JP6344539B1 - チタン材、セル用構成部材、セル、および固体高分子形燃料電池 - Google Patents

チタン材、セル用構成部材、セル、および固体高分子形燃料電池 Download PDF

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Abstract

基材と、前記基材上に形成された表面改質層を備えるチタン材。前記基材は、質量%または質量ppmで、Fe:0.010〜0.100%、O:0.005〜0.110%、Al:1.0ppmを超え5000ppm以下、ならびにAu、Ag、Pt、Pd、およびRuの1種または2種以上:0〜0.25%を含有し、残部がTiおよび不純物からなる。前記不純物は、C:0.015%以下、N:0.020%以下、およびH:0.015%以下を含有する。前記表面改質層は、(Ti、Al)(C、B)m(0.5≦m≦1.5)の組成比を有する第1層を含む。このチタン材は、低い接触抵抗を維持することができる。

Description

本発明は、チタン材、このチタン材を備える固体高分子形燃料電池のセル用構成部材、この構成部材を備える固体高分子形燃料電池のセル、およびこのセルを備える固体高分子形燃料電池に関する。セル用構成部材には、セパレータおよび整流板が含まれる。
燃料電池は、水素と酸素とを利用して直流電流を発生させる電池である。燃料電池は、電解質部分の構成材料によって、固体電解質形、溶融炭酸塩形、リン酸形、および固体高分子形に大別される。これらの燃料電池のうち、200℃付近で動作するリン酸形燃料電池、および650℃付近で動作する溶融炭酸塩形燃料電池は、現在、商用段階に達している。さらに、近年の技術開発の進展により、室温付近で動作する固体高分子形燃料電池と、700℃以上で動作する固体電解質形燃料電池とが、市場に投入され始めている。これらの電池は、自動車搭載用の電池、ならびに家庭用の小型電源および商業ビルの電源として用いられる。
図1Aは、固体高分子形燃料電池全体の斜視図であり、図1Bは、燃料電池のセル(単セル)の分解斜視図である。図1Aおよび図1Bに示すように、燃料電池1は単セルの集合体である。図1Bに示すように、単セルでは、固体高分子電解質膜2の一面および他面に、それぞれ、燃料電極膜(アノード)3、および酸化剤電極膜(カソード)4が積層されている。そして、この積層体の両面にセパレータ5a、5bが重ねられている。固体高分子電解質膜2を構成する代表的な材料として、水素イオン(プロトン)交換基を有するふっ素系イオン交換樹脂膜がある。
燃料電極膜3および酸化剤電極膜4は、カーボンシートからなる拡散層と、拡散層の表面に接するように設けられた触媒層とを備えている。カーボンシートは、カーボン繊維から構成される。カーボンシートとしては、カーボンペーパー、またはカーボンクロスが用いられる。触媒層は、粒子状の白金触媒と、触媒担持用カーボンと、水素イオン(プロトン)交換基を有するふっ素樹脂とを有する。固体高分子電解質膜2に、燃料電極膜3、および酸化剤電極膜4が貼り合わされた一体的な構成部材は、MEA(Membrane Electrode Assembly)と呼ばれている。
セパレータ5a、5bは、バイポーラプレートとよばれることもある。セパレータ5aに形成された溝である流路6aには、燃料ガス(水素または水素含有ガス)Aが流される。これにより、燃料電極膜3に燃料ガスが供給される。燃料電極膜3では、燃料ガスは拡散層を透過して触媒層に接触する。また、セパレータ5bに形成された溝である流路6bには、空気等の酸化性ガスBが流される。これにより、酸化剤電極膜4に酸化性ガスが供給される。酸化剤電極膜4では、酸化性ガスは拡散層を透過して触媒層に接触する。これらのガスの供給により、電気化学反応が生じて、燃料電極膜3と酸化剤電極膜4との間に、直流電圧が発生する。
セパレータ5a、5bと酸化剤電極膜4(MEAの一部である場合を含む)との間に、整流板(図示せず)が挿入される場合がある。整流板は、酸化性ガスまたは燃料ガスを、整流または配流するための部材であり、導電性を有する。整流板は、多孔質板、フィン、またはメッシュとよばれることもある。
固体高分子形燃料電池のセパレータに求められる主な機能は、次の通りである。
(1)燃料ガス、または酸化性ガスを、電池面内に均一に供給する「流路」としての機能
(2)カソード側で生成した水を、反応後の空気、酸素といったキャリアガスとともに、燃料電池から効率的に系外に排出する「流路」としての機能
(3)電極膜(アノード3、カソード4)と接触して電気の通り道となり、さらに、隣接する2つの単セル間の電気的「コネクタ」となる機能
(4)隣り合うセル間で、一方のセルのアノード室と隣接するセルのカソード室との「隔壁」としての機能
これまでに、セパレータの材料として、実験室レベルでは、カーボン板材が検討されてきた。しかし、カーボン板材には、割れやすいという問題がある。さらに、カーボン板材を用いると、表面を平坦にするための機械加工コスト、およびガス流路形成のための機械加工コストが高くなるという問題もある。これらの問題が、カーボン製のセパレータを用いた固体高分子形燃料電池の商用化を難しくしている。
熱膨張性黒鉛加工品は、固体高分子形燃料電池のセパレータの材料として、カーボン系材料の中では最も注目されている。これは、熱膨張性黒鉛加工品が非常に安価であるためである。しかし、熱膨張性黒鉛加工品を用いたセパレータについて解決すべき課題として、たとえば、以下のものがある。
・ますます厳しくなる寸法精度要求への対応
・燃料電池内で使用している間に生じる経年的な結着用有機樹脂の劣化
・電池運転環境の影響を受けて進行するカーボン腐食
・クロスリークと呼ばれる水素の透過
・燃料電池の組み立て時および使用中に予期せず起こる割れ事故
こうしたカーボン系材料の検討とは別に、セパレータに金属製薄板を適用することが試みられている。金属製薄板を検討する目的は、カーボン系材料に対してコストを削減し、耐割れ性および量産性を改善すること等である。
特許文献1には、金属材料からなるセパレータが用いられた固体高分子形燃料電池が開示されている。金属材料として、ステンレス鋼とチタン合金とが挙げられている。これらの金属の表面には、大気との接触により不動態皮膜が容易に生成される。したがって、このセパレータの表面には、不動態皮膜が存在する。このため、金属の表面が化学的に侵され難くなり、燃料電池のセルで生成された水のうちイオン化されるものの割合が低減される。これにより、上記セパレータを用いた燃料電池のセルでは、電気化学反応度の低下が抑制される。
特許文献2には、組成がMで表される炭化物および窒化物の少なくとも1種の組成物でコーティングした電極およびその製造方法が示されている。「M」のMは、遷移金属の1種または2種以上を意味する。「M」のAは、Al、Si、Ga、Ge、Sn、およびPbの1種または2種以上を意味する。「M」のXは、C(炭素)およびN(窒素)の1種または2種を意味する。基材としては、ステンレス鋼、アルミニウム、およびニッケルの少なくとも1種、ならびにそれらの合金が挙げられている。特許文献2には、Mの具体的な組成としては、TiAlC、TiAlN、TiAlN0.50.5、TiAlC、TiSiC、TiAlN、TiSiCなどが挙げられている。
特許文献2では、電極の表面を、上記組成物でコーティングすることにより、電気化学電池の腐食性のある環境においても、耐食性および導電性がある電極を比較的低コストで実現することができる、とされている。電極として、燃料電池のバイポーラプレート(セパレータ)が挙げられている。
特開平8−180883号公報 特表2011−517013号公報
特許文献1のセパレータでは、不動態皮膜が存在することにより、電極膜との接触抵抗は高い。これにより、燃料電池の発電効率が低下する。
特許文献2の電極では、基材表面と、Mの組成を有するコーティング層とに、ある程度の量の酸化物が形成されることは避けられない。この酸化物により、コーティング層の接触抵抗が高くなる。その結果、このコーティング層が形成された基材を電極として用いた燃料電池の発電効率は低下する。
また、この酸化物が存在することにより、基材とコーティング層との密着性は低くなり、コーティング層が剥離しやすくなる。基材表面でコーティング層が剥離した部分には、腐食環境下で腐食生成物が形成される。これにより、その部分の接触抵抗は経時的に増大する。その結果、このコーティング層が形成された基材を電極として用いた燃料電池の発電効率は、経時的に低下する。
そこで、本発明の目的は、低い接触抵抗を維持することができるチタン材および固体高分子形燃料電池のセル用構成部材を提供することである。本発明の他の目的は、高い発電効率を維持できる固体高分子形燃料電池のセルおよび固体高分子形燃料電池を提供することである。
本発明の実施形態のチタン材は、
基材と、前記基材上に形成された表面改質層とを備え、
前記基材は、質量%または質量ppmで、
Fe:0.010〜0.100%、
O:0.005〜0.110%、
Al:1.0ppmを超え5000ppm以下、ならびに
Au、Ag、Pt、Pd、およびRuの1種または2種以上:0〜0.25%
を含有し、残部がTiおよび不純物からなり、
前記不純物は、
C:0.015%以下、
N:0.020%以下、および
H:0.015%以下
を含有し、
前記表面改質層は、(Ti、Al)C(0.5≦m≦1.5)の組成比を有する第1層を含む。
前記第1層は、Cの一部に代えてBを含有し、(Ti、Al)(C、B)(0.5≦m≦1.5)の組成比を有してもよい。
本発明の実施形態の固体高分子形燃料電池のセル用構成部材は、上記チタン材を備える。
本発明の実施形態の固体高分子形燃料電池のセルは、上記構成部材を備える。
本発明の実施形態の固体高分子形燃料電池は、上記セルを備える。
このチタン材および固体高分子形燃料電池のセル用構成部材は、低い接触抵抗を維持することができる。この固体高分子形燃料電池のセルおよび固体高分子形燃料電池は、高い発電効率を維持することができる。
図1Aは、固体高分子形燃料電池全体の斜視図である。 図1Bは、燃料電池のセル(単セル)の分解斜視図である。 図2Aは、本発明の一実施形態に係るチタン材の模式的断面図である。 図2Bは、本発明の一実施形態に係るチタン材の模式的断面図である。 図2Cは、本発明の一実施形態に係るチタン材の模式的断面図である。 図2Dは、本発明の一実施形態に係るチタン材の模式的断面図である。
本発明者らは、チタン材を燃料電池のセパレータに適用することについて、種々の試験を行い、以下の知見を得た。
チタン材の表面を、高温のガスイオンプラズマ中で処理する際、チタン材のAl含有率が1.0ppm以下と低い場合は、チタン材表面の酸化が進行しやすい。この酸化は、スパッタリング中に、処理チャンバ内に存在する水分から生じたO(酸素)プラズマイオンによる。また、このようなプラズマ中でチタン材の表面に後述の表面改質層を形成する場合は、表面改質層の酸素量が増加しやすい。これは、チタンが非常に酸化しやすい金属であるためである。
チタン材のAl含有率が1.0ppmを超える場合は、チタン材表面の金属がスパッタリングされることにより、チタン材を起源とするAlプラズマイオンが、ある程度多くプラズマ中に存在する。このAlプラズマイオンは、励起されたプラズマ中で最も酸化しやすい。このため、Alプラズマイオンは、Oプラズマイオンと優先的に結合してAlO、AlO、Alなどのアルミニウム酸化物蒸気となり、装置外に真空排気される。これにより、チタン材の表面酸化が抑制されるとともに、表面改質層中の酸素量が低下する。
Al含有率が1.0ppmを超え5000ppm以下であるチタン材を基材として、チタン炭化物の表面改質層を形成する処理を行うと、処理条件および膜厚によるが、Tiの一部がAlで置換したTiC型チタン炭化物((Ti、Al)C型炭化物)が生成する。Tiを置換するAlの割合は、一定値とはならず、処理条件等によって異なった値をとりうる。mの値、すなわち、TiとAlとの合計を1としたときのCの割合(原子比)は、0.5以上1.5以下である。ただし、mは、処理毎に異なった値をとりうる。(Ti、Al)C型炭化物は、基材との密着性が極めて高い。
また、上述のチタン炭化物の表面改質層を形成する処理を行う際に、処理チャンバ内にジボラン(B)ガスを導入すると、処理条件および膜厚にもよるが、TiCを構成するCの一部がBに置換したTiC型チタン炭化物((Ti、Al)(C、B)型炭化物)が生成する。Cを置換するBの割合は、一定値とはならず、処理条件等によって異なった値をとりうる。mの値、すなわち、TiとAlとの合計を1としたときのCとBとの合計の割合(原子比)は、0.5以上1.5以下である。ただし、mは、処理毎に異なった値をとりうる。(Ti、Al)(C、B)型炭化物は、基材との密着性が極めて高く、導電性にも優れる。
(Ti、Al)C型炭化物または(Ti、Al)(C、B)型炭化物を主体とする表面改質層には、Ti0.75Al型炭化物、またはTi0.67Al型炭化物が生成することがある。ここで、xおよびyはいずれも0.2以上0.3以下であり、pおよびqはいずれも0.3以上0.6以下である。これらの炭化物を含む表面改質層では、固体高分子形燃料電池のセパレータ環境で、優れた耐食性と低い接触抵抗とが両立する。
本発明は、以上の知見に基づいて完成したものである。以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。以下の説明で、特に断りがない限り、化学組成について、「%」は質量%を意味し、「ppm」は質量ppmを意味する。
[チタン材]
図2A〜図2Dは、本発明の実施形態に係るチタン材の模式的断面図である。チタン材10A〜10Dの各々は、基材11と、基材11上に形成された表面改質層12とを備える。表面改質層12は、少なくとも第1層13を含む。図2Aに、表面改質層12が第1層13のみからなるチタン材10Aを示す。表面改質層12は、第1層13の上に形成された第2層14を含んでもよい。図2Bに、表面改質層12が第1層13および第2層14からなるチタン材10Bを示す。また、表面改質層12は、第2層14に代えて、または、第2層14に加えて、第1層13の上に形成された第3層15を含んでもよい。図2Cに、表面改質層12が第1層13および第3層15からなるチタン材10Cを示す。図2Dに、表面改質層12が第1層13、第2層14、および第3層15からなるチタン材10Dを示す。
〈基材〉
基材は、質量%または質量ppmで、
Fe:0.010〜0.100%、
O:0.005〜0.110%、
Al:1.0ppmを超え5000ppm以下、ならびに
Au、Ag、Pt、Pd、およびRuの1種または2種以上:0〜0.25%
を含有し、残部がTiおよび不純物からなる。
前記不純物は、
C:0.015%以下、
N:0.020%以下、および
H:0.015%以下
を含有する。
Fe:0.010〜0.100%
Feは、チタン材には、一般に、不純物として含有される。しかし、本チタン材の基材においては、Feは、有効に活用する添加元素(調整元素)である。基材中において、Feは、β相安定化元素である。Feは、その一部がα相に固溶するが、多くはβ相を形成し、さらには、熱処理条件によっては、金属間化合物であるTiFeとして析出する。析出したTiFeは、結晶粒成長を抑える働きをする。Fe含有率とO含有率とを調整することにより、チタン材の延性低下を抑制しつつ耐力を高めることができる。また、結晶粒成長を抑えることにより、切断加工または打ち抜き加工時のバリの発生を抑制して、金型の損耗を低減することもできる。
ただし、Fe含有率が0.100%を超えて高くなると、基材中のO含有率を低くしても成形性が確保できなくなる。このため、Fe含有率は、0.100%以下とする。
一方、Fe含有率が0.010%未満になると、耐力が低下して軟質となり、座屈しやすくなる。また、Fe含有率が0.010%未満であるチタン材を作製することができる原料を確保することは困難である。仮に、Fe含有率を0.010%未満と規定したとすると、基材を、工業的規模で低コストかつ安定的に量産することが難しくなる。このため、Fe含有率は、0.010%以上とする。Fe含有率は、0.020%以上であることが好ましく、0.030%以上であることがさらに好ましい。
O(酸素):0.005〜0.110%
Oは、チタン材には、一般に、不純物として含有される。しかし、本チタン材の基材においては、Oは、有効に活用する添加元素である。本チタン材の主たる用途として想定している固体高分子形燃料電池のセル用構成部材には、以下の特性を兼ね備えることが求められる。
・量産性に優れること
・安価であること
・耐食性に優れること
・セル用構成部材の形状に加工する際に、成形性がよい(たとえば、反り、およびバリを生じ難い)こと
・量産に支障がない金型寿命を確保できること
・複数のセルを締結して燃料電池を組み立てる際に、座屈し難い材料強度(耐力)を有すること
これらの要求を満たすためには、O含有率を0.005〜0.110%とすることが必要である。
O含有率が0.005%未満であると、材料強度が不十分である。この場合、チタン材が軟質となるために座屈しやすい。また、O含有率が0.005%未満であると、打ち抜き加工に際して局部伸び性が高すぎて、バリが顕著に生じるようになる。また、O含有率が0.005%未満の基材を作製すると、製造コストが高くなりすぎる。このため、O含有率は、0.005%以上とする。O含有率は、0.010%以上であることが好ましい。
一方、O含有率が0.110%を超える場合には、Feなど他の元素の含有率を調整しても、材料強度、および耐力が高くなりすぎ、かつ伸び性が低下する。この場合、張出し成形することが困難となる。張出し成形は、固体高分子形燃料電池のセル用構成部材の流路を形成する際に実施される。また、O含有率が0.110%を超える場合は、材料強度、および耐力が高くなることに起因して、成形に用いる金型の寿命が短くなる。このため、O含有率は、0.110%以下とする。O含有率は、0.060%以下であることが好ましい。
Al:1.0ppmを超え5000ppm以下
AlはJIS 1種、2種、3種、11種などのチタン材においては、成分規格として規定されておらず、通常は添加されることのない金属元素である。しかし、本チタン材の基材においては、Alは積極的に活用する添加元素である。基材中のAlは、後述のように、表面改質層を形成する際に、基材の表面酸化を抑制するとともに、表面改質層に取り込まれるOの量を低減する働きをする。これにより、チタン材表層部の導電性が高くなるとともに、基材と表面改質層との密着性が高くなる。基材中のAl含有率が1.0ppm以下であると、上述の効果が十分に得られない。
また、後述のように、本チタン材の基材を製造する際、溶製時にAlを脱酸元素として積極的に添加して、基材のO含有率を調整することができる。このような製造方法によっては、Al含有率が1.0ppm以下である基材を、安定して量産することは困難である。また、Al含有率が1.0ppm以下の場合は、所望の機械的特性、および加工性を安定して得ることが困難である。このため、Al含有率は、1.0ppmを超えるものとする。
一方、Al含有率が5000ppm(0.500%)を超えると、固体高分子形燃料電池のセル用構成部材として、所定の形状に成形することが困難になるとともに、耐食性が確保できなくなる。このため、Al含有率は、5000ppm以下とする。
基材のAl含有率は、JIS H 1632−2(2014)に規格化されているチタン−ICP発光分光分析方法により定量測定することができる。Al含有率が10ppm未満である場合は、グロー放電質量分析により、Al含有率を定量測定することができる。この場合、測定装置としては、たとえば、FI ELEMENT社製のVG9000を用いることができる。
Au、Ag、Pt、Pd、およびRuの1種または2種以上:0〜0.25%
これらの元素は、基材において、任意元素であり、含有することは必須ではない。しかし、耐食性の向上、および接触抵抗の低減のために、基材は、これらの元素を0.25%以下(これらの元素を2種以上含有する場合は、各元素の含有率の合計で0.25%以下)含有してもよい。0.25%を超えてこれらの元素を含有すると、材料コストが無視できない程度に上昇する。これらの元素を含有させる場合、含有率は0.01%以上(2種以上含有する場合は、各元素の含有率の合計で0.01%以上)であることが好ましい。
以下、不純物元素について説明する。
C:0.015%以下(0%を含む)
基材の表面には、圧延工程で使用する圧延油を起源とするCが付着しやすい。基材の表層にCが存在することにより、焼鈍工程で、基材表面に、TiC、またはTiCNが生成する場合がある。TiC、およびTiCNは、いずれも、高硬度の化合物であり、基材またはチタン材の成形時に用いる金型の損傷を早める原因となる。このため、C含有率は、0.015%以下(0%を含む)とする。C含有率は、0.010%以下であることがより好ましい。
N:0.020%以下
焼鈍工程で、雰囲気からNを吸収することで、基材のN含有率が高くなりやすい。この場合、TiNが生成する。TiNは、高硬度の化合物であり、基材またはチタン材の成形時に用いる金型の損傷を早める原因となる。このため、N含有率は、0.020%以下とする。N含有率は、0.015%以下とすることが好ましく、0.010%以下とすることがより好ましい。
H:0.015%以下
Hは、基材の製造工程での酸洗、焼鈍、必要に応じて実施される電解処理などにより、不可避的に基材に吸収される。Hは、チタン材の水素脆化、および水素割れの原因になる。このため、H含有率は、0.015%以下とする。H含有率は、0.010%以下であることが好ましい。
その他の不純物:Ca
基材は、不純物として、Caを数ppm含むことがある。後述の基材の製造方法で、チタン溶湯に脱酸剤としてAlを添加する際、Al源として、Al外装−CaCl内装のコアードワイヤーを用いることができる。その場合、得られた基材は、不純物として、CaClを起源とするCaを含有することがある。Caも、Alと同様に、Oとの結合力がTiより強く、かつCa酸化物は、蒸気圧が高いので、高温のチタン溶湯から除去されやすい。このため、多くの場合、Caが、チタン材中に10ppmを超えて残留することはない。この程度の含有率のCaは、基材に悪影響を与えることはない。
〈表面改質層〉
表面改質層は、(Ti、Al)C(0.5≦m≦1.5)の組成比、または、(Ti、Al)(C、B)(0.5≦m≦1.5)の組成比を有する第1層を含む。すなわち、第1層では、原子比で、TiとAlとの合計とC(炭素)との比が1:0.5〜1.5であるか、TiとAlとの合計とC(炭素)とB(ホウ素)との合計との比が1:0.5〜1.5である。第1層が(Ti、Al)C(0.5≦m≦1.5)の組成比を有する場合は、第1層はBを実質的に含有しない。第1層がBを含有する場合、CとBとの合計に占めるBの割合は、たとえば、5〜15at%である。
第1層を後述の方法で形成した場合、第1層は、基材起源のAlを含有する。この場合、第1層は、基材表面に垂直な方向に関して、傾斜組成を有する。具体的には、第1層中でのAl含有率は、基材側に比して基材とは反対側で低くなる。第1層において、基材側のAl含有率に対する基材とは反対側のAl含有率の比(原子比)は、たとえば、0.6以下である。
また、表面改質層は、第1層の上に形成された第2層を含んでもよい。第2層は、Ti0.75Al(0.2≦x≦0.3、0.2≦y≦0.3)の組成比、または、Ti0.67Al(0.3≦p≦0.6、0.3≦q≦0.6)の組成比を有する。すなわち、第2層では、原子比で、TiとAlとCとの比は、0.75:0.2〜0.3:0.2〜0.3、または0.67:0.3〜0.6:0.3〜0.6である。
Ti0.75Al(0.2≦x≦0.3、0.2≦y≦0.3)の組成比を有する炭化物で、化学量論組成を有する代表的なものとして、TiAlC(以下、「Ti0.75Al0.250.25」とも表記する。)を挙げることができる。また、Ti0.67Al(0.3≦p≦0.6、0.3≦q≦0.6)の組成比を有する炭化物で、化学量論組成を有する代表的なものとして、TiAlC(以下、「Ti0.67Al0.330.33」とも表記する。)を挙げることができる。
表面改質層は、第1層の上に形成された第3層を含んでもよい。第3層は、(Cr、Al)C(0.3≦n≦1.5)の組成比、または、(Cr、Al)(C、B)(0.3≦n≦1.5)の組成比を有する。すなわち、第3層では、原子比で、CrとAlとの合計とCとの比が1:0.3〜1.5であるか、CrとAlとの合計とCとBとの合計との比が1:0.3〜1.5である。表面改質層は、第3層を含む場合、第2層を含んでもよく含まなくてもよい。表面改質層が第2層および第3層を含む場合、第3層は、第2層の上に形成されてもよく(図2D参照)、第2層の下(第1層と第2層との間)に形成されてもよい。
第3層は、第1層および第2層と組成が類似している。このため、第3層は、第1層または第2層に対して、アンカー効果および化学結合により、高い密着強度を有する。また、第1層および第2層に存在する炭化物により、第3層の膜応力は緩和される。さらに、第3層は、第1層および第2層に比して耐食性に優れる。このため、チタン材において、第1層および第2層より表面側に第3層を設けることにより、腐食環境から第1層および第2層を保護することができる。
第1層および第2層のいずれにおいても、Cは、TiおよびAlの少なくとも一方と炭化物層を形成している。同様に、第3層において、Cは、CrおよびAlの少なくとも一方と炭化物層を形成している。第3層の炭化物は、CrC型炭化物のCrの一部がAlで置換されたもの、または、その置換された炭化物のCの一部がBで置換されたものである。これらの炭化物は導電性を有し、たとえば、ペロブスカイト型の結晶構造を有する。
(Cr、Al)C(0.3≦n≦1.5)の組成比を有する炭化物で、化学量論組成を有する代表的なものとして、CrAlCおよびCrAlCを挙げることができる。また、(Cr、Al)(C、B)(0.3≦n≦1.5)の組成比を有する炭化物で、化学量論組成を有する代表的なものとして、CrAlCBおよびCrAlCBを挙げることができる。
第3層の厚さは、0.001〜1μmであることが好ましい。第1層または第2層の表面に起伏が生じていた場合に、その表面上に厚さが0.001μm以上の第3層を形成すると、第3層形成後の表面を、起伏がより小さいものとすることができる。これにより、電極膜(MEAの一部である場合を含む。)との接触点を増やし、チタン材全体として接触抵抗を低減することができる。第3層の厚さを1μm以下とすることにより、第3層に生ずる膜応力を低減し、第1層または第2層との密着強度を向上させることができる。
表面改質層には、非晶質カーボンが含まれてもよい。また、表面改質層は、製造工程等での熱拡散により相分離していることがある。この場合、表面改質層は、互いに異なる複数種類の組成物を含む多層構造組織となることもある。
いずれの場合も、基材が1.0ppmを超えるAlを含有することにより、後述の製造方法で表面改質層を形成すると、表面改質層のO含有率は低くなる。これにより、表面改質層は、高い導電性、および基材との高い密着性を有する。また、表面改質層のO含有率が低いほど、表面改質層の延性は高くなる。第1層のO(酸素)含有率は、3at%以下であることが好ましく、2at%以下であることがより好ましい。また、表面改質層は、炭化物を含むことにより、固体高分子形燃料電池のセパレータ環境で、高い腐食耐性を有する。したがって、このチタン材は、そのような環境で、電極膜との低い接触抵抗を維持することができる。
通常の市販品のチタン材を基材として用いて表面改質処理をすると、表面改質層、たとえば本願発明における第1層に相当するもののO含有率は3at%を超える。このような表面改質層は、導電性が低くなりやすいとともに、基材に対する密着性が低くなりやすく、さらに、延性を確保し難い。
〈チタン材の表面粗さ〉
チタン材の表面粗さは、JIS B 0601(1982)で規格化されたRa(算術平均粗さ)の値で、0.12〜4μmであることが好ましく、0.12〜3μmであることがさらに好ましい。表面粗さをこれらの範囲内に調整することにより、接触抵抗をある程度低減することが可能である。これは、チタン材の表面粗さが粗くなることにより、セルを構成する電極膜とセパレータとの接触点数および接触面積が増加するためである。ここで、電極膜は、燃料電極膜3および酸化剤電極膜4(図1B参照)であり、MEAの一部である場合を含む。表面粗さが小さすぎても大きすぎても、接触点数および接触面積が減少して接触抵抗値が上昇する。
[固体高分子形燃料電池のセル用構成部材]
固体高分子形燃料電池のセル用構成部材として、セパレータ、および整流板を挙げることができる。これらの構成部材は、板状のチタン材を所望の形状に成形して得ることができる。たとえば、セパレータの一面には、燃料ガスを流すための溝が形成されている。セパレータの他面には、酸化性ガスを流すための溝が形成されている。このような形状のセパレータは、薄板状のチタン材をプレス成形して得ることができる。
また、板状の基材を、構成部材の形状に成形してから、その基材の表面に表面改質層を形成してもよい。この場合も、基材と基材の上に形成された表面改質層とを含むチタン材を備える構成部材を得ることができる。
構成部材は、上記チタン材を備えることにより、固体高分子形燃料電池のセパレータ環境で、電極膜との低い接触抵抗を維持することができる。
[セルおよび固体高分子形燃料電池]
セルは、上記構成部材としてのセパレータと、固体高分子電解質膜と、燃料電極膜(アノード)と、酸化剤電極膜(カソード)とが、所定の順序で積層された公知の構造を有するものとすることができる。また、セルは、上記構成部材として、公知の整流板をさらに含んでもよい。固体高分子形燃料電池は、複数のセルが積層され電気的に直列に接続された公知の構造を有するものとすることができる。これらのセルおよび固体高分子形燃料電池では、上記セパレータと電極膜との低い接触抵抗が維持される。これにより、これらのセルおよび固体高分子形燃料電池は、高い発電効率を維持することができる。
[チタン材の製造方法]
〈基材の製造〉
チタン系の材料は、鉄鋼材料と同様の製造方法、すなわち、酸化物系耐火物を内張りした溶解炉またはるつぼ中で、溶解および精練して得ることは難しい。これは、Tiが非常にOと結合しやすいために、真空(減圧)または不活性ガス雰囲気下で溶製する必要があり、このような雰囲気中では、酸化物系耐火物はTiにより還元されて溶損しやすいためである。このため、チタン系の材料は、通常、水冷銅モールドを用いて溶解される。
基材の原料となるチタンインゴットを得るための溶製法として、加熱方式が異なる様々な特殊溶解技術が開発されてきている。現在主流の溶製法は、真空アーク溶解(VAR:Vacuum Arc Remelting)法、プラズマアーク溶解(PAM:Plasma Arc Melting)法、真空誘導溶解(VIM:Vacuum Induction Melting)法、および電子ビーム溶解(EBM:Electron Beam Melting)法である。
EBM法では、VIM法等に比べて、より多くのスクラップを用いた溶解を行なうことが可能である。既述のように、チタン材(基材)のFe含有率およびO含有率は、加工性に大きな影響を及ぼす。このため、基材の製造において、Fe含有率およびO含有率を制御することは重要である。スクラップのO含有率は一定していない。このため、原料として、スクラップを多量に添加する際にO含有率を制御する技術の確立は、重要な開発課題となっている。
EBM法では、溶融した金属(以下、「溶湯」ともいう。)の表面において電子ビームが入射する部分(以下、「火点」という。)の温度は、2000℃を超え、局部的に2千数百℃となっている。また、電子ビームが大電流であることから、電流が作る磁界により、火点近傍の溶融した金属には、流速の速い渦が形成される。これにより、溶湯表面の更新、すなわち、表面を占める溶湯の入れ替わりが速くなっている。
チタン中のO(酸素)は熱力学的に安定である。このため、これを除去することは極めて困難である。火点における溶湯温度は、2000℃を超える高温である。この部分では、通常、Tiの蒸発量に対応してOが濃縮するので、OをTiの酸化物蒸気として脱酸することは、熱力学的に困難である。本発明者らは、チタンの溶湯から脱酸する方法として、COガスとしての脱酸、Si酸化物蒸気としての脱酸、Al酸化物蒸気としての脱酸などを検討した。その結果、チタン溶湯中のOを除去する最も有効な手段は、Alを添加してAlO蒸気として脱酸することであるとの結論に至った。
すなわち、減圧下で行なうEBM法によるチタン溶解において、溶湯中のAl濃度が高いと、火点、およびその近傍では、AlOを主体とするAl酸化物が急速に蒸発して、気相(蒸気)脱酸が進行する。特に、火点およびそのごく近傍の溶湯中のAl濃度を集中的に高めると、気相脱酸が効果的に進行する。したがって、溶湯中にAlが存在する状態での電子ビーム溶解法は、スクラップを多量に添加するチタン溶解に際してのO濃度の低減方法、およびO濃度制御方法として有効である。使用する溶解原料(スクラップを含む。)にもよるが、この方法により、O含有率を、現在市販されている通常のチタン材と同程度か、それよりも低くすることができる。
チタン溶湯へ添加するAlは、たとえば、ワイヤーの形態とすることができる。ワイヤーの形態のAlを用いることにより、Alを溶湯の特定の部位(たとえば、火点またはその近傍)に集中して連続添加することが可能である。ワイヤーは、たとえば、実質的にAlのみからなるものであってもよく、Al外装−CaCl内装などのコアードワイヤーであってもよい。
以上のようにして得られたインゴットは、切削、圧延等のプロセスにより、所望の形状、たとえば、薄板状の基材に成形することができる。チタン材を固体高分子形燃料電池のセル用構成部材に用いる場合は、基材をこの構成部材の形状に成形加工した後に、基材の表面粗さを酸液により調整することが好ましい。表面粗さの調整は、たとえば、ふっ酸を含む酸液を用いるスプレーエッチング処理および浸漬処理の少なくとも一方により行なうことができる。処理後に表面に残るふっ化チタンは、燃料電池適用中に酸化物となる。これは、燃料電池の使用中の接触抵抗の上昇をまねくため、ふっ酸を含まない酸液中で最後の表面調整を行なうことが好ましい。
〈表面改質層の第1層の形成〉
第1層は、基材に対して、以下に述べる表面改質処理を施すことにより形成することができる。
基材は、たとえば、薄板(箔)の形態とすることができる。量産時には、このような薄板は、コイルにして、保管、搬送、表面処理等がなされる。コイルに対して、たとえば、雰囲気を調整した連続式の光輝焼鈍処理炉で最終焼鈍処理が行なわれる。これにより、コイルの表面には、数十nmを超える厚さの高温酸化皮膜が生成する。表面改質処理を行なう前には、基材に対する表面改質層の密着性を確保するために、高温酸化皮膜を除去する必要がある。
高温酸化皮膜を除去する際、予め、酸処理により高温酸化皮膜を溶解してから、その後に生成する皮膜をボンバード処理により除去することが好ましい。これにより、高温酸化皮膜の除去に要する時間を短くすることができる。酸処理を行うことなく、Arなどのガスイオンプラズマによるボンバード処理のみで高温酸化皮膜を除去すると、長時間を要し、生産性が著しく低くなる。
酸処理は、光輝焼鈍処理後に専用の酸洗処理ラインで連続的に行うことが好ましい。酸液として、たとえば、硝ふっ酸溶液を用いることが有効である。酸処理後のコイル(基材)の表面には、厚さが数nmから10nm程度の皮膜のみが形成されている。この皮膜は、酸洗中、酸洗後の水洗浄中、乾燥(たとえば、100℃以下で保持)中、および表面改質処理開始まで大気中で放置している間等に生じたものである。この皮膜は、水酸化物および酸化物の少なくとも一方を主体とする。このような薄い皮膜は、ボンバード処理により、短時間、具体的には、数秒から長くても数分で除去することができる。
ボンバード処理を行うためのプラズマを形成する方法は、特に限定されない。ボンバード処理において、プラズマを形成するガスとしては、Arを用いることができる。Arには、必要に応じてHを加えてもよい。Arは原子量が大きいため、Arガスを用いることにより、ボンバード処理を効果的に行うことができる。しかし、TiはOとの親和性が非常に強いため、雰囲気中にOが存在すると、ボンバード処理中でも基材表面での酸化皮膜の厚膜化、および基材中へのOの侵入が進行する場合がある。プラズマを形成するガス中にHを導入することにより、雰囲気中のOをHと反応させて、基材の酸化が進行することを抑制することができる。ただし、TiはHを吸収しやすい金属である。基材中へのHの侵入を防止または抑制するために、上述の皮膜が表面にまだ残留している状態でのみ、Hガスを用いることが好ましい。
ボンバード処理時のチャンバ内の圧力は、Arを導入しつつ、または、ArとHとを同時に導入しつつ、1.0×10−2Torr(1.33Pa)以下に維持することが必要である。圧力が1.0×10−2Torrを超えると、ボンバード処理時に、基材表面での酸化チタン皮膜の生成、および基材内部へのOの侵入が生じやすい。
ボンバード処理は、コイルの状態の基材を用いコイルから基材を引き出しながら行なってもよい。この場合、量産性を極めて高くすることができるとともに、処理コストを著しく低減できる。
しかし、表面改質層の形成は、ボンバード処理と連続して行う必要がある。このため、コイルの状態の基材を用いてボンバード処理を行うと、表面改質層の形成もコイルの状態の基材に対して行うことになる。この場合、表面改質層を形成した後に、チタン材を固体高分子形燃料電池のセル用構成部材(以下、単に、「構成部材」ともいう。)の形状に成形(たとえば、プレス加工により成形)する必要がある。その際、表面改質層が損傷するおそれがある。したがって、チタン材の特性の面からは、構成部材の形状に成形が完了し、表面粗さが調整された後の基材に対して、ボンバード処理を行うことが好ましい。
基材を構成部材の形状に成形した後にボンバード処理すると、処理が枚葉式となり、生産性が劣るという問題が生じる。しかし、複数枚の基材を一度に固定できるホルダーを用いて複数枚の基材を一括して枚葉処理することにより、処理に要する時間およびコストを抑えることが可能である。
基材の皮膜を除去した後、表面改質層の第1層を形成する。表面改質層の形成方法として、たとえば、減圧下における物理的蒸着処理を採用することができる。しかし、この方法では、工業的に生産する際の生産効率が低く、他の方法を採用した場合に比して生産コストが高くなる。生産効率を高くするため、プラズマCVD法による表面改質処理を採用することができる。プラズマCVD法では、基材を構成する元素のみを用い、雰囲気調整により、組成を制御して、表面改質層を形成することも可能である。しかし、付加的に、所望の成分を供給するためのターゲットを使用することが好ましい。
ターゲットを使用する場合、スパッタリングの方式として、HIPIMS(High Power Impulse Magnetron Sputtering)を採用してもよい。表面改質処理の初期の段階でHIPIMSを採用すると、基材に対する表面改質層の密着性を高くするとともに、表面改質層の組織を細かくする効果がある。プラズマCVD処理は、ボンバード処理を終了した直後に、同じまたは連続した真空装置内で、引き続き行なうことが好ましい。
ターゲットとして、たとえば、99.99質量%以上の高純度金属Tiからなるターゲット、数百ppm程度のAlを意図的に添加した高純度金属Tiからなるターゲット、または高純度Ti−Al合金製のターゲットを用いることができる。高純度Ti−Al合金製のターゲットの例として、TiとAlとが、50:50の質量比のターゲット、75:25の質量比のターゲットなどは、市販されている。これらのターゲットを、表面改質層の作製に用いることができる。
ターゲットの不純物含有率は低いほど好ましい。不純物として、Oとの親和力が強いCa、希土類金属などは含有してもよい。この場合、表面改質層を形成する際に、基材の表面および表面改質層が酸化されることを抑制できる。
プラズマCVD法には、高周波放電を利用する高周波プラズマCVD法、マイクロ波放電を利用するマイクロ波プラズマCVD、直流放電を利用する直流プラズマCVD法などがある。表面改質層を形成するために、これらのプラズマCVD法のいずれの方法も採用することができる。
一例として、直流プラズマCVD法、またはパルスDCプラズマCVD法を採用することができる。直流プラズマCVD法では、たとえば、高周波アンテナに、13.56MHzの周波数を有し最大で3kWの高周波電力を給電して、プラズマ化を促進することができる。基材には、たとえば、1000V以上の正負、または負の高周波パルス電圧を供給することができる。パルス電圧は、たとえば、1000〜25000Vとすることができる。パルス電圧のパルス幅は、1マイクロ秒から100マイクロ秒の範囲内で、適宜可変調整することができる。
基材の表面がプラズマにさらされると、基材を構成するAl原子は、プラズマによりスパッタリングされて、Alプラズマイオンを生成する。Alプラズマイオンは、Tiプラズマイオンよりも優先的にO(酸素)プラズマイオンと反応し、AlOなどの酸化物蒸気として表面改質装置外に排出される。これにより、プラズマ中のO濃度が低減されるので、基材表面および表面改質層中の酸化物の形成を著しく抑制することができる。その結果、表面改質層のO含有率を、従来の製造方法では得られなかったレベルに低減することができる。これにより、表面改質層の導電性が高くなるとともに、表面改質層と基材との密着性が高くなる。
プラズマ中のAlイオンの一部は、表面改質層に取り込まれる。したがって、表面改質層(第1層)は、基材起源のAlを含有する。特に、Alを含むターゲットを用いなかった場合は、表面改質層中のAlは、実質的にすべて基材起源のものである。第1層の形成が開始されると、基材表面はスパッタリングされなくなるので、基材からプラズマへのAlの供給は停止する。したがって、この場合、第1層において、基材に近い部分ほどAl含有率が高くなる。
〈表面改質層の第2層の形成〉
第1層の形成後、必要により、第2層を形成する。この場合、第1層を形成した後、減圧状態を保ったまま、第2層を形成する。第2層は、たとえば、所望の組成を得るためのターゲットを用いたスパッタリング処理により形成することができる。この際、第1層の上に供給する元素の割合、基材の温度等を制御することにより、Ti0.75Al(0.2≦x≦0.3、0.2≦y≦0.3)の組成比を有する炭化物、または、Ti0.67Al(0.3≦p≦0.6、0.3≦q≦0.6)の組成比を有する炭化物を形成することができる。
〈表面改質層の第3層の形成〉
第1層または第2層の形成後、必要により、第3層を形成する。この場合、第1層または第2層を形成した後、減圧状態を保ったまま、第3層を形成する。第3層は、たとえば、所望の組成を得るためのターゲットを用いたスパッタリング処理により形成することができる。この際、第1層または第2層の上に供給する元素の割合、基材の温度等を制御することにより、(Cr、Al)C(0.3≦n≦1.5)の組成比を有する炭化物、または(Cr、Al)(C、B)(0.3≦n≦1.5)の組成比を有する炭ホウ化物を形成することができる。
〈予備試験〉
チタン材に用いる基材について、組成と成形性との関係を調査した。
真空溶解装置のチャンバ内で電子ビーム溶解(EBM)法により原料を溶解して、インゴット材を製作した。このインゴットから、基材を得た。表1に、基材(インゴット)の組成を示す。
Figure 0006344539
インゴットのFe含有率およびO含有率は、以下の方法により調整した。まず、原料として、第1のスポンジチタン、第2のスポンジチタン、およびリターンスクラップ材を用意した。第1のスポンジチタンのFe含有率およびO含有率は既知であり、基材についての目標とする値より低かった。第2のスポンジチタンのFe含有率およびO含有率は既知であり、基材についての目標とする値より高かった。リターンスクラップ材のFe含有率およびO含有率も既知であった。
第1および第2のスポンジチタンは、クロール法により作製した。そして、第1のスポンジチタンと第2のスポンジチタンとを、EBM法により溶解し、これにより生じた溶湯に、リターンスクラップ材を添加した。溶解した第1のスポンジチタンの量と、添加した第2のスポンジチタン、およびリターンスクラップ材の量との比により、溶湯のFe濃度、および初期O濃度を調整した。溶湯のFe濃度は基材のFe含有率に対応する。
溶製中に、真空溶解装置のチャンバ内に設置されたワイヤー添加装置を用いて、適量のアルミニウムワイヤーを溶湯中に投入した。アルミニウムワイヤーの純度は、99.9質量%であった。アルミニウムワイヤーは、溶融プールにおいて、火点およびその近傍の2000℃を超える高温部に、直接投入した。これにより、Al酸化物による気相(蒸気)脱酸を行い、溶湯中のAl濃度、およびO濃度を調整した。このAl濃度、およびO濃度は、基材のAl含有率、およびO含有率にそれぞれ対応する。
溶製後、厚さが200mmで、幅が500mmで、質量が2トンのチタンインゴットを、基材1〜9のそれぞれに対して1本ずつ得た。このインゴットは、基材としてのコイルに対応する組成を有した。表1に示すように、基材の組成は、Al含有率が0.53〜5530ppmであり、O含有率が0.031〜0.098%であり、Fe含有率が0.051〜0.095%であった。
次に、インゴットの表面に、機械切削を施した後に、酸化防止剤を塗布した。この状態のインゴットを、熱間鍛造により、厚さが55mmで幅が560mmの熱間圧延用スラブに成形した。鍛造後のスラブは、表面に対して再度削り加工を施して、完全に疵を除去した。続いて、このスラブに対して、表面に酸化防止剤を塗布し、電気炉中730℃で加熱保持した。その後、1パスあたりの圧下率が10〜23%となるように、このスラブを熱間圧延し、厚さが4.8mmの熱間圧延コイルを得た。
この熱間圧延コイルに対して、連続通板方式の焼鈍炉により、700℃で5分保持する中間焼鈍処理を行った。続いて、このコイルに対して、連続方式の酸洗処理によって脱スケールを行った。さらに、このコイルに対して、仕上げ板厚が0.125mmになるように、冷間圧延を行った。その後、得られたコイルに対して、チタン専用の光輝焼鈍炉を用いて、各基材の成形性が最も良好となる加熱温度で、90秒保持する焼鈍処理を行った。加熱温度は、事前の検討により決定した。さらに、この焼鈍後のコイルに対して、圧下率が1.2%のスキンパス圧延を行った。
基材1〜9のうち、基材9のみ、冷間圧延中に、コイル端面に割れ(耳割れ)が生じた。しかし、基材9の成形性は、冷間圧延以降の工程を実施することが困難なレベルではなかった。
作製した冷間圧延コイル(基材)を用いて、固体高分子形燃料電池のセル用構成部材としての成形加工が可能であるか否かを調査した。
成形性は、各コイルをプレス成形することにより評価した。この際、プレス成形金型を用い、80トンプレス機でプレスした。このプレス成形により、サーペンタイン型の流路を形成した。この流路は、固体高分子形燃料電池のセル用セパレータの流路に相当する。流路の山部および谷部の幅は、いずれも0.4mmであり、流路の深さは0.4mmであり、肩半径は0.1mmであった。
評価結果を、表1の「成形性総合評価」の欄に示す。基材1〜8は、成形性が良好であった。基材9は、上述のように、冷間圧延の際に、コイル端面に割れが生じた。このため、基材9については、割れが生じていない部位を採取して、プレス成形を行った。しかし、基材9については、全数ではないが、プレス時の割れ発生を回避できなかった。基材9については、成形加工性の点で、セル用構成部材の量産に用いることは困難であると考えられた。
<第1の実施例>
予備試験で作製した冷間圧延コイルから切り出した試験片を用いて、表面改質処理を行い、処理後のチタン材の特性を評価した。表面改質処理を行う前に、酸液を用いた処理により、冷間圧延コイルの表面粗さを調整した。具体的には、まず、冷間圧延コイルから、一辺が15cmの正方形の評価用試験片を切り出した。この試験片に対して、酸液による処理を施した。処理の条件は、処理後の表面粗さ(Ra)が目標値として0.15μmまたは0.30μmになるように設定した。酸液としては、硝酸15質量%、ふっ酸3質量%の硝ふっ酸水溶液を用いた。表2に、基材の表面粗さを示す。
Figure 0006344539
この試験片を、表面粗さの調整を行った後12時間以内に、スパッタリング処理装置に搬入して、スパッタリングによる表面改質処理を施した。表面改質処理は、ホルダーに試験片を固定した状態で行った。ホルダーは、上記大きさおよび形状の評価用試験片を同時に4枚保持できるものであった。
次に、スパッタリング処理装置について詳細に説明する。スパッタリング処理装置は、減圧室、前処理室、第1スパッタリング処理室(第1室)、第2スパッタリング処理室(第2室)、および復圧室が、この順に直線状に並べられた5室構成のものであった。各室は、ステンレス鋼製のチャンバを備えていた。処理装置の外形寸法は、幅が1.6mであり、全長が19mであった。処理室には、メカニカルブースター付きの真空ポンプ、拡散ポンプ、ターボ分子ポンプ、およびクライオポンプが接続されていた。これらのポンプにより、処理室内は、少なくとも、2×10−9mmHg(2.66×10−7Pa)まで減圧可能であった。
減圧室には、上述の試験片用ホルダーを一度に30個収容可能であった。減圧室は、これらのホルダーを枚葉方式で前処理室内に送り出す治具を備えていた。このスパッタリング処理装置は、コイルに対する処理も可能であった。減圧室には、コイルから帯状の基材を送り出すアンコイラーがさらに設けられていた。
前処理室には、1つのボンバードゾーンがあった。第1および第2スパッタリング処理室の各々には、2つのスパッタリングゾーンがあった。各ゾーンは、独立に条件設定可能であった。復圧室には、上述の試験片用ホルダーを一度に30個収容可能であった。また、復圧室には、これらのホルダーを枚葉方式で受け入れ可能な治具が設けられていた。さらに、復圧室には、減圧室のアンコイラーから送り出されたコイルを巻き取るコイラーが設けられていた。
試験片に対するスパッタリング処理が均一に施されるように、ホルダーは、自転可能に構成されていた。減圧室、前処理室、第1スパッタリング処理室、第2スパッタリング処理室、および復圧室のうち隣接するものの間には、可動式の仕切り扉が設けられていた。仕切り扉を開放することにより、隣接する室は連通し、仕切り扉を閉じることにより、隣接する室の間で気体の流通が遮断された。
減圧室と前処理室との間の仕切り扉が閉じられているときは、ホルダーを搬入するために、減圧室を大気開放しても、前処理室へは大気は流入しない。復圧室と第2スパッタリング処理室との間の仕切り扉が閉じられているときは、ホルダーを搬出するために、復圧室を大気開放しても、第2スパッタリング処理室へは大気は流入しない。これにより、減圧室へのホルダーの搬入時、および復圧室からのホルダーの搬出時に、前処理室内、ならびに第1および第2スパッタリング処理室内の圧力を、たとえば、5×10−3mmHg(6.7×10−1Pa)以下で制御可能であった。また、各室の圧力、および雰囲気は、独立に制御が可能であった。ただし、各室で設定可能な圧力および雰囲気には、個別に制約はあった。
第1および第2スパッタリング処理室内には、必要に応じて、減圧下でアルゴンガス、水素ガス、メタンガス、プロパンガス、ジボランガス等の所望のガスを、流量調整しながら導入することが可能であった。この装置で均一に表面改質処理可能な対象物の幅は、最大で600mmであった。スパッタリング処理時の標準的な励起周波数は、13.56MHzであった。スパッタリング時には、試験片にバイアス電圧として−100V〜−5000Vを印加したが、必要に応じて、設定を変更した。必要に応じて、高周波パルス電圧に切り替えた。第1および第2スパッタリング処理室は、通常のマグネトロンスパッタリングを行う能力に加え、HIPIMSによるスパッタリング能力も有していた。
前処理室には、予備加熱装置が設置されていた。この予備加熱装置は、通電加熱可能な発熱体を備えていた。この発熱体の輻射熱により、試験片をホルダー背面より予備加熱することが可能であった。予備加熱温度として、設定可能な上限は1000℃であった。前処理室は、表面改質処理中の試験片の温度を試験片背面側で測定するように構成されていた。この予備加熱装置により、ホルダーに固定された状態の試験片を、スパッタリング処理室に搬送する前に予備加熱可能であった。前処理室は、水冷によって試験片の温度を制御できるようには構成されていなかった。前処理室内が減圧状態であるときは、試験片の経時的な温度低下は極めて遅かった。このため、前処理室で予備加熱された試験片の温度は、第1スパッタリング処理室で表面改質処理を開始するまで維持されたとみなせた。
次に、試験片に対する表面改質層の形成方法および条件について、具体的に説明する。前処理室で、試験片表面に対するボンバード処理を行った。続いて、第1スパッタリング処理室で、この試験片に対して表面改質処理を行うことにより、表面改質層を形成した。所定の試験片に対しては、第1スパッタリング処理室で表面改質層(第1層)を形成した後、第2スパッタリング処理室で、さらに表面改質処理を行うことにより、表面改質層(第2層)を形成した。
本実施例では、比較評価を容易にするために、試験片として、基材1〜9から互いに異なる4種の基材を選択して、1つのホルダーに取り付けて処理を行なった。表2に、各チタン材を作製するために用いた基材を、表1の基材番号で示す。
減圧室へホルダーを搬入した後、減圧室の大気開放用扉を閉じて、減圧室内の排気を開始した。前処理室内部の圧力が2×10−9Torr(2.66×10−7Pa)となったときに、純度が99.999体積%以上の市販の工業用高純度Hガスと、純度が99.999体積%以上の市販の工業用高純度Arガスとを、同時に装置内に導入した。その際、体積割合でH濃度が6%となるように流量比を調整した。HガスおよびArガスの導入後の減圧室および前処理室の内部の圧力は、1.2×10−2Torr(0.16Pa)以下であった。
この状態を20分間維持した後に、減圧室と前処理室との間の仕切り扉を開放して、減圧室から前処理室へのホルダーの搬送を開始した。この際のホルダーの搬送速度は、可変であったが、本実施例では10cm/分とした。この搬送速度は、このスパッタリング処理装置で標準とされる速度であった。ただし、必要に応じて、搬送を停止および再開した。
前処理室内において、予備加熱装置からの輻射熱を与えることにより、試験片温度を、300〜900℃の範囲内の温度に予備加熱した。具体的には、試験片の予備加熱温度を、目標値で300℃、500℃、または860℃とした。
予備加熱の後、前処理室内でArおよびHの混合雰囲気中で、試験片に対してイオンボンバード処理を行った。これは、基材最表層に吸着していた水分、ならびに薄い水酸化物層および酸化物皮膜層を、完全に除去するためであった。ボンバード処理の時間は、事前の検討結果に基づき、いずれの試験片に対しても60秒とした。
次に、第1および第2のスパッタリング処理室で、試験片に対して表面改質処理を施した。ただし、所定の試験片に対しては、第2スパッタリング処理室内での表面改質処理は行わなかった。スパッタリング処理時には、高純度ArおよびHガスに加えて、処理室内のプラズマが形成された領域に、純度が99.999体積%以上の高純度CHガスを導入した。表面改質層中にBをドーピングする場合は、処理室内のプラズマが形成された領域に、純度が99.995体積%以上の高純度Bガスを導入した。
表面改質層の組成および厚さは、表面改質層を構成する各元素を含むターゲットを用いるか否か、ならびに導入ガスの組成および流量により調整し、ターゲットを用いる場合は、さらに下記の要件により調整した。
・ターゲットの組成
・スパッタリング条件
・ライン内の励起させるターゲット数(最大で4ゾーン)
・スパッタリングゾーンでのホルダーの搬送速度
第1スパッタリング処理室では、純度が99.995質量%を超えるTi製のターゲットを用いて、プラズマ処理により、表面改質層(第1層)を形成した。このターゲットのAl含有率は10ppb未満であった。第1層の目標厚さは、6nmとした。第2スパッタリング処理室では、75質量%Ti−25質量%Alのターゲット、または65%Ti−35%Alのターゲットを用いて、直流プラズマCVD処理により、表面改質層(第2層)を形成した。
得られた表面改質層について、定性および定量分析をし、厚さを測定するととともに、基材に対する密着性を調査した。表面改質層の分析は、アルバック・ファイ社製Quantera SXM 走査型X線光電子分光分析装置(XPS)により行った。
表面改質層の厚さは、XPS定量分析の結果に基づいて求めた。具体的には、XPSによる深さ方向の定量分析結果より、表面改質層の第1層、第2層および第3層それぞれの厚さ、ならびに表面改質層の厚さを、以下のようにして求めた(後述の第2の実施例についても同様)。
(i) 表面改質層が第1層のみを有する場合(図2A参照)
第1層の厚さ:基材と第1層との界面の位置と、第1層の外側表面(基材とは反対側の表面)の位置との距離
表面改質層の厚さ:第1層の厚さ
(ii) 表面改質層が第1層および第2層を有し第3層を有さない場合(図2B参照)
第1層の厚さ:基材と第1層との界面の位置と、第1層と第2層との界面の位置との距離
第2層の厚さ:第1層と第2層との界面の位置と、第2層の外側表面(第1層とは反対側の表面)の位置との距離
表面改質層の厚さ:第1層の厚さと第2層の厚さとの合計値
後述の第3の実施例では、各層の厚さおよび表面改質層の厚さを以下のようにして求めた。
(iii) 表面改質層が第1層および第3層を有し第2層を有さない場合(図2C参照)
第1層の厚さ:基材と第1層との界面の位置と、第1層と第3層との界面の位置との距離
第3層の厚さ:第1層と第3層との界面の位置と、第3層の外側表面(第1層とは反対側の表面)の位置との距離
表面改質層の厚さ:第1層の厚さと第3層の厚さとの合計値
(iv) 表面改質層が第1層、第2層、および第3層を有する場合(図2D参照)
第1層の厚さ:基材と第1層との界面の位置と、第1層と第2層との界面の位置との距離
第2層の厚さ:第1層と第2層との界面の位置と、第2層と第3層との界面の位置との距離
第3層の厚さ:第2層と第3層との界面の位置と、第3層の外側表面(第2層とは反対側の表面)の位置との距離
表面改質層の厚さ:第1層の厚さと第2層の厚さと第3層の厚さとの合計値
前記界面の位置は、XPS分析により得られる分析値(at%)の深さ方向分布(profile)についての半値幅位置として決定した。隣接する2つの層の界面で濃度分析値の明確な変化が確認される元素を基準とした。具体的には、基材と第1層との界面の位置は、C濃度分析値に基づいて算出した。第1層と第2層との界面の位置は、Al濃度分析値に基づいて算出した。第1層と第3層との界面の位置、および第2層と第3層との界面の位置は、Cr濃度分析値に基づいて算出した。
第1層のO含有率は、XPSにより定量評価される第1層のO濃度分析値の平均値として求めた。具体的には、O濃度を表面改質層の厚さ方向(表面からの深さ方向)の位置の関数とみなしてO濃度分布の積分値を求め、この積分値を第1層の厚さで除した値を第1層のO含有率として算出した。なお、この方法では、O濃度の定量下限(限界)は0.1at%程度である。
基材に対する表面改質層の密着性は、テープ剥離試験(JIS H 8504)により評価した。テープ剥離試験は、チタン材に曲げ等の加工を施す前(初期)、およびU曲げ後に実施した。テープ剥離試験は、チタン材端部の平坦部表面で実施した。テープとしては、市販のニチバン社製24mm幅のセロテープ(登録商標、品番:CT405AP−24)を用いた。このセロテープ(登録商標)を、上記平坦部表面に貼り付け、剥がした後、このセロテープ(登録商標)の接着面に存在する剥離した表面改質層の有無および量を目視で評価し、ランク分け評価した。
U曲げ後のテープ剥離試験は、「可撓性評価試験」とも呼ばれる。U曲げは、幅が20mmの短冊形状の試験片(チタン材)を、この試験片8枚の厚さ(本実施例では、0.125mm×8=1.0mm)と同じ厚さを有する板の端部に沿わせるように、U字形状に曲げるものとした。U曲げ後の変形部外側表面に対して、上記と同様のテープ剥離試験を行った。
剥離の程度を目視評価する際、セロテープ(登録商標)の接着面に付着した表面改質層を確認しやすくするために、黒色のケント紙上に、セロテープ(登録商標)を貼り付けて観察した。ランクは、表面改質層の剥離量の少なさにより、「良好(○印)」、「やや劣る(△印)」、および「劣る(×印)」とした。「良好(○)」としたものでは、全く剥離が確認されなかった。「劣る(×)」としたものでは、明瞭な剥離が確認された。「やや劣る(△)」としたものでは、極めてわずかな剥離が認められた。一般的に、表面改質層は、延性に乏しく、曲げ加工すると、割れまたは基材からの剥離を生じやすい。表面改質層について、チタン材をU字形状に曲げた後の性状と、化学組成の分析結果とから、O含有率の曲げ加工性への影響を定性的に評価可能である。表2の「剥離評価」の欄には、U曲げ後のテープ剥離試験の結果を、「○」、「△」、および「×」のいずれかで示す。
また、各チタン材を、固体高分子形燃料電池のセル用構成部材に適用することを想定して、カーボンペーパーとの接触抵抗を測定した。接触抵抗の測定は、チタン材を、1対の東レ製カーボンペーパーTGP−H−90で挟み込み、この1対のカーボンペーパーを1対の白金板間に挟んで、4端子法により行った。これは、燃料電池用セパレータ材の評価で一般的に行われる測定方法である。カーボンペーパーは、測定毎に交換した。測定時の負荷荷重は10kgf/cm(9.81×10Pa)で一定とした。接触抵抗の値が低いほど、燃料電池の発電時のIR損、すなわち、発熱によるエネルギー損が小さいので、好ましい。
表2に、以上の評価結果を示す。表2の表面改質層の「組成」の欄で、TiC、(Ti、Al)C、(Ti、Al)(C、B)、Ti0.75Al0.250.25、およびTi0.67Al0.330.33はいずれも、化学量論比で示しているが、組成比が化学量論比からわずかにずれた非化学量論比である場合、および傾斜組成を有する場合もあった。表面改質層は、実質的に全体が結晶質である場合のみならず、非晶質相を含む場合もあった。(Ti、Al)Cの表記は、Tiを主体としてTiの一部がAlで置換されたTiC型のチタン系炭化物であったことを示している。(Ti、Al)(C、B)の表記は、さらにCの一部がBで置換されたTiC型のチタン系炭化物であったことを示している。
TiC型のチタン系炭化物が形成されていることは、リガク社製X線回析装置 RINT−TTRIIIを用いた薄膜X線回折(XRD;X-Ray Diffraction)法により確認した。AlおよびBの置換の有無は、XRDのピーク位置から求めたTiC型のチタン系炭化物の格子定数により確認した。また、AlおよびBの置換量も、格子定数から求めた。
第1および第2スパッタリング処理室の双方で表面改質層を形成した試料については、表2の表面改質層の「組成」の欄で、2種類の組成を記している。最初に記した組成は、基材との界面付近の組成であり、2番目に記した組成は、表面付近の組成である。最初に記した組成は、第1スパッタリング処理室で形成された表面改質層(第1層)の組成である。2番目に記した組成は、第2スパッタリング処理室で形成された表面改質層(第2層)の組成である。たとえば、TiC/Ti0.75Al0.250.25と表記したものでは、第1層の組成がTiCであり、第2層の組成がTi0.75Al0.250.25であった。
第1スパッタリング処理室では、表面改質処理時のAlの供給源は、実質的に基材しか存在しなかった。このため、表面改質層を構成するAlは、基材中のAlを起源とするとみなすことができる。基材のAl含有率(表1参照)が高くなるほど、第1層でTiの一部を置換するAlの割合は、概ね増える傾向があった。
本発明の実施例では、いずれも、第1層のO含有率は3at%以下であった。基材のAl含有量が高いほど、第1層のO含有率が低い傾向があった。基材中のAlを起源とするAlプラズマイオンは、励起された高温のプラズマ中で酸化され、AlO、AlO、Alなどのアルミニウム酸化物の蒸気として装置外に真空排気されたと考えられる。このため、基材のAl含有率(表1参照)が高いほど、第1層のO含有量が低下したと考えられる。表2には記載していないが、第2層中のO含有率は、いずれも1at%未満であった。これは、第2層の形成時には、Alを25%または35%含有するターゲットを用いたことにより、プラズマ中のAlイオンの量が多くなり、第1層形成時に比して、より脱酸が進行したためと考えられる。
表2では、接触抵抗値が20mΩ・cm以上のものを「劣る」としている。この基準値は、固体高分子形燃料電池のセパレータとして安定して確保すべき接触抵抗値の許容上限値の一例である。本発明の実施例であるチタン材の接触抵抗は、いずれも良好であった。これは、表面改質層そのもの(酸化物が形成されていない部分)の導電性が良好であるとともに、表面改質層中に酸化物が少ないことによると考えられる。
比較例1、4、5、6、7、8、9、10、および11については、いずれも、基材(試験片)に対して、酸処理により表面粗さ調整を行い、前処理室でボンバード処理を行ったが、その後、表面改質処理を行わなかった。これらの比較例では、いずれも接触抵抗が高い。これは、基材をスパッタリング処理装置から搬出した後、基材表面に、水酸化物または酸化物の皮膜が生成したためであると考えられる。以上の結果から、固体高分子形燃料電池のセパレータとして用いるには、基材に対して導電性表面改質処理を行うことが好ましいといえる。
比較例2、および12、ならびに、実施例1、3、5、7、11、15、および18は、いずれも表面改質層は第1層のみからなり、その厚さは6nmであった。表面改質処理層の組成は、TiC、または(Ti、Al)Cであった。比較例2の表面改質層は、TiC型のチタン炭化物でありAlが検出されなかった。一方、実施例1の表面改質層には、Tiの一部がAlで置換する(Ti、Al)Cが形成されたと考えられる。
比較例2では、表面改質層の基材との密着性は劣っていた。これに対して、実施例1では、表面改質層の基材との密着性は良好であった。この違いは、基材のAl含有率に起因すると考えられる。具体的には、基材のAl含有率は、比較例2(基材1)では0.53ppmであるのに対して、実施例1(基材2)では1.22ppmであった。この結果から、基材のAl含有率は1ppmを超えることが好ましいと判断される。
実施例9および実施例13の表面改質層の第1層の組成は、(Ti、Al)(C、B)であった。表面改質層に含まれるBは、表面改質処理時に導入したジボランガスを起源としている。この組成を有する部分には、Tiを主体としてその一部がAlで置換され、かつCの一部がBで置換されたTiC型のチタン系炭化物が形成されていたと考えられる。実施例9および実施例13の試料の接触抵抗は、他の試料の接触抵抗に比して低かった。これは、第1層がBを含有することによる効果と考えられる。また、実施例9および実施例13の試料では、基材に対する表面改質層の密着性は高かった。
表2の「組成」の欄に「Ti0.75Al0.250.25」と記した表面改質層には、ペロブスカイト型のAl含有チタン系炭化物が形成されていたと考えられる。この組成の表面改質層は、表面改質処理時の基材温度が500℃超え900℃以下であった試料に形成されていた。表2の「組成」の欄に「Ti0.67Al0.330.33」と記した表面改質層は、表面改質処理時の基材温度が900℃を超えた試料に形成されていた。接触抵抗の値から、いずれの表面改質層も、導電性に優れることが確認できた。
比較例14は、他の試料の評価基準となるものである。比較例14の試料は、SUS316Lの基材に金(Au)めっきを施したものである。金めっき処理は、シアン浴を用いた電解金めっきにより行った。金めっきの目付量は、50nmとした。金めっき材は、従来の固体高分子形燃料電池のセパレータ用材料として、最も優れた電気的導電性を有するとともに、最も低い接触抵抗値を有する。接触抵抗の値から、発明の実施例では、比較例14の試料と同等以上の導電性が得られたことがわかる。
以上の試験とは別に、表面改質層を、より厚く形成する試験を行った。その結果、表面改質層の厚さが厚くなるに従って、表面改質処理後のチタン材の反りが大きくなり、表面改質層に割れが認められるようになった。チタン材の反り、および表面改質層の割れは、表面改質層の内部に圧縮応力が生じたために発生したと考えられる。このような、反りおよび割れが生じることを防止するためには、表面改質層の厚さは、3μm以下とすることが好ましく、2μm未満とすることがより好ましい。本発明のチタン材における表面改質層の厚さは、特に限定されないが、所望の性能が得られるのであれば、5〜500nmであることが最も好ましい。
〈第2の実施例〉
第1の実施例で良好な性能が得られたチタン材の作製条件を採用してセパレータを作製し、このセパレータを組み込んだ固体高分子形燃料電池の特性を調査した。これにより、第1の実施例で良好な性能が得られたチタン材を、固体高分子形燃料電池のセパレータとして用いた場合に、電池(セル)の特性として良好な結果が得られるか否かを確認した。
最初に、基材の成形性をさらに調査するために、予備試験で作製した冷間圧延コイル(表面改質層が形成されていないもの)を固体高分子形燃料電池のセパレータの形状に良好に成形できるか否かを調査した。まず、各冷間圧延コイルから、幅が240mmのコイルを2本採取した。採取したコイルを、250トン能力のプレス機と順送りプレス金型とを用いてプレス加工し、固体高分子形燃料電池のセパレータを作製した。このセパレータは、サーペンタイン型の3本の流路を有するものであった。電池反応に寄与する流路の面積は100cmであり、流路部の山および谷の幅はいずれも0.4mmであり、流路の深さは0.4mmであり、肩半径は0.1mmであった。
コイルをセパレータの形状に成形する際、コイルの成形性が劣ると、割れが発生する。基材1〜8のコイルは、割れが発生することなく、上記セパレータの形状にプレス加工することができた。一方、基材9のコイルは、プレス加工による割れの発生を完全に回避することができなかった。基材9のコイルは、上述のように、第1の実施例でのプレス成形試験でも割れが生じた。これは、基材9のAl含有率が5530ppmと高かったことと関係していると考えられる。
次に、作製したセパレータの一部に対して、酸処理ラインで酸液を用いた処理を行い、表面粗さを調整した後、水洗した。酸処理ラインを安定して通すことが可能な素材の幅は、最大で400mmであった。酸処理ラインにセパレータを通す際、テフロン(登録商標)製バックアップロールで下方よりセパレータを支持した。これにより、セパレータの変形を防止した。
酸処理ラインは、セパレータの上方および下方から酸液をスプレー噴霧するスプレー噴霧ゾーンと、酸液にセパレータを浸漬する浸漬ゾーンとを備えていた。セパレータは、スプレー噴霧ゾーンと浸漬ゾーンとを通した。スプレー噴霧の条件、および浸漬の条件を調整することにより、セパレータ表面のエッチング量、および表面粗さを調整した。酸処理ラインは、フィルターが装着されたタンクと、スプレー噴霧ゾーンおよび浸漬ゾーンとの間で、酸液を循環させるように構成されていた。タンクの容量は500リットルであった。酸液による処理中、酸液の酸濃度を所定の濃度が維持されるように調整した。本実施例では、酸液として、硝酸15質量%、およびふっ酸3質量%を含有する硝ふっ酸水溶液を用いた。酸液の温度は、タンク内で40±0.5℃となるように設定した。
酸処理が終了した直後に、セパレータに対して、清浄水を用いて、噴霧による水洗と浸漬による水洗とを行った。使用した清浄水は、地下水をくみ上げたものであった。その後、セパレータを、85±2℃に設定したトンネル型ドライオーブン炉に通すことにより、乾燥した。ドライオーブン炉は、耐熱鋼線製メッシュベルトによりセパレータを搬送するように構成されていた。以上の工程を経たセパレータの表面に、不動態皮膜が存在することを確認した。乾燥処理直後の不動態皮膜の厚さは約2nmであった。不動態皮膜は、酸処理後、たとえば、乾燥処理の際等に、大気中で不可避的に成長したものと考えられる。
これらのセパレータに対して、第1の実施例で用いたものと同じスパッタリング処理装置で、スパッタリング処理を行った。その際、試験片であるセパレータの形状に適合するホルダーを用いたこと以外は、第1の実施例と実質的に同じ方法および条件により、表面改質層を形成した。これにより、導電性を有する表面改質層が表面に形成された基材を備えたセパレータを得た。
以上の工程を経た各セパレータと、市販されている標準的なMEAとを用いて、固体高分子形燃料電池の単セルを組み立て、燃料電池としての特性を評価した。燃料電池の運転条件は、電流密度が0.1A/cmの定電流運転とした。これは、家庭用据え置き型燃料電池の運転条件のひとつである。H、およびOの利用率は、40%で一定とした。評価時間は、いずれのセパレータを用いた燃料電池についても、2000時間で一定とした。
比較のため、厚さが0.1mmのSUS316L製セパレータであって、表面に金(Au)めっきを施したものを用意した。金めっきの前に、酸処理により、表面粗さを、Ra値で0.30μmに調整した。金めっきは、シアン浴を用いて、平均目付量を50nmとして実施した。これは、従来のセパレータでは、燃料電池として最も良好な性能が得られるもののひとつである。このセパレータを用いて、上記と同様に、固体高分子形燃料電池の単セルを組み立て、この単セルを、同じ条件で運転した。
各燃料電池を2000時間運転した後のセル電圧を測定した。セル電圧は、運転直後のセル電圧に近い電圧が維持できているほど、燃料電池としての特性は良好である。
表3に、セパレータの作製条件、表面改質層の組成および厚さ、ならびに燃料電池運転後のセル電圧を示す。セパレータの作製条件として、用いた基材(表1の基材番号)、用いたターゲットの組成、および表面改質処理時の基材(セパレータ)の温度を示す。
Figure 0006344539
セル電圧は、本発明の実施例では、運転直後は0.788V程度あったが、時間とともに低下した。燃料電池運転後のセル電圧は、2000時間運転後に0.750Vを超えたものを良好と判断した。本発明の実施例では、いずれも、0.750Vを超え、良好であった。本発明の実施例では、いずれも、比較例15と同等以上の性能が得られた。
〈第3の実施例〉
第1の実施例と同様の方法および条件により、表面改質層を有する試験片(チタン材)を作製した。ただし、実施例43〜53では、第2スパッタリング処理室において、第1層の上に、第2層の代わりに第3層を形成した。実施例54および55では、第2スパッタリング処理室において、第1ゾーンで第1層の上に第2層を形成し、さらに第2ゾーンで第2層の上に第3層を形成した。第2層の形成に用いたターゲットは、第1の実施例で用いたものと同様とした。第3層の形成に用いたターゲットは、直径が300mmで、80質量%Cr−20質量%Alの組成を有した。このターゲットは、放電プラズマ焼結法により作製した。以上のターゲットを用いて、直流プラズマCVD法により、第3層、または第2層および第3層を形成した。その際、Cの供給源として、純度が99.999体積%以上のCHガスを導入した。また、実施例48および51では、Bの供給源として、純度が99.995体積%以上のBガスも導入した。第1層の厚さは6nmを目標とし、第2層および第3層の厚さはそれぞれ50nmを目標とし、表面改質層を形成した。得られた試験片を評価した。
表4に、チタン材の作製条件、表面改質層の組成および厚さ、第1層のO含有率、ならびに評価結果を示す。チタン材の作製条件として、用いた基材(表1の基材番号)、用いたターゲットの組成、および表面改質処理時の基材の温度を示す。表面改質層の組成は、第1層の組成/第3層の組成、または、第1層の組成/第2層の組成/第3層の組成の順に示している。評価結果として、テープ剥離試験の結果、チタン材の接触抵抗、および燃料電池運転後のセル電圧を示す。表面改質層の厚さは、実施例43〜53では第1層と第3層との合計厚さであり、実施例54および55では第1層と第2層と第3層との合計厚さであった。表面改質層の組成および厚さ、表面改質層の密着性(剥離評価)、ならびに、チタン材の接触抵抗、および燃料電池運転後のセル電圧の測定方法は、第1および第2の実施例と同様であった。
第3層の組成として、CrAlC、CrAlC、CrAlCB、およびCrAlCBは、いずれも化学量論比で示しているが、組成比が化学量論比からわずかにずれた非化学量論比である場合、および傾斜組成を有する場合もあった。表面改質層は、実質的に全体が結晶質である場合のみならず、非晶質相を含む場合もあった。
Figure 0006344539
実施例43〜55のチタン材の接触抵抗は、いずれも、20mΩ・cm未満と十分に低かった。第3層の組成がCrAlCであったチタン材について、表面改質処理時の基材温度が450℃以上であったもの(実施例44、46、50、および53)の接触抵抗は、この基材温度が450℃未満であったもの(実施例43、45、49、および52)の接触抵抗に比して低かった。これは、CrAlCの組成比を有する層が450℃付近の温度を超えて結晶化することと関係しているものと考えられる。いずれの実施例においても、第1層のO含有率は3at%以下であり、剥離評価は良好であった。表4には記載していないが、第2層中のO含有率、および第3層中のO含有率は、いずれも1at%未満であった。
実施例43〜55のセルの燃料電池運転後のセル電圧は、いずれも、0.750Vを超え、良好であった。
1:固体高分子形燃料電池、 2:固体高分子電解質膜、
3:燃料電極膜(アノード)、 4:酸化剤電極膜(カソード)、
5a,5b:セパレータ、 6a,6b:流路、
10A〜10D:チタン材、 11:基材、 12:表面改質層、
13:第1層、 14:第2層、 15:第3層

Claims (9)

  1. 基材と、前記基材上に形成された表面改質層とを備えるチタン材であって、
    前記基材は、質量%または質量ppmで、
    Fe:0.010〜0.100%、
    O:0.005〜0.110%、
    Al:1.0ppmを超え5000ppm以下、ならびに
    Au、Ag、Pt、Pd、およびRuの1種または2種以上:0〜0.25%
    を含有し、残部がTiおよび不純物からなり、
    前記不純物は、
    C:0.015%以下、
    N:0.020%以下、および
    H:0.015%以下
    を含有し、
    前記表面改質層は、(Ti、Al)C(0.5≦m≦1.5)の組成比を有する第1層を含む、チタン材。
  2. 請求項1に記載のチタン材であって、
    前記第1層が、Cの一部に代えてBを含有し、(Ti、Al)(C、B)(0.5≦m≦1.5)の組成比を有する、チタン材。
  3. 請求項1または2に記載のチタン材であって、
    前記表面改質層は、前記第1層の上に形成された第2層をさらに含み、
    前記第2層は、Ti0.75Al(0.2≦x≦0.3、0.2≦y≦0.3)の組成比、またはTi0.67Al(0.3≦p≦0.6、0.3≦q≦0.6)の組成比を有する、チタン材。
  4. 請求項1〜3のいずれかに記載のチタン材であって、
    前記表面改質層は、前記第1層の上に形成された第3層をさらに含み、
    前記第3層は、(Cr、Al)C(0.3≦n≦1.5)の組成比を有する、チタン材。
  5. 請求項4に記載のチタン材であって、
    前記第3層が、Cの一部に代えてBを含有し、(Cr、Al)(C、B)(0.3≦n≦1.5)の組成比を有する、チタン材。
  6. 請求項1〜5のいずれかに記載のチタン材であって、
    前記第1層のO含有率が、3at%以下である、チタン材。
  7. 請求項1〜6のいずれかに記載のチタン材を備える、固体高分子形燃料電池のセル用構成部材。
  8. 請求項7に記載の構成部材を備える、固体高分子形燃料電池のセル。
  9. 請求項8に記載のセルを備える、固体高分子形燃料電池。
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