以下に、第1の実施の形態について、図1から図7を参照して説明する。また、各図面は実施形態を概略的に示すものであり、図面に示される各要素の寸法は、実施形態の説明と異なることがある。
図1は、第1の実施の形態に係るインクジェットプリンタ1を示す概略図である。インクジェットプリンタ1は、インクジェット記録装置の一例である。なお、インクジェット記録装置はこれに限らず、複写機のような他の装置であっても良い。
図1に示すように、インクジェットプリンタ1は、例えば、記録媒体である記録紙Pを搬送しながら画像形成等の各種処理を行う。インクジェットプリンタ1は、筐体10と、給紙カセット11と、排紙トレイ12と、保持ローラ(ドラム)13と、搬送装置14と、保持装置15と、画像形成装置16と、除電剥離装置17と、反転装置18と、クリーニング装置19とを備える。
給紙カセット11は、複数の記録紙Pを収容して、筐体10内に配置される。排紙トレイ12は、筐体10の上部にある。インクジェットプリンタ1によって画像形成がされた記録紙Pは、排紙トレイ12に排出される。
搬送装置14は、記録紙Pが搬送される経路に沿って配置された複数のガイドおよび複数の搬送ローラを有する。当該搬送ローラは、モータに駆動されて回転することで、記録紙Pを給紙カセット11から排紙トレイ12まで搬送する。
保持ローラ13は、導体によって形成された円筒状のフレームと、このフレームの表面に形成された薄い絶縁層(図示せず)とを有する。このフレームは接地(グランド接続)されている。保持ローラ13は、その表面上に記録紙Pを保持した状態で回転することにより、記録紙Pを搬送する。
保持装置15は、搬送装置14によって給紙カセット11から搬出された記録紙Pを、保持ローラ13の表面(外周面)に吸着させて保持させる。保持装置15は、記録紙Pを保持ローラ13に対して押圧した後、帯電による静電気力で記録紙Pを保持ローラ13に吸着させる。
画像形成装置16は、保持装置15によって保持ローラ13の外面に保持された記録紙Pに、画像を形成する。画像形成装置16は、保持ローラ13の表面に面する複数のインクジェットヘッド21を有する。複数のインクジェットヘッド21は、例えば、シアン、マゼンダ、イエロー、ブラックの四色のインクを、それぞれ記録紙Pに吐出することで、画像を形成する。
除電剥離装置17は、画像が形成された記録紙Pを、除電することで、保持ローラ13から剥離する。除電剥離装置17は、電荷を供給して記録紙Pを除電し、記録紙Pと保持ローラ13との間に爪を挿入する。これにより、記録紙Pは保持ローラ13から剥離される。保持ローラ13から剥離された記録紙Pは、搬送装置14によって、排紙トレイ12または反転装置18に搬送される。
クリーニング装置19は、保持ローラ13を清浄する。クリーニング装置19は、保持ローラ13の回転方向において除電剥離装置17よりも下流にある。クリーニング装置19は、回転する保持ローラ13の表面にクリーニング部材19aを当接させ、回転する保持ローラ13の表面を洗浄する。
反転装置18は、保持ローラ13から剥離された記録紙Pの表裏面を反転させ、当該記録紙Pを再び保持ローラ13の表面上に供給する。反転装置18は、例えば記録紙Pを前後方向逆にスイッチバックさせる所定の反転経路に沿って記録紙Pを搬送することにより、記録紙Pを反転させる。
図2は、画像形成装置16に含まれる一つのインクジェットヘッド21を分解して示す斜視図である。図3は、インクジェットヘッド21を示す平面図である。図4は、図3のF4−F4線に沿ってインクジェットヘッド21を切断した断面図である。なお、図2は、ノズルプレート100を説明するため、インクジェットヘッド21を図1の取り付け方向とは180度逆転して示した斜視図である。また、図2よび図3は、説明のために、本来は隠れる種々の要素を実線で示している。
図2に示すように、インクジェットプリンタ1は、複数のインクジェットヘッド21に接続される複数のインクタンク23および複数の制御部24を備える。インクジェットヘッド21は、対応する色のインクを収容するインクタンク23に接続される。インクジェットヘッド21は、保持ローラ13に保持された記録紙Pに、インク滴を吐出することで文字や画像を形成する(図1)。インクジェットヘッド21は、ノズルプレート100と、圧力室構造体200と、インク室500(インク室500は、セパレートプレート300と、インク流路構造体400とを有する。)とを含む。圧力室構造体200は、基材の一例である。
ノズルプレート100は、矩形の板状に形成される。ノズルプレート100は、圧力室構造体200に重ねて、一体構造として形成される。ノズルプレート100は、振動板104、複数のノズル(オリフィス、インク吐出孔)101および、複数の駆動素子(圧電素子、アクチュエータ)102を有する。
複数のノズル101は、切頭円錐形の孔である。ノズル101の直径は、例えば20μmである。ノズル101は、ノズルプレート100の長手方向に沿って二列に並んでいる。一方の列のノズル101と、他方の列のノズル101とは、ノズルプレート100の長手方向において交互に配置される。すなわち、複数のノズル101は、千鳥状(互い違い)に配置される。これにより、複数の駆動素子102をより高密度に配置することができる。
ノズルプレート100の長手方向において、隣接するノズル101の中心間距離は、例えば、340μmである。ノズルプレート100の短手方向において、ノズル101の二つの列の間の距離は、例えば、240μmである。
複数の駆動素子102は、複数のノズル101に対応して配置される。言い換えると、駆動素子102は、対応するノズル101と同軸に位置する。駆動素子102は、円環状に形成され、対応するノズル101を囲む。駆動素子102はこれに限らず、例えば、一部が開放された円環状(C字状)であっても良い。
図2に示す、基材である圧力室構造体200は、シリコンウエハによって、矩形の板状に形成される。なお、圧力室構造体200はこれに限らず、例えば、炭化シリコン(SiC)やゲルマニウム基板のような他の半導体であっても良い。また、基材はこれに限らず、セラミックス、ガラス、石英、樹脂、または金属のような他の材料によって形成されても良い。利用されるセラミックスは、例えば、アルミナセラミックス、ジルコニア、炭化ケイ素、窒化ケイ素、またはチタン酸バリウムのような窒化物、炭化物、または酸化物である。利用される樹脂としては、例えば、ABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン)、ポリアセタール、ポリアミド、ポリカーボネート、またはポリエーテルサルフォンのようなプラスチック材である。利用される金属としては、例えばアルミまたはチタンである。本実施形態の圧力室構造体200の厚さは、例えば725μmである。圧力室構造体200の厚さは、例えば、100〜775μmの範囲が好ましい。
図4は、インクジェットヘッド21を図3のF4−F4線で切断した面の一部を拡大した概略図である。図4に示すように、圧力室構造体200は、第1の面200aと、第2の面200bと、複数の圧力室(インク室)201を有する。第1の面200aおよび第2の面200bは、平坦化されている。第2の面200bは、第1の面200aに対向して設けられている。ノズルプレート100は、第1の面200aに固着される。
図2に示すように、複数の圧力室201は円筒の孔である。圧力室201の直径は、例えば、190μmである。なお、圧力室201の形状はこれに限らない。圧力室201は、圧力室構造体200をその厚さ方向に貫通し、第1の面200aおよび第2の面200bにそれぞれ開口する。複数の圧力室201の第1の面200a側は、ノズルプレート100により塞がれる。
図4に示すように、複数の圧力室201は、複数のノズル101に対応して配置される。言い換えると、圧力室201は、対応するノズル101と同軸に位置する。圧力室201に、各ノズル101は連通する。圧力室201は、ノズル101を介してインクジェットヘッド21の外部につながる。
図2および図4に示すように、セパレートプレート300は、例えばステンレスによって矩形の板状に形成される。セパレートプレート300の厚さは、例えば200μmである。セパレートプレート300は、圧力室構造体200の第2の面200bに形成されたレジストマスク210に、例えばエポキシ系接着剤によって接着される。このため、第2の面200bに開口する圧力室201は、セパレートプレート300によって塞がれる。
セパレートプレート300は、複数のインク絞り301を有する。インク絞り301は、円形の孔である。インク絞り301の直径は、例えば50μmである。インク絞り301の直径は、圧力室201の直径の1/4以下である。
インク絞り301は、複数の圧力室201に対応して配置される。言い換えると、インク絞り301は、対応する圧力室201と同軸に位置する。
図2および図4に示すように、インク流路構造体400は、例えばステンレスによって矩形の板状に形成される。インク流路構造体400の厚さは、例えば4mmである。なお、インク流路構造体400および上記セパレートプレート300の材料は、ステンレスに限らない。例えば、セラミックスまたは樹脂のような他の材料によって形成されても良い。使用されるセラミックスは、例えば、アルミナセラミックス、ジルコニア、炭化ケイ素、窒化ケイ素のような窒化物、炭化物、または酸化物である。使用される樹脂は、例えば、ABS、ポリアセタール、ポリアミド、ポリカーボネート、またはポリエーテルサルフォンのようなプラスチック材である。セパレートプレート300およびインク流路構造体400の材料は、インクを吐出するための圧力の発生に影響が生じないように、ノズルプレート100との膨張係数の差を考慮して選択される。
インク流路構造体400は、例えばエポキシ系接着剤によって、セパレートプレート300と接着されインク室500を形成する。セパレートプレート300は、圧力室構造体200とインク流路構造体400とに挟まれる。図2に示すように、インク流路構造体400は、インク流路401と、インク供給口402と、インク排出口403とを有する。インク室500は、インクを圧力室201へ案内するとともに、余ったインクを循環させる機能を有している。なお、インク室500は、セパレートプレート300を必ずしも必要とするものではない。
図2に示すように、インク流路401は、セパレートプレート300側のインク流路構造体400の表面に形成された溝である。インク流路401の深さは、例えば2mmである。インク流路401は、全てのインク絞り301に対向する。言い換えると、複数のインク絞り301は、インク流路401に連通する。
インク供給口402は、インク流路401の一方の端部でインク流路401の底部を貫通して設けられている。インク供給口402は、例えばチューブを介してインクタンク23に接続される。インクタンク23は、インク流路401およびインク絞り301を介して複数の圧力室201に接続される。
インクタンク23のインクは、インク供給口402を通って、インク流路401に流入する。インク流路401に供給されたインクは、複数のインク絞り301を通って、複数の圧力室201に供給される。インク絞り301は、複数の圧力室201へそれぞれ流入するインクの流路抵抗をほぼ同程度にする。圧力室201に充填されたインクは、圧力室201に連通するノズル101内にも流入する。インクジェットプリンタ1は、インクの圧力を適切な負圧に保つことで、インクをノズル101内に留める。インクは、ノズル101内にメニスカスを生じさせるとともに、ノズル101から漏れ出さないように維持される。
図2に示すように、インク排出口403は、インク流路401の他方の端部でインク流路401の底部を貫通して設けられている。インク排出口403は、例えばチューブを介してインクタンク23に接続される。圧力室201に流入しなかったインク流路401のインクは、インク排出口403を通って、インクタンク23に排出される。このように、インクタンク23とインク流路401との間で、インクが循環する。インクが循環することで、インクジェットヘッド21と、インクとの温度が一定に保たれ、例えば熱によるインクの変質が抑制される。
次に、ノズルプレート100について詳しく説明する。図2および図4に示すように、ノズルプレート100は、ノズル101および駆動素子102と、振動板104と、絶縁膜105と、複数の配線電極106と、共有電極107と、保護膜108と、撥インク膜109とを有する。絶縁膜105および保護膜108は、絶縁部の一例である。
振動板104は、例えば、圧力室構造体200の第1の面200aに積層されたSiO2(二酸化ケイ素)によって、矩形の板状に形成される。言い換えると、振動板104は、シリコンウエハである圧力室構造体200の酸化膜である。振動板104は、単結晶Si(ケイ素)、Al2O3(酸化アルミニウム)、HfO2(酸化ハフニウム)、ZrO2(酸化ジルコニウム)、またはDLC(Diamond Like Carbon)のような他の材料によって形成されても良い。
図4に示すように、振動板104は、第1の面104aと、第2の面104bとを有する。振動板104の厚さは、例えば4μmである。振動板104の厚さは、概ね1〜50μmの範囲にある。第1の面104aは、圧力室構造体200に固着し、複数の圧力室201を塞ぐ。第2の面104bは、第1の面104aの反対側の面である。
複数の配線電極106は、振動板104の第2の面104bに形成される。図3および図4に示すように、複数の配線電極106は、端子部106aと、配線部106bと、電極部106cとをそれぞれ有する。複数の配線電極106の端子部106aは、振動板104の短手方向の一方の端部に位置し、振動板104の長手方向に沿って並ぶ。各端子部106aの間の距離は、170μmである。
図3および図4に示すように、共有電極107は、二つの端子部107aと、複数の配線部107bと、複数の電極部107cとを有する。配線部107bは、引出配線の一例である。二つの端子部107aは、振動板104の短手方向の一方の端部に位置し、複数の端子部106aを間にはさんで、振動板104の長手方向の両端部に配置される。つまり、複数の配線電極106の端子部106aは、共有電極107の二つの端子部107aの間に並ぶ。
複数の配線電極106は、例えば、Pt(白金)およびAl(アルミニウム)の薄膜である。共有電極107の端子部107aおよび配線部107bは、例えば、Ti(チタン)およびAlの薄膜である。共有電極107の電極部107cは、Ptの薄膜である。なお、複数の配線電極106および共有電極107は、Ni(ニッケル)、Cu(銅)、A1(アルミニウム)、Ag(銀)、Ti(チタン)、W(タングステン)、Mo(モリブデン)、Au(金)のような他の材料によって形成されても良い。
複数の配線電極106および共有電極107の厚さは、例えば0.5μmである。複数の配線電極106および共有電極107の膜厚は、概ね0.01〜1μmの範囲にある。複数の配線電極106および共有電極107の配線部106b,107bの幅は、例えば80μmである。
駆動素子102は、振動板104の第2の面104bにある。駆動素子102は、対応するノズル101からインク滴を吐出させるための圧力を、対応する圧力室201のインクに発生させる。
駆動素子102は、配線電極106の電極部106cと、共有電極107の電極部107cと、圧電体膜111とを有する(図4)。圧電体膜111は、圧電体の一例である。
配線電極106の電極部106cは、振動板104の第2の面104bに設けられる。電極部106cは、ノズル101を囲む円環状に形成される。電極部106cは、ノズル101と同軸に位置する。電極部106cの外径は、例えば133μmである。電極部106cの内径は、例えば30μmである。このため、電極部106cは、ノズル101の外側に少し離間して配置される。配線電極106の配線部106bは、振動板104の第2の面104bに形成される。
図3に示すように、配線部106bは、対応する駆動素子102の電極部106cと端子部106aとを接続する。複数の配線部106bは、ノズルプレート100の短手方向に沿って平行に延びる。
図4に示すように、圧電体膜111は、ノズル101を囲むとともに、配線電極106の電極部106cとほぼ同じ大きさの円環状に形成される。本実施の形態において、圧電体膜111は、配線電極106の電極部106cよりも僅かに小さく形成したが、圧電体膜111は、電極部106cより大きくても良い。圧電体膜111は、ノズル101と同軸に配置される。圧電体膜111は、配線電極106の電極部106cをほぼ覆うように配置される。
圧電体膜111は、圧電性材料であるチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)の膜である。なお、圧電体膜111はこれに限らず、例えば、PTO(PbTiO3:チタン酸鉛)、PMNT(Pb(Mg1/3Nb2/3)O3−PbTiO3)、PZNT(Pb(Zn1/3Nb2/3)O3−PbTiO3)、ZnO、およびAlNのような種々の圧電性材料によって形成されても良い。
圧電体膜111の厚さは、例えば2μmである。圧電体膜111の厚さは、例えば、圧電特性および絶縁破壊電圧によって決定される。圧電体膜111の厚さは、概ね0.1μmから5μmの範囲にある。圧電体膜111は、その厚み方向に分極処理が施されている。当該分極の方向と同方向の電界が圧電体膜111に印加されると、圧電体膜111は、当該電界の方向と直交する方向に伸縮する。言い換えると、圧電体膜111は、膜厚に対して直交する方向(径方向)に収縮または伸長する。
なお、圧電体膜111としてPZTのような強誘電体を使用した場合は、分極方向と反対の電界を加えることにより分極反転を生じる。したがって、実質的に分極方向と同じ方向にのみ電界を印加することが可能であり、電界を加えることにより圧電体膜111は膜厚方向に伸長し、膜厚に対して直交する方向(径方向)に収縮する。
共有電極107の電極部107cは、ノズル101を囲むとともに、配線電極106の電極部106cおよび圧電体膜111とほぼ同じ大きさの円環状に形成される。本実施の形態において、共有電極107の電極部107cは、圧電体膜111よりも僅かに小さく形成したが、圧電体膜111より大きくても良い。電極部107cは、ノズル101と同軸に配置される。
電極部107cは、圧電体膜111を覆う。言い換えると、電極部107cは、圧電体膜111の吐出側(インクジェットヘッド21の外に向く側)に設けられる。
圧電体膜111は、配線電極106の電極部106cと、共有電極107の電極部107cとの間に介在する(図4)。言い換えると、圧電体膜111に、配線電極106および共有電極107の電極部106c,107cが重なる。圧電体膜111は、二つの電極部106c,107cの間を絶縁する。共有電極107の電極部107cは、圧電体膜111を介して配線電極106の電極部106cに対向して配置される。
共有電極107の電極部107cは、駆動素子102の外面102aを形成する。外面102aは、振動板104の反対側を向く駆動素子102の一面である。言い換えると、外面102aは、駆動素子102の吐出側に向く。外面102aは、振動板104の第2の面104bと略平行な面である。
絶縁膜105は、振動板104の第2の面104bと、駆動素子102の外面102aと、配線電極106の配線部106bと、を覆う。絶縁膜105は、複数の配線電極106の端子部106aを露出させる複数の孔を有する。
絶縁膜105は、例えば、SiO2によって形成される。絶縁膜105は、例えば、SiN(窒化ケイ素)のような他の材料によって形成されても良い。絶縁膜105は、振動板104の第2の面104bと、駆動素子102の表面と、配線電極106の配線部106bとの上において、ほぼ均一な厚さを有する。絶縁膜105の厚さは1μmである。絶縁膜105の厚さは、約0.1μm〜5μmの範囲にある。なお、絶縁膜105の厚さは、部分的に異なっても良い。
絶縁膜105は、コンタクト部113を有する。コンタクト部113は、対応する駆動素子102の外面102aの上にある絶縁膜105の一部にそれぞれ設けられた孔である(図4)。
コンタクト部113は、例えば、直径20μmの円形に形成される。コンタクト部113は、共有電極107の電極部107cの一部を露出させている。コンタクト部113は、円環状の電極部107cの内周と外周との間の中央よりも、電極部107cの外周近くに配置される(図4)。
共有電極107の二つの端子部107aと、複数の配線部107bとは、絶縁膜105の表面105aにある。言い換えると、共有電極107の端子部107aおよび配線部107bは、絶縁膜105の上にある。絶縁膜105の表面105aは、振動板104に重ねて配置されている。
図3に示すように、共有電極107の複数の配線部107bは、対応する駆動素子102の電極部107cと二つの端子部107aとをつなぐ。複数の配線部107bは、ノズルプレート100の短手方向に沿って平行に延びる。
複数の配線部107bは、ノズルプレート100の短手方向の他方の端部において連結され、ノズルプレート100の長手方向に沿って延びる連結部107dを形成する。このため、二つの端子部107aと、複数の電極部107cとは、複数の配線部107bによって接続される。
図4に示すように、共有電極107の配線部107bは、駆動素子102を覆う絶縁膜105の表面105aに沿って配線される。配線部107bの一方の端部は、コンタクト部113を通って、共有電極107の電極部107cに接続される。言い換えると、コンタクト部113は、配線部107bを電極部107cに接続するために、絶縁膜105が部分的に除去された部分である。
絶縁膜105は、共有電極107の配線部107bと、配線電極106の電極部106cとの間を隔てる。絶縁膜105は、配線電極106と共有電極107とが電気的に接続することを防いでいる。
保護膜108は、振動板104の第2の面104b上に積層される。保護膜108は、例えば、東レ株式会社のフォトニース(登録商標)のような感光性ポリイミドによって形成される。すなわち、保護膜108は、絶縁膜105とは異なる絶縁性を有する材料によって形成されている。保護膜108はこれに限らず、樹脂またはセラミックスのような、他の絶縁性の材料によって形成されても良い。樹脂としては、例えば、他の種類のポリイミド、ABS、ポリアセタール、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリエーテルサルフォンのようなプラスチック材である。セラミックスとしては、例えば、ジルコニア、炭化ケイ素、窒化ケイ素、チタン酸バリウムなどの窒化物、または酸化物である。また、保護膜108は、駆動素子102および共有電極107との絶縁性を有するならば、金属材料によって形成されても良い。金属材料としては、例えば、アルミ、SUS、またはチタンである。保護膜108の材料は、耐熱性、絶縁性、平滑性、熱膨張係数、インクに対する濡れ性を考慮して選択される。保護膜108の材料の絶縁性は、インクジェットプリンタ1が導電率の高いインクを使用する場合、駆動素子102が駆動する際のインクの変質度合いに影響し得る。
保護膜108は、振動板104の第2の面104bと、絶縁膜105の表面105aと、共有電極107の配線部107bとを覆う。また、保護膜108は、絶縁膜105の上から駆動素子102および配線電極106の配線部106bを覆う。すなわち、保護膜108は、例えばインクや空気中の水分から、駆動素子102、配線電極106、および共有電極107を保護する。保護膜108は、配線電極106および共有電極107の複数の端子部106a,107aをそれぞれ露出させる複数の孔を有する。
保護膜108の材料は、振動板104の材料とヤング率が異なる。振動板104を形成するSiO2のヤング率は、80.6GPaである。一方、保護膜108を形成するポリイミドのヤング率は、4GPaである。すなわち、保護膜108のヤング率は振動板104のヤング率よりも小さい。
保護膜108の表面108aは、振動板104に固着した面の反対側に位置する。保護膜108の表面108aは、ほぼ平滑に形成されるが、微小な凹凸を有する。例えば、駆動素子102が設けられた部分において、保護膜108の表面108aは、他の部分に比べて隆起する。
駆動素子102、配線電極106、および共有電極107がある部分以外の保護膜108の厚さは、約4μmである。保護膜108の膜厚は、概ね1〜50μmの範囲にある。保護膜108の厚さは、振動板104の第2の面104bから、保護膜108の表面108aまでの距離である。
一方、駆動素子102上に形成された保護膜108の厚さは、約25μmである。この部分の保護膜108の厚さは、駆動素子102の上にある絶縁膜105の表面105aから、保護膜108の表面108aまでの距離である。
撥インク膜109は、保護膜108と、絶縁膜105の一部とを覆う。撥インク膜109は、例えば、旭硝子株式会社のサイトップ(登録商標)のような、撥液性を有するシリコン系撥液材料またはフッ素含有系有機材料によって形成される。なお、撥インク膜109は、他の材料によって形成されても良い。
撥インク膜109の表面109aは、ノズルプレート100の表面を形成する。撥インク膜109の表面109aは、保護膜108にとは反対側の面である(図4)。駆動素子102、共有電極107、および配線電極106がある部分以外の撥インク膜109の厚さは、例えば1μmである。本実施形態では、撥インク膜109の厚さは、例えば、0.01〜10μmの範囲にある。
ノズル101が吐出したインク滴がノズル101近傍に付着すると、インク吐出の安定性が低下する可能性がある。撥インク膜109は、インク滴がノズルプレート100の表面に付着することを抑制する。
ノズル101は、振動板104と、保護膜108と、撥インク膜109とを貫通する。言い換えると、ノズル101は、振動板104と、保護膜108と、撥インク膜109とに形成される。振動板104および保護膜108が親インク性(親液性)を有するため、圧力室201に収容されたインクのメニスカスは、ノズル101内に保たれる。保護膜108の一部は、ノズル101と、駆動素子102の内周面との間に介在する。
図2に示すように、配線電極106の端子部106aに、例えばフレキシブルケーブルを介して、制御部24が接続される。制御部24は、例えば、インクジェットヘッド21を制御するICや、インクジェットプリンタ1を制御するマイクロコンピュータである。一方、共有電極107の端子部107aは、例えば、GND(グランド接地=0V)に接続される。
制御部24は、複数の配線電極106に、対応する駆動素子102を駆動するための信号を伝送させる。配線電極106は、複数の駆動素子102を独立して動作させるための個別電極として用いられる。
インクジェットヘッド21は、例えば次のように印字(画像形成)を行う。ユーザの操作によって、制御部24に印字指示信号が入力される。制御部24は、当該印字指示に基づいて、複数の駆動素子102に信号を印加する。言い換えると、制御部24は、配線電極106の電極部106cに、駆動電圧を印加する。
配線電極106の電極部106cに信号が印加されると、配線電極106の電極部106cと、共有電極107の電極部107cとの間に電位差が生じる。これにより、圧電体膜111に分極方向と同方向の電界が印加され、圧電体膜111が電界方向と直交する方向に伸縮する。
このようなノズルプレート100において、駆動素子102が電界方向と直交する方向に伸びた場合、振動板104は、圧力室201の容積を縮小させるように湾曲する。反対に、駆動素子102が電界方向と直交する方向に縮んだ場合、振動板104は、圧力室201の容積を拡大させるように湾曲する。この際、絶縁膜105および保護膜108は、当該湾曲を阻害する。
具体的には、図4に示すように、駆動素子102は、振動板104と、絶縁膜105および保護膜108とに挟まれている。このため、駆動素子102が電界方向と直交する方向に伸びた場合、振動板104に、圧力室201側に対して凹形状に変形するカがかかる。言い換えると、振動板104は、圧力室201の容積を増大させる方向に湾曲しようとする。反対に、絶縁膜105および保護膜108に、圧力室201側に対して凸形状に変形するカがかかる。言い換えると、絶縁膜105および保護膜108は、圧力室201の容積を減少させる方向に湾曲しようとする。
一方、駆動素子102が電界方向と直交する方向に縮んだ場合、振動板104に、圧力室201側に対して凸形状に変形するカがかかる。言い換えると、振動板104は、圧力室201の容積を減少させる方向に湾曲しようとする。また、絶縁膜105および保護膜108に、圧力室201側に対して凹形状に変形するカがかかる。言い換えると、絶縁膜105および保護膜108は、圧力室201の容積を増大させる方向に湾曲しようとする。
このように、振動板104と、絶縁膜105および保護膜108とは、互いに反対方向に湾曲しようとする。すなわち、絶縁膜105および保護膜108が形成する絶縁部は、駆動素子102による振動板104の変形を阻害するカ(膜応力)を生じさせる。
部材の変形量は、ヤング率および当該部材の厚さに影響される。保護膜108を形成するポリイミドは、振動板104を形成するSiO2よりヤング率が小さい。このため、保護膜108の方が、振動板104よりも、同じカに対する変形量が大きい。さらに、絶縁膜105は、振動板104よりも薄い。このため、絶縁膜105の方が、振動板104よりも、同じカに対する変形量が大きい。
以上のように、駆動素子102は、ベンディングモード(屈曲振動)で動作する。駆動素子102は、電圧が印加されたときに、振動板104を変形させることで、圧力室201の容積を変化させる。
まず、駆動素子102は、振動板104を変形させることで圧力室201の容積を増大させる。これにより、圧力室201に収容されたインクに負圧が生じ、インク流路401から圧力室201にインクが流入する。
次に、駆動素子102は、振動板104を変形させることで圧力室201の容積を減少させる。これにより、圧力室201のインクが加圧される。当該インクにかかる正の圧力は、インク絞り301によって、インク流路401に逃げず、圧力室201に閉じ込められる。これにより、加圧されたインクがノズル101から吐出される。
振動板104と保護膜108とのヤング率の差が大きいほど、インク吐出が可能となる電圧がより低くなり、インクジェットヘッド21が効率良くインクを吐出できる。さらに、絶縁膜105および保護膜108が形成する絶縁部と、振動板104との厚さの差が大きいほど、インク吐出が可能となる電圧がより低くなり、インクジェットヘッド21が効率良くインクを吐出できる。
次に、本実施の形態にかかるインクジェットヘッド21の製造方法について説明する。
図5に示すように、圧力室201が形成される前の圧力室構造体200(シリコンウエハ)の第1の面200aの全域に、振動板104としてのSiO2膜を積層する。SiO2膜は、例えば熱酸化膜法によって成膜される。なお、SiO2膜はCVD法のような他の方法によって成膜されても良い。
圧力室構造体200を形成するシリコンウエハは、大きな一枚の円板である。このシリコンウエハから、複数の圧力室構造体200が切り取られる。なお、これに限らず、一枚の矩形のシリコンウエハから、一つの圧力室構造体200を形成しても良い。このシリコンウエハは、インクジェットヘッド21の製造過程において、繰り返し加熱および薄膜の成膜がなされる。このため、このシリコンウエハは、耐熱性を有し、SEMI(Semiconductor Equipment and Materials International)規格に準じ、かつ鏡面研磨によって平滑化されたものである。
次に、振動板104の第2の面104bに、配線電極106を形成する金属膜を成膜する。まず、スパッタリング法を用いてTiの膜とPtの膜とを順番に成膜する。Ptの膜厚は、例えば0.45μm、Tiの膜厚は、例えば0.05μmである。なお、金属膜は、蒸着および鍍金のような他の製法によって形成されても良い。
次に、配線電極106を形成する金属膜の上に、圧電体膜111を形成する。圧電体膜111は、例えばRFマグネトロンスパッタリング法により成膜される。このときのシリコンウエハの温度は、例えば350℃に設定される。圧電体膜111は、成膜後、圧電体膜111に圧電性を付与するために、650℃で3時間熱処理される。これにより、圧電体膜111は、良好な結晶性を得るとともに、良好な圧電性能を得ることができる。圧電体膜111は、例えば、CVD(化学的気相成長法)、ゾルゲル法、AD法(エアロゾルデポジション法)、水熱合成法のような他の製法によって形成されても良い。
次に、圧電体膜111の配線電極106と対向する位置に、共有電極107の電極部107cを形成するPtの金属膜を成膜する。この金属膜は、例えばスパッタリング法によって成膜される。この金属膜は、真空蒸着および鍍金のような他の製法によって形成されても良い。
次に、この金属膜および圧電体膜111をエッチングすることで、共有電極107の電極部107cと、圧電体膜111とをパターニングする。パターニングは、この金属膜の上にエッチングマスクを作り、このエッチングマスクに覆われていない金属膜および圧電体膜111をエッチングによって除去することにより達成される。この金属膜および圧電体膜111は、一度にパターニングされる。なお、この金属膜および圧電体膜111は、個別にパターニングされても良い。また、エッチングマスクは、感光性のレジストマスクの塗布、プリベーク、所望のパターンが形成されたマスクを用いた露光、現像、およびポストベークによって形成される。
加えて、パターニングによって、配線電極106を形成する。パターニングは、圧電体膜111および共有電極107の電極部107cと、圧電体膜111の電極部107c側の金属膜(Pt/Ti)との位置にエッチングマスクを作り、エッチングマスクで覆われていない金属膜をエッチングによって除去することで達成される。エッチングマスクは、感光性のレジストマスクの塗布、プリベーク、所望のパターンが形成されたマスクを用いた露光、現像、およびポストベークによって形成される。
配線電極106および共有電極107の電極部106c,107cと圧電体膜111との中心にノズル101が形成されている。このため、電極部106c,107cおよび圧電体膜111の中心と同心円の金属膜および圧電体膜111がない部分が形成される。このように、駆動素子102が振動板104の第2の面104bに形成される。パターニングによって、配線電極106の端子部106a、配線部106b、および駆動素子102以外では、振動板104が露出する。
次に、振動板104の第2の面104bと、配線電極106の配線部106bと、駆動素子102とを覆うように、絶縁膜105を形成する。絶縁膜105は、良好な絶縁性を低温成膜にて実現できるCVD法によって形成される。絶縁膜105はこれに限らず、スパッタリング法、または蒸着のような他の方法によって形成されても良い。
絶縁膜105は、成膜後にパターニングされる。ノズル101を形成するため、駆動素子102の中心と同心円の絶縁膜105がない部分が形成される。同時に、絶縁膜105がないコンタクト部113も形成される。絶縁膜105が無い部分の直径は、例えば25μmである。パターニングは、エッチングマスクで覆われていない絶縁膜105をエッチングによって除去することで行う。エッチングマスクは、感光性のレジストマスクの塗布、プリベーク、所望のパターンが形成されたマスクを用いた露光、現像、定着、およびポストベークによって形成される。
さらに、絶縁膜105の上に、共有電極107の端子部107aおよび配線部107bを形成する金属膜を成膜する。この金属膜は、例えばスパッタリング法によって成膜されるTi(チタン)/Al(アルミニウム)薄膜である。Tiの膜厚は、例えば0.1μm、Alの膜厚は、例えば0.4μmである。この金属膜は、真空蒸着および鍍金のような他の製法によって形成されても良い。この金属膜は、コンタクト部113を通って共有電極107の電極部107cに接続される。
この金属膜をパターニングすることで、共有電極107の端子部107aおよび配線部107bを形成する。パターニングは、この金属膜にエッチングマスクを作り、当該エッチングマスクで覆われていない部分の金属膜をエッチングによって除去することで達成される。エッチングマスクは、感光性のレジストマスクの塗布、プリベーク、所望のパターンが形成されたマスクを用いた露光、現像、およびポストベークによって形成される。
次に、振動板104を形成するSiO2膜をパターニングし、ノズル101の一部を形成する。パターニングは、SiO2膜上にエッチングマスクを作り、エッチングマスクに覆われていない部分のSiO2膜をエッチングによって除去することで達成される。エッチングマスクは、振動板104の上への感光性のレジストマスクの塗布、プリベーク、所望のパターンが形成されたマスクを用いた露光、現像、およびポストベークによって形成される。
そして、振動板104、絶縁膜105、および共有電極107の端子部107aおよび配線部107bの表面に、保護膜108をスピンコーティング法(スピンコート)によって形成する。すなわち、絶縁膜105を覆う保護膜108を形成する。まず、ポリイミド前駆体を含有した溶液で振動板104の第2の面104bおよび絶縁膜105を覆う。次に、このシリコンウエハが回転させられ、溶液表面が平滑にされる。べ一クによって熱重合と溶剤除去を行うことで、保護膜108が形成される。保護膜108の形成方法は、スピンコーティングに限られない。保護膜108は、CVD、真空蒸着、または鍍金のような他の方法によって形成されても良い。
保護膜108をパターニングすることによって、ノズル101を形成するとともに、配線電極106の端子部106aと、共有電極107の端子部107aとを露出させる。パターニングは、保護膜108の材料に応じた手順で行われる。
保護膜108が、例えば、東レ株式会社のセミコファイン(登録商標)のような非感光性ポリイミドによって形成される場合について説明する。まず、ポリイミド前駆体を含有した溶液をスピンコーティング法によって成膜する。そして、保護膜108は、ベークによって熱重合と溶剤除去を行って焼成成形される。その後、非感光性ポリイミド膜上にエッチングマスクを作り、エッチングマスクに覆われていない部分のポリイミド膜をエッチングによって除去することで、パターニングがなされる。エッチングマスクは、非感光性ポリイミド膜上への感光性のレジストマスクの塗布、プリベーク、所望のパターンが形成されたマスクを用いた露光、現像、およびポストベークによって形成される。
保護膜108が、例えば、東レ株式会社のフォトニース(登録商標)のような感光性ポリイミドによって形成される場合について説明する。まず、溶液をスピンコーティング法によって成膜した後、プリベークを行う。その後、エッチングマスクを用いた露光と、現像工程とを経てパターニングがされる。
ポジ型感光性ポリイミドの場合、エッチングマスクは、ノズル101、開口部115、配線電極106の端子部106a、および共有電極107の端子部107aに対応する部分が開口する(光が透過する)。
ネガ型感光性ポリイミドの場合、エッチングマスクは、ノズル101、開口部115、配線電極106の端子部106a、および共有電極107の端子部107aに対応する部分を遮光する。その後、ポストベークが行われ、保護膜108が焼成成形される。
次に、保護膜108の上にカバーテープを貼り付ける(図示せず)。当該カバーテープは樹脂によって形成され、保護膜108から容易に脱着可能である。当該カバーテープは、配線電極106の端子部106aおよび共有電極107の端子部107aに、ゴミや撥インク膜109が付着することを防止する。カバーテープは、例えば、シリコンウエハの化学機械研磨(Chemical Mechanical Polishing:CMP)用の裏面保護テープである。カバーテープが貼り付けられた圧力室構造体200を上下反転し、圧力室構造体200に複数の圧力室201を形成する。圧力室201は、パターニングによって形成される。
図5は、圧力室201が成形される前の第1の実施形態の絶縁性の保護膜108が形成されたインクジェットヘッド21を示す断面図である。シリコン基板専用のDeep−RIEと呼ばれる垂直深堀ドライエッチングを用いて、圧力室構造体200をエッチングし、圧力室201を形成する。
図6に示すように、シリコンウエハである圧力室構造体200上に所望のパターンを形成したレジストマスク210を作り、これにより、圧力室201が所望のパターンに形成される。ここで言う所望のパターンとは、例えば、図2に示すように、圧力室構造体200の第2の面200b上に圧力室201を設ける箇所以外の面にレジストマスク210を塗布し、パターニングすることである。よって、圧力室構造体200に必要な圧力室の数、大きさを考慮してレジストマスク210を第2の面200bにパターニングする。なお、レジストマスク210は、感光性のレジストマスク210の塗布、プリベーク、所望のパターンが形成されたエッチングマスクを用いた露光、現像、およびポストベークによって形成される。
感光性のレジストマスク210としては、例えば、SU−8 3000(日本化薬株式会社製)がある。このレジストマスク210は、永久膜として用いることができるエポキシ樹脂ベースのネガ型フォトレジストである。このため、圧力室201の成形工程において、その後のレジスト剥離工程を省略することができる。
レジスト剥離工程を省略することによって、ノズルプレート100と、ノズルプレート100に含まれる構造物がレジスト剥離工程で発生する圧力等により破損することを防止することができる。ここで言う応力等には、例えば、レジストマスク210をウェット剥離する際に用いられる溶液が圧力室201に流入し、薄膜の積層構造であるノズルプレート100かける圧力のことを言う。レジストマスク210は、インクに耐性を持つ材料であれば、これに限られず、例えば、他にフォトニース(東レ株式会社製、登録商標)に代表される感光性ポリイミド、感光性レジストであるTMMRシリーズ(東京応化工業株式会社製、商標)、感光性ドライフィルムレジストであるTMMFシリーズ(東京応化工業株式会社製、商標)等を用いることができる。なお、レジストマスク210の厚さは、約1μm〜100μmの範囲とした。
圧力室構造体200のドライエッチングに一般的に用いられるSF6ガス(六フッ化硫黄ガス)は、振動板104のSiO2や保護膜108のポリイミドに対してはエッチング作用を及ぼさない。そのため、圧力室201を形成する圧力室構造体200(シリコンウエハ)のドライエッチングの進行は、振動板104で止まる。言い換えると、振動板104は、このエッチングのストップ層として機能する(図7)。
圧力室構造体200のエッチングは、薬液を用いるウェットエッチング法、プラズマを用いるドライエッチング法のような、種々の方法を用いても良い。さらに、基材の材料特性によってエッチング方法やエッチング条件を変えても良い。感光性のレジストマスク210によるエッチング加工が終了した後、感光性のレジストマスク210は、圧力室構造体200の第2の面200b上に残される(図7)。なお、レジストマスク210も圧力室構造体200程ではないが、多少エッチングされるため、圧力室201の深度を考慮して塗布する(図6、図7)。
以上のように、振動板104上に駆動素子102およびノズル101を形成する工程から、圧力室構造体200に圧力室201を形成する工程までが、成膜技術、フォトリソグラフィエッチング技術、およびスピンコーティング法によってなされる。よって、ノズル101、駆動素子102、および圧力室201が、一つのシリコンウエハに精密かつ簡易に形成される。
次に、圧力室構造体200の第2の面200bに残されたレジストマスク210上に、セパレートプレート300およびインク流路構造体400を接着する。すなわち、インク室500を、エポキシ系接着剤でレジストマスク210に接着する。
次に、保護膜108上に撥インク膜109を形成する。撥インク膜109は、保護膜108上に液状の撥インク膜材料をスピンコーティングすることによって成膜される。この際、配線電極106の端子部106aおよび共有電極107の端子部107aに、ゴミや撥インク膜109が付着すること防ぐため、カバーテープを用いてマスキングされている。また、インク供給口402より陽圧空気を注入する。これにより、インク流路401と繋がったノズル101から陽圧空気が排出される。この状態で、液体の撥インク膜材料を塗布すると、ノズル101の内周面に撥インク膜材料が付着することが抑制される。撥インク膜109が形成された後、このカバーテープを保護膜108から剥がす。そして、上記のように加工されたシリコンウエハを分割して、複数のインクジェットヘッド21を形成する。
インクジェットヘッド21は、インクジェットプリンタ1の内部に搭載される。配線電極106の端子部106aに、例えばフレキシブルケーブルを介して制御部24が接続される。さらに、インク流路構造体400のインク供給口402およびインク排出口403が、例えばチューブを介してインクタンク23に接続される。
以上のように、第1の実施形態によると、圧力室201を形成するために用いたレジストマスク210のレジスト剥離工程を省略し、レジストマスク210が圧力室構造体200の第2の面200bに残された状態で、セパレートプレート300と接着する。よって、レジスト剥離工程により、ノズルプレート100を構成する圧電体膜111や振動板104等が破損されることがない。したがって、圧電体膜111や振動板104などの構造物が破損される問題を解消できる。
次に、図8を参照して、第2の実施の形態について説明する。なお、本実施形態において、第1の実施形態のインクジェットプリンタ1と同様の機能を有する構成部分には同一の参照符号を付し、その説明を一部または全て省略することがある。
図8は、第2の実施の形態に係るインクジェットヘッド21の断面図である。インクジェットヘッド21の断面位置は、図3のF4−F4である。第2の実施形態では、レジストマスク210の代わりに、金属性のレジストマスク211(以下、金属マスクという。)を用いた。金属マスク211は、圧力室構造体200の第2の面200b上に、例えばスパッタリング法によって形成される。
金属マスク211は、フォトレジスト工程によって、圧力室構造体200に圧力室201を形成するためレジストマスク210と同様に圧力室構造体200の第2の面200b上にパターニングされる。パターニングされた金属マスク211は、シリコンエッチング完了後も第2の面200b上に残る。残った金属マスク211は除去されずセパレートプレート300と接着され、インクジェットヘッド21の構造体の一部となる。なお、本実施形態では、金属マスク211としてNiを用いたがこれに限らない。エッチングガスが作用を及ぼさず、インクによる腐食などのない材料であれば良い。他に金属マスク211として、例えば、Crなどがある。金属マスク211の膜厚は、概ね0.01μmから10μmとした。
図8に示した、第2の実施形態のインクジェットヘッド21の効果は、第1の実施形態のインクジェットヘッド21と同様である。つまり、金属マスク211が構造体の一部となることにより、レジスト剥離工程が省略でき、ノズルプレート100の破損を防止できる。加えて、金属マスク211はフォトレジストと比べてエッチングガスに対する高い選択性を示すため、金属マスク211を薄くすることが可能になる。金属マスク211を薄くすることによって、膜厚ばらつき低減などのプロセスの安定化の効果を得ることができる。
上述した第1および第2の実施形態のインクジェットヘッド21の特徴は、圧力室構造体200の第2の面200bに圧力室201を形成するためにパターニングしたレジストマスク210または金属マスク211をエッチング工程が終了後においても剥離せずに最終製品の構造物(圧力室構造体200の一部)として残すことである。これにより、レジスト剥離工程におけるノズルプレート100の破損または、レジストマスク210または金属マスク211の取り残しによる接着時の不具合を防止する。さらに、レジスト剥離工程が不要となることから、インクジェットヘッド1の製造工程の短縮化および製造コスト削減を可能とする。
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これらの新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
例えば、インクジェットヘッド21は、セパレートプレート300を有さずとも良い。これは、インクジェットヘッド21の仕様や圧力室201の直径や深さなどを調整することで、セパレートプレート300を有しないインクジェットヘッド21も、インク吐出が可能である。
これにより、例えば、インクジェットヘッド21においては、高い精度が求められる直径約50μmのセパレートプレート300のインク絞り301と直径約20μmのノズルプレート100のノズル101との位置合わせが必要なくなる。このため、圧力室構造体200およびインク流路構造体400の接着剤貼り合わせの精度は、約200μmと格段に広くなり、貼り合わせ工程が容易且つ短時間に行うことができる。
以下、本願の出願当初の特許請求の範囲に記載された発明を付記する。
[1]第1の面、前記第1の面と反対側の第2の面、および前記第1の面と前記第2の面を連絡した筒状の孔を有する基材と、
前記基材の前記第1の面と積層して前記孔の一端を塞ぐことで圧力室を形成し、前記圧力室に連通するノズルを有する振動板と電圧が印加されたときに前記振動板を変形させて前記圧力室の容積を変化させる駆動素子とを有するノズルプレートと、
前記基材の前記第2の面に設けられた前記圧力室をエッチングにより形成するためのレジストマスクと、
を備えることを特徴とするインクジェットヘッド。
[2]前記レジストマスクが樹脂材料からなる、ことを特徴とする[1]に記載のインクジェットヘッド。
[3]前記レジストマスクが金属材料からなる[1]に記載のインクジェットヘッド。
[4]前記レジストマスクの前記基材と反対側の面に前記圧力室を覆うインク室を備えることを特徴とする[1]に記載のインクジェットヘッド。
[5][1]ないし[4]のいずれか一つに記載のインクジェットヘッドを備えたインクジェット記録装置。
[6]ノズルを有する振動板および電圧が印加されたときに前記振動板を変形させる駆動素子を備えるノズルプレートの前記振動板を基材の第1の面に積層するステップと、
前記基材の第1の面とは反対側の第2の面にレジストマスクを設けるステップと、
前記レジストマスクを介して前記基材をエッチングし、前記基材に圧力室を形成するステップと、
前記レジストマスクを剥離せずに前記レジストマスクを挟んで前記基材と反対側の面にインク室を設けるステップと、
を有することを特徴とするインクジェットヘッド製造方法。