以下、本発明を詳しく説明する。本発明において、「(共)重合」とは、単独重合及び/又は共重合を意味し、「(メタ)アクリル」とは、アクリル及び/又はメタクリルを意味し、「(メタ)アクリレート」とは、アクリレート及び/又はメタクリレートを意味する。
1.熱可塑性樹脂(X)
本発明で用いる熱可塑性樹脂(X)は、ポリカーボネート系樹脂(A)と、ゴム強化芳香族ビニル系樹脂(B)とを必須成分として含有するとともに、ゴム強化芳香族ビニル系樹脂(B)は、ゴム成分としてエチレン・α−オレフィン系ゴム(b1)を含有する、乳化重合で得られたゴム強化芳香族ビニル系樹脂(B1)を必須成分として含有する。
以下、該熱可塑性樹脂(X)を構成する上記樹脂成分について詳述する。
1−1.ポリカーボネート系樹脂(A)
本発明で用いる熱可塑性樹脂(X)は、上記のとおり、ポリカーボネート樹脂(A)を含有することができる。本発明において、ポリカーボネート樹脂(A)は、主鎖にカーボネート結合を有するものであれば特に限定されず、芳香族ポリカーボネート、脂肪族ポリカーボネート、脂肪族−芳香族ポリカーボネートなどが挙げられる。これらは、単独でまたは2種以上組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、耐衝撃性、耐熱性等の観点から、芳香族ポリカーボネートが好ましい。尚、これらのポリカーボネート樹脂は、末端がR−CO−基、R’−O−CO−基(R及びR’は、いずれも有機基を示す。)に変性されたものであってもよい。
上記芳香族ポリカーボネートとしては、芳香族ジヒドロキシ化合物及び炭酸ジエステルをエステル交換(エステル交換反応)して得られたもの、ホスゲンを用いた界面重縮合法により得られたもの、ピリジンとホスゲンとの反応生成物を用いたピリジン法により得られたもの等を用いることができる。
芳香族ジヒドロキシ化合物としては、分子内にヒドロキシル基を2つ有する化合物であればよい。
上記芳香族ジヒドロキシ化合物のうち、2つのベンゼン環の間に炭化水素基を有する化合物が好ましい。尚、この化合物において、炭化水素基は、ハロゲン置換された炭化水素基であってもよい。また、ベンゼン環は、そのベンゼン環に含まれる水素原子がハロゲン原子に置換されたものであってもよい。従って、上記化合物としては、ビスフェノールA、2,2−ビス(3,5−ジブロモ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル−3−メチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3、5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(p−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(p−ヒドロキシフェニル)ブタン等が挙げられる。これらは、単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。これらのうち、特に、ビスフェノールAが好ましい。
芳香族ポリカーボネートをエステル交換反応により得るために用いる炭酸ジエステルとしては、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジ−tert−ブチルカーボネート、ジフェニルカーボネート、ジトリルカーボネート等が挙げられる。これらは、単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
上記ポリカーボネート樹脂(A)の粘度平均分子量は、好ましくは15,000〜40,000、より好ましくは17,000〜30,000、特に好ましくは18,000〜28,000である。この粘度平均分子量が高いほど、耐衝撃性が高くなる一方、流動性が十分でなく、成形加工性が不十分になる可能性がある。尚、全体としての粘度平均分子量が上記範囲に入るものであれば、異なる粘度平均分子量を有するポリカーボネート樹脂の2種以上を混合して用いてもよい。
1−2.ゴム強化芳香族ビニル系樹脂(B)
本発明において、ゴム強化芳香族ビニル系樹脂(B)としては、ゴムの分散粒子を含有することによって耐衝撃性等の機械的強度が向上した芳香族ビニル系樹脂が挙げられる。ゴム強化芳香族ビニル系樹脂(B)の具体例としては、ゴム強化芳香族ビニル系グラフト樹脂(B−1)が芳香族ビニル系共重合樹脂(B−2)中に分散した形態のものが挙げられる。
ゴム強化芳香族ビニル系樹脂(B)は、成分(B1)(すなわち、以下に詳述するとおり、ゴム成分としてエチレン・α−オレフィン系ゴム(b1)を含有する、乳化重合で得られたゴム強化芳香族ビニル系樹脂)のみから構成されてもよく、成分(B1)以外のゴム強化芳香族ビニル系樹脂を含有してもよい。
1−2−1.ゴム強化芳香族ビニル系樹脂(B1)
本発明におけるゴム強化芳香族ビニル系樹脂(B1)は、ゴム成分としてエチレン・α−オレフィン系ゴム(b1)を含有する、乳化重合で得られたゴム強化芳香族ビニル系樹脂である。
ゴム強化芳香族ビニル系樹脂(B1)は、例えば、エチレン・α−オレフィン系ゴム(b1)を含有するゴム質重合体(b)のラテックスの存在下に芳香族ビニル系単量体を含有するビニル系単量体(a)を乳化重合することにより得られる。
かくして得られたゴム強化芳香族ビニル系樹脂(B1)は、ビニル系単量体(a)に由来する構造単位から形成された重合体がゴム質重合体(b)(即ち、エチレン・α−オレフィン系ゴム(b1)を含有するゴム質重合体(b))に由来するゴム成分にグラフト重合したゴム強化芳香族ビニル系グラフト樹脂(B1−1)と、上記ゴム成分にグラフト重合しなかった上記重合体からなる芳香族ビニル系共重合樹脂(B1−2)とを主として含有する混合物として得られる。
上記成分(b1)を構成するα−オレフィンとしては、例えば、炭素数3〜20のα−オレフィンが挙げられ、具体的には、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、1−ヘキサデセン、1−エイコセンなどが挙げられる。これらのα−オレフィンは、単独でまたは2種以上を混合して使用することができる。α−オレフィンの炭素数は、好ましくは3〜20、より好ましくは3〜12、さらに好ましくは3〜8である。炭素数が20を超えると共重合性が低下し、成形品の表面外観が十分でなくなる場合がある。
上記成分(b1)におけるエチレン:α−オレフィンの質量比は、通常5〜95:95〜5、好ましくは50〜95:50〜5、より好ましくは60〜95:40〜5、特に好ましくは70〜90:30〜10である。α−オレフィンの質量比が上記範囲にあると、エチレン:α−オレフィンのゴム弾性が十分なものとなるため、得られるゴム強化芳香族ビニル系樹脂(B1)を含む熱可塑性樹脂組成物を成形して得られる成形品の耐衝撃性が十分なものとなり好ましい。
また、上記成分(b1)のムーニー粘度(ML1十4、100℃;JIS K6300に準拠)は、通常5〜80、好ましくは10〜65、より好ましくは10〜45である。ムーニー粘度が上記範囲にあると、得られるゴム強化芳香族ビニル系樹脂(B1)の流動性が十分なものとなるため、成形性が十分なものとなり好ましい。
本発明に用いられるエチレン・α−オレフィン系ゴム(b1)は、軋み音を低減する観点から、Tm(融点)を持つことが好ましい。ここで、Tmは、DSC(示差走査熱量計)を用い、1分間に20℃の一定昇温速度で吸熱変化を測定し、得られた吸熱パターンのピーク温度を読みとった値であり、詳細は、JIS K7121−1987に記載されている。上記Tmは、好ましくは0〜120℃、より好ましくは10〜100℃、特に好ましくは20〜80℃であり、Tmが0℃未満の場合、本発明の熱可塑性樹脂を成形して得られる成形品の軋み音の低減効果は不十分となる場合がある。尚、DSCの測定において、吸熱変化のピークを明瞭に示さないものは、実質的に結晶性がないものであり、Tmを持たないものと判断した。
エチレン・α−オレフィン系ゴム(b1)に融点(Tm)があることは、該ゴムが結晶性部分を有することを意味している。ゴム中に結晶性部分が存在すると、スティックスリップ現象の発生が抑制される為、軋み音の発生が抑制されるものと考えられる。
また、エチレン・α−オレフィン系ゴム(b1)のガラス転移温度(Tg)は、好ましくは、−20℃以下であり、より好ましくは、−30℃以下であり、特に好ましくは、−40℃以下である。ガラス転移温度が、−20℃以下であると、本発明の熱可塑性樹脂を成形してなる成形品の耐衝撃性は十分なものとなり好ましい。尚、上記ガラス転移温度は、Tm(融点)の測定と同様に、DSC(示差走査熱量計)を用い、JIS K7121−1987に準拠して求めることができる。
上記エチレン・α−オレフィン系ゴム(b1)は、エチレン及びα−オレフィンの他に、これらと共重合可能な他の成分として、非共役ジエン成分を含んでもよいが、軋み音低減の観点から、通常、非共役ジエン成分の含有量は少ない方が好ましく、非共役ジエンを含有しないエチレン・α−オレフィン共重合体であることがより好ましい。非共役ジエン成分としては、1,4−ヘキサジエン、1,5−ヘキサジエン、5−エチリデン−2−ノルボルネン、ジシクロペンタジエン等が挙げられる。非共役ジエン成分の配合量は、エチレン及びα−オレフィンを100質量%として、10質量%以下が好ましく、5質量%以下がさらに好ましく、3質量%以下が特に好ましい。非共役ジエン成分の配合量が10質量%を超えると、ゴムの結晶性が低下し、軋み音の低減効果が十分でなくなる可能性がある。エチレン・α−オレフィン系ゴム(b1)は、エチレン・プロピレン共重合体、エチレン・1−ブテン共重合体、エチレン・1−オクテン共重合体が好ましく、エチレン・プロピレン共重合体がより好ましい。
上記成分(b1)の重量平均分子量は、通常50,000〜1,000,000、好ましくは80,000〜800,000、より好ましくは80,000〜500,000である。上記重量平均分子量は、代表的には、ゲルパーミエーションクロマトグラフー(GPC)を用いることにより測定することができる。重量平均分子量が上記範囲内にあると、本発明の熱可塑性樹脂組成物の成形性、それを成形して得られる成形品の耐衝撃性及び外観が十分なものとなり好ましい。
ゴム質重合体(b)は、成分(b1)以外に、ジエン系ゴム(b2)を含有してもよい。この場合、本発明の熱可塑性樹脂組成物を成形して得られる成形品が、例えば−30℃といった非常に低温の環境下においても、衝撃破壊時に延性破壊するようになるため、本発明の熱可塑性樹脂組成物は、安全性が要求される自動車用部品などの成形品の成形材料として好適なものとなる。
ジエン系ゴム(b2)としては、ポリブタジエン、ポリイソプレン等の単独重合体;スチレン・ブタジエン共重合体、スチレン・ブタジエン・スチレン共重合体、アクリロニトリル・スチレン・ブタジエン共重合体、アクリロニトリル・ブタジエン共重合体等のブタジエン系共重合体;スチレン・イソプレン共重合体、スチレン・イソプレン・スチレン共重合体、アクリロニトリル・スチレン・イソプレン共重合体等のイソプレン系共重合体等が挙げられる。これらは、ランダム共重合体であっても、ブロック共重合体であってもよい。該ジエン系ゴム質重合体は、架橋重合体であってよいし、未架橋重合体であってもよい。また、該ジエン系ゴムは、共役ジエン系化合物よりなる単位を含む(共)重合体を水素添加してなる(共)重合体であってもよい。該ジエン系ゴムに対する水素添加率は、通常95%以上、好ましくは98%以上である。これらは、単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
上記成分(B1)は、エチレン・α−オレフィン系ゴム(b1)及び所望によりジエン系ゴム(b2)を含有するゴム質重合体(b)のラテックスの存在下、芳香族ビニル化合物を含有するビニル系単量体(a)を乳化重合することにより得ることができる。上記ラテックスを製造する方法としては、溶融状態のゴム質重合体を水中で攪拌剪断力によって、均質化処理(ホモジナイズ)する方法や、乳化剤の存在下で、重合性モノマーを乳化重合する方法等が知られている(特公平4−30970号公報、特許第3403828号、特開平11−269206号公報等参照)。
上記ビニル系単量体(a)としては、芳香族ビニル化合物が必須成分として使用され、好ましくは、シアン化ビニル化合物及び(メタ)アクリル酸エステル化合物から選ばれた少なくとも1種が追加的に使用され、さらに必要に応じて、これらの化合物と共重合可能な他のビニル系単量体を追加的に使用することができる。かかる他のビニル系単量体としては、マレイミド系化合物、不飽和酸無水物、カルボキシル基含有不飽和化合物、ヒドロキシル基含有不飽和化合物、オキサゾリン基含有不飽和化合物、エポキシ基含有不飽和化合物等が挙げられ、これらは、1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
ビニル系単量体(a)を構成する芳香族ビニル化合物の具体例としては、スチレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、p−メチルスチレン、β−メチルスチレン、エチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、ビニルトルエン、ビニルキシレン、ビニルナフタレン等が挙げられる。これらの化合物は、単独でまたは2つ以上を組み合わせて用いることができる。これらのうち、スチレン及びα−メチルスチレンが好ましく、スチレンが特に好ましい。
上記シアン化ビニル化合物の具体例としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、エタクリロニトリル、α−エチルアクリロニトリル、α−イソプロピルアクリロニトリル等が挙げられる。これらの化合物は、単独でまたは2つ以上を組み合わせて用いることができる。これらのうち、アクリロニトリルが好ましい。芳香族ビニル化合物と共重合可能な化合物としてシアン化ビニル化合物を用いると、本発明の熱可塑性樹脂組成物を成形して得られる成形品の耐薬品性、靭性等が更に優れて好ましい。
上記(メタ)アクリル酸エステル化合物の具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸sec−ブチル、(メタ)アクリル酸tert−ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸n−オクチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸ベンジル等が挙げられる。これらの化合物は、単独でまたは2つ以上を組み合わせて用いることができる。これらのうち、メタクリル酸メチルが好ましい。
上記マレイミド系化合物の具体例としては、N−フェニルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド等が挙げられる。これらの化合物は、単独でまたは2つ以上を組み合わせて用いることができる。
上記不飽和酸無水物の具体例としては、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸等が挙げられる。これらの化合物は、単独でまたは2つ以上を組み合わせて用いることができる。
上記カルボキシル基含有不飽和化合物の具体例としては、(メタ)アクリル酸、エタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、クロトン酸、桂皮酸等が挙げられる。これらの化合物は、単独でまたは2つ以上を組み合わせて用いることができる。
上記ヒドロキシル基含有不飽和化合物の具体例としては、3−ヒドロキシ−1−プロペン、4−ヒドロキシ−1−ブテン、シス−4−ヒドロキシ−2−ブテン、トランス−4−ヒドロキシ−2−ブテン、3−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロペン、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシプロピル等が挙げられる。これらの化合物は、単独でまたは2つ以上を組み合わせて用いることができる。
上記ビニル系単量体(a)は、重合後に、成分(B1−1)及び成分(B1−2)の構造単位を構成する。成分(B1−1)または成分(B1−2)中の上記芳香族ビニル化合物に由来する構造単位の含有量の下限値は、芳香族ビニル化合物に由来する構造単位と、芳香族ビニル化合物と共重合可能な化合物に由来する構造単位の合計を100質量%とした場合に、好ましくは40質量%、より好ましくは50質量%、更に好ましくは60質量%である。尚、上限値は、通常、100質量%である。
成分(B1)が構造単位として、芳香族ビニル化合物及びシアン化ビニル化合物に由来する構造単位を含む場合、芳香族ビニル化合物に由来する構造単位の含有量は、両者の合計を100質量%とした場合に、通常40〜90質量%であり、好ましくは55〜85質量%であり、シアン化ビニル化合物に由来する構造単位の含有量は、両者の合計を100質量%とした場合に、10〜60質量%であり、好ましくは15〜45質量%である。
上記乳化重合には、通常使用されている重合開始剤、連鎖移動剤、乳化剤等を用いることができる。また、ビニル系単量体(a)は、成分(b1)を含有するゴム質重合体のラテックスの存在下に、一度に全部投入して重合させてもよく、または分割もしくは連続的に少量ずつ添加して重合させてもよい。また、これらを組み合わせた方法で重合してもよい。さらにゴム質重合体のラテックスの全量または一部を重合の途中で添加して重合してもよい。
上記乳化重合の重合開始剤としては、例えば、クメンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、パラメンタンハイドロパーオキサイド等の有機過酸化物と、含糖ピロリン酸、スルホキシレート等の還元剤とを組み合わせたレドックス系開始剤;過硫酸カリウム等の過硫酸塩;ベンゾイルパーオキサイド(BPO)、アゾビスイソブチロニトリル、ラウロイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシラウレート、t−ブチルパーオキシモノカーボネート等の過酸化物等が挙げられる。重合開始剤は、油溶性でも水溶性でもよく、さらにはこれらを組み合わせて用いてもよい。重合開始剤は、1種単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。重合開始剤の使用量は、単量体成分全量100質量部に対し、好ましくは0.1〜1.5質量部、より好ましくは0.2〜0.7質量部である。尚、重合開始剤は、重合系に一括又は連続的に添加することができる。
また、連鎖移動剤としては、例えばオクチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン、n−ヘキサメチルメルカプタン、n−テトラデシルメルカプタン、t−テトラデシルメルカプタンなどのメルカプタン類;ターピノーレン類;α−メチルスチレンのダイマーなどが挙げられる。連鎖移動剤は、1種単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。連鎖移動剤の使用量の上限は、単量体成分全量100質量部に対し、通常5質量部以下、好ましくは3質量部である。尚、連鎖移動剤は、反応系に一括して、又は、連続して添加することができる。
上記乳化剤としては、アニオン系界面活性剤、及び、ノニオン系界面活性剤が挙げられる。アニオン系界面活性剤としては、高級アルコールの硫酸エステル;ドデシルベンゼンスルホン酸等のアルキルベンゼンスルホン酸塩;ラウリル硫酸ナトリウム等の脂肪酸スルホン酸塩;高級脂肪族スルホン酸塩、脂肪族リン酸塩等が挙げられる。また、ノニオン系界面活性剤としては、ポリエチレングリコールのアルキルエステル型化合物、アルキルエーテル化合物等が挙げられる。乳化剤は、1種単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。乳化剤の使用量は、単量体成分全量100質量部に対し、通常0.3〜5質量部である。
上記乳化重合は、ビニル系単量体、重合開始剤等の種類に応じ公知の条件で行うことができる。この乳化重合により得られたラテックスは、通常、凝固、水洗、濾過、乾燥することにより、重合体成分が回収されるが、本発明において、熱可塑性樹脂組成物(X)中に含まれるアルカリ金属及びアルカリ土類金属の合計量は200ppm以下である必要があることから、さらに詳細を後述する。
成分(B1)のグラフト率は、通常10〜150質量%、好ましくは15〜120質量%、より好ましくは20〜100質量%、特に好ましくは30〜80質量%である。成分(B1)のグラフト率が前記範囲にあると、樹脂組成物の耐衝撃性、成形性がさらに良好となり好ましい。
グラフト率は、下記数式(1)により求めることができる。
グラフト率(質量%)=((S−T)/T)×100 …(1)
上記式中、Sは成分(B1)1グラムをアセトン20mlに投入し、25℃の温度条件下で、振とう機により2時間振とうした後、5℃の温度条件下で、遠心分離機(回転数;23,000rpm)で60分間遠心分離し、不溶分と可溶分とを分離して得られる不溶分の質量(g)であり、Tは成分(B)1グラムに含まれるゴム成分の質量(g)である。このゴム成分の質量は、重合処方及び重合転化率から算出する方法、赤外線吸収スペクトル(IR)、熱分解ガスクロマトグラフィー、CHN元素分析等の方法により得ることができる。
上記グラフト率は、例えば成分(B1)を乳化重合する際に用いる連鎖移動剤の種類及び使用量、重合開始剤の種類及び使用量、重合時の単量体成分の添加量、添加方法及び添加時間、重合温度等を適宜選択することにより調整することができる。
上記ゴム強化芳香族ビニル系樹脂(B1)における成分(B1−2)の極限粘度[η](メチルエチルケトン中、30℃)は、通常0.1〜1.5dl/g、好ましくは0.15〜1.2dl/g、より好ましくは0.15〜1.0dl/gである。極限粘度[η]が前記範囲にあると、本発明の熱可塑性樹脂組成物を成形して得られる成形品の耐衝撃性、成形性がより良好となり好ましい。
上記極限粘度[η]の測定は下記方法で行った。まず、成分(B1)のアセトン可溶分をメチルエチルケトンに溶解させ、濃度の異なる測定用試料5点を作った。次に、ウベローデ粘度管を用い、30℃における各濃度の測定用試料の還元粘度を測定した結果から、極限粘度[η]を求めた。単位は、dl/gである。
上記極限粘度[η]は、例えば成分(B1)を乳化重合する際に用いる連鎖移動剤の種類及び使用量、重合開始剤の種類及び使用量、重合時の単量体成分の添加方法及び添加時間、重合温度、重合時間等を適宜選択することにより調整することができる。また、極限粘度[η]が異なる2種以上の成分(B1)を、適宜選択して混合することにより調整することもできる。また、極限粘度[η]は、後述する芳香族ビニル系(共)重合体(B3)を成分(B1)に混合することにより調整することもできる。
1−2−2.ゴム強化芳香族ビニル系樹脂(B2)
本発明で用いる熱可塑性樹脂(X)は、上記のとおり、上記成分(B1)以外のゴム強化芳香族ビニル系樹脂を含有してもよく、代表的には、ジエン系ゴム強化芳香族ビニル系樹脂、すなわち、ジエン系ゴム(b2)のラテックスの存在下に芳香族ビニル系単量体を含有するビニル系単量体(a)を重合することにより得られたゴム強化芳香族ビニル系樹脂(B2)含有することができる。熱可塑性樹脂(X)がゴム強化芳香族ビニル系樹脂(B2)を含有する場合、本発明の熱可塑性樹脂組成物を成形して得られる成形品が、例えば−30℃といった非常に低温の環境下においても衝撃破壊時に延性破壊するようになるため、本発明の熱可塑性樹脂組成物は安全性が要求される自動車用部品などの成形品の成形材料として好適なものとなる。
上記ゴム強化芳香族ビニル系樹脂(B2)の原料として用いるジエン系ゴム(b2)及びビニル系単量体(a)は、上記成分(B1)について述べたものを全て使用することができ、上記成分(B1)について述べたことが成分(B2)についても全て同様に当てはまる。ゴム強化芳香族ビニル系樹脂(B2)のグラフト率及び極限粘度も、成分(B1)について述べたことが成分(B2)についても全て同様に当てはまる。
ゴム強化芳香族ビニル系樹脂(B2)の重合方法は、特に限定されず、公知の方法を適用することができる。重合方法としては、乳化重合、懸濁重合、溶液重合、塊状重合、又は、これらを組み合わせた重合方法とすることができる。これらの重合方法では、公知の重合開始剤、連鎖移動剤(分子量調節剤)、乳化剤等を適宜使用することができる。
1−2−3.芳香族ビニル系(共)重合体(B3)
上記ゴム強化芳香族ビニル系樹脂(B)は、さらに、芳香族ビニル系(共)重合体(B3)を含有しても良い。芳香族ビニル系(共)重合体(B3)は、ゴム質重合体の非存在下で芳香族ビニル化合物を含有するビニル系単量体(a)の重合を行うことによって製造することができる。また、重合方法は、成分(B1)及び成分(B2)と同様の方法であってよく、乳化重合以外に、懸濁重合、溶液重合、塊状重合、又は、これらを組み合わせた方法を用いることができる。芳香族ビニル系(共)重合体(B3)は、ゴム質重合体にグラフトしていない点で芳香族ビニル系共重合樹脂(B1−2)と同様の形態を備え、通常、ゴム強化芳香族ビニル系樹脂を希釈したり、上記極限粘度[η]を調製したりするのに使用される。
上記芳香族ビニル系(共)重合体(B3)の原料として用いるビニル系単量体(a)は、上記成分(B1)について述べたものを全て使用することができる。芳香族ビニル系(共)重合体(B3)の極限粘度も、成分(B1)について述べたことが成分(B3)についても全て同様に当てはまる。
1−3.熱可塑性樹脂(X)の組成
本発明の熱可塑性樹脂(X)において、ゴム成分の含有量は、機械的強度の観点から、成分(X)100質量%に対して3〜20質量%が好ましく、4〜15質量%がより好ましく、5〜12質量%が更に好ましい。本発明の熱可塑性樹脂(X)におけるゴム成分は、ゴム強化芳香族ビニル系樹脂(B)、すなわち、上記成分(B1)及び(B2)の原料であるゴム質重合体に由来するものであるが、軋み音を防止する観点からは、ゴム成分の全量がエチレン・α−オレフィン系ゴム(b1)から構成されることが好ましい。一方、上述の通り、自動車部品等の安全性が要求される成形品の場合は延性破壊特性を付与するために、成分(B1)のゴム成分としてジエン系ゴム(b2)を含有させたり、熱可塑性樹脂(X)に成分(B2)を含ませたりすることが行われる。このように成分(X)がゴム成分としてジエン系ゴム(b2)を含有する場合、上記成分(b1)の含有量は、成分(b1)及び上記成分(b2)の合計100質量%に対して90〜15質量%であることが好ましく、成分(b2)の含有量は、成分(b1)及び成分(b2)の合計100質量%に対して10〜85質量%であることが好ましい。尚、成分(X)にジエン系ゴム(b2)を含有させる方法としては、乳化重合時に成分(b1)のラテックスと成分(b2)のラテックスを混合する方法、成分(b1)の存在下で乳化重合した後の成分(B1)のラテックスと、成分(b2)の存在下で乳化重合した後の成分(B2)のラテックスとを混合する方法、成分(b1)の存在下で乳化重合した後に凝固、水洗、乾燥した成分(B1)と、成分(b2)の存在下で乳化重合した後に凝固、水洗、乾燥した成分(B2)とを混合する方法などが挙げられる。
上記熱可塑性樹脂(X)におけるポリカーボネート樹脂(A)の含有量は、必要とする機械的強度、剛性、成形加工性、耐熱性等に応じて決められるが、ポリカーボネート樹脂(A)の含有量は、上記成分(A)及び上記成分(B)の合計100質量%に対して30〜90質量%であることが好ましく、40〜80質量%であることがより好ましい。成分(B)の含有量は、成分(A)及び成分(B)の合計100質量%に対して10〜70質量%であることが好ましく、20〜60質量%であることがより好ましい。この範囲であれば、軋み音抑制効果の他、衝撃強度、成形加工性、外観、耐熱性等の各種性能が十分な樹脂組成物が得られる。
本発明において、熱可塑性樹脂組成物(X)中に含まれるアルカリ金属及びアルカリ土類金属の合計量は200ppm以下である必要がある。本発明の熱可塑性樹脂組成物(X)中に含まれるアルカリ金属及びアルカリ土類金属の合計量を200ppm以下とするためには、上記成分(B1)として、
(i)乳化重合して得られたラテックスをメタノールで凝固した後、アルカリ金属又はアルカリ土類金属を十分に洗浄して得られたものを使用すること、
(ii) 乳化重合して得られたラテックスを機械的凝固、或いは、凍結凝固した後、アルカリ金属又はアルカリ土類金属を十分に洗浄して得られたものを使用すること、
(iii)乳化重合して得られたラテックスを酸及び/又は無機塩で凝固した後、アルカリ金属又はアルカリ土類金属を十分に洗浄して得られたものを使用すること、
(iv)アルカリ金属又はアルカリ土類金属を含有しない乳化剤、例えば、ノニオン系界面活性剤を使用して得られたものを使用すること、
などの方法を用いることができる。
上記(iii)において、通常、凝固剤としては、例えば、硫酸、リン酸、硝酸等の無機酸、酢酸、乳酸等の有機酸、硫酸マグネシウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化ナトリウム等の無機塩等から選ばれた1種以上を用いることができるが、本発明の熱可塑性樹脂組成物(X)中で使用するに適した成分(B1)は、これら凝固剤の種類や量及び凝固物の洗浄条件を最適化することにより得られる。上記(iii)における凝固は、好ましくは、酸と無機塩の併用による凝固、または、酸凝固であり、更に好ましくは酸凝固である。上記(iii)において上記無機塩を単独で凝固剤として使用して塩析させる場合、最終製品中には相応の金属成分が残存することとなる可能性がある。
乳化重合して得られたラテックスの酸及び/又は無機塩による重合体の回収方法は特に制限されるものではない。前記ラテックスを酸性水溶液または無機塩水溶液等に投入して凝固し、重合体を回収する方法、酸性水溶液または無機塩水溶液を前記ラテックスに投入して凝固し、重合体を回収する方法、凝固工程を低温から高温に温度勾配をつけ二段階以上に分けて凝固し、重合体を回収する方法、凝固工程を弱酸性から強酸性にまたは強酸性から弱酸性に酸性度勾配をつけて二段階以上に分けて凝固し、重合体を回収する方法、前記ラテックスに凝固剤水溶液を混合してペーストとした後、細孔から温水中へ押出して凝固し、重合体を回収する方法などが挙げられ、これらの方法から二種類以上を選択して組み合わせることにより、回収することもできる。
この後、公知の方法、例えば遠心脱水機、流動乾燥機を使用して、脱水・乾燥して重合体を回収することができる。なお、この際、必要に応じて、重合体ラテックスに予め各種酸化防止剤、各種安定剤を添加しても良く、さらにこれらを乳化して添加しても良い。
熱可塑性樹脂組成物(X)中に含まれるアルカリ金属は、主にナトリウム及びカリウムであり、リチウム、ルビジウム、セシウム、フランジウム等は微量であるので、本発明の熱可塑性樹脂組成物(X)中に含まれるアルカリ金属の量はナトリウム及びカリウムの量に限定することとする。同様に、熱可塑性樹脂組成物(X)中に含まれるアルカリ土類金属は、殆どがマグネシウム及びカルシウムであり、ベリリウム、ストロンチウム、バリウム、ラジウム等は微量であるので、本発明の熱可塑性樹脂組成物(X)中に含まれるアルカリ土類金属の量はマグネシウム及びカルシウムの量に限定することとする。
本発明において、熱可塑性樹脂組成物(X)中に含まれるアルカリ金属及びアルカリ土類金属の合計量は200ppm以下であり、好ましくは100ppm以下、更に好ましは50ppm以下、特に好ましくは15ppm以下である。この範囲であれば、高温多湿下で長時間使用された場合でも成形品の軋み音の発生を抑制することができる。
本発明において、熱可塑性樹脂組成物(X)中に含まれるアルカリ土類金属の合計量は、200ppm以下であることが好ましく、より好ましくは100ppm以下、更に好ましくは20ppm以下、特に好ましくは5ppm以下である。この範囲であれば、高温多湿下で長時間使用された場合でも成形品の軋み音の発生を抑制することができる。特に、熱可塑性樹脂組成物(X)中に含まれるカルシウムが、200ppm以下であることが好ましく、より好ましくは100ppm以下、更に好ましくは20ppm以下、更により好ましくは15ppm以下、特に好ましくは5ppm以下である。この範囲であれば、高温多湿下で長時間使用された場合でも成形品の軋み音の発生を抑制することができる。
熱可塑性樹脂組成物(X)中に含まれる、これらアルカリ金属、アルカリ土類金属は公知の分析法で定量することができる。例えば、乾式灰化などの方法で金属を回収した後、原子発光、原子吸光、Inductively Coupled Plasma(ICP)等の方法を使用して測定することが出来る。
2.熱可塑性樹脂組成物及びその製造方法
本発明の熱可塑性樹脂組成物(X)は、本発明の目的を損なわない限り、上記成分(A)、及び(B)に加えて、各種添加剤を含有しても良い。添加剤の具体例としては、紫外線吸収剤、耐候剤、充填剤、酸化防止剤、老化防止剤、帯電防止剤、難燃剤、防曇剤、滑剤、抗菌剤、粘着付与剤、可塑剤、着色剤等が挙げられる。
本発明の熱可塑性樹脂組成物(X)は、樹脂成分である上記成分(A)及び上記成分(B)を混合して熱可塑性樹脂を得た後、該熱可塑性樹脂にその他の成分を混合しても製造してもよく、全成分を一括に混合して製造しても良く、混合方法は特に制限されるものではない。例えば、本発明の熱可塑性樹脂組成物(X)は、各成分を所定の配合比で、タンブラーミキサーやヘンシェルミキサーなどで混合した後、一軸押出機、二軸押出機、バンバリーミキサー、ニーダー、ロール、フィーダールーダー等の混合機を用いて、適当な条件下で溶融混練して製造することができる。好ましい混練機は、二軸押出機である。さらに、それぞれの成分を混練するに際しては、それぞれの成分を一括して混練しても、多段、分割配合して混練してもよい。バンバリーミキサー、ニーダー等で混練した後、押出機によりペレット化することもできる。また、充填材のうち繊維状のものは、混練中での切断を防止するためにサイドフィーダーにより押出機の途中から供給する方が好ましい。溶融混練温度は、通常200〜300℃、好ましくは220〜280℃である。
3.成形品
本発明の熱可塑性樹脂組成物(X)から成形品を製造する方法には何等制限はなく、例えば、射出成形、射出圧縮成形、ガスアシスト成形、プレス成形、ブロー成形、異形押出成形の他、カレンダー成形やTダイ押出成形に代表されるフィルム及びシート成形等の公知の方法が挙げられる。
本発明の成形品は、例えば、電気若しくは電子機器、光学機器、照明機器、事務用機器、または家電用部品、自動車用部品、住宅用部品等として好適である。
本発明の熱可塑性樹脂組成物で成形された成形品は、少なくとも2個の互いに接触する部品を含む物品の少なくとも1つの部品として好適に使用することができる。特に、本発明の熱可塑性樹脂組成物(X)はゴム成分としてエチレン・α―オレフィン系ゴム(b1)を含有するので、上記物品の少なくとも1つの部品をこの熱可塑性樹脂組成物の成形品とすることで、当該物品に軋み音が発生するのを抑制することができ、2個以上の部品が本発明の熱可塑性樹脂組成物の成形品であることが好ましく、全ての部品が本発明の熱可塑性樹脂組成物の成形品であることが特に好ましい。
ゴム成分としてエチレン・α―オレフィン系ゴム(b1)を含有する本発明の熱可塑性樹脂組成物(X)は、上記物品の部品のうち少なくとも2個の部品が常に又は間欠的に接触し、振動、ねじれ、衝撃等の外力が物品に加わった時に両部品の接触部が互いに僅かに移動又は衝突するような物品の成形材料として好適である。かかる接触部の接触態様は、面接触、線接触、点接触等の何れであっても良く、部分的に接着されていてもよい。具体的には、図1に示されるように部品10の一面と部品20の一面が互いに突き合わされた状態で接触している物品、図2〜6に示されるように、部品10の一部が部品20に形成された凹部に嵌合した状態で接触している物品などが挙げられる。
部品同士が嵌合した状態で接触している物品の具体例としては、図2に示されるように、部品10の一端が部品20に形成された相補的な凹部にぴったり嵌合した状態で接触している物品、図3に示されるように、部品20のコーナー部に形成された2つの相補的な凹部のそれぞれに部品10の各端部がぴったり嵌合した状態で接触している物品、図4に示されるように、略平行に配置された2つの部品10のそれぞれに形成された相補的な凹部に部品20の各端部がぴったり嵌合した状態で接触している物品、図5に示されるように、部品10の内側面寸法と同寸法の外側面寸法を備える部品20を、部品10の中に入れ子状に挿入し、両者の内側面と外側面がぴったり嵌合した状態で接触している物品などが挙げられる。
また、本発明の物品における2つの部品は、互いにぴったり嵌合している必要はなく、図6に示されるように、ある程度の空隙や遊びをもって互いに嵌合しており、振動、ねじれ、衝撃等の外力が物品に加わった時に、互いに接触及び非接触を繰り返すような物品であってもよい。
上述のような接触部を複合的に備えた物品として、図8に示されるような物品が挙げられる。図8の物品において、部品10は底面が全て開口した直方体からなる升状の部品であり、部品20は部品10と同様の形状を備えるとともに上面の中央部に矩形の開口が形成された成形品である。そして、図8に示すように、部品20は部品10の中に嵌合させることができ、部品20の外周面と部品10の内周面は互いに接触し、両者は振動等の外力を受けると僅かに変形して接触及び非接触を繰り返す。図7に良く示されるように、部品20は対向する外側面に突起30を備え、図8に示されるように、部品10は対向する2つの側面に部品20の突起30を収容する穴を備えている。そして、部品10を部品20に嵌合させた時、該穴に突起30がスナップフィットすることにより両部品の嵌合が容易に外れないようにしている。部品10及び部品20の少なくとも1つを本発明の熱可塑性樹脂で成形することにより、例えば、外力が図8(C)の矢印の方向にかけられた場合でも、軋み音の発生を防止することができる。なお、外力の方向は、図8(C)の方向に限定されるものではなく、他の方向から外力が加えられた場合でも、部品10及び部品20の少なくとも1つを本発明の熱可塑性樹脂で成形した場合には、軋み音の発生は防止される。なお、図8の突起30の断面形状及び部品10の穴の形状を変更して、両部品をプレスフィットする構成に変更することもできる。
図9は、部品10及び部品20がそれぞれ突起30及びそれにスナップフィットする穴の代わりに、部品10及び部品の20の内側面と外側面の一部を接着剤31を用いてで接着した以外図8の物品と同様の態様を示すものである。また、接着剤31の代わりに、部品10及び部品20を互いにレーザー溶着等により溶着することもでき、この方法は、両部品が熱可塑性樹脂成形品である場合に好都合である。特にレーザー溶着ではレーザー光を透過する透明の熱可塑性樹脂と、レーザー光を吸収する熱可塑性樹脂からなる部品を組み合わせることが好ましく、具体的な製品としては、車載速度計などの計器類、照明灯等があげられる。
図10の例は、部品10と部品20の対向する側面の対向する位置に穴が開けられており、この2つの穴を通じてボルトとナットで締結して両部品を固定するように構成されている以外図8の物品と同様の態様を示すものである。ボルトナットの代わりに、ネジ、ピン、ビス、リベット、ブッシュ、ブラケット、ヒンジ、釘等を用いて、部品10及び部品20を固定してもよい。
また、図11に示すように、長方形の板状の本体の両端から長手方向外方に円筒状の軸19が突出した形状の部品18と、この部品18の軸19を挿入させて部品18を軸19回りに回転可能に支持するフレーム状の部品28とを備える図12に示されるような物品も、本発明の熱可塑性樹脂組成物で成形するのに好適である。部品18及び部品28の少なくとも一方を本発明の熱可塑性樹脂組成物で成形することにより、部品18を軸19回りに回転させた場合や、物品に振動等の外力が加わった場合に、軋み音が発生するのを抑制することができる。
図12に示されるように、フレーム状の部品28が複数の開口部29を備える場合には、該物品は、部品18の角度によって空気の流れる量や向きを調節する装置として好適に使用できる。かかる装置としては、家庭用及び車載用のエアコン、空気清浄機、送風機等の吹き出し口が挙げられる。
上記の物品において、部品10,18及び部品20,28の少なくとも何れか一方を上記本発明の熱可塑性樹脂組成物からなる成形品にすることで、軋み音の発生を著しく低減させることができるが、他方の物品も、上記本発明の熱可塑性樹脂組成物からなる成形品としてもよい。他方の物品が上記本発明の熱可塑性樹脂組成物以外の材料からなる部品である場合、当該材料には、特に制限はなく、例えば、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、ゴム、有機質材料、無機質材料、金属材料等が挙げられる。
本発明の熱可塑性樹脂組成物以外の材料からなる部品を構成する上記熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、AS樹脂、ABS樹脂、AES樹脂、ASA樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂、ポリスチレン樹脂、耐衝撃性ポリスチレン樹脂、エチレン−酢酸ビニル(EVA)樹脂、ポリアミド(PA)樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリプチレンテレフタレート樹脂、ポリカーボネート(PC)樹脂、ポリ乳酸樹脂、PC/ABS樹脂、PC/AES樹脂、PA/ABS樹脂、PA/AES樹脂等が挙げられる。これらは、単独で又は2種以上の組み合わせで使用できる。
本発明の熱可塑性樹脂組成物以外の材料からなる部品を構成する上記熱硬化性樹脂としては、例えば、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂等が挙げられる。これらは、単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
本発明の熱可塑性樹脂組成物以外の材料からなる部品を構成する上記ゴムとしては、クロロプレンゴム、ポリブタジエンゴム、エチレン・プロピレンゴム、SEBS、SBS、SIS等の各種合成ゴム、天然ゴム等が挙げられる。これらは、単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
本発明の熱可塑性樹脂組成物以外の材料からなる部品を構成する上記有機質材料としては、例えば、インシュレーションボード、MDF(中質繊維板)、ハードポード、パーティクルボード、ランバーコア、LVL(単板積層材)、OSB(配向性ボード)、PSL(パララム)、WB(ウェハーボード)、硬質繊維板、軟質繊維板、ランバーコア合板、ボードコア合板、特殊コアー合板、ベニアコアーベニヤ板、タップ樹脂を含浸させた紙の積層シート・板、(古)紙等を砕いた細かい小片・線状体に接着剤を混合して加熱圧縮したボード、各種の木材等が挙げられる。これらは、単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
本発明の熱可塑性樹脂組成物以外の材料からなる部品を構成する上記無機質材料としては、例えば、ケイ酸カルシウムボード、フレキシブルボード、ホモセメントボード、石膏ボード、シージング石膏ボード、強化石膏ボード、石膏ラスボード、化粧石膏ボード、複合石膏ボード、各種セラミック、ガラス等が挙げられる。これらは、単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
更に、本発明の熱可塑性樹脂組成物以外の材料からなる部品を構成する上記金属材料としては、鉄、アルミニウム、銅、各種の合金等が挙げられる。これらは、単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
これらの中で、熱可性樹脂、熱硬化性樹脂、及びゴムが好ましく、ABS樹脂、AES樹脂、PC樹脂、ABS樹脂、PC/AES樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂が特に好ましい。
本発明の上記物品は、その部品の少なくとも一つがゴム成分としてエチレン・α―オレフィン系ゴムを含有する本発明の熱可塑性樹脂組成物から成形されたものである場合、振動、摺動等により、部品同士が当接及び非当接を繰り返しても軋み音の発生が抑制されるので、自動車用部品、事務用機器部品、住宅用部品、家電用部品等に好適に使用できる。
自動車用部品を上記本発明の熱可塑性樹脂組成物の成形品とした場合、例えば車両走行時の振動により、該部品が他の部品と当接及び非当接を繰り返した場合でも、軋み音の発生を大幅に低減させることが可能である。また、本発明の熱可塑性樹脂組成物がジエン系ゴムを含有すると、低温での破壊特性に優れるため自動車内装用部品に特に好適である。このような自動車用部品としては、ドアトリム、ドアライニング、ピラーガーニッシュ、コンソール、ドアポケット、ベンチレータ、ダクト、エアコンの板状羽根、バルブシャッター、ルーバー、メーターバイザー、インパネアッパーガーニッシュ、インパネロアガーニッシュ、A/Tインジケーター、オンオフスイッチ類(スライド部、スライドプレート)、グリルフロントデフロスター、グリルサイドデフロスター、リッドクラスター、カバーインストロアー、マスク類(マスクスイツチ、マスクラジオなど)、グロープボックス、ポケット類(ポケットデッキ、ポケットカードなど)、ステアリングホイールホーンパッド、スイッチ部品、カーナビゲーション用外装部品等が挙げられる。その中でも、ベンチレータ、エアコンの板状羽根、バルブシャッター、ルーバー、スイッチ部品、カーナビゲーション用外装部品等として特に好適に用いることができる。
事務用機器部品を上記本発明の熱可塑性樹脂組成物の成形品とした場合、例えば機器作動時の振動、デスク引き出しの開閉により、該部品が他の部品と当接及び非当接を繰り返した場合でも、軋み音の発生を大幅に低減させることが可能である。このような事務用機器部品としては、外装部品、内装部品、スイッチまわりの部品、可動部の部品、デスクロック部品、デスク引き出し等が挙げられる。
住宅用部品を上記本発明の熱可塑性樹脂組成物の成形品とした場合、例えば扉、引き戸の開閉により、該部品と他の部品が当接及び非当接を繰り返した場合でも、軋み音の発生を大幅に低減させることが可能である。このような住宅用部品としては、シェルフ扉、チェアダンパー、テーブル折りたたみ脚可動部品、扉開閉ダンパー、引き戸レール、カーテンレール等が挙げられる。
家電用部品を上記本発明の熱可塑性樹脂組成物の成形品とした場合、例えば機器作動時の振動により、該部品と他の部品が当接及び非当接を繰り返した場合でも、軋み音の発生を大幅に低減させることが可能である。このような家電用部品としては、ケース、ハウジング等の外装部品、内装部品、スイッチまわりの部品、可動部の部品等が挙げられる。
以下、実施例により、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。実施例中、部および%は特に断らない限り質量基準である。
1.評価方法
1−1.軋み音評価−1(異音リスク指数)
表1に記載の熱可塑性樹脂組成物を、東芝機械製の射出成形機「IS−170FA」(商品名)を用いて、シリンダー温度260℃、射出圧力50MPa、金型温度60℃の条件で射出成形することにより得た、縦150mm、横100mm、厚さ4mmの成形品から、縦50mm、横25mm、厚さ4mmの小試験片をディスクソーで切り出した。次に、番手#100のサンドペーパーで試験片の端部を面取りした後、細かなバリをカッターナイフで除去し、軋み音評価用の小試験片を得た。
表1に記載の熱可塑性樹脂組成物のかわりに、テクノポリマー株式会社製のPC/ABSアロイ「エクセロイ CK20」(商品名)を用いた以外、上記と同様の方法で、縦60mm、横100mm、厚さ4mmの軋み音評価用の大試験片を得た。
上記評価試験片を80℃、95%RHに制御した恒温恒湿槽内で200、300、400時間放置(湿熱処理)した後、25℃で24時間冷却して湿熱処理した評価用試験片を得た。得られた評価用試験片である大試験片をジグラー(ZIEGLER)社製スティックスリップ試験機SSP−02の可動側ステージに、小試験片を固定側ステージにセットし、温度23℃、湿度50%RH、荷重40N、速度10mm/秒の条件で、振幅20mmで3回擦り合わせた時の異音リスク指数を測定した。
異音リスク指数が大きい程、軋み音が発生しやすくなる。なお、表1の結果の評価基準は下記のとおりである。尚、ドイツ自動車工業会の基準(VDA203−260)によれば、異音リスク指数が3以下であれば、軋み音が発生するリスクは低くなり、実用品として合格レベルであるとされている。
<評価基準>
○:試験した条件で最も高い異音リスク指数が1〜3。
△:試験した条件で最も高い異音リスク指数が4〜5。
×:試験した条件で最も高い異音リスク指数が6〜10。
1−2.軋み音評価−2(実用評価1)
株式会社日本製鋼所製の射出成形機「J―100E」(形式名)を用い、表1に記載の熱可塑性樹脂組成物からなるISOダンベル試験片5枚を射出成形し、その後、試験片を80℃、95%RHに制御した恒温恒湿槽内で300時間放置(湿熱処理)した後、25℃で24時間冷却した。
次に、上記表1に記載の熱可塑性樹脂組成物からなるISOダンベル試験片5枚と接触する部品として、テクノポリマー株式会社製のPC/ABSアロイ「エクセロイ CK20」(商品名)からなり、同様に80℃、95%RHに制御した恒温恒湿槽内で300時間放置(湿熱処理)した後、25℃で24時間冷却したISOダンベル試験片5枚を交互に重ね合わせ、この両端を手でひねって、軋み音の発生の状況を評価した。評価は5回行ない、下記評価基準に基づき判定を行った。
<軋み音の評価>
○:5回の評価全てにおいて、軋み音の発生はわずかであった。
△:5回の評価において、軋み音の発生が顕著な場合が含まれていた。
×:5回の評価全てにおいて、軋み音の発生が顕著であった。
1−3.軋み音評価−3(実用評価2)
接触する部品として、三菱レイヨン株式会社製のメタクリル樹脂「アクリペット VH−004」(商品名)を用いた以外は、上記軋み音評価−2と同様の方法で、軋み音の発生の状況を評価した。評価は5回行ない、下記評価基準に基づき判定を行った。
<軋み音の評価>
○:5回の評価全てにおいて、軋み音の発生はわずかであった。
△:5回の評価において、軋み音の発生が顕著な場合が含まれていた。
×:5回の評価全てにおいて、軋み音の発生が顕著であった。
1−4.軋み音評価−4(実用評価3)
株式会社日本製鋼所製の射出成形機「J−100E」(形式名)を用い、表1に記載の熱可塑性樹脂組成物からなる、ISOダンベル試験片10枚を射出成形し、その後、試験片を80℃、95%RHに制御した恒温恒湿槽内で300時間放置(湿熱処理)した後、25℃で24時間冷却した。得られたISOダンベル試験片10枚を重ね合わせ、この両端を手でひねって、軋み音の発生の状況を評価した。評価は5回行ない、下記評価基準に基づき判定を行った。
<軋み音の評価>
○:5回の評価全てにおいて、軋み音の発生はわずかであった。
△:5回の評価において、軋み音の発生が顕著な場合が含まれていた。
×:5回の評価全てにおいて、軋み音の発生が顕著であった。
1−5.アルカリ金属、アルカリ土類金属含量
下記実施例および比較例で得られた熱可塑性樹脂組成物のアルカリ金属含量及びアルカリ土類金属含量は、金属分析ICP法に基づいて測定した。得られた樹脂を乾式灰化した後、灰化物を硝酸に溶解することで得られた溶液を用い、ICP−AES法で分析した。定量は、予め濃度既知の元素標準液により検量線を作成し、検量線法により行った。
2.使用原料
2−1.ポリカーボネート系樹脂(A)
Bayer社製のポリカーボネート樹脂「Makrolon 2800」(商品名)を用いた。粘度平均分子量は、22.000であった。
2−2.エチレン−プロピレンゴム強化芳香族ビニル系樹脂(AES−1)
エチレン・α−オレフィン系ゴム質重合体(b1)として、エチレン・プロピレン・ジシクロペンタジエンゴム(エチレン/プロピレン/ジシクロペンタジエン=63/32/5(%)ムーニー粘度(ML1+4 、100℃)33)100部をn―ヘキサン566部に溶解した後、三井化学社製酸変性ポリエチレン(ハイワックス2203A)10部を添加し、さらにオレイン酸4.5部を加え、完全に溶解した。別に水700部に水酸化カリウム0.9部を溶解した水溶液にエチレングリコール0.6部を加え60℃に保ち、これに先に調製した上記重合体溶液を少しずつ加えて乳化した後、ホモミキサーで攪拌した。次いで、溶剤と水の一部を留去して粒子径400〜600nmのラテックスを得た。このラテックスにゴム成分100部に対して、ジビニルベンゼン1.5部、ジ−tert−ブチルパーオキシトリメチルシクロへキサン1.0部を添加して、120℃で1時間反応させて、EPDM含有架橋ラテックスを得た。
続いて、リボン形攪拌翼、助剤連続添加装置、温度計などを装備した容積20リットルのステンレス製オートクレーブを窒素置換した後、窒素気流中で、前記EPDMラテックス60部(固形分)、イオン交換水200部、オレイン酸カリウム2部、硫酸第一鉄0.004部、ピロリン酸ナトリウム0.2部およびデキストロース0.2部を仕込んだ。重合温度70℃で一定温度として、ビニル系単量体(a)として、アクリロニトリル12部、スチレン28部とクメンハイドロパーオキサイド0.5部を2時間連続的に添加しながら重合を行い、その後、重合温度を維持したまま1時間重合を継続し重合体のラテックスを得た。得られたラテックスの重合体転化率は、98%であった。このラテックスに、2,2´−メチレン−ビス(4−エチル−6−tert−ブチルフェノール)0.2部を添加して重合を終了させた。得られた重合体のグラフト率は35%、アセトン可溶分の極限粘度[η](メチルエチルケトン中、30℃)は0.25dl/gであった。
得られたゴム強化芳香族ビニル系樹脂ラテックスを多量のメタノール中に投入して沈殿させ、150メッシュのステンレス製金網で濾過した後、適量のメタノールで洗浄し、更に多量の純水で洗浄した後、濾過、乾燥してエチレン−プロピレンゴム強化芳香族ビニル系樹脂(AES−1)を得た。
2−3.エチレン−プロピレンゴム強化芳香族ビニル系樹脂(AES−2)
ゴム強化芳香族ビニル系樹脂ラテックスを、硫酸水溶液で凝固、水洗、乾燥した以外、上記2−2と同様の方法で製造した。
2−4.エチレン−プロピレンゴム強化芳香族ビニル系樹脂(AES−3)
ゴム強化芳香族ビニル系樹脂ラテックスを、硫酸と硫酸マグネシウムとのモル比が1:1の凝固剤水溶液で凝固、水洗、濾過、乾燥した以外、上記2−2と同様の方法で製造した。
2−5.エチレン−プロピレンゴム強化芳香族ビニル系樹脂(AES−4)
ゴム強化芳香族ビニル系樹脂ラテックスを、硫酸マグネシウム水溶液で凝固、水洗、濾過、乾燥した以外、上記2−2と同様の方法で製造した。
2−6.エチレン−プロピレンゴム強化芳香族ビニル系樹脂(AES−5)
ゴム強化芳香族ビニル系樹脂ラテックスを、塩化カルシウム水溶液で凝固・水洗・濾過・乾燥した以外、上記2−2と同様の方法で製造した。
2−7.スチレン−アクリロニトリル共重合体(AS)
内容積30リットルのリボン翼を備えたステンレス製オートクレーブを2基連結し、窒素置換した後、1基目の反応容器にスチレン70部、アクリルニトリル30部、トルエン20部を連続的に添加した。分子量調節剤としてtert−ドデシルメルカプタン0.12部およびトルエン5部の溶液、および重合開始剤として、1,1´―アゾビス( シクロへキサン−1−カーボニトリル)0.1部、およびトルエン5部の溶液を連続的に供給した。1基目の重合温度は110℃にコントロールし、平均滞留時間2.0時間、重合転化率57%であった。得られた重合体溶液は、1基目の反応容器の外部に設けられたポンプによりスチレン、アクリロニトリル、トルエン、分子量調節剤及び重合開始剤の供給量と同量を連続的に取り出し2基目の反応容器に供給した。2基目の反応容器の重合温度は、130℃で行い、重合転化率は75%であった。2基目の反応容器で得られた共重合体溶液は、2軸3段ベント付き押出機を用いて、直接未反応単量体と溶剤を脱揮し、極限粘度〔η〕0.48dl/gの重合体を得た。
3.成形体の製造及び評価
実施例1〜4、比較例1、2
表1記載の成分を各表に記載の配合割合でヘンシェルミキサーにより混合した後、ベント付き二軸押出機(日本製鋼所社製、TEX44、バレル設定温度260℃)を用いて溶融混練し、ペレット化した。得られたぺレットを十分に乾燥したのち、このペレットを用いて前記方法で試験片を成形し、そして得られた試験片を用いて、前記方法で評価した。評価結果を表1に示した。
表1から、以下のこと判る。
本願の成分(A)及び(B)を含有し、アルカリ金属とアルカリ土類金属の合計量が200ppm以下であり、特に、アルカリ土類金属の合計量が100ppm以下であり、カルシウムの量が15ppm以下である実施例1〜4では、湿熱処理後に軋み音の発生が良好に抑制されていた。
これに対し、本願の成分(A)及び(B)を含有し、アルカリ金属とアルカリ土類金属の合計量が200ppmを超える比較例1、2では、湿熱処理後に軋み音の発生が顕著であった。