JP6284162B2 - 高温超伝導線材の製造方法および高温超伝導線材 - Google Patents

高温超伝導線材の製造方法および高温超伝導線材 Download PDF

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Description

本発明は、高温超伝導線材の製造方法および高温超伝導線材に関し、特に、酸化物超伝導体層の結晶配向技術に関する。
RE−123系の酸化物超伝導体(REBaCu7−x:REはY(イットリウム)を含む希土類元素)は、比較的高温の液体窒素温度(77K)で超伝導性を示すため、実用上極めて有望な素材として注目されている。この酸化物超伝導体を用いた高温超伝導線材は、電線や磁気コイル等への適用が期待されている。
ところで、従来、高温超伝導線材として、いわゆるIBAD(Ion Beam Assisted Deposition)法により成膜された配向層を有するものが提案されている(特許文献1参照)。
この種の高温超伝導線材は、例えばニッケル合金から形成されたテープ状の基材上に、下地層、ベッド層、配向層、高温超伝導体層、キャップ層、安定化層が積層された構造を備える。ここで、下地層、ベッド層は、例えば通常のスパッタ法により成膜された酸化アルミニウム(Al)、イットリア(Y)から構成される層である。また、配向層は、IBAD(Ion Beam Assisted Deposition)法により成膜されたMgOから構成される良好な結晶配向性を有する層である。高温超伝導体層は、例えばPLD法により成膜されたGdBaCuから構成される層である。キャップ層は、例えばPLD法により成膜されたセリア(CeO)から構成される層である。安定化層は、例えばAgの層とCuの層とから構成される2層構造を有する。
特開2012−212571号公報
ところで、特許文献1に記載された高温超伝導線材の製造方法では、配向層をIBAD法により形成する。そして、IBAD法により配向層を形成する場合、配向膜の厚さが5nmを超えると結晶配向性が低下してしまう。この場合、配向層上に形成された高温超伝導体層の結晶配向性が低下することにより、高温超伝導体層の臨界電流密度が低下してしまうので、高温超伝導線材の導電性能の低下を招いてしまう。
そこで、配向層を形成する際、まず、IBAD法により5nm以下の配向層の一部を形成してから、通常のエピタキシャル成長法により残りの配向層を形成するという製造方法が提供されている。
しかしながら、この製造方法では、IBAD法により形成された配向層の層厚を管理しながら、配向層を形成する途中で成膜方法をIBAD法から通常のエピタキシャル成長法に切り替える必要があり煩雑である。
本発明は、上記事由に鑑みてなされたものであり、簡素化を図ることができる高温超伝導線材の製造方法および当該製造方法により作製された高温超伝導線材を提供することを目的とする。
(1)本発明に係る高温超伝導線材の製造方法は、金属材料から形成された基材と高温超伝導体層との間に第1結晶材料から構成される中間層が介在する高温超伝導線材の製造方法である。当該製造方法は、基材の一面に、還元雰囲気下で中間層における基材側の第1領域を形成する第1工程と、第1工程の後、酸化雰囲気下で中間層における高温超伝導体層側の第2領域を形成する第2工程と、を含む。
本構成によれば、第1工程において、還元雰囲気下で中間層における基材側の第1領域を形成することにより、中間層の第1領域は、基材の上記一面との整合性が良好な状態で形成される。その後、第2工程において、酸化雰囲気下で中間層における第1領域以外の第2領域を形成することにより、中間層の第2領域は、高温超伝導体層を構成する結晶材料との整合性が比較的良好となる状態で形成される。この中間層の第2領域では、第1結晶材料の3つの結晶軸が略同じ向きに揃った3軸結晶配向状態となる。そして、このように形成された中間層の上方に高温超伝導体層を形成すれば、当該高温超伝導体層においても3軸結晶配向状態が実現される。この場合、高温超伝導体層の臨界電流密度が向上するので、その分、高温超伝導線材の導電性能も向上する。
つまり、本構成によれば、中間層を形成する工程において、成膜方法を大きく変更せずに成膜雰囲気を変更すれば、高い導電性能を有する高温超伝導線材を得ることができる。従って、中間層を形成する工程において成膜方法を大きく変更する製造方法に比べて、製造方法の簡素化を図ることができる。
(2)また、本発明に係る高温超伝導線材の製造方法は、上記第1工程および上記第2工程において、上記中間層をパルスレーザ蒸着法により形成してもよい。
本構成によれば、他の成膜方法により中間層を形成する場合に比べて、中間層を構成する第1結晶材料の結晶配向性を向上させることができる。
(3)また、本発明に係る高温超伝導線材の製造方法は、上記第2工程の後に酸化雰囲気下で、上記第1結晶材料とは異なる第2結晶材料から構成され、上記中間層と上記高温超伝導体層との間における格子整合性を向上させる副中間層を形成する副中間層形成工程を更に含んでもよい。
本構成によれば、副中間層を形成することにより、副中間層が、中間層と高温超伝導体層との間での格子不整合性に起因した歪を緩和するので、高温超伝導体層を構成する結晶材料の結晶配向性を向上させることができる。
また、中間層と高温超伝導体層との間に副中間層を形成することにより、高温超伝導体層を形成する工程において、副中間層が、中間層を構成する第1結晶材料と高温超伝導体層を構成する結晶材料との反応を抑制する。これにより、高温超伝導体層を構成する結晶材料の結晶配向性を向上させることができる。
(4)また、本発明に係る高温超伝導線材の製造方法は、上記基材の厚さ方向における上記一面とは反対側の他面に、基材を補強する第1基材を貼り付ける貼り付け工程を更に含んでもよい。
本構成によれば、基材に第1基材が貼り付けられることにより、基材が補強されるので、高温超伝導線材の機械的強度の向上を図ることができる。
(5)他の観点から見た本発明に係る高温超伝導線材は、金属材料から形成された基材と、第1結晶材料から構成され、基材の一面に形成された中間層と、中間層における基材側とは反対側に形成された高温超伝導体層と、を備える。中間層は、基材側の第1領域および前記高温超伝導体層側の第2領域を有する。ここで、第1領域は、基材の一面の第1面指数の結晶面に整合する第2面指数の結晶面を有し、第2領域は、高温超伝導体層における中間層に対向する結晶面に整合する第3面指数の結晶面を有し且つ第1結晶材料の3つの結晶軸が略同じ向きに揃った3軸結晶配向状態にある。
本構成によれば、中間層の第1領域は、基材の一面の第1面指数の結晶面に整合する第2面指数の結晶面を有する。また、第2領域は、高温超伝導体層における中間層に対向する結晶面に整合する第3面指数の結晶面を有し、第1結晶材料の3つの結晶軸が略同じ向きに揃った3軸結晶配向状態にある。従って、この中間層の上方に形成された高温超伝導体層は、3軸結晶配向状態が実現され、その分、高温超伝導体層の臨界電流密度が向上するので、高温超伝導線材の導電性能の向上を図ることができる。
(6)また、本発明に係る高温超伝導線材は、上記金属材料が、Feを主成分とし、上記第1面指数が、{110}であり、上記第2面指数が、{111}であり、上記第3面指数が、{100}であってもよい。
本構成によれば、基材を形成する金属材料としてFeを主成分とした金属材料を採用しながらも、高温超伝導体層を3軸結晶配向状態とすることができる。従って、基材に要するコストの低減を図りつつ、高温超伝導線材の導電性能向上を図ることができる。
(7)また、本発明に係る高温超伝導線材は、前記金属材料が、{110}<100>集合組織および{110}<110>集合組織のいずれか一方から構成されるものであってもよい。
本構成によれば、{110}<100>集合組織および{110}<110>集合組織が、圧延工程により比較的容易に作製することができるので、基材の製造容易化を図ることができる。
(8)また、本発明に係る高温超伝導線材は、上記第1結晶材料が、カルシア安定化ジルコニア、マグネシア安定化ジルコニア、イットリア安定化ジルコニア、希土類安定化ジルコニア、ハフニア安定化ジルコニア、イットリア、希土類酸化物、酸化インジウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸バリウム、チタン酸カルシウム、酸化チタン、酸化スズ、酸化マグネシウムおよび酸化ニッケルのうちのいずれかであってもよい。
本構成によれば、Feを主成分とする金属材料から構成された基材に適した良好な中間層を得ることができる。
(9)また、本発明に係る高温超伝導線材は、上記第1結晶材料が、Snドープ酸化インジウム、Nbドープチタン酸ストロンチウム、Nbドープチタン酸バリウム、Nbドープチタン酸カルシウム、Nbドープ酸化チタンおよびフッ素ドープ酸化スズのうちのいずれかであってもよい。
本構成によれば、Feを主成分とする金属材料から構成された基材に適した良好な中間層を得ることができる。
(10)また、本発明に係る高温超伝導線材は、上記基材の上記中間層と反対側の面に積層された副基材を更に備え、上記副基材の材質が、Cu又はAlであってもよい。
本構成によれば、上記副基材が安定化層として機能するため、上記高温超伝導線材の層構成を簡略化することができる。
(11)また、本発明に係る高温超伝導線材は、上記第1結晶材料とは異なる第2結晶材料から形成され、上記中間層と上記高温超伝導体層との間に介在し中間層と高温超伝導体層との間における格子整合性を向上させる副中間層を更に備えるものであってもよい。そして、副中間層は、中間層を構成する第1結晶材料の第3面指数の結晶面に整合する第2結晶材料の第4面指数の結晶面を有するものであってもよい。
本構成によれば、副中間層を有することにより、副中間層が、中間層と高温超伝導体層との間での格子不整合性に起因した歪を緩和するので、高温超伝導体層を構成する結晶材料の結晶配向性を向上させることができる。
(12)また、本発明に係る高温超伝導線材は、上記第2結晶材料が、蛍石型構造を有し、上記第4面指数が、{100}であってもよい。
本構成によれば、上記第1結晶材料が蛍石型構造を有する場合、中間層と高温超伝導体層との間での格子不整合性に起因した歪が緩和され易くなるので、高温超伝導体層を構成する結晶材料の結晶配向性を向上させることができる。
(13)また、本発明に係る高温超伝導線材は、上記第2結晶材料が、セリア、チタン酸ストロンチウム、チタン酸カルシウム、マンガン酸ランタン、酸化チタン、酸化インジウム、イットリア、希土類酸化物(酸化ランタン、酸化プラセオジウム、酸化サマリウム、酸化ユーロピウム、酸化ガドリニウム、酸化ディスプロシウム、酸化ホロミウム、酸化エルビウム、酸化イッテルビウム)を含む酸化物のいずれかであってもよい。
本構成によれば、蛍石型構造を有する第1結晶材料から構成された中間層および高温超伝導体層に適した良好な副中間層を得ることができる。
(14)また、本発明に係る高温超伝導線材は、上記中間層の厚さが、20〜5000nmの範囲内に設定されていてもよい。
本構成によれば、中間層を上記第1領域および上記第2領域を有する中間層とするのにより適しており、この場合、この中間層の上方に形成された高温超伝導体層は、3軸結晶配向状態がより確実に実現され、その分、高温超伝導体層の臨界電流密度が向上するので、高温超伝導線材の導電性能の向上を図ることができる。
上記中間層の厚さの下限は200nmがより好ましく、上記中間層の厚さの上限は500nmがより好ましい。
(15)また、本発明に係る高温超伝導線材は、上記金属材料が、Cuであり、前記基材の前記一面の結晶面の面指数が、{100}であり、前記中間層が、導電性の結晶材料から構成されていてもよい。
本構成によれば、基材が電気伝導度の高いCuから構成され、中間層が導電性の結晶材料から構成されている。これにより、例えば高温超伝導体層に臨界電流密度を超える電流が流れた場合、当該電流が中間層を通じて基材に流れ込む。つまり、基材および中間層がいわゆる安定化層として機能する。これにより、高温超伝導体層に流れる電流が低減されるので、当該高温超伝導体層の急激な発熱を抑制できる。
また、基材および中間層がいわゆる安定化層として機能することにより、基材および中間層とは別に、高温超伝導体層に隣接して電気抵抗の低い金属材料から構成された安定化層を設ける必要がない。従って、安定化層を備える高温超伝導線材に比べて構造が簡素化されるので、製造容易化および部材コストの低減を図ることができる。
(16)また、本発明に係る高温超伝導線材は、上記金属材料が、{100}<001>集合組織から構成されていてもよい。
本構成によれば、{100}<001>集合組織が、圧延工程により比較的容易に作製することができるので、基材の製造容易化を図ることができる。
(17)また、本発明に係る高温超伝導線材は、上記中間層を構成する結晶材料が、Snドープ酸化インジウム、Nbドープチタン酸ストロンチウム、Nbドープチタン酸バリウム、Nbドープチタン酸カルシウム、Nbドープ酸化チタンおよびフッ素ドープ酸化スズのうちのいずれかであってもよい。
本構成によれば、Cuから構成された基材に適した良好な中間層を得ることができる。
(18)また、本発明に係る高温超伝導線材は、上記中間層の厚さが、100〜5000nmであってもよい。
本構成によれば、中間層における高温超伝導体層側に、第1結晶材料の3つの結晶軸が略同じ向きに揃った3軸結晶配向状態にある領域が形成されるので、この中間層の上方に形成された高温超伝導体層は、3軸結晶配向状態が実現され、その分、高温超伝導体層の臨界電流密度が向上するので、高温超伝導線材の導電性能の向上を図ることができる。
(19)また、本発明に係る高温超伝導線材は、上記基材よりも機械的強度の高い金属材料からテープ状に形成され、上記基材の厚さ方向における上記中間層側と反対側の一面に貼り付けられた第1基材を更に備えるものであってもよい。
本構成によれば、基材に第1基材が貼り付けられていることにより、基材が補強されるので、高温超伝導線材の機械的強度の向上を図ることができる。
(20)また、本発明に係る高温超伝導線材は、前記高温超伝導体層上に絶縁性材料から形成された保護層を更に備えるものであってもよい。
本構成によれば、高温超伝導体層上に保護層が設けられていることにより、高温超伝導体層を保護することができ、高温超伝導線材の耐摩耗性を向上させることができる。
(21)更に、他の観点から見た本発明に係る高温超伝導線材は、Cuからなる基材と、上記基材の一面側に形成された中間層と、上記中間層における上記基材側とは反対側に形成された高温超伝導体層と、を備え、上記基材は、{100}<001>集合組織から構成されており、上記中間層は、導電性結晶材材料からなり、かつ、上記基材の一面の面指数、および、上記高温超伝導体層の上記中間層側の一面の面指数に整合する結晶面を有する。
本構成の高温超伝導線材によれば、基材と整合する結晶配向性を有する中間層および高温超伝導体層を形成することができるのは勿論のこと、基材が安定化層としての役割を果たすことができるため、別途安定化層を形成する必要がなく、部材数およびコストの低減を図り、層構成を簡略化することができる。
(22)本発明に係る高温超伝導線材は、上記導電性結晶材料が、Snドープ酸化インジウム、Nbドープチタン酸ストロンチウム、Nbドープチタン酸バリウム、Nbドープチタン酸カルシウム、Nbドープ酸化チタンおよびフッ素ドープ酸化スズのうちのいずれかであってもよい。
本構成によれば、特定のCuからなる基材に適した良好な中間層を得ることができる。
(23)本発明に係る高温超伝導線材は、上記基材と上記中間層との間にバッファ層が設けられていてもよい。
本構成によれば、バッファ層を備えることにより基材表面の錆の発生を抑制することができる。そのため、原料素材として保管しておく必要のある基材の保管が容易になる。
ここで、上記バッファ層を構成する結晶は、基材を構成するCu結晶と同じ方向を向いて3軸配向している必要がある。
(24)本発明に係る高温超伝導線材は、上記バッファ層が、Niからなるものであってもよい。
本構成によれば、バッファ層がNiからなるため、基材表面に薄く形成されたNiによって基材であるCu表面への錆の発生を防止することができる。従って、高温超伝導線材工場における基材の保管が容易になる。
また、上記バッファ層は、同様の理由で、Au、Ag、Pdなどの貴金属からなるものであっても良い。
本発明によれば、製造方法の簡素化を図ることができる。
実施形態1に係る高温超伝導線材の概略構成図である。 実施形態1に係る高温超伝導体層の結晶構造を示す模式図である。 実施形態1に係る高温超伝導線材の製造方法を示すフローチャートである。 実施形態1に係る回折X線を用いた測定システムの概略構成図である。 実施形態1に係る基材の評価結果を示す図である。 実施形態1に係るPLD法に用いられる製造装置の概略構成図を示す。 実施形態1に係る高温超伝導線材の高温超伝導体層について、X線回折測定(θ−2θ法)を行った結果を示す図である。 実施形態1に係る高温超伝導線材の高温超伝導体層について、YBCO結晶の(103)面に対応する回折X線を用いて測定したX線極点図測定結果を示す図である。 (a)は、実施形態1に係る高温超伝導体層を構成するYBCO結晶の模式図であり、(b)は、実施形態1に係る高温超伝導体層を構成するYBCO結晶の結晶配向性と高温超伝導体層の臨界電流密度との関係を示す図である。 実施形態1に係る未完成部材の第1中間層における{111}面および{100}面それぞれに対応する回折X線を用いたX線極点図測定結果である。 実施形態1に係る高温超伝導線材の断面の一部の透過型電子顕微鏡写真である。 実施形態2に係る高温超伝導線材の概略構成図である。 実施形態2に係る高温超伝導線材の製造方法を示すフローチャートである。 実施形態2に係る高温超伝導体層について、X線回折測定(θ−2θ法)を行った結果を示す図である。 実施形態2に係る高温超伝導体層について、YBCO結晶の(102)面に対応する回折X線を用いて測定したX線極点図測定結果を示す図である。高温超伝導線材の評価結果を示す図である。 (a−1)および(a−2)は、実施形態2に係る高温超伝導体層表面のSEM写真であり、(b−1)および(b−2)は、比較例3に係る高温超伝導体層表面のSEM写真である。 実施形態3に係る高温超伝導線材の断面の一部の透過型電子顕微鏡写真である。 実施形態4に係る高温超伝導線材の概略構成図である。 実施形態4に係る高温超伝導線材の製造方法を示すフローチャートである。 実施形態5に係る高温超伝導線材の概略構成図である。 実施形態5に係る高温超伝導線材の製造方法を示すフローチャートである。 実施形態6に係る高温超伝導線材の概略構成図である。 実施形態6に係る高温超伝導線材の製造方法を示すフローチャートである。 変形例に係る高温超伝導線材を示し、(a)は概略構成図、(b)は結晶面の向きを示す模式図である。
<実施形態1>
<1>構成
まず、本実施形態に係る高温超伝導線材10の構成について説明する。
図1は、本実施形態に係る高温超伝導線材10を示し、(a)は概略構成図、(b)は結晶面の向きを示す模式図である。なお、図1(b)中の{***}は、面指数を表す。
高温超伝導線材10は、基材11と、第1中間層(中間層)12と、第2中間層(副中間層)13と、高温超伝導体層14と、第1安定化層15と、第2安定化層16と、を備える。
基材11は、Feを主成分とする金属材料またはFe合金から形成されたテープ状の部材である。この金属材料としては、例えば珪素を3%含有する珪素鋼を採用できる。基材11の厚さ方向における一面は、基材11を構成する金属材料の{110}面(第1面指数の結晶面)から構成されている。そして、基材11のユニットセルそれぞれの<001>方向(第1方向指数で表される結晶方位)が略一致している。
以下、このような金属材料を{110}<001>集合組織と称する。
{110}<001>集合組織は、圧延工程と熱処理工程により比較的容易に作製することができるので、基材11として、{110}<001>集合組織からなる基材を採用することにより、基材11の製造容易化を図ることができる。
第1中間層12は、基材11の厚さ方向における一面側に形成されている。この第1中間層12は、蛍石型構造を有する結晶材料であるイットリア安定化ジルコニア(YSZ)結晶(第1結晶材料)から構成される。ここで、YSZ結晶としては、高温超伝導線材を使用する温度、例えば77Kまで冷却しても立方晶が安定化されている組成のものを使用する必要があり、例えば、イットリアの含有率が10%のものを採用すればよい。
第2中間層13は、第1中間層12上に形成されている。この第2中間層13は、蛍石型構造を有する結晶材料であるセリア(CeO)結晶(第2結晶材料)から構成される。
高温超伝導体層14は、第2中間層13上に形成されている。この高温超伝導体層14は、例えばYBaCu(YBCO)結晶から構成される。
図2(a)は第1中間層12および第2中間層13を構成するYSZ結晶およびセリア結晶の結晶構造を示す図であり、図2(b)は高温超伝導体層14を構成するYBCO結晶の結晶構造を示す図である。
図2(a)および(b)に示すように、YSZおよびセリアは、蛍石型の結晶構造であり、YBCOはペロブスカイト型の結晶構造である。
そして、図1(a)および(b)に示すように、第1中間層12は、基材11側の第1領域AR1および高温超伝導体層14側第2領域AR2から構成される。第1領域AR1は、基材11の一面の{110}面に整合する{111}面(第2面指数の結晶面)を有する。第2領域AR2は、高温超伝導体層14の(001)面に整合する{100}面(第3面指数の結晶面)を有する。
また、この第2領域AR2では、YSZ結晶の3つの結晶軸(a軸、b軸、c軸)が略同じ向きに揃った3軸結晶配向状態にある。
この第1中間層12を構成するYSZ結晶の結晶方位に関しては、後述<3−4>において詳細に説明する。
また、第1領域AR1は、基材11を構成する{110}<001>集合組織の{110}面上にエピタキシャル成長されたYSZ結晶から構成されている。
第2中間層13を構成するセリア結晶は、第1中間層12を構成するYSZ結晶の{001}面に整合する{001}面(第4面指数の結晶面)が、基材11の厚さ方向に直交している。第2中間層13は、第1中間層12を構成するYSZ結晶の{001}面上にエピタキシャル成長されたセリア結晶から構成されている。
なお、第2中間層13を構成する結晶材料は、セリア以外にも、チタン酸ストロンチウム(SrTiO)、チタン酸カルシウム(CaTiO)、マンガン酸ランタン(LaMnO)、酸化チタン(TiO)、酸化インジウム(InO)、イットリア(Y)、希土類酸化物(酸化ランタン、酸化プラセオジウム、酸化サマリウム、酸化ユーロピウム、酸化ガドリニウム、酸化ディスプロシウム、酸化ホロミウム、酸化エルビウム、酸化イッテルビウム)などの酸化物であってもよい。
このように、高温超伝導線材10が第2中間層13を備えることにより、第2中間層13が、第1中間層12と高温超伝導体層14との間の格子歪を緩和するので、高温超伝導体層14を構成するYBCO結晶の結晶配向性を向上させることができる。
また、第1中間層12がYSZ結晶から構成される場合、第1中間層12と高温超伝導体層14との間での格子不整合性に起因した歪が緩和され易くなるので、高温超伝導体層14を構成するYBCO結晶の結晶配向性を向上させることができる。
更に、第2中間層13がセリア結晶から構成されていることにより、YSZ結晶から構成された第1中間層12および高温超伝導体層14に適した良好な第2中間層13を得ることができる。
高温超伝導体層14を構成するYBCO結晶は、(001)面が厚さ方向に直交する構造を有し、第2中間層13を構成するセリア結晶の{001}面上に形成されている。
第1安定化層15は、高温超伝導体層14上に形成されている。この第1安定化層15は、Ag等の金属材料から形成されている。この第1安定化層15を形成する金属材料は、ランダムな結晶配向性を有する。なお、この第1安定化層15を形成する金属材料は、非晶質であってもよい。
第2安定化層16は、第1安定化層15上に形成されている。この第2安定化層16は、Cu等の金属材料から形成されている。この第2安定化層16を形成する金属材料は、ランダムな結晶配向性を有する。なお、この第2安定化層16を形成する金属材料は、非晶質であってもよい。
<2>製造方法
次に、本実施形態に係る高温超伝導線材10の製造方法について説明する。
図3は、本実施形態に係る高温超伝導線材10の製造方法を示すフローチャートである。
まず、圧延によりテープ状の基材11を作製する圧延工程を行う(ステップS1)。これにより、ユニットセルそれぞれの<001>方向が圧延方向に略一致している基材11が作製される。つまり、この圧延工程では、配向処理がなされた基材11を作製する。この圧延工程の後、熱処理を行うことで結晶配向性は更に向上するので、テープ状の基材を作製する際は併せて熱処理も実施することが好ましい。
次に、基材11における第1中間層12を形成する一面側を洗浄する基材洗浄工程を行う(ステップS2)。ここでは、まず、基材11の表面を二乗平均粗さにして30nm以下になるように研磨する。次に、基材11を例えば真空チャンバ(図示せず)内に配置し、約700℃に加熱する。続いて、真空チャンバ内に導入される中性化したアルゴンイオンビームにより、基材11の表面を10分間エッチングする。このとき、基材11は、厚さ方向に約1〜20nm程度エッチングされる。これにより、研磨済みの基材11の表面が、清浄化される。なお、この基材洗浄工程において、例えば、水素ガス等の還元性ガスを用いて基材11の表面の自然酸化膜を還元するようにしてもよい。
基材11を構成するFeの{110}<001>集合組織の結晶配向性は、例えば回線X線を用いたX線極点図測定により評価することができる。
図4は、本実施形態に係る回折X線を用いた測定システムの概略構成図である。
測定システムは、X線源S1と、スリットSLと、カウンタDEと、解析装置COMと、を備える。この測定システムでは、X線源SLからスリットDLを通じて出射されるX線が高温超伝導線材10の未完成部材10a(例えば基材11)の表面に照射される。そして、カウンタDEは、未完成部材10aから放出される回折X線の強度を検出する。また、未完成部材10aは、未完成部材10aの法線n1周りの回転角φを変更できるとともに、未完成部材10aに対するX線の入射面に交差する方向における煽り角ψを変更できる。そして、カウンタDEは、未完成部材10aに対するX線の入射面内において、X線の伝播方向に対する角度2θ(未完成部材10aの表面に対する角度θ)を変更できる。
X線極点図測定では、まず、回転角φを所定の角度に設定した場合における、基材11の{110}面に対応する回折X線を検出できるように角度θを設定する。そして、角度φを0°〜360°まで変化させるとともに、角度ψを0°〜90°まで変化させる。
図5は、本実施形態に係る基材11の評価結果を示し、(a)はX線極点図測定の結果であり、(b−1)および(b−2)は表面のSEM写真である。なお、(b−2)は(b−1)の拡大図である。なお、図5(a)は、回折X線の強度を等高線で表した図である。そして、図5(a)に表された等高線を、角度φ方向および角度ψ方向のプロファイルに変換した場合における当該強度ピークの半値幅(以下、「ピーク半値幅」と称する。)は、基材11を構成する珪素鋼の結晶方位の揺らぎを表す指標となる。具体的には、ピーク半値幅が大きいほど結晶方位の揺らぎが大きいことを示す。
図5(a)に示すように、基材11は、X線極点図測定におけるピーク半値幅Δφが約10°であり、高い結晶配向性を有する。また、図5(b−1)および(b−2)に示すように、基材11の表面は、複数の結晶粒から構成されている。
図3に戻って、上記基材洗浄工程の後には、還元雰囲気下で第1中間層12における基材11側の第1領域AR1を形成する還元雰囲気下第1中間層形成工程(第1工程)を行う(ステップS3)。
ここでは、第1中間層12の第1領域AR1が、パルスレーザ蒸着法(PLD法)により形成される。このとき、基材11の温度は、約700℃に設定すればよい。
ここで、PLD法に用いられる製造装置について簡単に説明する。
図6に、本実施形態に係るPLD法に用いられる製造装置の概略構成図を示す。
図6に示すように、PLD法に用いられる製造装置は、窓W1を有する真空チャンバCHを備えている。そして、バルブVP1のみを開いた状態でロータリポンプRPを駆動させたり、バルブVP2,VP3のみが開いた状態で、ロータリポンプRPおよびターボ分子ポンプTPを駆動させたりすることにより、真空チャンバCH内の真空度を向上させることができる。
また、真空チャンバCHには、水素ガスや酸素ガスを導入するためのバルブ(レギュレータ)V1,V2が接続されている。更に、真空チャンバCH内には、例えば基材11を固定するホルダHLや、基材11を温めるヒータHE、基材11の温度を計測する熱電対TH等が配置されている。ここで、ホルダHLは、ターゲットTAに対向した状態で配置されている。また、ターゲットTAが固定される部分には、ターゲットTAと熱的に結合した水冷管WPが敷設されている。
この製造装置を用いたPLD法では、紫外領域の波長(例えば248nm)のパルス状のレーザ光LAを、窓W1を通じてターゲットTA上に集光させる。すると、真空チャンバCH内におけるターゲットTA近傍にプラズマが発生する。そして、ターゲットTAから放出されたターゲットTAの構成物が、基材11の表面に堆積しターゲットTAの材料と同じ材料の膜が基材11上に形成される。ターゲットTAは、YSZターゲット、セリアターゲットおよびYBCOターゲットの3種類からなり、切替可能となっている。
還元雰囲気下第1中間層形成工程では、ターゲットTAとしてYSZターゲットを用いる。また、ターゲットTAに集光するレーザ光LAのエネルギ密度は、例えば2J/cm、レーザ光のパルスの周波数は、例えば2Hzに設定すればよい。
また、還元雰囲気下第1中間層形成工程では、真空中チャンバCH内に、内圧が1.0×10−4Paとなるように水素ガスを導入する。ここにおいて、例えばバルブV1が水素ガス導入用のバルブとなる。この場合、バルブV1を調整して真空チャンバCH内の内圧が1.0×10−4Paとなるようにする。なお、この工程において真空チャンバCH内に導入するガスは、水素ガスに限定されるものではなく、他の還元性ガスを導入してもよい。この還元性ガスとしては、例えば硫化水素や二酸化硫黄等が挙げられる。
これにより、真空チャンバCH内は、還元雰囲気となる。そして、この還元雰囲気下で、YSZ結晶から構成される膜(YSZ結晶膜)を例えば100nmの厚さで形成する。この還元雰囲気下第1中間層形成工程において成膜されるYSZ結晶膜が、第1中間層12の第1領域AR1に相当する。
図3に戻って、還元雰囲気下第1中間層形成工程の後、酸化雰囲気下で第1中間層12における基材11側とは反対側の一部を形成する酸化雰囲気下第1中間層形成工程(第2工程)を行う(ステップS4)。
ここでは、真空中チャンバCH内から水素を排出した後、真空チャンバCH内に、内圧が1.0×10−3Paとなるように酸素ガスを導入する。ここにおいて、例えばバルブV2が酸素ガス導入用のバルブとなる。この場合、バルブV2を調整して真空チャンバCH内の内圧が1.0×10−3Paとなるようにする。
これにより、真空チャンバCH内は、酸化雰囲気となる。そして、この酸化雰囲気下で、YSZ結晶膜を例えば1400nmの厚さで形成する。この酸化雰囲気下第1中間層形成工程において成膜されるYSZ結晶膜が、第1中間層12の第2領域AR2に相当する。
以上のように、本実施形態に係る高温超伝導線材10の製造方法では、還元雰囲気下第1中間層形成工程および酸化雰囲気下第1中間層形成工程において、第1中間層12をパルスレーザ蒸着法により形成する。これにより、他の成膜方法(例えば通常のエピタキシャル成長法等)により第1中間層12を形成する場合に比べて、第1中間層12を構成するYSZ結晶の結晶配向性を向上させることができる。
次に、第1中間層12上に第2中間層13を形成する第2中間層形成工程を行う(ステップS5)。ここでは、第2中間層13をPLD法により形成する。
このとき、ターゲットTAとして、セリアターゲットを使用する。また、この第2中間層形成工程では、真空中チャンバCH内に内圧が1.0×10−4Paとなるように酸素ガスが導入された雰囲気下でセリア膜を例えば100nmの厚さで形成する。
このように、第2中間層13を形成することにより、第2中間層13が、第1中間層12と高温超伝導体層14との間での格子不整合性に起因した歪を緩和するので、高温超伝導体層を構成するYBCO結晶の結晶配向性を向上させることができる。
また、第1中間層12と高温超伝導体層14との間に第2中間層13が介在することにより、高温超伝導体層形成工程中において、第2中間層13が、第1中間層12を構成するYSZ結晶と高温超伝導体層14を構成するYBCO結晶との反応を抑制する。これにより、高温超伝導体層14を構成するYBCO結晶の結晶配向性を向上させることができる。
なお、第2中間層13の表面の面粗さRaは、50nm以下が好ましい。面粗さRaが50nmよりも大きくなると、第2中間層13上に形成する高温超伝導体層14の厚さの不均一さが大きくなり、電気的特性に影響が生じる虞があるからである。また、第2中間層13の表面の面粗さRaは、可能な限り小さいことが好ましい。但し、一般的な加工限界や製造上のスループット等を考慮すれば0.1nm程度が限界である。
また、第1、第2中間層12,13の厚さを足し合せた厚さ(総厚)は、100nm以上にすることが好ましい。この総厚が薄い場合、基材11と高温超伝導体層14の間で元素の相互拡散や化学反応が生じてしまう可能性が高くなる。一方、この総厚を厚くすると、その分、原材料料コストが上昇したり製造に要する時間が長期化したりする。また、この総厚が過度に厚い場合、内部応力が緩和されにくくなり第1、第2中間層12,13に割れ等が生じやすくなる。
続いて、第2中間層13上に高温超伝導体層14を形成する高温超伝導体層形成工程を行う(ステップS6)。
ここでは、高温超伝導体層14はPLD法により形成する。このとき、ターゲットTAとして、YBCOターゲットを使用する。また、高温超伝導体層形成工程では、ヒータHEの出力を上昇させることにより成長温度を790℃に設定し、真空中チャンバCH内に内圧が35Paとなるように酸素ガスが導入された雰囲気下でYBCO膜を例えば520nmの厚さで形成する。
その後、高温超伝導体層14上に第1安定化層15を形成する第1安定化層形成工程を行う(ステップS7)。
ここでは、第1安定化層15は、例えば蒸着法や通常のスパッタリング法により形成する。
最後に、第1安定化層15上に第2安定化層16を形成する第2安定化層形成工程を行う(ステップS8)。
ここでは、第2安定化層16は、例えば蒸着法や通常のスパッタリング法により形成する。
<3>高温超伝導線材の性能について
次に、本実施形態に係る高温超伝導線材10の性能について説明する。
<3−1>高温超伝導体層の結晶性および電気的特性について
まず、高温超伝導体層14の結晶性および電気的特性について説明する。
前述の図4に示す測定システムを用いて、高温超伝導体層14についてX線回折測定(θ−2θ法)およびX線極点図測定を行った。
図7は、本実施形態に係る高温超伝導体層14について、X線回折測定(θ−2θ法)を行った結果を示す図である。また、図8は、本実施形態に係る高温超伝導体層14について、YBCOの(103)回折線を用いて測定したX線極点図測定結果を示す図である。なお、図7は、X線の入射面が基材11の<001>方向と略平行になる配置で測定した結果である。また、図8は、X線の回折強度を等高線で表した図である。
図7に示すように、基材11を構成する{110}<001>集合組織からの回折X線が検出できる配置において、高温超伝導体層14を構成するYBCO結晶の(001)面からの高次回折線(図7中、003〜007のそれぞれがYBCOの高次回折線である)が検出された。このことから、高温超伝導体層14を構成するYBCO結晶の略全ての(001)面が、基材11の厚さ方向に直交していることが判った。言い換えれば、高温超伝導体層14を構成するYBCO結晶のユニットセルそれぞれのc軸が、略全て基材11の厚さ方向に平行であることが判った。
また、図8に示すように、X線極点図測定では、回折X線強度の強いスポット状の部分(以下、「スポット状部」と称する。)が4つ観測された。この4つのスポット状部は、φ方向において略90°毎に等間隔に観測された。この4つのスポット状部におけるφ方向およびψ方向のピーク半値幅は、13度程度となっている。このことから、高温超伝導体層14を構成するYBCO結晶のユニットセルそれぞれのa軸およびb軸は、ピーク半値幅にして13°程度の揺らぎをもって略揃っていることが判った。
これらの図7および図8に示す結果から、本実施形態に係る製造方法により作製した高温超伝導線材10では、高温超伝導体層14を構成するYBCO結晶の全ての結晶軸(a軸、b軸、c軸)の向きが略揃った3軸結晶配向状態にあるという知見が得られた。
また、この高温超伝導体層14(結晶方位の揺らぎがピーク半値幅にして13°程度のもの)について、測定温度77K(液体窒素の沸点温度)における臨界電流密度Jcを測定した。この臨界電流密度Jcの測定は、例えば高温超伝導体層形成工程後の未完成部材10aについて、高温超伝導体層14の表面に4つの電極を等間隔に形成した後、4端子法を用いて電流−電圧特性を測定することにより求めることができる。
この高温超伝導体層14の臨界電流密度Jcの測定値は、5.7×10A/cm程度となった。
このように、本実施形態に係る高温超伝導線材10では、高温超伝導体層14を構成するYBCO結晶の結晶方位の揺らぎがピーク半値幅にして13°程度であれば比較的良好な導電性能が得られる。
<3−2>基材を構成する{110}<001>集合組織の結晶方位の揺らぎと、高温超伝導体層の電気的特性との関係について
更に、基材11を構成する{110}<001>集合組織の結晶方位の揺らぎと、高温超伝導体層14の電気的特性との関係について、下記の知見が得られた。以下、これについて詳細に説明する。
まず、{110}<001>集合組織の結晶方位の揺らぎが異なる複数種類(8種類)の基材11を準備した。具体的には、X線極点図測定におけるピーク半値幅Δφが互いに異なる8種類の基材11を準備した。
そして、これらの基材11を用いて、<2>で説明した製造方法と同様の方法により、8種類の高温超伝導線材10を作製した。
次に、上記8種類の高温超伝導線材10それぞれについて、X線極点図測定と、測定温度77Kにおける臨界電流密度Jcの測定とを行った。ここで、X線極点図測定では、高温超伝導体層14を構成するYBCO結晶の(103)面に対応する回折X線を用いた。
表1に、8種類の高温超伝導線材10について、X線極点図測定並びに臨界電流密度Jcの測定を行った結果を示す。なお、表1において、ΔφYBCOは、高温超伝導体層14を構成するYBCO結晶のX線極点図測定におけるφ方向のピーク半値幅、Δφtapeは、基材11を構成する珪素鋼のX線極点図測定におけるφ方向の上記ピーク半値幅を示す。また、Jcは、臨界電流密度を示す。
表1に示すように、基材11を構成する珪素鋼のピーク半値幅Δφtapeが狭くなるにつれて、高温超伝導体層14を構成するYBCO結晶のピーク半値幅ΔφYBCOも狭くなる。これは、基材11を構成する珪素鋼の結晶配向性が向上するにつれて、高温超伝導体層14を構成するYBCO結晶の結晶配向性も向上することを示している。
ところで、高温超伝導体層14の臨界電流密度Jcは、高温超伝導体層14を構成するYBCO結晶の結晶配向性に依存する。
図9(a)は、本実施形態に係る高温超伝導体層14を構成するYBCO結晶の模式図であり、図9(b)は、本実施形態に係る高温超伝導体層14を構成するYBCO結晶の結晶配向性と高温超伝導体層14の臨界電流密度Jcとの関係を示す図である(例えば、非特許文献:D. Dimos, P. Chaudhari and J. Mannhart: “Superconducting transport properties of grain boundaries in YBa2Cu3O7bicrystals,” Phys. Rev. B 41 (1990) 4038-4049 に記載されている結果と同様である)。
図9(a)に示すように、例えばYBCO結晶粒のa軸同士のなす角度がα(°)であるとする。この場合、角度αが小さいほど結晶配向性が良く、角度αが大きいほど結晶配向性が悪くなる。そして、図9(b)に示すように、臨界電流密度Jcは、角度αが大きくなるにつれて、即ち、結晶配向性が悪くなるほど小さくなる。
また、表1に示すように、高温超伝導体層14を構成するYBCO結晶のピーク半値幅ΔφYBCOも狭くなるにつれて、即ち、高温超伝導体層14を構成するYBCO結晶の結晶配向性が向上するにつれて、臨界電流密度Jcが上昇する。特に、基材11のピーク半値幅Δφtapeが8度未満になると臨界電流密度Jcの値が大きく上昇することが判った。
このことから、本実施形態に係る高温超伝導線材10では、基材11のピーク半値幅Δφtapeを8度未満に設定することがより好ましいと言える。
<3−3>第1中間層の成膜条件と高温超伝導体層を構成するYBCO結晶の結晶配向性との関係について
第1中間層12の成膜条件と高温超伝導体層14を構成するYBCO結晶の結晶配向性との関係について、下記の知見が得られた。
具体的には、<2>で説明した還元雰囲気下第1中間層形成工程および酸化雰囲気下第1中間層形成工程の代わりに、異なる成膜条件で第1中間層の一部を形成する工程を行うことにより得られた高温超伝導線材(以下、「比較例1」、「比較例2」と称する。)について評価した。ここでは、ピーク半値幅Δφが5°の基材を使用した。
比較例1に係る高温超伝導線材の製造方法では、<2>で説明した基材洗浄工程の後、真空チャンバCH内にアルゴンガスや窒素ガス、ヘリウムガス、酸素ガスが導入された雰囲気下で第1中間層12における基材11側の一部をPLD法により作成する工程を行った。その後、<2>で説明した酸化雰囲気下第1中間層形成工程以後の各工程を行った。ここで、真空チャンバCH内にアルゴンガスや窒素ガス、ヘリウムガスを導入した場合、真空チャンバCH内からこれらの気体を排出した後に、酸化雰囲気下第1中間層形成工程以後の各工程を行った。
比較例1に係る高温超伝導線材の高温超伝導体層14について、X線極点図測定を行うことにより結晶配向性について評価を行った。ここで、X線極点図測定では、高温超伝導体層14を構成するYBCO結晶の(103)面に対応する回折X線を用いた。その結果、明確なスポット状部が観測されなかった。このことから、比較例1に係る高温超伝導線材では、高温超伝導体層14を構成するYBCO結晶が3軸結晶配向状態となっていないことが判った。
また、比較例1に係る高温超伝導線材の高温超伝導体層14について、4端子法により測定温度77Kにおける臨界電流密度Jcを測定した。その結果、臨界電流密度Jcの測定値は、1×10A/cmを下回る値となり、本実施形態に係る高温超伝導線材10の値に比べて低くなった。
以上より、<2>で説明したように、還元雰囲気下第1中間層形成工程を行うことが、高温超伝導体層14を構成するYBCO結晶を3軸結晶配向状態とするのに不可欠であるという知見を得られた。
また、比較例2に係る高温超伝導線材の製造方法は、まず、<2>で説明した還元雰囲気下第1中間層形成工程において、第1中間層を100nmだけ形成する。次に、真空チャンバCH内に水素ガスやアルゴンガス、窒素ガス、ヘリウムガス、一酸化炭素(CO)ガス、二酸化炭素(CO)ガスが導入された雰囲気下で第1中間層12における第2中間層13側の一部をPLD法により作成する工程を行う。その後、真空チャンバCH内から水素ガス等の気体を排出した後、<2>で説明した第2中間層形成工程以後の各工程を行う。
発明者らは、比較例2に係る高温超伝導線材の高温超伝導体層14についても、比較例1の場合と同様のX線極点図測定を行うことにより結晶配向性について評価を行った。その結果、比較例1の場合と同様に、明確なスポット状部が観測されなかった。このことから、比較例2に係る高温超伝導線材でも、高温超伝導体層14を構成するYBCO結晶が3軸結晶配向状態となっていないことが判る。
また、発明者らは、比較例2に係る高温超伝導線材の高温超伝導体層14について、4端子法により測定温度77Kにおける臨界電流密度Jcを測定した。その結果、臨界電流密度Jcの測定値は、比較例1の場合と同様に、1×10A/cmを下回る値となり、本実施形態に係る高温超伝導線材10の値に比べて低くなった。
以上より、発明者らは、基材としてFeの{110}<001>集合組織を用いる本実施形態では、<2>で説明したように、酸化雰囲気下第1中間層形成工程を行うことが、高温超伝導体層14を構成するYBCO結晶を3軸結晶配向状態とするのに不可欠であるという知見を得ている。
結局、本実施形態に係る高温超伝導線材10の製造方法では、第1中間層12を形成する際、まず、還元雰囲気下で第1中間層12を形成した後、酸化雰囲気下で第1中間層12を形成する行うことが重要である。
<3−4>第1中間層を構成するYSZ結晶の結晶配向性について
酸化雰囲気下第1中間層形成工程において形成する第1中間層12の厚さと第1中間層12を構成するYSZ結晶の結晶配向性との関係について、下記の知見が得られた。
ここでは、<2>で説明した還元雰囲気下第1中間層形成工程後の未完成部材(以下、「未完成部材10p」と称する。)および酸化雰囲気下第1中間層形成工程後の未完成部材について、第1中間層12を構成するYSZ結晶の結晶配向性を測定した。
酸化雰囲気下第1中間層形成工程後の未完成部材としては、酸化雰囲気下第1中間層形成工程において第1中間層12が300nmだけ形成された未完成部材(以下、「未完成部材10q」と称する。)と、第1中間層12が700nmだけ形成された未完成部材(以下、「未完成部材10r」と称する。)とを用いた。
この第1中間層12を構成するYSZ結晶の結晶方位の分布は、例えば後方電子線回折(Electron Back−Scatter Diffraction:EBSD)を利用して検査することができる。
図10(a)〜(c)は、本実施形態に係る未完成部材10p〜10rの第1中間層12における{111}面および{100}面それぞれに対応する電子線後方散乱回折法(EBSD法)を用いた極点図測定結果である。
ここにおいて、第1中間層12を構成するYSZ結晶は、厳密には立方晶ではない。但し、YSZ結晶のa軸、b軸、c軸の長さは略等しく、これら3軸同士のなす角度も互いに約90度である。従って、このYSZ結晶は、極点図測定の評価においては立方晶として取り扱うことができる。
図10(a)に示すように、未完成部材10pは、第1中間層12を構成するYSZ結晶の{111}面が基材11の厚さ方向に直交している。
また、図10(c)に示すように、未完成部材10rは、第1中間層12を構成するYSZ結晶の{100}面が基材11の厚さ方向に直交し且つ各ユニットセルの<001>方向が互いに平行となっている。即ち、未完成部材10rの第1中間層12を構成するYSZ結晶は、3軸結晶配向状態となっている。
更に、図10(b)に示すように、未完成部材10qでは、未完成部材10p,10rそれぞれについて得られた極点図測定の結果を足し合わせたような結果となっている。
これらの測定結果から、次のような知見が得られた。
還元雰囲気下第1中間層形成工程では、{110}<100>集合組織から構成される基材11表面のFe原子の配列の影響を受けて、YSZ結晶は、その{111}面が基材11の厚さ方向に直交した状態で成長しやすくなる。そして、酸化雰囲気下第1中間層形成工程に入ると、{100}面が基材11の厚さ方向に直交し且つ各ユニットセルにおける<001>方向が略一致しているYSZ結晶が成長しやすくなる。すると、第1中間層12は、結晶方位が互いに異なる2種類のYSZ結晶が混じった状態となる。その後、{100}面が基材11の厚さ方向に直交し且つ各ユニットセルにおける<001>方向が略一致しているYSZ結晶の成長が支配的になる。そして、第1中間層12の第2領域AR2における高温超伝導体層14側では、{100}面が基材11の厚さ方向に直交し且つ各ユニットセルの<001>方向が略一致した3軸配向状態のYSZ結晶の占める割合が多くなった状態となる。
なお、このEBSD法を用いれば、高温超伝導線材10について第1中間層12内の局所的な結晶方位を確認できる。
例えば、高温超伝導線材10の断面から、第1中間層12における第1領域AR1または第2領域AR2の一部に電子線を収束させ、菊池線を発生させた状態の電子線回折像を撮像する。そして、菊池線の幅から、電子線を収束させた部分の結晶方位を特定することができる(例えば、非特許文献:E. Furubayashi, “On Experimental Suspects of the Orientation Relationship in the Primary ecrystallization of Metals”, Scripta Metall. Vol.27 (1992), 1493-1496 参照)。
結局、本実施形態に係る高温超伝導線材10の製造方法では、還元雰囲気下第1中間層形成工程において、{110}<001>集合組織から構成される基材11上に、{111}面が基材11の厚さ方向に直交しているYSZ結晶が支配的に成長する。その後、酸化雰囲気下第1中間層形成工程では、{100}面が基材11の厚さ方向に直交し且つ各ユニットセルの<001>方向が略一致しているYSZ結晶の成長が支配的となる。これにより、第1中間層12の第2領域AR2における高温超伝導体層14側では、{100}面が基材11の厚さ方向に直交し且つ各ユニットセルの<001>方向が略一致しているYSZ結晶の占める割合が多くなり、充分にYSZ結晶を成長させることにより、ほぼ3軸配向状態のYSZ結晶のみが存在することとなる。そして、図10に示す結果から、第1中間層12の第2領域AR2の厚さは、700nm以上であれば、第1中間層12の第2領域AR2における高温超伝導体層14側において、ほぼ3軸配向状態のYSZ結晶のみが存在するようになる。従って、第1中間層12の第2領域AR2の厚さは、700nm以上が好ましい。
<3−5>第1中間層を構成する結晶材料について
更に、還元雰囲気下第1中間層形成工程と、酸化雰囲気下第1中間層形成工程とにおいて、成膜する結晶材料を変更した高温超伝導線材について、高温超伝導体層14を構成するYBCO結晶の結晶配向性に関する知見が得られた。
具体的には、第1中間層12の第1領域AR1がYSZ結晶から構成され、第2領域AR2がイットリア(Y)結晶から構成される高温超伝導線材(以下、「高温超伝導線材10b」と称する。)について知見を得た。
高温超伝導線材10bは、<2>で説明した製造方法と略同様にして作製されるが、酸化雰囲気下第1中間層形成工程で使用する材料等が<2>で説明した製造方法と相違する。
高温超伝導線材10bを作製する場合、酸化雰囲気下第1中間層形成工程では、酸化雰囲気下で、イットリア結晶から構成される第1中間層12の一部を、PLD法により形成する。この酸化雰囲気下第1中間層形成工程では、イットリア結晶から構成される第1中間層12を例えば1400nmの厚さで形成する。なお、この酸化雰囲気下第1中間層形成工程において、真空チャンバCH内に導入される気体や内圧は、<2>で説明した内容と同様である。
その後、第2中間層形成工程以降の各工程を行う。なお、第2中間層形成工程以降の各工程は、<2>で説明した製造方法における各工程と同様である。
この高温超伝導線材10bについて、X線回折測定およびYBCOの(103)回折X線を用いたX線極点図測定を行った。その結果、第1中間層12を構成する2層のうちYSZ結晶からなる層の{111}面は基材11の厚さ方向に直交し、イットリア結晶からなる層の{100}面は基材11の厚さ方向に直交していないという知見が得られた。
また、イットリア結晶からなる層がYSZ結晶からなる層の上にエピタキシャル成長しており、イットリア結晶の{111}面が第1中間層12を構成する2層の界面に略平行であるという知見も得られた。
更に、第2中間層13を構成するセリア結晶の{111}面が第1、第2中間層12,13の界面に略平行であるという知見も得られた。そして、高温超伝導体層14を構成するYBCO結晶が3軸結晶配向状態にないという知見も得られた。
また、この高温超伝導線材10bの高温超伝導体層14について、4端子法により測定温度77Kにおける臨界電流密度Jcを測定した場合、測定値は8.3×10A/cmとなり、前述の高温超伝導線材10に比べて低い値であった。
以上説明した測定結果から、第1中間層12は、YSZ結晶の1種類から構成されるものとし、当該第1中間層12の生成途中の段階で雰囲気を還元性雰囲気から酸化雰囲気に変化させることが、高温超伝導体層14のYBCO結晶の3軸結晶配向状態を実現するのに適しているという知見を得ている。
なお、発明者らは、第1中間層12を、YSZ結晶およびイットリア結晶以外の他の様々な結晶材料からなる積層構造とした高温超伝導線材についても同様の測定を行った。しかし、いずれの高温超伝導線材についても、高温超伝導体層14のYBCO結晶が3軸結晶配向状態とならなかった。つまり、還元雰囲気中である物質を形成し、続いて酸化雰囲気中で別の物質を形成した場合には所望の結晶配向状態は得られず、第1中間層をただ1種類の物質で構成し、当該第1中間層12の生成途中の段階で雰囲気を還元性雰囲気から酸化雰囲気に変化させることが好ましい結晶配向状態を得るために重要であることがわかった。
<3−6>高温超伝導線材の断面の電子顕微鏡写真について
本実施形態に係る高温超伝導線材10の第1中間層および第2中間層の結晶配向状態について透過型電子顕微鏡を用いて観察した。
図11は、実施形態1に係る高温超伝導線材の断面の一部(第1中間層および第2中間層の一部)の透過型電子顕微鏡写真である。なお、この電子顕微鏡写真では、回折条件を満たした部分が黒く観察される。
図11に示す高温超伝導線材では、配向Feテープ上に、厚さ500nmのYSZ層と厚さ150nmのCeO層とが積層されている。
図11中、白く観察される部分Aは、(001)面がFeテープ面に平行で[100]軸がFeテープ長手方向(図11において、左右方向)に対して45°方向に向いて3軸とも結晶方位が揃ったYSZ結晶であり、黒く観察される部分Bは、(111)面がFeテープ面に平行で[112]軸がFeテープ幅方向に向いて3軸とも結晶方位が揃ったYSZ結晶である。
図11に示したように、本実施形態に係る高温超伝導線材のYSZ層(第1中間層)では、配向Feテープ側(第1領域)においては、Feテープ面に平行な面(基材の厚さ方向に直交する面)が(111)面であるYSZ結晶が支配的に存在しており、CeO層側(第2領域)においては、Feテープ面に平行な面が(001)面であるYSZ結晶が支配的に存在していることが明らかとなった。
なお、CeO層の構成は、(001)面がFeテープ面に平行で[100]軸がFeテープ長手方向に対して45°方向に向いて3軸とも結晶方位が揃ったCeO結晶が支配的であった。
このことからも、本実施形態3が、YBCO結晶からなる高温超伝導体層の形成に適した第1および第2中間層を備えていることが明らかである。
なお、本明細書において、「テープ面に平行」とは、「基材の厚さ方向に直交」と同じことを意味する。
<4>まとめ
本実施形態に係る高温超伝導線材10の製造方法によれば、還元雰囲気下中間層形成工程において、還元雰囲気下で第1中間層12における基材11側の第1領域AR1を形成する。これにより、第1中間層12の第1領域AR1は、基材11の第1中間層12側の一面との整合性が良好な状態で形成される。その後、酸化雰囲気下中間層形成工程において、酸化雰囲気下で第1中間層12における第1領域AR1以外の第2領域AR2を形成する。これにより、第1中間層12の第2領域AR2は、高温超伝導体層14を構成するYBCO結晶との整合性が比較的良好となる状態で形成される。
この第1中間層12における第2領域AR2では、YSZ結晶の3つの結晶軸が略同じ向きに揃った3軸結晶配向状態となる。そして、このように形成された第1中間層12の上方に高温超伝導体層14を形成すれば、当該高温超伝導体層14においても3軸結晶配向状態が実現される。この場合、高温超伝導体層14の臨界電流密度が向上するので、その分、高温超伝導線材10の導電性能も向上する。
つまり、本実施形態に係る高温超伝導線材10の製造方法によれば、第1中間層12を形成する工程において、成膜方法をPLD法のまま変更せずに成膜雰囲気を変更することで、高い導電性能を有する高温超伝導線材を得ることができる。従って、例えば第1中間層12を形成する工程において、成膜方法をIBAD法から通常のエピタキシャル成長法に大きく変更する製造方法に比べて、製造方法の簡素化を図ることができる。
また、本実施形態に係る高温超伝導線材10は、第1中間層12の第1領域AR1では、基材11の一面の{110}面に整合する{111}面が基材の厚さ方向に直交している。また、第2領域では、高温超伝導体層における基材の厚さ方向に直交する結晶面に整合する第3面指数の結晶面が基材の厚さ方向に直交し、第1結晶材料の3つの結晶軸が略同じ向きに揃った3軸結晶配向状態にある。従って、この中間層の上方に形成された高温超伝導体層は、3軸結晶配向状態が実現され、その分、高温超伝導体層の臨界電流密度が向上するので、高温超伝導線材の導電性能の向上を図ることができる。
更に、本実施形態に係る高温超伝導線材10は、基材11を形成する金属材料として比較的低コストのFeを主成分とした金属材料(珪素鋼)を採用しながらも、高温超伝導体層14を構成するYBCO結晶を3軸結晶配向状態とすることができる。従って、基材11に要するコストの低減を図りつつ、高温超伝導線材10の導電性能向上を図ることができる。
<実施形態2>
図12は、本実施形態に係る高温超伝導線材20の概略構成図である。
高温超伝導線材20は、第1基材(副基材)21aに第2基材(基材)21bが貼り付けられ複合基材21と、中間層22と、高温超伝導体層24と、保護層25と、を備える。
第1基材21aは、ステンレス鋼(SUS316)から形成されたテープ状の部材である。
第2基材21bは、純度99.9%のCuから形成されたテープ状の部材であり、第1基材21aの厚さ方向における一面側に貼り付けられている。第2基材21bは、{100}<001>集合組織から構成されている。
このように、第2基材21bが第1基材21aに貼り付けられていることにより、第2基材21bが補強されるので、複合基材21を備えた高温超伝導線材20では、機械的強度の向上を図ることができる。
なお、第1基材21aの材料は、ステンレス鋼に限定されるものではなく、第2基材21bの材料(例えばCu)よりも機械的強度の高い金属材料であればステンレス鋼以外の他の金属材料から選択されたものであってもよい。
具体的な選択基準としては、直流磁場中で使用することを主な目的とする高温超伝導線材では強度と価格を重視することが望ましく、炭素鋼などの高強度で低価格な金属テープを選択することが望ましい。また、交流磁場中や変動磁場中で使用することを主な目的とする高温超伝導線材では強度と価格を重視するだけではなく、変動磁場による金属テープの磁気的損失を最低限に抑制する必要があることから、強磁性を示さず、電気抵抗も比較的高い金属テープを選択することが望ましい。例えば、各種の組成を持つステンレス、Ni基合金、Cu基合金、Co基合金などを選択することができる。
また、{100}<001>集合組織は、圧延工程及び熱処理により比較的容易に作製することができるので、第2基材21bとして{100}<001>集合組織を用いることにより、第2基材21bの製造容易化を図ることができる。
中間層22は、第2基材21bの厚さ方向における第1基材21a側とは反対側の一面に形成されている。この中間層22は、例えば導電性の結晶材料であるNbドープチタン酸ストロンチウム(Nb−STO)結晶から構成される。このNb−STO結晶は、ペロブスカイト型の結晶構造を有する。このNb−STO結晶としては、例えばSrTi0.95Nb0.05組成を有するものが採用される。
高温超伝導体層24は、中間層22上に形成されている。この高温超伝導体層24は、例えばYBaCu(YBCO)から構成される。なお、高温超伝導体層24の材料としては、EBCOやGBCOなども採用することができる。
保護層25は、高温超伝導体層24上に形成されている。この保護層25は、例えばSiO等の絶縁性材料を用いて形成されている。この保護層25を形成する絶縁性材料は、ランダムな結晶配向性を有する。なお、この保護層25を形成する絶縁性材料は、非晶質であってもよい。
このように、高温超伝導体層14上に保護層25が設けられていることにより、高温超伝導体層14が保護されるため、高温超伝導線材の耐摩耗性を向上させることができる。
次に、本実施形態に係る高温超伝導線材20の製造方法について説明する。
図13は、本実施形態に係る高温超伝導線材20の製造方法を示すフローチャートである。
まず、圧延によりテープ状の第2基材21bを作製する圧延工程を行う(ステップS21)。これにより、各ユニットセルの<001>方向が圧延方向に略一致しているCuから構成された第2基材21bが作製される。つまり、この圧延工程では、配向処理がなされた第2基材21bが作製される。なお、配向度をより向上させるために圧延工程後に熱処理を施すことが好ましい。また、上記熱処理は後述の貼り付け工程の後に実施しても構わない。
第2基材21bを構成するCuは、X線極点図測定におけるピーク半値幅Δφにして約4°となるような結晶配向性を有するものであればよい。
次に、第2基材21bを第1基材21aに貼り付けて複合基材21を作製する貼り付け工程を行う(ステップS22)。
この貼り付け工程では、例えば表面活性化常温接合法を用いて第1基材21aと第2基材21bとを接合する。具体的には、第1基材21aおよび第2基材21bの各接合面を例えばアルゴンイオンビームイオンエッチング等により表面処理を行って、両接合面の原子を化学結合し易い状態とした後、第1基材21aと第2基材21bとを貼り合わせる。
この貼り付け工程において、第2基材21bに第1基材21aが貼り付けられることにより、第2基材21bが補強されるので、高温超伝導線材20の機械的強度の向上を図ることができる。
続いて、第2基材21bにおける第1基材21a側とは反対側の一面を洗浄する基材洗浄工程を行う(ステップS23)。ここでは、まず、第2基材21bの表面を二乗平均粗さにして30nm以下になるように研磨する。次に、複合基材21を例えば真空チャンバ(図示せず)内に配置し、約730℃に加熱する。続いて、第2基材21bの表面に水素ガスを吹きつけながら20分間保持する。これにより、研磨済みの第2基材21bの表面に形成された自然酸化膜が還元され、第2基材21bの表面が清浄化される。
その後、還元雰囲気下で中間層22における第2基材21b側の一部を形成する還元雰囲気下中間層形成工程を行う(ステップS24)。ここでは、中間層22の一部が、PLD法により形成される。また、中間層22の成膜温度は、約700℃に設定すればよい。
この還元雰囲気下中間層形成工程では、ターゲットTAとしてNb−STOターゲットを使用する。この場合、第2基材21b上にNb−STOの構成物が堆積し、Nb−STO膜が形成される。また、ターゲットTAに集光されるレーザ光のエネルギ密度は、例えば1.5J/cm、レーザ光のパルスの周波数は、例えば20Hzに設定すればよい。
また、還元雰囲気下第1中間層形成工程では、真空中チャンバCH内に内圧が1.0×10−4Paとなるように水素ガスが導入された雰囲気下(還元雰囲気下)でNb−STO膜を例えば100nmの厚さで形成する。
次に、酸化雰囲気下で中間層22における第2基材21b側とは反対側の一部を形成する酸化雰囲気下中間層形成工程を行う(ステップS25)。
ここでは、真空中チャンバCH内に導入された水素を排出した後、還元雰囲気下中間層形成工程と同様に、中間層22の一部をPLD法により形成する。この酸化雰囲気下中間層形成工程では、真空チャンバCH内に内圧が1.0×10−3Paとなるように酸素ガスを導入された雰囲気下(酸化雰囲気中下)でNb−STO膜を例えば1000nmの厚さで形成する。
続いて、中間層22上に高温超伝導体層24を形成する高温超伝導体層形成工程を行う(ステップS26)。ここでは、高温超伝導体層24をPLD法により形成する。このとき、ターゲットTAとして、YBCOターゲットを使用する。また、高温超伝導体層形成工程では、ヒータHEの出力を上昇させることにより成長温度を790℃に設定し、真空中チャンバCH内に内圧が35Paとなるように酸素ガスが導入された雰囲気下でYBCO膜を例えば520nmの厚さで形成する。
その後、高温超伝導体層14上に保護層25を形成する保護層形成工程を行う(ステップS27)。ここで、保護層25は、例えば蒸着法や通常のスパッタリング法により形成する。
次に、本実施形態に係る高温超伝導線材20の性能について説明する。
図14は、本実施形態に係る高温超伝導体層24について、X線回折測定(θ−2θ法)を行った結果を示す図である。また、図15は、本実施形態に係る高温超伝導体層24について、YBCOの(102)回折線を用いて測定したX線極点図測定結果を示す図である。なお、図14は、X線の入射面が第2基材21bの<001>方向と略平行になる配置で測定した結果である。また、図15は、回折X線の強度を等高線で表した図である。
図14に示すように、第2基材21bを構成する{100}<001>集合組織からの回折X線が検出できる配置において、高温超伝導体層24を構成するYBCO結晶の(001)面からの高次回折線((00l):lは正の整数)が検出された。このことから、高温超伝導体層24を構成するYBCO結晶の略全ての(001)面が、基材21の厚さ方向に直交していることが判った。言い換えれば、高温超伝導体層24を構成するYBCO結晶のユニットセルそれぞれのc軸が、略全て第2基材21bの厚さ方向に平行であることが判った。
また、図15に示すように、X線極点図測定では、スポット状部が4つ観測された。この4つのスポット状部は、φ方向において略90°毎に等間隔に観測された。この4つのスポット状部におけるφ方向のピーク半値幅が3.5度程度、ψ方向のピーク半値幅が4.5度程度となっている。つまり、高温超伝導体層24を構成するYBCO結晶のユニットセルそれぞれのa軸およびb軸は、ピーク半値幅にして3.5°〜4.5°程度の揺らぎをもって略揃っていることが判った。
図14および図15に示す結果から、本実施形態に係る製造方法により作製した高温超伝導線材20では、高温超伝導体層24を構成するYBCO結晶の全ての結晶軸(a軸、b軸、c軸)の向きが略揃った3軸結晶配向状態にあるという知見が得られた。
また、この高温超伝導体層24(結晶方位の揺らぎがピーク半値幅にして3.5°〜4.5°程度のもの)について、測定温度77Kにおける臨界電流密度Jcを測定した。この臨界電流密度Jcの測定は、実施形態1で説明した測定方法と同様にして行えばよい。
この高温超伝導体層14の臨界電流密度Jcの測定値は、実施形態1の場合よりも高い3.4×10A/cm程度となった。このように、本実施形態に係る高温超伝導線材20では、高温超伝導体層24を構成するYBCO結晶の結晶方位の揺らぎがピーク半値幅にして3.5°〜4.5°程度であれば比較的良好な導電性能が得られる。
つまり、本実施形態に係る高温超伝導線材20は、電気抵抗の低いNb−STOから形成され中間層22を備えつつ、臨界電流密度Jcも実施形態1に係る高温超伝導線材10に比べて高いという特徴を有する。
また、本実施形態に係る高温超伝導線材20について、臨界電流密度Jc以上の電流を流した場合に高温超伝導線材20の両端間に生じる電圧を測定した。その結果、電圧測定値は、高温超伝導体層24の電気抵抗から予想される値の100分の1程度であった。
この結果から、高温超伝導線材20を流れる電流の密度が臨界電流密度Jc未満の場合、第2基材21bには電流が流れず、高温超伝導線材20を流れる電流の密度が臨界電流密度Jc以上の場合、中間層22を通じて第2基材21bに電流が流れ込むことが判った。
また、中間層22および第2基材21bに流れる電流の電流は、高温超伝導体20に流した電流から高温超伝導体層14の臨界電流値を差し引いた値にほぼ等しくなった。
このように、本実施形態に係る高温超伝導線材20では、第2基材21bおよび中間層22がいわゆる安定化層として機能する。これにより、高温超伝導体層24に過剰に電流が流れた場合、高温超伝導体層24に流れる電流が低減されるので、当該高温超伝導体層24の急激な発熱を抑制できる。
また、本実施形態に係る高温超伝導線材20について、高温超伝導体層14の表面モフォロジに関する知見が得られた。
図16(a−1)および(a−2)は、本実施形態に係る高温超伝導体層形成工程後の未完成部材20aの高温超伝導体層14表面のSEM写真であり、図16(b−1)および(b−2)は、比較例3に係る高温超伝導線材の高温超伝導体層表面のSEM写真である。ここで、比較例3に係る高温超伝導線材は、STO単結晶から構成される基材と、当該基材上にエピタキシャル成長されたYBCO結晶から構成される高温超伝導体層とからなる2層構造を有する。
図16(a−1)〜(b−2)に示すように、本実施形態に係る高温超伝導体層24の表面モフォロジは、比較例3に係る高温超伝導体層と比べて遜色がない程度であるという知見が得られた。
この高温超伝導体層24の表面モフォロジは、高温超伝導体層24と保護層25との密着性の観点から重要となる。特に、高温超伝導体層24の表面モフォロジが悪い場合、高温超伝導体層24と保護層25との密着性が低下し、保護層25の剥離等が生じやすくなる虞がある。
これに対して、本実施形態に係る高温超伝導線材20では、高温超伝導体層24の表面モフォロジがSTO単結晶上に形成された高温超伝導体層と遜色がない程度に良好であり、高温超伝導体層24と保護層25との密着性が比較的良いという利点がある。
このように、本実施形態に係る高温超伝導線材20によれば、第2基材21bが電気抵抗の低いCuから構成され、中間層22が導電性を有するNb−STO結晶から構成されている。これにより、例えば高温超伝導体層24に臨界電流密度Jcを超える密度の電流が流れた場合、当該電流が中間層22を通じて第2基材21bに流れ込む。つまり、第2基材21bおよび中間層22がいわゆる安定化層として機能する。これにより、高温超伝導体層24に流れる電流が低減されるので、高温超伝導体層24の急激な発熱を抑制することができる。
また、第2基材21bおよび中間層22がいわゆる安定化層として機能することにより、第2基材21bおよび中間層22とは別に、高温超伝導体層24に隣接して、AgやCu等の電気抵抗の低い金属材料から構成された安定化層を設ける必要がない。
従って、高温超伝導体層に隣接した安定化層を備える高温超伝導線材に比べて構造が簡素化されるので、製造容易化および部材コストの低減を図ることができる。AgやCu等の電気抵抗の低い安定化層を作製する必要が無い。よって、高温超伝導体層に隣接した安定化層を備える高温超伝導線材に比べてコスト低減を図ることができる。
<実施形態3>
本実施形態に係る高温超伝導線材は、第1中間層を構成する結晶材料が、第1実施形態に係る高温超伝導線材とは異なる。
即ち、実施形態1では、第1中間層12がYSZ結晶から構成されていたが、本実施形態に係る高温超伝導線材では、第1中間層12がカルシア安定化ジルコニア(CSZ)から構成されている。
ここで、第1中間層を構成するCSZ結晶としては、カルシアの含有率が14〜27%のものを採用すればよい。
本実施形態に係る高温超伝導線材は、実施形態1で説明した製造方法と略同様にして作製することができる。但し、基材洗浄工程、還元雰囲気下第1中間層形成工程、酸化雰囲気下第1中間層形成工程および第2中間層形成工程における製造条件や使用する材料等が実施形態1の製造方法とは相違する。以下、この相違点について詳細に説明する。なお、実施形態1と同様の構成については同一の符号を付して適宜説明を省略する。
基材洗浄工程では、基材11の表面を二乗平均粗さにして20nm以下になるように研磨する。次に、基材11を例えば真空チャンバ(図示せず)内に配置し、750℃に加熱する。続いて、基材11の表面を清浄化するために、真空チャンバ内に導入される中性化したアルゴンイオンビームにより、基材11の表面を20分間エッチングする。このとき、基材11は、厚さ方向に約1〜20nm程度エッチングされる。なお、この基材洗浄工程においては、例えば、水素ガス等の還元性ガスを用いて基材11の表面の自然酸化膜を還元するようにしてもよい。
還元雰囲気下第1中間層形成工程では、還元雰囲気下で、CSZ結晶から構成される第1中間層12の一部が、PLD法により形成される。ここで、基材11の温度は、約750℃に設定される。また、還元雰囲気下第1中間層形成工程では、ターゲットTAとしてCSZターゲットを使用する。
なお、還元雰囲気下第1中間層形成工程において、真空チャンバCH内に導入される気体や内圧、生成する第1中間層12の厚さ並びにターゲットTAに集光されるレーザ光のエネルギ密度やパルスの周波数は、実施形態1と同様である。
酸化雰囲気下第1中間層形成工程では、酸化雰囲気下で、第1中間層12における基材11側とは反対側の一部が、PLD法により形成される。この酸化雰囲気下第1中間層形成工程では、CSZ結晶から構成される第1中間層12を例えば500nmの厚さで形成する。
なお、酸化雰囲気下第1中間層形成工程において、真空チャンバCH内に導入される気体や内圧は、実施形態1と同様である。
第2中間層形成工程では、第2中間層13がPLD法により形成される。このとき、ターゲットTAとして、セリアターゲットが使用される。また、第2中間層形成工程では、真空中チャンバCH内に内圧が1.0×10−2Paとなるように酸素ガスが導入された雰囲気下でセリア膜を例えば50nmの厚さで形成する。
その後、高温超伝導体層形成工程以降の各工程を行う。なお、高温超伝導体層形成工程以降の各工程は、実施形態1で説明した各工程と同様である。
また、本実施形態に係る高温超伝導線材の高温超伝導体層について、前述の図4に示す測定システムを用いて、X線回折測定(θ−2θ法)およびX線極点図測定を行った。このとき、X線極点図測定では、YBCOの(102)回折線を用いた。
その測定結果、本実施形態に係る高温超伝導体層を構成するYBCO結晶は、3軸結晶配向状態にあり、当該YBCO結晶のユニットセルそれぞれのa軸およびb軸の揺らぎが、ピーク半値幅にして4.2°程度であるという知見が得られた。
また、本実施形態に係る高温超伝導線材の高温超伝導体層について、測定温度77Kにおける臨界電流密度Jcを測定した。測定により得られた臨界電流密度Jcは、3.8×106A/cm程度であり、実施形態1の構成に比べて高くなった。
また、この高温超伝導体層について、測定温度77Kにし且つ1テスラの磁場が基材の厚さ方向に印加されている状態で臨界電流密度Jcを測定した。測定により得られた臨界電流密度Jcは、9.0×10A/cmであり、磁場を印加した場合でも、磁場を印加しない状態と同様に大きな臨界電流密度を有するという知見が得られた。
つまり、本実施形態に係る高温超伝導線材の高温超伝導体層は、実施形態1の構成と同様に高い導電性能を有する。
また、本実施形態に係る高温超伝導線材の第1中間層および第2中間層の結晶配向状態について透過型電子顕微鏡を用いて観察した。
図17は、実施形態3に係る高温超伝導線材の断面の一部(第1中間層および第2中間層の一部)の透過型電子顕微鏡写真である。なお、この電子顕微鏡写真では、回折条件を満たした部分が黒く観察される。
図17に示す高温超伝導線材では、配向Feテープ上に、厚さ300nmのCSZ層と厚さ150nmのCeO層とが積層されている。
図17中、黒く観察される部分Cは、(001)面がFeテープ面に平行で[100]軸がFeテープ長手方向(図17において、左右方向)に対して45°方向に向いて3軸とも結晶方位が揃ったCSZ結晶であり、白く観察される部分Dは、(111)面がFeテープ面に平行で[112]軸がFeテープ幅方向に向いて3軸とも結晶方位が揃ったCSZ結晶である。
図17に示したように、本実施形態に係る高温超伝導線材のCSZ層(第1中間層)では、配向Feテープ側(第1領域)においては、Feテープ面(基材の厚さ方向に直交する面)に平行な面が(111)面であるCSZ結晶が支配的に存在しており、CeO層側(第2領域)においては、Feテープ面に平行な面が(001)面であるCSZ結晶が支配的に存在していることが明らかとなった。
なお、CeO層は、(001)面がFeテープ面に平行で[100]軸がFeテープ長手方向に対して45°方向に向いて3軸とも結晶方位が揃ったCeO結晶から構成されていた。
このことからも、本実施形態3が、YBCO結晶からなる高温超伝導体層の形成に適した第1および第2中間層を備えていることが明らかである。
本実施形態に係る高温超伝導線材によれば、実施形態1に係る高温超伝導線材10に比べて、導電性能向上を図ることができる。
<実施形態4>
図18は、本実施形態に係る高温超伝導線材30の概略構成図である。
高温超伝導線材30は、第1基材(副基材)31aを第2基材(基材)31bに貼り付けた複合基材31と、第1中間層(中間層)32と、第2中間層(副中間層)33と、高温超伝導体層34と、保護層35と、を備える。
第2基材31bは、Feを主成分とする金属材料またはFe合金から形成されたテープ状の部材であり、実施形態1の基材11と同様のテープ部材である。
第1基材31aは、純Cu又は純Alからなる金属テープであり、第2基材31bに貼り付けられている。上記金属テープは、ランダムな結晶配向性を有する。
本実施形態の高温超伝導線材30において、第1基材31aは、電気抵抗の低い金属材料からなるものであればよく、上記金属材料は非晶質であってもよい。
高温超伝導線材30において、第1基材31aは、安定化層として機能することができる。
第1中間層32は、第2基材31bの厚さ方向における第1基材31a側とは反対側の一面に形成されている。ここで、第1中間層32としては、実施形態2の中間層22と同様、導電性の結晶材料であるNbドープチタン酸ストロンチウム(Nb−STO)結晶で構成されている。このNb−STO結晶は、ペロブスカイト型の結晶構造を有する。このNb−STO結晶としては、例えばSrTi0.95Nb0.05組成を有するものが採用される。
第2中間層33は、第1中間層32上に形成されている。この第2中間層33は、酸化インジウム(In)に酸化スズをドープしたITO結晶から構成される。上記ITO結晶としては、例えば、(In0.92Sn0.08組成を有するものが採用される。
高温超伝導体層34は、第2中間層33上に形成されている。ここで、高温超伝導体層34は、GdBaCu(GBCO)結晶から構成されている。本実施形態において、高温超伝導体層44は、GBCO結晶から構成されるものに限定されるわけではなく、YBCO結晶や、EBCO結晶から構成されるものであってもよい。
そして、図18に示す高温超伝導線材30では、第1中間層32は、第2基材31b側の第1領域AR11と、高温超伝導体層44側の第2領域AR12とから構成されている。第1領域AR11は、第2基材31bの一面の{110}面に整合する{111}面(第2面指数の結晶面)を有する。第2領域AR12は、高温超伝導体層34の{001}面に整合する{001}面(第3面指数の結晶面)を有する。また、この第2領域AR12では、Nb−STO結晶の3つの結晶軸(a軸、b軸、c軸)が略同じ向きに揃った3軸結晶配向状態にある。
また、第1領域AR11は、第2基材31bを構成する{110}<001>集合組織の{110}面上にエピタキシャル成長されたNb−STO結晶から構成されている。
第2中間層33を構成するITO結晶は、第1中間層32を構成するNb−STO結晶の(001)面に整合する(001)面(第4面指数の結晶面)が、第2基材31bの厚さ方向に直交している。第2中間層33は、第1中間層32を構成するNb−STO結晶の(001)面上にエピタキシャル成長されたITO結晶から構成されている。
本実施形態4の高温超伝導線材30において、第2中間層33を構成する結晶材料は、ITOに限定されず、他の導電性を有する酸化物、窒化物などの化合物であってもよい。
高温超伝導体層34を構成するGBCO結晶は、(001)面が厚さ方向に直交する構造を有し、第2中間層33を構成するITO結晶の(001)面上に形成されている。
保護層35は、高温超伝導体層34上に形成されている。この保護層35は、例えば、エナメルなどの有機物の絶縁性材料から形成されている。この保護層35を形成する絶縁性材料は特に結晶配向性を有する必要はなく、ランダムな結晶配向性を有する。なお、この保護層35を形成する絶縁性材料は、非晶質であってもよい。
このように、高温超伝導体層34上に保護層35が設けることにより、高温超伝導体層34を保護することができ、高温超伝導線材の耐摩耗性や耐環境性を向上させることができる。
実施形態1に係る高温超伝導線材10では、高温超伝導体層14上に電気抵抗の低い金属で構成される第1安定化層15および第2安定化層を設けていた。
しかしながら、本実施形態に係る高温超伝導線材30では、第1中間層32および第2中間層33として、導電性の材料からなる中間層を設けており、更に、第2基材31bの第1中間層32を形成した側と反対側に、電気抵抗の低い金属層からなる第1基材31aを貼り付けているため、この第1基材31aが安定化層として機能し、高温超伝導体層34上に安定化層を設ける必要がない。
次に、本実施形態に係る高温超伝導線材30の製造方法について説明する。
図19は、本実施形態に係る高温超伝導線材30の製造方法を示すフローチャートである。
本実施形態での製造方法は、実施形態1の製造方法とほぼ同様であるが、圧延工程(ステップS31)を行った後、貼り付け工程(ステップS32)を行うこと、および、実施形態1における第1安定化層形成工程(ステップS7)および第2安定化層形成工程(ステップS8)は行わず、代わりに保護層形成工程(S37)を行う点で相違する。
以下、工程順に説明する。
まず、実施形態1と同様の方法で、配向処理されたテープ状の第2基材31bを作製する圧延工程を行う(ステップS31)。
次に、第1基材31aを第2基材31bに貼り付けて複合基材31を作製する貼り付け工程を行う(ステップS32)。この貼り付け工程では、例えば、表面活性化常温接合法を用いて、第1基材31aと第2基材31bとを接合する。
次に、複合基材31を洗浄する基材洗浄工程を行う(ステップS33)。ここでは、第2基材31bの第1基材31aを貼り合わせた側と反対側の面を洗浄する。この工程では、実施形態1の基材洗浄工程(ステップS2)と同様の方法を採用すればよい。
具体的には、まず、第2基材31bの表面(第1基材31aを貼り合わせた側と反対側の面)を二乗平均粗さにして30nm以下になるように研磨しておく。次に、複合基材31を、例えば、真空チャンバ(図示せず)内に配置し、約700℃に加熱する。続いて、上記真空チャンバ内に導入される中性化したアルゴンイオンビームにより、複合基材31の表面を10分間エッチングする。このとき、複合基材31の表面は、厚さ方向に約1〜20nm程度エッチングされる。これにより、研磨済みの複合基材31の表面が、清浄化される。なお、この基材洗浄工程(ステップS33)においては、例えば、水素ガス等の還元性ガスを用いて複合基材31の表面の自然酸化膜を還元するようにしてもよい。
次に、還元雰囲気下で第1中間層32を形成する還元雰囲気下第1中間層形成工程を行う(ステップS34)。ここでは、第1中間層32をパルスレーザ蒸着法(PLD法)により形成する。このとき、複合基材の温度は、約700℃に設定すればよい。
具体的には、例えば、実施形態2におけるステップS24と同様にして、Nb−STO結晶から構成される膜(Nb−STO結晶膜)を形成する。このとき、Nb−STO結晶膜の厚さは、例えば、800nmとする。
次に、酸化雰囲気下で第1中間層32を形成する酸化雰囲気下第1中間層形成工程を行う(ステップS35)。ここでは、第1中間層32をパルスレーザ蒸着法(PLD法)により形成する。このとき、複合基材31の温度は、ステップS34と同じ温度に設定すればよい。
具体的には、ステップS34と同様にして、Nb−STO結晶から構成される膜(Nb−STO結晶膜)を酸化雰囲気に変えて形成する。このとき、Nb−STO結晶膜の厚さは、例えば、800nmとする。形成されたNb−STO結晶膜は、第2基材31b側の第1領域AR11と、第2基材31bと反対側(第2中間層33側)の第1領域AR12を有することとなる。
次に、第1中間層32上に第2中間層33を形成する還元雰囲気下第2中間層形成工程を行う(ステップS36)。ここでは、第2中間層33をPLD法により形成する。このとき、ターゲットTAとしては、ITOを使用する。また、この還元雰囲気下第2中間層形成工程では、真空中チャンバCH内に、内圧が1.0×10−4Paとなるように酸素ガスが導入された雰囲気下で、ITO膜を形成する。ここで、ITO膜の厚さは、例えば、100nmとする。
続いて、第2中間層33上に高温超伝導体層34を形成する高温超伝導体層形成工程を行う(ステップS37)。ここでは、高温超伝導体層34は、PLD法により形成する。このとき、ターゲットTAとしては、GBCOターゲットを使用する。また、この高温超伝導体層形成工程では、ヒータHEの出力を上昇させることにより成長温度を790℃に設定し、真空中チャンバCH内に内圧が35Paとなるように酸素ガスが導入された雰囲気下でGBCO膜を形成する。このとき、GBCO膜の厚さは、例えば、520nmとする。
その後、高温超伝導体層34上に保護層35を形成する保護層形成工程を行う(ステップS38)。ここで、保護層35は、エナメル塗料を塗布した後、乾燥させることで形成すればよい。
次に、本実施形態に係る高温超伝導線材30の性能について説明する。
実施形態1の高温超伝導線材10と同様にして、X線回折測定(θ−2θ法)およびX線極点図測定結果を実施した。その結果、本実施形態4でも、高温超伝導線材30の高温超伝導体層34は、高温超伝導体層34を構成するGBCO結晶が全ての結晶軸(a軸、b軸、c軸)の向きが略揃った3軸結晶配向状態にあるという知見が得られた。
また、この高温超伝導体層34(結晶方位の揺らぎがピーク半値幅にして3.5°〜4.5°程度のもの)について、測定温度77Kにおける臨界電流密度Jcを測定した。この臨界電流密度Jcの測定は、実施形態1で説明した測定方法と同様にして行った。
その結果、高温超伝導体層34の臨界電流密度Jcの測定値は、3.3×10A/cm〜4.2×10A/cm程度となった。
つまり、本実施形態に係る高温超伝導線材30は、電気抵抗の低いNb−STOから形成された第1中間層32とITOから形成された第2中間層33とを備えつつ、臨界電流密度Jcが実施形態2に係る高温超伝導線材20と同程度に高いという特徴を有するものであった。
また、本実施形態に係る高温超伝導線材30について、臨界電流密度Jc以上の電流を流した場合に高温超伝導線材30の両端間に生じる電圧を測定した。その結果、電圧測定値は、高温超伝導体層34の電気抵抗から予想される値より大幅に低く、また、第2基材31bの電気抵抗から予想される値よりも低く、純Cuの抵抗値から予想される値にほぼ等しい(±100%以内)値であった。
この結果から、高温超伝導線材30を流れる電流の密度が臨界電流密度Jc未満の場合、第1基材31aおよび第2基材31bには電流が流れず、高温超伝導線材30を流れる電流の密度が臨界電流密度Jc以上の場合、第1中間層32、第2中間層33および第2基材31bを通じて、第1基材31aに電流が流れ込むことが判った。
このように、本実施形態に係る高温超伝導線材30では、第1基材31aがいわゆる安定化層として機能する。これにより、高温超伝導体層34に過剰に電流が流れた場合、高温超伝導体層34に流れる電流が低減されるので、高温超伝導体層34の急激な発熱を抑制することができる。
結局、本実施形態に係る高温超伝導線材30によれば、第1基材31aが電気抵抗の低いCuから構成され(純Alで構成しても同様の結果が得られている)、第1中間層32および第2中間層33が、それぞれ導電性を有するNb−STO結晶およびITOから構成されていることにより、高温超伝導体層34に臨界電流密度Jcを超える密度の電流が流れた場合、当該電流が第1中間層32、第2中間層33および第2基材31bを通じて第1基材31aに流れ込む。つまり、第1中間層32、第2中間層33および第2基材31bを通じて第1基材31aがいわゆる安定化層として機能する(勿論、第1中間層32および第2中間層33および第2基材31bも安定化層としての役割をある程度担う)のである。これにより、高温超伝導体層34に流れる電流が低減されるので、高温超伝導線材30では、高温超伝導体層34の急激な発熱を抑制することができる。
このように、高温超伝導線材30では、第1基材(副基材)31aがいわゆる安定化層として機能する。そのため、本実施形態では、実施形態1の高温超伝導線材10のように、高温超伝導体層14に隣接した、AgやCu等の電気抵抗の低い金属材料から構成された安定化層(第1安定化層15、第2安定化層16)を設ける必要がない。よって、高温超伝導線材30では、実施形態1の高温超伝導線材10に比べて、構造が簡素化されており、材料費低減、製造容易化および部材コストの低減を図ることができる。従って、高温超伝導線材30は、実施形態1の高温超伝導線材10に比べて、低コストで製造することができる。
また、高温超伝導体層に隣接した安定化層を形成する場合、高温超伝導体層は割れやすいため、安定化層を形成する際に高温超伝導体層が破損することがあるが、本実施形態の高温超伝導線材では、高温超伝導線材を製造する際の高温超伝導体層の破損率を抑えることができる。
<実施形態5>
図20は、本実施形態に係る高温超伝導線材40の概略構成図である。
高温超伝導線材40は、第1基材(副基材)41aを第2基材(基材)41bに貼り付けた複合基材41と、中間層42と、高温超伝導体層44と、保護層45とを備える。
第1基材41aは、炭素鋼(0.8重量%の炭素含有)から形成されたテープ状の部材である。
第2基材41bは、純度99.99%のCuから形成されたテープ状の部材であり、第1基材41aの厚さ方向における一面側に貼り付けられている。この第2基材41bは、実施形態2に係る第2基材21bと同様、{100}<001>集合組織から構成されている。
このように、第2基材41bに第1基材41aを貼り付けることにより、第2基材41bを補強し、高温超伝導線材40の機械的強度の向上を図ることができる。
なお、第1基材41aの材料は、炭素鋼に限定されるものではなく、第2基材41bの材料(例えばCu)よりも機械的強度の高い金属材料であれば炭素鋼以外の他の金属材料から選択されたものであってもよい。具体的な選択基準は、実施形態2に係る第1基材21aの選択基準と同様である。
また、第2基材41bとして{100}<001>集合組織を用いることにより、既に説明した通り、第2基材41bの製造容易化を図ることができる。
中間層42は、第2基材41bの厚さ方向における第1基材41a側とは反対側の一面に形成されている。この中間層42は、例えば、導電性の結晶材料であるNbドープ酸化チタン(Nb−TiO)結晶から構成される。
酸化チタンには複数の結晶構造が存在するが、本実施形態においてはアナターゼ型の酸化チタンを用いた。具体的には、アナターゼ型酸化チタンのTi原子の6/100をNb原子で置換したNb−TiOを中間層42に用いた。なお、上記酸化チタンとしては、ルチル型酸化チタンを使用することが可能であることも確認している。
高温超伝導体層44は、中間層42上に形成されている。この高温超伝導体層44は、例えばErBaCu(EBCO)から構成される。
なお、高温超伝導体層44は、EBCO以外にも、YBCOやGBCOなどから構成されていてもよい。
保護層45は、高温超伝導体層44上に形成されている。保護層45は、例えば、ポリエステル系の絶縁塗料を用いて形成されている。保護層45は、上記絶縁塗料を室温で塗布し、乾燥させることにより形成することができる。保護層45を形成する絶縁性の材料は、どのような結晶状態を持っていても構わない。
このように、高温超伝導体層44上に保護層45が設けられていることにより、高温超伝導体層44が保護され、高温超伝導線材40の耐摩耗性や耐環境性を向上させることができる。
本実施形態5に係る高温超伝導線材40では、結晶方位を揃えた{100}<001>Cuテープ(第2基材41b)を備えている。この配向Cuテープは、中間層42を通して高温超伝導体層44に3軸結晶配向を与えるだけでなく、純Cuであることから非常に低い電気抵抗を有しているため、高温超伝導線材40において、安定化層としての役割も担うことができる。
次に、本実施形態に係る高温超伝導線材40の製造方法について説明する。
図21は、本実施形態に係る高温超伝導線材40の製造方法を示すフローチャートである。
まず、圧延によりテープ状の第2基材41bを作製する圧延工程を行う(ステップS41)。この圧延工程は、実施形態2の圧延工程(ステップS21)と同様である。これにより、各ユニットセルの<001>方向が圧延方向に略一致しているCuから構成された第2基材41bが作製される。この圧延工程の後、熱処理を行うことで結晶配向性は更に向上するので、テープ状の基材を作製する際は併せて熱処理も実施することが好ましい。
次に、第2基材41bを第1基材41aに貼り付けて複合基材41を作製する貼り付け工程を行う(ステップS42)。本実施形態においては、表面活性化常温接合法を用いて第1基材41aと第2基材41bとを接合して複合基材41を作製する。
次に、第2基材41bを構成するCuの結晶配向性をより向上させるための熱処理工程(ステップS43)を行う。これにより、第2基材41bを構成するCuの結晶の3軸配向性をより向上させることができる。
この熱処理工程は、例えば、700℃で1時間の熱処理は、3%水素+アルゴンガス気流中で行えば良い。
第2基材41bを構成するCuは、通常、X線極点図測定におけるピーク半値幅Δφにして約4°となるような結晶配向性を有するものであればよい。本実施形態では、99.99%の高純度Cuを使用して、上記圧延工程および上記熱処理工程を行うことにより、ピーク半値幅Δφにして3.2°の第2基材41bとした。
なお、上記熱処理工程は、任意の工程であり、例えば、上記圧延工程のみによって、充分な結晶配向性を有する第2基材41bを入手することができる場合に必ずしも行う必要はない。一方、上記熱処理工程を行った場合には、第2基材41bを構成する銅の結晶の結晶配向性を確実に向上させることができる。また、上記熱処理工程は、上記貼り付け工程の前に行ってもよい。
続いて、第2基材41bにおける第1基材41a側とは反対側の一面を洗浄する基材洗浄工程を行う(ステップS44)。ここでは、まず、第2基材41bの表面を二乗平均粗さにして30nm以下になるように研磨する。
次に、第1基材41aと第2基材41bとを貼り合わせた複合基材41を、例えば真空チャンバ(図示せず)内に配置し、約730℃に加熱する。続いて、第2基材41bの表面に水素ガスを吹きつけながら20分間保持する。これにより、研磨済みの第2基材41bの表面に形成された自然酸化膜が還元され、第2基材41bの表面が清浄化される。
その後、還元雰囲気下で中間層42を形成する還元雰囲気下中間層形成工程を行う(ステップS45)。ここでは、中間層42を、PLD法により形成する。また、中間層42の成膜温度は、約650℃に設定すればよい。
この還元雰囲気下中間層形成工程では、ターゲットTAとしてNb−TiOターゲットを使用する。この場合、第2基材41b上にNb−TiOの構成物が堆積し、Nb−TiO膜が形成される。また、ターゲットTAに集光されるレーザ光のエネルギ密度は、例えば1.5J/cm、レーザ光のパルスの周波数は、例えば20Hzに設定すればよい。
また、この還元雰囲気下中間層形成工程では、真空中チャンバCH内に内圧が3.0×10−4Paとなるように水素ガスが導入された雰囲気下(還元雰囲気下)でNb−TiO膜を例えば800nmの厚さで形成する。
実施形態2では、既に説明した通り、還元雰囲気下中間層形成工程(ステップS24)を行った後、酸化雰囲気下中間層形成工程(ステップS25)を行うで、第2基材21b上に中間層22を形成しており、これにより良好な3軸結晶配向状態を有する中間層を形成している。
しかしながら、第2基材に{100}<001>集合組織を使用した場合には、上記還元雰囲気下中間層形成工程のみを行い、酸化雰囲気下中間層形成工程を行わなくても、十分に良好な3軸結晶配向状態を有する中間層を形成することができることが分かった。
そこで、本実施形態においては、実施形態2における酸化雰囲気下中間層形成工程S25を行なわず、上記還元雰囲気下中間層形成工程のみで中間層42を形成している。この場合、製造工程数を減らすことができるため、高温超伝導線材40の製造コストを低減することができる。
続いて、中間層42上に高温超伝導体層44を形成する高温超伝導体層形成工程を行う(ステップS46)。ここでは、高温超伝導体層44をPLD法により形成する。このとき、ターゲットTAとして、例えばEBCOターゲットを使用する。
この高温超伝導体層形成工程では、例えば、ヒータHEの出力を上昇させることにより成長温度を800℃に設定し、真空中チャンバCH内に、内圧が30Paとなるように酸素ガスが導入された雰囲気下で、EBCO膜を形成する。上記EBCO膜の厚さは、例えば1000nmとする。
その後、高温超伝導体層44上に保護層45を形成する保護層形成工程を行う(ステップS47)。保護層45は、例えば、ポリエステル系の絶縁塗料を室温で塗布し、乾燥させることにより形成することができる。
次に、本実施形態に係る高温超伝導線材40の性能について説明する。
実施形態2の高温超伝導線材20と同様にして、X線回折測定(θ−2θ法)およびX線極点図測定結果を実施した。その結果、本実施形態5でも、高温超伝導線材40の高温超伝導体層44は、高温超伝導体層44を構成するEBCO結晶が、全ての結晶軸(a軸、b軸、c軸)の向きが略揃った3軸結晶配向状態にあるという知見が得られた。
また、この高温超伝導体層44(結晶方位の揺らぎがピーク半値幅にして3.1°〜3.4°程度のもの)について、測定温度77Kにおける臨界電流密度Jcを測定した。この臨界電流密度Jcの測定は、実施形態1で説明した測定方法と同様にして行った。
その結果、高温超伝導体層44の臨界電流密度Jcの測定値は、3.8×10A/cm〜4.6×10A/cm程度となった。
つまり、本実施形態に係る高温超伝導線材40は、電気抵抗の低いNb−TiOから形成された中間層42を備えつつ、臨界電流密度Jcが実施形態2に係る高温超伝導線材20と同程度かそれ以上に高いという特徴を有するものであった。
また、本実施形態に係る高温超伝導線材40について、臨界電流密度Jc以上の電流を流した場合に高温超伝導線材40の両端間に生じる電圧を測定した。その結果、電圧測定値は、高温超伝導体層44の電気抵抗から予想される値より大幅に低く、純Cuの抵抗値から予想される値にほぼ等しい(±60%以内)値であった。
この結果から、高温超伝導線材40を流れる電流の密度が臨界電流密度Jc未満の場合、第1基材41aおよび第2基材41bには電流が流れず、高温超伝導線材40を流れる電流の密度が臨界電流密度Jc以上の場合、中間層42を通じて第2基材41bに電流が流れ込むことが判った。
このように、本実施形態に係る高温超伝導線材40では、第2基材41bが3軸結晶配向を与える(テンプレートとしての役割を果たす)のみならず、いわゆる安定化層としても機能する。これにより、高温超伝導体層44に過剰に電流が流れた場合、高温超伝導体層44に流れる電流が低減されるので、高温超伝導体層44の急激な発熱を抑制できる。
本実施形態に係る高温超伝導線材40によれば、第2基材41bが電気抵抗の低いCuから構成され、中間層42が導電性を有するNb−TiO結晶から構成されていることにより、高温超伝導体層44に臨界電流密度Jcを超える密度の電流が流れた場合、当該電流が中間層42を通じて第2基材41bに流れ込む。つまり、中間層42を通じて、第2基材41bがいわゆる安定化層としても機能する(勿論、中間層42も安定化層としての役割をわずかには担う)。これにより、高温超伝導体層44に流れる電流が低減されるので、高温超伝導線材40では、高温超伝導体層44の急激な発熱を抑制することができる。
このように、高温超伝導線材40では、第2基材41bがいわゆる安定化層として機能するため、従来の高温超伝導線材のように、低抵抗金属の層を別途形成したり、低抵抗金属のテープを別途貼り付けたりする必要がない。従って、別途形成された安定化層を備える高温超伝導線材に比べて構造が簡素化されるので、材料費低減、製造容易化および部材コストの低減を図ることができる。よって、本実施形態に係る高温超伝導線材は、従来の高温超伝導線材に比べてコスト低減を図ることができる。
また、高温超伝導体層に隣接した安定化層を形成する場合、高温超伝導体層は割れやすいため、安定化層を形成する際に高温超伝導体層が破損することがあるが、本実施形態の高温超伝導線材では、高温超伝導線材を製造する際の高温超伝導体層の破損率を抑えることができる。
<実施形態6>
図22は、本実施形態に係る高温超伝導線材50の概略構成図である。
高温超伝導線材50は、第1基材(副基材)51aを第2基材(基材)51bに貼り付けた複合基材51と、バッファ層56と、中間層52と、高温超伝導体層54と、保護層55と、を備える。
第1基材51aは、SUS304から形成されたテープ状の部材である。
第2基材51bは、純度99%のCuから形成されたテープ状の部材であり、第1基材51aの厚さ方向における一面側に貼り付けられている。この第2基材51bは、実施形態2に係る第2基材21bと同様、{100}<001>集合組織から構成されている。
第2基材51bとして{100}<001>集合組織を用いることにより、既に説明した通り、第2基材51bの製造容易化を図ることができる。
このように、第2基材51bが第1基材51aに貼り付けられていることにより、第2基材51bが補強されるので、高温超伝導線材50の機械的強度の向上を図ることができる。
なお、第1基材51aの材料は、SUS304に限定されるものではなく、第2基材51bの材料よりも機械的強度の高い金属材料であればSUS304以外の他の金属材料から選択されたものであってもよい。具体的な選択基準は、実施形態2に係る第1基材21aの選択基準と同様である。
バッファ層56は、第2基材51bの厚さ方向における第1基材51a側とは反対側の一面に形成されている。即ち、バッファ層56は、第2基材51bと中間層52との間に設けられている。
バッファ層56は、例えば、Niから構成されている。また、上記バッファ層の材質は、Au、Ag、Pdなどの貴金属であっても構わない。
中間層52は、バッファ層56の上に形成されている。この中間層52は、例えば、導電性の結晶材料であるNbドープ酸化チタン(Nb−TiO)結晶から構成される。
酸化チタンには複数の結晶構造が存在するが、本実施形態においてはアナターゼ型のものを用いた。このアナターゼ型酸化チタンのTi原子の8/100をNb原子で置換したNb−TiOを中間層52に用いた。なお、ルチル型酸化チタンを中間層52として使用することも可能であることは確認している。
高温超伝導体層54は、中間層52上に形成されている。この高温超伝導体層54は、例えばYBaCu(YBCO)から構成される。
なお、高温超伝導体層54は、YBCO以外にも、EBCOやGBCOなどから構成されていてもよい。
保護層55は、高温超伝導体層54上に形成されている。この保護層55は、例えば珪素樹脂塗料を用いて形成されている。保護層55は、例えば、上記珪素樹脂塗料を室温で塗布し、150℃で焼き付け乾燥させることで形成することができる。保護層55を形成するための絶縁性材料は、どのような結晶状態を持っていても構わない。
高温超伝導体層54上に保護層55が設けられていることにより、高温超伝導体層54が保護され、高温超伝導線材50の耐摩耗性や耐環境性を向上させることができる。
実施形態1では、高温超伝導体層14上に電気抵抗の低い金属で構成される第1安定化層15および第2安定化層16が設けられていたが、本実施形態6では、結晶方位を揃えた{100}<001>Cuテープ(第2基材51b)が、バッファ層56および中間層52を通して高温超伝導体層54に3軸結晶配向を与えるだけでなく、純Cuであることから非常に低い電気抵抗を有している。そのため、高温超伝導線材50において、第2基材51bは、安定化層としての役割も担うことができる。
本実施形態6に係る高温超伝導線材50は、バッファ層56を備えている。
このようなバッファ層56を備える高温超伝導線材50では、バッファ層56を設けることにより、基材表面の錆の発生を抑制することができる。そのため原料素材として保管しておく必要のある基材の保管が容易になる。
ここで、バッファ層を構成する結晶は、基材を構成するCu結晶と同じ方向を向いて3軸配向していなければならない。
次に、本実施形態に係る高温超伝導線材50の製造方法について説明する。
図23は、本実施形態に係る高温超伝導線材50の製造方法を示すフローチャートである。
本実施形態では、実施形態5と同様の手法にて、圧延工程、貼り付け工程および熱処理工程(ステップS51〜ステップS53)を行う。
本実施形態では、純度99%のCuを使用して、上記各工程を行うことにより、第2基材51b中のほぼ全ての結晶の{100}面が圧延面に平行でかつ<001>方向が圧延方向に揃い、ピーク半値幅Δφにして4.1°の第2基材41bを備えた複合基材を作製した。
本実施形態においても、第2基材51bを構成するCuは、熱処理後にX線極点図測定におけるピーク半値幅Δφにして約4°となるような結晶配向性を有するものであればよく、上記熱処理工程は、任意の工程である。
続いて、第2基材51bにおける第1基材51a側とは反対側の一面を洗浄する基材洗浄工程を行う(ステップS54)。ここでは、まず、第2基材51bの表面を二乗平均粗さにして30nm以下になるように研磨する。次に、酸溶液などで複合基材51を洗浄する。
次に、第1基材51aと第2基材51bとを貼りあわせた複合基材51の周りに、例えばめっき法でNi層を、例えば1000nmの厚さで形成するバッファ層形成工程を行う(ステップS55)。ここで、Ni層は、{100}<001>集合組織Cuテープ上にエピタキシャル成長する条件で形成する。なお、バッファ層形成工程S55は、例えば、スパッタリング法や蒸着法などにより実施しても構わない。
続いて、複合基材51を真空チャンバ(図示せず)内に配置し、例えば、約720℃に加熱する。
なお、実施形態5においては、加熱後、第2基材41bの表面に水素ガスを吹きつけながら20分間保持したが、本実施形態6では、Ni表面上に存在する自然酸化膜がNi層(バッファ層56)上に3軸結晶配向した状態で存在するため、水素ガスなどによりNi表面を清浄化する必要はない。
その後、還元雰囲気下で中間層52を形成する還元雰囲気下中間層形成工程を行う(ステップS56)。ここでは、中間層52をPLD法により形成する。このとき、中間層52の成膜温度は、例えば、約700℃に設定すればよい。
この還元雰囲気下中間層形成工程では、ターゲットTAとしてNb−TiOターゲットを使用する。この場合、Ni層上にNb−TiOの構成物が堆積し、Nb−TiO膜が形成される。また、ターゲットTAに集光されるレーザ光のエネルギ密度は、例えば1.5J/cm、レーザ光のパルスの周波数は、例えば20Hzに設定すればよい。
また、この還元雰囲気下中間層形成工程では、真空中チャンバCH内に内圧が1.0×10−4Paとなるように水素ガスが導入された雰囲気下(還元雰囲気下)でNb−TiO膜を例えば900nmの厚さで形成する。また、Ni層(バッファ層56)があるため、この還元雰囲気可中間層形成工程では、真空中チャンバCH内に導入するガスは窒素ガスやアルゴンガスのように酸化性のガスでなければ問題のないことも実験的に確認した。
続いて、中間層52上に高温超伝導体層54を形成する高温超伝導体層形成工程を行う(ステップS57)。ここでは、高温超伝導体層54をPLD法により形成する。このとき、ターゲットTAとして、YBCOターゲットが使用される。また、この高温超伝導体層形成工程では、ヒータHEの出力を上昇させることにより成長温度を770℃に設定し、真空中チャンバCH内に内圧が35Paとなるように酸素ガスが導入された雰囲気下でYBCO膜を例えば1500nmの厚さで形成する。
その後、高温超伝導体層54上に保護層55を形成する保護層形成工程を行う(ステップS58)。ここで、保護層55は、珪素樹脂塗料を室温で塗布し、150℃で乾燥し、焼き付けることにより形成することができる。
次に、本実施形態に係る高温超伝導線材50の性能について説明する。
実施形態2の高温超伝導線材20と同様にして、X線回折測定(θ−2θ法)およびX線極点図測定結果を実施した。その結果、実施形態6でも、高温超伝導線材50の高温超伝導体層54は、高温超伝導体層54を構成するYBCO結晶の全ての結晶軸(a軸、b軸、c軸)の向きが略揃った3軸結晶配向状態にあるという知見が得られた。
また、この高温超伝導体層54(結晶方位の揺らぎがピーク半値幅にして4.1°〜4.5°程度のもの)について、測定温度77Kにおける臨界電流密度Jcを測定した。この臨界電流密度Jcの測定は、実施形態1で説明した測定方法と同様にして行えばよい。
この高温超伝導体層54の臨界電流密度Jcの測定値は、3.2×10A/cm〜3.9×10A/cm程度であった。
つまり、本実施形態に係る高温超伝導線材50は、電気抵抗の低いNiから形成されたバッファ層56およびNb−TiOから形成された中間層52を備えつつ、臨界電流密度Jcも実施形態2に係る高温超伝導線材と同程度に高いという特徴を有する。
また、発明者らは、本実施形態に係る高温超伝導線材50について、臨界電流密度Jc以上の電流を流した場合に高温超伝導線材50の両端間に生じる電圧を測定した。その結果、電圧測定値は、高温超伝導体層54の電気抵抗から予想される値より大幅に低く、純Cuの抵抗値から予想される値にほぼ等しい値(±90%以内)であった。
この結果から、高温超伝導線材50を流れる電流の密度が臨界電流密度Jc未満の場合、第1基材51aおよび第2基材51bには電流が流れず、高温超伝導線材50を流れる電流の密度が臨界電流密度Jc以上の場合、中間層52およびバッファ層56を通じて第2基材51bに電流が流れ込むことが判った。
このように、本実施形態に係る高温超伝導線材50では、第2基材51bが3軸結晶配向を与える(テンプレートとしての役割を果たす)のみならず、いわゆる安定化層としても機能する。これにより、高温超伝導体層54に過剰に電流が流れた場合、高温超伝導体層54に流れる電流が低減されるので、高温超伝導体層54の急激な発熱を抑制することができる。
本実施形態に係る高温超伝導線材50によれば、第2基材51bが電気抵抗の低いCuから構成され、中間層52が導電性を有するNb−TiO結晶から構成されていることにより、高温超伝導体層54に臨界電流密度Jcを超える密度の電流が流れた場合、当該電流が中間層52およびバッファ層56を通じて第2基材51bに流れ込む。つまり、中間層52およびバッファ層56を通じて第2基材51bがいわゆる安定化層としても機能する(勿論、中間層22およびバッファ層56も安定化層としての役割をわずかには担う)。これにより、高温超伝導体層54に流れる電流が低減されるので、高温超伝導線材50では、高温超伝導体層54の急激な発熱を抑制できる。
このように、高温超伝導線材50では、第2基材51bがいわゆる安定化層として機能することにより、従来の高温超伝導線材のように低抵抗金属の層を別途形成したり、低抵抗金属のテープを別途貼り付けたりする必要がない。従って、別途形成された安定化層を備える高温超伝導線材に比べて構造が簡素化されるので、材料費低減、製造容易化および部材コストの低減を図ることができる。よって、本実施形態に係る高温超伝導線材は、従来の高温超伝導線材に比べてコスト低減を図ることができる。
また、高温超伝導体層に隣接した安定化層を形成する場合、高温超伝導体層は割れやすいため、安定化層を形成する際に高温超伝導体層が破損することがあるが、本実施形態の高温超伝導線材では、高温超伝導線材を製造する際の高温超伝導体層の破損率を抑えることができる。
<変形例>
(1)実施形態1および3に係る高温超伝導線材は、第2中間層13を備える構造を有する高温超伝導線材であったが、本発明の実施形態に係る高温超伝導線材は、第2中間層が無い構成であってもよい。
図24は、本変形例に係る高温超伝導線材60を示し、(a)は概略構成図、(b)は結晶面の向きを示す模式図である。なお、図24(b)中の{***}は、面指数を表す。
図24(a)に示すように、高温超伝導線材60は、基材61と、中間層62と、高温超伝導体層64と、第1安定化層65と、第2安定化層66と、を備える。なお、基材61、高温超伝導体層64、第1安定化層65および第2安定化層66の構成は、それぞれ実施形態1の基材11、高温超伝導体層14、第1安定化層15および第2安定化層16の構成と同様である。
中間層62は、実施形態3に係る第1中間層と同様に、カルシア安定化ジルコニア(CSZ)から構成されている。ここで、中間層62を構成するCSZ結晶としては、カルシアの含有率が14〜27%のものを採用すればよい。
そして、図24(b)に示すように、中間層62を構成するCSZ結晶は、基材61側では{111}面が厚さ方向に直交し、高温超伝導体層64側では{001}面が厚さ方向に直交する構造を有する。このCSZ結晶は、基材61を構成する{110}<001>集合組織の{110}面上に形成されている。
高温超伝導体層64を構成するYBCO結晶は、(001)面が厚さ方向に直交する構造を有する。この高温超伝導体層64は、中間層62を構成するCSZ結晶の{001}面上に形成されている。
また、本変形例に係る高温超伝導線材60の製造方法は、実施形態3に係る高温超伝導線材の製造方法と概略同様であり、第2中間層形成工程を行わない点で実施形態3の製造方法と相違する。従って、中間層62は、還元雰囲気下で形成された第1領域AR31と、酸化雰囲気下で形成された第2領域AR32とから構成されている。
このように、第2中間層形成工程を省略することにより、高温超伝導線材60の製造容易化を図ることができる。
また、発明者らは、本変形例における高温超伝導体層64について、測定温度77Kにおける臨界電流密度Jcを測定した。測定により得られた臨界電流密度Jcは、2.8×106A/cm以上の値であった。上記の値は、実施形態1に比べて僅かに低くかったが。本変形例における係る高温超伝導体層64は、実施形態1と同様に高い導電性能を有する。
本変形例の高温超伝導体層によれば、実施形態1に係る高温超伝導線材10に比べて、導電性能を同等に保ったまま製造コストの低減を図ることができる。
(2)実施形態1および3では、第1中間層12を構成する結晶材料(第1結晶材料)が、イットリア安定化ジルコニアやカルシア安定化ジルコニアの結晶から構成される例について説明したが、上記結晶材料の種類はこれに限定されるものではない。
例えば、第1中間層12を構成する結晶材料として、マグネシア安定化ジルコニアを含む他の希土類安定化ジルコニア、ハフニア安定化ジルコニア、イットリアを含む希土類酸化物、酸化インジウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸バリウム、チタン酸カルシウム、酸化チタン、酸化スズ、酸化マグネシウム、酸化ニッケル、Snドープ酸化インジウム、Nbドープチタン酸ストロンチウム、Nbドープチタン酸バリウム、Nbドープチタン酸カルシウム、Nbドープ酸化チタン、フッ素ドープ酸化スズを採用してもよい。
発明者らは、第1中間層が前述の各結晶材料で構成された高温超伝導線材の高温超伝導体層14について、測定温度77Kにおける臨界電流密度Jcを測定した。測定により得られた臨界電流密度Jcは、いずれも3.0×106A/cm以上の値であり、実施形態1の構成に比べて高くなった。また、発明者らは、この高温超伝導体層14について、測定温度77Kにし且つ1テスラの磁場が基材11の厚さ方向に印加されている状態で臨界電流密度Jcを測定した。この場合、測定により得られた臨界電流密度Jcは、いずれも7.0×10A/cm以上の値となり、実施形態1の構成と同様に実用化に必要なレベルを十分に上回る高い値となった。
更に、発明者らは、当該高温超伝導線材の断面について、透過型電子顕微鏡(TEM)で観察して次のような知見を得ている。全ての高温超伝導線材において、第1中間層12における基材11と第1中間層12との界面から100nmの間の領域(第1領域)に存在する結晶の{111}面は、その略全てが基材11の厚さ方向に直交する方向を向いている。そして、第1中間層12における上記界面から100nm以上離間した領域(第2領域の基材11側)では、結晶の{111}面の向きが基材11の厚さ方向に直交している部分と結晶の{100}面の向きが基材11の厚さ方向に直交している部分とが混在している(結晶面の向きが{111}面から{100}面に回転したものが存在している)。そして、第1中間層12における上記界面から300nm以上離間した領域(第2領域の高温超伝導体層14側)では、略全ての結晶の{100}面が基材11の厚さ方向に直交している。また、第2中間層13を構成するセリア結晶は、第1中間層12上にエピタキシャル成長しており、高温超伝導体層14を構成するYBCO結晶も第2中間層13上にエピタキシャル成長している。
また、Feを主成分とする金属材料から構成された基材に適した良好な中間層を得ることができる。
(3)実施形態1および3では、第1中間層12が、安定化元素の組成比が10%の安定化ジルコニアから構成される例について説明したが、安定化元素の組成比はこれに限定されるものではない。
例えば、第1中間層12を構成する結晶材料として、カルシア安定化ジルコニア、イットリア安定化ジルコニア、マグネシア安定化ジルコニア、スカンジア安定化ジルコニア、ランタニア安定化ジルコニア、セリア安定化ジルコニア、Yb安定化ジルコニア、Er安定化ジルコニア、Ho安定化ジルコニア、Dy安定化ジルコニア、Gd安定化ジルコニア、Eu安定化ジルコニア、Sm安定化ジルコニア、ハフニア安定化ジルコニア等の安定化ジルコニアの結晶であってその安定化元素の組成比が10%以外のものであってもよい。
発明者らは、第1中間層が安定化元素とジルコニウムのモル比が1:9〜2:8の範囲内にある、前述の各安定化ジルコニアに前述の結晶材料から形成された高温超伝導線材の高温超伝導体層14について、測定温度77Kにおける臨界電流密度Jcを測定した。測定により得られた臨界電流密度Jcは、いずれも2.5×106A/cm以上の値であり、実施形態1の構成に比べて高くなった。即ち、発明者らは、第1中間層12として、安定化元素の組成比が10%〜20%の範囲内にある安定化ジルコニアを採用しても良好な導電性能を得ることができるという知見を得ている。
本構成によれば、Feを主成分とする金属材料から構成された基材に適した良好な中間層を得ることができる。
(4)実施形態1および3では、基材11が、珪素濃度3%の珪素鋼から構成される例について説明したが、基材として珪素鋼を用いる場合、珪素濃度はこれに限定されるものではない。例えば、珪素濃度が3%未満の珪素鋼を用いてもよいし、珪素濃度が3%を超える珪素鋼を用いてもよい。
発明者らは、純鉄および珪素濃度が異なる珪素鋼から構成された基材11を用いて実施形態1で説明した製造方法により作製した高温超伝導線材を準備した。具体的には、基材11として、{110}<001>集合組織(X線極点図測定におけるピーク半値幅Δφが5°)から構成されるテープ状の純鉄(純度99%)から構成されたものと、{110}<001>集合組織(極点図測定におけるΔφ=5°)から構成され且つ珪素濃度が1%、2%、4%、5%、6%、7%のテープ状の珪素鋼から構成されたものを採用した。
そして、発明者らは、これらの準備した高温超伝導線材について、測定温度77Kにおける臨界電流密度Jcを測定した。この臨界電流密度Jcの測定は、実施形態1で説明した測定方法と同様にして行えばよい。
測定した臨界電流密度Jcは、いずれも3.0×106A/cm以上の値となった。
本構成によれば、基材11に用いる材料として、珪素濃度が1%〜7%の範囲内にある珪素鋼の中から自由に選択することができる。
(5)実施形態1および3では、基材11を形成する金属材料が、珪素鋼から構成される例について説明したが、基材11を形成する金属材料は、珪素鋼に限定されるものではなく、例えば炭素鋼を用いてもよい。具体的には、基材11を形成する金属材料として、炭素濃度が0.5%の炭素鋼の{110}<110>集合組織(結晶方位の揺らぎが、X線極点図測定におけるピーク半値幅Δφにして6°)を用いてもよい。
発明者らは、基材11を形成する金属材料が上記炭素鋼である高温超伝導線材の高温超伝導体層14について、測定温度77Kにおける臨界電流密度Jcを測定した。そして、測定により得られた臨界電流密度Jcは、1.0×106A/cm以上の値となった。
本構成によれば、基材11に用いる材料として、炭素鋼を選択することもできる。
(6)実施形態1および3では、基材11が{110}<001>集合組織から構成される例について説明したが、基材11を構成する集合組織の結晶方位は<001>方向に限定されるものではなく、例えば<110>方向であってもよい。具体的には、基材11を形成する金属材料が、Fe(純鉄)の{110}<110>集合組織(結晶方位の揺らぎが、X線極点図測定におけるピーク半値幅Δφにして6°)から構成されるものであってもよい。
発明者らは、Fe(純鉄)の{110}<110>集合組織から構成された基材11を備える以外は、実施形態1と同様の構成からなる高温超伝導線材の高温超伝導体層14について、測定温度77Kにおける臨界電流密度Jcを測定した。そして、測定により得られた臨界電流密度Jcは、1.0×106A/cm以上の値となった。
本構成によれば、基材11に用いる材料として、{110}<110>集合組織を選択することができる。
(7)実施形態1では、還元雰囲気下第1中間層形成工程において形成する第1中間層12(第1領域AR1)の厚さが100nm、酸化雰囲気下第1中間層形成工程において形成する第1中間層12(第2領域AR2)の厚さが1400nmである例について性能を評価した。但し、還元雰囲気下第1中間層形成工程において形成する第1中間層12の厚さと、酸化雰囲気下第1中間層形成工程において形成する第1中間層12の厚さとは、これらに限定されるものではない。
そこで、第1中間層12の第1、第2領域AR1,AR2の厚さW1,W2が異なる8種類の高温超伝導線材を作製した。具体的には、第1領域AR1の厚さW1と、第2領域AR2厚さW2との組み合わせを、表2に示す8つ組み合わせに設定した。
作製した8種類の高温超伝導線材について、測定温度77Kにおける臨界電流密度Jcを測定した。測定により得られた臨界電流密度Jcは、上記表2に示す値となった。表2に示すように、8種類の高温超伝導線材それぞれの臨界電流密度Jcは、全て3.0×106A/cm以上の値となった。
表2の結果から、実施形態1に係る高温超伝導線材10の場合、第1領域AR1の厚さが少なくとも20nm超あれば、高温超伝導線材は良好な導電性能を有するという知見が得られた。これより、第1中間層12の厚さは、20〜5000nmの範囲内に設定するのが好ましい。この場合、第1中間層12における高温超伝導体層14側に確実に第2領域AR2が存在し得る。
本構成によれば、第1中間層12における高温超伝導体層14側に第2領域AR2が存在し得る。この第2領域AR2は、高温超伝導体層14における基材11の厚さ方向に直交する{001}面に整合する{001}面が基材11の厚さ方向に直交しており、YSZ結晶の3つの結晶軸が略同じ向きに揃った3軸結晶配向状態にある。従って、この第1中間層12の上方に形成された高温超伝導体層14を構成するYBCO結晶は、3軸結晶配向状態となる。従って、高温超伝導体層14の臨界電流密度Jcが向上するので、高温超伝導線材の導電性能の向上を図ることができる。
更に、発明者らは、実施形態2に係る高温超伝導線材20の場合、表1の結果から類推して、還元雰囲気下第1中間層形成工程において形成する中間層22の厚さが少なくとも100nm以上あれば、高温超伝導線材は良好な導電性能を有するという知見を得た。
これより、中間層22の厚さは、100nm〜5000nmの範囲内に設定するのが好ましい。この場合、中間層22における高温超伝導体層14側に、Nb−STO結晶の3つの結晶軸が略同じ向きに揃った3軸結晶配向状態にある領域が確実に存在し得る。
本構成によれば、中間層22における高温超伝導体層14側に、Nb−STO結晶の3つの結晶軸が略同じ向きに揃った3軸結晶配向状態にある領域が形成される。これにより、この中間層22の上方に形成された高温超伝導体層14は、3軸結晶配向状態が実現されることとなり、その分、高温超伝導体層14の臨界電流密度Jcが向上するので、高温超伝導線材20の導電性能の向上を図ることができる。
(8)実施形態2、5および6では、特定のCuからなる基材(第2基材)とステンレスや炭素鋼からなる副基材(第1基材)とを備えた複合基材を用いているが、上記副基材(第1基材)はこれらに限定されず、例えば、テープ状のハステロイC(登録商標)から構成されていてもよい。このハステロイCは、ニッケルにモリブデンやクロムを添加することにより生成される合金である。
(9)実施形態2および4では中間層(又は第1中間層)がNb−STO結晶から構成される例について、実施形態5および6では中間層がNb−TiO結晶から構成される例について説明したが、これらの中間層を構成する結晶材料は上記のものに限定されるものではない。
上記中間層を構成する結晶材料として、例えばSnドープ酸化インジウム(ドープ量5%)、Nbドープチタン酸ストロンチウム(ドープ量5%)、Nbドープチタン酸バリウム(ドープ量5%)、Nbドープチタン酸カルシウム(ドープ量5%)、Nbドープ酸化チタン(ドープ量5%)、フッ素ドープ酸化スズ(ドープ量5%)を採用してもよい。
また、ドーピング元素のドープ量は、5%に限定されるものではない。本変形例に係る高温超伝導線材を使用する温度において、上記中間層が、金属材料から構成される場合と同程度の電気抵抗を有する限り、ドープ量を変更してもよい。
発明者らは、実施形態2の構成の高温超伝導線材20において、中間層22が前述の各結晶材料から形成された高温超伝導線材の高温超伝導体層24について、測定温度77Kにおける臨界電流密度Jcを測定した。そして、測定により得られた臨界電流密度Jcは、いずれも2.0×106A/cm以上の値であり、実施形態1の構成に比べて高くなった。即ち、中間層22が前述の各結晶材料から形成されていたとしても良好な導電性能を得ることができるという知見を得られた。
また、電流−電圧特性の評価結果から、これらの高温超伝導線材の高温超伝導体層24を流れる電流の密度が臨界電流密度Jc以上になった場合、中間層22や第2基材21bに電流が流れ込むという知見を得ている。従って、本変形例に係る高温超伝導線材でも、第2基材21bおよび中間層22がいわゆる安定化層として機能して高温超伝導体層14に流れる電流が低減され、当該高温超伝導体層14に加わる電圧の急峻な上昇を伴う急激な発熱を抑制することができる。
結局、本構成によっても、Cuから構成された基材に適した良好な中間層22を得ることができる。
(10)前述の各実施形態では、成膜方法としてPLD法を採用した例について説明したが、成膜方法はこれに限定されるものではない。例えばCVD(化学気相蒸着法)やスパッタリング法、真空蒸着法、イオンプレーティング法、イオンビーム蒸着法、スピンコーティング法、MBE(分子線エピタキシー法)、メッキ法、MOD法、TFA−MOD法等の各種成膜方法を採用してもよい。また、各層について成膜方法を変更してもよい。但し、発明者らは、PLD法が経験上最も高い特性が得られるという知見を得ている。
(11)実施形態4では、{110}<001>集合組織を持つ珪素鋼テープ上に、中間層として2種類の材料を使用して2層の中間層を形成しているが、実施形態4の構成においては、中間層の材料として所定の特性を有する導電性の材料を用いる限り、積層する中間層の総数は3層以上であってもよいし、1層であってもよい。
また、実施形態4では、第1中間層の材料として、Nbドープチタン酸ストロンチウムを使用しているが、これ以外にも、例えば、Snドープ酸化インジウム、Nbドープチタン酸バリウム、Nbドープチタン酸カルシウム、Nbドープ酸化チタンおよびフッ素ドープ酸化スズなどを使用することもできる。
上記中間層の材料に要求される特性としては、{110}<001>集合組織を持つ珪素鋼テープ上にエピタキシャルする性質、その材料の上に高温超伝導物質がエピタキシャル成長する性質、酸素を通しにくい性質、Feを通しにくい性質、Siを通しにくい性質、などの様々な特性がある。そのため、中間層に適した材料を見つけ出すことは予想が非常に困難である。このような状況のなか、本発明者は、実施形態4において上述した材料が好ましいとの知見を得た。
(12)実施形態2および4〜6に係る高温超伝導線材は、副基材(第1基材)を有する複合基材を用いたものであるが、上記複合基材は、上記副基材(第1基材)の基材(第2基材)と反対側の面に、更に、ジュラルミンなどの高強度アルミニウム合金テープが補強層として貼り付けられていてもよい。複合基材をこのような構成とすることにより、機械的強度をより向上させることができる。
(14)実施形態5および6では、中間層42、52として、1層の中間層が形成されているが、実施形態5、6の構成の高温超伝導線材では、中間層が導電性の材料を用いて形成されている限り、中間層の総数は2層以上であってもよい。
また、実施形態5および6では、中間層の材料として、Nbドープ酸化チタンを使用しているが、これ以外にも、例えば、Snドープ酸化インジウム、Nbドープチタン酸ストロンチウム、Nbドープチタン酸バリウム、Nbドープチタン酸カルシウムおよびフッ素ドープ酸化スズなどを使用することもできる。
また、実施形態5および6の高温超伝導線材では、中間層に使用する材料に、{100}<001>集合組織Cuテープ上にエピタキシャルする性質、その材料の上に高温超伝導物質がエピタキシャル成長する性質、酸素を通しにくい性質、Cuを通しにくい性質、などの様々な性質が要求される。そのため、中間層に適した材料を見つけ出すことは予想が非常に困難である。このような状況のなか、本発明者は、実施形態5および6において上述した材料が好ましいとの知見を得た。
勿論、このような中間層に要求される性質を満足するために、2種以上の材料を組み合わせて使用して、1層又は2層以上の中間層を形成してもよい。
<付記>
なお、今回開示された実施の形態および変形例は一例であってこれに限定されるものではない。また、本発明の範囲は、特許請求の範囲および特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれる。
AR1,AR11,AR31:第1領域、AR2,AR12,AR32:第2領域、10,20,30,40,50,60:高温超伝導線材、10a,10p,10q,10r:未完成部材、11,61:基材、12,32:第1中間層(中間層)、13,33:第2中間層(副中間層)、14,24,34,44,54,64:高温超伝導体層、15,65:第1安定化層、16,66:第2安定化層、21,31,41,51:複合基材、21a,31a,41a,51a:副基材(第1基材)、21b,31b,41b,51b:基材(第2基材)、22,42,52,62:中間層、25,35,45,55:保護層、56:バッファ層

Claims (24)

  1. 金属材料から形成された基材と高温超伝導体層との間に第1結晶材料から構成される中間層が介在する高温超伝導線材の製造方法であって、
    前記基材の一面に、還元雰囲気下で前記中間層における前記基材側の第1領域を形成する第1工程と、
    前記第1工程の後、酸化雰囲気下で前記中間層における前記高温超伝導体層側の第2領域を形成する第2工程と、を含む
    高温超伝導線材の製造方法。
  2. 前記第1工程および前記第2工程において、前記中間層をパルスレーザ蒸着法により形成する
    請求項1記載の高温超伝導線材の製造方法。
  3. 前記第2工程の後に酸化雰囲気下で、前記第1結晶材料とは異なる第2結晶材料から構成され、前記中間層と前記高温超伝導体層との間における格子整合性を向上させる副中間層を形成する副中間層形成工程を更に含む
    請求項1または請求項2記載の高温超伝導線材の製造方法。
  4. 前記基材の厚さ方向における前記一面とは反対側の他面に、前記基材を補強する第1基材を貼り付ける貼り付け工程を更に含む
    請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の高温超伝導線材の製造方法。
  5. 金属材料から形成された基材と、
    第1結晶材料から構成され、前記基材の一面に形成された中間層と、
    前記中間層における前記基材側とは反対側に形成された高温超伝導体層と、
    を備え、
    前記中間層は、前記基材側の第1領域および前記高温超伝導体層側の第2領域を有し、
    前記第1領域は、前記基材の前記一面の第1面指数の結晶面に整合する第2面指数の結晶面を有し、
    前記第2領域は、前記高温超伝導体層における前記中間層に対向する結晶面に整合する第3面指数の結晶面を有し且つ前記第1結晶材料の3つの結晶軸が略同じ向きに揃った3軸結晶配向状態にある
    高温超伝導線材。
  6. 前記金属材料は、Feを主成分とし、
    前記第1面指数は、{110}であり、
    前記第2面指数は、{111}であり、
    前記第3面指数は、{100}である
    請求項5記載の高温超伝導線材。
  7. 前記金属材料は、{110}<100>集合組織および{110}<110>集合組織のいずれか一方から構成される
    請求項6記載の高温超伝導線材。
  8. 前記第1結晶材料は、カルシア安定化ジルコニア、マグネシア安定化ジルコニア、イットリア安定化ジルコニア、希土類安定化ジルコニア、ハフニア安定化ジルコニア、イットリア、希土類酸化物、酸化インジウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸バリウム、チタン酸カルシウム、酸化チタン、酸化スズ、酸化マグネシウムおよび酸化ニッケルのうちのいずれかである
    請求項5〜請求項7のいずれか1項に記載の高温超伝導線材。
  9. 前記第1結晶材料は、Snドープ酸化インジウム、Nbドープチタン酸ストロンチウム、Nbドープチタン酸バリウム、Nbドープチタン酸カルシウム、Nbドープ酸化チタンおよびフッ素ドープ酸化スズのうちのいずれかである
    請求項5〜請求項7のいずれか1項に記載の高温超伝導線材。
  10. 前記基材の前記中間層と反対側の面に積層された副基材を更に備え、
    前記副基材の材質は、Cu又はAlである
    請求項9記載の高温超伝導線材。
  11. 前記第1結晶材料とは異なる第2結晶材料から形成され、前記中間層と前記高温超伝導体層との間に介在し前記中間層と前記高温超伝導体層との間における格子整合性を向上させる副中間層を更に備え、
    前記副中間層は、前記中間層の前記第3面指数の結晶面に整合する第4面指数の結晶面を有する
    請求項5〜請求項10のいずれか1項に記載の高温超伝導線材。
  12. 前記第4面指数は、{100}である
    請求項11記載の高温超伝導線材。
  13. 前記第2結晶材料は、セリア、チタン酸ストロンチウム、チタン酸カルシウム、マンガン酸ランタン、酸化チタン、酸化インジウム、イットリア、希土類酸化物(酸化ランタン、酸化プラセオジウム、酸化サマリウム、酸化ユーロピウム、酸化ガドリニウム、酸化ディスプロシウム、酸化ホロミウム、酸化エルビウム、酸化イッテルビウム)を含む酸化物のいずれかである
    請求項12記載の高温超伝導線材。
  14. 前記中間層の厚さは、20〜5000nmの範囲内に設定されている
    請求項5〜請求項13のいずれかに記載の高温超伝導線材。
  15. 前記金属材料は、Cuであり、
    前記第1面指数は、{100}であり、
    前記中間層は、導電性の結晶材料から構成されている
    請求項5記載の高温超伝導線材。
  16. 前記金属材料は、{100}<001>集合組織から構成されている
    請求項15記載の高温超伝導線材。
  17. 前記第1結晶材料は、Snドープ酸化インジウム、Nbドープチタン酸ストロンチウム、Nbドープチタン酸バリウム、Nbドープチタン酸カルシウム、Nbドープ酸化チタンおよびフッ素ドープ酸化スズのうちのいずれかである
    請求項15または請求項16記載の高温超伝導線材。
  18. 前記中間層の厚さが、100〜5000nmである
    請求項15〜請求項17のいずれか1項に記載の高温超伝導線材。
  19. 前記基材よりも機械的強度の高い金属材料からテープ状に形成され、前記基材の厚さ方向における前記中間層側と反対側の一面に貼り付けられた第1基材を更に備える
    請求項15〜請求項18のいずれか1項に記載の高温超伝導線材。
  20. 前記高温超伝導体層上に絶縁性材料から形成された保護層を更に備える
    請求項15〜請求項19のいずれか1項に記載の高温超伝導線材。
  21. Cuからなる基材と、
    前記基材の一面側に形成された中間層と、
    前記中間層における前記基材側とは反対側に形成された高温超伝導体層と、
    を備え、
    前記基材は、{100}<001>集合組織から構成されており、
    前記中間層は、導電性結晶材料からなり、かつ、前記基材の一面の面指数、および、前記高温超伝導体層の前記中間層側の一面の面指数に整合する結晶面を有する
    高温超伝導線材。
  22. 前記導電性結晶材料は、Snドープ酸化インジウム、Nbドープチタン酸ストロンチウム、Nbドープチタン酸バリウム、Nbドープチタン酸カルシウム、Nbドープ酸化チタンおよびフッ素ドープ酸化スズのうちのいずれかである
    請求項21記載の高温超伝導線材。
  23. 前記基材と前記中間層との間にバッファ層が設けられている
    請求項21又は請求項22に記載の高温超伝導線材。
  24. 前記バッファ層は、Niからなる
    請求項23に記載の高温超伝導線材。
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