以下、図面を参照して本発明に係る細胞取扱容器の実施形態を説明する。図面の説明において同一の要素には同一符号を付し、重複説明は省略する。また、以下の説明では、上下、左右及び前後の位置、方向は、細胞取扱容器の通常の使用状態における位置及び方向である。更に、各図において、各構成部の間の距離や間隔などは、発明の理解を容易にするために、実施形態に記載の寸法に比べて大きく或いは小さく描かれている場合がある。
<第1実施形態>
図1Aは第1実施形態の細胞取扱容器を示す平面図であり、図1Bは図1AのA−A線に沿う断面図である。本実施形態の細胞取扱容器1は、例えば受精卵、卵細胞、ES細胞(胚性幹細胞)及びiPS細胞(人工多能性幹細胞)を含む細胞の洗浄、培養、一時保管などの取り扱いに用いられる容器である。
ここで、卵細胞は、未受精の卵細胞をさし、未成熟卵母細胞及び成熟卵母細胞が含まれる。受精卵は、受精後、卵割により2細胞期、4細胞期、8細胞期と細胞数が増えていき、桑実胚を経て、胚盤胞へと発生する。受精卵には、2細胞胚、4細胞胚及び8細胞胚などの初期胚、桑実胚、胚盤胞(初期胚盤胞、拡張胚盤胞及び脱出胚盤胞を含む)が含まれる。胚盤胞は、胎盤を形成する潜在能力がある外部細胞と胚を形成する潜在能力がある内部細胞塊からなる胚を意味する。ES細胞は胚盤胞の内部細胞塊から得られる未分化な多能性又は全能性細胞をさす。iPS細胞は、体細胞(主に線維芽細胞)へ数種類の遺伝子(転写因子)を導入することにより、ES細胞に似た分化万能性を持たせた細胞をさす。
また、本実施形態の細胞取扱容器1は、好ましくは哺乳動物及び鳥類の細胞、特に哺乳動物の細胞の培養に好適である。哺乳動物は、温血脊椎動物をさし、例えば、ヒト及びサルなどの霊長類、マウス、ラット及びウサギなどの齧歯類、イヌ及びネコなどの愛玩動物、ならびにウシ、ウマ及びブタなどの家畜が挙げられる。本実施形態の細胞取扱容器1は、ヒトやウシの受精卵の培養に好適であり、特にヒトの受精卵の培養に好適である。
図1A及び図1Bに示すように、細胞取扱容器1は、上方に開口する有底円筒状の容器本体1aと、該容器本体1aの上部に着脱自在に設置された蓋体1bとを備える。蓋体1bは、容器本体1aの開口を塞ぐ円板状の天板部51と、天板部51の周縁から下方に延設される円筒状の周壁部52とを有する。一方、容器本体1aは、例えば内径が35mm又は60mmのディッシュ型のものであり、互いに平行に配置された上面10aと底面10bとを有する略円板状の容器底部10と、容器底部10の周縁から立設された円筒状の側壁部11と、容器底部10の中央位置に設けられた細胞収容エリア12とを有する。
細胞収容エリア12は、受精卵などの細胞を収容し培養するための複数のマイクロウェル13と、マイクロウェル13を取り囲むとともに培養液を収容する円筒状の培養液収容部(液体収容部)14とを有する。これらのマイクロウェル13は、それぞれの断面が上方に開口したコ字状になっており、前後左右方向に一定の間隔で近接して配列されている。なお、マイクロウェル13の断面は必ずしも上方に開口したコ字状である必要がなく、例えば断面が上方に開口した円錐台形状、或いは円弧部を有する断面U字状やその他の形状であっても良い。更に、マイクロウェル13の底面が、平坦面であっても良く、外側から中心に向かって傾斜するテーパ面であっても良い。
また、容器底部10の上面10aには、該上面10aから上方に突出し、培養液などの液体ドロップを形成するためのドロップ形成部15が複数(本実施形態では、4つ)設けられている。これらのドロップ形成部15は、それぞれ円柱状を呈し、容器底部10と一体的に形成されており、細胞収容エリア12を取り囲むように該細胞収容エリア12の周囲に等間隔で配置されている。
ドロップ形成部15は、ドロップ形成領域とされた上面15aと、該上面15aの全周に沿って下方に延びる側面15bとを有する。上面15aは、平坦面とされている。このように上面15aが平坦面とされることで、例えばドロップ形成部15の上面15aに配置された受精卵などの細胞を顕微鏡で透過観察する際、光の反射、散乱が起こりにくくなり、鮮明な観察像を得ることができる。なお、ここでの平坦面とは、完全に滑らかな水平面であることが勿論だが、実質的に水平面であれば良く、一般的な射出成形品の平面部のように数μm程度の差や、JIS B 0419−1991で標準公差にあるような1%以下程度の製造上の表面粗さがあっても良いことを意味する。
側面15bは、上面15aの周方向に沿って全周にわたって設けられるとともに、該上面15aに対して直角に配置されている。従って、上面15aと側面15bとがなす角度αは、上面の縁P1において90°である。この側面15bは、上面15aの縁P1から5μm以上の範囲まで延設されている。
本実施形態では、ドロップ形成部15が容器底部10の上面10aから立設され、且つ上面15aが平坦面であるので、側面15bの上下方向での延設範囲は、容器底部10の上面10aに対するドロップ形成部15の上面15aの高さtと同じである。言い換えれば、容器底部10の上面10aに対するドロップ形成部15の上面15aの高さtは5μm以上である。高さtの下限値である5μmは、受精卵の培養液を用いてドロップを形成する際に、培養液の表面張力でドロップを形成できる条件に基づき設定されたものである。また、好ましくは、容器底部10の上面10aに対するドロップ形成部15の上面15aの高さtが10μm以上であり、より好ましくは50μm以上であり、更に好ましくは100μm以上であり、一層好ましくは250μm以上である。
これらの下限値は、容器底部10の上面10aに対するドロップ形成部15の上面15aの高さtが高くなるほど、形成されるドロップが保持し易く、一定レベルまで高くなると十分な保持が得られるためである。例えば、上述の高さtが50μm以上では、液量を多くしても厚みのあるドロップを作成でき、また、100μm以上では、液量を多くしても厚みのあるドロップを安定して作成でき、更に、250μm以上では、液量を多くしても厚みのあるドロップを更に安定して作成できる。そして、高さtの上限値については特に限定しないが、蓋体1bを閉める際に、ドロップ形成部15の上面15aが蓋体1bの天板部51と干渉しない程度であれば良い。
水平方向において、上面15aの幅(ここで、上面15aの直径D)は0.5mm以上10mm以下である。好ましくは、上面15aの直径Dが3mm以上6mm以下である。受精卵は、胚盤胞で直径が250μm程度まで、透明帯も含めて直径が500μm程度まで成長することがある。このような受精卵の大きさを考慮しつつ、培養又は洗浄作業を行い易くするために、上面15aの直径Dが受精卵最大直径である0.5mm以上であると設定されている。なお、受精卵等の細胞は、成長によってその形が球状であったり、楕円状等の形状であったりする場合がある。このため、本実施形態での細胞の直径とは、球状の場合にその直径、球状でない場合に最大幅を意味する。
一方、上面15aの幅(すなわち、上面15aの直径D)は、以下の説明により3.4mm以上7.2mm以下と設定されても良く、3.8mm以上5.4mm以下と設定されるのが好ましい。図31Aに示すように、ドロップ形成部15で形成されるドロップSの端部が垂直に立ち上がる場合、すなわち、ドロップSとドロップ形成部15の上面15aとの境界点(ここでは、後述の上面15aの縁P1)において上面15aとドロップとがなす角(つまり、水接触角θ)が90°の場合、平面視でドロップ形成部15の上面15aが半径r’[mm]の円形状となり(r’=D/2)、該上面15aで形成されるドロップの厚みh’[mm]は、h’=3V/(2πr’2)の関係式を満たしている。ここで、h’がr’を超えるとドロップが崩れやすいため、h’≦r’であり、Vは培養液量[μL]、πは円周率をそれぞれ示す。
そして、培養液量Vは、受精卵などの細胞を培養や洗浄する場合、好ましくは10μL以上100μL以下であり、更に好ましくは15μL以上40μL以下である。また、h’が大きいほど、ピペットなどの器具の操作がしやすくなるが、h’がr’を超えるとドロップが崩れやすくなる。そのため、ドロップ厚みh’はh’=r’のとき、作業性が良い。
上記式に基づき、V=10μL、h’=r’のとき、r’=1.7mm(すなわち、D=3.4mm)になる。一方、V=100μL、h’=r’のとき、r’=3.6mm(すなわち、D=7.2mm)になる。同様に、V=15μL、h’=r’のとき、r’=1.9mm(すなわち、D=3.8mm)になる。V=40μL、h’=r’のとき、r’=2.7mm(すなわち、D=5.4mm)になる。
以上より、ピペットなどの器具の良い操作性を確保しつつ、形成されるドロップの厚みh’が上面15aの半径r’と同じ(h’=r’)であるとき、培養液量Vが10μL以上100μL以下である場合に、直径Dが3.4mm以上7.2mm以下の範囲になり、培養液量Vが15μL以上40μL以下である場合に、直径Dが3.8mm以上5.4mm以下の範囲になる。
更に、上面15aの幅(すなわち、上面15aの直径D)は、以下の説明により2.0mm以上であると設定されても良い。具体的には、培養液量Vによらずに、h’=r’、且つh’≧1mmのとき、r’≧1mm(すなわち、D≧2mm)になる。この場合にあっても、ピペットなどの器具の操作性がし易くなる。これによって、ピペットなどの器具の良い操作性を確保しつつ、形成されるドロップの厚みh’が上面15aの半径r’と同じ(h’=r’)であるとき、h’≧1mmの場合に、直径Dが2mm以上になる。
なお、本実施形態においてドロップ形成部15の上面15aが平面視で円形状であるが、四角形などの多角形状、楕円形状、角丸四角形状等であっても良い。但し、形成されるドロップの保持し易さを考慮した場合には、上面15aが円形状であることが好ましい。
一方、上面15aの直径Dが10mmを超えると、受精卵の大きさに対して形成されたドロップが大きすぎで、受精卵の洗浄や培養時に受精卵を見つけ難くなるのみならず、限られた容器内のスペースに設置できるドロップ形成部の数も少なくなる。受精卵をスムーズに見つけて洗浄や培養作業を効率良く行うこと、及び限られたスペースにドロップ形成部をより多く設置できることを考慮した場合には、上面15aの直径Dが10mm以下であることが好ましい。
なお、本実施形態では、4つのドロップ形成部15が設けられているが、これらのドロップ形成部15の上面15aが全て面一である。このようにすることで、例えばピペットなどの器具を用いて受精卵を複数回洗浄する際に、器具をスライドして移動することができるので、作業性を更に高めることができる。
細胞取扱容器1の材質は、特に制限されない。具体的には、金属、ガラス、及びシリコン等の無機材料、プラスチック、例えば、ポリスチレン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ABS樹脂、ナイロン、アクリル樹脂、フッ素樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン樹脂、メチルペンテン樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、塩化ビニル樹脂で代表される有機材料を挙げることができる。また、この細胞取扱容器1は、当業者に公知の方法で製造することができる。例えば、プラスチック材料を用いて製造する場合には、射出成形により製造することができる。
このように構成された細胞取扱容器1では、ドロップ形成部15が容器底部10の上面10aから上方に突出し、該ドロップ形成部15の上面15aが容器底部10の上面10aと直接連結されておらず、且つ、該上面15aが平坦面とされて容器底部10の上面10aに対する高さtが5μm以上である。このため、該上面15aで培養液のドロップを形成するとき、培養液の表面張力でドロップを容易に形成することができる。その結果、ドロップ形成部15の上面15aが親水性表面であっても、図1Bの二点鎖線で示すように、当該上面15aに厚みのあるドロップSを容易に形成することができる。そして、該ドロップSの中に受精卵などの細胞Cを配置させることができる。
しかも、ドロップ形成領域とされた上面15aが容器底部10の上面10aより高いので、従来のようにドロップ形成用のウェルを設けた場合と比べて、ピペットなどの器具の先端がウェルの縁や側壁と接触して破損する心配がなく、作業性の向上を図ることができる。
なお、本実施形態では、培養液を入れた際にマイクロウェル13中の気泡を容易に取り除いて作業性の向上を図るために、更にマイクロウェル13の表面及び細胞収容エリア12の表面を親水性表面としても良い。これらの表面を親水性表面とするには、細胞収容エリア12及びドロップ形成部15を含む細胞取扱容器1全体に親水性の材料を用いても良く、あるいは、これらの表面に親水化処理を施しても良い。親水化処理はマスクを用いてパターン化することもできるが、製造コストや品質管理の観点から、全面への処理が好ましい。
親水化処理は、当技術分野で通常用いられる方法で実施することができ、特に制限されない。例えば、プラズマ処理、コーティング処理、UV照射処理、EB照射処理、表面への親水性ポリマー等のグラフト重合処理等が挙げられるが、処理対象の形状が3次元的に微細で複雑な構造を有していても全体を均一に処理できる観点からプラズマ処理が好ましい。なお、親水化処理は、細胞取扱容器1を成形後に実施することが好ましい。なお、親水性表面の水接触角θは80°未満であることが好ましい(図1B参照)。
通常では、水接触角θが80°未満の場合、平坦面でドロップの形成を試みると、ドロップが潰れてしまい、仮にドロップを形成できてもピペットなどの器具を非常に操作し難いため、受精卵などの細胞の洗浄や培養操作ができない問題がある。特に水接触角θが60°以下になると、上述の問題は更に顕著になる。例えば、受精卵などの細胞を培養や洗浄する際に、培養液量が15μL以上30μL以下の範囲で使用され、ピペットなどの器具の良い操作性を確保する観点から、形成されるドロップの厚みは1mm以上が好ましく、1.5mm以上が更に好ましい。しかしながら、培養液量が15μL以上30μL以下の範囲において水接触角θが80°未満の平坦面では、ドロップの厚みは1.5mm以下となり、器具を操作し難くなる。また、水接触角θが60°以下の平坦面では、ドロップの厚みは1.0mm以下となり、器具を非常に操作し難くなる。
これに対し、本実施形態のドロップ形成部15によれば、水接触角θが80°未満であっても厚みのあるドロップを容易に形成でき、60°以下であっても厚みのあるドロップを容易に形成でき、更に10°以下であっても厚みのあるドロップを容易に形成できる。
本実施形態に係るドロップ形成部15の形状については、様々な変形例が考えられる。例えば、図2Aに示す変形例では、断面視において、ドロップ形成部15の側面15cが下方に行くに従って外側に傾斜する傾斜面になっている。このため、ドロップ形成部15の断面が円錐台状を呈している。このとき、上面15aの縁P1において、上面15aと側面15cとがなす角度αは鈍角になる。
そして、角度の違いによる培養液の表面張力への影響を考慮した場合、当該角度αは136°以下であることが好ましい。図31Bに示すように、上面15aの縁P1において、角度α=180°−θの関係式を満たす。θは水接触角であり、水接触角測定において一般的に使われるθ/2法より、θ=2arctan(h’/r’)で求められており、h’はドロップの厚み、r’はドロップ形成部15の上面15aの半径(r’=D/2)である。例えば、r’=2.5mm(すなわちD=5mm)のドロップ形成部にてドロップを形成するとき、角度αが136°以下であれば、h’が1mm以上(ピペットなどの器具の操作し易い高さ)となる。更に、角度αは小さい方がより厚みのあるドロップが形成され易く、且つ形成されたドロップが保持し易いため、より好ましくは100°以下、更に好ましくは95°以下、一層好ましくは93°以下、より一層好ましくは92°以下、更に一層好ましくは91°以下である。また、ここでの角度αは、製造上の問題で先端が尖っていないものも含む。また、この場合において、上記縁P1を除いた容器内面全体の水接触角θ’がθ’≧α-90°(ただしα≧90°)のとき、上記縁P1におけるドロップ形成部の水接触角θがθ≦90°の範囲であればドロップが形成可能である。例えば、α=120°のドロップ形成部では、上記縁P1を除いた容器内面全体の水接触角θ’がθ’≧30°のときに、θ≦90°の範囲であれば、ドロップが形成可能である。
図2Bに示す変形例では、断面視において、側面15dが上方から順に垂直部分と傾斜部分とを有する段差面になっている。垂直部分は上面15aに対して直角に延びる部分であり、傾斜部分は下方に行くに従って外側に傾斜する部分である。このとき、上面の縁P1において、上面15aと側面15dの垂直部分とがなす角度αが90°である。
また、図2Cに示す変形例では、断面視において、ドロップ形成部15の側面15eと容器底部10の上面10aとの隅部が湾曲部を有するように加工されている。このため、側面15eが上方から順に垂直部分と曲線部分とを有するようになっている。このとき、上面15aの縁P1において、上面15aと側面15eの垂直部分とがなす角度αが90°である。
<第2実施形態>
図3Aは第2実施形態の細胞取扱容器を示す平面図であり、図3Bは図3AのB−B線に沿う断面図である。本実施形態の細胞取扱容器2と第1実施形態との相違点は、ドロップ形成部16と容器底部10との間に溝部17が設けられ、且つドロップ形成部16の上面16aが容器底部10の上面10aと面一である。その他の構成は第1実施形態と同様であるため、重複説明を省略する。
詳しくは、容器底部10には、ドロップ形成領域とされた上面16aと、該上面16aの周方向に沿って連続的に設けられるとともに下方に延びる側面16bとを有するドロップ形成部16が複数(ここでは、4つ)設けられている。ドロップ形成部16は、第1実施形態のドロップ形成部15と同様に円柱状に形成されている。また、ドロップ形成部16の上面16aは、平坦面とされ、容器底部10の上面10aと面一である。更に、図3Bに示すように、ドロップ形成部16の上面16aは、細胞収容エリア12における培養液収容部14の底面14aと面一である。
側面16bは、上面16aの全周にわたって設けられるとともに、該上面16aに対して直角に配置され、該上面16aの縁P1から5μm以上の範囲まで下方に延びている。言い換えれば、溝部17(後述)の底面に対するドロップ形成部16の上面16aの高さtが5μm以上である。ここで、側面16bが上面16aに対して直角に配置されているので、上面16aと側面16bとがなす角度αは上面16aの縁P1において90°である。また、好ましくは、溝部17の底面に対するドロップ形成部16の上面16aの高さtが10μm以上であり、より好ましくは50μm以上、更に好ましくは100μm以上、一層好ましくは250μm以上である。
これらの下限値は、溝部17の底面に対するドロップ形成部16の上面16aの高さtが高くなるほど(言い換えれば、溝部17が深くなるほど)、形成されるドロップが保持し易く、一定レベルまで高くなると十分な保持が得られるためである。例えば、上述の高さtが50μm以上では、液量を多くしても厚みのあるドロップを作成でき、また、100μm以上では、液量を多くしても厚みのあるドロップを安定して作成でき、更に、250μm以上では、液量を多くしても厚みのあるドロップを更に安定して作成できる。一方で、上述の高さtが高いほど(溝部17が深いほど)、容器底面の厚みが薄くなるため、容器底面が破損し易く、製造の観点で成形し難くなる。例えば、一般的な細胞培養容器の底面厚みは1mmが多く、その場合は高さt(溝部の深さ)が1mmであると容器底面が貫通してしまう。よって、高さt(溝部の深さ)は1mm未満が好ましく、また、射出成形による製造のし易さの観点から500μm以下がより好ましく、350μm以下が更に好ましく、250μm以下が一層好ましく、100μm以下がより一層好ましい。また、高さt(溝部の深さ)が500μm以下である場合、容器底面が物理的なダメージにより貫通・破損する可能性が極めて低い。
ドロップ形成部16と容器底部10との間には、ドロップ形成部16を取り囲む円環状の溝部17がドロップ形成部16毎に設けられている。溝部17は、断面が上方に開口するコ字状に形成されている。ドロップ形成部16の側面16bは、溝部17の側面の片方を構成している。
水平方向において、ドロップ形成部16の上面16aの縁P1から溝部17を介して隣接する容器底部10の上面10aの縁P2までの距離dは、0.01mm以上であり、好ましくは0.05mm以上であり、より好ましくは0.1mm以上であり、更に好ましくは0.4mm以上である。これは、距離dが大きくなるほど、形成されるドロップが保持し易く、一定レベルまで大きくなると十分な保持が得られるためである。一方、当該距離dが大きすぎると、限られたスペースに設置できるドロップ形成部の数が少なくなるので、4mm以下であることが好ましい。なお、本実施形態では、当該距離dは0.5mmである。
このように構成された細胞取扱容器2では、ドロップ形成部16の上面16aが溝部17によって容器底部10の上面10aと隔離され、且つ上面16aが平坦面とされて側面16bが上面16aから5μm以上の範囲まで下方に延びている。従って、上述の第1実施形態と同様に上面16aが親水性表面であっても、当該上面16aに培養液のドロップSを容易に形成することができる。更に、従来のように器具の先端がウェルの縁や側壁と接触して破損する心配がないので、作業性の向上を図ることができる。
しかも、ドロップ形成部16の上面16aが容器底部10の上面10aと面一であるので、例えばピペットなどの器具を用いて受精卵を複数回洗浄する際に、器具をスライドして移動することができるので、作業性を更に高めることができる。
なお、本実施形態において、マイクロウェル13の底面がドロップ形成部16の上面16aと面一であっても良い。このようにすれば、例えばマイクロウェル13とドロップ形成部16との間で受精卵などの細胞を移動させる場合、または両場所に配置している場合、顕微鏡観察において同じピント位置で観察でき、作業性を更に向上することができる。また、本実施形態に係る溝部17はドロップ形成部16を取り囲む円環状となっているが、容器底部10の上面16aに培養液のドロップSを容易に形成することができる限りにおいては、円環状の一部が途切れており、上面視で略C字形状となっていてもよい。
なお、本実施形態に係るドロップ形成部及び溝部の形状については、様々な変形例が考えられる。例えば、図4Aに示す変形例では、断面視において、ドロップ形成部16の側面16cが下方に行くに従って外側に傾斜する傾斜面となっている。このため、ドロップ形成部16の断面が円錐台状になっている。このとき、上面16aの縁P1において、上面16aと側面16cとがなす角度αは鈍角になるが、上述の理由で136°以下であることが好ましい。更に、角度αは小さい方がより厚みのあるドロップが形成され易く、且つ形成されたドロップが保持し易いため、より好ましくは100°以下、更に好ましくは95°以下、一層好ましくは93°以下、より一層好ましくは92°以下、更に一層好ましくは91°以下である。
図4Bに示す変形例では、断面視において、ドロップ形成部16の側面16dが、下方に行くに従って外側に傾斜する傾斜面になっている。このため、ドロップ形成部16の断面が円錐台状になっている。このとき、上面16aの縁P1において、上面16aと側面16dとがなす角度αは鈍角になるが、136°以下が好ましく、100°以下がより好ましく、95°以下が更に好ましく、93°以下が一層好ましく、92°以下がより一層好ましく、91°以下が更に一層好ましい。また、このとき、溝部19の断面がV字状になっている。
図4Cに示す変形例では、断面視において、側面16eが上方から順に垂直部分と傾斜部分とを有する段差面になっている。垂直部分は上面16aに対して直角に延びる部分であり、傾斜部分は下方に行くに従って外側に傾斜する部分である。このとき、上面16aの縁P1において、上面16aと側面16eの垂直部分とがなす角度αは90°である。そして、溝部20の断面は上側矩形状と下側逆三角形により組み合わせられた形状になっている。
図5Aに示す変形例では、断面視において、ドロップ形成部16の側面16fと容器底部10との隅部が湾曲部を有するように加工されている。このため、側面16fが上方から順に垂直部分と曲線部分とを有するようになっている。このとき、上面16aの縁P1において、上面16aと側面16fの垂直部分とがなす角度αは90°である。そして、溝部21の断面はU字状になっている。
図5Bに示す変形例では、断面視において、ドロップ形成部16の側面16gが下方に行くに従って内側に傾斜する傾斜面となっている。このため、ドロップ形成部16の断面が逆円錐台状になっている。このとき、上面16aの縁P1において、上面16aと側面16gとがなす角度αが鋭角になる。そして、溝部22の断面は上方に開口する円錐台状になっている。
図5Cに示す変形例では、断面視において、ドロップ形成部16の側面16hが上方から順に傾斜部分と垂直部分とを有する段差面になっている。傾斜部分は下方に行くに従って内側に傾斜する部分であり、垂直部分は上面16aに対して直角に延びる部分である。このとき、上面16aの縁P1において、上面16aと側面16hの傾斜部分とがなす角度αは鋭角になる。そして、溝部23の断面は上側円錐台状と下側矩形状により組み合わせられた形状になっている。
本実施形態では、ドロップ形成部16の上面16aが容器底部10の上面10aと面一であるが、図6Aに示すように、ドロップ形成部16の上面16aを容器底部10の上面10aよりも高く配置しても良い。この場合、ドロップ形成部16の側面16iの一部(すなわち、側面16iにおける容器底部10の上面10aより下の部分)が溝部24の側面の片方を構成する。
また、図6Bに示すように、ドロップ形成部16の上面16aを容器底部10の上面10aよりも低く配置しても良い。この場合、ドロップ形成部16の側面16jが溝部25の側面の片方を構成する。
<第3実施形態>
図7Aは第3実施形態の細胞取扱容器を示す部分平面図であり、図7Bと図7Cは図7AのC−C線に沿う断面図である。本実施形態の細胞取扱容器3と第2実施形態との相違点は、ドロップ形成部16を取り囲む囲壁部26を更に備え、且つ容器底部10と囲壁部26との間に溝部27が設けられることである。その他の構成は第2実施形態と同様であるため、重複説明を省略する。
具体的には、ドロップ形成部16の外周には、円環状の囲壁部26がドロップ形成部16を取り囲むように設けられている。この囲壁部26は、ドロップ形成部16の側面16bと所定の距離で離れて配置されている。囲壁部26の上端面26aは、ドロップ形成部16の上面16a及び容器底部10の上面10aと面一である。水平方向において、ドロップ形成部16の上面16aの縁P1から囲壁部26の上端面26aの外縁P3までの距離cは、1mm以下であり、0.8mm以下であることが好ましく、0.5mm以下であることがより好ましい。
囲壁部26と容器底部10との間には、囲壁部26を取り囲む溝部27が設けられている。本実施形態の溝部27は、上述の第2実施形態の溝部17と同様に、断面が上方に開口するコ字状に形成されている。そして、溝部27の側面の片方が囲壁部26の側面によって構成されている。なお、溝部27の断面形状については、上述第2実施形態の溝部の変形例(図4A〜C及び図5A〜C参照)も適用される。
また、水平方向において、ドロップ形成部16の上面16aの縁P1から囲壁部26の上端面26aのうち最も近い縁P4までの距離d1と、囲壁部26の上端面26aの外縁P3から溝部27を介して隣接する容器底部10の上面10aの縁P2までの距離d2とは、それぞれ0.01mm以上であり、好ましくは0.05mm以上であり、より好ましくは0.1mm以上であり、更に好ましくは0.4mm以上である。これは、上述の距離d1及びd2がそれぞれ大きくなるほど、形成されるドロップが保持し易く、一定レベルまで大きくなると十分な保持が得られるためである。一方、距離d1及びd2が大きすぎると、限られたスペースに設置できるドロップ形成部の数が少なくなるので、それぞれ4mm以下であることが好ましい。
このように構成された細胞取扱容器3では、ドロップ形成部16の上面16aが囲壁部26との間の空間によって周囲と隔離されているので、上述の第2実施形態と同様に、上面16aが親水性表面であっても当該上面16aに培養液のドロップSを容易に形成することができるとともに、従来のように器具の先端がウェルの縁や側壁と接触して破損する心配がないので、作業性の向上を図ることができる。
更に、ドロップ形成部16を取り囲む囲壁部26が設けられ、上面16aの縁P1から囲壁部26の上端面26aの外縁P3までの距離cが1mm以下であり、且つ該囲壁部26と容器底部10との間に溝部27が設けられるので、仮にドロップ形成部16の上面16aで形成されたドロップSが振動などで周囲に拡がるときに、ドロップSが囲壁部26までに拡がり、該囲壁部26の外縁P3に留まることが可能である(図7C参照)。その結果、ドロップSの崩壊を防止することができる。なお、この場合、ドロップSの外縁P3までの拡がりによってその厚みが小さくなるが、受精卵の培養や洗浄には影響を与えない程度である。なお、本実施形態において、囲壁部26の上端面26aとドロップ形成部16の上面16aとは、面一であるが、面一でなくても良い。
<第4実施形態>
図8Aは第4実施形態の細胞取扱容器を示す部分平面図であり、図8Bと図8Cは図8AのD−D線に沿う断面図である。本実施形態の細胞取扱容器4と第2実施形態との相違点は、ドロップ形成部16の側面16kが2段以上の段差面によって形成されることである。その他の構成は第2実施形態と同様であるため、重複説明を省略する。
具体的には、側面16kは、上面16aの全周に沿って下方に延びるとともに、内側から外側にむかって拡がるように階段状(ここでは、3段)に形成されている。この側面16kは、上方から順に、上面16aに対して直角に配置された第1部分16k1と、第1部分16k1と連結して水平部及び垂直部を有する第2部分16k2と、第2部分16k2と連結して水平部及び垂直部を有する第3部分16k3とから構成されている。
上下方向において、側面16kの上面16aの縁P1から第2部分16k2の水平部までの距離(すなわち、第1部分16k1の高さ)t1、第2部分16k2の水平部から第3部分16k3の水平部までの距離(すなわち、第2部分16k2の高さ)t2、及び、第3部分16k3の水平部から溝部28(後述する)の底面までの距離(すなわち、第3部分16k3の高さ)t3は、それぞれ5μm以上である。好ましくは、上述の高さt1,t2,t3がそれぞれ10μm以上であり、より好ましくは50μm以上であり、更に好ましくは100μm以上であり、一層好ましくは250μm以上である。
これらの下限値は、上述の高さt1,t2,t3がそれぞれ高くなるほど、形成されるドロップが保持し易く、一定レベルまで高くなると十分な保持が得られるためである。例えば、上述の高さt1,t2,t3がそれぞれ50μm以上では、液量を多くしても厚みのあるドロップを作成でき、また、100μm以上では、液量を多くしても厚みのあるドロップを安定して作成でき、更に、250μm以上では、液量を多くしても厚みのあるドロップを更に安定して作成できる。そして、上述の高さt1,t2,t3の上限値については特に限定しないが、高いほど製造上の観点から成形し難くなるデメリットがある。
なお、このとき、側面16kの第1部分16k1が上面16aに対して直角に配置されるので、上面16aの縁P1において上面16aと側面16kの第1部分16k1とがなす角度αが90°である。
また、ドロップ形成部16と容器底部10との間には、ドロップ形成部16を取り囲む円環状の溝部28が設けられている。断面視において、溝部28は上方に開口し、溝部28の側面のうち一方がドロップ形成部16の側面16kによって階段状に形成され、他方が垂直面とされている。
水平方向において、ドロップ形成部16の上面16aの縁P1から第2部分16k2の垂直部までの距離(すなわち、第2部分16k2の幅)y1、及び、第2部分16k2の垂直部から第3部分16k3の垂直部までの距離(すなわち、第3部分16k3の幅)y2は、それぞれ1mm以下であり、0.8mm以下であることが好ましく、0.5mm以下であることがより好ましい。
また、水平方向において、第3部分16k3の垂直部から溝部28を介して隣接する容器底部10の上面10aの縁P2までの距離Xは、0.01mm以上であり、好ましくは0.05mm以上であり、より好ましくは0.1mm以上であり、更に好ましくは0.4mm以上である。これは、当該距離Xが大きくなるほど、形成されるドロップが保持し易く、一定レベルまで大きくなると十分な保持が得られるためである。一方、当該距離Xが大きすぎると、限られたスペースに設置できるドロップ形成部の数が少なくなるので、4mm以下であることが好ましい。
このように構成された細胞取扱容器4は、上述の第3実施形態と同様な作用効果を得られるほか、更に以下の効果を奏する。すなわち、ドロップ形成部16の側面16kが階段状に形成されるので、仮にドロップ形成部16の上面16aで形成されたドロップSが振動などで周囲に拡がるときに、ドロップSが側面16kの第2部分16k2における水平部の縁、或いは第3部分16k3における水平部の縁までに拡がり、そこに留まることが可能である(図8C参照)。その結果、ドロップSの崩壊を防止することができる。なお、この場合、ドロップSの拡がりによってその厚みが小さくなるが、受精卵の培養や洗浄には影響を与えない程度である。なお、本実施形態では、ドロップ形成部16の側面16kが3段の段差面であるが、2段や4段以上であっても良い。
<第5実施形態>
図9Aは第5実施形態の細胞取扱容器を示す平面図であり、図9Bは図9AのE−E線に沿う断面図である。本実施形態の細胞取扱容器5と第1実施形態との相違点は、ドロップ形成部30の形状である。その他の構成は第1実施形態と同様であるため、重複説明を省略する。
具体的には、容器底部10の上面10aには、培養液などの液体ドロップを形成するためのドロップ形成部30が複数(本実施形態では、4つ)設けられている。これらのドロップ形成部30は、円筒状を呈し、容器底部10の上面10aから立設されるとともに、細胞収容エリア12の周囲に等間隔で配置されている。ドロップ形成部30は、上方に開口する凹部31と、該凹部31を形成する周壁部32によって形成されている。
凹部31は、断面視で矩形状の内部空間を有し、その底面31aが平坦状に形成されている。周壁部32は、凹部31の内部空間を形成する内壁面32aと、該内壁面32aの外側に位置する外壁面32bと、上方に位置する上端面32cとを有する。上端面32cは、特許請求の範囲に記載の「周壁部の上端部」に相当するものであって、平坦面とされている。この上端面32cは、凹部31とともに液体のドロップ形成領域とされている。本実施形態では、4つのドロップ形成部30の周壁部32の上端面32cは全て面一になっている。一方、外壁面32bは、上端面32cに対して直角に配置されているため、上端面32cの縁P1において、上端面32cと外壁面32bとがなす角度αは90°である。なお、外壁面32bは、上下方向において上端面32cの縁P1から5μm以上の範囲まで延設されている。
本実施形態では、上下方向において、周壁部32の上端面32cから容器底部10の上面10aまでの距離をh1、周壁部32の上端面32cから凹部31の底面31a(最も深い部分)までの距離をh2としたとき、h1とh2との和が0.2mm未満(すなわち、h1+h2<0.2mm)である。好ましくは、h1とh2の和が0.1mm以下であり、更に好ましくは、h1とh2の和が0.02mm以下である。なお、本実施形態では、凹部31の底面31aが容器底部10の上面10aと面一であるので、h1=h2になる。また、図9Bに示す符号fは、水平方向における周壁部の厚み(すなわち、周壁部の内壁面から外壁面までの距離)である。
このように構成された細胞取扱容器5では、周壁部32の上端面32cと凹部31とが液体のドロップ形成領域とされ、外壁面32bが上下方向において上端面32cの縁P1から5μm以上の範囲まで延設されている。従って、第1実施形態と同様に、上端面32cが親水性表面であっても、当該上端面32cと凹部31とで培養液のドロップSを容易に形成することができる。
また、上述したようにh1+h2<0.2mmであるので、ピペットなどの器具をスライドして移動する際に、器具の先端と周壁部32の内壁面32a及び外壁面32bとの接触が抑制されるので、従来のような接触による破損を防止することが可能になり、作業性の向上を図ることができる。
なお、周壁部及び凹部の形状については、様々な変形例が考えられる。例えば、図10Aに示す変形例では、断面視において、周壁部32の内壁面32dが下に行くに従って内側に傾斜する傾斜面となっている。凹部31の底面31bは、平坦面とされており、容器底部10の上面10aと面一である(すなわち、h1=h2)。凹部31の断面は、逆円錐台状になっている。このとき、上端面32cの縁P1において、上端面32cと外壁面32bとがなす角度αは90°である。
図10Bに示す変形例では、断面視において、周壁部32の内壁面32eが下に行くに従って内側に傾斜する傾斜面であり、凹部31がV字状(すなわち、上方に開口する逆三角形)になっている。凹部31の底面31cは、逆三角形の頂点であり、容器底部10の上面10aと面一である(すなわち、h1=h2)。このとき、上端面32cの縁P1において、上端面32cと外壁面32bとがなす角度αは90°である。
図11Aに示す変形例では、断面視において、周壁部32の内壁面32fが上方から順に垂直部分と傾斜部分とを有する段差面となっている。垂直部分は上端面32cに対して直角に延びる部分であり、傾斜部分は下方に行くに従って内側に傾斜する部分である。このとき、凹部31が断面視で上側矩形状と下側逆三角形により組み合わせられた形状となっている。凹部31の底面31dは、逆三角形の頂点であり、容器底部10の上面10aと面一である(すなわち、h1=h2)。このとき、上端面32cの縁P1において、上端面32cと外壁面32bとがなす角度αは90°である。
図11Bに示す変形例では、断面視において、周壁部32の内壁面32gが上方から順に垂直部分と曲線部分とを有するように形成されている。垂直部分は上端面32cに対して直角に延びる部分であり、曲線部分は下方に凸となるように湾曲する部分である。このため、凹部31の底面31eは、下方に凸となる凸曲面となっており、その最も深い部分が容器底部10の上面10aと同一平面上に位置している(すなわち、h1=h2)。このとき、上端面32cの縁P1において、上端面32cと外壁面32bとがなす角度αは90°である。
図12Aに示す変形例では、断面視において、周壁部32の内壁面32eが下に行くに従って内側に傾斜する傾斜面になり、凹部31がV字状(すなわち、上方に開口する逆三角形)になっている。凹部31の底面31cは、逆三角形の頂点であり、容器底部10の上面10aと面一である(すなわち、h1=h2)。一方、周壁部32の上端において、外壁面32bと内壁面32eとが交差して稜線部32hが形成されている。この稜線部32hは、特許請求の範囲に記載の「周壁部の上端部」に相当するものである。また、稜線部32hの縁P1において、外壁面32bと内壁面32eとがなす角度αは鋭角である。角度αはより鋭角の方が培養液の表面張力で安定したドロップを形成することができる。
図12Bに示す変形例では、断面視において、周壁部32の内壁面32eが下に行くに従って内側に傾斜する傾斜面になり、凹部31がV字状(上方に開口する逆三角形)になっている。凹部31の底面31cは、逆三角形の頂点であり、容器底部10の上面10aと面一である(すなわち、h1=h2)。外壁面32iは、上方から順に、下方に行くに従って外側に傾斜する傾斜部分と、上下方向に延びる垂直部分とを有するようになっている。一方、周壁部32の上端において、外壁面32iの傾斜部分と内壁面32eとが交差して稜線部32hが形成されている。この稜線部32hは、特許請求の範囲に記載の「周壁部の上端部」に相当するものである。また、稜線部32hの縁P1において、外壁面32iの傾斜部分と内壁面32eとがなす角度αは鋭角である。
図13Aに示す変形例では、断面視において、周壁部32の内壁面32eが下に行くに従って内側に傾斜する傾斜面になり、凹部31がV字状(上方に開口する逆三角形)になっている。凹部31の底面31cは、逆三角形の頂点であり、容器底部10の上面10aと面一である(すなわち、h1=h2)。外壁面32jは、下方に行くに従って外側に傾斜する傾斜面になっている。一方、周壁部32の上端において、外壁面32jと内壁面32eとが交差して稜線部32hが形成されている。この稜線部32hは、特許請求の範囲に記載の「周壁部の上端部」に相当するものである。また、稜線部32hの縁P1において、外壁面32jと内壁面32eとがなす角度αは鋭角である。
図13Bに示す変形例では、断面視において、周壁部32の外壁面32k及び内壁面32lは、上方から順に、下方に行くに従って外側に傾斜する傾斜部分と、上下方向に延びる垂直部分とを有するようにそれぞれ形成されている。周壁部32の上端部は、外壁面32kの傾斜部分と内壁面32lの傾斜部分とが逆V字状に交差することで尖り部とされている。このため、周壁部32の上端において、稜線部32hが形成されている。この稜線部32hは、特許請求の範囲に記載の「周壁部の上端部」に相当するものである。また、稜線部32hの縁P1において、外壁面32kと内壁面32lとがなす角度αは鋭角である。なお、図13Bに示す符号gは、上下方向における尖り部の距離(すなわち、稜線部32hから外壁面32k(又は内壁面32l)における傾斜部分と垂直部分との境界部までの距離)である。
本実施形態では、凹部31の底面が容器底部10の上面10aと面一であることを説明したが、図14Aに示すように、凹部31の底面31aを容器底部10の上面10aよりも高く配置しても良く、或いは図14Bに示すように、凹部31の底面31aを容器底部10の上面10aよりも低く配置しても良い。
<第6実施形態>
図15Aは第6実施形態の細胞取扱容器を示す平面図であり、図15Bは図15AのF−F線に沿う断面図である。本実施形態の細胞取扱容器6と第1実施形態との相違点は、ドロップ形成部40の形状である。その他の構成は第1実施形態と同様であるため、重複説明を省略する。
具体的には、容器底部10の上面10aには、培養液などの液体ドロップを形成するためのドロップ形成部40が複数(本実施形態では、4つ)設けられている。これらのドロップ形成部40は、それぞれ円筒状を呈しており、容器底部10の内部に埋めるように形成されるとともに、細胞収容エリア12の周囲に等間隔で配置されている。ドロップ形成部40は、上方に開口する凹部41と、該凹部41を形成する周壁部42とで形成されている。また、容器底部10と周壁部42との間には、該周壁部42を取り囲む溝部43がドロップ形成部40毎に設けられている。
凹部41は、断面視で矩形状の内部空間を有し、その底面41aが平坦状に形成されている。周壁部42は、凹部41の内部空間を形成する内壁面42aと、該内壁面42aの外側に位置する外壁面42bと、上方に位置する上端面42cとを有する。上端面42cは、特許請求の範囲に記載の「周壁部の上端部」に相当するものであって、平坦面とされ、容器底部10の上面10aと面一である。この上端面42cは、凹部41とともに液体のドロップ形成領域とされている。本実施形態では、4つのドロップ形成部40の周壁部42の上端面42cは、全て面一であるとともに、細胞収容エリア12における培養液収容部14の底面14aと面一である。一方、外壁面42bは、上端面42cに対して直角に配置されているため、上端面42cの縁P1において、上端面42cと外壁面42bとがなす角度αは90°である。なお、外壁面42bは、上下方向において上端面42cの縁P1から5μm以上の範囲まで延設されており、溝部43の側面の片方を構成している。
水平方向において、ドロップ形成部40の上端面42cの縁P1から溝部43を介して隣接する容器底部10の上面10aの縁P2までの距離dは、0.01mm以上であり、好ましくは0.05mm以上であり、より好ましくは0.1mm以上であり、更に好ましくは0.4mm以上である。これは、距離dが大きくなるほど、形成されるドロップが保持し易く、一定レベルまで大きくなると十分な保持が得られるためである。一方、当該距離dが大きすぎると、限られたスペースに設置できるドロップ形成部の数が少なくなるので、例えば4mm以下であることが好ましい。なお、本実施形態では、当該距離dは0.5mmである。
本実施形態では、上下方向において、周壁部42の上端面42cから容器底部10の上面10aまでの距離をh3(図18参照)、周壁部42の上端面42cから凹部41の底面41a(最も深い部分)までの距離をh4としたとき、h3とh4との和が1mm以下(すなわち、h3+h4≦1mm)である。好ましくは、h3とh4の和が0.5mm以下であり、より好ましくは、h3とh4の和が0.2mm以下であり、更に好ましくは、h3とh4の和が0.1mm以下であり、一層好ましくは、h3とh4の和が0.02mm以下である。なお、本実施形態では、周壁部42の上端面42cと容器底部10の上面10aとが面一であるので、h3=0である。
このように構成された細胞取扱容器6では、周壁部42の上端面42cと凹部41とが液体のドロップ形成領域とされ、外壁面42bが上下方向において上端面42cの縁P1から5μm以上の範囲まで延設されている。従って、上述の第1実施形態と同様に、上端面42cが親水性表面であっても、当該上端面42cと凹部41とで培養液のドロップSを容易に形成することができる。
また、上述したようにh3+h4≦1mm(ここで、h3=0)であるので、ピペットなどの器具をスライドして移動する際に、器具の先端と周壁部42の内壁面42a及び外壁面42bとの接触が抑制されるので、従来のような接触による破損を防止することが可能になり、作業性の向上を図ることができる。
本実施形態において、マイクロウェル13の底面がドロップ形成部40の凹部41の底面41aと面一であっても良い。このようにすれば、例えばマイクロウェル13とドロップ形成部40との間で受精卵などの細胞Cを移動させる場合、または両場所に細胞Cをそれぞれ配置する場合、顕微鏡観察において同じピント位置で観察でき、作業性を更に向上することができる。
なお、周壁部及び凹部の形状については、様々な変形例が考えられる。例えば、図16Aに示す変形例では、断面視において、周壁部42の内壁面42dが下に行くに従って内側に傾斜する傾斜面となっている。凹部41の底面41bは、平坦面とされている。凹部41の断面は、上方に開口する逆円錐台状になっている。このとき、上端面42cの縁P1において、上端面42cと外壁面42bとがなす角度αは90°である。
図16Bに示す変形例では、断面視において、周壁部42の内壁面42eが下に行くに従って内側に傾斜する傾斜面となっており、凹部41がV字状(上方に開口する逆三角形)になっている。このため、凹部41の底面41cは、逆三角形の頂点である。このとき、上端面42cの縁P1において、上端面42cと外壁面42bとがなす角度αは90°である。
図17Aに示す変形例では、断面視において、周壁部42の内壁面42fが上方から順に、垂直部分と傾斜部分とを有する段差面になっている。垂直部分は上端面42cに対して直角に延びる部分であり、傾斜部分は下方に行くに従って内側に傾斜する部分である。このとき、凹部41が断面視で上側矩形状と下側逆三角形により組み合わせられた形状となっている。このため、凹部41の底面41dは、逆三角形の頂点である。このとき、上端面42cの縁P1において、上端面42cと外壁面42bとがなす角度αは90°である。
図17Bに示す変形例では、断面視において、周壁部42の内壁面42gが下方に凸となるような湾曲面になっている。このため、凹部31の底面41eは、下方に凸となる凸曲面となっている。このとき、上端面42cの縁P1において、上端面42cと外壁面42bとがなす角度αは90°である。
本実施形態では、周壁部42の上端面42cが容器底部10の上面10aと面一であることを説明したが、図18Aに示すように、周壁部42の上端面42cを容器底部10の上面10aよりも高く配置しても良く、或いは図18Bに示すように、周壁部42の上端面42cを容器底部10の上面10aよりも低く配置しても良い。
<第7実施形態>
図19Aは第7実施形態の細胞取扱容器を示す部分平面図であり、図19Bと図19Cは図19AのG−G線に沿う断面図である。本実施形態の細胞取扱容器7と第6実施形態との相違点は、ドロップ形成部40を取り囲む囲壁部44を更に備え、且つ容器底部10と囲壁部44との間に溝部45が設けられることである。その他の構成は第6実施形態と同様であるため、重複説明を省略する。
具体的には、ドロップ形成部40の周壁部42の外周には、円環状の囲壁部44が周壁部42を取り囲むように設けられている。この囲壁部44は、周壁部42の外壁面42bと所定の距離で離れて配置されている。囲壁部44の上端面44aは、周壁部42の上端面42c及び容器底部10の上面10aと面一である。水平方向において、周壁部42の上端面42cの縁P1から囲壁部44の上端面44aの外縁P3までの距離cは、1mm以下であり、0.8mm以下であることが好ましく、0.5mm以下であることがより好ましい。
更に、囲壁部44と容器底部10との間には、囲壁部44を取り囲む溝部45が設けられている。溝部45は、断面が上方に開口するコ字状に形成されている。該溝部45の側面の片方は、囲壁部44の側面によって構成されている。
また、水平方向において、周壁部42の上端面42cの縁P1から囲壁部44の上端面44aのうち最も近い縁P4までの距離d1と、囲壁部44の上端面44aの外縁P3から溝部45を介して隣接する容器底部10の上面10aの縁P2までの距離d2とは、それぞれ0.01mm以上であり、好ましくは0.05mm以上であり、より好ましくは0.1mm以上であり、更に好ましくは0.4mm以上である。これは、上述の距離d1及びd2がそれぞれある程度大きさになると、ドロップが保持し易くなるからである。一方、距離d1及びd2が大きすぎると、限られたスペースに設置できるドロップ形成部の数が少なくなるので、それぞれ4mm以下であることが好ましい。
このように構成された細胞取扱容器7は、上述の第6実施形態と同様な作用効果を得られる。更に、ドロップ形成部40を取り囲む囲壁部44を備え、且つ囲壁部44と容器底部10との間に溝部45が設けられるので、仮に凹部41及び周壁部42の上端面42cで形成されたドロップSが振動などで周囲に拡がるときに、ドロップSが囲壁部44までに拡がり、該囲壁部44の外縁P3に留まることが可能である(図19C参照)。その結果、ドロップSの崩壊を防止することができる。なお、この場合、ドロップSの拡がりによってその厚みが小さくなるが、受精卵などの細胞Cの培養や洗浄には影響を与えない程度である。
<第8実施形態>
図20Aは第8実施形態の細胞取扱容器を示す部分平面図であり、図20Bと図20Cは図20AのH−H線に沿う断面図である。本実施形態の細胞取扱容器8と第6実施形態との相違点は、周壁部42の外壁面42hが2段以上の段差面によって形成されることである。その他の構成は第6実施形態と同様であるため、重複説明を省略する。
具体的には、周壁部42の外壁面42hは、上端面42cの全周に沿って下方に延びるとともに、内側から外側にむかって拡がるように階段状(ここでは、3段)に形成されている。この外壁面42hは、上方から順に、上端面42cに対して直角に配置された第1部分42h1と、第1部分42h1と連結して水平部及び垂直部を有する第2部分42h2と、第2部分42h2と連結して水平部及び垂直部を有する第3部分42h3とから構成されている。
上下方向において、周壁部42の上端面42cの縁P1から外壁面42hの第2部分42h2の水平部までの距離(すなわち、第1部分42h1の高さ)t1、第2部分42h2の水平部から第3部分42h3の水平部までの距離(すなわち、第2部分42h2の高さ)t2、及び、第3部分42h3の水平部から溝部46(後述する)の底面までの距離(すなわち、第3部分42h3の高さ)t3は、それぞれ5μm以上である。好ましくは、上述の高さt1,t2,t3がそれぞれ10μm以上であり、より好ましくは50μm以上であり、更に好ましくは100μm以上であり、一層好ましくは250μm以上である。
これらの下限値は、上述の高さt1,t2,t3がそれぞれ高くなるほど、形成されるドロップが保持し易く、一定レベルまで高くなると十分な保持が得られるためである。例えば、上述の高さt1,t2,t3がそれぞれ50μm以上では、液量を多くしても厚みのあるドロップを作成でき、また、100μm以上では、液量を多くしても厚みのあるドロップを安定して作成でき、更に、250μm以上では、液量を多くしても厚みのあるドロップを更に安定して作成できる。そして、上述の高さt1,t2,t3の上限値については特に限定しないが、高いほど製造上の観点から成形し難くなるデメリットがある。
なお、このとき、外壁面42hの第1部分42h1が上端面42cに対して直角に配置されるので、上端面42cの縁P1において上端面42cと外壁面42hの第1部分42h1とがなす角度αが90°である。
また、周壁部42と容器底部10との間には、周壁部42を取り囲む円環状の溝部46が設けられている。断面視において、溝部46は上方に開口し、溝部46の側面のうち一方が周壁部42の外壁面42hによって階段状に形成され、他方が垂直面とされている。
水平方向において、周壁部42の上端面42cの縁P1から第2部分42h2の垂直部までの距離(すなわち、第2部分42h2の幅)y1、及び、第2部分42h2の垂直部から第3部分42h3の垂直部までの距離(すなわち、第3部分42h3の幅)y2は、それぞれ1mm以下であり、0.8mm以下であることが好ましく、0.5mm以下であることがより好ましい。
また、水平方向において、第3部分42h3の垂直部から溝部46を介して隣接する容器底部10の上面10aの縁P2までの距離Xは、0.01mm以上であり、好ましくは0.05mm以上であり、より好ましくは0.1mm以上であり、更に好ましくは0.4mm以上である。これは、当該距離Xが大きくなるほど、形成されるドロップが保持し易く、一定レベルまで大きくなると十分な保持が得られるためである。一方、当該距離Xが大きすぎると、限られたスペースに設置できるドロップ形成部の数が少なくなるので、4mm以下であることが好ましい。
このように構成された細胞取扱容器8は、上述の第6実施形態と同様な作用効果を得られるほか、更に以下の効果を奏する。すなわち、周壁部42の外壁面42hが階段状に形成されるので、仮に凹部41及び周壁部42の上端面42cで形成されたドロップSが振動などで周囲に拡がるときに、ドロップSが外壁面42hの第2部分42h2における水平部の縁、或いは第3部分42h3における水平部の縁までに拡がり、そこに留まることが可能である(図20C参照)。その結果、ドロップSの崩壊を防止することができる。なお、この場合、ドロップSの拡がりによってその厚みが小さくなるが、受精卵などの細胞Cの培養や洗浄には影響を与えない程度である。なお、本実施形態では、周壁部42の外壁面42hが3段の段差面であるが、2段や4段以上であっても良い。
<第9実施形態>
図21Aは第9実施形態の細胞取扱容器(蓋体を取り除いた状態)を示す平面図であり、図21Bは図21AのI−I線に沿う断面図であり、図21Cは図21AのJ−J線に沿う断面図であり、図21Dは図21AのK−K線に沿う断面図であり、図21Eは図21AのL−L線に沿う断面図である。本実施形態の細胞取扱容器9と上述した実施形態との相違点は、複数種類(ここでは、4種類)のドロップ形成部を組み合わせた構造である。その他の構成は上述の実施形態と同様であるため、重複説明を省略する。
具体的には、容器底部10の上面10aには、異なる構造を有するドロップ形成部が細胞収容エリア12の周辺に1箇所ずつ設けられている。図21Aに示す場所M1に第2実施形態に係るドロップ形成部16と溝部17を有する構造(図21B参照)、場所M2に第3実施形態に係るドロップ形成部16と囲壁部26と溝部27を有する構造(図21C参照)、場所M3に第5実施形態のドロップ形成部30を有する構造(図21D参照)がそれぞれ配置されている。
一方、場所M4に設けられた構造は、第5実施形態のドロップ形成部30に加えて、該ドロップ形成部30を取り囲む囲壁部33が設けられたものである。そして、該囲壁部33の上端面33aは、周壁部32の上端面32cと面一である(図21E参照)。
このように構成された細胞取扱容器9によれば、それぞれのドロップ形成部において、親水性表面であってもドロップを容易に形成することができるほか、1つの細胞取扱容器9に複数種類のドロップ形成部を設けることにより、必要に応じてこれらのドロップ形成部を使い分けることで、1つの細胞取扱容器9で多様なニーズに応えることができ、細胞取扱容器9の汎用性を高める効果を奏する。
<第10実施形態>
図22Aは第10実施形態の細胞取扱容器を示す平面図であり、図22Bは図22AのM−M線に沿う断面図である。本実施形態の細胞取扱容器53と第2実施形態との相違点は、細胞収容エリア12を設けずに、それに代えて容器底部10の中央にドロップ形成部54を設けることである。その他の構成は第2実施形態と同様であるため、重複説明を省略する。
具体的には、容器底部10の中央には、ドロップ形成領域とされた上面54aと、該上面54aの全周に沿って下方に延びる側面54bとを有するドロップ形成部54が設けられている。ドロップ形成部54は、その周囲に配置された4つのドロップ形成部16と同様に円柱状に形成されているが、ドロップ形成部16よりも広く形成されている。また、ドロップ形成部54の上面54aは、略平坦面とされ、ドロップ形成部16の上面16a及び容器底部10の上面10aと面一である。
ドロップ形成部54の中央には、上面54aから内部に凹んでなるマイクロウェル55が複数形成されている。これらのマイクロウェル55は、受精卵などの細胞Cの収容や培養に適するようにそれぞれ略円柱状を呈しており、その底面が外側から中心に向かって傾斜する円錐面とされている。なお、マイクロウェル55は、上述第1実施形態のマイクロウェル13と同様に、断面が上方に開口したコ字状、或いは円弧部を有する断面U字状やその他の形状であっても良い。ドロップ形成部54の側面54bは、上面54aに対して直角に配置されている。
また、ドロップ形成部54と容器底部10との間には、該ドロップ形成部54を取り囲む円環状の溝部56が設けられている。溝部56は、断面が上方に開口するコ字状に形成されている。ドロップ形成部54の側面54bは、溝部56の側面の片方を構成している。なお、溝部56の底面に対するドロップ形成部54の上面54aの高さは、溝部17の底面に対するドロップ形成部16の上面16aの高さtと同じである。また、ドロップ形成部54の上面54aの縁から溝部56を介して隣接する容器底部10の上面10aの縁までの距離は、ドロップ形成部16の上面16aの縁P1から溝部17を介して隣接する容器底部10の上面10aの縁P2までの距離dと同じである。
このように構成された細胞取扱容器53は、上述の第2実施形態と同様な作用効果を得られるほか、更に以下の効果を奏する。すなわち、ドロップ形成部54が設けられるので、ドロップの形成場所を増やすことができる。また、ドロップ形成部54の上面54a、ドロップ形成部16の上面16a、及び容器底部10の上面10aは面一であり、障壁などがないので、ピペットなどの器具をスライドして移動することができ、作業性を更に向上することができる。
<第11実施形態>
図23Aは第11実施形態の細胞取扱容器を示す平面図であり、図23Bは図23AのN−N線に沿う断面図である。本実施形態の細胞取扱容器57と第10実施形態との相違点は、ドロップ形成部54を取り囲む囲壁部58を更に備え、且つ容器底部10と囲壁部58との間に溝部59が設けられることである。その他の構成は第10実施形態と同様であるため、重複説明を省略する。
具体的には、ドロップ形成部54の外周には、円環状の囲壁部58がドロップ形成部54を取り囲むように設けられている。この囲壁部58は、ドロップ形成部54の側面54bと所定の距離で離れて配置されている。囲壁部58の上端面58aは、ドロップ形成部54の上面54a及び容器底部10の上面10aと面一である。なお、ドロップ形成部54の上面54aの縁から囲壁部58の上端面58aの外縁までの距離、上面54aの縁から囲壁部58の上端面58aのうち最も近い縁までの距離、囲壁部58の上端面58aの外縁から溝部59を介して隣接する容器底部10の上面10aの縁までの距離などは、上述の第3実施形態と同じであるので、その説明を省略する。
このように構成された細胞取扱容器57は、上述の第10実施形態と同様な作用効果を得られる。
<第12実施形態>
図24は第12実施形態の細胞取扱容器(蓋体を取り除いた状態)を示す斜視図である。本実施形態の細胞取扱容器60は、上方に開口する有底円筒状の容器本体1aと、該容器本体1aの上部に着脱自在に設置された蓋体(図示せず)とを備える。容器本体1aの側壁部11は、容器底部10の上面10aから開口に向かって延伸して比較的に厚く形成された厚肉部11aと、該厚肉部11aの上方に位置すると共に該厚肉部11aよりも薄く形成された薄肉部11bとから構成されている。そして、厚肉部11aと薄肉部11bとの厚みの変化によって、側壁部11の略中間位置には段差部11cが形成されている。この段差部11cは、容器本体1aに蓋体を被せるときに、蓋体の縁部と当接する部分になる。
容器底部10の中央位置には、細胞収容エリア12が設けられている。また、容器底部10には、上述第3実施形態と同様にドロップ形成部16、囲壁部26及び溝部27からなる構造(以下、説明の煩雑を避けるために、該構造を「囲壁部及び溝部付き構造」という)が6個設けられている。これらの囲壁部及び溝部付き構造は、細胞収容エリア12を中心にして片側3個ずつ(図24では細胞収容エリア12に対して上側3個、下側3個)、規則正しく配置されている。
図25は細胞取扱容器の容器本体を示す平面図である。図25に示すように、ドロップ形成部16が側壁部11に近づくとピペットなどの器具の操作がしにくくなるため、囲壁部及び溝部付き構造の溝部27から側壁部11までの最短距離L1はある程度離れる必要がある。また、製造上の観点から、隣接する囲壁部及び溝部付き構造同士の最短距離(すなわち、隣接する溝部27同士の最短距離)L2、及び囲壁部及び溝部付き構造の溝部27から細胞収容エリア12の外壁までの最短距離L3は、それぞれ0.5mm以上が好ましく、1.0mm以上がより好ましい。このようにすれば、ピペットなどの器具で受精卵などの細胞Cを洗浄する際に、これらの器具を操作し易い位置に配置させることができる。また、容器底部10において、囲壁部及び溝部付き構造、細胞収容エリア12及び外壁ウェル61を除いた空間は、複数の自由スペースWになる。作業者が必要に応じてこれらの自由スペースWを使い分けることができるので、細胞取扱容器60の汎用性を高めることができる。
また、容器底部10には、上面10aから起立するとともに側壁部11側にC字状に湾曲する湾曲壁62が設けられている。湾曲壁62の左右両端は、それぞれ側壁部11の内側に当接するように該側壁部11まで延びている。そして、側壁部11と湾曲壁62とにより囲まれてなる空間は、外壁ウェル61を構成する。湾曲壁62は、円弧状を呈しており、例えば円や楕円等の一部により構成されている。本実施形態において、湾曲壁62は、長軸12mm、短軸6mmの楕円の一部からなる。
図26は図25のP−P線に沿う断面図である。図26に示すように、湾曲壁62は均一な厚みと高さを有し、その断面が下側から上側に幅が小さくなる台形状を呈している。その寸法としては、例えば容器本体1aが内径35mmの場合、湾曲壁62の高さが0.5mm、下底が0.5mm、鉛直方向(すなわち、上下方向)に対する台形の側面の角度α”が3°である。
また、容器底部10の底面10bには、窪み部63が設けられている。図27Aに示すように、底面視において窪み部63は、容器底部10の内側に窪んで略U字状を呈する。本実施形態では、窪み部63は例えば長軸6mm、短軸3mmの楕円の一部からなる。また、図27Bに示すように、該窪み部63は、容器底部10の内側に3mm窪み、底面10bから上方に向かって5mmまでの高さまで延びている。
このように構成された細胞取扱容器60では、容器底部10に外壁ウェル61が設けられるので、該外壁ウェル61内に培養液などの液体を入れて、ピペットなどの器具の先端の洗浄(すなわち、共洗い)や、ピペットなどで受精卵などの細胞Cを配置して洗浄や培養を行うことができる。また、外壁ウェル61を形成する湾曲壁62の高さが低くても(例えば、上述の0.5mm)、共洗いまたは細胞Cの洗浄や培養に必要な液量(例えば10μL以上30μL以下)を外壁ウェル61内で保持できるだけでなく、ピペットなどの器具の操作時に操作し易い液高さ(例えば1.0mm以上)を実現できる。更に、図25に示すように外壁ウェル61が容器底部10の片側に配置されるので、自由スペースWを含む空いたスペースを最大限に活用できるとともに、ピペットなどの器具を上方から順に操作することで、作業を効率的に実施することができる。
また、容器底部10の底面10bに窪み部63が設けられるため、該窪み部63を視覚的に識別するマーキングとして利用することができる。従って、例えば顕微鏡観察などの際に、窪み部63を目印として細胞取扱容器60の方向や位置などを容易に把握できる。また、作業者が指で窪み部63が触ることにより細胞取扱容器60の方向や位置などを把握できるので、目視せずに触覚で作業を行うことも可能になり、作業の効率を高めることができる。更に、顕微鏡の載置面に窪み部63と係合できる突起部などを設ける場合、窪み部63と突起部とを係合させることにより細胞取扱容器60の位置を容易に固定することができるので、観察位置がずれるリスクを軽減することができる。
<第13実施形態>
図28Aは第13実施形態の細胞取扱容器を示す平面図であり、図28Bは図28AのR−R線に沿う断面図であり、図29Aはドロップ形成部の拡大断面図である。本実施形態の細胞取扱容器65と第2実施形態との相違点は、ドロップ形成部64の上面64a及び側面64cが、直接連結されずに所定の曲率半径Rを有する曲面部64bを介して連結されることである。その他の構成は第2実施形態と同様であるため、重複説明を省略する。
具体的には、ドロップ形成部64は、液体のドロップ形成領域とされた平坦状の上面64aと、曲面部64bを介して該上面64aと連結されるとともに下方に延びる側面64cとを有する。図29Aにおいて、P6は上面64aと曲面部64bとの境界点(すなわち、曲面部64bの始まり)、P7は側面64cと曲面部64bとの境界点(すなわち、曲面部64bの終わり)をそれぞれ示す。そして、上面64aに形成されるドロップSは、境界点P6により囲まれる範囲内に配置される。
また、図29Aにおいて、P5は上面64aに沿う直線と側面64cに沿う直線との交差点である。角度α’は、上面64aに沿う直線と側面64cに沿う直線とがなす角度である。本実施形態では、側面64cが上面64aに対して垂直であるので、α’=90°である。一方、図29Bに示すように側面64cが下方に行くに従って外側に拡がるように傾斜する場合、該角度α’は鈍角になる。
上面64aの最小幅である直径D’は、上述の実施形態と同様に0.5mm以上10mm以下であることが好ましく、3mm以上6mm以下であることがより好ましい。溝部17の底面に対するドロップ形成部64の上面64aの高さt’は、第2実施形態と同様に5μm以上であり、10μm以上が好ましく、50μm以上がより好ましく、100μm以上が更に好ましく、250μm以上が最も好ましい。
また、水平方向において、上面64aに沿う直線と側面64cに沿う直線との交差点P5から溝部17を介して隣接する容器底部10の上面10aの縁P2までの距離d’は、第2実施形態と同様に0.01mm以上であり、好ましくは0.05mm以上であり、より好ましくは0.1mm以上であり、更に好ましくは0.4mm以上である。また、当該距離d’が大きすぎると、限られたスペースに設置できるドロップ形成部64の数が少なくなるので、当該距離d’は4mm以下であることが好ましい。
本実施形態において、曲面部64bの曲率半径Rは250μm未満である。このようにすれば、上面64aに形成されるドロップが保持し易い。なお、曲面部64bの曲率半径Rは、100μm以下が好ましく、70μm以下がより好ましく、50μm以下が更に好ましく、20μm以下が最も好ましい。
このように構成された細胞取扱容器65によれば、第2実施形態と同様な作用効果を得られる。また、このように曲面部64bを有するドロップ形成部64は、上述の第1、第3、第4、第10、第11及び第12実施形態にも適用され、詳細説明を省略する。なお、本実施形態において、ドロップ形成部64の上面64aが液体のドロップ形成領域とされた例を説明したが、該上面64aと曲面部64bの一部とが液体のドロップ形成領域とされても良い。この場合、ドロップSは、境界点P6を越えて曲面部64bの一部まで広がるように形成される。
<第14実施形態>
図37Aは第14実施形態の細胞取扱容器を示す平面図であり、図37Bは図37AのB−B線に沿う断面図である。本実施形態の細胞取扱容器66と第2実施形態との相違点は、ドロップ形成部16’の側面16’bが上面16’aの周方向に沿って断続的に設けられることである。その他の構成は第2実施形態と同様であるため、重複説明を省略する。
具体的には、ドロップ形成部16’は、液体のドロップ形成領域とされた平坦状の上面16’aと、該上面16’aの周方向に沿って断続的に配置されるとともに下方に延びる側面16’bとを有する。側面16’bの断続的な配置によって、上面16’aの周方向には複数の凹部17’が形成されている。図37Aに示すように、これらの凹部17’は、平面視でそれぞれ略扇状を呈しており、上面16’aの周方向に沿って等間隔で配置されている。そして、断続的に設けられた側面16’bは、上面16’aから5μm以上の範囲まで下方に延びており、凹部17’の側面の一部を構成する。
このように構成された細胞取扱容器66では、ドロップ形成部16’の側面16’bが上面16’aの周方向に沿って断続的に設けられているが、該側面16’bが上面16’aから5μm以上の範囲まで下方に延びているので、上述の第2実施形態と同様に上面16’aが親水性表面であっても、該上面16’aに培養液のドロップSを容易に形成することができる。なお、その他の作用効果は第2実施形態と同様であるので、重複説明を省略する。
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明は実施例の範囲に限定されるものではない。
<実施例1>
本実施例では、表1に記載の9種類のサンプル(材質がポリスチレン)を用いて、プラズマによる親水化処理後(水接触角が10°以下)に7.5μLの水を滴下し、ドロップを形成できるか否かを検証した。
表1及び後述の全ての表において、tはドロップ形成部の上面の高さ、Dはドロップ形成部の上面の直径、dはドロップ形成部の上面の縁から溝部を介して隣接する容器底部の上面の縁までの距離を示す。また、h1は周壁部の上端部から容器底部の上面までの距離、fは水平方向における周壁部の厚み(すなわち、周壁部の内壁面から外壁面までの距離)を示す。
その結果として、表1記載のサンプルのいずれもドロップを形成することができた。図32はサンプルNo.3及びNo.4の結果を示す写真である。
<比較例1>
比較例として、同じ材質(ポリスチレン)からなる平板において、プラズマによる親水化処理後(水接触角が10°以下)に7.5μLの水を滴下した結果、ドロップが潰れてしまい、ドロップを作成することができなかった。
<実施例2>
本実施例では、実施例1中のNo.5を除いた8種類のサンプル(材質がポリスチレン)を用いて、プラズマによる親水化処理後(水接触角が10°以下)に各液量の水を滴下し、ドロップを形成できるか否かを検証した。表2−1は第1実施形態のドロップ形成部に対応するサンプル(No.1,2,6,7)の結果、表2−2は第2実施形態のドロップ形成部に対応するサンプル(No.3,4,8,9)の結果をそれぞれ示す。
表2−1に示すように、ドロップ形成部の上面の高さtが10μm以上の場合、全てのサンプルにおいてドロップ(液量7.5μL)を形成できた。また、ドロップ形成部の上面の高さtが50μm以上の場合(サンプルNo.2,6,7)では液量10μL以上20μL以下のドロップを形成できた。更に、高さtが100μm以上の場合(No.6,7)では10μLのドロップを、高さtが250μm以上の場合(No.7)では15μLのドロップを1回の操作で形成することができた。
表2−2に示すように、ドロップ形成部の上面の高さtが10μm以上の場合、全てのサンプルにおいてドロップ(液量7.5μL)を形成できた。また、ドロップ形成部の上面の高さtが50μm以上の場合(サンプルNo.9,3,4)では液量10μL以上20μL以下のドロップを形成できた。更に、高さtが100μm以上の場合(No.3,4)では10μLのドロップを、高さtが250μm以上の場合(No.4)では15μLのドロップを1回の操作で形成することができた。
<実施例3>
本実施例では、上述の図9B、図14A、図14Bに示すように、ドロップ形成部が凹部と該凹部を形成する周壁部とを有し、凹部の底面が容器底部の上面と同じ又は高く、或いは低く配置されたものを用いて、表3に示す各サンプルを作成した。各サンプルに対しピペットを周壁部の外壁面に沿って上昇した後に、周壁部の内側にスライドして更に内壁面に沿って凹部の底面まで降下する手順に従い、ピペットの操作性を検証した。
検証の結果として、表3に示すように、周壁部の上端部から容器底部の上面までの距離h1と、周壁部の上端部から凹部の底面までの距離h2との和が0.2mm未満(すなわち、h1+h2<0.2mm)であれば、ピペットの先端が周壁部にほとんど当たらなかった(接触しなかった)。ピペットの操作性を向上できたことが確認された。
<実施例4>
本実施例では、形成されるドロップの厚みh’に関する計算値と実測値との比較を行った。ドロップの厚みh’の計算値は、h’=3V/(2πr’2)に基づいて算出したものである。ここで、r’はドロップ形成部の上面の半径、すなわちr’=D/2(Dはドロップ形成部の上面の直径)、h’≦r’であり、Vは培養液量[μL]、πは円周率をそれぞれ示す。h’≦r’であるため、ドロップを形成できるVの上限は、V≦2πr’3/3となる。一方、ドロップの厚みh’の実測値は、表4に記載のサンプル(材質がポリスチレン)を用いて、プラズマによる親水化処理後(水接触角が10°以下)に各液量の水を滴下して、形成されたドロップを実測したものである。
表4に示すように、形成されるドロップの厚みh’については、上記式に基づく計算値と実測値とがほとんど相違がない結果であった。従って、ドロップ形成部の上面が円形状の場合、形成されるドロップの厚みh’が上述の式を満たすことを確認できた。
<実施例5>
本実施例では、ドロップ形成部の上面が円形状である場合について、その直径Dの違いによるドロップ形成への影響を評価した。具体的には、表5に示すようにポリスチレンにより形成された各サンプルを用いて、プラズマによる親水化処理後(水接触角が10°以下)に各量の水を滴下して評価を行った。
表5に示すように、ドロップ形成部の上面の直径Dが大きいほど、ドロップ形成可能なドロップの容量が大きくなり、容量が大きいほどドロップの厚みが大きくなり、1回の操作でドロップを形成できる範囲が広くなったことを確認できた。一方で、同一の液量を入れた際の比較では、直径Dが小さいほど、ドロップの厚みは厚くなった。
<比較例2>
受精卵などの細胞を培養や洗浄する際に、培養液量が15μL以上30μL以下の範囲で使用され、ピペットなどの器具の良い操作性を確保する観点から、形成されるドロップの厚みは1mm以上が好ましく、1.5mm以上が更に好ましい。しかしながら、培養液量が15μL以上30μL以下の範囲において水接触角θが80°未満の平坦面では、ドロップの厚みは1.5mm以下となり、器具を操作し難くなる。また、水接触角θが60°以下の平坦面では、ドロップの厚みは1.0mm以下となり、器具を非常に操作し難くなる。本比較例では、平坦面(材質:ポリスチレン)でドロップを形成した場合における水接触角によるドロップ厚みについて調べた(表6参照)。
<実施例6>
本実施例では、上述の第2実施形態のドロップ形成部(図3B参照)について、比較例2と同様に液量15μL及び30μLにおける水接触角によるドロップ厚みを調べた(表7参照)。液量15μLの評価サンプルでは、t=250μm、D=4.0mm、d=0.5mmであり、液量30μLの評価サンプルでは、t=250μm、D=5.0mm、d=0.5mmであった。
表6と表7からわかるように、実施例6では、例えば15μL以上30μL以下の範囲において、水接触角が80°未満、さらには60°以下、さらには10°以下でも、ドロップ厚みが1.5mm以上となるので、ピペットなどの器具が操作しやすい結果であった。
<実施例7>
本実施形態では、表8に示す第2実施形態のドロップ形成部のサンプル(材質:ポリスチレン、プラズマによる親水化処理後(水接触角が10°以下))について、ドロップ形成部の上面の縁から溝部を介して隣接する容器底部の上面の縁までの距離dの大きさ違いによるドロップへの影響を評価した。
表8に示す結果より、dが0.4mm以上1.0mm以下の範囲ではドロップを形成でき、dの大きさ違いによるドロップ形成への影響がないことが確認された。
<実施例8>
本実施例では、第3実施形態のドロップ形成部(図7A〜C参照)のサンプル(材質:ポリスチレン、プラズマによる親水化処理後(水接触角が10°以下)、液量:30μL)を用いてドロップを形成した後に振動を与え、振動前及び振動後におけるドロップの変化について評価した。また、サンプルの寸法は表9の通りである。
図30Aは実施例8の結果を示す写真である。図30Aでは、左側が振動を与えた後、右側が振動を与える前の写真をそれぞれ示す。写真より、振動を与えた場合にもドロップが崩壊せず、囲壁部に留まることが確認された。
<実施例9>
本実施例では、第4実施形態のドロップ形成部(図8A〜C参照)のサンプル(材質:ポリスチレン、プラズマによる親水化処理後(水接触角が10°以下)、液量:15μL)を用いてドロップを形成できるか否かを検証した。なお、サンプルの寸法は表10の通りである。
その結果として、ドロップを形成できることが確認された。
<実施例10>
本実施例では、第5実施形態のドロップ形成部(図9B参照)のサンプル(材質:ポリスチレン、プラズマによる親水化処理後(水接触角が10°以下))を用いて表11に記載の条件でドロップを形成できるか否かを検証し、更にドロップ形成可能な場合はh1=h2の大きさ違いによるドロップへの影響を評価した。
表11において、h1は周壁部の上端面から容器底部の上面までの距離、h2は周壁部の上端面から凹部の底面までの距離、fは水平方向における周壁部の厚みをそれぞれ示す。表10の結果より、h1が50μm以上の場合、全てのサンプルにおいてドロップ(液量40μL)を形成できた。また、h1が250μm以上の場合、液量50μL以上80μL以下のドロップを形成できた。
<実施例11>
本実施例では、第5実施形態のドロップ形成部(図9B参照)のサンプル(材質:ポリスチレン、プラズマによる親水化処理後(水接触角が10°以下))を用いて表12に記載の条件でドロップを形成できるか否かを検証し、更にドロップ形成可能な場合は直径Dの大きさ違いによるドロップへの影響を評価した。
表12において、h1は周壁部の上端面から容器底部の上面までの距離、h2は周壁部の上端面から凹部の底面までの距離、fは水平方向における周壁部の厚みをそれぞれ示す。表12の結果より、本実施例ではドロップを形成でき、且つ直径Dが大きいほどドロップ形成可能なドロップの容量が大きくなり、容量が大きいほどドロップの厚みが大きくなり、1回の操作でドロップを形成できる範囲が広くなったことを確認できた。一方で、同一の液量を入れた際の比較では、直径Dが小さいほど、ドロップの厚みは厚くなった。
<実施例12>
本実施例では、第5実施形態の変形例に係るドロップ形成部(図13B参照)のサンプル(材質:ポリスチレン、プラズマによる親水化処理後(水接触角が10°以下))を用いて表13に記載の条件でドロップを形成できるか否かを検証した。なお、表13中のgは、上下方向における尖り部の距離(すなわち、上端から外壁面における傾斜部分と垂直部分との境界部までの距離)を示す。
表13に示すように、周壁部の上端が尖った形状であっても、ドロップを形成できることが確認された。
<実施例13>
本実施例では、第7実施形態のドロップ形成部(図19A〜C参照)のサンプル(材質:ポリスチレン、プラズマによる親水化処理後(水接触角が10°以下)、液量:30μL)を用いてドロップを形成した後に振動を与え、振動前及び振動後におけるドロップの変化について評価した。また、サンプルの寸法は表14の通りである。
図30Bは実施例13の結果を示す写真である。図30Bでは、左側が振動を与えた後、右側が振動を与える前の写真をそれぞれ示す。写真より、振動を与えた場合にもドロップが崩壊せず、囲壁部に留まることが確認された。
<実施例14>
本実施例では、第8実施形態のドロップ形成部(図20A〜C参照)のサンプル(材質:ポリスチレン、プラズマによる親水化処理後(水接触角が10°以下)、液量:15μL)を用いてドロップを形成できるか否かを検証した。なお、サンプルの寸法は表15の通りである。
その結果として、ドロップを形成できることが確認された。
<実施例15>
本実施例では、第9実施形態の場所M4に設けられたドロップ形成部(図21E参照)のサンプル(材質:ポリスチレン、プラズマによる親水化処理後(水接触角が10°以下)、液量:30μL)を用いてドロップを形成した後に振動を与え、振動前及び振動後におけるドロップの変化について評価した。また、サンプルの寸法は表16の通りである。
その結果として、ドロップが形成できるだけでなく振動を与えた場合にもドロップが崩壊せず、囲壁部に留まることが確認された。
<実施例16>
本実施例では、表17に記載の7種類のサンプル(材質がポリスチレン)を用いて、プラズマによる親水化処理後(水接触角が10°以下)に15μLの水を滴下し、ドロップを形成できるか否かを検証した。
その結果として、表17記載のサンプルのいずれもドロップを形成することができた。
<実施例17>
本実施例では、上述第6実施形態のドロップ形成部に対し、図33に示すように上面と側面との間に曲面部を有するように加工したサンプル(材質:ポリスチレン、プラズマによる親水化処理後(水接触角が10°以下))を用いて、ドロップを形成できるか否かを検証した。なお、用いられた液量は30μLと50μLであった。サンプルの寸法は表18の通りである。表18において、Rが曲面部の曲率半径であり、α’は第13実施形態で説明したように、ドロップ形成部の上面に沿う直線と側面に沿う直線とがなす角度であり、dは上面に沿う直線と側面に沿う直線との交差点P5から溝部を介して隣接する容器底部の上面の縁P2までの距離である。
その結果として、曲面部を有するように加工したドロップ形成部であっても、ドロップを形成できることが確認された。
<実施例18>
本実施例では、図34に示すように、上述第6実施形態のドロップ形成部に対して上面と側面との間に曲面部を有するように加工したサンプル(材質:ポリスチレン、プラズマによる親水化処理後(水接触角が10°以下))を用いて、ドロップを形成できるか否かを検証した。なお、用いられた液量が15μLであった。サンプルの寸法は表19の通りである。表19において、Rが曲面部の曲率半径であり、α’は第13実施形態で説明したように、ドロップ形成部の上面に沿う直線と側面に沿う直線とがなす角度であり、dは上面に沿う直線と側面に沿う直線との交差点P5から溝部を介して隣接する容器底部の上面の縁P2までの距離である。
その結果として、曲面部を有するように加工したドロップ形成部であっても、ドロップを形成できることが確認された。
<実施例19>
本実施例では、図35に示す各条件に基づき、上面と側面とが曲面部を介して連結されるドロップ形成部のサンプル(材質:ポリスチレン、プラズマによる親水化処理後(水接触角が10°以下))を用いて、水ドロップを形成できるか否かを検証した。なお、用いられた液量が10μL、15μL及び20μLであった。図35において、Rが曲面部の曲率半径であり、α’は第13実施形態の上面に沿う直線と側面に沿う直線とがなす角度である。
その結果として、図35に示すように、未実施の場合を除いてすべてのサンプルにおいて、水ドロップを形成できることが確認された。
<実施例20>
本実施例では、図36に示す各条件に基づき、上面と側面とが曲面部を介して連結されるドロップ形成部のサンプル(材質:ポリスチレン、プラズマによる親水化処理後(水接触角が10°以下))を用いて、培養液ドロップを形成できるか否かを検証した。なお、用いられた液量が10μL、15μL及び20μLであった。そして、使用した培養液はIrvine Scientific社製のModified HTF Mediumであった。図36において、Rが曲面部の曲率半径であり、α’は第13実施形態の上面に沿う直線と側面に沿う直線とがなす角度である。
その結果として、図36に示すように、未実施の場合を除いてすべてのサンプルにおいて、培養液ドロップを形成できることが確認された。
<実施例21>
図38A〜Cは実施例21に用いられた細胞取扱容器の写真であり、図38Aは蓋有りの細胞取扱容器、図38Bは蓋無しの細胞取扱容器、図38Cは蓋無し細胞取扱容器の平面を示す写真である。本実施例に用いられた細胞取扱容器は、第12実施形態の細胞取扱容器60に対して、ドロップ形成部及び囲壁部にそれぞれ曲面部を有するように加工され、且つドロップ形成部及び囲壁部の側面がそれぞれ傾斜するように加工されたものである。そして、ドロップ形成部及び囲壁部の具体形状は図39に示す通りである。図39において、Rは曲面部の曲率半径であり、α”は、鉛直方向(すなわち、上下方向)に対する側面の傾斜角度であり、上述の角度α’(すなわち、第13実施形態で説明したように、上面に沿う直線と側面に沿う直線とがなす角度)との関係がα”=α’−90°である。また、D’=5mm、d’=d”=d'''=0.4mm、t’=250μmであった。
表20に示すように、上述の細胞取扱容器を曲率半径及び傾斜角度の異なる6種類作製し(材質:ポリスチレン、プラズマによる親水化処理後(水接触角が10°以下))、種類毎にドロップ形成性能を評価した。なお、図38A〜Cの写真で示したのは種類6の細胞取扱容器である。そして、評価に使用した培養液はIrvine Scientific社製のModified HTF Mediumであり、液量はそれぞれ10μL、15μL、20μL、25μL及び30μLであった。
表21は本実施例の評価結果を示すものである。表21から分かるように、全種類の細胞取扱容器において、ドロップ形成部でドロップが保持された。
更に、本実施例では上記保持されたドロップに振動を与え、ドロップの変化についても評価した。表22は振動後の評価結果を示すものである。表22から分かるように、振動を加えた場合、ドロップS(図40A参照)が振動によって周囲に拡がったが、崩壊せずに囲壁部に留まることが確認された(図40B参照)。そして、ドロップSの拡がりによってその厚みが小さくなったことも確認された。
以上、本発明の実施形態について詳述したが、本発明は、上記の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の精神を逸脱しない範囲で、種々の設計変更を行うことができるものである。例えば、上述の実施形態では、マイクロウェルが設けられた細胞取扱容器について説明したが、本発明はマイクロウェルが設けられていない細胞取扱容器にも適用される。また、本発明は、蓋体1bを備えない細胞取扱容器にも適用される。
また、上述の実施形態において、平面視で円形のドロップ形成部を挙げて説明したが、本発明は、平面視で四角形などの多角形、楕円などにも適用される。更に、上述した実施形態及び変形例などは本発明の一部に過ぎず、本発明は上述の実施形態及び変形例の各組み合わせにも適用される。