以下、図面を参照しながら、本発明の好ましい実施形態について説明する。図2は、本発明の第1実施形態による燃料噴射制御装置1を概略的に示しており、同図に示すように、燃料噴射制御装置1は、後述するECU2や各種のセンサを備えている。
また、図1は、燃料噴射制御装置1を適用した内燃機関3を概略的に示しており、この内燃機関(以下「エンジン」という)3は、車両(図示せず)に駆動源として搭載されたディーゼルエンジンである。図1に示すように、エンジン3のシリンダヘッド3aには、吸気管4および排気管5が接続されるとともに、燃料噴射弁(以下「インジェクタ」という)6が、気筒3b内のピストン3cに臨むように取り付けられている。
このインジェクタ6は、コモンレールを介して、高圧ポンプおよび燃料タンク(いずれも図示せず)に順に接続されている。この高圧ポンプは、燃料タンクの燃料を、高圧に昇圧した後、コモンレールを介してインジェクタ6に送り、インジェクタ6はこの燃料を気筒3b内に噴射する。エンジン3では、この燃料噴射として、エンジン3の吸気行程中から圧縮行程中の任意の期間に燃料を噴射するパイロット噴射と、圧縮行程中に燃料を噴射するメイン噴射の双方が、実行される。また、パイロット噴射用およびメイン噴射用の燃料噴射量および燃料噴射時期は、ECU2によって制御される。以下、パイロット噴射用の燃料噴射量を「パイロット噴射量」といい、メイン噴射用の燃料噴射時期を「メイン噴射時期」という。
また、インジェクタ6には、筒内圧センサ31が一体に取り付けられている。この筒内圧センサ31は、リング状の圧電素子で構成されており、気筒3b内の圧力の変化量(以下「筒内圧変化量」という)DPVを表す検出信号をECU2に出力する。ECU2は、この筒内圧変化量DPVに基づき、気筒3b内の圧力(以下「筒内圧」という)を後述するようにして算出する。
さらに、エンジン3のクランクシャフト3dには、マグネットロータ32aが取り付けられており、このマグネットロータ32aとMREピックアップ32bによって、クランク角センサ32が構成されている。このクランク角センサ32は、クランクシャフト3dの回転に伴い、パルス信号であるCRK信号およびTDC信号をECU2に出力する。このCRK信号は、所定のクランク角(例えば1゜)ごとに出力される。ECU2は、CRK信号に基づき、エンジン3の回転数(以下「エンジン回転数」という)NEを求める。TDC信号は、ピストン3cが吸気行程開始時のTDC(上死点)付近の所定クランク角度位置にあることを表す信号である。
また、吸気管4には、過給装置7が設けられており、過給装置7は、ターボチャージャで構成された過給機8と、これに連結されたアクチュエータ9と、ベーン開度制御弁10を備えている。
過給機8は、吸気管4に設けられた回転自在のコンプレッサブレード8aと、排気管5に設けられた回転自在のタービンブレード8bおよび複数の回動自在の可変ベーン8c(2つのみ図示)と、これらのブレード8a,8bを一体に連結するシャフト8dとを有している。過給機8は、排気管5内の排ガスによりタービンブレード8bが回転駆動されるのに伴い、これと一体のコンプレッサブレード8aが回転駆動されることによって、吸気管4内の吸入空気を加圧する過給動作を行う。
アクチュエータ9は、負圧によって作動するダイアフラム式のものであり、各可変ベーン8cに機械的に連結されている。アクチュエータ9には、負圧ポンプから負圧供給通路(いずれも図示せず)を介して負圧が供給され、この負圧供給通路の途中に、ベーン開度制御弁10が設けられている。ベーン開度制御弁10は、電磁弁で構成されており、その開度がECU2からの駆動信号で制御されることにより、アクチュエータ9への供給負圧が変化し、それに伴い、可変ベーン8cの開度が変化することにより、過給圧が制御される。
さらに、吸気管4の過給機8よりも下流側には、上流側から順に、水冷式のインタークーラ11およびスロットル弁12が設けられている。このインタークーラ11は、過給装置7の過給動作により吸入空気の温度が上昇したときなどに、吸入空気を冷却するものである。スロットル弁12には、例えば直流モータで構成されたアクチュエータ12aが接続されており、スロットル弁12の開度は、このアクチュエータ12aに供給される電流のデューティ比をECU2で制御することによって、制御される。
また、吸気管4には、過給機8よりも上流側にエアフローセンサ33が、インタークーラ11とスロットル弁12の間に過給圧センサ34が、それぞれ設けられている。このエアフローセンサ33はエンジン3に吸入される新気の量(以下「新気量」という)QAを検出し、過給圧センサ34は吸気管4内の過給圧PACTを検出し、それらの検出信号はECU2に出力される。
さらに、エンジン3には、EGR管14aおよびEGR制御弁14bを有するEGR装置14が設けられている。EGR管14aは、吸気管4と排気管5の間に、具体的には、吸気管4のスロットル弁12よりも下流側と排気管5の過給機8よりも上流側とをつなぐように接続されている。このEGR管14aを介して、エンジン3の排ガスの一部が吸気管4にEGRガスとして還流し、それにより、気筒3b内の燃焼温度が低下することによって、排ガス中のNOxが低減される。
上記のEGR制御弁14bは、EGR管14aに取り付けられたリニア電磁弁で構成されており、そのバルブリフト量が、ECU2からの駆動信号によってリニアに制御されることによって、EGRガスの量(以下「EGRガス量」という)が制御される。EGR制御弁14bのバルブリフト量LACTは、バルブリフト量センサ35によって検出され、その検出信号はECU2に出力される。
また、EGR装置14にはEGRガスを冷却するためのEGR冷却装置15が設けられており、このEGR冷却装置15は、バイパス通路15aと、EGR通路切換弁15bと、EGR管14aのEGR制御弁14bよりも下流側に設けられたEGRクーラ15cを有している。バイパス通路15aは、EGR管14aのEGR制御弁14bよりも下流側に、EGRクーラ15cをバイパスするように設けられており、EGR通路切換弁15bはバイパス通路15aの分岐部に取り付けられている。EGR通路切換弁15bは、ECU2による制御によって、EGR管14aのEGR通路切換弁15bよりも下流側の部分を、EGR管14a側とバイパス通路15a側に選択的に切り換える。
以上により、EGR通路切換弁15bがバイパス通路15a側に切り換えられた場合には、EGRガスは、バイパス通路15aに通され、吸気管4に還流する。一方、逆側に切り換えられた場合には、EGRガスは、EGRクーラ15cで冷却された後、吸気管4に還流する。
また、排気管5には、排ガス流量センサ36が設けられており、排ガス流量センサ36は、排ガスの流量(以下「排ガス流量」という)QEを検出し、その検出信号をECU2に出力する。さらに、ECU2には、アクセル開度センサ37から、アクセルペダル(図示せず)の操作量(以下「アクセル開度」という)APを表す検出信号が出力される。
ECU2は、I/Oインターフェース、CPU、RAMおよびROMなどからなるマイクロコンピュータで構成されている。前述した各種のセンサ31〜37からの検出信号はそれぞれ、I/OインターフェースでA/D変換や整形がなされた後、CPUに入力される。ECU2は、これらの入力信号に応じ、ROMに記憶された制御プログラムなどに従って、エンジン3の運転状態を判別するとともに、判別した運転状態に応じて、燃料噴射量、噴射時期やEGRガス量の制御を含むエンジン3の制御を実行する。
次に、図3〜図5を参照しながら、燃料噴射制御装置1によるメイン噴射時期およびパイロット噴射量を含む燃料噴射制御の基本的な原理について説明する。図3は、前述したメイン噴射時期TMIおよびパイロット噴射量QPIをそれぞれ所定の一定値に制御した場合の、EGR率rEGRに対する筒内圧変化率dPθ、メイン噴射時期TMIおよびパイロット噴射量QPIの関係を示している。ここで、EGR率rEGRは、EGRガス量と新気量QAの和に対するEGRガス量の比(EGRガス量/EGRガス量+新気量QA)であり、筒内圧変化率dPθは、単位クランク角度当たりの筒内圧の変化量である。この筒内圧変化率dPθは、エンジン3の燃焼音と密接な相関関係にあり、筒内圧変化率dPθが大きいほど、燃焼音はより大きくなる。
図3に示すように、EGR率rEGRが所定値rREFよりも小さいときには、EGR率rEGRが小さいほど、筒内圧変化率dPθすなわち燃焼音は、より大きくなっている。これは、EGR率rEGRは、気筒3b内における燃料の燃焼のしにくさと密接な相関関係にあり、EGR率rEGRが小さいほど、気筒3b内において燃料が燃焼しやすいのに対し、メイン噴射時期TIMが進角側であることにより、気筒3b内における燃料の実際の着火時期(以下「実着火時期」という)が早くなりすぎることによって、筒内圧が急激に増大するためである。
一方、図3に示すように、EGR率rEGRが所定値rREF以上のときには、EGR率rEGRが大きいほど、筒内圧変化率dPθすなわち燃焼音は、より大きくなっている。これは、EGR率rEGRが大きいほど、燃料がより燃焼しにくいため、パイロット噴射による燃料がすぐには燃焼しない、いわゆるパイロット失火が発生しやすいことによって、メイン噴射による燃料が急激に燃焼したり、燃焼せずに残ったパイロット噴射による燃料とメイン噴射による燃料の双方が一度に燃焼したりすることによって、燃焼音が大きくなるためである。
また、図4は、安定した燃焼状態が得られるように、メイン噴射時期TMIを補正(制御)するとともに、パイロット噴射量QPIを所定の一定値に制御した場合の、EGR率rEGRに対する図3と同じ3つのパラメータの関係を示している。図4に示すように、EGR率rEGRが所定値rREFよりも小さいときには、EGR率rEGRが大きいほど、燃料が燃焼しにくいため、メイン噴射時期TMIがより進角側に制御される。これにより、安定した燃焼状態が得られることによって、筒内圧変化率dPθすなわち燃焼音は、比較的小さな値に保持される。
一方、EGR率rEGRが所定値rREF以上のときには、上述したように、EGR率rEGRが大きいほど、パイロット失火が発生しやすくなり、パイロット失火の影響による燃料の急激な燃焼が発生しやすくなる。図4に示すように、rEGR≧rREFのときには、EGR率rEGRが大きいほど、燃料が燃焼しにくいため、メイン噴射時期TMIがさらに進角側に補正される。しかし、そのようなメイン噴射時期TMIの補正だけでは、パイロット噴射による燃料を良好に燃焼させられないので、上述したパイロット失火の影響による燃料の急激な燃焼を防止できない。このため、図4に示すように、rEGR≧rREFのときには、EGR率rEGRが大きいほど、筒内圧変化率dPθすなわち燃焼音は、より大きくなっている。
また、図5は、安定した燃焼状態が得られるように、パイロット噴射量QPIを増大補正するとともに、メイン噴射時期TMIを所定の一定値に制御した場合の、EGR率rEGRに対する図3と同じ3つのパラメータの関係、およびEGR率rEGRとパイロット噴射量QPIの関係を示している。図5に示すように、EGR率rEGRが所定値rREFよりも小さいときには、EGR率rEGRが小さいことから、燃料が燃焼しやすいため、パイロット噴射量QPIをほとんど増大補正しなくても、パイロット失火が発生しないので、筒内圧変化率dPθすなわち燃焼音は、比較的小さな値に保持される。
一方、EGR率rEGRが所定値rREF以上のときには、EGR率rEGRが大きいほど、燃料が燃焼しにくく、パイロット失火が発生しやすくなる。このため、図5に示すように、rEGR≧rREFのときには、EGR率rEGRが大きいほど、パイロット噴射量QPIがより増大側に制御される。これにより、パイロット噴射による燃料が良好に燃焼することによって、安定した燃焼状態が得られ、その結果、筒内圧変化率dPθすなわち燃焼音は、比較的小さな値に保持される。
また、エンジン3の良好な燃費および排ガス特性を確保するという観点からは、パイロット噴射量QPIをできるだけ小さな値に制御するのが好ましい。
以上のような事象に着目し、燃料噴射制御装置1では、エンジン3の良好な燃費および排ガス特性を確保しながら、燃焼音の抑制と燃焼状態の安定化を図るために、気筒3b内において燃料が燃焼しやすく、パイロット失火が発生するおそれがないときには、メイン噴射時期TMIのみが補正される一方、燃料が燃焼しにくく、パイロット失火が発生するおそれがあるときには、メイン噴射時期TMIに加え、パイロット噴射量QPIが併せて補正される。
具体的には、図6に示すように、燃料噴射制御装置1は、主としてメイン噴射時期TMIを制御するための、要求トルク算出部41、目標メイン噴射時期算出部42、熱発生率算出部43、実着火時期算出部44、目標着火時期算出部45、偏差算出部46、F/B補正値算出部47、および最終メイン噴射時期算出部48を備えている。これらの算出部41〜48はいずれも、ECU2によって構成されている。
要求トルク算出部41には、算出されたエンジン回転数NEと検出されたアクセル開度APが入力される。要求トルク算出部41は、入力されたエンジン回転数NEおよびアクセル開度APに応じ、マップ(図示せず)を検索することによって、エンジン3に要求される要求トルクPMCMDを算出し、目標メイン噴射時期算出部42および目標着火時期算出部45に出力する。目標メイン噴射時期算出部42には、エンジン回転数NEがさらに入力される。目標メイン噴射時期算出部42は、入力されたエンジン回転数NEおよび要求トルクPMCMDに応じ、マップ(図示せず)を検索することによって、目標メイン噴射時期TMICMDを算出し、最終メイン噴射時期算出部48に出力する。
熱発生率算出部43には、検出されたCRK信号および筒内圧変化量DPVが入力される。熱発生率算出部43は、入力されたCRK信号および筒内圧変化量DPVに応じ、気筒3b内における、単位クランク角度当たりの熱発生率dQθを、次式(1)によって算出し、実着火時期算出部44に出力する。
dQθ=(κ・Pθ・1000・dVθ+dPθ・1000・Vθ)/(κ−1) …(1)
ここで、κは所定の比熱比であり、例えば1.34に設定されている。Pθは、前述した筒内圧であり、筒内圧変化量DPVに基づいて算出される。dVθは、単位クランク角度当たりの気筒3b内の容積(シリンダヘッド3aとピストン3cで規定される気筒3b内の容積)の変化率であり、CRK信号に基づいて算出される。また、筒内圧変化率dPθは、CRK信号および筒内圧変化量DPVに応じて算出される。Vθは、そのときどきの気筒3b内の容積であり、TDC信号およびCRK信号に基づいて算出される。
実着火時期算出部44には、TDC信号およびCRK信号がさらに入力される。実着火時期算出部44は、入力された熱発生率dQθを積分することによって、気筒3b内における熱発生量を算出するとともに、入力されたTDC信号およびCRK信号に応じ、エンジン3の1燃焼サイクル中において、熱発生量が総熱発生量の1/2になったときのクランク角度位置を、前述した実着火時期(気筒3b内における燃料の実際の着火時期)TFACTとして算出する。また、実着火時期算出部44は、算出した実着火時期TFACTを、偏差算出部46に出力する。
目標着火時期算出部45には、要求トルクPMCMDに加え、エンジン回転数NEがさらに入力される。目標着火時期算出部45は、入力されたエンジン回転数NEおよび要求トルクPMCMDに応じ、マップ(図示せず)を検索することによって、実着火時期TFACTの目標値である目標着火時期TFCMDを算出し、偏差算出部46に出力する。このマップでは、目標着火時期TFCMDは、安定した燃焼状態が得られるような着火時期として設定されている。偏差算出部46は、目標着火時期TFCMDと実着火時期TFACTとの偏差(以下「着火時期偏差」という)DTFを算出し、F/B補正値算出部47に出力する。
F/B補正値算出部47は、入力された着火時期偏差DTFに応じ、所定のフィードバック制御アルゴリズムに基づいて、前述した目標メイン噴射時期TMICMDを補正するためのフィードバック補正値(以下「F/B補正値」という)CMIを算出する。これにより、F/B補正値CMIは、実着火時期TFACTが目標着火時期TFCMDに収束するように算出される。また、算出されたF/B補正値CMIは、最終メイン噴射時期算出部48に出力される。なお、F/B補正値CMIは、目標メイン噴射時期TMICMDを進角側に補正する場合には正値として算出され、遅角側に補正する場合には負値として算出される。
最終メイン噴射時期算出部48は、入力された目標メイン噴射時期TMICMDに、F/B補正値CMIを加算することによって、目標メイン噴射時期TMICMDを補正することで、最終メイン噴射時期TMIOUTを算出するとともに、算出した最終メイン噴射時期TMIOUTに基づく駆動信号を、インジェクタ6に出力する。以上により、メイン噴射時期TMIは、実着火時期TFACTが目標着火時期TFCMDになるように制御される。なお、以上のメイン噴射時期TMIの制御では、気筒3b内で燃料が燃焼しにくいほど、実着火時期TFACTが目標着火時期TFCMDよりも遅くなるため、目標メイン噴射時期TMICMDはより進角側に補正される。
また、図7に示すように、燃料噴射制御装置1は、主としてパイロット噴射量QPIを制御するための、目標パイロット噴射量算出部51、補正値算出部52および最終パイロット噴射量算出部53を備えており、これらはいずれも、ECU2によって構成されている。
目標パイロット噴射量算出部51には、エンジン回転数NEおよび要求トルクPMCMDが入力される。目標パイロット噴射量算出部51は、入力されたエンジン回転数NEおよび要求トルクPMCMDに応じ、マップ(図示せず)を検索することによって、パイロット噴射量QPIの目標値である目標パイロット噴射量QPICMDを算出し、最終パイロット噴射量算出部53に出力する。このマップでは、目標パイロット噴射量QPICMDは、気筒3b内の温度を適切に高め、それにより、メイン噴射による燃料を良好に燃焼させられるような値に設定されている。
補正値算出部52には、前述したF/B補正値算出部47で算出されたF/B補正値CMIが入力される。補正値算出部52は、入力されたF/B補正値CMIに応じ、パイロット噴射量補正値CPIを算出し、最終パイロット噴射量算出部53に出力する。このパイロット噴射量補正値CPIは、目標パイロット噴射量QPICMDを増大補正するためのものであり、その算出手法については後述する。
最終パイロット噴射量算出部53は、入力された目標パイロット噴射量QPICMDにパイロット噴射量補正値CPIを加算することによって、目標パイロット噴射量QPICMDを補正することで、最終パイロット噴射量QPIOUTを算出するとともに、算出した最終パイロット噴射量QPIOUTに基づく駆動信号を、インジェクタ6に出力する。これにより、パイロット噴射量QPIが最終パイロット噴射量QPIOUTになるように制御される。
次に、補正値算出部52でのパイロット噴射量補正値CPIの算出について説明する。具体的には、入力されたF/B補正値CMIが所定値CMIREFよりも小さいときには、パイロット噴射量補正値CPIを値0に設定する。この所定値CMIREFは、気筒3b内において燃料が燃焼しにくいことで前述したパイロット失火が発生するおそれがあるか否かを判別するためのものであり、あらかじめ行った実験によって求められている。
前述したように、気筒3b内で燃料が燃焼しにくく、パイロット失火が発生しやすくなるほど、目標メイン噴射時期TMICMDがより進角側に補正されるとともに、その際、F/B補正値CMIは正値として算出されることから明らかなように、CMI値がCMIREF値よりも小さいということは、パイロット失火が発生するおそれがないことを表している。したがって、F/B補正値CMI<所定値CMIREFのときには、パイロット失火が発生するおそれがないとして、パイロット噴射量補正値CPIは値0に設定され、それにより、この補正値CPIによる目標パイロット噴射量QPICMDの増大補正が禁止される。
なお、気筒3b内で燃料が燃焼しやすいことなどによって、実着火時期TFACTが目標着火時期TFCMDよりも進角側にあることで、F/B補正値CMIにより目標メイン噴射時期TMICMDが遅角側に補正されるときには、F/B補正値CMIが負値になる結果、F/B補正値CMI<所定値CMIREFが成立するので、この場合にも、補正値CPIによる増大補正は禁止される。
一方、F/B補正値CMIが所定値CMIREF以上のとき、すなわち、パイロット失火が発生するおそれがあるときには、パイロット噴射量補正値CPIを、F/B補正値CMIに応じ、図8に示すCMI−CPIマップを検索することによって算出する。その結果、パイロット失火が発生するおそれがあるときには、パイロット噴射量補正値CPIによる目標パイロット噴射量QPICMDの増大補正が行われる。上記のCMI−CPIマップでは、パイロット噴射量補正値CPIは、F/B補正値CMIが大きいほど、より大きな値に設定されている。これは、F/B補正値CMIが大きいほど、目標メイン噴射時期TMICMDの進角側への補正量が大きく、換言すれば、燃料が燃焼しにくく、パイロット失火が発生しやすいので、目標パイロット噴射量QPICMDをより大きく補正することによって、パイロット噴射による燃料を良好に燃焼させることで、パイロット失火による燃焼音の過大化や燃焼状態の不安定化を防止するためである。
また、CMI−CPIマップにおいて、F/B補正値CMIが比較的大きい領域では、パイロット噴射量補正値CPIは、ほぼ一定値に設定されている。これは、パイロット噴射量補正値CPIの増大補正によるパイロット噴射量QPIの過大化を防止するためである。
なお、本実施形態は、請求項1、4および6に係る発明に対応するものであり、本実施形態における各種の要素と請求項1、4および6に係る発明の各種の要素との対応関係は、次の通りである。すなわち、クランク角センサ32およびアクセル開度センサ37が、運転状態検出手段に相当し、ECU2が、燃焼状態パラメータ検出手段、運転状態検出手段、目標燃焼状態パラメータ設定手段、メイン噴射時期補正手段、パイロット噴射量補正手段に相当する。
また、要求トルク算出部41が運転状態検出手段に、実着火時期算出部44が燃焼状態パラメータ検出手段に、それぞれ相当する。さらに、目標着火時期算出部45が、目標燃焼状態パラメータ設定手段に相当し、F/B補正値算出部47および最終メイン噴射時期算出部48が、メイン噴射時期補正手段に相当し、補正値算出部52および最終パイロット噴射量算出部53が、パイロット噴射量補正手段に相当する。また、実着火時期TFACTが、燃焼状態パラメータに相当し、エンジン回転数NEおよび要求トルクPMCMDが、検出された内燃機関の運転状態に相当する。さらに、目標着火時期TFCMDが燃焼状態パラメータの目標値に、目標メイン噴射時期TMICMDがメイン噴射の時期に、目標パイロット噴射量QPICMDがパイロット噴射による燃料量に、それぞれ相当する。また、F/B補正値CMIが、メイン噴射時期補正値および補正量に相当し、所定値CMIREFが所定量に相当する。
以上のように、本実施形態によれば、実着火時期TFACTが目標着火時期TFCMDになるように算出されたF/B補正値CMIに応じて、目標メイン噴射時期TMICMDを補正するとともに、それにより算出した最終メイン噴射時期TMIOUTに基づいて、メイン噴射時期TMIが制御される。これにより、実着火時期TFACTが、安定した燃焼状態が得られるような着火時期として設定された目標着火時期TFCMDになるように制御されるので、燃焼音の抑制と燃焼状態の安定化を図ることができる。また、上記のようなメイン噴射時期TMIの制御に、気筒3b内における燃料の燃焼状態と密接な相関関係を有する実着火時期TFACTを用いるので、燃焼音を確実に抑制できるとともに、安定した燃焼状態を確実に得ることができる。
さらに、F/B補正値CMIが所定値CMIREF以上で、パイロット失火が発生するおそれがあるときには、目標メイン噴射時期TMICMDの補正に加え、パイロット噴射量補正値CPIによる目標パイロット噴射量QPICMDの増大補正が、併せて行われる。これにより、パイロット噴射による燃料を良好に燃焼させることができ、それにより、パイロット失火による燃焼音の過大化や燃焼状態の不安定化を防止でき、その結果、燃焼音の抑制と燃焼状態の安定化を図ることができる。同じ理由により、目標メイン噴射時期TMICMDが大幅に進角側に補正されるのを防止できるので、そのような目標メイン噴射時期TMICMDの補正による失火の発生や、燃費および排ガス特性の悪化を防止することができる。また、F/B補正値CMIが所定値CMIREFよりも小さく、パイロット失火が発生するおそれがないときには、パイロット噴射量補正値CPIによる目標パイロット噴射量QPICMDの増大補正が禁止される。これにより、目標パイロット噴射量QPICMDの不要な補正を回避でき、したがって、エンジン3の良好な燃費および排ガス特性を確保することができる。
さらに、パイロット噴射量補正値CPIを、F/B補正値CMIが大きいほど、すなわち、パイロット失火が発生しやすいほど、より大きな値に算出するので、パイロット失火による燃焼音の過大化などの防止と、エンジン3の良好な燃費および排ガス特性の確保とを両立させることができる。また、目標パイロット噴射量QPICMDの補正に、目標メイン噴射時期TMICMDを補正するために算出されたF/B補正値CMIを兼用できるので、目標パイロット噴射量QPICMDの補正用に特別なパラメータを算出する必要がなく、したがって、その分、燃料噴射制御装置1の演算負荷を軽減することができる。
次に、図9を参照しながら、本発明の第2実施形態による燃料噴射制御装置1Aについて説明する。この燃料噴射制御装置1Aは、前述した第1実施形態による燃料噴射制御装置1と比較して、パイロット噴射量補正値CPIの算出手法のみが異なっており、メイン噴射時期TMIの制御については、第1実施形態と同様にして行われる。図9において、第1実施形態と同じ構成要素については、同じ符号を用いて示している。以下、第1実施形態と異なる点を中心に説明する。
補正値算出部61には、第1実施形態と異なり、前述した偏差算出部46で算出された着火時期偏差DTFが入力される。補正値算出部61は、入力された着火時期偏差DTFに応じて、パイロット噴射量補正値CPIを算出し、前述した最終パイロット噴射量算出部53に出力する。この算出は次のようにして行われる。具体的には、実着火時期TFACTが目標着火時期TFCMDよりも遅角側にあり、かつ、入力された着火時期偏差DTFが所定値DTFREFよりも小さいときには、パイロット噴射量補正値CPIは値0に設定される。この所定値DTFREFは、パイロット失火が発生するおそれがあるか否かを判別するためのものであり、あらかじめ行った実験によって求められている。
また、燃料が燃焼しにくいときには、実着火時期TFACTは、目標着火時期TFCMDよりも遅くなるため、燃料が燃焼しにくいほど、目標着火時期TFCMDと実着火時期TFACTとの偏差である着火時期偏差DTFは、一時的により大きな正値になる。このことから明らかなように、着火時期偏差DTFが所定値DTFREFよりも小さいということは、パイロット失火が発生するおそれがないことを表している。したがって、着火時期偏差DTF<所定値DTFREFのときには、パイロット失火が発生するおそれがないとして、パイロット噴射量補正値CPIは値0に設定され、それにより、この補正値CPIによる目標パイロット噴射量QPICMDの増大補正が禁止される。
なお、気筒3b内で燃料が燃焼しやすいことなどによって、実着火時期TFACTが目標着火時期TFCMDよりも進角側にあることで、F/B補正値CMIにより目標メイン噴射時期TMICMDが遅角側に補正されるときには、着火時期偏差DTFが負値になる結果、着火時期偏差DTF<所定値DTFREFが成立するので、この場合にも、補正値CPIによる増大補正は禁止される。
一方、着火時期偏差DTFが所定値DTFREF以上のとき、すなわち、パイロット失火が発生するおそれがあるときには、パイロット噴射量補正値CPIを、着火時期偏差DTFに応じ、図10に示すDTF−CPIマップを検索することによって算出する。その結果、第1実施形態と同様、パイロット失火が発生するおそれがあるときには、パイロット噴射量補正値CPIによる目標パイロット噴射量QPICMDの補正が行われる。上記のDTF−CPIマップでは、パイロット噴射量補正値CPIは、着火時期偏差DTFが大きいほど、より大きな値に設定されている。これは、着火時期偏差DTFが大きいほど、目標着火時期TFCMDに対する実着火時期TFACTの遅れが大きく、換言すれば、燃料が燃焼しにくく、パイロット失火が発生しやすいので、目標パイロット噴射量QPICMDをより大きく補正することによって、パイロット噴射による燃料を良好に燃焼させることで、パイロット失火による燃焼音の過大化や燃焼状態の不安定化を防止するためである。
また、DTF−CPIマップにおいて、着火時期偏差DTFが比較的大きい領域では、パイロット噴射量補正値CPIは、ほぼ一定値に設定されている。これは、パイロット噴射量補正値CPIの増大補正によるパイロット噴射量QPIの過大化を防止するためである。
なお、本実施形態は、請求項2、4および6に係る発明に対応するものであり、本実施形態における各種の要素と請求項2、4および6に係る発明の各種の要素との対応関係は、つぎの通りである。すなわち、クランク角センサ32およびアクセル開度センサ37が、運転状態検出手段に相当し、ECU2が、燃焼状態パラメータ検出手段、運転状態検出手段、目標燃焼状態パラメータ設定手段、燃焼状態パラメータ偏差算出手段、メイン噴射時期補正手段、およびパイロット噴射量補正手段に相当する。
また、要求トルク算出部41が運転状態検出手段に、実着火時期算出部44が燃焼状態パラメータ検出手段に、目標着火時期算出部45が目標燃焼状態パラメータ設定手段に、それぞれ相当する。さらに、偏差算出部46が、燃焼状態パラメータ偏差算出手段に相当し、F/B補正値算出部47および最終メイン噴射時期算出部48が、メイン噴射時期補正手段に相当し、補正値算出部61および最終パイロット噴射量算出部53が、パイロット噴射量補正手段に相当する。また、エンジン回転数NEおよび要求トルクPMCMDが、検出された内燃機関の運転状態に相当し、実着火時期TFACTが燃焼状態パラメータに相当する。さらに、目標着火時期TFCMDが燃焼状態パラメータの目標値に、目標メイン噴射時期TMICMDがメイン噴射の時期に、目標パイロット噴射量QPICMDがパイロット噴射による燃料量に、それぞれ相当する。また、着火時期偏差DTFが、燃焼状態パラメータ偏差および補正量に相当し、所定値DTFREFが所定量に相当する。
以上のように、本実施形態によれば、メイン噴射時期TMIが、第1実施形態と同様にして制御される。したがって、燃焼音を確実に抑制できるとともに、安定した燃焼状態を確実に得ることができる。
また、着火時期偏差DTFが所定値DTFREF以上で、パイロット失火が発生するおそれがあるときには、目標メイン噴射時期TMICMDの補正に加え、パイロット噴射量補正値CPIによる目標パイロット噴射量QPICMDの増大補正が、併せて行われる。これにより、パイロット噴射による燃料を良好に燃焼させることができ、それにより、パイロット失火による燃焼音の過大化や燃焼状態の不安定化を防止でき、その結果、燃焼音の抑制と燃焼状態の安定化を図ることができる。同じ理由により、目標メイン噴射時期TMICMDが大幅に進角側に補正されるのを防止できるので、そのような目標メイン噴射時期TMICMDの補正による失火の発生や、燃費および排ガス特性の悪化を防止することができる。さらに、着火時期偏差DTFが所定値DTFREFよりも小さく、パイロット失火が発生するおそれがないときには、パイロット噴射量補正値CPIによる目標パイロット噴射量QPICMDの増大補正が禁止される。これにより、目標パイロット噴射量QPICMDの不要な補正を回避でき、したがって、エンジン3の良好な燃費および排ガス特性を確保することができる。
さらに、パイロット噴射量補正値CPIを、着火時期偏差DTFが大きいほど、すなわち、パイロット失火が発生しやすいほど、より大きな値に算出するので、パイロット失火による燃焼音の過大化などの防止と、エンジン3の良好な燃費および排ガス特性の確保とを両立させることができる。
なお、第1および第2の実施形態では、パイロット失火が発生するおそれがないときに、パイロット噴射量補正値CPIによる目標パイロット噴射量QPICMDの増大補正を禁止しているが、この増大補正を禁止せずに、その補正量を抑制しながら行うようにしてもよい。
次に、図11を参照しながら、本発明の第3実施形態による燃料噴射制御装置1Bについて説明する。この燃料噴射制御装置1Bは、前述した第1実施形態による燃料噴射制御装置1と比較して、パイロット噴射量補正値CPIに代えて、第1パイロット噴射量補正値CPI1および第2パイロット噴射量補正値CPI2を算出する点が主に異なっており、メイン噴射時期TMIの制御については、第1実施形態と同様にして行われる。図11において、第1実施形態と同じ構成要素については、同じ符号を用いて示している。以下、第1実施形態と異なる点を中心に説明する。
図11に示すように、燃料噴射制御装置1Bは、前述した目標パイロット噴射量算出部51と、実EGRガス量算出部71、目標EGRガス量算出部72、偏差算出部73、第1補正値算出部74、第2補正値算出部75、および最終パイロット噴射量算出部76を備えており、これらはいずれも、ECU2によって構成されている。
目標パイロット噴射量算出部51は、前述したように目標パイロット噴射量QPICMDを算出し、最終パイロット噴射量算出部76に出力する。第1補正値算出部74には、前述したF/B補正値算出部47で算出されたF/B補正値CMIが入力される。第1補正値算出部74は、前述した補正値算出部52によるパイロット噴射量補正値CPIの算出手法と同様にして、入力されたF/B補正値CMIに応じ、第1パイロット噴射量補正値CPI1を算出し、最終パイロット噴射量算出部76に出力する。
実EGRガス量算出部71には、検出されたバルブリフト量LACTおよび排ガス流量QEが入力される。実EGRガス量算出部71は、入力されたバルブリフト量LACTおよび排ガス流量QEに応じ、マップ(図示せず)を検索することによって、前述したEGRガス量EGRACTを算出し、偏差算出部73に出力する。
目標EGRガス量算出部72には、エンジン回転数NEおよび要求トルクPMCMDが入力される。目標EGRガス量算出部72は、入力されたエンジン回転数NEおよび要求トルクPMCMDに応じ、マップ(図示せず)を検索することによって、目標EGRガス量EGRCMDを算出し、偏差算出部73に出力する。このマップでは、目標EGRガス量EGRCMDは、そのときのエンジン回転数NEおよび要求トルクPMCMDに対して、エンジン3の安定した燃焼状態が得られるようなEGRガス量EGRACTに設定されている。
偏差算出部73は、入力されたEGRガス量EGRACTと目標EGRガス量EGRCMDとの偏差(以下「EGRガス量偏差」という)DEGR(EGRACT−EGRCMD)を算出し、第2補正値算出部75に出力する。第2補正値算出部75は、入力されたEGRガス量偏差DEGRに応じ、第2パイロット噴射量補正値CPI2を算出し、最終パイロット噴射量算出部76に出力する。この第2パイロット噴射量補正値CPI2は、第1パイロット噴射量補正値CPI1と同様、目標パイロット噴射量QPICMDを増大補正するためのものであり、その算出手法については後述する。
最終パイロット噴射量算出部76は、入力された目標パイロット噴射量QPICMDに、第1および第2のパイロット噴射量補正値CPI1,CPI2を加算することによって、目標パイロット噴射量QPICMDを補正することで、最終パイロット噴射量QPIOUTを算出するとともに、算出した最終パイロット噴射量QPIOUTに基づく駆動信号を、インジェクタ6に出力する。
次に、第2補正値算出部75での第2パイロット噴射量補正値CPI2の算出について説明する。具体的には、EGRガス量偏差DEGRが所定値DEGRREFよりも小さいときには、第2パイロット噴射量補正値CPI2を値0に設定する。この所定値DEGRREFは、パイロット失火が発生するおそれがあるか否かを判別するためのものであり、次のようにして設定されている。すなわち、パイロット失火が発生するおそれがあるときのEGRガス量偏差DEGRを、エンジン回転数NEおよび要求トルクPMCMDにより定まる領域ごとに、あらかじめ行った実験によって求めたものである。
EGRガス量偏差DEGRがEGRガス量EGRACTと目標EGRガス量EGRCMDとの偏差(EGRACT−EGRCMD)であることと、EGRガス量EGRACTが大きいほど、燃料が燃焼しにくくなり、パイロット失火が発生しやすくなることから明らかなように、EGRガス量偏差DEGRが所定値DEGRREFよりも小さいということは、EGRガスの影響によってパイロット失火が発生するおそれがないことを表している。したがって、EGRガス量偏差DEGR<所定値DEGRREFのときには、EGRガス量の影響によってパイロット失火が発生するおそれがないとして、第2パイロット噴射量補正値CPI2は値0に設定され、それにより、この第2パイロット噴射量補正値CPI2による目標パイロット噴射量QPICMDの増大補正が禁止される。
一方、EGRガス量偏差DEGRが所定値DEGRREF以上のとき、すなわち、EGRガスの影響によりパイロット失火が発生するおそれがあるときには、第2パイロット噴射量補正値CPI2を、EGRガス量偏差DEGRに応じ、図12に示すDEGR−CPI2マップを検索することによって算出する。このDEGR−CPI2マップでは、第2パイロット噴射量補正値CPI2は、EGRガス量偏差DEGRが大きいほど、すなわち、パイロット失火が発生しやすいほど、より大きな値に設定されている。これは、目標パイロット噴射量QPICMDを増大補正することによって、パイロット噴射による燃料を良好に燃焼させることで、パイロット失火による燃焼音の過大化や燃焼状態の不安定化を防止するためである。
また、DEGR−CPIマップにおいて、EGRガス量偏差DEGRが比較的大きい領域では、パイロット噴射量補正値CPIは、ほぼ一定値に設定されている。これは、パイロット噴射量補正値CPIの増大補正によるパイロット噴射量QPIの過大化を防止するためである。
なお、本実施形態は、請求項3、4および5に係る発明に対応するものであり、本実施形態における各種の要素と請求項3、4および5に係る発明の各種の要素との対応関係は、次の通りである。すなわち、クランク角センサ32およびアクセル開度センサ37が、運転状態検出手段に相当し、バルブリフト量センサ35および排ガス流量センサ36が、燃焼要因パラメータ検出手段に相当し、ECU2が、燃焼状態パラメータ検出手段、運転状態検出手段、目標燃焼状態パラメータ設定手段、メイン噴射時期補正手段、燃焼要因パラメータ検出手段、およびパイロット噴射量補正手段に相当する。
また、要求トルク算出部41が運転状態検出手段に、実着火時期算出部44が焼状態パラメータ検出手段に、目標着火時期算出部45が目標燃焼状態パラメータ設定手段に、それぞれ相当する。さらに、F/B補正値算出部47および最終メイン噴射時期算出部48が、メイン噴射時期補正手段に相当し、実EGRガス量算出部71が、燃焼要因パラメータ検出手段に相当し、第2補正値算出部75および最終パイロット噴射量算出部76が、パイロット噴射量補正手段に相当する。また、エンジン回転数NEおよび要求トルクPMCMDが、検出された内燃機関の運転状態に相当し、実着火時期TFACTが燃焼状態パラメータに相当し、目標着火時期TFCMDが燃焼状態パラメータの目標値に相当する。さらに、目標メイン噴射時期TMICMDがメイン噴射の時期に、EGRガス量EGRACTが燃焼要因パラメータに、目標EGRガス量EGRCMDが基準値に、目標パイロット噴射量QPICMDがパイロット噴射による燃料量に、それぞれ相当する。
以上のように、本実施形態によれば、メイン噴射時期TMIが、第1実施形態と同様にして制御される。したがって、燃焼音を確実に抑制できるとともに、安定した燃焼状態を確実に得ることができる。
また、EGRガス量偏差DEGRが所定値DEGRREF以上で、パイロット失火が発生するおそれがあるときには、目標メイン噴射時期TMICMDの補正に加え、第2パイロット噴射量補正値CPI2による目標パイロット噴射量QPICMDの増大補正が、併せて行われる。これにより、パイロット噴射による燃料を良好に燃焼させることができ、それにより、パイロット失火による燃焼音の過大化や燃焼状態の不安定化を防止でき、その結果、燃焼音の抑制と燃焼状態の安定化を図ることができる。同じ理由により、目標メイン噴射時期TMICMDが大幅に進角側に補正されるのを防止できるので、そのような目標メイン噴射時期TMICMDの補正による失火の発生や、燃費および排ガス特性の悪化を防止することができる。さらに、EGRガス量偏差DEGRが所定値DEGRREFよりも小さく、パイロット失火が発生するおそれがないときには、第2パイロット噴射量補正値CPI2による目標パイロット噴射量QPICMDの増大補正が禁止される。これにより、目標パイロット噴射量QPICMDの不要な補正を回避でき、したがって、エンジン3の良好な燃費および排ガス特性を確保することができる。
さらに、第2パイロット噴射量補正値CPI2を、パイロット失火が発生しやすいほど、より大きな値に算出するので、パイロット失火による燃焼音の過大化などの防止と、エンジン3の良好な燃費および排ガス特性の確保とを両立させることができる。また、目標パイロット噴射量QPICMDの増大補正を、第1および第2のパイロット噴射量補正値CPI1,CPI2の双方を用いて行うので、よりきめ細かく行うことができ、したがって、この増大補正に関する効果、すなわち、パイロット失火による燃焼音の過大化や燃焼状態の不安定化の防止などの効果を効果的に得ることができる。
なお、第3実施形態では、EGRガス量EGRACTと目標EGRガス量EGRCMDとの偏差であるEGRガス量偏差DEGRに応じて、第2パイロット噴射量補正値CPI2を算出しているが、前者EGRACTと後者EGRCMDとの比(EGRACT/EGRCMD)に応じて、第2パイロット噴射量補正値CPI2を算出してもよい。また、第3実施形態では、EGRガス量偏差DEGRが所定値DEGRREF以下のときに、第2パイロット噴射量補正値CPI2による増大補正を禁止しているが、この増大補正を禁止せずに、その補正量抑制しながら行うようにしてもよい。このことは、第1パイロット噴射量補正値CPI1についても同様に当てはまる。
さらに、第3実施形態では、第1パイロット噴射量補正値CPI1の算出を、F/B補正値CMIに応じて行っているが、着火時期偏差DTFに応じて行ってもよい、また、第3実施形態では、F/B補正値CMIが所定値CMIREF以下のときに、第2パイロット噴射量補正値CPI2による増大補正のみを禁止しているが、それに加え、第1パイロット噴射量補正値CPI1による増大補正を禁止してもよい。このことは、請求項6に係る発明において、メイン噴射の時期の進角側への補正量が所定量よりも小さいときに、パイロット噴射による燃料量の補正を禁止することに相当する。
さらに、第3実施形態では、燃焼要因パラメータとして、EGRガス量EGRACTを用いているが、これに代えて、または、これとともに、気筒3b内における燃料の燃焼状態に影響を及ぼすパラメータであれば、例えば、EGR率rEGRや、EGRガスの温度、新気量QA、気筒3b内に吸入される新気の温度、燃料のセタン価、過給圧PACTなどを用いてもよい。それに加え、新気量QAの目標値と新気量QAとの偏差や、過給圧PACTの目標値と過給圧PACTとの偏差を用いてもよい。これらの目標値は、例えば、エンジン回転数NEや要求トルクPMCMDに応じて算出される。また、上記のEGRガスの温度および新気の温度は、例えば、EGR管14aおよび吸気管4に設けれらた温度センサによってそれぞれ検出される。さらに、燃料のセタン価は、例えば次のようにして算出される。
すなわち、セタン価が所定値である燃料をパイロット噴射を行わずにメイン噴射のみによって気筒3b内に供給した場合の実着火時期TFACTを、実験によりあらかじめ求め、基準着火時期として設定する。そして、燃料をメイン噴射のみによって気筒3b内に供給し、その状態で、実着火時期TFACTを算出し、算出した実着火時期TFACTと上記の基準着火時期との比較結果に基づいて、セタン価を算出する。
さらに、第3実施形態では、EGR装置14は、EGR管14aによってEGRガスを吸気管4に還流させる、いわゆる外部EGR装置であるが、既燃ガスの一部をEGRガスとして気筒3b内に存在させられるものであれば、他の装置でもよい。例えば、エンジン3の吸気弁や排気弁のバルブタイミングの制御により気筒3b内に既燃ガスを残留させる、いわゆる内部EGR装置でもよい。また、第3実施形態において、EGRガス量EGRACTおよび目標EGRガス量EGRCMDに応じた目標パイロット噴射量QPICMDの補正に代えて、または、これとともに、筒内圧変化率dPθおよび目標筒内圧変化率に応じた目標パイロット噴射量QPICMDの補正を行ってもよい。
なお、本発明は、説明した第1〜第3の実施形態に限定されることなく、種々の態様で実施することができる。例えば、実施形態では、本発明における燃焼状態パラメータとして、実着火時期TFACTを用いているが、これに代えて、または、これとともに、気筒3b内における燃料の燃焼状態を表すものであれば、例えば、最終メイン噴射時期TMICMDから実着火時期TFACTまでの着火遅れ期間や、筒内圧変化率dPθを用いてもよい。また、実施形態では、本発明における内燃機関としてのエンジン3は、車両を駆動するためのディーゼルエンジンであるが、気筒内に燃料が噴射されるとともに、ピストンによる圧縮によって燃料が自己着火するエンジンであれば、例えば、ガソリンエンジンや、液化石油ガスを燃料とするエンジン、クランク軸を鉛直方向に配置した船外機などのような船舶推進機用エンジン、その他、産業用の各種のエンジンでもよい。その他、本発明の趣旨の範囲内で、細部の構成を適宜、変更することが可能である。