以下、被圧延材の巻出しおよび巻取りにテンションリールを用いる代表的な圧延機であるシングルスタンド圧延機を例に本発明の詳細を説明する。図14は、シングルスタンド圧延機S100の制御構成を示す図である。シングルスタンド圧延機S100は、ロール対である圧延機1の圧延方向(図14中、矢印で示す)に対して圧延機1の入側に、被圧延材uを供給して挿入させる入側テンションリール2(以下、入側TR2と称す)を有し、出側に、圧延機1で圧延された被圧延材uを巻き取る出側テンションリール3(以下、出側TR3と称す)を有している。
入側TR2および出側TR3は、それぞれ電動機にて駆動され、この電動機と電動機を駆動制御するための装置として、それぞれ入側TR制御装置5および出側TR制御装置6が設置されている。この構成により、シングルスタンド圧延機S100における圧延は、入側TR2から巻き出された被圧延材uを圧延機1で圧延した後、出側TR3で巻き取ることにより行われる。
ここで、圧延機1には、上作業ロールRs1と下作業ロールRs2との間の距離であるロールギャップを変更することで、被圧延材uの圧延後の板厚(製品板厚)を制御するためのロールギャップ制御装置7と、圧延機1の速度(上・下作業ロールRs1、Rs2の周速度)を制御するためのミル速度制御装置4が設置されている。圧延時、圧延速度設定装置10より速度指令がミル速度制御装置4に対して出力され、ミル速度制御装置4は、圧延機1の速度(上・下作業ロールRs1、Rs2の周速度)を一定とするような制御を実施する。即ち、ミル速度制御装置4が圧延機回転制御部として機能する。
圧延機1の入側(図14の圧延機1の左側)、出側(図14の圧延機1の右側)では、被圧延材uに張力をかけることで圧延を安定かつ効率的に実施する。そのために必要な張力を計算するのが、入側張力設定装置11および出側張力設定装置12である。また、入側張力電流変換装置15および出側張力電流変換装置16は、入側張力設定装置11及び出側張力設定装置12にて計算された入側および出側張力設定値に基づき、入側および出側の設定張力を被圧延材uに加えるために入側TR2および出側TR3のそれぞれの電動機の必要な電動機トルクを得るための電流値を求め、それぞれの電流値を入側TR制御装置5および出側TR制御装置6に与える。
入側TR制御装置5および出側TR制御装置6では、それぞれ与えられた電流となるように電動機の電流を制御し、入側TR2および出側TR3に与えられるそれぞれの電動機トルクにより被圧延材uに所定の張力を与える。入側張力電流変換装置15、出側張力電流変換装置16は、TR(テンションリール)機械系およびTR(テンションリール)制御装置のモデルに基き張力設定値となるような電流設定値(電動機トルク設定値)を演算する。
ただし、この制御モデルは誤差を含むため、圧延機1の入側および出側に設置された入側張力計8および出側張力計9で測定された実績張力を用いて、入側張力制御13および出側張力制御14により張力設定値に補正を加えて、入側張力電流変換装置15、出側張力電流変換装置16に付与する。これにより、入側張力電流変換装置15、出側張力電流変換装置16が入側TR制御装置5および出側TR制御装置6へ設定する電流値を変更する。
また、被圧延材uの板厚は製品品質上重要であるため、板厚制御が実施される。具体的には、出側板厚制御装置18が、出側板厚計17にて検出された実績板厚に基づいてロールギャップ制御装置7を制御することにより圧延機1のロール間の間隔であるロールギャップを制御し、圧延機1の出側(図14の圧延機1の右側)の板厚を制御する。
シングルスタンド圧延機において巻取および巻出に用いられる出側TR3および入側TR2は、それぞれの電動機が発生するトルクを一定とするトルク一定制御によって制御されている。具体的には、入側張力計8、出側張力計9で検知した実績張力に基づき、電動機電流指令が補正されることで被圧延材uにかかる張力を一定とするための制御が行われている。なお、入側TR2及び出側TR3のそれぞれの電動機の電動機トルクは、電動機電流により得られるので、トルク一定制御を電流一定制御とする場合もある。
トルク一定制御でTR(テンションリール)制御を行う場合、圧延機に適用される板厚制御と干渉して出側板厚精度が悪化するという問題が有る。出側板厚に対する影響は出側張力に比べて入側張力のほうが大きいので、圧延機1と入側TR2における問題点を、以下説明する。
図15は、シングルスタンド圧延機S100の入側TR2と圧延機1間の圧延現象を示す概念図である。図15に示すように、入側TR2においては、入側TR制御装置5の出力である電動機トルク22と、入側張力24(Tb)と機械条件(リール径Dおよびリールギア比Gr)より決定される張力トルク25との和、つまり電動機トルク22と張力トルク25との和を積分することで、入側TR(テンションリール)速度20が決定される。なお、Jは、入側TR2の慣性モーメント(kg・m2)である。
圧延機1においては、ロールギャップ変更量23(=ΔS)を図示するような所定の係数(M/(M+Q))を積算した値と、圧延機1の入側張力24を図示するような所定の係数((∂P/∂Tb)/(M+Q))を積算した値とにより、出側板厚26が決定され、この決定された出側板厚26からマスフロー一定則により圧延機入側速度21が決定される。そして、圧延機入側速度21と入側TR速度20との差を積分したものが入側張力24となる。なお、図15において、Mはミル定数M(kN/m)であり、Qは塑性定数Q(kN/m)であり、(∂P/∂Tb)/(M+Q)は、入側張力Tbの変動による圧延荷重P(kN)の変動の出側板厚への影響係数(kb)である。
圧延機1における、基本法則としてマスフロー一定則がある。これは、圧延機1の入側(図14に示す圧延機1左側)と圧延機1の出側(図14に示す圧延機1右側)の被圧延材uが連続することより以下の式(1)によって示される。
H・Ve=h・Vo ・・・ (1)
H:圧延機1の入側板厚
h:圧延機1の出側板厚
Ve:圧延機1の入側板速
Vo:圧延機1の出側板速
マスフロー一定則の式(1)から、入側板厚一定の場合、入側板速が変動すると出側板厚が変動することを意味する。シングルスタンド圧延機(図14に示す一つの圧延機1)の場合、入側板速は入側TR速度となる。入側TR2は、電動機トルク22に張力トルク25が合致するように入側TR速度20を変化させるが、この変化は入側TR2の慣性と圧延機1および圧延現象によって行われ、入側速度20の変化を抑制する制御手段がない。
そのため、圧延機1において、板厚制御で出側板厚(圧延機1の出側の被圧延材uの板厚)を一定とするためロールギャップ変更量23のΔSを操作すると、それに応じて圧延機入側速度21(圧延機1の入側の被圧延材uの搬送速度)が変化し、入側張力24の偏差ΔTbが発生する。これを抑制するために入側TR速度20が変動するが、この変動によって出側板厚変動が発生する。入側TR2によって行われる入側張力抑制系27は圧延条件によっては時定数が大きい場合が有り、大きなうねりを持つ出側板厚変動の原因となる場合がある。
入側張力24は、圧延現象によっても抑制される。入側張力24が変動すると、圧延機1の圧延荷重Pが変化し、それに伴って圧延機入側速度21が変動する。この入側張力圧延現象系28によっても入側張力24は変動する。入側張力圧延現象系28の応答は、入側張力抑制系27に比べて非常に速いため、図15の入側圧延現象は、図16のように変換できる。
図16より、圧延機1のロールギャップ変更量23(=ΔS)は、同位相で入側張力24の偏差ΔTbとなって表れ、それが入側TR2で積分された状態で入側TR速度20が変化することがわかる。従って、ロールギャップ変更量23(=ΔS)と入側張力24の偏差ΔTb、入側TR速度20の変化、および出側板厚の変化は図17のような関係となる。図17は、ロールギャップ変更量23、入側張力24(Tb)、入側TR速度20、および出側板厚の関係を表す図である。
図17に示すように、ロールギャップ変更量23が変化すると、圧延機1の入側速度が変化し、入側張力24が変化する。入側張力24の変化に伴い、入側TR2はトルク一定制御を行っているため、入側TRの慣性による動作で入側TR速度20が変化する。入側TR速度20が変動すると、上記式(1)において示したマスフロー一定則により出側板厚変動が発生する。出側板厚変動が発生すると、出側板厚制御装置18が出側板厚を一定とするためロールギャップ変更量23を操作する。これら一連の動作が継続すると、図17に示すように、出側板厚が振動するようになる。
なお、実際には出側板厚計17は圧延機1から離れた場所に設置されるため出側板厚制御装置18が用いる出側板厚の検知までに遅れ時間が存在するが、出側板厚の振動周期に対して充分に遅れ時間が短い場合は無視できる。
このような出側板厚の振動を防止するために、テンションリールと圧延機との間の張力を所望の値に維持する制御を行う一方、予め設定した範囲の張力設定値からの偏差に対してはテンションリール速度を一定とすることを優先し、張力偏差を修正しないことで、テンションリール速度の変動を抑制する方法が考えられる。しかしながら、この方法ではテンションリール速度の変更を抑制することで圧延機出側板厚変動を抑制する事ができない場合が発生する。
圧延機においては、ロールギャップとロール速度という2個の制御操作端と、圧延機の出側板厚と圧延機の入側(または出側)張力という2個の制御状態量が存在する。2個の制御操作端を操作した場合、2個の制御状態量それぞれに影響を及ぼして制御状態量が変化する。図17は、このような制御操作端及び制御状態量の関係を、シングルスタンド圧延機の場合について示した図である。シングルスタンド圧延機の圧延現象は、図18に示したようになるが、これを概念的に記述したのが図19である。
シングルスタンド圧延機1の場合、制御操作端は、ロールギャップ変更量23、入側TR速度20である。また、制御状態量は、圧延機の出側板厚26、入側張力24である。ロールギャップ変更量23を変更した場合、(ロールギャップ→出側板厚)影響係数503による出側板厚26、(ロールギャップ→入側張力)影響係数501による入側張力24の変化が発生する。また、入側TR速度20を変更した場合、(入側TR速度→入側張力)影響係数502による入側張力24、(入側TR速度→出側板厚)影響係数504による出側板厚26の変化が発生する。
シングルスタンド圧延機1においては、図19に示したように、圧延機出側板厚26については、出側板厚制御装置18がロールギャップ変更量23を変更することで制御している。また、入側張力24については、図19に示すように入側張力抑制系27が入側TR速度20を変更することで制御している。
(ロールギャップ→出側板厚)影響係数503および(入側TR速度→入側張力)影響係数502が、(ロールギャップ→入側張力)影響係数501および(入側TR速度→出側板厚)影響係数504に比較して十分大きい場合は、この制御構成で問題無いが、公知例2で示しているように、(ロールギャップ→出側板厚)影響係数503および(入側TR速度→入側張力)影響係数502が、(ロールギャップ→入側張力)影響係数501および(入側TR速度→出側板厚)影響係数504に比べて小さくなってくると、安定に制御が行われなくなる問題が発生する。
このような状態となると、板厚制御装置18が、出側板厚26を制御するために、ロールギャップ変更量23を操作しても、入側張力24が大きく変動し、それを制御するために入側張力抑制系27が入側TR速度20を変更すると、それにより出側板厚26が大きく変動する。出側板厚が変化すると、板厚制御装置18がロールギャップ変更量23を操作するため、結果として、出側板厚26、入側張力24、入側TR速度20、ロールギャップ変更量23が同じ周期で振動する状態が発生する事になる。
シングルスタンド圧延機の入側圧延現象は、図16に示すようになる。入側TR2による入側張力抑制系27を取り去って、入側TR速度20及びロールギャップ変更量23を制御操作端とし、出側板厚26及び入側張力24を制御状態量として作成した、図15と同様なブロック図を図16に示す。図15から図16に変換した場合と同様に、入側張力圧延現象系28をまとめて、入側張力影響係数101としている。図15においては、入側TR2による入側張力抑制系27に比べて、応答時間が十分に短いとして省略した1次遅れ時定数Trを、図16においては残している。図16から、図15における影響係数501、502、503、504に対応するものとして、図19の111、112、113、114が得られる。
ここで、Veは入側TR速度20、hは圧延機の出側板厚26であるから、出側板厚26が薄く、入側TR速度20が速ければ、(入側TR速度→出側板厚)影響係数114および(入側TR速度→入側張力)影響係数112が小さくなることがわかる。また、入側張力影響係数101に含まれる1次遅れ時定数Trは小さくなる。そのため、(ロールギャップ→出側板厚)影響係数113は、小さくなる。また、(ロールギャップ→入側張力)影響係数111は応答が速くなる。つまり、出側板厚26が薄く、入側TR速度20が速いと、ロールギャップ変更量23操作時、圧延機の出側板厚26が変化しにくくなり、入側張力が変化しやすくなる。つまり、(ロールギャップ→入側張力)影響係数111が(ロールギャップ→出側板厚)影響係数113より大きくなる。また、入側TR速度20操作時は、入側張力24および出側板厚26が同じように変化しずらくなる。
入側張力に関しては、圧延現象項kbを含む。圧延速度および出側板厚に応じてkbも変化するが、kbが大きくなると、(入側TR速度→入側張力)影響係数112は、(入側TR速度→出側板厚)影響係数114に比較して小さくなる。
以上より、出側板厚26が薄く、入側TR速度20が速くなる事により、(ロールギャップ→出側板厚)影響係数113が(ロールギャップ→入側張力)影響係数111に比較して小さくなり、(入側TR速度→入側張力)影響係数112が(入側TR速度→出側板厚)影響係数114に比較して小さくなる場合が存在する事がわかる。このような場合、図19に示すような、板厚制御装置18で出側板厚26を、入側張力抑制系27で入側張力24を制御しようとすると、クロス項の影響が大きいため安定に制御する事が不可能になる。
このような場合には、図22に示すように、出側板厚26を入側TR速度20にて制御する速度板厚制御装置50、および入側張力24をロールギャップ変更量23にて制御する圧下張力制御51を適用する事で、出側板厚26および入側張力24を安定に制御できるようになる。これを実現するためには、従来トルク一定制御(電流一定制御)にて運転している入側TR2を速度一定制御での運転に変更する必要がある。
入側張力抑制系27の応答が悪化した場合においても、入側TR2を速度一定制御で運転する必要がある。図16における、入側張力抑制系27は、等価変換により、時定数Tqの1次遅れ系となる。ここで、Tqは入側TR速度20に比例、圧延機の出側板厚26に反比例し、圧延現象項kbに比例する。従って、圧延現象項kbが大きくなると入側張力抑制系27の時定数Tqが大きくなり、入側張力抑制系27の応答が悪化することとなる。また、この場合は、図21における(ロールギャップ→入側張力)影響係数111は、大きくならないため、従来のロールギャップ変更量23による板厚制御と、入側張力抑制系27による張力制御で安定に制御可能であると考えられる。
圧延設備においては、多様な材質の被圧延材を、多様な板厚に圧延しており、また圧延速度も多様である。従って、圧延状態に応じて、出側板厚および入側張力制御を安定に実施できる、以下の3種類の場合が発生する。
A)ロールギャップを操作する板厚制御と、トルク一定制御で運転する入側TRの入側張力抑制系による張力制御。
B)ロールギャップを操作する板厚制御と、速度一定制御で運転する入側TRの速度を操作する速度張力制御。
C)ロールギャップを操作する圧下張力制御と、速度一定制御で運転する入側TRの速度を操作する速度板厚制御。
圧延機の板厚制御および張力制御を安定に実施するためには、圧延状態に応じて、上記3種の制御を切替えて使用する必要がある。これを実現するための、本実施形態に係るシングルスタンド圧延機の制御構成を図1に示す。出側板厚計17で検出した出側板厚偏差Δhを用いて、圧下板厚制御61によりロールギャップへの操作指令ΔΔSAGCを生成し、速度板厚制御62により入側TR速度への操作指令ΔΔVAGCを生成する。また、入側張力計8で測定した入側張力の実測値である入側張力実績と、入側張力設定装置11で設定した入側張力設定との偏差(入側張力偏差)ΔTbを用いて、速度張力制御63により入側TR速度への操作指令ΔΔVATRを生成し、圧下張力制御64によりロールギャップへの操作指令ΔΔSATRを生成する。
また、入側TR2が、トルク一定制御で運転している場合については、入側張力設定装置11による入側張力設定値に、入側張力実績と入側張力設定値との偏差により入側張力設定値を操作する入側張力制御13からの制御出力を加えたものを、入側TR2への電流指令に入側張力電流変換装置15により変換して、入側TR制御装置66への電流指令を作成する。
制御方法選択装置70は、圧延状態に応じて、上述したA)、B)、C)のいずれの制御方法を適用すれば最も出側板厚変動、入側張力変動を低減可能かを選択し、選択結果に基づきロールギャップ制御装置7に対してロールギャップ操作指令を出力する。入側TR速度を操作する場合は、入側TR速度指令装置65に速度操作指令を出力する。入側TR速度指令装置65においては、基準速度設定装置19より出力される入側TR基準速度と、制御方法選択装置70よりの入側TR速度変更量より入側TR速度指令を作成し、入側TR制御装置66に出力する。
入側TR制御装置66においては、電流指令に応じてトルク一定制御(電流一定制御)を行う運転モードと、速度指令に応じて速度一定制御を行う運転モードを持ち、制御方法選択装置70からの指令に応じて切替えて運転する。
図2に、圧下板厚制御61、速度板厚制御62、速度張力制御63、圧下張力制御64のブロック図の一例を示す。これらは、各制御構成の一例であり、これ以外の方法を用いて制御系を構成することも可能である。例えば、図2の例では、各制御系は積分制御(I制御)となっているが、比例積分(PI制御)または、微分比例積分制御(PID制御)とすることもできる。
圧下板厚制御61は、出側板厚実績hfbと出側板厚設定値hrefとの差である出側板厚偏差Δh=hfb−hrefを入力とし、入力された出側板厚偏差に調整ゲインおよび出側板厚偏差からロールギャップへの変換ゲインをかけたものを積分する積分制御(I制御)で構成される。積分後の出力と、前回値との偏差をとって、制御出力ΔΔSAGCとする。また、速度板厚制御62は、出側板厚偏差Δhを入力とし、入力された出側板厚偏差に調整ゲインおよび出側板厚偏差から入側速度への変換ゲインをかけたものを積分する積分制御(I制御)で構成される。積分後の出力と、前回値との偏差をとって、以下の式(15)または(16)を制御出力とする。
ここで、Mは圧延機のミル定数、Qは被圧延材の塑性定数である。また、速度板厚制御の指令は、設定速度に対する速度変更比率として出力される。
圧下張力制御64は、入側張力実績Tbfbbと入側張力設定値Tbrefとの差である入側張力偏差ΔTb=Tbfbb−Tbrefを入力とし、入力された入側張力偏差ΔTbに調整ゲインおよび入側張力偏差ΔTbからロールギャップへの変換ゲインをかけたものを積分する積分制御(I制御)で構成される。積分後の出力と、前回値との偏差をとって、制御出力ΔΔSATRとする。
また、速度張力制御63は、入側張力偏差ΔTbを入力とし、入力された入側張力偏差ΔTbに調整ゲインおよび入側張力偏差ΔTbから入側速度への変換ゲインをかけたものを積分する積分制御(I制御)で構成される。積分後の出力と、前回値との偏差をとって、以下の式(3)を制御出力とする。
図3に、制御方法選択装置70の概要を示す。制御方法選択装置70は、最適制御方法決定装置71および制御出力選択装置72より構成される。最適制御方法決定装置71にて、上述したA)、B)、C)のいずれの制御方法を用いて制御するかを決定し、制御出力選択装置72において、前記圧下板厚制御61、速度板厚制御62、速度張力制御63、圧下張力制御64のいずれの出力を使用するか選択して、ロールギャップ制御装置7および入側TR速度指令装置65、入側TR制御装置66に制御指令を出力する。即ち、最適制御方法決定装置71が、制御態様決定部として機能する。
図4に、最適制御方法決定装置71の動作概要を示す。ここでは、(ロールギャップ→入側張力)影響係数111が大きい場合は、制御方法C)を用いて圧下による張力制御、リール速度による板厚制御を行い、入側張力抑制系27の張力修正時定数が大きい場合は、制御方法B)により、圧下による板厚制御と、TR速度を操作する入側張力制御を行うものとする。それ以外の場合は、従来より実施されている制御方法A)を選択するものとする。
3つの制御方法のいずれを選択するかは、以下によって決定する。被圧延材の鋼種、出側板厚および圧延速度により、最適制御方法は変化すると考えられることから、鋼種または出側板厚が変ったら、圧延速度を低速、中速、高速の3段階程度に分け、圧延中に該当する圧延速度になったら、ロールギャップをステップ状に変化させて入側張力および出側板厚の変化を調べる。この場合、ロールギャップ変更量は、被圧延材の製品品質に影響を与えない大きさで変化させれば、製品材の圧延中にも実施可能である。またロールギャップをステップ状に変化させる場合には、上述した制御方法A)を選択しておく。
尚、本実施形態においては、図4に示すように、低速、中速、高速の順で段階的に圧延速度を変化させている。これは、上述した3つの制御方法のいずれかを選択するために実行されるものである。しかしながら、実際に圧延操業を開始する場合においても、図4に示すように段階的に圧延速度を上昇させる。従って図4に示すような操作は、通常の圧延操業に併せて実施することが可能であり、生産性を低下させることなく実施可能である。
ロールギャップをステップ状に変化させた直後の入側張力変動量、出側板厚変動量を測定し、(ロールギャップ→入側張力)影響係数114と(ロールギャップ→出側板厚)影響係数112のいずれが大きいかを判断する。また、入側張力抑制系27の応答時間は、ロールギャップをステップ状に動作させた場合の入側張力変化から判断する。
例えば、図4に示すように、圧延速度に応じて低速、中速、高速の領域を定める。この定め方は、最高速度までを3等分しても良いし、その他適当な基準により分割する。圧延速度がそれらの領域に入ったら、ロールギャップにステップ状の外乱を加える。ステップ状外乱を加えることで、入側張力および出側板厚が変動する。
次に、図5に示すように、入側張力および出側板厚偏差の実績より、パラメータdTb、dh、Tbrを求める。これらのパラメータは、実績値の時間方向の変動状況より信号処理にて求めることができる。求めたパラメータdTb、dh、Tbrの大小関係から制御方法A)、制御方法B)、制御方法C)を選択する。
制御方法A)、制御方法B)、制御方法C)夫々の選択に際しては、図5に示すように、上述したパラメータdTb、dh、Tbrに基づいて算出される値と、所定の閾値との比較に判断する。例えば、(dh/href)/(dTb/Tbref)によって算出される値が、所定の閾値である制御方法C)選択値以下である場合、制御方法C)が選択される。また、Tbrが所定の閾値である制御方法B)選択値以上である場合、制御方法B)が選択される。制御方法C)選択値、制御方法B)選択値については、過去の実績値や圧延機のシミュレーション等によりあらかじめ求めて設定しておくことが可能である。
この最適制御方法選択処理を、低速、中速、高速におけるステップ状変更1.、ステップ状変更2.、ステップ状変更3.について行うと、図5に示す場合は、低速については制御方法A)、中速については制御方法B)、高速については制御方法C)を最適制御方法として選択するという結果になる。
制御方法選択装置70は、このような最適制御方法決定手順を実行し、求めた最適制御方法に制御方法を切り替える。この場合、制御方法A)と制御方法B)および制御方法C)では、入側TRの制御方法が異なるため、圧延操業中には切替できない場合もある。その場合は、制御方法A)で圧延操業を継続し、次回同一鋼種、同一板幅の被圧延材が来た場合に制御方法を切り替えればよい。求めた最適制御方法は、被圧延材の鋼種、出側板厚および圧延速度を検索条件とするデータベースに記録し、次回同種の被圧延材を圧延する場合は、データベースに記録してある最適制御方法に従って制御する。
データベースのレコード例を図6に示す。圧延設備によっては、圧延操業中に制御方法A)と制御方法B)および制御方法C)の切替ができない場合が有るが、制御方法A)の代わりに制御方法B)を用いることも可能である。このようにすれば、低速では制御方法A)であるが高速では制御方法C)が最適である被圧延材の場合、低速では制御方法B)、高速では制御方法C)を選択することで全速度域において安定かつ高精度な圧延が可能となる。
なお、上で述べた方法は最適制御方法の決定手順の一例であり、他の方法を用いることも可能である。例えば、圧延実績より、圧延現象モデルを用いて図21に示す影響係数を数値的に求め、その大小関係から最適制御方法を選択する事も可能である。
図7に、制御出力選択装置72の動作概要を示す。制御出力選択装置72においては、圧下板厚制御61、速度板厚制御62、速度張力制御63、圧下張力制御64からの出力、最適制御方法決定装置71からの制御方法選択結果を入力として、ロールギャップ制御装置7、入側TR速度指令装置65、入側TR制御装置66へ制御指令を出力する。
図7に示すように、制御出力選択装置72においては、圧下板厚制御61、速度板厚制御62、速度張力制御63、圧下張力制御64からの出力が、夫々ゲインコントローラ73、74、75、76に入力されている。ゲインコントローラ73〜76は、圧下板厚制御61、速度板厚制御62、速度張力制御63、圧下張力制御64夫々の出力にゲインをかけて出力する信号調整部である。ゲインコントローラ73〜76のゲインは、最適制御方法決定装置71からの制御方法選択結果に基づいて調整される。
制御方法A)選択の場合は、圧下板厚制御61からの出力を積分処理してロールギャップ制御装置7に出力する。また、入側TR制御装置66に対して、トルク一定制御モード選択を出力する。そのため、最適制御方法決定装置71による制御方法選択結果により、ゲインコントローラ74〜76のゲインがゼロに設定されると共に、ゲインコントローラ73のゲインが調整され、圧下板厚制御61からの出力が積分処理部77によって積分処理されるように設定される。また、最適制御方法決定装置71による制御方法選択結果により、入側TR制御装置66に対して、トルク一定制御モード選択が出力される。この場合、入側TR制御装置66が、テンションリールトルク制御部として機能する。
制御方法B)選択の場合は、圧下板厚制御61からの出力を積分処理してロールギャップ制御装置7に出力するとともに、速度張力制御63からの出力を積分処理して入側TR速度指令装置65に出力する。そのため、最適制御方法決定装置71による制御方法選択結果により、ゲインコントローラ74、75のゲインがゼロに設定されると共に、ゲインコントローラ73、76のゲインが調整され、圧下板厚制御61からの出力が積分処理部77によって積分処理されると共に速度張力制御63からの出力が積分処理部78によって積分処理されるように設定される。
制御方法C)選択の場合は、速度板厚制御62からの出力を積分処理して入側TR速度指令装置65に出力するとともに、圧下張力制御64からの出力を積分処理してロールギャップ制御装置7に出力する。そのため、最適制御方法決定装置71による制御方法選択結果により、ゲインコントローラ73、76のゲインがゼロに設定されると共に、ゲインコントローラ74、75のゲインが調整され、圧下張力制御64からの出力が積分処理部77によって積分処理されると共に速度板厚制御62からの出力が積分処理部78によって積分処理されるように設定される。
即ち、積分処理部77及びロールギャップ制御装置7につながる制御パスが、ロールギャップ制御部として機能する。また、積分処理部78及び入側TR速度指令装置65につながる制御パスが速度制御部として機能する。
図7に示すような方法を用いることで、圧延操業中にでも例えば圧延速度に応じて、制御方法A)、B)、C)を相互に切り替えることが可能である。入側TR速度指令装置65においては、図8に示すように、オペレータの手動操作により圧延速度設定装置10にて決定された圧延機速度VMILLより、基準速度設定装置19にて圧延機入側後進率bを考慮して作成した入側TR速度VETRを用いて、制御方法選択装置70からの制御指令を用いて、入側TR速度指令VETRrefを作成し、入側TR制御装置66に出力する。
図7に示すような方法を用いる事で、板厚制御と張力制御の制御操作端を切替える場合でも、圧延機1のロールギャップ指令および入側TR2の速度指令を滑らかに変化させる事ができる。しかしながら、制御操作端の切替え時に入側張力制御の影響により出側板厚変動が抑制できない場合が発生する。本実施例の対象であるシングルスタンド圧延機の操業方法を、図9に示す。
圧延機の停止状態から加速し、高速度で圧延して、最後に減速する事で1本の被圧延材(コイル)の圧延が終了する。そのため、加速中に制御方法B)から制御方法C)への切替え、減速中に制御方法C)から制御方法B)への切り替えが発生する。例えば、圧延機が減速してくると、制御方法C)から制御方法B)への切替えが発生する。これにより、今まで出側板厚を入側TR2の速度を用いて制御していたのが、圧延機1のロールギャップによる制御に切替わる。同様に、入側張力を圧延機1のロールギャップを用いて制御していたのが入側TR2の速度を用いた制御に切替る。
圧延機のロール速度(圧延速度)が増大する(加速する)と、圧延現象として、出側板厚が薄くなり、それに伴ってマスフロー一定則で入側板速度が減少し、入側張力が下降する。それを抑制するように、制御方法B)においては、圧延機1のロールギャップを用いた出側板厚制御および入側TR2の速度を用いた入側張力制御が行われている。
ここで、入側張力制御は、入側張力が小さくなるため、入側TR2の速度を下げる(減速させる)動作をする。入側TR2の速度を下げると、出側板厚は薄くなる結果となる。出側板厚制御は、圧延機1のロールギャップを開放して出側板厚を維持しようとする。この時、出側板厚制御は、圧延機1の加速による出側板厚減少分と、入側張力制御が入側TR2の速度を操作した事による出側板厚減少分を制御する必要がある。
この場合、出側板厚制御は圧延機のロールギャップを開放する。その結果、入側張力は上昇するため、入側張力制御にとっては良い方向に動作する。そのため、制御方法B)の状態では入側張力および出側板厚を良好に制御できる。
この状態で、制御方法C)に切替ると、入側張力制御は圧延機1のロールギャップを、出側板厚制御は入側TR2の速度を操作するようになる。この場合、入側TR2が加速されると入側張力が下降するので入側張力制御により圧延機のロールギャップを狭くなる。その結果、出側板厚が減少するので出側板厚制御により入側TR2の速度が上昇する。
入側TR2の速度を上昇させる事は、入側張力を下降させるため、入側張力制御は、圧延現象としての入側張力低下と、板厚制御が入側TR2の速度を操作した事による入側張力低下の両方を制御する必要がある。この場合、入側張力制御は圧延機のロールギャップを開放することで入側張力を上昇させようとする。しかしながら、圧延機1のロールギャップ変更の入側張力への影響係数が小さい状態だと入側張力を充分制御できない状態で出側板厚が変動してしまう。例えば、ロールギャップを過大に開放して出側板厚が厚い状態となってしまう。
上記と同様に、圧延機のロール速度(圧延速度)が低下する(減速する)と、圧延現象として、出側板厚が厚くなり、それに伴ってマスフロー一定則で入側板速度が上昇し、入側張力が上昇する。それを抑制するように、制御方法C)時は、圧延機のロールギャップを用いた張力制御および入側TR2の速度を用いた板厚制御が行われている。ここで、出側板厚制御は、出側板厚が厚くなるため、入側TR2の速度を下げる(減速させる)動作をする。
入側TR2の速度を下げると、入側張力が上昇する結果となる。従って、減速時に入側張力は、圧延現象によるものと、出側板厚制御が入側TR2の速度を操作した事によるものにより増大する。入側張力制御は圧延機1のロールギャップを操作するが、圧延機1のロールギャップから入側張力への影響係数が低下した状態だと、入側張力の増大を制御しきれず、入側張力が設定張力より大きくなる場合がある。
この状態で、制御方法B)に切替ると、入側張力制御は入側TR2の速度を、出側板厚制御は圧延機1のロールギャップを操作するようになる。この場合、入側張力が設定値より大きいので、入側張力制御は入側TR2の速度を増大させ、その結果として出側板厚偏差は増大する事になる。出側板厚制御は、圧延機1のロールギャップを操作(圧下閉)して出側板厚変動を抑制しようとするが、入側張力が小さくなってそれを除去するように入側張力制御が動作し、入側TR2の速度が元に戻るまで、マスフロー一定則より板厚偏差は解消されない。
以上より、圧延機1のロールギャップから入側張力への影響係数が充分に大きい状態で、制御方法B)と制御方法C)を切替えないと、入側張力が充分に制御できずに、出側板厚変動が発生する場合がある。従って、制御方法B)と制御方法C)を切替える場合は、圧延機のロールギャップから入側張力への影響係数が充分に大きい間に行う必要がある。しかしながら、入側TR2の速度変動により発生する板厚変動を除去するのが制御方法C)を用いる理由であることから、できるだけ速度が低い状態まで制御方法C)を使用することが求められる。
図9の下段に、上記問題発生時の出側板厚偏差、入側張力の状態を示す。加速時は、制御方法B)から制御方法C)に切替えた直後、減速時は制御方法C)から制御方法B)に切替えた直後に出側板厚変動が発生する。これに対して、加減速時には制御方法B)と制御方法C)の切替えを実施せず、一定速度での圧延中に実施する事で上記の現象は回避可能である。しかしながら、制御が安定するまで一定速での運転が必要であり、操業効率が悪化する問題がある。
出側板厚精度は、製品である被圧延材の品質上重要であるが、入側張力については多少変動しても出側板厚が安定していれば操業の安定性には問題ない。従って、入側張力制御の動作に補正を加える事で、圧延機のロールギャップから入側張力への影響係数が充分に大きくない状態であっても出側板厚精度を維持するようにすることが必要となる。また、この場合でも入側張力が一定範囲から外れると板破断や蛇行等が発生するため、入側張力は操業の安定性から予め定めた範囲である許容値内に入るようにする必要がある。
そのため、本実施形態に係る圧延制御装置においては、図1に示すように入側張力偏差補正装置91が設けられている。図10は、入側張力偏差補正装置の動作概要を示す図である。図10に示すように、入側張力偏差補正装置91は、上限許容値設定装置92、下限許容値設定装置93及び偏差補正部94を含む。そして、偏差補正部94は、入力された入側張力偏差の値が、上限許容値設定装置92、下限許容値設定装置93によって夫々設定された上限値及び下限値の範囲内であれば、入側張力偏差をゼロに補正して出力する。これにより、速度張力制御63、圧下張力制御64に夫々入力される入側張力偏差の値が補正される。
これにより、仮に入側張力偏差が発生していたとしても、速度張力制御63、圧下張力制御64に対しては偏差が発生していないように見せかけ、入側TR速度指令装置65による張力制御の動作が抑制される。即ち、入側張力偏差補正装置91が、張力制御抑制部として機能する。また、上限許容値設定装置92及び下限許容値設定装置93が、張力偏差の許容値を指定する張力制御抑制設定部として機能する。入側張力偏差補正装置91によるこのような動作は、上述したように制御方法B)から制御方法C)に切替えた直後、及び制御方法C)から制御方法B)に切り替えた直後に行われる。これにより、上述したような問題を解消することが出来る。
図11は、入側張力偏差補正装置91の動作概念を示す図である。図11においては張力設定の目標値を細い破線で、上限許容値設定装置92、下限許容値設定装置93によって設定される許容値を太い破線で示している。図11に示すように、上限許容値設定装置92及び下限許容値設定装置93は、制御方法B)から制御方法C)に切り替わったタイミング、若しくは制御方法C)から制御方法B)に切り替わったタイミングであるタイミングt0において、夫々上限許容値ΔTbmax、下限許容値ΔTbminを偏差補正部94に対して設定する。上限許容値ΔTbmax、下限許容値ΔTbminの値が、入側張力偏差の許容値、即ち、入側張力制御のデッドバンドである。
その後、偏差補正部94は、時間経過と共に上限許容値ΔTbmax、下限許容値ΔTbminを小さくしていく。これにより、許容される入側張力偏差の幅は時間経過と共に小さくなる。そして、タイミングt1において上限許容値ΔTbmax、下限許容値ΔTbminがゼロになり、入側TR速度指令装置65による張力制御が抑制された状態から通常通り張力制御が行われる状態に戻る。タイミングt0からタイミングt1の期間は数秒程度であり、例えば10秒であるが、被圧延材の材質や圧延速度、圧下率等の他の条件によって最適な期間は異なる。
図12は、図10、図11に示すような入側張力偏差補正装置91による処理が実行された場合の制御状態を示す図であり、図9に対応する図である。制御方法B)、C)の切り替え時に入側張力偏差を抑制することにより、図12に示すように、出側板厚偏差の変動を図9の場合に比べて低減する事ができる。
上限許容値設定装置92および下限許容値設定装置93は、基準速度設定装置19から出力される入側TR基準速度に基づき、図5、図6において説明したように最適制御方法データベースを参照して、制御方法B)と制御方法C)の切替タイミング、および圧延機の加速中、減速中を認識する。そして、その認識結果に基づき、図11に示す上限許容値ΔTbmax、下限許容値ΔTbmin、を夫々算出して偏差補正部94に設定する。
尚、上限許容値設定装置92および下限許容値設定装置93による上限許容値ΔTbmax、下限許容値ΔTbminの設定は、上述した基準速度設定装置19から出力される入側TR基準速度に基づいて行われる態様に限らず、他の方法を用いることも可能である。例えば、制御方法選択装置70の最適制御方法決定装置71が制御方法を切り替える際に、上限許容値設定装置92および下限許容値設定装置93に対して夫々上限許容値ΔTbmax、下限許容値ΔTbminを指示するようにしても良い。
偏差補正部94は、図11に示すように上限許容値ΔTbmax、下限許容値ΔTbmin、を時間経過に従って調整する。そして、偏差補正部94は、入力された入側張力偏差の値が入力時点における上限許容値ΔTbmaxよりも大きければ、入力された入側張力偏差から上限許容値ΔTbmaxを差し引いた値を補正後の入側張力偏差として出力する。
また、入力された入側張力偏差の値が入力時点における上限許容値ΔTbmaxよりも小さく、下限許容値ΔTbminよりも大きければ、補正後の入側張力偏差としてゼロを出力する。また、入力された入側張力偏差の値が入力時点における下限許容値ΔTbminよりも小さければ、入力された入側張力偏差から下限許容値ΔTbminを差し引いた値を補正後の入側張力偏差として出力する。
図13に、入側TR制御装置66の概要を示す。入側TR速度指令装置65からの入側TR速度指令VETRrefと、入側張力電流変換装置からの電流指令IETRset、制御方法選択装置70からのトルク一定制御モードを入力として、入側TR2への電流を出力とする。ここで、入側TR2は、TRの機械装置とそれを動かすための電動機より構成されており、入側TR2への電流とは、電動機への電流を示している。
入側TR制御装置66は、速度指令VETRrefと速度実績VETRfbを一致させるように電流指令を作成するP制御661およびI制御662、作成された電流指令IETRrefと入側TR2の電動機に流れる電流IETRfbが一致するように制御する電流制御663より構成される。トルク一定制御モードが選択された場合は、入側張力電流変換装置15からの入側TR電流設定値IETRsetでI制御662を置き換える。トルク一定制御モードが選択されない場合(速度一定制御)は、入側TR速度偏差にしたがって、P制御661およびI制御662を変更する。
この状態で、トルク一定制御モードが選択された場合、入側TR電流指令IETRrefが不連続に変化しないように、電流補正664により補正する。このような構成とすることで、圧延操業中においても、入側TR制御装置の制御モードをトルク一定制御から速度一定制御、速度一定制御からトルク一定制御と自在に切り替えることが可能となり、制御方法A)と制御方法B)および制御方法C)を自在に切り替えることができる。
以上で述べたような制御構成を用いることで、圧延状態に応じて、制御方法A)、制御方法B)、制御方法C)を切り替えて、出側板厚制御および入側板厚制御に最適な制御構成を選択することができるため、出側板厚精度および操業効率を大幅に向上することが可能となる。また、圧延速度の加減速時において制御方法B)、C)を切り替える際には、ある程度の張力偏差を許容して出側板厚の安定を優先させる。そのため、圧延速度の加減速時に出側板厚制度を損なうことなく制御方法B)、C)の切り替えを行うことが可能となり、操業効率の向上を図ることが可能となる。
尚、上記実施形態においては、入側張力偏差をデッドバンドで補正し、入側張力偏差補正値を作成したが、張力偏差に応じて張力制御ゲインを変更する等、入側張力制御の動作を制御方法切替時に抑制し、かつ張力偏差が大きい場合は張力制御が動作するような方法で有ればどのような方法を用いてもよい。張力制御ゲインを変更する場合、図7において説明したゲインコントローラ74、76のゲインを小さくすることにより、張力変動に基づく制御の制御値が小さくなるように抑制することが可能である。
また、上記実施形態においては、張力制御のために入側張力計8を設ける場合を例として説明した。これに限らず、入側TR制御装置66による出力電流の実績値と、入側張力電流変換装置15が出力する電流指令値との差異に基づいて張力を推定することも可能である。例えば、実績値が指令値よりも高い場合、入側TR制御装置66は被圧延材の張力を下げようとしている状態であるため、その際の張力は、入側張力設定装置11によって設定されている張力よりも高い状態であることが推定できる。
また、上記実施形態においては、図4、図5において説明したように、圧延実績に応じて制御方法A)、制御方法B)、制御方法C)を切り替えていたが、機械仕様や被圧延材の製品仕様に従って、あらかじめいずれかの制御方法を選択して継続的に使用することも可能である。このような場合において、図6において説明したデータベースを用いることが可能である。
また、上記実施形態においては、入側TR2の制御方法について述べているが同様の構成を、出側TR3の制御方法に適用する事も可能である。圧延機や被圧延材の種類によっては出側張力が板厚に与える影響が大きい場合は出側TRを操作するほうが効率的である場合もある。
また、上記実施形態においては、シングルスタンド圧延機を想定した例を説明しているが、圧延機としてはシングルスタンド圧延機に限らず、多スタンドのタンデム圧延機においても、入側または出側にテンションリールが設置されている場合は適用可能である。即ち、多スタンドのタンデム圧延機全体を圧延機として捉え、多スタンドの圧延機のうち先頭の圧延機とテンションリールとの間の張力や、最後段の圧延機とテンションリールとの間の張力を対象として、上記と同様の制御を行うことが可能である。
また、図1において説明した制御方法選択装置70を中心とした圧延制御装置は、ソフトウェアとハードウェアとの組み合わせによって実現される。ここで、本実施形態に係る圧延制御装置の各機能を実現するためのハードウェアについて、図23を参照して説明する。図23は、本実施形態に係る圧延制御装置を構成する情報処理装置のハードウェア構成を示すブロック図である。図23に示すように、本実施形態に係る圧延制御装置は、一般的なサーバやPC(Personal Computer)等の情報処理端末と同様の構成を有する。
即ち、本実施形態に係る圧延制御装置は、CPU(Central Processing Unit)201、RAM(Random Access Memory)202、ROM(Read Only Memory)203、HDD(Hard Disk Drive)204およびI/F205がバス208を介して接続されている。また、I/F205にはLCD(Liquid Crystal Display)206および操作部207が接続されている。
CPU201は演算手段であり、圧延制御装置全体の動作を制御する。RAM202は、情報の高速な読み書きが可能な揮発性の記憶媒体であり、CPU201が情報を処理する際の作業領域として用いられる。ROM203は、読み出し専用の不揮発性記憶媒体であり、ファームウェア等のプログラムが格納されている。
HDD204は、情報の読み書きが可能な不揮発性の記憶媒体であり、OS(Operating System)や各種の制御プログラム、アプリケーション・プログラム等が格納されている。I/F205は、バス208と各種のハードウェアやネットワーク等を接続し制御する。また、I/F205は、夫々の装置が情報をやり取りし、若しくは圧延機に対して情報を入力するためのインタフェースとしても用いられる。
LCD206は、オペレータが圧延制御装置の状態を確認するための視覚的ユーザインタフェースである。操作部207は、キーボードやマウス等、オペレータが圧延制御装置に情報を入力するためのユーザインタフェースである。このようなハードウェア構成において、ROM203やHDD204若しくは図示しない光学ディスク等の記録媒体に格納されたプログラムがRAM202に読み出され、CPU201がそのプログラムに従って演算を行うことにより、ソフトウェア制御部が構成される。このようにして構成されたソフトウェア制御部と、ハードウェアとの組み合わせによって、本実施形態に係る圧延制御装置の機能が実現される。
尚、上記実施形態においては、各機能が圧延制御装置に全て含まれている場合を例として説明した。このように全ての機能を1つの情報処理装置において実現しても良いし、より多くの情報処理装置に各機能を分散して実現しても良い。
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明をわかりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部に他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。