JP6301522B1 - 血圧上昇抑制組成物およびその製造方法 - Google Patents

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【課題】血圧上昇抑制作用が強く、しかも比較的短い期間で効率良く製造することができる血圧上昇抑制組成物を提供する。【解決手段】海藻を原料として含有する培養液に、麹菌を接種して好気性条件下で培養することにより、海藻の麹菌発酵物を得る。この麹菌発酵物を血圧上昇抑制組成物の有効成分とする。前記海藻が、褐藻綱に属する海藻であることが好ましく、ヒジキ、ワカメ、ヒダカコンブ、マコンブ、およびアカモクからなる群より選ばれた少なくとも1種であることが更に好ましい。【選択図】図1

Description

本発明は、海藻を発酵させて得られる血圧上昇抑制組成物およびその製造方法に関する。
高血圧は、生活習慣病の一つであり、厚生労働省によれば男女共に通院者率の最も高い疾患である。高血圧自体の自覚症状は何もないことが多いが、虚血性心疾患、脳卒中、腎不全など様々な疾患の発症原因となることから、その予防および治療が必要とされる。このため、血圧上昇抑制作用を有する有用で安全な機能性飲食品や医薬品が求められている。
一方、海藻は日本では古くから食材や薬として用いられてきた。海藻は植物性ではあるが、成分の点から比較すると一般的な野菜とは異なった特徴を持つ。野菜はタンパク質、脂質を多く含むものが多く、海藻はミネラル、炭水化物を多く含むものが多い。この炭水化物の大部分は海藻特有の多糖類であり、これが海藻の炭水化物の中で最も有用なものである。海藻が含む多糖類は、細胞壁に含まれて藻体を支える骨格多糖類、細胞間を充填する粘質多糖類、エネルギー貯蔵形態である貯蔵多糖類に分けられるが、特に褐藻綱に属する海藻(以下「褐藻類」とする)に含まれる粘質多糖類であるアルギン酸やフコイダンなど、いずれも海藻にしか存在しない特有の多糖類であり、利用範囲も極めて広い。
また、海藻の発酵物が血圧上昇抑制効果を有することを開示した文献として、例えば、下記特許文献1には、納豆菌を用いたマコンブ発酵物を有効成分として含有する血圧上昇抑制剤が開示されている。
また、下記特許文献2には、ラクトバチルス属(Lactobacillus)を用いた発酵ヒダカコンブを有効成分として含有する血圧上昇抑制剤が開示されている。
更に、下記特許文献3には、ラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)を用いたアカモク発酵物を有効成分として含有する血圧上昇抑制剤が開示されている。
特開2015−021001号公報 特開2015−021002号公報 特開2014−172903号公報
しかしながら、特許文献1に記載された、納豆菌を用いたマコンブ発酵物を有効成分として含有する血圧上昇抑制剤は、ACE阻害活性が高まるまでの培養日数が長いという問題があった。
また、特許文献2に記載されたラクトバチルス属(Lactobacillus)を用いた発酵ヒダカコンブや、特許文献3に記載されたラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)を用いたアカモク発酵物は、海藻を酵素分解したものを培地原料としなければ、ラクトバチルス属(Lactobacillus)による発酵を良好に行えず、しかもアンジオテンシン変換酵素(以下ACE)阻害活性が高まるまでの培養日数が長いという問題があった。
したがって、本発明の目的は、血圧上昇抑制作用が強く、しかも比較的短い期間で効率良く製造することができる血圧上昇抑制組成物を提供することにある。
上記目的を達成するため、本発明の1つは、海藻の麹菌発酵物を有効成分として含有する血圧上昇抑制組成物を提供するものである。
本発明の有効成分である海藻の麹菌発酵物は、他の微生物による発酵物に比べて高いACE阻害活性を有する。また、麹菌を用いることで、酵素分解等の前処理を必要とすることなく、海藻を発酵することができ、しかも比較的短い培養日数でACE阻害活性が高くなるので、生産性に優れている。
本発明の血圧上昇抑制組成物における海藻は、褐藻綱に属する海藻であることが好ましい。これによれば、麹菌による発酵がいずれも良好になされて、ACE阻害活性が高い培養物を得ることができる。
更に、前記海藻が、ヒジキ、ワカメ、ヒダカコンブ、マコンブ、およびアカモクからなる群より選ばれた少なくとも1種であることが好ましい。
また、本発明のもう1つは、海藻を原料として含有する培養液に、麹菌を接種して好気性条件下で培養することにより、海藻の麹菌発酵物を得ることを特徴とする血圧上昇抑制組成物の製造方法を提供するものである。これによれば、高いACE阻害活性を有する血圧上昇抑制組成物を得ることができる。
本発明の血圧上昇抑制組成物の製造方法において、前記培養液中の前記海藻の固形分濃度を0.5〜3.5質量%とすることが好ましい。これによれば、培養液の粘度等が発酵に適した状態となり、麹菌による発酵を良好に進行させることができる。
本発明の血圧上昇抑制組成物の製造方法において、前記発酵培養液作製工程では、麹菌による発酵を2〜5日間行うことが好ましい。これによれば、ACE阻害活性が高い発酵物を比較的短時間で得ることができる。
本発明の血圧上昇抑制組成物の製造方法においては、前記麹菌発酵物又はその乾燥物を、30〜60℃の温水で処理して抽出物を得ることが好ましい。これによれば、高いACE阻害活性を有する抽出物を得ることができる。
本発明の血圧上昇抑制組成物の製造方法においては、前記海藻として、褐藻綱に属する海藻を用いることが好ましい。また、前記海藻としては、ヒジキ、ワカメ、ヒダカコンブ、マコンブ、およびアカモクからなる群より選ばれた少なくとも1種を用いることが更に好ましい。
本発明の有効成分である海藻の麹菌発酵物は、他の微生物による発酵物に比べて高いACE阻害活性を有するので、優れた血圧上昇抑制組成物を提供することができる。また、麹菌を用いることで、酵素分解等の前処理を必要とすることなく、海藻を発酵することができ、しかも比較的短い培養日数でACE阻害活性が高くなるので、生産性に優れている。
麹菌アスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)、乳酸菌ラクトバチルス カゼイ(Lactobacillus casei)、および納豆菌 バチルス・サブチリス ナットー(Bacillussubtilis natto)を用いて発酵させたヒダカコンブのACE阻害率の比較について示した図表である。 麹菌アスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)を用いて発酵させた褐藻綱海藻のACE阻害率を示す図表である。 発酵時のヒダカコンブ濃度とACE阻害率との関係を示す図表である。 抽出温度と麹菌発酵ヒダカコンブのACE阻害率の関係を示す図表である。 麹菌7株の発酵ヒダカコンブのACE阻害率を示す図表である。 アンジオテンシンI投与後の麹菌発酵物、未発酵物およびコントロール群の収縮期血圧上昇値を示す図表である。
本発明における海藻としては、特に限定されないが、具体的には褐藻綱に属するコンブ目コンブ科のマコンブ、ヒダカコンブ(ミツイシコンブ)、リシリコンブ、ナガコンブ、およびアラメ、コンブ目チガイソ科のワカメ、ヒバマタ目ホンダワラ科のヒジキ、ホンダワラ、およびアカモク、並びにナガマツモ目モズク科のモズクや、紅藻綱に属するウシケノリ目ウシケノリ科のアサクサノリ、およびスサビノリ、並びにテングサ目テングサ科のテングサや、緑藻綱に属するアオサ目アオサ科のアオサ、およびアオノリ、カサノリ目カサノリ科のカサノリ、イワヅタ目イワヅタ科のイワヅタ、およびクビレヅタ、並びにイワヅタ目ミル科のミルなどが挙げられる。本発明においては、いずれの海藻も用いることができるが、容易かつ安価に入手でき、麹菌発酵物の血圧上昇抑制効果も高いという点で褐藻綱に属する海藻が好ましく、ヒジキ、ワカメ、ヒダカコンブ、マコンブ、およびアカモクからなる群より選ばれた少なくとも1種であることが更に好ましい。
海藻原料の形態は、特に限定されず、例えば、生または乾燥した海藻の粉砕物や粉末などが使用できる。
なお、培養液の原料としては、上記海藻の他に、イーストエクストラクト、ペプトンなどを添加することができる。
本発明における麹菌としては、特に限定されないが、黄麹菌のアスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)、およびアスペルギルス・ソーヤ(Aspergillus sojae)、アスペルギルス・ルーチェンシス(Aspergillus luchuensis)黒麹菌のアスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)、アスペルギルス・アワモリ(Aspergillus awamori)、およびアスペルギルス・サイトイ(Aspergillus saitoi)、並びに白麹菌のアスペルギルス・ウサミ(Aspergillus usamii)、およびアスペルギルス・カワチ(Aspergillus kawachii)などが挙げられる。この中でも特にアスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)が好ましく使用される。
本発明における血圧上昇抑制組成物の製造方法は、海藻を原料として含有する培養液に、麹菌を接種して好気性条件下で培養することにより、海藻の麹菌発酵物を得ることを特徴とする。
培養液は、海藻原料を培養液中に、固形分濃度で好ましくは0.5〜3.5質量%、より好ましくは1.0〜2.0質量%となるように添加し、更に必要に応じてその他の原料を添加して、好ましくは加熱滅菌することにより調製することができる。
海藻原料の固形分濃度が上記範囲であれば、培養液の粘度等が発酵に適した状態となり、麹菌による発酵を良好に進行させることができる。海藻原料の固形分濃度が0.5質量%では、培養液の単位体積当たりの発酵物の収量が少なくなり、生産性が悪くなり、4.0質量%を超えると、培養液の撹拌がしにくくなることによって通気性が悪くなり、発酵の進行が低下する傾向がある。
また、加熱滅菌条件は、特に限定されないが、好ましくは65〜130℃で15〜50分程度の加熱滅菌が好ましく採用される。
なお、本発明においては、麹菌を用いることにより、海藻原料を酵素等によって分解することなく発酵させることができるが、更に発酵を促進させるため、海藻原料を酵素等によって分解して培地原料としてもよい。この場合の酵素としては、例えばセルラーゼ、ヘミセルラーゼなどを用いることができる。
上記培養液に、好ましくは、予め前培養して活性化した麹菌を接種し、好気性条件下で、好ましくは20〜37℃、より好ましくは25〜30℃の温度下で、好ましくは2〜7日間、より好ましくは2〜3日間培養する。培養日数が2日未満では血圧上昇抑制効果が十分に上昇しない傾向があり、5日を超えても血圧上昇抑制効果がそれ以上上昇せず、生産性が悪くなる傾向がある。生産性と血圧上昇抑制効果との観点から、培養日数は2〜3日が最も好ましい。
培養を好気性条件下とする方法としては、特に限定されないが、例えば振とう培養、通気撹拌培養、静置培養などが挙げられる。工業的に生産する場合には、通気撹拌培養が好ましく採用される。
このようにして得られた麹菌の培養液は、そのまま、あるいは更に加工処理することにより、本発明の血圧上昇抑制組成物の有効成分として利用することができる。なお、本発明において、麹菌発酵物とは、麹菌の培養液そのものだけでなく、その加工処理物も含むものとする。
培養液の加工処理方法としては、例えば、(1)培養液を濃縮して濃縮液としたり、(2)培養液をろ過、遠心分離などの手段で固液分離したり、(3)培養液又はその濃縮液を、例えば凍結乾燥、減圧乾燥、噴霧乾燥などの手段で乾燥し、必要により更に粉砕し、篩分けなどを行って粉末化したり、(4)培養液を固液分離した上清を必要により濃縮し、乾燥させて粉末エキスとしたり、(5)培養液、その濃縮液、あるいは培養液の乾燥物に、抽出溶媒を添加して有効成分を抽出し、固液分離して抽出液を採取し、該抽出液を濃縮又は乾燥粉末化する方法などを採用することができる。
培養液、その濃縮液、あるいは培養液の乾燥物に、抽出溶媒を添加して有効成分を抽出する場合、抽出溶媒としては、水、又は含水アルコールが好ましく用いられ、特に30〜60℃の温水が好ましく、40〜50℃の温水がさらに好ましく用いられる。30〜60℃の温水を用いることにより、抽出物の血圧上昇抑制効果をより高めることができる。温水の温度が30℃未満では、血圧上昇抑制効果を高めにくく、60℃を超えると、血圧上昇抑制効果が低下する傾向がある。
本発明の血圧上昇抑制組成物は、上記のようにして得られた麹菌発酵物を有効成分として含有するものであればよい。本発明の血圧上昇抑制組成物においては、本発明の目的を損なわない限り、他の成分を含有することに特に制限はない。例えば、賦形剤、崩壊剤、結合剤、滑沢剤、コーティング剤、着色剤、発色剤、矯味剤、着香剤、酸化防止剤、防腐剤、呈味剤、酸味剤、甘味剤、強化剤、ビタミン剤、膨張剤、増粘剤、界面活性剤などを添加することができる。
本発明の血圧上昇抑制組成物の投与形態は、特に限定されないが、経口投与組成物であることが好ましい。
本発明の血圧上昇抑制組成物の製品形態は、特に限定されない。経口投与組成物である場合の製品形態の例としては、液状(液剤)、シロップ状(シロップ剤)、粉末状(顆粒、細粒)、錠剤(錠剤、タブレット)、カプセル状(カプセル剤)、ソフトカプセル状(ソフトカプセル剤)、固形状、半液体状、クリーム状、ペースト状等が挙げられる。
また、血圧上昇抑制組成物は、例えば医薬品、医薬部外品、機能性食品、栄養補助食品、サプリメント、健康食品、動物用医薬品、動物用医薬部外品、動物用機能性食品、動物用栄養補助食品、動物用サプリメント、動物用健康食品などの製品自体あるいはその原料として使用することができる。また、血圧上昇抑制組成物は、血圧上昇抑制効果を付与する目的で、広く一般食品の原料としても使用できる。一般食品としては、例えば、パン、菓子、麺、畜肉又は魚肉の加工品、スープ、飲料、ふりかけ、調味料などが挙げられる。
本発明の血圧上昇抑制組成物の有効投与量は、特に限定されず、服用者の年齢、体重、性別などによって適宜決定することができるが、通常、成人1日当たりの麹菌発酵物の服用量は、乾燥固形分量として3.5〜60gが好ましく、10〜50gがより好ましく、30〜40gがさらに好ましい。本発明の血圧上昇抑制組成物は、1日1回〜数回に分け、又は任意の期間および間隔で服用され得る。
本発明の血圧上昇抑制組成物は、後述する実施例に示されるように、ACE阻害活性を有し、それによって血圧の上昇抑制効果をもたらす。
高血圧が続くと、動脈が硬く、もろくなる動脈硬化が起こり、やがて脳、心臓などでさまざまな病気を引き起こすことが知られている。このため、高血圧の傾向がある人や、高血圧になりやすい人に対して、本発明の血圧上昇抑制組成物を服用させることにより、高血圧を抑制して、さまざまな病気が発症することを予防することができる。
以下、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、これらの実施例は本発明を何ら限定するものではない。なお、特に断らない限り、含有率を示す%は質量%を表す。
<実験例1>
各種微生物によるヒダカコンブ発酵物のアンジオテンシンI変換酵素(以下「ACE」とする)阻害活性を測定した。
ここで、ACEとは血圧調節に関与する物質の一つであり、アンジオテンシンIをアンジオテンシンIIに変換する役割を担う酵素である。アンジオテンシンIIは強力な昇圧作用を持つ生理活性物質で、末梢血管の収縮、アルドステロンの産生、ナトリウムや水の貯留、糸球体ろ過量の低下など、複数の機序によって血圧を上昇させる。すなわち、ACE阻害活性とは、アンジオテンシンIのアンジオテンシンIIへの変換を抑制することで昇圧物質であるアンジオテンシンIIを生成させず、血圧上昇を抑制する活性である。
1.各種微生物によるヒダカコンブ発酵培養液の作製
ヒダカコンブを原料として、各種微生物の発酵培養液を作製した。発酵に用いた微生物には、乳酸菌はラクトバチルス・カゼイ、納豆菌はバチルス・サブチリス ナットー、麹菌はアスペルギルス・オリゼを用いた。なお、これらの微生物は、いずれも市販されており、当業者が容易に入手できる微生物である。
次に、それぞれの微生物の培養方法について説明する。
(1)乳酸菌の培養方法
乳酸菌の増殖に必要である十分な量のグルコースおよびタンパク質を確保するため、乳酸菌を海藻に植菌する前に、ヒダカコンブの骨格多糖類をセルラーゼで分解する酵素処理を行った。
−80℃中で冷凍保存していた乳酸菌をILS培地を用いて37℃で1日静置培養し、これを乳酸菌前培養液とした。
作製したヒダカコンブ酵素処理液をpH6.8に調整後、121℃、15分間の加圧加熱滅菌を行い、十分に冷ましたのち、ヒダカコンブ酵素処理液全量の1%にあたる量の乳酸菌前培養液を添加した。その後、37℃で静置培養を2日間行い、発酵培養液を得た。
(2)納豆菌の培養方法
−80℃中で冷凍保存していた納豆菌をSP培地を用いて30℃で1日振とう培養し、これを納豆菌前培養液とした。
5%となるように蒸留水にヒダカコンブ粉末を添加し、ヒダカコンブ懸濁液を調製した。その懸濁液に121℃、15分間の加圧加熱滅菌を行い、十分に冷ましてから、ヒダカコンブ懸濁液の1%の納豆菌前培養液を添加した。その後、30℃で振とう培養を2日間行い、発酵培養液を得た。
(3)麹菌の培養方法
−80℃中で冷凍保存していた麹菌をPDB培地を用いて28℃で1日振とう培養し、これを麹菌前培養液とした。
1%となるように蒸留水にヒダカコンブ粉末を添加し、ヒダカコンブ懸濁液を調製した。その懸濁液に121℃、15分間の加圧加熱滅菌を行い、十分に冷ましてから、ヒダカコンブ懸濁液の1%の麹菌前培養液を添加した。その後、28℃で振とう培養を2日間行い、発酵培養液を得た。
2.水抽出物の作製
上記の各発酵培養液を−20℃で凍結し、次いで凍結乾燥を行い、これをヒダカコンブ発酵物とした。ヒダカコンブ未発酵物、ヒダカコンブ発酵物を蒸留水に懸濁し、50℃恒温槽中で1時間振とうした。これを遠心分離し、上清をヒダカコンブ未発酵水抽出物、ヒダカコンブ発酵水抽出物とした。
3.ACE阻害活性の測定
上記の未発酵水抽出物、発酵水抽出物のACE阻害活性を測定した。
ACE阻害活性はACE Kit−WST(製品名、同仁化学研究所)を用いてキットのプロトコルに従い、測定した。ACE阻害率は以下の式を用いて算出した。コントロールには各抽出物の代わりに蒸留水を用いた。各抽出物のブランクには Enzyme working solutionの代わりに蒸留水を用いた。コントロール ブランクには各抽出物、Enzyme working solutionの代わりに蒸留水を用いた。
阻害率(%)=〔[(C−Cb)−(S−Sb)]/(C−Cb)〕*100
C:コントロールの吸光度、Cb:コントロール ブランクの吸光度、S:各抽出物の吸光度、Sb:各抽出物のブランクの吸光度
未発酵水抽出物と各発酵水抽出物のACE阻害率を図1に示した。未発酵のものと比較すると、いずれの微生物発酵水抽出物にもACE阻害活性の上昇が確認できたが、中でも麹菌発酵水抽出物が最も強いACE阻害率を示したことから、麹菌発酵ヒダカコンブを摂取することによる血圧上昇抑制効果を期待することができた。
乳酸菌の発酵にはセルラーゼ酵素処理が必須であった。加えて、本実験例では乳酸菌および納豆菌発酵物は2日の発酵で得られたものであるが、これら発酵物が十分なACE阻害活性を得るためには4〜5日間の発酵が必要であった。麹菌による発酵は酵素処理の行程が不要であり、2日間という短い期間の発酵でACE阻害活性を著しく上昇させることができる。発酵の手間、酵素や緩衝液のコスト、所要時間の削減が可能という観点から、麹菌発酵ヒダカコンブは、乳酸菌、納豆菌発酵ヒダカコンブに優位性を持つものである。
なお、80%エタノールに懸濁して抽出を行ったエタノール抽出物においてもACE阻害活性の測定を行ったが、麹菌の発酵物については水抽出物の方が強いACE阻害活性を示した。
<実験例2>
麹菌による褐藻綱に属する各種海藻(ヒジキ、ワカメ、ヒダカコンブ、マコンブ、アカモク)発酵物の、ACE阻害活性を測定した。方法は実験例1と同様に行った。
2日間発酵させた各種海藻発酵水抽出物のACE阻害率を図2に示した。ヒジキ、ワカメ、ヒダカコンブ、マコンブ、およびアカモクのいずれも、発酵水抽出物は、未発酵水抽出物よりも高いACE阻害活性を示した。各種海藻発酵物の中でも、ヒダカコンブの発酵水抽出物は高いACE阻害活性を示した。
<実験例3>
麹菌を用いた発酵によりヒダカコンブのACE阻害活性を向上させる上で、発酵過程における最適なヒダカコンブ濃度を検討した。
実験例1と同様の方法を用いて麹菌前培養液を調製した。蒸留水に1%、2%、3%、4%、5%の濃度でヒダカコンブ粉末(株式会社横井昆布)を添加し、各濃度ヒダカコンブ懸濁液を調製した。各ヒダカコンブ懸濁液を121℃、15分間の加圧加熱滅菌を行い、十分に冷ましてから、ヒダカコンブ懸濁液の1%の麹菌前培養液を添加した。その後、28℃で振とう培養を2日間行い発酵培養液を得た。
上記の各麹菌発酵培養液から、実験例1と同様の方法を用いて各麹菌発酵水抽出物を得た後、ACE阻害活性の測定を行った。
図3にヒダカコンブ濃度とACE阻害率との関係を示した。ヒダカコンブ濃度を1%で発酵させたものが最も高いACE阻害活性を示した。また、ヒダカコンブ濃度を1%で発酵させたものと、2%で発酵させた値は僅差であり、有意差は示さなかった。加えて、ヒダカコンブ濃度を4%と5%で発酵させた場合、1%から3%のものと比較して著しく大きくなり、ACE阻害活性を大幅に低下させる結果となった。
<実験例4>
ヒダカコンブ発酵物の水抽出を行う際に最も適した温度を検討した。
実験例1と同様の方法を用いて麹菌のヒダカコンブ発酵物を得た。
麹菌発酵物を蒸留水に懸濁し、それぞれ20、30、40、50、60、70、80℃の恒温槽中で1時間振とうした。これを遠心分離し、上清を発酵ヒダカコンブ水抽出物とした。
得られた各発酵水抽出物をサンプルとして用いて、実験例1と同様の方法を用いてACE阻害活性の測定を行い、ACE阻害率を算出した。
抽出温度と麹菌発酵水抽出物のACE阻害率の関係を図4に示した。30〜60℃の温度で抽出した麹菌発酵ヒダカコンブにACE阻害活性が見られ、特に40〜50℃で抽出したものが高い活性を示した。
<実験例5>
ヒダカコンブを発酵させる麹菌の種類によってACE阻害活性の強さに影響が出るのかを調べ検討するために、各麹菌発酵ヒダカコンブ水抽出物のACE阻害活性を見る実験を行った。
発酵実験にはアスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)、アスペルギルス・カワチ(Aspergillus kawachii)、、アスペルギルス・ルーチェンシス(Aspergillus luchuensis)、およびアスペルギルス・ソーヤ(Aspergillus sojae)を用いた。
実験例1と同様の方法を用いて各麹菌前培養液を調製した。蒸留水に1%の濃度でヒダカコンブ粉末を添加し、ヒダカコンブ懸濁液を調製した。ヒダカコンブ懸濁液を121℃、15分間の加圧加熱滅菌を行い、十分に冷ましてから、ヒダカコンブ懸濁液の1%の各麹菌前培養液を添加した。その後、28℃で2日間の振とう培養を行い、これを各麹菌発酵培養液とした。
上記の各麹菌発酵培養液から、実験例1と同様の方法を用いて各麹菌発酵ヒダカコンブ水抽出物を得た。
得られた各麹菌発酵ヒダカコンブ水抽出物をサンプルとして用いて、実験例1と同様の方法を用いてACE阻害活性の測定を行い、それぞれのACE阻害率を算出した。
各麹菌発酵ヒダカコンブ水抽出物のACE阻害率を図5に示した。アスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)、アスペルギルス・ソーヤ(Aspergillus sojae)を用いた発酵物に非常に高いACE阻害活性がみられた。
<実験例6>
アンジオテンシンIの負荷による血圧の上昇に対し、ヒダカコンブ発酵が血圧上昇抑制作用を示すかどうかを検討する試験を行った。
ここで、アンジオテンシンIIは、レニン-アンジオテンシン系(昇圧系)に関与する因子のひとつであり、強力な昇圧作用を示す。動脈血圧が低下し、腎臓の血流量が減少すると、レニン-アンジオテンシン系が活性化される。血圧が低下することで腎臓の輸入細胞脈にある伸展圧受容体が感知し、傍糸球体細胞からレニンの分泌を増加させる。分泌されたレニンが肝臓で作られるアンジオテンシノーゲンに作用することで、アンジオテンシンIというペプチドに変化する。このアンジオテンシンIが、肺や血管内皮細胞にあるACEによってアンジオテンシンIIに変換される。アンジオテンシンIIはアンジオテンシンIよりも小さい分子であり、血管平滑筋細胞膜状にあるアンジオテンシンII−1型受容体と結合することで、血管収縮、腎Na再吸収、交感神経の活性化、アルドステロンの分泌が引き起こされ、血圧が上昇する。昇圧系に関与する他の物質には、バソプレシン、ノルアドレナリン、アドレナリンなどが挙げられる。
各ヒダカコンブ水抽出物は、実験1と同様の方法で調製した。
ddYマウス(日本SLC株式会社、雄性、5週齢)を、1週間の予備飼育後、1群6匹とし、コントロール群、未発酵ヒダカコンブ投与群、発酵ヒダカコンブ投与群の3群に分けた。試験の1時間前にケージから全ての飼料を取り除き、絶食させた。その後、コントロール群には蒸留水、未発酵ヒダカコンブ投与群と発酵ヒダカコンブ投与群にはそれぞれ前述したヒダカコンブ未発酵水抽出物、ヒダカコンブ発酵水抽出物(それぞれ1000mg/kg)を0.4mL経口投与した。経口投与から30分後、収縮期血圧の測定を行った。測定後にカニューレを用いてアンジオテンシンI(270μg/kg)を100μL投与し、2分後に再び収縮期血圧を測定した。アンジオテンシンI投与後の収縮期血圧から投与直前の収縮期血圧を引いた差の値を収縮期血圧上昇値とした。
血圧測定にはマウス・ラット用無加温型非観血式血圧計(BLOOD PRESSURE MONITOR FOR MICE & RAT Model MK−2000、室町機械株式会社製)を使用し、自動的に尾動脈血圧を6回測定し、その平均値で評価した。
アンジオテンシンI投与後の収縮期血圧上昇値を図6に示した。アンジオテンシンIの投与後はコントロール群が最も高い血圧上昇値を示し、未発酵ヒダカコンブ投与群の血圧上昇値はコントロール群よりわずかに低い傾向を示した。コントロール群、未発酵ヒダカコンブ投与群に対して、発酵ヒダカコンブ投与群のアンジオテンシンIの投与による血圧上昇値は有意に低い値を示した。
このことから、麹菌発酵ヒダカコンブはアンジオテンシンIの投与による血圧の上昇を抑制する作用を有することが示唆された。

Claims (7)

  1. ヒジキ、ワカメ、ヒダカコンブ、マコンブ、およびアカモクからなる群より選ばれた少なくとも1種からなる海藻自体の麹菌のみからなる発酵物を有効成分として含有する血圧上昇抑制組成物。
  2. 前記麹菌が、アスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)、アスペルギルス・ソーヤ(Aspergillus sojae)、およびアスペルギルス・ルーチェンシス(Aspergillus luchuensis)から選ばれたものである、請求項1に記載の血圧上昇抑制組成物。
  3. ヒジキ、ワカメ、ヒダカコンブ、マコンブ、およびアカモクからなる群より選ばれた少なくとも1種からなる海藻自体を原料として含有する培養液に、麹菌のみを接種して好気性条件下で培養することにより、前記海藻の麹菌発酵物を得ることを特徴とする血圧上昇抑制組成物の製造方法。
  4. 前記麹菌として、アスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)、アスペルギルス・ソーヤ(Aspergillus sojae)、およびアスペルギルス・ルーチェンシス(Aspergillus luchuensis)から選ばれたものを用いる、請求項3に記載の血圧上昇抑制組成物の製造方法。
  5. 前記培養液中の前記海藻の固形分濃度を0.5〜3.5質量%とする、請求項4に記載の血圧上昇抑制組成物の製造方法。
  6. 前記麹菌の培養を2〜日間行う、請求項4又は5に記載の血圧上昇抑制組成物の製造方法。
  7. 前記麹菌発酵物又はその乾燥物を、30〜60℃の温水で処理して抽出物を得る、請求項4〜6のいずれか1項に記載の血圧上昇抑制組成物の製造方法。
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