以下、本発明の実施の形態(以下、本実施の形態という)について添付図面を参照して詳細に説明する。図1は、本実施の形態に係る偏光分離素子の構成を示す断面図である。
図1に示すように、偏光分離素子1は、透明樹脂基材2と、透明樹脂基材2の一面(図1では上面)2aに透明樹脂基材と一体に設けられた複数のプリズム面3と、各プリズム面3に設けられた偏光分離膜4と、を有して構成される。
透明樹脂基材2は、所定厚にて形成された板状、あるいは薄いシート状であり、透明樹脂基材2を可撓性フィルムとして形成することもできる。板状、シート状、フィルム状を具体的な厚み寸法により区別するものでなく、例えば、板状とは基本的に可撓性を有しないもの、フィルム状とは可撓性を有するもの、シート状とは板状よりも厚みが薄く、可撓性の有無を問わないものとして定義される。
透明樹脂基材2は、透明な樹脂であることが必要である。本明細書において「透明」とは、例えば全光線透過率が80%以上、好ましくは90%以上である。
透明樹脂基材2の厚みH1は、40μm〜3000μm程度であり、プリズム面3の高さ(深さ)H2より大きいことが好ましい。ここで厚みH1とは、透明樹脂基材2の下面(一面(上面)2aと反対側の面を指す)2bからプリズム面3の頂点(縁部)4aまでの厚みを指す。またプリズム面3の高さ(深さ)H2は、プリズムの角度(θ)とピッチによって決まる。なお高さとは互いに直交するX方向、Y方向及びZ方向のうち、X方向及びY方向からなる面を水平面としたときのZ方向への長さ寸法を指す。
図1に示すように、透明樹脂基材2の厚みH1からプリズム面3の高さH2を引いた厚み寸法(H1−H2)は、H1の10%以上であることが好適である。すなわち透明樹脂基材2の体積収縮量を補う高さが必要である。またH1−H2が薄いと、後述する製造方法を用いてプリズム面3にのみ高精度に偏光分離膜4を配置できない。またH1−H2が厚くなると、偏光分離素子1の薄型化(低背化)を実現できないので、H1−H2は、偏光分離膜4をプリズム面3にのみ適切に配置できる厚みを確保しつつ従来よりも薄型となるように調整される。
本実施の形態では、透明樹脂基材2の材質を限定するものでなく上記のように透明でしかも複屈折を生じない樹脂であればよい。例えば、透明樹脂基材2としてポリメタクリル酸メチル(PMMA)、シクロオレフィンポリマー(COP)樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート樹脂(PC)等を用いることができる。
図1に示すように透明樹脂基材2の一面2aに複数のプリズム面3が形成されている。「一面」とは透明樹脂基材2の厚み方向にて対向する面の一方を指す。プリズム面3は一面2aの全域に形成されていてもよいし、一部に形成されていてもよい。例えば一面2aの縁を除く全域にプリズム面3が形成されている。各プリズム面3は図1に示すY方向に延びて形成されている。
図1に示すように偏光分離素子1を構成する透明樹脂基材2の下面2bはXY平面と平行な面で形成されており、プリズム面3は、XY平面に対して斜めに傾く傾斜面で形成されている。プリズム面3のXY平面に対する傾斜角度はθで示される。
図1に示す偏光分離素子1には、複数のプリズム面3が設けられ、斜めに傾く各プリズム面3間にXY平面に対して垂直に延びる(Z方向に延びる)垂直面5が形成されている。そしてプリズム面3と垂直面5とが交互に連続して形成されている。垂直面5は正確に垂直方向でなくてもよく、垂直方向(Z方向)に対して±10°程度(好ましくは±5°程度)の傾きを有していてもよい。
図1に示すプリズム面3の傾斜角度θは、45°とされているが、45°に限定されるものではない。本実施の形態では、傾斜角度θを45°よりも小さい値に設定することができる。傾斜角度θは使用用途等によって種々変更できる。本実施の形態では、所望の入射角、反射角に応じプリズム面3の傾斜角度θを自由に設計可能である。
また図1ではプリズム面3は、その断面形状が直線形状で形成されているが、曲面とされてもよい。
図1に示すように、各プリズム面3に設けられた偏光分離膜4は、垂直面5には設けられていない。したがって垂直面5では透明樹脂基材2が露出している。
偏光分離膜4について説明する。偏光分離膜4は、入射光の所定の直線偏光成分を透過し、これと直交する直線偏光成分を反射する機能を持つものである。偏光分離膜4は、このような機能を有していれば材質等の制限は無く、例えば、多層複屈折ポリマーの積層体からなるフィルムや、ワイヤグリッドタイプの反射偏光フィルム等を用いることができる。多層複屈折ポリマーの積層体からなる偏光フィルムには、3M社製の多層複屈折フィルムAPF,DBEF等を用いることができる。また、ワイヤグリッドタイプの反射偏光フィルムには、旭化成イーマテリアルズ(株)製のワイヤグリット偏光子(ワイヤグリッド偏光フィルム)等がある。
図2Aは、本実施の形態に係る偏光分離膜4として用いられるワイヤグリッド偏光フィルムの断面図である。
ワイヤグリッド偏光フィルム20は、保持基材(ベースフィルム)21と、保持基材21の表面21aに設けられた樹脂基材22と、を有して構成されている。
図2Aに示すように、樹脂基材22の表面22aには複数の格子状凸部23が設けられている。すなわち樹脂基材22には、格子状凸部23が一体的に形成されている。
保持基材21は、樹脂基材22の裏面側に配置されて、ワイヤグリッド偏光フィルム20の可撓性を維持しながらワイヤグリッド偏光フィルム20の強度を向上させている。
保持基材21は、トリアセチルセルロース(TAC)フィルムやポリカーボネートフィルム、COP、PET、PEN、PS、PE、アクリル、ポリイミド系の高透過性のフィルムであることが好ましい。樹脂基材22は、例えば、ポリメタクリル酸メチル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、シクロオレフィンポリマー樹脂、架橋ポリエチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリアクリレート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、変性ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリエーテルサルフォン樹脂、ポリサルフォン樹脂、ポリエーテルケトン樹脂などの非晶性熱可塑性樹脂や、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、芳香族ポリエステル樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリアミド樹脂などの結晶性熱可塑性樹脂や、アクリル系、エポキシ系、ウレタン系などの紫外線(UV)硬化性樹脂や熱硬化性樹脂が挙げられる。
図2Aに示すように、各格子状凸部23の表面の少なくとも一部に誘電体層26を介して金属層(金属ワイヤ)27が形成されている。誘電体層26は形成されていなくてもよい。かかる場合、金属層27が直接、格子状凸部23の表面に形成される。
誘電体層26を構成する誘電体は、可視領域で実質的に透明であればよい。樹脂基材22を構成する材料及び金属層27を構成する金属との間の密着性が高い誘電体材料を好適に用いることができる。例えば、珪素(Si)の酸化物、窒化物、ハロゲン化物、炭化物の単体又はその複合体(誘電体単体に他の元素、単体又は化合物が混ざった誘電体)や、アルミニウム(Al)、クロム(Cr)、イットリウム(Y)、ジルコニウム(Zr)、タンタル(Ta)、チタン(Ti)、バリウム(Ba)、インジウム(In)、錫(Sn)、亜鉛(Zn)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、セリウム(Ce)、銅(Cu)などの金属の酸化物、窒化物、ハロゲン化物、炭化物の単体又はそれらの複合物を用いることができる。
金属層(金属ワイヤ)27を構成する金属は、可視光領域で光の反射率が高く、誘電体層26を構成する材料との密着性の高いものであることが好ましい。例えば、アルミニウム(Al)、銀(Ag)又はそれらの合金で構成されていることが好ましい。コストの観点から、アルミニウム又はその合金で構成されることがさらに好ましい。
図2Aに示すように、保持基材21と樹脂基材22との接着性の向上や屈折率の調整を目的とした接着層や粘着層の接合層29を介していてもよい。例えば、保持基材21と樹脂基材22との間に、シリカ、アルミナなどの誘電体層が薄い膜厚で形成されていても良いし、保持基材21の表面21aをコロナ放電処理、大気圧プラズマ処理、真空プラズマ処理、紫外線処理することで官能基の付与や微細な凹凸形状を付与するなどの変性層であっても良い。
ワイヤグリッド偏光フィルム20の厚みを特に限定するものでないが、例えば20μm〜200μm程度である。
図2Bは、本実施の形態に係るワイヤグリッド偏光子の平面模式図である。図2Bに図示された複数の横線は、図2Aに示す金属層(金属ワイヤ)27の延出方向を示している。金属層27の延出方向に対し直交する方向が偏光透過軸20aの方向である。偏光透過軸20aはP偏光成分を透過させる透過軸であってもS偏光成分を透過させる透過軸であっても構わない。図1に示す各偏光分離膜4の偏光透過軸20aは全て同一方向に向けられている。
ワイヤグリッド偏光フィルム20は、プリズム面3に接着層や粘着層の接合層(図示しない)を介して接合されている。接合層の厚みは数十μm程度である。このとき、ワイヤグリッド偏光フィルム20の保持基材(ベースフィルム)21をプリズム面3に対面させて接合してもよいし、ワイヤグリッド偏光フィルム20の金属層27側をプリズム面3に対面させて接合することもできる。
図1では、例えば透明樹脂基材2の下面2bを光入射面とする。図示しない光源から非偏光の光L1が透明樹脂基材2の下面2bから入射されると、直線偏光成分のうち例えばS偏光成分L2はプリズム面3に設けられた偏光分離膜4を透過し、一方、S偏光成分L2に対して直交するP偏光成分L3はプリズム面3に設けられた偏光分離膜4にて反射する。反射したP偏光成分L3は、垂直面5を透過し、隣のプリズム面3(図1には3´を符号を付した)に到達する。そしてプリズム面3´に設けられた偏光分離膜4にてP偏光成分L3は反射され、S偏光成分L2とともにプリズム面3、3´から外方に出射される。図1に示す偏光分離素子1によりS偏光成分L2とP偏光成分L3とを適切に分離することができる。図1では、プリズム面3を透過する偏光成分をS偏光成分、プリズム面3を反射する偏光成分をP偏光成分としたが逆となるように偏光透過軸20aを調整してもよい。
図1に示す偏光分離素子1は、透明樹脂基材2の一面2aに複数のプリズム面3を一体で形成し、さらに各プリズム面3にワイヤグリッド偏光フィルム20等の偏光分離膜4を配置した構成である。従来では、ガラス部品を複数積層しさらにカットした構成であり、加工性や耐久性等により薄型化にも限界があったが、本実施の形態によれば、偏光分離素子1を透明樹脂基材2の厚みH1程度に形成でき、したがって従来よりも偏光分離素子1の薄型化(低背化)を図ることができる。
また本実施の形態では、偏光分離素子1を、透明樹脂基材2をベースとして形成することで、強度及び耐久性を向上させることができる。
さらに従来のようにガラス部品を複数積層しさらにカットする従来の製法に比べて、製造工程を簡略化でき製造コストの低減を図ることが可能である。
また本実施の形態では図1に示すように、透明樹脂基材2の一面2aに、複数のプリズム面3と複数の垂直面5とが交互に連続して形成されており、複数の偏光分離膜4は各プリズム面3にのみ形成され、垂直面5には形成されていない。これにより、多重反射を抑制し、S偏光成分L2とP偏光成分L3とを適切に分離することができる。
また本実施の形態では、使用用途等に応じて各プリズム面3の傾斜角度θを自由に設計変更することができる。
また図1に図示した通り、プリズム面3上は透明樹脂層10で埋められていることが好ましい。これによりプリズム面3と垂直面5の間が適切に透明樹脂層10で埋められ、空気層が介在しない。このとき透明樹脂層10の屈折率を透明樹脂基材2の屈折率に近づけることで、各層間での屈折率差を小さくできる。屈折率差(最大屈折率−最小屈折率)は、波長550nmの可視光に対して0.1より小さいことが好ましく、0.05より小さいことがより好ましい。屈折率差を小さくすることで各層間の界面反射が減少し、光の透過効率を改善することができる。
またプリズム面3上を透明樹脂層10で埋めることで、偏光分離膜4を透明樹脂層により保護することが可能である。
図1に示す偏光分離素子1は、複数のプリズム面3が規則的に配列(array)された形態であり、これにより様々な使用用途に適用でき、また偏光分離素子1の平面広さに係らず、薄型化を維持しながら略全域に偏光分離機能を持たせることができる。
図3Aは、本実施の形態及び従来に係る偏光ビームスプリッタの模式図であり、図3Bは、本実施の形態に係る偏光ビームスプリッタの部分拡大断面図である。なお図3Aに示す点線は従来の偏光ビームスプリッタを示しているので、まず以下では本実施の形態である実線部分の偏光ビームスプリッタについて説明する。
図3Aに示すように、本実施の形態における偏光ビームスプリッタ30は、本実施の形態の偏光分離素子1が、第1のプリズム材31と第2のプリズム材32との間に挟持された構造とされている。
図3Aに示す第1のプリズム材31及び第2のプリズム材32の材質を特に限定するものでなく、例えば、光学シリコンガラス、光学プラスチック、石英等であり、また図1に示す偏光分離素子1を構成する透明樹脂基材2と同様の材質とすることができる。
図3Aに示すように、第1のプリズム材31の上面31a及び第2のプリズム材32の下面32aは夫々、XY平面と平行な面である。また第1のプリズム材31及び第2のプリズム材32には夫々、垂直方向(Z方向)に延びる側面31b、32bが設けられている。そして、第1のプリズム材31の上面31aの端部と側面31bの端部とを結んだ方向にXY平面に対して斜めに傾く第1の傾斜面31cが形成されている。また、第2のプリズム材32の下面32aの端部と側面32bの端部とを結んだ方向にXY平面に対して斜めに傾く第2の傾斜面32cが形成されている。第1の傾斜面31c及び第2の傾斜面32cの断面形状は直線形状であり、第1の傾斜面31c及び第2の傾斜面32cは共にXY平面に対して同じ傾斜角度θ2を有している。
図3Aにて丸で囲った部分の部分拡大断面図が図3Bである。図3Bに示す偏光分離素子1は、図1に示す偏光分離素子1を上下反転させたうえで、第1の傾斜面31cと第2の傾斜面32c間に挟持した配置とされる。また図3Bに示す偏光分離素子1を構成するプリズム面3の傾斜角度θ1(偏光分離素子1単体をXY平面上に配置したときの傾き)は、図1に示す偏光分離素子1を構成するプリズム面3の傾斜角度θよりも小さくされている。
例えば、図3Bに示す偏光分離素子1の各プリズム面3の傾斜角度θ1は15°である。また図3Aに示す第1の傾斜面31c及び第2の傾斜面32cの傾斜角度θ2は30°である。したがって図3Bに示すように、第1のプリズム材31と第2のプリズム材32との間に偏光分離素子1を挟持した状態におけるプリズム面3の傾斜角度θ3はXY平面に対して45°となっている。
またピッチPは、例えば約2mmであり、プリズム面3の高さ(深さ)H2は約0.57mmである。また偏光分離素子1の総厚は約0.1mmである。
図3Bに示すように、偏光分離素子1のプリズム面3側は透明樹脂層6により封止されている。なお透明樹脂層6は、第2のプリズム材32と偏光分離素子1との間を接合する接合層(粘着層、接着層)としても機能している。透明樹脂層6としては透明で複屈折を生じなければ特に材質を限定するものでない。透明樹脂層6としては、透明樹脂基材2及びプリズム材31、32と屈折率が近い材質が好ましく適用される。各層の屈折率差(最大屈折率−最小屈折率)は、波長550nmの可視光に対して0.1より小さいことが好ましく、0.05より小さいことがより好ましい。
図3Aに示すように第2のプリズム材32の側面32bには光源34が設けられている。あるいは光源34に代えて導光板であってもよい。図3Aに示す偏光ビームスプリッタ30は、例えば小型プロジェクタ用であり、光源34としては、例えば拡散性(指向性)の光を発するLED(発光ダイオード)が好ましく適用される。あるいは有機ELなどを光源34とすることもできる。符号34を導光板とした場合も、導光板近辺に配置される光源をLEDや有機EL等の発光素子とすることができる。
また図3Aには図示していないが、光源34と第2のプリズム材32との間には光源光を所定の偏光とするためのプレ偏光板が配置されている。
また上記した透明樹脂層6を、光源34と第2のプリズム材32との間等に介在させて空気を介さずに光を偏光分離素子1へ送る構成とすることができる。
図3Bに示すように、第1のプリズム材31と偏光分離素子1との間にはクリーンアップ偏光板7が介在している。なお図示しないが、クリーンアップ偏光板7と偏光分離素子1との間、及びクリーンアップ偏光板7と第1のプリズム材31との間には透明な接合層(粘着層、接着層)が介在して互いに接合されている。
クリーンアップ偏光板7を偏光分離素子1と第1のプリズム材31との間でなく、図3Aに示すように第1のプリズム材31の上面31aに配置してもよい。あるいは図示しないレンズ等にクリーンアップ偏光板を配置することもできる。クリーンアップ偏光板7の配置により光出射面側での消光比を高めることができる。また偏光分離素子1の偏光分離膜4とクリーンアップ偏光板(光吸収偏光板)7が積層された構造であっても良い。なおこのとき偏光分離膜4はプリズム面にクリーンアップ偏光板7を介して積層することが好ましい。
図3Aに示す点線は従来の偏光ビームスプリッタ35の構成を示している。図3Aに示すように偏光分離面36はXY平面に対して45°の傾きを有している。光源から入射光L4が偏光ビームスプリッタ35に入射される。例えば、入射光L4は、偏光分離面36で反射する偏光成分とされている。したがって入射光L4が偏光分離面36に到達すると、偏光分離面36では入射光L4を反射する。図3Aに示すように光源からの入射光L4の光軸はX方向と平行な方向であり、偏光分離面36で反射してZ方向と平行な方向への光軸を有する光となる。
一方、図3Aの実線で示す本実施の形態の偏光ビームスプリッタ30においても、光源34からの入射光L5が偏光分離素子1に到達すると、偏光ビームスプリッタ30内に組み込まれた偏光分離素子1を構成するプリズム面3のXY平面に対する傾斜角度θ3は45°であるためX方向と平行な方向から侵入した入射光L5は図3Bに示すように偏光分離膜4を備えるプリズム面3で反射し、その反射光はZ方向に平行な光軸を持つ光とされる。
このように本実施の形態の偏光ビームスプリッタ30でも従来の偏光ビームスプリッタ35でもビームスプリッタ内を通る光路を同じにできる。
図3Aに示すように、本実施の形態の偏光ビームスプリッタ30と従来の偏光ビームスプリッタ35の横方向(X方向と平行な方向)の長さ寸法を同じとすると、本実施の形態では、プリズム材31、32の傾斜面31c、32cの傾斜角度θ2を例えば30°にできるから、45°の傾きを有する従来の偏光ビームスプリッタ35のZ方向の高さ寸法を1とすれば、本実施の形態の偏光ビームスプリッタ30の高さ寸法H3を約1/√3に小さくすることができる。
本実施の形態では、図1で示したように偏光分離素子1の透明樹脂基材2の一面2aに斜めに傾く複数のプリズム面3を設けている。このため図3Bのように偏光分離素子1をプリズム材31、32間に挟持したときのプリズム面3のXY平面に対する傾斜角度θ3を45°に設定するには、(偏光分離素子1単体をXY平面に設置したときのプリズム面3の傾斜角度θ1)+(プリズム材31、32の傾斜面31c、32cの傾斜角度θ2)=45°とすればよい。したがって、プリズム材31、32の傾斜面31c、32cの傾斜角度θ2は、45°−θ1となる。このように本実施の形態ではプリズム材31、32の傾斜角度θ2を45°よりも小さく設定できるため、偏光ビームスプリッタ30の横方向(光源34から偏光分離素子1に到達するまでの入射光の光軸方向)の長さをそのままに薄型化(低背化)を図ることが可能になる。
なお、傾斜角度θ1を大きくすれば、その分、プリズム材31、32の傾斜角度θ2を小さくでき、その結果、より一層、偏光ビームスプリッタ30の薄型化(低背化)を実現することができるが、プリズム材31、32をあまり薄くすると、光源34からの入射光L5を、拡散性(指向性)を有する光としたときに、光漏れ等が生じやすくなるので、ある程度、プリズム材31、32は厚みを有していることが好ましい。プリズム材31、32の傾斜角度θ2は、10°〜30°程度とし、傾斜角度θ1と合わせた傾斜角度θ3が約45°となるように調整することが好ましい。
本実施形態では偏光ビームスプリッタ30に入射される光(入射光L5)はLED等から発せられる光のように拡散性(指向性)を持つ光とすることが好適である。図3Bに示す領域Aは入射光L5が平行光であると陰になって光が抜けてしまうが、入射光L5が拡散性(指向性)を有すると領域Aの光抜けを無くすことができる。換言すれば、本実施の形態の偏光ビームスプリッタ30を用いることで、光源34に拡散性(指向性)を有する光を発するLED等を用いることが可能になる。
図8は、図3に示す本実施の形態の偏光ビームスプリッタに拡散性(指向性)を有する入射光を入射したときと、平行光を入射したときに光出射面から出射された光の放射照度分布を示す模式図である。
図8Aは、拡散性(指向性)を有する入射光を入射したときに光射出面から出射された光の放射照度分布であり、図8Bは、平行光を入射したときに光出射面から出射された光の放射照度分布である。図8Aでの光の広がり角は10°(片側5°ずつ)であった。
図8Bのように平行光の場合は、放射照度の高い領域が複数に分割された状態(ルーパー化)となることがわかった。一方、図8Aのように拡散性を有する入射光とした場合、所定以上の放射照度分布を広い領域にわたってルーパー化せずに得られることがわかった。
図4Aは、本実施の形態に係る偏光変換素子の部分断面図であり、図4Bは、図4Aの変形例である。
図4Aに示す偏光変換素子40は、図1に示す偏光分離素子1と偏光分離素子1の光出射側に配置された位相差板41とを有して構成される。
図4Aに示す偏光分離素子1は、図1の偏光分離素子1を上下反転させたものである。図4Aでは、偏光分離素子1のXY平面に対するプリズム面3の傾斜角度θは、図1と同様に45°に設定されている。
図4Aに示す偏光変換素子40に用いられる偏光分離素子1は複数のプリズム面3が配列されたアレイ状にされている。
図4に示すように偏光分離素子1のプリズム面3が設けられている側と反対面側にレンズアレイ42が配置されている。レンズアレイ42と偏光分離素子1との間は透明な接合層(粘着層、接着層)43により接合されている。
図4に示すように、レンズアレイ42のピッチP1は、偏光分離素子1のプリズムピッチP2の2倍に設定されている。
図4Aに示すように、プリズム面3側には、透明カバーフィルム44が配置されており、透明カバーフィルム44とプリズム面3との間は透明封止樹脂45により埋められている。透明カバーフィルム44と透明封止樹脂45とを合わせて「透明樹脂層」を構成する。各層の屈折率は近接していることが好ましく、各層の屈折率差(最大屈折率−最小屈折率)は、波長550nmの可視光に対して0.1より小さいことが好ましく、0.05より小さいことがより好ましい。
透明カバーフィルム44及び透明封止樹脂45は透明で複屈折のない材質であれば特に材質を限定するものではない。
図4Aに示すように透明カバーフィルム44の外面44aは平坦面であり、この平坦面に位相差板(位相差フィルム)41をプリズムピッチP2の間隔を空けながら配置することができる。
図4Aの偏光変換素子40では、レンズアレイ42側から入射光L6が偏光分離素子1に向けて入射される。入射光L6の直線偏光成分のうち例えばP偏光成分L7は、プリズム面3に設けられた偏光分離膜4で反射され、一方、P偏光成分L7に対して直交するS偏光成分L8はプリズム面3に設けられた偏光分離膜4を透過する。
図4Aに示すようにプリズム面3で反射したP偏光成分L7は垂直面5を透過し、隣のプリズム面3´(図4Aに3´の符号を付した)に到達するとそこで反射されて透明封止樹脂45及び透明カバーフィルム44を透過し、位相差板41の間を抜けて外部に出射される。図4Aに示す透明カバーフィルム44の外面44aが光出射面であり、光出射面からP偏光成分L7が出射される。
一方、S偏光成分L8は、透明封止樹脂45及び透明カバーフィルム44を透過して位相差板41に到達すると、位相差板41では偏光方向の向きが90°回転させられる。すなわちS偏光成分L8は位相差板41によりP偏光成分L9に変換されて、光出射面から出射される。
このように図4Aに示す偏光変換素子40により入射光L6をP偏光成分に変換して出射することができる。なお図2Bに示す偏光透過軸20aの方向を変えることで、入射光L6をS偏光成分に変換して出射することもできる。
図4Aに示す偏光変換素子40では、図1に示す偏光分離素子1を用いることで、偏光変換素子40の薄型化(低背化)を図ることができる。また偏光変換素子40の薄型化によっても強度(耐久性)を高く保つことができる。すなわち従来のようにガラス部品を積層しカットする構成では、割れやすく、またせん断応力によって破壊が生じやすいが、本実施の形態の偏光変換素子40の構成ではそのような問題が生じない。また、本実施の形態の偏光変換素子40によれば従来に比べて製造コストの低減を図ることができる。
また図4Aに示すように、偏光分離素子1の光出射面側は透明封止樹脂45を介して透明カバーフィルム44で覆われている。このため偏光変換素子40内では光入射面から光出射面までに空気層は存在せず、各層の屈折率差が小さくなるように各層の材質等を調整することで、精度よく光出射面から所定の偏光成分を出射することができる。またプリズム面3に配置された偏光分離膜4を透明封止樹脂45及び透明カバーフィルム44により適切に保護することができる。さらに位相差板41を透明カバーフィルム44の平坦面に簡単且つ適切に形成することが可能である。
図4Bに示す変形例では、偏光分離素子1の一面に、プリズム面が第1の方向(図示右上方向)に向く第1のプリズム面8と、プリズム面3が第1の方向とは異なる第2の方向(図示左上方向)に向きZ方向を対称軸Bとして第1のプリズム面8に対する線対称形状とされた第2のプリズム面9とを有している。
図4Bに示す偏光変換素子を構成するプリズム面側の形状は、2つの第1のプリズム面8と2つの第2のプリズム面9とを合わせた所定の範囲をユニットUとして、このユニットUを繰り返し形成した形状とされている。
図4Bに示すように、偏光分離素子1のプリズム面側には図4Aと同様に透明封止樹脂45を介して透明カバーフィルム44が配置されており、透明カバーフィルム44の外面44aに位相差板(位相差フィルム)46が配置されている。
図4Bに示すように、位相差板46は、第1のプリズム面8から連続する第2のプリズム面9にかけての対向位置に配置されている。
図4Bに示す構成では、プリズムピッチP3を図4AのプリズムピッチP2の2倍にすることができる。したがって図4Bに設けられる位相差板46の幅寸法も図4Aに設けられる位相差板41の幅寸法の2倍に大きくすることができる。そして位相差板46はプリズムピッチP3の間隔を空けながら配置されている。したがって図4Bの構成とすれば図4Aの構成に比べて位相差板46の幅寸法を大きくすることができ、偏光変換素子の小型化に対しても位相差板46を所定位置に高精度に配置することができる。
また本実施の形態の偏光分離素子を、画像投影装置に適用することもできる。例えば画像投影装置は、本実施の形態の偏光分離素子と、偏光分離素子に向けて画像光を出射する画像表示部と、を有し、画像光が偏光分離膜で反射されて画像光が使用者側に到達されることを特徴とする。これによれば、従来に比べて画像投影装置の薄型化を図ることができる。また薄型化によっても強度を保つことができる。さらに、従来に比べて製造コストを抑えることができる。
また本実施の形態では、前記画像投影装置にはさらに光吸収体が配置されていることを特徴とする。これにより、画像表示部以外からの光の全反射を抑制し、所定の明るさを有するクリアな画像表示を実現できる。
図5は、本実施の形態に係る偏光分離素子を用いた別の応用例を示す断面図である。図5に示す偏光分離素子1は、プリズム面3に光吸収偏光板70を介してワイヤグリッド偏
光フィルムなどの偏光分離膜4が配置されている。
符号71は、紫外線硬化接着剤等の透明樹脂層であり、符号72は、アクリル樹脂等の透明カバーフィルムである。
図5に示すように外光L11を光吸収偏光板70にて吸収することができる。また例えば画像投影光L12を偏光分離膜4で反射させて使用者の眼側に所定の偏光成分からなる画像投影光を送ることができる。一方、偏光分離膜4を透過した別の偏光成分は、光吸収偏光板70にて吸収することができる。
図6は、本実施の形態に係る偏光分離素子の製造方法を説明するための部分断面図である。
図6Aに示すように、透明樹脂基材2の一面2aにフィルム状の偏光分離膜4を、透明な接合層(粘着層、接着層)を介して貼り合わせる。フィルム状の偏光分離膜4としては図2に示すワイヤグリッド偏光フィルム20や多層複屈折ポリマーであることが好ましい。
図6Aに示すように、表面に複数の傾斜面60が垂直面61を介して連続して形成された金型62を用意する。傾斜面60のXY平面に対する傾斜角度θ6は自由に設定される。例えば傾斜角度θ6を45°に設定することができ、あるいは傾斜角度θ6を45°よりも小さい角度に設定することができる。金型62は例えばNiで形成されている。
傾斜面60は透明樹脂基材2に転写されるプリズム面を構成するため、傾斜角度θ6や傾斜面60の高さ(深さ)H4、ピッチP4を使用用途等に応じて適宜変更することができる。
透明樹脂基材2は、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、シクロオレフィンポリマー(COP)樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート樹脂(PC)等である。透明樹脂基材2のガラス転移温度Tg_Pは、偏光分離膜4のガラス転移温度Tg_Fよりも低い。ここで偏光分離膜4のガラス転移温度Tg_Fとは、図2Aに示す保持基材(ベースフィルム)21のガラス転移温度として定義される。
図6Aに示すように、透明樹脂基材2の偏光分離膜4が設けられた一面2a側を金型62の傾斜面60が設けられた側と対向させる。そして加熱プレスを行う。
このとき、加熱プレスの温度は、ガラス転移温度Tg_Pとガラス転移温度Tg_Fとの間の温度に設定される。例えば、透明樹脂基材2は、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)で形成され、ガラス転移温度Tg_Pは、80℃であり、保持基材21は、トリアセチルセルロース(TAC)フィルムで形成され、ガラス転移温度Tg_Fは、140℃である。そして加熱プレス時の温度は100℃に設定される。
加熱プレスにより、透明樹脂基材2の一面2aに設けられた偏光分離膜4が金型62の傾斜面60のエッジ部60a(傾斜面60と垂直面61との縁部)にて切断されつつ、透明樹脂基材2が金型62の傾斜面60と垂直面61との間の空間に侵入する(流動する)。
図6Bは、加熱プレス後の状態を示している。図6Bに示すように、透明樹脂基材2の一面2aには、金型62の傾斜面60及び垂直面61が転写されてプリズム面3及び垂直面5が透明樹脂基材2に一体化して形成されている。
さらに上記したように加熱プレスにより、偏光分離膜4が金型62の傾斜面60のエッジ部60aにて切断されて、図6Bに示すように、偏光分離膜4をプリズム面3にのみ配置できる。すなわち、偏光分離膜4は垂直面5に設けられていない。
上記したように本実施の形態では、透明樹脂基材2及び偏光分離膜4のガラス転移温度と、加熱プレス時の温度とを適切に調整することで、加熱プレス時に透明樹脂基材2の流動性を高めることができ、透明樹脂基材2の一面2aに適切にプリズム面3を形成することができるとともに、偏光分離膜4を金型62のエッジ部60aにて適切に切断し、透明樹脂基材2のプリズム面3にのみ適切に配置することができる。
そして金型62を除去すると、プリズム面3が透明樹脂基材2に一体化され、プリズム面3にワイヤグリッド偏光フィルム20等の偏光分離膜4が配置された偏光分離素子1を得ることができる。その後、必要に応じて、プリズム面3側に透明樹脂層等を形成したり、クリーンアップ偏光子等を設ける。
透明樹脂基材2を薄くすれば、その分、偏光分離素子の薄型化を促進できる。ただし透明樹脂基材2をあまり薄くしすぎると、加熱プレス時に、偏光分離膜4を金型62のエッジ部60aにて切断できるだけの十分な加圧力が加わりにくく、あるいは偏光分離膜4を切断できても、透明樹脂基材2の一面2aに高精度なプリズム面3及び垂直面5が形成されにくいために、プリズム面3のみに精度よく偏光分離膜4を配置することができないことがある。したがって図1にて説明したように、透明樹脂基材2の厚みH1からプリズム面3の高さH2を引いた厚み寸法(H1−H2)が、H1の10%以上となるように厚み調整を行うことが好適である。
以上のように本実施の形態によれば、従来に比べて偏光分離素子1の製造方法を簡素化でき、製造コストの低減を図ることができる。すなわち本実施の形態では、従来のように複数のガラス部品の積層さらにはカットといった工程が必要でない。特に従来では、カットする際に、偏光分離膜が所定方向への傾斜角度となるように高精度なカッティングを必要とし、またガラス部品であるからカッティングの際に割れないよう制御することが必要とされる。これに対して本実施の形態では、金型62を作製すれば、この金型62に偏光分離膜4が貼り合わせられた透明樹脂基材2を金型62に向けて加熱プレスすれば、簡単に偏光分離素子1を製造することができ、また製造コストを低減できる。
また本実施の形態では、金型62に形成された傾斜面60のエッジ部60aを利用することで、加熱プレス時に偏光分離膜4を適切に切断でき、切断された偏光分離膜4をプリズム面3にのみ適切に配置することが可能になる。
偏光分離膜の貼り合せは、加熱プレスには限定されず、種々の加工方法を用いることができる。例えば基材加熱真空圧空において、あらかじめ成形されたプリズム体に直接接合することもできる。
例えば、図7に示すように、真空圧空成形において、透明樹脂基材2のプリズム面3側に、ワイヤグリッド偏光フィルム等の偏光分離膜4を配置し、このとき偏光分離膜4の裏面には粘着層73を設ける。そして、プリズム面3に偏光分離膜4を直接、接合することで各プリズム面3のエッジ部で偏光分離膜4を切断し各プリズム面3に切断された偏光分離膜4を接合することが可能である。
なお上記では、透明樹脂基材2の一面2aにのみプリズム面3を形成したが、使用用途によっては透明樹脂基材2の両面など、二面以上にプリズム面3を設けることも可能である。
上記では、本実施の形態の偏光分離素子1を、偏光ビームスプリッタ、偏光交換素子、及び画像投影装置に適用したが、これらに限定されるものでなく、他の用途に使用することも可能である。