JP6244939B2 - オーステナイト系ステンレス鋼管 - Google Patents
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特許文献1〜3では、鋼管の内面に対してピーニング加工を実施して耐水蒸気酸化性を高める。具体的には、特許文献1では、鋼管に対して最終熱処理を実施した後、鋼管内面に対して、粒子吹き付けによるピーニング加工を実施する。特許文献2では、鋼管に対してピーニング加工を実施して、10μm以上の加工層を形成する。特許文献3では、既設のボイラから取り出した鋼管に対して熱処理を実施する。熱処理された鋼管に対して化学洗浄を実施して、内面のスケールを除去する。化学洗浄後、鋼管内面に対してショットブラスト加工を実施して冷間加工層を形成する。
特許文献4及び5では、鋼管内面のスケールの密着性を高めて耐水蒸気酸化性を高める。具体的には、特許文献4では、希土類元素を含有するオーステナイト系ステンレス鋼管を準備する。この鋼管に対して溶体化処理を実施する。溶体化処理された鋼管内面に対して粒子吹き付けによるピーニング加工を実施する。特許文献5では、9〜28質量%のCrを含有する鋼管を準備する。この鋼管の冷間加工後の内面の最大高さを15μm以上とする。さらに、この鋼管の内面層のビッカース硬さと肉厚中央部のビッカース硬さとの差を100以上にする。これらの処理により、スケールの密着性が高まる。
特許文献6〜9では、鋼管に対して高加工度の冷間加工を実施して、鋼管の耐水蒸気酸化性を高める。具体的には、特許文献6では、16〜20重量%のCrを含有するオーステナイトステンレス鋼に対して高加工度の冷間加工を実施する。冷間加工後の鋼管では、鋼管内面近傍位置でのCr濃度が14重量%以上である。さらに、鋼管内面から100μm位置の深さの硬さが、母材の平均硬さの1.5倍以上であるか、Hv300以上であるかのいずれかである。特許文献7では、8〜28質量%のCrを含有する鋼管に対して高加工度の冷間加工を実施する。これにより、鋼管内面に硬度の高い加工層が形成される。特許文献8及び9では、鋼管に対して高加工度の冷間加工を実施する。特許文献8では、冷間加工後の鋼管の内面から10〜20μm深さ位置の金属組織が、体積率で0.3%以上のサブグレイン(小角粒界及び大角粒界)組織を有する。特許文献9では、冷間加工後の鋼管の内面の金属組織において、XRD測定により得られた平均転位密度が3.0×1014/m2以上である。
特許文献10〜13では、鋼管内面に冷間加工層を形成した後、溶体化処理を実施して、鋼管の耐水蒸気酸化性を高める。具体的には、特許文献10では、オーステナイト系ステンレス鋼管に対して溶体化処理を実施する。溶体化処理後の鋼管内面に対して、ショット加工、グラインダ加工、又は、研磨加工等の冷間加工を実施する。冷間加工実施後の鋼管に対して、再度、溶体化処理を実施する。特許文献11では、オーステナイト系ステンレス鋼管に対して、20%以上の加工率の冷間加工を実施する。冷間加工後の鋼管に対して、2.9℃/秒以下の昇温速度で固溶化熱処理を実施する。特許文献12では、オーステナイト系鉄合金管の内面に、結晶粒度No.7よりも細粒であり、30μm以上の厚さを有する細粒層を形成する。細粒層が形成された鋼管に対して20%以上の冷間加工を実施する。冷間加工後の鋼管に対して再結晶化処理を実施する。特許文献13では、鋼管内面から20μmの深さ位置における硬さがHv320以上となるように、オーステナイト系ステンレス鋼管に対して冷間加工を実施する。冷間加工後の鋼管に対して溶体化処理を実施する。
特許文献14では、溶体化処理後においても細粒組織を維持することにより、鋼管の耐水蒸気酸化性を高める。具体的には、鋼管におけるC及びNの総含有量を0.15%にする。この場合、溶体化処理後においても、鋼管内面層は、結晶粒度番号がNo.7以上の細粒組織を有する。
本実施形態によるオーステナイト系ステンレス鋼管(直管部及び曲管部)の化学組成は、次の元素を含有する。
炭素(C)は、不可避的に含有され、鋼の強度及びクリープ強度を高める。しかしながら、C含有量が高すぎれば、溶体化処理後であって未固溶の炭化物が残存し、強度が低下する。C含有量が高すぎればさらに、靭性等の機械的性質が低下する。したがって、C含有量は0.2%以下である。C含有量の好ましい下限は0.01%以上であり、さらに好ましくは0.02%である。C含有量の好ましい上限は0.2%未満であり、さらに好ましくは0.16%であり、さらに好ましくは0.12%である。
シリコン(Si)は、不可避的に含有される。Siは鋼を脱酸する。Siはさらに、鋼の耐水蒸気酸化性を高める。しかしながら、Si含有量が高すぎれば、鋼の溶接性及び熱間加工性が低下する。したがって、Si含有量は2.0%以下である。Si含有量の好ましい下限は0.1%であり、さらに好ましくは0.12%である。Si含有量の好ましい上限は2.0%未満であり、さらに好ましくは1.5%であり、さらに好ましくは0.8%である。
マンガン(Mn)はSiと同様に、鋼を脱酸する。Mnはさらに、Sと結合してMnSを形成し、熱間加工性を高める。Mn含有量が低すぎれば、上記効果は得られない。一方、Mn含有量が高すぎれば、鋼が脆化する。したがって、Mn含有量は0.1〜3.0%である。Mn含有量の好ましい下限は0.1%よりも高く、さらに好ましくは0.2%であり、さらに好ましくは0.5%である。Mn含有量の好ましい上限は3.0%未満であり、さらに好ましくは2.5%であり、さらに好ましくは2.0%である。
クロム(Cr)は鋼の高温強度を高める。Crはさらに、水蒸気酸化環境において、鋼の表面に酸化物(Cr2O3)を形成し、耐水蒸気酸化性を高める。Cr含有量が低すぎれば、上記効果は得られない。一方、Cr含有量が高すぎれば、鋼の靭性及び熱間加工性が低下する。したがって、Cr含有量は14〜28%である。Cr含有量の好ましい下限は14%よりも高く、さらに好ましくは15%であり、さらに好ましくは16%である。Cr含有量の好ましい上限は28%未満であり、さらに好ましくは27%であり、さらに好ましくは26%である。
ニッケル(Ni)は、鋼中のオーステナイト組織を安定化する。Niはさらに、クリープ強度を高める。Ni含有量が低すぎれば、上記効果が得られない。一方、Ni含有量が高すぎれば、上記効果が飽和し、製造コストも増加する。したがって、Ni含有量は6〜30%である。Ni含有量の好ましい下限は6%よりも高く、さらに好ましくは7%であり、さらに好ましくは8%である。Ni含有量の好ましい上限は30%未満であり、さらに好ましくは25%であり、さらに好ましくは21%である。
窒素(N)は不可避的に含有される。Nは積極的に含有されなくてもよい。Nを積極的に含有する場合、Nは鋼に固溶して鋼の強度を高める。Nはさらに、他の元素と結合して窒化物を形成し、鋼を析出強化する。しかしながら、N含有量が高すぎれば、鋼の靭性及び溶接性が低下する。したがって、N含有量は0.3%以下である。鋼を強化するためにNを積極的に含有する場合、N含有量の好ましい下限は0.005%であり、さらに好ましくは0.01%である。N含有量の好ましい上限は0.3%未満であり、さらに好ましくは0.28%であり、さらに好ましくは0.27%である。Nを積極的に含有しない場合、N含有量は0.005%未満である。
W:0〜10%、
Ta:0〜5%、
Co:0〜10%、
Cu:0〜5%
モリブデン(Mo)、タングステン(W)、タンタル(Ta)、コバルト(Co)及び銅(Cu)はいずれも、任意元素であり、含有されなくてもよい。含有される場合、これらの元素は鋼の高温強度を高める。しかしながら、これらの元素含有量が高すぎれば、鋼の溶接性及び熱間加工性が低下する。したがって、Mo含有量は0〜5%であり、W含有量は0〜10%であり、Ta含有量は0〜5%であり、Co含有量は0〜10%であり、Cu含有量は0〜5%である。Mo含有量の好ましい下限は0.1%であり、さらに好ましくは0.15%である。Mo含有量の好ましい上限は5%未満であり、さらに好ましくは4.5%である。W含有量の好ましい下限は0.1%であり、さらに好ましくは0.15%である。W含有量の好ましい上限は10%未満であり、さらに好ましくは8%である。Ta含有量の好ましい下限は0.1%であり、さらに好ましくは0.15%である。Ta含有量の好ましい上限は5%未満であり、さらに好ましくは4.5%である。Co含有量の好ましい下限は0.1%であり、さらに好ましくは0.15%である。Co含有量の好ましい上限は5%未満であり、さらに好ましくは4%である。Cu含有量の好ましい下限は0.1%であり、さらに好ましくは0.15%である。Cu含有量の好ましい上限は5%未満であり、さらに好ましくは4%である。
Nb:0〜1.5%、
Ti:0〜0.5%
バナジウム(V)、ニオブ(Nb)及びチタン(Ti)はいずれも、任意元素であり、含有されなくてもよい。含有される場合、これらの元素はいずれも、C及びNと結合して炭窒化物を形成し、鋼を析出強化する。しかしながら、これらの元素の含有量が高すぎれば、鋼の加工性が低下する。したがって、V含有量は0〜1.0%であり、Nb含有量は0〜1.5%であり、Ti含有量は0〜0.5%である。V含有量の好ましい下限は0.01%であり、さらに好ましくは0.03%である。V含有量の好ましい上限は1.0%未満であり、さらに好ましくは0.8%である。Nb含有量の好ましい下限は0.01%であり、さらに好ましくは0.03%である。Nb含有量の好ましい上限は1.5%未満であり、さらに好ましくは1.0%である。Ti含有量の好ましい下限は0.01%であり、さらに好ましくは0.03%である。Ti含有量の好ましい上限は0.5%未満であり、さらに好ましくは0.4%である。
Mg:0〜0.02%、
Al:0〜0.3%、
Zr:0〜0.5%、
B:0〜0.02%、
REM:0〜0.1%
カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、ジルコニウム(Zr)、ボロン(B)及び希土類元素(REM)はいずれも任意元素であり、含有されなくてもよい。含有される場合、これらの元素はいずれも、鋼の強度、加工性及び耐水蒸気酸化性を高める。しかしながら、これらの元素含有量が高すぎれば、鋼の加工性及び溶接性が低下する。したがって、Ca含有量は0〜0.02%であり、Mg含有量は0〜0.02%であり、Al含有量は0〜0.3%であり、Zr含有量は0〜0.5%であり、B含有量は0〜0.02%であり、REM含有量は0〜0.1%である。本明細書でいうAl含有量は、sol.Al(酸可溶Al)の含有量を意味する。また、本明細書におけるREMは、Sc、Y、及び、ランタノイド(原子番号57番のLa〜71番のLu)の少なくとも1種以上を含有し、REM含有量は、これらの元素の合計含有量を意味する。
さらに好ましくは、これらの元素(Ca、Mg、Al、Zr、B及びREM)の総含有量は0.8%以下である。
本実施形態によるオーステナイト系ステンレス鋼管は、上述の化学組成を有するオーステナイト系ステンレス鋼管に曲管部を形成したものである。そのため、オーステナイト系ステンレス鋼管は、直管部と曲管部とを備える。直管部は、直線状である。直管部は、曲げ加工が施されていない部分に相当する。曲管部は、湾曲している。曲管部は、後述の曲げ加工により形成される。
上述のオーステナイト系ステンレス鋼管の製造方法の一例を説明する。本実施形態の製造方法は、鋼管を準備する工程(準備工程)と、鋼管の内面に対してブラスト処理を実施して加工層を形成する工程(加工層形成工程)と、加工層が形成された鋼管に対して曲げ加工を実施して曲管部を形成する工程(曲げ加工工程)と、曲管部に対して熱処理(PBHT)を実施する工程(PBHT工程)とを備える。以下、各工程について説明する。
上述の化学組成を有する素材を準備する。素材は、連続鋳造法(ラウンドCCを含む)により製造された鋳片であってもよい。また、造塊法により製造されたインゴットを熱間加工して製造された鋼片でもよい。鋳片から製造された鋼片でもよい。
準備されたオーステナイト系ステンレス鋼管の内面(水蒸気酸化環境にさらされる側の表面)に対して、投射材を用いたブラスト処理を実施して、加工層を形成する。
加工層形成工程後のオーステナイト系ステンレス鋼管に対して、曲げ加工を実施して曲管部を形成する。曲げ加工方法は特に限定されない。曲げ加工方法はたとえば、曲げ成形機を使用する方法がある。
曲げ加工工程で形成された曲管部に対して熱処理(PBHT)を実施する。PBHTを実施することにより、曲げ加工により曲管部に発生する残留応力を除去する。
s=100×r/R (1)
ここで、s:ひずみ量(%)、r:鋼管外径の半分(mm)、R:曲げ中立線の公称半径(mm)である。
各試験番号の鋼管の直管中央部と、曲管内面層部とにおいて、上述の方法により結晶粒度番号を求めた。腐食液には希釈王水を用いた。直管中央部及び曲管内面層部の結晶粒度番号を表2に示す。
各試験番号の鋼管の曲管部から、管内面を含む試験片を採取した。試験片を治具に吊り下げたまま、横型管状加熱炉に挿入した。加熱炉内において、試験片を600℃で200時間保持して酸化試験を実施した。試験中の加熱炉内の雰囲気は、溶存酸素量が100ppbの水蒸気雰囲気とした。600℃で200時間保持した後、試験片を常温(25℃)まで炉冷した。常温まで冷却した試験片を樹脂に埋め込んだ。樹脂に埋め込んだ試験片を、管内面に対して垂直に切断し、断面に対して鏡面研磨を実施した。研磨後、曲管部の内面に生成した酸化スケールの断面を光学顕微鏡で観察した。各試験番号において、任意の4視野において曲管部の酸化スケール厚さを測定した。測定された値の平均値を、その試験番号の酸化スケール厚さ(μm)と定義した。
表2を参照して、試験番号1、2、4〜9、12〜16、18及び20〜23では、化学組成が適切であった。さらに、曲管内面層部の結晶粒度番号は、直管中央部の結晶粒度番号よりも大きかった。そのため、これらの試験番号では、水蒸気酸化試験で生成された酸化スケールの厚さは20μm以下であり、優れた耐水蒸気酸化性が得られた。
Claims (3)
- 直管部と曲管部とを備えるオーステナイト系ステンレス鋼管であって、
質量%で、
C:0.2%以下、
Si:2.0%以下、
Mn:0.1〜3.0%、
Cr:14〜28%、
Ni:6〜30%、
N:0.3%以下、
Mo:0〜5%、
W:0〜10%、
Ta:0〜5%、
Co:0〜10%、
Cu:0〜5%、
V:0〜1.0%、
Nb:0〜1.5%、
Ti:0〜0.5%、
Ca:0〜0.02%、
Mg:0〜0.02%、
Al:0〜0.3%、
Zr:0〜0.5%、
B:0〜0.02%、及び、
希土類元素:0〜0.1%を含有し、残部はFe及び不純物からなる化学組成と、
投射材によるブラスト処理が実施された内面とを有し、
前記曲管部の前記内面から50μm深さ位置での結晶粒度番号が、8.4以上であり、前記直管部の厚さ中央部での結晶粒度番号よりも大きい、オーステナイト系ステンレス鋼管。 - 請求項1に記載のオーステナイト系ステンレス鋼管であって、
前記曲管部の前記内面から50μm深さ位置での結晶粒度番号は9以上である、オーステナイト系ステンレス鋼管。 - 請求項1又は請求項2に記載のオーステナイト系ステンレス鋼管であって、
N:0.005〜0.3%、
Mo:0.1〜5%、
W:0.1〜10%、
Ta:0.1〜5%、
Co:0.1〜10%、
Cu:0.1〜5%、
V:0.01〜1.0%、
Nb:0.01〜1.5%、
Ti:0.01〜0.5%、
Ca:0.0001〜0.02%、
Mg:0.0001〜0.02%、
Al:0.0001〜0.3%、
Zr:0.0001〜0.5%、
B:0.0001〜0.02%、及び、
希土類元素:0.0001〜0.1%からなる群から選択される1種又は2種以上を含有する、オーステナイト系ステンレス鋼管。
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