(実施の形態1)
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
図1は、実施の形態1にかかる平角線折り曲げ装置1を示す図であり、(a)は平角線折り曲げ装置1の平面図を示し、(b)は平角線折り曲げ装置1の正面図を示す。
平角線折り曲げ装置1は、曲げ部材2と、曲げ部材2を動作させる駆動装置であるモータ4と、モータ4の動作を制御する制御部20とを有する。また、曲げ部材2の左側には、シャフト10が設けられている。図1(a)に示すように、平角線折り曲げ装置1が平角線90を折り曲げる際、平角線90(破線で示す)は、シャフト10と曲げ部材2との間に挿入される。曲げ部材2は、平角線90に接触して、モータ4の駆動により回転することによって、平角線90を折り曲げる。詳しくは後述する。
モータ4の回転軸4aには、歯車6Aが設けられている。また、曲げ部材2には、回転軸2aが固定されている。さらに、回転軸2aには、歯車6Bが設けられている。そして、歯車6Aは、歯車6Bと噛み合っている。モータ4が駆動すると、矢印Aに示すように、回転軸4aが回転する。回転軸4aが回転すると、歯車6Aが回転し、それに伴って、歯車6Bも回転する。さらに、歯車6Bが回転すると、矢印Bに示すように、回転軸2aが回転する。回転軸2aが回転すると、曲げ部材2は、矢印Cに示すように、点P1を中心として回転軸2aの周りに回転する。このようにして、曲げ部材2にモータ4の駆動力(回転力)が伝達される。つまり、曲げ部材2は、モータ4によって回転動作を行う。
図2は、曲げ部材2が平角線90を折り曲げる動作を説明する図である。図2(a)に示すように、曲げ部材2が回転動作を行って平角線90に接触すると、平角線90には、シャフト10の右側に、矢印F1で示すような力が加えられる。このとき、平角線90は、シャフト10により点P2で支持される。この状態で、モータ4の駆動力により、曲げ部材2が平角線90の抵抗力(反発力)に抗してさらに矢印A方向に回転すると、矢印F1で示すような力により、図2(b)に示すように、平角線90は、シャフト10の周りに曲げられる。
モータ4は、制御部20による制御によって回転駆動を行う。具体的には、モータ4は、制御部20によって設定された角度(後述する「折り曲げ補正角度」)を目標回転角度として、その設定された角度、回転軸4aを回転させるように駆動する。つまり、モータ4は、位置制御(回転角度制御)によって駆動する。これにより、曲げ部材2は、モータ4によって、設定された角度(折り曲げ補正角度)に対応する角度、回転する。
制御部20は、測定部22(測定手段)と、補正角度設定部24(設定手段)と、テーブル格納部26と、回転制御部28とを有する。制御部20の処理は、コンピュータである制御部20が備えるCPU(Central Processing Unit)の制御によって、プログラムを実行させることによって実現してもよい。また、制御部20に含まれる記録媒体に格納されたプログラムをメモリにロードし、CPUの制御によってプログラムを実行して実現してもよい。
測定部22は、モータ4の負荷を測定する。具体的には、測定部22は、モータ4が曲げ部材2を動作させている際の、モータ4の負荷を測定する。さらに具体的には、測定部22は、例えば、モータ4が曲げ部材2を動作させている際の、モータ4のトルク値を測定する。トルク値の測定方法は、例えば、モータ4を駆動させる電流値をトルク値に換算することによって行う方法があるが、これに限られない。以下、測定部22は、モータ4のトルク値を測定することを前提とするが、これに限られない。
ここで、上述したように、モータ4は、位置制御(回転角度制御)によって駆動する。したがって、モータ4は、曲げ部材2が平角線90に接触し平角線90の抵抗力によりモータ4の負荷が大きくなると、設定された目標回転角度に回転するように、負荷に応じてトルクが大きくなるように制御される。ここで、平角線90の抵抗力は、平角線90の線材硬度が大きくなる(硬くなる)ほど大きくなる傾向にある。したがって、モータ4のトルク値は、平角線90の線材硬度が大きい(硬い)ほど大きくなり、平角線90の線材硬度が小さい(軟らかい)ほど小さくなる。以下、図3を用いて説明する。
図3は、測定部22によって測定されたトルク値(%)と測定時刻(ms:ミリ秒)との関係を例示したグラフである。トルク値(%)は、例えば、測定時におけるトルクの実際の値(N・m)の、モータ4の定格トルク(N・m)に対する割合を示すが、これに限られない。トルク値(%)は、測定時におけるトルクの実際の値(N・m)の、モータ4の最大トルク(N・m)に対する割合であってもよい。また、図3において、実線は、平角線90の硬度が通常である場合のトルク値(%)を示す。破線は、平角線90の硬度が大きい(硬い)場合のトルク値(%)を示す。また、一点鎖線は、平角線90の硬度が小さい(軟らかい)場合のトルク値(%)を示す。
図3の例では、測定時刻が740msのときに平角線90の折り曲げ動作が開始する。つまり、モータ4の回転駆動が開始して、これに伴って、曲げ部材2が平角線90を折り曲げる方向(図2の矢印A方向)に回転して、曲げ部材2は、平角線90に接触する。モータ4は、設定された目標回転角度となるように制御されるので、モータ4のトルクが大きくなる(時刻750ms〜780ms)。これによって、曲げ部材2はさらに回転し、曲げ部材2は、平角線90を折り曲げ始める。
図3の例では、平角線90の硬度が通常である場合、トルク値のピーク(最大値)は約70%となる。逆に言えば、測定部22によって測定されたトルク値のピークが約70%であった場合に、平角線90の硬度は「通常」と判定される。また、平角線90の硬度が大きい場合、トルク値のピーク(最大値)は約80%となる。逆に言えば、測定部22によって測定されたトルク値のピークが約80%であった場合に、平角線90の硬度は「大きい(硬い)」と判定される。また、平角線90の硬度が小さい場合、トルク値のピーク(最大値)は約60%となる。逆に言えば、測定部22によって測定されたトルク値のピークが約60%であった場合に、平角線90の硬度は「小さい(軟らかい)」と判定される。本実施の形態においては、測定部22は、このトルク値のピーク値を、補正角度設定部24に対して出力する。
補正角度設定部24は、測定部22によって測定されたトルク値(負荷)に基づいて、テーブル格納部26に格納されたテーブルを用いて、平角線90を折り曲げるときの補正角度(折り曲げ補正角度)を設定する。ここで、折り曲げ補正角度とは、曲げ部材2が平角線90を折り曲げる際に、スプリングバックを考慮して要求曲げ角度よりも大きく設定される角度である。つまり、折り曲げ補正角度に平角線90を折り曲げると、スプリングバックにより、平角線90は、要求曲げ角度(又は要求曲げ角度近傍の角度)に折り曲げられた状態となる。
ここで、平角線90の線材硬度が大きい場合には、スプリングバック量は大きくなる。また、平角線90の線材硬度が小さい場合には、スプリングバック量は小さくなる。したがって、補正角度設定部24は、モータ4のトルク値(モータトルク値)Tが大きい場合(つまり平角線90の線材硬度が大きい場合)に、折り曲げ補正角度が大きくなるように決定する。逆に、補正角度設定部24は、モータトルク値Tが小さい場合(つまり平角線90の線材硬度が小さい場合)に、折り曲げ補正角度が小さくなるように決定する。
テーブル格納部26は、図4を用いて後述する補正角度テーブルを格納する。補正角度テーブルは、モータトルク値T(%)と、折り曲げ補正角度θc(度)との対応関係を表す。補正角度設定部24は、補正角度テーブルを用いて、測定されたモータトルク値Tに対応する折り曲げ補正角度を決定する。
図4は、テーブル格納部26に格納されている補正角度テーブルを例示する図である。図4には、要求曲げ角度θrが90度である場合の例が示されている。図4の例では、モータトルク値T(ピーク値)が80%である場合、折り曲げ補正角度θcは、92.15度である。つまり、モータトルク値T(ピーク値)が80%である場合、曲げ部材2が平角線90を92.15度に折り曲げると、スプリングバックによって、平角線90の折り曲げ角度は、略90度に戻る。つまり、この場合、曲げ部材2が平角線90を92.15度に折り曲げると、平角線90の仕上がり曲げ角度θfは、要求曲げ角度θrである90度(又は90度近傍)になる。さらに言い換えると、平角線90が、モータトルク値Tが80%となるような硬度を有する場合、曲げ部材2が平角線90を92.15度に折り曲げると、平角線90の仕上がり曲げ角度θfは略90度になる。
同様に、モータトルク値T(ピーク値)が70%である場合、折り曲げ補正角度θcは、91.95度である。つまり、モータトルク値T(ピーク値)が70%である場合、曲げ部材2が平角線90を91.95度に折り曲げると、スプリングバックによって、平角線90の仕上がり曲げ角度θfは、要求曲げ角度θrである90度(又は90度近傍)になる。言い換えると、平角線90が、モータトルク値Tが70%となるような硬度を有する場合、曲げ部材2が平角線90を91.95度に折り曲げると、平角線90の仕上がり曲げ角度θfは略90度になる。
また、モータ4のトルク値T(ピーク値)が60%である場合、折り曲げ補正角度θcは、91.75度である。つまり、モータトルク値T(ピーク値)が60%である場合、曲げ部材2が平角線90を91.75度に折り曲げると、スプリングバックによって、平角線90の仕上がり曲げ角度θfは、要求曲げ角度θrである90度(又は90度近傍)になる。言い換えると、平角線90が、モータトルク値Tが60%となるような硬度を有する場合、曲げ部材2が平角線90を91.75度に折り曲げると、平角線90の仕上がり曲げ角度θfは略90度になる。
なお、図4の例では、折り曲げ補正角度θcは、3個のモータトルク値(80%、70%、60%)に応じて3個(92.15、91.95、91.75)設定されているが、これに限られない。例えば、モータトルク値75%及び65%に対応して、折り曲げ補正角度θcが設定されてもよい。つまり、折り曲げ補正角度θcの数は任意に設定され得る。また、測定されたモータトルク値Tが補正角度テーブルに設定されていない値である場合(例えばT=72%)、補正角度設定部24は、前後のモータトルク値(例えば70%及び80%)と、それらに対応する折り曲げ補正角度θc(例えば92.15及び91.95)とから、折り曲げ補正角度θcを補間により算出してもよい。
また、折り曲げ補正角度θcは、予め実施された試験によって決定され得る。具体的には、事前に、種々の硬度の平角線90を準備し、それぞれの平角線90を折り曲げた際のモータトルク値Tを測定する。そして、そのときにどれだけの角度で折り曲げると、平角線90の仕上がり曲げ角度θfが要求曲げ角度θr(例えば90度)となるかを判定するようにして、折り曲げ補正角度θcが決定される。
回転制御部28は、補正角度設定部24によって設定された折り曲げ補正角度θcに基づいて、モータ4を制御する。具体的には、回転制御部28は、折り曲げ補正角度θcを目標回転角度として、モータ4を回転駆動させるように制御する。言い換えると、モータ4は、回転制御部28の制御によって、回転軸4aを折り曲げ補正角度θcだけ回転させる。
なお、後述するように、本実施の形態においては、回転制御部28は、補正角度設定部24によって折り曲げ補正角度θcが設定されるとすぐに、その設定された折り曲げ補正角度θcを目標回転角度としてモータ4を制御するわけではない。つまり、回転制御部28は、折り曲げ補正角度θcが設定されると、次の折り曲げ処理の際に、その設定された折り曲げ補正角度θcを目標回転角度としてモータ4を制御する。ここで、平角線折り曲げ装置1によって平角線90が例えば90度に複数回折り曲げられることによって、平角線90は、コイル状に形成される。したがって、k回目の折り曲げ処理で補正角度設定部24によって折り曲げ補正角度θckが設定されると、回転制御部28は、(k+1)回目の折り曲げ処理のときに、折り曲げ補正角度θckを目標回転角度としてモータ4を制御する。
以下、平角線折り曲げ装置1の動作について説明する。
図5は、実施の形態1にかかる平角線折り曲げ装置1による平角線90の折り曲げ処理を示すフローチャートである。また、図6は、実施の形態1にかかる平角線折り曲げ装置1による平角線90の折り曲げ処理を説明するための図である。以下に示すように、平角線折り曲げ装置1により平角線90の折り曲げ処理が繰り返されることによって、予め定められた回数巻かれたコイルが形成される。
まず、平角線折り曲げ装置1は、折り曲げ補正角度θcの初期値を設定する(S100)。具体的には、折り曲げ処理を開始する前に、補正角度設定部24は、1回目の折り曲げ処理で用いられる折り曲げ補正角度θcの初期値を設定する。折り曲げ補正角度θcの初期値は、1回目の折り曲げ処理で用いられる。折り曲げ補正角度θcの初期値は、例えば、図4に例示した、線材硬度が「通常」である場合に対応する折り曲げ補正角度θc(91.95度)であってもよい。
次に、平角線90が搬送される(S102)。具体的には、図6(a)の矢印Aに示すように、搬送手段(図示せず)によって、平角線90が、曲げ部材2とシャフト10との間に搬送される。なお、搬送手段は、平角線折り曲げ装置1に設けられていてもよいし、平角線折り曲げ装置1とは別個に設けられてもよい。
次に、平角線折り曲げ装置1は、曲げ部材2を回転させる(S104)。具体的には、制御部20の回転制御部28は、目標回転角度を折り曲げ補正角度θcの初期値(上述の例では91.95度)に設定して、モータ4を制御する。これにより、モータ4は、回転軸4aを、折り曲げ補正角度θcの初期値の角度、回転させる。したがって、曲げ部材2は、図6(b)に示すように、矢印Bの方向(曲げ部材2が平角線90に接触する方向)に回転する。そして、上述したように、曲げ部材2の回転に伴って、平角線90は、矢印Cに示すように折れ曲がる。曲げ部材2は、図6(b)に示すように、初期位置(図6(a)の位置)から折り曲げ補正角度θcに回転移動するまで、回転動作を行う。これにより、平角線90は、折り曲げ補正角度θcに折れ曲げられる。
S104の工程の間に、平角線折り曲げ装置1は、モータトルク値Tを測定する(S106)。具体的には、曲げ部材2によって平角線90が折り曲げ補正角度θcまで折れ曲げられている間、測定部22は、上述した方法でモータ4のトルク値Tを測定する。なお、測定部22は、曲げ部材2が回転を開始してから曲げ部材2が折り曲げ補正角度θcまで回転するまでの間、常にモータトルク値Tを測定してもよいし、モータトルク値のピーク点が測定された後、測定を中止してもよい。
モータトルク値Tが測定されると、平角線折り曲げ装置1は、折り曲げ補正角度θcを設定する(S108)。具体的には、補正角度設定部24は、測定部22によって測定されたモータトルク値Tのピーク値に応じて、上述したように補正角度テーブルを用いて、折り曲げ補正角度θcを設定する。図4の例では、例えば、モータトルク値Tのピーク値が80%である場合は、折り曲げ補正角度θcは、92.15度と設定される。
曲げ部材2が折り曲げ補正角度θcまで回転移動すると、平角線折り曲げ装置1は、曲げ部材2を逆回転させる(S110)。具体的には、曲げ部材2が折り曲げ補正角度θcまで回転移動する(つまり回転軸4aが折り曲げ補正角度θcまで回転する)と、制御部20の回転制御部28は、回転軸4aが逆回転するように、モータ4を制御する。これにより、曲げ部材2は、図6(c)に示すように、矢印D方向(平角線90から離れる方向)に逆回転する。このとき、平角線90に加えられていた力が解放されるので、平角線90の曲げ角度は、スプリングバックによって、矢印Eに示すように、折り曲げ補正角度θcから少し戻る。そして、最終的に、平角線90は、仕上がり曲げ角度θfに折れ曲がった状態となる。
なお、このときの仕上がり曲げ角度θfは、折り曲げ補正角度θcの初期値に対応したものである。折り曲げ補正角度θcの初期値は、モータトルク値Tを測定して設定されたものではない。言い換えると、1回目の平角線90の折り曲げ処理では、平角線90の硬度に応じた折り曲げ補正角度θcに、平角線90が折り曲げられたわけではない。したがって、1回目の折り曲げ処理による平角線90の仕上がり曲げ角度θfは、要求曲げ角度θr近傍ではない可能性がある。
次に、上述したS102〜S110の工程とそれぞれ実質的に同じ工程であるS202〜S210が行われる(S20)。つまり、S20において、平角線90が搬送され(S202)、曲げ部材2が回転し(S204)、モータトルク値Tが測定され(S206)、折り曲げ補正角度θcが設定される(S208)。そして、曲げ部材2が折り曲げ補正角度θcまで回転移動すると、曲げ部材2が逆回転する(S210)。
次に、平角線折り曲げ装置1の制御部20は、折り曲げ処理が予め定められた回数行われたか否かを判断する(S120)。折り曲げ処理が予め定められた回数行われていない場合(S120のNO)、S20の処理が繰り返される。つまり、平角線折り曲げ装置1は、平角線90をさらに折り曲げる。一方、折り曲げ処理が予め定められた回数行われた場合(S120のYES)、折り曲げ処理は終了する。これにより、予め定められた回数巻かれたコイルが形成される。
ここで、S204の工程では、制御部20の回転制御部28は、1つ前の折り曲げ処理において設定された折り曲げ補正角度θcを目標回転角度として、モータ4を制御する。つまり、回転制御部28は、S108の工程、又は、1つ前の折り曲げ処理におけるS208の工程で設定された折り曲げ補正角度θcを目標回転角度として、モータ4を制御する。このS108又はS208で設定された折り曲げ補正角度θcは、モータトルク値Tを測定して設定されたものである。言い換えると、2回目以降の平角線90の折り曲げ処理では、平角線90の硬度に応じた折り曲げ補正角度θcで、平角線90が折り曲げられる。したがって、2回目以降の折り曲げ処理による平角線90の仕上がり曲げ角度θfは、要求曲げ角度θrと略同じとなる。
上述したように、実施の形態1においては、測定部22がモータトルク値を測定し、補正角度設定部24が測定されたモータトルク値に応じて折り曲げ補正角度θcを設定する。測定されたモータトルク値は、平角線90の硬度つまりスプリングバック量が反映されたものである。したがって、何らかの特別な装置を設けることなく、平角線90の硬度に応じた折り曲げ補正角度θcで平角線90を折り曲げることが可能となる。言い換えると、特別な測定器を設けることなく、スプリングバックを考慮して平角線90を折り曲げることが可能となる。さらに、これにより、平角線90の仕上がり曲げ角度にばらつきが生じることを抑制することが可能となる。したがって、実施の形態1においては、平角線90を折り曲げることによって形成されたコイルにねじれが生じることを抑制することが可能となる。
(比較例)
次に、本実施の形態と比較例との対比について、図7及び図8を用いて説明する。
図7は、比較例1にかかる折り曲げ処理における折り曲げ補正角度θcの設定方法を説明する図であり、(a)は平面図であり、(b)は正面図である。比較例1においては、実施の形態1と同様に、図7(a)の矢印Aのように、モータが曲げ部材2を折り曲げ補正角度θc回転させることによって、平角線90は折り曲げられるが、折り曲げ補正角度θcの設定方法が、実施の形態1とは異なる。比較例1においては、折り曲げ補正角度θcは、変位測定器102によって測定された変位量(スプリングバック量)に応じて設定される。
比較例1において、変位測定器102は、折り曲げ補正角度θcの初期値の角度に平角線90を折り曲げた後スプリングバックによって戻った状態の平角線90(つまり仕上がり曲げ角度θfに折り曲げられた平角線90)に対して、矢印Bのようにレーザ光を照射する。そして、変位測定器102は、平角線90からの反射光を受光することによって、そのレーザ光を照射した位置までの距離を測定する。また、予め、要求曲げ角度θr(例えば90度)に折り曲げられた平角線90の位置までの距離が測定されている。これにより、要求曲げ角度θrに折り曲げられた平角線90の位置と、スプリングバックによって戻った状態における平角線90の位置との変位λが算出される。この変位λがスプリングバック量(角度)に変換されて、折り曲げ補正角度θcにフィードバックされる。これにより、スプリングバックが考慮された折り曲げ補正角度θcが設定される。
ここで、比較例1においては、曲げ装置の近傍(折り曲げられた後の平角線90の近傍)に、変位測定器102を設ける必要がある。つまり、比較例1においては、変位測定器102の設置スペースを確保する必要がある。特に、変位測定器102は、レーザ光を照射するため、測定対象物である平角線90からある程度離れて設置される必要がある。この場合、コイルを生成する装置の配置上、曲げ装置の近傍に設置スペースがないときには、変位測定器102を設置することができない。
一方、実施の形態1においては、測定部22がモータ4のトルク値を測定し、補正角度設定部24が測定されたモータトルク値に応じて折り曲げ補正角度θcを設定する。したがって、変位測定器という特別な装置を設ける必要がない。さらに、モータトルク値は、特別な測定器を設けなくても、測定可能である。つまり、実施の形態1においては、特別な測定器を設けることなく、スプリングバックを考慮した折り曲げ補正角度θcを設定することが可能となり、これにより、スプリングバックを考慮して平角線90を折り曲げることが可能となる。さらに、実施の形態1においては、スプリングバック量を測定するための測定器の設置スペースを削減することが可能である。
また、比較例1においては、図7(b)に示すように、平角線90の厚さが薄い場合、変位測定器102が平角線90の端面(エッジワイズ側)にレーザ光を照射しても、矢印Cに示すように、その端面でレーザ光が乱反射してしまう。これにより、変位測定器102は、反射光を適切に受光することができなくなるおそれがある。したがって、精度よく平角線90までの距離を測定することができないおそれがある。よって、比較例1においては、適切に折り曲げ補正角度θcを設定することができないおそれがある。
一方、実施の形態1においては、測定部22がモータ4のトルク値を測定し、補正角度設定部24が測定されたモータトルク値に応じて折り曲げ補正角度θcを設定する。ここで、モータトルク値の測定は、平角線90の厚さ等によらず常に精度よく行うことが可能である。したがって、実施の形態1においては、比較例1と比較して、適切に折り曲げ補正角度θcを設定することが可能となる。
また、曲げ部材2によって平角線90を折り曲げた後、平角線90から曲げ部材2を離すと、平角線90には、スプリングバックによる振動が生じる。この状態では、変位測定器102によって平角線90までの距離(変位λ)を測定することができない。つまり、比較例1においては、変位測定器102は、平角線90を折り曲げて、平角線90がスプリングバックによって戻った後、仕上がり曲げ角度θfに折り曲げられた状態に静止するまで、変位λを算出することができない。したがって、平角線90を折り曲げた後のスプリングバックによる平角線90の振動が停止して、平角線90の位置が安定するまで、変位測定器102による測定を待機する必要がある。よって、比較例1においては、平角線90の折り曲げ処理のサイクルタイムが長くなってしまい、コイル製造時間が長くなる。
一方、実施の形態1においては、測定部22がモータ4のトルク値を測定するが、モータトルク値は、モータ4が駆動するとすぐに測定され得る。言い換えると、実施の形態1においては、平角線90を折り曲げた後のスプリングバックによる平角線90の振動が停止するまで測定を待機する必要はない。したがって、実施の形態1においては、比較例1と比較して、平角線90の折り曲げ処理のサイクルタイムを短縮することが可能となり、これにより、コイル製造時間を短縮することが可能となる。
さらに、実施の形態1においては、曲げ部材2が回転して平角線90を折り曲げている間に、モータトルク値を測定して、折り曲げ補正角度θcを設定するように構成されている。つまり、折り曲げ工程(図5のS104)と、測定工程(図5のS106)及び設定工程(図5のS108)とを、並行して行うことが可能となる。したがって、実施の形態1においては、折り曲げ工程の後で折り曲げ補正角度θcを設定するための工程(測定工程及び設定工程)を行うことが不要となり、これにより、コイル製造時間を短縮することが可能となる。
図8は、比較例2にかかる折り曲げ処理における折り曲げ補正角度θcの設定方法を説明する図であり、(a)は平面図であり、(b)は正面図である。比較例2では、比較例1と異なり、透過型の変位測定器112を用いて、平角線90の折り曲げ後の位置(変位λ)が測定される。
平角線90は、ステージ110上で、曲げ部材2によって折り曲げられる。図8(a)に示すように、変位測定器112は、平角線90が曲げ部材2によって折り曲げられた後の平角線90の位置を、平角線90のフラットワイズ側で測定する。変位測定器112は、投光器112aと受光器112bとを有する。図8(b)に示すように、投光器112aは平角線90の上側に設けられ、受光器112bは平角線90の下側に設けられる。つまり、投光器112a及び受光器112bは、折り曲げ後の平角線90を挟んで対向している。
投光器112aは、受光器112bに向けて複数のレーザ光を照射する。複数のレーザ光のうち、平角線90に干渉されなかったレーザ光は、受光器112bに受光される。変位測定器112は、受光されなかったレーザ光の位置(平角線90による影の位置)から、平角線90の位置を測定する。また、予め、要求曲げ角度θr(例えば90度)に折り曲げられた平角線90の位置が測定されている。これにより、要求曲げ角度θrに折り曲げられた平角線90の位置と、スプリングバックによって戻った状態における平角線90の位置との変位λが算出される。これにより、比較例1と同様にして、スプリングバックが考慮された折り曲げ補正角度θcが設定される。
比較例2においては、平角線90のエッジワイズ側にレーザ光を照射してその反射光を受光するわけではないので、比較例1における、平角線90の厚さが薄い場合の端面での乱反射による問題は解消される。しかしながら、比較例2においても、比較例1と同様に、折り曲げ補正角度θcを設定するために、変位測定器112という特別な装置が必要となる。一方、上述したように、実施の形態1においては、特別な測定器を設けることなく、適切に折り曲げ補正角度θcを設定することが可能となる。また、比較例2においても、比較例1と同様に、変位測定器112の設置スペースを確保する必要があるが、実施の形態1においては、比較例2と比較しても、測定器の設置スペースを削減することが可能である。さらに、比較例2においても、比較例1と同様に、平角線90を折り曲げた後のスプリングバックによる平角線90の振動が停止まで測定を待機する必要があるが、実施の形態1においては、平角線90の振動が停止まで測定を待機する必要はない。
また、比較例2においては、平角線90の上下に変位測定器112(投光器112a及び受光器112b)が設けられている。コイルを形成する際、巻線(折り曲げ後のコイル状になった平角線90)は、フラットワイズ面に積層されていく。折り曲げ処理が繰り返されて平角線90の上に巻線が積層されると、測定対象の平角線90の上に巻線が積層された状態となる。そのため、測定対象の平角線90の位置だけでなく巻線によってもレーザ光が干渉されるので、測定対象の平角線90の位置を正確に測定することができない。また、折り曲げ処理が繰り返されて平角線90の上に巻線が積層されると、巻線自体が、平角線90の上に設けられた変位測定器112に干渉する可能性がある。したがって、比較例2においては、折り曲げ処理が繰り返されて平角線90の上(又は下)に巻線が積層されると、変位の測定が不可能となる。一方、実施の形態1においては、モータトルク値を測定するので、これらの問題は生じない。したがって、実施の形態1においては、巻線が積層されたか否かに関わらず、適切に折り曲げ補正角度θcを設定することが可能となる。
(変形例)
なお、本発明は上記実施の形態に限られたものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。例えば、図5に示したフローチャートの各工程の順序は適宜変更可能であり、各工程の少なくとも1つは、他の工程と並行してなされてもよく、各工程の少なくとも1つはなくてもよい。
例えば、上述したように、実施の形態1においては、S110の工程の前にS108の工程がなされるとしたが、これに限られない。S108の工程は、S110の工程の後でなされてもよい(S20においても同様)。つまり、折り曲げ補正角度θcの設定工程は、曲げ部材2が平角線90を折り曲げる方向に回転している間(曲げ部材2が平角線90を折り曲げている間)になされてもよいし、曲げ部材2が元の位置(図6(a)の位置)に戻った後になされてもよい。さらに、折り曲げ補正角度θcの設定工程は、曲げ部材2が平角線90を折り曲げる工程が終了して、曲げ部材2が逆回転している間(曲げ部材2が元の位置に戻ろうとしている間)になされてもよい。一方、折り曲げ補正角度θcの設定工程が、折り曲げ工程(S104の工程)の間になされることによって、上述したように、コイル製造時間を短くすることが可能となる。
また、上述した実施の形態1においては、折り曲げ処理のたびに測定部22がモータトルク値を測定し、補正角度設定部24が折り曲げ補正角度を設定するとしたが、このような構成に限られない。平角線90の硬度が均一であって、どの位置で平角線90を折り曲げてもスプリングバック量が一定であるならば、1回目の折り曲げ処理においてのみ測定部22がモータトルク値を測定し、補正角度設定部24が折り曲げ補正角度を設定するようにしてもよい。つまり、S20におけるS206及びS208の工程は、適宜、省略され得る。
また、上述した実施の形態1においては、測定部22は、モータ4のトルク値を測定するとしたが、これに限られない。測定部22は、モータ4の駆動に要する電流等、モータの負荷を示す他のパラメータを測定してもよい。また、実施の形態1においては、曲げ部材2を動作させる駆動装置は回転モータであるとしたが、これに限られない。駆動装置は、回転運動を行うモータでなくてもよく、例えば直線運動を行うリニアアクチュエータ(動力シリンダ)であってもよい。この場合、測定部22は、リニアアクチュエータによって曲げ部材2が平角線90を折り曲げている間の、リニアアクチュエータの動力(推進力)を示すパラメータを測定するようにしてもよい。
また、上述した実施の形態1においては、曲げ部材2は回転動作を行うことによって平角線90を折り曲げるとしたが、このような構成に限られない。平角線90を折り曲げ補正角度に折り曲げることが可能であれば、任意の動作(多方向の直線運動の組み合わせ等)を行って平角線90を折り曲げるようにしてもよい。
また、上述した実施の形態1においては、補正角度設定部24は、補正角度テーブルを用いて、測定されたモータトルク値に対応する折り曲げ補正角度を決定するとしたが、このような構成に限られない。補正角度設定部は、モータトルク値から折り曲げ補正角度を算出可能な演算式を用いて演算処理を行うことによって折り曲げ補正角度を決定してもよい。一方、補正角度テーブルを予め準備しておき、この補正角度テーブルを用いて折り曲げ補正角度を決定することによって、複雑な演算処理を行うことが不要となり、これにより、より速く折り曲げ補正角度を決定することが可能となる。
また、上述した実施の形態1においては、補正角度設定部24は、次の折り曲げ処理において使用される折り曲げ補正角度を設定するとしたが、このような構成に限られない。測定部22が、折り曲げ補正角度を設定するのに使用されるモータトルク値(ピーク値)を、曲げ部材2が回転動作を始めてから比較的早い段階で測定することができれば、補正角度設定部24は、折り曲げ処理の最中に、直ちに、その折り曲げ処理で使用される折り曲げ補正角度を設定してもよい。つまり、この場合、k回目の折り曲げ処理で補正角度設定部24によって折り曲げ補正角度θckが設定されると、回転制御部28は、その折り曲げ処理(k回目の折り曲げ処理)のときに、折り曲げ補正角度θckを目標回転角度としてモータ4を制御する。これにより、1回目の折り曲げ処理においても、適切に折り曲げ補正角度を設定することが可能となる。
また、上述した実施の形態1においては、平角線折り曲げ装置1が制御部20を有するとしたが、制御部20は、平角線折り曲げ装置1のモータ4と、物理的に一体となっている必要はない。つまり、制御部20は、平角線折り曲げ装置1のモータ4と、物理的に離れて設けられていてもよい。制御部20の構成部分の全てが、物理的に1つの制御部に設けられている必要はない。つまり、制御部20の各構成部分の1つ以上は、モータ4に設けられた制御部20と物理的に離れて設けられてもよい。