下記工程(1a)のように構成してもよい。
(1a)冷延板を第1加熱温度T1:[Ac1−100℃]〜[Ac1−30℃]に加熱してその温度で第1保持時間:10s以上保持するか、または、同温度範囲を2℃/s以下の平均加熱速度で加熱した後に、第2加熱温度T2:[0.3×Ac1+0.7×Ac3]〜[0.2×Ac1+0.8×Ac3]で第2保持時間t2:5s以上保持する。
このように、あらかじめフェライト/セメンタイト2相域温度領域で所定時間保持または徐加熱することで、セメンタイト中へMnを濃化させておき、その後のフェライト/オーステナイト2相域加熱時においてフェライト/オーステナイト間のMn濃度分配を促進させることにより、上記工程(4)におけるオーステンパ処理時のベイナイト変態の局所的な速度差を大きくし、残留γ中の炭素濃度分布をより広くすることができる。
また、上記工程(4)は、下記工程(4a)のように構成してもよい。
(4a)オーステンパ温度T4:350〜480℃でオーステンパ保持温度t4:10s以上保持後、再加熱温度T5:500〜600℃に再加熱し、その温度で再加熱保持時間t5:30s以下保持した後に、室温まで冷却する。
このように、本発明鋼板は、残留γが分解しない温度域に再加熱してめっき層を合金化することで、めっき鋼板とすることもできる。
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することももちろん可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
下記表1に示す成分の鋼を真空溶製で製造した後、熱間鍛造で板厚30mmの鋼板にした後、熱間圧延を施した。熱間圧延の条件は、本発明鋼板の最終組織および特性に本質的な影響を及ぼさないが、本実施例では1200℃に加熱した後、多段圧延にて、熱間圧延の終了温度880℃の条件で板厚2.5mmとした。その後、500℃まで30℃/sの冷却速度で冷却して冷却を停止し、500℃に加熱した炉に挿入後30min保持し、その後炉冷して熱延板とした。この熱延板に酸洗を施して表面のスケールを除去した後、1.4mmまで冷間圧延を施して冷延板とした。
そして、上記冷延板を出発材として、下記表2に示す条件で熱処理を施した。なお、室温から最初の加熱温度(保持温度)までの平均加熱速度は10℃/s一定、次の加熱温度(保持温度)までの平均加熱速度は20℃/s一定、さらに次の加熱温度(保持温度)までの平均加熱速度は10℃/s一定とした。また、オーステンパ温度T4から再加熱温度T5までの平均加熱速度は10℃/s一定、オーステンパ温度T4または再加熱温度T5から室温までの平均冷却速度は10℃/s一定とした。
上記熱処理後の各鋼板について、上記[発明を実施するための形態]の項で説明した測定方法により、残留γの面積率、残留γ中の平均炭素濃度(Cγ)、およびその炭素濃度分布を測定した。
なお、本実施例において使用した鋼板の組織は全て、残留オーステナイトおよびフェライト以外の残部はベイナイト、マルテンサイト、焼戻しベイナイト、および焼戻しマルテンサイトの1種または2種以上からなるものであったので、下記表3にては、残留オーステナイトおよびフェライトの面積率のみを記載した。
また、上記熱処理後の各鋼板について、強度−延性バランスを評価するために、引張試験により、降伏強度YS、引張強度TSおよび伸び(全伸び)ELを測定した。なお、引張試験は、JIS 5号試験片を作製して、JIS Z 2241に従って実施した。また、各鋼板の伸びフランジ性λを評価するため、日本鉄鋼連盟規格JFST1001に準じて穴広げ率を測定した。
測定結果を下記表3に示す。同表において、上記熱処理後の鋼板の特性が、引張強度(TS)が1180MPa以上で、引張強度(TS)×伸び(EL)×伸びフランジ性(λ)が500000MPa・%・%以上のものを合格(○)とし、それ以外のものを不合格(×)とした。
上記表3に示すように、発明鋼(評価が○のもの)である鋼No.2、3、6、11〜13、15、20〜29は、本発明の成分規定の要件を満足する鋼種を用い、推奨の条件で熱処理した結果、本発明の組織規定の要件を充足する発明鋼であり、機械的特性が合格基準を満たしており、強度−延性バランスに優れた高強度強延性鋼板が得られることを確認できた。
これに対して、比較鋼(評価が×のもの)である鋼No.1、4、5、7〜10、14、16〜19は、本発明の成分規定および組織規定の要件の少なくともいずれかを充足せず、特性が合格基準を満たしていない。
すなわち、鋼No.1、4、5、7〜10、14は、本発明の成分規定の要件を満足する鋼種を用いているものの、推奨の製造条件を一部外れる条件で製造しているため、組織規定の要件を充足せず、特性が劣っている。
一方、鋼No.16〜19は、推奨の製造条件で製造しているものの、本発明の成分規定の要件を一部外れる鋼種を用いているため、組織規定の要件を充足せず、特性が劣っている。
以上より、本発明の適用性が確認された。

Claims (4)

  1. 成分組成が、質量%で、
    C:0.40〜0.60%、
    Si+Al:0.5〜2.0%、
    Mn:1.0〜4.0%、
    P:0〜0.05%、
    S:0〜0.01%
    であり、残部が鉄および不可避的不純物からなり、
    鋼組織が、
    残留オーステナイトが全組織に対する面積率で20〜40%
    であり、残部がベイナイト、マルテンサイト、焼戻しベイナイト、および焼戻しマルテンサイトの1種または2種以上からなるとともに、
    前記残留オーステナイト中の炭素濃度に関し、
    その平均炭素濃度が0.9〜1.2質量%、
    その炭素濃度分布の標準偏差が0.29質量%以上、
    その炭素濃度が1.5質量%以上の領域が全組織に対する面積率で2.0%以上
    であることを特徴とする高強度高延性鋼板。
  2. 成分組成が、質量%で、さらに、
    Cu、Ni、Mo、CrおよびBの1種または2種以上を合計で1.0%以下含むものである請求項1に記載の高強度高延性鋼板。
  3. 成分組成が、質量%で、さらに、
    V、Nb、Ti、ZrおよびHfの1種または2種以上を合計で0.2%以下含むものである請求項1または2に記載の高強度高延性鋼板。
  4. 成分組成が、質量%で、さらに、
    Ca、MgおよびREMの1種または2種以上を合計で0.01%以下含むものである請求項1〜3のいずれか1項に記載の高強度高延性鋼板。
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