以下に、第1の実施の形態について、図1から図5を参照して説明する。なお、複数の表現が可能な各要素に、一つ以上の他の表現の例を付すことがある。しかし、これは、他の表現が付されない要素について異なる表現がされることを否定するものではないし、例示されない他の表現がされることを制限するものでもない。
図1は、第1の実施の形態に係るインクジェットプリンタ1を示す断面図である。インクジェットプリンタ1は、インクジェット記録装置の一例である。なお、インクジェット記録装置はこれに限らず、複写機のような他の装置であっても良い。
図1に示すように、インクジェットプリンタ1は、例えば、記録媒体である記録紙Pを搬送しながら画像形成等の各種処理を行う。インクジェットプリンタ1は、筐体10と、給紙カセット11と、排紙トレイ12と、保持ローラ(ドラム)13と、搬送装置14と、保持装置15と、画像形成装置16と、除電剥離装置17と、反転装置18と、クリーニング装置19とを備える。
給紙カセット11は、複数の記録紙Pを収容して、筐体10内に配置される。排紙トレイ12は、筐体10の上部にある。インクジェットプリンタ1によって画像形成がされた記録紙Pは、排紙トレイ12に排出される。
搬送装置14は、記録紙Pが搬送される経路に沿って配置された複数のガイドおよび複数の搬送ローラを有する。当該搬送ローラは、モータに駆動されて回転することで、記録紙Pを給紙カセット11から排紙トレイ12まで搬送する。
保持ローラ13は、導体によって形成された円筒状のフレームと、当該フレームの表面に形成された薄い絶縁層とを有する。前記フレームは接地(グランド接続)される。保持ローラ13は、その表面上に記録紙Pを保持した状態で回転することにより、記録紙Pを搬送する。
保持装置15は、搬送装置14によって給紙カセット11から搬出された記録紙Pを、保持ローラ13の表面(外周面)に吸着させて保持させる。保持装置15は、記録紙Pを保持ローラ13に対して押圧した後、帯電による静電気力で記録紙Pを保持ローラ13に吸着させる。
画像形成装置16は、保持装置15によって保持ローラ13の外面に保持された記録紙Pに、画像を形成する。画像形成装置16は、保持ローラ13の表面に面する複数のインクジェットヘッド21を有する。複数のインクジェットヘッド21は、例えば、シアン、マゼンダ、イエロー、ブラックの四色のインクを、それぞれ記録紙Pに吐出することで、画像を形成する。
除電剥離装置17は、画像が形成された記録紙Pを、除電することで、保持ローラ13から剥離する。除電剥離装置17は、電荷を供給して記録紙Pを除電し、記録紙Pと保持ローラ13との間に爪を挿入する。これにより、記録紙Pは保持ローラ13から剥離される。保持ローラ13から剥離された記録紙Pは、搬送装置14によって、排紙トレイ12または反転装置18に搬送される。
クリーニング装置19は、保持ローラ13を清浄する。クリーニング装置19は、保持ローラ13の回転方向において除電剥離装置17よりも下流にある。クリーニング装置19は、回転する保持ローラ13の表面にクリーニング部材19aを当接させ、回転する保持ローラ13の表面を洗浄する。
反転装置18は、保持ローラ13から剥離された記録紙Pの表裏面を反転させ、当該記録紙Pを再び保持ローラ13の表面上に供給する。反転装置18は、例えば記録紙Pを前後方向逆にスイッチバックさせる所定の反転経路に沿って記録紙Pを搬送することにより、記録紙Pを反転させる。
図2は、画像形成装置16に含まれる一つのインクジェットヘッド21を分解して示す斜視図である。図3は、インクジェットヘッド21を示す平面図である。図4は、図3のF4−F4線に沿ってインクジェットヘッド21の一部を示す断面図である。なお、図2よび図3は、説明のために、本来は隠れる種々の要素を実線で示す。さらに、図面は概略的に実施形態のインクジェットプリンタ1を示すものであり、図面における各寸法は当該実施形態の説明と異なることがある。
図2に示すように、インクジェットプリンタ1は、インクジェットヘッド21と、インクタンク23と、制御部24とを備える。インクジェットプリンタ1は、インクジェット記録装置の一例である。インクジェット記録装置はこれに限らず、複写機のような他の装置であっても良い。
インクジェットヘッド21は、ノズルプレート100と圧力室構造体200と、インク流路構造体300とを備える。圧力室構造体200は、基材の一例である。インク流路構造体300は、インク供給部材の一例である。圧力室構造体200は、インク流路構造体300に例えばエポキシ系接着剤で接着する。
ノズルプレート100は、矩形の板状に形成される。図面に示すように、本明細書において説明の便宜のため、ノズルプレート100の長手方向をX方向、ノズルプレート100の短手方向をY方向、ノズルプレート100の厚さ方向をZ方向と定義する。X,Y,Z方向は互いに直交する。
ノズルプレート100は、圧力室構造体200の上に、後述する成膜プロセスによって形成される。このため、ノズルプレート100は、圧力室構造体200に固着する。
ノズルプレート100に、インク吐出用の複数のノズル(オリフィス、インク吐出孔)101がある。ノズル101は、Z方向に延びる円形の孔である。ノズル101の直径は、例えば20μmである。なお、ノズル101の形状は円形に限らない。
圧力室構造体200は、例えばシリコンウエハによって矩形の板状に形成される。圧力室構造体200は、インクジェットヘッド21の製造過程において、繰り返し加熱および薄膜の成膜がなされる。このため、シリコンウエハは、耐熱性を有し、SEMI(Semiconductor Equipment and Materials International)規格に準じ、平滑化されたものである。圧力室構造体200の厚さは、例えば50μmである。圧力室構造体200の厚さは、概ね50μmから100μmの範囲にある。
なお、圧力室構造体200は、他の材料によって形成されても良い。例えば、炭化シリコン(SiC)ゲルマニウム基板のような他の半導体、セラミックス、樹脂、または金属(合金)のような他の材料によって、圧力室構造体200が形成されても良い。圧力室構造体200の材料は、例えば、ノズルプレート100の膨張係数との差を考慮して、インク吐出圧力発生に影響を生じないものが選択される。利用されるセラミックスは、例えば、アルミナセラミックス、ジルコニア、炭化ケイ素、窒化ケイ素、またはチタン酸バリウムなどの窒化物または酸化物である。利用される樹脂は、例えば、ABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン)、ポリアセタール、ポリアミド、ポリカーボネート、またはポリエーテルサルフォンのようなプラスチック材である。利用される金属は、例えば、アルミまたはチタンである。
図4に示すように、圧力室構造体200は、ノズルプレート100に面する第1端面200aと、第2端面200bと、複数の圧力室201とを有する。第1端面200aは、基体の一方の端部の一例である。第2端面200bは、基体の他方の端部の一例であり、第1端面200aの反対側にある。第1および第2端面200a,200bは、圧力室構造体200のZ方向の端面である。第1端面200aは平坦に形成され、ノズルプレート100が固着する。
圧力室201は、Z方向に延びる円形の孔である。圧力室201は、他の形状に形成されても良い。圧力室201の直径は、例えば200μmである。圧力室201は、圧力室構造体200の第1端面200aから第2端面200bに亘って設けられる。圧力室201は、第1端面200aに開口する。ノズルプレート100は、第1端面200aに開口する圧力室201を塞ぐ。圧力室201は、第2端面200bにも開口する。
複数の圧力室201は、複数のノズル101に対応して配置され、対応するノズル101と同一軸上にある。このため、圧力室201に、対応するノズル101が連通する。
次に、ノズルプレート100について説明する。図3および図4に示すように、ノズルプレート100は、上記の複数のノズル101と、複数のアクチュエータ102と、二つの共有電極端子部105と、共有電極106と、複数の配線電極端子部107と、複数の配線電極108と、振動板109と、保護膜(絶縁膜)113と、撥インク膜116とを有する。共有電極106は、第1の電極の一例である。配線電極108は、第2の電極の一例である。ノズル101は、重ねられた振動板109および保護膜113を貫通する。
振動板109は、圧力室構造体200の第1端面200aの上に、矩形の板状に形成される。振動板109の厚さは、例えば2μmである。振動板109の厚さは、概ね1μmから50μmの範囲にある。
振動板109の材料は、例えば絶縁性材料であるSiO2(酸化ケイ素)である。振動板109の材料はSiO2に限らず、例えば、SiN(窒化ケイ素)、Al2O3(酸化アルミニウム)、HfO2(酸化ハフニウム)、DLC(Diamond Like Carbon)であっても良い。振動板109の材料の選定は、例えば、耐熱性、絶縁性、熱膨張係数、平滑性、およびインクに対する濡れ性を考慮する。振動板109の材料の絶縁性は、インクジェットヘッド21が導電率の高いインクを使用する場合に、アクチュエータ102が駆動したときのインク変質に影響し得る。
振動板109は、第1の面501と、第2の面502とを有する。第1の面501は、第1端面200aに固着するとともに圧力室201を塞ぐ。第2の面502は、第1の面501の反対側に位置する。アクチュエータ102と、共有電極106と、配線電極108とは、振動板109の第2の面502の上にある。
複数のアクチュエータ102は、複数の圧力室201および複数のノズル101に対応して配置される。アクチュエータ102は、ノズル101からインクを吐出させるための圧力を、圧力室201に発生させる。
図3に示すように、アクチュエータ102は、円環状に形成される。アクチュエータ102は、対応するノズル101と同一軸上にある。ノズル101は、アクチュエータ102の内側に位置する。
より高密度にノズル101を配置するために、ノズル101は千鳥状(互い違い)に配置される。言い換えると、X方向において複数のノズル101が直線状に並ぶ。Y方向において、二つの直線状のノズル101の列がある。X方向において、隣接するノズル101の中心間距離は、例えば340μmである。Y方向において、ノズル101の二つの列の配置間隔は、例えば240μmである。
図4に示すように、アクチュエータ102は、圧電体膜111と、共有電極106の電極部分106aと、配線電極108の電極部分108aと、絶縁膜112とをそれぞれ有する。圧電体膜111は、圧電体の一例である。
圧電体膜111は、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)によって形成された膜である。なお、圧電体膜111はこれに限らず、例えば、PTO(PbTiO3:チタン酸鉛)、PMNT(Pb(Mg1/3Nb2/3)O3−PbTiO3)、PZNT(Pb(Zn1/3Nb2/3)O3−PbTiO3)、ZnO、またはAlNのような種々の材料によって形成されても良い。
圧電体膜111は、円環状に形成される。圧電体膜111は、ノズル101および圧力室201と同一軸上にある。圧電体膜111は、ノズル101を囲む。圧電体膜111の外径は、例えば144μmである。圧電体膜111の内径は、例えば30μmである。
圧電体膜111の厚さは、例えば2μmである。圧電体膜111の厚さは、圧電特性と絶縁破壊電圧などによって決定される。圧電体膜111の厚さは、概ね0.1μmから5μmの範囲である。
圧電体膜111は、配線電極108の電極部分108aと、共有電極106の電極部分106aとの間にある。言い換えると、圧電体膜111に、配線電極108の電極部分108aと、共有電極106の電極部分106aとが重なる。
成膜された圧電体膜111は、その厚み方向(Z方向)に分極を発生させる。配線電極108および共有電極106の電極部分106a,108aは、当該分極の方向と同方向(Z方向)の電界を圧電体膜111に印加する。このとき、アクチュエータ102は電界方向と直交する方向(X,Y方向)に伸縮する。アクチュエータ102の伸縮により、振動板109が、ノズルプレート100の厚み方向(Z方向)に変形する。これにより、圧力室201内のインクに圧力変化が生じる。
アクチュエータ102に含まれる圧電体膜111の動作についてさらに説明する。圧電体膜111は膜厚に対して直交する方向(面内方向、X,Y方向)に収縮または伸張する。
圧電体膜111が収縮すると、圧電体膜111が結合された振動板109は、圧力室201の容積を増大させる方向へ湾曲する。この圧力室201を拡張する振動板109の湾曲は、圧力室201内に貯留されたインクに負圧力を発生させる。発生した負圧により、インクがインク流路構造体300から圧力室201内に供給される。
圧電体膜111が伸張すると、圧電体膜111に結合された振動板109は、圧力室201の容積を減少させる方向へ湾曲する。この振動板109の圧力室201方向への湾曲は、圧力室201内に貯留されたインクに正圧力を発生させる。発生した正圧により、ノズル101からインク滴が吐出する。インクの吐出方向は、Z方向である。圧力室201の容積が増大または縮小するとき、ノズル101近傍の振動板109の一部は、圧電体膜111の変形によって、インクが吐出する方向に変形する。言い換えれば、インクを吐出させるアクチュエータ102はベンディングモードで動作する。
配線電極108の電極部分108aは、圧電体膜111に繋がる二つの電極の一方である。配線電極108の電極部分108aは、圧電体膜111よりも大きい円環状に形成され、圧電体膜111の吐出側(インクジェットヘッド21の外に向く側)にある。
電極部分108aの外径は、例えば148μmである。電極部分108aの内径は、例えば26μmである。このため、電極部分108aの内周部分は、ノズル101から離れる。
共有電極106の電極部分106aは、圧電体膜111に繋がる二つの電極の一方である。共有電極106の電極部分106aは、圧電体膜111よりも小さい円環状に形成され、振動板109の第2の面502にある。電極部分106aの外径は、例えば140μmである。電極部分106aの内径は、例えば34μmである。
絶縁膜112は、圧電体膜111が形成された領域の外側において、共有電極106と配線電極108との間に介在する。このため、共有電極106と配線電極108との間は、圧電体膜111または絶縁膜112によって隔てられる。絶縁膜112は、例えばSiO2によって形成される。絶縁膜112の材料は、他の絶縁性材料であっても良い。絶縁膜112の厚みは、例えば0.2μmである。
図2に示すように、制御部24は、例えばフレキシブルケーブルを介して、インクジェットヘッド21に接続される。制御部24は、例えば、インクジェットヘッド21を制御するICである。
配線電極端子部107は、配線電極108の端部にある。配線電極端子部107は、例えば上記フレキシブルケーブルを介して制御部24に接続され、アクチュエータ102を駆動させるための信号を伝送する。
共有電極端子部105は、振動板109の第2の面502にある。共有電極端子部105は、共有電極106の端部にあり、例えばGND(グランド接地=0V)に接続される。
配線電極108は、対応するアクチュエータ102の圧電体膜111に個別に繋がり、アクチュエータ102を駆動するための信号を伝送する。配線電極108は、圧電体膜111を独立に動作させる個別電極である。複数の配線電極108は、上記の電極部分108aと、配線部と、上記の配線電極端子部107とをそれぞれ有する。
配線電極108の配線部は、電極部分108aから配線電極端子部107に向かってY方向に延びる。配線電極108の電極部分108aは、ノズル101と同心軸上に位置する。電極部分108aの内周部分は、ノズル101から僅かに離れる。
複数の配線電極108は、Pt(白金)の薄膜によって形成される。なお、配線電極108は、Ni(ニッケル)、Cu(銅)、Al(アルミニウム)、Ag(銀)、Ti(チタン)、W(タンタル)、Mo(モリブデン)、Au(金)のような他の材料によって形成されても良い。配線電極108の厚さは、例えば0.5μmである。複数の配線電極108の膜厚は、概ね0.01μmから1μmである。
共有電極106は、複数の圧電体膜111に繋がる。共有電極106は、上記の複数の電極部分106aと、複数の配線部と、上記の二つの共有電極端子部105とを有する。
共有電極106の配線部は、電極部分106aから配線電極108の配線部の反対側に延びる。共有電極106の配線部は、図3に示すノズルプレート100のY方向端部で合体し、ノズルプレート100のX方向両端部に沿って延びる。電極部分106aは、ノズル101と同一軸上にある。共有電極端子部105は、ノズルプレート100のX方向両端にそれぞれある。
共有電極106は、Pt(白金)/Ti(チタン)薄膜によって形成される。共有電極106は、Ni、Cu、Al、Ti、W、Mo、Auのような他の材料によって形成されても良い。共有電極106の厚さは、例えば0.5μmである。共有電極106の厚さは、概ね0.01から1μmである。
配線電極108および共有電極106のそれぞれの配線部の幅は、例えば80μmである。幾つかの配線電極108の配線部は、並んだ二つのアクチュエータ102の間を通る。
図4に示すように、保護膜113は、振動板109の第2の面502上にある。保護膜113は、例えば、絶縁性を有するポリイミドによって形成される。保護膜113はこれに限らず、樹脂、セラミックス、金属(合金)のような他の材料によって形成されても良い。利用される樹脂は、例えば、ABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン)、ポリアセタール、ポリアミド、ポリカーボネート、またはポリエーテルサルフォンなどのプラスチック材である。利用されるセラミックスは、例えば、ジルコニア、炭化ケイ素、窒化ケイ素、またはチタン酸バリウムなどの窒化物または酸化物である。利用される金属は、例えば、アルミ、SUS、またはチタンである。
保護膜113の材料は、振動板109の材料とヤング率が大きく異なる。材料のヤング率と板厚とは、板状の部材の変形量に影響する。一定の力がかかった場合、ヤング率が小さい程、そして板厚が薄い程、変形量が大きい。振動板109を形成するSiO2のヤング率は80.6GPa、保護膜113を形成するポリイミドのヤング率は4GPaである。振動板109と保護膜113とのヤング率の差は76.6GPaである。
保護膜113の厚さは、例えば4μmである。保護膜113の厚さは、概ね1μmから50μmの範囲にある。保護膜113は、振動板109の第2の面502と、共有電極106と、配線電極108と、圧電体膜111とを覆う。
撥インク膜116は、保護膜113の表面113aを覆う。撥インク膜116は、撥液性を有するシリコーン系撥液材料によって形成される。なお、撥インク膜116は、フッ素含有系有機材料のような他の材料によって形成されても良い。撥インク膜116の厚さは、例えば1μmである。撥インク膜116は、共有電極端子部105および配線電極端子部107の周辺の保護膜113を覆わずに露出させる。
図2に示すように、インク流路構造体300は、固定面301と、インク供給口302と、インク回収口303と、一対のインク供給流路304と、インク回収流路305とを有する。インク回収流路305は、インク排出流路の一例である。
インク流路構造体300は、例えばステンレスによって矩形の板状に形成される。インク流路構造体300の厚さは、例えば4mmである。インク流路構造体300の固定面301は、圧力室構造体200の第2端面200bに、例えばエポキシ系接着剤で接着する。
インク流路構造体300の材料は、ステンレスに限定されない。インク流路構造体300はノズルプレート100との膨張係数の差を考慮して、インク吐出圧力発生に影響しない範囲で、セラミックス、樹脂、または金属(合金)のような他の材料によって形成されても良い。利用されるセラミックスは、例えば、アルミナセラミックス、ジルコニア、炭化ケイ素、窒化ケイ素、またはチタン酸バリウムのような窒化物または酸化物である。利用される樹脂は、例えば、ABS、ポリアセタール、ポリアミド、ポリカーボネート、またはポリエーテルサルフォンのようなプラスチック材である。利用される金属は、例えば、アルミまたはチタンである。
インク供給口302は、X方向におけるインク流路構造体300の一方の端部にある。インク供給口302は、インク流路構造体300の厚さ方向(Z方向)に延びる円形の孔である。インク供給口302は、固定面301に開口する。圧力室構造体200が、固定面301に開口したインク供給口302を塞ぐ。
インク供給口302は、例えばチューブのような経路を通じて、インクタンク23に接続される。インクタンク23に収容されたインクは、例えば圧力制御によって、インク供給口302に供給される。
インク回収口303は、X方向におけるインク流路構造体300の他方の端部にある。インク供給口302およびインク回収口303の配置は、インク流路構造体300の両端に限らない。インク供給口302およびインク回収口303は、例えば、インク流路構造体300の一方の端部に揃って位置したり、インク流路構造体300の中央部に揃って位置したりしても良い。
インク回収口303は、インク流路構造体300の厚さ方向(Z方向)に延びる円形の孔である。インク回収口303は、固定面301に開口する。圧力室構造体200が、固定面301に開口したインク回収口303を塞ぐ。インク回収口303の直径は、インク供給口302の直径と等しくても良いし、異なっても良い。
インク回収口303は、例えばチューブのような経路を通じて、インクタンク23に接続される。インク回収口303に流入するインクは、例えば圧力制御によって、インクタンク23に回収される。
一対のインク供給流路304は、固定面301に設けられた溝である。一対のインク供給流路304は、X方向に沿って平行に延びている。インク供給流路304の深さは、例えば1mmである。
インク供給流路304の一方の端部は、インク供給口302に接続される。このため、インクタンク23からインク供給口302に供給されたインクは、一対のインク供給流路304に流入する。
インク回収流路305は、固定面301に設けられた溝である。インク回収流路305は、一対のインク供給流路304の間に位置する。インク回収流路305は、X方向に沿って、インク供給流路304に平行に延びる。インク回収流路305の深さは、例えば1mmである。
インク回収流路305の一方の端部は、インク回収口303に接続される。このため、インク回収流路305に流入したインクは、インク回収口303を通ってインクタンク23に回収される。
図5は、圧力室構造体200およびインク流路構造体300を示す平面図である。図4および図5に示すように、インク流路構造体300は、複数の第1の接続口307と、複数の第2の接続口308とを有する。
複数の第1の接続口307は、複数の圧力室201に開口する。第1の接続口307は、対応する圧力室201とインク供給流路304とを接続する。インク供給流路304に流入したインクは、第1の接続口307を通って、圧力室201に流入する。
複数の第2の接続口308は、複数の圧力室201に開口する。第2の接続口308は、対応する圧力室201とインク回収流路305とを接続する。圧力室201のインクは、第2の接続口308を通って、インク回収流路305に流出する。
第1および第2の接続口307,308は、圧力室構造体200とインク流路構造体300とを貼り合わせることによって形成される。図5に示すように、圧力室201の円弧状の縁と、インク供給流路304またはインク回収流路305の直線状の縁とが、第1および第2の接続口307,308を形成する。第1の接続口307を形成するインク供給流路304の縁と、第2の接続口308を形成するインク回収流路305の縁とは平行である。
第1および第2の接続口307,308の各面積は、例えば、圧力室201の断面積の十分の一である。第1の接続口307の形状および面積は、第2の接続口308の形状および面積と等しい。なお、第1および第2の接続口307,308の形状および面積は、これに限らない。第1および第2の接続口307,308の各面積は、圧力室201の断面積の二分の一より小さい。第1および第2の接続口307,308の各面積は、圧力室構造体200とインク流路構造体300との位置合わせによって調整される。
第1の接続口307および第2の接続口308の位置および形状は、2回対称である。詳しく述べると、第1の接続口307は、円筒形状の孔である圧力室201の中心軸を中心に180°回転したとき、第2の接続口308と重なる。同様に、第2の接続口308は、圧力室201の中心軸を中心に180°回転したとき、第1の接続口307と重なる。
上述したように、圧力室構造体200の厚さは50μmである。圧力室201の直径は、200μmである。圧力室201の直径は、圧力室201の幅である。図4に示すように、第1端面200aから第2端面200bまでの距離(圧力室201の一方の端部から他方の端部までの距離)は、圧力室201の幅よりも短い。言い換えると、圧力室201の厚み方向(Z方向)の長さは、圧力室201の平面方向(X,Y方向)の長さよりも短い。
本実施形態において、圧力室201の幅は、XY平面における圧力室201の最も短い長さと定義される。例えば、圧力室201が長方形の孔である場合、当該長方形の短辺の長さが圧力室201の幅である。
なお、圧力室201の形状および寸法は上述のものに限らない。例えば、圧力室201の厚み方向(Z方向)の長さが、圧力室201の平面方向(X,Y方向)の長さ以上であっても良い。
図5に矢印で示すように、インクタンク23のインクは、インク供給口302を通り、一対のインク供給流路304に流入する。一対のインク供給流路304に供給されたインクは、第1の接続口307を通って、各圧力室201に流入する。圧力室201にインクが充填され、ノズル101にインクのメニスカスが形成される。圧力室201のインクは、第2の接続口308から、インク回収流路305に流出する。インク回収流路305のインクは、インク回収口303を通って、インクタンク23に回収される。
上記のように、インクジェットプリンタ1において、インクは、インクジェットヘッド21とインクタンク23との間で循環する。圧力室201において、インクは第1の接続口307から第2の接続口308へ常に流れている。このため、圧力室201のインクは絶えず入れ替えられる。なお、インクジェットプリンタ1は、圧力室201におけるインクの流れが層流となるように、インクの流速を制御する。
インク不吐出時(待機時)において、インクジェットプリンタ1は、ノズル101内にインクのメニスカスを保つように、循環するインクの圧力を制御する。説明のため、圧力室201内のノズル101近傍におけるインクの圧力をP1、インク供給流路304におけるインクの圧力をP2、インク回収流路305におけるインクの圧力をP3とする。インクジェットプリンタ1は、インクジェットヘッド21におけるインクの圧力を、P2>P1>P3となるように制御する。また、当該制御は、圧力P1を、大気圧に対してやや負圧にする。
第1および第2の接続口307,308においてインクの流れに抵抗が生じるため、圧力室201、インク供給流路304、およびインク回収流路305で圧力差が生じる。このため、インクジェットプリンタ1は、圧力室201内のインク圧力を、インク回収流路305内より高く、インク供給流路304内より低くする。
上記インクの圧力制御は、例えば、インクジェットヘッド21とインクタンク23との間のインク経路に圧力調整用のタンクを設け、ポンプや弁によって当該タンクの圧力を調整することで行われる。なお、インクの圧力制御の方法はこれに限らない。
上述のインクジェットヘッド21は、次のように印字(画像形成)を行う。図2に示すインクタンク23から、インクがインク流路構造体300のインク供給口302に供給される。インクは、インク供給流路304および第1の接続口307を通って、圧力室201に供給される。圧力室201に供給されたインクは、対応するノズル101内に供給され、ノズル101にメニスカスを形成する。インクジェットプリンタ1は、インク供給口302から供給されるインクを適切な負圧にし、ノズル101内のインクを漏れないようにノズル101内に保つ。
例えばユーザの操作により、制御部24に印字指示信号が入力される。印字指示を受けた制御部24は、配線電極108を介して、アクチュエータ102に信号を出力する。言い換えると、制御部24は、配線電極108の電極部分108aに駆動電圧を印加する。これにより、圧電体膜111に分極方向と同方向(Z方向)の電界が印加され、アクチュエータ102が電界方向と直交する方向(X,Y方向)に伸縮する。
アクチュエータ102は、振動板109と保護膜113に挟まれる。このため、アクチュエータ102がX,Y方向に伸びた場合、振動板109に、圧力室201側に対して凹形状に変形する力がかかる。反対に、保護膜113に、圧力室201側に対して凸形状に変形する力がかかる。
アクチュエータ102がX,Y方向に縮んだ場合、振動板109に、圧力室201側に対して凸形状に変形する力がかかる。また、保護膜113に、圧力室201側に対して凹形状に変形する力がかかる。
保護膜113を形成するポリイミド膜は、振動板109を形成するSiO2膜よりヤング率が小さい。このため、同じ力に対して保護膜113の方が変形量は大きい。アクチュエータ102がX,Y方向に伸びた場合、ノズルプレート100は圧力室201側に対して凸形状に変形する。これにより、圧力室201の容積が縮小する(保護膜113が圧力室201側に対して凸形状に変形する量の方が大きいため)。
反対に、アクチュエータ102がX,Y方向に縮んだ場合、ノズルプレート100は圧力室201側に対して凹形状に変形する。これにより、圧力室201の容積が拡大する(保護膜113が圧力室201側に対して凹形状に変形する量の方が大きいため)。
振動板109が変形して圧力室201の容積が増減すると、圧力室201のインクに圧力変化が生じる。当該圧力変化によって、ノズル101内のインクが吐出する。
振動板109と保護膜113のヤング率の差が大きい程、一定の電圧をアクチュエータ102に印加した際の振動板109の変形量が大きくなる。そのため、振動板109と保護膜113のヤング率の差が大きいほど、より低い電圧でのインク吐出が可能となる。
振動板109と保護膜113との膜厚およびヤング率が同じ場合、アクチュエータ102に電圧印加しても、振動板109と保護膜113は正反対の方向に同じ量変形する力がかかる。このため、振動板109は変形しない。
なお、上述したように、材料のヤング率だけでなく、板厚も板材の変形量に影響する。そのため、振動板109と保護膜113の変形量に差をつける場合は、材料のヤング率だけでなく、それぞれの膜厚も考慮される。振動板109と保護膜113の材料のヤング率が同じでも、膜厚に違いがあれば、駆動させる電圧は高くなるが、インク吐出は可能である。
次に、インクジェットヘッド21の製造方法の一例について説明する。まず、圧力室201が形成される前の圧力室構造体200(シリコンウエハ)の第1端面200aの全域に、振動板109を形成するSiO2膜を成膜する。当該SiO2膜は、CVD法によって成膜される。
次に、振動板109の第2の面502に、共有電極106を形成する金属膜を成膜する。まず、スパッタリング法を用いてTiとPtとを順番に成膜する。Tiの膜厚は例えば0.45μm、Pt膜厚は例えば0.05μmである。なお、金属膜は、蒸着または鍍金のような他の製法によって形成されても良い。
上記金属膜を成膜した後に、パターニングによって、共有電極106を形成する。パターニングは、電極膜上にエッチングマスクを作り、エッチングマスク以外の電極材料をエッチングによって除去することで行う。
共有電極106の電極部分106aの中心にノズル101が形成されるため、電極部分106aの中心と同心円の電極膜がない部分が形成される。共有電極106をパターニングすることで、共有電極106の電極部分106a、配線部、および共有電極端子部105以外では、振動板109が露出する。
次に、共有電極106上に圧電体膜111を形成する。圧電体膜111は、例えばRFマグネトロンスパッタリング法により基板温度350℃で成膜される。圧電体膜111は、成膜後、圧電体膜111に圧電性を付与するために、500℃で3時間熱処理される。これにより、圧電体膜111は良好な圧電性能を得る。圧電体膜111は、例えば、CVD(化学的気相成長法)、ゾルゲル法、AD法(エアロゾルデポジション法)、水熱合成法のような他の製法によって形成されても良い。圧電体膜111を、エッチングによってパターニングする。
圧電体膜111の中心にノズル101が形成されるため、圧電体膜111と同心円の圧電体膜がない部分が形成される。圧電体膜111のない部分では、振動板109が露出する。圧電体膜111は、共有電極106の電極部分106aを覆う。
次に、圧電体膜111の一部と共有電極106の一部との上に、絶縁膜112を形成する。絶縁膜112は、良好な絶縁性を低温成膜にて実現できるCVD法によって形成される。絶縁膜112は、成膜後にパターニングされる。パターニング加工バラツキによる不具合を抑制するため、絶縁膜112は圧電体膜111を一部のみ覆う。絶縁膜112は、圧電体膜111の変形量を阻害しないように圧電体膜111を覆う。
次に、振動板109、圧電体膜111、および絶縁膜112の上に、配線電極108を形成する金属膜を成膜する。当該金属膜は、スパッタリング法によって成膜される。金属膜は、真空蒸着または鍍金のような他の製法によって形成されても良い。
上記金属膜をパターニングすることで、配線電極108を形成する。パターニングは、電極膜上にエッチングマスクを作り、エッチングマスク以外の電極材料をエッチングによって除去することで行う。
配線電極108の電極部分108aの中心にノズル101が形成されるため、配線電極108の電極部分108aの中心と同心円の電極膜がない部分が形成される。配線電極108の電極部分108aは、圧電体膜111を覆う。
次に、振動板109のSiO2膜をパターニングし、ノズル101の一部を形成する。パターニングは、SiO2膜上にエッチングマスクを作り、エッチングマスク以外のSiO2膜をエッチングによって除去することで行う。
エッチングマスクは、感光性レジストを振動板109の上に塗布した後に、プリベークを行い、所望のパターンが形成されたマスクを用いて露光し、現像し、ポストベークを行って形成される。
次に、振動板109の第2の面502の上に、保護膜113がスピンコーティング法によって成膜される。保護膜113は、例えば、CVD、真空蒸着、または鍍金のような他の方法によって形成されても良い。
次に、保護膜113をパターニングすることによって、ノズル101を形成する。振動板109に設けられた複数のノズル101の一部に連通する複数の孔を保護膜113に設けることで、ノズル101が形成される。さらに、パターニングによって、共有電極端子部105と、配線電極端子部107とを露出させる。
例えば、ポリイミド前駆体を含有した溶液をスピンコーティング法によって成膜する。ベークによって熱重合と溶剤除去を行って当該溶液を焼成成形する。その後、ポリイミド膜上にエッチングマスクを作り、エッチングマスク以外のポリイミド膜をエッチングによって除去することで、パターニングがなされる。エッチングマスクは、感光性レジストをポリイミド膜上に塗布した後に、プリベークを行い、所望のパターンが形成されたマスクを用いて露光し、現像し、ポストベークを行って形成される。
次に、保護膜113の上にカバーテープを貼り付ける。カバーテープは、例えば、シリコンウエハの化学機械研磨(Chemical Mecanical Polishing:CMP)用の裏面保護テープである。カバーテープが貼り付けられた圧力室構造体200を上下反転し、圧力室構造体200に複数の圧力室201を形成する。圧力室201は、パターニングによって形成される。
シリコンウエハである圧力室構造体200上にエッチングマスクを作り、シリコン基板専用のいわゆる垂直深堀ドライエッチングを用いて、エッチングマスク以外のシリコンウエハを除去する。これにより、圧力室201が形成される。
上記エッチングに用いられるSF6ガスは、振動板109のSiO2膜や保護膜113のポリイミド膜に対してはエッチング作用を及ぼさない。そのため、圧力室201を形成するシリコンウエハのドライエッチングの進行は、振動板109で止まる。
なお、上述のエッチングは、薬液を用いるウェットエッチング法、またはプラズマを用いるドライエッチング法のような、種々の方法であっても良い。絶縁膜、電極膜、圧電体膜などの材料によって、エッチング方法やエッチング条件を変えて良い。各感光性レジスト膜によるエッチング加工が終了した後、残った感光性レジスト膜は溶解液によって除去される。
次に、圧力室構造体200に、インク流路構造体300を接着する。圧力室構造体200にインク流路構造体300を貼り付けることで、複数の第1および第2の接続口307,308が形成される。
次に、保護膜113にカバーテープを貼り付け、共有電極端子部105と配線電極端子部107とを覆う。カバーテープは樹脂によって形成され、保護膜113から容易に脱着可能である。カバーテープは、共有電極端子部105および配線電極端子部107に、ゴミや、後述する撥インク膜116が付着することを防止する。
次に、保護膜113上に撥インク膜116を形成する。撥インク膜116は、保護膜113上に液状の撥インク膜材料をスピンコーティングすることによって成膜される。この際、インク供給口302およびインク回収口303より陽圧空気を注入する。これにより、インク供給流路304と繋がったノズル101から陽圧空気が排出される。この状態で、液体の撥インク膜材料を塗布すると、ノズル101内壁に撥インク膜材料が付着することが抑制される。撥インク膜116が形成された後、カバーテープを保護膜113から剥がす。
上記工程によって、インクジェットヘッド21が製造される。インクジェットヘッド21は、インクジェットプリンタ1の内部に搭載される。配線電極端子部107に、例えばフレキシブルケーブルを介して制御部24が接続される。さらに、インク流路構造体300のインク供給口302およびインク回収口303が、インクタンク23に接続される。
第1の実施形態のインクジェットプリンタ1によれば、第1の接続口307から圧力室201にインクが供給され、第2の接続口308から圧力室201のインクが排出される。圧力室201のインクは、常に入れ替えられる。これにより、圧力室201に気泡が発生したとしても、気泡がインクとともに第2の接続口308から排出されるため、気泡によるインクの不吐出を抑制できる。
さらに、インクが圧力室201内を留まらずに流れることで、ノズル101近傍のインクも絶えず入れ替わる。これにより、ノズル101内のインクの溶媒が乾燥することで顔料が凝集し、顔料の凝集物がノズル101を閉塞する、ということを抑制できる。
このように、気泡および凝集した顔料によるインクの不吐出が抑制されるため、圧力室201内のインクを入れ替えるようなメンテナンスが不要となる。したがって、インクジェットプリンタ1の運転効率が向上し、メンテナンス費用が低減できる。
また、圧力室201に新しいインクが常に供給されることにより、圧力室201内のインク温度を一定に保つことができる。すなわち、インクジェットヘッド21は、ノズルプレート100の変形によって発生した熱によるインクの温度上昇を抑制する。これにより、温度変化によるインクの特性変化を抑制できる。
第1の接続口307と第2の接続口308とが、2回対称の位置にある。このため、圧力室201中のインクの流速のばらつきが抑制される。したがって、圧力室201中に気泡が留まることを抑制でき、インクの不吐出を抑制できる。
詳しく説明すると、第1の接続口307と第2の接続口308とが2回対称の位置にあることで、圧力室201内の平面方向(Y方向)のインク流れの速度分布(ばらつき)が小さくなる。このため、圧力室201内のどこに気泡が発生しても、圧力室201における気泡の滞留時間を短縮でき、気泡を早くインク回収流路305へ排出できる。
上述したように、圧力室201のノズル101近傍におけるインクの圧力P1は、大気圧に対してやや負圧で、且つP2>P1>P3となるように制御される。第1および第2の接続口307,308の各面積は互いに等しい。このため、圧力室201におけるインクの圧力制御が容易になり、インクの不吐出を抑制できる。
詳しく説明すると、例えば、第1の接続口307の面積が第2の接続口308の面積よりも小さい場合、圧力室201内のインクはインク回収流路305へ引き込まれ易い。これにより、インクのメニスカスの位置が、ノズル101から圧力室201内まで後退する。
反対に、第2の接続口308の面積が第1の接続口307の面積よりも小さい場合、圧力室201内のインク圧力が高くなる。これにより、インクのメニスカスの位置が、ノズル101の外まで前進する。
上記のように第1および第2の接続口307,308の各面積が異なる場合、圧電体膜111により生じる圧力室201内の圧力変化が小さくなる。このため、ノズル101からインクを吐出させる圧力変化が生じず、インクの不吐出が生じるおそれがある。しかし、第1の実施形態のように、第1および第2の接続口307,308の各面積が互いに等しいならば、インクの不吐出を抑制できる。
圧力室201の一方の端部から他方の端部までの距離(圧力室201の深さ)が、圧力室201の幅よりも短い。このため、厚さ方向(Z方向)における圧力室201内でのインク流れの速度分布(ばらつき)が抑制される。これにより、圧力室201内のどこに気泡が発生しても、圧力室201における気泡の滞留時間を短縮でき、気泡を早くインク回収流路305へ排出できる。したがって、圧力室201中に気泡が留まることを抑制でき、インクの不吐出を抑制できる。
圧力室201の縁と、インク供給流路304またはインク回収流路305の縁とが、第1および第2の接続口307,308を形成する。これにより、第1および第2の接続口307,308を形成するための別途の部品が不要となり、インクジェットヘッド21の構造を簡略化することができる。
次に、図6を参照して、第2の実施の形態について説明する。なお、以下に開示する複数の実施形態において、第1の実施形態のインクジェットプリンタ1と同様の機能を有する構成部分には同一の参照符号を付す。さらに、当該構成部分については、その説明を一部または全て省略することがある。
図6は、第2の実施の形態に係るインクジェットヘッド21の一部を示す断面図である。図6に示すように、第2の実施の形態において、保護膜113のみがノズル101を有し、振動板109はノズル101を有しない。振動板109は、複数のノズル外開口601を有する。
ノズル外開口601の直径は、例えば26μmであり、ノズル101の直径よりも大きい。ノズル外開口601は、ノズル101および圧力室201と同一軸上にある円形の孔である。ノズル外開口601は、圧力室201に連通する。
保護膜113は、ノズル外開口601の内周面を覆う。ノズル外開口601の内周面を覆う保護膜113の内周面が、ノズル101の一部を形成する。ノズル101は、ノズル外開口601の内側にある。
第2の実施形態のインクジェットヘッド21によれば、ノズル101は保護膜113に形成され、振動板109に形成されない。これにより、振動板109に設けられたノズル101の一部と、保護膜113に設けられたノズル101の一部とに、形状および位置の不均一が生じることを抑制できる。したがって、ノズル101の形状が不均一になることを抑制でき、複数のノズル101間のインク液滴の着弾位置精度が向上する。
次に、図7を参照して、第3の実施の形態について説明する。図7は、第3の実施の形態に係るインクジェットヘッド21の一部を示す断面図である。図7に示すように、第3の実施の形態において、振動板109のみがノズル101を有し、保護膜113はノズル101を有しない。保護膜113は、複数の開口部605を有する。
開口部605の直径は、例えば30μmであり、ノズル101の直径よりも大きい。開口部605は、ノズル101および圧力室201と同一軸上にある円形の孔である。開口部605は、ノズル101に連通する。
撥インク膜116が、開口部605の内周面を覆う。開口部605の内周面を覆う撥インク膜116の内周面の直径は、例えば26μmであり、ノズル101の直径よりも大きい。撥インク膜116は、ノズル101を囲む振動板109の第2の面502の一部を覆わずに露出させる。
第3の実施形態のインクジェットヘッド21によれば、ノズル101は振動板109に形成され、保護膜113に形成されない。これにより、振動板109に設けられたノズル101の一部と、保護膜113に設けられたノズル101の一部とに、形状および位置の不均一が生じることを抑制できる。したがって、ノズル101の形状が不均一になることを抑制でき、複数のノズル101間のインク液滴の着弾位置精度が向上する。
次に、図8および図9を参照して、第4の実施の形態について説明する。図8は、第4の実施の形態に係るインクジェットヘッド21を分解して示す斜視図である。図9は、第4の実施形態のインクジェットヘッド21の一部を示す断面図である。図8に示すように、第4の実施形態のノズル101は、第1の実施形態と異なり、アクチュエータ102の外に配置される。
圧力室201の円形断面の中心から離れた位置に、対応するノズル101の中心がある。圧力室201は、対応するアクチュエータ102およびノズル101を囲む。このため、ノズル101は、圧力室201に連通する。
アクチュエータ102は、円形状に形成され、対応するノズル101とは異なる位置にある。アクチュエータ102の中心は圧力室201の円形断面の中心から離れた位置にある。なお、アクチュエータ102は、圧力室201と同一軸上にあっても良い。
第4の実施形態のインクジェットヘッド21によれば、ノズル101がアクチュエータ102と異なる位置にある。このため、アクチュエータ102の共有電極106、圧電体膜111、および配線電極108の中心に、ノズル101を形成するための円形パターニングが不要になる。これにより、パターニングの不良によるインク吐出位置の精度不良を抑制できる。
次に、図10および図11を参照して、第5の実施の形態について説明する。図10は、第5の実施の形態に係るインクジェットヘッド21を分解して示す斜視図である。図11は、第5の実施形態の圧力室構造体200およびインク流路構造体300を示す平面図である。図10に示すように、第5の実施形態において、アクチュエータ102と圧力室201との形状が、第1の実施形態と異なる。
第5の実施形態のアクチュエータ102は、正方形状である。アクチュエータ102の一片の長さは、例えば140μmである。圧力室201も、正方形状の孔である。圧力室201の一片の長さは、例えば200μmである。なお、アクチュエータ102と圧力室201との形状は正方形に限らず、矩形のような他の形状であっても良い。
図11に示すように、第1および第2の接続口307,308は、矩形状に形成される。インク供給流路304またはインク回収流路305の直線状の縁と、圧力室201の三つの直線状の縁とが、第1および第2の接続口307,308を形成する。第1の実施形態と同様に、第1の接続口307と第2の接続口308とは、同じ面積を有し、2回対称の位置にある。
第5の実施形態のインクジェットヘッド21によれば、第1の接続口307の面積と第2の接続口308の面積とが不均一になることを抑制できる。例えば、圧力室構造体200とインク流路構造体300との貼り合わせ位置が、Y方向にずれる可能性がある。この場合、第1の接続口307の面積と第2の接続口308の面積との差が生じる。圧力室201が正方形状である場合の当該面積の差は、圧力室201が円形状である場合の当該面積の差よりも小さい。したがって、圧力室構造体200とインク流路構造体300との貼り合わせ位置の公差を大きく取ることができる。さらに、インクジェットヘッド21の歩留まりが向上する。
次に、図12および図13を参照して、第6の実施の形態について説明する。図12は、第6の実施の形態に係るインクジェットヘッド21を分解して示す斜視図である。図13は、第6の実施形態の圧力室構造体200、インク流路構造体300、およびセパレートプレート700を示す平面図である。
図12に示すように、第6の実施形態のインクジェットヘッド21は、セパレートプレート700をさらに有する。インク流路構造体300およびセパレートプレート700は、インク供給部材の一例である。セパレートプレート700は、矩形の板状に形成され、圧力室構造体200とインク流路構造体300との間に介在する。
セパレートプレート700は、例えばステンレスによって形成される。セパレートプレート700は、圧力室構造体200の第2端面200bと、インク流路構造体300の固定面301とに、例えばエポキシ系接着剤で接着する。
セパレートプレート700の材料は、ステンレスに限定されない。セパレートプレート700はノズルプレート100との膨張係数の差を考慮して、インク吐出圧力発生に影響しない範囲で、セラミックス、樹脂、または金属(合金)のような他の材料によって形成されても良い。利用されるセラミックスは、例えば、アルミナセラミックス、ジルコニア、炭化ケイ素、窒化ケイ素、またはチタン酸バリウムのような窒化物または酸化物である。利用される樹脂は、例えば、ABS、ポリアセタール、ポリアミド、ポリカーボネート、またはポリエーテルサルフォンのようなプラスチック材である。利用される金属は、例えば、アルミまたはチタンである。
セパレートプレート700は、複数の第1の接続口701と、複数の第2の接続口702とを有する。第1および第2の接続口701,702は、例えば円形の孔であって、同じ面積を有する。
図13に示すように、第1および第2の接続口701,702は、対応する圧力室201にそれぞれ開口する。さらに、第1の接続口701はインク供給流路304に開口し、第2の接続口702はインク回収流路305に開口する。このため、インク供給流路304は、第1の接続口701を通じて圧力室201に連通する。インク回収流路305は、第2の接続口702を通じて圧力室201に連通する。圧力室201において、第1の接続口701と第2の接続口702とは、2回対称の位置にある。
第6の実施形態のインクジェットヘッド21によれば、セパレートプレート700が、第1および第2の接続口701,702を有する。これにより、圧力室構造体200とインク流路構造体300との貼り合わせ位置がずれたとしても、第1および第2の接続口701,702の面積が均一になる。したがって、インクの不吐出を抑制でき、インクジェットヘッド21の歩留まりも向上する。
以上述べた少なくとも一つのインクジェットヘッドによれば、第1の接続口から圧力室にインクが供給され、第2の接続口から圧力室のインクが排出される。これにより、インクの不吐出を抑制できる。
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
例えば、上記の実施形態では、圧力室構造体200の上に振動板109が作成される。しかし、振動板109を圧力室構造体200の上に作成する代わりに、圧力室構造体200の一部を振動板として利用しても良い。例えば、圧力室構造体200の第1端面200aにアクチュエータ102を形成し、第2端面200bから圧力室201に相当する位置に圧力室構造体200を貫通しない穴を形成する。圧力室構造体200の第1端面200a側には薄い層が残り、この部分が振動板として動作する。
さらに、インクジェットヘッド21は、各圧力室201を塞ぐ複数の振動板109を有しても良い。当該複数の振動板109は、圧力室構造体200の第1端面200aに、例えば接着剤によって固定されても良い。