JP6336792B2 - マスクブランクの製造方法および転写用マスクの製造方法 - Google Patents

マスクブランクの製造方法および転写用マスクの製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、マスクブランクの製造方法および転写用マスクの製造方法に関する。
一般に、半導体装置の製造工程では、フォトリソグラフィー法を用いて微細パターンの形成が行われている。この微細パターンの形成には、通常、何枚ものフォトマスク(以下、「転写用マスク」という。)が使用されている。この転写用マスクは、一般に、透光性のガラス基板上に、金属薄膜等からなる微細パターンを設けたものであり、この転写用マスクの製造においてもフォトリソグラフィー法が用いられている。
フォトリソグラフィー法による転写用マスクの製造には、マスクブランクが用いられる。マスクブランクは、一般に、合成石英ガラス等からなるガラス基板の主表面上に、スパッタリング法で薄膜を形成することによって製造される。このマスクブランクの薄膜は、内部応力を有した状態で基板の主表面上に形成される傾向がある。
マスクブランクの主表面には、高い平坦度が求められる。マスクブランク用基板として用いられるガラス基板の主表面にも、高い平坦度が求められる。そのため、マスクブランク用基板の主表面には、研削や研磨等の加工が施される。しかし、そのような平坦度の高い主表面を有するガラス基板上に、内部応力が大きい薄膜を形成した場合、ガラス基板の主表面が変形してしまい、ガラス基板の主表面の平坦度が悪化するという問題があった。
他方、薄膜が転写パターンを形成するためのものである場合、エッチング等によって薄膜の一部(光透過部)が除去されてパターンが形成される。薄膜が大きな内部応力を有する場合、エッチング等によって薄膜の一部(光透過部となる部分)が除去されたときに、薄膜が内部応力から解放されることにより、ガラス基板上でのパターンの位置が移動してしまうことがある(パターンの位置ずれ)。
近年の転写用マスクでは、パターンの位置精度に対する要求がますます厳しくなっている。特に、ダブルパターニング技術が適用される転写用マスクの製造においては、許容される位置ずれ量は非常に小さい。
ダブルパターニング技術では、半導体デバイス上に形成する非常に微細な転写パターンを、2つの比較的疎なパターンに分割する。そして、その分割された各パターンを有する2枚の転写用マスクを作製し、その2つの転写用マスクを用いて半導体デバイス上にパターンを露光転写する。これにより、半導体デバイス上に非常に微細なパターンを形成することができる。しかし、ダブルパターニング技術では、2枚の転写用マスクに形成されたパターンの設計パターンからの位置ずれ量が大きいと、半導体デバイス上に2枚の転写用マスクを用いてパターンを露光転写した時に、パターンが断線や短絡した状態で形成されてしまう場合がある。
以上のような問題があることから、以前より、マスクブランクの薄膜の内部応力を小さくするための技術については研究されていた。
例えば、薄膜の内部応力を低減する方法として、特許文献1には、ガラス基板上にスパッタリング法で薄膜を形成した後、その薄膜に対して150℃以上の温度で熱処理を行う方法が記載されている。特許文献2には、ガラス基板上に形成された薄膜に対して、閃光ランプを用いて高エネルギー線を照射する方法が記載されている。
しかし、特許文献3に記載されている通り、閃光ランプを用いて高エネルギー線を薄膜に照射する方法の場合、高エネルギー線の照射量によっては、ガラス基板に大きな影響を与えてしまい、合成石英ガラス基板の主表面形状が変形してしまう問題があることが判明している。
特開2002−162726号公報 特開2004−199035号公報 特開2010−237502号公報
本発明者の鋭意研究の結果、マスクブランクの薄膜の内部応力を低減する手段として加熱処理を行う場合において、以下のような問題があることが判明した。
従来、加熱処理によって薄膜の内部応力が低減されたことを確認する方法として、差分形状から算出した平坦度が用いられていた。この差分形状とは、薄膜を形成する前におけるガラス基板の主表面を平坦度測定装置で測定して得られた主表面形状と、薄膜を形成し、さらに加熱処理を行った後における薄膜の表面を平坦度測定装置で測定して得られた表面形状との間の差分をとった形状のことをいう。この差分形状が小さいほど、薄膜の内部応力は低減されていると思われていた。
しかし、加熱処理を行って差分形状を十分に小さくしたマスクブランクを用いて、薄膜にテストパターンを形成して検証を行ったところ、比較的大きなパターンの位置ずれが発生することが判明した。この検証は、以下の手順で行われた。
最初に、マスクブランクの薄膜上に、レジスト膜を塗布形成した。そのレジスト膜にテストパターンを露光描画し、次いで現像処理を行い、テストパターンを有するレジストパターンを形成した。そして、パターン位置測定装置を用いて、レジストパターンの位置を測定した。次に、レジストパターンをマスクとして用いて、薄膜をドライエッチングし、薄膜にテストパターンを形成した。レジストパターンを除去後、パターン位置測定装置を用いて、薄膜に形成されたテストパターンの位置を測定した。最後に、レジストパターンの位置と薄膜に形成されたテストパターンの位置とを比較し、薄膜に形成されたテストパターンの位置ずれ量を算出した。
上記の検証の結果、マスクブランクの加熱処理前後での表面形状の差分形状からみると薄膜の内部応力は十分に低減されているはずであるにもかかわらず、実際に薄膜に形成されたテストパターンの位置ずれ量は、許容範囲外の大きさとなっていた。
このように、加熱処理後のマスクブランクの薄膜に実際にパターンを形成すると、その薄膜パターンにおけるレジストパターンからの位置ずれ量が許容範囲外になってしまう現象が発生しており、問題となっていた。
また、このような問題は、薄膜の内部応力を低減するための処理として、加熱処理ではなく、閃光ランプによって高エネルギー線を照射する処理を行った場合であっても、同様に発生することが確認された。さらに、薄膜の内部応力を低減するための処理として、レーザー光を照射する処理(レーザーアニール処理)を行った場合であっても、同様の現象が発生することが確認された。
そこで、本発明は、薄膜の内部応力を小さくすることのできるマスクブランクの製造方法および転写用マスクの製造方法を提供することを目的とする。
本発明者の鋭意研究の結果、マスクブランクに対して加熱処理を行うことによって加熱処理前のガラス基板の主表面形状と加熱処理後の薄膜の表面形状との差分形状を小さくした場合であっても、ガラス基板の主表面形状が加熱処理によって変形しているために、薄膜の内部応力が十分に低減されていないことを突き止めた。
この現象は、具体的には、以下の方法によって確認された。
最初に、研削および研磨が施されることで高い平坦度の主表面を有しているガラス基板を準備した。このガラス基板の主表面形状を、平坦度測定装置を用いて測定した。次に、形状を測定した側のガラス基板の主表面上に、スパッタリング法を用いて薄膜を形成した。そして、その薄膜の表面形状を、平坦度測定装置を用いて測定した。続いて、薄膜を形成する前に測定したガラス基板の主表面形状と、薄膜の表面形状との差分形状を導出し、薄膜を形成する前後での平坦度変化量を算出した。
予め実験で導出しておいたマスクブランクの加熱条件と平坦度変化量との相関関係に基づいて、変化したマスクブランクの薄膜の表面形状を元に戻すための加熱条件を選定し、薄膜が形成されたガラス基板に対して加熱処理を行った。そして、加熱処理後の薄膜の表面形状を、平坦度測定装置を用いて測定した。
次に、ドライエッチングによって、ガラス基板上の薄膜を全面除去した。そして、薄膜を除去した後のガラス基板の主表面形状を、平坦度測定装置を用いて測定した。
これらの測定結果から、加熱処理後の薄膜の表面形状は、薄膜を形成する前のガラス基板の主表面形状とほぼ同じになっていることがわかった。しかし、薄膜を除去した後に測定したガラス基板の主表面形状は、薄膜を形成する前に測定したガラス基板の主表面形状との間で明らかに異なっていた。このことは、ガラス基板の主表面形状が、薄膜を形成する前に平坦度を測定した時点から、薄膜を除去後に平坦度を測定した時点の間に変化したことを意味する。
ガラス基板の主表面形状を変形させる可能性のある要因としては、いくつか考えられる。まず、スパッタリング法で基板の主表面にスパッタ粒子を堆積させて薄膜を形成するプロセスの影響が考えられる。また、薄膜を除去するときのドライエッチングによる影響も考えられる。しかし、加熱処理のみを除いて前記と同一の手順で測定を行った場合、薄膜を除去した後に測定したガラス基板の主表面形状と、薄膜を形成する前に測定したガラス基板の主表面形状との間で、測定装置の誤差範囲を超えるような差は生じていなかった。つまり、ガラス基板の主表面に薄膜を形成するときのスパッタリングによる影響と、薄膜を除去するときのドライエッチングによる影響は、ガラス基板の主表面形状の変形には関係していなかった。
ガラス基板の主表面形状を変形させる可能性のある要因としては、加熱処理も考えられる。しかし、薄膜が形成されていないガラス基板に対して前記と同一の条件で加熱処理を行った場合、加熱処理の前後でガラス基板の主表面形状には測定装置の誤差範囲を超えるような差は生じていなかった。
本発明者は、これらの検証の結果から、ガラス基板の主表面に薄膜が形成されている状態で、そのガラス基板に対して加熱処理を行ったときに、薄膜が形成されている側のガラス基板の主表面形状が変形することを突き止めた。
また、本発明者は、上記と同様の検証を行うことによって、ガラス基板の主表面に薄膜が形成されている状態で、そのガラス基板に対して閃光ランプを用いて高エネルギー線を照射する処理(光照射処理)またはレーザー光を照射する処理(光照射処理)を行ったときに、薄膜が形成されている側のガラス基板の主表面形状が変形することを突き止めた。
そして、本発明者は、このような現象が発生する要因について、さらなる検証を行った。その結果、ガラス基板中に水素が含まれていることによって、一方の主表面に薄膜が形成された薄膜付のガラス基板に対して加熱処理または光照射処理を行ったときにガラス基板の主表面形状が変形することを突き止めた。また、ガラス基板中の水素含有量と、加熱処理または光照射処理の前後におけるガラス基板の主表面の変形量との間に相関性があることも見出した。
さらに、この相関性から、薄膜付のガラス基板に対して行う加熱処理または光照射処理の前後で生じるガラス基板自体の変形に伴う一方の主表面の変形を予測して、その一方の主表面の平坦度変化量を算出し、この平坦度変化量を薄膜の形成前におけるガラス基板の主表面の形状と加熱処理または光照射処理後における前記薄膜の表面形状との差分形状から得られる平坦度から差し引いて得られる数値を、薄膜の膜応力に起因する薄膜付のガラス基板の平坦度変化量としてその薄膜が有する内部応力の指標として用いることができるという結論に至った。本発明は、それぞれ以下の構成を備える。
(構成1)
対向する1組の主表面を有するガラス基板の一方の主表面にケイ素又は金属の少なくとも一方を含有する材料からなる薄膜を備えたマスクブランクの製造方法であって、
前記ガラス基板を準備し、一方の主表面に前記薄膜を形成して薄膜付基板を取得する工程と、
前記薄膜付基板に対して加熱処理または光照射処理を行う膜応力低減工程とを有し、
前記膜応力低減工程では、前記加熱処理または光照射処理後における前記薄膜の表面形状と前記薄膜の形成前における前記ガラス基板の主表面の形状との差分形状から得られる平坦度から前記ガラス基板中の水素含有量から予測される加熱処理または光照射処理によって生じる前記ガラス基板自体の変形に伴う前記一方の主表面の平坦度変化量を差し引いて得られる平坦度が所定値以下となる処理条件で、前記薄膜付基板に対して加熱処理または光照射処理を行うことを特徴とするマスクブランクの製造方法。
(構成2)
別のガラス基板に対し、前記薄膜形成工程を行って別の薄膜付基板を取得し、前記別の薄膜付基板に対して加熱処理または光照射処理を行い、前記加熱処理または光照射処理後における前記別のガラス基板の主表面の形状と、前記薄膜の形成前における前記別のガラス基板の主表面の形状との差分形状から得られる平坦度変化量、および前記別のガラス基板の水素含有量の対応関係を取得する対応関係取得工程を有し、
前記ガラス基板自体の変形に伴う前記一方の主表面の平坦度変化量は、前記対応関係を基に予測されることを特徴とする構成1記載のマスクブランクの製造方法。
(構成3)
対応関係取得工程では、前記加熱処理または光照射処理後における前記別のガラス基板の主表面の形状との差分形状から得られる平坦度変化量、および前記別のガラス基板の水素含有量のほかに、前記別の薄膜付基板に対して行った加熱処理または光照射処理の処理条件を含めた対応関係を取得することを特徴とする構成2記載のマスクブランクの製造方法。
(構成4)
前記薄膜付基板における他方の主表面には、薄膜が形成されていないことを特徴とする構成1から3のいずれかに記載のマスクブランクの製造方法。
(構成5)
前記薄膜付基板を取得する工程では、前記ガラス基板の一方の主表面に対してスパッタ法を用いて薄膜を形成することを特徴とする構成1から4のいずれかに記載のマスクブランクの製造方法。
(構成6)
前記加熱処理の加熱温度は、300℃以上であることを特徴とする構成1から5のいずれかに記載のマスクブランクの製造方法。
(構成7)
前記ガラス基板は、合成石英ガラスからなることを特徴とする構成1から6のいずれかに記載のマスクブランクの製造方法。
(構成8)
前記平坦度の所定値は、薄膜に転写パターンを形成する領域内において、絶対値で100nm以下であることを特徴とする構成1から7のいずれかに記載のマスクブランクの製造方法。
(構成9)
前記転写パターンを形成する領域は、前記ガラス基板の主表面の中心を基準とした一辺が132mmの四角形の内側の領域であることを特徴とする構成8記載のマスクブランクの製造方法。
(構成10)
前記薄膜は、遷移金属とケイ素を含有する材料からなることを特徴とする構成1から9のいずれかに記載のマスクブランクの製造方法。
(構成11)
前記膜応力低減工程後の前記薄膜は、膜応力が360MPa以下であることを特徴とする構成1から10のいずれかに記載のマスクブランクの製造方法。
(構成12)
構成1から11のいずれかに記載の製造方法で製造されたマスクブランクの前記薄膜に転写パターンを形成する工程を有することを特徴とする転写用マスクの製造方法。
本発明によれば、薄膜の内部応力を小さくすることのできるマスクブランクの製造方法および転写用マスクの製造方法を提供することができる。
ガラス基板の水素含有量と加熱処理前後におけるガラス基板の主表面の平坦 度変化量との間の相関性を示すグラフである。
本発明は、対向する1組の主表面を有するガラス基板の一方の主表面にケイ素又は金属の少なくとも一方を含有する材料からなる薄膜を備えたマスクブランクの製造方法であって、
前記ガラス基板を準備し、一方の主表面に前記薄膜を形成して薄膜付基板を取得する工程と、
前記薄膜付基板に対して加熱処理または光照射処理を行う膜応力低減工程とを有し、
前記膜応力低減工程は、前記加熱処理または光照射処理後における前記薄膜の表面形状と前記薄膜の形成前における前記ガラス基板の主表面の形状との差分形状から得られる平坦度から前記ガラス基板中の水素含有量から予測される加熱処理または光照射処理によって生じる前記ガラス基板自体の変形に伴う前記一方の主表面の平坦度変化量を差し引いて得られる平坦度が所定値以下となる処理条件で、前記薄膜付基板に対して加熱処理または光照射処理を行うことを特徴とするマスクブランクの製造方法である。
本発明のマスクブランクの製造方法は、露光光を透過させる透過型マスクを作製するための透過型マスクブランク、あるいは、露光光を反射する反射型マスクを作製するための反射型マスクブランクに適用することが可能である。また、本発明のマスクブランクの製造方法は、位相シフトマスクを作製するための位相シフトマスクブランクに適用することが可能である。さらに、本発明のマスクブランクの製造方法は、ダブルパターニング技術が適用される転写用マスクを作製するためのマスクブランクに好ましく適用することが可能である。
ガラス基板の材料としては、例えば、合成石英ガラス、ソーダライムガラス、アルミノシリケートガラス、低熱膨張ガラス(例えばSiO−TiO系ガラス)、β石英固溶体を析出させた結晶化ガラス等のガラス材料を用いることが可能である。ガラス基板の材料としては、合成石英ガラスを用いることが好ましい。
本発明のマスクブランクの製造方法は、ガラス基板の一方の主表面に、膜応力(内部応力)を有するケイ素又は金属の少なくとも一方を含有する材料からなる薄膜を形成して薄膜付基板を取得する工程を有している。なお、ここでいう「主表面」とは、ガラス基板の側面及び面取面を除く一対の主表面のことを意味する。なお、この薄膜は、一方の主表面のみに形成されている構成、一方の主表面およびその主表面に隣接する面取面にまで連続的に形成されている構成、さらにそれらの面取面に隣接する側面の一部にまで連続的に形成されている構成を含む。
ガラス基板の一方の主表面へ形成する薄膜としては、例えば、遮光膜、多層反射膜、位相シフト膜(ハーフトーン型位相シフト膜)、光半透過膜等を挙げることができる。
ガラス基板の一方の主表面への薄膜の形成には、公知の方法を用いることが可能であるが、スパッタリング法を用いることが好ましく、反応性スパッタリング法を用いることが特に好ましい。スパッタリング法を用いることで、形成される薄膜をアモルファス構造や微結晶構造とすることができる。また、スパッタリング法で形成される薄膜は膜応力が高くなる傾向があるため、本発明のマスクブランクの製造方法を好適に用いることができる。
薄膜の材料である「ケイ素又は金属の少なくとも一方を含有する材料」としては、例えば、ケイ素を含む材料、ケイ素以外の金属を含む材料、ケイ素とケイ素以外の金属とを含む材料、更にはこれらに酸素、窒素、及び炭素のうちいずれか1種以上を含む材料等を挙げることができる。ケイ素以外の金属としては、遷移金属、例えば、W、Mo、Ti、Ta、Zr、Hf、Nb、V、Co、Cr、Ni等を例として挙げることができる。このような材料としては、例えば、モリブデンシリサイド酸化物(MoSiO)、モリブデンシリサイド窒化物(MoSiN)、モリブデンシリサイド炭化物(MoSiC)、モリブデンシリサイド酸化窒化物(MoSiON)、モリブデンシリサイド酸化炭化物(MoSiOC)、モリブデンシリサイド酸化窒化炭化物(MoSiONC)等を挙げることができる。薄膜に対しては、ガラス基板から水素が脱離する現象が起こるような条件での加熱処理または光照射処理が行われる。これらの条件での加熱処理や光照射処理を行ったときに大きく劣化してしまうような材料は、本発明の薄膜では適用しがたい。このような材料としては、クロム金属、クロム酸化物(CrO)、クロム窒化物(CrN)、クロム炭化物(CrC)、クロム酸窒化物(CrON)、クロム酸化炭化物(CrOC)、クロム炭化窒化物(CrCN)、クロム酸化窒化炭化物(CrOCN)などが挙げられる。
本発明のマスクブランクの製造方法は、薄膜が形成されたガラス基板(薄膜付基板)に対して膜応力を低減するための「加熱処理」または「光照射処理」を行う膜応力低減工程を有している。なお、ここでいう「膜応力」とは、薄膜の内部応力を意味している。薄膜の内部応力は、圧縮応力の場合もあるし、引張応力の場合もある。
まず、膜応力を低減するための加熱処理について説明する。
薄膜付基板に対して加熱処理を行うことによって、薄膜の内部応力を低減することができる。加熱処理のための手段としては、例えば、電気加熱炉、ヒータ、ハロゲンランプ、赤外線ランプ等を用いることが可能であるが、この中では電気加熱炉を用いることが好ましい。
加熱処理は、薄膜付基板の周囲に、水素が極力排除された気体が存在する状態で行われることが好ましい。空気中における水素の存在量は少ないが、水蒸気は多く存在する。クリーンルーム内の空気でも湿度がコントロールされてはいるが、水蒸気は比較的多く存在する。ガラス基板に対する加熱処理をドライエア中で行うことで、水蒸気に起因する水素のガラス基板への侵入を抑制することができる。さらに、水素や水蒸気を含まない気体(窒素等の不活性ガスや希ガスなど)中で薄膜付基板を加熱処理することがより好ましい。また、薄膜付基板の加熱処理は、真空中で行うこともできる。
加熱処理における薄膜付基板の加熱温度は、300℃以上、好ましくは400℃以上、より好ましくは450℃以上である。主表面に薄膜が形成されたガラス基板をこのような温度範囲で加熱することによって、薄膜の内部応力を十分に低減することができる。ガラス基板は300℃以上の温度になると、ガラス基板中の水素が内部を移動し始める傾向がある。このため、上記の加熱温度以上の温度で薄膜付基板を加熱処理する場合、本発明のマスクブランクの製造方法はより高い効果が得られる。
つぎに、膜応力を低減するための光照射処理について説明する。
光照射処理では、薄膜付基板に対して、閃光ランプから発せられる光(高エネルギー線)を照射する処理を行う。あるいは、光照射処理では、薄膜が形成された透光性基板に対して、レーザー光を照射する処理を行う。
閃光ランプから発せられる光を照射する光照射処理の場合、閃光ランプは、連続した幅の広い波長領域をもつ光を発することのできる光源である。閃光ランプとしては、例えば、キセノン等のガスをガラス等の光を通す材料でできた管に封入し、これに高電圧をパルス状に印加することによって光を発することができるランプを用いることができる。
閃光ランプの照射強度は、薄膜の種類や組成によって異なるが、0.1〜100J/cm、好ましくは1〜50J/cm、より好ましくは10〜50J/cmである。照射強度がこの範囲よりも大きいと、膜が飛散したり、表面あれが生じたりするおそれがある。照射強度がこの範囲よりも小さいと、膜応力を低減する効果が小さくなるおそれがある。
閃光ランプによる光の照射時間は、1秒以下、好ましくは0.1秒以下、更に好ましくは0.01秒以下である。閃光ランプから発せられる光の照射時間を短くすることによって、ガラス基板をあまり加熱せずに膜応力を低減することができる。これにより、ガラス基板にダメージを与えることを防止することができる。
本発明において、ガラス基板の主表面に形成された薄膜に閃光ランプから発せられる光を照射する場合、1回で照射が完了するように照射しても、複数回に分けて照射してもよい。また、膜を多層構造にする場合には、膜を成膜する毎に照射することも、複数の膜を成膜してからまとめて照射することもできる。また、閃光ランプからの光は、膜面から照射しても、基板が光を通すときは基板面から照射してもよい。また、閃光ランプによって光を照射する際にガラス基板が置かれる場所の周囲の雰囲気は、アルゴン等の不活性ガス、窒素、酸素、あるいはこれらのうち2種以上の混合ガス、真空中、大気中など、どのような雰囲気であってもよい。
一方、レーザー光を照射する光照射処理の場合、薄膜が形成された透光性基板の薄膜の表面に対してレーザー光を照射することで、薄膜をごく短時間(例えば、数十nsec)で高温(例えば、1000℃以上)に加熱することで、薄膜の応力を低減させる。薄膜に照射するレーザー光の波長は、薄膜の材料によって異なるため一概には言えないが、157nm〜633nmの範囲が好ましく、248nm〜308nmの範囲がより好ましい。また、レーザー光の強度に関しても、薄膜の材料によって異なるため一概には言えないが、エネルギー密度が100〜500mJ/cmの範囲が好ましく、200〜400mJ/cmの範囲がより好ましい。例えば、レーザー光にXeClエキシマレーザー(波長308nm)を適用すると好ましい。
本発明において、透光性基板の主表面に形成された薄膜にレーザー光を照射する場合、薄膜の表面を走査するように照射するとよい。レーザー発振器から発生したレーザー光をラインビーム光学系によって、ラインビームに成形して薄膜の表面を走査させてもよい。薄膜に対するレーザー光の照射は、一回でも複数回でもよい。また、膜を多層構造にする場合には、膜を成膜する毎にレーザー光を照射することも、複数の膜を成膜してからまとめて照射することもできる。また、レーザー光は、膜面から照射しても、基板が光を通すときは基板面から照射してもよい。また、レーザー光を照射する際に透光性基板が置かれる場所の周囲の雰囲気は、アルゴン等の不活性ガス、窒素、酸素、あるいはこれらのうち2種以上の混合ガス、真空中、大気中など、どのような雰囲気であってもよい。
閃光ランプから発せられる光を照射する光照射処理およびレーザー光を照射する光照射処理は、薄膜付基板の周囲に水素が極力排除された気体が存在する状態で行われることが好ましい。空気中には水素自体の存在量は少ないが、水蒸気は多く存在する。クリーンルーム内の空気でも湿度がコントロールされてはいるが、水蒸気は比較的多く存在する。薄膜付基板に対する光照射処理をドライエア中で行うことで、水蒸気に起因する水素のガラス基板への侵入を抑制することができる。さらに、水素及び水蒸気を含まない気体(窒素等の不活性ガス及び希ガスなど)中で薄膜付基板に対して光を照射することが好ましい。光照射処理は、大気圧の気体中又は真空中で行うこともできる。
本発明のマスクブランクの製造方法は、膜応力低減工程において、加熱処理または光照射処理後における薄膜の表面形状と薄膜の形成前におけるガラス基板の主表面の形状との差分形状から得られる平坦度から、ガラス基板中の水素含有量から予測される加熱処理または光照射処理によって生じるガラス基板自体の変形に伴う一方の主表面の平坦度変化量を差し引いて得られる平坦度が所定値以下となる処理条件で、薄膜付基板に対して加熱処理または光照射処理を行うことを特徴としている。
ガラス基板中の水素含有量が多くなるにつれて、薄膜付基板に対して加熱処理または光照射処理(以下、これらの処理を加熱等処理という。)を行う前後におけるガラス基板の主表面の差分形状から算出される平坦度変化量が大きくなる傾向がある。従来、加熱等処理を行った後におけるガラス基板上の薄膜が有する膜応力を求める方法として、予め薄膜を形成する前のガラス基板の主表面の表面形状を測定しておき、加熱等処理後の薄膜付基板の薄膜の表面形状を測定し、その両者の差分形状を算出し、その差分形状から平坦度を算出し、その平坦度の絶対値が小さいほど加熱等処理によって薄膜の膜応力が低減できていると考えられていた。しかし、ガラス基板中の水素含有量によっては、加熱等処理で薄膜付基板のガラス基板の主表面形状が変化してしまうこと、そして、このような場合、従来の方法では薄膜付基板の薄膜の膜応力を正確に算出することは困難であることを本発明者は見出した。
一方、加熱等処理後の薄膜付基板におけるガラス基板の主表面の形状は、薄膜を除去しなければ測定することは困難である。これらのことを考慮し、本発明のマスクブランクの製造方法では、ガラス基板中の水素含有量から、加熱等処理の前後で生じるガラス基板の主表面の平坦度変化量を予測することを行うことにした。そして、加熱等処理後における薄膜の表面形状と薄膜の形成前におけるガラス基板の主表面の形状との差分形状から得られる平坦度から、予測された加熱等処理を行ったことによって生じるガラス基板の主表面の平坦度変化量を差し引く補正を行うようにした。これにより、加熱等処理を行ったことで生じるガラス基板の主表面形状の変化が膜応力の算出に与える影響を抑制することができる。さらに、このような補正を行った後の平坦度変化量が所定値以下となるような条件で薄膜付基板に対して加熱等処理を行うことで、薄膜の膜応力を所望の値以下に低減することができる。
本発明のマスクブランクの製造方法では、別のガラス基板に対し、薄膜形成工程を行って別の薄膜付基板を取得し、別の薄膜付基板に対して加熱処理または光照射処理を行い、加熱処理または光照射処理後における別のガラス基板の主表面の形状と、薄膜の形成前における別のガラス基板の主表面の形状との差分形状から得られる平坦度変化量、および別のガラス基板の水素含有量の対応関係を取得する対応関係取得工程を有し、ガラス基板自体の変形に伴う前記一方の主表面の平坦度変化量は、前記対応関係を基に予測することが好ましい。
また、この場合における本発明のマスクブランクの製造方法では、対応関係取得工程は、加熱処理または光照射処理後における別のガラス基板の主表面の形状との差分形状から得られる平坦度変化量、および前記別のガラス基板の水素含有量のほかに、前記別の薄膜付基板に対して行った加熱処理または光照射処理の処理条件を含めた対応関係を取得すると好ましい。
対応関係取得工程は、薄膜付基板に対して膜応力低減工程を行う前であれば、どの段階で行ってもよい。たとえば、以下の手順で対応関係取得工程を行うとよい。まず、薄膜付基板に使用するガラス基板と同程度の水素含有量を有する別のガラス基板を準備する。次に、その別のガラス基板における一方の主表面の表面形状を測定する。続いて、その別のガラス基板の表面形状を測定した側の主表面に薄膜付基板に形成する薄膜と同様の成膜条件で薄膜を形成して別の薄膜付基板を製造する。その別の薄膜付基板に対し、膜応力低減工程で薄膜付基板に対して行う条件と同じ条件で、別の薄膜付基板に対して加熱処理または光照射処理を行う。加熱処理または光照射処理を行った後の別の薄膜付基板の薄膜を除去する。薄膜が除去されたガラス基板の薄膜が形成されていた側の主表面の表面形状を測定機で測定する。測定した薄膜除去後における主表面の表面形状と薄膜形成前における主表面の表面形状との差分形状を算出する。そして、その算出した差分形状から平坦度変化量を算出し、別のガラス基板の水素含有量と平坦度変化量との対応関係を取得する。また、加熱処理又は光照射処理の処理条件を含めた対応関係を取得する。
対応関係取得工程では、それぞれ水素含有量が異なる複数のガラス基板を準備し、前記と同様の手順で、それぞれ主表面の平坦度変化量との関係を取得し、ガラス基板の水素含有量と基板の平坦度変化量との間の相関関数(相関グラフ)を算出し、これを対応関係としてガラス基板の平坦度変化量の予測に使用してもよい。また、このようなガラス基板の水素含有量と基板の平坦度変化量との間の相関関数を、薄膜付基板への加熱処理または光照射処理の処理条件を変更し、処理条件ごとに相関関数を算出して、これらを対応関係としてガラス基板の平坦度変化量の予測に使用してもよい。さらに、ガラス基板の水素含有量を固定し、薄膜付基板への加熱処理または光照射処理の処理条件と基板の平坦度変化量との間の相関関数を算出し、これを対応関係としてガラス基板の平坦度変化量の予測に使用してもよい。そして、薄膜付基板への加熱処理または光照射処理の処理条件と基板の平坦度変化量との間の相関関数を、ガラス基板の水素含有量を変更し、水素含有量ごとに相関関数を算出して、これらを対応関係としてガラス基板の平坦度変化量の予測に使用してもよい。
ガラス基板中に含まれる水素含有量は、レーザーラマン散乱分光法によって測定することが可能である。例えば、日本分光社製 HQS−1000を用い、フォトンカウント法によって測定することができる。
ガラス基板における主表面形状の測定は、表面形状解析装置(表面形状測定装置)を用いて行うことができる。薄膜付基板における薄膜の表面形状の測定も、表面形状解析装置(表面形状測定装置)を用いて行うことができる。また、加熱等処理後におけるガラス基板の主表面の形状と、薄膜の形成前におけるガラス基板の主表面の形状との差分形状の算出、および差分形状に基づく平坦度変化量の算出も、表面形状解析装置を用いて行うことができる。表面形状解析装置としては、例えば、UltraFLAT 200M(Corning TROPEL社製)を用いることができる。なお、差分形状に基づく平坦度変化量の算出は、公知の方法を用いて行うことが可能であり、例えば特開2010−237502号公報に開示された方法を用いて行うことが可能である。
差分形状に基づく平坦度を算出する領域は、少なくとも薄膜で転写パターンを形成する領域が含まれる必要がある。一辺が約152mmの四角形の主表面を有するガラス基板の場合、転写パターンを形成する領域は、一般に、ガラス基板の主表面の中心を基準とした一辺が132mmの四角形の内側領域(以下、この領域を「132mm四方の内側領域」という。)である。また、差分形状に基づく平坦度を算出する領域は、一辺が142mmの四角形の内側領域(以下、この領域を「142mm四方の内側領域」という。)であると好ましい。また、ガラス基板の主表面形状や薄膜の表面形状を表面形状測定装置で測定する領域も、少なくとも薄膜に転写パターンを形成する領域を含む領域である必要がある。なお、ガラス基板の水素含有量から予測するガラス基板自体の変形に伴う主表面の平坦度変化量を算出する領域や差分形状から算出される平坦度から平坦度変化量を差し引いて得られる平坦度についても、差分形状に基づく平坦度を算出する領域の場合と同様である。
本発明のマスクブランクの製造方法は、加熱処理または光照射処理後における薄膜の表面形状と薄膜の形成前における前記ガラス基板の主表面の形状との差分形状から得られる平坦度から前記ガラス基板中の水素含有量から予測される加熱処理または光照射処理によって生じる前記ガラス基板自体の変形に伴う前記一方の主表面の平坦度変化量を差し引いて得られる平坦度の所定値は、薄膜に転写パターンを形成する領域内において、絶対値で100nm以下であることが好ましい。平坦度変化量の絶対値は、80nm以下であるとより好ましく、50nm以下であるとさらに好ましく、30nm以下であるとなお好ましい。
薄膜を形成する前のガラス基板の一方の主表面は、高い平坦度を有することが望ましい。132mm四方の内側領域で算出した一方の主表面の平坦度が、0.3μm以下であることが好ましく、0.2μm以下であるとより好ましく、0.1μm以下であるとさらに好ましい。また、142mm四方の内側領域で算出した一方の主表面の平坦度が、0.3μm以下であることが好ましく、0.2μm以下であるとより好ましく、0.1μm以下であるとさらに好ましい。なお、一方の主表面に対向する側にある他方の主表面についても、同等以上の平坦度を有することが望ましい。
薄膜を形成する前のガラス基板の一方の主表面の平坦度は、薄膜付基板の状態で加熱等処理が行われることにより生じるガラス基板の主表面の平坦度の変化を見込んだ数値を選定してもよい。すなわち、ガラス基板の水素含有量と加熱等処理によるガラス基板の主表面の平坦度変化量との対応関係を用い、加熱等処理を薄膜付基板に行った後のガラス基板の主表面の平坦度が、たとえば132mm四方(の内側領域あるいは142mm四方の内側領域)で0.3μm以下(より好ましくは0.2μm以下、さらに好ましくは0.1μm以下)となる薄膜を形成する前におけるガラス基板の主表面の平坦度の数値範囲を選定する。
対応関係取得工程で行われる薄膜付基板からの薄膜の除去は、薄膜にパターンを形成するときに用いられるドライエッチングと同様の方法で行うことができる。例えば、薄膜がケイ素(Si)及び遷移金属(例えばMo)を含む材料からなる場合には、フッ素系ガスを含むエッチングガスを用いたドライエッチングによって薄膜を除去することが可能である。また、薄膜を構成する材料の組成によっては、酸素を含有しない塩素系ガスを含むエッチングガスを用いたドライエッチングや、塩素系ガスと酸素ガスを含むエッチングガスを用いたドライエッチングによって薄膜を除去することも可能である。また、薄膜を構成する材料の組成によっては、薄膜の除去にウェットエッチングを適用してもよい。
ガラス基板の水素含有量が主表面の形状変化に影響を与える原因は以下のように推測される。なお、以下の考察は、出願時点における本発明者らの推測に基づくものであり、本発明の範囲を何ら制限するものではない。
水素を含有するガラス材料からなるガラス基板を加熱処理すると、表面(特に表面積の大きい2つの主表面)から水素が脱離していく。水素が脱離していく前までその水素と結合していたSi等の元素は別の元素と結合しようとする。このとき、水素が脱離して生じた内部空間の隙間が縮まることで、内部構造が縮まる方向に働く応力(引張応力)が生じる。すべての表面に薄膜を全く設けてない状態(すべての表面が大気中に露出した状態)のガラス基板の場合、基板の内部に比べ表面近傍の表層の方が水素含有量は少なく、表層に引張応力が生じやすい。しかし、この場合、2つの主表面近傍の表層の両方ともに、水素含有量は同程度に低下しており、表層に生じる引張応力も同程度になり、バランスが保たれ、どちらかの主表面の形状が顕著に変化するようなことにはなりにくい。
一方、水素を含有するガラス材料からなるガラス基板に対して、一方の主表面にのみ薄膜が形成されている状態で加熱処理を行った場合、薄膜が形成された主表面側では、薄膜によって水素の大気中への脱離が抑制される。このため、薄膜が形成された主表面側の表層の水素含有量は、薄膜が形成されていない他方の主表面(表面が大気中に露出した状態の主表面)側の表層の水素含有量よりも多くなる傾向が生じる。同時に、薄膜が形成された主表面側の表層の引張応力は、薄膜が形成されていない他方の主表面側の表層の引張応力よりも小さくなる傾向が生じる。この結果、薄膜が形成された側の主表面が凸形状の傾向に変形し、薄膜が形成されていない側の主表面が凹形状の傾向に変形する。
ガラス基板を形成するガラス材料に存在していた水素の含有量が多くなるほど、加熱処理で脱離する水素の量も多くなる。この結果、ガラス基板の主表面側の表層に生じる引張応力も大きくなる。薄膜が形成された一方の主表面側の引張応力と、薄膜が形成されていない他方の主表面に生じる引張応力との差も、ガラス材料の水素含有量が多くなるほど大きくなる。
なお、上記の検証や考察では、ガラス基板における他方の主表面が露出した状態で加熱処理や光照射処理を行う場合について述べた。しかし、他方の主表面にも薄膜が形成されている場合であっても、ガラス基板中の水素含有量によっては一方の主表面に大きな形状変化が生じる場合もある。たとえば、一方の主表面に形成された薄膜に比べ、他方の主表面に形成された薄膜が水素を大幅に通過しやすい特性を有してしまっている場合(薄膜を形成する材料の相違、膜厚の大幅な相違、薄膜の積層構造の大幅な相違等)があげられる。
一方、加熱処理の場合と同様に、閃光ランプから発せられる光を照射する光照射処理を適用する場合の検証を行った。光照射処理の前後でガラス基板における一方の主表面の形状自体が変化することは、加熱処理の場合と同様であった。しかし、光照射処理の場合、ガラス基板における一方の主表面の形状が、凹形状に変化する傾向がある点が、加熱処理の場合と大きく異なる。これは、以下のように推測される。なお、以下の考察も、出願時点における本発明者らの推測に基づくものであり、本発明の範囲を何ら制限するものではない。
閃光ランプから発せられる光を照射する光照射処理を行う時間は、加熱処理を行う時間に比べて大幅に短い(光照射処理が秒単位であるのに対し、加熱処理は、数十分〜数時間。)。薄膜が形成されたガラス基板に対して光照射処理を行ったときに、水素が脱離する温度まで加熱されるのは薄膜とその薄膜が形成されている側である一方の主表面側の表層までである。閃光ランプの光が照射されない他方の主表面は水素が脱離する温度までには加熱されない。ガラス基板の薄膜が形成されている一方の主表面側の表層からは水素が脱離し、それによって引張応力が強くなる傾向が生じるが、水素が脱離しない他方の主表面の内部応力には実質的な変化は生じない。この結果、薄膜が形成されている側の主表面は、その引張応力の影響で凹形状の傾向に変形し、それに伴い、薄膜が形成されていない側の他方の主表面は凸形状の傾向に変形する。
また、レーザー光を照射する光照射処理を適用する場合の検証も行ったところ、閃光ランプから発せられる光を照射する光照射処理の場合と同様の傾向が得られた。レーザー光を照射する光照射処理も閃光ランプから発せられる光を照射する光照射処理と同様に、水素が脱離する温度まで加熱されるのは、薄膜と透光性基板の薄膜が形成されている側の主表面の表層までであることに起因すると推測される。
上述したように、従来技術を用いた場合には、薄膜付基板の状態で加熱処理または光照射処理を行ったときに生じるガラス基板自体の変形を考慮していなかった。このため、薄膜付基板に対して加熱処理または光照射処理を行った後における薄膜の表面形状とガラス基板の一方の主表面の表面形状との差分形状を指標に加熱処理または光照射処理の処理条件を調整して薄膜の内部応力を低減しようとしても、実際の薄膜の内部応力を十分に低減することはできていなかった。
これに対して、本発明のマスクブランクの製造方法によれば、差分形状からガラス基板自体の変形を予測した平坦度変化量を差し引く補正を行うため、加熱処理または光照射処理を行った後の薄膜付基板から薄膜を除去してガラス基板の主表面形状を測定しなおさなくても、実際の薄膜の内部応力を高い精度で算定することが可能となる。このため、加熱処理後又は光照射処理後のガラス基板の一方の主表面に形成された薄膜の内部応力を、360MPa以下、好ましくは300MPa以下、より好ましくは180MPa以下に低減することができる。
短波長のパルスレーザー光であるKrFエキシマレーザーやArFエキシマレーザーが露光光として適用される転写用マスクに用いるガラス基板は、ガラス材料にある程度の水素が含有されたものを使用することが一般的である。これは、特にエネルギーの高い光のArFエキシマレーザーは、ガラス材料中を透過する際に内部構造にダメージを与えることがあり、水素がそのダメージを修復する役割を持つためである。この点を考慮する場合、ガラス基板の水素含有量は、2.0×1017分子数/cm以上、より好ましくは3.0×1017分子数/cm以上、さらに好ましくは5.0×1017分子数/cm以上、とするとよい。
前記のとおり、ガラス基板を形成するガラス材料中の水素含有量が多くなるにつれて、加熱処理又は光照射処理の前後におけるガラス基板の主表面の平坦度変化量が大きくなる傾向(すわなち、ガラス基板の主表面形状の変形量が大きくなる傾向)がある。加熱処理又は光照射処理の前後におけるガラス基板の主表面形状の変形量が大きくなりすぎると、その主表面上に設けられている薄膜に対して大きな力が加わるため、好ましくない。加熱処理又は光照射処理の前後におけるガラス基板の主表面形状の変形が大きくなりすぎないようなガラス基板の水素含有量にすることが望まれる。この点を考慮する場合、ガラス基板の水素含有量は、5.0×1019分子数/cm以下、より好ましくは4.0×1019分子数/cm以下、さらに好ましくは1.0×1019分子数/cm以下、とするとよい。
本発明のマスクブランクの製造方法は、例えば、以下の(1)〜(3)に示すマスクブランクに適用することができる。
(1)遷移金属を含む材料からなる遮光膜を備えたバイナリマスクブランク
かかるバイナリマスクブランクは、ガラス基板上に遮光膜(薄膜)を有する形態のものであり、この遮光膜は、クロム、タンタル、ルテニウム、タングステン、チタン、ハフニウム、モリブデン、ニッケル、バナジウム、ジルコニウム、ニオブ、パラジウム、ロジウム等の遷移金属単体あるいはその化合物を含む材料からなる。例えば、タンタルに、酸素、窒素、ホウ素などの元素から選ばれる1種以上の元素を添加したタンタル化合物で構成した遮光膜が挙げられる。
かかるバイナリマスクブランクは、遮光膜を、遮光層と表面反射防止層の2層構造や、さらに遮光層と基板との間に裏面反射防止層を加えた3層構造としたものなどがある。
また、遮光膜の膜厚方向における組成が連続的又は段階的に異なる組成傾斜膜としてもよい。
(2)ケイ素の化合物を含む材料、または遷移金属及びケイ素(遷移金属シリサイド、特にモリブデンシリサイドを含む)の化合物を含む材料からなる光半透過膜を備えた位相シフトマスクブランク
かかる位相シフトマスクブランクとしては、ガラス基板上に光半透過膜(薄膜)を有する形態のものであって、該光半透過膜をパターニングしてシフタ部を設けるタイプであるハーフトーン型位相シフトマスクが作製される。かかる位相シフトマスクにおいては、光半透過膜を透過した光に基づき転写領域に形成される光半透過膜パターンによる被転写基板のパターン不良を防止するために、ガラス基板上に光半透過膜とその上の遮光膜(遮光帯)とを有する形態とするものが挙げられる。また、ハーフトーン型位相シフトマスクブランクのほかに、ガラス基板をエッチング等により掘り込んでシフタ部を設ける基板掘り込みタイプであるレベンソン型位相シフトマスク用やエンハンサー型位相シフトマスク用のマスクブランクが挙げられる。
前記ハーフトーン型位相シフトマスクブランクの光半透過膜は、実質的に露光に寄与しない強度の光(例えば、露光波長に対して1%〜30%)を透過させるものであって、所定の位相差(例えば180度)を有するものである。この光半透過膜をパターニングした光半透過部と、光半透過膜が形成されていない実質的に露光に寄与する強度の光を透過させる光透過部とによって、光半透過部を透過した光の位相が光透過部を透過した光の位相に対して実質的に反転した関係になるようにすることによって、光半透過部と光透過部との境界部近傍を通過し回折現象によって互いに相手の領域に回り込んだ光が互いに打ち消しあうようにし、境界部における光強度をほぼゼロとし境界部のコントラスト即ち解像度を向上させるものである。
この光半透過膜は、例えば遷移金属及びケイ素(遷移金属シリサイドを含む)の化合物を含む材料からなり、これらの遷移金属及びケイ素と、酸素及び/又は窒素を主たる構成要素とする材料が挙げられる。遷移金属には、モリブデン、タンタル、タングステン、チタン、ハフニウム、ニッケル、バナジウム、ジルコニウム、ニオブ、パラジウム、ルテニウム、ロジウム、クロム等が適用可能である。また、光半透過膜は、ケイ素と窒素を含有する材料で形成してもよい。この場合、窒素含有量の比較的少ない低透過層と窒素含有層が比較的多い高透過層との組合せが1組以上積層した構造を有する光半透過膜とすることが好ましい。
光半透過膜上に遮光膜を有する形態の場合、上記光半透過膜の材料が遷移金属及びケイ素を含むので、遮光膜の材料としては、光半透過膜に対してエッチング選択性を有する(エッチング耐性を有する)特にクロムや、クロムに酸素、窒素、炭素などの元素を添加したクロム化合物で構成することが好ましい。
レベンソン型位相シフトマスクは、バイナリマスクブランクと同様の構成のマスクブランクから作製されるため、パターン形成用の薄膜の構成については、バイナリマスクブランクの遮光膜と同様である。エンハンサー型位相シフトマスク用のマスクブランクの光半透過膜は、実質的に露光に寄与しない強度の光(例えば、露光波長に対して1%〜30%)を透過させるものではあるが、透過する露光光に生じさせる位相差が小さい膜(例えば、位相差が30度以下。好ましくは0度。)であり、この点が、ハーフトーン型位相シフトマスクブランクの光半透過膜とは異なる。この光半透過膜の材料は、ハーフトーン型位相シフトマスクブランクの光半透過膜と同様の元素を含むが、各元素の組成比や膜厚は、露光光に対して所定の透過率と所定の小さな位相差となるように調整される。
(3)遷移金属及びケイ素(遷移金属シリサイド、特にモリブデンシリサイドを含む)の化合物を含む材料からなる遮光膜を備えたバイナリマスクブランク
この遮光膜(薄膜)は、遷移金属及びケイ素の化合物を含む材料からなる。このような材料の例として、遷移金属及びケイ素と、酸素及び/又は窒素を主たる構成要素とする材料が挙げられる。また、このような材料の例として、遷移金属と、酸素、窒素及び/又はホウ素を主たる構成要素とする材料が挙げられる。遷移金属には、モリブデン、タンタル、タングステン、チタン、ハフニウム、ニッケル、バナジウム、ジルコニウム、ニオブ、パラジウム、ルテニウム、ロジウム、クロム等が適用可能である。
特に、遮光膜をモリブデンシリサイドの化合物で形成する場合には、遮光膜を遮光層(MoSi等)と表面反射防止層(MoSiON等)の2層構造としてもよいし、さらに遮光層と基板との間に裏面反射防止層(MoSiON等)を加えた3層構造としてもよい。
また、遮光膜の膜厚方向における組成が連続的又は段階的に異なる組成傾斜膜としてもよい。
また、レジスト膜の膜厚を薄膜化して微細パターンを形成するために、遮光膜上にエッチングマスク膜を有する構成としてもよい。このエッチングマスク膜は、遷移金属シリサイドを含む遮光膜のエッチングに対してエッチング選択性を有する(エッチング耐性を有する)特にクロムや、クロムに酸素、窒素、炭素などの元素を添加したクロム化合物からなる材料で構成することが好ましい。このとき、エッチングマスク膜に反射防止機能を持たせることにより、遮光膜上にエッチングマスク膜を残した状態で転写用マスクを作製してもよい。
本発明のマスクブランクの製造方法によって製造されたマスクブランクの薄膜に転写パターンを形成することによって、転写用マスクを製造することができる。薄膜への転写パターンの形成は、公知の方法を用いて行うことが可能である。
以下、実施例により、本発明の実施の形態を更に具体的に説明する。併せて、実施例に対する比較例についても説明する。
[実施例1]
バイナリマスクブランクを製造するにあたり、最初に、ガラス基板の水素含有量とそのガラス基板の一方の主表面に薄膜(遮光膜)が形成された状態で膜応力を低減する加熱処理を行った後におけるガラス基板の主表面の平坦度変化量の相関を求めた。具体的には、まず、主表面の寸法が約152mm×約152mmで、厚さが約6.35mmであり、材料中の水素含有量が異なる合成石英ガラスからなる3枚の測定用ガラス基板(基板A,基板B,基板C)を準備した。各測定用ガラス基板は、主表面を所定の平坦度および表面粗さに研磨され、その後、所定の洗浄処理および乾燥処理を施されたものであった。各測定用ガラス基板中の水素含有量をレーザーラマン分光光度法によって測定したところ、基板Aが3.4×1017[分子数/cm]、基板Bが2.1×1018[分子数/cm]、基板Cが3.9×1018[分子数/cm]であった。
次に、各測定用ガラス基板の薄膜が形成される側の主表面(一方の主表面)の表面形状を、表面形状解析装置(UltraFLAT 200M(Corning TROPEL社製))を用いて測定した(測定領域は、測定用ガラス基板の中心を基準とした一辺が142mmの四角形の内側領域。以降、表面形状解析装置で測定している表面形状の測定領域は同じ。)。いずれの測定用ガラス基板も、薄膜が形成される側の主表面(一方の主表面)の142mm四方の内側領域における平坦度は、0.2μm以下であり、表面形状は凸形状であった。
次に、各測定用ガラス基板の主表面(一方の主表面)上に、実際のバイナリマスクブランクの遮光膜と同じ成膜条件で遮光膜をそれぞれ形成した。具体的には、測定用ガラス基板の上に、枚葉式スパッタ装置を用いて、スパッタターゲットにモリブデン(Mo)とシリコン(Si)との混合ターゲット(原子%比 Mo:Si=13:87)を用い、アルゴンと窒素の混合ガス雰囲気(ガス圧 0.1Pa,ガス流量比 Ar:N=51:49)で、DC電源の電力を1.9kWとし、反応性スパッタリング(DCスパッタリング)により、遮光膜の下層であるMoSiN膜を47nmの厚さで形成した。続いて、同じモリブデン(Mo)とシリコン(Si)との混合ターゲットを用い、アルゴンと窒素とヘリウムの混合ガス雰囲気(ガス圧 0.1Pa,ガス流量比 Ar:N:He=33:56:11)で、DC電源の電力を1.9kWとし、反応性スパッタリング(DCスパッタリング)により、遮光膜の上層であるMoSiN膜を13nmの厚さで形成した。
以上の工程により、各測定用ガラス基板上にMoSiNからなる下層とMoSiNからなる上層の積層構造からなるArFエキシマレーザー(波長:193nm)用の遮光膜をそれぞれ形成し、3種類の薄膜付基板(薄膜付基板A,薄膜付基板B,薄膜付基板C)を取得した。なお、この遮光膜は、ArFエキシマレーザーの露光光に対する光学濃度は3.0以上であった。
次に、各薄膜付基板に対して450℃で30分間の加熱処理(アニール処理)を行い、遮光膜の膜応力を低減させる処理を行った。加熱処理後の遮光膜の表面形状を、上記と同一の表面形状解析装置を用いて測定した。続いて、エッチングガスにSFとHeの混合ガスを用い、ドライエッチングにより、各薄膜付基板の遮光膜を全面除去した。遮光膜を全面除去した後の測定用ガラス基板の遮光膜が形成されていた側の主表面の表面形状を、上記と同一の表面形状解析装置を用いて測定した。
そして、各測定用ガラス基板について、遮光膜を除去した後に測定した測定用ガラス基板の主表面形状から、遮光膜を形成する前に測定した測定用ガラス基板の主表面形状を差し引いた差分形状を算出した。さらに、算出した各差分形状から142mm四方の内側領域における平坦度変化量をそれぞれ算出した。各測定用ガラス基板の平坦度変化量は、基板Aが0.045μm、基板Bが0.095μm、基板Cが0.146μmであった。各測定用ガラス基板の水素含有量と加熱処理前後で生じた主表面の平坦度変化量には図1に示すような相関性があった。測定用ガラス基板の水素含有量をx、加熱処理前後で生じた測定用ガラス基板の主表面の平坦度変化量をyとした場合、概ね、y=2.83×10−20x+0.0352の相関関数の関係にあることがわかった。
次に、バイナリマスクブランクを製造するための合成石英からなるガラス基板を準備した。このガラス基板は、主表面および厚さの寸法は、測定用ガラス基板と同様であるが、ガラス基板中の水素含有量は、レーザーラマン分光光度法によって測定したところ、2.9×1018[分子数/cm]であった。このガラス基板の薄膜が形成される側の主表面(一方の主表面)の表面形状を、同様に表面形状解析装置を用いて測定した。このガラス基板も、薄膜が形成される側の主表面(一方の主表面)の142mm四方の内側領域における平坦度は、0.2μm以下であり、表面形状は凸形状であった。
次にこのガラス基板の主表面(一方の主表面)上に、測定用ガラス基板の場合と同じ成膜条件で、MoSiNからなる下層とMoSiNからなる上層の積層構造からなるArFエキシマレーザー用の遮光膜を形成した。
次に、遮光膜が形成されたガラス基板に対して450℃で30分間の加熱処理(アニール処理)を行い、遮光膜の膜応力を低減させる処理を行った。加熱処理後の遮光膜の表面形状を、上記と同一の表面形状解析装置を用いて測定した。加熱処理後の遮光膜の表面形状から、遮光膜を形成する前に測定したガラス基板の主表面形状を差し引いた差分形状を算出した。算出した差分形状から142mm四方の内側領域における平坦度変化量を算出したところ、0.141μmであり、0.1μmを超える平坦度変化量となった。もし、遮光膜の膜応力によって、ガラス基板の主表面形状にこれだけの大きな平坦度変化が生じているのであれば、遮光膜にパターンを形成したときに許容できない大きなパターンの位置ずれが生じてしまう。
ここで、先に求めていた相関関数を用い、加熱処理前後で生じたガラス基板の主表面の平坦度変化量を算出したところ、0.117μmの予測値となった。先に算出した平坦度変化量から予測値を差し引く補正を行ったところ、補正後の平坦度変化量は0.024μmであった。この補正後の平坦度変化量であれば、遮光膜の膜応力は十分に低減できており、遮光膜にパターンを形成したときに生じるパターンの位置ずれは許容範囲内になるはずである。
次に、この遮光膜(薄膜)の上に、クロム系材料からなるエッチングマスク膜(CrN膜であり、膜厚が5nm。)を形成し、ガラス基板上に遮光膜とエッチングマスク膜が積層したマスクブランクを製造した。続いて、エッチングマスク膜上にレジスト膜をスピン塗布法によって形成した。次に、レジスト膜にテストパターンを描画露光し、現像処理等を行い、レジストパターンを形成した。テストパターンが形成されたレジスト膜に対し、パターン位置測定装置(KLA−Tencor社製 LMS IPRO Series)を用いてテストパターンの測定を行った。このレジストパターンをマスクとし、エッチングガスにClとOの混合ガスを用いたドライエッチングを行い、エッチングマスク膜にテストパターンを形成した。
続いて、レジスト膜を剥離し、テストパターンが形成されたエッチングマスク膜をマスクとし、エッチングガスにSFとHeの混合ガスを用いたドライエッチングを行い、遮光膜にテストパターンを形成した。さらに、エッチングガスにClとOの混合ガスを用いたドライエッチングを行い、エッチングマスク膜を除去した。これらの工程により、ガラス基板上にテストパターンが形成された遮光膜を有するパターンテスト用の転写用マスクを作製した。この転写用マスクのテストパターンが形成された遮光膜に対し、パターン位置測定装置を用いてテストパターンの測定を行った。
そして、パターン位置測定装置で、レジスト膜に形成されたテストパターンと遮光膜に形成されたテストパターンを比較させ、遮光膜に形成されたテストパターンの位置ずれ量を求めたところ、最大で1.1nmであった。この位置ずれ量は、ダブルパターニング技術が適用される転写用マスクであっても、十分許容できる範囲内であった。以上のことから、従来の膜応力低減工程では、遮光膜の膜応力が所望値以下に低減できていないとされていたマスクブランクであっても、本発明の膜応力低減工程を行ったものであれば十分に遮光膜の膜応力が低減されていることが確認できた。
[比較例1]
比較例1では、実施例1で使用したガラス基板と水素含有量が同じガラス基板(水素含有量が2.9×1018[分子数/cm])を用い、実施例1と同様に遮光膜を形成し、薄膜付基板を準備した。ここまでは、実施例1の手順と同様である。この比較例1では、膜応力を低減するための加熱処理における処理条件を実施例1よりも高い温度で行うことで、142mm四方の内側領域における平坦度変化量が0.031μmとなるまで低減できていた。従来の膜応力低減工程であれば、遮光膜の膜応力が所望値以下に十分に低減されていると認識されるマスクブランクであった。
次に、この遮光膜(薄膜)の上に、クロム系材料からなるエッチングマスク膜(CrN膜であり、膜厚が5nm。)を形成し、ガラス基板上に遮光膜とエッチングマスク膜が積層した比較例1のマスクブランクを製造した。次に、この比較例1のマスクブランクに対し、実施例1と同様の手順を施し、遮光膜にテストパターンが形成された比較例1の転写用マスクを作製した。
そして、パターン位置測定装置で、レジスト膜に形成されたテストパターンと遮光膜に形成されたテストパターンを比較させ、比較例1の遮光膜に形成されたテストパターンの位置ずれ量を求めたところ、最大で3.8nmであった。この位置ずれ量は、ダブルパターニング技術が適用される転写用マスクでは、許容できないものであった。以上のことから、従来の膜応力低減工程では、遮光膜の膜応力が所望値以下に低減できているとされていたマスクブランクであっても、実際には、膜応力が低減できていない場合があることが確認できた。

Claims (11)

  1. 対向する1組の主表面を有するガラス基板の一方の主表面にケイ素又は金属の少なくとも一方を含有する材料からなる薄膜を備えたマスクブランクの製造方法であって、
    前記ガラス基板を準備し、一方の主表面に前記薄膜を形成して薄膜付基板を取得する工程と、
    前記薄膜付基板に対して加熱処理または光照射処理を行う膜応力低減工程と
    前記膜応力低減工程を行う前に、別のガラス基板に対して前記薄膜形成工程を行って別の薄膜付基板を取得し、前記別の薄膜付基板に対して加熱処理または光照射処理を行い、さらに前記薄膜を除去した後における前記別のガラス基板の主表面の形状と前記薄膜の形成前における前記別のガラス基板の主表面の形状との差分形状から得られる平坦度変化量を算出し、前記別のガラス基板の平坦度変化量と前記別のガラス基板の水素含有量との対応関係を取得する対応関係取得工程とを有し、
    前記膜応力低減工程前記対応関係を用いて前記ガラス基板中の水素含有量から前記加熱処理または光照射処理によって生じる前記ガラス基板自体の変形に伴う前記一方の主表面の平坦度変化量を予測し、前記加熱処理または光照射処理後における前記薄膜の表面形状と前記薄膜の形成前における前記ガラス基板の主表面の形状との差分形状から得られる平坦度からその予測された前記一方の主表面の平坦度変化量を差し引いて得られる平坦度が所定値以下となる処理条件で、前記薄膜付基板に対して加熱処理または光照射処理を行うことにより前記薄膜の内部応力を低減する工程である
    ことを特徴とするマスクブランクの製造方法。
  2. 対応関係取得工程では、前記加熱処理または光照射処理後における前記別のガラス基板の主表面の形状との差分形状から得られる平坦度変化量、および前記別のガラス基板の水素含有量のほかに、前記別の薄膜付基板に対して行った加熱処理または光照射処理の処理条件を含めた対応関係を取得することを特徴とする請求項記載のマスクブランクの製造方法。
  3. 前記薄膜付基板における他方の主表面には、薄膜が形成されていないことを特徴とする請求項1または2に記載のマスクブランクの製造方法。
  4. 前記薄膜付基板を取得する工程では、前記ガラス基板の一方の主表面に対してスパッタ法を用いて薄膜を形成することを特徴とする請求項1からのいずれかに記載のマスクブランクの製造方法。
  5. 前記加熱処理の加熱温度は、300℃以上であることを特徴とする請求項1からのいずれかに記載のマスクブランクの製造方法。
  6. 前記ガラス基板は、合成石英ガラスからなることを特徴とする請求項1からのいずれかに記載のマスクブランクの製造方法。
  7. 前記平坦度の所定値は、薄膜に転写パターンを形成する領域内において、絶対値で100nm以下であることを特徴とする請求項1からのいずれかに記載のマスクブランクの製造方法。
  8. 前記転写パターンを形成する領域は、前記ガラス基板の主表面の中心を基準とした一辺が132mmの四角形の内側の領域であることを特徴とする請求項記載のマスクブランクの製造方法。
  9. 前記薄膜は、遷移金属とケイ素を含有する材料からなることを特徴とする請求項1からのいずれかに記載のマスクブランクの製造方法。
  10. 前記膜応力低減工程後の前記薄膜は、膜応力が360MPa以下であることを特徴とする請求項1からのいずれかに記載のマスクブランクの製造方法。
  11. 請求項1から10のいずれかに記載の製造方法で製造されたマスクブランクの前記薄膜に転写パターンを形成する工程を有することを特徴とする転写用マスクの製造方法。
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