以下、ここに開示する過給機付きエンジンの制御装置について、図面を参照しながら詳細に説明をする。尚、以下の説明は例示である。
〈エンジンの構成〉
図1は、実施形態によるエンジンの点火時期制御装置が適用されたエンジンの概略構成図である。エンジンは、4輪自動車に搭載されるエンジンである。図1に示すように、エンジン100(例えばガソリンエンジン)は、主に、外部から導入された吸気(空気)が通過する吸気通路10と、吸気通路10から供給された吸気と燃料噴射弁23から供給された燃料(ガソリン)との混合気を、吸気通路10に接続された複数の気筒(1つのみ図示)21各々の内部で燃焼させて自動車の動力を発生するエンジン本体20と、このエンジン本体20内の燃焼により発生した排気を排出する排気通路30と、エンジン100全体を制御するECU(Electronic Control Unit)50とを有する。エンジン100は、例えば前進6速の多段の自動変速機101に連結されている。エンジン100の出力は、自動変速機101を介して駆動輪102に伝達される。
吸気通路10には、上流側から順に、外部から導入された吸気を浄化するエアクリーナ2と、通過する吸気を昇圧させる、ターボ過給機4のコンプレッサ4aと、通過する吸気を冷却するインタークーラ9と、通過する吸気の流量を調整するスロットルバルブ11と、エンジン本体20に供給する吸気を一時的に蓄えるサージタンク13aを有し、吸気ポート14に接続された吸気マニホールド13とが設けられている。
また、吸気通路10には、コンプレッサ4aによって過給された吸気の一部を、コンプレッサ4aの上流側に還流するためのエアバイパス通路6が設けられている。エアバイパス通路6は、一端がコンプレッサ4aの下流側で且つスロットルバルブ11の上流側の吸気通路10に接続され、他端がコンプレッサ4aの上流側の吸気通路10に接続されている。また、このエアバイパス通路6には、エアバイパス通路6を流れる吸気の流量を制御するエアバイパスバルブ7が設けられている。
エンジン本体20は、主に、吸気ポート14を開閉する吸気バルブ22と、気筒21内に向けて燃料を噴射する燃料噴射弁23と、気筒21内に供給された吸気と燃料との混合気に点火する点火プラグ24と、気筒21内での混合気の燃焼により往復運動するピストン27と、ピストン27の往復運動により回転されるクランクシャフト28と、排気ポート31を開閉する排気バルブ29とを有する。
クランクシャフト28には、不図示の吸気カムシャフトと排気カムシャフトとが駆動連結されている。吸気カムシャフトは、クランクシャフト28に連動して回転することにより、吸気バルブ22を駆動する。この駆動によって、吸気バルブ22は、吸気ポート14を所定のタイミングで開閉するように往復運動する。同様に、排気カムシャフトは、クランクシャフト28に連動して回転することにより、排気バルブ29を駆動する。この駆動によって、排気バルブ29は、排気ポート31を所定のタイミングで開閉するように往復運動する。
エンジン本体20は、吸気カムシャフトの位相を進角又は遅角させるバルブタイミング可変機構(吸気VVT)25と、排気カムシャフトの位相を進角又は遅角させるバルブタイミング可変機構(排気VVT)26とを備えている。
吸気VVT25は、吸気カムシャフトの位相を進角又は遅角させることによって、吸気バルブ22の開時期及び閉時期を連続的に変更する。同様に、排気VVT26は、排気カムシャフトの位相を進角又は遅角させることによって、排気バルブ29の開時期及び閉時期を連続的に変更する。
排気通路30には、上流側から順に、通過する排気によって回転させられ、この回転によってコンプレッサ4aを回転駆動する、ターボ過給機4のタービン4bと、例えばNOx触媒や三元触媒や酸化触媒などの、排気の浄化機能を有する排気浄化触媒37、38とが設けられている。
また、排気通路30には、排気を吸気通路10に還流するEGR通路32が接続されている。このEGR通路32は、一端がタービン4bの上流側の排気通路30に接続され、他端がスロットルバルブ11の下流側の吸気通路10に接続されている。加えて、EGR通路32には、還流させる排気を冷却するEGRクーラ33と、EGR通路32を流れる排気の流量を制御するEGRバルブ34とが設けられている。
さらに、排気通路30には、排気にターボ過給機4のタービン4bを迂回させるタービンバイパス通路35が設けられている。このタービンバイパス通路35には、タービンバイパス通路35を流れる排気の流量を制御するウェイストゲートバルブ(以下、「WGバルブ」と称する)36が設けられている。
図1に示すエンジン100には、各種のセンサが設けられている。具体的には、エンジン100の吸気系においては、エアクリーナ2の下流側の吸気通路10(詳しくは、エアクリーナ2とコンプレッサ4aとの間の吸気通路10)に、吸気流量を検出するエアフロセンサ61と吸気温度を検出する第1温度センサ62とが設けられ、コンプレッサ4aとスロットルバルブ11との間の吸気通路10に、過給圧を検出する第1圧力センサ63が設けられ、スロットルバルブ11の下流側の吸気通路10(詳しくは、サージタンク13a内)に、サージタンク13a内の圧力であるインマニ圧力を検出する第2圧力センサ64が設けられている。この第2圧力センサ64には、サージタンク13a内の温度であるインマニ温度を検出する温度センサが内蔵されている。
そして、エンジン本体20においては、クランクシャフト28のクランク角を検出するクランク角センサ69、吸気カムシャフトのカム角を検出する吸気側カム角センサ70、及び、排気カムシャフトのカム角を検出する排気側カム角センサ71が設けられている。
さらに、エンジン100の排気系においては、EGRバルブ34の開度であるEGR開度を検出するEGR開度センサ65、及び、WGバルブ36の開度であるWG開度を検出するWG開度センサ66が設けられ、タービン4bの下流側の排気通路30(詳しくは、タービン4bと排気浄化触媒37との間の排気通路30)に、排気中の酸素濃度を検出するO2センサ67と排気温度を検出する排気温度センサ68とが設けられている。
エアフロセンサ61は、検出した吸気流量に対応する検出信号S61をECU50に供給し、第1温度センサ62は、検出した吸気温度に対応する検出信号S62をECU50に供給し、第1圧力センサ63は、検出した過給圧に対応する検出信号S63をECU50に供給し、第2圧力センサ64は、検出したインマニ圧力とインマニ温度に対応する検出信号S64をECU50に供給し、EGR開度センサ65は、検出したEGR開度に対応する検出信号S65をECU50に供給し、WG開度センサ66は、検出したWG開度に対応する検出信号S66をECU50に供給し、O2センサ67は、検出した酸素濃度に対応する検出信号S67をECU50に供給し、排気温度センサ68は、検出した排気温度に対応する検出信号S68をECU50に供給する。クランク角センサ69は、検出したクランク角に対応する検出信号S69をECU50に供給する。吸気側カム角センサ70及び排気側カム角センサ71は、それぞれ、検出したカム角に対応する検出信号S70,S71をECU50に供給する。また、エンジン100には、大気圧を検出する大気圧センサ60が設けられており、この大気圧センサ60は、検出した大気圧に対応する検出信号S60をECU50に供給する。エンジン100にはさらに、シリンダブロックに取り付けられかつ、振動の検出によりノッキングの発生を検知するノックセンサ72と、図示を省略する燃料タンク内の燃料量を検出する燃料計73と、自動変速機101の変速段を検出する変速段検出部74と、が設けられている。ノックセンサ72は、検知した信号S72をECU50に供給し、燃料計73は、検知した燃料量に対応する信号S73をECU50に供給し、変速段検出部74は、検知した変速段に対応する信号S74をECU50に供給する。
ECU50は、CPUと、CPU上で実行される各種のプログラム(OSなどの基本制御プログラムや、OS上で起動され特定機能を実現するアプリケーションプログラムを含む)や各種のデータを格納するためのROMやRAMの如き内部メモリと、を備えるコンピュータにより構成される。ECU50は、上述した各種センサから供給された検出信号に基づいて、種々の制御や処理を行う。
ECU50は、エンジン100に要求される出力トルク(以下、「目標トルク」と称する)を基準として、スロットルバルブ11及びWGバルブ36の開度や点火プラグ24による点火時期、吸気バルブ22及び排気バルブ29の開閉時期、並びに、燃料噴射弁23からの燃料噴射量などを制御する、いわゆるトルクベース制御を実行する。トルクベース制御では、自動車の走行状態に基づいて目標トルクを取得して、各アクチュエータの制御値を、この目標トルクが得られるような基本値に設定する。
ECU50によるトルクベース制御について図2を参照しながら説明する。図2は、トルクベース制御に係る処理のフローチャートである。
トルクベース制御では、まず、ステップS1において、ECU50が自動車の走行状態を読み込む。具体的には、クランク角センサ69に基づいて算出されたエンジン本体20の回転速度(以下、「エンジン回転数」と称する)、車速、アクセル開度、及び、変速段等の、エンジン100の運転状態を含む自動車の走行状態を読み込む。
ステップS2において、ECU50は、検知された走行状態に応じた目標加速度を取得する。
ステップS3において、ECU50は、設定された目標加速度を実現するために必要な目標トルクを取得する。
ステップS4において、ECU50は、点火時期補正量の算出を行う。この点火時期補正量の算出は、詳細は後述する点火時期の設定に利用する3種類の点火時期マップ(ベースとなるmapA(レギュラーガソリン用)、並びに、mapAに対して点火時期が進角側に設定されるmapB及びmapC(共にハイオクガソリン用))において設定されている点火時期に基づいて行う。具体的には、自動車の走行状態に応じて選択された点火時期マップにおいて設定されている点火時期と、mapAにおいて設定されている点火時期との差、つまり、ベースとなる点火時期に対する進角量を点火時期補正量とする。
ステップS5において、ECU50は、取得された目標トルクを実現するために必要なエンジン100の充填効率の目標値(以下、「目標充填効率」と称する)を設定する。このときに、ステップS4で算出した点火時期補正量を考慮する。詳しくは、目標充填効率は、目標トルク、エンジン回転数、及び、図示平均有効圧力の目標値(以下、「目標図示平均有効圧力」と称する)に基づいて求められる。目標図示平均有効圧力は、目標トルク、並びに、トルク損失となる機械抵抗及びポンプ損失(ポンピングロス)に基づいて求められる。また、算出した点火時期補正量に基づき、ベースとなる点火時期に対して点火時期が進角しているときには、その分、目標充填効率を低下させる。
このステップS5の後には、ステップS6〜S9とステップS10〜S13とが並行して行われる。
ステップS6において、ECU50は、設定された目標充填効率を実現するために必要な吸気マニホールド13内の吸気の量の目標値(以下、「目標インマニ空気量」と称する)を取得する。目標インマニ空気量は、吸気マニホールド13内の吸気密度を基準とした体積効率、いわゆるインマニ基準の体積効率と、吸気マニホールド13の容積(以下、「インマニ容積」と称する)Viと、気筒21の容積(以下、「シリンダ容積」と称する)Vcと、気筒21内に吸入される1行程あたりの吸気の質量であるシリンダ吸入空気量Qcrの目標値(以下、「目標シリンダ空気量」と称する)とに基づいて求められる。インマニ容積Viは、予め規定されており、ECU50の内部メモリに記憶されている。シリンダ容積Vcは、予め規定されており、ECU50の内部メモリに記憶されている。目標シリンダ空気量は、ステップS5で設定された目標充填効率と、シリンダ容積Vcと、標準大気密度ρ0とに基づいて求められる。標準大気密度ρ0は、標準状態における大気の密度(約1.2kg[kg/m3])である。
ステップS7において、ECU50は、目標インマニ空気量を実現するために必要となる、スロットルバルブ11を通過する吸気の流量の目標値(以下、「目標スロットル通過流量」と称する)を取得する。この目標スロットル通過流量は、ステップS5で取得された目標充填効率と、ステップS6で取得された目標インマニ空気量と、現在のインマニ空気量の推定値(以下、「実インマニ空気量」と称する)とに基づいて求められる。実インマニ空気量は、第2圧力センサ64により検出されたインマニ圧力及びインマニ温度に基づいて推定される。なお、この実インマニ空気量は、吸気マニホールド13に流入する空気量と吸気マニホールド13から気筒21内へ流出する空気量との間の収支を計算することにより推定してもよい。
ステップS8において、ECU50は、取得された目標スロットル通過流量を実現するために必要となる、スロットルバルブ11のバルブ開度の目標値(以下、「目標スロットル開度」と称する)を設定する。この目標スロットル開度は、目標スロットル通過流量と、第1圧力センサ63により検出された、スロットルバルブ11上流側の吸気圧力(過給圧)と、第2圧力センサ64により検出された、スロットルバルブ11下流側の吸気圧力とに基づいて設定される。
そして、ステップS9において、ECU50は、スロットルバルブ11のバルブ開度が目標スロットル開度となるようにスロットルバルブ11を駆動するための制御信号を出力すると共に、目標トルクを実現するように、吸気VVT25、排気VVT26及び燃料噴射弁23に対して各々の制御値に対応する制御信号を出力する。
一方で、ステップS10において、ECU50は、目標充填効率を実現するために必要となる、過給圧の目標値である目標過給圧を取得する。
ステップS11において、ECU50は、設定された目標過給圧に基づいて、タービン4bを通過する流量の目標値である目標タービン流量を取得する。詳しくは、目標タービン流量は、コンプレッサ駆動力の目標値である目標コンプレッサ駆動力、及び、エンジン回転数等に基づいて求められる。目標コンプレッサ駆動力は、目標過給圧に基づいて求められる。
ステップS12において、ECU50は、算出された目標タービン流量を実現するために必要な、WGバルブ36のバルブ開度の目標値(以下、「目標WG開度」と称する)を設定する。目標WG開度は、目標タービン流量と排気の総流量とに基づいて求められる。
そして、ステップS13において、ECU50は、WGバルブ36のバルブ開度が目標WG開度となるようにWGバルブ36を駆動するための制御信号を出力する。
なお、これらのステップの順番は一例であり、ステップの順番を可能な範囲で適宜入れ替えたり、複数のステップを並行して処理したりしてもよい。例えば、ステップS6からステップS9まで続くステップと、ステップS10からステップS13まで続くステップとを並行に処理せずに、一つずつ順番に処理してもよい。
〈点火時期の設定〉
図3は、ここに開示するエンジンの点火時期制御装置に関連するECU50の機能構成図を示す。ECU50は、ノッキングの発生を判定するノッキング判定部51と、燃料のオクタン価を判定するハイオク判定部52と、自動変速機101の変速段の情報を取得する変速段取得部53と、点火プラグ24の点火時期を設定すると共に、点火プラグ24を設定した点火時期で点火させる点火制御部54と、を備えている。
ノッキング判定部51は、ノックセンサ72の検出信号S72に基づいて、ノッキングが発生したか否かを判定する。ノッキングが発生した場合、点火制御部54は、ノッキングの発生を回避するように、点火時期を遅角側に変更する。
ハイオク判定部52は、燃料タンク内の燃料のオクタン価を判定する。ハイオク判定部52は、燃料が、高オクタン価燃料であるか、又は、低オクタン価燃料であるかを判定する。燃料タンク内の燃料のオクタン価は、給油が行われることによって変更され得ることから、ハイオク判定部52は、燃料計73の検知結果から給油が行われたことを判定すると共に、エンジン100の運転状態が所定の状態にあるときに、オクタン価判定を行う。オクタン価判定は、具体的には、エンジン100の運転状態が所定の状態にあるときに、点火時期を、所定の進角量だけ進角させ、それによって、ノッキングが発生するか否かを判定することにより行う。ノッキングが発生するときには、当該燃料は低オクタン価燃料であると判定し、ノッキングが発生しないときには、当該燃料は高オクタン価燃料であると判定する。判定結果は、次の給油が行われるまでECU50の内部メモリに保存され、給油が行われると、ハイオク判定部52は、オクタン価判定を改めて行う。
変速段取得部53は、変速段検出部74の検出結果に基づいて、自動変速機101の変速段の情報を取得する。
点火制御部54は、予め設定されている点火時期マップと、ノッキング判定部51の判定と、ハイオク判定部52の判定結果と、変速段取得部53の取得結果と、に基づいて、点火時期を設定する。点火時期マップは、エンジン100の回転数及び充填効率に応じて、点火時期の進角限界を設定している。ここで、図4を参照しながら、点火時期マップについて詳細に説明をする。
図4は、点火時期マップの概念を示している。このエンジン100は、点火時期マップとして、3種類のマップを有している。3種類のマップは、燃料が低オクタン価燃料(つまり、レギュラーガソリン)のときに用いるmapAと、燃料が高オクタン価燃料(つまり、ハイオクガソリン)のときに用いるmapB及びmapCと、である。
図4に示す点火時期マップ中の「91」「93」及び「98」は、燃料のオクタン価に相当する。図5に示すように、点火時期とエンジントルクとの間には、MBT(Minimum advance for Best Torque)タイミングにおいて、トルクが最大となり、点火時期がMBTよりも進角及び遅角すると、エンジントルクは低下する関係がある。図5に破線で示すように、燃料のオクタン価によって、ノッキングの発生を回避することができる進角限界(Borderline Detonation:BLD)が定まる。98RONはオクタン価が最も高く、進角限界は最も進角側、換言すると最もMBTに近づく。逆に、91RONはオクタン価が最も低く、進角限界は最も遅角側、換言すると最もMBTから離れる。
図4に示す点火時期マップ中の「91」「93」及び「98」はそれぞれ、図5における進角限界を意味する。点火制御部54は、点火時期マップを用い、エンジン100の運転状態に応じて設定される進角限界に基づいて点火時期を設定する。つまり、図5に白抜きの矢印で示すように、点火時期は、進角限界よりも遅角側となるように設定される。
次に、mapA、mapB及びmapCの詳細について、順に説明をする。先ず、レギュラーガソリン用のmapAでは、充填効率Ceが1以下の非過給領域(言い換えると、低中負荷領域)では、低回転、中回転及び高回転の一部を含む、相対的にエンジン回転数が低い領域において、進角限界を93RONにする。また低中負荷領域において、相対的にエンジン回転数が高い領域においては、進角限界を91RONにする。
mapAにおいて、充填効率Ceが1を超える過給領域、言い換えると、低中負荷領域よりも負荷の高い高負荷領域では、低回転及び中回転領域において、進角限界を91RONにする。従って、低中回転領域において、高負荷領域では、点火時期の進角限界を、低中負荷領域よりも遅角側に設定することになる。高負荷領域では、吸気温度と圧力上昇によりノッキングが悪化しやすい。そこで、高負荷領域における低中回転領域では、点火時期の進角限界を遅角側に設定することにより、使用頻度の高い領域において、ノッキングの発生を効果的に抑制することが可能になる。
mapAの高負荷領域における高回転領域では、点火時期の進角限界を93RONにする。高回転領域では、クランク角の変化に対する実時間の経過が短いため、ノッキングが、相対的に発生し難くなる。そこで、高負荷領域における高回転領域では、進角限界を、低中回転領域よりも進角側に設定する。このことにより、ノッキングの発生を効果的に抑制しながら、点火時期の進角化により、エンジン出力が向上する。これは、燃費性能の向上に有利になる。
従って、mapAにおいては、エンジン100の運転状態が高負荷領域にあるときに、点火時期の進角限界を91RON又は93RONに設定することで、エンジン100の運転状態が低中負荷領域にあるときの進角限界(つまり、93RON)に対して、同じか又は遅角側になると共に、エンジン100の運転状態が高負荷領域の、高回転領域にあるときには、点火時期の進角限界を93RONに設定することで、エンジン100の運転状態が高負荷領域の低中回転領域にあるときの進角限界(つまり、91RON)に対して、進角側になる。
次に、ハイオクガソリン用のmapB及びmapCの内、mapBは、自動変速機101の変速段が低速段のとき、具体的には、1速及び2速のときに用いるマップであり、mapCは、自動変速機101の変速段が高速段のとき、具体的には、3速以上のときに用いるマップである。
先ず、mapBにおいて、充填効率Ceが1以下の非過給領域(つまり、低中負荷領域)では、相対的にエンジン回転数が低い領域において、進角限界を98RONにする。低中負荷領域において、相対的にエンジン回転数が高い領域においては、進角限界を91RONにする。燃料のオクタン価が高いため、ノッキングが回避し易く、点火時期が相対的に進角側に設定される。
mapBにおいて、充填効率Ceが1を超える過給領域(つまり、高負荷領域)では、低回転領域において、進角限界を98RONにする。点火時期を進角側に設定することによってエンジントルクが向上するから、その分、過給圧を低くすることが可能になる。これは、高負荷領域の低回転領域において、低速プレイグニッション(LSPI)を回避する上で有利になる。
mapBにおいて、高負荷領域の中回転領域においては、進角限界を91RONにする。高負荷領域における使用頻度が、低回転領域及び高回転領域と比較して高い中回転領域において、点火時期を遅角化することにより、ノッキングを確実に回避することが可能になると共に、筒内最高圧力(Pmax)が低くなるため、エンジン100の信頼性が向上する。また、使用頻度の高い中回転領域において、放射音の抑制にも有利になる。
mapBにおいて、高負荷領域の高回転領域においては、進角限界を93RONにする。中回転領域と比較してノッキングが発生し難い高回転領域においては、点火時期を進角させることによって、ノッキングの発生を効果的に回避しながら、エンジン100の出力の向上が図られ、燃費性能の向上に有利になる。
従って、mapBにおいては、エンジン100の運転状態が高負荷領域にあるときには、点火時期の進角限界を91RON、93RON又は98RONに設定することで、エンジン100の運転状態が低中負荷領域にあるときの進角限界(つまり、98RON)に対して、同じか又は遅角側になると共に、エンジン100の運転状態が高負荷領域の、高回転領域にあるときには、点火時期の進角限界を93RONに設定することで、エンジン100の運転状態が高負荷領域の中回転領域にあるときの進角限界(つまり、91RON)に対して、進角側になる。
次に、mapCにおいて、充填効率Ceが1以下の非過給領域(つまり、低中負荷領域)では、相対的にエンジン回転数が低い領域において、進角限界を98RONにする。低中負荷領域において、相対的にエンジン回転数が高い領域においては、進角限界を91RONにする。低中負荷領域における進角限界は、ハイオクガソリン用のmapB及びmapCで同じである。
mapCにおいて、充填効率Ceが1を超える過給領域(つまり、高負荷領域)では、低回転領域において、進角限界を98RONにする。これは、mapBと同じである。これにより、ノッキングの発生の回避と共に、低速プレイグニッションも回避可能になる。
mapCにおいて、高負荷領域の中回転領域においては、進角限界を91RONにする。これも、mapBと同じである。使用頻度が高い中回転領域において、ノッキングの確実な回避と共に、エンジン100の信頼性が向上し、さらに、放射音の抑制に有利になる。
mapCにおいて、高負荷領域の高回転領域においては、進角限界を98RONにする。中回転領域と比較してノッキングが発生し難い高回転領域においては、点火時期を進角させることによって、ノッキングの発生を効果的に回避しながら、出力の向上が図られ、燃費性能の向上に有利になる。また、mapBとの比較において、mapCにおいては、高負荷領域の高回転領域における進角限界を、mapBよりもさらに進角化している。こうすることで、エンジン100の出力をさらに高めることが可能になり、エンジン100の最高出力を、より高く設定することが可能になる。
従って、mapCにおいては、エンジン100の運転状態が高負荷領域にあるときには、点火時期の進角限界を91RON又は98RONに設定することで、エンジン100の運転状態が中負荷領域にあるときの進角限界(つまり、98RON)に対して遅角側になると共に、エンジン100の運転状態が高負荷領域の、高回転領域にあるときには、点火時期の進角限界を98RONに設定することで、エンジン100の運転状態が高負荷領域の中回転領域にあるときの進角限界(つまり、91RON)に対して、進角側になる。
また、mapCにおいては、エンジン100の運転状態が高負荷領域の高回転領域にあるときの進角限界を98RONとすることで、燃料が低オクタン価燃料であるときのmapAにおける93RONに対して、進角側になる。
さらに、mapCにおいては、エンジン100の運転状態が高負荷領域の低回転領域にあるときの進角限界を98RONとすることで、mapAにおける91RONに対して、進角側になる。
加えて、mapCにおいては、エンジン100の運転状態が高負荷領域の中回転領域にあるときの進角限界を91RONとすることで、mapAにおける91RONと同じになる。
そして、変速段が低速段であるときのmapBにおいては、エンジン100の運転状態が高負荷領域の高回転領域にあるときの進角限界を93RONとし、変速段が高速段のときのmapCの98RONに対して、遅角側に設定することになる。これにより、トルク変動によるショックの発生を回避することが可能になる。
つまり、自動変速機101の変速段が低速段のときには、アクセルペダルの踏み込みに対して、エンジン100の運転状態の変化が激しくなる。例えば、図4のmapBにおける点Aの状態から、運転者がアクセルペダルを踏み込んで加速を行ったとすると、エンジン回転数及びエンジン負荷がそれぞれ、短時間で大きく変化することで、エンジンの運転ポイントは、同図に矢印で示すように、低中負荷領域の低回転領域から、高負荷領域の低回転領域をかすめるように移動し、高負荷領域の中回転領域を通過して高回転領域へと至るようになる。この運転ポイント移動の速度は比較的速い。運転ポイントが移動することに伴い、エンジンの充填効率を変化させると共に、点火時期も、mapBに定めた進角限界に従って変化させる必要がある。
ここで、高負荷領域の中回転領域の進角限界と、高回転領域の進角限界との差が、mapCのように大きいと、運転ポイントの移動に伴い、進角限界は、低中負荷領域の低回転領域の93RONから、高負荷領域の中回転領域の91RONに至り、そこから高負荷領域の高回転領域98RONへと、短時間で、大きく変更される。その結果、点火時期の変更が遅れると共に、点火時期に応じて設定される充填効率の変更も遅れる結果、トルク変動によるショックが発生する場合がある。
また、図4のmapBにおける点Bの状態から、運転者がアクセルペダルを踏み込んで加速を行ったとすると、自動変速機101のシフトアップが行われることによって、同図に矢印で示すように、エンジン100の運転ポイントは、エンジン回転数が一旦、低下した後、エンジン回転数が再び上昇するように移動をするが、このエンジン回転数の変化も、短時間で大きく変化することになる。ここで、エンジン回転数が一旦、低下して、高回転領域から中回転領域へと移行すると、進角限界が遅角側に変更されることに伴い、点火時期が次第に遅角側に変更される。また、点火時期が変更されることに伴い、充填効率も変更されるが(図2のステップS5参照)、ターボ過給機4のコンプレッサ4aの回転数は急には変化しないため、充填効率の変更には時間を要する。点Bの状態から、運転者がアクセルペダルを踏み込んで加速を行うケースでは、エンジン100のトルクが、目標トルクに対し過剰になった後、エンジン100のトルクが目標トルクに収束するようになり、それがショックとなる。
そこで、mapBにおいては、エンジン100の運転状態が高負荷領域の高回転領域にあるときの進角限界を93RONにして、点火時期を、相対的に遅角側に設定する。こうすることで、高負荷領域の高回転領域の進角限界と、中回転領域の進角限界との差が小さくなる。その結果、運転ポイントの移動が激しい低速段において、点火時期や充填効率の変化の遅れが抑制され、ショックの発生を防止することが可能になる。これより、ドライビングフィールが向上する。
尚、変速段が高速段のときに、前述したように、点Aの状態から加速を行ったり、点Bの状態から加速を行ったりしたときには、エンジン100の運転ポイントの移動速度が遅くなる。そのため、mapCに示すように、高負荷領域の高回転領域の進角限界と、中回転領域の進角限界との差が大きくても、ショックの発生が防止される。
次に、図6に示すフローチャートを参照しながら、点火時期マップの選択を含む点火制御について説明をする。先ずスタート後のステップS21では、自動車の走行状態の読み込みを行う。このステップは、図2のフローのステップS1と基本的に同じであり、前述したように、エンジン本体20の回転数、車速、アクセル開度、及び、変速段等の、エンジン100の運転状態を含む自動車の走行状態を読み込む。また、ハイオク判定部52が判定をした燃料のオクタン価に関する情報も読み込む。
続くステップS22において、燃料が高オクタン価燃料であるか否かを判定する。高オクタン価燃料であるときにはステップS23に移行し、低オクタン価燃料であるときにはステップS26に移行する。ステップS26では、mapAを選択し、ステップS27に移行する。
ステップS23では、変速段が1速又は2速であるか否かを判定する。判定がYESのときにはステップS25に移行して、mapBを選択し、ステップS27に移行する。判定がNOのときにはステップS24に移行して、mapCを選択し、ステップS27に移行する。
ステップS27では、選択したマップと、ノック検出とに基づいて点火時期を設定し、ステップS28で、設定した点火時期に従い、点火プラグ24を制御する。
このようにして、前記の構成のエンジンの点火時期制御装置では、点火制御部54は、エンジン100の運転状態が高負荷領域にあるときには、点火時期の進角限界を、エンジン100の運転状態が低中負荷領域にあるときに対して、同じか又は遅角側に設定することで、ノッキングの発生を効果的に抑制すると共に、エンジン100の運転状態が高負荷領域の、高回転領域にあるときには、点火時期の進角限界を、エンジンの運転状態が高負荷領域の、高回転領域よりも回転数の低い領域にあるときに対して、進角側に設定することにより、エンジン出力の向上が図られるから、燃費性能の向上に有利になる。
また、点火制御部54は、燃料が高オクタン価燃料であるときには、エンジンの運転状態が高負荷領域の高回転領域にあるときの進角限界を、燃料が低オクタン価燃料であるときに対して、進角側に設定することにより、燃費性能の向上と共に、エンジン100の最高出力を高く設定することが可能になる。
さらに、点火制御部54は、燃料が高オクタン価燃料であるときには、エンジン100の運転状態が高負荷領域の低回転領域にあるときの進角限界を、燃料が低オクタン価燃料であるときに対して、進角側に設定することにより、燃費性能の向上と共に、低速プレイグニッションの回避に有利になる。
加えて、点火制御部54は、燃料が高オクタン価燃料であるときには、エンジン100の運転状態が高負荷領域の中回転領域にあるときの進角限界を、燃料が低オクタン価燃料であると判定したときと同じに設定することにより、使用頻度の高い領域において、エンジン100の信頼性を向上させることができると共に、放射音の抑制にも有利になる。
点火制御部54は、燃料が高オクタン価燃料であると判定したときであって、変速段が低速段のときには、エンジンの運転状態が高負荷領域の高回転領域にあるときの進角限界を、変速段が高速段のときに対して、遅角側に設定することにより、ショックの発生が回避され、ドライビングフィールを向上させることができる。
尚、前記の構成では、ターボ過給機付きエンジンを例に、ここに開示する技術について説明をしたが、ここに開示する技術は、自然吸気エンジンに適用することも可能である。
また、エンジンの構成は、前述した構成に限らず、その他、様々な構成のエンジンに、ここに開示する技術を適用することが可能である。