JP6300186B2 - エンジンの制御装置 - Google Patents

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Description

本発明は、エンジンの制御装置に係わり、特に、シリンダヘッドに配置された燃料噴射弁により燃料を気筒内の燃焼室に直接噴射し、圧縮自己着火燃焼を行うエンジンの制御装置に関する。
従来、ガソリン又はガソリンを主成分とする燃料を用いるエンジンでは、点火プラグによって着火する火花点火方式が広く採用されている。近年では、燃費の向上を図る観点などから、エンジンの幾何学的圧縮比として高圧縮比(例えば14以上)を適用して、ガソリン又はガソリンを主成分とする燃料を用いつつ、所定の運転領域において、圧縮自己着火(具体的にはHCCI(Homogeneous-Charge Compression Ignition)と呼ばれる予混合圧縮自己着火)を行う技術が開発されている(例えば、特許文献1参照)。
特開2012−241589号公報
ところで、圧縮自己着火燃焼を行うエンジンでは、エンジン負荷が高まり、燃焼室内に噴射される燃料量が増大するにつれ、混合気の燃焼が極めて短期間で生じることにより筒内圧力の急上昇を招き、燃焼騒音が増大する。
一方、圧縮行程開始時における燃焼室内の温度を低下させることにより、圧縮自己着火の発生を抑制して燃焼重心位置を遅角させると、燃焼騒音を低減できることが知られているが、燃焼重心位置を遅角させると熱効率も低下するので、燃費が悪化してしまう。
本発明は、上述した従来技術の問題点を解決するためになされたものであり、圧縮自己着火燃焼を行うエンジンにおいて、熱効率を低下させることなく燃焼騒音を低減することができる、エンジンの制御装置を提供することを目的とする。
上記の目的を達成するために、本発明のエンジンの制御装置は、シリンダヘッドに配置された燃料噴射弁により燃料を気筒内の燃焼室に直接噴射し、圧縮自己着火燃焼を行うエンジンの制御装置であって、吸気行程中に設定された吸気行程噴射時期、及び、圧縮行程中に設定された圧縮行程噴射時期に、燃料噴射弁により燃料を噴射させる燃料噴射制御手段を有し、圧縮行程噴射時期は、その圧縮行程噴射時期に燃料噴射弁から噴射された燃料がエンジンのピストン頂面の周縁部に直接到達可能な時期に設定されており、燃料噴射制御手段は、吸気行程噴射時期における燃料噴射により燃焼室内に均質な混合気を形成しつつ、圧縮行程噴射時期における燃料噴射により燃焼室の径方向周縁部に燃焼室の径方向中央部よりもリッチな混合気を形成することにより、燃焼室の径方向中央部における自己着火より遅れて径方向周縁部において自己着火を生じさせることを特徴とする。
このように構成された本発明においては、燃料噴射制御手段は、吸気行程噴射時期における燃料噴射により燃焼室内に均質な混合気を形成しつつ、燃料噴射弁から噴射された燃料がピストン頂面の周縁部に直接到達可能な圧縮行程噴射時期における燃料噴射により、燃焼室の径方向周縁部に燃焼室の径方向中央部よりもリッチな混合気を形成することにより、燃焼室の径方向中央部における自己着火より遅れて径方向周縁部において自己着火を生じさせるので、燃焼重心位置を遅角させることなく圧縮自己着火による燃焼を緩慢化し、筒内圧の急上昇を抑制することができ、これにより、高負荷時においても、熱効率を低下させることなく燃焼騒音を低減することができる。
また、本発明において、好ましくは、圧縮行程噴射時期は、燃料噴射弁から燃料が噴射される噴射方向にピストン頂面の周縁部が位置する時期に設定されている。
このように構成された本発明においては、燃料噴射弁から噴射された燃料が気筒の内壁に衝突することを防止するとともに、圧縮行程噴射時期の後に圧縮行程の後半から膨張行程の前半にかけて圧縮自己着火が発生するまでに、燃料が燃焼室内に拡散することを抑制しつつ燃料が気化する時間を確保することができ、これにより、燃焼室の径方向周縁部に、燃焼室の径方向中央部よりもリッチな混合気を確実に形成することができ、燃焼重心位置を遅角させることなく圧縮自己着火による燃焼を確実に緩慢化することができる。
また、本発明において、好ましくは、エンジンの制御装置は、ピストン頂面の中央部に下方に凹んだキャビティが形成されたピストンを備えるエンジンの制御装置であり、圧縮行程噴射時期は、燃料噴射弁から噴射された燃料がピストン頂面におけるキャビティの外周に直接到達可能な時期に設定されている。
このように構成された本発明においては、燃焼室においてキャビティの外周上方の領域に位置する径方向周縁部に、燃焼室の径方向中央部よりもリッチな混合気を確実に形成することができ、燃焼重心位置を遅角させることなく圧縮自己着火による燃焼を確実に緩慢化することができる。
本発明によるエンジンの制御装置によれば、圧縮自己着火燃焼を行うエンジンにおいて、熱効率を低下させることなく燃焼騒音を低減することができる。
本発明の実施形態によるエンジンの制御装置が適用されたエンジンの概略構成図である。 本発明の実施形態によるエンジンの制御装置に関する電気的構成を示すブロック図である。 本発明の実施形態によるピストン及びシリンダヘッドなどの部分断面図である。 本発明の実施形態によるインジェクタの先端部をその長手軸線方向の下方から見た平面図である。 図4中のV−Vに沿って見た、本発明の実施形態によるインジェクタの先端部の部分断面図である。 本発明の実施形態によるエンジンの運転領域の説明図である。 本発明の実施形態によるエンジンの運転領域がSI領域である場合の、吸気行程噴射時期における燃料の噴射方向とピストン頂面との位置関係を示す部分断面図である。 本発明の実施形態によるエンジンの運転領域がCI領域である場合の、吸気行程噴射時期における燃料の噴射方向とピストン頂面との位置関係を示す部分断面図である。 本発明の実施形態によるエンジンの運転領域がCI領域である場合の、圧縮行程噴射時期における燃料の噴射方向とピストン頂面との位置関係を示す部分断面図である。 吸気行程のみにおいて燃料噴射を行った場合と、本発明の実施形態によるエンジンの制御装置により吸気行程噴射時期及び圧縮行程噴射時期に燃料噴射を行った場合とのそれぞれにおいて、燃焼騒音のレベルが限界値以下となるようにエンジンの充填効率を設定したときの熱発生速度の変化を解析した結果を示す線図である。
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態によるエンジンの制御装置を説明する。
まず、図1及び図2により、本発明の実施形態によるエンジンの装置構成を説明する。図1は、本発明の実施形態によるエンジンの制御装置が適用されたエンジンの概略構成図であり、図2は、本発明の実施形態によるエンジンの制御装置に関する電気的構成を示すブロック図である。
図1において、符号1はエンジンを示す。このエンジン1は、車両に搭載されると共に、少なくともガソリンを含有する燃料が供給されるガソリンエンジンである。エンジン1は、複数の気筒2が設けられたシリンダブロック4(なお、図1では、1つの気筒2のみを図示するが、例えば4つの気筒2が直列に設けられる)と、このシリンダブロック4上に配設されたシリンダヘッド6と、シリンダブロック4の下側に配設され、潤滑油が貯留されたオイルパン8とを有している。各気筒2内には、コンロッド10を介してクランクシャフト12と連結されているピストン14が往復動可能に嵌挿されている。シリンダヘッド6と、気筒2と、ピストン14とは、燃焼室16を画定する。なお、燃焼室16の形状は、図示する形状に限定されるものではない。例えばピストン14の頂面形状、及び、燃焼室16の天井部の形状等は、適宜変更することが可能である。
シリンダヘッド6には、気筒2毎に、吸気ポート18及び排気ポート20が形成されていると共に、これら吸気ポート18及び排気ポート20には、燃焼室16側の開口を開閉する吸気弁22及び排気弁24がそれぞれ配設されている。
シリンダヘッド6にはまた、気筒2毎に、気筒2内に燃料を直接噴射するインジェクタ26(燃料噴射弁)が取り付けられている。インジェクタ26は、その噴口が燃焼室16の天井面の中央部分から、その燃焼室16内に臨むように配設されている。インジェクタ26は、エンジン1の運転状態に応じて設定された噴射タイミングでかつ、エンジン1の運転状態に応じた量の燃料を、燃焼室16内に直接噴射する。
図外の燃料タンクとインジェクタ26との間は、燃料供給経路によって互いに連結されている。この燃料供給経路上には、燃料ポンプとコモンレールとを含みかつ、インジェクタ26に、比較的高い燃料圧力で燃料を供給することが可能な燃料供給システム28が介設されている。燃料ポンプは、燃料タンクからコモンレールに燃料を圧送し、コモンレールは圧送された燃料を、比較的高い燃料圧力で蓄えることが可能である。インジェクタ26が開弁することによって、コモンレールに蓄えられている燃料がインジェクタ26の噴口から噴射される。
シリンダヘッド6にはまた、燃焼室16内の混合気に強制点火する点火プラグ30が取り付けられている。本実施形態においては、吸気弁22と排気弁24との間に、2つの点火プラグ30が配置されている。
エンジン1は、パワートレイン・コントロール・モジュール(以下、PCMという)32によって制御される。PCM32は、CPU、メモリ、カウンタタイマ群、インターフェース及びこれらのユニットを接続するパスを有するマイクロプロセッサで構成されている。このPCM32が制御器を構成する。
PCM32には、図1、2に示すように、エンジン冷却水の温度を検出する水温センサSW11の検出信号、クランクシャフト12の回転角を検出するクランク角センサSW12の検出信号、車両のアクセルペダル(図示省略)の操作量に対応したアクセル開度を検出するアクセル開度センサSW13の検出信号を含む各種の信号が入力される。
PCM32は、これらの検出信号に基づいて種々の演算を行うことによってエンジン1や車両の状態を判定し、これに応じてインジェクタ26、点火プラグ30、燃料供給システム28、各種の弁(スロットル弁やEGR弁等)のアクチュエータへ制御信号を出力する。こうしてPCM32は、エンジン1を運転する。詳細は後述するが、PCM32は、本発明におけるエンジンの制御装置に相当し、燃料噴射制御手段として機能する。
次に、図3乃至図5を参照して、本発明の実施形態によるエンジン1の燃焼室16の構造を説明する。図3は、本発明の実施形態によるピストン14及びシリンダヘッド6などの部分断面図であり、図4は、本発明の実施形態によるインジェクタ26の先端部をその長手軸線方向の下方から見た平面図であり、図5は、図4中のV−Vに沿って見た、本発明の実施形態によるインジェクタ26の先端部の部分断面図である。なお、図3は、ピストン14が圧縮上死点に位置するときの図を示している。
本実施形態によるエンジン1では、シリンダヘッド6側の燃焼室天井16aが切妻型の屋根状(ペントルーフ形状)に形成された燃焼室16が適用されている。図3は、このような燃焼室16を構成するペントルーフ形状の稜線に直交する線分に沿った面で切断した、ピストン14及びシリンダヘッド6などの一部分の断面図である。
ピストン14の頂面14aの中央部には、下方に凹んだキャビティ34が形成されている。キャビティ34は、気筒2の軸線方向から見たときの平面形状がほぼ円形となるように形成されており、中央部に、山形の突起部34aが形成され、且つ、この突起部34aの径方向外側に、突起部34aよりも高さが低い凹部34bが突起部34aを取り囲むように形成されている。このようなキャビティ34の突起部34aの真上に、インジェクタ26が配置されており、また、キャビティ34の凹部34b内に、2つの点火プラグ30が配置されている。
更に、ピストン頂面14aには、キャビティ34の外縁からピストン14の上面の外縁まで延び、キャビティ34の径方向外側を取り囲む周縁部36が設けられている。
インジェクタ26は、ピストン14の中央部に対応するシリンダヘッド6上の箇所に設けられ、具体的には当該インジェクタ26の長手軸線が気筒2の中心軸線に沿うように設けられ、燃焼室16内に燃料を直接噴射する。インジェクタ26は、複数の噴口38を有しており、これらの噴口38から気筒2の中心軸線について軸対称に傘状に燃料を噴霧する。この場合、インジェクタ26は、前述したECUによる制御の下で圧縮行程後半から膨張行程前半までの間(例えば上死点前60°)に噴射した燃料が、ピストン14のキャビティ34内に入るように(図3の矢印参照)、言い換えるとピストン14の周縁部36やシリンダ側壁(例えばシリンダライナなど)に衝突しないように、各噴口38からの燃料の噴射角θが設定されている。また、インジェクタ26は、燃料噴射位置からキャビティ34に燃料が衝突する位置までの噴霧衝突距離が、燃料噴射位置から燃料の初期分裂が生じる位置までの長さ(分裂長さ)よりも大きくなるように、噴射角θが設定されている。
なお、噴射角θは、インジェクタ26の長手軸線(即ち気筒2の中心軸線)を基準にして規定された、各噴口38からの燃料の噴射方向の傾斜角に相当する。また、インジェクタ26には、比較的高い燃圧(例えば40MPa〜120MPa)にて燃料が供給される。
点火プラグ30は、ピストン14の中央部よりも径方向外側で、且つピストン14のキャビティ34の上方に対応するシリンダヘッド6上の箇所に設けられている。つまり、点火プラグ30は、その先端部の電極30aが径方向においてキャビティ34内に含まれるような位置に設けられている。
なお、図3において、符号SAを付したエリアは、ピストン14の周縁部36と燃焼室天井16aとの隙間に形成される空間である、スキッシュエリアを示している。
次に、図4及び図5により、本発明の実施形態によるインジェクタ26について詳細に説明する。図4は、本発明の実施形態によるインジェクタ26の先端部をその長手軸線方向の下方から見た平面図であり、図5は、図4中のV−Vに沿って見た、本発明の実施形態によるインジェクタ26の先端部の部分断面図である。
図4及び図5に示すように、インジェクタ26は、インジェクタ26の長手軸線方向に延びる有底円筒状のバルブボディを備えており、このバルブボディ40の内部に、インジェクタ26の長手軸線方向に延びる円柱状のニードル42が配置されている。ニードル42は、高応答性ソレノイド(図示せず)により、インジェクタ26の長手軸線に沿って上下に駆動される。バルブボディ40の底面は下方に凹んだ凹球面状に形成され、この底面の外周部分には、高応答性ソレノイドにより下方に移動したニードル42の先端部が押接されるシート部44が形成されている。また、バルブボディ40の内周面とニードル42の外周面との間の空間は、燃料通路46となっている。更に、バルブボディの底面において、シート部44よりも先端側には、複数の噴口38が形成されている。
各噴口38は、インジェクタ26の長手軸線を囲む周方向に配置され、長手軸線から所定の噴射角θ傾斜した方向へ向けて燃料を噴射するように形成されている。本実施形態では、図4に示すように、インジェクタ26には10個の噴口38が、インジェクタ26の長手軸線を囲む周方向に等角度間隔(即ち36°間隔)で配置されている。また、図5に示すように、各噴口38は、その中心軸線とインジェクタ26の長手軸線との成す角がθとなるように形成される。
次に、図6を参照して、本発明の実施形態によるエンジン1の運転領域について説明する。図6は、エンジン1の運転制御マップの一例を示している。このエンジン1は、燃費の向上や排気エミッション性能の向上を目的として、エンジン負荷が相対的に低い低負荷域では、点火プラグ30による点火を行わずに、圧縮自己着火(Compression Ignition:CI)による圧縮着火燃焼を行う。しかしながら、エンジン1の負荷が高くなるに従って、圧縮着火燃焼では、燃焼が急峻になりすぎてしまい、例えば燃焼騒音等の問題を引き起こすことになる。そこで、このエンジン1では、エンジン負荷が相対的に高い高負荷域では、圧縮着火燃焼を止めて、点火プラグ30を利用した強制点火燃焼(ここでは火花点火燃焼(Spark Ignition:SI))に切り替える。このように、このエンジン1は、エンジン1の運転状態、特にエンジン1の負荷に応じて、予混合圧縮自己着火燃焼を行うCIモードと、火花点火燃焼を行うSIモードとを切り替えるように構成されている。但し、モード切り替えの境界線は、図例に限定されるものではない。
次に、図7乃至図9を参照して、本発明の実施形態によるエンジンの制御装置の動作を説明する。図7は、本発明の実施形態によるエンジン1の運転領域がSI領域である場合の、吸気行程噴射時期における燃料の噴射方向とピストン頂面との位置関係を示す部分断面図であり、図8は、本発明の実施形態によるエンジン1の運転領域がCI領域である場合の、吸気行程噴射時期における燃料の噴射方向とピストン頂面との位置関係を示す部分断面図であり、図9は、本発明の実施形態によるエンジン1の運転領域がCI領域である場合の、圧縮行程噴射時期における燃料の噴射方向とピストン頂面との位置関係を示す部分断面図である。
PCM32は、水温センサ、クランク角センサ、アクセル開度センサ等から入力された検出信号に基づき特定したエンジン1の運転領域が、SI領域であり且つエンジン回転数が相対的に低い領域である場合、プリイグニッションなどを抑制する観点から、圧縮行程後半から膨張行程前半までの間に燃料を噴射(リタード噴射)して、圧縮上死点後に点火を行う。
すなわち、PCM32は、図7に示すようにピストン14が上死点付近まで上昇した圧縮行程後半の時期(例えば60[deg BTDC])において、インジェクタ26からピストン14のキャビティ34内に燃料を噴射させる。
インジェクタ26から噴射された燃料は、まず、ピストン14のキャビティ34に衝突し(矢印A1参照)、この後、当該燃料を含む混合気が、キャビティ34の曲面34cに沿って径方向外方へと移動していく(矢印A2参照)。そして、混合気がキャビティ34の曲面34cに沿って径方向外方へと移動し、キャビティ34の曲面34cの縁端部34dを経由して、燃焼室天井16aに衝突する(矢印A3参照)。
燃焼室天井16aに衝突した混合気は、この衝突により分散されて、燃焼室天井16aに沿って、点火プラグ30の方向へと移動していくと共に(矢印A4参照)、スキッシュエリアSAの方向へと移動していく(矢印A5参照)。
このように混合気を点火プラグ30の方向に移動させることで(矢印A4参照)、点火プラグ30の先端部の電極30aの周辺に混合気の濃い部分を作り出すことができ、つまり点火プラグ30の電極30aの周りをリッチ化することができ、点火プラグ30による着火性を適切に確保することができる。
また、混合気をスキッシュエリアSAの方向に移動させることで(矢印A5参照)、スキッシュエリアSA内の空気を利用して、燃焼室16内の混合気の均質性を適切に確保することができる。つまり、混合気をスキッシュエリアSA内に送り込むことで、燃焼室16内において混合気がほぼ均一な状態を速やかに作り出すことができる。これにより、未燃や後燃えによる燃費の悪化や、スモークによるエミッションの悪化を改善することが可能となる。
一方、PCM32は、エンジン1の運転領域がSI領域であり且つエンジン回転数が相対的に高い領域である場合には、吸気行程において燃料を噴射して、燃料の気化を促進すると共に燃料を燃焼室16内に均等に分布させることにより、未燃や後燃えによる燃費の悪化や、スモークによるエミッションの悪化を防止している。
また、PCM32は、エンジン1の運転領域がCI領域の中でエンジン負荷が相対的に高い領域である場合、吸気行程中に設定された吸気行程噴射時期、及び、圧縮行程中に設定された圧縮行程噴射時期の2つの時期に分割して、インジェクタ26により燃料を噴射させる。
吸気行程噴射時期は、例えば270[deg BTDC]付近に設定されている。この吸気行程噴射時期においては、図8に示すように、吸気バルブ22の開弁及びピストン14の下降に応じて吸気ポート18から燃焼室16内に流入した吸気により、タンブル流T(縦方向の渦流)が発生している。PCM32がインジェクタ26及び燃料供給システム28を制御して、吸気行程噴射時期に燃料をインジェクタ26から噴射させると、インジェクタ26から噴射された燃料は、このタンブル流Tに伴って燃焼室16内を流動する。特に、吸気行程噴射時期の270[deg BTDC]付近はピストン14の下降速度が最も速い時期であり、燃焼室16内の流動が最も大きい時期なので、燃焼室16内に噴射された燃料の気化をより促進することができる。また、この吸気行程噴射時期から点火時期が到来するまでの時間が長いので、吸気行程噴射時期に噴射された燃料が気化する時間を確保できると共に、燃料を燃焼室16内に均等に分布させることができる。
圧縮行程噴射時期は、圧縮行程噴射時期にインジェクタ26から噴射された燃料がエンジン1のピストン頂面14aの周縁部36に直接到達可能な時期に設定されている。具体的には、図9に示すように、圧縮行程噴射時期において、インジェクタ26の軸線方向(すなわち、インジェクタ26から燃料が噴射される噴射方向)にピストン頂面14aの周縁部36が位置するようになっている。より詳細には、圧縮行程噴射時期において、インジェクタ26の中心軸線が、ピストン頂面14aの外周とキャビティ34の外周とのおよそ中間の位置においてピストン頂面14aと交差するようになっている。この圧縮行程噴射時期は、クランク角としては圧縮行程の中間(本実施形態では80[deg BTDC])に位置している。
PCM32は、上記のように設定された圧縮行程噴射時期にインジェクタ26から燃料を噴射させることにより、インジェクタ26から噴射された燃料が気筒2の内壁に衝突することを防止するとともに、圧縮行程噴射時期の後に圧縮行程の後半から膨張行程の前半にかけて圧縮自己着火が発生するまでに、燃料が燃焼室16内に拡散することを抑制しつつ燃料が気化する時間を確保する。これにより、燃焼室16の径方向周縁部(燃焼室16におけるピストン頂面14aの周縁部の上方の領域)に、燃焼室16の径方向中央部(燃焼室16におけるキャビティ34の上方の領域)よりもリッチな混合気が形成される。
温間時の燃焼室16における径方向の温度分布は、エンジン冷却水により冷却されているシリンダブロック4に近づくほど低温となり、径方向中央に近づくほど高温となっている。すなわち、燃焼室16の径方向周縁部は、径方向中央部に比べて低温になっている。
このような温度分布を有する燃焼室16において、上述したように吸気行程噴射時期における燃料噴射により燃焼室16内に均質な混合気を形成しつつ、圧縮行程噴射時期における燃料噴射により燃焼室16の径方向周縁部に径方向中央部よりもリッチな混合気を形成することにより、相対的に高温な燃焼室16の径方向中央部が気化潜熱によって低温化することを防ぎ、且つ、相対的に低温な燃焼室16の径方向周縁部を気化潜熱によってさらに低温化させる。
これにより、圧縮行程後半から膨張行程の前半において、燃焼室16内に「高温且つリーンな径方向中央部」と「低温且つリッチな径方向周縁部」とが形成される。この場合、まず、「高温且つリーンな径方向中央部」において自己着火が生じ、それより遅れて「低温且つリッチな径方向周縁部」において自己着火が生じる。すなわち、燃焼室16内に均質な混合気が形成されている場合と比較して、圧縮自己着火による燃焼が緩慢に(熱発生速度の立ち上がりが緩やかに)なる。
図10は、吸気行程噴射時期及び圧縮行程噴射時期に燃料噴射を行った場合と、吸気行程のみにおいて燃料噴射を行った場合とのそれぞれにおいて、燃焼騒音のレベルが限界値以下となるようにエンジン1の充填効率を設定したときの熱発生速度の変化を解析した結果を示す線図である。図10における実線は吸気行程噴射時期及び圧縮行程噴射時期に燃料噴射を行った場合の熱発生速度の変化を示し、一点鎖線は吸気行程のみにおいて燃料噴射を行った場合の熱発生速度の変化を示す。
この図10に示した解析では、吸気行程噴射時期及び圧縮行程噴射時期に燃料噴射を行う場合と吸気行程のみにおいて燃料噴射を行う場合とのそれぞれについて、エンジン1の圧縮比、エンジン回転数、EGR率、空燃比、及び、圧縮行程開始時の燃焼室16内の温度を同一とし、圧縮行程開始時の燃料分布を均質としている。
吸気行程のみにおいて燃料噴射を行う場合には、エンジン負荷が高まり、燃焼室16内に噴射される燃料量が増大するにつれ、混合気の燃焼が極めて短期間で生じることにより筒内圧力の急上昇を招き、燃焼騒音が増大する。したがって、燃焼騒音のレベルを限界値以下に抑制するためには筒内圧の急上昇を抑制するために充填効率を低下させなければならない。その結果、図10に一点鎖線により示すように、圧縮自己着火が生じる時期(熱発生速度が立ち上がる時期)自体が上死点後まで遅延し、燃焼重心位置が遅角する。すなわち、吸気行程のみにおいて燃料噴射を行う場合、高負荷時に燃焼騒音を低減しようとすると、エンジン出力の低下や熱効率の低下を招く。
一方、上記のように吸気行程噴射時期及び圧縮行程噴射時期に燃料噴射を行う場合、まず、「高温且つリーンな径方向中央部」において自己着火が生じ、それより遅れて「低温且つリッチな径方向周縁部」において自己着火が生じることにより、圧縮自己着火による燃焼が緩慢化され、筒内圧の急上昇が抑制される。すなわち、燃焼騒音のレベルを限界値以下に抑制するために充填効率を低下させて燃焼重心位置を遅角させる必要がないので、図10に実線により示すように、圧縮自己着火が生じる時期を上死点前に維持しつつ、熱発生速度の立ち上がりを緩やかに抑えることができる。したがって、高負荷時においても、エンジン出力や熱効率を低下させることなく燃焼騒音を低減することができる。
次に、上述した本発明の実施形態によるエンジンの制御装置の作用効果を説明する。
まず、PCM32は、吸気行程噴射時期における燃料噴射により燃焼室16内に均質な混合気を形成しつつ、インジェクタ26から噴射された燃料がピストン頂面14aの周縁部36に直接到達可能な圧縮行程噴射時期における燃料噴射により、燃焼室16の径方向周縁部に燃焼室16の径方向中央部よりもリッチな混合気を形成することにより、燃焼室16の径方向中央部における自己着火より遅れて径方向周縁部において自己着火を生じさせるので、燃焼重心位置を遅角させることなく圧縮自己着火による燃焼を緩慢化し、筒内圧の急上昇を抑制することができ、これにより、高負荷時においても、熱効率を低下させることなく燃焼騒音を低減することができる。
また、圧縮行程噴射時期は、インジェクタ26から燃料が噴射される噴射方向にピストン頂面14aの周縁部36が位置する時期に設定されているので、インジェクタ26から噴射された燃料が気筒2の内壁に衝突することを防止するとともに、圧縮行程噴射時期の後に圧縮行程の後半から膨張行程の前半にかけて圧縮自己着火が発生するまでに、燃料が燃焼室16内に拡散することを抑制しつつ燃料が気化する時間を確保することができ、これにより、燃焼室16の径方向周縁部に、燃焼室16の径方向中央部よりもリッチな混合気を確実に形成することができ、燃焼重心位置を遅角させることなく圧縮自己着火による燃焼を確実に緩慢化することができる。
また、圧縮行程噴射時期は、燃料噴射弁から噴射された燃料がピストン頂面14aにおけるキャビティ34の外周に直接到達可能な時期に設定されているので、燃焼室16においてキャビティ34の外周上方の領域に位置する径方向周縁部に、燃焼室16の径方向中央部よりもリッチな混合気を確実に形成することができ、燃焼重心位置を遅角させることなく圧縮自己着火による燃焼を確実に緩慢化することができる。
1 エンジン(エンジン本体)
14 ピストン
14a ピストン頂面
16 燃焼室
26 インジェクタ
32 PCM
34 キャビティ
36 周縁部
SA スキッシュエリア

Claims (3)

  1. シリンダヘッドに配置された燃料噴射弁により燃料を気筒内の燃焼室に直接噴射し、圧縮自己着火燃焼を行うエンジンの制御装置であって、
    吸気行程中に設定された吸気行程噴射時期、及び、圧縮行程中に設定された圧縮行程噴射時期に、上記燃料噴射弁により燃料を噴射させる燃料噴射制御手段を有し、
    上記圧縮行程噴射時期は、その圧縮行程噴射時期に上記燃料噴射弁から噴射された燃料が上記エンジンのピストン頂面の周縁部に直接到達可能な時期に設定されており、
    上記燃料噴射制御手段は、上記吸気行程噴射時期における燃料噴射により上記燃焼室内に均質な混合気を形成しつつ、上記圧縮行程噴射時期における燃料噴射により上記燃焼室の径方向周縁部に上記燃焼室の径方向中央部よりもリッチな混合気を形成することにより、上記燃焼室の径方向中央部における自己着火より遅れて径方向周縁部において自己着火を生じさせる
    ことを特徴とするエンジンの制御装置。
  2. 上記圧縮行程噴射時期は、上記燃料噴射弁から燃料が噴射される噴射方向に上記ピストン頂面の周縁部が位置する時期に設定されている請求項1に記載のエンジンの制御装置。
  3. 上記エンジンの制御装置は、上記ピストン頂面の中央部に下方に凹んだキャビティが形成されたピストンを備えるエンジンの制御装置であり、
    上記圧縮行程噴射時期は、上記燃料噴射弁から噴射された燃料が上記ピストン頂面における上記キャビティの外周に直接到達可能な時期に設定されている請求項1又は2に記載のエンジンの制御装置。
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