以下に、本発明に係る実施例を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施例によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施例における構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、あるいは実質的に同一のものが含まれる。
図1は、本発明に係る実施例に係る信号処理方法を実行する信号処理装置1と、センサ素子A1,A2,…,AMからなるセンサアレイ2及びそのセンサアレイ2が受信する信号との関係を示す模式図である。信号処理装置1は、指向性を有するセンサアレイ(例えばM個のセンサ素子A1,A2,…,AM)により受信される信号を処理する。具体的には、例えば図1に示すように、信号処理装置1は、複数のセンサ素子A1,A2,…,AMからなるセンサアレイ2と接続される。センサアレイ2は、例えばアレイアンテナとして機能する。センサアレイ2と信号処理装置1とは、例えばA/D変換器3を介して接続される。A/D変換器3は、センサ素子A1,A2,…,AMにより得られる信号(アナログ信号x(t))をデジタル信号x(k)に変換する。以下、本実施例では、このデジタル信号を「受信信号」とする。すなわち、受信信号は、センサ素子A1,A2,…,AMにより得られる信号である。このデジタル信号x(k)には、検出対象の信号Sigのベースバンド信号と、不要信号Noiがデジタル化された信号とが混在する。検出対象の信号Sigのベースバンド信号は、検出対象の信号Sigの搬送波(アナログ信号)から復元された、この検出対象の信号Sigが搬送波に変換される前の信号(デジタル信号)である。
センサアレイ2は、そのセンサアレイを構成するものに応じた信号を受信する。具体的には、例えばアレイアンテナを構成する複数のセンサ素子A1,A2,…,AMは、所定の帯域(可聴域)の電波を受信する。図1に示すように、センサアレイ2により受信される電波には、受信することが意図された信号(検出対象の信号Sig)と、意図に反して受信されるノイズとしての信号(不要信号Noi)とが混在している。図1では、検出対象の信号Sigの発信源P1及び不要信号Noiの発信源P2がそれぞれ一つであるが、一例であってこれに限られるものでなく、一方又は両方が二つ以上であり得る。本実施例では、検出対象の信号Sigの発信源P1は、信号処理装置1からの要請信号に応じて検出対象の信号Sigの搬送波を出力する装置である。不要信号Noiの発信源P2は、例えば信号処理装置1とは無関係のものであって電波等を発生または反射させるものである。図1では、センサ素子A1,A2,…,AMに対する検出対象の信号Sigの到来方向をθd(t)としている。また、センサ素子A1,A2,…,AMに対する不要信号Noiの到来方向をθi(t)としている。なお、これらの到来方向は、例えばセンサアレイ2等に設けられたセンサ素子A1,A2,…,AMの角度により定められた基準軸Fに対する角度で表される。図1では、θd(t),θi(t)は2次元的な角度であるが、実際には3次元的角度であっても良い。θd(t),θi(t)はともに不変でなく、時間(t)の経過に伴うセンサアレイ2若しくは各々の信号の発信源又はその両方の移動により変化し得る。時間(t)の単位は、例えばA/D変換機3による信号の変換出力周期又は信号処理装置1の処理周期(動作クロック)のうちいずれか低い方により定められる。これらの周期は任意に決定することができる。すなわち、決定された周期に応じたA/D変換機3及び信号処理装置1を用いることで任意の時間(t)の単位での処理を行うことができる。以下、時間(t)の最小単位に対応する時間を、1サンプリング時間と記載することがある。
信号処理装置1は、センサアレイ2を構成するセンサ素子A1,A2,…,AMの各々により得られる信号を個別に取り扱うことができる。図1では、M個のセンサ素子A1,A2,…,AMからなるセンサアレイ2により得られる信号(アナログ信号)をx1(t),x2(t),…,xM(t)としている。ここで、Mは2以上の整数である。また、本実施例では、これらのアナログ信号がA/D変換器3により変換された後の信号(デジタル信号)をx1(k),x2(k),…,xM(k)としている。x(t)は、x1(t),x2(t),…,xM(t)を全て含む。x(k)は、x1(k),x2(k),…,xM(k)を全て含む(他の関数についても同様である)。信号処理装置1は、図1に示すように、センサ素子A1,A2,…,AMの各々にウェイト(例えば図1に示すウェイトw1 *,w2 *,…,wM *)を設定することができる。ウェイトw1 *,w2 *,…,wM *を設定することで、センサアレイ2の指向性を任意に設定することができる。すなわち、信号処理装置1は、センサアレイ2に指向性を設定することで、センサアレイ2により受信される信号に対して空間的なフィルタリングを施すことができる(図4参照)。具体的には、ウェイトは、センサ素子A1,A2,…,AMによる受信信号の振幅及び位相を調節する。受信信号に対してウェイトを適用すると、受信信号の振幅及び位相が調節されることで、ウェイトに対応した角度に対する信号の重み付けが得られる。このように、ウェイトは、センサアレイ2による信号の受信角度の調節要素として機能する。
信号処理装置1は、センサアレイ2により得られる信号に基づいた出力を行う。具体的には、信号処理装置1は、例えば図1に示すように、アレイ出力信号y(k)を出力する。このアレイ出力信号y(k)は、センサアレイ2により得られる信号から不要信号Noiが除去された信号である。すなわち、信号処理装置1は、検出対象の信号Sigと不要信号Noiが混在した信号である受信信号から不要信号Noiが除去された信号を得る機能を有する。
図2は、信号処理装置1の主要構成の一例を示すブロック図である。図2に示すように、信号処理装置1は、入力部11と、記憶部12と、演算部13と、出力部14と、要請信号発信部15とを備える。入力部11は、外部から受信信号が入力されるインタフェースである。具体的には、入力部11は、例えばA/D変換機3と接続される。入力部11には、A/D変換機3によりデジタル信号化されたセンサアレイ2の受信信号が入力される。記憶部12は、例えばRAM、ROM及びフラッシュメモリー等の記憶装置を有し、演算部13により処理されるソフトウェア・プログラム及びこのソフトウェア・プログラムにより参照されるデータ等を記憶する。図2では、便宜上、これらのソフトウェア・プログラム及びこのソフトウェア・プログラムにより参照されるデータ等をまとめて「プログラムPro」と図示している。また、記憶部12は、演算部13が処理結果等を一時的に記憶する記憶領域としても機能する。演算部13は、記憶部12からソフトウェア・プログラム等を読み出して処理することで、ソフトウェア・プログラムの内容に応じた機能を発揮する。具体的には、演算部13は、信号要請処理部13a、推定部13b、決定部13c及び除去部13d等として機能する。信号要請処理部13aは、検出対象の信号Sigの送信原P1に対して検出対象の信号Sigの送信を要請するための処理を行う。具体的には、信号要請処理部13aは、検出対象の信号Sigの送信を要請することを示す要請信号を要請信号発信部15から発信させる。推定部13bは、検出対象の信号Sigがセンサアレイ2に到達する所定のタイミングよりも前にセンサアレイ2により受信された信号である事前信号の到来方向に基づいて不要信号Noiの到来方向を推定する。決定部13cは、推定された不要信号Noiの到来方向に対してヌルを向ける不要信号除去ウェイトを決定する。除去部13dは、受信信号に不要信号除去ウェイトを適用して不要信号Noiが除去された信号を得る。出力部14は、演算部13による処理後の信号、すなわち、受信信号から不要信号Noiが除去された信号を出力するインタフェースである。具体的には、出力部14は、例えばアレイ出力信号y(k)を出力する。要請信号発信部15は、要請信号を発信する。具体的には、要請信号発信部15は、例えば発信用のアンテナであり、信号要請処理部13aによる処理に応じて要請信号を発信する。
次に、センサアレイ2による信号の受信開始タイミングと検出対象の信号Sigの受信時間帯TSとの関係について説明する。図3は、時間の推移に伴う要請信号の発信タイミングT1、センサアレイ2による信号の受信開始タイミングT2及び検出対象の信号Sigの受信タイミングT3の一例を示す図である。図4は、不要信号除去ウェイトが適用されたセンサ素子A1,A2,…,AMの指向性の一例を示す図である。図4では、センサ素子A1,A2,…,AMが受信可能な角度の範囲(横軸)における感度の高低(縦軸)を以てセンサ素子A1,A2,…,AMの指向性を示している。図5は、受信信号の一例を示す図である。図5における処理前信号Befは、不要信号除去ウェイトが適用されていない場合の受信信号の一例である。処理後信号Aftは、不要信号除去ウェイトが適用された場合の受信信号の一例である。図6は、検出対象の信号Sigの受信に係る処理の流れの一例を概略的に示すフローチャートである。
本実施例では、信号処理装置1から発信された要請信号を検出対象の信号Sigの発信源P1が受信した後に、当該発信源P1が検出対象の信号Sigを発信する。センサ素子A1,A2,…,AMは、当該検出対象の信号Sigを含む受信信号を受信する。このため、図3に示すように、信号処理装置1による要請信号の発信タイミングT1から検出対象の信号Sigの受信時間帯TSまでに時間の経過が生じる。言い換えれば、要請信号の発信タイミングT1から検出対象の信号Sigの受信時間帯TSまでに、検出対象の信号Sigがセンサ素子A1,A2,…,AMにより受信されることがない時間がある。ここで、検出対象の信号Sigの受信時間帯TSの開始タイミングT3が、検出対象の信号Sigがセンサアレイ2(センサ素子A1,A2,…,AMのうち、少なくともいずれか一つ以上のセンサ素子)に到達する所定のタイミングとなる。よって、図3に示すように、センサ素子A1,A2,…,AMは、検出対象の信号Sigの受信時間帯TSよりも前のタイミングT2から受信を開始することで、当該時間内において検出対象の信号Sigを含まない不要信号Noiのみを受信することができる。検出対象の信号Sigと不要信号Noiとが混在した信号のみを用いて検出対象の信号Sigと不要信号Noiとを区別して各々の到来方向を個別に推定することは困難であるが、不要信号Noiのみからなる信号の到来方向を推定することは容易である。すなわち、不要信号Noiのみを受信することで、当該不要信号Noiの到来方向を推定することができる。そして、検出対象の信号Sigの受信時間帯TSまでに、不要信号Noiの到来方向に対する感度を最低にし、他の方向に対する感度を相対的に高くするようにすることで、図5の処理後信号Aftが示すように、検出対象の信号Sigの受信時間帯TSにおいて当該不要信号Noiを良好に除去することができる。
具体的には、まず、信号要請処理部13aが要請信号を発信させる(ステップS1)。次に、検出対象の信号Sigの受信時間帯TSよりも前のタイミング(例えばタイミングT2)に得られた受信信号、すなわち、事前信号に基づいて、推定部13bが、不要信号Noiの到来方向を推定する(ステップS2)。次に、決定部13cが、推定された不要信号Noiの到来方向に対してヌルを向ける不要信号除去ウェイトを決定する(ステップS3)。そして、除去部13dが、検出対象の信号Sigの受信時間帯TSにおける受信信号に不要信号除去ウェイトを適用して不要信号Noiが除去された信号を得る(ステップS4)。ここで、「不要信号Noiの到来方向に対してヌルを向ける不要信号除去ウェイト」とは、「不要信号Noiの到来方向に対する感度を最低の感度にし、他のベクトルに対する感度を当該最低の感度よりも高い感度にするウェイト」をさす。仮に、不要信号除去ウェイトが適用されなかった場合、検出対象の信号Sigの受信時間帯TS前から当該受信時間帯の開始タイミングT3後まで不要信号Noiが混在し続ける。このため、検出対象の信号Sigの受信時間帯における信号レベルと当該受信タイミングの前後の信号レベルとに特段の差がない処理前信号Befが得られることになり、検出対象の信号Sigの抽出が困難になる。一方、不要信号除去ウェイトを適用することで、不要信号Noiが除去される。このため、検出対象の信号Sigの受信時間帯TSにおける信号レベルと当該受信時間帯の開始タイミングT3の前後の信号レベルとに顕著な差が生じる処理後信号Aftが得られることになり、より容易に検出対象の信号Sigを得られる。このように、信号処理装置1は、受信信号から不要信号Noiを除去することができる。
なお、上記の工程で不要信号Noiを除去するために検出対象の信号Sigの受信時間帯TSを厳密に特定する必要はない。例えば、要請信号の発信と同時にセンサアレイ2による信号の受信を開始するようにすることで、上記の工程を実施することができる。また、実験等により要請信号の発信と検出対象の信号Sigの受信時間帯TSとの間の時間を求め、要請信号の発信から当該時間が経過するより前にセンサアレイ2による信号の受信を開始するようにすることで、上記の工程を実施することができる。また、例えば検出対象の信号Sigの発信源P1から検出対象の信号Sigが発信されるタイミングがあらかじめ判明している場合等、検出対象の信号Sigの受信時間帯TSをある程度以上定めることができる場合、要請信号の発信工程を省略することができる。この場合、定められた検出対象の信号Sigの受信時間帯TSよりも前のタイミングからセンサアレイ2による信号の受信を開始するようにすることで、不要信号Noiの到来方向の推定、不要信号除去ウェイトの決定及び適用の各工程を行うことができることから、受信信号から不要信号Noiを除去することができる。
図1に示す不要信号Noiの到来方向θi(t)のうちある時点の到来方向(θiとする)に対してヌルを向ける不要信号除去ウェイトとして機能するウェイトをウェイトwiとすると、当該時点の受信信号(デジタル信号x(k))に対してウェイトwiを適用したアレイ出力信号y(k)は、以下の式(1)のように表すことができる。式(1)におけるHは、行列・ベクトルのエルミート転置(複素共役と転置の両方を行う演算子)を示す。
以下、信号処理装置1による処理について、式(2)〜式(17)を用いて説明する。デジタル信号x(k)は、以下の式(2)のように表すことができる。式(2)におけるa(θ)は、検出対象の信号Sig又は不要信号Noiの到来方向に対応する位相変化量を示す。θlは、l番目の発信原からの信号の到来方向を示す。sl(k)は、l番目の発信原の信号波形を示す。n(k)は、加法性白色ガウス雑音(AWGN:Additive White Gaussian Noise)を示す。加法性白色ガウス雑音とは、時間的・空間的に白色なガウス雑音である。また、Lは発信源の数を示す。また、Mはセンサ素子A1,A2,…,AMの数を示す。すなわち、Mは、センサアレイ2のチャネル数を示す。
式(2)により表されるデジタル信号x(k)は、複数の発信源の各々から到来した信号の集合でありうる。式(2)により表されるデジタル信号x(k)を構成する全ての信号の到来方向に対してヌルを向けるウェイトは、以下の式(3)に示す制約付き最適化問題を解くことにより求めることができる。式(3)に示す制約付き最適化問題は、ラグランジュの未定乗数法(method of Lagrange multiplier)を用いることにより、最適解を陽に解くことができ、その解は式(4)〜式(6)のように表すことができる。ここで、式(5)のIは単位行列を示す。σに上付き文字として「2」が付され、下付き文字として「n」が付された関数は、雑音電力を示す。Sは、波源相関行列を示す。波源相関行列とは、対角要素が各発信源の信号電力となる対角行列である。式(4)により求められるウェイトwが、式(2)により表されるデジタル信号x(k)を構成する全ての信号の到来方向に対してヌルを向けるウェイトになる。式(4)で用いられているRxが式(5)により求められ、式(5)で用いられているAが式(6)により求められる。
式(2)に基づいた各式により求められるウェイトは、仮にM≦Lが成立する場合、すなわち、センサ素子A1,A2,…,AMの数(M)が発信源の数(L)以下である場合、相対的に信号電力が小さい信号の到来方向に対してヌルを向けるウェイトを特定することができない場合がある(より信号電力が大きい信号の到来方向に対する処理が優先される)。一方、センサ素子A1,A2,…,AMの数を、想定され得る発信源の数より十分に多くする(M>L)ことで、受信信号を構成する全ての到来波(不要信号)にヌルを向けることができるようになる。
また、式(4)〜式(6)に基づいて、任意の角度θに対してヌルを向けるウェイトwθは、以下の式(7)のように表すことができる。また、式(7)のRθは、以下の式(8)のように求めることができる。式(8)に示すRθは、受信信号の理論相関行列である。式(7)、式(8)を用いて任意の方向θに対してヌルを向けるウェイトwθを決定することができる。すなわち、式(7)、式(8)を用いて、任意の不要信号Noiの到来方向に対してヌルを向けるウェイト(ウェイトwθ)を決定することができる。
なお、デジタル信号x(k)の到来方向を推定する方法として、例えばMUSIC(Multiple Signal Classification)、ESPRIT(Estimation of Signal Parameters via Rotational Invariance Techniques)等の到来方向推定手法がある。これらのいずれか又は複数を採用してデジタル信号x(k)の到来方向を推定することができる。このため、事前信号、すなわち、当該事前信号を構成する不要信号Noiを上記の式(2)におけるx(k)とした場合、上記のような到来方向推定手法により、不要信号Noiの到来方向を推定することができる。推定部13bは、事前信号の到来方向を不要信号Noiの到来方向とみなし、上記のような到来方向推定手法を採用した演算により不要信号Noiの到来方向を推定する。
本実施例では、推定部13bは、事前信号の到来方向を基準とした到来方向の候補を複数設定し、複数の候補のうち一つの候補に対応する到来方向に対してヌルを向けるウェイトを設定した場合に得られる信号の出力を複数の候補の各々について特定し、特定された出力の大小関係に基づいて、不要信号Noiの到来方向を推定する。
まず、以下の式(9)、式(10)のようなシステムモデルが設定される。式(9)におけるθi(k)は未知であるとする。一方、θi(k−1)は、1サンプリング時間前に推定された不要信号Noiの到来方向であり、既知であるとする。Δθ(K)は、1サンプリング時間前に到来方向θi(k−1)が推定されたタイミングと次の周期のタイミング(到来方向θi(k)から不要信号Noiが到来するタイミング)との間における不要信号Noiの到来方向の変化量を示す。このように、式(9)は、推定された「直前の不要信号Noiの到来方向」に不要信号Noiの到来方向の変化量を加算することで、最新の不要信号Noiの到来方向を求めることを示す式である。式(10)は、式(1)と同様の式である。
不要信号Noiの到来方向の変化量は、発信源P2とセンサ素子A1,A2,…,AMとの相対位置関係の変化量に応じる。しかしながら、1サンプリング時間での変化量(Δθ(K))は、経験的に非常に小さい。すなわち、不要信号Noiの到来方向θi(k)は、1サンプリング時間前の不要信号Noiの到来方向(θi(k−1))に近似する到来方向になると推定される。そこで、1サンプリング時間前の不要信号Noiの到来方向(θi(k−1))を基準として、これに近似する到来方向の候補を複数設定し、この複数の候補に基づいて不要信号Noiの到来方向θi(k)を推定することができる。言い換えれば、事前信号を用いて推定された不要信号Noiの到来方向を1サンプリング時間前の不要信号Noiの到来方向(θi(k−1))とすることで、事前信号の受信タイミング以降の不要信号Noiの到来方向(θi(k))を推定することができる。また、このように推定された不要信号Noiの到来方向(θi(k))を1サンプリング時間前の不要信号Noiの到来方向(θi(k−1))として、さらにそれ以降の不要信号Noiの到来方向(θi(k))を推定することができる。このようにして推定された不要信号Noiの到来方向(θi(k))にヌルを向けるウェイトwiを設定することで、式(10)を用いて不要信号Noiが除去された信号を得ることができる。
図7は、事前信号の到来方向に対応する角度を基準として設定された到来方向の複数の候補に対応する角度の一例を示す図である。推定部13bは、推定された1サンプリング時間前の不要信号Noiの到来方向(θi(k−1))を基準として、複数の到来方向の候補を設定する。図7に示す例の場合、5つの到来方向の候補θ1,θ2,θ3,θ4,θ5が設定されている。候補θ1,θ2,θ3,θ4,θ5は、それぞれ基準軸Fに対する角度が異なる。候補θ3は、推定された1サンプリング時間前の不要信号Noiの到来方向(θi(k−1))と同一である。候補θ1は、候補θ3と比して基準軸Fに対する角度が所定の一方側(例えばプラス側)に所定角度だけ傾いている方向である。候補θ5は、候補θ3と比して基準軸Fに対する角度が他方側(例えばマイナス側)に所定角度だけ傾いている方向である。候補θ2,θ4はそれぞれ、候補θ1,θ5に比して候補θ3に対する傾きが半分である方向である。すなわち、5つの到来方向の候補θ1,θ2,θ3,θ4,θ5は、候補が設定される角度の範囲Zにおいて、隣接する候補に対する角度の差が等しい候補である。図7に示す例では、5つの到来方向の候補θ1,θ2,θ3,θ4,θ5が示されているが、これは候補の数の一例であってこれに限られるものでない。推定部13bは、任意の数の候補を設定することができる。
上記のような到来方向の複数の候補の各々を粒子とみなし、粒子の数をPで表した場合、P個だけ設定された粒子のうち第p番目の粒子に対応する到来方向(角度)を示す状態方程式は、以下の式(11)のように表すことができる。また、第p番目の粒子によるアレイ出力を算出するための出力方程式は、以下の式(12)のように表すことができる。式(12)におけるウェイトwpは、式(7)及び式(8)において、以下の式(13)のように到来方向(θ)を定義したものである。なお、式(11)においてΔに上付き文字として「(p)」が付され、下付き文字として「k」が付された関数(以下、変化量関数とする)は、1サンプリング時間前に到来方向θi(k−1)が推定されたタイミングと次の周期のタイミング(到来方向θi(k)から不要信号Noiが到来するタイミング)との間における不要信号Noiの到来方向の変化量の候補として機能する関数である。変化量関数には、任意の値(例えばランダム値)を与えることができる。具体的には、変化量関数には、例えば図7における1サンプリング時間前の不要信号Noiの到来方向(θi(k−1))に対する各候補の角度の差に対応する値が設定される。式(11)〜式(13)を用いて、推定部13bは複数の候補(例えばP個の粒子)を設定するサンプリング処理を行う。
式(12)を用いてP個の粒子の各々のアレイ出力を算出することで、各粒子のアレイ出力の大小関係を特定することができる。式(12)を用いて算出されるサンプリング処理で設定されたP個の粒子の各々のアレイ出力のうち、より出力が小さいアレイ出力が尤もらしいアレイ出力となる。なぜなら、不要信号Noiの到来方向に対してヌルを向けるウェイトが設定されたアレイ出力は、不要信号Noiの到来方向に対してヌルを向けていないアレイ出力よりも出力が小さくなるからである(図5参照)。このため、式(12)におけるウェイトwpが不要信号Noiの到来方向に対してヌルを向けるウェイトであるならば、出力がより小さくなる。よって、本実施例では、より出力が小さいアレイ出力を、不要信号Noiの到来方向により近い方向に対してヌルが向いていると推定される場合のアレイ出力(尤もらしいアレイ出力)として扱う。より具体的には、推定部13bは、設定されたP個の粒子の各々に対する重みを以下の式(14)のように設定する。式(14)においてyに上付き文字として「(p)」が付され、下付き文字として「k」が付された関数は、式(12)を用いて算出される各粒子のアレイ出力である。式(14)においてπに上付き文字として「(p)」が付され、下付き文字として「k」が付された関数を各粒子の重みとすると、係る重みが取り得る値の範囲は、式(15)に示すように、0以上1以下である。式(14)を解くことで求められる重みの値が大きい(1に近い)ほど、この重みの値が算出されたアレイ出力が、不要信号Noiの到来方向に対応する粒子のアレイ出力として尤もらしいアレイ出力になる。推定部13bは、以下の式(16)を用いて、P個の粒子を再設定するリサンプリング処理を行う。例えば、図7に示す場合、P=5である。ここで、候補θ1の重みの値が0.8であり、候補θ2の重みの値が0.2であり、他の候補θ3,θ4,θ5の重みの値が0であった場合、推定部13bは、リサンプリング処理により、候補θ1を4個(0.8×5)、候補θ2を1個(0.2×5)再設定し、他の候補θ3,θ4,θ5を全て棄却する。推定部13bは、以下の式(17)を用いて、リサンプリング処理により再設定されたP個の粒子の算術平均を算出することにより、不要信号Noiの到来方向(θi(k))を決定する。推定部13bは、この決定された不要信号Noiの到来方向(θi(k))を、1サンプリング時間前の不要信号Noiの到来方向(θi(k−1))を基準として推定された不要信号Noiの到来方向とする。不要信号Noiの発信源P2が複数存する場合、推定部13bは、各発信源P2の各々の事前信号の到来方向について個別に式(9)〜式(17)を用いた不要信号Noiの到来方向の推定を行う。
上記の式(11)〜式(16)を用いた手順の呼称は、「Sampling Importance Resampling」である。係る手順は、推定された不要信号Noiの発信源P2の各々に対応する到来方向に対して個別に行われる。なお、不要信号Noiの到来方向が1つである場合、到来方向の推定対称の状態が1〜2次元になるため、当該到来方向が複数である場合に比して、粒子数(P)はより少なくて済む。また、上記の式(9)、式(10)及び式(11)〜式(17)を用いた手法は粒子フィルタに基づいた手法である。ただし、既知の粒子フィルタは、アレイ出力信号y(k)が既知である(推定によらず計測可能である)ことが前提である。既知の粒子フィルタは、現在時刻(k)における推定値の候補を粒子として設定し、それぞれの候補を出力方程式に代入して推定値を算出することで、既知の計測値(計測されたアレイ出力信号y(k))をあえて推定する。そして、計測値と推定値との誤差を求め、誤差が小さい推定値に対応する候補を尤もらしい候補とする。しかしながら、本実施例の場合、不要信号Noiの到来方向を推定しなければならないことから、推定前のアレイ出力信号y(k)は未知である。言い換えれば、本実施例において、不要信号Noiの到来方向の推定前の計測値は存在しない。そこで、計測値と推定値との誤差でなく、各候補のアレイ出力の絶対値がより小さくなるような候補ほどより尤もらしい候補であるとみなす。候補として設定された到来方向が真に不要信号Noiが到来している方向に近いほど的確に不要信号Noiが除去されたアレイ出力になることから、その候補のアレイ出力はより小さくなるためである。本実施例のように、到来方向に基づいて候補(粒子)を設定することで、既知の粒子フィルタに比してより少ない粒子数でも十分な精度が得られる。
なお、上記のリサンプリング処理に代えて、複数の候補のうち出力が最小になる場合のウェイトに対応する到来方向の候補を不要信号Noiの到来方向とし、このウェイトを不要信号除去ウェイトとして決定するようにしてもよい。例えば、サンプリング処理において重みが最大である候補に対応する到来方向を不要信号Noiの到来方向とし、この到来方向に対してヌルを向けるウェイトを不要信号除去ウェイトとして決定するようにしてもよい。
上記では、不要信号Noiの方向ベクトルが不要信号Noiの到来方向を示す場合について説明したが、これまで説明した仕組みを、広帯域不要信号に拡張することもできる。以下、不要信号Noiの方向ベクトルが、不要信号Noiの到来方向と、不要信号Noiの周波数に関する情報とを示す場合において用いられる仕組みについて説明する。
これまでの式で用いられた、方向ベクトル(到来方向)を示す関数(a(θ))を、不要信号Noiの到来方向を示す角度(θ)と不要信号Noiの周波数(f)の両方を明確に示す関数(a(θ,f))に置換する。これにより、不要信号の前記到来方向を示す方向ベクトルは、不要信号の周波数に関する情報を含む。ここで、センサアレイ2におけるセンサ素子A1,A2,…,AMの配置が直線状であり、直線状に存するセンサ素子A1,A2,…,AM同士の間隔が等間隔(d)である場合の方向ベクトルは、以下の式(18)のように表すことができる。式(18)におけるjは、虚数単位を示す。式(18)におけるcは、信号(媒体)の速度である。例えば、センサアレイ2により受信される信号が電波である場合、cは光速(約3.0×108m/s)に等しい。なお、式(18)では、センサアレイ2を構成する全てのセンサ素子A1,A2,…,AMが直線状である場合を考慮しているが、これは一例であってこれに限られるものでない。式(18)は、センサアレイ2を構成する一部のセンサ素子A1,A2,…,AMであって、2以上のセンサ素子に対して適用可能である。当該一部のセンサ素子の数をQとした場合、式(18)のMはQに置換される。なお、式(18)は、信号の発信源(例えば発信源P1,P2等)からセンサ素子A1,A2,…,AMの各々への信号の到来方向及び到来タイミングが厳密には個別に異なることに基づいて設定されている。これは、センサ素子A1,A2,…,AMが直線状(又は面状)等の配置で設けられることにより、センサアレイ2を構成するセンサ素子A1,A2,…,AMの各々が設けられる位置がそれぞれ異なることによる。
図8は、不要信号Noiの周波数帯の下限及び上限を示す図である。周波数が変われば指向性パターンも変化する。そこで、式(4)、式(5)、式(6)を以下の式(19)、式(20)、式(21)のように拡張することで、不要信号Noiの到来方向に加えて、不要信号Noiの周波数帯に対してより確実にヌルを向けるウェイト(ウェイトwθ)を設定することができる。式(21)におけるBL,BUはそれぞれ、不要信号Noiの周波数帯の下限と上限に対応する。
決定部13cは、推定部13bにより推定された不要信号Noiの方向ベクトルをa(θ)として式(8)にあてはめて式(7)を解くことにより、推定された周波数(f)の不要信号Noiの到来方向に対してヌルを向ける不要信号除去ウェイト(ウェイトwi)を決定することができる。また、不要信号Noiの発信源(図1に示す発信源P2)が複数ある場合等、不要信号Noiの到来方向が複数である場合、決定部13cは、上記の式(6)を用いて、複数の方向ベクトルに対応するAを設定し、式(5)及び式(4)を用いてウェイトwを算出することで、全ての不要信号Noiの到来方向に対してヌルを向けるウェイト(ウェイトw)を決定することができる。また、決定部13cは、上記の式(19)〜式(21)を用いてウェイトwθを算出することで、不要信号Noiの到来方向に加えて、不要信号Noiの周波数帯に対してより確実にヌルを向けるウェイト(ウェイトwθ)を決定することができる。
除去部13dは、受信信号(デジタル信号x(k))に不要信号除去ウェイト(ウェイトwi)を適用して不要信号Noiが除去された信号(アレイ出力信号y(k))を得る。
図9は、不要信号Noiの到来方向θiの推定に関する処理の流れの一例を示すフローチャートである。図9を参照した説明では、検出対象の信号Sigの受信時間帯TSよりも前のタイミングT2からセンサアレイ2による信号の受信が開始されているものとする。まず、推定部13bは入力部11から入力された最初の受信信号を受信信号xとし、この受信信号xを全て不要信号Noiであるとみなす(ステップS11)。ステップS11における受信信号xは、デジタル信号x(k)の形式で表した場合、k=1であると考えることができる。推定部13bは、ステップS11の処理における最初の受信信号xの到来方向θiを推定する(ステップS12)。決定部13cは、推定された到来方向θiに対してヌルを向ける不要信号除去ウェイト(ウェイトwi)を決定する(ステップS13)。除去部13dは、受信信号xに不要信号除去ウェイト(ウェイトwi)を適用して不要信号Noiが除去された信号(アレイ出力信号y)を得る(ステップS14)。
推定部13bは、ステップS14の処理における受信信号xの次の周期の受信信号を受信信号xとする(ステップS15)。ステップS15における受信信号xは、デジタル信号x(k)の形式で表した場合、k≧2であると考えることができる。推定部13bは、ステップS12で推定された到来方向θiを基準とした到来方向の複数の候補θp(図7参照)を設定する(ステップS16)。推定部13bは、ステップS16の処理で設定された複数の候補θpのいずれか一つが不要信号Noiの到来方向であるとしてヌルを向けた場合のアレイ出力信号(yp)を複数の候補θpの各々に対して個別に算出する(ステップS17)。推定部13bは、ステップS17の処理で算出されたアレイ出力信号(yp)の大小関係に基づいて、不要信号Noiの到来方向を推定し、推定された到来方向を到来方向θiとする(ステップS18)。
ステップS13〜ステップS18の処理は、受信信号の入力が継続している限り繰り返される(ステップS19;No)。受信信号の入力が終了すると(ステップS19;Yes)、演算部13は、処理を終了する。信号処理装置1による不要信号Noiの除去の終了タイミングは、任意に定められるものである。例えば検出対象の信号Sigを所定回数得ることができた場合に終了するようにしてもよい。
図9に示すフローチャートは、一つの発信源P2からの不要信号Noiの到来方向θiの推定に関する処理の流れの一例を示すものであり、発信源P2が複数である場合、ステップS12〜ステップS19の処理が発信源P2の数に応じて並行処理(又は1サンプリング時間内の逐次処理)で行われる。
以上のように、本実施例によれば、検出対象の信号Sigがセンサアレイ2に到達する所定のタイミングよりも前からセンサアレイ2により受信されている事前信号に関して、この信号に検出対象の信号Sigは含まれていないとして扱う。すなわち、事前信号は全て不要信号Noiであるとする。この事前信号の到来方向に基づいて不要信号Noiの到来方向を推定することで、容易に不要信号Noiの到来方向に対してヌルを向ける不要信号除去ウェイトを決定することができ、受信信号に不要信号除去ウェイトを適用して不要信号Noiが除去された信号を得ることができる。このように、本実施例によれば、より確実に不要信号Noiを除去することができる。
また、事前信号に基づいて一度推定された不要信号Noiの到来方向を手掛かりとして、当該推定タイミング以降にセンサアレイ2により受信される不要信号Noiの到来方向 を推定することができる。すなわち、当該推定タイミング以降に受信信号に検出対象の信号Sigが混在したとしても、事前信号の到来方向を基準として不要信号Noiの到来方向を推定することができる。よって、このように推定された不要信号Noiの到来方向に対してヌルを向ける不要信号除去ウェイトを決定し、受信信号に不要信号除去ウェイトを適用して不要信号Noiが除去された信号を得ることで、検出対象の信号Sigが混在する受信信号から不要信号Noiを除去することができる。
また、信号の出力が最小になる場合のウェイトに対応する到来方向の候補が不要信号Noiの到来方向としてより尤もらしいと推定される。このため、係る到来方向の候補を不要信号Noiの到来方向とし、当該到来方向に対してヌルを向ける不要信号除去ウェイトを用いることで、受信信号に不要信号除去ウェイトを適用して不要信号Noiが除去された信号を得ることができる。
また、推定された到来方向からの不要信号Noiを受信信号から除去することができる。また、不要信号除去ウェイトにより不要信号Noiの到来方向と周波数又は周波数帯とを指定して不要信号Noiを受信信号から除去することができる。
上記の実施例はあくまで一例であり、その具体的内容について適宜変更可能である。例えば、上記の実施例では、ソフトウェア・プログラムを利用した処理により信号要請処理部13a、推定部13b、決定部13c及び除去部13d等の機能を実現しているが、これらの機能の一部又は全部を専用のハードウェアによって実現してもよい。
センサ素子A1,A2,…,AMが構成するものは、アレイアンテナに限られない。例えば、ハイドロフォンアレイ、マイクロフォンアレイ等であってもよい。センサアレイは、そのセンサアレイを構成するセンサ素子に応じた信号を受信する。
なお、上記の実施例では、受信信号がデジタル信号であるが、アナログ信号でもよい。例えば、信号処理装置がA/D変換機3に対応する機能を備えていてもよい。また、アナログ信号を直接処理することができるハードウェアを信号処理装置に設けて、本発明による信号処理方法を実施するようにしてもよい。