図1は、本実施の形態による駆動装置を備える車両1の全体構成を示す図である。車両1は、エンジン10と、第1モータジェネレータ(以下「第1MG」という)20と、第2モータジェネレータ(以下「第2MG」という)30と、第1MGおよび第2のMGをそれぞれ駆動するためのインバータ25,35と、変速装置40と、動力伝達装置(遊星歯車装置)50と、カウンタ軸(出力軸)70と、差動装置80と、駆動輪90と、ECU(Electronic Control Unit)100とを含む。
車両1は、エンジン10、第1MG20および第2MG30の少なくともいずれかの動力を用いて走行する、FF(フロントエンジン・フロントドライブ)方式のハイブリッド車両である。なお、車両1の駆動方式は、FF方式に限定されず、FR(フロントエンジン・リアドライブ)方式であってもよい。また、車両1は、駆動用バッテリ(図示せず)を外部電源により充電可能なプラグインハイブリッド車両であってもよい。
エンジン10は、たとえば、ガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の内燃機関である。エンジン10は、ECU100からの制御信号により制御される。
第1MG20および第2MG30は、たとえば、永久磁石が埋設されたロータを備える永久磁石型同期電動機である。第1MG20の回転軸21は、エンジン10のクランク軸と同軸上に配置されている。第2MG30の回転軸31は、第1MG20の回転軸21と平行に配置される。カウンタ軸(出力軸)70は、第1MG20の回転軸21および第2MG30の回転軸31と平行に配置される。
第1MG20および第2MG30は、インバータ25,35によってそれぞれ駆動される。インバータ25はECU100からの制御信号によって制御され、駆動用バッテリからの直流電力を交流電力に変換して第1MG20に供給する。同様に、インバータ35はECU100からの制御信号によって制御され、駆動用バッテリからの直流電力を交流電力に変換して第2MG30に供給する。なお、第2MG30は、第1MG20によって発電された電力によっても駆動される。
変速装置40は、エンジン10と動力伝達装置(遊星歯車装置)50との間に設けられ、エンジン10の回転を変速して動力伝達装置50に出力する。変速装置40は、サンギヤS1とピニオンギヤP1とリングギヤR1とキャリアCA1とを含むシングルピニオン式の遊星歯車機構と、クラッチC1およびブレーキB1とを備える。
キャリアCA1は、エンジン10のクランク軸と連結される。ピニオンギヤP1は、サンギヤS1とリングギヤR1との間に配置され、サンギヤS1およびリングギヤR1とそれぞれ噛み合う。ピニオンギヤP1は、キャリアCA1によって自転および公転可能に支持される。
サンギヤS1の回転速度、キャリアCA1の回転速度(すなわちエンジン10の回転速度)、リングギヤR1の回転速度は、後述の図3〜6に示すように、共線図上で直線で結ばれる関係(すなわち、いずれか2つの回転速度が決まれば残りの回転速度も決まる関係)になる。
クラッチC1は、サンギヤS1とキャリアCA1とを連結可能な油圧式の摩擦係合要素である。クラッチC1が係合されると、サンギヤS1とキャリアCA1が連結される。クラッチC1が解放されると、サンギヤS1とキャリアCA1とが切り離される。
ブレーキB1は、サンギヤS1の回転を規制(ロック)可能な油圧式の摩擦係合要素である。ブレーキB1が係合されると、サンギヤS1がギヤケース(車体)に固定されるため、サンギヤS1の回転が規制される。ブレーキB1が解放されると、サンギヤS1がギヤケース(車体)から切り離されるため、サンギヤS1の回転が許容される。
変速装置40の変速比(入力要素であるキャリアCA1の回転速度と出力要素であるリングギヤR1の回転速度との比、具体的にはキャリアCA1の回転速度/リングギヤR1の回転速度)は、クラッチC1およびブレーキB1の係合および解放の組合せに応じて切り替えられる。クラッチC1を係合しかつブレーキB1を解放すると、変速比が1.0(直結状態)となるローギヤ段Loが形成される。クラッチC1を解放しかつブレーキB1を係合すると、変速比が1.0よりも小さい値(たとえば0.7、いわゆるオーバードライブ状態)となるハイギヤ段Hiが形成される。なお、クラッチC1を係合しかつブレーキB1を係合すると、サンギヤS1およびキャリアCA1の回転が規制されるため、リングギヤR1の回転も規制される。
動力伝達装置50は、サンギヤS2とピニオンギヤP2とリングギヤR2とキャリアCA2とを含むシングルピニオン式の遊星歯車装置である。動力伝達装置50のキャリアCA2は、変速装置40の出力要素であるリングギヤR1に連結され、リングギヤR1と一体的に回転する。
ピニオンギヤP2は、サンギヤS2とリングギヤR2との間に配置され、サンギヤS2およびリングギヤR2とそれぞれ噛み合う。ピニオンギヤP2は、キャリアCA2によって自転および公転可能に支持される。
サンギヤS2は、第1MG20の回転軸21に連結される。リングギヤR2には、カウンタドライブギヤ51が接続されている。カウンタドライブギヤ51は、リングギヤR2と一体回転する、動力伝達装置50の出力ギヤである。
サンギヤS2の回転速度(すなわち第1MG20の回転速度)、キャリアCA2の回転速度、リングギヤR2の回転速度は、後述の図3〜6に示すように、共線図上で直線で結ばれる関係(すなわち、いずれか2つの回転速度が決まれば残りの回転速度も決まる関係)になる。したがって、第1MG20の回転速度を調整することによって、キャリアCA2の回転速度とリングギヤR2との比を無段階に切り替えることができる。
カウンタ軸(出力軸)70には、ドリブンギヤ71およびドライブギヤ72が設けられる。ドリブンギヤ71は、動力伝達装置50のカウンタドライブギヤ51と噛み合う。つまり、エンジン10および第1MG20の動力は、動力伝達装置50のカウンタドライブギヤ51を介してカウンタ軸(出力軸)70に伝達される。
なお、変速装置40と動力伝達装置50とは、エンジン10からカウンタ軸(出力軸)70までの動力伝達経路上において直列に接続されている。そのため、エンジン10の回転は、変速装置40と動力伝達装置50とにおいて変速された後に、カウンタ軸(出力軸)70に伝達される。
また、ドリブンギヤ71は、第2MG30の回転軸31に接続されたリダクションギヤ32とも噛み合う。つまり、第2MG30の動力は、リダクションギヤ32を介してカウンタ軸(出力軸)70に伝達される。
ドライブギヤ72は、差動装置80のデフリングギヤ81と噛み合っている。差動装置80は、左右の駆動軸82を介してそれぞれ左右の駆動輪90と接続されている。つまり、カウンタ軸(出力軸)70の回転は、差動装置80を介して左右の駆動軸82に伝達される。
車両1は、変速装置40を駆動するための構成として、電動式オイルポンプ(以下「EOP」ともいう)61、機械式オイルポンプ(以下「MOP」ともいう)62、油圧回路63を備える。
EOP61は、内部に設けられるモータ(以下「内部モータ」ともいう)によって駆動されて油圧を発生し、油圧回路63に供給する。EOP61の内部モータは、ECU100からの制御信号によって制御される。したがって、EOP61は、エンジン10の停止中も作動可能である。
MOP62は、エンジン10の動力によって駆動されて油圧を発生し、油圧回路63に供給する。したがって、エンジン10が作動されるとMOP62も駆動され、エンジン10が停止されるとMOP62も停止される。
油圧回路63は、EOP61およびMOP62の少なくとも一方から供給される油圧を元圧として、変速装置40のクラッチC1、ブレーキB1に供給する油圧をそれぞれ調圧するソレノイドバルブを含む。油圧回路63におけるクラッチC1、ブレーキB1を駆動する各ソレノイドバルブは、ECU100からの制御信号によって制御される。
ECU100には、車速センサ、アクセル開度センサ、MG1回転数センサ、MG2回転数センサ、出力軸回転数センサ、バッテリセンサ、油温センサ、シフトセンサ等が接続されている。これらのセンサにより、ECU100は、車速、アクセル開度、第1MG20の回転数(回転速度)、第2MG30の回転数、動力伝達装置50の出力軸の回転数、駆動用バッテリの電流、電圧、温度、ATF(Automatic Transmission Fluid)の温度、シフトレンジ等を取得する。
シフトレンジは、前進(D)レンジ、後進(R)レンジ、パーキング(P)レンジ、ニュートラル(N)レンジなどを含む複数のシフトレンジのうちから、ユーザのシフトレバー操作によって選択される。
ECU100は、いずれも図1には図示しないがCPU(Central Processing Unit)、記憶装置および入出力バッファを含み、各センサ等からの信号の入力および各機器への制御信号の出力を行なうとともに、車両1および各機器の制御を行なう。なお、これらの制御については、ソフトウェアによる処理に限られず、専用のハードウェア(電子回路)で処理することも可能である。
ECU100は、駆動用バッテリの電流および電圧の少なくとも一方に基づいて、駆動用バッテリのSOC(State Of Charge)を算出する。なお、SOCの算出方法としては、駆動用バッテリの電圧とSOCとの関係を用いて算出する方法や、駆動用バッテリの電流の積算値を用いて算出する方法等、種々の公知の手法を用いることができる。
ECU100は、駆動用バッテリの温度およびSOCに基づいて、駆動用バッテリの受入可能電力WIN(単位はワット)を設定する(後述の図7参照)。ECU100は、駆動用バッテリに入力される電力が受入可能電力WINを超えないように第1MG200および第2MG400を制御する。
ECU100は、「ハイブリッド走行モード」(以下「HV走行モード」という)あるいは「モータ走行モード」(以下「EV走行モード」という)で車両1を走行させる。HV走行モードとは、エンジン10および第2MG30の動力で車両1を走行させる制御モードである。EV走行モードとは、エンジン10を停止し、第1MG20あるいは第2MG30の少なくとも一方の動力で車両1を走行させる制御モードである。EV走行モード中においては、ECU100は、第2MG30単独の動力で車両1を走行させる「単モータ走行モード」と、第1MG20および第2MG30の両方の動力で車両1を走行させる「両モータ走行モード」とを、ユーザの要求トルクなどに応じて選択的に切り替える。
図2は、各走行モードにおける変速装置40のクラッチC1およびブレーキB1の作動係合表を示す図である。図2において、「C1」、「B1」、「MG1」、「MG2」はそれぞれクラッチC1、ブレーキB1、第1MG20、第2MG30を示す。C1の欄およびB1の欄の丸(○)印は「係合」を示し、×印は「解放」を示し、三角(△)印はエンジンブレーキ時にクラッチC1およびブレーキB1のどちらか一方を係合することを示す。また、MG1の欄およびMG2の欄の「G」はジェネレータとして動作させることを示し、「M」はモータとして動作させることを示す。
HV走行モードにおいては、ECU100は、車速に応じて変速装置40の変速比を切り替える。中低速域で車両1を前進させる場合あるいは車両1を後進させる場合、ECU100は、クラッチC1を係合しかつブレーキB1を解放することで、ローギヤ段Loを形成する(後述の図3参照)。一方、高速域で車両1を前進させる場合、ECU100は、クラッチC1を解放しかつブレーキB1を係合することで、ハイギヤ段Hiを形成する(後述の図4参照)。また、エンジン走行モードにおいては、ECU100は、第1MG20をジェネレータとして動作させ、第2MG20をモータとして動作させる。
EV走行モードにおいては、ECU100は、上述したように、単モータ走行モードと両モータ走行モードとを選択的に切り替える。単モータ走行モードで車両1を駆動(前進あるいは後進)させる場合、ECU100は、クラッチC1を解放しかつブレーキB1を解放することで、変速装置40をニュートラル状態(動力を伝達しない状態)とする。単モータ走行モードで車両1を制動する場合でかつエンジンブレーキが必要な場合、ECU100は、クラッチC1およびブレーキB1のどちらか一方を係合する。これにより、駆動輪90の回転がエンジン10に伝達されることによってエンジン10が回転させられる、いわゆるエンジンブレーキ状態となる。なお、単モータ走行モードにおいては、ECU100は、第1MG20をジェネレータとして動作させ、第2MG20をモータとして動作させる(後述の図5参照)。
一方、両モータ走行モードで車両1を駆動(前進あるいは後進)させる場合、ECU100は、クラッチC1を係合しかつブレーキB1を係合して変速装置40のリングギヤR1の回転を規制(ロック)する。これにより、変速装置40のリングギヤR1に連結された動力伝達装置50のキャリアCA2の回転も規制(ロック)されるため、動力伝達装置50のキャリアCA2が停止状態に維持される。そして、ECU100は、第1MG20および第2MG20をモータとして動作させる(後述の図6参照)。
図3〜6は、それぞれHV走行モード中(Lo/Hi)、単モータ走行モード中、両モータ走行モード中の共線図である。図3〜6に示す「S1」、「CA1」、「R1」はそれぞれ変速装置40のサンギヤS1、キャリアCA1、リングギヤR1を示し、「S2」、「CA2」、「R2」はそれぞれ動力伝達装置50のサンギヤS2、キャリアCA2、リングギヤR2を示す。
図3を参照して、HV走行モード中の制御状態について説明する。なお、図3には、ローギヤ段Loで前進走行している場合が例示されている。ローギヤ段Lo形成時には、クラッチC1が係合され、ブレーキB1が解放される。そのため、回転要素S1,CA1,R1は一体となって回転する。これにより、変速装置40のリングギヤR1も、キャリアCA1と同じ回転速度で回転し、エンジン10の回転は、同じ回転速度でリングギヤR1から動力伝達装置50のキャリアCA2に伝達される。すなわち、変速装置40のキャリアCA1に入力されたエンジン10のトルク(以下「エンジントルクTe」という)は、変速装置40のリングギヤR1から動力伝達装置50のキャリアCA2に伝達される。なお、リングギヤR1から出力されるトルク(以下「変速部出力トルクTr1」という)は、エンジントルクTeと同じ大きさである(Te=Tr1)。
動力伝達装置50のキャリアCA2に伝達されたエンジン10の回転は、サンギヤS2の回転速度(第1MG20の回転速度)によって無段階に変速されて動力伝達装置50のリングギヤR2に伝達される。この際、ECU100は、第1MG20をジェネレータとして動作させて、第1MG20のトルク(以下「第1MGトルクTm1」という)を負方向に作用させる。これにより、キャリアCA2に入力されたエンジントルクTeをリングギヤR2に伝達するための反力を第1MGトルクTm1が受け持つことになる。
リングギヤR2に伝達されたエンジントルクTe(以下「エンジン伝達トルクTec」という)は、カウンタドライブギヤ51からカウンタ軸(出力軸)70に伝達され、車両1の駆動力として作用する。
このように、HV走行モードにおいては、エンジントルクTeをリングギヤR2に伝達するために、第1MG20で発電させる。第1MG20で発電された電力は駆動用バッテリに受け入れられる。したがって、エンジントルクTeは、駆動用バッテリの受入可能電力WIN(後述)によって制限されることになる。
また、HV走行モードでは、ECU100は、第2MG30をモータとして動作させる。第2MG30のトルク(以下「第2MGトルクTm2」という)は、リダクションギヤ32からカウンタ軸(出力軸)70に伝達され、車両1の駆動力として作用する。つまり、HV走行モードでは、エンジン伝達トルクTecと第2MGトルクTm2とを用いて、車両1は走行する。
図4には、ハイギヤ段Hiで前進走行している場合が例示されている。ハイギヤ段Hi形成時には、ブレーキB1が係合されるため、サンギヤS1の回転が規制される。これにより、変速装置40のキャリアCA1に入力されたエンジン10の回転は、増速されて変速装置40のリングギヤR1から動力伝達装置50のキャリアCA2に伝達される。したがって、変速部出力トルクTr1はエンジントルクTeよりも小さくなる(Te>Tr1)。
次に、図5を用いて、単モータ走行モード中の制御状態について説明する。単モータ走行モードでは、ECU100は、エンジン10を停止し、第2MG30をモータとして動作させる。そのため、単モータ走行モードでは、第2MGトルクTm2を用いて車両1は走行する。
この際、ECU100は、サンギヤS1の回転速度が0となるように第1MGトルクTm1をフィードバック制御する。そのため、サンギヤS1は回転しない。しかしながら、変速装置40のクラッチC1およびブレーキB1は解放されているため、動力伝達装置50のキャリアCA2の回転は規制されない。したがって、動力伝達装置50のリングギヤR2、キャリアCA2および変速装置40のリングギヤR1は、第2MG30の回転に連動して、第2MG30の回転方向と同じ方向に回転(空転)させられる。
一方、変速装置40のキャリアCA1は、エンジン10が停止されていることによって、停止状態に維持される。変速装置40のサンギヤS1は、リングギヤR1の回転に連動して、リングギヤR1の回転方向とは反対の方向に回転(空転)させられる。
図6を参照して、両モータ走行モード中における制御状態について説明する。両モータ走行モードでは、ECU100は、エンジン10を停止し、変速装置40のクラッチC1を係合しかつブレーキB1を係合する。したがって、変速装置40のサンギヤS1、キャリアCA1、リングギヤR1の回転が規制される。
変速装置40のリングギヤR1の回転が規制されることで、動力伝達装置50のキャリアCA2の回転も規制(ロック)される。この状態で、ECU100は、第1MG20および第2MG30をモータとして動作させる。具体的には、第2MGトルクTm2を正トルクとして第2MG30を正回転させるとともに、第1MGトルクTm1を負トルクとして第1MG20を負回転させる。
クラッチC1を係合してキャリアCA2の回転を規制することで、第1MGトルクTm1は、キャリアCA2を支点としてリングギヤR2に伝達される。リングギヤR2に伝達される第1MGトルクTm1(以下「第1MG伝達トルクTm1c」という)は、正方向に作用し、カウンタ軸(出力軸)70に伝達される。そのため、両モータ走行モードでは、第1MG伝達トルクTm1cと第2MGトルクTm2とを用いて、車両1は走行する。ECU100は、第1MG伝達トルクTm1cと第2MGトルクTm2との合計によってユーザ要求トルクを満たすように、第1MGトルクTm1と第2MGトルクTm2との分担比率を調整する。
図7は、駆動用バッテリの温度およびSOCと、受入可能電力WINとの関係を示す図である。図7に示すように、ECU100は、SOCが所定値よりも高SOC状態である場合、SOCが所定値よりも低い低SOC状態あるいは中SOC状態である場合に比べて、受入可能電力WINを小さい値に設定する。
さらに、たとえば低い外気温の影響で駆動用バッテリの温度が所定温度T1よりも低い場合、ECU100は、駆動用バッテリの温度が低いほど、受入可能電力WINをSOCに基づく値よりも低い値に制限する。また、ECU100は、駆動用バッテリの温度が所定温度T2よりも高い場合、駆動用バッテリの温度が高いほど、受入可能電力WINをSOCに基づく値よりも低い値に制限する。
以上のような構成を有する車両1においては、前進時にHV走行モードで走行し、後進時には両モータ走行モードで走行することが可能である。
上述したように、HV走行モードでの走行(HV走行)においては、エンジントルクTeは、駆動用バッテリの受入可能電力WINによって制限されることになる。この影響により、前進時に発生可能な車両駆動力の上限値(以下「前進上限駆動力」ともいう)は、駆動用バッテリの受入可能電力WINに応じて制限され得る。
一方、両モータ走行モードでの走行(両モータ走行)は、第1MG20および第2MG30の双方がモータとして動作して駆動用バッテリの電力を消費する。したがって、後進時に発生可能な車両駆動力の上限値(以下「後進上限駆動力」ともいう)は、駆動用バッテリの受入可能電力WINに応じては制限されない。
そのため、前進時にHV走行を行ない後進時に両モータ走行を行なう場合には、後進上限駆動力が前進上限駆動力よりも大きくなる場合が生じ得る。一般的に、後進時に必要な駆動力は、前進時に必要な駆動力よりも小さいことが多い。そのため、後進上限駆動力が前進上限駆動力よりも大きくなると、ユーザに違和感を与えることが懸念される。
この対策として、前進上限駆動力を算出し、算出された前進上限駆動力よりも後進上限駆動力を小さい値に設定することが考えられる。これにより、後進上限駆動力が前進上限駆動力よりも小さい値となる状態を常に維持することができる。
しかしながら、上記の対策では、ユーザに別の違和感を与えることが懸念される。すなわち、たとえば後進中のアクセル全開操作(WOT:Wide Open Throttle)によりバッテリ温度が上昇したことによって受入可能電力WINの制限が緩和され前進上限駆動力が大きい値に更新されると、前進上限駆動力に基づいて設定される後進上限駆動力も大きい値にリアルタイムで更新され得る。その結果、後進中にユーザの意図しない駆動力増加が生じ、後進方向への飛び出し感をユーザに与えてしまうことが懸念される。
そこで、本実施の形態によるECU100は、前進上限駆動力を算出し、後進レンジ以外のシフトレンジにおいては前進上限駆動力よりも小さい値を後進上限駆動力に設定(更新)する。そして、ECU100は、後進レンジにおいては、前進レンジ中に設定された後進上限駆動力を超えないように車両駆動力を制限するとともに、後進上限駆動力の更新を制限する。なお、後進上限駆動力の更新を「制限」するとは、更新を禁止するものであってもよいし、更新による単位時間あたりの変化量を所定値未満に制限するものであってもよい。以下では、更新を禁止する場合について説明する。
図8は、後進上限駆動力の更新を制限する際にECU100が行なう処理手順を示すフローチャートである。このフローチャートは、ECU100の作動中に所定周期で繰り返し実行される。
ステップ(以下、ステップを「S」と略す)10にて、ECU100は、前進上限駆動力を算出する。たとえば、ECU100は、駆動用バッテリの受入可能電力WINを取得し、第2MG20の消費電力と第1MG10の発電電力との差分が駆動用バッテリの受入可能電力WIN以内に収まるエンジントルクTe、および第2MG20の温度などから求まる第2MG20の発生可能トルクから、前進上限駆動力を算出する。第1MG10の発電電力を駆動用バッテリに代えてあるいは加えて摩擦係合装置によって吸収する場合は、摩擦係合装置が吸収可能なエネルギを考慮して前進上限駆動力を算出するようにしてもよい。なお、前進発進時にアクセル全開動作があった場合には、この前進上限駆動力を目標として車両駆動力が制御される。
S11にて、ECU100は、後進(R)レンジが選択されているか否かを判定する。Rレンジが選択されていない場合(S11にてNO)、S12にて、ECU100は、前進上限駆動力に基づいて後進駆動力を設定する。すなわち、Rレンジが選択されていない場合には、前進上限駆動力に基づいて後進駆動力を更新することが許容される。たとえば、ECU100は、前進上限駆動力から所定値(0<所定値<前進上限駆動力)を減じた値を後進上限駆動力に設定したり、前進上限駆動力に所定割合(0<所定割合<1)を乗じた値を後進上限駆動力に設定したりすることができる。設定された後進上限駆動力は、その後にRレンジが選択された際に必要となるため、ECU100の内部メモリに記憶される。これにより、後進上限駆動力が更新されることになる。
一方、Rレンジが選択されている場合(S11にてYES)、ECU100は、S12の処理を行なうことなく、処理を終了する。すなわち、ECU100は、Rレンジの選択中においては、後進上限駆動力の更新を行なわない。すなわち、ECU100は、Rレンジの選択中においては、Rレンジ以外のシフトレンジにおいて設定および記憶された後進上限駆動力を超えないように車両駆動力を制限するとともに、後進上限駆動力の更新を禁止する。
図9は、後進上限駆動力の変化の一例を示す図である。図9において、横軸には時間が示され、縦軸には駆動用バッテリの受入可能電力WIN、エンジン上限トルク(前進時に発生可能なエンジントルク)、前進上限駆動力、後進上限駆動力、シフトレンジ、バッテリ温度(駆動用バッテリの温度)、クラッチC1の状態、ブレーキB1の状態、および車速が示される。
図9に示す例では、時刻t2以前はPレンジが選択され、時刻t2〜t4はRレンジが選択され、時刻t4以降はDレンジが選択されている。
時刻t1にて、低い外気の影響で受入可能電力WINが低下したことによって、エンジン上限トルクが制限され始める(低下し始める)。これにより、前進上限駆動力も低下し始める。
時刻t2よりも前の期間においては、Pレンジが選択されており、Rレンジは選択されていない。Rレンジが選択されていない場合は、前進上限駆動力に基づいて後進上限駆動力を更新することが許容されるため、図9に示すように、前進上限駆動力の低下に伴って後進上限駆動力も低下する。
時刻t2にて、シフトレンジがPレンジからRレンジに切り替えられるとともにアクセルベダルが踏まれると、クラッチC1およびブレーキB1が係合されて両モータ走行で後進し始める。
図9に示す例では、両モータ走行モードでの後進によってバッテリ温度が上昇し、受入可能電力WINの制限が緩和されてエンジン上限トルクの制限も緩和されている。その結果、前進上限駆動力は増加している。しかしながら、時刻t2〜t4の期間においてはRレンジ選択中であるため、後進上限駆動力の更新は禁止される。
すなわち、Rレンジ選択中においては、受入可能電力WINの制限が緩和されたことによって前進上限駆動力が増加しても、後進上限駆動力は増加されず時刻t2(Rレンジへの切替直前)の値に維持される。そのため、ユーザの意図しない駆動力変動を抑制することができる。すなわち、仮に前進上限駆動力が増加したことに応じて後進上限駆動力をリアルタイムで増加させた場合(破線参照)、ユーザの意図しない駆動力増加が生じ、車両後進方向への飛び出し感をユーザに与えてしまうことが懸念される。本実施の形態においてはこのような問題が生じることを抑制することができる。
時刻t3にて車両が停止された時点では、エンジン上限トルクが制限されなくなっている。
時刻t4にてシフトレンジがRレンジからDレンジに切り替えられると、ブレーキB1が解放され変速装置40においてローギヤ段Loが形成されるとともに、前進上限駆動力に基づいて後進上限駆動力を更新することが再び許容される。
以上のように、本実施の形態によるECU100は、前進上限駆動力を算出し、後進レンジ以外のシフトレンジにおいては前進上限駆動力よりも小さい値を後進上限駆動力に設定(更新)する。そして、ECU100は、後進レンジにおいては、前進レンジ中に設定された後進上限駆動力を超えないように車両駆動力を制限するとともに、後進上限駆動力の更新を禁止する。そのため、Rレンジ選択中において前進上限駆動力が増加しても、後進上限駆動力は増加されない。これにより、ユーザの意図しない駆動力変動を抑制することができる。
<変形例>
上述の実施の形態は、たとえば以下のように変更することもできる。
(1) 上述の実施の形態においては、図8のS11にてRレンジが選択されていないと判定された場合(S11にてNO)に、次のS12に進んで後進上限駆動力を設定する場合を説明した。
しかしながら、図8のS11にてRレンジが選択されていないと判定された場合(S11にてNO)に、一旦前進した履歴があったことを確認してから、次のS12に進んで後進駆動力を設定するようにしてもよい。
このようにすると、RレンジとNレンジとの切替を繰り返しているうちに、後進上限駆動力が変化することを避けることができる。すなわち、RレンジとNレンジとの切替を繰り返している最中にも、エアコンなどの補機の駆動や駆動用バッテリの冷却等により駆動用バッテリのSOCや温度が変わり受入可能電力WINが刻々と変化し得るが、このような場合にまで後進上限駆動力が変化することを避けることができる。
(2) 上述の実施の形態においては、図8のS12にて後進上限駆動力を前進上限駆動力よりも小さい値に設定したが、たとえばユーザがRレンジでアクセル全開操作を行なっているのに登坂等で車両が発進しない場合は、後進上限駆動力を前進上限駆動力よりも一時的に大きい値に設定して発生し得る駆動力を出力するようにしてもよい。
(3) 上述の実施の形態においては、Rレンジ以外のシフトレンジからRレンジに切り替えられた直後から後進駆動力設定の更新を禁止する場合を説明したが、Rレンジに切り替えられた後、実際にユーザによってアクセルペダルが踏まれるまで後進駆動力設定の更新を許容するようにしてもよい。
また、上述した実施の形態およびその変形例については、適宜組合せることも可能である。
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。