JP6259190B2 - 車輪用軸受装置の製造方法 - Google Patents
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インホイールモータは、ホイールの内側、又はホイールの近傍に電動モータを配置し、この電動モータによってホイールを直接駆動するものである。インホイールモータが駆動する車輪についても、上記車輪用軸受装置が適用される。
これらの内、上記ギヤリダクション方式では、電動モータとホイールとの間といった限られた狭い空間に減速機構を配置する必要がある。このため、電動モータの出力軸に接続された太陽歯車を含んだ遊星歯車機構を車輪用軸受装置の内軸の内周側に設けることがある。
この場合、内軸の内周面には、当該内軸の内周側空間に配置される遊星歯車と噛み合う内歯車が形成される。内歯車は、その強度を確保するために高周波焼入れする必要がある。
一方、外周面の焼入れと、内周面の内歯車の焼入れとを別々に行えば、熱の留まりは改善されるが、先に焼入れを行うことで得られた硬化層が後の焼入れ時の加熱によって焼き戻され、先に焼入れを行った部分の硬化層の硬さを低下させてしまうおそれがある。この場合、焼き戻された硬化層については、必要な硬さが得られない場合がある。
つまり、内周面に歯車が形成されている内軸は、適切に熱処理を行うことが困難であり、適切に熱処理が行われないと、装置全体の強度低下及び寿命低下の原因となる。
、前記未硬化部部分は、前記未硬化層に繋がっていることを特徴としている。
また、上記車輪用軸受装置では、内軸の他端部外周面の硬化層と、内歯車の歯底の硬化層との間に、未硬化層が存在するように焼入れが行われている。よって、一方周面側の硬化層を形成する際の焼入れによる加熱の影響が、他方周面側の硬化層に及ぶのが抑制される。この結果、両硬化層において必要な表面硬さを確保することができる。
以上のように、本発明によれば、内軸の熱処理を適切に行うことができる。これによって、内軸の靭性の低下を抑制しかつ必要な表面硬さを確保することができ、装置全体の強度低下及び寿命低下を抑制できる。
外輪3の外周面には、駆動輪を一体回転可能に固定するための固定部材3cが突設されている。つまり、外輪3は、前記駆動輪が取り付けられる車軸であるとともに、車輪用軸受装置1の回転輪を構成している。
外輪3の内周面には、複列の玉4が転動する第1および第2外輪軌道3a,3bが形成されている。
内軸2の軸方向一端部には、車輪用軸受装置1を車両側のナックル等に固定するためのフランジ2cが形成されている。つまり、内軸2は、車体側に固定される固定輪を構成している。
内軸2の外周面には、第1外輪軌道3aに対向する第1内輪軌道2aが形成されている。内軸2の他端部には、第1内輪軌道2aよりも小径の小径部6が形成されている。この小径部6には、第2外輪軌道3bに対向する第2内輪軌道2bが外周面に形成された円環状の内輪部材7が外嵌されている。
内輪部材7は、その端面7aが、内軸2の外周面と小径部6とをつなぐ段差面8に当接した状態で圧入、固定されている。
つまり、内軸2は、外周面側及び内周面側から高周波焼入れが行われる。
このため、本実施形態では、内軸2を製造する際、外周面側の焼入れと、内周面側の焼入れとを別々に行う。
内軸2を製造するには、まず、素材から円筒状とされた内軸2の粗形品の形成を行う(ステップS1)。
次いで、粗形品に対して機械加工を行い、第1内輪軌道2a、及び小径部6を形成する(ステップS2)。
そして、ステップS2にて形成した第1内輪軌道2a、及び小径部6に対して外周側から加熱コイルを接近させて高周波焼入れを行い、内軸2の外周面側の必要な部分に硬化層を形成する(ステップS3)。
図3に示すように、内軸2の外周面側には、第1硬化層L1と、第2硬化層L2とが形成されている。第1硬化層L1は、フランジ2cの基端部から第1内輪軌道2aに亘って形成されている。第1硬化層L1は、フランジ2cの基端部の疲労強度向上、及び第1内輪軌道2aの耐摩耗性向上のために形成されている。
また、内軸2の内周面側には、歯車10の歯面に沿って第3硬化層L3が形成されている。第3硬化層L3は、歯車10の耐摩耗性、及び疲労強度向上のために形成されている。
なお、図3において示す各硬化層は、焼入れによって、内軸2を形成している素材の生地に対して物理的又は化学的性質の差異が区別可能な範囲を示している。より具体的には、素材の生地の断面硬さに対して、焼入れによる断面硬さが上昇していると判断される範囲を硬化層として示している。
なお、この寸法Tは、内軸2における小径部6の外周面6a(他端部外周面)の半径と、内軸2の内周面に形成されている歯車10の歯底10aの最外半径との差である。
また、内軸2における小径部6の外周面6aに形成された第2硬化層L2、及び歯車10に形成された第3硬化層L3の歯底10aの部分は、それぞれ個別に高周波焼入れを行ったときの互いの全硬化層深さを合計したときの合計値が2.5mmより所定量小さい値となるように形成されている。このため、内軸2における小径部6の外周面6aの第2硬化層L2と、歯車10の第3硬化層L3との間には、両硬化層L2,L3が及ばない範囲が存在している。つまり、両硬化層L2,L3の間には、熱処理前の素材の硬さを維持している未硬化層Sが内軸2の径方向断面に設けられている。これによって、内軸2の径方向全域が硬化されるのが防止され、内軸2の靭性の低下が抑制される。
なお、全硬化層深さとは、硬化層の表面から、硬化層と、内軸2を形成している素材の生地との物理的又は化学的性質の差異が区別できない位置までの距離をいう。
比較的薄肉に設定された内軸2に対して、例えば、外周面側の高周波焼入れと、内周面側の高周波焼入れとを同時に行えば、加えられた熱の拡散経路が制限されてしまい、加熱部分に熱が留まってしまう。このため、内軸2が厚み方向全域に亘って焼入れされ、硬化してしまうおそれが生じる。厚み方向の全域に亘って硬化してしまうと、内軸2全体としての靭性が低下し、耐衝撃性を低下させてしまう。
試験方法としては、上記実施形態にて説明した車輪用軸受装置1の内軸2について、前記寸法Tを1.5mm〜5.5mmの範囲で0.5mmごとに設定したものを、図2に示した工程にしたがって形成した。
なお、内軸2の形成に用いた材料としては、S55Cを用いた。また、内軸2の外周面側に第2硬化層L2を形成する際の高周波焼入れの条件、及び内周面側に第3硬化層L3を形成する際の高周波焼入れの条件は、下記表1の通りである。冷却剤としては、水を用いた。
第2硬化層L2は、第3硬化層L3を形成するための高周波焼入れによる加熱によって焼き戻され、必要な表面硬さの値を下回る値にまで表面硬さが低下している。
つまり、寸法Tが1.5mm、及び2mmの場合、内軸2の径方向の厚みが少ないために、内周側からの加熱が外周面にまで伝導し、第2硬化層L2の表面硬さを低下させている。
6:小径部 6a:外周面(他端部外周面) 7:内輪部材
10:歯車(内歯車) 10a:歯底
L2:第2硬化層 L3:第3硬化層 S:未硬化層
Claims (2)
- 軸方向一端部に車輪が取り付けられる円筒状の内軸と、
複列の転動体を介在した状態で前記内軸の外周外方に同心配置された外輪と、
前記複列の転動体の内、軸方向他端側に位置する列の転動体の軌道が外周に形成されているとともに前記内軸の他端部外周面に外嵌された内輪部材と、を備え、
前記内軸の内周面に内歯車が形成されている車輪用軸受装置の製造方法において、
前記内軸の粗形品の外周面に対して、前記内輪部材が外嵌される前記内軸の他端部外周面を形成する第1工程と、
前記他端部外周面に高周波焼入れを行うことで焼入れ前の素材の硬さよりも硬さが上昇している硬化層を形成する第2工程と、
前記内軸の粗形品の内周面に対して、前記内歯車を形成する第3工程と、
前記内歯車に対して高周波焼入れを行うことで焼入れ前の素材の硬さよりも硬さが上昇している硬化層を形成する第4工程と、を含み、
前記第1工程によって形成される前記内軸の他端部外周面の半径と、前記第3工程によって形成される内歯車の歯底の最外半径との差が2.5mm以上に設定され、
前記第2工程によって前記内軸の他端部外周面に形成された硬化層と、前記第4工程によって前記内歯車の歯底に形成された硬化層との間には、前記内軸の靭性を確保するための未硬化層が設けられ、
前記内輪部材が外嵌されている前記他端部外周面よりも軸方向他端側に位置する前記他端部の先端が、硬化されていない未硬化部分とされ、
前記未硬化部部分は、前記未硬化層に繋がっており、
前記第3工程が前記第2工程の後に行われることで、前記第2工程と前記第4工程との間に前記第3工程が行われる
ことを特徴とする車輪用軸受装置の製造方法。 - 軸方向一端部に車輪が取り付けられる円筒状の内軸と、
複列の転動体を介在した状態で前記内軸の外周外方に同心配置された外輪と、
前記複列の転動体の内、軸方向他端側に位置する列の転動体の軌道が外周に形成されているとともに前記内軸の他端部外周面に外嵌された内輪部材と、を備え、
前記内軸の内周面に内歯車が形成されている車輪用軸受装置の製造方法において、
前記内軸の粗形品の外周面に対して、前記内輪部材が外嵌される前記内軸の他端部外周面を形成する第1工程と、
前記他端部外周面に高周波焼入れを行うことで焼入れ前の素材の硬さよりも硬さが上昇している第1の硬化層を形成する第2工程と、
前記内軸の粗形品の内周面に対して、前記内歯車を形成する第3工程と、
前記内歯車に対して高周波焼入れを行うことで焼入れ前の素材の硬さよりも硬さが上昇している第2の硬化層を形成する第4工程と、を含み、
前記第1工程によって形成される前記内軸の他端部外周面の半径と、前記第3工程によって形成される内歯車の歯底の最外半径との差が2.5mm以上に設定され、
前記第1の硬化層は、前記他端部外周面からの径方向深さ寸法が0mmから1.0mmの範囲とされ、
前記第2の硬化層は、前記内歯車の歯底からの径方向深さ寸法が0mmから0.7mmの範囲とされ、
前記第2工程によって前記内軸の他端部外周面に形成された硬化層と、前記第4工程によって前記内歯車の歯底に形成された硬化層との間には、前記内軸の靭性を確保するための未硬化層が設けられ、
前記内輪部材が外嵌されている前記他端部外周面よりも軸方向他端側に位置する前記他端部の先端が、硬化されていない未硬化部分とされ、
前記未硬化部部分は、前記未硬化層に繋がっており、
前記第3工程が前記第2工程の後に行われることで、前記第2工程と前記第4工程との間に前記第3工程が行われる
ことを特徴とする車輪用軸受装置の製造方法。
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