以下に、第1の実施形態について、図1から図8を参照して説明する。なお、複数の表現が可能な各要素に、一つ以上の他の表現の例を付すことがある。しかし、これは、他の表現が付されていない要素について異なる表現がされることを否定するものではないし、例示されていない他の表現がされることを制限するものでもない。また、各図面は実施形態を概略的に示すものであり、図面に示される各要素の寸法は、実施形態の説明と異なることがある。
図1は、第1の実施の形態に係るインクジェットプリンタ1を示す概略図である。インクジェットプリンタ1は、インクジェット記録装置の一例である。なお、インクジェット記録装置はこれに限らず、複写機のような他の装置であっても良い。
図1に示すように、インクジェットプリンタ1は、例えば、記録媒体である記録紙Pを搬送しながら画像形成等の各種処理を行う。インクジェットプリンタ1は、筐体10と、給紙カセット11と、排紙トレイ12と、保持ローラ(ドラム)13と、搬送装置14と、保持装置15と、画像形成装置16と、除電剥離装置17と、反転装置18と、クリーニング装置19とを含む。
給紙カセット11は、複数の記録紙Pを収容して、筐体10内に配置される。排紙トレイ12は、筐体10の上部にある。インクジェットプリンタ1によって画像形成がされた記録紙Pは、排紙トレイ12に排出される。
搬送装置14は、記録紙Pが搬送される経路に沿って配置された複数のガイドおよび複数の搬送ローラを有する。当該搬送ローラは、モータによって駆動されて回転することで、記録紙Pを給紙カセット11から排紙トレイ12まで搬送する。
保持ローラ13は、導体によって形成された円筒状のフレームと、このフレームの表面に形成された薄い絶縁層(図示せず)とを有する。このフレームは接地(グランド接続)されている。保持ローラ13は、その表面上に記録紙Pを保持した状態で回転することにより、記録紙Pを搬送する。
保持装置15は、搬送装置14によって給紙カセット11から搬出された記録紙Pを、保持ローラ13の表面(外周面)に吸着させて保持させる。保持装置15は、記録紙Pを保持ローラ13に対して押圧した後、帯電による静電気力で記録紙Pを保持ローラ13に吸着させる。
画像形成装置16は、保持装置15によって保持ローラ13の外面に保持された記録紙Pに、画像を形成する。画像形成装置16は、保持ローラ13の表面に面する複数のインクジェットヘッド21を有する。複数のインクジェットヘッド21は、例えば、シアン、マゼンダ、イエロー、ブラックの四色のインクを、それぞれ記録紙Pに吐出することで、カラー画像を形成する。
除電剥離装置17は、画像が形成された記録紙Pを、除電することで、保持ローラ13から剥離する。除電剥離装置17は、電荷を供給して記録紙Pを除電し、記録紙Pと保持ローラ13との間に爪を挿入する。これにより、記録紙Pは保持ローラ13から剥離される。保持ローラ13から剥離された記録紙Pは、搬送装置14によって、排紙トレイ12または反転装置18に搬送される。
クリーニング装置19は、保持ローラ13を清浄する。クリーニング装置19は、保持ローラ13の回転方向において除電剥離装置17よりも下流にある。クリーニング装置19は、回転する保持ローラ13の表面にクリーニング部材19aを当接させ、回転する保持ローラ13の表面を洗浄する。
反転装置18は、保持ローラ13から剥離された記録紙Pの表裏面を反転させ、当該記録紙Pを再び保持ローラ13の表面上に供給する。反転装置18は、例えば記録紙Pを前後方向逆にスイッチバックさせる所定の反転経路に沿って記録紙Pを搬送することにより、記録紙Pを表裏反転させる。
図2は、画像形成装置16に含まれる一つのインクジェットヘッド21を示す斜視図である。図3は、図2のF4−F4線に沿ってインクジェットヘッド21の一部を示す断面図である。なお、図2は、ノズルプレート100を示すため、インクジェットヘッド21を保持ローラ13側から見た斜視図である。
インクジェットプリンタ1は、複数のインクジェットヘッド21に接続される複数のインクタンク23および複数の制御部24を備える。インクジェットヘッド21は、対応する色のインクを収容するインクタンク23に接続される。インクジェットヘッド21は、保持ローラ13に保持された記録紙Pに、インク滴を吐出することで文字や画像を形成する。
図2に示すように、インクジェットヘッド21は、ノズルプレート100と、圧力室構造体200と、インク流路構造体300とを備える。インクジェットヘッド21は、インクタンク23および制御部24に接続する。
インクジェットヘッド21は、インクタンク23から供給されるインクを、インク流路構造体300を介して圧力室構造体200の圧力室201に充填する。インクジェットヘッド21は、圧力室201のインクを、ノズルプレート100に形成される複数のノズル101から、インク滴としてそれぞれ吐出して、記録紙Pに画像を形成する。複数のノズル101は、例えば、ノズルプレート100に2列に配列される。ノズルプレート100の隣接するノズル101の中心間距離を、たとえば長手方向において340μmとし、短手方向において240μmとする。
インク流路構造体300は、インク供給口302、インク流路301、及びインク排出口303を備える。インクは、インク供給口302を介してインクジェットヘッド21に供給され、インク流路301から各圧力室201に流入する。圧力室201に流入しないインクは、インク流路301内を通ってインク排出口303からインクタンク23に排出される。インクジェットヘッド21は、インクタンク23とインク流路301との間でインクを循環して、インクの温度を一定に保ち、熱によるインクの変質を抑制する。
図3に示すように、ノズルプレート100は、振動板104上に、駆動部である複数の駆動素子102,第1絶縁膜105,保護膜110及び撥インク膜112を備える。振動板104は、駆動素子102の動作により厚み方向に変形する。インクジェットヘッド21は、振動板104の変形により圧力室構造体200の圧力室201内に発生する圧力変化によって、ノズル101に供給されたインクを吐出する。
複数の駆動素子102は、複数のノズル101に対応して配置される。言い換えると、駆動素子102は、対応するノズル101と同心状に位置する。駆動素子102は、円環状に形成され、対応するノズル101を囲む。駆動素子102はこれに限らず、例えば、一部が開放された円環状(C字状)であっても良い。
圧力室構造体200は、シリコンウエハによって、矩形の板状に形成される。なお、圧力室構造体200はこれに限らず、例えば、炭化シリコン(SiC)やゲルマニウム基板のような他の半導体であっても良い。また、基材はこれに限らず、セラミックス,ガラス,石英,樹脂,または金属のような他の材料によって形成されても良い。利用されるセラミックスは、例えば、アルミナセラミックス,ジルコニア,炭化ケイ素,窒化ケイ素,またはチタン酸バリウムのような窒化物,炭化物,または酸化物である。利用される樹脂は、例えば、ABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン),ポリアセタール,ポリアミド,ポリカーボネート、またはポリエーテルサルフォンのようなプラスチック材である。利用される金属は、例えば、アルミまたはチタンである。圧力室構造体200の厚さは、例えば525μmである。圧力室構造体200の厚さは、例えば、100〜775μmの範囲にある。
振動板104は、例えば圧力室構造体200と一体に形成される。圧力室構造体200であるシリコンウエハを酸素雰囲気で加熱処理すると、シリコンウエハの表面にSiO2(酸化シリコン)膜が形成される。本実施形態の振動板104は、酸素雰囲気で加熱処理して形成されるシリコンウエハ表面の厚さ4μmのSiO2(酸化シリコン)膜である。振動板104は、シリコンウエハ表面にCVD法(化学的気相成膜法)でSiO2(酸化シリコン)膜を成膜して形成しても良い。
振動板104は、駆動素子102と圧力室201の間にある層であり、複数の層で構成された積層膜で形成されていても良い。振動板104の膜厚は、1〜50μmの範囲が好ましい。振動板104は、SiO2(酸化シリコン)膜に代えて、SiN(窒化シリコン)等の半導体材料、或いは、Al2O3(酸化アルミニウム)等を用いることもできる。
圧力室構造体200は、シリコンウエハを用いて形成される。厚さ525μmの圧力室構造体200は、振動板104から離間した反対側の面に、反り低減層である反り低減膜202を有する。圧力室構造体200は、反り低減膜202を貫通して振動板104まで達し、ノズル101と連通する圧力室201を複数形成する。ここで、圧力室構造体200は、振動板104が配置される側を第1の面200aとし、反り低減膜202が配置される側を第2の面200bとする。
圧力室201は、円形の孔である。圧力室201の直径は、例えば、190μmである。なお、圧力室201の形状はこれに限らない。
複数の圧力室201は、複数のノズル101に対応して配置される。言い換えると、圧力室201は、対応するノズル101と同心状に形成される。ノズル101は、それぞれ対応する圧力室201に連通する。圧力室201は、ノズル101を介してインクジェットヘッド21の外部とつながる。
インク流路構造体300は、例えば、矩形の板状に形成される。インク流路構造体300の厚さは、例えば、4mmである。インク流路構造体300の材料は、ステンレスである。なお、インク流路構造体300の材料は、例えば、セラミックスまたは樹脂のような他の材料によって形成しても良い。使用されるセラミックスは、例えば、アルミナセラミックス,ジルコニア,炭化ケイ素,窒化ケイ素のような窒化物,炭化物または酸化物である。使用される樹脂は、例えば、ABS,ポリアセタール,ポリアミド,ポリカーボネートまたはポリエーテルサルフォンのようなプラスチック材である。インク流路構造体300の材料は、インクを吐出するための圧力の発生に影響が生じないように、ノズルプレート100との膨張係数の差を考慮して選択される。
圧力室構造体200の反り低減膜202は、例えば、エポキシ系接着剤によりインク流路構造体300と接着される。圧力室構造体200の圧力室201は、反り低減膜202側で、インク流路構造体300のインク流路301に連通する。
インク流路301は、圧力室構造体200に接着される側のインク流路構造体300の表面に形成された溝である。インク流路301の深さは、例えば2mmである。
インク供給口302は、インク流路301の一方の端部に開口する。インク供給口302は、例えば、チューブを介してインクタンク23に接続される。インクタンク23は、インク流路301を介して複数の圧力室201に接続される。
インクタンク23のインクは、インク供給口302を通って、インク流路301に流入する。インク流路301に供給されたインクは、複数の圧力室201に供給される。圧力室201に充填されたインクは、圧力室201に開口するノズル101内にも流入する。インクジェットプリンタ1は、インクの圧力を適切な負圧に保つことで、インクをノズル101内に留める。インクは、ノズル101内にメニスカスを生じさせるとともに、ノズル101から漏れ出さないように維持される。
図3に示すように、圧力室201の孔の形状は、サイズD(直径)より、サイズL(深さ)を大きくすることが好ましい。圧力室201の形状を深さL>直径Dとすることにより、圧力室201内のインクに係る圧力が、インク流路301に逃げるのを遅らせることができる。尚、インクジェットヘッド21は、圧力室201とインク流路301との間にセパレートプレート(図示せず)を備えて、圧力室201内のインクにかかる圧力が、インク流路301に逃げないようにする構造でも良い。
反り低減膜202は、例えば、シリコンウエハを酸素雰囲気で加熱処理し、そのシリコンウエハの表面に形成される厚さ4μmのSiO2(酸化シリコン)膜を用いる。また、反り低減膜202は、シリコンウエハの表面にCVD法(化学的気相成膜法)によりSiO2(酸化シリコン)膜を成膜して形成することもできる。
反り低減膜202は、シリコンウエハの反りを低減するよう機能する。反り低減膜202は、圧力室構造体200と振動板104との膜応力の違いや、後述する駆動素子102の各種構成膜の膜応力の違い等によるシリコンウエハの反りを低減する。反り低減膜202は、成膜プロセスを用いてインクジェットヘッド21の構成部材を作成する場合に、インクジェットヘッド21が反るのを低減する。
反り低減膜202の材料及び膜厚等は、振動板104と異なるものであっても良い。但し、反り低減膜202を振動板104と同じ材料で同じ膜厚とすれば、シリコンウエハ両面にての振動板104の膜応力と反り低減膜202の膜応力は同じになる。反り低減膜202を振動板104と同じ材料で同じ膜厚とすれば、インクジェットヘッド21に生じる反りをより効果的に低減することができる。
次に、ノズルプレート100について詳しく説明する。図3に示すように、ノズルプレート100は、上述のノズル101および駆動素子102と、振動板104と、第1絶縁膜105と、複数の配線電極108と、共有電極109と、第2絶縁膜106と、保護膜110と、撥インク膜112とを含む。
振動板104は、第1の面104aと、第2の面104bとを有する。第1の面104aは、圧力室構造体200に固着し、複数の圧力室201を塞ぐ。第2の面104bは、第1の面104aの反対側の面である。
複数の配線電極108は、振動板104の第2の面104bに形成される。図2および図3に示すように、複数の配線電極108は、端子部108aと、配線部(第1引出配線)108bと、電極部(第1電極)108cとをそれぞれ有する。複数の配線電極108の端子部108aは、振動板104の短手方向の一方の端部に位置し、振動板104の長手方向に沿って並ぶ。各端子部108aの間の距離は、例えば、170μmである。
共有電極109は、二つの端子部109aと、複数の配線部(第2引出配線)109bと、複数の電極部(第2電極)109cと、を有する。配線部109bは、引出配線の一例である。二つの端子部109aは、振動板104の短手方向の一方の端部に位置し、振動板104の長手方向の両端部に配置される。複数の配線電極108の端子部108aは、共有電極109の二つの端子部109aの間に並ぶ。
複数の配線電極108は、例えば、Pt(白金)およびAl(アルミニウム)の薄膜である。共有電極109の端子部109aおよび配線部109bは、例えば、Ti(チタン)およびAlの薄膜である。共有電極109の電極部109cは、Ptの薄膜である。なお、複数の配線電極108および共有電極109は、Ni(ニッケル),Cu(銅),Al(アルミニウム),Ag(銀),Ti(チタン),W(タングステン),Mo(モリブデン),Au(金)のような他の材料によって形成されても良い。
複数の配線電極108および共有電極109の厚さは、例えば0.5μmである。複数の配線電極108および共有電極109の膜厚は、概ね0.01〜1μmの範囲にある。複数の配線電極108および共有電極109の配線部108b,109bの幅は、例えば80μmである。
図3に示すように、駆動素子102は、振動板104の第2の面104bにある。駆動素子102は、対応するノズル101からインク滴を吐出させるための圧力を対応する圧力室201内に発生させる。
複数の駆動素子102は、配線電極108の電極部108cと、共有電極109の電極部109cと、圧電体膜111とをそれぞれ有する。配線電極108の電極部108cは、第1電極の一例であり、下部電極とも称される。共有電極109の電極部109cは、第2電極の一例であり、上部電極とも称される。圧電体膜111は、圧電体の一例である。
配線電極108の電極部108cは、振動板104の第2の面104bにある。電極部108cは、ノズル101を囲む円環状に形成される。電極部108cは、ノズル101と同心状に位置する。電極部108cの外径は、例えば133μmである。電極部108cの内径は、例えば30μmである。このため、電極部108cは、ノズル101から離間する。
配線電極108の配線部108bは、振動板104の第2の面104bに形成される。図2に示すように、配線部108bは、対応する駆動素子102の電極部108cと端子部108aとを接続する。複数の配線部108bは、ノズルプレート100の短手方向に沿って平行に延びる。幾つかの配線部108bは、並んだ駆動素子102の間を通過する。
図3に示すように、圧電体膜111は、ノズル101を囲むとともに、配線電極108の電極部108cと大よそ同じ大きさの円環状に形成される。圧電体膜111は、配線電極108の電極部108cよりも僅かに小さく形成されるが、電極部108cより大きくても良い。圧電体膜111は、ノズル101と同心状に位置する。圧電体膜111は、配線電極108の電極部108cを覆う。
本実施形態では、圧電体膜111は、チタン酸ジルコン酸鉛(Pb(Zr,Ti)O3:PZT)の膜である。なお、圧電体膜111はこれに限らず、例えば、PTO(PbTiO3:チタン酸鉛),PMNT(Pb(Mg1/3Nb2/3)O3−PbTiO3),PZNT(Pb(Zn1/3Nb2/3)O3−PbTiO3),ZnOおよびAlNのような種々の圧電性材料によって形成されても良い。
圧電体膜111の厚さは、例えば2μmである。圧電体膜の厚さは、例えば、圧電特性および絶縁破壊電圧によって決定される。圧電体膜の厚さは、概ね0.1μmから5μmの範囲にある。
圧電体膜111は、その厚み方向に分極を発生させる。当該分極の方向と同方向の電界が圧電体膜111に印加されると、圧電体膜111は、当該電界の方向と直交する方向に伸縮する。言い換えると、圧電体膜111は、膜厚に対して直交する方向(面内方向)に収縮または伸長する。
なお、圧電体膜111としてPZTのような強誘電体を使用した場合は、分極方向と反対の電界を加えることにより分極反転を生じる。したがって、実質的に分極方向と同じ方向にのみ電界を印加することが可能であり、電界を加えることにより圧電体膜111は膜厚方向に伸長し、膜厚に対して直交する方向(面内方向)に収縮する。
共有電極109の電極部109cは、ノズル101を囲むとともに、配線電極108の電極部108cおよび圧電体膜111と大よそ同じ大きさの円環状に形成される。共有電極109の電極部109cは、圧電体膜111よりも僅かに小さく形成されるが、圧電体膜111より大きくても良い。電極部109cは、ノズル101と同心状に位置する。電極部109cは、圧電体膜111を覆う。言い換えると、電極部109cは、圧電体膜111の吐出側(インクジェットヘッド21の外に向く側)に設けられる。
圧電体膜111は、配線電極108の電極部108cと、共有電極109の電極部109cとの間に介在する。言い換えると、圧電体膜111に、配線電極108および共有電極109の電極部108c,109cが重なる。圧電体膜111は、二つの電極部108c,109cの間を絶縁する。共有電極109の電極部109cは、圧電体膜111を介して配線電極108の電極部108cに対向する。
共有電極109の電極部109cは、駆動素子102の外面102aを形成する。外面102aは、振動板104から離間した側の駆動素子102の一面である。言い換えると、外面102aは、駆動素子102の吐出側の面である。外面102aは、振動板104の第2の面104bと略平行な面である。
第1絶縁膜105は、振動板104の第2の面104bと、駆動素子102の表面102aと、配線電極108の配線部108bと、を覆う。第1絶縁膜105は、複数の配線電極108の端子部108aを露出させる複数の孔を有する。
第1絶縁膜105は、例えば、SiO2によって形成される。第1絶縁膜105は、例えば、SiN(窒化ケイ素)のような他の材料によって形成されても良い。第1絶縁膜105は、振動板104の第2の面104bと、駆動素子102の外面102aと、配線電極108の配線部106bと、の上において、おおよそ均一な厚さを有する。第1絶縁膜105の厚さは1μmである。第1絶縁膜105は、大よそ0.1μmから5μmの厚さを有する。なお、第1絶縁膜105の厚さは、部分的に異なっても良い。
第1絶縁膜105は、複数のコンタクト部113を有する。コンタクト部113は、対応する駆動素子102の外面102aの上にある第1絶縁膜105の一部に設けられた孔である。コンタクト部113は、例えば、直径20μmの円形に形成される。コンタクト部113は、共有電極109の電極部109cの一部を露出させる。コンタクト部113は、円環状の電極部109cの内周と外周との間の中央よりも、電極部109cの外周に近く配置される。
共有電極109の二つの端子部109aと、複数の配線部109bとは、第1絶縁膜105の表面105aにある。言い換えると、共有電極109の端子部109aおよび配線部109bは、第1絶縁膜105の上にある。第1絶縁膜105の表面105aは、振動板104から離間した側の反対の面である。
図2に示すように、共有電極109の複数の配線部109bは、対応する駆動素子102の電極部109cと、二つの端子部109aとから、それぞれ延びる。複数の配線部109bは、ノズルプレート100の短手方向に沿って互いに平行に延びる。
複数の配線部109bは、ノズルプレート100の短手方向の他方の端部において合体し、ノズルプレート100の長手方向に沿って延びる部分を形成する。このため、二つの端子部109aと、複数の電極部109cとは、複数の配線部109bによって接続される。
図3に示すように、共有電極109の配線部109bは、駆動素子102を覆う第1絶縁膜105の表面105aに設けられる。配線部109bの一方の端部は、コンタクト部113を通って、共有電極109の電極部109cに接続される。言い換えると、コンタクト部113は、配線部109bを電極部109cに接続するために、第1絶縁膜105が部分的に除去された部分である。
第1絶縁膜105は、共有電極109の配線部109bと、配線電極108の電極部108cとの間を隔てる。第1絶縁膜105は、配線電極108と共有電極109とが電気的に接続することを防ぐ。
第2絶縁膜106は、共有電極109の配線部109bと第1絶縁膜105の表面105aの上にあり、共有電極109の配線部109bを覆う。第2絶縁膜106は、例えば、インクや空気中の水分などの付着を防止し、配線部109bが腐食、劣化、および性能低下することを防ぐ。
第2絶縁膜106は、例えば、SiO2によって形成される。第2絶縁膜106は、例えば、SiN(窒化ケイ素)のような他の材料によって形成されても良い。第2絶縁膜106の厚みは、1μmである。第2絶縁膜106の厚さは、大よそ0.1μmから5μmの範囲にある。なお、第2絶縁膜106の厚さは、部分的に異なっても良い。
保護膜110は、振動板104の第2の面104b上にある。保護膜110は、例えば、東レ株式会社のフォトニース(登録商標)のような感光性ポリイミドによって形成される。すなわち、保護膜110は、第1絶縁膜105、第2絶縁膜106と異なる材料によって形成される。保護膜110はこれに限らず、他の樹脂材料によって形成されても良い。保護膜110として用いることができる樹脂材料は、例えば、他の種類のポリイミド,ABS,ポリアセタール,ポリアミド,ポリカーボネート,ポリエーテルサルフォンのようなプラスチック材料である。
保護膜110の材料は、耐熱性,絶縁性,熱膨張係数,平滑性,インクに対する濡れ性を考慮して選択される。なお、保護膜110の材料の絶縁性は、インクジェットプリンタ1が導電率の高いインクを使用する場合、駆動素子102が駆動する際のインクの変質度合いに影響する。
保護膜110は、振動板104の第2の面104bの駆動素子102がある領域以外の領域を覆う。保護膜110は、振動板104と接着し、振動板104が座屈変形することを妨げる。つまり、保護膜110は、駆動素子102による振動板104の湾曲変形を支え、振動板104が破損することを防止する。具体的には、保護膜100は、振動板104を挟んで圧力室201の一部を覆うように配置される。言い換えれば、保護膜100は、圧力室201の縁から圧力室201の内側へはみ出すように設けられる。これにより、振動板104が、駆動素子102の駆動に連動して変形した際、振動板104が変形し破損することを防止する。
保護膜110の材料は、振動板104の材料とヤング率が異なる。振動板104を形成するSiO2のヤング率は、80.6GPaである。一方、保護膜110を形成するポリイミドのヤング率は、4GPaである。すなわち、保護膜110のヤング率は振動板104のヤング率よりも小さい。
なお、保護膜110は、配線電極108の複数の端子部108a、および共有電極109の複数の端子部109aをそれぞれ露出させる複数の孔を有する。
駆動素子102,配線電極108、および共有電極109がある部分以外の保護膜110の厚さは、約4μmである。保護膜110の膜厚は、概ね1〜50μmの範囲にある。保護膜110の厚さは、振動板104の第2の面104bから、保護膜110の表面110aまでの距離である。
保護膜110は、駆動素子102の上に保護膜110を設けない開口部(除去部、凹部)115を有する。開口部115の外径は、駆動素子102の外径とほぼ同一である。言い換えると、保護膜110は、駆動素子102の上には形成されない。
開口部115は、対応するノズル101を囲む。開口部115は、対応するノズル101と同心状に配置される。言い換えると、開口部115は、ノズル101の中心軸を軸とした回転対称形状に形成される。
開口部115は、駆動素子102の上にある第1絶縁膜105と、共有電極109の配線部109bの上にある第2絶縁膜106を露出する。
撥インク膜112は、保護膜110と、開口部115に位置する第1絶縁膜105,第2絶縁膜106を覆う。撥インク膜112は、撥液性を有するシリコーン系撥液材料またはフッ素含有系有機材料によって形成される(例えば、旭硝子株式会社のサイトップ(登録商標))。
撥インク膜112の表面112aは、ノズルプレート100の表面を形成する。撥インク膜112の表面112aは、保護膜110、第1絶縁膜105,第2絶縁膜106の振動板104から離間した反対側に位置する。
駆動素子102,共有電極109および配線電極108がある部分以外の撥インク膜112の厚さは、例えば1μmである。撥インク膜112の厚さは、例えば、0.01〜10μmの範囲にある。駆動素子102が設けられた部分における撥インク膜112の厚さは、他の部分よりも薄い。なお、撥インク膜112の厚さは一定でも良い。
インクの吐出安定性は、インクがノズル101近傍に付着すると低下するおそれがある。撥インク膜112は、インクがノズルプレート100の表面に付着することを抑制する。
ノズル101は、振動板104と、駆動素子102と、撥インク膜112とを貫通する。言い換えると、ノズル101は、振動板104と、駆動素子102、撥インク膜112とから形成される。振動板104が親インク性(親液性)を有するため、圧力室201に収容されたインクのメニスカスは、ノズル101内に保たれる。
図2に示すように、配線電極108の端子部108aに、例えばフレキシブルケーブルを介して、制御部24が接続される。制御部24は、例えば、インクジェットヘッド21を制御するICや、インクジェットプリンタ1を制御するマイクロコンピュータである。一方、共有電極109の端子部109aは、例えば、GND(グランド接地=0V)に接続される。
制御部24は、複数の配線電極108に、対応する駆動素子102を駆動するための信号を伝送する。配線電極108は、複数の駆動素子102を独立して動作させるための個別電極として用いられる。
振動板104は、駆動素子102が電界方向と直交する方向に伸びた場合、圧力室201の容積を縮小させる方向に湾曲する。反対に、振動板104は、駆動素子102が電界方向と直交する方向に縮んだ場合、圧力室201の容積を拡大させる方向に湾曲する。
ノズルプレート100に開口部115を形成しない場合、駆動素子102は、第1絶縁膜105と、第2絶縁膜106と、保護膜110により覆われる。この場合、駆動素子102の変形は、開口部115を形成した場合と比べて大きく阻害される。言い換えると、開口部115は、駆動素子102の変形を阻害する保護膜110の膜応力を小さくしている。
振動板104は、膜応力が小さくなることで、駆動素子102が電界方向と直交する方向に伸びた場合、圧力室201の容積を縮小させるようにより大きく湾曲できる。反対に、振動板104は、駆動素子102が電界方向と直交する方向に縮んだ場合、圧力室201の容積を拡張させる方向により大きく湾曲できる。
例えば、インクジェットヘッド21は、以下のようにインクを吐出する。
ユーザの操作によって、制御部24に印字指示信号が入力される。制御部24は、当該印字指示に基づいて、複数の駆動素子102に信号を伝達する。言い換えると、制御部24は、配線電極108の電極部108cに、選択的に駆動電圧を印加する。
配線電極108の電極部108cに駆動電圧が印加されると、配線電極108の電極部108cと、共有電極109の電極部109cとの間に電位差が生じる。これにより、駆動素子102の圧電体膜111には、分極方向と同方向の駆動電圧が印加される。駆動素子102は、電界方向と直交する方向に伸縮する。駆動素子102は、ベンディングモード(屈曲振動)で動作する。
上記に記載した通り、駆動素子102は、電圧が印加されたときに、振動板104を変形させることで、圧力室201の容積を変化させる。つまり、駆動素子102が電界方向と直交する方向へ伸長することで、圧力室201の容積を増大させる方向に振動板104が変形する。これにより、圧力室201に収容されたインクに負圧を生じる。この結果、インクは、インク流路301から圧力室201に流入する。
一方、駆動素子102が電界方向と直交する方向に収縮すると、圧力室201の容積を減少させる方向に振動板104が変形する。これにより、圧力室201内のインクが加圧される。このように振動板104の変形により加圧されたインクの一部は、ノズル101から吐出される。
本実施形態のように、保護膜110に開口部115を設けることにより、振動板104の変形を阻害する駆動素子102による膜応力を低減することができる。このように、駆動素子102にかかる保護膜110の膜応力を低減することにより、インク吐出に必要な電圧を低くすることができる。このため、本実施形態のインクジェットヘッド21は、効率良くインクを吐出できる。
また、図3に示すように、開口部115に位置する振動板104の第2の面104bから駆動素子102の上にある撥インク膜112の表面112aまでの厚さH2は、開口部115の外側における振動板104の第2の面104bから保護膜110を挟んで撥インク膜112の表面112aまでの厚さH1よりも薄い。言い換えれば、開口部115の領域はその他の領域よりも窪んでいる。
ノズルプレート100の表面は、付着したインクを洗浄するため図示しないワイピングブレードによって定期的に拭かれる。開口部115の領域はその他の領域よりも窪んでいるため、ワイピングプレードが直接、駆動素子102に引っかかることがない。よって、本実施形態のインクジェットヘッド21によると、駆動素子102にワイピングプレードが接触することによる破損が発生しにくい。言い換えると、開口部115は、ワイピングブレードによるノズルプレート100の表面の洗浄の際の駆動素子102の破損を抑制する。
次に、インクジェットヘッド21の製造方法の一例について、図4から図8を用いて説明する。図4は、第1絶縁膜105が形成された製造工程中のインクジェットヘッド21を示す断面図である。
まず、圧力室201が形成される前の圧力室構造体200(シリコンウエハ)の第1の面200aの全域に、振動板104(SiO2膜)を成膜する。当該SiO2膜は、例えば、熱酸化膜法によって成膜される。なお、SiO2膜は、CVD法のような他の方法によって成膜することもできる。
圧力室構造体200を形成するシリコンウエハは、大きな一枚の円板である。圧力室構造体200は、当該シリコンウエハから複数枚に切り分けられる。なお、一枚の矩形のシリコンウエハから、一つの圧力室構造体200を形成しても良い。
シリコンウエハは、インクジェットヘッド21の製造工程において、繰り返し加熱され、薄膜を成膜される。圧力室構造体200の形成に用いられるシリコンウエハは、耐熱性を有し、SEMI(Semiconductor Equipment and Materials International)規格に準じ、且つ鏡面研磨によって平滑化されている。
次に、振動板104の第2の面104bに、配線電極108を形成する金属膜を成膜する(図4参照)。配線電極108は、スパッタリング法を用いてTiの膜とPtの膜とを順番に成膜することで形成する。Ptの膜厚は、例えば0.45μmであり、Ti膜厚は、例えば0.05μmである。なお、配線電極108の金属膜は、蒸着および鍍金のような他の製法によって形成されても良い。
そして、配線電極108を形成する金属膜の上に、圧電体膜111を形成する(図4参照)。圧電体膜111は、例えば、RFマグネトロンスパッタリング法により成膜される。このときのシリコンウエハの温度は、例えば350℃である。圧電体膜111は、成膜後、圧電体膜111に圧電性を付与するため、650℃で3時間熱処理される。
上記熱処理後の圧電体膜111は、良好な結晶性を得るとともに、良好な圧電性能を有する。圧電体膜111は、例えば、CVD(化学的気相成長法),ゾルゲル法,AD法(エアロゾルデポジション法),水熱合成法のような他の製法によって形成されても良い。
次に、圧電体膜111の上に、共有電極109の電極部109cを形成するPt(プラチナ)/Ti(チタン)の金属膜を成膜する(図4)。金属膜は、例えば、スパッタリング法によって成膜される。金属膜は、真空蒸着および鍍金のような他の製法によって形成されても良い。
電極部109cおよび圧電体膜111は、上記金属膜および圧電体膜をエッチングすることによりパターニングされる。パターニングは、金属膜の上にエッチングマスクを作り、エッチングマスクが施された箇所以外の金属膜および圧電体膜をエッチングによって除去することでなされる。金属膜および圧電体膜は、一緒にパターニングされる。なお、金属膜および圧電体膜は、個別にパターニングされても良い。エッチングマスクは、感光性レジストの塗布,プリベーク,所望のパターンが形成されたマスクを用いた露光,現像,およびポストベークによって形成される。
配線電極108は、パターニングにより形成される。パターニングは、圧電体膜111および共有電極109の電極部109cと、圧電体膜111の下の金属膜(Pt/Ti)との上にエッチングマスクを作り、エッチングマスクが施された箇所以外の金属膜をエッチングによって除去することによりなされる。エッチングマスクは、感光性レジストの塗布,プリベーク,所望のパターンが形成されたマスクを用いた露光,現像およびポストベークによって形成される。
そして、配線電極108および共有電極109の電極部108c,109cと圧電体膜111との中心にノズル101が形成される(図4参照)。電極部108c,109cおよび圧電体膜111の中心と同心円の位置に、電極部108c,109cおよび圧電体膜111がない部分が形成される。言い換えれば、電極部108c,109cおよび圧電体膜111の中心と同心円の位置に、振動板104が露出する部分が形成される。
図4に示すように、第1絶縁膜105は、振動板104の第2の面104bと、配線電極108の配線部108bと、駆動素子102との上に形成される。第1絶縁膜105は、良好な絶縁性を低温成膜にて実現できるCVD法によって形成される。第1絶縁膜105の形成方法は、これに限らず、スパッタリング法、または蒸着のような他の方法によって形成されても良い。
第1絶縁膜105は、駆動素子102が配置された振動板の第2の面104bの全体に成膜され、その後にパターニングされる。第1絶縁膜105は、ノズル101を形成するため、駆動素子102の中心と同心円に位置する部分の膜は除かれる。また、コンタクト部113は、駆動素子102を覆う第1絶縁膜105の一部に形成される(図5参照)。パターニングは、エッチングマスクで覆われていない第1絶縁膜105をエッチングすることで実施される。エッチングマスクは、感光性レジストの塗布,プリベーク,所望のパターンが形成されたマスクを用いた露光,現像,定着、およびポストベークによって形成される。
図5は、共有電極109の配線部109bが形成された製造工程中のインクジェットヘッド21を示す断面図である。第1絶縁膜105の上に、共有電極109の端子部109a(図2参照)および配線部109bを形成する金属膜を成膜する。金属膜は、例えば、スパッタリング法によって成膜される。共有電極109を形成する金属膜の材料は、Pt(プラチナ)/Ti(チタン),Ti(チタン)/Al(アルミニウム)薄膜を用いることができる。Tiの膜厚は、例えば0.1μm,AlまたはTiの膜厚は、例えば0.4μmである。金属膜は、真空蒸着および鍍金のような他の製法によって形成されても良い。配線部109bは、第1絶縁膜105に設けられたコンタクト部113を介して電極部109cと接続する。
図5に示すように、端子部109a(図2参照)および配線部109bは、上記金属膜をパターニングすることで形成される。パターニングは、金属膜上にエッチングマスクを作り、当該エッチングマスクで覆われた箇所以外の金属膜をエッチングすることにより実施される。エッチングマスクは、感光性レジストの塗布,プリベーク,所望のパターンが形成されたマスクを用いた露光,現像,およびポストベークによって形成される。
図6は、第2絶縁膜106が形成された製造工程中のインクジェットヘッド21を示す断面図である。図6に示すように、共有電極109の配線部109bの上に、第2絶縁膜106を形成する。第2絶縁膜106は、良好な絶縁性を低温成膜にて実現できるCVD法によって形成される。第2絶縁膜106はこれに限らず、スパッタリング法、または蒸着のような他の方法によって形成されても良い。
第2絶縁膜106は、第1絶縁膜105が成膜された振動板の第2の面104bに成膜され、その後にパターニングされる。第2絶縁膜106は、共有電極109の配線部109bを覆うように形成され、それ以外の箇所は除去される。パターニングは、第2絶縁膜106上にエッチングマスクを作り、当該エッチングマスクで覆われた箇所以外の第2絶縁膜106をエッチングすることにより実施される。エッチングマスクは、感光性レジストの塗布,プリベーク,所望のパターンが形成されたマスクを用いた露光,現像,定着,およびポストベークによって形成される。
次に、振動板104を形成するSiO2膜をパターニングし、ノズル101の一部を形成する。パターニングは、SiO2膜上にエッチングマスクを作り、エッチングマスクで覆われた箇所以外のSiO2膜をエッチングすることにより実施される。エッチングマスクは、振動板104の上への感光性レジストの塗布,プリベーク,所望のパターンが形成されたマスクを用いた露光,現像,ポストベークによって形成される。
図7は、保護膜110が形成された製造工程中のインクジェットヘッド21を示す断面図である。保護膜110は、振動板104,第1絶縁膜105,第2絶縁膜106の上に、スピンコーティング法(スピンコート)によって形成される。
具体的には、保護膜110は、ポリイミド前駆体を含有した溶液で振動板104の第2の面104bおよび、第1絶縁膜105と第2絶縁膜106を覆う。次に、シリコンウエハを回転し、第2の面104bを覆っているポリイミド前駆体を含有した溶液の表面を平滑にする。そして、当該シリコンウエハを、所定時間ベークする。ポリイミド前駆体は、焼成成形により、熱重合と溶剤が除去されて保護膜110(ポリイミド)を形成する。保護膜110の形成方法は、スピンコーティングに限らない。保護膜110は、CVD、真空蒸着、または鍍金のような他の方法によって形成されても良い。
図8は、ノズル101および開口部115が形成された製造工程中のインクジェットヘッド21を示す断面図である。
保護膜110は、パターニングされ、ノズル101および開口部115を形成するとともに、配線電極108の端子部108aと、共有電極109の端子部109aとを露出させる(開口部115)。パターニングは、保護膜110の材料に応じた手順で行われる。
まず、保護膜110が、東レ株式会社のセミコファイン(登録商標)のような非感光性ポリイミドによって形成される場合について説明する。この場合、まず、上述したように、ポリイミド前駆体を含有した溶液をスピンコーティング法によって成膜し、ベークによって熱重合と溶剤除去をして、非感光性ポリイミドの保護膜110を形成する。その後、非感光性ポリイミド膜上にエッチングマスクを作り、エッチングマスクに覆われた部分以外のポリイミド膜をエッチングすることで、パターニングする。エッチングマスクは、非感光性ポリイミド膜上への感光性レジストの塗布,プリベーク,所望のパターンが形成されたエッチングマスクを用いた露光,現像,ポストベークによって形成される。
次に、保護膜110が、東レ株式会社のフォトニース(登録商標)のような感光性ポリイミドによって形成される場合について説明する。まず、上記同様に、溶液をスピンコーティング法によって成膜した後、プリベークする。その後、エッチングマスクを用いた露光と、現像工程とを経てパターニングする。ポジ型感光性ポリイミドの場合、上記エッチングマスクは、ノズル101,開口部115,配線電極108の端子部108a,共有電極109の端子部109aに対応する部分を開口する(光が透過する)ように配置される。一方、ネガ型感光性ポリイミドの場合、上記エッチングマスクは、ノズル101,開口部115,配線電極108の端子部108a,共有電極109の端子部109aに対応する部分が遮光されるように配置される。その後、シリコンウエハは、ポストベークされ、保護膜110が形成される。
次に、保護膜110の上にカバーテープ(図示せず。)を貼り付ける。カバーテープは、例えば、シリコンウエハの化学機械研磨(Chemical Mecanical Polishing:CMP)用の裏面保護テープである。カバーテープが貼り付けられた圧力室構造体200を上下反転し、圧力室構造体200に複数の圧力室201を形成する。圧力室201は、パターニングによって形成される。
パターニング方法は、例えば、シリコン基板専用のDeep−RIEと呼ばれる垂直深堀ドライエッチングを用いることができる。これにより、シリコンウエハのエッチングマスクで覆われていない部分が除去され、圧力室201が形成される。エッチングマスクは、感光性レジストの塗布、プリベーク、所望のパターンが形成されたマスクを用いた露光、現像、およびポストベークによって形成される。
圧力室201の形成用に用いられるSF6ガスは、振動板104のSiO2や保護膜110のポリイミドに対してはエッチング作用を及ぼさない。そのため、圧力室201を形成するシリコンウエハのドライエッチングの進行は、振動板104で止まる。言い換えると、振動板104は、上記エッチングのストップ層として機能する。
なお、上述のエッチングは、薬液を用いるウェットエッチング法、プラズマを用いるドライエッチング法のような、種々の方法を用いて良い。さらに、材料によってエッチング方法やエッチング条件を変えて良い。各感光性レジスト膜によるエッチング加工が終了した後、残った感光性レジスト膜は溶解液によって除去される。
以上のように、インクジェットヘッド21の製造工程は、振動板104上に駆動素子102およびノズル101を形成する工程から、圧力室構造体200に圧力室201を形成する工程を含む。そして、上記製造工程は、成膜技術、フォトリソグラフィエッチング技術、およびスピンコーティング法等の技術を含む。ノズル101、駆動素子102、および圧力室201が、一つのシリコンウエハに精密かつ簡便に形成される。
続いて、圧力室構造体200に、インク流路構造体300をエポキシ系接着剤で接着する。
次に、配線電極108の端子部108aと、共有電極109の端子部109aとを覆うように、カバーテープを保護膜110の一部に貼り付ける。カバーテープは樹脂によって形成され、保護膜110から容易に脱着可能である。カバーテープは、配線電極108の端子部108aおよび共有電極109の端子部109aに、撥インク膜112やゴミが付着することを防止する。
次に、保護膜110の振動板104とは反対側の面および開口部115に撥インク膜112を形成する(図3)。撥インク膜112の形成方法は、保護膜110等の上に液状の撥インク膜材料をスピンコーティングし成膜する。撥インク膜を成膜する際、インクジェットヘッド21は、インク供給口302より陽圧空気が注入される。陽圧空気は、インク流路301と繋がったノズル101から排出される。これにより、液体の撥インク膜材料は、保護膜110等の表面に塗布されるが、ノズル101の内周面に撥インク膜材料が付着することを抑制する。カバーテープは、撥インク膜112が形成された後、保護膜110から剥がされる。
そして、上記のように一枚のシリコンウエハ上に形成された複数のインクジェットヘッド21が分割される。インクジェットヘッド21は、インクジェットプリンタ1の内部に搭載される。配線電極108の端子部108aに、例えば、フレキシブルケーブルを介して制御部24が接続される。さらに、インク流路構造体300のインク供給口302およびインク排出口303が、チューブ等を介してインクタンク23に接続される。
上記のように、第1の実施形態では、圧力室構造体200の上にノズルプレート100を作成する。しかし、ノズルプレート100を圧力室構造体200の上に作成する代わりに、圧力室構造体200の一部を、振動板104としても良い。例えば、圧力室構造体200の一方の面に駆動素子102を形成し、他方の面側から圧力室201に相当する穴を形成する。当該穴は、圧力室構造体200を貫通しない。圧力室構造体200の一方の面側には薄い層が残り、この部分が振動板104として動作する。
第1の実施形態のインクジェットプリンタ1によれば、保護膜110に開口部115を設けることで、駆動素子102の配置された領域には、保護膜110がない。このため、駆動素子102の変形を阻害する保護膜110の膜応力が除去される。したがって、駆動素子102は、少ない力で振動板104を変形させることができ、インクジェットヘッド21の駆動効率の低下を抑制できる。
また、インクジェットヘッド21のノズル101は、振動板104に形成され、駆動素子102の内側に保護膜110が設けられていない。このため、ノズル101の形状が不均一になることを抑制できる。すなわち、振動板104に設けられたノズル101の一部と、保護膜110に設けられたノズル101の一部とに、形状および位置の不均一が生じることを抑制できる。したがって、ノズル101の形状の均一性が向上し、複数のノズル101間のインク液滴の着弾位置精度が向上する。
なお、本実施形態によると、駆動素子102は第1絶縁膜105および撥インク膜112によって覆われている。このため、開口部115が設けられても、駆動素子102がインクや空気中の水分のような外部要因によって、腐食、劣化、および性能低下することは防がれる。
さらに、保護膜110は、振動板104を挟んで圧力室201の内側に配置されることにより、駆動素子102の屈曲振動を理由とする振動板104の破損を抑制することができる。
次に、図9から図11を参照して、第2から第4の実施の形態について説明する。
なお、以下に開示する複数の実施形態において、第1の実施形態のインクジェットプリンタ1と同様の機能を有する構成要素には同一の参照符号を付す。さらに、当該構成要素については、その説明を一部または全て省略することがある。
図9は、第2の実施の形態に係るインクジェットヘッド21Aの一部を示す断面図である。インクジェットヘッド21Aは、ノズル101の一部に保護膜110が設けられている点が第1の実施形態のインクジェットヘッド21と異なる。なお、その他の構成は第1の実施形態のインクジェットヘッド21と同様である。
インクジェットヘッド21Aは、ノズル101の外周部であって駆動素子102の内周部に円筒状の保護膜110を有する。このように駆動素子102の内側に保護膜110を設けることで、駆動素子102がインクや空気中の水分のような外部要因によって、腐食、劣化、および性能低下することをさらに抑制できる。
図10は、第3の実施の形態に係るインクジェットヘッド21Bの一部を示す断面図である。インクジェットヘッド21Bの保護膜110は、駆動素子102の外周部102cと接触していない。言い換えると、本実施形態のインクジェットヘッド21Bは、保護膜110の駆動素子102側の側面110cと駆動素子102の外周部102c間に隙間116を有している。
隙間116は、ノズル101と同心状に設けられ、駆動素子102を囲む円環状に形成される。隙間116の幅は、例えば5μm程度である。隙間116は、保護膜110に開口部115とノズル101を形成する際に、同時に形成される。
第3の実施形態のインクジェットヘッド21Bにおいて、駆動素子102は、隙間116が設けられることにより、保護膜110と離間して配置される。そして、駆動素子102は、保護膜110と隙間116を挟んで配置されることで、駆動効率を向上する。具体的には、保護膜110は、ポリイミドなどの樹脂により形成されるため、熱膨張率が他の部材より大きい。このため、焼成成形後に室温に戻った保護膜110は、引張方向の残留応力を有している。このため、駆動素子102と保護膜110が接触している場合、保護膜110の引張方向の残留応力が、駆動素子102に作用する。
一方、第3の実施形態では、駆動素子102は、保護膜110と隙間116を挟んで配置されている。このため、保護膜110から駆動素子102に作用する引張応力は無くなる。よって、第3の実施形態のインクジェットヘッド21Bは、駆動素子102の変形が保護膜110の残留応力により阻害されないため、駆動効率がさらに向上する。
また、駆動素子102を構成する圧電体膜111の材料であるチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)は、引張応力に対して破壊を起こしやすい。これに対し、本実施形態のインクジェットヘッド21Bは、駆動素子102と保護膜110が接触しないように、両者の間に隙間116有しているため、駆動素子102にかかる引張応力が低減し、駆動素子102の耐久性を向上させる。よって、インクジェットヘッド21Bの耐久性が向上する。
図11は、第4の実施の形態に係るインクジェットヘッド21Cの一部を示す断面図である。第4の実施形態のインクジェットヘッド21Cは、駆動素子102の内周側に保護膜110が形成されている点が第3の実施形態のインクジェットヘッド21Bと異なっている。
第4の実施形態のインクジェットヘッド21Cによれば、ノズル101は振動板104および保護膜110により形成される。インクジェットヘッド21Cは、ノズル101の周囲に保護膜110を有しているため、絶縁膜105に直接インクが触れることがない。このため、インクジェットヘッド21Cは、絶縁膜105に隙間等が生じていた場合でも、保護膜110を有していることによりインクによる回路の短絡を防ぐことができる。
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
例えば、駆動素子102の形状も円形および菱形に限らず、楕円形または矩形のような他の形状であっても良い。さらに、開口部115は、撥インク膜112に覆われずに露出されても良い。
また、上記の実施形態では、振動板104は、圧力室構造体200の上に形成される。
又は、振動板104は、圧力室構造体200の表面を酸化することにより、圧力室構造体200の材料の酸化物として作成される。しかし、圧力室構造体200の材料の一部を振動板として利用しても良い。例えば、圧力室構造体200の第1の面200aに駆動素子102を形成し、第2の面200bから圧力室201に相当する位置に圧力室構造体200を貫通しない穴を形成する。圧力室構造体200の第1の面200a側には薄い層が残り、この部分が振動板として動作する。
以下、本願の出願当初の特許請求の範囲に記載された発明を付記する。
[1]インクを吐出するノズルと、
インクを収容し、前記ノズルに連通する圧力室を有する基材と、
前記圧力室を塞ぐ第1の面と、前記第1の面の反対側にある第2の面と、を有する振動板と、
電圧が印加されたときに前記振動板を変形させ、前記圧力室の容積を変化させる前記第2の面に備えられる駆動素子と、
前記駆動素子が設けられていない前記第2の面に配置される保護膜を備え、
前記保護膜は少なくとも、前記駆動素子のある領域の外側であって、前記振動板を挟んで前記圧力室の一部を覆うように設けられていることを特徴とするインクジェットヘッド。
[2]前記保護膜と前記駆動素子の間に隙間を有していることを特徴とする[1]に記載のインクジェットヘッド。
[3]前記保護膜の厚みは、前記駆動素子の厚みよりも大きいことを特徴とする[1]又は[2]に記載のインクジェットヘッド。
[4]前記駆動素子は、圧電体と、前記圧電体に接続され前記振動板の前記第2の面にある第1電極と、前記圧電体を間に挟んで前記第1電極に対向する第2電極とを含み、
前記第1電極は第1引出配線を備え、前記第2電極は第2引出配線を備え、前記駆動素子、前記第1引出配線および前記第2引出配線は、絶縁膜により絶縁されていることを特徴とする[1]乃至[3]のいずれか1項に記載のインクジェットヘッド。
[5][1]乃至[4]のいずれか1項に記載のインクジェットヘッドと、
前記圧力室へインクを供給するインクタンクと、
前記インクジェットヘッドからインクが吐出される位置に記録媒体を搬送する搬送部と、
を備えることを特徴とするインクジェット記録装置。