以下、図示した実施例に基づいて本発明の金属キャスク用伝熱銅フィンの溶接方法及びその溶接装置について説明する。なお、各図において、同一構成部品には同符号を使用する。
図1に、本実施例に係わる伝熱銅フィン付き金属キャスクの構造を、図2に、図1中のA部を拡大した溶接構造をそれぞれ示す。
該図において、内筒1は、その内部に放射性物質を有する複数の使用済燃料(図示せず)の集合体等を収納する容器であり、強度の高い炭素鋼等の鋼製の鋼材が用いられている。この内筒1の外側には、内筒1と同種材の鋼製の外筒2が内筒1を取り囲むように同軸状に配置されている(金属キャスク全体の強度及び剛性は、強度の高い鋼製の厚板の内筒1と外筒2及びこれらで形成する容器を密閉する複数の蓋(図示せず)等によって十分に確保されている)。内筒1の外面と外筒2の内面の間には、円周方向に略等間隔に、数十枚(所定枚数をN枚という)の伝熱銅フィン3が傾斜して配備されている。
これらN枚の伝熱銅フィン3は、熱伝導率の高い純銅等の銅製の銅板材が用いられており、銅製の伝熱銅フィン3を用いることで、使用済燃料集合体から発生する崩壊熱を内筒1及び外筒2の外側へ逃がすための除熱性能を高めることができると共に、軽量化及びコスト低減にも寄与することができる。
図2に示すように、N枚の伝熱銅フィン3の片方の各端面部には、内筒1側の各隅肉継手部5で溶接された内側溶接部(溶接ビード及びその溶接断面部)7が形成されており、また、他方の各端面部には、外筒2側の各隅肉継手部8で溶接された外側溶接部10(溶接ビード及びその溶接断面部)が形成されている。この伝熱銅フィン3の内側溶接部7及び外側溶接部10については、特に強度は要求されないが、収納・保管する物質の性質上、高い信頼性を確保する必要がある。
溶接すべきN枚の伝熱銅フィン3の各隅肉継手部5、8の内筒1と伝熱銅フィン3、外筒2と伝熱銅フィン3とのそれぞれの角度θ1は、内筒1の外面又は外筒2の内面若しくは内筒1及び外筒2の両面に対して、θ1=120度±15度(105≦θ1≦135度)の範囲の広角に傾斜して形成されている。
また、N枚の伝熱銅フィン3が隣接する各空間4は、樹脂材等のレジン(図示せず)を充填配備する場所である。これらのレジンは、使用済燃料の集合体から法線状に放出される放射線を遮蔽する物質であり、溶接終了後に、N枚の伝熱銅フィン3の傾斜面に沿って、レジンが各空間4の内部にそれぞれ充填されるものである。伝熱銅フィン3を広角に傾斜して配備することで、溶接時の作業性が容易になると共に、伝熱銅フィン3の傾斜面に沿って充填されるレジンの傾斜配備によって、放射線の遮蔽性能を高めることができる。
本実施例における伝熱銅フィン3の両端面部を、内筒1及び外筒2の両面に溶接する方法について、以下に説明する。
図3は、本実施例に係わる金属キャスク用伝熱銅フィンの溶接手順概要の一実施例を示すフローチャートであり、図4は、他の金属キャスク用伝熱銅フィンの溶接手順概要の一実施例を示すフローチャートである。図3及び図4に示したフローチャートの主な相違点は、内筒1側の第1の溶接工程103及び外筒2側の溶接工程110の施工内容を、内筒1側のN箇所の溶接の繰り返し溶接工程105及び外筒2側のN箇所の溶接の繰り返し溶接工程112と内筒1側の少数単位での溶接及び検査の繰り返し溶接工程106及び外筒2側の少数単位での溶接及び検査の繰り返し溶接工程113に区分けしたことである。
例えば、図3に示すように、伝熱銅フィン3の溶接手順(その1)99では、溶接前にワイヤ溶着断面積Awを決定するワイヤ溶着断面積決定工程102と、所定枚数(N枚)の伝熱銅フィン3の片方端面部を内筒1側に各々突合せて隅肉継手部5をN箇所形成した後に、そのN箇所の隅肉継手部5−1、5−2・・・5−Nに繰り返し溶接する内筒1側の第1の溶接工程103及びN箇所の溶接の繰り返し溶接工程105と、その後に行う内筒1側の溶接品質の検査工程107の終了後で、N枚の伝熱銅フィン3の他方の端面部を外筒2側に各々突合せて隅肉継手部8をN箇所形成した後に、そのN箇所の隅肉継手部8−1、8−2・・・8−Nに繰り返し溶接する外筒2側の第2の溶接工程110及びN箇所の溶接の繰り返し溶接工程112とを備えている。
そして、隅肉継手部8をN箇所形成した後に、このN箇所の隅肉継手部8−1、8−2・・・8−Nに1パスずつ繰り返し溶接(連続溶接)することで、隅肉継手部の仮組作業と溶接作業とをそれぞれ効率良く行うことができる。
一方、図4に示すように、伝熱銅フィン3の溶接手順(その2)100においては、溶接前にワイヤ溶着断面積Awを決定するワイヤ溶着断面積決定工程102の後に行う内筒1側の第1の溶接工程103では、内筒1側のN箇所の隅肉継手部5−1、5−2・・・5−Nに1パスずつ繰り返し溶接(連続溶接)するN箇所の溶接の繰り返し溶接工程105と、1〜5箇所程度に分割した隅肉継手部に溶接すると共に、その溶接後の溶接部を検査するように、溶接と検査の両作業を繰り返す少数単位での溶接及び検査の繰り返し溶接工程106とに分けている。
例えば、少数単位に分割して溶接及び検査を繰り返す少数単位での溶接及び検査の繰り返し溶接工程106には、所定枚数(N枚)の伝熱銅フィン3を内筒1の外面に取り付て隅肉継手部をN箇所形成した後に、そのN箇所の隅肉継手部5−1、5−2・・・5−Nを予め1〜5箇所程度に分割し、その分割した1〜5箇所の隅肉継手部5−1〜5−5に1パスずつ溶接すると共に、その溶接部を検査するように、隅肉継手部の溶接と検査とを繰り返すようにしている。
一方、外筒2側の第2の溶接工程110では、内筒1側のN箇所の溶接の繰り返し溶接工程105及び少数単位での溶接及び検査の繰り返し溶接工程106と同様に、外筒2側のN箇所の隅肉継手部8−1、8−2・・・8−Nに1パスずつ繰り返し溶接(連続溶接)するN箇所の溶接の繰り返し溶接工程112と、1〜5箇所程度に分割した隅肉継手部に1パスずつ溶接すると共に、その溶接部を検査するように、溶接と検査の両作業を繰り返す少数単位での溶接及び検査の繰り返し溶接工程113とに分けている。外筒2側でも溶接と検査を繰り返す少数単位での溶接及び検査の繰り返し溶接工程113には、内筒2側の場合と同様であり、外筒2側に形成したN箇所の隅肉継手部8−1、8−2・・・8−Nを予め1〜5箇所程度に分割し、その分割した1〜5箇所の隅肉継手部8−1〜8−5に1パスずつ溶接すると共に、その溶接部を検査するように、隅肉継手部の溶接と検査とを繰り返すようにしている。
このように、二通りある作業(連続溶接又は溶接と検査の繰り返し)の何れかを選択することで、溶接優先の作業効率向上又は検査優先の溶接品質向上を図ることができる。
次に、内筒1側の第1の溶接工程103と内筒1側のN箇所の溶接の繰り返し溶接工程105の終了後、又は内筒1側の第1の溶接工程103、内筒1側のN箇所の溶接の繰り返し溶接工程105、外筒2側の第2の溶接工程110、外筒2側のN箇所の溶接の繰り返し溶接工程112の終了後に、溶接品質を検査する内筒1側の検査工程107と外筒2側の検査工程114では、各溶接部の品質を各々検査すると共に、その検査で不合格となった溶接部分及びその近傍部を補修する補修溶接工程109及び116を備えている。
また、溶接と検査との両作業を繰り返し行う場合の内筒1側の検査工程117及び外筒2側の検査工程120では、該当する溶接部に溶接ビードが良好に形成されているか否か、割れやアンダーカット等の欠陥があるか否か、のど厚Lや溶込み深さc等を満足しているか否か等の溶接品質の検査・確認を行う。この溶接品質の検査を行う内筒1側の検査工程117及び外筒2側の検査工程120で不合格となった場合には、不合格の溶接部分及びその近傍部を補修溶接工程119及び122で補修するようにしている。
これらの補修溶接工程109、116、119、122では、例えば、隅肉継手部を本溶接した時の溶接条件よりも溶接電流や入熱量等を減少した溶接条件を使用して、1パス肉盛して補修することで、容易に肉盛補修することができる。
なお、溶接品質を検査する方法については、別の実施例(図31〜35、図44〜46)を用いて詳細に後述する。
最初に、溶接前に行うワイヤ溶着断面積決定工程102では、所定の隅肉継手部5に形成すべき内側溶接部7ののど厚Lが伝熱銅フィン3の板厚T1以上(L≧T1)になるように、ワイヤ送り速度Wf又は該ワイヤ送り速度Wfとワイヤ径d及び所定の溶接速度Vからワイヤ溶着断面積Awを算出して決定する。
なお、内側溶接部7ののど厚Lとは、図3中及び図4のワイヤ溶着断面積決定工程102中に示すように、伝熱銅フィン3側の溶融底部から溶接ビード表面までの最小距離のことである。また、ワイヤ溶着断面積決定工程102の箇所に図示した隅肉継手部5の内側溶接部7は、内筒1の外面に伝熱銅フィン3の一方の端面部を溶接して形成することを想定して描いているが、外筒2の内面に伝熱銅フィン3の他方の端面部を溶接して他方の外側溶接部10を形成することも想定内であり、図2に示した溶接構造と同様であることから省略している。
次に、内筒1側の第1の溶接工程103では、図5に示すように、鋼製の内筒1の外面に所定枚数(N枚)の伝熱銅フィン3の片方の各端面部を突き合せて広角形状の各隅肉継手部5−1、5−2・・・5−Nを略等間隔に各々形成する。図5中には、伝熱銅フィン3を2枚のみ図示して他の部分を省略してあるが、溶接すべき所定枚数の伝熱銅フィン3は、内筒1の外面の円周方向に略等間隔に傾斜配備されている。
なお、この内筒1側の第1の溶接工程103では、外筒2は配備せずに、伝熱銅フィン3を内筒1の外面に傾斜配備して広角形状の隅肉継手部5−1、5−2・・・5−Nを形成することで、本溶接前の伝熱銅フィン3の仮組作業や各隅肉継手部5−1、5−2・・・5−Nの溶接作業等を容易に行うことができる。
また、内筒1側の第1の溶接工程103では、図4及び図5に示すように、所定枚数(N枚)の伝熱銅フィン3を内筒1の外面に取り付て隅肉継手部5をN箇所形成した後に、このN箇所の隅肉継手部5−1、5−2・・・5−Nに1パスずつ繰り返し溶接(連続溶接)する内筒1側のN箇所の溶接の繰り返し溶接工程105と、N箇所の隅肉継手部5−1、5−2・・・5−Nを予め1〜5箇所程度に分割し、その分割した1〜5箇所の隅肉継手部5−1、5−2、5−3、5−4、5−5を溶接して、その溶接部を検査するように、溶接と検査の両作業を繰り返す内筒1側の少数単位での溶接と検査の繰り返し溶接工程106とに分けている。
内筒1側のN箇所の溶接の繰り返し溶接工程105では、パス毎に溶接すべきN箇所の隅肉継手部5−1、5−2・・・5−Nの各溶接開始位置から終了位置までの各溶接線(伝熱銅フィン3の下位表面に記した点線6−1、6−2・・・6−N)に対して、シリコン入りのCuSiワイヤを用い、先行TIGと後続MIGとの複合溶接又はMIG溶接によって、1パスずつ順番に溶接施工する。
この内筒1側のN箇所の溶接の繰り返し溶接工程105では、例えば、溶接対象の継手(内筒1及び伝熱銅フィン3の両方)側を回転駆動装置等で回転移動させて、溶接すべき隅肉継手部5−1の溶接線6−1を鉛直方向に姿勢変更した後に、溶接線6−1上に一体構造のTIG−MIG溶接トーチ又はMIG溶接トーチを下向姿勢で位置決めする。伝熱銅フィン3の両端面部が平坦面形状の場合の溶接線は、端面部から伝熱銅フィン3の表面側にワイヤ位置又はトーチ位置(電極位置含む)を所定距離だけシフトさせた位置であり、そのシフト量S1(第1の距離S1)は、S1=0〜4mmの範囲で設定すると良い。また、下向姿勢の一体構造のTIG−MIG溶接トーチ又はMIG溶接トーチを、溶接開始位置から終了位置までの溶接線6−1上に沿って走行させながら1パス溶接して溶接ビード及び溶接断面部7−1を形成すると良い。
このように、ワイヤ位置又はトーチ位置を伝熱銅フィン3側にシフトさせて溶接することで、伝熱銅フィン3の加熱溶融が促進されると共に鋼側の溶込み深さが抑制されるので、十分な大きさを有するのど厚L及び除熱に有効な熱伝導断面積を確実に確保でき、浅溶込みの溶接ビード及び溶接断面部を得ることができる。
溶接線6−1の1パス溶接が終了すれば、溶接トーチを回避移動させ、次の溶接線6−2の溶接では、継手側を再び回転移動させて、該当する溶接線6−2を鉛直方向に姿勢変更した後に、回避移動させていた溶接トーチを溶接線6−2上に沿って移動させて下向姿勢で位置決めを行う。溶接トーチを溶接線6−2上に沿って走行させながら1パス溶接すると良い。
このように、該当する隅肉継手部5の溶接線を姿勢変更する動作、溶接線上に溶接トーチを位置決めする動作、その溶接トーチを走行させながら溶接線上に1パス溶接を施工する動作、1パス溶接施工後に溶接トーチを回避させる動作等の一連の繰り返し動作を行うことで、所定枚数(N枚)の隅肉継手部の各溶接線6−1、6−2・・・6−Nに、図6に示すように、それぞれ溶接ビード及び溶接断面部7−1、7−2・・・7−Nを形成することができる。
なお、先行TIGと後続MIGとの複合溶接又はMIG溶接については、別の実施例(図19〜30、図36〜43)を用いて後述する。
一方、内筒1側の溶接(1〜5箇所)と、その溶接部の検査を繰り返す内筒1側の少数単位での溶接と検査の繰り返し溶接工程106でも、溶接施工は同様であり、上述したように、下向姿勢の一体構造のTIG−MIG溶接トーチ又はMIG溶接トーチを溶接開始位置から終了位置までの溶接線6−1上に沿って走行させながら1パス溶接して、溶接ビード及び溶接断面部7−1を形成すると良い。溶接後には内筒1側の検査工程117で溶接品質の検査を行い、また、この溶接品質の検査で不合格となった場合には、不合格の溶接部分及びその近傍部を補修溶接工程119で補修するようにしている。
CuSiワイヤを用いて先行TIGと後続MIGとの複合溶接又はMIG溶接することで、銅と鋼との異材溶接であっても、銅と鋼及びSiとが固溶可能な状態で適度に混合し合って割れのない良好な溶接ビード及び溶接断面部(溶接部)を形成することができる。熱伝導率が高い純銅製のCuワイヤを使用することも可能であるが、純銅製のCuワイヤの場合には、シリコン入りのCuSiワイヤと比べて、銅と鋼との異材溶接に対して溶接性及び溶接品質が劣ると共に、割れ感受性も高いことから本実施例の溶接方法には採用しなかった。
そして、本実施例では、溶接施工された各隅肉継手部5−1、5−2・・・5−Nの溶接ビード及び溶接断面部7−1、7−2・・・7−Nに、少なくとも溶接部ののど厚Lが伝熱銅フィン3の板厚T1以上(L≧T1)に形成され、かつ、内筒1側の溶込み深さcが0.05mm以上6mm以下(0.05≦c≦6mm)に形成されている(この溶込み深さcについては後述する)。
これによって、内筒1側の各伝熱銅フィン3の溶接箇所に、十分な大きさを有するのど厚L及び除熱に有効な熱伝導断面積を確実に確保でき、かつ、割れ等の欠陥がない品質良好な溶接ビード及び溶接断面部を得ることができる。また、除熱性能の向上及び製造コスト低減にも寄与することができる。更に、溶接部の引張強度についても、100N/mm2以上の強度を確実に得ることができる。
上述したのど厚Lが伝熱銅フィン3の板厚T1よりも小さ過ぎると、例えば、内筒1側から内側溶接部7を経由して伝熱銅フィン3側に熱を伝導するのに必要な熱伝導断面積が減少するため、除熱性能の向上に支障をきたすことになる。そのため、溶接部ののど厚Lを伝熱銅フィン3の板厚T1以上(L≧T1)に形成している。また、内筒1側の溶込み深さcが深過ぎると、溶接部の断面積に対する鋼の溶融比率(希釈率)が増加するため、溶接部分の熱伝導率が減少すると共に、割れ感受性が高くなり易い。溶込み深さcが浅過ぎると、鋼側との接合不足によって引張強度が低下し易くなる。そのため、内筒1側の溶込み深さcを0.05mm以上6mm以下(0.05≦c≦6mm)に形成している。
内筒1側の繰り返し溶接が終了した後の内筒1側の検査工程107では、内筒1の各溶接部に溶接ビードが良好に形成されているか否か、割れやアンダーカット等の欠陥があるか否か、のど厚Lや溶込み深さc等を満足しているか否か等の溶接品質の検査・確認を行う。工程108で合格であれば、次工程である外筒2側の第2の溶接工程110に進み、不合格の溶接箇所があれば、補修溶接工程109に進み、補修溶接工程109で不合格の溶接箇所及び近傍を補修溶接するようにしている。なお、内筒1側の検査工程107を省略して、内筒1及び外筒2の両方の溶接施工の終了後に、内筒1側の検査工程107を実施するようにすることもできる。
次に、外筒2側の第2の溶接工程110では、内筒1側の第1の溶接工程103、内筒1側のN箇所の溶接の繰り返し溶接工程105、内筒1側の少数単位での溶接と検査の繰り返し溶接工程106の終了後又は内筒1側の検査工程107及び117の終了後に、図7に示すように、内筒1側に溶接済の伝熱銅フィン3の外周側に一体の円筒状の外筒2を配置して、所定枚数(N)の伝熱銅フィン3の他方の各端面部を突き合せて、広角形状の各隅肉継手部8−1、8−2・・・8−Nを略等間隔に各々形成する。
図7中には、図5と同様に、伝熱銅フィン3を2枚のみ図示して他の部分を省略しているが、溶接すべき所定枚数(N)の伝熱銅フィン3は、内筒1及び外筒2の両面に略等間隔に傾斜配備されており、かつ、内筒1側の溶接ビード及び溶接断面部7−1、7−2・・・7−Nは既に形成済であり、継手側の姿勢を反転して図示している。
また、外筒2側の第2の溶接工程110では、図3、図4、図7及び図8に示すように、外筒2側に隅肉継手部をN箇所形成した後に、このN箇所の隅肉継手部8−1、8−2・・・8−Nに1パスずつ繰り返し溶接(連続溶接)する外筒2側のN箇所の溶接の繰り返し溶接工程112と、1〜5箇所程度の隅肉継手部8−1、8−2・・・8−Nに1パスずつ溶接すると共に、その溶接後の溶接部を検査するように溶接と検査の両作業を繰り返す外筒2側の少数単位での溶接と検査の繰り返し溶接工程113とに分けている。
外筒2側のN箇所の溶接の繰り返し溶接工程112では、内筒1側のN箇所の溶接の繰り返し溶接工程105の場合と同様に、パス毎に溶接すべきN箇所の隅肉継手部8−1、8−2・・・8−Nの各溶接開始位置から終了位置までの各溶接線(伝熱銅フィン3の下位表面に記した点線9−1、9−2・・・9−N)に対して、シリコン入りのCuSiワイヤを用い、先行TIGと後続MIGとの複合溶接又はMIG溶接によって、1パスずつ順番に溶接施工する。
内筒1の溶接の場合と同様に、外筒2側の溶接の場合でも、溶接対象の継手(内筒1と外筒2及び伝熱銅フィン3)側を回転駆動装置等で回転移動させて、溶接すべき隅肉継手部8−1の溶接線9−1を鉛直方向に姿勢変更した後に、溶接線9−1上に、一体構造のTIG−MIG溶接トーチ又はMIG溶接トーチを下向姿勢で位置決めする。
上述したように、伝熱銅フィン3の両端面部が平坦面形状の場合の溶接線は、端面部から伝熱銅フィン3の表面側にワイヤ位置又はトーチ位置(電極位置含む)を所定距離だけシフトさせた位置であり、そのシフト量S1は、S1=0〜4mmの範囲で設定すると良い。下向姿勢の一体構造のTIG−MIG溶接トーチ又はMIG溶接トーチを、溶接開始位置から終了位置までの前記溶接線9−1上に沿って走行させながら1パス溶接して溶接ビード及び溶接断面部10−1を形成すると良い。
このように、ワイヤ位置又はトーチ位置を伝熱銅フィン3側にシフトさせて溶接することで、伝熱銅フィン3の加熱溶融が促進されると共に鋼側の溶込み深さが抑制されるので、十分な大きさを有するのど厚L及び除熱に有効な熱伝導断面積を確実に確保でき、浅溶込みの溶接ビード及び溶接断面部を得ることができる。
溶接線9−1の1パス溶接が終了すれば、溶接トーチを回避移動させ、次の溶接線9−2の溶接及びそれ以降の溶接線の溶接も同様であり、上述したように、該当する隅肉継手部の溶接線を姿勢変更する動作、溶接線上に溶接トーチを位置決めする動作、溶接トーチを走行させながら溶接線上に1パス溶接を施工する動作、1パス溶接施工後に溶接トーチを回避させる動作等の一連の繰り返し動作を行うことで、所定枚数(N枚)の隅肉継手部の各溶接線9−1、9−2・・・9−Nに、それぞれ溶接ビード及び溶接断面部10−1、10−2・・・10−Nを形成することができる。
一方、外筒2側の溶接(1〜5箇所)と、その溶接部の検査とを繰り返す外筒2側の少数単位での溶接と検査の繰り返し溶接工程113でも、内筒1側の場合と同様であり、上述したように、下向姿勢の一体構造のTIG−MIG溶接トーチ又はMIG溶接トーチを、溶接開始位置から終了位置までの溶接線9−1上に沿って走行させながら1パス溶接して溶接ビード及び溶接断面部10−1を形成すると良い。溶接後に外筒2側の溶接品質の検査工程120を行い、また、この外筒2側の溶接品質の検査工程120で不合格となった場合は、不合格の溶接部分及びその近傍部を補修溶接工程122で補修するようにしている。
また、図4、図7及び図8に示したように、溶接施工された各隅肉継手部8−1、8−2・・・8−Nの溶接ビード及びその溶接断面部10−1、10−2・・・10−Nには、少なくとも溶接部ののど厚Lが伝熱銅フィン3の板厚T1以上(L≧T1)に形成され、かつ、外筒2側の溶込み深さcが0.05mm以上6mm以下(0.05≦c≦6mm)に形成されている。
これによって、上述した内筒1側の場合と同様に、外筒2側の各伝熱銅フィン3の溶接箇所でも、十分な大きさを有するのど厚L及び除熱に有効な熱伝導断面積を確実に確保でき、かつ、割れ等の欠陥がない品質良好な溶接ビード及びその溶接断面部を得ることができる。また、除熱性能の向上及び製造コスト低減にも寄与することができる。更に、溶接部の引張強度についても、100N/mm2以上の強度を確実に得ることができる。
外筒2側の繰り返し溶接が終了した後の外筒2側の検査工程114では、内筒1側の溶接検査と同様に、外筒2側の各溶接部に溶接ビードが良好に形成されているか否か、割れやアンダーカット等の欠陥があるか否か、のど厚Lや溶込み深さc等を満足しているか否か等の溶接品質の検査・確認を行う。合格(工程115)であれば、次工程へ125のステップに進み、不合格の溶接箇所があれば、補修溶接工程116に進み、不合格の溶接箇所及び近傍を補修溶接するようにしている。
また、図3〜図8に示したように、本実施例では、伝熱銅フィン3側の溶融底部から溶接ビード表面までの最小距離を溶接部ののど厚Lとした時に、のど厚Lが所定の大きさ以上に形成されるようにワイヤ送り速度Wf又はワイヤ送り速度Wfとワイヤ径d及び所定の溶接速度Vからワイヤ溶着断面積Awを決定し、各隅肉継手部の溶接開始位置から終了位置まで溶接すべきパス毎の溶接線に対して、シリコン入りのCuSiワイヤを用い、先行TIGと後続MIGとの複合溶接又はMIG溶接によって1パスずつ溶接施工し、この溶接施工した各隅肉継手部の溶接部には、少なくとものど厚Lが伝熱銅フィン3の板厚T1以上(L≧T1)に形成されており、かつ、鋼製の内筒1側又は外筒2側若しくは内筒1及び外筒2の両側の溶込み深さcが0.05mm以上6mm以下(0.05≦c≦6mm)に形成することもできる。
また、本実施例では、のど厚Lが所定の大きさ以上に形成されるようにワイヤ送り速度Wf又はワイヤ送り速度Wfとワイヤ径d及び所定の溶接速度Vからワイヤ溶着断面積Awを決定し、その後に、内筒1外面の長手方向に所定枚数(N枚)の伝熱銅フィン3の片方端面部を略等間隔に突合せて広角傾斜の隅肉継手部をN箇所形成した後に、溶接時にシリコン入りのCuSiワイヤを用い、先行TIGと後続MIGとの複合溶接又はMIG溶接によって、内筒1側の各隅肉継手部5−1、5−2・・・5−Nに1パスずつ溶接し、内筒1側の溶接終了後又は内筒1側の溶接終了及びその溶接ビード及び溶接断面部7−1、7−2・・・7−Nの検査終了後に、伝熱銅フィン3の外周側に一体の円筒状の外筒2を配置し、円筒状の外筒2内面の長手方向に所定枚数(N枚)の伝熱銅フィン3の他方の各端面部を突合せて広角傾斜の隅肉継手部をN箇所形成した後に、溶接時にCuSiワイヤを用い、先行TIGと後続MIGとの複合溶接又はMIG溶接によって、外筒2側の各隅肉継手部8−1、8−2・・・8−Nに1パスずつ溶接し、内筒1側及び外筒2側の溶接では、各隅肉継手部の溶接部には、少なくとものど厚Lを伝熱銅フィン3の板厚T1以上(L≧T1)に形成させ、かつ、鋼製の内筒1側又は外筒2側若しくは内筒1及び外筒2両側の溶込み深さcを0.05mm以上6mm以下(0.05≦c≦6mm)に形成することもできる。
また、本実施例では、のど厚Lが所定の大きさ以上に形成されるようにワイヤ送り速度Wf又はワイヤ送り速度Wfとワイヤ径d及び所定の溶接速度Vからワイヤ溶着断面積Awを決定し、その後に、内筒1外面の長手方向に所定枚数(N枚)の伝熱銅フィン3の片方端面部を略等間隔に突合せて広角傾斜の隅肉継手部をN箇所形成し、その後に、溶接時にシリコン入りのCuSiワイヤを用い、先行TIGと後続MIGとの複合溶接又はMIG溶接によって、内筒1側の各隅肉継手部5−1、5−2・・・5−Nに1パスずつ溶接するか、又は内筒1外面の長手方向に所定枚数(N枚)の伝熱銅フィン3の片方端面部を略等間隔に突合せて広角傾斜の隅肉継手部をN箇所形成した後に、N箇所の隅肉継手部を1〜5箇所ずつ単位に予め分割し、その分割した1〜5箇所ずつ単位の隅肉継手部5−1、5−2・・・5−Nに溶接施工すると共に、その溶接部を検査するように、隅肉継手部の溶接と検査とを繰り返し、内筒2側の溶接終了後又は内筒2側の溶接終了及びその溶接部の検査終了後に、伝熱銅フィン3の外周側に一体の円筒状の外筒2を配置し、円筒状の外筒2内面の長手方向に所定枚数(N枚)の伝熱銅フィンの他方の各端面部を突合せて広角傾斜の隅肉継手部をN箇所形成し、その後に、溶接時にCuSiワイヤを用い、先行TIGと後続MIGとの複合溶接又はMIG溶接によって、外筒2側の各隅肉継手部8−1、8−2・・・8−Nに1パスずつ溶接するか、又は円筒状の外筒2内面の長手方向に所定枚数(N枚)の伝熱銅フィン3の他方の各端面部を突合せて広角傾斜の隅肉継手部をN箇所形成した後に、N箇所の隅肉継手部を1〜5箇所ずつ単位に予め分割し、その分割した1〜5箇所ずつ単位の隅肉継手部8−1、8−2・・・8−Nに溶接施工すると共に、その溶接部を検査するように、隅肉継手部の溶接と検査とを繰り返し、内筒1側及び外筒2側の溶接では、各隅肉継手部の溶接部には、少なくとものど厚Lを伝熱銅フィン3の板厚T1以上(L≧T1)に形成させ、かつ、鋼製の内筒1側又は外筒2側若しくは内筒1及び外筒2の両側の溶込み深さcを0.05mm以上6mm以下(0.05≦c≦6mm)に形成することもできる。
これらによって、上述した内筒1側及び外筒2側の各伝熱銅フィン3の溶接箇所でも、十分な大きさを有するのど厚L及び除熱に有効な熱伝導断面積を確実に確保でき、かつ、割れ等の欠陥がない品質良好な溶接ビード及びその溶接断面部を得ることができる。また、除熱性能の向上及び製造コスト低減にも寄与することができる。更に、溶接部の引張強度についても、100N/mm2以上の強度を確実に得ることができる。
図9は、更に他の金属キャスク用伝熱銅フィンの溶接手順概要の一実施例を示すフローチャートである。
図4に示したフローチャートとの主な相違点は、1つ目は内筒1側の第1の溶接工程103を、連続方式のN箇所の溶接の繰り返し溶接工程105と分割方式の少数単位での溶接と検査の溶接工程106に区分けしたこと、2つ目は一体の円筒状の外筒2を使用するか又は板状に分割した複数枚の外筒板を使用するかに区分けしたこと、3つ目は外筒2側の第2の溶接工程110を連続方式のN箇所の溶接の繰り返し溶接工程112と分割方式の少数単位での溶接と検査の溶接工程113とに区分けしたことである。
なお、溶接前に行うワイヤ溶着断面積決定工程102と、溶接後に行う内筒1側の検査工程107、117と、外筒2側の検査工程114、120と、不合格の溶接部分及びその近傍部を補修する補修溶接工程109、116とについては、図4に示した内容と略同様である。
図9に示すように、伝熱銅フィン3の溶接手順(その3)101では、ワイヤ溶着断面積決定工程102の終了後に実施する内筒1側の第1の溶接工程103は、内筒1外面と伝熱銅フィン3の端面部とを接続する隅肉継手部5の形成及び溶接施工を連続方式で行うか又は分割方式で行うかを選択(工程104)するところであり、連続方式を選択した場合は、連続方式のN箇所の溶接の繰り返し溶接工程105に進み、そうでない場合には、少数単位での溶接と検査の溶接工程106に進むようになっている。
内筒1側のN箇所の溶接の繰り返し溶接工程105では、図5及び図6で説明したように、鋼製の内筒1外面に所定枚数(N枚)の伝熱銅フィン3の片方の各端面部を突き合せて広角形状の各隅肉継手部5−1、5−2・・・5−Nを略等間隔に各々形成する。そして、パス毎に溶接すべきN箇所の隅肉継手部5−1、5−2・・・5−Nの各溶接開始位置から終了位置までの各溶接線(伝熱銅フィン3の下位表面に記した点線6−1、6−2・・・6−N)に対して、シリコン入りのCuSiワイヤを用い、先行TIGと後続MIGとの複合溶接又はMIG溶接によって、1パスずつ順番に溶接施工する。
このようにして溶接施工された各隅肉継手部の溶接ビード及び溶接断面部7−1、7−2・・・7−Nには、少なくとも溶接部ののど厚Lが伝熱銅フィン3の板厚T1以上(L≧T1)に形成され、かつ、内筒1側の溶込み深さcが0.05mm以上6mm以下(0.05≦c≦6mm)に形成されている。
これによって、上述した内筒1側の各伝熱銅フィンの溶接箇所に、十分な大きさを有するのど厚L及び除熱に有効な熱伝導断面積を確実に確保でき、かつ、割れ等の欠陥がない品質良好な溶接ビード及び溶接断面部を得ることができる。また、除熱性能の向上及び製造コスト低減にも寄与することができる。更に、溶接部の引張強度についても、100N/mm2以上の強度を確実に得ることができる。
一方、少数単位に分割して溶接及び検査を繰り返す溶接工程106では、所定枚数(N枚)の伝熱銅フィン3を予め1〜5枚程度に分割し、その分割した1〜5枚の伝熱銅フィン3の片方端面部を内筒1の外面に突き合せて各隅肉継手部(1〜5箇所)を形成した後に溶接し、その溶接部を検査するように、隅肉継手部の形成と溶接と検査とを繰り返すようにしている。
例えば、図10及び図11に示すように、内筒1外面に1枚の伝熱銅フィン3の片方端面部を突き合せて所定の隅肉継手部5−1を1箇所形成した後に、シリコン入りのCuSiワイヤを用い、先行TIGと後続MIGとの複合溶接又はMIG溶接によって、隅肉継手部5−1の溶接開始位置から終了位置まで1パス溶接を行う。この溶接終了後に、溶接部の品質検査を行うようにしている。
また、図12及び図13に示すように、内筒1外面に2枚の伝熱銅フィン3の片方端面部を突き合せて隅肉継手部5−1、5−2を2箇所形成した後に、シリコン入りのCuSiワイヤを用い、先行TIGと後続MIGとの複合溶接又はMIG溶接によって、隅肉継手部5−1、5−2の溶接線6−1、6−2に対して、溶接開始位置から終了位置まで1パスずつ順番に溶接を行う。この2箇所の溶接終了後に、各溶接部の品質検査を行うようにしている。
ここでは、1本目の隅肉継手部5−1の溶接線6−1(伝熱銅フィン3の下位表面に記した点線)上に、一体構造のTIG−MIG溶接トーチ又はMIG溶接トーチを位置決め配置して下向姿勢で1パス溶接を施工し、1本目の溶接ビード及び溶接断面部(溶接部)7−1を形成すると良い。また、1本目の溶接が終了すると、2本目の隅肉継手部5−2の溶接線6−2上に、一体構造のTIG−MIG溶接トーチ又はMIG溶接トーチを位置決め配置して1パス溶接を施工し、2本目の溶接ビード及び溶接断面部(溶接部)7−2を形成すると良い。
上述したように、伝熱銅フィン2の両端面部が平坦面形状の場合の溶接線は、端面部から伝熱銅フィン3の表面側にワイヤ位置又はトーチ位置を所定距離だけシフトさせた位置であり、そのシフト量S1は、S1=0〜4mmの範囲で溶接時に設定すると良い。
このように、ワイヤ位置又はトーチ位置を伝熱銅フィン側にシフトさせて溶接することで、伝熱銅フィン3の加熱溶融が促進されると共に鋼側の溶込み深さが抑制されるので、十分な大きさを有するのど厚L及び除熱に有効な熱伝導断面積を確実に確保でき、浅溶込みの溶接ビード及び溶接断面部を得ることができる。
この溶接が終了すると、該当する溶接ビード及び溶接断面部(溶接部)7−1、7−2の品質検査を内筒1側の検査工程117で行う。この内筒1側の検査工程117では、上述したように、内筒1側の各溶接部に溶接ビードが良好に形成されているか否か、割れやアンダーカット等の欠陥があるか否か、のど厚Lや溶込み深さc等を満足しているか否か等の溶接品質の検査・確認を行う。合格(工程118)であれば、次の隅肉継手部の形成と少数単位での溶接と検査との繰り返し溶接工程106に戻り、不合格の溶接箇所があれば、補修溶接工程119に進み、不合格の溶接箇所及び近傍を補修溶接するようにしている。
このようにして、所定枚数(N枚)の伝熱銅フィン3を予め1〜5枚程度に分割して、隅肉継手部の形成と溶接と検査とを繰り返することで、例えば、2機の金属キャスクを略同時に製造する場合に、内筒1側に伝熱銅フィン3を取付けて所定の隅肉継手部5−1、5−2を形成する作業と、形成後の隅肉継手部5−1、5−2に溶接する作業と、その溶接部の品質を検査する作業とを略同時進行で行うことができ、無駄な遊び時間短縮、作業効率向上等を図ることが可能になる。
なお、ここでは、伝熱銅フィン3の分割枚数を1〜5程度に限定して説明したが、1〜10枚程度に増加して、隅肉継手部の形成と溶接と検査とを繰り返するようにすることも容易であり、同様な効果を得ることができる。
また、内筒1側の検査工程107及び117の終了後に実施する外筒2側の第2の溶接工程110は、所定枚数(N枚)の伝熱銅フィン3の各端面部と外筒2内面とを接続する各隅肉継手部8−1、8−2・・・8−Nの形成及び溶接施工を連続方式で行うか又は分割方式で行うかを選択(工程111)するところであり、連続方式を選択した場合は、N箇所の溶接の繰り返し溶接工程112に進み、そうでない場合には、少数単位での溶接と検査の繰り返し溶接工程113に進むようにしている。
N箇所の溶接の繰り返し溶接工程112では、図7及び図8で説明したように、鋼製の内筒1側に溶接済の伝熱銅フィン3の外周側に一体の円筒状の外筒2を配置して、所定枚数(N枚)の伝熱銅フィン3の他方の各端面部を突き合せて広角形状の各隅肉継手部8−1、8−2・・・8−Nを略等間隔に各々形成する。そして、パス毎に溶接すべきN箇所の隅肉継手部の各溶接開始位置から終了位置までの各溶接線(伝熱銅フィン3の下位表面に記した点線9−1、9−2・・・9−N)に対して、シリコン入りのCuSiワイヤを用い、先行TIGと後続MIGとの複合溶接又はMIG溶接によって、1パスずつ順番に溶接施工する。
上述したように、該当する隅肉継手部の溶接線を姿勢変更する動作、溶接線上に溶接トーチを位置決めする動作、溶接トーチを走行させながら溶接線上に1パス溶接を施工する動作、1パス溶接施工後に溶接トーチを回避させる動作等の一連の繰り返し動作を行うことで、所定枚数(N枚)の隅肉継手部の各溶接線9−1、9−2・・・9−Nに、それぞれ所定の溶接ビード及び溶接断面部10−1、10−2・・・10−Nを形成することができる。
こうして溶接施工された各隅肉継手部の溶接ビード及び溶接断面部10−1、10−2・・・10−Nには、少なくとも溶接部ののど厚Lが伝熱銅フィン3の板厚T1以上(L≧T1)に形成され、かつ、内筒1側の溶込み深さcが0.05mm以上6mm以下(0.05≦c≦6mm)に形成されている。
これによって、上述した外筒2側の各伝熱銅フィン3の溶接箇所に、十分な大きさを有するのど厚L及び除熱に有効な熱伝導断面積を確実に確保でき、かつ、割れ等の欠陥がない品質良好な溶接ビード及び溶接断面部を得ることができる。また、除熱性能の向上及び製造コスト低減にも寄与することができる。更に、溶接部の引張強度についても、100N/mm2以上の強度を確実に得ることができる。
一方、少数単位で溶接と検査の繰り返し溶接工程113では、図14、図15及び図16、図17に示すように、一体の円筒状の外筒2の代わりに、予め複数枚に分割した板状の外筒板2−2を使用し、この板状の外筒板2−2内面の長手方向に、該当する伝熱銅フィン3の他方の端面部を突合せて広角傾斜の隅肉継手部8−1、8−2を形成する。そして、溶接時にCuSiワイヤを用い、先行TIGと後続MIGとの複合溶接又はMIG溶接によって形成箇所の隅肉継手部8−1、8−2に溶接施工し、その溶接後の溶接部を検査するように、隅肉継手部の形成と溶接及び検査を交互に繰り返し行うようにしている。
なお、図14、図15及び図16、図17中には、1箇所又は2箇所形成した隅肉継手部8−1、8−2の溶接線9−1、9−2に溶接施工して溶接ビード及び溶接断面部10−1、10−2を形成するように図示しているが、幅広の外筒板2−2を用いて、外筒板2−2の内面側に溶接すべき隅肉継手部を数箇所(例えば、1〜5の箇所隅肉継手部8−1〜8−5)に形成した後に、先行TIGと後続MIGとの複合溶接又はMIG溶接によって、隅肉継手部8−1〜8−5に溶接施工するようにしても良い。
また、予め複数枚(所定枚数)に分割した板状の外筒板2-2の1枚に、伝熱銅フィン3の他方の端面部を突合せて広角傾斜の隅肉継手部を1〜5箇所に形成した後に、その1〜5箇所の隅肉継手部8−1、8−2、8−3、8−4、8−5に溶接施工すると共に、その溶接部を検査するように、外筒板1枚単位に分割した隅肉継手部の形成と溶接と検査とを繰り返すようにすることもできる。また、板状の外筒板2−2を使用すると共に、隅肉継手部の形成と該隅肉継手部の溶接施工と品質検査とを交互に繰り返し行うことで、無駄な遊び時間短縮、作業効率向上等を図ることが可能になる。なお、所定枚数の外筒板2−2側の溶接施工及び溶接部の品質検査が完了するまで繰り返すと良い。
このようにして溶接施工された各隅肉継手部の溶接ビード及び溶接断面部10−1、10−2・・・10−Nには、少なくとも溶接部ののど厚Lが伝熱銅フィン3の板厚T1以上(L≧T1)に形成され、かつ、外筒2側の溶込み深さcが0.05mm以上6mm以下(0.05≦c≦6mm)に形成されている。
これによって、内筒1側の場合と同様に、外筒2側の各伝熱銅フィン3の溶接箇所に、十分な大きさを有するのど厚L及び除熱に有効な熱伝導断面積を確実に確保でき、かつ、割れ等の欠陥がない品質良好な溶接ビード及び溶接断面部を得ることができる。また、除熱性能の向上及び製造コスト低減にも寄与することができる。更に、溶接部の引張強度についても、100N/mm2以上の強度を確実に得ることができる。
次に、外筒2の溶接仕上げ工程123では、板状の各外筒板2−2を一体の外筒2の構造にする必要があるため、予め分割した所定枚数の外筒板2−2の幅方向両面部の各接続部分を各々溶接(例えば、MAG溶接やTIG溶接等)して、円筒状又は多角筒状の一体の外筒2の構造に仕上げる。一体の外筒2の構造に仕上げることで、本来の外筒2としての機能を持たせることができる。
一方、一体構造の外筒2側の隅肉継手部8−1、8−2・・・8−Nを溶接した後に行う各溶接部の外筒2側の検査工程114では、内筒1側の品質検査の検査工程の場合と同様に、外筒2側の各溶接部に溶接ビードが良好に形成されているか否か、割れやアンダーカット等の欠陥があるか否か、のど厚Lや溶込み深さc等を満足しているか否か等の溶接品質の検査・確認を行う。合格(工程115)であれば、終了124に至り、別の次工程へ125に進むことになる。工程115で不合格の溶接箇所があれば、補修溶接工程116に進み、不合格の溶接箇所及び近傍を補修溶接するようにしている。
また、図4〜図17に示すように、本実施例では、予め内筒1外面の長手方向に所定枚数(N枚)の伝熱銅フィン3の片方端面部を略等間隔に突合せて広角傾斜の隅肉継手部をN箇所形成した後に、溶接時にシリコン入りのCuSiワイヤを用い、先行TIGと後続MIGとの複合溶接又はMIG溶接によって内筒1側の各隅肉継手部5−1、5−2・・・5−Nに1パスずつ溶接するか、又は内筒1外面の長手方向に所定枚数(N枚)の伝熱銅フィン3の片方端面部を略等間隔に突合せて広角傾斜の隅肉継手部をN箇所形成した後に、N箇所の隅肉継手部5−1、5−2・・・5−Nを1〜5箇所ずつ単位に予め分割し、その分割した1〜5箇所ずつ単位の隅肉継手部5−1、5−2、5−3、5−4、5−5に溶接施工すると共に、その溶接部を検査するように、少数単位に分割した隅肉継手部の溶接と検査とを繰り返し、若しくは所定枚数(N枚)の伝熱銅フィンを1〜5枚ずつ単位に予め分割し、その分割した1〜5枚ずつ単位の伝熱銅フィン3の片方端面部を内筒外面に突き合せて1〜5箇所の隅肉継手部5−1、5−2、5−3、5−4、5−5を形成した後に溶接施工すると共に、その溶接部を検査するように、少数単位に分割した隅肉継手部の形成と溶接と検査とを繰り返し、内筒1側の溶接終了後又は内筒1側の溶接終了及びその溶接部の検査終了後に、伝熱銅フィン3の外周側に一体の円筒状の外筒2を配置し、円筒状の外筒2内面の長手方向に所定枚数(N枚)の伝熱銅フィン3の他方の各端面部を突合せて広角傾斜の隅肉継手部をN箇所形成し、その後に、溶接時にCuSiワイヤを用い、先行TIGと後続MIGとの複合溶接又はMIG溶接によって外筒2側の各隅肉継手部8−1、8−2・・・8−Nに1パスずつ溶接し、又は円筒状の外筒2内面の長手方向に所定枚数(N枚)の伝熱銅フィン3の他方の各端面部を突合せて広角傾斜の隅肉継手部をN箇所形成し、その後に、N箇所の隅肉継手部8−1、8−2・・・8−Nを1〜5箇所ずつ単位に予め分割し、その分割した1〜5箇所ずつ単位の隅肉継手部に溶接施工すると共に、その溶接部を検査するように、少数単位に分割した隅肉継手部8−1、8−2、8−3、8−4、8−5の溶接と検査とを繰り返し、若しくは一体の円筒状の外筒2の代わりに、予め複数枚(所定枚数)に分割した板状の外筒板2−2を使用し、この板状の外筒板2−2内面の長手方向に、該当する伝熱銅フィン3の他方の端面部を突合せて広角傾斜の隅肉継手部を1〜5箇所に形成した後に、その1〜5箇所の隅肉継手部8−1、8−2、8−3、8−4、8−5に溶接施工すると共に、その溶接部を検査するように、隅肉継手部の形成と溶接と検査とを繰り返し、予め複数枚に分割した板状の外筒板2−2を使用する場合には、隅肉継手部の形成と溶接と検査とを繰り返す工程の終了後に、複数数の外筒板の幅方向両面部の各接続部分を各々溶接して、円筒状又は多角筒状の一体の外筒構造に仕上げ、内筒1側及び外筒2側の溶接では、各隅肉継手部の溶接部に、少なくとものど厚Lが伝熱銅フィンの板厚T1以上(L≧T1)に形成され、かつ、鋼製の内筒1側又は外筒2側若しくは内筒1及び外筒2の両側の溶込み深さcを0.05mm以上6mm以下(0.05≦c≦6mm)に形成することもできる。
これによって、上述したように、十分な大きさを有するのど厚L及び除熱に有効な熱伝導断面積を確実に確保でき、かつ、割れ等の欠陥がない品質良好な溶接ビード及び溶接断面部を得ることができる。また、除熱性能の向上及び製造コスト低減にも寄与することができる。更に、溶接部の引張強度も100N/mm2以上を確実に得ることができる。
図18及び図19に、本実施例に係わる一体構造のTIG−MIG溶接トーチの概略構成及びトーチ配置の一例を示す。
図18に示すように、一体構造のTIG−MIG溶接トーチ11の内部には、タングステン等の非消耗電極13、その非消耗電極13の先端部及び溶接部分に向けて第1のシールドガス14を流出させる第1のガス通路(図示せず)等を備えたTIGユニット12と、CuSiワイヤ等の消耗ワイヤ18、その消耗ワイヤ18が挿通するワイヤ通路(図示せず)、消耗ワイヤ18の先端部及び溶接部分に向けて第2のシールドガス19を流出させる第2のガス通路等を備えたMIGユニット17とが配備されている。
第1及び第2のシールドガス14及び19は、ガスの種類や成分を変更可能であるが、ここではArガスとHeガスとの混合ガスをシールドガスに使用している。銅と鋼との溶接にArガスとHeガスとの混合ガスを使用することで、純Arガスの場合と比べて、電位傾度が高く、溶接性や濡れ性等が優れており、品質良好な溶接部を得ることが容易となる。図示していないが、この他にも、TIG−MIG溶接トーチ11を循環水で冷却する水路が設けられている。
TIG−MIG溶接トーチ11は、鋼製の内筒1と銅製の伝熱銅フィン3との隅肉継手部5−1の溶接線6−1に対して、走行移動可能な長尺アーム31の先端部に取付冶具(図示せず)を介して略下向姿勢に取付け、又は長尺アーム31の先端部に取付冶具及び左右・上下移動可能な2軸駆動テーブル(図示せず)を介して取付け、かつ、溶接線6−1方向に配置されている。
また、走行移動可能な長尺アーム31の代わりに、多関節可動式の溶接ロボットを用い、この溶接ロボットの手首部にTIG−MIG溶接トーチ11を配置(取付)して、TIG−MIG溶接トーチ11を走行移動させながら、先行TIGと後続MIGとの複合溶接を隅肉継手部の溶接線の開始位置から終了位置まで溶接施工するようにしても良い。
更に、先行TIGの非消耗電極13側のTIGユニット12は、溶接進行方向と逆方向側に後退角−α1で傾斜配置され、また、後続MIGの消耗ワイヤ18側のMIGユニット17は、溶接進行方向に前進角+α2で傾斜配置されている。先行TIG側の後退角−α1は、0〜45度の範囲にすると良い。好ましくは15〜30度の範囲に配置するとさらに良い。他方の後続MIG側の前進角+α2は、15〜45度の範囲にすると良い。好ましくは15〜30度の範囲に配置するとさらに良い。
また、非消耗電極13の先端部の延長線が継手母材の溶接線6−1と交差する位置から消耗ワイヤ18の先端部までの両電極間の距離間隔f1は、3〜9mmの範囲にすると良い。好ましくは4〜7mmの範囲に配置するとさらに良い。また、継手母材の溶接線6−1から非消耗電極13の先端部までの電極高さf2は、3〜9mmの範囲にすると良い。好ましくは4〜7mmの範囲に配置するとさらに良い。
このように、TIG−MIG溶接トーチ11を配置して溶接線上を走行移動及び溶接動作させることで、先行TIGと後続MIGとの複合溶接を安定に施工することが可能となる。
なお、TIGユニット12の後退角−α1及びMIGユニット17の前進角+α2が15度よりも小さ過ぎると、例えば、非消耗電極13と消耗ワイヤ18との距離間隔f1を所定範囲に接近させることができなくなり、また、TIGアーク22とMIGアーク23で形成する1つの溶融プール24の形状が細長く不安定になり易い。一方、後退角−α1及び前進角+α2が上述した角度範囲よりも大き過ぎると、MIGアーク23によって溶融される消耗ワイヤ18の溶滴が、スパッタとなって先行TIG側方向に飛び散り易く、そのスパッタの一部が先行TIG側の非消耗電極13に付着して非消耗電極13を損傷させることがあり、また、ガスシールド性が低下し易いので好ましくない。従って、先行TIG側の後退角−α1は、0〜45度の範囲にすると良いし、後続MIG側の前進角+α2は、15〜45度の範囲にすると良い。
また、非消耗電極13と消耗ワイヤ18との距離間隔f1の値が3mmよりも小さ過ぎると、例えば、TIGアーク22とMIGアーク23が接近し過ぎ、後続MIG側の消耗ワイヤ18から発生したスパッタの一部が先行TIG側の非消耗電極13に付着して非消耗電極13を損傷させることがあり、しかも、TIGアーク22とMIGアーク23の挙動も不安定になり易い。一方、非消耗電極13と消耗ワイヤ18との距離間隔f1が9mmよりも大き過ぎると、TIGアーク22とMIGアーク23で形成する1つの溶融プール24の形状が細長く不安定になり易く、所望の溶接ビード及び溶接断面部が得られない場合がある。従って、非消耗電極13の先端部の延長線が継手母材の溶接線6−1と交差する位置から消耗ワイヤ18の先端部までの両電極間の距離間隔f1は、3〜9mmの範囲にすると良い。
更に、継手母材の溶接線6−1から非消耗電極13の先端部までの電極高さf2が3mmよりも小さ過ぎると、例えば、TIGアーク22の短縮に伴うアーク電圧低下及び入熱減少等によって溶融不足が発生することがあり、また、非消耗電極13の先端部が溶融プール24の表面上に接近しているので、溶融プール24の挙動変化や飛散したスパッタの影響を受け易くなる。一方、継手母材の溶接線6−1から非消耗電極13の先端部までの電極高さf2が9mmよりも大き過ぎると、TIGアーク22の延長に伴うアーク不安定化及び入熱増加等によって、伝熱銅フィン3が過剰に溶融されてアンダーカットの発生要因になることがあり、また、ガスシールド性も低下し易いので好ましくない。従って、継手母材の溶接線6−1から非消耗電極13の先端部までの電極高さf2は、3〜9mmの範囲にすると良い。
図19に示すように、TIG溶接電源15は、給電ケーブル16−1、16−2を経由してTIGユニット12内の非消耗電極13と継手母材の内筒1との間に接続され、かつ、非消耗電極13側の極性を負極(マイナス)とし、内筒1側の極性を正極(プラス)として、TIGアーク22を溶接箇所に発生させる。他方のMIG溶接電源20(ワイヤ送給装置も含む)は、給電ケーブル21−1、21−2を経由してMIGユニット17内の消耗ワイヤ18と継手母材の内筒1との間に接続され、かつ、消耗ワイヤ18側の極性を正極(プラス)とし、内筒1側の極性を負極(マイナス)として、MIGアーク23をTIGアーク22の後方近傍に発生させる。
先行TIG側の非消耗電極13を流れる第1の溶接電流Iaと、後続MIG側の消耗ワイヤ18(CuSiワイヤ)を流れる第2の溶接電流Ibとで生じる反発作用の磁力によって、相互に反発し合う2つのTIGアーク22とMIGアーク23で1つの溶融プール24を形成し、溶接進行方向25に移動させながら溶接するようにしている。第1の溶接電流Iaと第2の溶接電流Ibとの比(Ia/Ib)は、約0.8〜1.2の範囲に設定して出力させると良い。また、第1及び第2の溶接電流Ia及びIbは、両方共に直流電流を給電して、直流同士の2つのアークを形成すると良い。
非消耗電極13を流れる第1の溶接電流Iaと、消耗ワイヤ18を流れる第2の溶接電流Ibとの比(Ia/Ib=0.8〜1.2)の範囲で直流同士の溶接電流Ia、Ibを出力させることで、相互に反発し合うTIGアーク22とMIGアーク23が略下向き方向に偏向した状態で持続されると共に、1つの溶融プール24を安定に形成することができる。また、消耗ワイヤ18の先端部からの溶滴が飛散することなく、溶融プール24内へ容易に溶滴移行し易くなり、良好な溶接ビード及び溶接断面部を有する溶接ビード及び溶接断面部7−1を得ることができる。
非消耗電極13を流れる第1の溶接電流Iaと、消耗ワイヤ18を流れる第2の溶接電流Ibとの比(Ia/Ib)が小さ過ぎる場合又は大き過ぎる場合には、相互に反発し合うTIGアーク22とMIGアーク23に大きな偏差が生じるため、電流が大きい側のアーク力の影響により電流の小さい側のアーク挙動が不安定となって溶接不良になり易い。
一方、例えば、TIG側の極性を負極(マイナス)から正極(プラス)に反転させた場合は、溶接中にタングステン等の非消耗電極13が高温過熱によって激しく消耗するため、アーク挙動が不安定となって溶接不良になり易く、時間の長い溶接が困難となる。また、TIGアーク22とMIGアーク23が相互に引き合う方向に偏向するため、MIG側の消耗ワイヤ18の溶滴が、TIG側の非消耗電極13に溶着して短時間で電極消耗が発生することもある。他方のMIG側の極性を正極(プラス)から負極(マイナス)に反転させた場合には、不安定なアーク挙動及びスパッタの発生を伴うため溶接不良になり易く、時間の長い溶接が困難となる。
図19中には、説明し易くするために中央付近の溶接線6−1上にTIGアーク22とMIGアーク23及び1つの溶融プール24を図示しているが、実際にTIGアーク22とMIGアーク23を発生させる箇所は、溶接すべき隅肉継手部5−1の溶接線6−1上の溶接開始位置である。
例えば、溶接対象の継手(内筒1及び伝熱銅フィン3)側を回転駆動装置等で回転移動させて、溶接すべき隅肉継手部5−1の溶接線6−1を鉛直方向に姿勢変更した後に、溶接線6−1上に一体構造のTIG−MIG溶接トーチ11を下向姿勢で位置決めする。その後、TIG−MIG溶接トーチ11を溶接線6−1上の溶接開始位置に停止させる。TIG−MIG溶接トーチ11内のTIGユニット12の開口部と、MIGユニット17の開口部との両方からArガスとHeガスとの混合ガスを溶接開始位置及びその近傍で流出させながら、先行TIGの非消耗電極13の先端部から電極負極(マイナス)のTIGアーク22を発生させ、その第1の溶接電流を定常値Iaまで到着させた直後又は所定時間経過後に、後続MIGの消耗ワイヤ18として送給するCuSiワイヤからワイヤ正極(プラス)のMIGアーク23を、TIGアーク22の後方近傍に発生させると共に、その第2の溶接電流Ibを定常値まで到達させ、相互に反発し合うTIGアーク22とMIGアーク23で1つの溶融プール24を、溶接開始位置に発生させた直後又は所定時間経過後に、TIG−MIG溶接トーチ11を走行させて、1つの溶融プール24を溶接線方向に移動させながら隅肉継手部5−1の溶接終了位置まで溶接するようにしている。
このように溶接施工することで、上述したように、隅肉継手部5−1の溶接開始位置から終了位置までの溶接線6−1上に良好な溶接ビード及び溶接断面部7−1を有する溶接部を得ることができる。
図20は、本発明の実施例2としてのMIG溶接トーチの概略構成及びトーチ配置の一例を示すものである。該図に示す例は、上述したTIG−MIG溶接トーチ11の代わりに、MIG溶接トーチ26を使用する場合の例である。
該図に示す如く、MIG溶接トーチ26を使用する場合には、消耗ワイヤ18のCuSiワイヤと継手母材の内筒1との間に、給電ケーブル29−1、29−2を経由してMIG溶接電源28が接続されている。また、MIG溶接トーチ26は、上述のTIG−MIG溶接トーチ11の場合と同様に、溶接すべき溶接線6−1に対して、走行移動可能な長尺アーム(図示せず)の先端部又は多関節可動式の溶接ロボット(図示せず)の手首部に取付冶具(図示せず)を介して略下向姿勢に取付けられ、かつ、溶接線6−1の方向に配置されている。また、本実施例でのMIG溶接トーチ26は、溶接進行方向に対して、略垂直又は前進角+α3で傾斜配置している。この前進角+α3は、0〜30度の範囲にすると良い。好ましくは0〜15度の範囲に配置するとさらに良い。
なお、前進角+α3は、記載を省略しているが、図18及び図19に示したTIG−MIG溶接トーチ11内のMIGユニット17の傾斜角+α2に該当するトーチ傾斜角度であり、図20に示すMIG溶接トーチ26を使用する場合には、前進角+α3を0〜30度の範囲にすると良い。好ましくは0〜15度の範囲に配置するとさらに良い。この前進角+α3を30度よりも大きくして溶接すると、MIGアーク23が前方に傾斜し過ぎることから、MIGアーク23によって溶融さる消耗ワイヤ18の溶滴が前方方向へ飛び散り(スパッタ多発)し易く、また、ガスシールド性も低下し易いので好ましくない。
MIG溶接を行う場合は、MIG溶接トーチ26の先端部の開口部からArガスとHeガスとの混合ガスからなるMIG用シールドガス27を流出させながら、ワイヤ正極(プラス)のMIGアーク(図示せず)を隅肉継手部5の溶接線6−1上の溶接開始位置より発生させ、1つのアークで1つの溶融プール24を形成させてから、MIG溶接トーチ26を溶接進行方向に移動させながら下向姿勢で溶接するようにしている。
直流電流を給電するワイヤ正極(プラス)の直流MIGアークによる溶接も可能であるが、高いピーク電流と低い電流とを交互に繰り返すパルスMIGアークを使用すると、直流MIGアークの場合よりもスパッタの発生が少ない溶接を行うことができる。
溶接すべき内筒1側の伝熱銅フィン3の片方端面部と隅肉継手部5又は外筒2側の伝熱銅フィン3の他方端面部と隅肉継手部8の角度θ1は、θ1=120度±15度(105≦θ1≦135度)の範囲の広角傾斜に配置(構成)されており、また、内筒1及び外筒2の両面に形成された伝熱銅フィン3の両方端面部との隅肉継手部5の角度θ1も上記値と同じ範囲内に配置すると良い。また、他方の内筒1側又は外筒2側の傾斜角度θ2は、水平線に対して、θ2=30度±15度(15≦θ2≦45度)の範囲となるように配置されている。
このような角度範囲で継手部材(伝熱銅フィン3と内筒1又は伝熱フィン3と外筒2)を傾斜配置することで、MIG溶接トーチ26(TIG−MIG溶接トーチ11の場合も同様)を略垂直の下向姿勢に配置可能となり、溶接トーチ等の操作性が良くなると共に、溶接前の準備作業及び溶接作業等を向上することができる。
なお、図1及び図2で説明したように、内筒1及び外筒2と複数枚(N枚)の伝熱銅フィン3との間に区分けされた各空間部4は、使用済燃料の集合体から法線状に放出される放射線を遮蔽する物質(レジン)が別途実施するレジン充填工程で充填される。このため、図4〜7及び図9に示したように、隅肉継手部5の角度θ1を135度よりも大きくすると、上述したレジンの充填によって放射線を効果的に遮蔽することができるが、溶接施工時に内筒1の外面及び外筒2の内面の間に溶接すべき各伝熱銅フィン3の板幅を事前に大きく製作する必要があるため、伝熱銅フィン3の製作コスト増加になると共に、隣接し合う各伝熱銅フィン3の溶接時に、溶接トーチの一部が隣の伝熱銅フィン3に接触して溶接施工が実施できなく可能性が高い。
一方、隅肉継手部5の角度θ1を105度よりも小さくすると、伝熱銅フィン3の板幅は縮小でき、また、溶接施工もし易くなるが、使用済燃料の集合体から放出される放射線量の一部が各レジンの間(伝熱銅フィン3及び隙間)から透過することが予想され、この放射線量の透過漏れ等によって、放射線遮蔽能力が低下する可能性が高まるので好ましくない。
従って、隅肉継手部5の角度θ1を105≦θ1≦135度の範囲の広角傾斜に配置することで、溶接施工の実施や放射線遮蔽の能力確保を可能にすることができる。
また、内筒1側又は外筒2側の傾斜角度θ2は、MIG溶接トーチ26(TIG−MIG溶接トーチ11の場合も同様)を略垂直の下向姿勢に配置するための角度であることから、隅肉継手部5の角度θ1の大きさに対応して変化させれば良く、例えば、隅肉継手部5の角度θ1を小さくする場合は、他方の内筒1側又は外筒2側の傾斜角度θ2を大きくする方向に変化させ、反対に、隅肉継手部5の角度θ1を大きくする場合には、傾斜角度θ2を小さくする方向に変化させると良い。
図18、図19及び図20に示した一体構造のTIG−MIG溶接トーチ11及びMIG溶接専用のMIG溶接トーチ26は、図18に一例として示すように、駆動装置311によって走行移動可能な長尺アーム31の先端部(又は多関節可動式の溶接ロボットの手首部)に取付冶具を介して略下向姿勢に取付け、又は長尺アーム31の先端部に取付冶具及び左右・上下移動可能な2軸駆動テーブルを介して略下向姿勢に取付けると共に、溶接線方向に配置されている。
また、伝熱銅フィン3の銅板と内筒1又は外筒2の鋼材と隅肉継手部に対して、パス毎に溶接すべき隅肉継手部の溶接線の溶接開始位置から終了位置まで、溶接制御機器201による長尺アーム31の走行指令、TIG溶接電源15及びMIG溶接電源20への出力指令によって、一体構造のTIG−MIG溶接トーチ11又はMIG溶接トーチ26の走行動作及び溶接動作を実行させながら、先行TIGと後続MIGとの複合溶接又はMIG溶接を隅肉継手部の溶接線の開始位置から終了位置まで溶接が施工されている。
このようにして、継手傾斜の隅肉継手部の溶接線6−1上に、MIG溶接トーチ26又はTIG−MIG溶接トーチ11を下向配置して溶接施工することで、溶接線の開始位置から終了位置まで安定に溶接することができると共に、良好な溶接ビード及び溶接断面部を得ることが可能となる。
図21及び図22は、本実施例に係わるMIT溶接又は先行TIGと後続MIGの複合溶接における伝熱銅フィン3の両端面形状と継手配置及びトーチ配置の一例を示すものである。
図21に示す伝熱銅フィン3(長さ方向短縮)の両端面部の形状は、伝熱銅フィン3の表面に対して、30度±15度の範囲で傾斜(端面傾斜角:15≦β1≦45度)している傾斜面形状38であり、内筒1の表面(又は外筒2の表面)と略平行な傾斜面に予め加工してある。この傾斜面形状38を有する伝熱銅フィン3を備えた隅肉継手部の溶接線上に、MIG溶接トーチ26を配置した事例である。
一方、図22に示す伝熱銅フィン3の両端面部の形状は、傾斜面がない端面(β1=0に相当)の平坦面形状39である。この平坦面形状39を有する伝熱銅フィン3を備えた他の隅肉継手部の溶接線上に、TIG−MIG溶接トーチ11を配置した事例である。この事例では、先行TIG側の非消耗電極13を主に図示して、後続MIG側の消耗ワイヤ18の方は省略している。伝熱銅フィン3の両端面部が平坦面形状39の場合は、傾斜面形状38の場合と比べて加工コストを低減することができる。
なお、図21中に記したMIG溶接トーチ26と、図22中に記したTIG−MIG溶接トーチ11とを入れ替えて、溶接すべき隅肉継手部の溶接線上に配置することもできる。
一方、内筒1側(又は外筒2側)と伝熱銅フィン3の片方端面部との隅肉継手部5の継手角度θ1については、伝熱銅フィン3の両端面部が傾斜面形状38の場合でも平坦面形状39の場合でも同様である。
上述したように、内筒1側(又は外筒2側)と伝熱銅フィン3の片方端面部との隅肉継手部5の継手角度θ1は、θ1=120度±15度(105≦θ1≦135度)の範囲の広角傾斜に形成されている。他方の内筒1側(外筒2の場合も同様)の傾斜角度θ2は、水平線に対して、θ2=30度±15度(15≦θ2≦45度)の範囲に配置されている。また、隅肉継手部5の底面には、ギャップGがあったりなかったりすることから、また、MIG溶接トーチ26(又はTIG−MIG溶接トーチ11)の位置を伝熱銅フィン3側にシフトさせる第1の距離S1(又は第2の距離S2)が変化することがあることから、ギャップGと第1の距離S1及び第2の距離S2を同図中に記載している。
なお、第1の距離S1は、伝熱銅フィン3の端面角部b点から溶接線6に該当する位置まで、消耗ワイヤ18の先端部(又は非消耗電極13の延長線と伝熱銅フィン3表面との交差した交点位置)をシフトさせた長さ(距離)のことである。他方の第2の距離S2は、伝熱銅フィン3表面の延長線が内筒1の表面(又は外筒2の表面)と交差する位置のa点からb点を通過した上部にある溶接線の位置まで、消耗ワイヤ18(又は非消耗電極13)をシフトさせた長さ(距離)のことである。
また、第1の距離S1と第2の距離S2との間には相関関係があり、S2=S1+T1/tan(180−θ1)−T1×tanβ1+G/sin(180−θ1)の式で示される。β1の値が上述した30度±15度の場合は、傾斜面形状38の伝熱銅フィン3であり、かつ、β1=θ1−90度の時のS2は、S2=S1+G/sin(180−θ1)の式に簡略することができる。また、β1の値が0度の場合には、平坦面形状39の伝熱銅フィン3であり、その時のS2は、S2=S1+T1/tan(180−θ1)+G/sin(180−θ1)の式に簡略することができる。
第1の距離S1の範囲位置又は第2の距離S2の範囲位置の溶接線上に、TIG−MIG溶接トーチ11又はMIG溶接トーチ26を略下向姿勢に設定して、先行TIGと後続MIGとの複合溶接又はMIG溶接によって、隅肉継手部の溶接線の開始位置から終了位置まで溶接施工することで、溶接線の開始位置から終了位置まで安定に溶接することができると共に、良好な溶接ビード及び溶接断面部を得ることが可能となる。
図23及び図24は、本発明の実施例3としての実施例1に採用される溶接装置であり、長尺アームの先端部にTIG−MIG溶接トーチ及びガイドローラを配備した例を示すものである。
該図に示す如く、先行TIGと後続MIGとの複合溶接を行う一体構造のTIG−MIG溶接トーチ11は、取付冶具34、35及び左右・上下移動可能な2軸駆動テーブル36を介して長尺アーム31の先端部に配置(取付)されている。2軸駆動テーブル36は、溶接線方向に対する左右方向及び上下方向の駆動が可能なものであり、この2軸駆動テーブル36によって、TIG−MIG溶接トーチ11の左右・上下方向の位置を自動で動かすことができる。
また、回転移動可能なガイドローラ32は、TIG−MIG溶接トーチ11よりも先行する右位置にあって、長尺アーム31の下側に配備され、かつ、溶接線から近距離だけ離れた伝熱銅フィン3の表面部と内筒1側の表面部(又は外筒2側の表面部)との両面に接触回転動するように配備されている。このガイドローラ32の接触回転動によって、TIG−MIG溶接トーチ11を隅肉継手部の溶接線方向へ容易に走行案内することができる。
また、隅肉継手部の溶接線の曲がりや溶接による変形等が小さく、事前の位置決めも正確な継手の溶接であれば、スリット光切断センサ等の計測機器を使用することなく、ガイドローラ32の接触回転動によって、TIG−MIG溶接トーチ11を隅肉継手部の溶接線方向に走行案内しながら、先行TIGと後続MIGとの複合溶接を隅肉継手部の溶接線の開始位置から終了位置までの溶接施工を行うことができると共に、良好な溶接ビード及び溶接断面部を得ることが可能である。
なお、図23及び図24に示した実施例では、一体構造のTIG−MIG溶接トーチ11の配置例を記載しているが、MIG溶接トーチ26に交換してMIG溶接を行うようにすることもできる。また、TIG−MIG溶接トーチ11は、取付冶具34、35及び2軸駆動テーブル36を介して長尺アーム31の先端部に配置しているが、2軸駆動テーブル36を搭載せずに、TIG−MIG溶接トーチ11を長尺アーム31の先端部に配置することもできる。更に、長尺アーム31を右側方向に走行移動させて、TIG−MIG溶接トーチ11を右側方向に移動させながら溶接動作を行うように記載しているが、長尺アーム31を右側方向と反対側左側方向に走行移動させる場合には、ガイドローラ32を先頭位置、TIG−MIG溶接トーチ11を後続位置に配置代えすると共に、先行TIG−後続MIGになるように180度回転することで、左側方向に移動させながら正常に溶接動作を行うことができる。
また、図23及び図24に示した実施例では、TIG−MIG溶接トーチ11を長尺アーム31に配置しているが、長尺アーム31の代わりに、多関節可動式の溶接ロボットを用い、TIG−MIG溶接トーチ11(又はMIG溶接トーチ26)を溶接ロボットの手首部に配置(取付)して、トーチ走行移動させながら、先行TIGと後続MIGとの複合溶接(又はMIG溶接)を隅肉継手部の溶接線の開始位置から終了位置まで溶接施工するようにしても良い。
次に、本発明者等が実際に行った溶接試験の方法及び結果について説明する。
先ず、銅と鋼との異材隅肉継手部5のギャップGやトーチ位置又はワイヤ位置をシフトさせる第1及び第2の距離S1及びS2が変化する可能性が高いことから、溶接品質に及ぼす影響や溶接条件裕度を確認するため、ギャップG及び第1の距離S2を変化させる溶接試験を行い、溶接品質等を評価した。また、ワイヤ送り速度Wfとワイヤ溶着断面積Aw及びのど厚Lの関係についても調査した。更に、鋼側の溶込み深さcと希釈率(溶融比率)及び割れの関係等を調査するため、鋼板表面にCuSiワイヤを直接溶接する試験も行った。
MIG溶接試験では、板厚5mmの銅板(C1020P)と板厚16mmの炭素鋼板(SM400A)との隅肉継手を用い、また、TIG−MIG複合溶接試験では、板厚5mmの銅板(C1020P)と板厚50mmの炭素鋼板(SM400A)との隅肉継手を用いた。溶接ワイヤは1.2mm径のCuSiワイヤ(MG960)、また、シールドガスはArガスとHeガス(50〜70%)との混合ガスを用いた。
図25は、本発明に係わるワイヤ送り速度Wfとワイヤ溶着断面積Aw及びのど厚Lの関係を示すものであり、ワイヤ溶着部の断面積を二等辺三角形と仮定した時の論理のど厚L0(溶込みなしの計算値)、実際に溶接試験したMIG溶接部及びTIG−MIG複合溶接部ののど厚L(溶込みありの実測値)、その溶接断面写真の一例をそれぞれ併記している。
MIG溶接試験では、パルス電流波形を使用すると共に、溶接速度を抑制(204mm/分)し、ワイヤ送り速度Wfを6〜9m/分(溶接電流165〜260A)を変化させて溶接した。また、TIG−MIG複合溶接試験では、溶接速度を350mm/分に増加すると共に、ワイヤ送り速度Wfを10〜12m/分(MIG電流300〜360A、TIG電流300〜360A)を増加し変化させて溶接した。図25は、ぞの時の結果を示すものである。
該図から分かるように、銅板と鋼板との溶接断面部は、図中の溶接断面写真のように、ビード表面が凸形状(曲線形状)で、かつ、銅板側にも溶込みを有するため、図中□及び■で示す溶接断面部ののど厚Lは、図中▲で示す論理のど厚L0よりも大きく、また、伝熱銅フィンに該当する銅板の板厚(T1=5mm)よりも大きく形成されている。更に、TIG−MIG複合溶接の場合には、TIGアークとMIGアークで加熱溶融するため、MIG溶接の場合と比べて、入熱量Qが大きく、銅側の溶融が深くなるため、ワイヤ溶着断面積Aw(図中○で示す)が少なくても、のど厚Lは銅板の板厚(T1=5mm)よりも大きく形成することができる。
このような試験結果から、ワイヤ溶着断面積Awを約30〜55mm2の範囲(30≦Aw≦55mm2)に設定して溶接すれば、のど厚Lは板厚T1と同等の5mm以上(L≧T1=5mm)に形成することができると判断した。また、溶接電流と電圧及び溶接速度から入熱量Q(kJ/cm)を概算した結果、約Q=12〜35kJ/cmの範囲(12≦Q≦35kJ/cm)で良いことが分った。即ち、ワイヤ溶着断面積Awが少な過ぎると(30mm2以下)、入熱不足及び溶融不足による不良、のど厚L不足になり易い。また、ワイヤ溶着断面積Awが多過ぎると(55mm2以上)、溶融金属の垂れ下がりやアンダーカット等が発生し易い。
図26は、銅板の端面平坦面継手及び端面傾斜面継手のMIG溶接におけるトーチ位置のシフト量S2と溶接部ののど厚L及びビード幅Wとの関係を示すものである。なお、図中の×印は、鋼側との接合不足及び強度不足のため、溶接断面部の切断中に溶金底部(溶接金属底面部)と鋼母材表面部との境界から破断した溶接データである。
また、図27は、トーチ位置(ワイヤ位置)のシフト量S2(第2の距離S2)を変化させてMIG溶接した時の端面平坦面継手と端面傾斜面継手の代表的な溶接ビード外観及び溶接部断面写真を示す一実施例である。
図26に示すように、MIG溶接部のビード幅Wは、シフト量S2の増加に伴って減少する傾向にあるが、のど厚Lの方は、同程度又は若干増加しており、何れも銅板の板厚(T1=5mm)よりも大きく形成されている。また、端面平坦面継手の場合には、継手底部に開口部(ギャップに相当する大きさ:2.9mm)があるため、溶接中に溶融金属の一部が開口部内に流入することから、端面傾斜面継手の場合と比べると、のど厚Lが約0.5〜1mm程小さくなり、他方のビード幅Wは約1〜1.4mm程大きくなっている。また、端面傾斜面継手にギャップ(G=0〜2mm)がある場合でも、のど厚Lは何れも銅板の板厚(T1=5mm)よりも大きく形成されている。
鋼側の最大溶込み深さcについては、図26中に記載していないが、図27の溶接部断面写真に示すように、MIG溶接では溶込み深さcが浅い形状の溶接断面部が得られる。例えば、端面平坦面継手の場合には、トーチ位置のシフト量S2(第2の距離S2)が0.9mmの時(図27の(2))で約0.37mm、4.9mmの時(図27の(2))で約0.12mmであった。シフト量S2が大きい6.9mmの時には切断中に破断してしまい、計測することができなかったが、溶込み深さcはほぼ0mmであると判断している。
一方、端面傾斜面継手の場合の最大溶込み深さcは、シフト量S2が0mmの時(図27の(3))で約0.15mm、3mmの時(図27の(4))で約0.10mmであり、また、S2が大きい5mmの時には切断中に破断したことから、端面平坦面継手の場合と同様に、溶込み深さcはほぼ0mmであると判断している。
上記結果より、溶接部ののど厚Lが銅板の板厚T1以上(L≧T1=5mm)の形成可能なシフト量S2(第2の距離S2)の適正範囲は、端面平坦面継手の場合で約S2=0.9〜6mmの範囲であり、銅端面角部からの距離S1(第1の距離)に換算すると、S1≒−1.9〜3.1mmの範囲となる。端面傾斜面継手の場合は約S2=0〜4mmの範囲であり、銅端面角部からの距離S1(第1の距離)に換算すると、ギャップGが0〜2mmの時でも、S1≒0〜4mmの範囲となる。これらの溶接部の溶込み深さcは約0.05〜0.37mmであり、接合可能な溶込み深さcの下限値は0.05mm以上とした。なお、切断中に破断(×印)した試験データは強度不足のために除外した。
図28は、炭素鋼表面にCuSiワイヤを直接溶接した時の溶込み深さと鋼側の希釈率の関係を示すものであり、MIG単独溶接結果及びTIG−MIG複合溶接結果の両方を併記している。
該図に示す希釈率α(%)は、鋼側の溶融断面積をb、溶接部全体の溶融断面積をa+bとした時に、α=b/(a+b)×100の式で算出した。各溶接部の溶融断面積は、約10倍に拡大した溶接断面写真から溶接部の輪郭を描くと共に、その輪郭内部の溶融断面積a、bを面積計算ソフトによって算出した後に、希釈率αをそれぞれ算出した。
その結果、ワイヤ送り速度Wfを増加(MIG電流も連動して増加)すると、溶込み深さc及び希釈率αは増加する傾向にあると共に、溶接速度が速い方が大きくなっている。また、TIG−MIG複合溶接の場合は、ワイヤ送り速度Wfを12.2m/分まで増加して溶接したが、割れは発生しなかった。
一方、MIG単独溶接の場合には、TIG−MIG複合溶接の場合と比較して、溶込み深さc及び希釈率αが大きく、その溶込み深さcが約7mm以上、希釈率αが約50%以上の時に、溶接ビード表面に開口した割れが発生した。このため、TIG−MIG複合溶接でも、ワイヤ送り速度Wfをさらに増加すると、溶込み深さc及び希釈率αは増加すると推定されることから、割れの発生に至ると考えられる。
このような結果より、割れ発生の境界は、鋼側の希釈率αが50%以上及び溶込み深さcが約6mm以上であり、これらの値よりも小さい領域では割れ難いと推定される。
MIG溶接の場合には、高いピーク電流と低いベース電流とを繰り返すパルス波形のアークを真下方向に発生させて溶接していることから、アーク力及び指向力等の増加に伴って溶込み深さcが増加することが考えられる。
これに対して、TIG−MIG複合溶接の場合には、先行TIGの非消耗電極及び後続MIGのワイヤ電極を溶接方向に傾斜させており、かつ、TIGアークとMIGアークを反発し合う方向に偏向させた状態で発生させて溶接していることから、MIG溶接の場合と比べて、アーク力及び指向力が抑制されて、溶込み深さの増加を抑制していることが考えられる。
なお、CuSiワイヤの代わりにCuワイヤを用いて、炭素鋼表面にMIG溶接した場合には、割れ感受性が高まることから、例えば、ワイヤ送り速度Wfが約10m/分以上の領域で溶接ビード表面に開口した割れが発生することを確認している。一方、銅と鋼との異材継手溶接では、投入する熱エネルギがワイヤ溶融と銅及び鋼溶融に分散されるため、深い溶込みにはならずに、溶込み深さの浅い溶接部が形成され易いことから、割れは発生し難いものと考えられる。
また、シリコン入りのCuSiワイヤを用いて溶接することで、銅と鋼との異材継手溶接であっても、銅と鋼及びSiとが固溶可能な状態で適度に混合し合って割れのない良好な溶接ビード及び溶接断面部を得ることができる。鋼側の溶込み深さcが約6mm以下(c≦6mm)であれば、割れの問題は解消可能である。従って、溶込み深さcの許容範囲は、0.05≦c≦6mmが良い。
ただし、希釈率αの増加によって溶接部の熱伝導率が減少することが予想されるため、これを抑制する観点から、溶込み深さcの上限値を4mm以下(c≦4mm)に制限することにした。
表1は、端面平坦面の銅板と炭素鋼との隅肉継手部のギャップ及びトーチ位置のシフト量を変化させてTIG−MIG複合溶接試験を行った時の溶接条件を示すものである。
本溶接試験では、溶接品質に及ぼす影響や溶接条件裕度を確認するため、隅肉継手部のギャップGを変化(G=0〜3mm)させると共に、トーチ位置のシフト量S2(第2の距離S2)を変化(S2=3〜9mm)させ、下向姿勢で先行TIG後続MIGの溶接試験を行った。板厚5mmの銅板(C1020P)と板厚50mmの炭素鋼板(SM400A)との隅肉継手であり、溶接ワイヤは1.2mm径のCuSiワイヤ、シールドガスはArガスとHeガスとの混合ガスをそれぞれ用いた(なお、継手及びトーチ配置については図18〜図22を参照)。
表2は、表1に示した溶接条件で溶接試験した時のTIG−MIG複合溶接部の形状寸法と引張試験及び評価結果を示すものである。
表2中には、各溶接試験片の前半側及び後半側の2箇所ずつ採取した各溶接断面部ののど厚L、ビード垂直高さH、溶け込み深さcの各値及びとその平均値等を記載し、また、同一の溶接試験片の中央部分から採取した各引張試験片(幅40mmの溶接継手)の引張荷重及び引張強さを記載すると共に、品質基準を満足するか否かの合否判定の結果をそれぞれ記している。
例えば、のど厚Lが板厚5mm未満のもの(No.9とNo.13の2本)、溶込み深さcが4mmを超えるもの(0本)、ビード止端部のアンダーカットが1mmを超えるもの(No.12の1本)、引張荷重Wtが20kN(100N/mm2)未満のもの(No.3は切断中に破断)を不合格としている。他の番号の試験片は、各基準値を満足しているので合格としている。また、表1及び表2中には記載していないが、シフト量S2=1mm、ギャップG=0mmの継手についても溶接試験を実施している。
図29は、隅肉継手部のギャップ及びトーチ位置のシフト量を変化させて、TIG−MIG複合溶接試験を行った時の溶接部の品質評価結果及び適正条件領域を示すものである。図29は、横軸に銅端面角部からの距離S1、縦軸にギャップGを示し、その図中に溶接品質評価の合否から適正条件領域及び不適領域を記載している。なお、銅端面角部からの距離S1(第1の距離S1)と、トーチ位置のシフト量S2(第2の距離S2)との関係は、上述したように、端面平坦面継手の場合、S1=S2−{T1/tan(180−θ1)+G/sin(180−θ1)}の簡略式で算出することができる。
該図に示すように、品質基準を満足する適正条件領域(○印)は、のど厚不足領域(左側の◆印)と、強度不足(右側の■印)及びアンダーカット過大領域(▲印)とを除いた中央部分にある。ギャップGが3mm以上の領域では、試験データが1つしかないので不明であるが、垂れ落ちやのど厚不足等の溶接不良に至る可能性があると考えられる。
また、強度不足(右側の■印)及びアンダーカット過大領域(▲印)内にも品質基準を満足する(○印)データがあるが、適正条件領域から外した。更に、左側ののど厚不足領域(◆印)内にも品質基準を満足する(○印)データ(S1=−1.9,G=0mm)があるが、適正条件領域から外した。
従って、ギャップGに対する裕度は、G=0〜2mm程度か若しくはG=0〜3mm程度であり、また、銅端面角部からの距離S1に対する裕度は、S1=−0.5〜4mm程度であると判断した。若しくはS1=0〜4mm程度に限定することもできる。更に、第2の距離S2に置き換えると、S2≒2.5〜7mm程度(若しくはS2≒3〜7mm程度)である。
このような裕度内の適正領域で溶接施工することで、品質基準を満足する良好な溶接ビード及び溶接断面部を得ることができる。
図30は、TIG−MIG複合溶接した溶接部の代表的な溶接断面写真の例であり、図30の(1)はギャップG=0mm、シフト量S2=5mmの場合、図30の(2)はギャップG=2mm、シフト量S2=5mmの場合の場合である。
図30の(1)から分かるように、ギャップGが0mmの場合は、ビード表面が凸形状(曲線形状)で、かつ、銅板の裏側近くまで溶込んだ形状の溶接断面部になり易い。これに対して、図30の(2)から分かるように、ギャップが1mm又は2mm程度ある場合には、銅板の溶融促進及び溶融金属のギャップ内への流入によって銅裏側に貫通した形状の溶込みになると共に、鋼側の溶込み深さも増加しており、また、ビード表面が平坦形状の溶接断面部になり易い。何れも溶接断面部も品質基準を満足している。
また、TIG−MIG複合溶接の場合には、MIG単独溶接の場合と比べて、溶接電流(TIG電流/MIG電流)が高く、溶接速度も速く、かつ、銅と鋼との隅肉継手部を2つのアークで加熱・溶融するため、銅側の溶込みが深い形状の溶接断面部になり易い。なお、割れについては、いずれの溶接試験片からも認められなかった。
図31は、溶接部のビード垂直高さとのど厚の関係を示すものであり、表2に示した試験データの中から該当する各値を抽出してグラフ化したものである。
該図から分かるように、ビード垂直高さHとのど厚Lとの間には相関性が認められる。バラツキがあるものの、ビード垂直高さHとのど厚Lの関係は、下記の(1)式に示す近似実験式(第1の実験式)で表すことができる。ただし、定数b1は1である。
のど厚:L≒b1×H ・・・・・(1)
溶接内部ののど厚Lや溶込み深さc等の値(寸法)は、溶接部材を切断して検査(破壊検査)しなければならないが、ビード垂直高さHの値は、溶接部材のビード表面部から測定可能である。このため、破壊検査を行わずに、ビード表面部からビード垂直高さHを計測し、その計測したビード垂直高さHの値を第1の実験式(1)式に代入してのど厚Lを算出することで、溶接内部ののど厚Lの値を容易に推定することができる。
また、第1の実験式(1)式から算出したのど厚Lの算出値が銅板(伝熱銅フィン3に該当)の板厚T1と同等以上(L≧T1)の場合は、合格であると判定し、板厚T1よりも小さい(L<T1)の場合には、のど厚不足又は伝熱面積不足による不合格であると判定することができる。また、上述したように、事前に溶接試験して採取した溶接断面部から実測したのど厚Lの実測値が銅板の板厚T1よりも小さい(L<T1)の場合も、のど厚不足又は伝熱面積不足であると判定することもできる。
のど厚不足等による不合格の溶接部分及びその近傍部を補修する場合には、例えば、図32に示すように、不合格の溶接部50及び近傍の上部(銅板寄りのビード表面部又はビード止端部近傍)に1パス肉盛する補修を行い肉盛補修部30を形成することで、のど厚Lを銅板の板厚T1以上(L≧T1=5mm)に修復でき、のど厚不足及び伝熱面積不足を解消することができる。
例えば、1パス肉盛すべき補修溶接では、図3、4及び図9に示したように、隅肉継手部を本溶接した時の溶接条件よりも溶接電流や入熱量等を減少した溶接条件を補修溶接工程109、116、119、122で使用して補修することで、容易に肉盛補修することが可能となり、上述したように、のど厚不足及び伝熱面積不足を解消することができる。
図33は、溶接部のビード垂直高さと溶込み深さの関係を示すものである。
該図から分かるように、ビード垂直高さHと溶込み深さcとの間には相関性が認められる。バラツキがあるものの、ビード垂直高さHと溶込み深さcの関係は、下記の(2)式に示す多項近似の実験式(第2の実験式)で表すことができる。ただし、定数b2は−0.0061、b3は0.22、b4は−2.62、b5は10.3である。
溶込み深さ:c=b2×H3+b3×H2+b4×H+b5 ・・・・・(2)
上述したように、破壊検査を行わずに、ビード表面部からビード垂直高さHを計測し、その計測したビード垂直高さHの値を第2の実験式(2)式に代入して溶込み深さcを算出することで、溶接内部の溶込み深さcを容易に推定することができる。また、第2の実験式(2)式から算出した溶込み深さcの算出値が0.05mm未満(c<0.05mm)の場合は、鋼側の溶接部分が接合不足又は強度不足であると判定し、溶込み深さcの算出値が4mmを超える(c>4mm)場合には、溶込み過大であると判定することができる。
図34は、溶接部ののど厚と溶込み深さの関係を示すものであり、図31及び図33の場合と同様に、表2に示した試験データの中から該当する各値を抽出してグラフ化したものである。
該図から分かるように、のど厚Lと溶込み深さcとの間には相関性が認められる。バラツキがあるものの、のど厚Lと溶込み深さcの関係は、下記の(3)式に示す多項近似の実験式(第3の実験式)で表すことができる。ただし、定数b6は−0.0067、b7は0.24、b8は−2.87、b9は11.4である。
溶込み深さ:c=b6×L3+b7×L2+b8×L+b9 ・・・・・(3)
ビード垂直高さHとのど厚Lとの関係を示す第1の実験式(1)より算出したのど厚Lの算出値を第3の実験式(3)式に代入して、溶込み深さcの値を算出することで、破壊検査を行わずに、溶接内部の溶込み深さcを容易に推定することができる。また、溶込み深さcの算出値が0.05≦c≦4mmの範囲の場合は、合格であると判定し、溶込み深さcの算出値が0.05mm未満(c<0.05mm)の場合には、鋼側の溶接部分が接合不足又は強度不足であると判定し、また、溶込み深さcの算出値が4mmを超える(c>4mm)場合には、溶込み過大であると判定することができる。
また、上述したように、事前に溶接試験して採取した溶接断面部から実測した溶込み深さcの実測値が0.05mm未満の場合や、若しくは4mmを超える場合には、鋼側の溶接部分が接合不足及び強度不足、若しくは溶込み過大であると判定することもできる。
上述したように、溶接断面部の検査試験は、溶接部材を切断する破壊検査であることから、非破壊検査が可能ならば変更することが望まれる。
本実施例によれば、溶接ビード表面側からビード垂直高さHを計測すると共に、計測したビード垂直高さHの値を、第1及び2の実験式(1)及び(2)式にそれぞれ代入してのど厚Lや溶込み深さcを算出することで、破壊検査を行わずに、溶接内部ののど厚L及び溶込み深さc等を容易に推定することができる。また、実験式(1)式で算出したのど厚Lの算出値を実験式(3)に代入して溶込み深さcを算出することもできる。
図35は、溶込み深さと溶接継手の引張荷重の関係を示すものであり、図中には引張荷重Wtが20kN(σ=100N/mm2)以上を合格としている。なお、溶接部の引張強度σについては、引張試験片毎の溶接断面積が変化して特定できないため、最大引張荷重Wtと、銅板部の断面積(板厚5mm×幅40mm)とから算出した。
実機の金属キャスクは長さ4000〜5000mmの長尺部材であることから、伝熱銅フィンの1枚辺りの溶接線長さを最小の4mと仮定すると、銅板1枚の溶接部の引張荷重(20×4000/40/9.8)で、200トン以上の重量物を吊り上げることが可能である。
溶込み深さcがほぼ0mmの場合は、接合不足により試験片採取の切断中に破断したので0とした。溶込み深さcが0.05mm以上の場合には、バラツキがあるものの、20kN(σ=100N/mm2)以上の値を有しており、更に、溶込み深さcが増加すると、のど厚Lの減少を伴うことから、引張荷重(最大引張荷重)Wtは減少する傾向にあるが、基準値の20kN(σ=100N/mm2)以上を何れも満足している。
このような引張試験結果から、溶込み深さcが0.05mm以上であれば、基準値を満足する引張荷重Wt及び引張強度σを確保することができる。
上述した引張試験は、溶接部材を切断する破壊検査であることから、非破壊検査が可能ならば変更することが望まれる。
本実施例によれば、上述したように、溶接ビード表面側からビード垂直高さHを計測すると共に、第1〜3の実験式(1)〜(3)式を用いて溶込み深さcを算出することで、破壊検査を行わずに、溶接部7の引張荷重Wt又は引張強度σが前記基準値を満足(合格)するか否かを容易に推定することができる。溶込み深さcの算出値が0.05mm以上の場合は合格と判定し、また、0.05mm未満の場合には強度不足の不合格と判定することができる。
上述した溶接試験及び引張試験の結果は、伝熱銅フィンの板厚T1が5mmの銅板と厚板の炭素鋼との隅肉継手部の溶接を想定にした試験結果を記載しているが、板厚T1が5mmより小さい場合や大きい場合でも、上述したような考え方で継手部を溶接することや溶接部を検査することも可能である。
一方、長尺部材の継手部を溶接する場合には、継手の仮付及び組立誤差、溶接線の曲がり、溶接による変形等の要因によって、溶接すべき溶接線に対するトーチ位置(ワイヤ位置/電極位置含む)の位置ズレが発生し易く、溶接不良に至ることがある。このため、トーチ位置の位置ずれを溶接中に修正する必要があることから、位置ズレを検出するセンサが必要となる。センサで検出する位置ズレの検出情報に基づいて、トーチ位置の位置ズレを修正制御することで、位置ズレを防止でき、不良のない良好な溶接部を得ることができると考えられる。
図36は、本発明の実施例4としての溶接すべき隅肉継手部の溶接線位置及びその位置ずれを検出するスリット光切断式センサを用いた例を示すものである。また、図37及び図38は、実施例4における溶接前に行うトーチ位置(ワイヤ位置)の位置合せとセンサ側の原点位置座標の位置合せの例及び画像モニタでの表示例を示すものである。図中には、MIG溶接を行うMIG溶接トーチ26の例を記載しているが、先行TIGと後続MIGとの複合溶接を行うTIG−MIG溶接トーチ11の場合も同様であるので省略している。
図36に示すように、スリット光切断式センサ41は、MIG溶接を行うMIG溶接トーチ26の前方位置、又は先行TIGと後続MIGとの複合溶接を行う一体構造のTIG−MIG溶接トーチ(図示せず)の前方位置であると共に、隅肉継手部5の溶接線6の上部位置に配置されている。また、スリット光切断式センサ41の内部には、図示を省略しているが、スリット光線42を照射するスリット光照射器、画像を撮影するカメラ、水冷する水路等を内蔵している。
そして、隅肉継手部5の溶接線6を切断する方向にスリット光線42をスリット光照射器から照射し、照射したスリット光線42によって隅肉継手部5の形状を表す線状の線画像45−1、45−2をスリット光切断式センサ41の内部のカメラで撮影して画像処置装置43に取込むと共に、線画像45−1、45−2を画像モニタ44に表示する。
この画像モニタ44に表示される線画像45−1、45−2は、伝熱銅フィン3の表面線と鋼側(内筒1又は外筒2に相当)の表面線とを結んだaa点−P点−b点−bb点の線画像である。b点は、伝熱銅フィン3の端面角部である。画像処置装置43には、溶接すべき隅肉継手部5の溶接線位置とトーチ位置との位置ズレ等を検出する溶接用プログラムが内蔵されている。また、後述するが、溶接用プログラムの他に、検査用プログラムを画像処置装置43に内蔵することで、溶接後の溶接ビード表面部を検査する用途に使用することも可能となる。
隅肉継手部5の形状を表す線状の線画像45−1、45−2を画像処理装置43にて適宜画像処理する。例えば、溶接中に略一定時間毎又は略一定距離毎に伝熱銅フィン3の端面角部のb点位置を抽出(検出)すると共に、そのb点位置から伝熱銅フィン3の表面側に所定距離S1だけシフトさせたP点位置を検出する。検出したP点位置は、溶接すべき隅肉継手部5の溶接線6の位置であり、センサの後方で溶接動作を行っているMIG溶接トーチ26の位置座標Pn(Yn、Zn)になると共に、トーチ位置の左右及び上下方向の位置ズレ量(ΔYn、ΔZn)になるので、画像モニタ44内に併記してある。スリット光切断式センサ41はMIG溶接トーチ26の前方位置に配置されているため、スリット光切断式センサ41による検出動作は、後方の溶接トーチによる溶接動作よりも常に先行した溶接線位置で行うことになる。
一方、図37及び図38に示すように、溶接前にMIG溶接トーチ26を溶接線上の溶接開始位置(X0)に移動させてトーチ位置(ワイヤ位置)の位置合せを行う。ワイヤ先端位置を伝熱銅フィン3の表面側に所定距離S1だけシフトさせた位置P0が溶接開始位置(X0)である。この位置合せ後に、スリット光切断式センサ41を溶接開始位置(X0)まで移動(溶接トーチは回避移動)させて検出動作を行わせ、MIG溶接トーチ26の位置合せと同じ位置P0点で、センサ側の原点位置座標P0(Y0=0、Z0=0)を0に設定すると良い。
溶接開始位置(X0)で溶接動作を開始した後に、溶接進行中の任意の溶接線位置(Xn)でスリット光切断式センサ41及び画像処理装置43によって検出される検出データPn(Yn、Zn)と、溶接前に設定した原点位置合せでの原点位置座標P0(Y0=0、Z0=0)との偏差(Yn−Y0、Zn−Z0)から、左右方向の位置ずれΔYn及び上下方向の位置ずれΔZnを各々算出するようにしている。また、左右及び上下方向の位置ずれ(ΔYn、Zn)の値は、その前に連続して検出及び算出した複数データを平均化処理(平滑化処理)した値に変換して使用することもできる。
なお、図36、図37及び図38では、伝熱銅フィン3の端面部が平坦面形状である隅肉継手部5を対象にして、端面角部のb点位置及び伝熱銅フィン3の表面側にシフトさせたP点位置を検出する例を図示しているが、伝熱銅フィン3の端面部が傾斜面形状である隅肉継手部5の場合でも、平坦面形状の場合と同様に、端面角部のb点位置及び伝熱銅フィン3の表面側にシフトさせたP点位置を検出することができる。
MIG溶接トーチ26又はTIG−MIG溶接トーチ11は、スリット光切断式センサ41よりも後方位置で溶接動作を行っていることから、スリット光切断式センサ41及び画像処理装置43によって先行検出した検出位置(Xn)に後続のMIG溶接トーチ26又はTIG−MIG溶接トーチ11が到達した地点かその近傍位置で、左右及び上下の位置ずれ(ΔYn、Zn)をなくす方向にトーチ位置(ワイヤ位置や電極位置を含む)を修正する修正制御を行うようにしている。なお、左右方向の位置ずれΔYn又は上下方向の位置ズレZnのいずれかをなくす方向にトーチ位置を修正制御するようにすることもできる。
このようにしてトーチ位置を修正制御することで、溶接線位置とトーチ位置との左右・上下両方向の位置ずれ(ΔYn、Zn)をなくことができ、溶接線外れの不良ビードがない良好な溶接ビードを得ることが可能となる。
図39は、伝熱銅フィン3と内筒1(又は外筒2)との隅肉継手部5に仮付溶接部が断続的に形成されている場合の溶接線位置等を検出するスリット光切断式センサ41を用いた例を示すものである。
例えば、伝熱銅フィン3を、内筒1の外面又は外筒2の内面の表面に突合せて隅肉継手部5を仮組形成する時に、隅肉継手部5に予め断続的な仮付溶接を行う場合がある。このため、複数の仮付溶接部56−1、56−2・・・56−nがある部分とない部分が混在した隅肉継手部5になっている。
図39の(2)は、スリット光切断式センサ41及び画像処理装置43によって、仮付溶接部がない隅肉継手部から取込んだ線画像45−1、45−2であり、また、図39の(3)は、仮付溶接部がある隅肉継手部5から取込んだ線画像45−1、45−2の他に仮付ビード表面に該当する曲線部の線画像46があり、両者の線画像は形状が大きく異なっている。
仮付溶接部56−1、56−2・・・56−nがある隅肉継手部から取込んだ線画像には、伝熱銅フィン3の端面角部に該当するb点位置がなく、仮付ビード止端部に該当するa点位置及び仮付ビード表面該当する曲線部の線画像46があることから、仮付溶接部56−1、56−2・・・56−nであると認知又は異常部であると認知させ、この仮付部の検出データを不採用扱いにしてトーチ位置をそのまま現状維持させると良い。
他方の仮付溶接部がない隅肉継手部5から取込んだ線画像には、仮付ビード止端部に該当するa点位置及び仮付ビード表面の曲線がなく、伝熱銅フィン3の端面角部に該当するb点位置があることから、この端面角部のb点位置を検出させると共に、該b点位置から伝熱銅フィン3の表面側に所定距離S1だけシフトさせたP点の位置座標Pn(Yn、Zn)を検出させる。この検出したP点の位置座標Pn(Yn、Zn)と、上述した原点位置座標P0(Y0=0、Z0=0)との偏差から位置ズレ(ΔYn、ΔZn)を算出させた検出データを採用すると良い。
このようにして、仮付溶接部がない隅肉継手部5から検出及び採用した検出データに基づいて、先行検出した溶接線方向の位置Xnに後続の溶接トーチが到達した地点又はその近傍地点で、左右・上下方向の位置ずれ(ΔYn、ΔZn)をそれぞれなくす方向にトーチ位置を修正させ、又は左右方向の位置ズレΔYnをなくす方向にトーチ位置を修正する修正制御を行うことで、仮付溶接部有無の影響に伴う異常な修正動作や誤動作等を防止することができると共に、良好な溶接ビードを形成することが可能となる。
図40は、本発明の実施例5としての長尺アームの先端部にTIG−MIG溶接トーチ及びスリット光切断式センサを配備した例を示すものである。
該図に示す如く、先行TIGと後続MIGとの複合溶接を行う一体構造のTIG−MIG溶接トーチ11は、取付冶具34、35及び左右・上下移動可能な2軸駆動テーブル36を介して長尺アーム31の先端部に配置されている。2軸駆動テーブル36は、溶接線方向に対する左右方向及び上下方向の駆動が可能なものであり、この2軸駆動テーブル36によって、TIG−MIG溶接トーチ11の左右・上下方向の位置を自動で動かすことができる。
また、スリット光切断式センサ41は、上述したように、TIG−MIG溶接トーチ11の前方位置で、かつ、溶接線の上部位置となる長尺アーム31の下側に配置され、溶接すべき隅肉継手部の溶接線の位置ズレ(ΔY、ΔZ)を検出するものであり、位置ズレの検出データに基づいて、トーチ位置を修正するようにしている。
このようにトーチ位置を修正することで、溶接線とトーチ位置との位置ズレをなくすことができ、良好な溶接ビード及び溶接断面部を得ることができる。
また、回転移動可能なガイドローラ32は、TIG−MIG溶接トーチ11及びスリット光切断式センサ41よりも先行する右位置にあって、長尺アーム31の下側に配備され、かつ、溶接線から近距離だけ離れた伝熱銅フィン3の表面部と内筒1側の表面部(又は外筒2側の表面部)との両面に接触回転動するように配備されている。このガイドローラ32の接触回転動によって、TIG−MIG溶接トーチ11及びスリット光切断式センサ41を隅肉継手部の溶接線方向へ容易に走行案内することができる。
また、隅肉継手部の溶接線の曲がりや溶接による変形等が小さく、事前の位置決めも正確な継手の溶接であれば、スリット光切断式センサ41による検出データを使用することなく、又はスリット光切断式センサ41をなくして、ガイドローラ32の接触回転動のみによっても、隅肉継手部の溶接線方向に走行案内しながら溶接動作を行うことができると共に、良好な溶接ビード及び溶接断面部を得ることも可能である。
一方、溶接線の曲がりや溶接による変形等が発生し易い場合には、スリット光切断式センサ41を配備することで、溶接線の位置ズレ(ΔY、ΔZ)を検出でき、その検出データに基づいて、トーチ位置を修正しながら溶接動作を行うことができると共に、良好な溶接ビード及び溶接断面部を得ることができる。
また、37は、輻射熱や飛散物を遮蔽する遮蔽板であり、溶接線方向に溶接を行うTIG−MIG溶接トーチ11(又はMIG溶接トーチ26)と、位置ズレ等を検出するスリット光切断式センサ41との間にあり、かつ、溶接線と略直角方向の上部位置で、長尺アーム31先端部の下側に配備している。この遮蔽板37の配備によって、TIG−MIG溶接トーチ11(又はMIG溶接トーチ26)による溶接中に発生する輻射熱やスパッタ、ヒューム等の飛散物を遮蔽することができる。また、スリット光切断式センサ41等の機器を保護することも同時にできる。
なお、図40に示した実施例では、スリット光切断式センサ41を長尺アーム31の先端部に取付冶具34を介して配備(取付)しているが、左右・上下移動可能な2軸駆動テーブル36を介して長尺アーム31の先端部に配置して、位置ズレの検出動作を行うようにすることもできる。また、一体構造のTIG−MIG溶接トーチ11の配置例を記載しているが、MIG溶接を行うMIG溶接トーチに交換しても同様な機能を発揮することができる。また、TIG−MIG溶接トーチ11は、取付冶具34、35及び2軸駆動テーブル36を介して長尺アーム31の先端部に配置しているが、2軸駆動テーブル36を配置せずに、取付冶具35を介してTIG−MIG溶接トーチ11を長尺アーム31の先端部に配置(取付)することもできる。
また、図40に示した実施例では、長尺アーム31を右側方向に走行移動させて、TIG−MIG溶接トーチ11及びスリット光切断式センサ41を右側方向に移動させながら溶接動作と検出動作を行うように記載している。長尺アーム31を右側方向と反対側左側方向に走行移動させる場合には、ガイドローラ32を先頭位置、スリット光切断式センサ41を中間位置、TIG−MIG溶接トーチ11を後続位置に配置代えすると共に、先行TIG−後続MIGになるように180度回転することで、左側方向に移動させながら正常に溶接動作及び検出動作を行うことができる。仮に、図40に示した構成のままで、溶接進行方向を逆転させた場合には、先行MIG−後続TIGに逆転し、また、検出動作が溶接動作よりも後方位置となることから、正常に溶接することができなくなるので好ましくない。
図41は、部材表面までの距離及び距離変化を計測する距離センサを用いた例であり、また、図42は、長尺アームの先端部にTIG−MIG溶接トーチ及び距離センサを配備した例である。
即ち、本実施例では、上述したスリット光切断式センサ41の代わりに、距離及び距離変化の測定可能な距離センサ51を用いている。この距離センサ51は、隅肉継手部の溶接線方向に走行移動可能な長尺アーム31の先端部に略下向姿勢に配置された一体構造のTIG−MIG溶接トーチ11(又はMIG溶接トーチ26でも良い)の前方位置又はTIG−MIG溶接トーチ11よりも先行する位置に配置された回転移動可能なガイドローラ32の後方位置で、かつ、溶接線から近距離だけ離れた内筒1側の表面又は外筒2側の表面と略直角方向の上部位置と、溶接線から近距離だけ離れた伝熱銅フィン3側の表面と略直角方向の上部位置とに1つずつ配備されている。
そして、距離センサ51の先端部から距離測定光52を内筒1側の表面又は外筒2側の表面と、伝熱銅フィン3側の表面とに照射し、その反射光の受光によって表面までの各々の距離Hs、Hcを計測すると共に、初期設定の基準距離との各偏差ΔHs、ΔHcを距離センサ制御器54経由で距離測定モニタ55に表示するように構成している。
また、この距離測定モニタ55には、距離偏差ΔHs、ΔHcを溶接線の左右方向の位置ズレ成分(ΔYs+ΔYc)と上下方向の位置ズレ成分(ΔZs+ΔZc)に振分けした値も表記するようにしている。そして、この計測データに基づいて、左右方向の位置ズレ成分(ΔYs+ΔYc)と上下方向の位置ズレ成分(ΔZs+ΔZc)とをなくす方向にトーチ位置を修正することで、溶接線とトーチ位置との位置ズレをなくすことができ、良好な溶接ビード及び溶接断面部を得ることができる。
なお、図41及び図42に示した実施例では、2つの距離センサ51を内筒1側の上部位置と伝熱銅フィン3側の上部位置に1つずつ配備しているが、距離センサ51を伝熱銅フィン3側の上部位置に1つ配備して、内筒1の板厚よりも格段に変形し易い薄板の伝熱銅フィン3側の距離変化(Hc、ΔHc)を計測するようにしても良い。内筒1の板厚が厚いため、溶接に伴う内筒1側の変形量が小さいことから、無視することも可能であり、伝熱銅フィン3側の上部位置に配備した1つの距離センサ51によって、伝熱銅フィン3側の変形や曲がりに伴う距離変化を計測し、この計測データに基づいて、溶接線とトーチ位置との位置ズレをなくすようにトーチ位置を修正することも可能である。
また、距離センサ51は、スリット光切断式センサ41の場合と同様に、長尺アーム31の先端部に取付冶具34を配備しているが、左右・上下移動可能な2軸駆動テーブル36を介して長尺アーム31の先端部に配置して、部材表面までの距離及びその距離変化を計測するようにしても良い。
更に、図41及び図42に示した実施例では、距離センサ51の先端部から距離測定光52を内筒1、伝熱銅フィン3の表面に照射し、その反射光の受光によって表面までの距離Hs、Hcを計測する構造の非接触式の距離センサ51を使用しているが、上下及移動可能な測定針49を内筒1、伝熱銅フィン3の表面に接触させて距離を計測する構造の接触式距離センサに交換して使用することも可能である。
上述したように、TIG−MIG溶接トーチ11又はMIG溶接トーチ26の走行動作及び溶接動作の実行中に、距離センサ51で計測する距離変化等の計測データに基づいて、先行計測した溶接線方向の位置Xnに後続の溶接トーチが到達した地点又はその近傍地点で、隅肉継手部の溶接線方向の曲がりや変形に伴う左右方向及び上下方向の位置ずれをなくす方向にトーチ位置を修正することで、溶接線とトーチ位置との位置ズレをなくすことができ、良好な溶接ビード及び溶接断面部を得ることができる。
また、上述したように、伝熱銅フィン3の表面部と内筒1側の表面部(又は外筒2側の表面部)との両面に接触回転動するように配備されたガイドローラ32の接触回転動によって、TIG−MIG溶接トーチ11又はMIG溶接トーチ26と距離センサ51を溶接線方向へ容易に走行案内することができる。
更に、隅肉継手部の溶接線の曲がりや溶接による変形等が小さく、事前の位置決めも正確な継手の溶接であれば、距離センサ51による計測データを使用することなく、又は距離センサ51をなくして、ガイドローラ32の接触回転動のみによっても、隅肉継手部の溶接線方向に走行案内しながら溶接動作を行うことができると共に、良好な溶接ビード及び溶接断面部を得ることが可能である。
また、TIG−MIG溶接トーチ11又はMIG溶接トーチ26と距離センサ51との間に配備した遮蔽板37によって、TIG−MIG溶接トーチ11又はMIG溶接トーチ26による溶接中に発生する輻射熱及び飛散物を遮蔽することができる。また、距離センサ51等の機器を保護することも同時にできる。
また、図40及び図41に示した実施例では、溶接を行うTIG−MIG溶接トーチ11(又はMIG溶接トーチ26)や位置ズレの検出又は計測を行うスリット光切断式センサ41又は距離センサ51等を長尺アーム31の先端部に配備する構成例を示して説明したが、長尺アーム31の代わりに、多関節可動式の溶接ロボットを用い、該溶接ロボットの手首にTIG−MIG溶接トーチ11又はMIG溶接トーチ26やセンサ等を配備して、溶接動作や検出動作等を行うようにすることも可能である。
例えば、図5及び図6に示したように、内筒1の外面と伝熱銅フィン3の片方端面部との隅肉継手部5−1、5−2の溶接線6−1、6−2に対する溶接施工では、外筒2がない状態であるために隅肉継手部5−1、5−2の上部空間スペースが広いことから、溶接ロボット使用による溶接動作や検出動作を行うことが可能であると考えられる。
一方、図7及び図8に示したように、内筒1側の隅肉継手部5−1、5−2の溶接終了(溶接部6−1、6−2形成)後に、伝熱銅フィン3の外周長手方向に配備した外筒2の内面と伝熱銅フィン3の他方端面部との隅肉継手部8−1、8−2の溶接線9−1、9−2に対する溶接施工では、空間スペースが狭くなることから、溶接ロボットの手首挿入が困難になるため、狭隘な空間スペースに挿入・走行可能な長尺アーム31に変更して、溶接動作を行うようにする必要があると考えられる。
図43は、先行TIGと後続MIGとの複合溶接におけるトーチ位置のシフト量とTIG電流・電圧及びMIG電流・電圧の関係を示すものである。
該図から分かるように、例えば、トーチ位置のシフト量S2(第2の距離S2)を増加させると、TIG電流Itは増減変化が小さいが、TIG電圧Etは増加する傾向にある。また、他方のMIG電流Imは減少する傾向にあるが、MIG電圧Emは増減変化が小さい。
このような結果より、トーチ位置のシフト量S2とTIG電圧Etの間には相関性があると認められる。このため、前記TIG電圧Etを利用して上下方向のトーチ位置Z(電極高さ)を自動修正する制御を行うことが可能であると考えられる。
例えば、上述したスリット光切断式センサ41に検出させる検出データの上下方向の位置ズレΔZnの代わり、又は距離センサ51に計測させる測定データの上下方向の位置ズレ(ΔZs+ΔZc)の代わりに、先行TIG側のTIGアーク電圧信号(平均化処理したTIG電圧信号)の値を用いることである。
また、所望のTIGアーク長保持に必要なアーク電圧を予め測定して設定した第1の基準電圧値V1と、溶接進行中に先行TIG側のTIGアーク電圧信号を電圧検出手段にてリアルタイムで検出及び平均化処理(平滑化処理)したTIGアーク電圧検出信号の値Vnとの電圧偏差(ΔV1=Vn−V1)を検出し、偏差電圧ΔV1をなくすようにTIG−MIG溶接トーチ11の位置を上下方向に修正する修正制御を行う。
このように電圧検出及び位置修正制御を行うことで、アーク長変化に伴うトーチ上下方向の位置ずれをなくすことが可能となる。
また、溶接開始位置P0で発生させる先行TIG側のTIGアーク22と、該TIGアーク後方近傍に発生させる後続MIG側のMIGアーク23とで1つの溶融プール24を形成させると共に、溶接可能状態の1つの溶融プール24を溶接線方向に移動させた直後又は所定時間経過後に、先行TIG側のTIGアーク電圧信号を所定時間(例えば1〜3秒程度)だけ検出すると共に、平均化処理した平均値を第2の基準電圧値V2に設定し、溶接進行中に先行TIG側のTIGアーク電圧信号を電圧検出手段にてリアルタイムで検出及び平均化処理(平滑化処理)したTIGアーク電圧検出信号の値Vnと、第2の基準電圧値V2との偏差電圧(ΔV2=Vn−V2)を検出し、偏差電圧ΔV2をなくすようにTIG−MIG溶接トーチ11の位置を上下方向に修正する修正制御を行うようにすることもできる。
このように電圧検出及び位置修正制御を行うことで、溶接前のトーチ位置合せの設定変更にも即対応することができると共に、溶接開始位置にて2つのアーク発生で1つの溶融プールを形成する過程で生じ易い不安定アークの電圧検出を回避することができ、アーク長変化に伴うトーチ上下方向の位置ずれをなくすことが可能となる。
図44は、本発明の実施例6としてのスリット光切断式センサ41による溶接ビード及びその溶接断面部7のビード垂直高さHの検出を示す例である。
例えば、図4及び図9に示したように、溶接ビード及びその溶接断面部7の品質を検査・確認する内筒1側の検査工程107と外筒2側の検査工程114でスリット光切断式センサ41を使用すると良い。また、1〜5枚程の伝熱銅フィン3の片方端面部の隅肉継手部(溶接箇所)に溶接を行って終了する毎に、溶接後の溶接ビード及びその溶接断面部7をスリット光切断式センサ41によって検査するように、溶接と検査との両作業を繰り返すようにすることもできる。
溶接ビード及びその溶接断面部7のビード表面部からビード垂直高さHを自動で計測する手段は、例えば、図36に示した溶接線位置及びその位置ずれを検出するスリット光切断式センサ41と同様な構成のスリット光切断式センサである。このスリット光切断式センサの内部には、スリット光を照射するスリット光照射器及び画像を撮影するカメラ、水冷する水路等を内蔵している。スリット光切断式センサ41は、溶接ビード及びその溶接断面部7のビード表面の上部位置に配置されており、溶接ビード及びその溶接断面部7を切断する方向にスリット光線42をスリット光照射器から照射する。照射したスリット光線42によって溶接部及び近傍の形状を表す線状の線画像45−1、45−2を、スリット光切断センサ41内部のカメラで撮影して画像処理装置43に取込むと共に、線画像45−1、45−2を画像モニタ44に表示する。なお、図44では、溶接ビード及びその溶接断面部7の内筒1側を水平に図示しているが、溶接時の姿勢と同様な姿勢で検査することもできる。
上述した画像処理装置43には、溶接終了後に、溶接ビード及びその溶接断面部7のビード止端部、ビード垂直高さ、アンダーカットの深さ等を検出及び計測するための検査用プログラムが内蔵されている。また、上述したように、溶接すべき溶接線位置とトーチ位置との位置ズレ等を検出する溶接用プログラムも内蔵することもできる。これら溶接用プログラム及び検査用プログラムの両方を画像処理装置43に内蔵することで、スリット光切断式センサ41は、溶接用と検査用の両方の機能を兼ね備えた溶接及び検査兼用センサとして使用することもできる。また、溶接専用センサと別な検査専用センサとして使用することもできる。
更に、スリット光切断式センサ41は、例えば、溶接線上を走行移動可能な長尺アーム31の先端部に取付冶具を介して取付け、又は長尺アーム31の先端部に取付冶具及び左右・上下移動可能な2軸駆動テーブル36を介して取付けると良い。また、スリット光切断式センサ41を溶接用及び検査用の両方の機能を兼ね備えた溶接及び検査兼用センサとして使用する場合には、上述したように、MIG溶接を行うMIG溶接トーチ26の前方、又は先行TIGと後続MIGとの複合溶接を行う一体構造のTIG−MIG溶接トーチ11の前方に取付けると良い。そして、溶接終了後に、溶接線6の上部位置に配置した姿勢のままで、溶接ビード表面部を検査する動作に切り換えて検査動作を行うようにしている。また、溶接用プログラムから検出用プログラムに切り換えれば良い。
溶接終了後に、溶接終了側の方向から溶接開始側の方向の溶接線上を逆走行移動させて、スリット光切断式センサ41及び画像処理装置43に検出動作を行わせることができる。若しくは溶接終了後にスリット光切断式センサ41を溶接開始側に戻し、その後に、溶接開始側の溶接ビード表面位置から溶接終了側の溶接ビードの表面位置まで溶接線上を走行移動させて、スリット光切断式センサ41及び画像処理装置43に検出動作を行わせることもできる。溶接ビードの表面部及び近傍の形状を表す線状の線画像を、スリット光切断式センサ41から画像処理装置43に略一定時間毎又は略一定距離毎に取込んで適宜画像処理するようにしている。
例えば、内筒1の表面部の直線部をビード止端部(b点)の方向に延長させた延長直線(bb点−b点−c点)を描く。他方の伝熱銅フィン3の表面部の直線部と交差する他方のビード止端部の交点位置をa点と決定しると共に、延長直線(bb点−b点−c点)に対して、a点より直角方向に描いた直線(a点−d点−e点)と延長直線とが直角に交差する位置をd点と決定する。そして、a点とd点との距離(a点−d点)を計測し、該計測した距離(a点−d点)をビード垂直高さHの値と決定することで、ビード垂直高さHを計測することができる。また、計測したビード垂直高さHの値を第1及び第2の実験式の(1)及び(2)式に各々代入して、のど厚Lの値や溶込み深さcの値を算出することで、破壊検査を行わずに、溶接内部ののど厚L及び溶込み深さcを容易に推定することができる。
このように、スリット光切断式センサ41及び画像処理装置43を用いて、ビード表面部からビード垂直高さHを自動計測することで、溶接品質を検査することができ、かつ、検査時間を短縮することが可能となる。また、上述したように、第1の実験式の(1)式から算出したのど厚Lの算出値が伝熱銅フィン3の板厚T1と同等以上(L≧T1)の場合は、合格であると判定し、板厚T1よりも小さい(L<T1)の場合には、のど厚不足又は伝熱面積不足による不合格であると判定することができる。他方の第2の実験式の(2)式から算出した溶込み深さcの算出値が0.05≦c≦4mmの範囲の場合は、合格であると判定するようにしている。
また、溶込み深さcの算出値が0.05mm未満(c<0.05mm)の場合には、鋼側の溶接部分が接合不足又は強度不足であると判定し、更に、溶込み深さcの算出値が4mmを超える(c>4mm)場合には、溶込み過大であると判定することができる。
図45は、スリット光切断式センサ41によるアンダーカット40の大きさ(深さ)の検出を示す画像図の例である。
トーチ位置のシフト量(第1及び第2の距離S1及びS2)を大きくして溶接すると、溶接部ののど厚Lは増加するが、伝熱銅フィン3のビード止端部近傍(a点の上)にアンダーカット40(凹み)が発生することがある。そこで、ビード垂直高さHの他に、アンダーカット40の有無及び深さRを検査するため、スリット光切断式センサ41及び画像処理装置43を用いて、線画像46のa点上部のアンダーカット40の有無及び深さRを検出するようにしている。
即ち、伝熱銅フィン3の表面線aa点−a点間の変曲部をf点と決定し、a点とf点との凹み部をアンダーカット40として認定すると共に、その深さRを計測する。例えば、計測したアンダーカット40の深さRが0.5mm未満(R<0.5mm)の時はなし又は正常と判定し、深さRが0.5〜1mmの範囲(0.5≦R≦1mm)の時はありと判定し、更に、深さRが1mmを超える時(R>1mm)は過大と判定するようにしている。アンダーカット40の深さRが大き過ぎると、溶接品質が低下すると共に、除熱に必要な熱伝導断面積が減少することになる。
上述したように、スリット光切断式センサ41及び画像処理装置43を用いて、溶接表面部のビード垂直高さHを計測し、この計測したビード垂直高さHからのど厚Lを算出すると共に、アンダーカット40の有無及び深さRを検出・判定することで、溶接品質を管理することができる。
なお、アンダーカット40の深さRが1mmを超える場合(R>1mm)には、のど厚不足の溶接部分及び近傍を肉盛補修する場合と同様に、図32に示したように、アンダーカット過大の判定の溶接部分及び近傍の上部(銅板寄りのビード表面又はビード止端部近傍)に1パス肉盛する補修を行うことで、アンダーカット40を解消することができるる。また、アンダーカット40の深さRがR≧0.5mm以上(R≧0.5mm)の場合には、アンダーカット40ありの判定の溶接部分及び近傍の上部(銅板寄りのビード表面又はビード止端部近傍)に1パス肉盛する補修を行うようにすることで、アンダーカット40の深さRが浅いものも含む大きさ(R≧0.5mm)のアンダーカットを解消することができるのでさらに良い。
例えば、1パス肉盛すべき補修溶接では、図3、4及び図9に示したように、隅肉継手部を本溶接した時の溶接条件よりも溶接電流や入熱量等を減少した溶接条件を補修溶接工程109、116、119、122で補修することで、容易に肉盛補修することが可能となり、上述したように、アンダーカットを解消することができる。
図46は、本発明の実施例7としての手動操作の寸法測定器による溶接部のビード垂直高さの検出の例を示すものである。
該図に示す如く、内筒1の母材表面に寸法測定器48を配置し、手動操作によって上下又は上下及び前後に移動可能な測定針49を伝熱銅フィン3のビード止端部47に接触させて溶接ビード部のビード垂直高さHを特定間隔毎に計測すると共に、表示部に表示するものである。
このように、手動操作の寸法測定器48を使用することで、簡単にビード垂直高さHを計測することができるし、計測したビード垂直高さHの各値を第1及び第2の実験式の(1)及び(2)式に各々代入して、のど厚Lの値及び溶込み深さcの値を各々算出することで、破壊検査を行わずに、溶接内部の溶込み深さcを容易に推定することができる。また、ビード止端部47にアンダーカット40があれば、アンダーカット40の深さRも計測して、その深さRから品質良否を判定するようにすることもできる。
上述したように、第1の実験式の(1)式から算出したのど厚Lの算出値が伝熱銅フィン3の板厚T1と同等以上(L≧T1)の場合は、合格であると判定し、伝熱銅フィン3の板厚T1よりも小さい(L<T1)の場合には、のど厚不足又は伝熱面積不足による不合格であると判定することができる。
他方の第2の実験式の(2)式から算出した溶込み深さcの算出値が0.05≦c≦4mmの範囲の場合は、合格であると判定し、また、溶込み深さcの算出値が0.05mm未満(c<0.05mm)の場合には、内筒1及び/又は外筒2側の溶接部分が接合不足又は強度不足であると判定し、溶込み深さcの算出値が4mmを超える(c>4mm)場合には、溶込み過大であると判定することができる。
以上述べたように、本実施例によれば、銅と鋼との異材継手の溶接性に優れ、十分な大きさを有するのど厚L及び除熱に有効な熱伝導断面積を確保でき、かつ、割れ等の欠陥がない品質良好な溶接ビード及び溶接断面部を得ることができると共に、除熱性能の向上及び製造コストの低減にも寄与することができる。
また、本実施例によれば、位置ズレの検出データに基づいて、トーチ位置の修正制御を行うことで、溶接線位置とトーチ位置との左右及び上下の各位置ずれ(ΔYn,Zn)をなくすことができ、溶接線外れの不良ビードがない良好な溶接ビードを得ることができる。また、溶接ビード表面からビード垂直高さHを計測し、計測したビード垂直高さHの値を近似実験式にそれぞれ代入してのど厚Lや溶込み深さc等を算出することで、破壊検査を行わずに、溶接内部ののど厚L及び溶込み深さc等を容易に推定することができると共に、溶接品質の合否を判定することもできる。
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。