本願の発明者らは、災害時における人命を守るための方策に加え、その後の暮らしと職場をも守り、都市の社会的・経済的な機能を守ることの重要性を提唱している。すなわち、拠点となる建物の機能が維持されることで、はじめて事業や生活の継続が可能となるという考え方である。例えば、災害対応拠点となる行政庁舎や病院に加えて、公益企業、物流業者、データセンターまたは金融機関など、経済活動を担う企業の拠点建物の機能が維持されることが被災後に大きな力となり得るのである。このような考え方にレジリエンスという概念がある。レジリエンスとは、建物機能の継続力(回復力)であり、建物機能は、建物が有する本来的な機能である。前掲の行政庁舎であれば当該庁舎を利用して行われる災害対策のための機能であり、病院であれば被災者等の治療行為機能である。そして、このレジリエンスを高めるための方策として、発明者らは、組織における事業継続計画(BCP:Business Continuity Plan)や生活の場における生活継続計画(LCP:Life Continuity Plan)を提案するものである。BCPやLCPとは、非常時に陥った場合、進行している事態を正確に把握し、判断し、迅速に対応することで被害の最小化と事態の適切な収拾、および重要機能の確実な継続と回復をはかるための一連の計画を意味するものである。
ところで、前掲の特許文献に例示されるように、現在のところ、BCPやLCPを実現するための支援システムは構築されていないのが現状である。BCPやLCPを実行するためには、特に、建物の機能維持と早期復旧が重要である。少なくとも建物の機能を維持させることにより、都市機能の本格復旧までの間の事業継続や生活維持が可能となるからである。特に、実際に災害に見舞われると、様々な情報が錯綜し、被災現場が混乱し、対応が遅れがちになるケースが頻出されていた。そこで、建物の機能維持のための管理システムおよび管理装置が切望されている。
また、耐震構造または免震構造の建物においては、地震発生後に躯体の損傷をモニタリングし、その損傷の程度を評価することにより、当該建物の使用の可否を判断する方法などが考えられるが、仮に、建物の損傷状態が軽微であったとしてもライフライン要素の健全性(継続性)が判断されなければ、結果的に業務継続や生活継続は不可能となり、BCPやLCPを実現させるには至らないものであった。
さらに、発災後に限られた資源で重要機能を維持させるためには、必要となるエネルギおよび水等を十分に備蓄する方法が考えられる。しかしながら、大量の備蓄を管理する費用および労力は決して軽微なものではなく、発災後の有効な利用計画が策定されていなければ、大量の備蓄も浪費され、結果的に重要機能は短期間で継続を断念せざるを得ない状況が想定される。そこで、限られたエネルギや水の管理能力を最大限に高めることで、上記備蓄量を軽減するとともに、備蓄されたエネルギ等を計画的に活用するための管理システムおよび管理装置が望まれている。
なお、非常時とは、台風や地震などの自然災害が代表的であるが、それ以外においても、少雨に基づく渇水時の取水制限、厳しいエネルギ事情などを原因とする節電対策、または、テロや有事の際の破壊活動等によっても起こり得るものであり、大規模災害のみならず、小規模かつ小範囲に生じ得る停電または断水等もあり得る。また、建物機能の維持は、一つの建物を単位として、その建物を管理する場合のほか、複数建物(特定地域)を単位として管理する場合があり得る。地域防災の観点からは、特定地域内における機能維持として、複数の建物を一括して管理することが望ましい。
本発明は、上記諸点にかんがみてなされたものであって、その目的とするところは、BCPやLCPの実行を支援し、特定建物または特定地域における機能維持のための管理システムおよび管理装置を提供することである。
そこで、非常時管理システムにかかる本発明は、特定情報検出手段と、特定装置作動手段と、これらの手段との間で入出力を管理する管理手段とを備え、非常時における業務継続が可能なエリアを選定するための管理システムであって、前記特定情報検出手段は、特定範囲に対して外部から供給されるライフライン要素の受給状況を検出する受給センサと、供給されるライフライン要素について特定範囲内の接続状況を検出する内部接続センサとを備え、前記特定装置作動手段は、ライフライン要素の全部または一部を自力供給するための自力供給装置と、供給経路の開通および遮断を操作する開閉装置とを備え、前記管理手段は、特定範囲における特定業務を継続するために必要なライフライン要素を記憶する記憶手段と、前記受給センサから出力される信号に基づき前記自力供給装置を作動させるための制御情報を出力するとともに作動状態の情報を取得する供給装置制御手段と、前記特定情報検出手段から出力される情報および供給装置制御手段による制御情報を継続的に受信する受信手段とを備え、前記受信手段により受信した情報と前記記憶手段に記憶される要素とを関連付けて管理するとともに、前記特定業務の継続性を判断するための材料を提供するものであることを特徴とするものである。
上記構成によれば、特定範囲内におけるライフライン要素の受給状況を集中して管理可能にするとともに、外部からの供給が停止している場合には、自力供給装置の作動により、停止されているライフライン要素の特定範囲内での供給を可能にすることができる。そして、これらのライフライン要素の供給が可能である場合において、供給源からの接続状況を管理することにより、供給不能な供給経路を遮断し、供給可能な経路のみを開通させることにより、本来的に供給が不要なエリアへのライフライン要素の供給を停止させ、漏電や漏水などの発生を回避させることができる。特に、漏電個所や漏水個所における供給の停止は、使用されないエリアにおける消費(浪費)の解消を可能にし、特定業務が継続されるエリアに集中して長期間の供給を継続させることを可能にする。さらに、上記のような各状況を総合的に管理することにより、特定範囲内における使用継続可能なエリアを選定することが可能となるのである。すなわち、ライフライン要素について、外部から供給され、または自力供給装置により供給される程度に応じて、特定範囲内における業務継続可能なエリアをランク付けることができ、また、当該エリアに集中してライフライン要素を継続的に供給させることができる。
なお、上記において、非常時とは、地震や津波などの大規模災害に限らず、停電または断水などの小規模災害や、渇水時における取水制限、厳しいエネルギ事情などを原因とする節電対策等によって、供給制限下に陥った場合などを含む広い概念である。特定範囲とは、管理対象となっている範囲を意味し、建物1棟を特定範囲とする場合のほか、群として管理する複数の建物を集合させた地域を特定範囲とする場合があり得る。また、エリアとは、区分され得る領域を意味し、建物内においては部屋などを単位とし、地域内においては建物を単位とすることができる。さらに、ライフライン要素とは、ライフラインとして定義される水・電気・ガスなどの生活に欠くことができない基本的な要素とともに、事業継続や生活継続に必要な他の要素として、例えば、外部からの情報取得のための電話回線やインターネット回線、特定範囲内における情報収集のためのLAN回線、エレベータやエスカレータのように人が移動するための搬送設備などをも含むものである。そして、自力供給装置とは、自家発電装置のようにライフライン要素の一つである電力を発生させる装置のほか、貯水槽のようにライフライン要素の一つである水を貯留するための施設などが含まれる。また、特定事業とは、特定範囲における通常業務を意味する場合のほか、非常時における管理業務である場合、または、非常時における居住(避難せずに留まって生活する場合)や避難生活(場所を移動して生活する場合)などをも意味し、さらに、前記通常業務の中でも重要な業務(例えは、病院における手術や金融機関における決済業務、行政機関における災害対応業務など)に限定される場合もあり得る。
非常時管理システムにかかる本発明は、上記構成に加えて、前記特定情報検出手段は、非常時であることを検知するための検知手段をさらに備え、前記管理手段は、前記特定範囲の内部または外部から報知される非常時に関する情報を取得する非常時情報取得手段をさらに備え、前記受信手段は、前記検知手段により検知される情報および前記非常時情報取得手段により取得される情報を受信するものとすることができる。
上記構成によれば、火災報知器等が作動した情報やエレベータが停止した情報など、特定範囲内から報知される情報を検知し、また、特定範囲の内外から報知される情報を収集することができる。これらの情報が管理手段に集中することにより、非常時であることの確認とともに、事業継続のための継続性が判断されることとなる。
上記構成においては、前記検知手段が、免震もしくは制震のための設備の作動状態を検出する検出装置または振動、温度、湿度、ガス濃度、汚染物質濃度もしくは照度を感知する感知装置であり、前記非常時情報取得手段が、警報装置の作動を報知する情報または自治体から報知される情報を取得する受信装置であるものとすることができる。
上記構成の場合には、地震の発生や火災の発生、その他異常な状態であることを感知装置によって感知でき、外部(特に自治体)から報知される情報を取得することにより、地震であれば震源地との関連性および二次災害の発生予測を可能にし、火災等であれば、類焼の範囲や方向などを予測することが可能となる。また、ガス濃度や汚染物質濃度により検知されるエリアの空気の質を評価し、さらに、上記に加えて温度・湿度を検出することにより、空調設備の状態を評価することが可能となる。つまり、電力供給はされていても、空調設備に不具合を生じていることを検出することが可能となるのである。また、照度(明るさ)を検知することにより、照明器具の不具合についても検出することが可能となるのである。
上記各構成の発明において、前記記憶手段に記憶されるライフライン要素は、電気系、給水系、排水系、計器系、空調系、通信系、搬送系および燃料系に区別された複数の要素単位から選択された一または複数の要素であるものとすることができる。
上記構成によれば、特定事業の継続に必要なライフライン要素を選択して管理することができる。特に、外部から供給されるライフライン要素に加えて、継続すべき事業の種類、例えば、病院における手術室や集中治療室(ICU)に必要となるライフライン要素、または銀行等のオンラインシステム継続のためのライフライン要素など、特定業務に特化した重要な要素を記憶することにより、継続可能なエリアの判断に使用される情報の提供が可能となる。また、搬送系(エレベータなどの搬送設備)をライフライン要素として選択することにより、例えば、病院であれば患者の上下階への移動の可否など、特殊な業務における継続可能なエリアを空間的な判断材料として情報提供が可能となる。
また、上記各構成の発明において、前記供給装置制御手段は、自家発電装置を作動させる自家発電制御手段、貯水タンクに貯留される水の供給を制御する給水制御手段、および、燃料タンクに貯留される燃料を供給する燃料供給制御手段から選択される一または複数の制御手段によって構成されているものとすることができる。
上記構成によれば、自力供給装置として、自家発電装置を設置している場合には、その装置を作動させて特定範囲(そのうちの特定エリア)に電力供給を可能にし、貯水タンクを有する給水設備が設置されている場合には、貯水タンク内の水を供給経路を限定しつつ特定範囲(そのうちの特定エリア)への給水を可能にし、燃料タンクを設置している場合には、前記自家発電装置への燃料供給や、燃料電池への燃料供給などを可能にすることができる。そして、これらが漏洩しない状態で供給され、また、その供給により事業継続を可能にするエリア(特定エリア)をランク付けしつつ選定することにより、少なくとも特定範囲内の特定エリアにおいて、事業継続が可能になり得る。
上記各構成の発明においては、前記受信手段により受信した各種の情報、および前記供給装置制御手段により出力された制御情報を、情報の種別に区分しつつ経過時刻と同期して同じ時系列により記録する情報記録手段をさらに備える構成とすることができる。
上記構成のように、受信情報および制御情報を時系列で記録することにより、災害後(特に復旧後)における検証作業を可能にするものである。すなわち、受信情報と制御情報は、本来、予定した受信情報に基づいて的確に制御情報が出力されるべきであるが、制御情報が正常に出力されないことにより、結果的に事業継続が困難となった場合、その原因を後日検証し、その改善を計画することに寄与させることができる。また、事象の前後関係が複雑でその時点で対応する者が把握できなかった場合や予期せぬ事象が発生した場合でも後日確認し、システムの向上に生かすことができる。特に、人為的な操作が要求される場合、すなわちシステム化に馴染まない要素(壁面の崩落状況の情報や漏水確認情報など)を人為的に入力し、その受信情報については、後日の検証に役立つものであることから、これらのあらゆる情報を時系列的に記録することによって、システムの向上に資することとなるのである。なお、各種の情報を種別によって区分することについては、各種情報の入出力源(ルートの異なる入出力)ごとに区分してもよいが、特定の入出力情報を、例えば、音声情報、映像情報、入力信号情報および出力信号情報に区分するなど、数種類に分類してもよい。また、経過時刻と同期して同じ時系列により記録することについては、管理手段内に単一の時刻情報を持たせ、当該時刻情報とともに入力情報等を時系列に記録するように構成することによって処理することができるほか、入出力に時間的差違を生じさせないために、信号の発信側(センサ等)にタイムスタンプ機能を持たせ、出力データに時刻情報を含めるようにしてもよい。
他方、非常時管理装置にかかる発明は、特定情報検出手段および特定装置作動手段との間で入出力される情報を管理し、非常時における業務継続が可能なエリアを選定するための管理装置であって、特定範囲における特定業務を継続するために必要なライフライン要素を記憶する記憶手段と、前記特定装置作動手段を作動させるための制御情報を出力するとともに作動状態の情報を取得する供給装置制御手段と、前記特定情報検出手段および前記特定装置作動手段との間で入出力される情報を継続的に受信する受信手段と、前記受信手段により受信した情報と前記記憶手段に記憶される要素とを関連付けて管理するとともに、前記特定業務の継続性を判断する判断手段とを備え、前記特定情報検出手段は、特定範囲に対して外部から供給されるライフライン要素の受給状況を検出する受給センサと、供給されるライフライン要素について特定範囲内の接続状況を検出する内部接続センサとを備えるものであり、前記特定装置作動手段は、ライフライン要素の全部または一部を自力供給するための自力供給装置と、供給経路の開通および遮断を操作する開閉装置とを備えるものであることを特徴とするものである。
上記構成によれば、記憶手段には、予め特定範囲における特定業務を継続するために必要なライフライン要素が記憶されており、これらの記憶情報と、特定情報検出手段から検出される情報等とが関連付けて管理されており、これらの各種情報を比較することによって、当該ライフライン要素が供給されているのか、事業継続可能なエリアが存在するのか、事業継続可能なエリアが複数存在する場合の優先的に使用するべきエリアはどれか、などの情報を得ることができる。そして、ライフライン要素の一部が外部から供給されない状況下においては、当該要素を自力供給できる場合には、自力供給装置を作動させ、また、供給経路を限定的に開通させることにより、必要最小限のライフライン要素の供給により事業継続を支援し、かつ長期的な事業継続を可能にし得るものである。
なお、記憶手段に記憶されるライフライン要素が特定範囲におけるものであることは、管理すべき対象物(例えば、1棟の建物の場合、複数建物からなる地域)に応じて、さらには、管理すべき建物の用途や規模などに応じて、必要なライフライン要素の優先順位の異なることが想定され、継続すべき特定業務の内容に対応して適宜変更され得るものである。
上記構成の発明において、前記判断手段により前記特定業務の継続性が判断された特定範囲の個々のエリアに対し、該特定業務を継続可能な状態を維持させるために、ライフライン要素の全部または一部についての供給または停止を制御する制御手段をさらに備える構成とすることができる。
上記構成によれば、特定業務の継続性が判断されたエリアのうち、業務継続に使用されるエリアに集中してライフライン要素を供給するため、使用不可とされたエリアまたは使用可能であるが使用しないエリアに対するライフライン要素の供給を停止し、使用可能かつ使用を決定したエリアにのみライフライン要素を供給するように制御し得ることとなる。このように、限定されたエリアにのみライフライン要素の供給を制限することによって、不要なライフライン要素の浪費を免れ、特定エリアにおける事業継続時間を長期化させることができる。
また、上記構成の各発明において、前記ライフライン要素は外観上の破損状況を含む要素であり、該外観上の破損状況を入力する入力手段を備え、該入力手段により入力される外観上の破損状況を前記ライフライン要素として関連付けられつつ前記判断手段によって判断されるものであるように構成してもよい。
上記構成によれば、ライフライン要素に外観上の破損状況が含まれることから、当該破損状況が著しい場合は、特定業務の継続が困難であると判断されることとなる。このときの判断材料とすべき破損状況としては、破損個所がない場合、破損はあるが即時復旧が可能である場合、破損が著しく即時復旧の可能性がない場合など、明確な状態で段階的に判断されるものである。例えば、一部の壁が崩壊し、または天井が崩落するなどにより内部空間を利用できない場合、什器備品が倒壊・散乱するなどにより必要な空間を利用できない場合、さらに階段や廊下などの損傷が激しく人の移動が不可能となっているような場合などが挙げられる。そして、これらの破損状況が判断手段によって関連付けられることにより、電気・水・ガスなどのライフライン要素の中心的事項に加えて、その他の周辺状況などの各種条件を加味した事業継続性の判断が可能となるのである。
上記各構成の発明においては、前記受信手段により受信した各種の情報、前記制御手段により出力された制御情報、および前記入力手段により入力された入力情報を、情報の種別に区分しつつ経過時刻と同期して同じ時系列により記録する情報記録装置をさらに備える構成とすることができる。
上記構成によれば、管理装置に入力した情報、および管理装置が制御のために出力した情報を時系列で記録することができることから、非常事態がどの程度のものであり、業務継続可能な空間がどのように推移したのかということや、特定業務の継続のために、どのように管理され、制御されたものであるかを検証し得ることとなる。
非常時管理システムにかかる本発明によれば、予め特定業務に必要なライフライン要素に関する情報を蓄積することにより、非常時におけるライフライン要素の供給状況を検出しつつ事業継続可能なエリアを選定することができることから、BCPやLCPの実行を支援することができる。このBCPやLCPの実行を支援することによって、特定建物または特定地域における機能維持を可能にし得るものとなる。また、従来は、地震などの災害時において、被害状況、その後の復旧状況を確認するに、非常に時間がかかっていたところ、本発明によれば、建物および特定範囲や特定エリアの被害状況および復旧状況をリアルタイムで把握することができ、業務再開までの時間を確実に短縮することができる。さらに、特定範囲に貯留されるライフライン要素を必要なエリアに集中して供給することを可能にするため、エネルギや水の管理能力を最大限に高めることができ、過剰な備蓄を要することなく、計画的な使用により長期間の業務継続を可能にすることができる。
他方、非常時管理装置にかかる本発明によれば、各種情報を集中的に管理し、時々刻々変化する状況下においても、その情報に基づいて特定事業の継続性を判断することができる。このように、各種の情報を集中管理することにより、特定範囲において必要なライフライン要素の供給を集中させることとなり、限定的なエリアにおいて長期的に特定業務を継続させることができる。その結果、BCPやLCPの実行を促進させ、機能維持に資することができるものである。
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。図1は、非常時管理システムにかかる本発明の実施形態の概略を示す図である。この図に示すように、本実施形態は、非常時管理システムの中心である管理手段として機能する管理装置1と、この管理装置1に各種情報を検知・送信する特定情報検出手段として機能する検知装置群2と、管理装置に1から出力される制御信号により作動する特定装置作動手段として機能する自力供給装置群4とを備えている。
管理装置1には、管理サーバ11と、この管理サーバ11によって処理された情報を表示する表示部12を備えており、また、管理サーバ11に情報を入力するための入力部13を備えている。さらに、管理サーバ11は、インターネット回線に接続されており、管理下にある特定範囲の外部から報知される情報を取得することができるようになっている。外部からの報知情報とは、気象上の各種警報のほか、自治体等から送信される緊急地震速報や緊急避難速報などがある。また、管理サーバ11は、管理装置1の外部記録装置14に記録するための各種情報を出力可能になっている。なお、管理サーバ11は汎用のパーソナルコンピュータ(PC)を使用することでき、外部記録装置14は外付けハードディスクドライブ(HDD)を用いることができる。表示部12には、汎用PCに接続される汎用モニタを使用し、入力部13は、手入力のための汎用のキーボードのほか、監視用カメラの情報を入力するための入力デバイスとすることができる。
検知装置群2は、外部からの供給状態を検知する受給センサ群20と、特定範囲内における接続状態を検知する内部接続センサ群30とに区分されている。受給センサ群20は、外部から供給される電気・水・ガスなどについて、それぞれ供給が継続しているか停止しているかを検知するためのセンサ21,22,23であり、専ら使用量を計測する計量器に連動させて検知するものである。末端の機器が使用中を示しておりながら使用量が計測されない場合は供給停止であることを検知し得るものである。なお、上記受給センサ群20は、一例であって、これらの他に通信に関するセンサ24などを設置することも可能であり、さらに、これら以外に重要な要素があれば、適宜追加することができる。
他方、内部接続センサ群30は、個々のライフライン要素ごとに設置されるものである。図において例示されているように、特定範囲を1棟の建物とする場合、電気であれば内部(屋内の)配線31の通電状況や切断状況、内部配管(給水管)32および内部配管(排水管)33またはガス管34であれば圧力や漏洩状況などを適宜位置で検知している。内部配線31には、通信回線を含めることができる。適宜位置とは、外部から供給を受けるために接続される配電盤または本管から分岐する位置と定めることができるほか、建物(特定範囲)を複数のブロックに区分し、各ブロックの基端ごとに、その基端の位置と定めることができる。これらは配線および配管の設置状況により適宜決定されるべきものである。なお、ブロックとは、特定範囲を合理的に分割し、複数のエリアをまとめた単位を意味し、画一的に区分する場合のほか、検知すべき対象に応じて異なる範囲をブロックと定めてもよい。例えば、配管状況については地上階、最上階およびその他の3ブロックとし、配線状況については各階を単位として多数のブロックとしてもよいのである。このように、ブロックを単位に検知することにより、エリアを単位として検知できない場合であるとか、または過度に多数のセンサを使用しない目的などのために、ある程度の範囲を一括して状況を検知し、各種の情報を総合的に評価することが可能となるのである。当然ながら、エリアを単位として検知できる場合は、エリアとブロックが一致することもあり得る。また、配線や配管の設置場所を単位とし、限られた範囲について垂直方向(上下階方向)への空間をブロックとして定める場合もあり得る。
また、内部接続センサ群30には、貯水槽の水量や自家発電装置用燃料の残量などを計測する計器類35を含めることができる。さらに、エレベータ36の作動確認用のセンサや自動火災報知設備37をセンサとして機能させることもできる。その他にも必要な情報を取得するための各種計器類(例えば、振動計38や温湿度計39)をセンサとして使用することも可能である。前記自動火災報知設備37の詳細については、例えば、火災を検知すると火災信号を出力する複数の火災感知器と、この火災感知器から火災信号を受信すると制御信号を出力する受信機制御部を有する火災受信機と、受信機制御部から制御信号が出力されると動作する複数の被制御装置とを備えるように構成し、火災受信部が、複数の場所における火災感知情報を集中的に管理させたものがあり得る。そして、この火災受信部に個々の火災検知器の位置情報等を記憶させることにより、火災検知位置を特定することができるため、位置情報とともに火災報知の情報を前記管理サーバ11に対して出力することができる。
これらのセンサ群20,30から送信される各種情報は前記管理サーバ11に蓄積されるとともに、後述する優先されるライフライン要素に関連付けられて処理されることにより、事業継続可能な特定エリアが選定されることとなる。
管理装置1は、さらに自力供給装置群4に対して制御信号を出力できるように設けられている。自力供給装置群4は、例えば、自家発電装置41や貯水タンク42などがある。自家発電装置41は、外部からの電源供給が停止されている際に、特定範囲内において電力供給を可能にするために設置されている。通常の自家発電装置は、停電時に自動的に作動を開始するものであるが、本実施形態の管理システムでは、管理装置1の制御信号により作動するようにしている。これは、通常の停電時であれば、特定範囲内における漏電を心配する必要がなく、単純に電力供給を継続させるようにすれば十分であるところ、非常時の管理においては、長期間の電力供給を可能にするため、特定エリアのみにおける電力使用を制限することを目的としている。そのため、自家発電装置の作動および停止を管理装置1によって管理可能にしているのである。なお、管理装置1において、通常の停電のみの発生であることが確認される場合には、通常運転モードに切り換えることも可能となる。
また、貯水タンク42は、受水槽や高層建造物などにおいて屋上に設置される高置水槽などが想定される。例えば、高置水槽は、その高さによる水圧を利用し、もしくはポンプを利用して下層へ給水するためのものであるが、この高置水槽には、大量の水が貯留されており、この水を大切に使用することによって、長期間の事業継続を可能にするものである。そこで、この高置水槽の送水管バルブの開閉を管理装置1の制御信号によって制御するのである。すなわち、非常事態が発生した場合には、まず、高置水槽の送水管を閉鎖し、給水を一時的に遮断しておき、その後、各エリア(またはブロック)へ分岐する配管についてもバルブを閉鎖し、必要なエリア(またはブロック)へ給水するために、当該エリア(またはブロック)へ達する配管のバルブのみを開放したのち送水管を開放するのである。これにより、水の不要なエリア(またはブロック)に対する給水を行わず、必要なエリア(またはブロック)へのみ給水可能にするのである。また、破損部位からの漏水などにより、水の消費(浪費)を防ぐことができる。なお、地震の際に、振動を検知して供給を停止する緊急遮断弁が存在することから、この種の緊急遮断弁を設置することにより、漏水の有無に関係なく貯水槽等から水の流出を停止させることができる。しかしながら、緊急遮断弁が作動する場合には、特定範囲(例えば、建物)の全体に対する給水を遮断することとなるため、水が必要な一部のエリア(またはブロック)に対してのみ選択的に水を供給するということはできない。そこで、緊急遮断弁が設置されている場合には、当該遮断弁の作動により一時的な給水が中断された後、送水管の異常が検知されない(漏水個所がない)ことが確認された後、緊急遮断弁を開放する際には、さらに前述のような手法を採用して必要なエリア(またはブロック)のみへの供給を可能にすることにより、貴重なライフライン要素である水を無駄なく使用することができる。
そのための各分岐管のバルブを開閉するための開閉装置(電磁バルブ)43の開閉をも管理装置1によって制御するのである。なお、ポンプを利用する場合には、開閉装置43として、ポンプの作動・停止を操作する電磁スイッチを使用することができる。因みに、上述したように、内部接続センサ群30には、排水管に対するセンサ33も設置されるため、給水管に対するセンサ32による漏水状況のほかに、水を使用した後(排水時)の排水管の状況をも考慮して開栓すべきか否かが判断されることとなる。
なお、自力供給装置群4には、燃料タンクに貯留する燃料の供給を制御するための供給装置44が含まれている。これは、自家発電装置に対する燃料の供給を制御するためのものであるが、燃料の供給管に漏洩がある場合に供給を停止させることができるようにしているのである。また、この種の燃料タンクからの燃料の供給には、例えば、プロパンガスのボンベが含まれる。プロパンガスの供給は、通常ガスボンベに充填して保存されるため、プロパンガスを使用している場合には、配管の状況を確認後、前記給水管と同様な方法により、ガスの供給を可能にしてもよいのである。なお、上記燃料タンクやガスボンベには、残量計を設けておき、当該燃料等の残量を監視できるように、残量に関する情報を出力させるように構成することができる。
ところで、上記管理装置1は、災害が発生した際に機能不全に陥らないように、特に、強固なエリア(これをコックピットと称する)が用意される。そして、管理装置には、無停電電源装置が設置され、電力供給が停止した場合でも作動し得るようにしておく。また、検知装置群2および自力供給装置群4との入出力は、有線のLAN回線を使用するほか、無線LANのアクセスポイントをコックピットに設置し、検知装置群2の個々のセンサおよび自力供給装置群4の個々の装置には、無停電電源装置と無線装置とに接続することも可能である。少なくとも、センシングデータの受信と、自力供給装置への送信が確保されれば、本実施形態の管理システムが機能するからである。
次に、管理装置1の具体的構成を、管理サーバ11を中心に説明する。図2は、管理サーバ11の構成を示す図である。この図に示すように、管理サーバ11には、管理制御部51と、送受信データ記憶部52と、管理情報記憶部53を備えている。管理制御部51は、外部からの報知情報を入力し、また、検知装置群2(図1)の個々のセンサから信号を受信し、これらの情報を管理するとともに、自力供給装置群4(図1)の個々の装置に対する制御信号を出力するものである。
管理制御部51に入力された全ての情報は、送受信データ記憶部52に全て記憶され、必要に応じて記憶データが読み出される。また、管理情報記憶部53は、管理に必要なデータが記憶されている。例えば、特定範囲(管理対象範囲)における特定業務を継続するためのライフライン要素の情報が記憶されるものである。さらに、特定範囲(管理対象範囲)の情報として、図面データや3次元の設計情報なども記憶させることができ、当該図面データや3次元の設計情報と関連付けて、管理すべきエリア(またはブロック)の区分データを記憶させることができる。なお、ライフライン要素の記憶については、当該要素の種類とともに、事業継続に重大な影響を与える要素ごとに付与される優先順位が記憶されており、管理制御部51において、その優先順位に関連付けられている。従って、上記優先順位を参照しつつ使用継続が可能なエリアの順序が選定されるようになっている。さらに、優先順位が付与された特定業務を継続するべき特定エリアについて、当該特定業務の継続に重要となるライフライン要素が関連付けられて記憶されており、特定のエリアにおいて特定業務を継続し得るか否かが判断できるようになっている。例えば、当該特定業務の継続には、水の供給が必須であり、その他のライフライン要素が不能である場合には、空調設備が不能であっても、給排水設備が使用可能であれば、全体として使用可能と判断できるのである。
また、前記送受信データ記憶部52に記憶される情報は、送受信される度に管理サーバ11の外部に接続される外部記録装置14(図1)に出力される。送受信される情報には、入力装置13により入力された情報も含まれ、管理サーバ51を介して操作された全て情報が時系列で記録されるようになっている。また、入力情報としては、監視カメラの映像や交信音声などを含めることができる。すなわち、外観上の目視による確認が必要と思われる場所に監視カメラを設置し、当該カメラの映像により破損状況を確認し、入力することができるものであり、当該監視カメラにより取得した映像をも入力情報として記録することができる。また、監視カメラによる外観上の確認等が困難な場合、または特定範囲内を目視で確認する者との交信記録を受信情報として記録してもよい。
そして、前記外部記録装置14に各種情報が記録される際には、受信手段により受信した各種の情報、および前記供給装置制御手段により出力された制御情報が整理され、これら種々の情報について、その種別に応じて区分され、かつ、経過時刻と同期して同じ時系列により記録されるようになっている。この場合、情報の種別に区分することについては、各種情報の入出力源(異なるルートから入出力される情報)ごとに区分してもよく、さらには、例えば、音声情報、映像情報、入力信号情報および出力信号情報に区分するなどのように、特定の種類の情報に分類してもよい。いずれの場合においても、経過時間と同期して同じ時系列上に記録されていれば、災害後(特に復旧後)における検証作業が可能となる。そして、事象の前後関係が複雑でその時点で対応する者が把握できなかった場合でも、もしくは予期せぬ事象が発生した場合でも後日確認し、システムの向上に生かすことができるのである。特に、人為的な操作が要求される場合、すなわちシステム化に馴染まない要素(壁面や天井などの崩落状況の情報、漏水確認情報、または特定エリア内における什器備品の倒壊・散乱状況など)を人為的に入力し、その情報については、後日の検証に役立つものであることから、これらのあらゆる情報を時系列的に記録することによって、システムの向上に資することとなるのである。なお、経過時刻と同期して同じ時系列により記録することについては、管理サーバ11に内蔵されるタイマ回路などを使用すればよい。
この管理サーバ11には、範囲内LAN通信部54が設けられ、この範囲内LAN通信部54を介して、前記検知装置群2(図1)および自力供給装置群4(図1)との情報の送受信が行われる。従って、入力信号は、受信部55を介して管理制御部51に入力され、また、管理制御部51から出力される制御信号は、作動制御部56を介して送信されるものである。
また、管理サーバ11には、被災状況作成部57を備えており、入力された各種情報と、送受信データ記憶部52および管理情報記憶部53に記憶される情報から、特定範囲(管理対象範囲)の具体的な位置と、その各部の状況について目視できる状態のデータを作成し、外部の表示部12に出力するものである。特に、管理情報記憶部53に図面データや3次元の設計情報が記憶されている場合には、これら図面データや設計情報と関連付けて被災状況のデータを作成することにより、表示部12には、図面(系統図や平面図または立体図)に特定の位置ごとの状況を示し、これを視覚的に把握できるような状態で表示させることができる。
さらに、管理サーバ11は、継続エリア作成部58を備えており、上記被災状況と管理情報記憶部53のデータとを関連付けながら、事業継続が可能なエリアを選定し、順位とともに目視できる状態のデータを作成し、これを外部の表示部12に出力するのである。
管理サーバ11は上記のような構成であるから、管理サーバ11が管理手段として機能するものであり、それを構成する管理情報記憶部53が記憶手段として機能し、受信部55が受信手段として機能し、また、作動制御部56が供給装置制御手段として機能することとなる。
本実施形態は、上記のような構成であるから、検知装置群2から送信される検知信号を受信し、または、外部から報知される情報を取得しつつ、時々刻々変化する状況に応じて自力供給装置群4を作動させ、または停止させ、さらに、被災状況を目視できるように表示部12に表示させるとともに、最終的には、事業継続可能なエリア(またはブロック)について順位を付して選定することが可能となる。このように選定されたエリア(またはブロック)を使用し、限られた資源を優先的に供給することで、事業継続が可能となり、外部からのライフライン要素の供給停止状況下においても、長期間の継続性が確保され得るものとなる。
ここで、前述の被災状況作成部57および継続エリア作成部58によって作成されるデータの表示部12での表示例を説明する。図3および図4は、表示部12に表示される画面の一例を示している。被災状況作成部57は、前述のように、管理制御部51に入力される各種情報と、管理情報記憶部53などの情報から、特定範囲の各部の破損状況やライフライン要素の状況などをまとめた画像情報を作成するものであり、また、継続エリア作成部58は、事業継続が可能なエリアを選定するとともに、その順位を表示するための画像情報を作成するものである。
これらの画像情報は、一括された状態で図3に示すような状態で表示される。図に例示する画像は、4つの構成により表示されており、第1に「建物・空間・構造体」に関する情報、第2に「ライフライン・設備」に関する情報、第3に「利用可能状況」に関する情報、第4に「上位情報リスト/発災時チェックリスト」に区分されている。第1および第2の内容は、被災状況作成部57によって作成され、第3の内容は、継続エリア作成部58によって作成される。第4の内容は、予め作成され、管理情報記憶部53に記憶される情報(チェックリスト)と現況との対応関係を表示するためのものである。
図3は、災害発生時(非常時の初期)に表示される画面を例示している。この画面では、各センサ群20,30によって検知される情報に基づいて、異常が発生した個所を表示している。センサ群20,30からの情報は、「計測情報」の欄に「異常なし」または「異常あり」と表示される。この図では、「建物・空間・構造体」の区分については、「フロア」が異常を示し、「ライフライン・設備」の区分については、「受変電設備」、「空調設備」および「排水」について異常が検出されていることを示している。なお、「フロア」の異常とは、特定階の振動計が基準値を上回る振動を検知した場合や当該階全体の温度が急激に上昇または下降したような場合が想定される。また、「ライフライン・設備」の異常は、「受変電設備」については外部供給が遮断され、「空調設備」は空調機器が停止し、「排水」については排水管の漏洩が想定される。
そこで、「異常あり」の表示部分をクリックすると、各センサ群から受信した情報の詳細を見ることができ、その詳細を確認することにより、発生した事態の内容を知ることができる。そして、「建物・空間・構造体」および「ライフライン・設備」に掲げられている「対象」および「設備」の個々の名称ごとに、点検結果(「未確認」と表示)が表示されるようになっており、この「未確認」をクリックすることにより、予め管理情報記憶部53に記憶されている点検手順・項目が表示されるようになっている。この点検手順・項目とともに、その結果を入力部13から入力することにより、また、自動計測が可能であれば、当該計測情報が自動的に入力され、記憶情報が更新されるとともに「未確認」の表示が「異常あり」または「異常なし」に更新される。また、「対象」および「設備」に掲げられている項目ごとに、「関連情報」として、「図面」および「画像」を参照することができるようになっており、「図面」情報を参照する場合には、例えば、電力設備については電気設備の系統図や平面図(図面情報による画像)を表示して、損傷個所を図面上に表示させることも可能であり、「画像」情報を参照することにより、監視カメラの映像情報や建物全体を立体画像(3次元設計情報による画像)として表示させて上下階との関係を確認することも可能にしている。このように、図面情報や3次元設計情報を参照することにより、例えば、漏水が発生した場合、その影響がどこまで及ぶのかを判断することができ、その影響が及ぶ前に先んじて対策を講ずることも可能となる。なお、図3は被災直後の状況を示す初期検知状態であることから、この時点では、「建物・空間・構造体」に列挙される各要素、もしくはライフライン要素ごとの状況が検知された状態であり、被災状況の全体が明確でなく、事業継続の可否は判断されていない。そのため、「利用可能状況」については全て「未」が表示され、使用可能か否かが未定であることを示している。因みに、上記例示は、一部に異常が検出された状態を示しているが、災害が発生したもののいずれの設備等に異常が検出されない場合には、「利用可能状況」の全ての項目が「可」と表示される場合もあり得る。
上記のように、「点検結果」の「未確認」をクリックして表示された点検手順・項目に基づいて、まずは、「計測情報」に「異常あり」と表示された項目から確認作業が行われることとなるが、確認作業の結果は、当該点検手順に示される項目ごとに入力部から入力可能であり、また、自動計測が可能であれば、当該計測情報が自動的に入力され、最終的な異常の有無は管理制御部によって判断され、画面に表示されることとなる。この点検手順の結果として、例えば、上述した「フロア」の異常な状態の原因を把握し、その特定階の使用の可能性が判断され得ることとなるのである。なお、点検終了後には、「点検結果」の表示が「異常あり」または「異常なし」の表示がされることとなるが、その表示をクリックすることにより、再び、点検項目とともに点検情報が表示されることとなる。また、「異常あり」または「異常なし」の判断は、表示画面中に表記される項目ごとに独立したものではなく、相互に影響ある事項が重畳的に関連付けられている。従って、上述の「フロア」の異常については、排水管の漏洩が原因である場合には、排水管の点検が終了した際に、「フロア」の点検結果に対する影響も考慮のうえ異常の有無が決定されることとなる。このように、「計測情報」の「異常あり」についての点検が終了した後は、「計測情報」に「異常なし」と表示されている各点検項目についても順次点検を行うことにより、被災状況の全貌を把握することができる。
なお、異常の有無に関わりなく、災害発生後に優先的に点検すべき項目の順位ごと(時間経過)に、第1位〜第3位の順序で個々の項目についての点検のチェックリストが予めまとめられており、これが、表示画面の右下に「上位情報リスト/発災時チェックリスト」として表示されるようになっている。従って、「計測情報」が全て「異常なし」と表示され、または、「異常あり」と表示された個所の点検が終了した場合であっても、上記順序に従って点検を行うことにより、特定範囲の全体について業務継続が長期的に可能であるか否かをチェックすることができるようになっている。このときの、点検結果は、管理装置における情報管理に反映されることとなるものである。また、これらリストに基づいて点検した内容は、管理装置に記憶され、後日、整理された状態でアウトプットすることができる。アウトプットは、必要項目に整理され、被災後において政府機関等に提出すべきレポートとして印刷することができ、当該レポートの自動作成機能を有するものとすることができる。
上記のように、徐々に確認作業が進行することにより、時々刻々と画面上の表示が変化することとなる。図4は、確認作業の進行中であるが、「非常用発電設備」の確認が終了し、異常なく作動している状態を示している。センサ群20,30からの検知結果が「異常なし」であり、点検手順に沿って処理した結果についても「異常なし」と更新されている。このときの「非常用発電設備」にかかる点検結果の「異常なし」とは、自家発電装置41の作動が正常であること、燃料タンクの燃料も十分にあり、かつ、屋内配線において断線した部分がないことを示している。これにより、特定範囲の全体に電力を供給できる状態となっていることが示されている。このように、点検が進行するに従って、確認された内容が、関連あるエリアまたはブロックに反映され、情報が整理されるとともに適宜判断されることにより、順次「利用可能状況」の該当個所が決定されていくのである。
そこで、前掲の例示による場合、電力供給可能であることから、「利用可能状況」の「重要業務空間」について使用の可否が判断される。上述のように全ての範囲に電力供給が可能であるが、自家発電装置により供給される電力を最小限に使用するため、一部のエリアから供給を開始されている。「電力」について「重要業務空間」のうち「優先業務室」および「データセンター」のみが「可」となっているのは、そのことを意味するものである。なお、「空調」については、特定階のみの異常であったため、「優先業務室」および「データセンター」の空調は正常であり、また「情報」については異常を示しておらず、そのまま使用可能である。
これとは異なり、「活動支援空間」に「代」が表示されている。これは、排水の異常(排水管の漏洩)が「優先業務室」の設置されている階で発生し、給排水設備の使用が不可であることによるものである。ここでは、直ちに「不可」とされず、給排水設備に使用については上階または下階を代替的に使用できると判断され、そのため、「代」を表示して、全体評価「使用可否」については「可」としている。このように、「重要業務空間」の上位に位置するエリアから順次、使用の可否が判断され、その後「通常業務空間」についても判断されることとなる。なお、「活動支援空間」とは、トイレ、廊下、階段などの付随する空間を意味しており、「重要業務空間」を使用するために、当該業務の種類により、これらの「活動支援空間」の継続的な利用が不可欠となる場合には、当該「活動支援空間」の可否を加味しつつ、総合的に「重要業務空間」の継続利用の可否が判断されるものである。
ところで、「重要業務空間」の設置場所の「使用可否」が、仮に「不可」が表示されるような場合は、「重要業務空間」の各「業務室」について使用可否が判断され、最も損傷の少ない業務室、すなわち項目の「可」が多く、最低限の条件を満たす業務室を、優先的に使用可能であるとして、上位の欄に移動させるように表示させることもできる。このような事態の場合には、優先業務として位置づけされていた「優先業務室」、「データセンター」など業務を前記「業務室」の各場所へ移動し、当該業務を継続することも可能となる。さらには、緊急的な使用可能なエリアを判断させたい場合には、「計測情報」に表示される各情報(すなわちセンサ群20,30からの情報)のみから「利用可否」を表示させることも可能である。一時的な暫定結果として表示することにより、「重要業務空間」の使用の可否を瞬時に判断し得るからである。このことは、病院における手術室や集中治療室の継続使用の可能性、または銀行における決済システムの継続使用の可能性などを瞬時に判断するために必要な情報として、有益に機能させることに資するものである。
ここで、業務エリアの継続使用の可否の判断手法を例示する。図5は、外部からの供給停止の状態および特定範囲(1棟の建物)内の一部に損傷を受けた場合の「給水系統」、「電力系統」および「排水系統」の各供給ラインと計測点を示している。なお、図示は省略しているが、特定範囲(建物)内には、その他の複数の業務エリアが存在し、供給ラインも多数存在するものであるが、ここでは、説明の便宜上、「重要業務空間A」、「重要業務空間B」および「重要業務空間C」と称する3つの業務エリアを代表として例示する。また、図中に説明されているように、各供給ラインの丸印は計測点を示し、四角中の×印は破損個所を示している。この図の例では、給水系統については、外部からの上水供給が停止し,高置水槽から給水するための給水ポンプが機能しない状態となっており、電力系統については、外部からの電力供給が停止し、さらに建物内部の配線に被害が生じて「重要業務空間A」の末端部への電力供給が不能であり、排水系統には問題がない状態を示している。
そこで、こられの各状況を踏まえて、系統ごとの使用の可否が判断される。系統ごとのライフライン要素による被害状況を分類するための方法の例を図6に示す。なお、図中の「都市ライフライン」とは、外部から供給されるライフラインを意味している。この図のように、外部からの供給があり、かつ建物内の設備系統に被害(破損等)がない場合(状況A)は、当然に当該系統の使用の可否は「可」となる。これに対し、建物内の設備系統に被害がある場合(状況B)は、復旧が確認されるまでは「不可」とされる。そして、被害があった場所の修理し、復旧された場合は「可」となり、または、一部においてのみ設備系統に被害があり、継続使用可能な空間(エリアまたはブロック)が存在すれば、当該空間(エリア等)を特定し、当該空間(エリア等)については「可」とされる。また、外部からの供給が停止している場合であっても、備蓄等の自力供給が可能である場合(状況C)においては、自力供給設備に関する被害(建物内の設備系統全体についての被害)がなければ、使用は「可」となる。また、自力供給可能であるが設備系統に被害がある場合(状況D)には、継続使用可能な条件を満たす空間(エリア等)を判断して優先的にエネルギや水を供給して機能継続を計ることになる。
そして、上記判断基準に基づいて、各系統についての使用の可否が判断される。図7は、その判断のための項目が予め設定され、その項目ごとにチェックされた結果の各系統の使用の可否が判断されることを示している。これらの項目は、建物の構造や用途、設置される設備の内容によって適宜変更され得るものである。図7の上段は電力系統の例を示し、図7の下段は給水系統の例を示している。排水系統には損傷個所がなかったため、ここでは図を省略している。なお、図中の「都市ライフライン」とは、外部から供給されるライフラインを意味している。
この図に示されているように、電力系統においては、外部からの電源供給が停止されているが、非常用発電機(自家発電装置)の稼働状況が良好であることから、建物内部の配線に被害が生じて「供給末端電圧」が継続されない「重要業務空間A」(室名称A)を除き、電力系統における使用の可否が可と判断されるものである。他方、給水系統においては、外部からの上水供給が停止されているが、地上に設置している受水槽の残量があり、揚水ポンプは非常用電源により稼動可能であり、高置水槽にも破損が見られないことから、機能しない状態となっている給水ポンプを使用する給水設備が利用され、「配管末端水圧」が上昇しない状況となっている「重要業務空間C」(室名称C)を除き、給水系統における使用の可否が可と判断されるものである。
このように、各系統について判断された使用の可否は、さらに、予め用意された項目を参照しつつ、各業務エリアについての最終的な使用の可否が判断される。その際に判断の基準とされる項目の一例を図8に示す。この図に示されるように、電力および給排水系統の他に、業務エリアを継続使用するための重要項目が予め定められており、これらの各項目をクリアした業務エリアのみを使用可能として判断するのである。
上記例示においては、最終的に、「重要業務空間A」(室名称A)のみが、継続使用不可と判断され、「重要業務空間B」(室名称B)は、問題なく継続使用可能であり、「重要業務空間C」(室名称C)は、制限条件下においての使用が可能と判断される。ここでの「重要業務空間C」(室名称C)における使用制限とは、給水系統が不能であるため、給水設備については下階を代替使用、もしくは復旧までの間の水の使用を制限するという内容となる。そして、継続使用が開始された「重要業務空間B」(室名称B)、「重要業務空間C」(室名称C)に対しては、限られたエネルギと水を供給することで、限定的なエリアにおいて長期的に重要な特定業務を継続させることができる。
なお、上記使用不可の評価および制限条件下における使用可能の評価については、各系統の復旧が進行すれば、徐々に解消することとなり、逆に、重ねて被災することなどによって(震災時の余震などにより)新たな被害(破損等)が発生した場合には、当初は使用可能の評価であっても、その後、使用不可の評価となる場合もあり得る。
また、上記に示した各種の判断材料としての項目は、一例を示すものであり、管理すべき特定範囲の種類により、または建物の構造や用途、設置される設備類に応じて決定することができるものである。さらには、本システムを稼働した後、改善されるように項目を見直すことにより、使用の可否の判断を的確なものとすることができる。
本実施形態は、以上のとおりであるから、予め特定事情に必要なライフライン要素に関する情報を蓄積することにより、非常時におけるライフライン要素の供給状況を検出しつつ事業継続可能なエリアを選定することができる。その結果、BCPの実行を支援することができ、また、BCPの実行を支援することによって、特定建物または特定地域における機能維持を可能にすることができる。
そして、上記実施形態における管理装置によれば、各種情報を集中的に管理し、時々刻々変化する状況下においても、その情報に基づいて特定事業の継続性を判断することができる。このように、各種の情報を集中管理することにより、特定範囲において必要なライフライン要素の供給を集中させることとなり、限定的なエリアにおいて長期的に特定業務を継続させることができることとなるのである。
本発明の実施形態について、上記のとおり説明したが、本実施形態は一例であって、本発明がこれら実施形態に限定される趣旨ではない。すなわち、管理システムについては、理解を容易にするため、具体的な項目を挙げてセンサ群20,30を例示したが、これらに限定されるものではなく、また、管理装置における作成情報(表示画面等)についてもこれらの情報に限定されるものではない。例えば、作成情報(表示画面等)には、貯水量や燃料残量などの情報、特に、継続可能時間などを予測した情報を表示させるようにしてもよく、また、残量が所定以下を示す場合に警報画面を、前記表示画面に重ねて表示させるようにしてもよい。さらには、外部から入力される情報(警報や速報)が更新された際に、その情報を前記表示画面に重ねて表示させるように構成してもよい。上記のように貯水量や燃料残量の画面表示においては、残量の減少傾向をグラフ化したものを表示することにより、水や燃料の減少率を瞬時に判断できることとなる。ある時期から減少傾向が著しい場合は、配管からの漏れや浪費などが疑われるため、更なる点検によりライフライン要素の使用を長期化させるように、種々の状況に応じた適切な判断を支援することとなるのである。
また、生活住民(集合住宅など)や近隣住民(特定の地域)に対する掲示画面を提供するように構成してもよい。このような掲示画面としては、図9のようなものが想定される。この種の掲示画面は、携帯端末を使用して管理サーバ11が作成する画面情報にアクセスすることによって個々の住民が閲覧できるようにしてもよく、また、電子掲示板のように、ロビー等に画面を設置して掲示してもよい。
さらに、管理サーバ11をクラウド化し、特定範囲内に設置されるコックピットには、表示部12および入力部13を備えるようにしてもよい。なお、外部記録装置14は、管理サーバ11と同様にクラウド化してもよいが、コックピットに備えるようにしてもよい。コックピットに備える場合には、表示部12や入力部13との間で入出力される情報を管理サーバ11とは別ルートで入力・記録させる構成とすることができ、また、検知装置群2からの入力信号および自力供給装置4との間の入出力信号についても管理サーバ11とは別ルートで入力・記録させる構成とすることができる。このように、別ルートで入力される情報を記録する外部記録装置14をコックピットに備えることにより、記録情報を分離保管することができ、いずれか一方が毀損された場合のバックアップ用データとして機能させることも可能となる。
なお、上記のような開示範囲から、本発明には、次の概念をも含むものである。すなわち、非常時管理装置にかかる発明においては、前記受給センサは、電気、ガスまたは水道における供給量を計測するセンサとすることができる。前記内部接続センサは、屋内配線、貯水タンク、給水管、排水タンク、排水管、燃料タンクまたは燃料供給管における供給量を検知するセンサとすることができる。
さらに、前記供給装置制御手段は、自家発電装置を作動させる自家発電制御手段、貯水タンクに貯留される水の供給を制御する給水制御手段、および、燃料タンクに貯留される燃料を供給する燃料供給制御手段から選択される一または複数の制御手段によって構成されるものであってもよい。
また、前記判断手段は、前記切断部分を有する範囲と、接続可能な範囲を選択し、接続可能な範囲を含む任意の範囲に供給することを判断するものとすることができる。そして、 前記特定範囲が、建物を単位として定められる範囲である場合もあれば、建物内の部屋を単位として定められる範囲である場合もある。また、前記特定業務が、非常時における管理業務である場合もあれば、非常時における居住や避難生活である場合もある。
<実験例>
地震災害時において、上述した実施形態による非常時管理システムを使用した場合の業務継続の状況をシミュレーションした。この例を図10に示す。図の縦軸は、建物サービス利用可能率(%)を示し、横軸は経過日数を示している。なお、縦軸の建物サービス利用可能率(%)は、空調系統(冷暖房・換気)、給水系統(上水給水・中水給水)、排水系統(排水・汚水排水)、電力系統(照明・コンセント)の4系統(8項目)について、利用可能か否かを、全体(8項目)が利用可能な状態を100%として、その項目の利用可能な割合によって算出した。「対応なし」と示した部分は、本実施形態の管理システムを使用しない場合であり、給水系統および電力系統の管理を行った場合をシミュレートしている。なお、シミュレーションのモデルは、阪神・淡路大震災に見舞われた神戸市立中央市民病院の状況を参照して実施したものである。図中の「目標建物サービス利用可能率」とは、各ライフライン要素が復旧(供給開始)される速度に応じて、その理想的な利用可能率を想定したものであり、「緊急対応」においては、前記「建物サービス利用可能率」を50%と設定し、「継続対応」においては、75%と設定している。なお、図10の(a)は非常時管理システムによる対応を行っていない場合(対応なし)の場合をグラフ化したものであり、(b)は対応を行ったことを想定した場合のものである。
この図に示すように、緊急対応における到達目標の実現日数は、「対応なし」に比較して20日の早期回復を実現することができた。また、継続対応における到達目標の実現日数は、「対応なし」に比較すると6日間の早期回復状態であることがわかる。また、「非常用発電による対応」では、緊急対応において、建物サービス利用可能率0%に陥ることを防ぐことができている。このように、少ないライフライン要素についてシミュレーションした場合であっても、被災後の利用状況の回復状況は早期であり、非常時における管理システムが有効に機能していることが理解できる。そして、さらに多数のライフライン要素について対応すれば一層の早期回復が可能であることは容易に想像し得るところである。以上の結果から、建物機能の回復が早期に実現可能であり、BCPやLCPの実行を支援し、ひいては、特定建物または特定地域における機能維持が可能となるものであることが理解できる。