本発明を実施するための形態を以下の順序で説明する。
A.第1実施形態:
A1.伝動機構の構成:
A2.ナットアタッチメントおよび滑りナットの構成:
A3.ナットアタッチメント各部の形状:
A4.ナットアタッチメントの組立態様:
A5.ボール保持リングおよびボールへの付勢の作用:
A6.バックラッシュの低減:
A7.ナットアタッチメントの構成の変形例:
B.第2実施形態:
C.第3実施形態:
D.第4実施形態:
E.変形例:
A.第1実施形態:
A1.伝動機構の構成:
図1は、本発明が適用された伝動機構10の構成を示す説明図である。伝動機構10は、ナットアタッチメント100と、滑りナット200と、4条の右ねじを構成するねじ溝309が形成されたねじ軸300とを有する送りねじ機構(送りねじ装置)である。図1においては図示しないが、ナットアタッチメント100および滑りナット200は、それぞれ、ねじ軸300に形成されたねじ溝309と噛み合うように構成されている。
第1実施形態において、ナットアタッチメント100は、滑りナット200に固定される。ナットアタッチメント100の滑りナット200への固定は、例えば、図1に示すように、ナットアタッチメント100と滑りナット200とを重ね合わせた状態で、ナットアタッチメント100に設けられた貫通孔119と、滑りナット200に設けられた貫通孔(図示しない)とを通されたボルト(図示しない)等を用いて、ナットアタッチメント100と滑りナット200とを駆動対象物に固定することにより行われる。なお、ナットアタッチメント100の滑りナット200への固定方法は、必ずしもこの限りでない。例えば、ナットアタッチメントあるいは滑りナットを駆動対象物に固定する貫通孔の他に、ナットアタッチメントと滑りナットとの一方にねじ孔を設けるとともに、他方に貫通孔を設け、貫通孔を通してボルトをねじ孔にねじ込むことにより、ナットアタッチメントと滑りナットとを固定することもできる。また、ナットアタッチメントと滑りナットとの一方におねじを形成し、他方に当該おねじと噛み合うめねじを形成し、おねじをめねじにねじ込むことにより、ナットアタッチメントと滑りナットとを固定することもできる。
上述のように、滑りナット200は、ねじ軸300のねじ溝309と噛み合うように構成されているので、ねじ軸300を中心軸Cを中心に回転させると、滑りナット200が中心軸Cに沿った方向に移動する。通常、滑りナット200においてねじ軸300のねじ溝309と噛み合う噛合部(図示しない)と、ねじ軸300に形成されたねじ溝309との間には、滑りナット200とねじ軸300との相対的な回転を可能とするため、隙間が設けられている。そのため、ねじ軸300を一方に回転させ、その後、回転方向を反転させると、回転方向の反転の直後は、滑りナット200が移動しない。このようにねじ軸300の回転方向の反転の直後に滑りナット200が移動しないバックラッシュ(「ロストモーション」とも呼ばれる)が生ずることにより、ねじ軸300の回転角度と、滑りナット200の位置との対応関係が一意に定まらない。そのため、滑りナット200に固定された駆動対象物の位置決めを高い精度で行うことが困難となる。
詳細については後述するが、第1実施形態では、ナットアタッチメント100を滑りナット200に固定することにより、ねじ軸300を中心軸Cを中心に回転させ、ナットアタッチメント100および滑りナット200を中心軸Cの方向に移動させる際のバックラッシュを低減している。これにより、ナットアタッチメント100および滑りナット200に固定された駆動対象物の位置決めを、より高い精度で行うことを可能としている。なお、ねじ軸300および滑りナット200としては、一般的に市販されているねじ軸および滑りナットを使用することができ、その詳細な構成は、本発明に直接関連しない。そのため、ねじ軸300および滑りナット200についての詳細な説明は、省略する。
A2.ナットアタッチメントおよび滑りナットの構成:
図2は、ナットアタッチメント100と滑りナット200との具体的な構成を示す説明図である。図2(a)および図2(b)は、それぞれ、ナットアタッチメント100および滑りナット200を図1と同一の方向から見た様子を示している。
図2(a)に示すように、ナットアタッチメント100は、大径のフランジ部110と、ボール保持リング120と、ストッパリング130と、4つのボール140とを有している。フランジ部110には、中心軸Cに平行な2つの平坦部111と、ボール保持リング120およびストッパリング130を収容する凹部112と、中心軸C方向に貫通する中心穴118および4つの貫通孔119とが設けられている。中心穴118の内径は、ねじ軸300(図1)の外径よりもやや大きく設定される。ボール保持リング120は、ボール140の一部分が内方に突出した状態で、ボール140を保持するように構成されている。このように内方に突出したボール140の一部分(突出部)は、ねじ軸300(図1)のねじ溝309と噛み合う。そのため、ボール140の突出部を含むボール140全体と、ボール保持リング120とは、全体で、ねじ溝309と噛み合う「噛合部」とも呼ぶことができる。なお、フランジ部110と、ボール保持リング120と、ストッパリング130と、ボール140との具体的な形状については、後述する。
図2(b)に示すように、滑りナット200は、大径のフランジ部210と、ねじ軸300(図1)のねじ溝309と噛み合うめねじとして形成されためねじ部220とを有している。フランジ部210は、中心軸Cに平行な2つの平坦部211と、中心軸C方向に貫通する中心穴218とが設けられている。めねじ部220は、外径がフランジ部210の中心穴218の内径とほぼ同じ円筒状の部材であり、図2(b)に示すように、フランジ部210の中心穴218に嵌め込まれた状態で、フランジ部210に固定される。めねじ部220には、中心軸C方向に貫通する中心穴228と、中心穴228から内方に突出した突出部221とが設けられている。突出部221は、中心軸Cを含む平面で切断した断面形状が半円形状となるように形成されている。滑りナット200においても、突出部221がねじ軸300(図1)のねじ溝309と噛み合うように構成されているので、突出部221は、ねじ溝309と噛み合う「噛合部」とも呼ぶことができる。なお、図2(b)の例では、フランジ部210とめねじ部220とを別個の部材として構成しているが、フランジ部210とめねじ部220とを一体の部材として形成することも可能である。
なお、図1および図2から明らかなように、ナットアタッチメント100のフランジ部110と、滑りナット200のフランジ部210とは、その外縁が同一形状となっている。また、ナットアタッチメント100のフランジ部110は、ナットアタッチメント100を滑りナット200に固定するために使用されるので、「ナット固定部」とも呼ぶことができる。一方、滑りナット200のフランジ部210は、駆動対象物を固定するために使用されるので、「対象物固定部」とも呼ぶことができる。
A3.ナットアタッチメント各部の形状:
図3は、ナットアタッチメント100の各部の形状を示す説明図である。図3(a)ないし図3(c)は、それぞれ、フランジ部110と、ボール保持リング120およびボール140と、ストッパリング130とを、滑りナット200(図1)側から見た様子を示している。なお、ナットアタッチメント100の滑りナット200側の面は、ナットアタッチメント100が滑りナット200に取り付けられる面であるので、以下では、「取付面」とも呼び、滑りナット200側を「取付面側」とも呼ぶ。
図3(a)に示すように、フランジ部110に設けられた凹部112は、取付面側に開口し、内面がほぼ円形に形成されている。ここで、「内面がほぼ円形」とは、内面の中心軸C(図2)に直交する面での断面がほぼ円形であることを言う。また、特に断らない限り、以下では、他の表面形状についても、中心軸Cに直交する面での断面形状で表記する。凹部112の内面には、凹部112の底から取付面側に伸びる扇面状の伸長部113が2つ設けられている。この伸長部113は、フランジ部110において、平坦部111が設けられていない方向(図3の左右方向)の両端に配置されている。
図3(b)に示すように、ボール保持リング120は、中心軸C(図2)方向に貫通する中心穴128が設けられた円環状の環状部121と、環状部121から外方に突出する2つの突起部123とを有している。環状部121の外径は、フランジ部110が有する伸長部113の内径よりもやや小さく設定される。また、突起部123の最大径は、フランジ部110に設けられた凹部112の内径よりもやや小さく設定される。ボール保持リング120の厚さは、フランジ部110に設けられた伸長部113の凹部112の底から取付面側までの長さよりもやや短く設定される。これにより、ボール保持リング120は、ボール保持リング120およびストッパリング130をフランジ部110に嵌め込んだ状態で、中心軸Cを中心に回転可能となる。また、環状部121に設けられた中心穴128の内径は、フランジ部110に設けられた中心穴118の内径とほぼ同じに設定される。ボール保持リング120の環状部121には、ボール140を収容するための、取付面とは反対側に開口したボール収容穴122が設けられている。ボール収容穴122は、内径がボール140の外径よりもやや大きく、かつ、深さがボール140よりもやや長く形成された、内面がほぼ円形の穴である。このようにすることで、ボール140は、回転可能な状態で、ボール保持リング120に保持される。このボール収容穴122にボール140を嵌め込むことにより、上述のように、ボール140の一部分が、内方に突出する。なお、図3(b)に示すように、ボール収容穴122の中心は、ボール保持リング120の環状部121の内面よりも外方に位置しているので、ボール収容穴122の内方の開口幅は、ボール140の直径よりも狭くすることができる。このようにすれば、ボール140が中心軸C(図2)側に脱落することを抑制することできる。なお、図3(b)から明らかなように、ボール保持リング120は、全体として環状に形成されている。
図3(c)に示すように、ストッパリング130は、中心軸C(図2)方向に貫通する中心穴138が設けられた円環状の部材である。中心穴138の内径は、フランジ部110に設けられた中心穴118およびボール保持リング120の環状部121に設けられた中心穴128の内径とほぼ同じに設定される。ストッパリング130の外径は、フランジ部110に設けられた凹部112の内径よりもやや小さく設定される。また、ストッパリング130の厚さは、フランジ部110に設けられた伸長部113の取付面側の端面から、フランジ部110の取付面側の端面まで長さとほぼ同じに設定される。これにより、ストッパリング130がフランジ部110の取付面側から突出しないように、ボール保持リング120とストッパリング130とが、フランジ部110に収容される。このようにフランジ部110に、ボール140が嵌め込まれたボール保持リング120と、ストッパリング130とが収容された状態は、フランジ部110あるいはフランジ部110の凹部112に、ボール保持リング120とストッパリング130とが埋め込まれているとも謂うことができる。
A4.ナットアタッチメントの組立態様:
図4は、ナットアタッチメント100,100aの組立態様を示す説明図である。図4(a)は、第1実施形態としてのナットアタッチメント100を組み立てた状態を示している。図4(b)は、第1実施形態のナットアタッチメント100を構成する部材と同一の部材を用いて、異なる態様で組み立てた変形例を示している。図4(a)および図4(b)は、それぞれ、ナットアタッチメント100,100aを取付面側から見た様子を示している。また、図4(a)および図4(b)では、ナットアタッチメント100,100aの組立態様を明確に示すため、ストッパリング130を透視した状態で描いている。なお、上述のように、フランジ部110に設けられた中心穴118、ボール保持リング120の環状部121に設けられた中心穴128、および、ストッパリング130に設けられた中心穴138は、内径がほぼ同じで、いずれも中心軸C(図2)を中心に形成されているので、同軸に重なり合う。そのため、以下では、これらの中心穴118,128,138を併せて、ナットアタッチメント100,100aに形成された単一の中心穴108としても取り扱う。
ナットアタッチメント100は、フランジ部110に設けられた凹部112の取付面側に、ボール140が取り付けられたボール保持リング120および2つのばね150と、ストッパリング130とをこの順に取り付けることにより組み立てられる。図4(a)に示すように、ボール保持リング120は、その環状部121がフランジ部110の伸長部113の内方に位置するとともに、突起部123が伸長部113の形成されていない領域に位置するように、配置される。ばね150は、伸長部113の形成されていない領域において、伸長部113の径方向に延びる端面と突起部123との間に配置される。そして、ストッパリング130を、フランジ部110に形成された凹部112の内方に配置するように取り付けることにより、フランジ部110とストッパリング130との間に、ボール保持リング120とばね150とが挟み込まれる。これにより、ボール保持リング120とばね150との脱落が抑制される。また、図4(a)に示すようにばね150を配置することにより、ボール保持リング120と、ボール保持リング120に取り付けられたボール140とは、矢印に示すように、取付面側から見て時計回りに回転するように付勢される。なお、付勢による回転は、中心軸C(図2)を中心とし、また、フランジ部110に対するものであることは、図4から明らかなであるため、本明細書等においては、付勢による回転の中心、および、回転の基準については言及しない。
図4(b)に示すナットアタッチメント100aは、ボール保持リング120とばね150との位置関係が、図4(a)に示すナットアタッチメント100と反対になっている。そのため、ボール保持リング120と、ボール保持リング120に取り付けられたボール140は、矢印に示すように、取付面側から見て反時計回りに回転するように付勢される。他の点は、図4(a)に示すナットアタッチメント100と同じである。
A5.ボール保持リングおよびボールへの付勢の作用:
図5は、ボール保持リング120およびボール140への付勢の作用を説明する説明図である。図5は、中心軸Cを通りフランジ部110,210に設けられた平坦部111,211(図2)に平行な面で切断した、伝動機構10の断面を示している。なお、図5において、矢印は、ボール保持リング120およびボール140への付勢の方向と、各部にかかる荷重の方向を示している。
上述のように、第1実施形態のナットアタッチメント100では、ボール保持リング120と、ボール保持リング120に取り付けられたボール140とは、取付面側から見て時計回りに回転するように付勢される。また、ねじ軸300に形成されたねじ溝309は、4条の右ねじを構成する。そのため、付勢されたボール140は、滑りナット200側からナットアタッチメント100側に向かう方向に移動する。このとき、ナットアタッチメント100と滑りナット200とが固定されているため、ボール140の荷重方向への移動が規制されるので、ボール140は、フランジ部110の凹部112の底面に接触する。これにより、凹部112の底面からボール140には、ナットアタッチメント100側から滑りナット200側に向かう方向(図5では下向き)の荷重が加わる。このようにボール140に荷重が加わることにより、ボール140からねじ溝309には、ボール140に加わる荷重と同一方向である、ナットアタッチメント100側から滑りナット200側に向かう方向の荷重が加わる。
一方、凹部112の底面からボール140に加わる荷重の反作用として、ボール140から凹部112の底面には、滑りナット200側からナットアタッチメント100側に向かう方向(図5では上向き)の荷重が加わる。上述のように、ナットアタッチメント100と滑りナット200とは固定されているので、滑りナット200にも滑りナット200側からナットアタッチメント100側に向かう方向の荷重が加わり、滑りナット200のめねじ部220に設けられた突出部221からねじ溝309にも、同一方向である滑りナット200側からナットアタッチメント100側に向かう方向の荷重が加わる。
このように、第1実施形態のナットアタッチメント100では、ボール保持リング120と、ボール保持リング120に取り付けられたボール140とを、取付面側から見て時計回りに回転するように付勢しているため、ボール140および突出部221のそれぞれには、ボール140および突出部221を互いに近づけるような荷重が加わる。なお、図4(b)に示すように、ボール保持リング120およびボール140が取付面側から見て反時計回り方向に付勢されている場合には、ボール140および突出部221のそれぞれには、ボール140および突出部221を互いに離すような荷重が加わる。
A6.バックラッシュの低減:
図6は、ボール140および突出部221に荷重を加えることによりバックラッシュが低減される様子を示す説明図である。図6(a)ないし図6(c)は、ナットアタッチメント100,100a(図4)を構成するボール140、滑りナット200(図5)を構成するめねじ部220およびねじ軸300の断面を拡大して描いている。
図6(a)に示すように、ボール140およびめねじ部220の突出部221のそれぞれに、ボール140および突出部221を互いに近づけあるいは離すような荷重が加わっていない場合、ボール140とねじ軸300のねじ溝309との間、および、突出部221とねじ溝309との間に隙間が存在する。そのため、ねじ軸300の回転を反転させた際に、形成された隙間に相当する回転角分のバックラッシュが生じる。
これに対し、図6(b)に示すように、ボール140および突出部221のそれぞれに、ボール140および突出部221を互いに近づけるような荷重が加わっている場合、ボール140のめねじ部220側の位置と、突出部221のボール140側の位置とにおいて、ボール140および突出部221と、ねじ軸300のねじ溝309とが接触した状態に保たれる。そのため、ねじ軸300の回転が反転し、ねじ溝309の進行方向が反対方向に切り替わった際においても、ボール140および突出部221のいずれか一方が常にねじ溝309により移動させられるので、バックラッシュが低減される。
同様に、図6(c)に示すように、ボール140および突出部221のそれぞれに、ボール140および突出部221を互いに離すような荷重が加わっている場合、ボール140のめねじ部220側とは反対の位置と、突出部221のボール140側とは反対の位置とにおいて、ボール140および突出部221と、ねじ軸300のねじ溝309とが接触した状態に保たれる。そのため、ねじ軸300の回転が反転し、ねじ溝309の進行方向が反対方向に切り替わった際においても、ボール140および突出部221のいずれか一方が常にねじ溝309により移動させられるので、バックラッシュが低減される。
A7.ナットアタッチメントの構成の変形例:
図7は、ナットアタッチメントの構成の変形例を示す説明図である。図7(a)および図7(b)に示すナットアタッチメント100b,100cは、ボール保持リング120b,120cおよびボール140を付勢するための構成が第1実施形態のナットアタッチメント100と異なっている。なお、図7(a)および図7(b)に示すナットアタッチメント100b,100cにおいても、第1実施形態のナットアタッチメント100と共通する部分があるため、共通部分については、第1実施形態と同一の符号を付し、その説明を省略する。
図7(a)に示すナットアタッチメント100bは、ばね150(図4)に替えて、円筒状の弾性部材150bを用いて、ボール保持リング120bおよびボール140を付勢している。弾性部材150bは、ゴムやスポンジ等の弾性変形が可能な種々の材料で形成することができる。ナットアタッチメント100bのフランジ部110bには、内面がほぼ円形で、中心軸を軸として等角の位置(以下、単に「等角位置」とも呼ぶ)において外方に延びる凹部112bが形成されている。この凹部112bの底面には、取付面側に延びる伸長部113bが4つ設けられている。ボール保持リング120bの環状部121bには、突起部123(図4)に替えて、外周部から内方に向かう切欠123bが設けられている。凹部112bにおいて外方に延びた領域と、隣接する伸長部113bにおいて対向する面と、環状部121bに設けられた切欠123bとは、弾性部材150bを挿入可能とするように、全体として内面がほぼ円形となるように形成されている。なお、弾性部材の形状、および、弾性部材が挿入される領域の内面形状とは、適宜変更することも可能である。
図7(a)では、ナットアタッチメント100bを滑りナット200(図1)に固定し、ナットアタッチメント100bおよび滑りナット200をねじ軸300に取り付けた際に、弾性部材150bが変形するように、ボール140の位置を調整している。これにより、ボール保持リング120bおよびボール140は、取付面側から見て時計回り方向に付勢される。なお、ボール140の位置の調整は、中心軸を基準として、ボール140が嵌め込まれるボール収容穴122と、切欠123bとがなす角度を調整することにより、適宜調整することができる。また、ボール140の位置を適宜調整して、ボール140を取付面側から見て反時計回り方向に付勢するようにすることも可能である。このように、図7(a)に示すナットアタッチメント100bにおいても、ボール140を取付面側から見て回転させるように付勢することができる。そのため、図7(a)に示すナットアタッチメント100bを用いても、第1実施形態のナットアタッチメント100と同様に、伝動機構のバックラッシュを低減することができる。なお、図7(a)から明らかなように、ボール保持リング120bは、全体として環状に形成されている。
図7(b)に示すナットアタッチメント100cは、コイル状のばね150(図4)に替えて、渦巻きばね150cを用いて、ボール保持リング120cおよびボール140を付勢している。渦巻きばね150cは、その両端部が渦巻きばね150cの主平面に対して直交する一方向に曲げられている。ナットアタッチメント100cのフランジ部110cには、内面が同心の2つの円形を形成するように、浅い外周部113cを有する凹部112cが設けられている。外周部113cには、渦巻きばね150cの一端を挿入するためのばね挿入孔115cが設けられている。ボール保持リング120cの環状部121cは、突起部123(図4)あるいは切欠123b(図7(a))を設けず、その外周が円形となっている。環状部121cも、外周部113cと同様に、渦巻きばね150cの他端を挿入するためのばね挿入孔125cが設けられている。このように、外周部113cおよび環状部121cにばね挿入穴115c,125cを設け、ばね挿入穴115c,125cに渦巻きばね150cの端部を挿入することにより、ボール保持リング120cおよびボール140を取付面側から見て時計回り方向に付勢している。なお、図7(b)に示すナットアタッチメント100cでは、渦巻きばね150cの変形が抑制されないように、ストッパリング130を省略している。そのため、ナットアタッチメント100cでは、ボール保持リング120cおよびボール140を取付面側から見て時計回り方向に付勢するのが好ましい。このように、図7(b)に示すナットアタッチメント100cにおいても、ボール140を回転させるように付勢することができる。そのため、第1実施形態のナットアタッチメント100と同様に、伝動機構のバックラッシュを低減することができる。なお、図7(b)から明らかなように、ボール保持リング120cは、全体として環状に形成されている。
渦巻きばね150cを用いてボール140を付勢する場合、フランジ部の外周部あるいはボール保持リングの環状部に複数のばね挿入孔を設け、端部が挿入されるばね挿入孔を変更することにより、ボール140を回転させるように付勢する力の強さを調整することができる。この点において、渦巻きばね150cを用いてボール140を回転させるように付勢するのが好ましい。なお、この場合、ナットアタッチメント100cを滑りナット200(図1)に取り付けていない状態、すなわち、図7(b)に示す状態において、渦巻きばね150cの形状が変わる。従って、渦巻きばね150cの形状を変えることにより、ボール140を付勢する力の強さを調整できるように構成されているとも謂うことができる。なお、ボール140を付勢する力が強くなると、ナットアタッチメント100cおよび滑りナット200(図1)を、ねじ軸300に対して回転させるために要する力が強くなる。一方、ボール140を付勢する力が弱くなると、バックラッシュの低減効果が減弱する。そのため、ボール140を付勢する力の強さを調整可能とすることにより、ボール140を付勢する力の強さを伝動機構の使用目的に応じて適宜調整し、伝動機構の動作をより適切に調整することが可能となる。これに対し、端部が曲げられた渦巻きばねは作成が必ずしも容易でなく、また、ボール140の付勢方向を変えることが必ずしも容易でない。これらの点において、他の方法でボール140を回転させるように付勢するのが好ましい。
以上で説明したように、第1実施形態では、滑りナット200に固定的に取り付けられるナットアタッチメント100において、ねじ軸300のねじ溝309に噛み合うボール140を中心軸C(図1)の回りに回転させるように付勢している。言い換えれば、ねじ軸300のねじ溝309に噛み合う噛合部を構成するボール140は、ナットアタッチメント100が取り付けられる滑りナット200に対して相対的に回転するように、付勢部(ばね150)により付勢されている。そのため、ボール140と、滑りナット200の突出部221とのそれぞれに、ボール140と突出部221とが互いに近づきあるいは離れるような荷重を加えることができる。これにより、ねじ軸300の回転が反転し、ねじ溝309の進行方向が反対方向に切り替わった際においても、ボール140および突出部221のいずれか一方が常にねじ溝309により移動させられるようにすることができるので、より安定的にバックラッシュを低減することが可能となる。
また、第1実施形態では、ボール140を回転するように付勢することで、ボール140および滑りナット200の突出部221に、ボール140および突出部221を互いに近づけあるいは離すような荷重を加えている。そのため、ボール140、突出部221あるいはねじ軸300が摩耗した状態においても、ボール140および突出部221に荷重を加え続けることが可能となる。さらに、ボール140および突出部221に加わる荷重は、滑りナット200に固定されたフランジ部110に対してボール140が回転するように、ボール140を付勢することにより加えられるので、ナットアタッチメント100と滑りナット200とに、ナットアタッチメント100と滑りナット200とを互いに近づけあるいは離す荷重が加わった場合においても、ボール140および突出部221に加わる荷重が維持され、バックラッシュを低減する効果が減弱することが抑制される。
さらに、第1実施形態では、バックラッシュを解消する機能は、フランジ部110の凹部112と、凹部112に埋め込まれたボール保持リング120およびストッパリング130とにより実現される。そのため、凹部112よりも外方の形状を変えるのみでナットアタッチメントのフランジ部の形状を変更することが可能となるので、フランジ部の形状が異なる滑りナットに対応したナットアタッチメントをより容易に製造することが可能となる。そして、ナットアタッチメントおよび滑りナットのそれぞれのフランジ部の外縁を同一形状とすることにより、ナットアタッチメントを取り付けることによる伝動機構の形状の変化を抑制することができる。そのため、滑りナットを使用した既存の伝動機構のバックラッシュを低減することがより容易となる。
また、第1実施形態では、バックラッシュを解消する機能を実現するためのボール保持リング120およびストッパリング130は、フランジ部110の凹部112に埋め込まれた状態となる。そのため、ナットアタッチメント100をより容易に薄型化することができる。そして、ナットアタッチメント100を薄型化することで、ナットアタッチメント100を取り付けることによる伝動機構10の形状の変化を抑制することができる。そのため、滑りナット200を使用した既存の伝動機構のバックラッシュを低減することがより容易となる。
B.第2実施形態:
図8は、第2実施形態のナットアタッチメント100dの構成を示す説明図である。第2実施形態のナットアタッチメント100dは、フランジ部110dに設けられた伸長部113dと、ボール保持リング120dの突起部123dとが、第1実施形態のナットアタッチメント100とずれた位置に配置されている点と、ばね150dが直線状に配置されている点と、フランジ部110dにねじ孔116dが設けられている点と、ねじ孔116dにねじ込まれる芋ねじ160dを有している点で、第1実施形態のナットアタッチメント100と異なっている。他の点は、第1実施形態のナットアタッチメント100と同様である。
図8に示すように、第2実施形態のナットアタッチメント100dでは、平坦部111dから凹部112dの外周部に向かって貫通するねじ孔116dが形成されている。なお、ねじ孔116dは、ねじ込まれる芋ねじ160dが凹部112dの底付近に位置するように形成される。そして、ねじ孔116dにねじ込まれる芋ねじ160dの先端と、伸長部113dの径方向に延びる一端面との間にばね150dが配置されている。この状態で、芋ねじ160dをねじ込んでいくと、ばね150dが圧縮され、突起部123dに加わる力が強くなる。一方、芋ねじ160dを抜いていくと、ばね150dが伸長し、突起部123dに加わる力が弱くなる。そのため、ボール保持リング120dおよびボール140を取付面側から見て時計周りに回転させるように付勢する力を調整することがより容易となる。なお、芋ねじ160dをねじ込んでいき、あるいは、芋ねじ160dを抜いていくことにより、ナットアタッチメント100dを滑りナット200(図1)に取り付けていない状態、すなわち、図8に示す状態において、付勢部(ばね150d)の形状が変わる。従って、第2実施形態のネットアタッチメント100dも、付勢部の形状を変えることにより、ボール140を付勢する力の強さを調整できるように構成されているとも謂うことができる。また、図8の例では、ボール保持リング120dおよびボール140を付勢する付勢部として、ばね150dを用いているが、ばね150dに替えて、弾性部材を付勢部として用いることも可能である。この場合においても、芋ねじ160dをねじ込んでいき、あるいは、芋ねじ160dを抜いていくことにより、弾性部材(付勢部)が変形するので、付勢部の形状を変えることにより、ボール140を付勢する力の強さを調整することが可能となっていると謂える。
第2実施形態のナットアタッチメント100dでは、フランジ部110dから突出した芋ねじ160dを操作することにより、ボール140を回転させるように付勢する付勢力を変更することができる。そのため、ナットアタッチメント100dおよび滑りナット200をねじ軸300に取り付ける際には、付勢力を小さくすることにより、ナットアタッチメント100dおよび滑りナット200のねじ軸300への取り付けをより容易にすることができる。一方、ナットアタッチメント100dおよび滑りナット200をねじ軸300に取り付けた後、付勢力を大きくすることにより、ボール140と、滑りナット200の突出部221とに加わり、ボール140と突出部221とを互いに近づけあるいは離す荷重をより大きくすることができる。そのため、伝動機構のバックラッシュをより確実に低減することが可能となる。さらに、第2実施形態のナットアタッチメント100dでは、ボール140に加わる付勢力を変更することが可能であるため、ボール140に加わる付勢力を伝動機構の使用目的に応じて適宜調整し、伝動機構の動作をより適切にすることが可能となる。これらの点において、第2実施形態は、第1実施形態よりも好ましい。一方、第1実施形態は、ナットアタッチメント100の構成がより簡単になる点で、第2実施形態よりも好ましい。
C.第3実施形態:
図9は、第3実施形態におけるナットアタッチメント100eの構成を示す分解斜視図である。ナットアタッチメント100eは、フランジ部110eと、球状の弾性部材150eと、ボール保持リング120eと、ボール140と、ストッパリング130とに加え、調整部材170eと、固定リング180eとを有している。これらの各部材180e,110e,170e,150e,120e,130は、図9に示すように、中心軸C方向に組み付けられ、ナットアタッチメント100eが形成される。
第3実施形態のフランジ部110eは、図3(a)に示す第1実施形態のフランジ部110と、中心穴118eの径が大きくなっている点、および、凹部112の底から取付面側に伸びる伸長部113が設けられていない点で、異なっている。また、第3実施形態のボール保持リング120eは、中心軸C方向の厚さが薄くなっており、ボール収容穴122eが中心軸C方向に貫通するように形成されている点と、突起部123eが扇面状に形成されている点で、第1実施形態のボール保持リング120と異なっている。
調整部材170eは、外径がフランジ部110eの中心穴118eの内径よりもやや小さい円筒状の筒状部171eと、外径がフランジ部110eの凹部112eの内径よりもやや小さい平板状の板状部172eと、板状部172eから取付面側に延びる扇面状の伸長部173eとを有している。伸長部173eは、外径が板状部172eの外径とほぼ同じで、内径がボール保持リング120eの環状部121eの外径よりもやや大きくなるように形成されている。そのため、調整部材170eおよびボール保持リング120eは、一定の範囲内で、中心軸Cを中心として相対的に回転可能であり、調整部材170eおよびボール保持リング120eは、フランジ部110eに対して、中心軸Cを中心として自在に回転可能である。
固定リング180eは、外径がフランジ部110eの中心穴118eの内径よりも大きい円環状の部材である。固定リング180eには、内径が固定部材170eの筒状部171eの外径とほぼ同じ中心穴188eが形成されている。この中心穴188eの内面には、調整部材170eの筒状部171eの外面に形成されたおねじと噛み合うめねじが形成されている。
図9に示すように、調整部材170eの筒状部171eを中心軸C方向に十分長くすることにより、フランジ部110eの中心穴118eを通して、筒状部171eを取付面と反対側に突出させる。そして、筒状部171eの外面に形成されたおねじと、固定リング180eの中心穴188eの内面に形成されためねじとを噛み合わせ、締め付けることにより、調整部材170eと固定リング180eとは、フランジ部110eに固定される。
図10は、第3実施形態においてボール保持リング120eが付勢される様子を示す説明図であり、フランジ部110e、調整部材170e、弾性部材150e、ボール保持リング120e、および、ボール140の位置関係を示している。図10(a)は、図1と同様に、ナットアタッチメント100eを滑りナット200に取り付けるとともに、ねじ軸300をナットアタッチメント100eと滑りナット200とに通した状態、すなわち、伝動機構を組み立てた状態を示しており、図10(b)は、伝動機構を組み立てた状態で、さらにボール保持リング120eを付勢した状態を示している。
図10(a)に示すように、ナットアタッチメント100eを組み付けると、弾性部材150eは、調整部材170eの伸長部173eと、ボール保持リング120eの突起部123eとの間に位置する。そして、調整部材170eを矢印で示すように取付面側から見て時計回りに回転させると、調整部材170eの伸長部173eと、弾性部材150eと、ボール保持リング120eの突起部123eとが接触する。
なお、図10(a)から明らかなように、弾性部材150eを配置しない状態において、調整部材170eとボール保持リング120eとを互いに回転させると、調整部材170eの伸長部173eと、ボール保持リング120eの突起部123eとが接触する。そのため、伸長部173eと突起部123eとは、それぞれ、弾性部材150eを除去した状態で調整部材170eとボール保持リング120eとを互いに回転させた際に接触し得る当接部とも呼ぶことができる。また、一般的には、調整部材とボール保持リングとは、弾性部材を除去した状態で調整部材とボール保持リングとを互いに回転させた際に接触し得るように構成されていれば良く、伸長部と突起部との形状を種々変更することも可能である。
この状態において、さらに調整部材170eを取付面側から見て時計回りに回転させると、弾性部材150eが変形する。これにより、ボール保持リング120eは、矢印で示すように調整部材170eの回転方向、すなわち、取付面側から見て時計回りに付勢される。これにより、ボール保持リング120eのボール収容穴122eに収容されたボール140は、取付面側から見て時計回りに付勢される。そして、ボール保持リング120eが付勢された状態で、固定リング180e(図9)と調整部材170eとを締め付け、調整部材170eをフランジ部110eに固定することで、ボール保持リング120eおよびボール140は、付勢された状態に維持される。
また、第3実施形態のナットアタッチメント100eでは、伝動機構を組み立てた後に、調整部材170eをフランジ部110eに対して回転させることで、ボール保持リング120eおよびボール140をフランジ部110eに対して回転させるように付勢することができる。そのため、伝動機構の組立をより容易に行うことができる。
さらに、第3実施形態のナットアタッチメント100eでは、伝動機構を組み立てた状態において、調整部材170eの回転状態を調整して、弾性部材150eの変形の程度を調整することができる。そのため、伝動機構を組み立てた状態で、ボール保持リング120eおよびボール140が付勢される力を調整することができるので、付勢力を伝動機構の使用目的に応じて適宜調整し、伝動機構の動作をより適切に調整することが容易となる。
なお、図9および図10の例では、取付面側から見て時計回りに、伸長部173eと、弾性部材150eと、突起部123eとがこの順で接触するように弾性部材150eを配置しているが、取付面側から見て反時計回りに、伸長部173eと、弾性部材150eと、突起部123eとがこの順で接触するように弾性部材150eを配置するものとしても良い。この場合、ボール保持リング120eおよびボール140は、取付面側から見て反時計回りに付勢される。
また、図9および図10の例では、弾性部材150eを球状としているが、弾性部材を直方体状や扇面状とすることも可能であり、また、弾性部材150eに替えてばねを用いることも可能である。一般的には、調整部材170eの伸長部173eおよびボール保持リング120eの突起部123e(当接部)との間には、弾性部材やばね等の付勢部材を配置すればよい。
さらに、第3実施形態では、ボール保持リング120eおよびボール140の中心軸C方向の移動がフランジ部110eの凹部112eに埋め込まれたストッパリング130により規制されているが、他の方法により、ボール保持リング120eやボール140の中心軸C方向の移動を規制するものとしても良い。例えば、外縁形状がフランジ部110eとほぼ同形状で、フランジ部110eと同様の貫通穴と、ストッパリング130と同様の中心穴が形成された板材(ストッパ板)をフランジ部110eの取付面側に取り付けるものとしても良い。この場合、フランジ部とストッパ板とをねじ等により固定するようにすれば、ナットアタッチメントを単独で取り扱う際においても、ナットアタッチメントの各部が分離して脱落することを抑制することができる。
D.第4実施形態:
図11は、第4実施形態におけるナットアタッチメント100fの構成を示す分解斜視図である。第4実施形態のナットアタッチメント100fは、固定リング180eに替えて、固定部117fをフランジ部110fに設けている点と、調整部材170fの筒状部171fと、固定リング180eの中心穴188eの内面とに形成されたねじを省略している点で、第3実施形態のナットアタッチメント100eと異なっている。他の点は、第3実施形態と同様である。
上述のように、第4実施形態のフランジ部110fには、その取付面側と反対側に円環状の固定部117fが設けられている。この固定部117fには、平坦部111eから中心軸Cに向かう方向、および、当該方向と中心軸Cを中心に90度回転した方向のねじ孔116fが形成されている。筒状部171fをフランジ部110fの中心穴118fに通した状態で、これらのねじ孔116fに芋ねじ等の止めねじをねじ込むことで、調整部材170fは、フランジ部110fに固定することができる。
このように、調整部材170fをフランジ部110fに固定することができるので、第4実施形態のナットアタッチメント100fにおいても、図10に示す第3実施形態と同様に、調整部材170fをフランジ部110fに対して回転し、弾性部材150eを変形させた状態で、調整部材170fをフランジ部110fに固定することで、ボール保持リング120eおよびボール140を付勢された状態に維持することができる。
そのため、第4実施形態においても、伝動機構を組み立てた後に、ボール保持リング120eおよびボール140をフランジ部110fに対して回転するように付勢することができるので、伝動機構の組立をより容易に行うことができる。また、伝動機構を組み立てた状態において、ボール保持リング120eおよびボール140が付勢される力を調整することができるので、付勢力を伝動機構の使用目的に応じて適宜調整し、伝動機構の動作をより適切に調整することが容易となる。
このように、第4実施形態では、フランジ部110fの固定部117fに形成されたねじ孔116fに止めねじをねじ込むことで、調整部材170fをフランジ部110fに対して固定することができる。そのため、調整部材170fをフランジ部110fに固定する際に、フランジ部110fに対して回転する力が調整部材170fに加わることを抑制し、ボール保持リング120eおよびボール140に加わる付勢力をより正確に調整することができる。この点において、第4実施形態は、第3実施形態よりも好ましい。一方、第3実施形態は、ナットアタッチメント100eの構成をより簡単にすることができる点で、第4実施形態よりも好ましい。
なお、第4実施形態のナットアタッチメント100fでは、フランジ部110fにねじ孔116fが設けられた固定部117fを設けているが、固定部117fを省略することも可能である。この場合、フランジ部の平坦部111にねじ孔を設け、当該ねじ孔に芋ねじ等の止めねじをねじ込むことで、調整部材170fをフランジ部に固定することができる。
第4実施形態においても、調整部材170fの筒状部171fを中心軸C方向に十分に長くすることにより、調整部材170fをフランジ部110fの取付面と反対側に突出させているが、必ずしも調整部材170fをフランジ部110fの取付面と反対側に突出させる必要はない。この場合、筒状部の取付面と反対側を工具に掛かる形状(例えば、取付面方向に形成された凹部)とし、当該形状に適合する工具を用いることで、調整部材をフランジ部に対して回転させることができる。但し、調整部材170fをフランジ部110fに対して回転させ、ボール保持リング120eおよびボール140をより容易に付勢することができる点で、調整部材170fをフランジ部110fの取付面と反対側に突出させるのが好ましい。
E.変形例:
本発明は上記各実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
E1.変形例1:
上記各実施形態では、ナットアタッチメント100,100a,100b,100c,100d,100e,100fを滑りナット200に固定しているが、滑りナット200に替えて、ボールナット等の伝動機構として使用される種々のナット(伝動ナット)にナットアタッチメント100,100a,100b,100c,100d,100e,100fを取り付けることも可能である。このようにしても、伝動ナットにおいてねじ軸300のねじ溝309と噛み合う噛合部と、ボール140とに、噛合部とボール140とを互いに近づけあるいは離すような荷重を加えることができるので、伝動機構のバックラッシュを低減することが可能となる。
E2.変形例2:
上記各実施形態では、ナットアタッチメント100,100a,100b,100c,100d,100e,100fにおいて、ボール保持リング120,120b,120c,120d,120eに嵌め込まれたボール140をねじ軸300のねじ溝309に噛み合わせているが、ボール保持リング120,120b,120c,120d,120eと同様に回転するように付勢されるリングにねじ溝309と噛み合う突起を設けるものとしても良い。この場合、ナットアタッチメント100,100a,100b,100c,100d,100e,100fを取り扱う際にボール140が脱落することが抑制されるので、ナットアタッチメントの取り扱いをより容易にすることができる。但し、ねじ軸300を回転させた際のナットアタッチメント100,100a,100b,100c,100d,100e,100fとねじ軸300との間の摩擦をより小さくし、ねじ軸300や噛合部を構成する突起の摩耗を抑制し、また、動力の伝達効率をより高くすることが可能となる点で、ボール保持リング120,120b,120c,120d,120eに嵌め込まれたボール140をねじ溝309と噛み合わせるのが好ましい。
E3.変形例3:
上記各実施形態では、4条のねじを構成するねじ溝309が設けられたねじ軸300を使用しているが、ねじ軸の条数を種々変更することも可能である。この場合、ねじ軸の条数に応じて、ボール保持リングに嵌め込まれるボールの数が変更される。なお、ボールの数は、1以上の任意の数とすることができるが、ボール保持リングの傾きを抑制するために、3以上とするのが好ましい。さらに、ボールの数は、ボール等の耐久性をより高めるために、4以上とするのが好ましい。また、ボールおよびボール保持リングのボール収容穴の位置は、ボール保持リングの傾きを抑制するために、等角位置とするのが好ましい。なお、ねじ軸の条数とボールの数とが異なる場合には、ボールの位置は、ねじ軸のリードに合わせて、中心軸Cの方向に沿って調整される。
E4.変形例4:
上記各実施形態では、滑りナット200に固定されるナットアタッチメント100,100a,100b,100c,100d,100e,100fに本発明を適用しているが、本発明は、ねじ軸に設けられたねじ溝と噛み合う一体の伝動ナットとして機能するナット組立体に適用することも可能である。ナット組立体としては、2つのナットを有し、当該2つのナットが中心軸に対して相対的に回転するように付勢されていれば良い。
図12は、一例としてのナット組立体21を利用した伝動機構20の構成を示す説明図である。伝動機構20は、ナット組立体21と、2条の右ねじを構成するねじ溝309gが形成されたねじ軸300gと、により構成されている。ナット組立体21は、2つのボールナット400,500と、これらのボールナット400,500を収容するスリーブ700とを有している。第1のボールナット400は、ほぼ円筒状の筒状部410と、ボール420とを有している。同様に、第2のボールナット500は、ほぼ円筒状の筒状部510と、ボール520とを有している。
第1および第2のボールナット400,500を構成する筒状部410,510には、それぞれ、外方から中心軸Dに向かって貫通するボール穴418,518が設けられている。ボール420,520は、上記各実施形態と同様に、その一部が内方に突き出すようにボール穴418,518に挿入される。なお、ボール穴418,518は、ボール420,520が中心軸D側に脱落することを抑制するように、内方側で内径が小さくなっているようにしても良い。第1のボールナット400の筒状部410には、ねじ軸300gを通すための中心穴419が形成されている。また、図示しないが、第2のボールナット500の筒状部510にも、ねじ軸300gを通すための中心穴が形成されている。
スリーブ700は、有底でほぼ円筒状の部材であり、スリーブ700には、ねじ軸300gを通すための中心穴709と、2つのボールナット400,500を収容するためのナット収容穴708とが設けられている。ボールナット400,500をナット収容穴708に収容することにより、ボールナット400,500を構成するボール420,520は、外方への移動が規制され、ボール穴418,518内に保持される。このスリーブ700の底部には、中心軸D方向に貫通する貫通孔707が形成されている。この貫通孔707を介して、第1のボールナット400の筒状部410に形成されたねじ孔417に、図示しないボルトをねじ込むことにより、スリーブ700と第1のボールナット400とが固定される。なお、図12の例では、スリーブ700をほぼ円筒状としているが、スリーブに駆動対象物を固定するためのフランジ等を設けるようにしても良い。
図12に示すナット組立体21では、第1のボールナット400を構成する筒状部410の第2のボールナット500側の端部に、凹部411が設けられている。また、第2のボールナット500を構成する筒状部510の第2のボールナット100側の端部には、凸部511が設けられている。そして、凹部411と凸部511とにより形成される隙間には、弾性部材600が配置されている。これにより、第2のボールナット500は、第1のボールナット400に対して、矢印で示す方向に回転するように付勢される。なお、この付勢方向は、上記各実施形態における取付面側から見て反時計回りの方向に対応する。そのため、ねじ溝309gから2つのボールナット400,500へは、ボールナット400,500を互いに近づけるような荷重が加わり、第2のボールナット500のナット組立体21からの脱落が抑制される。そして、2つのボールナット400,500が相対的に回転するように、付勢部(弾性部材600)により付勢されているので、筒状部410,510から内方に突出したボール420,520の一部(すなわち、ねじ溝309eと噛み合う噛合部)には、それらの噛合部が互いに離れるような荷重が加わるため、上記各実施形態と同様に、伝動機構20におけるバックラッシュが低減される。
なお、図12の例では、付勢部として弾性部材600を使用しているが、弾性部材600に替えて、ばねを付勢部として使用することも可能である。また、図12の例では、ねじ軸300gのねじ溝309gと噛み合う2つのナットとして、ボールナット400,500を使用しているが、これらのボールナット400,500の少なくとも一方を、滑りナット等の他の種類のナットに替えることも可能である。但し、ねじ軸300gを回転させた際のナットとねじ軸300gとの間の摩擦をより小さくし、ねじ軸300gやナットの摩耗を抑制し、また、動力の伝達効率をより高くすることが可能となる点で、2つのナットのうち、少なくとも一方をボールナットとするのが好ましい。ねじ溝300gと噛み合う2つのナットとして、ボールナット以外のものを使用する場合、スリーブ700を省略することも可能である。但し、付勢部の脱落を抑制することが可能である点で、少なくとも付勢部を覆うようなスリーブを設けるのが好ましい。
また、図12の例では、ボールナット400,500の噛合部に、それらの噛合部が互いに離れるような荷重を加えているが、付勢方向を反対にすることにより、ボールナット400,500の噛合部に、それらの噛合部が互いに近づくような荷重を加えるようにすることも可能である。但し、この場合、第2のボールナット500がナット組立体21から脱落することを抑制するため、スリーブの第2のボールナット500側の端部に蓋等の脱落規制部材が付加される。