JP6341053B2 - 複合非金属介在物を含有する高Siオーステナイト系ステンレス鋼 - Google Patents

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Description

本発明は、高温、高濃度の硝酸環境中で使用するのに適した高Siオーステナイト系ステンレス鋼に関する。
ステンレス鋼は、硝酸中で安定な不働態皮膜を形成し、優れた耐食性を発揮する。しかし、例えば温度:60〜90℃、濃度:98質量%といった、高温、高濃度の硝酸は、極めて酸化性が強く、一般のステンレス鋼では過不働態腐食を生じる。過不働態腐食により、不働態皮膜を形成するCrの溶出に伴う全面腐食が進行する。
この種の環境で耐食性を有する材料として、特許文献1,2により開示された高Siオーステナイト系ステンレス鋼がある。これらの高Siオーステナイト系ステンレス鋼は、過不働態領域において、シリケート(SiO)皮膜が形成されることにより優れた硝酸耐食性を示す。
しかし、耐酸性については、大きな問題とはなっていないものの、腐食が過度に進行する場合があり、その原因等は不明な点が多く、解決を図る必要があった。
また、高Siオーステナイト系ステンレス鋼では、Si含有量が高いことから、鋼中に多くの介在物や金属間化合物が形成され、熱間加工性を低下させる原因となっていた。これを解決するために、特許文献3には、化学組成をAl:0.05%以下(本明細書では化学組成に関する「%」は特に断りがない限り「質量%」を意味する)、O:0.003%以下に制限するとともに、1100〜1250℃で長時間のソーキングおよび/または均熱を実施して金属間化合物を消滅させてから熱間圧延を行うことによって、熱間加工性を改善する発明が開示されている。この発明では、介在物はトータル量で制限し、種類別については制限していない。
特許文献4には、加工フロー耐食性を損なう酸化物の生成を防ぐために、sol.Al量を規定することが開示されているが、溶鋼中に生成する介在物について検討したものではなく、介在物起因の耐食性劣化に関する記載は全くない。一般的に、Al等の介在物量とsol.Al量とは直接関係しないために、sol.Al量を規定するだけでは、介在物起因の問題は十分に防止できない。
特許文献5には、介在物が腐食の起点となるため、介在物を微細分散させて耐食性を向上させる発明が開示されている。しかし、この発明は、Sの規制と熱間圧延条件の規制によりMnSの微細分散を図っているだけであり、アルミナ介在物等については何も開示していない。
特許文献6には、介在物の組成を制御することによって、クラスター形状を塊状化させ、非水溶性とすることにより孔食を防ぐ発明が開示されている。しかし、このような介在物は、高温高濃度硝酸化では耐食性確保に必要なシリケート皮膜の形成を阻害し、介在物自身も腐食の起点となり得る。
さらに、特許文献7には、B系介在物となるアルミナ介在物の面積比を規定することにより、耐硝酸性に優れたステンレス鋼の製造方法が開示されている。このアルミナ介在物は他の介在物と複合化してC系介在物となることがある。しかし、このC系介在物に関して、特許文献7の段落0041に「この種の介在物はCaO等が主体のC系介在物と外見上区別がつかないこと、およびB系介在物が増えると前記の複合/混合介在物も増えるために、本発明では、B系介在物の含有量を制限することによって、間接的に前記複合/混合介在物の量も制限されることになり、目的とする効果が達成される。」と記載されるだけである。さらに、特許文献7では、通常操業では行われないような徹底的な除滓を行って、アルミナ介在物を徹底的に除去することを狙っている。さらに、特許文献7では、アルミナ介在物が他の介在物と複合化したC系介在物に関しては、具体的には何も規定していない上に、Al含有量が0.1%程度である高価なFe−Si合金を使用するため経済性に問題がある。
特許3237132号明細書 特許1119398号明細書 特開平5−51633号公報 特開平6−306548号公報 特開平4−202628号公報 特許第4025170号明細書 国際公開第2013/18629号パンフレット
本発明の目的は、高Siオーステナイト系ステンレス鋼の耐酸性をさらに安定化させ、耐腐食性が特許文献7に記載された発明よりもいっそう良好なオーステナイト系ステンレス鋼を提供することである。
本発明者らは、高Siオーステナイト鋼の耐酸性が安定しない理由を検討した結果、特許文献7にも一部を記載したように、以下の知見A〜Cを得て、本発明を完成した。
(A)高温、高濃度の硝酸中では、よく知られているように、鋼表面は過不働態腐食となり、不働態皮膜のCrが溶出し、母材の溶出が起こる。鋼中にSiを含有させることによって、鋼表面に再析出し、シリケート皮膜(SiO)を形成することにより硝酸耐食性が示される。
この時、鋼中にAlのように、圧延加工により変形しに難い介在物(後述するB系介在物)が存在すると、介在物自身が腐食起点となり、腐食が進行してしまう場合がある。
(B)JIS G 0555(2003)付属書1「点算法による非金属介在物の顕微鏡試験方法」(以下、単にJIS G 0555に記載の方法という)には、鋼の非金属介在物の顕微鏡試験方法が規定されている。一般的に介在物の種類は、熱間圧延のような加工によって粘性変形したA系介在物(硫化物のA系、SiOなどのケイ酸塩のA系とに細分化される)、加工方向に集団をなして不連続に並んだ粒状のB系介在物(アルミナなど酸化物系のB系と炭窒化物系のB系とに細分化される)、および粘性変形せずに不規則に分散したCaOなどのC系介在物とに分類される。
アルミナのようなB系介在物は、Alの酸化により生成するが、融点が高いため、溶鋼精錬処理中も融解することなく、固体で存在する。これらの粒子は、溶鋼処理中に粒子同士の衝突時に互いに吸着して凝集し、クラスター状で成長するが、他の介在物と複合化することで、その形状は変化する場合がある。
NbCはB系介在物として分類されるが、高温、高濃度硝酸溶液中には溶解しないため、この介在物が腐食起点となる問題は発生しない。
SiOはA系介在物として分類されるが、高温、高濃度硝酸溶液中には溶解しないため、この介在物が腐食起点となる問題は発生しない。
(C)高温高濃度硝酸中の耐食性に影響を及ぼす主な介在物は、アルミナのようなB系介在物だけではなく、NbC−Al−SiOのようなAlを含む複合介在物も挙げられる。このため、特許文献7に記載された発明よりもいっそう優れた耐硝酸性を示すためには、B系介在物であるAlの量の規制だけではなく、Alを含む複合介在物中のNbおよびSi含有量も規制することが有効である。具体的には、複合介在物中にNbおよびSiを0.18at%以上とすることにより、特許文献7に記載された発明よりもいっそう優れた耐硝酸性を得られる。
本発明は、C:0.04%以下、Si:2.5〜7.0%、Mn:10%以下、P:0.03%以下、S:0.03%以下、N:0.035%以下、sol.Al:0.03%以下、Cr:7〜20%、Ni:10〜22%、Nb:0.05〜0.7%、残部Feおよび不純物からなる化学組成を有し、JIS G 0555(2003)付随書1「点算法による非金属介在物の顕微鏡試験方法」に記載された方法により測定したB系介在物の合計量が0.03面積%以下であるとともに、AlとSi、Nbを含む介在物の複合介在物であるC系介在物を有し、該複合介在物中にNbおよびSiを0.18at%以上含有することを特徴とするオーステナイト系ステンレス鋼である。
本発明に係る高Siオーステナイト系ステンレス鋼は、安定化した耐酸性を示し、高温、高濃度の硝酸環境中での耐腐食性に優れている。したがって、このステンレス鋼は硝酸製造プラントの構成素材として好適であるが、耐酸性を求められる他の用途にも使用できる。
このように、本発明により、例えば特許文献7により開示された高Siオーステナイト系ステンレス鋼よりもさらに信頼性と経済性に優れた耐硝酸性ステンレス鋼を提供できる。
図1は、耐硝酸性試験前のC系介在物のSEM像の一例を示す説明図である。 図2は、耐硝酸性試験前のC系介在物のEDX分析結果の一例を示すグラフであり、図2(a)は図1に示すSEM像における白色介在物の分析結果を示し、図2(b)は図1に示すSEM像における黒色介在物の分析結果を示す。 図3は、腐食速度とC系介在物中のSi,Nb元素比との関係を示すグラフである。
以下、本発明に係るオーステナイト系ステンレス鋼について、添付図面も参照しながらより詳しく説明する。
1.化学組成
[C:0.04%以下]
Cは、鋼の強度を高める元素ではあるが、溶接部の熱影響部において粒界にCr炭化物を形成させ、鋭敏化(粒界腐食の感受性増大)の原因となるなど、耐食性を劣化させる元素である。したがって、C含有量は0.04%以下とする。C含有量は、好ましくは0.03%以下であり、さらに好ましくは0.02%以下である。
[Si:2.5〜7.0%]
Siは、濃硝酸中での耐食性を高めるために2.5%以上7%以下含有させる。硝酸中での耐食性を確保するシリケート皮膜を形成するために、Si含有量は2.5%以上とする。一方、Siを過剰に含有させるとステンレス鋼のゼロ延性温度が低下し、熱間圧延を困難にして操業阻害を生じるとともに、コストアップになるだけでなく、溶接性の低下も招く。したがって、Si含有量の上限は7%とする。Si含有量の下限は、好ましくは2.7%であり、さらに好ましくは2.8%である。また、Si含有量の上限は、好ましくは6.8%であり、さらに好ましくは6.6%である。
[Mn:10%以下]
Mnは、オーステナイト相安定化元素であり、脱酸剤としても作用するので、10%以下の量で含有させる。Mn含有量が10%を超えると耐食性の低下、溶接時の高温割れ、さらには加工性の低下を招く。したがって、Mn含有量の上限は10%とする。Mn含有量は、5%以下であることが好ましく、2%以下であることがさらに好ましい。Mnの上記の効果を確実に得るためには、Mn含有量は、0.5%以上であることが好ましく、1.0%以上であることがさらに好ましい。
[P:0.03%以下、S:0.03%以下]
P,Sともに、耐食性、溶接性、Sについては、特に熱間加工性に有害な元素であり、その含有量は低いほどよく、いずれも0.03%を超えるとその有害性は顕著に現れる。そこで、Pが含有量は0.03%以下、S含有量は0.03%以下とする。
[N:0.035%以下]
Nは、Nbとの親和力が高く、これらの元素によるCの固定を阻害するので、できるだけ低い方が好ましい。N含有量が0.035%を超えるとその有害性が顕著に現れる。そこで、N含有量は0.035%以下とする。N含有量は、0.020%以下であることが好ましく、0.015%以下であることがさらに好ましい。
[sol.Al:0.03%以下]
Alは、脱酸剤やスラグの還元剤として用いられるが、それ以外に、合金中に含まれているために、合金添加の際に混入する。Alは、溶鋼中の溶存酸素と反応してAlを生成する。それ以外に、溶鋼中のSiO介在物やスラグ中の酸化物をAlが還元することでもAlが生成する。
特許文献7に開示されるように、表層に露出したAl介在物は、非水溶性であり、硝酸中での耐食性発揮に必要なシリケート皮膜の欠陥となり、介在物を起点とした腐食発生の原因となる。それ以外にも、鋳込み中のノズル閉塞や外観不良や割れ起点や腐食起点となるへげ疵の発生原因となる。したがって、本発明では、Al介在物が主成分であるB系介在物の量を一定以下に規制する。そのために、sol.Al含有量を0.03%以下とする。sol.Al含有量は、好ましくは0.02%以下である。Al含有量の低減は、Al含有量の低い合金を使用するなどにより実現できる。
[Cr:7〜20%]
Crは、ステンレス鋼の耐食性を確保するための基本元素であり、7〜20%とする。Cr含有量が7%未満では十分な耐食性を得られない。一方、Cr含有量が過剰になると、SiとNbの共存により多量のフェライトが析出した二相組織となって、加工性、耐衝撃性の低下を招くので、Cr含有量の上限は20%とする。Cr含有量の下限は、10%であることが好ましく、15%であることがさらに好ましい。
[Ni:10〜22%]
Niは、オーステナイト相の安定化元素であり、ゼロ延性温度を高める効果もあるので、10〜22%の量で含有させる。Ni含有量が10%未満では、オーステナイト単相とするには不十分である。一方、Niの過剰添加は、コストアップを招くだけであり、22%以下で十分にオーステナイト単相となる。Ni含有量の上限は18%であることが好ましく、14%であることがさらに好ましい。Ni含有量の下限は11%であることが好ましく、12%であることがさらに好ましい。
[Nb:0.05〜0.7%]
Nbは、Cを固定して鋭敏化による耐食性の低下を抑制する効果があり、特に溶接熱影響部の鋭敏化抑制にも有効な元素である。さらに、Cを固定してNbCとなった場合、Alと複合化し介在物自身の溶解を抑制する。しかしながら、Nb含有量が0.7%を超えると、加工性、耐食性を劣化させる。したがって、Nbの含有量は0.05%以上0.7%以下とする。
鋼の化学組成において、上記元素以外の残部はFeおよび不純物である。ここでいう不純物とは、本願の効果を発揮できる範囲で許容されるレベルの物を言い、例えば、Ca,Mg,Mo,Cu等が例示される。
2.介在物
(2−1)B系介在物
本発明において規定するB系介在物、C系介在物の量は、いずれも、上述のJIS G 0555に記載の方法にしたがって測定した量である。また、介在物の量(%)はいずれも面積%である。測定は、上記規格に規定された方法に従い、60視野測定して、その平均値を介在物量として算出する。
[B系介在物の合計量:0.03%以下]
本発明に係る高Siオーステナイト系ステンレス鋼の場合、化学組成からみて、B系介在物はほとんどがアルミナ(Al)である。鋼材の表層に露出したAl介在物は、非水溶性であり、硝酸中で耐食性を発揮するシリケート皮膜の生成を阻み、腐食起点となり得る。それ以外にも、溶鋼中のAl系介在物は、ノズル閉塞を引き起こし、鋳込み作業の阻害の原因となる。また、鋳片中に残存した介在物は、圧延により疵となり、見た目に悪いだけでなく、加工中や使用中に割れの起点となるために、疵除去の工程が必要となってくる。したがって、これらを改善するためには、B系介在物の量を0.03%以下とする。この量は好ましくは0.025%以下である。
(2−2)C系介在物
本発明では、C系介在物として検出されるSiO−Al−NbC複合介在物の金属元素中のSi,Nb比を規定することによって、C系介在物中のAlの溶解も抑制する。
[C系介在物中のNb、SiおよびAl元素比0.3以上]
本発明に係る高Siオーステナイト系ステンレス鋼の場合、後述する実施例で示すように、C系介在物はその殆どがアルミナ(Al)である。C系介在物として検出されるAlはNbCおよびSiOなどと複合化することにより、介在物中にNbとSiを含む。このC系介在物中のSi、Nbの元素比が0.18at%未満と少ない場合には、98%硝酸中で介在物自身が腐食起点となり、耐食性を劣化させる。
したがって、本発明では、C系介在物中のSi、Nbの元素比を0.18at%以上とする。これにより、特許文献7に記載された発明よりもいっそう優れた耐硝酸性を得られる。
3.製造方法
本発明に係る高Siオーステナイト系ステンレス鋼を確実に製造することができる方法を次に説明する。ただし、上記の化学組成および介在物により特定される本発明に係るステンレス鋼を製造することができる限り、他の製造方法を採用することも勿論可能である。
溶鋼中のAlは、(1)式に示すように、溶残酸素が存在する状態でAlやAlを含有するFe−Si合金を添加することにより生成する。
2Al+3O → Al ・・・ (1)
また、Alに比べて酸化性の弱い元素から生成された酸化物の介在物が存在する状態でAlやAlを含有するFe−Si合金を投入した場合、(2)式に示すようにAlがそれを還元してAlが生成する。
2Al+3MxO → 3xM+Al ・・・ (2)
高Si鋼の場合、大量にSiを投入することにより溶鋼中にSiO介在物が大量に生成する。そこへAlやAlを含有するFe−Si合金を投入した場合、(2)式に示すAlによる還元反応が起こり、(3)式に示す反応が起こる。
4Al+3SiO → 3Si+2Al ・・・ (3)
そこで、高Si鋼では、大量にSiを投入した後、SiOを鋼中に残存させ、Al量を規定することにより、上記(3)式の反応によるAl介在物の生成を抑える。しかし、この手法でAl介在物の生成をある程度抑えることは可能であるが、求められる耐食性を得るには不十分である。したがって、Al量の制限に加え、Al介在物量も制限する必要があり、そのために介在物浮上分離処理を行うことが必要となる。
上記(3)式の反応によるAl介在物の生成を抑える従来の手法としては、Alの投入量を規制または無添加とするだけでなく、Si源として使用するSi合金などにもAlが含まれているため、Al含有量の少ない合金を選択して使用する必要がある。しかしながら、本発明では生成したAl介在物をSiO、NbCと複合化させて無害化するので、Al含有量が1%程度のFe−Si合金を使用することができ、従来の手法よりも経済的に優位である。
本発明に係る高Siオーステナイト系ステンレス鋼を製造する際の鋼精錬段階における操業上望ましい条件を以下に示す。
まず、電気炉においてスクラップや合金の溶解を行う。
その後、精錬工程として、まずAOD(argon oxygen decarburization)炉、次にVOD(vacuumm oxygen decarburization)炉で脱炭処理する。
AODよる脱炭では、酸素ガスを用いて溶鋼中のCをCOガスとして系外除去する。その際、同時にクロムの酸化も進行するが、アルゴンガスを混合してCOガスの分圧を下げることにより、クロムの酸化を抑えつつ脱炭を行う。
それでも一部のクロムは酸化し、スラグ中へCrとして移行する。クロムは高価な元素であるため、処理終了後、還元剤を用いて溶鋼へ還元する。一般に還元剤として、AlまたはFe−Si合金を用いて還元させている。しかし、本発明の場合、高温高濃度硝酸中の耐食性を劣化させるアルミナ介在物の生成を抑制するために、Alの投入を制限する必要がある。そこでAODにおいて、還元時にはAlを用いずFe−Si合金のみを用いて還元を実施する。
ここで用いるFe−Si合金は、極力低Alの合金を用いる必要はなく、通常用いるAlが1%程混入している安価なFe−Si合金には、合金の製造過程で用いてよい。
さらに、還元後のスラグにはアルミナが含まれている。このスラグ中のアルミナが以降の工程で還元されて鋼中にAlとして含まれ、このAlがSiO系介在物等を還元してAl系介在物を生成してしまうことを避けるため、AODでの還元終了後に除滓を入念に行うことにより、スラグ中のアルミナを物理的に系外に除外する。
AODでの還元後、通常の操業では、発生スラグを地金表層が7割程度顔を出す状態まで除滓し、地金表層3割程度のスラグを残す。これは、除滓とともに系外へ排出される地金のロスによる歩留り悪化を防止するためである。しかし、本発明では、スラグ中のアルミナが溶鋼へAlとして還元され、これがSiO系介在物と反応してAl系介在物を生成してしまうことを避けるため、地金が9割以上表層に顔を出すまで除滓を徹底して行う。
その後、VODにより、さらにCを系外除去するため酸素ガスを用いて溶鋼中のCをCOガスとして系外除去する。系の真空引きを行い、圧力を低減させることでCOガスの分圧を下げてクロムの酸化を抑えつつ脱炭を行う。その後、スラグ中に浮上分離されたクロム酸化物の還元を兼ねながら、高温高濃度硝酸中での耐食性を確保するために、所定値までSiを添加する目的で、Fe−Si合金の投入を行う。この際も同様に、低AlのFe−Si合金中を用いる必要はない。
VOD処理後、取鍋内にて最終成分と溶鋼温度の調整を行う。この取鍋精錬時に、所望の成分値に調整するために、Fe−Si合金を投入する。その時、スラグ中に少ないながらも残存していたアルミナが、Fe−Si合金により還元されて鋼中にAlとして溶存した後、このAlがSiO等の介在物やスラグを還元することにより再酸化されてAl介在物の生成が起こる。それを防ぐため、シュノーケルを用いて滓切りを実施し、投入中のFe−Si合金がスラグに直接触れないような処置を行う。溶鋼に比べて、Fe−Si合金中のSi濃度は10倍以上高く、Siによる還元性が高い。溶鋼中にある2.5〜7%程度のSiでは還元されないスラグ中のAlレベルでも、Siを数10%含有するFe−Si合金では還元してしまう。還元されたAlは、スラグや介在物により再酸化され、有害なAl系介在物を生成させてしまう。したがって、この再酸化を防止するには、Fe−Si合金投入時にスラグとの直接な接触を避けることが有効である。
その後、CC(連続鋳造設備)にて鋳造する。取鍋精錬の終了後から鋳込み開始までの時間を長くして介在物の浮上促進を図ったり、鋳込み速度の低減や電磁攪拌の活用により、介在物の凝集粗大化等による浮上分離を促進することが、アルミナ介在物の低減に効果的である。
本発明においては、AlとSiあるいはNbの比を調整することで、SiおよびNb含有量が大きいAl−SiO−NbCを形成させている。すなわち、溶鋼中にAlを1%程度含有するFe−Si合金を添加することで(3)式の反応を進め、一時的に溶鋼中にAlを形成するが、Siは前述のとおり酸素との親和性の高い元素であるため、Al中酸素と結合しAl−SiO複合介在物を形成する。同様の機構により溶鋼中NbもAl−SiO−NbO複合介在物を形成するが、Nbは酸素よりもCとの親和性が著しく強い元素であるので、最終的にAl−SiO−NbCとなり、Alの弊害を低減することが可能となる。
この製造方法によって、sol.Al:0.03%以下、B系介在物の合計が0.03%以下であるとともに、C系介在物であるSiO−Al−NbC複合介在物にNbおよびSiを0.18at%以上含有することにより、これまでには得られなかった、高温、高濃度硝酸中で安定した耐酸性と良好な耐腐食性を有する本発明に係る高Siオーステナイト系ステンレス鋼が提供される。
以上の製法で作製した本発明および特許文献7の製法で製造した比較材の組成を表1に示す。
また、本発明のB系介在物の量は0.006〜0.008%とすることにより調整し、C系介在物として検出されるSiO−Al−NbC複合介在物の金属元素中のSi,Nb比は0.18〜0.24at%とすることにより、調整した。
これらの素材に熱間圧延(1150℃)、焼鈍(1130℃×10min)を施し、伸展材を作成し、そこから、清浄度と介在物のSEM観察、耐硝酸性試験用試験片を切り出し、試験に用いた。
各素材の清浄度を表2に示す。清浄度はJIS G 555に準じて調査した。
これらのC系介在物のSEM像の一例を図1に示すとともに、介在物のEDX分析結果を図2(a)および図2(b)に示す。図2(a)は図1に示すSEM像における白色介在物の分析結果を示し、図2(b)は図1に示すSEM像における黒色介在物の分析結果を示す。
図2(a),図2(b)に示す介在物のEDX分析結果から、図1のSEM像に示すように、黒色に見えるAlが白色に見えるNbC、SiOと複合介在物を形成していることがわかる。
通常、Al介在物は、圧延方向に平行に分布しB系介在物として分類されるが、図1,2に示すように、SiやNbを多く含む白色の介在物と複合介在物を形成すると、Alを主な構成金属元素とした介在物中にSiやNbを多く含む塊状のC系介在物となる。
このようなC系介在物の金属元素比を表3に示す。金属元素比はSEM−EDXにより任意に4点以上分析した平均値である。
表3に示した分析値と以下の式により、C系介在物中のSi+Nb比を算出した。
(Si+Nb)/(Fe+Si+Mn+Cr+Ni+Al+Nb)
以上のようなAl介在物の性状が異なる素材を用いて、高温・高濃度における耐硝酸性を比較した。
[耐硝酸性試験]
耐硝酸性試験はN=2、60℃、98%硝酸水溶液中にて、24時間浸漬し、腐食減量から腐食速度を算出し、その大小を比較した。耐硝酸性試験の結果と併せて、C系介在物中のSi、Nb元素比を表4に示す。また、それらの関係を図3にまとめた。
C系介在物中のSi,Nb元素比が0.18at%以上になると腐食速度が小さくなる。これはC系介在物自身の腐食挙動と対応しており、本発明例(No1)では複合介在物中のAlは腐食起点とならず、耐硝酸性試験後も残存している。そのため腐食速度は小さい。
これに対し、比較例(No6)では、Alは溶解してしまい、腐食試験後にAlを主な構成金属元素とする介在物は観察されなかった。そのため、腐食速度が大きくなる。
このように、C系介在物におけるNbおよびSiを0.18at%以上とすることにより、腐食速度を、C系介在物におけるNbおよびSiが0.18at%未満であるものの半分以下に低減することができる。

Claims (1)

  1. 質量%で、C:0.04%以下、Si:2.5〜7.0%、Mn:10%以下、P:0.03%以下、S:0.03%以下、N:0.035%以下、sol.Al:0.03%以下、Cr:7〜20%、Ni:10〜22%、Nb:0.05〜0.7%、残部Feおよび不純物からなる化学組成を有し、JIS G 0555(2003)付随書1「点算法による非金属介在物の顕微鏡試験方法」に記載された方法により測定したB系介在物の合計量が0.03面積%以下であるとともに、AlとSi、Nbを含む介在物の複合介在物であるC系介在物を有し、該複合介在物中にNbおよびSiを0.18at%以上含有することを特徴とするオーステナイト系ステンレス鋼。
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