JP6285179B2 - 熱可塑性樹脂組成物及び成形品 - Google Patents

熱可塑性樹脂組成物及び成形品 Download PDF

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Description

本発明は、ゴム成分としてエチレン・α−オレフィン系ゴムを用いたゴム強化芳香族ビニル系樹脂とポリカーボネート樹脂とのアロイに難燃剤を配合した難燃性熱可塑性樹脂組成物であって、軋み音の発生が低減された成形品を提供するものに関し、さらには、少なくとも2個の互いに接触する部品を含む物品であって、前記部品の少なくとも1つを上記本発明の熱可塑性樹脂組成物からなる成形品とすることにより、当該部品同士が接触して擦れ合うことにより発生する軋み音が大幅に低減されたものに関する。
ABS樹脂及びAES樹脂で代表されるゴム強化芳香族ビニル系樹脂とポリカーボネート(PC)樹脂とをアロイ化することにより難燃性を向上させた熱可塑性樹脂組成物は、電気・電子機器、OA機器、家電製品、車輌部品、サニタリー用品等の難燃性が要求される成形品の成形材料として幅広く使用されている。
しかし、ABS/PCアロイからなる部品同士、または該部品とポリエチレン、ポリエステル、ポリ塩化ビニル等の他の樹脂からなる部品とを互いに接触して擦れ合うようにして用いると、軋み音(擦れ音)が発生することがある。たとえば、ビデオカメラのハウジングをABS/PCアロイで成形して組み立てた場合、ハウジングを手でホールドして使用する際に、部品が微妙に変形して互いに擦れあい、軋み音が発生するという問題があった。この軋み音は、2つの物体が擦れ合う時に発生するスティックスリップ現象に起因して生じる異音として知られており、樹脂の摺動性とは異なる性質である。
ABS/PCアロイのABS樹脂成分の全部又は一部を、Tm(融点)が0℃以上のエチレン・α−オレフィン系ゴム質重合体をゴム成分として用いたAES樹脂で代替するとともに、必要に応じてシリコーンオイル又はポリオレフィン系ワックスを添加することにより軋み音を低減できることは従来公知である(特許文献1参照)。しかし、上記のようなAES/PCアロイに難燃剤を配合した場合など、さらなる軋み音の低減が求められている。
一方、ABS/PCアロイに特定の芳香族ジホスフエートとポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を配合した樹脂組成物(特許文献2)は従来公知であるが、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)は樹脂組成物の難燃性、特にドリップ性を向上させる目的で配合されているに過ぎず、軋み音の発生を低減させるという課題については何ら開示されておらず、そもそもAES/PCアロイとは無関係の文献である。
また、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を含有するABS/PCアロイに低分子量ポリオレフィン又はシリコーンオイルの何れかを配合した樹脂組成物(特許文献3)は従来公知であるが、この組成物では、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)は滴下防止剤として添加されているに過ぎず、軋み音の発生を低減させるという課題については何ら開示されておらず、そもそもAES/PCアロイとは無関係の文献である。
また、低分子量酸化ポリエチレン、超高分子量ポリエチレン又はポリテトラフルオロエチレンをAES樹脂単品に配合することによって軋み音が低減した自動車内装部品(特許文献4)は従来公知であるが、AES/PCアロイ及び難燃剤を含有するAES/PCアロイにおいても同様の効果が得られることは何ら示唆していない。
特開2012−046669号公報 特開平07−011119号公報 特開平10−101920号公報 特開2011−137066号公報
かかる実情に鑑み、本発明は、ゴム成分としてエチレン・α−オレフィン系ゴムを用いたゴム強化芳香族ビニル系樹脂とポリカーボネート(PC)樹脂とのアロイに難燃剤を配合した熱可塑性樹脂組成物であって、成形品に上記のような軋み音が生じるのを低減したものを提供することを目的とする。
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、上記のアロイ化した熱可塑性樹脂組成物において、フッ素樹脂を特定の配合割合で併用することにより、成形品の軋み音の発生が顕著に低減されることを見出し、本発明を完成するに至った。
かくして、本発明の一局面によれば、ゴム強化芳香族ビニル系樹脂(A)5〜75質量%、ポリカーボネート樹脂(B)15〜90質量%、及び、難燃剤(C)3〜25質量%を含む樹脂組成物(X)(ただし、上記成分(A)、(B)及び(C)の合計は100質量%)であって、さらに、前記樹脂組成物(X)100質量部に対して、フッ素樹脂(D)0.05〜3質量部を含み、前記成分(A)のゴム成分が融点(Tm)0℃以上のエチレン・α−オレフィン系ゴムを含んでなることを特徴とする難燃性熱可塑性樹脂組成物が提供される。
本発明の好ましい一実施形態によれば、前記熱可塑性樹脂組成物は、さらに、前記樹脂組成物(X)100質量部に対して、シリコーンオイル(E)0.1〜15質量部、及び/又は、重量平均分子量が10000以下のポリオレフィン系樹脂(F)0.1〜15質量部を含むことができる。
本発明のさらに好ましい他の実施形態によれば、前記熱可塑性樹脂組成物は、エチレン・α−オレフィン系ゴムを、前記樹脂組成物(X)100質量%に対して、1〜20質量%含むことができる。
本発明のさらに好ましい他の実施形態によれば、前記成分(A)は、エチレン・α−オレフィン系ゴムを含むゴム質重合体(a)の存在下に、芳香族ビニル化合物を含むビニル系単量体(b1)を重合して得られたゴム強化芳香族ビニル系樹脂、又は、該ゴム強化芳香族ビニル系樹脂とビニル系単量体(b2)の(共)重合体との混合物であってよい。
本発明のさらに好ましい他の実施形態によれば、前記熱可塑性樹脂組成物は、難燃性がUL94規格によるHBグレード又はV−2グレードに適合する。
本発明のさらに好ましい他の実施形態によれば、ジグラー(ZIEGLER)社のスティックスリップ測定装置SSP−02を使用して測定した異音リスク指数が、以下の測定条件において3以下である。
測定条件:縦60mm、横100mm、厚さ4mmの大試験片、及び、縦50mm、横25mm、厚さ4mmの小試験片を用意し、温度23℃、湿度50%R.H.、荷重100N、速度10mm/秒、振幅20mmの条件下で、これら大小2枚の試験片を3回擦り合わせる時の異音リスク指数を測定。
本発明の他の局面によれば、上記本発明の熱可塑性樹脂組成物からなる成形品が提供される。
本発明のさらに他の局面によれば、少なくとも2個の互いに接触する部品を含む物品であって、前記部品の少なくとも1つが上記本発明の成形品からなることを特徴とする物品が提供される。該物品の代表例としては、カメラ等の電気若しくは電子機器、光学機器、照明機器などが例示できる。
本発明によれば、ゴム成分としてエチレン・α−オレフィン系ゴムを用いたゴム強化芳香族ビニル系樹脂とポリカーボネート樹脂とのアロイに難燃剤を配合した熱可塑性樹脂組成物において、フッ素樹脂を特定の配合割合で併用することとしたので、軋み音の発生が顕著に低減された成形品が提供される。
本発明の物品の接触部の一態様を示す断面図である。 本発明の物品の接触部の他の一態様を示す断面図である。 本発明の物品の接触部の他の一態様を示す断面図である。 本発明の物品の接触部の他の一態様を示す断面図である。 本発明の物品の接触部の他の一態様を示す断面図である。 本発明の物品の接触部の他の一態様を示す断面図である。 図8の物品の部品20を示す概略斜視図である。 (A)は互いに嵌合する部品10及び部品20からなる本発明の物品の一例を示す上面図であり、(B)は(A)の右側面図であり、(C)は(A)のA−A´断面図である。 図8に示す本発明の物品の変形例を示す図8と同様の図である。 図8に示す本発明の物品の他の変形例を示す図8と同様の図であり、図中に示す寸法の単位はmmである。 図12に示す本発明の物品の部品18を示す概略斜視図である。 (A)は、部品18と、これを軸19回りに回転可能に支持するフレーム状の部品28とからなる本発明の物品の一例を示す上面図であり、(B)は(A)の右側面図であり、(C)は(A)のA−A´断面図である。
以下、本発明を詳しく説明する。尚、本発明において、「(共)重合」とは、単独重合及び/又は共重合を意味し、「(メタ)アクリル」とは、アクリル及び/又はメタクリルを意味し、「(メタ)アクリレート」とは、アクリレート及び/又はメタクリレートを意味する。
1.ゴム強化芳香族ビニル系樹脂(A)(本明細書中「成分(A)」ともいう。):
本発明で使用するゴム強化芳香族ビニル系樹脂(A)は、芳香族ビニル系樹脂のマトリックス中にゴム質重合体が分散した海島構造を備えた樹脂組成物を意味する。上記海島構造は、例えば、透過電子顕微鏡(TEM)等で観察することができる。
該ゴム強化芳香族ビニル系樹脂(A)は、ゴム成分として融点(Tm)0℃以上のエチレン・α−オレフィン系ゴムを含むものであり、該ゴム成分を含むゴム質重合体(a)の存在下に、芳香族ビニル化合物を含むビニル系単量体(b1)を重合して製造することができる。なお、ゴムとは、室温でゴム弾性を示すものをいう。
したがって、該ゴム強化芳香族ビニル系樹脂(A)は、通常、ビニル系単量体(b1)同士の(共)重合体がゴム質重合体(a)にグラフト重合したグラフト重合体(A1)(本明細書中「成分(A1)」ともいう。)と、ゴム質重合体(a)にグラフト重合していないビニル系単量体(b1)同士の(共)重合体(A2)(本明細書中「成分(A2)」ともいう。)との混合物からなり、場合により、該(共)重合体がグラフト重合していないゴム質重合体(a)をさらに含むこともある。
該ゴム強化芳香族ビニル系樹脂(A)は、ゴム質重合体(a)の不存在下に、ビニル系単量体(b2)を重合して得られたビニル系単量体(b2)同士の(共)重合体(A3)が添加された所謂グラフトブレンド型の組成物であってもよい。この成分(A3)は上記成分(A2)と同じ(共)重合体であっても異なる(共)重合体であってもよい。
ゴム強化芳香族ビニル系樹脂(A)のゴム成分を構成する上記ゴム質重合体(a)は、融点(Tm)0℃以上のエチレン・α−オレフィン系ゴム(a1)を含むものであれば特に制限はない。更に、このゴム質重合体(a)は、架橋重合体であってもよいし、非架橋重合体であってもよい。これらは、1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
本発明に用いられるエチレン・α−オレフィン系ゴム(a1)は、Tm(融点)が0℃以上であればよく、例えば、エチレン・α−オレフィン共重合体が挙げられる。ここで、Tmは、DSC(示差走査熱量計)を用い、1分間に20℃の一定昇温速度で吸熱変化を測定し、得られた吸熱パターンのピーク温度を読みとった値であり、詳細は、JIS K7121−1987に記載されている。上記Tmは、好ましくは0〜90℃、より好ましくは10〜80℃、特に好ましくは20〜80℃であり、Tmが0℃未満では、本発明の効果が十分に得られない。尚、DSCの測定において、吸熱変化のピークを明瞭に示さないものは、実質的にゴム質重合体に結晶性がないものであり、Tmを持たないものと判断し、上記Tmが0℃以上のゴム質重合体には含まれないものとする。よって、Tmが存在しないものも軋み音の低減効果に劣る。
ゴム質重合体に融点(Tm)があることは、該ゴム質重合体(a)が結晶性部分を有することを意味している。ゴム質重合体(a)中に結晶性部分が存在すると、上記したように、スリップスティック現象の発生を抑制する為、軋み音の発生が抑制されるものと考えられる。
また、ゴム質重合体(a)のガラス転移温度(Tg)は、好ましくは、−20℃以下であり、より好ましくは、−30℃以下であり、特に好ましくは、−40℃以下である。ガラス転移温度が、−20℃を超えると、耐衝撃性が不十分になる場合がある。尚、上記ガラス転移温度は、Tm(融点)の測定と同様に、DSC(示差走査熱量計)を用い、JIS K7121−1987に準拠して求めることができる。
上記成分(a1)を構成するα−オレフィンとしては、例えば、炭素数3〜20のα−オレフィンが挙げられ、具体的には、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、1−ヘキサデセン、1−エイコセンなどが挙げられる。これらのα−オレフィンは、単独でまたは2種以上を混合して使用することができる。α−オレフィンの炭素数は、好ましくは3〜20、より好ましくは3〜12、さらに好ましくは3〜8である。炭素数が20を超えると共重合性が低下し、成形品の表面外観が十分でなくなる場合がある。エチレン:α−オレフィンの質量比は、通常5〜95:95〜5、好ましくは50〜95:50〜5、より好ましくは60〜95:40〜5である。
α−オレフィンの質量比が95を超えると、得られるゴム強化ビニル系樹脂の耐衝撃性が不十分となり好ましくない。また、5未満でも、成分(a1)のゴム弾性が十分でなくなるため、樹脂組成物の耐衝撃性が十分でなくなる。
エチレン・α−オレフィン系ゴム(a1)は、融点(Tm)が0℃以上であれば非共役ジエンを含むエチレン・α−オレフィン・非共役ジエン共重合体であってもよい。上記非共役ジエンとしては、アルケニルノルボルネン類、環状ジエン類、脂肪族ジエン類が挙げられ、好ましくは1,4−ヘキサジエン、5−エチリデン−2−ノルボルネンおよびジシクロペンタジエンである。これらの非共役ジエンは、単独でまたは2種以上を混合して使用することができる。非共役ジエンの、ゴム質重合体全量に対する割合は、通常0〜10質量%、好ましくは0〜5質量%、より好ましくは0〜3質量%である。非共役ジエンの割合が10質量%を超えると、成分(a1)の融点(Tm)が消失し、軋み音の低減効果が不十分となる場合がある。
また、成分(a1)のムーニー粘度(ML1+4、100℃;JIS K6300に準拠)は、通常5〜80、好ましくは10〜65、より好ましくは10〜45である。ムーニー粘度が80を超えると、得られるゴム強化芳香族ビニル系樹脂の流動性が不十分になる場合があり、またムーニー粘度が5未満になると、得られる成形品の耐衝撃性が不十分となる場合がある。
上記エチレン・α−オレフィン系ゴム質重合体(a1)は、軋み音低減の観点から、非共役ジエン成分を含有しないエチレン・α−オレフィン共重合体が好ましく、これらのうち、エチレン・プロピレン共重合体、エチレン・1−ブテン共重合体、エチレン・1−オクテン共重合体がさらに好ましく、エチレン・プロピレン共重合体が特に好ましい。
上記成分(A)のゴム成分は、軋み音低減効果の観点から、その全部が上記エチレン・α−オレフィン系ゴム質重合体(a1)から構成されることが好ましいが、軋み音低減効果を損なわない範囲で、上記エチレン・α−オレフィン系ゴム質重合体(a1)に加えて、ジエン系ゴム質重合体(a2)(以下「成分(a2)ともいう。)から構成されても良い。
ジエン系ゴム質重合体(a2)としては、ポリブタジエン、ポリイソプレン等の単独重合体;スチレン・ブタジエン共重合体、スチレン・ブタジエン・スチレン共重合体、アクリロニトリル・スチレン・ブタジエン共重合体、アクリロニトリル・ブタジエン共重合体等のブタジエン系共重合体;スチレン・イソプレン共重合体、スチレン・イソプレン・スチレン共重合体、アクリロニトリル・スチレン・イソプレン共重合体等のイソプレン系共重合体等が挙げられる。これらは、ランダム共重合体であっても、ブロック共重合体であってもよい。また、これらは、単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。該ジエン系ゴム質重合体(a2)は、架橋重合体であってよいし、未架橋重合体であってもよい。
上記ビニル系単量体(b1)としては、芳香族ビニル化合物が必須成分として使用され、好ましくは、シアン化ビニル化合物及び(メタ)アクリル酸エステル化合物から選ばれた少なくとも1種が追加的に使用され、さらに必要に応じて、これらの化合物と共重合可能な他のビニル系単量体を追加的に使用することができる。かかる他のビニル系単量体としては、マレイミド系化合物、不飽和酸無水物、カルボキシル基含有不飽和化合物、ヒドロキシル基含有不飽和化合物、オキサゾリン基含有不飽和化合物等が挙げられ、これらは、1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
上記芳香族ビニル化合物の具体例としては、スチレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、p−メチルスチレン、β−メチルスチレン、エチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、ビニルトルエン、ビニルキシレン、ビニルナフタレン等が挙げられる。これらの化合物は、単独でまたは2つ以上を組み合わせて用いることができる。これらのうち、スチレン及びα−メチルスチレンが好ましく、スチレンが特に好ましい。
上記シアン化ビニル化合物の具体例としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、エタクリロニトリル、α−エチルアクリロニトリル、α−イソプロピルアクリロニトリル等が挙げられる。これらの化合物は、単独でまたは2つ以上を組み合わせて用いることができる。また、これらのうち、アクリロニトリルが好ましい。
上記(メタ)アクリル酸エステル化合物の具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸sec−ブチル、(メタ)アクリル酸tert−ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸n−オクチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸ベンジル等が挙げられる。これらの化合物は、単独でまたは2つ以上を組み合わせて用いることができる。また、これらのうち、メタクリル酸メチルが好ましい。
上記マレイミド系化合物の具体例としては、N−フェニルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド等が挙げられる。これらの化合物は、単独でまたは2つ以上を組み合わせて用いることができる。
上記不飽和酸無水物の具体例としては、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸等が挙げられる。これらの化合物は、単独でまたは2つ以上を組み合わせて用いることができる。
上記カルボキシル基含有不飽和化合物の具体例としては、(メタ)アクリル酸、エタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、クロトン酸、桂皮酸等が挙げられる。これらの化合物は、単独でまたは2つ以上を組み合わせて用いることができる。
上記ヒドロキシル基含有不飽和化合物の具体例としては、3−ヒドロキシ−1−プロペン、4−ヒドロキシ−1−ブテン、シス−4−ヒドロキシ−2−ブテン、トランス−4−ヒドロキシ−2−ブテン、3−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロペン、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシプロピル等が挙げられる。これらの化合物は、単独でまたは2つ以上を組み合わせて用いることができる。
上記芳香族ビニル化合物の含有量の下限値は、上記ビニル系単量体(b1)全量を100質量%とした場合に、好ましくは40質量%、より好ましくは50質量%、更に好ましくは60質量%である。尚、上限値は、通常、100質量%である。
また、上記ビニル系単量体(b1)が、芳香族ビニル化合物及びシアン化ビニル化合物を含む場合、両者の含有量は、両者の合計を100質量%とした場合に、成形性、並びに、成形品の耐熱性、耐薬品性及び機械的強度の観点から、それぞれ、通常40〜90質量%及び10〜60質量%、好ましくは55〜85質量%及び15〜45質量%である。
成分(A)を製造する方法は、特に限定されず、公知の方法を適用することができる。重合方法としては、乳化重合、懸濁重合、溶液重合、塊状重合、又は、これらを組み合わせた重合法とすることができる。これらの重合方法において、適宜、適切な重合開始剤、連鎖移動剤(分子量調節剤)、乳化剤等を使用することができる。
成分(A)のグラフト率は、通常10〜150質量%、好ましくは15〜120質量%、より好ましくは20〜100質量%、特に好ましくは30〜80質量%である。成分(A)のグラフト率が前記範囲にあると、樹脂組成物の耐衝撃性、成形性が良好となり好ましい。
グラフト率は、下記数式(1)により求めることができる。
グラフト率(質量%)=((S−T)/T)×100 …(1)
上記式中、Sは成分(A)1グラムをアセトン20mlに投入し、25℃の温度条件下で、振とう機により2時間振とうした後、5℃の温度条件下で、遠心分離機(回転数;23,000rpm)で60分間遠心分離し、不溶分と可溶分とを分離して得られる不溶分の質量(g)であり、Tは成分(A)1グラムに含まれるゴム質重合体(a)の質量(g)である。このゴム質重合体(a)の質量は、重合処方及び重合転化率から算出する方法、赤外線吸収スペクトル(IR)、熱分解ガスクロマトグラフィー、CHN元素分析等により求める方法等により得ることができる。
尚、グラフト率は、例えば成分(A)の製造時に用いる連鎖移動剤の種類及び使用量、重合開始剤の種類及び使用量、重合時の単量体成分の添加方法及び添加時間、重合温度等を適宜選択することにより調整することができる。
成分(A)のアセトン可溶分の極限粘度(メチルエチルケトン中、30℃)は、通常0.1〜1.5dl/g、好ましくは0.15〜1.2dl/g、より好ましくは0.15〜1.0dl/gである。成分(A)の上記極限粘度が前記範囲にあると、樹脂組成物の耐衝撃性、成形性が良好となり好ましい。
成分(A)のアセトン可溶分の極限粘度[η]の測定は下記方法で行った。まず、成分(A)のアセトン可溶分をメチルエチルケトンに溶解させ、濃度の異なるものを5点作った。ウベローデ粘度管を用い、30℃で各濃度の還元粘度を測定した結果から、極限粘度[η]を求めた。単位は、dl/gである。
尚、極限粘度[η]は、例えば成分(A)の製造時に用いる連鎖移動剤の種類及び使用量、重合開始剤の種類及び使用量、重合時の単量体成分の添加方法及び添加時間、重合温度等を適宜選択することにより調整することができる。また、異なる極限粘度[η]を持つ成分(A3)を、適宜選択して配合することにより調整することができる。
上記グラフトブレンド型の組成物を調製するのに使用される成分(A3)は、ビニル系単量体(b2)の(共)重合体であり、上述のとおり、ゴム質重合体(a)の不存在下に、ビニル系単量体(b2)を重合して得られる。重合方法としては、上記ビニル系単量体(b1)について上記した方法を使用することができる。
また、ビニル系単量体(b2)は、ビニル系単量体(b1)として上記したものを全て使用することができる。ビニル系単量体(b2)は、芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物及び(メタ)アクリル酸エステル化合物から選ばれた少なくとも何れか一種からなることが好ましい。
上記成分(A3)は、1種単独であっても、2種以上の成分を混合したものであってもよい。
また、上記ビニル系単量体(b2)が、芳香族ビニル化合物及びシアン化ビニル化合物を含む場合、両者の含有量は、両者の合計を100質量%とした場合に、成形性、並びに、成形品の耐熱性、耐薬品性及び機械的強度の観点から、それぞれ、通常40〜90質量%及び10〜60質量%、好ましくは55〜85質量%及び15〜45質量%である。
上記成分(A3)の極限粘度[η](メチルエチルケトン中、30℃)は、成形加工性及び耐衝撃性の観点から、好ましくは0.2〜0.9dl/g、より好ましくは0.25〜0.85dl/g、更に好ましくは0.3〜0.8dl/gである。
上記成分(A3)の極限粘度[η]の測定は、成分(A)のアセトン可溶分の極限粘度[η]の上記測定と同様の方法で行うことができる。尚、上記成分(A3)の極限粘度[η]は、上記成分(A)と同様の方法で調整することができる。また、異なる極限粘度[η]を持つ2種以上の成分(A3)を適宜選択して混合することにより調整することができる。
本発明において、成分(A3)は成分(A1)及び成分(A2)と混合して成分(A)を構成するが、成分(A3)の配合量は、成分(A)に付与したい性質に応じて適宜選択することができる。成分(A3)を使用するか否かに拘わらず、成分(A)は、ゴム質重合体(a)の含有量が、成分(A)、(B)及び(C)の合計を100質量%(すなわち、樹脂組成物(X)100質量%)に対して、好ましくは1〜20質量%となるように配合され、さらに好ましくは1〜12質量%、さらにより好ましくは1〜8質量%となるように配合される。ゴム質重合体(a)の含有量が前記範囲にあると、本発明の樹脂組成物からなる成形品の機械的強度、軋み音の低減効果、難燃性がさらに十分となり好ましい。ゴム質重合体(a)の含有量が1質量%未満の場合、軋み音の低減効果が不十分になる可能性があり、20質量%を超える場合、耐熱性または難燃性が低下するおそれがある。
本発明の熱可塑性樹脂組成物における成分(A)の含有量は、成分(A)、成分(B)及び成分(C)の合計を100質量%とした場合、5〜75質量%であり、10〜60質量%であることが好ましく、15〜50質量%であることがより好ましい。成分(A)が5質量%未満の場合、異音リスク指数が高くなり、軋み音が発生し易くなり、75質量%を超える場合、難燃性が不十分となる。
2.ポリカーボネート樹脂(B)(本明細書中「成分(B)」ともいう。):
本発明で使用するポリカーボネート樹脂(B)は特に制限されるものではないが、好ましくは芳香族ポリカーボネート樹脂である。上記芳香族ポリカーボネート樹脂としては、芳香族ジヒドロキシ化合物及び炭酸ジエステルを溶融によりエステル交換(エステル交換反応)して得られたもの、ホスゲンを用いた界面重縮合法により得られたもの、ピリジンとホスゲンとの反応生成物を用いたピリジン法により得られたもの等を用いることができる。
芳香族ジヒドロキシ化合物としては、分子内にヒドロキシル基を2つ有する化合物であればよく、ヒドロキノン、レゾルシノール等のジヒドロキシベンゼン、4,4’−ビフェノール、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(以下、「ビスフェノールA」という。)、2,2−ビス(3,5−ジブロモ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル−3−メチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3、5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(p−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(p−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(p−ヒドロキシフェニル)ペンタン、1,1−ビス(p−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(p−ヒドロキシフェニル)−4−イソプロピルシクロヘキサン、1,1−ビス(p−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(p−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、9,9−ビス(p−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(p−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン、4,4’−(p−フェニレンジイソプロピリデン)ジフェノール、4,4’−(m−フェニレンジイソプロピリデン)ジフェノール、ビス(p−ヒドロキシフェニル)オキシド、ビス(p−ヒドロキシフェニル)ケトン、ビス(p−ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(p−ヒドロキシフェニル)エステル、ビス(p−ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(p−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)スルフィド、ビス(p−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(3,5−ジブロモ−4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(p−ヒドロキシフェニル)スルホキシド等が挙げられる。これらは、単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
上記芳香族ジヒドロキシ化合物のうち、2つのベンゼン環の間に炭化水素基を有する化合物が好ましい。尚、この化合物において、炭化水素基は、ハロゲン置換された炭化水素基であってもよい。また、ベンゼン環は、そのベンゼン環に含まれる水素原子がハロゲン原子に置換されたものであってもよい。従って、上記化合物としては、ビスフェノールA、2,2−ビス(3,5−ジブロモ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル−3−メチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3、5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(p−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(p−ヒドロキシフェニル)ブタン等が挙げられる。これらのうち、特に、ビスフェノールAが好ましい。
芳香族ポリカーボネートをエステル交換反応により得るために用いる炭酸ジエステルとしては、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジ−tert−ブチルカーボネート、ジフェニルカーボネート、ジトリルカーボネート等が挙げられる。これらは、単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
上記ポリカーボネート樹脂(B)の粘度平均分子量は、好ましくは15,000〜40,000、より好ましくは17,000〜30,000、特に好ましくは18,000〜28,000である。この粘度平均分子量が高いほど、耐衝撃性が高くなる一方、流動性が十分でなく、成形加工性に劣る傾向にある。尚、全体としての粘度平均分子量が上記範囲に入るものであれば、異なる粘度平均分子量を有するポリカーボネート樹脂の2種以上を混合して用いてもよい。
本発明の熱可塑性樹脂組成物における成分(B)の含有量は、成分(A)、成分(B)及び成分(C)の合計を100質量%とした場合、15〜90質量%であり、25〜85質量%であることが好ましく、35〜85質量%であることがより好ましい。成分(B)が15質量%未満の場合、難燃性が不十分となり、90質量%を超える場合、異音リスク指数が高くなり、軋み音が発生し易くなる。
3.難燃剤(C)(本明細書中「成分(C)」ともいう。):
本発明で使用する難燃剤(C)は、樹脂組成物に添加した際に充分な難燃性、例えば、UL94規格によるHBグレード又はV−2グレードに適合する難燃性を付与できる化合物であればよく、例えば、有機ハロゲン系難燃剤、有機リン系難燃剤の他、赤リン、ホウ酸カルシウム、水酸化マグネシウム、アルミナ等の無機系難燃剤等が挙げられる。これらは、単独でまたは2種以上組み合わせて使用することができる。これらのうち、環境面から、有機リン系難燃剤が好ましく使用される。
有機リン系難燃剤としては、リン酸エステル系化合物が用いられ、その具体例としては、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリブトキシエチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、クレジルフェニルホスフェート、オクチルジフェニルホスフェート、ジイソプロピルフェニルホスフェート、トリス(クロロエチル)ホスフェート、トリス(ジクロロプロピル)ホスフェート、トリス(クロロプロピル)ホスフェート、ビス(2,3-ジブロモプロピル)-2,3- ジクロロプロピルホスフェート、トリス(2,3-ジブロモプロピル)ホスフェート、ビス(クロロプロピル)モノオクチルホスフェート、ビスフェノールAテトラクレジルジホスフェート、ビスフェノールAテトラキシリルジホスフェート、ヒドロキノンテトラフェニルジホスフェート、ヒドロキノンテトラクレジルジホスフェート、ヒドロキノンテトラキシリルジホスフェート、ビスフェノールAビスホスフェート、ヒドロキノンビスホスフェート、レゾルシンビスホスフェート、トリオキシベンゼントリホスフェート、その他のポリホスフェート類、特開平7−11119号公報に記載の芳香族ホスフェート類などが挙げられる。
本発明の熱可塑性樹脂組成物における成分(C)の含有量は、成分(A)、成分(B)及び成分(C)の合計を100質量%とした場合、3〜25質量%であり、3〜20質量%であることがより好ましく、5〜18質量%であることがさらにより好ましい。成分(C)の含有量が3質量%未満の場合、難燃性に劣る。一方、成分(C)の含有量が25質量%を超える場合、ペレット化が困難となり、耐熱性が劣る。
なお、本発明の熱可塑性樹脂組成物において、本発明の成分(C)は、本発明の成分(A)又は成分(B)のそれぞれの製造工程中及び/又は製造工程後に成分(A)又は成分(B)のそれぞれに予め添加されたものであってもよい。
4.フッ素樹脂(D)(本明細書中「成分(D))」ともいう。):
本発明の難燃性熱可塑性樹脂組成物には、軋み音を低減させるために、フッ素樹脂(D)を配合する。また、本発明では、フッ素樹脂(D)を配合することにより、成形時の糸引きを防止できるという利点も得られる。
フッ素樹脂(D)は、フルオロエチレン構造を含む重合体または共重合体であれば特に限定されず、例えば、ジフルオロエチレン重合体、テトラフルオロエチレン重合体、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレンとフッ素を含まないエチレン系モノマーとの共重合体などが挙げられる。これらのうち、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)が好ましく、その平均分子量は、500,000以上であることが好ましく、500,000〜50,000,000が特に好ましい。
本発明の熱可塑性樹脂組成物における成分(D)の含有量は、上記樹脂組成物(X)(即ち、成分(A)、(B)及び(C)の合計)100質量部に対して、0.05〜3質量部であり、好ましくは0.05〜2質量部、より好ましくは0.1〜0.45質量部である。成分(D)の含有量が0.05質量部未満の場合、成形品の軋み音及び糸引き現象を十分に抑制できず、3質量部を超える場合、成形品の表面外観が損なわれ、樹脂の混練性が低下する。
なお、本発明の熱可塑性樹脂組成物において、本発明の成分(D)は、本発明の成分(A)又は成分(B)のそれぞれの製造工程中及び/又は製造工程後に成分(A)又は成分(B)のそれぞれに予め添加されたものであってもよい。
5.シリコーンオイル(E)(本明細書中「成分(E)」ともいう。):
本発明の熱可塑性樹脂組成物には、軋み音の低減効果を増強させるために、シリコーンオイル(E)を含有させることができる。シリコーンオイル(E)は、ポリオルガノシロキサン構造を持つものであれば特に制限されるものではないが、ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル、メチルハイドロジェンシリコーンオイル等の未変性シリコーンオイルの他、ポリオルガノシロキサン構造中の側鎖の一部及び/又はポリオルガノシロキサン構造の片末端部分、又は、ポリオルガノシロキサン構造の両末端部分に各種有機基が導入された変性シリコーンオイルなどが挙げられる。上記変性シリコーンオイルとしては、アルキル変性シリコーンオイル、アルキル・アラルキル変性シリコーンオイル、ポリエーテル変性シリコーンオイル、フッ素変性シリコーンオイル、高級アルコキシ変性シリコーンオイル、高級脂肪酸変性シリコーンオイル、メチルスチリル変性シリコーンオイル、メチル塩素化フェニルシリコーンオイル、メチルハイドロジエンシリコーンオイル、アミノ変性シリコーンオイル、エポキシ変性シリコーンオイル、カルボキシル変性シリコーンオイル、アクリル変性シリコーンオイル、メタクリル変性シリコーンオイル、メルカプト変性シリコーンオイル、フェノール変性シリコーンオイル、カルビノール変性シリコーンオイル等を使用することができる。これらの中で、メチルフェニルシリコーンオイルが好ましい。これらは単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。
本発明で用いられるメチルフェニルシリコーンオイルは、ポリシロキサンの側鎖の一部がフェニル基である、非反応性のストレートシリコーンオイルである。
また、本発明で使用するシリコーンオイル(E)の25℃における動粘度は、通常、10〜100,000cSt、好ましくは、10〜50,000cSt、より好ましくは15〜50,000cSt、特に好ましくは20〜30,000cStである。該シリコーンオイル(E)の25℃における動粘度が10cSt未満では、軋み音の低減効果が不十分になる傾向があり、一方、動粘度が100,000cStを超えると、樹脂組成物(X)における該シリコーンオイル(E)の分散性が悪くなり、耐衝撃性、軋み音低減効果が安定して発現せず、溶融混練時の押出加工性も低下する傾向がある。
シリコーンオイルの動粘度の測定は、ASTM D445−46T(JIS 8803でも可)によるウベローデ粘度計により行った。
本発明の熱可塑性樹脂組成物における成分(E)の含有量は、上記樹脂組成物(X)(即ち、成分(A)、(B)及び(C)の合計)100質量部に対して、0.1〜15質量部であり、好ましくは0.2〜10質量部、より好ましくは0.5〜3質量部である。成分(E)の含有量が0.1質量部未満の場合、異音リスク指数が高くなり、軋み音が発生し易くなり、15質量部を超える場合、成形品の表面外観が損なわれる可能性がある。
なお、本発明の熱可塑性樹脂組成物において、本発明の成分(E)は、本発明の成分(A)又は成分(B)のそれぞれの製造工程中及び/又は製造工程後に成分(A)又は成分(B)のそれぞれに予め添加されたものであってもよい。
6.重量平均分子量が10000以下のポリオレフィン系樹脂(F)(本明細書中「成分(F)」ともいう。):
本発明で使用するポリオレフィン系樹脂(F)は、オレフィンの単独重合体及び共重合体のうち、重量平均分子量が10000以下のものであれば特に限定されない。かかるオレフィンの単独重合体及び共重合体の具体例としては、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、オレフィン共重合体ワックス(例えば、エチレン共重合体ワックス)等が挙げられ、これらの部分酸化物又はこれらの混合物も含まれる。尚、ポリオレフィン樹脂(F)の構造は、線状構造であってもよいし、分岐構造であってもよい。これらは、単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
上記オレフィンの共重合体には、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ヘキセン、1−デセン、4−メチル−1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン等のオレフィンの2種以上を用いてなる共重合体、これらのオレフィンと、共重合可能な単量体、例えば、不飽和カルボン酸及びその酸無水物[(メタ)アクリル酸、無水マレイン酸等]、(メタ)アクリル酸エステル[(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル等の(メタ)アクリル酸アルキルエステル等]等の重合性単量体との共重合体等が挙げられる。また、これらの共重合体には、ランダム共重合体、ブロック共重合体又はグラフト共重合体が含まれる。
上記ポリオレフィン系樹脂の好ましい重量平均分子量は、300〜6,000であり、より好ましくは500〜5,500である。重量平均分子量がこの範囲にあると、離型性に特に優れる。
本発明の熱可塑性樹脂組成物における成分(F)の含有量は、上記樹脂組成物(X)(即ち、成分(A)、(B)及び(C)の合計)100質量部に対して、0.1〜15質量部であり、好ましくは0.2〜12質量部、より好ましくは0.3〜5質量部である。成分(F)の含有量が0.1質量部未満の場合、異音リスク指数が高くなり、軋み音が発生し易くなり、15質量部を超える場合、成形品に層状剥離が発生する可能性がある。
なお、本発明の熱可塑性樹脂組成物において、本発明の成分(F)は、本発明の成分(A)又は成分(B)のそれぞれの製造工程中及び/又は製造工程後に成分(A)又は成分(B)のそれぞれに予め添加されたものであってもよい。
7.熱可塑性樹脂組成物:
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、成分(A)、成分(B)、成分(C)及び成分(D)並びに所望により成分(E)及び/又は成分(F)を所定の配合比率で混合し、溶融混練することにより得られる。また、成分(C)、成分(D)、成分(E)及び成分(F)は、何れも、成分(A)又は成分(B)を製造する際に予め成分(A)又は成分(B)に加えられたものに由来するものであってもよい。
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、必要に応じて、充填剤、造核剤、滑剤、熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、老化防止剤、可塑剤、抗菌剤、着色剤等の各種添加剤を、本発明の目的を損なわない範囲で含有することができる。
さらに、本発明の熱可塑性樹脂組成物は、必要に応じて、他の樹脂、例えばABS樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリフェニレンサルファイド、ポリアミド等を、本発明の目的を損なわない範囲で含有することができる。
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、各成分を所定の配合比で、タンブラーミキサーやヘンシェルミキサーなどで混合した後、一軸押出機、二軸押出機、バンバリーミキサー、ニーダー、ロール、フィーダールーダー等の混合機を用いて、適当な条件下で溶融混練して製造することができる。好ましい混練機は、二軸押出機である。さらに、それぞれの成分を混練するに際しては、それぞれの成分を一括して混練しても、多段、分割配合して混練してもよい。尚、バンバリーミキサー、ニーダー等で混練した後、押出機によりペレット化することもできる。また、充填材のうち繊維状のものは、混練中での切断を防止するためにサイドフィーダーにより押出機の途中から供給する方が好ましい。溶融混練温度は、通常200〜300℃、好ましくは220〜280℃である。
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、ジグラー(ZIEGLER)社製のスティックスリップ試験機SSP−02を用いて後述する実施例に記載の方法で測定される試験において、同じ熱可塑性樹脂組成物からなる接触用部品同士を用いて温度23℃、湿度50%R.H.、荷重100N、速度10mm/秒の条件で測定される異音リスク指数が5以下であることが好ましく、3以下であることがさらに好ましい。ドイツ自動車工業会の基準(VDA203−260)によれば、異音リスク指数が3以下なら合格である。かかる好ましい異音リスク指数は、本願の成分(A)〜(D)及び必要に応じて成分(E)及び/又は成分(F)の配合量を適宜調整することにより充足することができる。
8.成形品
本発明の熱可塑性樹脂組成物で成形された成形品は、少なくとも2個の互いに接触する部品を含む物品の少なくとの1つの部品として使用することにより、当該物品に軋み音が発生するのを抑制することができる。したがって、本発明によれば、少なくとも2個の互いに接触する部品を含む物品であって、前記部品の少なくとも1つが本発明の熱可塑性樹脂組成物からなる成形品であることを特徴とする物品が提供され、2個以上の部品が本発明の熱可塑性樹脂組成物からなる成形品であることが好ましく、全ての部品が本発明の熱可塑性樹脂組成物からなる成形品であることが特に好ましい。
本発明の熱可塑性樹脂組成物から上記成形品または部品を製造する方法には何等制限はなく、例えば、射出成形、射出圧縮成形、ガスアシスト成形、プレス成形、ブロー成形、異形押出成形の他、カレンダー成形やTダイ押出成形に代表されるフィルム及びシート成形等の公知の方法が挙げられる。
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、上記物品の部品のうち少なくとも2個の部品が常に又は間欠的に接触し、振動、ねじれ、衝撃等の外力が物品に加わった時に両部品の接触部が互いに僅かに移動又は衝突するような物品の成形材料として好適である。かかる接触部の接触態様は、面接触、線接触、点接触等の何れであっても良く、部分的に接着されていてもよい。具体的には、図1に示されるように部品10の一面と部品20の一面が互いに突き合わされた状態で接触している物品、図2〜6に示されるように、部品10の一部が部品20に形成された凹部に嵌合した状態で接触している物品などが挙げられる。
部品同士が嵌合した状態で接触している物品の具体例としては、図2に示されるように、部品10の一端が部品20に形成された相補的な凹部にぴったり嵌合した状態で接触している物品、図3に示されるように、部品20のコーナー部に形成された2つの相補的な凹部のそれぞれに部品10の各端部がぴったり嵌合した状態で接触している物品、図4に示されるように、略平行に配置された2つの部品10のそれぞれに形成された相補的な凹部に部品20の各端部がぴったり嵌合した状態で接触している物品、図5に示されるように、部品10の内側面寸法と同寸法の外側面寸法を備える部品20を、部品10の中に入れ子状に挿入し、両者の内側面と外側面がぴったり嵌合した状態で接触している物品などが挙げられる。
また、本発明の物品における2つの部品は、互いにぴったり嵌合している必要はなく、図6に示されるように、ある程度の空隙や遊びをもって互いに嵌合しており、振動、ねじれ、衝撃等の外力が物品に加わった時に、互いに接触及び非接触を繰り返すような物品であってもよい。
上述のような接触部を複合的に備えた物品として、図8に示されるような物品が挙げられる。図8の物品において、部品10は底面が全て開口した直方体からなる升状の部品であり、部品20は部品10と同様の形状を備えるとともに上面の中央部に矩形の開口が形成された成形品である。そして、図8に示すように、部品20は部品10の中に嵌合させることができ、部品20の外周面と部品10の内周面は互いに接触し、両者は振動等の外力を受けると僅かに変形して接触及び非接触を繰り返す。図7に良く示されるように、部品20は対向する外側面に突起30を備え、図8に示されるように、部品10は対向する2つの側面に部品20の突起30を収容する穴を備えている。そして、部品10を部品20に嵌合させた時、該穴に突起30がスナップフィットすることにより両部品の嵌合が容易に外れないようにしている。部品10及び部品20の少なくとも1つを本発明の熱可塑性樹脂で成形することにより、例えば、外力が図8(C)の矢印の方向にかけられた場合でも、軋み音の発生を防止することができる。なお、外力の方向は、図8(C)の方向に限定されるものではなく、他の方向から外力が加えられた場合でも、部品10及び部品20の少なくとも1つを本発明の熱可塑性樹脂で成形した場合には、軋み音の発生は防止される。なお、図8の突起30の断面形状及び部品10の穴の形状を変更して、両部品をプレスフィットする構成に変更することもできる。
図9は、部品10及び部品20がそれぞれ突起30及びそれにスナップフィットする穴の代わりに、部品10及び部品の20の内側面と外側面の一部を接着剤31を用いてで接着した以外図8の物品と同様の態様を示すものである。また、接着剤31の代わりに、部品10及び部品20を互いにレーザー溶着等により溶着することもでき、この方法は、両部品が熱可塑性樹脂成形品である場合に好都合である。特にレーザー溶着ではレーザー光を透過する透明の熱可塑性樹脂と、レーザー光を吸収する熱可塑性樹脂からなる部品を組み合わせることが好ましく、具体的な製品としては、車載速度計などの計器類、照明灯等があげられる。
図10の例は、部品10と部品20の対向する側面の対向する位置に穴が開けられており、この2つの穴を通じてボルトとナットで締結して両部品を固定するように構成されている以外図8の物品と同様の態様を示すものである。ボルトナットの代わりに、ネジ、ピン、ビス、リベット、ブッシュ、ブラケット、ヒンジ、釘等を用いて、部品10及び部品20を固定してもよい。
また、図11に示すように、長方形の板状の本体の両端から長手方向外方に円筒状の軸19が突出した形状の部品18と、この部品18の軸19を挿入させて部品18を軸19回りに回転可能に支持するフレーム状の部品28とを備える図12に示されるような物品も、本発明の熱可塑性樹脂組成物で成形するのに好適である。部品18及び部品28の少なくとも一方を本発明の熱可塑性樹脂組成物で成形することにより、部品18を軸19回りに回転させた場合や、物品に振動等の外力が加わった場合に、軋み音が発生するのを抑制することができる。
図12に示されるように、フレーム状の部品28が複数の開口部29を備える場合には、該物品は、部品18の角度によって空気の流れる量や向きを調節する装置として好適に使用できる。かかる装置としては、家庭用及び車載用のエアコン、空気清浄機、送風機等の吹き出し口が挙げられる。
上記の物品において、部品10,18及び部品20,28の少なくとも何れか一方を上記本発明の熱可塑性樹脂組成物からなる成形品にすることで、軋み音の発生を著しく低減させることができるが、他方の物品も、上記本発明の熱可塑性樹脂組成物からなる成形品としてもよい。
本発明の物品において、本発明の熱可塑性樹脂組成物で成形された成形品からなる部品以外の部品を構成する素材は特に制限はなく、例えば、本発明の熱可塑性樹脂組成物以外の熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、ゴム、有機質材料、無機質材料、金属材料等が挙げられる。
本発明の熱可塑性樹脂組成物以外の熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、AS樹脂、ABS樹脂、AES樹脂、ASA樹脂、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリスチレン、耐衝撃性ポリスチレン、EVA、ポリアミド(PA)、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリカーボネート(PC)、ポリ乳酸、PA/ABS樹脂、PA/AES樹脂等が挙げられる。これらは、単独で又は2種以上の組み合わせで使用できる。
熱硬化性樹脂としては、例えば、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂等が挙げられる。これらは、単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
ゴムとしては、クロロプレンゴム、ポリブタジエンゴム、エチレン・プロピレンゴム、SEBS、SBS、SIS等の各種合成ゴム、天然ゴム等が挙げられる。これらは、単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
有機質材料としては、例えば、インシュレーションボード、MDF(中質繊維板)、ハードボード、パーティクルボード、ランバーコア、LVL(単板積層材)、OSB(配向性ボード)、PSL(パララム)、WB(ウェハーボード)、硬質繊維板、軟質繊維板、ランバーコア合板、ボードコア合板、特殊コア−合板、ベニアコア−ベニヤ板、タップ樹脂を含浸させた紙の積層シート・板、(古)紙等を砕いた細かい小片・線状体に接着剤を混合して加熱圧縮したボード、各種の木材等が挙げられる。これらは、単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
無機質材料としては、例えば、ケイ酸カルシウムボード、フレキシブルボード、ホモセメントボード、石膏ボード、シージング石膏ボード、強化石膏ボード、石膏ラスボード、化粧石膏ボード、複合石膏ボード、各種セラミック、ガラス等が挙げられる。これらは、単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
更に、金属材料としては、鉄、アルミニウム、銅、各種の合金等が挙げられる。これらは、単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
本発明の物品としては、互いに接触する部品を含む物品、例えば、電気若しくは電子機器、光学機器、照明機器、事務用機器、または家電製品の部品、自動車内装用部品、住宅内装用部品等が挙げられる。
電気若しくは電子機器及び光学機器の部品としては、デジタルビデオカメラ、スチルカメラ等のカメラのハウジング、ハンドヘルドコンピュータ、携帯電話、携帯情報端末等のハウジング等が挙げられる。
照明機器の部品としては、シーリングライトのパネル、カバー、コネクタ等が挙げられる。
事務機器用の部品としては、ケース、ハウジング等の外装部品、内装部品、スイッチまわりの部品、可動部の部品、デスクロック部品、デスク引き出し、複写機の用紙トレイ等が挙げられる。
家電製品の部品としては、ケース、ハウジング等の外装部品、内装部品、スイッチまわりの部品、可動部の部品等が挙げられる。
自動車内装用部品としては、例えば、ドアトリム、ドアライニング、ピラーガーニッシュ、コンソール、コンソールボックス、センターパネル、ドアポケット、ベンチレータ、ダクト、エアコン、メーターバイザー、インパネアッパーガーニッシュ、インパネロアガーニッシュ、A/T インジケーター、オンオフスイッチ類(スライド部、スライドプレート)、スイッチベゼル、グリルフロントデフロスター、グリルサイドデフロスター、リッドクラスター、カバーインストロアー、マスク類(マスクスイッチ、マスクラジオなど)、グローブボックス、ポケット類(ポケットデッキ、ポケットカードなど)、ステアリングホイールホーンパッド、スイッチ部品、カーナビゲーション用外装部品等が挙げられる。
住宅内装用部品としては、シェルフ扉、チェアダンパー、テーブル折りたたみ脚可動部品、扉開閉ダンパー、引き戸レール、カーテンレール等が挙げられる。
以下、実施例により、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。尚、実施例中、部および%は特に断らない限り質量基準である。
(1)評価方法:
(1−1)軋み音評価(異音リスク指数):
表1に記載の熱可塑性樹脂組成物を、東芝機械製の射出成形機「IS−170FA」(商品名)を用いて、シリンダー温度260℃、射出圧力80MPa、金型温度60℃の条件で射出成形することにより得た、縦150mm、横100mm、厚さ4mmの成形品から、縦60mm、横100mm、厚さ4mm、及び、縦50mm、横25mm、厚さ4mmの試験片をディスクソーで切り出した。次に、番手#100のサンドペーパーで試験片の端部を面取りした後、細かなバリをカッターナイフで除去し、大小2枚の軋み音評価用試験片を得た。
上記評価用試験片を75℃±5℃に調整したオーブンで60時間及び300時間熱老化させ、25℃で24時間冷却した後、大小2枚の成形品をジグラー(ZIEGLER)社製スティックスリップ試験機SSP−02にセットし、温度23℃、湿度50%R.H.、荷重100N、速度10mm/秒の条件で、振幅20mmで3回擦り合わせた時の異音リスク指数を測定した。異音リスク指数が大きい程、軋み音が発生しやすくなる。なお、この試験法は、熱老化させて評価を行うため、軋み音低減効果の持続性も評価することができる。
(1−2)糸引き
上記1−1の軋み音評価用試験片を射出成形機で生産する際、型開き後、射出成形品を取り出した時に、ノズル先端からスプルーを通して金型内に糸引きが発生するかどうかを以下の評価基準に基づいて評価した。樹脂充填後に成形品を金型内で保持する時間(冷却時間)は、30秒であった。
<糸引き評価基準>
○:ノズル先端からスプルーを通して金型内に糸引きが発生しなかった。
×:ノズル先端からスプルーを通して金型内に糸引きが発生した。
(1−3)難燃性
米国アンダーライターラボラトリーズ発行のUL94規格に定められた方法により、難燃性の評価を行った。垂直燃焼試験(V−2グレード)は、長さ125mm、幅13mm、厚み0.8mmの試験片を用いて行い、水平燃焼試験(HBグレード)は、長さ125mm、幅13mm、厚み0.45mmの試験片を用いて行った。
(2)使用原料
(2−1)ゴム強化ビニル系樹脂(A1)
リボン型攪拌機翼、助剤連続添加装置、温度計などを装備した容積20リットルのステンレス製オートクレーブに、エチレン・α−オレフィン系ゴム質重合体(a1)として、エチレン・プロピレン共重合体(エチレン/プロピレン=78/22(%)、ムーニー粘度(ML1+4 ,100℃)20、融点(Tm)は40℃、ガラス転移温度(Tg)は−50℃)22部、スチレン55部、アクリロニトリル23部、t−ドデシルメルカプタン0.5部、トルエン110部を仕込み、内温を75℃に昇温して、オートクレーブ内容物を1時間攪拌して均一溶液とした。その後、t−ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート0.45部を添加し、内温を更に昇温して、100℃に達した後は、この温度を保持しながら、攪拌回転数100rpmとして重合反応を行った。重合反応開始後4時間目から、内温を120℃に昇温し、この温度を保持しながら更に2時間反応を行って重合反応を終了した。重合添加率は98%であった。その後、内温を100℃まで冷却し、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェノール)−プロピオネート0.2部、ジメチルシリコーンオイル;KF−96−100cSt(商品名:信越シリコーン株式会社製)0.02部を添加した後、反応混合物をオートクレーブより抜き出し、水蒸気蒸留により未反応物と溶媒を留去し、さらに40mmφベント付き押出機(シリンダー温度220℃、真空度760mmHg)を用いて揮発分を実質的に脱気させ、ペレット化した。得られたエチレン・α−オレフィン系ゴム強化ビニル系樹脂において、エチレン・α−オレフィン系ゴム質重合体(a1)の含有量は22%(重合添加率から計算)、グラフト率は70%、アセトン可溶分の極限粘度[η]は0.47dl/gであった。
(2−2)ゴム強化ビニル系樹脂(A1´)
撹拌機を備えた内容積7リットルのガラス製フラスコに、窒素気流中、イオン交換水75部、ロジン酸カリウム0.5部、tert−ドデシルメルカプタン0.1部、ポリブタジエンゴムラテックス(数平均粒子径;3,500Å、ゲル含率;85%)39部(固形分)、スチレン15部及びアクリロニトリル5部を投入し、撹拌しながら昇温した。内温が45℃に達した時点で、ピロリン酸ナトリウム0.2部、硫酸第一鉄7水和物0.01部及びブドウ糖0.2部をイオン交換水20部に溶解した溶液を加え、更に攪拌した。その後、クメンハイドロパーオキサイド0.07部を加えて重合を開始した。
1時間重合させた後、更にイオン交換水50部、ロジン酸カリウム0.7部、スチレン31部、アクリロニトリル10部、tert−ドデシルメルカプタン0.05部及びクメンハイドロパーオキサイド0.01部を3時間かけて連続的に添加した。
1時間重合を継続し、2、2’−メチレン−ビス(4−エチル−6−tert−ブチルフェノール)0.2部を添加し反応を完結させた。重合転化率は98%であった。反応生成物であるラテックスから、樹脂成分を硫酸水溶液により凝固、水洗した後、乾燥してゴム強化ビニル系樹脂(A1´)を得た。
得られたゴム強化ビニル系樹脂(A1´)において、ポリブタジエンゴム(PBD)の含有量は40%(熱分解ガスクロマトグラフィーを用いて測定)、グラフト率は68%、アセトン可溶分の固有粘度[η](メチルエチルケトン中、30℃で測定)は0.45dl/gであった。
(2−3)共重合体(A3)
テクノポリマー社製のAS樹脂「SAN−H」(商品名)を用いた。
(2−4)ポリカーボネート樹脂(B)
Bayer社製のポリカーボネート樹脂「Makrolon 2800」(商品名)を用いた。
(2−5)難燃剤(C)
大八化学工業株式会社製の芳香族縮合リン酸エステル系難燃剤「PX−200」(商品名)を用いた。
(2−6)フッ素樹脂(D)
D−1:ダイキン工業株式会社製の高分子量PTFE(4フッ化エチレン樹脂)「ポリフロンTM MPA−500C」(商品名)を用いた。
(2−7)シリコーンオイル(E)
E−1:信越化学工業株式会社製のメチルフェニルシリコーンオイル「KF−54」(商品名)を用いた。ASTM D445−46Tによる25℃で測定した動粘度は400cStである。
(2−8)ポリオレフィン系樹脂(F)
F−1:三洋化成工業株式会社製の低分子量ポリエチレン「サンワックス 171−P」(商品名)を用いた。GPCで測定したポリスチレン換算の重量平均分子量は1600である。
実施例1〜9及び比較例1〜3
表1に記載の成分を同表に記載の配合割合でヘンシェルミキサーにより混合した後、二軸押出機(日本製鋼所製、TEX44α、バレル設定温度260℃)で溶融混練し、ペレット化することにより樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物を上記した評価方法で評価した。評価結果を表1に示した。
Figure 0006285179
表1から以下のことがわかる。
実施例1〜9は、成分(A)、(B)及び(C)を含有する難燃性熱可塑性樹脂組成物の系に成分(D)を配合したため、成形品の異音リスク指数が低減され、成形時の糸引きも防止された。特に、成分(D)の配合量を増大させるか、成分(D)と成分(E)及び/又は成分(F)とを併用した実施例3〜6では、難燃性を損なうことなく、成形品の異音リスク指数が実施例1よりもさらに改善された。また、成分(A)の量を増やした実施例7及び成分(B)の量を減らした実施例8でも、難燃性がV−2グレードに適合しないものの、成形品の異音リスク指数が実施例1よりもさらに改善された。実施例1〜6及び9は、難燃性が特に優れていた。これに対し、比較例1は、成分(D)を含有しない例であるが、異音リスク指数が劣り、糸引きも発生した。比較例2は、成分(B)を含有しない例であるが、難燃性に劣った。比較例3は、成分(A)を含有しない例であるが、異音リスク指数が劣った。
なお、実施例6の熱可塑性樹脂を用いて図10の部品10を成形し、比較例1の熱可塑性樹脂を用いて図10の部品20を成形し、75℃±5℃に調整したオーブンで60時間熱老化させ、その後25℃で24時間冷却した。両者を図10に示されるように嵌め込んでボルトナットで締結して組み立てた後、図10の矢印の方向に繰り返し荷重をかけたところ、軋み音は発生しなかった。
以上から明らかなように、本発明の熱可塑性樹脂組成物は、成分(A)、成分(B)及び成分(C)からなる難燃性熱可塑性樹脂(X)に所定量の成分(D)並びに所望により所定量の成分(E)及び/又は(F)を配合することにより、成形品の軋み音の発生を抑制するとともに、成形時の糸引きを防止することができ、少なくとも2個の互いに接触する部品を含む物品の部品の成形材料として好適であることがわかる。
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、軋み音の発生の抑制が要求される成形品の成形材料として好適に用いることができる。

Claims (8)

  1. ゴム強化芳香族ビニル系樹脂(A)5〜75質量%、ポリカーボネート樹脂(B)15〜90質量%、及び、難燃剤(C)3〜25質量%を含む樹脂組成物(X)(ただし、上記成分(A)、(B)及び(C)の合計は100質量%)であって、さらに、前記樹脂組成物(X)100質量部に対して、フッ素樹脂(D)0.05〜0.45質量部を含み、前記成分(A)のゴム成分が融点(Tm)0℃以上のエチレン・α−オレフィン系ゴムを含んでなり、
    難燃性がUL94規格によるHBグレード及び/又はV−2グレードに適合し、
    ジグラ(ZIEGLER)社のスティックスリップ測定装置SSP−02を使用して測定した異音リスク指数が、以下の測定条件において3以下であることを特徴とする難燃性熱可塑性樹脂組成物。
    測定条件:縦60mm、横100mm、厚さ4mmの大試験片、及び、縦50mm、横25mm、厚さ4mmの小試験片を用意し、温度23℃、湿度50%R.H.、荷重100N、速度10mm/秒、振幅20mmの条件下で、これら大小2枚の試験片を3回擦り合わせる時の異音リスク指数を測定。
  2. さらに、前記樹脂組成物(X)100質量部に対して、シリコーンオイル(E)0.1〜15質量部、及び/又は、重量平均分子量が10000以下のポリオレフィン系樹脂(F)0.1〜15質量部を含む、請求項に記載の難燃性熱可塑性樹脂組成物。
  3. 前記エチレン・α−オレフィン系ゴムを、前記樹脂組成物(X)100質量%に対して、1〜20質量%含む、請求項1又は2に記載の難燃性熱可塑性樹脂組成物。
  4. 前記成分(A)が、エチレン・α−オレフィン系ゴムを含むゴム質重合体(a)の存在下に、芳香族ビニル化合物を含むビニル系単量体(b1)を重合して得られたゴム強化芳香族ビニル系樹脂、又は、該ゴム強化芳香族ビニル系樹脂とビニル系単量体(b2)の(共)重合体との混合物である、請求項1乃至の何れか一項に記載の難燃性熱可塑性樹脂組成物。
  5. 請求項1乃至の何れか一項に記載の難燃性熱可塑性樹脂組成物からなる成形品。
  6. 少なくとも2個の互いに接触する部品を含む物品であって、前記部品の少なくとも1つが請求項に記載の成形品からなることを特徴とする物品。
  7. 電気若しくは電子機器、光学機器又は照明機器である、請求項に記載の物品。
  8. カメラである、請求項またはに記載の物品。
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