図1は、雰囲気に暴露されている液晶ディスプレイパネル1の表面に残留する帯電10を除電する工程の説明図である。図1(a)に示す液晶ディスプレイパネル1は、除電前の状態において、表面に帯電(静電気)10が残留した状態になっている。このような表面の帯電10は、搬送アームとの摩擦などによって発生する。図1(b)に示すように、このように表面に帯電10が残留している液晶ディスプレイパネル1に対して、イオナイザ11から軟X線12が照射される。この軟X線12の照射エネルギーにより、帯電10が残留している箇所の周辺の雰囲気がイオン化され、帯電10が中和される。こうして、図1(c)に示すように、液晶ディスプレイパネル1の除電が行われる。液晶ディスプレイパネルの製造工程における搬送ハンドリング時に発生する帯電の多くは、図1のように、液晶ディスプレイパネル1の表面に発生する帯電10であり、除電は空気中でイオン対を生成供給できるイオナイザで行われ、電荷を容易に中和させることができる。
しかしながら、液晶ディスプレイ装置に用いられる液晶ディスプレイパネルは、種々の機能を持つ複数の層を重ねた積層構造になっている。かかる積層構造を有する液晶ディスプレイパネルの製造工程では、発生した静電気が層内に残留したままガラス基板(絶縁基盤)でサンドイッチされてしまい、液晶ディスプレイパネルの内部に帯電が残留する場合がある。
図2は、液晶ディスプレイパネル1の内部に残留した帯電10について、従来技術による除電工程を実施した場合の説明図である。図2(a)に示す液晶ディスプレイパネル1は、例えばガラスなどの絶縁物質からなる絶縁層15、16によって両面が被覆された積層構造を有している。そして、このように両面を絶縁層15、16で囲まれた液晶ディスプレイパネル1の内部の領域17に帯電10が残留している。かかる内部の帯電10は、積層構造にしていく過程で帯電した部材を除電しないまま絶縁部材で挟み込むことや、帯電した部材を絶縁部材間に注入することなどで生じる。
このように内部の領域17に帯電10が残留している液晶ディスプレイパネル1に対して、図2(b)に示すように、イオナイザ11から軟X線12を照射した場合、一般的には、軟X線12は液晶ディスプレイパネル1の内部の領域17まで到達しがたく、領域17の帯電10は容易には除去されない。そして、軟X線12の照射エネルギーにより、液晶ディスプレイパネル1の周辺の雰囲気がイオン化されて、液晶ディスプレイパネル1の表面(絶縁層15)に付着し、絶縁層15に帯電10と対をなす同量の逆極性の帯電10’が発生してしまう。この場合、液晶ディスプレイパネル1のトータルの電荷量はゼロとなるが、図2(c)に示すように、液晶ディスプレイパネル1の内部の領域17と表面(絶縁層15)において、正負の電荷が分極した状態となって局所的な電界が形成されてしまう。
あるいは、図3に示すように、液晶ディスプレイパネル1の内部には、領域17に隣接して導電層18が存在している場合もある。かかる場合、液晶ディスプレイパネル1の内部の領域17に帯電10が残留していると、領域17に隣接する導電層18に逆極性の電荷が誘導されて、帯電10と対となる帯電10’が導電層18に形成され、液晶ディスプレイパネル1の内部において領域17と導電層18の間で、正負の電荷が分極した状態となって局所的な電界が形成されてしまう。
ここで、図4は液晶ディスプレイパネル1の正常な表示の状態の説明図であり、図5は異常な表示の状態の説明図である。図4に示すように、液晶ディスプレイパネル1に欠陥がなければ、液晶ディスプレイパネル1全体に異常のない表示を行うことができる。また、駆動電圧を印加していない場合は、液晶ディスプレイパネル1全体が消灯した状態となる。
一方、図2(c)や図3に示したように、液晶ディスプレイパネル1の内部の領域17と表面(絶縁層15)の間や領域17と導電層18の間で局所的な電界が形成された場合、駆動電圧を印加しない時でも、この帯電による電界の強度が駆動電圧による電界強度以上であると、図5に示すように、その部分は異常表示(点灯)20することになる。このように、液晶ディスプレイパネル1の内部の領域17と表面(絶縁層15)の間や領域17と導電層18の間で形成された局所的な電界は、異常表示20の要因となる。また、異常表示に至らない場合でも、駆動電圧で正常に動作しない場合もある。例えば、駆動電圧印加時に発生する電界と逆極性の電界の帯電が残留した場合は、駆動電圧を印加しても所定の電圧まで上昇しないため点灯しない恐れがある。
従来の除電装置では、このように液晶ディスプレイパネル1の内部において残留した帯電10の除去は考慮されておらず、従来技術において除電が可能なものは、図1に示したような環境雰囲気に暴露されている表面での帯電のみであった。従来は、液晶ディスプレイパネル1の内部においてガラスなどの絶縁物質からなる絶縁層15、16で囲まれた領域17に残留した帯電10は原理的に除電が不可能であり、それが原因で異常表示や駆動電圧の変動といった障害が発生する心配があった。
次に、図6は、半導体センサ(MEMS)100の説明図である。また、図6の半導体センサ100の断面構造を簡略化した図を図7、8に示す。半導体センサ100は、検出部であるセンサ素子101と、その直近に配置され、センサ素子101から得られる微少信号を出力信号(多くの場合電圧)に変換増幅するICチップ102が一つのパッケージ103の内部にパッケージングされている。センサ素子101は、各種物理量の変化を機械的な機構により変位させ、その変位量を静電容量や圧電素子電圧、抵抗値(ひずみゲージ)の変化量として測定する部分である。ICチップ102は、静電容量の変化や圧電素子電圧、抵抗値(ひずみゲージ)の変化などを電子回路により所定範囲の電圧信号に変換させる機能を持つ部分である。パッケージ103は、センサ素子101とICチップ102を1枚のシリコンウェハやガラス板上などに集積化した機能デバイスである。広範囲の環境下で信頼性のある測定が可能なように、センサ素子101とICチップ102がパッケージングされている。
センサ素子101とICチップ102は、1つの密閉された構造体であるパッケージ103の内部に固定されて納まっている。センサ素子101およびICチップ102を固定する側(パッケージ103の筐体)の素材は、一般にはセラミックや樹脂などの絶縁材で構成され、最後に封止するカバー部分105は、作業の容易性や、半導体センサ101およびICチップ102への外部からの電磁ノイズの影響を軽減する(=電磁遮蔽機能)ため、接地金属などが用いられる場合が多い。もちろん、非金属の接地導体物質や絶縁物質と接地導体物質を層状にしたものなどもカバー部分105に使用できる。センサ素子101とICチップ102は、図7のように、パッケージ103内に平面的に納める場合と、図8のように、パッケージ103内に重ねて立体的に納める方法いずれも可能である。小型化という目的からは重ねる方が有利である。いずれの場合も、センサ素子101とICチップ102は、接着剤106を用いて、パッケージ103内に固定される。
また、パッケージ103から外部に配線107が引き出されている。図6に示すように、この配線107はパッケージ103の外部に配置されたモニタ108に接続されている。
センサ素子101の構成例として、静電容量型加速センサの例を図9、10に示す。加速度によって変位する可動おもり110がばねや樹脂などの伸縮構造体111によって中立位置から移動自在に支持されている。図9は、伸縮構造体111の弾性によって可動おもり110が中立位置に保持されている状態を示す。図10は、加速度によって、伸縮構造体111の弾性に抗って可動おもり110が中立位置からX方向に移動した状態を示す。可動おもり110には、可動電極112が取り付けられており、加速度によって可動おもり110が変位すると、可動電極112も一体的に変位する。可動電極112の両側には、所定の距離を置いて可動電極112を挟むようにして固定電極113が配置されている。可動電極112と固定電極113とでコンデンサが形成されており、加速度によって可動電極112が変位することで、コンデンサの静電容量が変化し、このコンデンサに所定の電圧を常時加えておくことで、静電容量の変化と共に電流が発生する。この電流を電子回路(ICチップ102)により電圧に変換し、モニタ108に出力することで加速度が測定される。
次に、このような半導体センサ100を製造する工程における課題について説明する。センサ素子101およびICチップ102が接着剤106によりパッケージ103内に固定される工程において、接着剤106の層内に偏った電荷が封入された状態(=帯電状態)になることがある。この残留した電荷によって発生する電界により、あるいはこの残留した電荷により近傍に誘導された電荷によって発生する電界により、センサ素子101やICチップ102にバイアス電圧が印加されたのと同じ作用が働く。そして、外部のモニタ108に出力として入力される出力電圧は、このバイアス電圧によりプラス側あるいはマイナス側にシフトし、真値を示さなくなる。例えば、図11に示すケース1では、ICチップ102の接着面(接着剤106)に負の電荷120が封入されることで、本来2Vと表示すべきところが1.5Vの誤表示になる。図12に示すケース2では、センサ素子101とICチップ102との間の接着面(接着剤106)に正の電荷121が封入された状態で、出力表示としては真値2Vに対して2.5Vを示す。図13に示すケース3では、センサ素子101の製造工程において、素子内部に負の電荷120が封入残留された状態であり、同様にバイアス電圧が印加される作用により出力値がシフトする例を示している。
静電気を中和(=除電)する技術としてコロナ放電式の除電装置が広く使われている。これは、気中でコロナ放電を発生させることで正負のイオン対を生成し、帯電面から気中に形成されている電界により帯電電荷とは逆極性のイオン(帯電電荷が負の場合は正イオン)が引き寄せられ付着結合することで除電する。しかし、図11〜13に示したケース1〜3のような内部帯電による出力電圧のシフトに対しては原理的に根本的な対策は不可能である。その理由を図14〜16で説明する。例えば、ICチップ102とパッケージ103との接着部(接着剤106)に負の電荷120が封入されているケース1(図11)において、従来の除電装置114を作用させると、封入された電荷120の周辺に発生している電界の作用により、図14に示すように、帯電している負の電荷120とは逆極性の陽イオン115がカバー部分105に同量供給され、対となる(誘導電荷)。なお、カバー部分105に接続されている接地線(不図示)は、製品を使用する箇所に搭載する際に結線される。単品の半導体センサ100としては未接地である。このように除電装置114で処理された半導体センサ100を外部から見ると、正負の電荷は同量になるが、負の電荷120の帯電により影響を受けるICチップ102においては、電界は消滅しないため表示値の異常出力は解消されない。また同様に、センサ素子101とICチップ102との間の接着面(接着剤106)に正の電荷121が封入されているケース2(図12)において、従来の除電装置114を作用させると、封入された電荷121の周辺に発生している電界の作用により、図15に示すように、帯電している正の電荷121とは逆極性の陰イオン116がカバー部分105に供給される。この場合も、正の電荷121の帯電により影響を受けるICチップ102においては、電界は消滅しないため表示値の異常出力は解消されない。また同様に、素子内部に負の電荷120が封入残留しているケース3(図13)において、従来の除電装置114を作用させると、封入された電荷120の周辺に発生している電界の作用により、図16に示すように、帯電している正の電荷120とは逆極性の陽イオン115がカバー部分105に供給される。この場合も、負の電荷120の帯電により影響を受けるセンサ素子101においては、電界は消滅しないため表示値の異常出力は解消されない。
上記特許文献4には、半導体に対して軟X線を照射して除電する構成の記載があるが、内部に残留した電荷の除去は想定していない。
本発明は、かかる問題点に鑑みてなされたものであり、液晶ディスプレイパネル、加速度センサ・ジャイロセンサ・圧力センサ・磁気センサ・放射線センサ・ガスセンサを含む半導体センサ、ICチップ等の内部に絶縁層で囲まれた領域を有する電子部品において、その内部に残留した帯電を除去する方法と装置を提供することを目的とする。
本発明者は、上述したように液晶ディスプレイパネルや半導体センサなどの内部に偏った電荷が残留するような帯電については、従来の除電方法では解決出来ないことに着目し、内部に電界を発生させない除電技術を研究、実験した。その結果、所定のエネルギーの軟X線を液晶ディスプレイパネルや半導体センサなどの外部より照射することで、液晶ディスプレイパネルや半導体センサなどの内部に残留した局所的な電界を実質的に解消できることを見出した。
本発明によれば、内部に絶縁層で囲まれた領域を有する電子部品の内部に残留した帯電を除去する方法であって、X線管に10〜30kVの電圧を印加して発生させた軟X線を、電子部品の表面から20cm未満だけ離れた位置から、電子部品の表面に向けて、45〜90°の角度で照射し、前記X線管から電子部品の表面までの距離h[cm]、X線管の管電圧V[kV]に対し、X線管の管電流I[mA]がI>h 2 ÷(1.33×V 2 )であり、軟X線を電子部品の内部に透過させて、絶縁層で囲まれた領域に残留した帯電を除去することを特徴とする、電子部品の除電方法が提供される。また、電子部品の内部に発生した帯電箇所を特定する工程と、特定された帯電箇所に対し、前述の除電方法によって帯電を除去する工程を備えることを特徴とする、電子部品の除電方法が提供される。
また、本発明によれば、内部に絶縁層で囲まれた領域を有する電子部品の内部に残留した帯電を除去する装置であって、電子部品を載置させる載置台と、前記載置台に載置された電子部品の表面から20cm未満だけ離れた位置から、電子部品の表面に向けて、45〜90°の角度で軟X線を照射するX線管と、前記X線管に10〜30kVの電圧を印加する電源を備えることを特徴とする、電子部品の除電装置が提供される。また、電子部品の内部に残留した帯電箇所を特定するステージと、特定された帯電箇所に対し、前述の除電装置によって帯電を除去するステージを備え、前記X線管から電子部品の表面までの距離h[cm]、X線管の管電圧V[kV]に対し、X線管の管電流I[mA]がI>h 2 ÷(1.33×V 2 )であることを特徴とする、除電装置が提供される。
前記電子部品は、例えば、液晶ディスプレイパネルまたは半導体センサである。なお、半導体センサの検査工程において、接着剤の層内に電荷が封入されたことによって生じる出力電圧の異常出力を検知し、異常出力が検知された半導体センサに対して、本発明の除電方法によって帯電を除去するようにしても良い。
本発明にあっては、内部にガラスなどの絶縁物質からなる絶縁層で囲まれた領域を有する電子部品に対して、絶縁物質を透過可能な軟X線を照射することで、内部光電効果を機能させ、絶縁層で囲まれた領域に残留した帯電を実質的に除去する。
本発明によれば、電子部品の内部に発生した残留を実質的に除去して無害化することにより、品質低下や歩留まり低下、異常出力などを防止することができる。
以下、本発明の実施の形態について説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
図17は、本発明の実施の形態にかかる除電装置2の説明図である。載置台30の上に、電子部品の一例として、液晶ディスプレイパネル1が置かれている。液晶ディスプレイパネル1は、液晶ディスプレイ装置に用いられる。先に図2で説明したように、液晶ディスプレイパネル1は、例えばガラスなどの絶縁物質からなる絶縁層15、16によって被覆された積層構造を有している。液晶ディスプレイパネル1の内部には、絶縁層15、16で囲まれた領域17があり、当該領域17に帯電10が残留している。かかる内部の帯電10は、積層構造にしていく過程で帯電した部材を除電しないまま絶縁部材で挟み込むことや、帯電した部材を絶縁部材間に注入することなどで生じる。
載置台30に載置された液晶ディスプレイパネル1の上方には、X線管31が配置されている。液晶ディスプレイパネル1の表面からX線管31までの距離hは、30cm以内(h≦30cm)に設定されている。X線管31には、電源32が接続してあり、10〜30kVの電圧が電源32からX線管31に印加されて、載置台30に載置された液晶ディスプレイパネル1の表面に向けて、上からほぼ垂直にX線管31から軟X線35が照射される。
ここで、本願発明では、載置台30に載置された液晶ディスプレイパネル1の表面に対して、上から照射された軟X線35の入射角度θが45〜90°の角度となるように設定される。すなわち、本願発明において、「液晶ディスプレイパネルの表面に向けて、ほぼ垂直に軟X線35が照射される」とは、このように液晶ディスプレイパネル1の表面に向けて、45〜90°の角度で軟X線35が照射されることを意味する。
本発明の実施の形態にかかる除電装置2による除電原理を図18で説明する。図18(a)に示すように、X線管31に10〜30kVの電圧を印加して、液晶ディスプレイパネル1の表面に向けて、30cm以内に配置されたX線管31からほぼ垂直に(すなわち、「45〜90°の角度で」(以下、同様))軟X線35を照射すると、多くの軟X線35はガラスなどの絶縁物質からなる絶縁層15に吸収されるが、一部の軟X線35は絶縁層15を透過し、液晶ディスプレイパネル1の内部の領域17や、導電層18まで到達する。そして、図18(b)に示すように、液晶ディスプレイパネル1の内部の領域17や導電層18で軟X線のエネルギーが吸収されて内部光電効果により、領域17や導電層18でトラップされていた電子の領域17内での移動が容易となり、形成されていた電界によって、領域17から導電層18に誘導されている正電荷側に移動する。こうして、図18(c)に示すように、液晶ディスプレイパネル1の内部に残留していた帯電10と帯電10’が中和され、局所的な電界が解消される。
また、完全な中和ではなく電荷の拡散を促進することで、局所的な電界強度を低下させ、結果的に異常表示などの障害を防止するメカニズムを図19で説明する。図19(a)に示すように、液晶ディスプレイパネル1の内部に局所的な帯電10が存在していると、そこに強い電界が生じ、先に図5に示したような異常表示20などの障害が発生する。そこで、図18と同様、図19(b)に示すように、X線管31に10〜30kVの電圧を印加して、液晶ディスプレイパネル1の表面に向けて、30cm以内に配置されたX線管31からほぼ垂直に軟X線35を照射する。すると、一部の軟X線35が液晶ディスプレイパネル1の内部の領域17に到達し、内部光電効果により領域17内での電子の移動が容易となり、強い電界を緩和する方向に電子が移動、つまり、領域17内の特定箇所に密集していた正電荷の方に移動し正負電荷の再結合で中和される。一方、領域17内では、電子の供給元となる部分は電子が減少するため正に帯電する。領域17内全体での正電荷の量としては変わらないが、分布範囲が広がることで電界強度は弱くなる。例えば、電荷の広がりが10倍になれば、電界強度は概ね1/10となるため、電界による障害は緩和でき、図19(c)に示すように、実質的な除電が行われる。
以上のように、従来は表面に帯電10が残留した液晶ディスプレイパネル1しか除電できなかったのに対して、本発明では、X線管31に10〜30kVの電圧を印加して、液晶ディスプレイパネル1の表面に向けて、30cm以内に配置されたX線管31からほぼ垂直に軟X線35を照射することで、内部に残留している静電気による電界を実質的に解消することができる。照射に必要な軟X線35のエネルギーは、帯電部(領域17)を覆っている部材の材質と厚さにより異なるが、液晶ディスプレイパネルで使用される材料の素材と厚さから、ほどよく透過し、かつ内部の帯電している材料にほどよく吸収される範囲としては、照射最大エネルギーが10kV〜30kVが好適である。なお、液晶ディスプレイパネルで使用される主たる材料は「ガラス基板」であり、また厚さは0.5mmが主であり、将来的にはガラス基板代替プラスチック基板も考えられる。除電効果およびエネルギーが高くなることで増加するマイナス面である遮蔽対策を考慮すると、より好適な最大照射エネルギー範囲は13〜20kV程度である。なお、他のディスプレイ、例えば液晶ディスプレイよりも透過しやすい材料を使用するような有機ELディスプレイの場合は、より低いエネルギー範囲である10〜17kV程度が好適と推定される。この好適範囲の根拠は、低いエネルギーだと帯電部を挟み込んでいる材料を透過しないため高い除電性能が得られないことと、エネルギーが高すぎると透過率は上昇するが、帯電部に吸収される軟X線量が減少するため逆に性能も低下する。従って、好適なエネルギー範囲には下限と上限が存在する。なお、軟X線は、金属ターゲットに前記電圧で加速した電子を衝突させることで発生させるため、電子の量である電流には完全に比例となる。つまり電流量が2倍になれば除電性能は2倍になることから、処理時間が1/2になる。しかし、改善作用の可否条件としては、電子電流の範囲を規定する意味はない。処理時間、装置の発熱量、寿命等の制約から許容される最大電流が望ましい。
次に、電子部品の他の例として、半導体センサ(MEMS)100の内部に残留した帯電を除去する形態を説明する。液晶ディスプレイパネル1の場合と同様、半導体センサ100の内部に残留した帯電を除去するという技術的課題は、半導体センサ100の構成部材を透過可能で、かつ所定のエネルギー範囲(=光子のエネルギーで軟X線発生管の管電圧に依存する)および強度(=光子の量で軟X線発生管の管電流に比例する)の軟X線を照射することで克服できることを見いだした。
図20、21に基づいて、半導体センサ(MEMS)100の内部に残留した帯電を除去する作用について説明する。先に図17で説明した本発明の実施の形態にかかる除電装置2において、載置台30の上に、(液晶ディスプレイパネル1の代わりに)電子部品の一例である半導体センサ100を載置する。そして、X線管31に10〜30kVの電圧を印加して、半導体センサ100に向けて、30cm以内に配置されたX線管31からほぼ垂直に(すなわち、「45〜90°の角度で」(以下、同様))軟X線35を照射する。
ここで、図20(a)は、先にケース1(図11)で説明したように、ICチップ102の接着面(接着剤106)に負の電荷120が封入されている状態を示している。図20(a)は、軟X線35を照射する前の状態である。ケース1では、接着剤106に発生した負の電荷120が絶縁体で囲まれて静電気として残留した状態で、ICチップ102には不要なバイアス電圧が印加された状態と同等となり、出力される信号電圧がシフトすることで真値を示さない。
そこで、(液晶ディスプレイパネル1の除電を行った場合と同様に)X線管31に10〜30kVの電圧を印加して、載置台30の上に載置された半導体センサ100(負の電荷120が封入された状態の接着剤106)に向けて、30cm以内に配置されたX線管31からほぼ垂直に(すなわち、「45〜90°の角度で」(以下、同様))軟X線35を照射する。すると先ず、図20(b)に示すように、ICチップ102とカバー部分105との間の空間120(空気等のガスが充填されている)においてガス分子がイオン化され、ICチップ102の表面にはICチップ102の内部帯電荷とは逆極性のイオンが付着する。同時に、ICチップ102の下部に蓄積された電子および電子を取り囲む絶縁物にも直接的にエネルギーが付与されることで、電子の移動の障壁であるエネルギーバンドギャップが小さくなり、ICチップ102の下部のイオンとの間に発生した電界により、図20(c)に示すように、接着剤106に発生した負の電荷120(=電子)がICチップ102内を移動する。そして、最終的には、図20(d)に示すように、正負の電荷が結合して完全に中和される。
ケース1では、カバー部分105を透過可能な軟X線35を照射することで、ICチップ102に高密度なエネルギーが与えられる。ICチップ102の下部の接着剤106に発生した負の電荷120は、周囲の接着剤106やICチップ102の内部の移動が容易となるとともに、ICチップ102の上方の空間120では軟X線35によりイオン対が生成され、負の電荷120による電界によりICチップ102の表面に付着する。ICチップ102内を移動した負の電荷120は、この表面に付着した電荷と結合し、電荷としては消滅(中和)する。そして、電荷が消滅することで、ICチップ102内に印加されていたバイアス電圧は消滅し、出力される信号電圧は正値を表示する。
なお、導体、半導体及び絶縁体のエネルギーバンドギャップを模式的に表現すると図21のようになる。すなわち、図21(a)に示すように、導体では価電子帯と伝導体が隣接しエネルギーバンドギャップがほとんどないため、価電子帯の電子が簡単に伝導帯へ遷移することができる。このため、常に伝導帯に自由電子が多数存在し、電気を容易に通すことが可能である。また、図21(c)に示すように、絶縁体では禁制帯の幅(エネルギーバンドギャップ)が大きく、電子は価電子帯と伝導体の間を移動することが非常に困難なため電気をほとんど通すことができない。これに対して、図21(b)に示すように、半導体は、小さなエネルギーバンドギャップを持つため、外部からエネルギーを供給されない状態では、価電子帯の電子は伝導帯へ移動することができず、電気抵抗の大きな状態となる。一方、外部からエネルギーを与えられると、価電子帯の電子はそのエネルギーを得て伝導体へ移動し電気を通すことができるようになる。このように半導体は、電流を流すための自由電子の量を外部からコントロールすることができるという特性を有している。
また、図22(a)は、先にケース2(図12)で説明したように、センサ素子101とICチップ102との間の接着面(接着剤106)に正の電荷111が封入された状態を示している。図22(a)は、軟X線35を照射する前の状態である。ケース2では、センサ素子101とICチップ102との間の接着面(接着剤106)に蓄積された正の電荷111の作用により、ICチップ102内の接地回路(カバー部分105と結線された配線で、センサ使用時には接地される)に逆極性の電荷(=誘導電荷)が誘導される。ケース1の場合と同様、ケース2においても、ICチップ102内には局所的な電界が形成され、出力される信号電圧がシフトすることで真値を示さない。
そこで、X線管31に10〜30kVの電圧を印加して、載置台30の上に載置された半導体センサ100(負の電荷120が封入された状態の接着剤106)に向けて、30cm以内に配置されたX線管31からほぼ垂直に(すなわち、「45〜90°の角度で」(以下、同様))軟X線35を照射する。この場合は、ICチップ102とカバー部分105との間の空間120で生成されるイオンは何ら寄与せず、ICチップ102の絶縁層のエネルギーバンドギャップを小さくする効果により、帯電電荷と配線に誘導された誘導電荷との間における電子の移動を軟X線照射によるエネルギー付与により可能にして中和させる。すなわち、ケース1の場合と同様に、ケース2においても、ICチップ102と接着剤106に軟X線35を照射することで、ICチップ102に高密度なエネルギーが与えられる。センサ素子101とICチップ102との間の接着面(接着剤106)に蓄積された正の電荷111は移動が容易となり、接地回路との間に形成されている電界によりICチップ102側に移動し、中和される。そして、電荷が消滅することで、ICチップ102内に印加されていたバイアス電圧は消滅し、出力される信号電圧は正値を表示する。
なお、以上のように絶縁物内部での電子の移動を可能にすることで、電界の中和を達成できる照射条件(エネルギー範囲と強度)は実験による確認の結果以下と判明した。ここで、X線の物理量の表現について補足すると、X線の質はエネルギー、量は強度といって表現される。可視光線でいえば、エネルギーは波長(色の違い)、強度は照度、明るさということになる。なお、X線のエネルギーの単位は波長であらわすこともあるが、基本はeVであるので、これは強度には対応しない。X線の場合、強度は一般に、照射線量、吸収線量、線量当量、カウント数などで表現される。光子として考えれば、光子の数が強度に対応するので、これらのうち、純粋な強度はカウント数であるといえる。照射線量や吸収線量も強度とほぼ同等であるが、厳密にはX線のエネルギーによって変化するが、照射線量や吸収線量が強度だと思っても間違いではない。また、物質や人体への影響を考える場合には線量当量が重視される。
エネルギー範囲としては、半導体センサ100の内部まで軟X線35が届くためには、半導体センサ100の構成部材に対して透過能が必要である。しかし一方では、エネルギーが強すぎると透過能が高くなりすぎて照射部材での吸収率が大きく低下し、透過するのみで電子の移動を容易にするために必要な絶縁層でのエネルギーバンドギャップの削減に必要なエネルギーを与える効果が得られない。従って最適なエネルギー範囲は照射する対象物の材質と構造(主に厚さ)に依存する。表1に、半導体センサ100の構成材料を示す。
そこで、図7,8に示した標準的な構成の半導体センサ100の材質と厚さを表1の条件とした場合に、有効な軟X線のエネルギー範囲(X線管31に印加される電圧V)と強度(X線管31の管電流Iに比例)および照射距離条件を以下に示す。本条件は実験評価(結果は後述の表2)と後述の理由により特定したものである。
X線管31の管電流I>h2÷(1.33×V2)[mA] (1)式
X線管31の電圧V=10〜30[kV] (2)式
X線管31の距離h≦30[cm] (3)式
被照射体(半導体センサ100)への照射強度はX線管31の管電流Iとはほぼ比例関係である。一方、点光源のX線管31の近距離(通常10〜30cm)での照射では、照射強度はほぼ照射距離hの2乗に反比例の関係で大きく減衰する。また、電圧Vの上昇と共により少ない管電流Iでも前記効果が得られる。後述の表2がその実験結果であり、(1)式がこれらの関係を示している。
電圧Vの範囲の特定((2)式)の理由は以下の通りである。まず下限の10kVに関しては、実験の結果10kV未満では(1)式で示した管電流I以上に大幅に増やしても全く期待する効果が確認できなかった(表2)。そのメカニズムは現時点では正確に特定していないが、期待する効果を発生させる最低限のエネルギー(電圧V)がしきい値として存在していると推察している。本発明の場合、10kVがしきい値(下限)と考えている。上限の30kVに関しては安全面と物質へのX線の吸収率で特定している。つまり、軟X線は照射時人体に対しては遮蔽措置が必要になる。軟X線のエネルギー(管電流I)の増大と共に遮蔽に必要な材料の厚さは増大し、遮蔽可能な素材の選択肢も狭められていく。半導体センサ100の生産現場における遮蔽仕様としては、少なくとも一部に製造装置内部が目視確認できる透明素材が適用できること、通常使用される素材、塩ビ板、ステンレス板、ガラス板などが適用でき、かつ構成する遮蔽板の脱着が容易にできる構造(特に厚み)であることなどが求められる。また、物質へのX線の吸収率はエネルギーの増大(電圧の増大)とともに減少することから好適な上限がある。これら要求条件を鑑みて適用できるX線管の電圧Vの上限を30kVとした。
X線管31までの距離hの上限を30cm((3)式)とした理由は以下の通りである。対象とする製品はサイズが大きくても2〜3四方の小さな半導体センサであり、点光源で照射角が100°以上で照射できる軟X線を照射する場合、1個のみ照射するのであればせいぜい1〜2cmの照射距離(X線管31の距離h)で十分であり、近くから照射することでより低出力の(=電圧V、管電流Iとも低い)軟X線発生装置(除電装置2)が適用できることから、遮蔽措置が大幅に軽減できると共に(除電装置2)の価格も低く抑えられ好ましい。ただし、最低必要な連続照射時間としては1秒程度であることを確認しており、たとえば製品の製造速度が1秒間に5個であれば、5個同時照射できる条件が求められる。5個同時に照射できる条件は、流れる製品間の距離にもよって変わるが、30cmの照射距離であれば十分である。30cmを超える照射距離でも、(1)式で示した条件を満足できる管電流I、電圧VのX線管31を適用すれば対応は可能であるが、遮蔽対策が難しくなる、除電装置2のコストがアップする、などデメリットが大きく顕在化してくるのみでメリットがない。
なお、本発明で特定している前記照射条件は、X線管31の軟X線発透過部である窓の材質と厚みにも依存するが、本発明ではX線管31の窓として一般的に適用されている0.1〜0.5mmのベリリウム窓を条件としている。現在実用化されているものは、ほぼこの材料のみである。他の材料の窓が最近採用された事例があるが、今回の対象のX線管には不適当である。厚さとしては薄いほど安価で、透過率も高くなり有利だが、機械的強度を考慮すると上記厚さとなる。なお、現在は0.15mm〜0.3mmのものが採用されているようである。
以上、本発明の好適な実施の形態の一例を説明したが、本発明はここに示した形態に限定されない。例えば、本発明の適用可能性としては、液晶ディスプレイ製造以外では、液晶ディスプレイと類似の製品である有機EL製造工程などディスプレイ関連が想定される。また、液晶ディスプレイでは、液晶自身が帯電した場合に限らない。図23(a)に示すように、実際の液晶ディスプレイ(液晶ディスプレイパネル1)では、液晶層36は配向膜37で挟まれており、この配向膜37が帯電した場合も同様の障害が生じる。なお、図23(a)において、38はカラーフィルタ、39は電極、40はガラス基板(絶縁層)である。なお、液晶層36と配向膜37は何れも絶縁層である。先に図1〜3、図18、19で説明した例では配向膜を省略して説明したが、厳密には必ず液晶層と導電層(=配線)との間には配向膜が構成されている。先に図1〜3、図18、19で説明した例における領域17は、図23の例では、液晶層36を示しており、厳密に言えば液晶層36と配向膜37を一括して示している。また、導電層18は電極39に相当する。ここでは、液晶層内部が帯電した場合を説明するため簡略化した絵で説明している。本発明の適用により、図23(b)に示すように、X線管31に10〜30kVの電圧を印加して、液晶ディスプレイパネル1の表面に向けて、30cm以内に配置されたX線管31からほぼ垂直に軟X線35を照射することで、液晶層36や配向膜37の帯電を除去して、帯電による障害を緩和することができる(図23(c))。
図24に、帯電箇所を特定するステージ41と、帯電を除去するステージ42を備える除電装置3を示す。この除電装置3のステージ41には、電子部品の一例として、液晶ディスプレイパネル1が置かれている。また、ステージ41には、図24(a)に示すように、液晶ディスプレイパネル1の上方において測定ヘッド43が、液晶ディスプレイパネル1に対して相対的に移動することにより、液晶ディスプレイパネル1の内部に残留した帯電箇所を特定する工程が行われる。なお、このような帯電箇所44を特定する工程は、例えば、特開平11−271800号公報や特開平11−174106号公報に示された検査装置によって行うことができる。
そして、このステージ41で特定された帯電箇所44が、図24(b)に示すように、モニター45に映し出される。
また、こうして帯電箇所44が特定された液晶ディスプレイパネル1が、帯電を除去するステージ42に搬送される。そして、図24(c)に示すように、ステージ42では、先に図17等で説明した本発明の実施の形態にかかる除電装置2を用いて、帯電箇所44に対し、上からほぼ垂直にX線管31から軟X線が照射されることにより、帯電箇所44の除電が行われる。なお、例えば、特開2012−37503号公報に開示されているようなコンベアを用いて、ステージ41で帯電箇所を特定した後、除電装置2を設置したステージ42に液晶ディスプレイパネル1を搬入することができる。
なお、例えば半導体センサ100の検査工程において、接着剤106の層内に電荷が封入されたことによって生じる出力電圧の異常出力を検知し、異常出力が検知された半導体センサ100に対して軟X線を照射するようにしてもよい。異常出力の検知方法としては、例えば所定の出力電圧が出されるような模擬入力を与え、そのときの出力値が所定範囲外となった場合に異常出力と判断することができる。出力電圧は、例えば配線107を介して電圧値で検知することができる。
また、以上の実施の形態では、電子部品の一例として、液晶ディスプレイパネル1もしくは半導体センサ(MEMS)100の内部に残留した帯電を除去する形態を説明したが、本発明は、内部に絶縁層で囲まれた領域を有する電子部品として、例えばICチップなどにも適用できる。また、半導体センサ100は、加速度センサ・ジャイロセンサ・圧力センサ・磁気センサ・放射線センサ・ガスセンサを含む半導体センサなどに適用できる。本発明は、特に測定手段が静電容量式である半導体センサに有効である。高性能な半導体センサの多くが「静電容量式」を採用している実態がある。ただし、他の圧電式、ピエゾ抵抗式などであっても同様に適用され、これら方式でも半導体センサから最終的に出力される信号は「電圧」なので電荷が蓄積されることで、センサ部あるいは回路部にバイアス電圧が付加され電圧信号に影響を与えるリスクがある。
[実施例1]
先ず、液晶ディスプレイ製造における実施例を示す。液晶ディスプレイの製造において、パネル表示検査で、図5に示したような異常表示20が、ある割合で発生した。そこで、その原因として静電気障害を仮定し、対策として以下の3種類の除電方法で改善の可否を確認した。除電時間は全て同じで10秒である。
方法1:コロナ放電方式のイオナイザを、液晶ディスプレイパネルの表面から10cm程度の位置に近づけて除電した。
方法2:管電圧9.5kV(管電流150μA)の軟X線を、液晶ディスプレイパネルの表面から10cm程度の位置から照射して除電した。
方法3:管電圧14kV(管電流500μA)の軟X線を、液晶ディスプレイパネルの表面から10cm程度の位置から照射して除電した。
方法1、2とも、除電前後で液晶ディスプレイパネルの異常表示には全く改善が見られなかった。一方、方法3では、除電後の液晶ディスプレイパネルの表示は正常に戻ることが確認出来た。この様に、同じ軟X線でもエネルギーの高い方で効果が確認出来た。
次にこの結果を受け、液晶ディスプレイの機材として用いられているガラス板の軟X線の透過強度を方法2と方法3で用いた軟X線の比較で行った。評価方法を図25に示し、評価結果を図26に示す。図25に示すように、実際の液晶ディスプレイに採用されている0.5mmtのガラス基板50に向けて、X線管51から軟X線52を照射し、ガラス基板50を透過したX線強度をサーベイメータ53により測定し、その値を比較評価した。図26に示す測定結果において、プロットが実測値で、実線は実測値から求めた近似曲線である。この結果より、10cmからの照射における0.5mmtのガラス基板50の透過強度は、従来型(ISX-224)の4.1mSV/hに対して、方法3の高出力型では526mSV/hと約130倍の強度となっている。この100倍を超える軟X線の強度の違いは、光子のエネルギーが高く0.5mmtのガラス基板で覆われた内部に与えるエネルギーが高いことを示しており、この違いが、液晶ディスプレイパネルの異常表示の改善可否の違いとなったと推察される。
以上のように、所定の出力の軟X線を照射することでディスプレイ製造工程において生じる静電気が原因と推測される不良が改善出来ることが確認出来た。なお、前記改善に至るメカニズムを実測により確認することは現在の技術では困難であり、本実施例では、異常表示の原因を仮定、仮定した原因が排除出来るメカニズムを理論的にあり得る現象を推論して説明した。なお、本発明で有効な現象として利用しているのは「内部光電効果」という現象である。
[実施例2]
次に、センサ素子として、センサ素子とICチップがセラミックケース(パッケージ)に平面的に納められ、金属板(カバー部分)で片面を封止した構成の加速度センサを対象に実験を行い、出力異常が改善される条件を確認した。実験では表示電圧のシフト幅が−0.15〜−0.25Vの加速度センサを用いた。軟X線を照射する条件は、管電圧を9kV、10kV、15kVの3条件、管電流は0〜1.0mAの範囲で可変の条件で実施した。なお、出力値の評価は、加速度がゼロ時の出力値(ブランク値)に対するシフト値で行った。実験結果を表2に示した。管電圧9kV時では最大の管電流(1mA)かつ最短照射距離(2cm)でも改善の効果は確認できなかった。管電圧10kV時は、10cm以下の照射距離で出力異常は改善された。管電圧15kV時では、15cm以下の照射距離で出力異常は改善された。これらの結果より、必要な管電流(ImA)が照射距離(hcm)と管電圧(VkV)の関係として、(前記(1)式で示されることを見いだした。
なお、9kV時は、(1)式で算出される管電流よりもはるかに多い電流としても効果は得られなかったことから、本効果を達成するためには照射する軟X線の最低エネルギー値があることが示唆された。本発明の場合、X線管の管電圧として10kV付近がそのしきい値である。たとえば、9kV、2cmの照射条件で(1)式より管電流を計算すると0.04mAと求まるが、実験ではこれより25倍も高い1mAでも表示電圧のシフト改善効果は確認できなかった。実施例2の実験での照射時間は1秒〜数秒程度とした。X線管の管電圧が9kVの場合、この照射時間で改善効果が得られず、さらに長時間(10秒〜10分)照射しても効果は得られなかった。本実験結果より、本発明の課題解決に有効な軟X線の照射条件を前記(1)〜(3)式と特定した。X線管の管電圧が10kV以上であれば、有効な管電流は管電圧と照射距離の関係式(1)で示すことができる。