以下,本発明を具体化した実施の形態について,添付図面を参照しつつ詳細に説明する。本形態は,電子写真方式のプリンターにおいて本発明を具体化したものである。
図1に,本形態の画像形成装置1の概略構成を示す。画像形成装置1は,中間転写ベルト30を有する,いわゆるタンデム方式のカラープリンターである。中間転写ベルト30は導電性を有する無端状のベルト部材である。中間転写ベルト30は,駆動ローラー40,テンションローラー41,従動ローラー42,43の外周部に掛け渡されている。これら駆動ローラー40,テンションローラー41,従動ローラー42,43は,中間転写ベルト30を支持する支持ローラーである。
画像形成時には,駆動ローラー40が時計回りに回転駆動される。これにより,中間転写ベルト30が時計回りに従動回転する。テンションローラー41は,バネ44によって中間転写ベルト30の内側から外側に向かって付勢されている。このため,中間転写ベルト30には,常に張力がかかっている。
中間転写ベルト30のうち,従動ローラー43に巻き掛けられている部分の外周面には,2次転写ローラー50が設けられている。2次転写ローラー50は,中間転写ベルト30へ向けて軸と垂直の方向に圧接されている。中間転写ベルト30と2次転写ローラー50とが接触している部分には,中間転写ベルト30上のトナー像を用紙Pに転写(2次転写)させるための2次転写ニップN1が形成されている。
2次転写ローラー50は,画像形成時には,回転する中間転写ベルト30への圧接による摩擦力によって従動回転する。また,画像形成時における2次転写ローラー50には,中間転写ベルト30上のトナー像を用紙Pに転写させるためのバイアス電圧が印加される。2次転写ローラー50に印加されるバイアス電圧は,後述する1次転写ローラー15へ印加されるバイアス電圧に比較して,トナーの帯電極性と逆極性側に大きなものである。
中間転写ベルト30の図1中上部には,ベルトクリーナー60が設けられている。ベルトクリーナー60は,2次転写ニップN1にて用紙Pに転写されなかった転写残トナーなど,中間転写ベルト30の外周面に付着しているトナーを回収するためのものである。中間転写ベルト30上のトナーは,中間転写ベルト30の外周面に圧接されているベルトクリーナー60の回収ローラー61,62によって回収される。
回収ローラー61,62と中間転写ベルト30を挟んで対向する位置にはそれぞれ,対向ローラー63,64が配置されている。対向ローラー63,64は,回収ローラー61,62との間で中間転写ベルト30を挟み込んでいる。その挟み込みにより,回収ローラー61,62は中間転写ベルト30の外周面に接触している。なお,回収ローラー61,62は,画像形成時には,図1に示すように,時計回りに回転駆動される。
また,中間転写ベルト30のうち,駆動ローラー40に支持されている部分の外周面には,塗布ローラー70が設けられている。塗布ローラー70は,中間転写ベルト30の外周面に,中間転写ベルト30を保護するための保護剤を塗布するためのものである。この点については,後に詳述する。
また,中間転写ベルト30の図1中下部には右から左に向かって順に,イエロー(Y),マゼンタ(M),シアン(C),ブラック(K)の各色の画像形成部10Y,10M,10C,10Kが配置されている。画像形成部10Y,10M,10C,10Kはいずれも,各色のトナー像を形成し,形成したトナー像を中間転写ベルト30上に転写するためのものである。また,画像形成部10Y,10M,10C,10Kはいずれも,その構成は同じである。このため,図1では,画像形成部10Yによって代表して符号をつけている。
すなわち,画像形成部10Y,10M,10C,10Kは,円筒状の静電潜像担持体である感光体11,および,その周囲に配置された帯電装置12,現像ユニット14,感光体クリーナー16を有している。また,感光体11と中間転写ベルト30を挟んで対向する位置には,1次転写ローラー15が配置されている。さらに,各色の画像形成部10Y,10M,10C,10Kの図1中下方には,露光装置13が配置されている。
帯電装置12は,感光体11の表面を一様に帯電させるためのものである。本形態の帯電装置12は,コロナ放電方式の帯電チャージャーである。なお,ローラーやブラシ状,ブレード状の帯電部材等を用いることも可能である。露光装置13は,画像データに基づいたレーザー光を感光体11の表面に照射させ、静電潜像を形成するためのものである。
現像ユニット14は,内部にトナーを収容しており,収容しているトナーを現像ローラー18によって感光体11の表面に付与するためのものである。本形態において,現像ユニット14内に収容されているトナーは,マイナスに帯電されている。つまり,本形態における正規帯電トナーの極性は,マイナスである。
感光体クリーナー16は,板状でその一端部が感光体11の外周面に接触しているものである。なお,感光体クリーナー16には,その他のクリーニング部材,例えば固定ブラシ,回転ブラシ,ローラーまたはそれらのうちの複数の部材を組み合わせたものを使用することができる。あるいは,感光体11上の未転写トナーを現像ユニット14により回収するクリーナーレス方式を採用すれば,感光体クリーナー16はなくてもよい。
1次転写ローラー15は,感光体11上のトナー像を中間転写ベルト30上に転写(1次転写)するためのものである。感光体11上のトナー像は,1次転写ローラー15にトナーの帯電極性と逆極性のバイアス電圧が印加されることにより,中間転写ベルト30上へと転写される。
また,画像形成装置1の下部には,着脱可能な給紙カセット81が装着されている。給紙カセット81の図1中左側より上方に向かっては,搬送経路80が設けられている。そして,給紙カセット81に積載により収容された用紙Pは,その最上部のものより1枚ずつ給紙ローラー82によって搬送経路80に送り出されるようになっている。
給紙ローラー82により送り出された用紙Pの搬送経路80には,1対のレジストローラー83,2次転写ニップN1,定着装置90,排紙ローラー84がこの順で配置されている。搬送経路80のさらに下流側である画像形成装置1の上面には,排紙部85が設けられている。レジストローラー83は,用紙Pを2次転写ニップN1へ送り出すタイミングを調整するためのものである。
定着装置90は,加熱用のヒーター93を内部に有する加熱ローラー91と,加熱ローラー91に圧接されている加圧ローラー92とを有している。この加圧ローラー92の加熱ローラー91への圧接により,定着ニップN2が形成されている。加熱ローラー91は,画像形成時には,図1中において時計回りに回転駆動される。加圧ローラー92は,加熱ローラー91への圧接による摩擦力により従動回転する。定着装置90は,定着ニップN2を用紙Pが通過する際に,用紙Pに転写されたトナー像の定着処理を行うためのものである。
また,画像形成装置1は,モーターM1,M2を有している。モーターM1は,駆動ローラー40,感光体11,回収ローラー61,62,給紙ローラー82,加熱ローラー91などのローラーを駆動により回転させるためのモーターである。また,モーターM2は,塗布ローラー70を駆動により回転させるためのモーターである。モーターM1,M2はいずれも,画像形成時には,各部を動作させるために駆動される。
次に,本形態の画像形成装置1による,通常の画像形成動作の一例について簡単に説明する。以下の説明は,給紙カセット81に収容されている用紙Pに,4色のトナーを用いてカラー画像を形成する場合における画像形成動作の一例である。
通常の画像形成時には,中間転写ベルト30および各色の感光体11はそれぞれ,図1に矢印で示す向きに所定の周速度で回転される。感光体11の外周面は,まず,帯電装置12によりほぼ一様に帯電される。次に,帯電された感光体11の外周面には,露光装置13によって画像データに応じた光が投射され,静電潜像が形成される。続いて,静電潜像は現像ユニット14の現像ローラー18の回転により供給されるトナーによって現像され,感光体11上にはトナー像が形成される。
感光体11上に形成された各色のトナー像は,1次転写ローラー15によって中間転写ベルト30上に転写(1次転写)される。すなわち,中間転写ベルト30上には,イエロー,マゼンタ,シアン,ブラックのトナー像がこの順で重ね合わされる。中間転写ベルト30に転写されず,1次転写ローラー15を過ぎた後も感光体11上に残留している転写残トナーは,感光体クリーナー16によって掻き取られ,感光体11上から除去される。そして,重ね合わされた4色のトナー像は,中間転写ベルト30によって2次転写ニップN1に搬送される。
一方,給紙カセット81に収容されている用紙Pは,給紙ローラー82によって最上部のものから1枚ずつ搬送経路80に引き出される。引き出された用紙Pは,搬送経路80に沿って搬送され,レジストローラー83により,中間転写ベルト30に載置されたトナー像とタイミングを合わせて2次転写ニップN1に到達する。そして,2次転写ニップN1において,重ね合わされた4色のトナー像が用紙Pに転写(2次転写)される。
トナー像が転写された用紙Pは,さらに搬送経路80の下流側へと搬送される。すなわち,用紙Pは,定着装置90によってトナー像が定着された後,排紙ローラー84によって排紙部85に排出される。なお,2次転写ニップN1を通過した後も中間転写ベルト30上に残留するトナー像は,ベルトクリーナー60によって回収される。これにより,中間転写ベルト30上から除去される。
ここで,本形態における中間転写ベルト30について説明する。図2は,中間転写ベルト30の断面図である。図2における中間転写ベルト30の上側が外周側であり,その上面は中間転写ベルト30の外周面31aである。また,本形態の中間転写ベルト30は,その外周側から順に,表面層31,弾性層32,基層33により構成されている。
中間転写ベルト30の最外周に位置する表面層31は,中間転写ベルト30の外周面31aにおけるトナーの離型性を高めるための層である。表面層31の内周側に位置する弾性層32は,中間転写ベルト30と2次転写ローラー50との圧接による2次転写ニップN1におけるニップ幅を十分に確保するための層である。また,中間転写ベルト30の外周面31aの,用紙Pの表面に対する追従性を高めるための層である。これにより,表面に凹凸のあるエンボス紙を用紙Pとして用いた場合であっても,2次転写ニップN1におけるトナー像の転写が良好に行われる。
このため,弾性層32は軟らかい材質により構成されている。一方,表面層31は,トナーに対する高い離型性を有するようにするため,弾性層32よりも硬い材質により構成されている。本形態の中間転写ベルト30においては,弾性層32を構成する部材の表面に表面処理を施し,表面処理がなされた部分を表面層31としたものである。
具体的には,本形態では,弾性層32としてニトリルブタジエンゴム(NBR)を用いている。また,表面層31は,NBRである弾性層32の表面に酸化処理を施すことにより形成したものである。
弾性層32としては,その他にも,例えば,クロロプレンゴム,ポリブタジエンゴム,イソプレンゴム,ウレタンゴム,EPDM(エチレンプロピレンジエンゴム),アクリルゴム,およびシリコーンゴム等のゴム材から形成することができる。
また,表面層31は,NBRである弾性層32の表面に,イソシアネート処理等のその他の公知の表面硬化改質処理を施すことにより形成することもできる。さらには,その他のものとして例示したゴム材からなる弾性層32に対して,酸化処理やイソシアネート処理等の公知の表面硬化改質処理を施すことにより形成することも可能である。イソシアネート処理とは,イソシアネート化合物を弾性層32の表面に含侵させ,その後加熱して反応させるものである。イソシアネート処理では,イソシアネート化合物の含浸量,加熱温度,および加熱時間を適宜調整することにより,弾性層32の表面を所望の硬さに硬化させることができる。イソシアネート処理に用いるイソシアネート化合物としては,芳香族イソシアネート,脂肪族イソシアネート等が挙げられる。具体的には,トルエンジイソシアネート(TDI),ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI),クルードMDI等が挙げられる。弾性層32がNBRである場合には,次亜塩素酸塩を用いることも可能である。
また,表面層31と弾性層32とは,別部材により構成することもできる。この場合,表面層31は,例えばフッ素樹脂やセラミックス等から形成することができる。表面層31を形成するフッ素樹脂としては,ポリテトラフルオロエチレン(PTFE),テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA),テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP),ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE),エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE),エチレン−クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE),ポリフッ化ビニリデン(PVDF),ポリフッ化ビニル(PVF)等を挙げることができる。また表面層31を形成するセラミックスとしては,二酸化ケイ素(SiO2)等のケイ素酸化物,アルミニウム酸化物,チタン酸化物,および亜鉛酸化物等を挙げることができる。セラミックスにより表面層31を形成する場合には,例えば大気圧下でのプラズマCVD法が好適に利用できる。
なお表面層31は,上記したフッ素樹脂単体で形成してもよいが,フッ素樹脂を次に例示するバインダー中に分散させたものを用いて形成してもよい。フッ素樹脂単体では成膜性に劣るところ,フッ素樹脂をバインダー中に分散させたものを用いれば,所望の表面層31を容易に形成することができるからである。バインダーとしては,ポリウレタン,ポリオレフィン,ポリエステル,ポリアミド,ポリスチレン,アクリル系樹脂,スチレンーアクリル共重合体,ポリカーボネート,塩化ビニル等の熱可塑性樹脂或いは熱硬化性樹脂を用いることができる。なおフッ素樹脂の含有量は特に限定されるものではないが,表面層31の摩擦係数をある程度低くしたり,トナーの離型性を確保したりするためには,10wt%以上とすることが望ましい。バインダー中にフッ素樹脂を分散させたものを用いて表面層31を形成するには,例えばバインダーとフッ素樹脂とを適当な溶剤中に溶解させたものを,弾性層32上に塗布し,その後乾燥させればよい。
弾性層32のさらに内周側に位置する基層33は,中間転写ベルト30における剛性を確保するための層である。基層33によって中間転写ベルト30の剛性が十分に確保されていることにより,1次転写における中間転写ベルト30上での各色のトナー像の重ね合わせを,高い精度で行うことができる。本形態では,基層33として,ポリイミド(PI)を用いている。
なお,基層33としては,その他の合成樹脂製を用いることもできる。具体的には,ポリアミド,PC(ポリカーボネート),PVDF(ポリフッ化ビニリデン),PAT(ポリアルキレンテレフタレート),PCとPATのブレンド材料,ETFE(エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体)とPCのブレンド材料,および,ETFEとPATのブレンド材料等の熱可塑性樹脂等から形成することができる。
ところで,上記のように構成された中間転写ベルト30では,回転駆動されることにより,クラックが発生する。具体的には,まず,中間転写ベルト30の表面層31に微細なクラックが発生する。中間転写ベルト30は,巻き掛けられている駆動ローラー40などの支持ローラーの外周面に沿って曲げられている。これにより,中間転写ベルト30の最も外周側に位置する表面層31には,その内層である弾性層32および基層33よりも大きな引張力がかかる。しかし,前述したように,表面層31は硬い。よって,中間転写ベルト30が回転駆動されることにより,表面層31には,中間転写ベルト30の幅方向(図1において奥行き方向)に微細なクラックが発生するのである。
表面層31に発生した微細なクラックは,画像形成装置1が使用されるにつれて中間転写ベルト30の厚さ方向(図2において上下方向)に成長し,やがて表面層31を貫通する。なお,この表面層31の微細なクラックは,表面層31を貫通するまで成長したとしても,形成される画像に画像ノイズを発生させるほど大きなものではない。
一方,微細なクラックが成長して表面層31を貫通した場合,そのクラックの内側に弾性層32が露出する。弾性層32は,前述したように,軟らかい材質のものである。このため,軟らかい状態の弾性層32には,支持ローラーの外周面に沿って曲げられる程度の引張力によってクラックが発生することはない。
ここで,画像形成装置1では,オゾン(O3)が発生する。オゾンは,具体的には,帯電装置12,1次転写ローラー15,2次転写ローラー50などにおいて,これらにバイアス電圧が印加された際に発生する。つまり,オゾンは,中間転写ベルト30の周辺で発生する。このため,発生したオゾンは,表面層31を貫通したクラックの内側で露出した弾性層32を,オゾン劣化させることにより硬化させる。
このオゾン劣化により硬化した状態の弾性層32には,支持ローラーの外周面に沿って曲げられることによる引張力により,クラックが発生するおそれがある。また,硬化した状態の弾性層32の部分にクラックが発生した場合,そのクラックの内側の弾性層32の軟らかい部分はオゾン劣化により硬化してしまう。すなわち,弾性層32のクラックは,オゾン劣化によって弾性層32が硬化することにより,中間転写ベルト30の厚さ方向に成長してしまうおそれがある。
また,中間転写ベルト30のクラックは,その厚さ方向に成長するとともに,幅方向にも成長する。中間転写ベルト30が支持ローラーに沿って曲げられることによる引張力は,クラックのベルトの幅方向における端部に集中してしまうからである。よって,クラックはやがて,画像ノイズの原因となってしまう程度にまで拡大してしまうおそれがある。
そこで,本形態の画像形成装置1は,中間転写ベルト30に発生したクラックの成長による画像ノイズを抑制するための構成として,塗布ローラー70を有している。図3に,本形態の塗布ローラー70の詳細を示す。塗布ローラー70は,中間転写ベルト30の外周面31a上に,中間転写ベルト30を保護するための保護剤を塗布により供給するためのものである。図3に示すように,塗布ローラー70は,最外層である保護剤層71と,その内側の芯金72とにより構成されている。
保護剤層71は,後述するように,これが粉末となって中間転写ベルト30上に供給されることにより,中間転写ベルト30の弾性層32をオゾンから保護することができるものである。具体的には,中間転写ベルト30上に供給された保護剤層71の粉末は,弾性層32のオゾンとの接触を防止することにより,弾性層32のオゾン劣化を抑制することができるものである。このため,保護剤層71は,弾性層32よりもオゾンに対する耐性の高い材質により構成されていることが好ましい。さらに,保護剤層71は,中間転写ベルト30の表面層31よりも軟らかい材質のものである。本形態では,保護剤層71として,フッ素樹脂を用いている。なお,保護剤層71の材質としては,この他にもアクリル,ポリエチレンなどを用いることもできる。
芯金72は,強度の高い円筒形状の部材である。芯金72により,塗布ローラー70は十分な剛性を有している。本形態の芯金72は,アルミニウムである。なお,芯金72としては,この他にも鉄やステンレスなどを用いてもよい。そして,本形態の塗布ローラー70は,芯金72の表面にフッ素コーティングを施すことにより100μm程度の厚みの保護剤層71を形成して製造したものである。
また,図3に示すように,塗布ローラー70は,バネ73によって中間転写ベルト30の外周面31aに圧接されている。その圧接位置は,中間転写ベルト30のうちの駆動ローラー40に巻き掛けられている部分である。すなわち,塗布ローラー70は,中間転写ベルト30のうち,駆動ローラー40の外周面に沿って曲げられている位置に圧接されている。
そして,塗布ローラー70が中間転写ベルト30に圧接されていることにより,塗布ローラー70の最外周に位置する保護剤層71と,中間転写ベルト30の外周面31aとは,互いに擦れ合うこととなる。このため,中間転写ベルト30の表面層31よりも軟らかい塗布ローラー70の保護剤層71は,摺擦によってわずかに削れて粉末状になる。その保護剤層71の削れた粉末は,保護剤として,圧接によって接触している中間転写ベルト30の外周面31a上に塗布により供給される。このため,保護剤層71が摺擦によって削れた削れ量が,保護剤の供給量である。そして,中間転写ベルト30の外周面31a上の,塗布ローラー70の圧接箇所が,保護剤の供給位置である。なお,塗布ローラー70の保護剤層71は中間転写ベルト30の表面層31よりも軟らかい材質のものであるため,塗布ローラー70により,中間転写ベルト30の外周面31aに傷が発生することはない。
また,本形態の塗布ローラー70は,中間転写ベルト30とは異なる周速度で回転するものであることが好ましい。中間転写ベルト30のオゾン劣化を抑制するためには,保護剤の供給量である保護剤層71の削れ量がある程度必要だからである。そのため,塗布ローラー70は,中間転写ベルト30がモーターM1によって回転駆動される際には,図3中矢印で示す方向に,中間転写ベルト30の周速度とは異なる周速度で,モーターM2によって回転駆動される。
例えば,塗布ローラー70と中間転写ベルト30とを同じ周速度で回転させた場合や,塗布ローラー70を単純従動の構成とした場合には,保護剤の供給量である保護剤層71の削れ量が少ない。そして,これらの場合において,保護剤の供給量をある程度多くするためには,保護剤層71として,軟らかい材質のもの用いる必要がある。しかし,保護剤層71が軟らか過ぎる場合には,削れ量を一定に保つことが困難である。さらには,保護剤層71の削れた保護剤の粉末における粒子の大きさにばらつきが生じやすくなる。
そして,中間転写ベルト30の周速度Yに対する塗布ローラー70の周速度Xの比で示される周速比X/Yは,バネ73による圧接力や保護剤層71の硬さなどにより,その削れ量が好ましい量となるように適宜設定すればよい。その周速比X/Yの調整は,モーターM1,M2の回転数などにより行うことができる。あるいは,中間転写ベルト30と塗布ローラー70とを共通のモーターで回転駆動する場合には,減速機などにより調整することも可能である。
また,塗布ローラー70の周速度Xと中間転写ベルト30の周速度Yとは,どちらが速くてもよい。なお,周速比X/Yが小さ過ぎる場合や大き過ぎる場合には,保護剤層71の削れ量が多くなり過ぎる。このため,周速比X/Yは,以下に示す範囲内であることが好ましい。
0.5≦X/Y≦0.99,または,1.01≦X/Y≦2
また,図3に示す中間転写ベルト30は,その表面層31にクラック34S,34Rが発生した状態のものである。クラック34S,34Rはともに,中間転写ベルト30の厚さ方向および幅方向における大きさが同程度のものである。これらクラック34S,34Rはいずれも,表面層31を貫通している。よって,クラック34S,34Rの内部では弾性層32が露出している。そして,クラック34S,34Rの拡大を抑制するためには,保護剤を,クラック34S,34Rの内側のできるだけ深くにまで供給することが好ましい。弾性層32のオゾン劣化を防止するためである。
ここで,図3には,クラック34S,34Rの,中間転写ベルト30の進行方向についての外周面31aにおける開き幅をそれぞれ,LS,LRとして示している。図3に示す状態において,クラック34Sは,中間転写ベルト30が駆動ローラー40などに巻き掛けられておらず,真っ直ぐに張られた状態の部分に位置している。一方,クラック34Rは,図3に示す状態では,中間転写ベルト30が駆動ローラー40に巻き掛けられており,駆動ローラー40の外周面に沿って曲げられている状態の部分に位置している。
このため,クラック34Rの開き幅LRは,クラック34Sの開き幅LSよりも大きい。中間転写ベルト30が真っ直ぐに張られている箇所のクラック34Sには,基層33の剛性により,これが中間転写ベルト30の進行方向に大きく開くほどの引張力はかからない。これに対し,中間転写ベルト30が駆動ローラー40の外周面に沿って曲げられている箇所では,最も外周側に位置する表面層31のクラック34Rに,弾性層32および基層33よりも中間転写ベルト30の進行方向に大きな引張力がかかっているからである。
つまり,本形態の塗布ローラー70は,中間転写ベルト30のうちの駆動ローラー40に巻き掛けられている部分の外周面31aを供給位置とすることにより,開き幅LRの大きい状態のクラック34Rに対して保護剤を供給することができる。これにより,供給した保護剤を,クラック34Rの内側に入り込ませることができる。
また,塗布ローラー70による保護剤の供給位置は,中間転写ベルト30のうち,支持ローラーの中で最も小径のものに巻き掛けられている部分の外周面31a上であることが好ましい。つまり,本形態においては,塗布ローラー70の供給位置に係る駆動ローラー40が,中間転写ベルト30を支持する支持ローラーのうち,最も小径のローラーであることが好ましい。クラックは,中間転写ベルト30を支持する支持ローラーの直径が小さいほど,大きく開くからである。そして,クラックの開き幅が最大となる箇所において保護剤を塗布することにより,保護剤をより確実に,クラックの内側の深くに供給することができる。
また,図3に示すように,本形態の塗布ローラー70の芯金72には,供給バイアス電源74が接続されている。供給バイアス電源74は,芯金72に,トナーと同極性のバイアス電圧を印加するためのものである。すなわち,本形態において,供給バイアス電源74によって芯金72へ印加されるバイアス電圧は,トナーと同極性のマイナスである。
そして,供給バイアス電源74は,塗布ローラー70が回転するときに,芯金72にバイアス電圧を印加する。また,塗布ローラー70の保護剤層71より削れた粉末状の保護剤は,トナーと同極性のマイナスに帯電している。この帯電は,保護剤層71と中間転写ベルト30との間で生じる摺擦や,供給バイアス電源74によって印加されるバイアス電圧によるものである。さらに,マイナスに帯電している粉末状の保護剤は,その供給位置において,芯金72に印加されるマイナスのバイアス電圧の電界の作用により,塗布ローラー70から中間転写ベルト30に向かって引き付けられる。この電界の作用により,保護剤をより確実に,クラックの深い部分に供給することができる。
さらに,供給バイアス電源74により芯金72に印加するバイアス電圧がトナーと同極性であることにより,トナーの塗布ローラー70への転写は防止されている。また,保護剤の塗布された中間転写ベルト30の部分はその後,各色の画像形成部10の感光体11と接触することとなる。しかし,上記のようにトナーと同極性に帯電している保護剤は,感光体11に引き付けられることはない。すなわち,保護剤の中間転写ベルト30から感光体11への転写は防止されている。
また,塗布ローラー70による保護剤の供給位置は,図1に示すように,中間転写ベルト30の進行方向について,ベルトクリーナー60よりも下流側の位置である。つまり,塗布ローラー70により保護剤が塗布されるときの中間転写ベルト30の外周面31aには,トナーがほとんど付着していない状態である。2次転写ニップN1において用紙Pに転写されなかった転写残トナーなどが,ベルトクリーナー60によって除去された後だからである。このため,トナーが中間転写ベルト30のクラックを塞いでいることがなく,保護剤をより確実に,中間転写ベルト30のクラックの内側に供給することができる。
なお,中間転写ベルト30上に供給された保護剤の一部は,2次転写ニップN1において用紙Pへと転写される。トナーと同極性だからである。しかし,中間転写ベルト30上の保護剤の粉末は,粒子が非常に細かいものである。さらに,中間転写ベルト30上の保護剤の量は,塗布ローラー70の保護剤層71が摺擦によって削れた程度の量であるため,極めて微量である。よって,保護剤が用紙Pに転写されたとしても,形成される画像の品質を低下させるおそれはない。
次に,本発明の効果を確認するために行った実験について,図4により説明する。図4は,連続して画像形成を行い,これにより中間転写ベルト30に発生したクラックの個数を確認することにより作成したものである。図4において,横軸は,連続して画像形成を行った用紙Pの枚数である連続印字枚数を示している。また,縦軸は,中間転写ベルト30に発生したクラックの個数である割れ発生個数を示している。割れ発生個数は,中間転写ベルト30の表面を顕微鏡により観察し,その観察において確認された,形成される画像に画像ノイズを発生させてしまう程度の大きさのクラックの個数である。
また,図4に示す実施例は,上記の構成の画像形成装置1によるものである。すなわち,塗布ローラー70による中間転写ベルト30の外周面31aへの保護剤の供給を行いつつ,画像形成を行ったものである。なお,実施例に係る実験においては,バネ73による塗布ローラー70の圧接力を10Nとした。また,塗布ローラー70の周速度Xと中間転写ベルト30の周速度Yとの周速比X/Yを1.05とした。さらには,供給バイアス電源74により印加するバイアス電圧を,−1500Vとした。
一方,比較例は,塗布ローラー70や供給バイアス電源74などの保護剤を供給するための構成を有していない画像形成装置1により画像形成を行ったものである。つまり,中間転写ベルト30の外周面31aに保護剤を供給することなく,画像形成を行ったものである。なお,実施例および比較例で用いた中間転写ベルト30はともに同じものである。すなわち,前述したように,基層33としてPIを用いたものである。さらに,弾性層32としてNBRを用い,その表面に酸化処理を施すことにより表面層31を形成したものである。また,中間転写ベルト30は,表面層31,弾性層32,基層33の厚みをそれぞれ10μm,200μm,80μmとし,体積抵抗率108Ω・cmのものを用いた。
そして,比較例においては,図4に示すように,連続印字枚数が500K枚に到達する前に,画像ノイズを生じさせてしまう大きさのクラックが40個以上も発生していることが確認された。これに対し,実施例においては,連続印字枚数が1500K枚に到達するまで,画像ノイズを生じさせるようなクラックは確認されなかった。さらに,2500K枚のときにも,画像ノイズを生じさせるようなクラックの個数が10個程度と少ない。なお,Kは1000枚を表す。また,本実験において,実施例および比較例ではともに,連続印字枚数の少ない初期では,形成される画像に影響のない程度の微細なクラックが発生していることが確認された。
すなわち,比較例では,500K枚に到達する前に画像ノイズを生じさせてしまう大きさのクラックが多数発生しており,長期間にわたって高画質な画像を形成することができないおそれがある。これに対し,実施例では,画像形成が開始された初期において,表面層31に微細なクラックが発生する。しかし,塗布ローラー70によって供給される保護剤により,発生したクラックの成長が長期間にわたって抑制されていることがわかる。つまり,実施例においては,長期間にわたって高画質な画像を形成することができる。
また,中間転写ベルト30上に保護剤を供給する構成について,上記の図3により説明したものとは異なる構成について図5に示す。図5の構成は,保護剤の供給を,ブラシローラー170により行うものである。ブラシローラー170は,図5に示すように,ブラシ毛171と,芯金172とを有する。ブラシローラー170は,ブラシ毛171が中間転写ベルト30の外周面31aに接触するように配置されている。
さらに,ブラシローラー170には,バネ174により,固形保護剤173が押し当てられている。ブラシローラー170に固形保護剤173が押し当てられている位置は,ブラシローラー170の中間転写ベルト30との接触位置とは異なる位置である。固形保護剤173としては,上記の塗布ローラー70の保護剤層71と同じ材料を用いることができる。また,芯金172には,供給バイアス電源74が接続されている。
そして,中間転写ベルト30が回転駆動されるときには,ブラシローラー170が図5に矢印で示す方向に回転駆動される。また,芯金172には供給バイアス電源74によりトナーと同極性であるマイナスのバイアス電圧が印加される。
よって,図5の構成においては,固形保護剤173は,ブラシローラー170が回転駆動されることにより,ブラシ毛171によって粉末状に掻き取られる。掻き取られた固形保護剤173の粉末は,ブラシ毛171に付着する。つまり,ブラシ毛171には,固形保護剤173が粉末状に掻き取られたことによる保護剤の粉末が付着する。ブラシ毛171に付着した保護剤の粉末は,ブラシローラー170の回転によって中間転写ベルト30の外周面31aとの接触箇所に到達する。これにより,保護剤の粉末は,ブラシ毛171から中間転写ベルト30の外周面31aに塗布によって供給される。つまり,図5の構成では,中間転写ベルト30のブラシローラー170との接触位置が,保護剤の供給位置である。
また,ブラシ毛171に付着した保護剤の粉末は,中間転写ベルト30のブラシローラー170との接触位置に到達する前に,供給バイアス電源74によって印加されるバイアスなどによってマイナスに帯電されている。このため,保護剤の粉末は,供給位置において,芯金172に印加されているバイアス電圧により,中間転写ベルト30に引き付けられる。よって,図5に示すブラシローラー170を用いた構成においても,中間転写ベルト30の外周面31aに保護剤を供給することができる。
また,上記図3では,供給バイアス電源74により塗布ローラー70に対して,トナーと同極性のバイアス電圧を印加している。しかし,供給バイアス電源74によるバイアス電圧は,塗布ローラー70と中間転写ベルト30を挟んで対向している駆動ローラー40に印加することとしてもよい。なお,駆動ローラー40にバイアス電圧を印加する場合には,トナーと逆極性のバイアス電圧を印加する。トナーと同極性である保護剤の粉末を,中間転写ベルト30に引き付けることができるからである。このことは,図5においても同様である。
以上詳細に説明したように,本発明の画像形成装置1は,表面層31,弾性層32,基層33により構成された中間転写ベルト30を有する。さらに,中間転写ベルト30の外周面31a上に,保護剤を供給するための構成を有する。供給される保護剤は,中間転写ベルト30の弾性層32をオゾンから保護できるものである。これにより,弾性層32のオゾン劣化を防止し,中間転写ベルト30のクラックの成長を抑制することができる。すなわち,画像ノイズを発生させてしまうほどの大きさのクラックの発生を防止し,長期にわたって高画質な画像を形成することのできる画像形成装置1が実現されている。
なお,本実施の形態は単なる例示にすぎず,本発明を何ら限定するものではない。従って本発明は当然に,その要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良,変形が可能である。例えば,本発明はカラープリンターに限らず,公衆回線経由で印刷ジョブの送受信を行うような画像形成装置などにも適用可能である。また例えば,正規帯電トナーの極性はプラスであってもよい。そして,トナーの帯電極性がプラスである場合には,供給バイアス電源74により,芯金72にプラスのバイアス電圧を印加すればよい。なお,供給バイアス電源74によるバイアス電圧を駆動ローラー40に印加する場合には,トナーと逆極性,すなわちマイナスのバイアス電圧を印加することとすればよい。
また実施形態では,2次転写ローラー50を用いて2次転写を行ったが,図6に示すように2次転写ベルト250(対向転写ベルト)を用いて2次転写を行う構成としてもよい。2次転写ベルト250は,複数のローラー251,152,153に架け渡されて,これらローラーの回転駆動に伴って回転するものである。2次転写ベルト250は,ローラー251によって中間転写ベルト30の外周面に圧接されており,中間転写ベルト30との間で2次転写ニップN1を形成している。すなわちこの構成では,2次転写ベルト250と中間転写ベルト30で用紙Pを挟み込んで2次転写を行う。
また,このような構成とした場合,2次転写ベルト250として,実施形態の中間転写ベルト30と同様の構成のものを用いることができる。すなわち,図2に示すような表面層31,弾性層32,基層33を備えているものを用いることができる。このような構成とした2次転写ベルト250においても,表面層に形成されたクラックが拡大(成長)すると最終媒体に画像ノイズが生じることがわかっている。これは,トナー像の転写に必要なバイアスが,2次転写ベルト250に十分にかからなくなるからである。そこで,例えば,図6に示すような塗布ローラー270を有する構成とすることができる。
図6に示す塗布ローラー270は,保護剤層271と芯金272を有しており,図3で説明した塗布ローラー70と同じ構成である。また,塗布ローラー270は,2次転写ベルト250のローラー253に支持されている部分の外周面に,バネ273によって圧接されている。さらに,芯金272には,供給バイアス電源174によってマイナスのバイアス電圧が印加されるようになっている。そして,図6に示す構成では,塗布ローラー270によって2次転写ベルト250の外周面に保護剤が供給することができ,画像ノイズの発生を防ぐことができる。また,2次転写ベルト250にトナーを回収するクリーナーを設ける場合にも,2次転写ニップN1より下流で塗布ローラー270より上流に設けることとすればよい。2次転写ベルト250に付着しているトナーを回収後,保護剤を供給することができるからである。