以下、図1〜図4A、図4Bに基づいて本発明の実施形態を例示的に詳しく説明する。ただし、この実施形態に記載されている構成要素はあくまで例示であり、本発明の技術的範囲は、特許請求の範囲によって確定されるのであって、以下の個別の実施形態によって限定されるわけではない。
[自動変速機の構成]
本発明の一実施形態に係る自動変速機の制御装置について説明する。図1に示すように、本実施形態の制御装置1は、車両Vの自動変速機10に適用されたものである。この車両Vは、原動機としての内燃機関(以下「エンジン」という)3を備えており、車両Vの走行中、このエンジン3の動力は、自動変速機10を介して変速されながら、駆動輪63,63(1つのみ図示)に伝達される。
この車両Vは、例えば、エンジン3を車両Vの中央寄りに搭載し、後輪である駆動輪63を駆動するタイプのもの、すなわちミッドシップエンジン・リヤドライブタイプとして構成することができる。
また、エンジン3のクランクシャフト3aは、フライホイール3b及び回転軸3cを介して、自動変速機10に連結されており、これらのクランクシャフト3a、フライホイール3b及び回転軸3cは互いに同心に配置されている。
この自動変速機10は、デュアルクラッチ式の自動MTタイプのものであり、第1クラッチ5及び第2クラッチ6と、互いに平行に配置された第1入力軸11、第2入力軸12、副第2入力軸20、出力軸30、リバース軸40及び副出力軸50などを備えている。これらの軸(第1入力軸11,第2入力軸12,副第2入力軸20,出力軸30,リバース軸40,副出力軸50)はいずれも、図示しない軸受を介して、図示しないミッションケースに回転自在に支持されている。
第1クラッチ5は、湿式多板クラッチタイプのものである。第1クラッチ5は、回転軸3cに同心かつ一体に取り付けられたフライホイールタイプのアウタクラッチ板5aと、第1入力軸11の一端部に同心かつ一体に取り付けられたインナクラッチ板5bと、インナクラッチ板5bをアウタクラッチ板5aから離間させるように付勢するリターンスプリング(図示せず)などを有する。
第1クラッチ・アクチュエータ71(第1HCA:ハイドロプレッシャーコントロールアクチュエータ)は、インナクラッチ板5bをアウタクラッチ板5a側に駆動するために、所定の油圧(クラッチ圧PH)の作動油を供給する供給部(第1供給部)として機能する。第1クラッチ・アクチュエータ71(第1HCA)は、ECU2に電気的に接続された電動機と、この電動機よって駆動される油圧シリンダなどの油圧機器を含む油圧回路とを組み合わせたものである(いずれも図示せず)。第1クラッチ・アクチュエータ71は、ECU2からの駆動信号が供給されたときに、リターンスプリングの付勢力に抗しながら、第1クラッチ5のインナクラッチ板5bをアウタクラッチ板5a側に駆動するように所定の油圧の作動油を油路91を介して供給する。ECU2は、第1クラッチ・アクチュエータ71(第1HCA)を介して、第1クラッチ・アクチュエータ71を制御することにより、第1クラッチ5を接続/遮断する。第1クラッチ5が接続されているときには、エンジン3の動力が、第1クラッチ5を介して第1入力軸11に伝達される。すなわち、エンジン3の動力は、第1入力軸11、1速駆動ギヤ13および1速従動ギヤ36を介して、一方向クラッチ(以下、ワンウェイクラッチ37という)へ伝達される。本実施形態の自動変速機において、複数の変速段における最低変速段(1速)は、第1入力軸の回転を一方向クラッチ(ワンウェイクラッチ37)を介して直接に出力軸30に伝達するように構成されている。
ここで、回転センサ74およびストロークセンサ75は、第1クラッチ・アクチュエータ71(第1HCA)の動作状態を検出し、検出結果をECU2に入力する。ECU2は、回転センサ74およびストロークセンサ75の検出結果に基づいて、第1クラッチ・アクチュエータ71(第1HCA)が正常に動作しているか否かを判定する。第1クラッチ・アクチュエータ71(第1HCA)が正常に動作していない場合、ECU2は各アクチュエータの動作を停止するように制御する。
本実施形態の制御装置1の構成では、更に、第1クラッチ5と、第1クラッチ・アクチュエータ71との間の油路91に、第1クラッチ・アクチュエータ71から供給される作動油の油圧(クラッチ圧PH)を解放する油圧解放機構70が設けられている。
第1クラッチ・アクチュエータ71から、クラッチ圧PHの作動油が供給された状態で第1クラッチ・アクチュエータ71の電動機や油圧回路が故障すると、第1クラッチ5を適切なタイミングで遮断することができない場合が生じ得る。この場合、第1クラッチ5が接続されたままとなり、ワンウェイクラッチ37への動力伝達を遮断することができなくなる。第1クラッチ・アクチュエータ71の動作状態は、回転センサ74およびストロークセンサ75により検出される。回転センサ74は、第1クラッチ・アクチュエータ71の電動機のローターの回転状態を検出する。また、ストロークセンサ75は、油圧回路内の油圧機器の動作状態を検出する。回転センサ74およびストロークセンサ75の検出結果に基づいて、ECU2が、第1クラッチ・アクチュエータ71(第1HCA)の故障(例えば、第1クラッチ5を切断出来ない状態)を判定すると、ECU2の制御に基づいて、油圧解放機構70は解放動作を行い、クラッチ圧PHを解放する。これにより、作動油が供給された状態で、第1クラッチ・アクチュエータ71(第1HCA)が故障した場合でも、ワンウェイクラッチ37への動力伝達を遮断することが可能になる。油圧解放機構70の具体的な構成については、後に詳細に説明する。
第2クラッチ6は、第1クラッチ5と同様の湿式多板クラッチタイプのものである。第2クラッチ6は、第1クラッチ5のアウタクラッチ板5aに同心かつ一体に固定されたアウタクラッチ板6aと、第2入力軸12の一端部に一体に取り付けられたインナクラッチ板6bと、インナクラッチ板6bをアウタクラッチ板6aから離間させるように付勢するリターンスプリング(図示せず)などを有する。
第2クラッチ・アクチュエータ72(第2HCA)は、インナクラッチ板6bをアウタクラッチ板6a側に駆動するために、所定の油圧(クラッチ圧)の作動油を供給する供給部(第2供給部)として機能する。第2クラッチ・アクチュエータ72は、前述した第1クラッチ・アクチュエータ71と同様に構成されており、ECU2からの駆動信号が供給されたときに、リターンスプリングの付勢力に抗しながら、第2クラッチ6のインナクラッチ板6bをアウタクラッチ板6a側に駆動するように所定の油圧の作動油を油路92を介して供給する。ECU2は、第2クラッチ・アクチュエータ72(第2HCA)を介して、第2クラッチ・アクチュエータ72を制御することにより、第2クラッチ6を接続/遮断する。第2クラッチ6が接続されているときには、エンジン3の動力が、第2クラッチ6を介して第2入力軸12に伝達される。ここで、回転センサ74およびストロークセンサ75は、第2クラッチ・アクチュエータ72(第2HCA)の動作状態を検出し、検出結果をECU2に入力する。ECU2は、回転センサ74およびストロークセンサ75の検出結果に基づいて、第2クラッチ・アクチュエータ72(第2HCA)が正常に動作しているか否かを判定する。第2クラッチ・アクチュエータ72(第2HCA)が正常に動作していない場合、ECU2は各アクチュエータの動作を停止するように制御する。
前述した第1入力軸11には、エンジン3側の一端部に前述した第1クラッチ5のインナクラッチ板5bが固定されている。この第1入力軸11上には、エンジン3側からその反対側に向かって順に、第2入力軸12、3速駆動ギヤ14、3−5速シンクロ機構18、5速駆動ギヤ15、7速駆動ギヤ16、7−9速シンクロ機構19及び1速駆動ギヤ13が設けられている。これらの要素(第2入力軸12〜7−9速シンクロ機構19)は、第1入力軸11と同心に配置されている。3−5速シンクロ機構18および7−9速シンクロ機構19は、複数の第1変速段を動力伝達可能な状態と動力伝達不能な状態との間で切り換え可能な第1切換機構として機能する。
第2入力軸12は、中空のものであり、その内孔で第1入力軸11に回転自在に嵌合している。また、第2入力軸12のエンジン3側の一端部には、前述した第2クラッチ6のインナクラッチ板6bが同心に取り付けられており、他端部には、ギヤ12aが同心に取り付けられている。このギヤ12aは、後述するリバース・入力ギヤ41に常に噛み合っている。
3速駆動ギヤ14は、第1入力軸11上に回転自在に設けられ、出力軸30の後述する3速従動ギヤ32に常に噛み合っているとともに、これらのギヤ(3速駆動ギヤ14,3速従動ギヤ32)によって、前進3速段が構成されている。更に、3速駆動ギヤ14は、後述するリバースギヤ42に常に噛み合っている。
また、5速駆動ギヤ15は、第1入力軸11上に回転自在に設けられており、出力軸30の後述する4−5速従動ギヤ33に常に噛み合っているとともに、これらのギヤ(5速駆動ギヤ15,4−5速従動ギヤ33)によって、前進5速段が構成されている。
更に、前述した3−5速シンクロ機構18は、その詳細な説明はここでは省略するが、本出願人が例えば特許第4242189号で提案したシンクロ機構と同様に構成されており、図示しない3−5速シフトフォークを介して、ギヤ・アクチュエータ73(図2参照)に連結されている。
ギヤ・アクチュエータ73は、ECU2に電気的に接続された電動機とギヤ機構などを組み合わせたものであり、変速動作の際には、ECU2の制御により、3−5速シフトフォークを介して、3−5速シンクロ機構18を駆動する。それにより、3速駆動ギヤ14又は5速駆動ギヤ15が第1入力軸11に連結されたり、その連結が解除されたりすることによって、前進3速段又は前進5速段がインギヤ状態とニュートラル状態との間で切り換えられる。
7速駆動ギヤ16は、第1入力軸11上に回転自在に設けられており、出力軸30の後述する6−7速従動ギヤ34に常に噛み合っているとともに、これらのギヤ(7速駆動ギヤ16,6−7速従動ギヤ34)によって、前進7速段が構成されている。更に、9速駆動ギヤ17は、第1入力軸11上に回転自在に設けられており、出力軸30の後述する8−9速従動ギヤ35に常に噛み合っているとともに、これらのギヤ(9速駆動ギヤ17,8−9速従動ギヤ35)によって、前進9速段が構成されている。
7−9速シンクロ機構19は、前述した3−5速シンクロ機構18と同様に構成されており、図示しない7−9速シフトフォークを介して、ギヤ・アクチュエータ73に連結されている。変速動作の際には、ギヤ・アクチュエータ73によって、7−9速シンクロ機構19が駆動されることにより、前進7速段又は前進9速段がインギヤ状態とニュートラル状態との間で切り換えられる。
1速駆動ギヤ13は、第1入力軸11に固定されており、出力軸30の後述する1速従動ギヤ36に常に噛み合っているとともに、これらのギヤ(1速駆動ギヤ13,1速従動ギヤ36)によって、前進1速段が構成されている。
前述した副第2入力軸20(第2入力軸)上には、エンジン3側からその反対側に向かって順に、入力ギヤ27、2速駆動ギヤ21、2−4速シンクロ機構25、4速駆動ギヤ22、6速駆動ギヤ23、6−8速シンクロ機構26及び8速駆動ギヤ24が設けられている。これらの要素(2速駆動ギヤ21〜入力ギヤ27)は、副第2入力軸20と同心に配置されている。2−4速シンクロ機構25および6−8速シンクロ機構26は、複数の第2変速段を動力伝達可能な状態と動力伝達不能な状態との間で切り換え可能な第2切換機構として機能する。
入力ギヤ27は、リバース・入力ギヤ41と常に噛み合っており、このリバース・入力ギヤ41は、前述したように、第2入力軸12のギヤ12aに常に噛み合っている。それにより、副第2入力軸20は、これらのギヤ(入力ギヤ27,リバース・入力ギヤ41,ギヤ12a)を介して、第2入力軸12に連結されている。
また、2速駆動ギヤ21は、副第2入力軸20上に回転自在に設けられており、出力軸30の2速従動ギヤ31に常に噛み合っているとともに、これらのギヤ(2速駆動ギヤ21,2速従動ギヤ31)によって、前進2速段が構成されている。
更に、4速駆動ギヤ22は、副第2入力軸20上に回転自在に設けられており、出力軸30の4−5速従動ギヤ33に常に噛み合っているとともに、これらのギヤ(4速駆動ギヤ22,4−5速従動ギヤ33)によって、前進4速段が構成されている。
2−4速シンクロ機構25は、図示しない2−4速シフトフォークを介して、前述したギヤ・アクチュエータ73に連結されている。変速動作の際には、ギヤ・アクチュエータ73によって、2−4速シンクロ機構25が駆動されることにより、前進2速段又は前進4速段がインギヤ状態とニュートラル状態との間で切り換えられる。
また、6速駆動ギヤ23は、副第2入力軸20上に回転自在に設けられており、出力軸30の6−7速従動ギヤ34に常に噛み合っているとともに、これらのギヤ(6速駆動ギヤ23,6−7速従動ギヤ34)によって、前進6速段が構成されている。
更に、8速駆動ギヤ24は、副第2入力軸20上に回転自在に設けられており、前述した8−9速従動ギヤ35に常に噛み合っているとともに、これらのギヤ(8速駆動ギヤ24,8−9速従動ギヤ35)によって、前進8速段が構成されている。
6−8速シンクロ機構26は、図示しない6−8速シフトフォークを介して、前述したギヤ・アクチュエータ73に連結されている。変速動作時、ギヤ・アクチュエータ73によって、6−8速シンクロ機構26が駆動されることにより、前進6速段又は前進8速段がインギヤ状態とニュートラル状態との間で切り換えられる。なお、本実施形態では、2速駆動ギヤ21〜8速駆動ギヤ24及び2速従動ギヤ31,4−5速従動ギヤ33、6−7速従動ギヤ、8−9速従動ギヤ35が第2変速ギヤ群に相当し、シンクロ機構25,26及びギヤ・アクチュエータ73が第2切換機構に相当する。
出力軸30には、エンジン3側からその反対側に向かって順に、2速従動ギヤ31、3速従動ギヤ32、4−5速従動ギヤ33、6−7速従動ギヤ34、8−9速従動ギヤ35及び1速従動ギヤ36が配置されている。これらの4つのギヤ(2速従動ギヤ31〜8−9速従動ギヤ35)はいずれも、出力軸30に同心に固定されている。
1速従動ギヤ36は、ワンウェイクラッチ37を介して、出力軸30に同心に連結されている。それにより、車両Vの前進走行中における出力軸30の回転を正回転とした場合、1速従動ギヤ36の正回転速度が、出力軸30の正回転速度よりも大きいときには、第1入力軸11の動力が、1速駆動ギヤ13、1速従動ギヤ36及びワンウェイクラッチ37を介して出力軸30に伝達される。一方、1速従動ギヤ36の正回転速度が、出力軸30の正回転の回転速度を下回ったときには、ワンウェイクラッチ37の機能により、第1入力軸11と出力軸30との間での動力伝達が遮断される。
前述したように、2速従動ギヤ31は2速駆動ギヤ21に、4−5速従動ギヤ33は4速駆動ギヤ22及び5速駆動ギヤ15に、6−7速従動ギヤ34は6速駆動ギヤ23及び7速駆動ギヤ16に、8−9速従動ギヤ35は8速駆動ギヤ24及び9速駆動ギヤ17にそれぞれ噛み合っている。更に、3速従動ギヤ32は、前述した3速駆動ギヤ14に加えて、副出力軸50のギヤ51に常に噛み合っている。
副出力軸50には、ギヤ51とベベルギヤ52が同心に固定されており、このベベルギヤ52は、エンジン3側の端部に配置され、終減速装置60のベベルギヤ61に常に噛み合っている。以上の構成により、出力軸30の動力は、副出力軸50、終減速装置60及び駆動軸62,62を介して、左右の駆動輪63,63に伝達される。
出力軸30には、出力回転速度センサ80が設けられており、この出力回転速度センサ80は、ECU2に電気的に接続されている(図2参照)。この出力回転速度センサ80は、出力軸30の回転速度を検出して、それを表す検出信号をECU2に出力する。ECU2は、この出力回転速度センサ80の検出信号に基づき、車両Vの速度である車速VPなどを算出する。
リバース軸40上には、エンジン3側からその反対側に向かって順に、リバース・入力ギヤ41、リバース・シンクロ機構43及びリバースギヤ42が設けられている。リバース・入力ギヤ41は、リバース軸40に同心に固定されており、前述した入力ギヤ27と常に噛み合っている。また、リバースギヤ42は、リバース軸40上に回転自在に設けられており、第1入力軸11上の前述した3速駆動ギヤ14と常に噛み合っている。
リバース・シンクロ機構43は、前述した3−5速シンクロ機構18と同様に構成されており、図示しないリバース・シフトフォークを介して、ギヤ・アクチュエータ73に連結されている。後進走行する際の変速動作時には、ギヤ・アクチュエータ73によってリバース・シンクロ機構43が駆動されることにより、リバースギヤ42がリバース軸40に連結される。また、後進段をニュートラル状態にするときには、リバース・シンクロ機構43によって、リバースギヤ42とリバース軸40の連結が解除される。
また、ギヤ・アクチュエータ73の近傍には、変速段センサ81(図2参照)が設けられている。この変速段センサ81は、ギヤ・アクチュエータ73の動作状態を検出して、検出して、それを表す検出信号をECU2に出力する。
車両Vには、シフトレバー装置及びアクセルペダル(いずれも図示せず)が設けられている。このシフトレバー装置は、フロアシフトレバータイプのものであり、シフト位置として、パーキング位置、リバース位置、ニュートラル位置、ドライブ位置及びスポーツ位置の5つの位置を備えており、運転者によるシフト操作に伴い、そのシフト位置が5つの位置の間で切り換え選択可能に構成されている。
シフトレバー装置には、シフト位置センサ82(図2参照)が設けられており、このシフト位置センサ82は、シフトレバー装置において5つのシフト位置のうちのどの位置が選択されているかを検出して、それを表す検出信号をECU2に出力する。
ECU2には、図2に示すように、クランク角センサ83及びアクセル開度センサ84が電気的に接続されている。このクランク角センサ83は、クランクシャフト3aの回転に伴い、パルス信号であるCRK信号をECU2に出力する。このCRK信号は、所定クランク角(例えば1゜)ごとに1パルスが出力され、ECU2は、このCRK信号に基づき、エンジン3の回転速度(以下「エンジン回転数」という)NEを算出する。
更に、アクセル開度センサ84は、アクセルペダルの踏み込み量(以下「アクセル開度」という)APを検出して、それを表す検出信号をECU2に出力する。
一方、ECU2は、CPU、RAM、ROM及びI/Oインターフェース(いずれも図示せず)などからなるマイクロコンピュータで構成されており、前述した各種のセンサ(出力回転速度センサ80〜アクセル開度センサ84の検出信号などに応じて、以下に述べように、変速制御処理などの各種の制御処理を実行する。
[油圧解放機構]
次に、油圧解放機構70の構成を説明する。油圧解放機構70は、第1クラッチ5と第1クラッチ・アクチュエータ71との間に配置され、作動油の油圧を解放可能に構成されている。図3Aおよび図3Bは、本実施形態に係る油圧解放機構70の構成を示す図である。レギュレータバルブ310には、第1クラッチ・アクチュエータ71の油圧回路および油圧ポンプ(いずれも不図示)から作動油が入力され、レギュレータバルブ310は所定の油圧PRに調圧した作動油を油路93から出力する。レギュレータバルブ310の出力側の油路93は油路切替弁330と接続しており、レギュレータバルブ310は所定の油圧PRに調圧した作動油を、油路93を介して、油路切替弁330に入力する。また、レギュレータバルブ310は、油路93および油路93から分岐した油路93aを介して、所定の油圧PRに調圧した作動油をソレノイド弁320に入力する。
(ソレノイド弁320)
ソレノイド弁320は、ECU2の制御に基づいたソレノイドへの通電によりスプールバルブが開閉するように構成されている。ソレノイド弁320は、油路93および油路93aを介して、レギュレータバルブ310から油圧PRの作動油を入力し、スプールバルブが閉じたセット状態(OFF状態)で作動油の出力を遮断し、スプールバルブが開いた作動状態(ON状態)で作動油を油路94から出力する。すわなち、ソレノイド弁320は、所定の油圧の作動油を入力し、セット状態で作動油の出力を遮断し、作動状態で作動油を出力する。
(油圧センサ76およびECU2によるソレノイド弁320の制御)
ソレノイド弁320がセット状態である場合において、油路93から出力された作動油は、後に説明する油路切替弁330、油路95、圧力解放弁340および油路97を介して、油圧センサ76に入力される。油圧センサ76は、油路97から入力された作動油の油圧を検出し、検出結果をECU2に入力する。ECU2は、油圧センサ76により検出された油圧と基準油圧との比較に基づき、油圧解放機構70の油圧系統に故障が生じているか否かを判定する。油路95から圧力解放弁340に入力される作動油の油圧と、油路97を介して圧力解放弁340から出力さる作動油の油圧は、実質的に同一の油圧である。この油圧は、レギュレータバルブ310から出力された作動油の油圧とも実質的に同一であり、図3Aにおいては、油圧PRとして表記している。
第1クラッチ・アクチュエータ71の故障検知には、回転センサ74およびストロークセンサ75を使用する。ECU2は、回転センサ74およびストロークセンサ75の検出結果より第1クラッチ・アクチュエータ71が正常に動作しているか否を判定する。第1クラッチ・アクチュエータ71が正常に動作している場合において、油圧センサ76(油圧検出部)の検出結果に基づいて、油圧解放機構70の異常が検出された場合、ECU2は、第1クラッチ5を遮断状態にするように第1クラッチ・アクチュエータ71を制御する。
油圧センサ76により検出された油圧が基準油圧に到達している場合、ECU2は、油圧解放機構70における油圧系統は正常に動作していると判定する。油圧系統が正常に動作している場合、ECU2は、ソレノイド弁320の状態をセット状態(OFF状態)とするように制御する。すなわち、ソレノイド弁320は油路94からの作動油の出力を遮断する。図3Aは、ソレノイド弁320がセット状態(OFF状態)である場合の油圧解放機構70の状態を例示する図である。図3Aに示すそれぞれの油路において、ハッチングを付して示した部分は作動油の流れを示している。回転センサ74およびストロークセンサ75および油圧センサ76が、全て正常な状態を検出する場合、油圧解放機構70は、クラッチ圧の解放を行わず、ECU2は、第1クラッチ・アクチュエータ71が正常な状態と判断して、第1クラッチ・アクチュエータ71を制御する。
一方、ECU2は、回転センサ74およびストロークセンサ75の検出結果より、第1クラッチ・アクチュエータ71が故障して第1クラッチ5を遮断できない状態(作動状態)である場合、ECU2は第1クラッチ・アクチュエータ71の電動機や油圧回路を構成する油圧アクチュエータの動作を停止するように制御を行うと共に、ECU2は、油圧解放機構70を制御して、第1クラッチ・アクチュエータ71から供給されている作動油の油圧(クラッチ圧)を解放させる。ECU2は、回転センサ74およびストロークセンサ75の検出結果より第1クラッチ・アクチュエータ71に故障が生じていると判定した場合、ECU2は、クラッチ圧を解放させるために、油圧解放機構70のソレノイド弁320の状態を作動状態(ON状態)とするように制御する。すなわち、ECU2は、ソレノイドへ通電するように制御して、ソレノイド弁320の状態をセット状態(OFF状態)から作動状態(ON状態)に切替える。図3Bは、ソレノイド弁320が作動状態(ON状態)である場合の油圧解放機構70の状態を例示する図である。図3Bに示す油路内において、ハッチングを付して示した部分は作動油の流れを示している。
ECU2の制御に基づいて、ソレノイドへの通電によりスプールバルブが開くと、ソレノイド弁320は油路93aから入力された作動油を出力用の油路94から出力する。本実施形態では、ソレノイド弁320に入力される作動油の油圧をPRとする。ソレノイド弁320に入力される作動油の油圧と、ソレノイド弁320から出力される作動油の油圧を明示的に区別するため、ソレノイド弁320から出力される作動油の圧力をソレノイド圧SAとして表記する。ソレノイド圧SAは油圧PRと実質的に同一の油圧である。
(油路切替弁330)
油路切替弁330は、ソレノイド弁320の動作状態および弁体331に作用する弾性部材332の付勢力に基づいて弁体331を移動させることにより、入力側の油路93と、出力側の第1の油路95および出力側の第2の油路96のいずれか一方の油路と、の連通状態を切り替える。
油路切替弁330の弁体331は、弾性部材(バネ)332の付勢力により、紙面の右側から左側に向けて付勢されている。ソレノイド弁320がセット状態である場合、油路94から作動油は油路切替弁330に入力されないので、弁体331に作用する付勢力は、弾性部材(バネ)332の付勢力のみである。一方、ソレノイド弁320が作動状態である場合、油路94から作動油が油路切替弁330に入力され、作動油の油圧(ソレノイド圧SA)が油路切替弁330の弁体331を付勢する。すなわち、ソレノイド弁320が作動状態(ON状態)のときに、油路94から入力される作動油の油圧(ソレノイド圧SA)により、弁体331は紙面の左側から右側に向けて付勢される。ソレノイド弁320のセット状態(OFF状態)または作動状態(ON状態)において、油路切替弁330は、弁体331に作用する付勢力に基づき弁体331の位置を移動させて、入力側の油路93と、複数の出力側の油路(出力側の第1の油路95および出力側の第2の油路96のいずれか一方の油路)と、の連通状態を切り替える。
ソレノイド弁320からソレノイド圧SAの作動油が油路94を介して油路切替弁330に入力されていない状態(セット状態)では、弾性部材(バネ)332の付勢力による弁体331の移動により、油路切替弁330の入力側の油路93と出力側の油路95(第1の油路)とが連通する(図3A)。この連通状態において、油路切替弁330は、油路93から入力された作動油を油路95(第1の油路)から出力する。ここで、油路95aは油路95から分岐した油路であり、油路切替弁330から作動油が出力されると、作動油は、油路95および分岐した油路95aを介して圧力解放弁340に入力される。
一方、ECU2の制御により、ソレノイド弁320の状態がセット状態から作動状態になると、ソレノイド圧SAの作動油が油路94を介して油路切替弁330に入力される(図3B)。ソレノイド圧SAによる付勢力が弾性部材(バネ)332による付勢力よりも大きくなると、弁体331は、ソレノイド圧SAに基づく付勢力と弾性部材(バネ)332に基づく付勢力との差分の付勢力に応じて、紙面の左側から右側に移動する。弁体331の移動により、ソレノイド弁320のセット状態で連通していた油路の接続関係は切替られ、油路切替弁330の入力側の油路93と出力側の油路96(第2の油路)とが連通する。この油路の連通状態において、油路切替弁330は、油路93から入力された作動油を油路96(第2の油路)から出力する。
(圧力解放弁340)
圧力解放弁340は、油路切替弁330から入力される作動油の油圧および弁体341に作用する弾性部材342の付勢力に基づいて弁体341を移動させることにより、油圧を解放する解放状態、または、油圧を解放しないシール状態に切り替える。解放状態では、圧力解放弁340は、油路91aを介して供給される作動油の油圧を解放し、シール状態では、圧力解放弁340は、油路91aを介して供給される作動油の油圧をシールするように動作する。
圧力解放弁340の弁体341は、弾性部材(バネ)342の付勢力により、紙面の右側から左側に向けて付勢されている。油路切替弁330の出力側の油路95から作動油が出力されると(図3A)、作動油は油路95および分岐した油路95aを介して圧力解放弁340に入力される。油路95aを介して入力された作動油の油圧PRは、圧力解放弁340の弁体341を、紙面の右側から左側に向けて付勢する。圧力解放弁340の弁体341が紙面の右側から左側に向けて付勢された状態で、圧力解放弁340の入力側の油路95と出力側の油路97とが連通する。この油路の連通状態において、圧力解放弁340は、油路95から入力された作動油を油路97から出力する。
圧力解放弁340の出力側の油路97には、油圧センサ76が接続されている。圧力解放弁340は、解放状態で出力側の油路97への作動油の出力を遮断し、シール状態で油路95(第1の油路)から入力された作動油を出力側の油路97へ出力する。油圧センサ76は、シール状態における作動油の油圧を検出する。シール状態において、圧力解放弁340の出力側の油路97から作動油が出力されると、作動油は油路97を介して油圧センサ76に入力される。油圧センサ76は、入力された作動油の油圧を検出し、検出結果をECU2に入力する。油圧センサ76の検出結果に基づいて、ECU2は、圧力解放機構70の油圧系統に故障が生じているか否かを判定する。例えば、シール状態において、油圧センサ76で検出される油圧が基準油圧に到達しない場合、ECU2は、圧力解放機構70の油圧系統に故障が生じていると判定する。
一方、油路切替弁330の出力側の油路96から作動油が出力されると(図3B)、作動油は油路96を介して圧力解放弁340に入力される。油路96を介して入力された作動油の油圧は、圧力解放弁340の弁体341を、紙面の左側から右側に向けて付勢する。油路96から作動油が圧力解放弁340に入力され、入力された作動油の油圧による付勢力が弾性部材(バネ)342による付勢力よりも大きくなると、圧力解放弁340の弁体341は、作動油の油圧PRに基づく付勢力と弾性部材(バネ)332に基づく付勢力との差分の付勢力に応じて、紙面の左側から右側に移動する。弁体341の移動により、圧力解放弁340の油路の接続関係は切替られ、圧力解放弁340の入力側の油路95と出力側の油路97とは遮断される。油圧を解放する解放状態では、出力側の油路97への作動油の出力は遮断されるため、油圧解放機構70の油圧系統が正常な動作状態である場合、油圧センサ76で検出される油圧はゼロとなる。油圧センサ76は、作動油の油圧がゼロになったことを検出し、検出結果をECU2に入力する。ECU2は、油圧センサ76の検出結果に基づき、ソレノイド弁320を作動状態に制御することにより、油路切替弁330および圧力解放弁340の油路の切替動作が正常に実行されたことを確認する。
(解放状態に制御する場合)
ECU2は、油圧を解放する解放状態に制御する場合、ソレノイド弁320を作動状態に制御する。油路切替弁330は、ソレノイド弁320から入力される作動油の油圧に基づいて、入力側の油路93と出力側の油路96(第2の油路)とを連通状態にする。そして、圧力解放弁340は、油路切替弁330の出力側の油路96(第2の油路)から入力される作動油の油圧に基づいて、弁体341を移動させることにより、油圧を解放する解放状態にする。
(シール状態に制御する場合)
ECU2は、油圧を解放しないシール状態に制御する場合、ソレノイド弁320をセット状態に制御する。油路切替弁330は、弁体331に作用する弾性部材332の付勢力に基づいて、入力側の油路93と出力側の油路95(第1の油路)とを連通状態にする。そして、圧力解放弁340は、油路切替弁330の出力側の油路95(第1の油路)を介して入力される作動油の油圧および弾性部材342の付勢力に基づいて、弁体341を移動させることにより、油圧を解放しないシール状態にする。
[油圧シール機構350]
油圧解放機構70は、第1クラッチ・アクチュエータ71から第1クラッチ5に供給される作動油の油圧(クラッチ圧PH)を、移動機構(圧力解放弁340)の移動に応じて、解放する解放状態、または、油圧を解放しないシール状態に切り替える油圧シール機構350を有する。
油圧シール機構350は、油圧系統に故障が生じていない場合、第1クラッチ・アクチュエータ71から油路91を介して第1クラッチ5に供給される、クラッチ圧PHの作動油が分岐油路91aから解放されないように封止(シール)する。また、クラッチ圧PHの作動油が第1クラッチ5に供給された状態で、第1クラッチ・アクチュエータ71または油圧系統に故障が生じた場合、油圧シール機構350は、分岐油路91aから筐体351の内部空間に進入したクラッチ圧PHの作動油を、外部空間と連通している開口部356を介して解放する。
図4Aおよび図4Bは、実施形態に係る油圧シール機構350の構成を説明する図である。図4Aは、油圧シール機構350が作動油の油圧を封止(シール)した状態を示す図であり、図4Bは、油圧シール機構350が作動油を解放した状態を示す図である。油圧シール機構350は、中空の筐体351と、筐体351の内周部に設けられたシール部材352と、筐体351内に配置され、シール部材352に沿って移動可能な金属球353と、筐体351の内部空間を移動機構(圧力解放弁340)により移動可能なピストン354を有する。中空の筐体351の側面には、筐体351の内部空間と筐体351の外部空間とを連通する開口部356が設けられている。図4Bに示すように、開口部356は、油路91aから筐体351の内部空間に進入した作動油を筐体351の外部空間に開放する作動油の通路として機能する。
油路91は、第1クラッチ5および第1クラッチ・アクチュエータ71を接続する油路であり、油路91aは油路91から分岐した油路である。中空の筐体351の紙面左側の端部を「一端側」とし、中空の筐体351の紙面右側の端部を「他端側」とする。中空の筐体351の一端側は、所定の圧力の作動油が入力される油路91aと接続し、他端側は移動機構(圧力解放弁340)と接続している。シール部材352は、筐体351の径方向におけるシール部材352の厚さが油路の開口部に向って徐々に厚くなるように形成されたテーパ面355を有する。
筐体351の他端側から一端側へのピストン354の移動により押圧された金属球353は、テーパ面355に密着することにより油路91aの開口部をシールする。一方、ピストン354が、筐体351の一端側から他端側へ移動することにより、ピストン354は、金属球353の押圧状態を解除し、油路91aの開口部を解放する。開口部356は、押圧状態の解除により、油路91aと連通する。
移動機構を構成する圧力解放弁340の弁体341の端部にピストン354が設けられており、弁体341の移動に応じてピストン354が移動するように構成されている。例えば、弁体341が紙面の右側から左側への付勢(筐体351の他端側から一端側への付勢)より移動すると、ピストン354も紙面の右側から左側(他端側から一端側)に移動する。圧力解放弁340の弁体341が紙面の右側から左側(他端側から一端側)に移動可能な前進限の位置(前進ストロークエンド)まで移動すると、図4Aに示すように、ピストン354は金属球353を押圧してシール部材352のテーパ面355に金属球353を密着させる。
図4Aにおいて、破線で示す金属球353は、圧力解放弁340の弁体341が紙面の左側から右側(筐体351の一端側から他端側)に移動可能な後退限の位置(後退ストロークエンド)まで移動した状態における金属球353の位置を例示するものである。破線の金属球353は、油路91aから筐体351の内部空間に進入した作動油の油圧(クラッチ圧:PH)により付勢され、ピストン354の後退限の位置(後退ストロークエンド)まで押し戻されている。
シール部材352は、例えば、ゴムなどの弾性部材により構成されている。圧力解放弁340の弁体341が前進ストロークエンドまで移動して、ピストン354の移動により金属球353がシール部材352のテーパ面355に押圧されると、テーパ面355は金属球353の表面形状に応じて変形し、シール部材352のテーパ面355と金属球353とは密着した状態になる。この状態で、テーパ面355および金属球353は、油路91aの開口部をシールする。
また、シール部材352には、油路91aの側面外周部をシールする側面シール部352aが形成されている。側面シール部352aは油路91aの側面外周部に密着するように形成されており、側面シール部352aは、油路91aの開口部において、テーパ面355および金属球353により封止(シール)された作動油が油路91aの側面外周部から漏れることを防止する。
また、シール部材352には、筐体351の軸方向Cに沿って筐体351の外部に張り出し、かつ、軸方向Cと交差する筐体351の径方向に沿って張り出した張出部352bが形成されている。張出部352bは、筐体351の軸方向Cにおいて側面シール部352aと同様に、油路91aの側面外周部に密着するように形成されており、テーパ面355および金属球353により封止(シール)された作動油が油路91aの側面外周部から漏れることを防止する。更に、張出部352bは、軸方向Cと交差する筐体351の径方向において、筐体351の一端側の開口径D1よりも大きい張出形状D2を有するように形成されている。シール部材352に対して、筐体351の一端側から他端側へ向けた荷重が作用する場合であっても、シール部材352は、筐体351の開口径D1よりも大きい張出形状D2を有するため、筐体351に対するシール部材352の位置は保持される。
更に、シール部材352の内周面には、内周面から筐体351の径方向の内側に向けて突出する凸部352cが形成されている。凸部352cは、油路96から入力された作動油が金属球353側に進入にしないように作動油の油圧をシールする。ピストン354が筐体351の内部空間に挿入された状態で、凸部352cは、ピストン354の外周部と密着するように形成されている。ピストン354が移動する際に、ピストン354の端面が凸部352cと接触することによる凸部352cの損傷を防止するために、ピストン354の端面には、テーパ359が形成されている。テーパ359は、筐体351の他端側から一端側へ向けた方向に沿って、ピストン354の直径が徐々に小さくなるように形成されている。ピストン354が筐体351の内部空間に挿入された状態で、凸部352cは、ピストン354の外周部と密着することにより作動油をシールする。ピストン354の移動状態、ピストン354が前進ストロークエンドまで移動した状態(図4A)およびピストン354が後退ストロークエンドまで移動した状態(図4B)のいずれの状態においても、凸部352cは、ピストン354の外周部と密着した状態を維持し、作動油を封止(シール)することが可能である。シール部材352は、テーパ面355、側面シール部352a、張出部352bおよび凸部352cが一体形成された構造を有する。
ピストン354が、例えば、前進ストロークエンドから後退ストロークエンド(筐体351の一端側から他端側)へ移動する場合、ピストン354の外周部と接触する凸部352cを介して、シール部材352には、筐体351の一端側から他端側へ向けた荷重が作用する。この荷重は筐体351の内部でシール部材352の位置をずらすように作用するが、シール部材352の張出部352bは、筐体351の一端側の開口径D1よりも大きい張出形状D2を有しているので、筐体351に対するシール部材352の位置は保持される。
金属球353は、例えば、ベアリングの転動体に用いられる、スチール球やステンレス球を用いることができ、ベアリングの転動体と同等の加工精度(真球度、表面粗さ)を有するように金属球353は加工されている。
金属球353に作用する油圧(荷重)に着目すると、油路91aの断面積をA1とし、油路91aを介して供給される作動油の油圧(クラッチ圧:PH)とすると、概略的な荷重として、荷重F1(=A1×PH)が金属球353に作用する。
一方、弁体341に作用する弾性部材342の付勢力をKとし、圧力解放弁340の弁体341の受圧部349の受圧面積をA2とし、油路95aから圧力解放弁340に入力される作動油の油圧をPRとすると、概略的な荷重として、荷重F2(=A2×PR+K)が、ピストン354を介して、金属球353に作用する。荷重F2は荷重F1に対向する方向から金属球353に作用する。圧力解放弁340の弁体341が紙面の左側の前進ストロークエンドまで移動した状態で、テーパ面355に密着した金属球353により、油路91aから筐体351に進入しようとする作動油の油圧(クラッチ圧PH)を確実にシールできるように、荷重F1とF2の関係は、F2>F1という大小関係を有する。
油路91aを介して供給される作動油の油圧(クラッチ圧:PH)は、第1クラッチ5のインナクラッチ板5bをアウタクラッチ板5a側に駆動するように供給される既知の圧力であり、油路95aから入力される作動油の油圧PRは、レギュレータバルブ910により調整された既知の圧力である。また、弁体341の受圧部349の受圧面積A2は、圧力解放弁340の作動応答性を考慮して決定することができる。また、弾性部材342の付勢力Kは、既知のバネ定数に基づいて取得可能である。弾性部材342の付勢力K、油圧(PHおよびPR)および弁体341の受圧面積A2を決定すれば、金属球353に作用する荷重の大小関係(F2>F1)を満たすように、油路91aの断面積A1(油路91aの径Φ1)を設定することができる。これにより、作動応答性に優れ、かつ、確実に油圧をシールすることが可能な油圧シール機構を実現することができる。
図4Bにおいて、弁体341の受圧部S1および受圧部S2の受圧面積をA3とする。油路96から圧力解放弁340に入力される作動油の油圧をPRとすると、概略的な荷重として、荷重F3(=A3×PR)が弁体341を紙面の左側から右側に付勢する。弾性部材342の付勢力Kは、荷重F3に対して対向する方向に作用しており、差分の付勢力(F3−K)に応じて、圧力解放弁340の弁体341は紙面の左側から右側に移動し、弁体341の移動に応じてピストン341も紙面の左側から右側に移動する。
図4Bにおいて、実線で示す金属球353は、圧力解放弁340の弁体341が紙面の左側から右側に移動可能な後退限の位置(後退ストロークエンド)まで移動した状態における金属球353の位置を例示するものである。破線で示す金属球353は、圧力解放弁340の弁体341が前進ストロークエンドまで移動した状態における金属球353の位置を例示するものである。
図4Bに示す状態では、金属球353には、図4Aに示したような荷重F2は作用せず、金属球353は、油路91aから進入した作動油の油圧(クラッチ圧:PH)により付勢される。また、圧力解放弁340の弁体341は、図4Bに示すような差分の付勢力(F3−K)が作用することにより、紙面の左側から右側に移動する。ピストン341は、弁体341の移動に応じて紙面の左側から右側に移動し、ピストン354の後退限の位置(後退ストロークエンド)まで押し戻される。油路91aから筐体351の内部空間に進入した作動油400は、開口部356を介して筐体351の外部空間に開放される。凸部352cは、油路96から入力された作動油が金属球353側に進入にしないようにシールし、かつ、油路91aから筐体351の内部空間に進入した作動油400が圧力解放弁340の弁体341側に進入しないようにシールすることが可能である。
(故障監視制御)
ECU2は、所定の時間間隔において、第1クラッチ・アクチュエータ71(第1HCA)および第2クラッチ・アクチュエータ72(第2HCA)の動作判定を同じタイミングで行うのではなく、交互に行うものとする。
ECU2は、第2クラッチ6が作動した接続状態であり、かつ、第1クラッチ5が作動していない遮断状態で、検出部(回転センサ74およびストロークセンサ75)の検出結果に基づき第1クラッチ・アクチュエータ71(第1供給部)の異常の有無を判定し、ECU2は、検出結果に基づき第1クラッチ・アクチュエータ71(第1供給部)の異常が検出された場合、油圧解放機構70を制御して、油圧を解放させる。
また、ECU22は、検出部(回転センサ74およびストロークセンサ75)の検出結果に基づき第1クラッチ・アクチュエータ71(第1供給部)に異常が無いと判定した場合、更に、ECU22は、油圧センサ76の検出結果に基づき、油圧解放機構70の異常の有無を判定する。ECU2は、検出結果に基づいて油圧解放機構70の異常が検出された場合、第1クラッチ・アクチュエータ71を制御して、第1クラッチ5を作動させないように制御する。
例えば、第1クラッチ・アクチュエータ71(第1HCA)が動作中で、第2クラッチ・アクチュエータ72(第2HCA)が動作していない変速段が選択されている場合、ECU2は、動作していない第2クラッチ・アクチュエータ72(第2HCA)について、回転センサ74およびストロークセンサ75の検出結果に基づく動作確認を行う。
また、第2クラッチ・アクチュエータ72(第2HCA)が動作中で、第1クラッチ・アクチュエータ71(第1HCA)が動作していない変速段が選択されている場合、ECU2は、動作していない第1クラッチ・アクチュエータ71(第1HCA)について、回転センサ74およびストロークセンサ75の検出結果に基づく動作確認を行う(第1の動作確認)。回転センサ74およびストロークセンサ75の検出結果より、第1クラッチ・アクチュエータ71が故障して第1クラッチ5を遮断できない状態である場合、ECU2は、油圧解放機構70を制御して、第1クラッチ・アクチュエータ71から供給されている作動油の油圧(クラッチ圧)を解放させる。最低変速段(1速駆動ギヤ13)と接続する第1クラッチ・アクチュエータ71(第1HCA)については、更に、ECU2は、油圧センサ76の検出結果に基づく動作確認を行う(第2の動作確認)。回転センサ74およびストロークセンサ75の検出結果より第1クラッチ・アクチュエータ71が正常に動作している場合において、油圧センサ76の検出結果に基づいて、油圧解放機構70の異常が検出された場合、ECU2は、第1クラッチ・アクチュエータ71を制御して、第1クラッチ5を作動させないように制御する。すなわち、ECU2は、油圧センサ76の検出結果に基づいて油圧解放機構70の異常が検出された場合、第1クラッチ5を遮断状態にするように第1クラッチ・アクチュエータ71を制御する。
[実施形態のまとめ]
構成1.本実施形態の油圧シール機構は、以下の構成を備える。すなわち、油圧シール機構は、中空の筐体(351)と、
前記筐体(351)の内周部に設けられたシール部材(352)と、
前記筐体(351)の内部に配置され、前記シール部材(352)に沿って移動可能な金属球(353)と、
前記筐体(351)の内部空間を、移動機構(340、341)により移動可能なピストン(354)と、を備え、
前記筐体(351)の一端側は、所定の圧力の作動油が入力される油路(91a)と接続し、他端側は前記移動機構(340、341)と接続しており、
前記シール部材(352)は、前記筐体(351)の径方向における前記シール部材(352)の厚さが前記油路の開口部に向って徐々に厚くなるように形成されたテーパ面(355)を有し、
前記他端側から前記一端側への前記ピストン(354)の移動により押圧された前記金属球(353)は、前記テーパ面(355)に密着することにより前記油路(91a)の開口部をシールすることを特徴とする。
構成2.油圧シール機構において、前記ピストン(354)が前記一端側から前記他端側へ移動することにより、前記ピストン(354)は、前記金属球(353)の押圧状態を解除し、前記油路(91a)の開口部を解放することを特徴とする。
構成3.油圧シール機構において、前記筐体(351)の側面には、前記筐体(351)の内部空間と前記筐体(351)の外部空間とを連通する開口部(356)が設けられており、
前記開口部(356)は、前記押圧状態の解除により、前記油路(91a)と連通することを特徴とする。
構成4.油圧シール機構において、前記シール部材(352)には、前記油路(91a)の側面外周部に密着するように形成され側面シール部(352a)が形成されていることを特徴とする。
構成5.油圧シール機構において、前記シール部材(352)には、前記筐体(351)の軸方向(C)に沿って前記筐体(351)の外部に張り出し、かつ、前記軸方向(C)と交差する前記筐体(351)の径方向に沿って張り出した張出部(352b)が形成されていることを特徴とする。
構成6.油圧シール機構において、前記張出部(352b)は、
前記油路(91a)の側面外周部に密着するように構成されており、前記筐体(351)の径方向において、前記筐体(351)の前記一端側の開口径(D1)よりも大きい張出形状(D2)を有する。
構成7.油圧シール機構において、前記シール部材(352)の内周面には、前記内周面から前記筐体(351)の径方向の内側に向けて突出する凸部(352c)が形成されており、
前記ピストン(354)が前記筐体(351)の内部空間に挿入された状態で、前記凸部(352c)は、前記ピストン(354)の外周部と密着するように形成されていることを特徴とする。
構成8.油圧シール機構において、前記側面シール部(352a)、前記張出部(352b)および前記凸部(352c)は、前記シール部材(352)に一体形成されていることを特徴とする。
上記の構成1乃至構成8によれば、クラッチに供給する作動油の油圧をシールすることが可能な油圧シール機構を提供することが可能になる。