JP6287740B2 - エンジンの燃料制御装置 - Google Patents

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本発明は、ピストン冠面に、シリンダヘッドの底面から離間する方向に凹むキャビティが形成されているとともに、キャビティ内に燃料を噴射可能な噴射装置を備えたエンジンの燃料制御装置に関する。
従来から、気筒内における燃焼形態をより適切な形態にするための種々の検討が行われている。その一つとして、気筒内に噴射された燃料の着火遅れ(燃焼が噴射されてから着火するまでの時間)を推定し、この着火遅れに基づいて噴射系を制御する技術が知られている。
例えば、特許文献1には、吸気量、EGRガス量、燃料噴射量、吸気温度・圧力等から着火遅れを予測し、この着火遅れと予め設定された基準着火遅れとに基づいて、噴射時期を制御するよう構成された装置が開示されている。
特開2012−87743号公報
上記特許文献1に開示されている着火遅れの推定手順では、着火遅れが精度よく算出できないという問題がある。これは、着火遅れに寄与するのが局所的な当量比(燃料と空気の混合割合)であるのに対して、特許文献1の手順では、この局所的な当量比が考慮されておらず、燃料と空気の混合割合として気筒内の平均的な混合割合が用いられているためと考えられる。
上記より、気筒内の局所的な当量比を精度よく演算すれば、着火遅れを精度よく推定することができると考えられる。しかしながら、気筒内における空気と燃料の挙動は非常に複雑であり、これらの混合状態すなわち局所的な当量比を精度よく算出すること、特に、エンジンの稼働中においてそのサイクル毎に局所的な当量比を精度よく算出することは困難である。
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、簡単に、かつ、精度よく、着火遅れを推定することができ、これによってエンジン性能を良好にすることのできるエンジンの燃料制御装置を提供することを目的とする。
上記問題について鋭意研究の結果、本願発明者らは、主として拡散燃焼が実施される場合において気筒内に局所的に当量比が大きい混合気が存在すれば、着火遅れは、この局所的な当量比によってあまり変化せず、気筒内の温度と気筒内の圧力と気筒に吸入される吸気の酸素濃度とによってほぼ決定されることを突き止めた。
本発明は、この知見に基づいてなされたものであり、ピストン冠面にシリンダヘッドの底面から離間する方向に凹むキャビティが形成されたエンジンの燃料制御装置において、エンジンの気筒内に燃料を噴射可能な噴射装置と、エンジンの少なくとも一部の特定の運転領域に設定された特定領域において、気筒内で拡散燃焼が生じるように、主噴射と、当該主噴射よりも前のタイミングで当該主噴射の噴射量よりも少ない量の燃料を気筒内に噴射する前段噴射とを上記噴射装置に実施させる噴射制御手段とを備え、上記噴射制御手段は、上記特定領域において、上記主噴射の開始後、当該主噴射により噴射された燃料が着火するまでの時間である着火遅れを推定する着火遅れ推定手段と、上記主噴射により噴射された燃料の着火時期の目標値である目標着火時期を決定する目標着火時期決定手段と、推定された上記着火遅れおよび決定された上記目標着火時期に基づいて、上記特定領域における、上記前段噴射の噴射量と、上記主噴射の噴射時期の少なくとも一つを補正する補正手段とを含むとともに、上記特定領域において、上記前段噴射を、当該前段噴射により噴射された燃料が上記キャビティ内に収まるタイミングで、かつ、当該前段噴射の実施後気筒内で燃焼が開始されるまでの間における気筒内の局所当量比が2.0以上となるように、実施し、上記着火遅れ推定手段は、気筒内の局所当量比に関わる噴射系の変数を用いずに、気筒内で燃焼が生じなかったとしたときの圧縮上死点での気筒内の圧力をPTDC、気筒内で燃焼が生じなかったとしたときの圧縮上死点での気筒内の温度をTTDC、エンジン回転数をNE、気筒内の酸素濃度をCCLDとし、A、B、C、D、Eを定数として、着火遅れτ_mを下式(1)を用いて推定することを特徴とするものである(請求項1)。
τ_m=A×PTDC ×exp(1/TTDC×NE×CCLD ‥‥(1)
本発明によれば、着火遅れを簡単、かつ、精度よく推定することができる。そして、この推定した着火遅れに基づいて、上記前段噴射の噴射量と、上記主噴射の噴射時期の少なくとも一つを補正することで、主噴射された燃料の着火時期をより適切な時期に制御することができ、燃焼騒音の増大を抑制しつつエンジントルクを確保することができる。
具体的には、本発明では、燃料が上記キャビティ内に収まるように前段噴射が実施されるため、キャビティ内に当量比の大きい混合気すなわち局所当量比が大きい混合気を生成することができる。そのため、この局所当量比、より正確には、局所当量比に影響する噴射系の各種変数(噴射量、噴射時期、噴射圧等)を用いることなく、気筒内の温度と、気筒内の圧力と、気筒に吸入される吸気の酸素濃度とに基づいて着火遅れを推定することができ、簡単にかつ精度よく着火遅れを推定することができる。そして、この着火遅れに基づいて、前段噴射の噴射量と主噴射の噴射時期との少なくとも一方を補正しているため、前段噴射の噴射量の補正によって主噴射された燃料が燃焼するまでの気筒内の雰囲気温度、圧力を適正にする、あるいは、主噴射の噴射時期の補正によって、主噴射された燃料をより適正なタイミングで着火させることができ、エンジン性能をより適正にすることができる。
特に、本願発明者らは、気筒内の局所当量比が2.0以上の場合には、この局所当量比が着火遅れに与える影響が小さいことを突き止めた。従って、上記のように、気筒内の局所当量比を2.0以上とすれば、より精度よく着火遅れを推定することができる。
しかも、本発明では、圧縮上死点での気筒内の圧力をPTDC、圧縮上死点での気筒内の温度をTTDC、エンジン回転数をNE、気筒内の酸素濃度をCCLDとし、A、B、C、D、Eを定数として、着火遅れτ_mを式(1)を用いて推定している
そのため、着火遅れを容易にかつ精度よく推定することができる。特に、エンジン回転数の差に伴う気筒内のガス流動の差や気筒内から外部へのガスの漏えい量の差等による着火遅れの差を考慮して精度よく着火遅れを推定することができる。
本発明の一実施形態にかかるディーゼルエンジンシステムの全体構成を示す図である。 エンジン本体の一部を拡大して示す断面図である。 ピストンの一部拡大断面図である。 ピストンの平面図である。 エンジンの制御系統を示すブロック図である。 燃焼モードの切り替え領域を示す図である。 (a)拡散燃焼モードの噴射パターンおよび熱発生率の例を示す図である。(b)拡散燃焼モードの噴射パターンおよび熱発生率の他の例を示す図である。(c)予混合燃焼モードの噴射パターンおよび熱発生率の例を示す図である。 パイロット噴射の様子を示した図である。 噴射系の制御の全体の流れを示したフローチャートである。 着火遅れを説明するための図である。 着火時期の補正量の算出手順を示したフローチャートである。 温度、圧力、局所当量比と着火遅れとの関係を示したグラフである。 着火遅れの推定値と実測値とを比較したグラフである。
(1)エンジンシステムの全体構成
図1は、本発明の一実施形態にかかるディーゼルエンジンシステムの全体構成を示す図である。本図に示されるディーゼルエンジンは、走行用の動力源として車両に搭載される4サイクルのディーゼルエンジンである。具体的に、このディーゼルエンジンは、複数の気筒2を有し軽油を主成分とする燃料の供給を受けて駆動されるエンジン本体1と、エンジン本体1に燃焼用の空気を導入するための吸気通路30と、エンジン本体1で生成された排ガス(燃焼ガス)を排出するための排気通路40と、排気通路40を通過する排ガスの一部を吸気通路30に還流するためのEGR装置50と、排気通路40を通過する排ガスにより駆動されるターボ過給機60とを備えている。
吸気通路30には、上流側から順に、エアクリーナ31と、ターボ過給機60のコンプレッサ61と、スロットルバルブ36と、インタークーラ35と、サージタンク37とが設けられている。サージタンク37よりも下流側には、各気筒2とそれぞれ個別に連通する独立通路が設けられており、サージタンク37内のガスはこれら独立通路を通ってそれぞれ気筒2に分配される。
排気通路40には、上流側から順に、ターボ過給機60のタービン62と、排気浄化装置41とが設けられている。
ターボ過給機60は、タービン62が、排気通路40を流れる排ガスのエネルギーを受けて回転し、これに連動してコンプレッサ61が回転することにより、吸気通路30を流通する空気を圧縮(過給)する。
インタークーラ35は、コンプレッサ61により圧縮された空気を冷却するためのものである。
スロットルバルブ36は、吸気通路30を開閉するものである。ただし、本実施形態では、エンジンの運転中は基本的に全開もしくはこれに近い高開度に維持されており、エンジンの停止時等の必要時にのみ閉弁されて吸気通路30を遮断する。
排気浄化装置41は、排ガス中の有害成分を浄化するためのものである。本実施形態では、この排気浄化装置41には、排気ガス中のCOおよびHCを酸化する酸化触媒41aと、排気ガス中のスート(煤)を捕集するDPF41bとが含まれる。
EGR装置50は、排ガスを吸気側に還流するためのものである。本実施形態では、EGR装置50として、高圧側EGR装置(以下、HP_EGR装置という)51と、低圧側EGR装置(以下、LP_EGR装置という)と52とを備えている。
HP_EGR装置51は、排気通路40におけるタービン62よりも上流側の部分と、吸気通路30のうちインタークーラ35よりも下流側の部分とを接続するHP_EGR通路51aと、このHP_EGR通路51aを開閉するHP_EGRバルブ51bとを備えており、排気通路40に排出された比較的高圧の排ガス(以下、高圧EGRガスという場合がある)を吸気側に還流させる。
一方、LP_EGR装置52は、排気通路40におけるDPF41bよりも下流側の部分と、吸気通路30のうちエアクリーナ31とコンプレッサ61との間の部分とを接続するLP_EGR通路52aと、このLP_EGR通路52aを開閉するLP_EGRバルブ52bとを備えており、排気通路40に排出された比較的低圧の排ガス(以下、低圧EGRガスという場合がある)を吸気側に還流させる。LP_EGR通路52aのうちLP_EGRバルブ52bよりも上流側(排気通路40側)には、この通路52aを通過する低圧EGRガスを冷却するためのEGRクーラ52cが設けられている。
(2)エンジン本体の構成
図2は、エンジン本体1の一部を拡大して示す断面図である。この図2および先の図1に示すように、エンジン本体1は、上下方向に延びるシリンダ(気筒)2が内部に形成されたシリンダブロック3と、シリンダに往復動(上下動)可能に収容されたピストン4と、ピストン4の冠面4aと対向する側からシリンダの端面(上面)を覆うように設けられたシリンダヘッド5と、潤滑油を貯溜するためにシリンダブロック3の下側に配設されたオイルパン6とを有している。
ピストン4は、エンジン本体1の出力軸であるクランク軸7とコネクティングロッド8を介して連結されている。また、ピストン4の上方には燃焼室9が形成されており、この燃焼室9では、後述するインジェクタ20から噴射された燃料が空気と混合されつつ拡散燃焼する。そして、当該燃焼に伴う膨張エネルギーにより、ピストン4が往復運動するとともにクランク軸7が中心軸回りに回転するようになっている。
ここで、エンジン本体1の幾何学的圧縮比、つまり、ピストン4が下死点にあるときの燃焼室容積とピストン4が上死点にあるときの燃焼室容積との比は、12以上15以下(例えば14)に設定されている。この12以上15以下という幾何学的圧縮比は、ディーゼルエンジンとしてはかなり低い値である。これは、燃焼温度の抑制によるエミッション性能の向上や熱効率の向上を狙ってのことである。
シリンダヘッド5には、吸気通路30から供給される空気を燃焼室9に導入するための吸気ポート16と、燃焼室9で生成された排気ガスを排気通路40に導出するための排気ポート17と、吸気ポート16の燃焼室9側の開口を開閉する吸気弁18と、排気ポート17の燃焼室9側の開口を開閉する排気弁19とが設けられている。
また、シリンダヘッド5には、燃焼室9に燃料を噴射するインジェクタ(噴射装置)20が取り付けられている。このインジェクタ20は、そのピストン4側の先端部21aがキャビティ10の中心部を臨むような姿勢で取り付けられている。インジェクタ20は、燃料流路を介してコモンレール等の図外の蓄圧室と接続されている。蓄圧室内には、図外の燃料ポンプにより加圧された高圧の燃料が貯留されており、インジェクタ20は、この蓄圧室から燃料の供給を受けて、燃焼室9内に燃料を噴射する。燃料ポンプと蓄圧室との間には、蓄圧室内の圧力すなわちインジェクタ20から噴射される燃料の圧力である噴射圧を変更するための燃圧レギュレータ29(図5参照)が設けられている。
ピストン4の冠面4aには、その中心部を含む領域をシリンダヘッド5とは反対側(下方)に凹ませたキャビティ10が形成されている。このキャビティ10は、ピストン4が上死点まで上昇したときの燃焼室9の大部分を占める容積を有するように形成されている。
図3および図4は、燃焼室9周辺を拡大して示した拡大断面図および平面図である。これら図3および図4において、符号Fは、インジェクタ20から噴射された燃料の噴霧を示したものである。また、図4は、ピストン4が上死点にある状態を示したものである。
これら図に示すように、本実施形態では、インジェクタ20は、シリンダ2と同軸に(インジェクタ20の中心軸とシリンダ2の中心軸とが一致するように)取り付けられている。また、インジェクタ20として、先端部21aに複数の噴孔22が形成された多噴孔式のインジェクタが用いられている。各噴孔22は、周方向にほぼ等間隔に並ぶように配設されており、このような噴孔22を通過することにより、インジェクタ20からは燃焼室9内に燃料が平面視で放射状に噴射される。
また、図3および図4に示すように、キャビティ10は、いわゆるリエントラント型のキャビティとされている。すなわち、キャビティ10を形成する壁面は、ほぼ山型の中央隆起部11と、中央隆起部11よりもピストン4の径方向外側に形成された平面視円形の周辺凹部12と、周辺凹部12とピストン4の冠面4aとの間に形成された平面視円形のリップ部13とを有している。
中央隆起部11は、キャビティ10の中心側ほどインジェクタ20に近づくように隆起しており、その隆起の頂部がインジェクタ20の先端部21aの直下方に位置するように形成されている。周辺凹部12は、中央隆起部11と連続し、断面視でピストン4の径方向外側に凹入する円弧状をなすように形成されている。リップ部13は、周辺凹部12と連続し、断面視でピストン4の径方向内側に凸となる円弧状をなすように形成されている。
上記のような構成のキャビティ10は、全体として、ピストン4の冠面4aに近づくほど開口面積が小さくなる上窄まり状の断面形状を有する。このようなリエントラント型のキャビティ10は、特にエンジンの中負荷以上の運転領域において比較的多くの燃料が噴射されたときに、その燃料の噴霧Fを、主に周辺凹部12および中央隆起部11に沿って径方向外側から内側(キャビティ10の中心側)に反転させる機能を発揮するので、燃料のミキシングを促進するのに有利である。
(3)制御系統
(3−1)システム構成
図5は、エンジンの制御系統を示すブロック図である。本図に示すように、当実施形態のディーゼルエンジンは、PCM(パワートレイン・コントロール・モジュール)70によって統括的に制御される。PCM70は、周知のとおり、CPU、ROM、RAM等から構成されるマイクロプロセッサである。
PCM70は、エンジンの運転状態を検出するための各種センサと電気的に接続されている。
例えば、シリンダブロック3には、クランク軸7の回転角度(クランク角)および回転速度を検出するクランク角センサSN1が設けられている。このクランク角センサSN1は、クランク軸7と一体に回転する図略のクランクプレートの回転に応じてパルス信号を出力するものであり、このパルス信号に基づいて、クランク軸7の回転角度および回転速度すなわちエンジン回転数が特定されるようになっている。
吸気通路30のうちエアクリーナ31付近(エアクリーナ31と、LP_EGR通路52aの接続部分との間の部分)には、エアクリーナ31を通過して各気筒2に吸入される空気量(新気量)を検出するエアフローセンサSN2が設けられている。
サージタンク37には、サージタンク37内のガスすなわち各気筒2に吸入されるガスの温度を検出するインマニ温度センサSN3が設けられている。
吸気通路30のうちインタークーラ35よりも下流側の部分には、この部分を通過する空気ひいては気筒2に吸入される吸気の圧力を検出するインマニ圧力センサSN4が設けられている。
エンジン本体1には、エンジン本体を冷却する冷却水の温度を検出するエンジン水温センサSN5が設けられている。
排気通路40のうち、LP_EGR通路52aの接続部分よりも下流側の部分には、排ガス中の酸素濃度を検出するリニアO2センサSN6が設けられている。
インジェクタ20に燃料を供給する蓄圧室には、この蓄圧室内の圧力すなわちインジェクタ20の噴射圧を検出する燃圧センサSN7が設けられている。
また、車両には、運転者により操作される図外のアクセルペダルの開度(アクセル開度)を検出するアクセル開度センサSN8が設けられている。
PCM70は、上記各種センサからの入力信号に基づいて種々の判定や演算等を実行しつつ、エンジンの各部を制御する。すなわち、PCM70は、インジェクタ20、スロットルバルブ36、燃圧レギュレータ、HP_EGRバルブ51b、LP_EGRバルブ51c等の各部と電気的に接続されており、上記演算の結果等に基づいて、これらの機器にそれぞれ駆動用の制御信号を出力する。
(3−2)吸気系の制御
本実施形態におけるPCM70による吸気系の制御の流れを簡単に説明する。
PCM70は、アクセル開度(アクセル開度センサSN8の検出値)に基づいてエンジントルクの目標値である目標トルクを決定し、この目標トルクとエンジン回転数(クランク角センサSN1の検出値により特定される)とに基づいてインジェクタ20から燃焼室9(気筒2)内に噴射する燃料量の総量である要求トータル噴射量を決定する。例えば、PCM70は、予め設定され記憶しているアクセル開度と目標トルクとのマップから、また、目標トルクとエンジン回転数と要求トータル噴射量とのマップから、それぞれアクセル開度等に応じた値を抽出することで上記各値を決定する。
そして、PCM70は、要求トータル噴射量とエンジン回転数とに基づいて、気筒2に吸入されるガス中の酸素濃度の目標値である目標吸気酸素濃度、気筒2に吸入されるガス温度の目標値である目標吸気温度、EGR制御モード(LP_EGR51を作動させるか、HP_EGR52を作動させるか)を決定するとともに、これら決定した内容から、気筒2に吸入されるガスの圧力である過給圧、HP_EGR51によって吸気通路30に還流させる排ガス量である高圧EGRガス量、LP_EGR52によって吸気通路30に還流させる排ガス量である低圧EGRガス量、を決定し、この過給圧、各EGRガス量が実現されるように、スロットルバルブ36、HP_EGRバルブ51b、LP_EGRバルブ51cを制御する。
(3−3)噴射系の制御
本実施形態におけるPCM70による噴射系の制御について次に説明する。
(3−3−1)燃焼モードおよび噴射パターン
図6は、エンジンの運転状態に応じた燃焼モードを示す図である。この図6に示すように、本実施形態では、運転領域(主としてエンジン回転数とエンジン負荷すなわち要求トータル噴射量とで決定される運転領域)に応じて、燃焼モードを拡散燃焼モードと予混合燃焼モードとの2つのモードとを切り替える。
拡散燃焼モードは、圧縮上死点付近(ピストン4が圧縮上死点付近にあるとき)において、燃料を噴射しながら燃料と空気の混合気を着火させていく燃焼モードである。
予混合燃焼モードは、燃焼室9内で燃料と空気とを予め混合しておき、圧縮上死点付近において、この混合気を着火させる燃焼モードである。
予混合燃焼モードでは、燃料と空気とが予め混合された後に燃焼が開始するため燃料を効率よく燃焼させることができ、燃費性能の向上および煤の発生の抑制を図ることができる。ただし、この予混合燃焼モードでは、燃焼が開始するまでの比較的短時間の間に燃料と空気とを十分に混合させる必要があるため、噴射量が少ないすなわちエンジン負荷が比較的低い、また、エンジン回転数が比較的低い領域でのみ実現可能である。そこで、本実施形態では、エンジン回転数が低くエンジン負荷が小さい低負荷低回転数領域A1を、予混合燃焼モードを実施する予混合燃焼領域に設定し、残余の領域A2を、拡散燃焼モードを実施する拡散燃焼領域に設定している。
各燃焼モードを実現するための噴射パターンおよび各燃焼モードにおける熱発生率の例を図7(a)、(b)、(c)に示す。図7(a)、(b)は、それぞれ拡散燃焼モードの例を、図7(c)は、予混合燃焼モードの例を示したものである。
図7(a)に示すように、拡散燃焼モードでは、圧縮上死点付近において、エンジントルクを発生させるための主たる燃料が噴射され、この燃料の噴射とともに混合気が燃焼していく。
本実施形態では、拡散燃焼領域A2のうちエンジン回転数が高くエンジン負荷が高い高回転高負荷領域A2_c(図6参照)を除く領域すべてにおいて、空気利用率を向上させるため、および、上記主たる燃料の着火性を高めるために、この主たる燃料の噴射の前に燃焼室9内に燃料を噴射する。すなわち、本実施形態では、拡散燃焼領域A2のうち高回転高負荷領域A2_cを除く特定領域では、圧縮上死点付近においてエンジントルクを生成するための燃料を燃焼室9内に噴射するメイン噴射(主噴射)Qmと、この主噴射の前のタイミングで燃焼室9内にメイン噴射の噴射量よりも少ない量の燃料を噴射する前段噴射とを実施する。なお、高回転後負荷領域A2_cではメイン噴射のみを実施する。また、上記特定領域においては、メイン噴射Qmの後に、メイン噴射Qmよりも少ない量の燃料を噴射するアフター噴射を実施する場合がある。
また、本実施形態では、上記特定領域のうち比較的エンジン負荷の低い第1領域A2_a(図6参照)では、図7(a)に示すように、前段噴射として2回の噴射(パイロット噴射Qpi、プレ噴射Qpr)を実施する。具体的には、比較的早期にパイロット噴射Qpiを実施し、その後、メイン噴射のタイミングに比較的近いタイミングでプレ噴射Qprを実施する。この噴射パターンでは、最初の噴射であるパイロット噴射Qpiの実施によって燃料と空気との予混合性を高めて空気利用率を高めることができる。そして、このパイロット噴射Qpiと次の噴射であるプレ噴射Qprとの実施によって、メイン噴射Qmされた燃料が燃焼する直前すなわち主燃焼が生じる直前に、熱発生量の小さい燃焼であるプレ燃焼を生じさせて、メイン噴射された燃料が燃焼しやすい状態にすることができる。
一方、上記特定領域のうちエンジン負荷が比較的高く第2領域A2_b(図6参照)では、パイロット噴射Qpiを実施するとこのパイロット噴射Qpiされた燃料が早期に着火するおそれがあるため、図7(b)に示すように、メイン噴射Qmのタイミングに比較的近いタイミングで実施されるプレ噴射Qprのみを実施する。
ここで、本実施形態では、この前段噴射(パイロット噴射Qpi+プレ噴射Qpr、または、プレ噴射Qpr)を、図7(a)、(b)の熱発生率の図に示すように、前段噴射された燃料により生成される燃焼と、メイン噴射された燃料により生成される燃焼(以下、メイン燃焼という場合がある)とが連続して生じ、前段噴射とメイン噴射とによって燃焼室9内に一連の燃焼が生じるように実施する。
また、前段噴射(パイロット噴射Qpi+プレ噴射Qpr、または、プレ噴射Qpr)を、噴射された燃料がキャビティ10内に収まるように実施する。
具体的には、第1領域A2_aでは、図8に示すように、パイロット噴射Qpiされた燃料噴霧Fがキャビティ10内に収まるタイミングで、パイロット噴射Qpiを実施する。このようにすることで、本実施形態では、パイロット噴射Qpiされた燃料と、パイロット噴射Qpi後であってピストン4がより上方に位置する状態で実施されるプレ噴射Qprの燃料とが、キャビティ10の外側に拡散することなくキャビティ10内に留まり、キャビティ10内に、少なくとも局所的に当量比(燃焼室内の燃料と空気の混合割合)が大きく燃料が濃い混合気が生成される。言い換えると、本実施形態では、キャビティ10内に局所的に当量比が高い混合気が生成されるタイミングで、前段噴射(パイロット噴射)を実施する。特に、本実施形態では、前段噴射によってキャビティ10内に局所当量比が2.0以上の比較的濃い(燃料割合が高い)混合気が生成されるタイミング(キャビティ10内の最大当量比が2.0以上となるタイミング)で前段噴射を実施する。
また、第2領域A2_bでは、プレ噴射Qprされた燃料噴霧Fがキャビティ10内に収まりキャビティ10内に局所当量比が2.0以上の比較的濃い混合気が生成されるタイミングで、プレ噴射Qprを実施する。
上記タイミングは、キャビティ10の大きさ(径)、インジェクタ20の噴孔22の向き、噴射圧によって異なり、さらに、噴射圧はエンジン回転数とエンジン負荷等によって変化するため、これらに合わせて適宜設定されるが、例えば、圧縮上死点前30°CAよりも遅角側の時期に設定される。
一方、図7(c)に示すように、予混合燃焼モードでは、圧縮行程中の比較的早いタイミングで燃焼室9内に燃料が噴射され、噴射終了後に、混合気が燃焼を開始する。この図7(c)では、圧縮行程中に3回に分けて燃料を噴射する場合について示したが、噴射回数はこれに限らない。
以上のように、本実施形態では、運転領域によって燃焼モードが切り替えられるよう構成されており、PCM70は、運転領域に応じて噴射パターンを変更する。すなわち、PCM70は、予混合燃焼領域A1では、圧縮上死点よりも比較的早いタイミングでインジェクタ20に燃料を噴射させ、拡散燃焼領域A2の特定領域(第1領域A2_aおよび第2領域A2_b)では、キャビティ10内の局所当量比が2.0以上となり且つメイン燃焼と連続して燃焼するように圧縮行程中において前段噴射を実施するとともに、圧縮上死点付近においてメイン噴射を実施する。
(3−3−2)拡散燃焼モードにおける噴射系の制御手順
次に、図9を用いながら、拡散燃焼モード実施時における噴射系の制御手順について説明する。以下では、第1領域A2_aにおける噴射系の制御手順、すなわち、前段噴射としてパイロット噴射Qpiとプレ噴射Qprとを実施する場合の噴射系の制御手順について説明する。なお、第2領域A2_bにおける制御手順は、以下に説明する手順(この(3−3−2)で説明する噴射系の制御手順および(3−3−3)で説明する噴射時期の補正手順)において、プレ噴射Qprに関するものを省略して、パイロット噴射Qpiをプレ噴射Qprと読みかえたものとなる。
PCM70は、機能的に、噴射系の制御を実施する噴射制御部71を含んでおり、この噴射制御部71が、噴射系の制御を実施する。
まず、ステップS1にて、噴射制御部71は、上記のように目標トルクとエンジン回転数とに基づいて決定された要求トータル噴射量と、エンジン回転数とに基づいて、噴射圧すなわち蓄圧室内の圧力の目標値である目標燃圧を決定する。例えば、噴射制御部71は、予め設定記憶されている要求トータル噴射量とエンジン回転数と目標燃圧のマップから、要求トータル噴射量等に対応する目標燃圧を抽出する。
また、ステップS2にて、噴射制御部71は、要求トータル噴射量とエンジン回転数とに基づいて、各噴射(パイロット噴射Qpi、プレ噴射Qpr、メイン噴射Qm)の噴射量を決定する。例えば、噴射制御部71は、予め設定記憶されている要求トータル噴射量とエンジン回転数とこれら各噴射量のマップから、要求トータル噴射量等に対応する各噴射量を抽出する。
次に、ステップS3にて、噴射制御部71は、要求トータル噴射量とエンジン回転数とに基づいて、噴射時期(噴射開始時期)の基準値である基準噴射時期を決定する。
具体的には、ステップS3にて、噴射制御部71は、要求トータル噴射量とエンジン回転数に応じて、メイン噴射の基本的な噴射時期である基本噴射時期を決定する。また、要求トータル噴射量とエンジン回転数に応じて、各噴射(パイロットQpi、プレQpr、メイン噴射Qm)の噴射時期(噴射開始時期)どうしの間の期間であるインターバルを決定する。
そして、ステップS4にて、噴射制御部71は、メイン噴射Qmの基本噴射時期とこのインターバルとに基づいて、パイロット噴射とプレ噴射の基本的な噴射時期である基本噴射時期をそれぞれ決定する。
次に、ステップS5にて、噴射制御部71は、噴射時期の補正量を算出する。この補正量の算出についての詳細は後述する。
次に、ステップS6にて、噴射制御部71は、ステップS5で算出した噴射時期の補正量に基づいて、ステップS3,S4で決定したメイン噴射、パイロット噴射、プレ噴射の各基本噴射時期を補正し、最終的なこれら噴射の噴射時期を決定する。
本実施形態では、ステップS5で算出した噴射時期の補正量によってメイン噴射、パイロット噴射、プレ噴射の各噴射時期を補正する。そのため、本実施形態では、各噴射の噴射時期のインターバルは、補正前後において一定に維持される。
ステップS6にて最終的な噴射時期が決定された後は、ステップS7にて、噴射制御部71は、この噴射時期となるように、また、各噴射の噴射量がステップS2で決定された値となるように、インジェクタ20を制御する(インジェクタ20に指令を出す)とともに、噴射圧がステップS1で決定された値となるように、燃圧レギュレータを制御する。
(3−3−3)噴射時期の補正手順
(i)概要
上記ステップS5で実施される噴射時期の補正について次に説明する。
本実施形態では、エンジン性能を適正にするために、燃焼室9で生じるメイン燃焼の着火時期が運転状態に応じた適正な値になるように噴射時期を補正する。
メイン燃焼の着火遅れとは、メイン噴射Qmが開始されてからこのメイン噴射された燃料が燃焼を開始するまでの時間である。
図10を用いて詳細に説明する。図10は、図7(a)と同様の図であって、拡散燃焼モードにおいて、パイロット噴射Qpi、プレ噴射Qpr、メイン噴射Qmを実施した場合の噴射パターンと熱発生率とを示したものである。図10の熱発生率において、破線は、メイン燃焼すなわち主としてメイン噴射Qmにより生じた熱発生率を示している。この図10において、メイン燃焼の着火遅れはτ_mで示される量であり、メイン噴射Qmの噴射開始時期ts_Qmから、メイン噴射Qmにより噴射された燃料が着火する時期すなわちメイン噴射Qmに係る熱発生率が立ち上がる時期t_Qbまでの時間である。
ここで、着火時期が所定の時期よりも遅角側になると適切なトルクを発生させることができない。また、一方で、着火時期が所定の時期よりも進角側になると燃焼室9内の圧力上昇率が急激となり、燃焼騒音が増大するという問題が生じる。
着火遅れτ_mは、燃焼室9(気筒2)内の状態、具体的には、温度、圧力、酸素濃度、ガスの流動状態等によって左右され、この温度、圧力等は、EGRガスや空気の遅れ、また、各種装置の機差ばらつき等によって変化する。そのため、上記ステップS3のように基本的な噴射時期は要求トータル噴射量すなわちエンジン負荷とエンジン回転数とに応じて予め設定されるが、この噴射時期で噴射を行っても、上記遅れ等により、着火遅れτ_mひいては着火時期をこれら要求トータル噴射量(エンジン負荷)とエンジン回転数とに応じた適正な量にすることができない場合がある。
そこで、本実施形態では、上記のように、着火遅れτ_mが、要求トータル噴射量(エンジン負荷)とエンジン回転数とに応じた適正な量となるように、噴射時期を補正し、これによって適正なエンジン性能を確保する。
すなわち、図11に示すように、噴射制御部71は、ステップS11にて、要求トータル噴射量(エンジン負荷)とエンジン回転数とに応じて主噴射された燃料の着火時期すなわちメイン燃焼の着火時期の目標値である目標着火時期を決定する。また、噴射制御部71は、ステップS12にて、着火遅れを推定する。そして、噴射制御部71は、ステップS13にて、決定された目標着火時期と推定された着火遅れとに基づいて、噴射時期の補正量を決定する。
具体的には、噴射制御部71は、図5に示すように、機能的に、着火遅れ推定部(着火遅れ推定手段)72と、目標着火時期決定部(着火時期決定手段)73と、噴射時期補正量算出部(補正手段)74とを含んでいる。
着火遅れ推定部72は、サイクル毎に着火遅れτ_mを推測する部分である。この着火遅れ推定部72は、サイクル毎に着火遅れτ_mを推定する。
目標着火時期決定部73は、要求トータル噴射量(エンジン負荷)とエンジン回転数とに応じて、目標着火時期を決定する部分である。目標着火時期決定部73は、例えば、予め設定され記憶している要求トータル噴射量(エンジン負荷)とエンジン回転数と、目標着火時期とのマップから要求トータル噴射量等に応じた値を抽出する。
噴射時期補正量算出部74は、着火遅れ推定部72が推定した着火遅れτ_mと、目標着火時期決定部73が決定した目標着火時期とに基づいて噴射時期の補正量を決定する。
噴射時期補正量算出部74は、目標着火時期から着火遅れτ_m分進角した時期が最終的なメインの噴射時期となるように噴射時期の補正量を算出する。具体的には、噴射時期補正量算出部74は、ステップS3で算出されたメイン噴射の基本噴射時期との差を、補正量として算出する。
このようにして噴射時期の補正量が算出された後は、上記のように、ステップS6にて、各噴射の噴射時期がこの補正量に基づいて補正される。具体的には、目標着火時期から着火遅れ分だけ進角した時期が、基本噴射時期よりも進角側の場合には、メイン噴射の最終的な噴射時期は、基本噴射時期から上記補正量分進角された時期、すなわち、目標着火時期から着火遅れ分だけ進角した時期とされる。また、パイロット噴射およびプレ噴射の最終的な噴射時期は、メイン噴射とのインターバルが一定に維持されるように補正される。すなわち、目標着火時期から着火遅れ分だけ進角した時期が、基本噴射時期よりも進角側の場合には、各基本噴射時期から上記補正量分進角された時期とされる。
(ii)着火遅れ推定手順
着火遅れ推定部72による着火遅れτ_mの推測手順について次に説明する。
着火遅れτは、以下の式(1)で示すいわゆるアレニウス型実験式で表すことができることが知られている。
τ=K1×φK2×PK3×exp(K4/T)・・・(1)
この式において、φは、燃料が着火する直前の混合気の当量比であり、Pは、燃料が着火する直前の雰囲気圧力(燃焼室内の圧力)、詳細には、燃焼室内の酸素の分圧であり、Tは、燃料が着火する直前の雰囲気温度(燃焼室内の温度)であり、K1〜K4は、それぞれ定数である。
ここで、式(1)において当量比φは、燃焼が実施される領域すなわちエンジンにおける燃焼室内の局所的な当量比である。そのため式(1)を用いて厳密に着火遅れを算出するためには、この燃焼室内の局所的な当量比を算出する必要がある。しかしながら、局所的な当量比は、燃焼室内の各位置における燃料噴霧の状態(噴霧の蒸発量、燃焼室壁面への付着量、噴霧の体積等)によって変化する。そのため、エンジンの運転中、特にサイクル毎に、この燃焼室内の各位置における当量比の詳細を精度よく演算・推定するのは困難である。
これに対して、本発明者らは、鋭意研究の結果、拡散燃焼モードにおいて、燃焼室内に局所的に当量比φが大きい混合気が存在した場合には、着火遅れは、主として、燃焼室内の温度および圧力によって変化し、これら温度、圧力が同じであれば、当量比φが変化しても、着火遅れはあまり変化しないこと、さらに、このことから、メイン燃焼前に燃焼室内に局所的に当量比φが大きい混合気を生成すれば、局所当量比を用いずとも着火遅れを精度よく演算・推定できることを突き止めた。
燃焼室内の温度と局所当量比とを変化させた際の着火遅れの測定結果を、図12に示す。図12の横軸は、燃焼室内の温度をTとしたときの1000/Tの値であり、縦軸は着火遅れ(時間)である。この図12において、各線は、それぞれ局所当量比(燃焼室内の当量比の最大値)φが、0.5、1.0、2.0、3.0、4.0のときの着火遅れである。なお、この図12は、各条件において燃焼室内の圧力を同じ所定の圧力としたときの結果である。
この図12に示されるように、着火遅れは、燃焼室内の温度Tと局所当量比φとによって変化する。しかし、局所当量比φが2.0のラインと、3.0のラインと、4.0のラインとの比較から明らかなように、局所当量比が2.0以上の大きい値である場合には、局所当量比によって着火遅れはあまり変化しなくなる。従って、上記のように、メイン燃焼前の当量比を高い値、特に、当量比2.0以上とすれば、当量比の演算・推定することなく着火遅れを精度よく演算・推定することが可能になる。
以上の知見に基づき、本実施形態では、上記のように、拡散燃焼モードにおいて、前段噴射(パイロット噴射Qpi、プレ噴射Qpr)を、キャビティ10内に収まるタイミング、特に、燃焼室9内に局所的に当量比が2.0以上となるタイミングで実施して、メイン燃焼前の燃焼室内の局所当量比を大きくする。そして、メイン燃焼の着火遅れτ_mを、当量比を用いることなく演算・推定する。本実施形態では、メイン燃焼の着火遅れτ_mを、次の式(2)により演算・推定する。
τ_m=A×PTDC B×exp(1/TTDCC×NED×CCLDE・・・(2)
この式において、PTDCは圧縮上死点での非燃焼時の燃焼室9内の圧力、TTDCは圧縮上死点での非燃焼時の燃焼室9内の温度、NEはエンジン回転数、CCLDは燃焼室9内の酸素濃度(燃焼前の酸素濃度)である。また、A,B,C,D,Eはそれぞれ定数であり、これら定数のうち、A,C,Dは正の値、B,Eは負の値であって、圧力、温度、酸素濃度が高いほど着火遅れは短くなり、エンジン回転数が高いほど着火遅れは長くなる。
ここで、非燃焼時の圧縮上死点圧力PTDCおよび非燃焼時の圧縮上死点温度TTDCは、上記式(1)におけるP,T(着火前の雰囲気圧力、温度)に対応するものであるが、本実施形態では、演算を容易にするために、仮に燃料が噴射されず燃焼が起こらないとしたときの圧縮上死点の圧力、温度を推定し、これら推定値を代表温度、圧力として代用する。
非燃焼時の圧縮上死点圧力PTDCは、冷却損失を加味した上で、PVκ一定の式に、インマニ圧力センサSN4の検出値と、吸気弁18が閉弁するときの燃焼室の容積と、圧縮上死点における燃焼室の容積を当てはめることで算出される。なお、上記冷却損失は、エンジン回転数とエンジン水温と吸気温度(インマニ温度センサSN3で検出される気筒に流入するガスの温度)に基づいて算出される。例えば、予め設定、記憶されたこれらのマップから特定される。また、上記比熱比κは、EGR率等に基づいて特定される燃焼室内の噴射前のガス成分に基づいて設定される。
非燃焼時の圧縮上死点温度TTDCは、気体の状態方程式に、算出された非燃焼時の圧縮上死点圧力PTDCを当てはめることで算出される。
燃焼室内の酸素濃度CCLDは、リニアO2センサSN6の検出値すなわち排気ガス中の酸素濃度と、吸気量センサSN2の検出値すなわち気筒2に吸入される新気(空気)量と、EGR率とに基づいて算出される。ここで、上記のように、式(1)における圧力であって着火遅れを左右する圧力は、より厳密には、燃焼に寄与する酸素の分圧である。そこで、本実施形態では、燃焼室9の全圧である非燃焼時の圧縮上死点圧力PTDCと、この酸素濃度とを用いて、着火遅れを推定する。
また、本発明者らは、各種実験の結果、実際のエンジンの運転においては、上記のように温度、圧力の時間履歴を考慮せずに圧縮上死点の温度、圧力を代表温度として着火遅れを予測すると、エンジン回転数が高いほど着火遅れが実際の値よりも短く推定されてしまうことを突き止めた。これはエンジン回転数が高くなるほど単位時間あたりのクランク角度の変化が大きく、温度、圧力の時間あたりの上昇率が高いためと考えられる。そこで、本実施形態では、エンジン回転数を加味して着火遅れを推定することで、温度履歴、圧力履歴を考慮することなく圧縮上死点温度、圧力を代表温度、圧力として用いつつ着火遅れの推定精度を高める。
なお、本実施形態では、運転領域によらず上記各定数A,B,C,D,Eを一定値としている。これら各定数の値は、それぞれエンジン(燃焼室形状やインジェクタの噴孔形状等)によって変化する。そのため、これら各定数は、エンジン毎にそれぞれ適宜設定されればよい。
また、これら定数は、EGR率によってもある程度変化するが、EGR率が所定の範囲内で変化する場合には、これらを同じ値としてもよいことが分かっている。そして、本実施形態では、第1領域A2_aおよび第2領域A2_bにおいて、EGR率の変化が所定の範囲内におさまっている。そこで、本実施形態では、上記のように、これら定数を一定として着火遅れを演算する。
種々の運転条件において、上記式(2)を用いて推定した着火遅れと、実際に測定した着火遅れとを比較した結果を図13に示す。図13において、横軸は着火遅れの実測値、縦軸は、上記式(2)を用いて算出した着火遅れの推定値である。この図13から明らかなように、式(2)により算出した着火遅れの推定値と、実測値とはほぼ一致しており、式(2)によって着火遅れが精度よく算出されている。なお、図13では、着火遅れとして、噴射開始時期から燃焼開始までの時間に代えて、この時期と相関の高い、噴射開始時期から熱発生率がピークとなる時期までの時間を示している。
(4)作用等
以上のように、本実施形態では、局所当量比を演算することなく、より詳細には、局所当量比に関わる噴射系の変数(噴射量や噴射時期や噴射圧)を用いることなく、着火遅れを簡単、かつ、精度よく推定することができる。そして、この推定した着火遅れに基づいて、メイン噴射の噴射時期を補正していることで、メイン噴射された燃料の着火時期をより適切な時期にすることができる。従って、本実施形態によれば、簡単、かつ、より確実に、良好なエンジン性能を確保することができる。
特に、メイン噴射の前において燃焼室9(気筒2)内の局所当量比が2.0以上となり局所当量比による着火遅れへの影響が小さくなるように前段噴射を実施しているため、着火遅れを精度よく推定することができる。
また、燃焼室9(気筒2)内の圧力(非燃焼時の圧縮上死点圧力)、温度(非燃焼時の圧縮上死点温度)、燃焼室9(気筒2)内の酸素濃度に加えてエンジン回転数に基づいて着火遅れを推定しているため、燃焼室9内のガスの流動状態や、ピストンとシリンダとの間の隙間を通って燃焼室9(気筒2)外に漏れる酸素量が加味された状態で着火遅れを推定することができ、着火遅れをより精度よく推定することができる。
(5)変形例
ここで、上記実施形態では、メイン燃焼の着火時期を適切な時期にするべく、メイン噴射の噴射時期を補正した場合について説明したが、この噴射時期に代えて、あるいは、噴射時期とともに前段噴射(パイロット噴射またはプレ噴射、あるいは、これら両方)の噴射量を補正してもよい。具体的には、推定した着火遅れが適正な量よりも長い場合、すなわち、メイン噴射Qmの基本噴射時期から推定した着火遅れ分遅角した時期が、メイン噴射の目標着火時期よりも遅角側となる場合には、着火遅れをより短くするために、メイン噴射の前の雰囲気温度圧力を高めるべく、前段噴射の噴射量を、予め設定された基本的な噴射量よりも多く補正し、推定した着火遅れが適正な量よりも短い場合、すなわち、メイン噴射Qmの基本噴射時期から推定した着火遅れ分遅角した時期が、メイン噴射の目標着火時期よりも進角側となる場合には、着火遅れをより長くするために、メイン噴射の前の雰囲気温度圧力を低下させるべく、前段噴射の噴射量を、予め設定された基本的な噴射量よりも少なく補正するように構成してもよい。
また、上記実施形態では、メイン噴射の前において燃焼室9内の局所当量比が2.0以上となるように前段噴射を実施する場合について説明したが、局所当量比の具体的な値はこれに限らない。ただし、上記のように、局所当量比を2.0以上とすれば、局所当量比を用いることなく着火遅れを推定する場合に、この推定精度をより一層高めることができる。
また、エンジン回転数を用いずに着火遅れを推定してもよい。ただし、上記のように、エンジン回転数を用いて着火遅れを推定すれば、推定精度をより一層高めることができる。
また、上記実施形態では、拡散燃焼モードにおいて、前段噴射として、パイロット噴射とプレ噴射の2段噴射を行う場合、および、プレ噴射の1段噴射を行う場合について説明したが、前段噴射の噴射回数は3以上であってもよい。この場合であっても、前段噴射をキャビティ10内に収まるように実施(特に、局所当量比が2.0以上となるように実施)すればよい。
また、各運転領域の噴射パターンは上記に限らない。例えば、拡散燃焼モードにおいて、メイン噴射の後にさらに噴射(いわゆるアフター噴射等)を行ってもよい。
また、キャビティ10の具体的な形状は上記に限らない。
1 エンジン本体
2 シリンダ
4 ピストン
5 シリンダヘッド
10 キャビティ
71 噴射制御部(噴射制御手段)
72 着火遅れ推定部(着火遅れ推定手段)
73 目標着火時期決定部(目標着火時期決定手段)
74 噴射時期補正量算出部(補正手段)

Claims (1)

  1. ピストン冠面にシリンダヘッドの底面から離間する方向に凹むキャビティが形成されたエンジンの燃料制御装置において、
    エンジンの気筒内に燃料を噴射可能な噴射装置と、
    エンジンの少なくとも一部の特定の運転領域に設定された特定領域において、気筒内で拡散燃焼が生じるように、主噴射と、当該主噴射よりも前のタイミングで当該主噴射の噴射量よりも少ない量の燃料を気筒内に噴射する前段噴射とを上記噴射装置に実施させる噴射制御手段とを備え、
    上記噴射制御手段は、
    上記特定領域において、上記主噴射の開始後、当該主噴射により噴射された燃料が着火するまでの時間である着火遅れを推定する着火遅れ推定手段と、
    上記主噴射により噴射された燃料の着火時期の目標値である目標着火時期を決定する目標着火時期決定手段と、
    推定された上記着火遅れおよび決定された上記目標着火時期に基づいて、上記特定領域における、上記前段噴射の噴射量と、上記主噴射の噴射時期の少なくとも一つを補正する補正手段とを含むとともに、
    上記特定領域において、上記前段噴射を、当該前段噴射により噴射された燃料が上記キャビティ内に収まるタイミングで、かつ、当該前段噴射の実施後気筒内で燃焼が開始されるまでの間における気筒内の局所当量比が2.0以上となるように、実施し、
    上記着火遅れ推定手段は、
    気筒内の局所当量比に関わる噴射系の変数を用いずに、気筒内で燃焼が生じなかったとしたときの圧縮上死点での気筒内の圧力をPTDC、気筒内で燃焼が生じなかったとしたときの圧縮上死点での気筒内の温度をTTDC、エンジン回転数をNE、気筒内の酸素濃度をCCLDとし、A、B、C、D、Eを定数として、着火遅れτ_mを下式(1)を用いて推定することを特徴とするエンジンの燃料制御装置。
    τ_m=A×PTDC ×exp(1/TTDC×NE×CCLD ‥‥(1)
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