以下では、本実施形態に係るスラスト軸受100について説明する。
まず、図1及び図2を用いて、本実施形態に係るスラスト軸受100が適用されるターボチャージャ1の構成について説明する。なお、スラスト軸受100の適用対象は、本実施形態のようなターボチャージャ1(排気タービン式の過給機)に限定されるものでなく、例えば、機械式の過給機等であっても構わない。
以下では、図中に示した矢印にしたがって、上下方向、左右方向、及び前後方向を定義する。
図1に示すように、ターボチャージャ1は、シャフト10、タービン20、コンプレッサ30、軸受ハウジング40等を具備する。
シャフト10は、前後方向を軸方向として、前後中途部が軸受ハウジング40内に支持される。シャフト10は、スラストカラー12を備える。
スラストカラー12は、シャフト10の前後中途部に配置される。スラストカラー12は、第一カラー12a及び第二カラー12bを有する。
図2に示すように、第一カラー12a及び第二カラー12bは、前後方向を軸方向とする円筒部の前端部に、径方向外側に伸びるような形状の大径部が形成されることで構成される。第一カラー12aは、シャフト10に固定され、シャフト10と一体的に回転する。第二カラー12bは、後端部が第一カラー12aの前端部と接触した状態でシャフト10に固定され、シャフト10と一体的に回転する。
なお、スラストカラーの構成は、本実施形態に限定されるものでなく、例えば、一つのカラーから構成されていてもよい。
図1に示すように、タービン20は、ターボチャージャ1の前側に配置される。タービン20は、タービンハウジング22及びタービンホイール24等を備える。
タービンハウジング22は、軸受ハウジング40の前端部に固定される。タービンハウジング22の内側は、タービンホイール24を覆うような形状に形成される。タービンホイール24は、シャフト10の前端部に固定され、シャフト10に相対回転不能に支持される。タービンホイール24は、タービンハウジング22の内側に配置される。
コンプレッサ30は、ターボチャージャ1の後側に配置される。コンプレッサ30は、コンプレッサハウジング32及びコンプレッサホイール34等を備える。
コンプレッサハウジング32は、軸受ハウジング40の後端部に固定される。コンプレッサハウジング32の内側は、コンプレッサホイール34を覆うような形状に形成される。コンプレッサホイール34は、シャフト10の後端部に固定され、シャフト10に相対回転不能に支持される。コンプレッサホイール34は、コンプレッサハウジング32の内側に配置される。
軸受ハウジング40は、シャフト10を回転可能に支持するものである。軸受ハウジング40は、タービン20とコンプレッサ30との間に配置され、タービン20及びコンプレッサ30と前後方向に隣接する。軸受ハウジング40には、すべり軸受部42、スラスト軸受部44、第一給油油路46、及び第二給油油路48等が形成される。
すべり軸受部42は、軸受ハウジング40を前後方向に貫通する正面視略円状の孔である。すべり軸受部42には、シャフト10を滑らかに回転させるためのすべり軸受42aが配置される。すべり軸受42aは、シャフト10の前後中途部を支持する。
スラスト軸受部44は、軸受ハウジング40の後側面に形成される正面視略円状の窪みである。スラスト軸受部44には、スラスト軸受100が設けられる。なお、スラスト軸受100の構成については、後述する。
第一給油油路46は、すべり軸受部42及びスラスト軸受部44に潤滑油を供給(給油)するための孔である。第一給油油路46は、軸受ハウジング40の前後中途部における上側面に形成された開口部から下方へ向けて伸び、その下端部がすべり軸受部42に形成された開口部に接続される。すべり軸受部42には、このような第一給油油路46を通って潤滑油が供給される。
第二給油油路48は、スラスト軸受部44に潤滑油を供給(給油)するための孔である。第二給油油路48は、第一給油油路46の上下中途部より分岐して後方へ向けて伸び、その後端部がスラスト軸受部44に形成された開口部に接続される。スラスト軸受部44には、第一給油油路46及び第二給油油路48を通って潤滑油が供給される。
潤滑油は、例えば、エンジンのオイルパンに貯溜され、オイルポンプによって第一給油油路46まで圧送される。第一給油油路46まで圧送された潤滑油は、第一給油油路46を通ってすべり軸受部42に供給されると共に、第二給油油路48を通ってスラスト軸受部44に供給される。
ターボチャージャ1は、タービンハウジング22に供給されるエンジンの排気ガスによってタービンホイール24を回転させ、当該タービンホイール24の回転によってシャフト10を回転させる。これにより、ターボチャージャ1は、シャフト10を介してコンプレッサホイール34を回転させ、圧縮された空気をエンジンのシリンダへと供給する。
本実施形態に係るスラスト軸受100は、このようなターボチャージャ1の駆動時にシャフト10に作用するスラスト荷重(スラスト方向である前後方向の荷重)を受けるためのものである。
次に、スラスト軸受100の構成について説明する。
図2及び図3に示すように、スラスト軸受100は、第一カラー12aの大径部と第二カラー12bの大径部との間にそれぞれ隙間を空けて配置される正面視略円環状の部材である。スラスト軸受100は、本体部110及び摺動部120を備える。
本体部110は、略円環状の部材の下側を切り欠いたような形状に形成される。本体部110は、その板面を前後方向へ向けて配置される。つまり、本実施形態においては、本体部110の前側面及び後側面が本体部110のスラスト方向外側面となる。本体部110は、比較的安価な材料である鉄系材料により構成される。本体部110には、貫通孔112、ピン孔114、段差溝116、及びかしめ部118が形成される。
図3及び図4に示すように、貫通孔112は、正面視略真円状に形成され、本体部110を前後方向に貫通する孔である。貫通孔112は、本体部110の略中央部に配置される。貫通孔112には、突出部112aが形成される。
突出部112aは、貫通孔112の後端部に形成される。突出部112aは、径方向内側に突出するように形成される。突出部112aの前側面は、後述する摺動部120の後側段差溝128の底面(前方を向いた側面)と接触する接触面112bとして形成される(図2参照)。
ピン孔114は、正面視略真円状に形成され、本体部110を前後方向に貫通する孔である。ピン孔114は、本体部110の右上部に配置される。
段差溝116は、貫通孔112の前端部に貫通孔112と連続するように形成される正面視略円状の窪みである。段差溝116は、本体部110の前側面における内周縁部(貫通孔112の周囲)を切り欠いて、貫通孔112の前端部を拡径させることで形成される。
つまり、本体部110の内周面は、前側から後側に向かうにつれて段階的に内径が小さくなる(より詳細には、内周面の前端部が大径部、前後中途部が中径部、後端部が小径部となる)ような形状に形成される。
図2に示すように、かしめ部118は、段差溝116の底面(前方を向いた側面)の一部をかしめることによって形成される部位である。かしめ部118は、段差溝116から径方向内側に突出する。本実施形態に係るかしめ部118は、周方向に適宜の間隔を空けて四つ形成される(図7参照)。
かしめ部118は、本体部110に摺動部120が取り付けられるときに形成されるものである。このため、取付前の状態を示す図3及び図4においては、かしめ部118は記載されていない。
なお、本体部の形状は、本実施形態のような略円環状の部材の下側を切り欠いたような形状に限定されるものでなく、例えば、外縁部の形状が正面視略矩形状や略円環状等であっても構わない。
図3に示すように、摺動部120は、正面視略円環状に形成され、その板面を前後方向へ向けて配置される。つまり、本実施形態においては、摺動部120の前側面及び後側面が摺動部120のスラスト方向外側面となる。摺動部120の前後方向の長さ(厚み)は、本体部110の前後方向の長さと略同一となる。摺動部120は、本体部110を構成する鉄系材料と比較して、優れた耐焼き付き性や耐摩耗性を有する摺動材料により構成される。本実施形態に係る摺動部120は、摺動材料としての銅系材料により構成される。摺動部120には、挿通孔122、テーパ部124、前側段差溝126、及び後側段差溝128が形成される。
図2及び図5に示すように、挿通孔122は、正面視略真円状に形成され、摺動部120を前後方向に貫通する孔である。挿通孔122は、摺動部120の略中心部に形成される。挿通孔122には、第二カラー12bの後部(円筒部)が径方向に沿って隙間を空けた状態で嵌め込まれる。
テーパ部124は、摺動部120の前側面及び後側面に形成される。テーパ部124は、周方向に緩やかに傾斜する部位である。テーパ部124は、周方向に適宜の間隔を空けて(テーパ部124よりも周方向に沿った長さが短い平らなランド部を挟んで)複数形成される。本実施形態では、テーパ部124は、摺動部120の前側面及び後側面にそれぞれ四つ形成される。
前側段差溝126は、摺動部120の前側面における外周縁部に形成される窪みである。前側段差溝126は、摺動部120の外周縁部が全周にわたって切り欠かれたような形状に形成される。摺動部120が本体部110に取り付けられる前の状態において、前側段差溝126の前後方向の長さ(深さ)は、本体部110の段差溝116よりも長い(図6(b)参照)。
後側段差溝128は、摺動部120の後端部における外周縁部に形成される窪みである。後側段差溝128は、摺動部120の外周縁部が全周にわたって切り欠かれたような形状に形成される。
つまり、摺動部120は、外周面の前後中途部が前後両端部よりも大径に形成される略筒状に形成される。
摺動部120の外径(前側段差溝126と後側段差溝128との間の部分における外径)は、貫通孔112の内径(突出部112aと段差溝116との間の部分における内径)よりも僅かに大きい。また、摺動部120の後側段差溝128の外径は、貫通孔112の突出部112aの内径よりも僅かに小さい。
このように構成される摺動部120は、本体部110の貫通孔112に取り付けられる。このような摺動部120の前側面及び後側面は、スラスト軸受100がスラスト軸受部44に設けられたときに、スラストカラー12の第一カラー12aの大径部の後側面及び第二カラー12bの大径部の前側面と対向する。一方、本体部110の前側面及び後側面は、第一カラー12aの後側面及び第二カラー12bの前側面と対向しない。
なお、摺動部の形状は、本実施形態に限定されるものでなく、例えば、外縁部の形状が正面視略矩形状であっても構わない。この場合、本体部の貫通孔は、正面視略矩形状となる。
このようなスラスト軸受100には、油路100aが形成される。油路100aは、概ね上下方向に伸び、本体部110及び摺動部120を跨ぐように形成される。具体的には、油路100aは、本体部110の左右中央部における上部に形成された開口部から後方へ向けて伸びると共に、その後部が下方に向けて伸び、挿通孔122に形成された開口部に接続される。こうして、スラスト軸受100においては、本体部110の上部に形成された開口部と、摺動部120の挿通孔122に形成された開口部とが、油路100aを介して連通される。
図1及び図2に示すように、スラスト軸受100は、第二給油油路48と油路100aとが連通するように軸受ハウジング40に対して位相を合わせた状態で、ピン孔114にピンが取り付けられることで位置が決められて回り止めされる。
これにより、スラスト軸受100の摺動部120の前側面及び後側面には、第二給油油路48からの潤滑油が油路100aを通って供給される。
次に、スラスト軸受100の本体部110に摺動部120を取り付ける手順について説明する。
図6(a)に示すように、摺動部120は、本体部110の貫通孔112に前側から圧入される(図6(a)に示す矢印参照)。前述したように、摺動部120の外径は、貫通孔112の内径よりも僅かに大きく形成されている。また、後側段差溝128の外径は、突出部112aの内径よりも僅かに小さく形成されている。
こうして、摺動部120が本体部110の貫通孔112に圧入されると、摺動部120の外周面と本体部110の貫通孔112の内周面とが略隙間無く密着する。また、後側段差溝128の底面(後方を向いた面)と突出部112aの接触面112b(前側面)とは、略隙間無く密着する。
これにより、図6(b)に示すように、スラスト軸受100は、後側面が面一であるとともに、前側面が段差溝116及び前側段差溝126を除いて面一である略平板状に形成される。このとき、本体部110の段差溝116は、底面(前方を向いた側面)が摺動部120の前側段差溝126の底面(前方を向いた側面)よりも前側に突出した状態となる。つまり、本体部110の段差溝116は、摺動部120の内周縁部(前側段差溝126)に対して前側に配置される。
摺動部120が本体部110の貫通孔112に圧入された後で、本体部110の段差溝116は、周方向に適宜の間隔を空けて四箇所がかしめ治具等によってかしめられる(図6(b)に示す矢印参照)。これにより、本体部110の段差溝116の底面の材料は、径方向内側、すなわち、摺動部120の前側段差溝126に向かって材料流動する。
こうして、図6(c)及び図7に示すように、本体部110には、摺動部120の前側段差溝126と接触するかしめ部118が形成される。
スラスト軸受100は、かしめ部118によって摺動部120の本体部110に対する前方向(スラスト方向の一方向)への移動及び回転方向への移動を規制している。また、スラスト軸受100は、圧入時に後側段差溝128の底面と接触する突出部112aの接触面112bによって、摺動部120の本体部110に対する後方向(スラスト方向の他方向)への移動を規制している。つまり、スラスト軸受100は、本体部110をかしめることなく摺動部120の後方向への移動を規制している。
本体部110は、このようにして摺動部120を前後方向に移動不能に保持するとともに、摺動部120を回転不能に保持する。
本実施形態に係るスラスト軸受100は、本体部110の段差溝116がかしめられた後で、本体部110及び摺動部120の表面(前側面及び後側面、すなわち、スラスト方向外側面)が削られて仕上げられる(図6(c)に二点鎖線で示す仕上げ前の本体部110及び摺動部120の表面参照)。
ターボチャージャ1には、このようなスラスト軸受100が軸受ハウジング40に取り付けられる。
次に、ターボチャージャ1が駆動するとき、すなわち、シャフト10が回転するときのスラスト軸受100の機能について説明する。
図1及び図2に示すように、ターボチャージャ1が駆動するとき、スラスト軸受100の摺動部120の前側面及び後側面には、油路100aより潤滑油が供給される。すなわち、スラストカラー12とスラスト軸受100との隙間には、油路100aより潤滑油が供給される。
つまり、スラストカラー12とスラスト軸受100との隙間には、スラスト軸受100の油路100aより供給される潤滑油によって、油膜が形成される。
ここで、スラストカラー12は、シャフト10の回転によってシャフト10と一体的に回転する。このとき、スラストカラー12は、スラスト軸受100との隙間に形成される油膜によって、スラスト軸受100に対して浮いた状態となる。こうして、スラストカラー12は、前記浮いた状態のスラスト軸受100に対して相対的に回転する。
したがって、スラストカラー12は、スラスト軸受100との隙間に形成される油膜(潤滑油)を介して、スラスト軸受100の摺動部120に対して摺動する。
スラスト軸受100の摺動部120の前側面及び後側面には、テーパ部124が形成されている。したがって、スラストカラー12がスラスト軸受100に対して相対的に回転するとき、スラストカラー12とスラスト軸受100との間には、油膜圧力が発生する。
スラスト軸受100の摺動部120の前側面及び後側面は、このようなスラストカラー12の回転時に発生する油膜圧力によって、前方向及び後方向のスラスト荷重を受ける。
このように、スラスト軸受100は、スラストカラー12に対して摺動する部分である摺動部120を、摺動部材によって形成すると共に、スラストカラー12に対して摺動しない部分である本体部110を、摺動部材とは異なる安価な材料で形成している。
これにより、スラスト軸受100は、耐焼き付き性や耐摩耗性が求められる部分だけに(つまり、無駄なく)高価な摺動材料を用いることができる。このため、スラスト軸受100は、摺動面における耐焼き付き性や耐摩耗性を確保できると共に製造コストを抑えることができる。
ここで、ターボチャージャ1は、駆動時に排気ガス等の影響で高温となる。したがって、スラスト軸受100は、ターボチャージャ1の駆動時に高温となる。
本実施形態に係るスラスト軸受100は、本体部110と摺動部120とを異なる材料によって形成している。したがって、本体部110と摺動部120とは、互いに線膨張率(熱膨張率)が異なる。
例えば、摺動部120の線膨張率が本体部110の線膨張率よりも高い場合、摺動部120は、ターボチャージャ1の駆動時に本体部110よりも膨張し(貫通孔112よりも拡径し)、本体部110を押圧することとなる。前記押圧は、ターボチャージャ1の停止後に、膨張した本体部110及び摺動部120が収縮することで解除される。
このような膨張と収縮とを繰り返すことにより、本体部110及び摺動部120は、熱疲労によって塑性変形してしまい(本体部110が拡径したり摺動部120が縮径してしまい)、その結果、圧入による保持力が小さくなってしまう。
一方、摺動部120の線膨張率が本体部110の線膨張率よりも低い場合、本体部110は、ターボチャージャ1の駆動時に摺動部120よりも膨張(貫通孔112が摺動部120よりも拡径)してしまう。この場合には、圧入による締め代、すなわち、圧入による保持力が小さくなってしまう。
以上のように、線膨張率が異なる二つの部材(本体部110及び摺動部120)でスラスト軸受100を構成した場合、温度変化が激しい環境等で用いられたときに、本体部110と摺動部120との線膨張率の違いに起因して、圧入による保持力が小さくなってしまう。
そこで、本実施形態に係るスラスト軸受100は、本体部110に摺動部120を圧入するだけでなく、本体部110の段差溝116をかしめることで、摺動部120の本体部110に対する前方向への移動及び回転方向への移動を規制している。
また、スラスト軸受100は、突出部112aの接触面112bに後側段差溝128を接触させることにより、摺動部120の本体部110に対する後方向への移動を規制している。
これによれば、スラスト軸受100は、圧入による保持力、かしめ部118、及び突出部112aによって、摺動部120を本体部110に前後方向及び回転方向に移動不能に固定できる。したがって、スラスト軸受100は、圧入による保持力が小さくなった場合でも、摺動部120を確実に保持できる。
なお、本発明に係るスラスト軸受は、第一部材(摺動部)をかしめても構わない。この場合、スラスト軸受は、例えば、図8に示す第一変形例に係るスラスト軸受200のように構成される。第一変形例に係るスラスト軸受200は、本実施形態に係る本体部110の内周縁部の形状と摺動部120の外周縁部の形状とを入れ替えたような形状に形成される。
具体的には、第一変形例に係る本体部210には、本実施形態に係る摺動部120の前側段差溝126と同一の深さ及び幅(径方向の長さ)を有する段差溝216と、本実施形態に係る摺動部120の後側段差溝128と同一の深さ及び幅を有する後側段差溝218とが形成される。
第一変形例に係る摺動部220には、本実施形態に係る本体部110の段差溝116と同一の深さ及び幅を有する前側段差溝226と、本実施形態に係る本体部110の突出部112aと同一形状に形成される突出部228とが形成される。
第一変形例に係るスラスト軸受200は、摺動部220の前側段差溝226がかしめられることで、摺動部220の後方向への移動及び回転方向への移動を規制するかしめ部230が形成される。この場合、第一変形例に係るスラスト軸受200は、本体部210の後側段差溝218が摺動部220の突出部228と接触することで、摺動部220の前方向への移動を規制する。
このような第一変形例においては、スラスト方向の一方向は後方向となる。
このように、保持する側(本体部110)に形成されるかしめ部118と、保持される側(摺動部220)に形成されるかしめ部230とは、同じ側面に形成された場合に、摺動部120・220の移動を規制する方向が互いに反対となる。
そこで、本発明に係るスラスト軸受は、保持する側(本体部)の一側面にかしめ部を形成するとともに、保持される側(摺動部)の他側面にかしめ部を形成することで、両かしめ部によって摺動部の同一方向の移動を規制しても構わない。この場合、スラスト軸受には、摺動部と本体部とにかしめ部が形成されることとなる。
このようなスラスト軸受の構成としては、例えば、前側面に本実施形態に係るかしめ部118を形成すると共に、後側面に第一変形例に係るかしめ部230を形成することで、摺動部の前方向への移動を規制するような構成が考えられる。
このように、スラスト軸受100・200は、摺動材料によって形成されると共にシャフト10に固定されたスラストカラー12に対向して配置され、スラストカラー12に対して摺動する摺動部120・220(第一部材)と、摺動材料とは異なる材料によって形成されると共に貫通孔112・212が形成され、当該貫通孔112・212に摺動部120・220が取り付けられる本体部110・210(第二部材)とを具備する。
また、摺動部120・220の外縁部と本体部110・210の内縁部との少なくともいずれか一方には、摺動部120・220の本体部110・210に対する移動を規制するかしめ部118・230が形成される。
このような構成により、摺動部120・220を確実に保持できる。
なお、本実施形態における銅系材料は、本発明に係る「摺動材料」の一実施形態である。本発明に係る「摺動材料」は、銅系材料に限定するものではなく、比較的優れた耐焼き付き性や耐摩耗性を有する材料であればよい。
また、本実施形態に係る鉄系材料は、本発明に係る「前記摺動材料とは異なる材料」の一実施形態である。本発明に係る「前記摺動材料とは異なる材料」とは、鉄系材料に限定するものではなく、比較的優れた耐焼き付き性や耐摩耗性を有していなくても、比較的安価な材料であることが望ましい。
本発明に係るスラスト軸受は、本実施形態に係る段差溝116及び第一変形例に係る前側段差溝226を形成せずに、本体部または摺動部の側面をかしめても構わない。この場合、スラスト軸受は、例えば、図9に示す第二変形例に係るスラスト軸受300または図10に示す第三変形例に係るスラスト軸受400のように構成される。
図9に示すように、第二変形例に係るスラスト軸受300の本体部310は、前側面が面一となる(本実施形態に係る段差溝116が形成されない)点を除いて、本実施形態に係る本体部110と同一形状に形成される。第二変形例に係る摺動部320は、前側段差溝326が本実施形態に係る前側段差溝126よりも前側に配置される点を除いて、本実施形態に係る摺動部120と同一形状に形成される。
第二変形例に係るスラスト軸受300は、本体部310の内周縁部がかしめられることで、摺動部320の前方向への移動及び回転方向への移動を規制するかしめ部318が形成される。
図10に示すように、第三変形例に係るスラスト軸受400の本体部410は、段差溝416が第一変形例に係る段差溝216よりも前側に配置される点を除いて、第一変形例に係る本体部210と同一形状に形成される。第三変形例に係る摺動部420は、前側面が面一となる(第一変形例に係る前側段差溝226が形成されない)点を除いて第一変形例に係る摺動部220と同一形状に形成される。
第三変形例に係るスラスト軸受400は、摺動部420の外周縁部がかしめられることで、摺動部320の後方向への移動及び回転方向への移動を規制するかしめ部430が形成される。
このように、スラスト軸受100・200・300・400は、かしめ部118・230・318・430が接触する部分に、前側段差溝126・326及び段差溝216・416を形成することで、一段低い位置に向けて本体部110・310及び摺動部220・420の材料を材料流動させることができる。
これによれば、スラスト軸受100・200・300・400は、本体部110・310及び摺動部220・420の材料を、摺動部120・320及び本体部210・410に向けてスムーズに材料流動させることができる。
このように、かしめ部118・230・318・430は、摺動部120・320の外縁部及び本体部210・410の内縁部(第一部材の外縁部と第二部材の内縁部との他方)に対して、前後方向における外側(スラスト方向外側)に配置される部分がかしめられて形成される。
このような構成により、摺動部120の外縁部と本体部110の内縁部とが平らな部分をかしめた場合等と比較して、摺動部120をより確実に保持できる。
前述したように、本実施形態に係るスラスト軸受100は、本体部110に段差溝116を形成すると共に摺動部120に前側段差溝126を形成し、段差溝116をかしめることでかしめ部118を形成している。また、第一変形例に係るスラスト軸受200は、本体部210に段差溝216を形成すると共に摺動部220に前側段差溝226を形成し、前側段差溝226をかしめることでかしめ部230を形成している。
これによれば、スラスト軸受100・200は、前側面よりも一段低い(スラスト方向内側の)部分をかしめることができるため、かしめ部118・230が形成された後で表面が削られる場合でも、かしめ部118・230が削られてしまうことを確実に防止できる(図6(c)及び図8(c)に二点鎖線で示す仕上げ前の本体部110・210及び摺動部120・220の表面参照)。また、スラスト軸受100・200は、表面が削られない場合であっても、かしめ部118・230が表面から突出してしまうことを確実に防止でき、スラストカラー12が摺動するときにかしめ部118・230が局所的に摩耗してしまうことを防止できる。このため、スラスト軸受100・200は、摺動部120・220をより確実に保持できる。
このように、かしめ部118・230は、摺動部120・220及び本体部110・210の前側面及び後側面(スラスト方向外側面)よりも内側(スラスト方向内側)に配置される。
このような構成により、摺動部120・220をより確実に保持できる。
なお、本発明に係るスラスト軸受は、本体部または摺動部の前側面及び後側面を、それぞれかしめても構わない。この場合、スラスト軸受は、例えば、図11に示す第四変形例に係るスラスト軸受500または図12に示す第五変形例に係るスラスト軸受600のように構成される。
図11に示すように、第四変形例に係るスラスト軸受500の本体部510は、後側面に本実施形態に係る段差溝116と同一形状の段差溝516が形成される点を除いて、本実施形態に係る本体部110と同一形状に形成される。第四変形例に係る摺動部520は、後側面に本実施形態に係る前側段差溝126(前側段差溝526)と同一形状の後側段差溝528が形成される点を除いて、本実施形態に係る摺動部120と同一形状に形成される。
第四変形例に係るスラスト軸受500は、本体部510の段差溝516がかしめられることで、摺動部520の前後方向への移動及び回転方向への移動を規制するかしめ部518が、本体部510の前側及び後側にそれぞれ形成される。
図12に示すように、第五変形例に係るスラスト軸受600の本体部610は、後側面に第一変形例に係る段差溝216と同一形状の段差溝616が形成される点を除いて、第一変形例に係る本体部210と同一形状に形成される。第五変形例に係る摺動部620は、後側面に第一変形例に係る前側段差溝226と同一形状の後側段差溝628が形成される点を除いて、第一変形例に係る摺動部220と同一形状に形成される。
第五変形例に係るスラスト軸受600は、摺動部620の前側段差溝626及び後側段差溝628がかしめられることで、摺動部620の前後方向への移動及び回転方向への移動を規制するかしめ部630が、摺動部620の前側及び後側にそれぞれ形成される。
前述したように、本実施形態に係るスラスト軸受100は、突出部112aと摺動部120の後側段差溝128とを接触させることで、本体部110または摺動部120をかしめることなく、摺動部120を後方向に移動不能に固定している。また、第一変形例に係るスラスト軸受200は、本体部210の後側段差溝218と摺動部220の突出部228と接触させることで、本体部210または摺動部220をかしめることなく、摺動部220を前方向に移動不能に固定している。
これによれば、スラスト軸受100・200は、かしめる回数を減らすことができるため、摺動部120・220を本体部110・210に取り付ける工程を簡素化できる。
このように、かしめ部118・230は、摺動部120・220の、スラスト方向の一方向(かしめ部118においては前方向、かしめ部230においては後方向)への移動を規制するものである。
また、本体部110・210には、摺動部120・220と接触して、摺動部120・220のスラスト方向の他方向(摺動部120においては後方向、摺動部220においては前方向)への移動を規制する突出部112a・228(非かしめ部)が形成される。
このような構成により、摺動部120を簡単に、かつ、確実に保持できる。
前述したように、本実施形態に係るスラスト軸受100は、摺動部120を本体部110に圧入することで、圧入による保持力を発生させている。これにより、スラスト軸受100は、摺動部120を本体部110に強固に固定している。
これによれば、スラスト軸受100は、摺動部120を本体部110により強固に固定できるため、摺動部120をより確実に保持できる。
このように、摺動部120は、かしめ部118が形成される前に本体部110に圧入される。
このような構成により、摺動部120をより確実に保持できる。
なお、摺動部は、必ずしも本体部に圧入される必要はない。摺動部は、例えば、本体部に溶接によって固定されても構わない。
本発明に係るかしめ部が一側面当たりに形成される個数は、本実施形態に限定されるものでなく、図13に示す第六変形例に係るスラスト軸受700のように、一側面(前側面)に一つだけ形成されていても構わない。
第六変形例に係るスラスト軸受700の本体部710には、本実施形態に係る段差溝116と同一形状の段差溝716が形成される。第六変形例に係る摺動部720には、本実施形態に係る前側段差溝126と同一形状の前側段差溝726が形成される。
第六変形例に係るスラスト軸受700は、本体部710の段差溝716が全周にわたってかしめられることで、摺動部720の前方向への移動及び回転方向への移動を規制するかしめ部718が、本体部710の前側面に形成される。
本発明に係るスラスト軸受は、一側面当たり四つから八つのかしめ部を周方向に適宜の間隔を空けて形成することが好ましい。これにより、スラスト軸受は、バランスよく摺動部の前後方向への移動及び回転方向への移動を規制できるため、摺動部をより確実に保持できる。
本発明に係るスラスト軸受は、本体部と摺動部とのうち、硬い材料で形成される一方(かしめるために必要な荷重が大きい方)をかしめることが好ましい。これにより、スラスト軸受は、図14に示す第七変形例に係るスラスト軸受800にあるような食い込み部818aを形成することができる。
第七変形例に係る本体部810は、摺動部820よりも硬い材料で形成される。第七変形例に係るスラスト軸受800は、本体部810の段差溝816をかしめることで、かしめ部818を形成すると共に、本体部810の材料(硬い材料)を摺動部820の段差溝826の外周縁部に部分的に食い込ませて食い込み部818aを形成する(図14(b)に示す二点鎖線参照)。
スラスト軸受800は、このような食い込み部818aによって摺動部820の本体部810に対する回転方向への移動をより確実に規制でき、ひいては、摺動部820をより確実に保持できる。また、スラスト軸受800は、硬い材料をかしめてかしめ部818を形成することで、より確実に摺動部820の前後方向への移動を規制できるため、摺動部820をより確実に保持できる。
本発明に係るスラスト軸受は、図15及び図16に示す第八変形例のスラスト軸受900のように、摺動部920に切欠部932を形成しても構わない。切欠部932は、前側段差溝926の外周縁部を後方向に切り欠いたような形状に形成される。切欠部932は、かしめ部918と位相が合うように、周方向に適宜の間隔を空けて配置される。
この場合、図15に示すように、スラスト軸受900は、本体部910の段差溝916をかしめたときに、切欠部932にも本体部910の材料を流動させることができる。したがって、スラスト軸受900は、本体部910の材料を摺動部920の切欠部932に積極的に食い込ませて食い込み部918aを形成することができる。
これによれば、スラスト軸受900は、摺動部920の方が本体部910よりも硬い材料で形成された場合でも、食い込み部918aを形成することができる。つまり、スラスト軸受900は、本体部910と摺動部920との材料の硬さに関わらず、食い込み部918aを形成することができ、当該食い込み部918aによって、摺動部920の本体部910に対する回転方向への移動をより確実に規制できる。