1.防錆剤組成物
本発明の防錆剤組成物は、(A)油溶性有機金属塩、および(B)ベンゾトリアゾールを含有することを特徴とする。(A)油溶性有機金属塩と(B)ベンゾトリアゾールの共存による防錆作用の相乗効果により、アルミニウム純度の高いアルミニウム合金のみならず、アルミダイカストのような銅を一定量含有するアルミニウム合金に対しても、塩基性条件下等幅広い条件で腐食を防止できるとともに、リン系化合物を含まないため、廉価で保存安定性が高く、高性能の水性防錆潤滑剤を提供することができる。
以下、本発明の防錆剤組成物を構成する(A)油溶性有機金属塩、および(B)ベンゾトリアゾールについて説明する。
本発明において、(A)油溶性有機金属塩は、有機酸と金属とで形成される有機金属塩であって、化合物全体として油溶性であるものをいう。ここで、本発明において油溶性とは、鉱物油などの疎水性の溶剤に1質量%以上溶解しうる性質をいうものとする。(A)油溶性有機金属塩は、金属表面に物理吸着し、多重防錆層を形成することができる。
前記有機酸としては、炭素数4〜20のカルボン酸、炭素数6〜40のスルホン酸が好ましい。有機酸の炭素数が上記範囲であると、鉱物油などの疎水性溶剤にも好適な溶解性を示すため、水性防錆潤滑剤の調製が容易である。
前記炭素数4〜20のカルボン酸としては、鎖式または環式(単環もしくは多環)の脂肪族カルボン酸が好ましい。前記炭素数4〜20のカルボン酸としては、具体的には、ブタン酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ウンデカン酸、ドデカン酸、トリデカン酸、テトラデカン酸、ペンタデカン酸、ヘキサデカン酸、ヘプタデカン酸、オクタデカン酸、ノナデカン酸、イコサン酸等の炭素数4〜20のアルカンカルボン酸;シクロプロパンカルボン酸、シクロブタンカルボン酸、シクロペンタンカルボン酸、シクロヘキサンカルボン酸、シクロヘプタンカルボン酸、シクロオクタンカルボン酸、シクロノナンカルボン酸、シクロデカンカルボン酸、シクロドデカンカルボン酸、2−シクロペンチル酢酸、2−シクロヘキシル酢酸、2−シクロヘプチル酢酸、3−シクロペンチルプロピオン酸、3−シクロヘキシルプロピオン酸、3−シクロヘプチルプロピオン酸、4−シクロペンチル酪酸、4−シクロヘキシル酪酸、4−シクロヘプチル酪酸等の炭素数4〜20の単環式のシクロアルカンカルボン酸;デカヒドロナフタレンカルボン酸、ノルボルナンカルボン酸等の炭素数4〜20の多環式のシクロアルカンカルボン酸;シクロプロペンカルボン酸、シクロペンテンカルボン酸、シクロヘキセンカルボン酸、シクロヘプテンカルボン酸、シクロオクテンカルボン酸等の単環式のシクロアルケンカルボン酸;等が好ましい。前記単環式または多環式のシクロアルカンカルボン酸、単環式のシクロアルケンカルボン酸の環上の水素原子は、メチル基、エチル基等の炭素数1〜3のアルキル基で置換されていてもよい。カルボン酸は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよいが、2種以上が混合されたものであることが好ましい。カルボン酸の炭素数は、より好ましくは5〜10である。カルボン酸としては、シクロペンタンカルボン酸やシクロヘキサンカルボン酸の混合物であるナフテン酸(CAS:1338−24−5)を特に好ましく使用することができる。ナフテン酸は、石油から生産されるカルボン酸であり、シクロペンタンカルボン酸、シクロヘキサンカルボン酸を主要成分とするカルボン酸が混合されたものである。ナフテン酸を用いることで、(A)油溶性有機金属塩の油溶性を高めることができるため、水性防錆潤滑剤の調製がより一層容易となる。
上記炭素数6〜40のスルホン酸としては、単環または多環の芳香族スルホン酸が好ましい。炭素数6〜40の単環の芳香族スルホン酸としては、具体的には、ヘプチルベンゼンスルホン酸;オクチルベンゼンスルホン酸、ノニルベンゼンスルホン酸、デシルベンゼンスルホン酸、ウンデシルベンゼンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸等の炭素数6〜40のアルキルベンゼンスルホン酸;ジヘプチルベンゼンスルホン酸、ジオクチルベンゼンスルホン酸、ジノニルベンゼンスルホン酸、ジデシルベンゼンスルホン酸、ジウンデシルベンゼンスルホン酸等の炭素数6〜40のジアルキルベンゼンスルホン酸が挙げられる。また、炭素数6〜40の多環の芳香族スルホン酸としては、ヘプチルナフタレンスルホン酸、オクチルナフタレンスルホン酸、ノニルナフタレンスルホン酸、デシルナフタレンスルホン酸、ウンデシルナフタレンスルホン酸、ドデシルナフタレンスルホン酸等の炭素数6〜40のアルキルナフタレンスルホン酸;ジヘプチルナフタレンスルホン酸、ジオクチルナフタレンスルホン酸、ジノニルナフタレンスルホン酸、ジデシルナフタレンスルホン酸、ジウンデシルナフタレンスルホン酸等の炭素数6〜40のジアルキルナフタレンスルホン酸等が挙げられる。スルホン酸は、1種を単独で用いても良いし、2種以上を混合して用いてもよいが、1種を単独で用いることが好ましい。スルホン酸の炭素数は、より好ましくは20〜35、さらに好ましくは25〜30である。スルホン酸の炭素数が上記範囲であると、(A)油溶性有機金属塩の油溶性を高めることができるため、水性防錆潤滑剤の調製がより一層容易となる。
また、有機酸と共に上記(A)油溶性有機金属塩を形成する金属としては、亜鉛等の第12族元素、および、マグネシウム等の第2族元素が好ましく、亜鉛、マグネシウムがより好ましい。マグネシウムや亜鉛は、前記有機酸と安定した塩を形成するため、防錆剤組成物の安定性を一層向上することができる。
(A)油溶性有機金属塩としては、ナフテン酸金属塩、炭素数20〜35のジアルキルスルホン酸金属塩が好ましく、ナフテン酸金属塩、ジノニルナフタレンスルホン酸金属塩がより好ましく、ナフテン酸亜鉛が特に好ましい。上記ナフテン酸亜鉛塩は通常鉱物油や芳香族系溶剤に溶解された液体の形態で市販されているが、望ましくは人体への有害性を考慮して芳香族系溶剤を含有しないものを使用するのが適当である。
(A)油溶性有機金属塩の含有量は、防錆剤組成物全体を100質量部としたとき、1質量部以上であることが好ましい。(A)油溶性有機金属塩の含有量が多いほど、防錆性能が良好となる。そのため、(A)油溶性有機金属塩の含有量は、より好ましくは10質量部以上、さらに好ましくは20質量部以上である。また、(A)油溶性有機金属塩の含有量が適量であると、(B)ベンゾトリアゾールと金属の間の化学結合形成と、(A)油溶性有機金属塩と金属の物理的吸着による多重防錆層形成とのバランスに優れ、防錆性能が相乗的に良好となる。そのため、(A)油溶性有機金属塩の含有量は、60質量部以下が好ましく、より好ましくは40質量部以下であり、さらに好ましくは30質量部以下である。
上記(B)ベンゾトリアゾールは市販されている結晶形態のものを使用すればよい。(B)ベンゾトリアゾールは、金属表面において金属元素との錯体を形成することができるため、本発明の防錆剤組成物は、優れた防錆性能を発揮する。特に、(A)油溶性有機金属塩と(B)ベンゾトリアゾールとを併用することにより、金属と防錆成分とが化学吸着した上に、さらに、多重防錆層が形成されるため、本発明の防錆剤組成物は、低濃度であっても優れた防錆性能を発揮することができる。
(B)ベンゾトリアゾールの含有量は、防錆剤組成物全体を100質量部としたとき、0.1質量部以上であることが好ましい。(B)ベンゾトリアゾールの含有量が多いほど、(B)ベンゾトリアゾールと金属との間の結合が強固となり、より安定した防錆性能を発揮させることが可能となる。そのため、より好ましくは1質量部以上、さらに好ましくは3質量部以上である。また、(B)ベンゾトリアゾールの含有量が適量であると、(B)ベンゾトリアゾールと金属の間の化学結合形成と、(A)油溶性有機金属塩と金属の物理的吸着による多重防錆層形成とのバランスに優れ、塩基性条件下でも防錆性能が相乗的に良好となる。そのため、(B)ベンゾトリアゾールの含有量は、20質量部以下が好ましく、より好ましくは10質量部以下であり、さらに好ましくは7質量部以下である。
本発明の防錆剤組成物において、(B)ベンゾトリアゾールの含有量は、(A)油溶性有機金属塩1質量部に対し、0.01質量部以上であることが好ましい。(B)ベンゾトリアゾールの含有量が多いほど、より安定した防錆性能を発揮させることが可能となる。そのため、より好ましくは0.05質量部以上、さらに好ましくは0.1質量部以上である。また、(B)ベンゾトリアゾールの含有量が適量であると、(B)ベンゾトリアゾールと(A)油溶性有機金属塩の防錆効果が塩基性条件下でも相乗的に発揮される。そのため、(B)ベンゾトリアゾールの含有量は、(A)油溶性有機金属塩1質量部に対し、0.5質量部以下であることが好ましく、より好ましくは0.4質量部以下であり、さらに好ましくは0.3質量部以下である。
本発明の防錆剤組成物は、さらに、(C)有機アミンを含むことが好ましい。本発明において、(C)有機アミンとは、アンモニアの水素原子のうち1以上を有機基で置換した化合物を意味し、1分子内に有機基を介して2以上のアミノ基を有していてもよい。前記有機基としては、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数3〜8のシクロアルキル基、炭素数2〜5のヒドロキシアルキル基が挙げられる。前記炭素数1〜8のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、2−プロピル基、ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、エチルヘキシル基等が挙げられる。前記炭素数3〜8のシクロアルキル基としては、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基等が挙げられる。また、前記炭素数2〜5のヒドロキシアルキル基としては、ヒドロキシメチル基、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基、ヒドロキシブチル基、ヒドロキシペンチル基等が挙げられる。
上記(C)有機アミンとしては、具体的には、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、ジエチルエタノールアミンのようなエタノールアミン類;モノイソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミンのようなイソプロパノールアミン類;シクロヘキシルアミン、ジシクロヘキシルアミン、シクロヘキシルジエタノールアミンのようなシクロヘキシルアミン類;メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、イソプロピルアミン、ブチルアミン、ジブチルアミン、トリブチルミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、2−エチルヘキシルアミン、エチレンジアミン、ジエチレントリアミンなどのような脂肪族アミン類;が挙げられる。(C)有機アミンは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合せて用いてもよい。
中でも、(C)有機アミンとしては、下記一般式(C1)
[一般式(C1)中、R1、R2は、それぞれ独立に、炭素数2〜5のヒドロキシアルキル基を表す。
R3は、炭素数1〜8のアルキル基、または炭素数3〜8のシクロアルキル基を表す。]
で表される化合物(以下、「有機アミン(C1)」ということがある。)が好ましい。有機アミン(C1)は、1分子中に、2個のヒドロキシアルキル基を有することにより、金属表面に吸着することができ、pH緩衝作用とともに防錆作用をも発揮することができるため好ましい。
一般式(C1)中、R1、R2としては、炭素数2〜5のヒドロキシアルキル基として例示した基と同様の基が挙げられる。防錆性能を一層向上する観点からは、R1、R2のヒドロキシアルキル基は炭素数2〜4であることがより好ましく、炭素数2〜3であることがさらに好ましい。
また、一般式(C1)中、R3としては、炭素数1〜8のアルキル基、または炭素数3〜8のシクロアルキル基として例示した基と同様の基が挙げられる。R3としては、防錆性能を一層向上する観点から、炭素数1〜3のアルキル基、または炭素数4〜8のシクロアルキル基であることがより好ましく、炭素数5〜7のシクロアルキル基であることがさらに好ましい。また、R3がシクロアルキル基であると、水希釈液の乳化安定性が一層良好となるため好ましい。
(C)有機アミンの含有量は、防錆剤組成物全体を100質量部としたとき、1質量部以上であることが好ましい。(C)有機アミンの含有量が多いほど、pH緩衝作用が良好となり、後述する水希釈液の乳化安定性が良好であるとともに、細菌等による腐敗を抑制できる。そのため、より好ましくは10質量部以上、さらに好ましくは15質量部以上である。また、(C)有機アミンの含有量が適量であると、水希釈液のpHが高くなりすぎず、金属の腐食を抑制できる。そのため、(C)有機アミンの含有量は、60質量部以下であることが好ましく、より好ましくは40質量部以下であり、さらに好ましくは30質量部以下である。
また、(C)有機アミンの含有量は、(A)油溶性有機金属塩と(B)ベンゾトリアゾールの合計1質量部に対して、0.1質量部以上であることが好ましい。(C)有機アミンの含有量が多いほど、pH緩衝作用が良好となる。そのため、より好ましくは0.3質量部以上であり、さらに好ましくは0.5質量部以上である。また、(C)有機アミンの含有量が適量であると、水希釈液のpHが高くなりすぎず、金属の腐食を抑制できる。そのため、(C)有機アミンの含有量は、(A)油溶性有機金属塩と(B)ベンゾトリアゾールの合計1質量部に対して1.2質量部以下であることが好ましく、より好ましくは1質量部以下であり、さらに好ましくは0.8質量部以下である。
さらに、(C)有機アミンが上記有機アミン(C1)を含む場合、有機アミン(C1)の含有量は、(C)有機アミン全体100質量部に対して、50質量部以上であることが好ましく、より好ましくは80質量部以上、さらに好ましくは90質量部以上、特に好ましくは100質量部である。(C)有機アミン中、有機アミン(C1)の含有量が多いほど、塩基性条件下でも一層防錆性能が良好となる。
本発明の防錆剤組成物は、さらに、(D)鉱物油を含むことが好ましい。(D)鉱物油は、一般に、石油、岩石などの鉱物由来の油状物質をいい、脂肪油などの有機性油状物質と区別される。(D)鉱物油は、パラフィン系鉱物油、ナフテン系鉱物油、オレフィン系鉱物油、芳香族系鉱物油に分類されるが、本発明においては、ナフテン系鉱物油、パラフィン系鉱物油を用いることが好ましい。ナフテン系鉱物油は、高分子量のパラフィン系炭化水素を含まないため、室温程度でも流動性が良好であり、(A)油溶性有機金属塩のみならず、(B)ベンゾトリアゾール、(C)有機アミン等の極性分子を溶解する能力が高いため好ましい。パラフィン系鉱物油は、汎用性が高く、入手が容易であるため好ましい。(D)鉱物油の流動性は、動粘度測定で確認することができ、例えば、40℃における(D)鉱物油の動粘度は20mm2/s以下であることが好ましく、より好ましくは18mm2/s以下であり、さらに好ましくは16mm2/s以下である。(D)鉱物油の動粘度の下限は、特に限定されないが、例えば8mm2/s程度である。なお、ナフテン系鉱物油は一般に、ナフテン系炭化水素を30〜45質量%含むものとされ、パラフィン系鉱物油は、パラフィン系炭化水素を60〜75質量%含むものとされている。
(D)鉱物油の含有量は、液状として製剤可能である限り特に制限されないが、防錆剤組成物全体を100質量部としたとき、20質量部以上であることが好ましい。(D)鉱物油の含有量が多いと、防錆剤組成物の組成均一性が良好となる。そのため、より好ましくは30質量部以上であり、さらに好ましくは40質量部以上である。また、(D)鉱物油の含有量が適量であると、(A)油溶性有機金属塩、(B)ベンゾトリアゾール、(C)有機アミンによる防錆作用が好適に発揮される。そのため、(D)鉱物油の含有量は、90質量部以下であることが好ましく、より好ましくは80質量部以下であり、さらに好ましくは70質量部以下である。
(D)鉱物油の含有量は、(A)油溶性有機金属塩、(B)ベンゾトリアゾール、(C)有機アミンの合計100質量部に対して70質量部以上であることが好ましい。(D)鉱物油の含有量が多いほど、防錆剤組成物の均一性が良好となり、後述する水性防錆潤滑剤の調製が容易となる。そのため、より好ましくは80質量部以上であり、さらに好ましくは90質量部以上である。また、(D)鉱物油の含有量が適量であると、(A)油溶性有機金属塩、(B)ベンゾトリアゾール、(C)有機アミンによる防錆作用が好適に発揮される。そのため、(D)鉱物油の含有量は、(A)油溶性有機金属塩、(B)ベンゾトリアゾール、(C)有機アミンの合計100質量部に対して130質量部以下であることが好ましく、より好ましくは120質量部以下であり、さらに好ましくは110質量部以下である。
本発明の防錆剤組成物は、さらに、アルコール類;グリコール類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;ジメチルエーテル等のエーテル類;酢酸エステル等のエステル類;などの水溶性溶剤を含んでいてもよい。水溶性溶剤を含むことにより、防錆剤組成物の均一性が一層向上することがある。水溶性溶剤を含む場合、水溶性溶剤の含有量は、防錆剤組成物全体を100質量部としたとき、0.01質量部以上であることが好ましく、より好ましくは0.1質量部以上であり、さらに好ましくは1質量部以上であり、10質量部以下であることが好ましく、より好ましくは5質量部以下であり、さらに好ましくは3質量部以下である。
2.防錆剤
本発明の防錆剤組成物は、防錆剤として好適に使用することができる。本発明の防錆剤は、長期保存も可能であり、使用時に他の成分と混合して後述する水性防錆潤滑剤を調製できる。本発明の防錆剤は、(A)油溶性有機金属塩、(B)ベンゾトリアゾール、(C)有機アミン、(D)鉱物油を所定量含むものであるため、水性防錆潤滑剤中における(A)油溶性有機金属塩、(B)ベンゾトリアゾール、(C)有機アミンの分散状態が良好となり、塩基性条件下でも安定した防錆性能を発揮させることが可能となる。
本発明の防錆剤は、上記防錆剤組成物の成分を混合することにより調製できる。混合方法としては、従来公知の混合方法を用いればよい。上記成分が均一に混合しない場合、混合に際して混合液を加熱してもよい。加熱温度は、例えば、60〜90℃(より好ましくは70〜80℃)であることが好ましい。上記温度で加熱しながら混合することにより、(A)油溶性有機金属塩、(B)ベンゾトリアゾール、および(C)有機アミンを均一に(D)鉱物油中に分散させることができ、後述する水性防錆潤滑剤の調製が一層容易となる。
3.水性防錆潤滑剤
本発明の水性防錆潤滑剤は、前記防錆剤と、(E)界面活性剤、および(D’)鉱物油もしくは合成油を含有するものであることが好ましい。
本発明の水性防錆潤滑剤は、前記防錆剤を含有することにより、低濃度でも優れた防錆性能を発揮することができ、アルミニウム純度の高いアルミニウム合金のみならず、アルミダイカストのような、銅を一定量含有するアルミニウム合金に対しても腐食を防止することができる。防錆剤の含有量は、水性防錆潤滑剤全体を100質量部としたとき、0.1質量部以上であることが好ましい。防錆剤の含有量が多いほど、水性防錆潤滑剤の防錆性能が高められる。そのため、より好ましくは0.2質量部以上、さらに好ましくは0.3質量部以上である。また、防錆剤の含有量は、適量であると、防錆効果が飽和せず、防錆効果の効率が良好となる。そのため、防錆剤の含有量は、25質量部以下であることが好ましく、より好ましくは20質量部以下であり、さらに好ましくは15質量部以下であり、特に好ましくは10質量部以下である。
また、防錆剤に含まれる成分の中でも、(A)油溶性有機金属塩の含有量は、水性防錆潤滑剤全体を100質量部としたとき、0.01質量部以上であることが好ましく、0.05質量部以上であることがより好ましく、さらに好ましくは0.1質量部以上である。水性防錆潤滑剤中、(A)油溶性有機金属塩の含有量が多いほど、防錆性能が良好となる。また、(A)油溶性有機金属塩の含有量は、10質量部以下であることが好ましく、より好ましくは2質量部以下であり、さらに好ましくは1.5質量部以下である。水性防錆潤滑剤中、(A)油溶性有機金属塩の含有量が適度な範囲であると、(B)ベンゾトリアゾールと金属の間の化学結合形成と、(A)油溶性有機金属塩と金属の物理吸着による多重防錆層形成とのバランスに優れ、防錆性能が相乗的に良好となる。
また、(B)ベンゾトリアゾールの含有量は、水性防錆潤滑剤全体を100質量部としたとき、0.001質量部以上であることが好ましく、0.005質量部以上であることがより好ましく、さらに好ましくは0.01質量部以上である。水性防錆潤滑剤中、(B)ベンゾトリアゾールの含有量が多いほど、(B)ベンゾトリアゾールと金属との間に形成される結合が強固となり、より安定した防錆性能が発揮される。また、(B)ベンゾトリアゾールの含有量は、1質量部以下であることが好ましく、より好ましくは0.5質量部以下であり、さらに好ましくは0.3質量部以下である。水性防錆潤滑剤中、(B)ベンゾトリアゾールの含有量が適度な範囲であると、(B)ベンゾトリアゾールと金属の間の化学結合形成と、(A)油溶性有機金属塩と金属の物理的吸着による多重防錆層形成とのバランスに優れ、防錆性能が相乗的に良好となる。
また、本発明の(B)ベンゾトリアゾールの含有量は、(A)油溶性有機金属塩1質量部に対し、0.01質量部以上であることが好ましい。(B)ベンゾトリアゾールの含有量が多いほど、より安定した防錆性能を発揮させることが可能となる。そのため、より好ましくは0.05質量部以上、さらに好ましくは0.1質量部以上である。また、(B)ベンゾトリアゾールの含有量が適量であると、(B)ベンゾトリアゾールと(A)油溶性有機金属塩の防錆効果が相乗的に発揮される。そのため、(B)ベンゾトリアゾールの含有量は、(A)油溶性有機金属塩1質量部に対し、0.5質量部以下であることが好ましく、より好ましくは0.4質量部以下であり、さらに好ましくは0.3質量部以下である。
さらに、(C)有機アミンの含有量は、水溶性防錆潤滑剤全体を100質量部としたとき、0.001質量部以上であることが好ましく、より好ましくは0.005質量部以上であり、さらに好ましくは0.01質量部以上である。(C)有機アミンの含有量が多いほど、pH緩衝作用が良好となり、後述する水希釈液の乳化安定性が良好であるとともに、細菌等による腐敗を抑制できる。また、(C)有機アミンの含有量は、1質量部以下であることが好ましく、より好ましくは0.5質量部以下であり、さらに好ましくは0.3質量部以下である。水性防錆潤滑剤中、(C)有機アミンの含有量が適度な範囲であると、水希釈液のpHが高くなりすぎず、金属の腐食を抑制できる。
また、(C)有機アミンの含有量は、(A)油溶性有機金属塩と(B)ベンゾトリアゾールの合計1質量部に対して、0.1質量部以上であることが好ましい。(C)有機アミンの含有量が多いほど、pH緩衝作用が良好となる。そのため、より好ましくは0.3質量部以上であり、さらに好ましくは0.5質量部以上である。また、(C)有機アミンの含有量が適量であると、水希釈液のpHが高くなりすぎず、金属の腐食を抑制できる。そのため、(C)有機アミンの含有量は、(A)油溶性有機金属塩と(B)ベンゾトリアゾールの合計1質量部に対して1.2質量部以下であることが好ましく、より好ましくは1質量部以下であり、さらに好ましくは0.8質量部以下である。
本発明の水性防錆潤滑剤は、(E)界面活性剤を含むことにより、後述する水希釈液の乳化安定性が良好となる。(E)界面活性剤としては、両親媒性を有するものであれば特に限定されないが、界面活性作用の観点からは、非イオン性界面活性剤、陰イオン性界面活性剤が好ましい。また、水性防錆潤滑剤の調製が容易となる観点から、油溶性が高いものが好ましい。
この様な非イオン性界面活性剤としては、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシソルビトール脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレンエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル等の脂肪酸エステルが挙げられ、好ましくはソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレンエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルであり、さらに好ましくはソルビタン脂肪酸エステルである。ソルビタン脂肪酸エステルとしては、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノパルミテート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンモノオレート等のソルビタン脂肪酸モノエステル;ソルビタンジラウレート、ソルビタンジパルミテート、ソルビタンジステアレート、ソルビタンジオレート等のソルビタン脂肪酸ジエステル;ソルビタントリラウレート、ソルビタントリパルミテート、ソルビタントリステアレート、ソルビタントリオレート等のソルビタン脂肪酸トリエステル;が挙げられる。ポリオキシアルキレンエーテルとしては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコール共重合体等のポリアルキレングリコール;ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシプロピレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシプロピレンオレイルエーテル等のポリオキシアルキレンアルキルエーテル;ポリオキシエチレンアリルフェニルエーテル、ポリオキシプロピレンアリルフェニルエーテル等のポリオキシアルキレンアリールエーテル;等が挙げられる。相乗的防錆作用を効果的に発揮させる観点から、非イオン性界面活性剤としては、好ましくはソルビタン脂肪酸トリエステルであり、特に好ましくはソルビタントリオレートである。
また、前記陰イオン性界面活性剤としては、パラフィン系石油スルホン酸塩、ナフテン系石油スルホン酸塩、オレフィン系石油スルホン酸塩、芳香族系石油スルホン酸塩等のスルホン酸塩が挙げられ、相乗的防錆作用を効果的に発揮させる観点から、芳香族系石油スルホン酸塩が好ましく、芳香族系石油スルホン酸ナトリウムがより好ましい。
本発明の水性防錆潤滑剤においては、非イオン性界面活性剤と陰イオン性界面活性剤を組合せて用いることが好ましい。
(E)界面活性剤の含有量は、水性防錆潤滑剤全体を100質量部としたときに、5質量部以上であることが好ましい。(E)界面活性剤の含有量が多いほど、水希釈液の乳化安定性が良好である。そのため、より好ましくは7質量部以上であり、さらに好ましくは10質量部以上である。また、(E)界面活性剤の含有量が適量であると、防錆剤による防錆性能を効果的に発揮できる。そのため、(E)界面活性剤の含有量は、50質量部以下であることが好ましく、より好ましくは40質量部以下であり、さらに好ましくは20質量部以下である。
また、(E)界面活性剤が、非イオン性界面活性剤と陰イオン性界面活性剤の組み合わせである場合、非イオン性界面活性剤と陰イオン性界面活性剤の比率は、質量比(非イオン性界面活性剤:陰イオン性界面活性剤)で1:1.2〜4であることが好ましい。非イオン性界面活性剤と陰イオン性界面活性剤の比率が前記範囲であると、水希釈液の乳化安定性が良好に保たれるとともに、防錆剤による防錆作用が効果的に発揮される。そのため、より好ましくは1:1.5〜3であり、さらに好ましくは1:1.8〜2.5である。
本発明の水性防錆潤滑剤は、(D’)鉱物油もしくは合成油を含む。(D’)鉱物油および合成油としては、例えば、パラフィン系鉱物油、ナフテン系鉱物油、オレフィン系鉱物油、芳香族系鉱物油等の鉱物油;炭化水素系合成油、エステル系合成油、エーテル系合成油、シリコン系合成油、フッ素系合成油等の合成油が挙げられる。中でも、(D’)鉱物油または合成油としては、鉱物油が好ましく、ナフテン系鉱物油を含むことがより好ましい。(D’)鉱物油または合成油は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組合せて用いてもよいが、水希釈液の乳化安定性の観点からは、1種を単独で用いることが好ましい。(D’)鉱物油または合成油は、前記防錆剤、(E)界面活性剤を分散させる溶媒に相当するものであり、水希釈液においては、エマルションの液滴(海島構造の島部分)を形成する。
水性防錆潤滑剤の(D’)鉱物油または合成油と、防錆剤の(D)鉱物油とは、同一でも異なっていてもよいが、水希釈液の乳化安定性の観点からは、同一の鉱物油(好ましくはナフテン系鉱物油)を含むものであることが好ましい。
本発明の水性防錆潤滑剤において、(D’)鉱物油または合成油の含有量は、水性防錆潤滑剤が液体として製剤可能であれば特に限定されないが、一般に、水性防錆潤滑剤の全体を100質量部としたとき、例えば、5質量部以上であり、好ましくは25質量部以上である。(D’)鉱物油または合成油の含有量が多いと、水性防錆潤滑剤の組成均一性が良好となる。そのため、より好ましくは30質量部以上、さらに好ましくは50質量部以上、特に好ましくは70質量部以上である。また、(D’)鉱物油または合成油の含有量が適量であると、水性防錆潤滑剤の防錆潤滑作用が効果的に発揮される。そのため、(D’)鉱物油または合成油の含有量は、例えば95質量部以下であり、好ましくは90質量部以下、より好ましくは85質量部以下である。
また、本発明の水性防錆潤滑剤において、(D)鉱物油と(D’)鉱物油または合成油の含有量の合計は、水性防錆潤滑剤の全体を100質量部としたとき、例えば5質量部以上であり、好ましくは25質量部以上、より好ましくは30質量部以上、さらに好ましくは50質量部以上、特に好ましくは70質量部以上である。また、例えば95質量部以下であり、好ましくは90質量部以下、さらに好ましくは85質量部以下である。
本発明の水性防錆潤滑剤は、さらに、(C’)有機アミン、(F)極圧添加剤、(G)防腐剤、(H)水、(I)消泡剤等を含有していてもよい。
本発明の水性防錆潤滑剤は、後述する水希釈液のpHを調整するため、(C’)有機アミンをさらに含むことが好ましい。(C’)有機アミンとしては、pH緩衝作用に優れ、金属を腐食しにくい観点から、モノアルカノールアミン、ジアルカノールアミン、トリアルカノールアミン等のアルカノールアミンが好ましく、ジアルカノールアミンがより好ましい。ジアルカノールアミンは、pH緩衝作用の観点から、N−置換基が互いに同一でも異なっていてもよい2つのヒドロキシアルキル基のみであるジアルカノールアミンであることが好ましい。ジアルカノールアミンとしては、ジエタノールアミン、ジプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、ジブタノールアミン、ジ−tert−ブタノールアミンが挙げられ、ジエタノールアミン、ジイソプロパノールアミンが好ましく、ジエタノールアミンがより好ましい。
アルカリ性物質としての(C’)有機アミンと、防錆剤に含まれる(C)有機アミンとは、同一でも異なっていてもよいが、異なっていることが好ましい。
また、(A)油溶性有機金属塩、(B)ベンゾトリアゾール、および(C)有機アミンによる防錆剤による防錆作用が一層効果的となる観点から、(C’)有機アミン中、上記有機アミン(C1)の含有量は、(C’)有機アミンの全量100質量部に対して、3質量部以下であることが好ましく、より好ましくは1質量部以下であり、全く含まれないことがさらに好ましい。
本発明の水性防錆潤滑剤が(C’)有機アミンを含む場合、(C’)有機アミンの含有量は、水性防錆潤滑剤の全体を100質量部としたとき、好ましくは0.5質量部以上であり、より好ましくは1質量部以上、さらに好ましくは1.5質量部以上である。(C’)有機アミンの含有量が多いほど、pH緩衝作用が良好となる。また、(C’)有機アミンの含有量は、好ましくは7質量部以下であり、より好ましくは5質量部以下、さらに好ましくは3質量部以下である。(C’)有機アミンの含有量が適度な範囲であると、pHが高くなりすぎず、金属材の腐食が抑制される。
また、本発明の水性防錆潤滑剤が(C’)有機アミンを含む場合、(C)有機アミンと(C’)有機アミンの含有量の合計は、水性防錆潤滑剤の全体を100質量部としたとき、好ましくは1質量部以上、より好ましくは1.5質量部以上、さらに好ましくは2質量部以上である。また、好ましくは10質量部以下、より好ましくは7質量部以下、さらに好ましくは5質量部以下である。(C)有機アミンと(C’)有機アミンの含有量の合計が上記範囲であると、防錆作用が良好であるとともに、pH緩衝作用に優れる。
さらに、本発明の水性防錆潤滑剤が(C’)有機アミンを含む場合、(C’)有機アミンの含有量は、(C)有機アミンと(C’)有機アミンの合計100質量部に対して、40質量部以上であることが好ましく、より好ましくは50質量部以上であり、さらに好ましくは60質量部以上である。(C’)有機アミンの含有量が相対的に多いほど、pH緩衝作用が良好となる。また、(C’)有機アミンの含有量は、(C)有機アミンと(C’)有機アミンの合計100質量部に対して、99質量部以下であることが好ましく、より好ましくは97質量部以下であり、さらに好ましくは96質量部以下である。(C’)有機アミンの含有量が適度な範囲であると、(A)油溶性有機金属塩、(B)ベンゾトリアゾール、および(C)有機アミンによる相乗的防錆作用が効果的に発揮される。
前記(F)極圧添加剤としては、例えば、塩素系極圧添加剤、硫黄系極圧添加剤、およびリン酸系極圧添加剤等が挙げられる。塩素系極圧添加剤としては、塩素化パラフィン、メチルトリクロロステアレート等が挙げられる。硫黄系極圧添加剤としては、ジベンジルジスルフィド、アルキルポリスルフィド、オレフィンポリスルフィド、硫化油脂、硫化エステル等が挙げられる。リン酸系極圧添加剤としては、トリクレジルリン酸塩、ラウリルリン酸塩、トリブチルリン酸塩、ジラウリルリン酸塩、ジアルキルジチオリン酸亜鉛、ジアリルジチオリン酸亜鉛、リン酸エステルのアミン塩、ジアルキルジチオカルバミン酸亜鉛が挙げられる。作業環境の観点から、前記(F)極圧添加剤としては、硫黄系、リン酸系を使用することが好ましい。水性防錆潤滑剤に(F)極圧添加剤を配合する場合、その含有量は、配合効果および経済性の点から、水性防錆潤滑剤全体としての量を100質量部としたとき、通常0.01質量部以上30質量部以下であり、より好ましくは0.01質量部以上10質量部以下である。
前記(G)防腐剤としては、例えば、o−フェニルフェノール、Na−o−フェニルフェノール、2,3,4,6−テトラクロロフェノール等のフェノール系化合物;2−ハイドロキシメチル−2−ニトロ−1,3−プロパンジオール、ヘキサハイドロ−1,3,5−トリス(2−ハイドロキシエチル)−(s)−トリアジン等のホルムアルデヒド供与体化合物、その他、トリブロモサリチルアニリドとジブロモサリチルアニリドの混合物等を使用することができる。水性防錆潤滑剤に(G)防腐剤を配合する場合、その含有量は、配合効果および経済性の点から、水性防錆潤滑剤全体としての量を100質量部としたとき、通常0.01質量部以上30質量部以下であり、より好ましくは0.01質量部以上10質量部以下である。
本発明の水性防錆潤滑剤に含まれる(H)水としては、日本薬局方で規定される常水(いわゆる水道水)、精製水等を好ましく用いることができる。(H)水を含む場合、その含有量は、水性防錆潤滑剤全体の100質量部に対して、0.1質量部以上、好ましくは0.3質量部以上、より好ましくは0.4質量部以上であってもよい。また、水希釈液の乳化安定性の観点から、(H)水の含有量は、水性防錆潤滑剤全体の100質量部に対して、1質量部以下が好ましく、0.8質量部以下がより好ましく、0.6質量部以下がさらに好ましい。
前記(I)消泡剤としては、例えば、シリコーンオイル、アルケニルコハク酸誘導体、ポリヒドロキシ脂肪族アルコールと長鎖脂肪酸のエステル、メチルサリチレートとo−ヒドロキシベンジルアルコール等が挙げられる。水性防錆潤滑剤にこれら(I)消泡剤を配合する場合、その含有量は、配合効果および経済性の観点から、水性防錆潤滑剤全体としての量を100質量部としたとき、通常0.01質量部以上30質量部以下であり、より好ましくは0.01質量部以上10質量部以下である。
本発明の水性防錆潤滑剤は、上記成分を混合することにより得られる。混合方法としては、従来公知の混合方法を用いればよい。また、各成分の添加順序は特に限定されないが、均一性向上の観点からは、(D’)鉱物油もしくは合成油に、それ以外の成分を添加することが好ましい。
4.水希釈液
本発明の水希釈液は、前記水性防錆潤滑剤を、(H’)水で希釈したものであることが好ましい。(H’)水としては、(H)水として例示した規格の水を好ましく用いることができる。水希釈倍率は、10倍(より好ましくは15倍)以上、30倍(より好ましくは25倍)以下であることが好ましい。すなわち、前記水希釈液全体100質量部に対して、水性防錆潤滑剤の含有量は、3質量部以上、10質量部以下であることが好ましい。より好ましくは4質量部以上、7質量部以下である。前記水性防錆潤滑剤を前記濃度で希釈して水希釈液とすることにより、水希釈液はエマルションを形成する。これにより、金属材の加工(切断、切削、穿孔、研磨など)に好適に使用できる。エマルションの形成は、例えば、水希釈液の白濁により確認することができる。エマルションが形成されない場合、水希釈液は、水等を含む親水性層と、鉱物油等を含む疎水性層とに分離する。
水性防錆潤滑剤の5質量%水希釈液のpHは8以上、11以下の範囲であることが好ましく、より好ましくは9以上、10以下である。前記水性防錆潤滑剤の5質量%水希釈液のpHが前記範囲であると、本発明の水希釈液は、防錆作用を一層効果的に発揮するとともに金属表面の腐食も抑制し、且つ水希釈液の腐敗も効果的に防止できる。水希釈液のpHを調整するために、さらに、(C’’)有機アミンを含んでいてもよい。(C’’)有機アミンとしては、(C’)有機アミンとして例示した化合物と同様の化合物を用いることができる。(C’’)有機アミンと(C’)有機アミンは、同一であっても異なっていてもよいが、同一であることが好ましい。
前記水希釈液が(C’')有機アミンを含む場合、(C’’)有機アミンの含有量は、5質量%水希釈液のpHを前記範囲とすることができる量であれば特に限定されないが、水希釈液の全体を100体積部としたとき、例えば0.001質量部以上であり、好ましくは0.005質量部以上、より好ましくは0.01質量部以上である。また、例えば0.2質量部以下であり、好ましくは0.1質量部以下、より好ましくは0.07質量部以下である。(C’’)有機アミンの含有量が適度な範囲であると、pHが高くなりすぎず、金属材の腐食が抑制される。
また、前記水希釈液が(C’’)有機アミンを含む場合、(C’’)有機アミンの含有量は、5質量%水希釈液のpHを前記範囲とすることができる量であれば特に限定されないが、水希釈液中の水性防錆潤滑剤100質量部に対して、例えば0.02質量部以上であり、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.2質量部以上である。また、例えば2質量部以下であり、好ましくは1.7質量部以下、より好ましくは1.5質量部以下である。(C’’)有機アミンの含有量が適度な範囲であると、pHが高くなりすぎず、金属材の腐食が抑制される。
また本発明の水希釈液では、水性防錆潤滑剤中に(A)油溶性有機金属塩、(B)ベンゾトリアゾールおよび(C)有機アミンが安定的に均一溶解されているため、水希釈液においても、防錆成分が析出して加工作業中に防錆効果が低下したり、析出した防錆成分が加工対象の金属表面に付着すること等により加工製品の外観が損なわれたりするおそれがない。
上記の様に、本発明の水性防錆潤滑剤を(H’’)水で希釈することによって得られる水希釈液は、防錆成分として(A)油溶性有機金属塩、および(B)ベンゾトリアゾールを含み、相乗的に金属材に対する防錆性能を発揮するので、金属材の種類や加工の種類の如何を問わず全ての金属材の加工の際に幅広く有効に利用できる。具体的には鉄鋼材を始めとする鉄基金属材やアルミニウム、チタンなどの非鉄金属やその合金などの、切断、切削、穿孔、研磨加工する際に利用できる。中でも、塩基性条件下で潤滑用の油性剤成分などによる腐食を受け易いアルミニウムやその合金に本発明の水性防錆潤滑剤を適用すると、卓越した潤滑防錆性能を発揮し、その特徴がより効果的に発現するので好ましい。
前記アルミニウムやその合金としては、例えば、純アルミニウム系合金、アルミ銅マグネシウム合金、アルミマンガン合金等の展伸用アルミニウム合金;鋳物用アルミニウム合金、ダイカスト用アルミニウム合金、軸受鋳物等の鋳造用アルミニウム合金;等が挙げられる。本発明の水希釈液は、上記本発明の防錆剤を含むため、ダイカスト用アルミニウム合金の中でも、ADC10(銅含有量2.0〜4.0質量%)、ADC12(銅含有量1.5〜3.5質量%)、ADC14(銅含有量4.0〜5.0質量%)などの、銅を高含有量で含むアルミニウム合金に対しても、効果的に防錆性能を発揮することができる。アルミニウム合金中の銅の含有量は、好ましくは0.1質量%以上5質量%以下であり、より好ましくは1質量%以上4質量%以下であり、さらに好ましくは1.5質量%以上3.5質量%以下である。
5.防錆潤滑法
本発明の防錆潤滑法は、本発明の水性防錆潤滑剤を、防錆を兼ねた潤滑剤として使用するものである。より好ましくは、水性防錆潤滑剤を水で希釈した水希釈液を、金属材の表面に存在させることにより、金属材に対して、優れた防錆性能を発揮することができる。金属材の表面に水希釈液が存在している状態とは、水希釈液が金属材の表面を部分的にまたは完全に覆っている状態を意味し、金属材の表面は水希釈液で完全に覆われていることが好ましい。金属材の表面に水希釈液を存在させる方法としては、特に限定されず、従来公知の方法を制限なく使用することができる。例えば、金属材表面に水希釈液を噴射する、あるいは塗布する方法があり、水希釈液を塗布する方法としては、浸漬塗布、シャワー塗布、スプレー塗布、噴流塗布等の方法を挙げることができる。
本発明の水希釈液は、水性防錆潤滑剤を水で希釈することによりエマルションを形成するが、水希釈液における防錆潤滑作用は、このエマルションによるものと考えられる。すなわち、エマルション中の液滴(海島構造の島部分)では、内部に鉱物油が内包され、液滴表面に防錆剤等の成分が存在しており、エマルションを金属材表面に存在させたとき、エマルション中の液滴自体が変形したり移動したり(転がったり)することで、他の物質(例えば、他の金属材等)と金属材表面との間の摩擦抵抗等を低減して金属材表面に潤滑性を付与し、また、エマルションと金属材表面とが接触する箇所で防錆剤が金属表面に防錆層を形成することで、金属材表面に対して防錆性能を発揮するものと考えられる。
6.防錆潤滑加工法
本発明の防錆潤滑加工法は、本発明の水性防錆潤滑剤の水希釈液を金属材の加工面に存在させた状態で加工することを特徴とする。金属材の加工としては、金属材の切断、切削、穿孔、または研磨であることが好ましい。本発明の水希釈液を金属材の加工面に存在させる方法としては、浸漬塗布、シャワー塗布、スプレー塗布、噴流塗布等の従来公知の方法を用いることができる。金属材の加工面では、水希釈液中のエマルションが摩擦抵抗等を低減して金属材加工面に潤滑性を付与し、また、エマルション中の防錆剤が金属加工面に防錆層を形成して、金属加工面に対する防錆性能を発揮するものと考えられる。
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。なお、以下においては、特に断りのない限り、「部」は「質量部」を、「%」は「質量%」を意味する。
各実施例または比較例で得られた水希釈液について、下記の方法によりアルミニウム腐食試験を行った。
[アルミニウム腐食試験]
アルミダイカスト板(ADC12)を、40×60×1.5mmの大きさに切り出し、耐水研磨紙♯320で研磨した。その後アセトンで洗浄し、乾燥して試験片とした。
次に、100mlビーカーに水希釈液を50ml入れ、この水希釈液中に前記試験片を1分間完全に浸漬(全浸漬)した後に、試験片の上半分(40×30×1.5mm)が水希釈液の外にあり、下半分(40×30×1.5mm)が水希釈液中に浸漬(半浸漬)された状態となるようにして、100mlビーカーを密閉し、40℃で2日間保持した。その後、試験片を取り出し、水希釈液中に浸漬されていた部分について、下記の判定方法により、試験片の腐食の程度を評価した。
判定方法:◎:変色なし、○:僅かに変色あり、△:少し変色あり、×:多量に変色あり
[実施例1]
ナフテン系鉱物油(動粘度8mm2/s(40℃)、CAS No.64742−69−4)の25部に、油溶性有機金属塩としてのナフテン酸亜鉛(DAILUBE(登録商標) Z−500(ナフテン酸亜鉛50%、パラフィン系鉱物油(動粘度20mm2/s以下(40℃)、CAS No.64742−71−8、化審法No.9−1692)50%含有)、DIC社製)を50部、ベンゾトリアゾールを5部、シクロヘキシルジエタノールアミンを20部添加し、70〜80℃に加熱して溶解し、本発明の防錆剤を調製した。この防錆剤において、(D)鉱物油は、ナフテン系鉱物油25部と、パラフィン系鉱物油25部とで構成され、その動粘度は14mm2/s(40℃)以下と推測される。
次に、前記防錆剤の3部に対して、陰イオン性界面活性剤を含むスルホール(登録商標)500(芳香族系石油ナトリウムスルホネート62%、無機塩類0.6%、水分4.0%、油分(芳香族系鉱物油)34%含有、株式会社モレスコ製)を13部、非イオン性界面活性剤としてのレオドール(登録商標)SP−O30V(ソルビタントリオレート、花王株式会社製)を4部、ジエタノールアミンを2部、ナフテン系鉱物油を78部配合して混合し、本発明の水性防錆潤滑剤を調製した。
さらに、前記水性防錆潤滑剤を水道水で20倍に希釈し、溶液全体の50mLに対してジエタノールアミン(0〜0.03部)を用いてpHを9.5に調整し、本発明の水希釈液を得た。水性防錆潤滑剤を水道水で希釈した時点で、水希釈液は乳白色を呈しており、エマルション形成が確認された。
[実施例2〜6]
鉱物油、油溶性有機金属塩、ベンゾトリアゾール、有機アミンの配合比率を下記表1に示す通りとしたこと以外は実施例1と同様にして、本発明の防錆剤を調製した。
次に、防錆剤、スルホール500、レオドールSP−O30V、ジエタノールアミン、ナフテン系鉱物油の配合量を表2に示す通りとしたこと以外は実施例1と同様にして、本発明の水性防錆潤滑剤を調製した。
さらに、実施例1と同様にして、本発明の水希釈液を調製した。水性防錆潤滑剤を水道水で希釈した時点で、水希釈液は乳白色を呈しており、エマルション形成が確認された。
[比較例1〜5]
鉱物油、油溶性有機金属塩を表1に示す通りの組成で混合し、比較例の防錆剤を調製した。
次に、防錆剤、スルホール500、レオドールSP−O30V、ジエタノールアミン、ナフテン系鉱物油の配合量を表2に示す通りとしたこと以外は実施例1と同様にして、比較例の水性防錆潤滑剤を調製した。
さらに、実施例1と同様にして、比較例の水希釈液を調製した。水性防錆潤滑剤を水道水で希釈した時点で、水希釈液は乳白色を呈しており、エマルション形成が確認された。
実施例、比較例で調製した各水希釈液について、アルミニウム腐食試験を行った。結果を表3に示す。
実施例の水希釈液は、油溶性有機金属塩、ベンゾトリアゾールを含む防錆剤を用いて得られたものであり、この水希釈液に40℃で2日間浸漬した後のアルミダイカスト板(ADC12)試験片は、変色がないか、僅かに変色がある程度であったことから、実施例の水希釈液は優れた防錆性能を発揮することが確認された。これに対して、比較例の水希釈液は、油溶性有機金属塩を含むものの、防錆作用は十分ではなかった。このことから、本発明の防錆剤や水性防錆潤滑剤、水希釈液は、防錆成分として油溶性有機金属塩、およびベンゾトリアゾールを含むことにより、これらの成分が相乗的に防錆性能を発揮した結果、銅を1.5〜3.5%含むアルミダイカスト板(ADC12)に対しても塩基性条件(pH9.5)下で、優れた防錆性能を示したものといえる。