コークスは、原料炭をコークス炉に投入して乾留することによって製造される。原料炭をコークス炉に投入する前には、原料炭を所定の粒度(例えば0.5mm以上の粒度)とし、予熱する事前処理を行っている。
具体的には、原料炭を流動床乾燥分級機で乾燥・加熱し、粗粒炭と微粒炭に分級し、少なくとも粗粒炭は、さらに気流加熱塔で所定の温度まで加熱することで改質される。加熱された粗粒炭はサイクロン集塵機で捕集される。
一方、加熱された微粉炭はバグフィルタによって回収され、混練機によってバインダ(具体的にはタール)とともに混練される。そして、微粉炭とバインダとの混練物は塊成機によって塊成されることで塊成炭が作製される。塊成炭は、加熱された粗粒炭とともに石炭搬送ラインに載せられる。石炭搬送ラインは、粗粒炭及び塊成炭をコークス炉に搬送、投入する。また、流動床乾燥分級機、気流加熱塔、混練機、塊成機、及び石炭搬送ラインから発生した排ガスは、所定の循環ラインを経由して流動床乾燥分級機の熱風として再利用される。
ここで、気流加熱塔は、粗粒炭を1000℃/min以上で急速加熱することで、粗粒炭を200〜400℃程度まで加熱する。さらに、気流加熱塔は、20m/s以上のガス流速で粗粒炭を運ぶ。
したがって、気流加熱塔で加熱された粗粒炭からは粒度が20μm以下の微粉炭及びタールが発生する。しかし、サイクロン捕集機ではこのような微粉炭を捕集することはできない。なお、微粉炭を捕集できる捕集機としてはバグフィルタがあげられるが、バグフィルタをサイクロン捕集機の代わりに用いることはできない。粗粒炭の温度が高すぎるからである。
その結果、気流加熱塔から排出された排ガス、より具体的にはサイクロン捕集機から排出された排ガスには、タール及び微粉炭が含まれる。特に、微粉炭は排ガス中で20〜200g/m3の高濃度に濃縮される。
また、塊成炭のバインダにはタールが使用されるため、混練機、塊成機、及び石炭搬送ラインから排出される排ガスにもタールが含まれる。特に、石炭搬送ラインでは、気流加熱塔によって加熱された高温の粗粒炭に塊成炭が混合されるため、塊成炭内のタールが揮発しやすい。
したがって、気流加熱塔、混練機、塊成機、及び石炭搬送ラインから排出された排ガスをそのまま循環ラインに導入した場合、排ガスが循環ライン中で冷却されるので、循環ライン中でタールが析出する。そして、析出したタールと微粉炭とが混ざった状態で循環ライン内に堆積する。この結果、循環ラインがタール及び微粉炭の堆積物によって閉塞する可能性がある。また、微粉炭が流動床乾燥分級機の目皿板を目詰りさせる可能性もある。
そこで、特許文献1に開示された技術は、気流加熱塔、混練機、塊成機、及び石炭搬送ラインから排出された排ガスを流動床乾燥分級機のフリーボード部または排気ダクト(流動床乾燥分級機とバグフィルタとを結ぶダクト)に導入する。そして、特許文献1に開示された技術では、排ガス中の微粉炭及びタールをバグフィルタによって回収する。
この方法では、排ガスは、流動床乾燥分級機の排気ダクトを通る際に冷却される。しかし、気流加熱塔による粗粒炭の加熱温度が300℃以下となる場合には、気流加熱塔から排出される排ガス中のタール濃度が低い。したがって、排ガスをそのまま流動床乾燥分級機のフリーボード部または排気ダクトに導入しても、タールの析出量は少ないので、問題は生じにくい。
一方、粗粒炭の加熱温度が300℃を超えると、気流加熱塔から排出される排ガス中のタール濃度が上昇する。したがって、この排ガスをそのまま流動床乾燥分級機のフリーボード部または排気ダクトに導入すると、排気ダクト内で排ガスが冷却されて大量のタールが析出する。そして、タール及び微粉炭の堆積物によって排気ダクトやバグフィルタが閉塞する可能性がある。
そこで、特許文献2に開示されているように、タール除去炉を用いて排ガスを無害化する(すなわちタールを除去する)技術が提案されている。この技術では、気流加熱塔とタール除去炉とを排気ダクト(以下、「第1の排気ダクト」とも称する)で連結する。さらに、混練機、塊成機、及び石炭搬送ラインとタール除去炉とを排気ダクト(以下、これらの排気ダクトを「第2の排気ダクト」とも称する)で連結する。したがって、この技術では、気流加熱塔、混練機、塊成機、及び石炭搬送ラインから発生した排ガスをタール除去炉に導入し、タール除去炉により排ガスを無害化する。そして、無害化された排ガスを循環ラインに導入する。
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
<1.石炭事前処理装置による処理の概要>
図1は、本実施形態に係る石炭事前処理装置Aの構成を示す。石炭事前処理装置Aは、コークス炉に装入される原料炭を事前処理(改質)することで、コークス炉で原料炭が熱的崩壊して微粉化することや、コークス強度の低下を抑制するものである。
石炭事前処理装置Aは、石炭(原料炭)の事前処理として、原料炭を流動床乾燥分級機2で乾燥し、ついで粗粒炭と微粉炭とに分級する。石炭事前処理装置Aは、粗粒炭を気流加熱塔8で加熱する。一方、石炭事前処理装置Aは、微粉炭を塊成することで塊成炭を作製する。なお、石炭事前処理装置Aは、微粉炭を塊成する前に気流加熱塔8で加熱する場合もある。そして、石炭事前処理装置Aは、粗粒炭と塊成炭とをコークス炉に装入する。
また、石炭事前処理装置Aは、原料炭の事前処理で発生する排ガスをリサイクルして有効活用することでコークス生産性の向上をはかり、また、排ガス中に含まれる微粉炭やタール等の環境汚染有害成分を除去して大気中に放散させる。
即ち、石炭事前処理装置Aは、流動床乾燥分級機2から発生する排ガスを循環させ、流動床乾燥分級機2の熱風として利用する流動床ガス循環ラインを構築する。さらに、石炭事前処理装置Aは、気流加熱塔8、混練機13、塊成機14、石炭搬送ライン15から発生するタールを含む排ガスをタール除去炉16に導入する。なお、気流加熱塔8とタール除去炉16とはタール除去炉入側ダクト(ダクトD10、排気ダクト)で連結されており、気流加熱塔8から発生する排ガスはダクトD10を通ってタール除去炉16に導入される。一方、混練機13、塊成機14、石炭搬送ライン15から発生する排ガスは、ダクトD11〜D13を通ってダクトD10に導入される。そして、これらの排ガスはダクトD10を通ってタール除去炉16に導入される。
そして、石炭事前処理装置Aは、タール除去炉16内でタールを燃焼・熱分解させることで、タールを無害化する。そして、石炭事前処理装置Aは、無害化した排ガスを流動床ガス循環ラインに導入する。これにより、石炭事前処理装置Aは、排ガスをさらに有効活用する。
ここで、気流加熱塔8から排出される余剰排ガスは高温である。石炭事前処理装置Aは、この高温排ガスをリサイクルするため、高温排ガスの持つ顕熱をも有効活用することができる。これにより、熱エネルギーロスが防止される。
また、石炭事前処理装置Aは、流動床ガス循環ラインの排ガス量が必要量よりも多くなった場合は、流動床ガス循環ラインの排ガスを大気中に放散する。ここで、タールを含む排ガスはタール除去炉16によって無害化された後に流動床ガス循環ラインに導入されるので、石炭事前処理装置Aは、環境汚染を引き起こすことなく排ガスを大気中に放散することができる。さらに、石炭事前処理装置Aは、気流加熱塔8から排出される排ガスを気流加熱塔循環ラインに導入し、気流加熱塔8用の熱風として再利用する。
さらに、石炭事前処理装置Aは、コークス生産量の調整等を目的として、流動床乾燥分級機2をターンダウンする場合がある。石炭事前処理装置Aは、流動床乾燥分級機2の負荷率が小さい場合、気流加熱塔8を停止する。さらに、流動床乾燥分級機2から排出される粗粒炭の温度も低下させる。したがって、気流加熱塔8からは排ガスが排出されなくなる。さらに、混練機13、塊成機14、及び石炭搬送ライン15から排出される排ガスの流量も低下する。この結果、上述したように、ダクトD10に微粉炭及びタールが堆積する可能性がある。そこで、石炭事前処理装置Aは、気流加熱塔8を停止した場合に、熱風発生炉1から発生する熱風の一部をダクトD10に供給する。これにより、石炭事前処理装置Aは、ダクトD10内の流速及び温度を気流加熱塔停止時にも所定値以上に維持し、ひいては、微粉炭及びタールの堆積を抑制する。
<2.石炭事前処理装置の構成>
次に、石炭事前処理装置Aの構成について説明する。石炭事前処理装置Aは、熱風発生炉1、流動床乾燥分級機2、湿炭ホッパ3、粗粒炭排出口4、固気分離器5、流動床ブロワ6、排気調節弁7、気流加熱塔8、固気分離器9、気流加熱塔循環ブロワ10、熱風発生炉11、排気調節弁12、混練機13、塊成機14、石炭搬送ライン15、タール除去炉16、コークス炉17、流量調節弁18を備える。また、石炭事前処理装置Aは、ダクトD1〜D14を備える。
熱風発生炉1は、流動床乾燥分級機2に熱風を供給するものである。具体的には、熱風発生炉1は、熱風炉用ブロワ1−1からの空気1−2、コークスガス等の燃料ガス1−3、及び後述する流動床ブロワ6からの排ガスを所定の空気比で混合して燃焼することで、熱風を発生させ、この熱風をダクトD1に供給する。ダクトD1は、熱風を流動床乾燥分級機2に供給する。熱風の温度は例えば約250〜450℃に設定される。
流動床乾燥分級機2は、湿炭ホッパ3から供給された原料炭(湿炭)を熱風発生炉1から供給された熱風を用いて乾燥及び分級する。原料炭は、総質量に対して10質量%前後程度の水分を含む。また、原料炭は、例えば粒度が0.5mmより大きい粗粒炭と粒度0.3mm以下の微粉炭とを含む。粒度は、例えば目開きの大きさが異なる篩を用いて測定される。例えば、目開きが0.3mmの篩を用意し、測定対象の石炭をこの篩にかける。この篩に残留した石炭は、粒度が0.3mmより大きく、篩から落ちた粉鉱石は粒度0.3mm以下となる。
流動床乾燥分級機2は、例えば長さ方向に2分割される。流動床乾燥分級機2は、前段で原料炭を乾燥させ、後段で原料炭を微粉炭及び粗粒炭に分級する。流動床乾燥分級機2は、粗粒炭を粗粒炭排出口4から排出し、気流加熱塔8に供給する。また、流動床乾燥分級機2は、微粉炭及びタールを含む排ガスをダクトD2に供給する。ダクトD2は、排ガスを固気分離器5に供給する。なお、排ガスに含まれるタールは、排ガスが固気分離器5に供給される過程で微粉炭に付着する。
湿炭ホッパ3は、原料炭を流動床乾燥分級機2に供給する。粗粒炭排出口4は、粗粒炭を気流加熱塔8に供給する。なお、粗粒炭排出口4から排出された粗粒炭の温度は、流動床乾燥分級機2の処理量によって適宜調整される。例えば、粗粒炭の温度は、気流加熱塔8の運転時となる場合には250℃程度とされ、気流加熱塔8の停止時には100℃程度とされうる。
固気分離器5は、数ミクロンオーダの固体を分離可能なバグフィルタを備える。そして、固気分離器5は、ダクトD2から供給された排ガス(流動床乾燥分級機2からの排ガス)を微粉炭(及び微粉炭に付着したタール)と気体とに分離する。固気分離器5は、微粉炭を混練機13に供給する。また、固気分離器5は、気体、すなわち微粉炭及びタールが除去された排ガスをダクトD3に供給する。ダクトD3は、ダクトD4及び排気調節弁7に連結されている。ダクトD3に供給された排ガスは、ダクトD4に供給される。ダクトD4は、排ガスを流動床ブロワ6に供給する。
流動床ブロワ6は、排ガスをダクトD5に供給し、ダクトD5は、排ガスを熱風発生炉1に供給する。熱風発生炉1に供給された排ガスは、熱風の生成に使用される。すなわち、排ガスがリサイクルされる。排気調節弁7は、開放された際に、ダクトD3、D4内の排ガスの一部を大気中に放散する。ここで、ダクトD3、D4内の排ガスは無害化されている。したがって、排気調節弁7は、無害化された排ガスを大気中に放散することができる。また、流動床ブロワ6は、無害化された排ガスを熱風発生炉1に供給することができる。
気流加熱塔8は、熱風発生炉11から供給された熱風を用いて粗粒炭を300〜400℃まで加熱する。具体的には、気流加熱塔8は、粗粒炭を1000℃/min以上で急速加熱することで、粗粒炭を200〜400℃程度まで加熱する。石炭の種類にもよるが、粗粒炭の温度が350℃以上となると、粗粒炭中のタールが揮発する。したがって、排ガスにはタールが含まれることになる。なお、粗粒炭には粒度分布があるため、大径粒子に比べて小径粒子の方が高温に加熱される。このため、小径の石炭粒子は熱風に近い温度まで加熱され易い。したがって、小粒石炭粒子からのタール発生が多くなる。
さらに、気流加熱塔8は、粗粒炭をダクトD7に導入し、粗粒炭を20m/s以上のガス流速で固気分離器9に運ぶ。したがって、粗粒炭から微粉炭が分離し、排ガスに含まれるようになる。このように、固気分離器9に供給される排ガスには、タール及び微粉炭が含まれる。しかし、排ガスは粗粒炭と同様に300〜400℃に加熱されているため、タールは析出しない。
一方、気流加熱塔8は、負荷率が小さい場合に停止される。気流加熱塔8が停止すると、排ガスは発生しなくなる。したがって、ダクトD10内の排ガスの流速及び温度が大きく低下する。なお、気流加熱塔8が停止した場合、粗粒炭排出口4から排出された粗粒炭は、石炭搬送ライン15に供給される。
固気分離器9は、例えばサイクロンであり、粗粒炭及び排ガスから粗粒炭を分離する。そして、固気分離器9は、粗粒炭を石炭搬送ライン15に供給する。一方、固気分離器9は、微粉炭及びタールを含む排ガスをダクトD8に供給する。ダクトD8は、排ガスを気流加熱塔循環ブロワ10及び排気調節弁12に供給する。
気流加熱塔循環ブロワ10は、ダクトD8内の排気の一部をダクトD9に導入し、ダクトD9は、排気を熱風発生炉11に供給する。熱風発生炉11は、気流加熱塔8に熱風を供給するものである。具体的には、熱風発生炉11は、熱風炉用ブロワ11−1からの空気11−2、コークスガス等の燃料ガス11−3、及び気流加熱塔循環ブロワ10からの排ガスを所定の空気比で混合して燃焼することで、熱風を発生させ、この熱風をダクトD6に供給する。熱風温度は例えば約350〜500℃とされる。ダクトD6は、熱風を気流加熱塔8に供給する。したがって、気流加熱塔8から発生した排ガスは、気流加熱塔8に供給される熱風として再利用される。
排気調節弁12は、ダクトD8内の排ガス(気流加熱塔8からの排ガス)をダクトD10に供給する。したがって、気流加熱塔8が停止している場合、排気調節弁12には排ガスが流通しなくなる。
混練機13は、微粉炭をバインダ13−1であるタールと混練することで混練物を作製し、塊成機14に供給する。なお、混練機13からは微粉炭及びタールを含む排ガスが発生する。この排ガスは、ダクトD13に供給される。ダクトD13はダクトD12に連結されている。したがって、ダクトD13内の排ガスはダクトD12に供給される。
塊成機14は、混練物を塊成することで塊成炭を作製し、この塊成炭を石炭搬送ライン15に供給する。なお、塊成機14からも微粉炭及びタールを含む排ガスが発生する。この排ガスはダクトD12に供給される。ダクトD12は、ダクトD10及びD13に連結されている。ダクトD12は、混練機13からの排ガス及び塊成機14からの排ガスをダクトD10に供給する。
石炭搬送ライン15は、粗粒炭及び塊成炭をコークス炉17に供給する。石炭搬送ライン15からも微粉炭及びタールを含む排ガスが発生する。特に、塊成炭はタールを含んでおり、石炭搬送ライン15では、この塊成炭と高温の粗粒炭とが混合されるため、タールが揮発しやすい。なお、気流加熱塔8が停止している場合、粗粒炭の温度は低下するが、その場合であってもタールは揮発する。石炭搬送ライン15から発生した排ガスは、ダクトD11を介してダクトD10に供給される。なお、ダクトD11〜D13のうち、すくなくとも1つがダクトD10に連結されていることが好ましい。
ダクトD10は、気流加熱塔8が運転中の場合、気流加熱塔8、混練機13、塊成機14、及び石炭搬送ライン15から発生した排ガスをタール除去炉16に供給する。この場合、ダクトD10には気流加熱塔8から高温かつ大流量の排ガスが供給されるため、ダクトD10内の排ガスの流速及び温度は高い。したがって、ダクトD10内に微粉炭は堆積せず、タールも析出しない。
一方、流動床乾燥分級機2のターンダウンによって気流加熱塔8が停止した場合、気流加熱塔8から排ガスは発生しなくなる。したがって、ダクトD10は、混練機13、塊成機14、及び石炭搬送ライン15から発生した排ガスをタール除去炉16に供給する。なお、気流加熱塔8が停止した場合、混練機13、塊成機14、及び石炭搬送ライン15から発生する排ガスの流量も小さくなる。
したがって、ダクトD10内に別途の熱風を供給しない場合、ダクトD10内の排ガスの流速が低下するので、微粉炭がダクトD10内に堆積する。さらに、ダクトD10内の温度も低下するので、ダクトD11、D12内の排ガス、すなわち混練機13、塊成機14、及び石炭搬送ライン15で発生した排ガスは、ダクトD10に導入された際に急速に冷却される。したがって、タールが析出する。析出したタールは、微粉炭と混合されて堆積物を形成する。これに対し、石炭事前処理装置Aは、熱風発生炉1からの熱風をダクトD10内に供給するので、ダクトD10内の排ガスの流速及び温度を高い値に維持することができる。この結果、石炭事前処理装置Aは、流動床乾燥分級機2のターンダウンによって気流加熱塔8が停止した場合であっても、ダクトD10内の微粉炭及びタールの堆積を抑制することができる。なお、後述する実施例で示される通り、ダクトD10内の排ガスは、流速(空塔速度)が9.0m/s以上であり、かつ、温度が150℃以上であることが望ましい。この条件が満たされる場合に、堆積物が観察されなかったからである。
タール除去炉16は、タール除去炉用ブロワ16−1により空気16−2と燃料ガス16−3とを所定の空気比で炉内に導入してバーナで燃焼させることで、炉内を600〜1200℃に調整する。炉内温度が600℃未満ではタールの燃焼、熱分解効率が悪いので炉内温度を600℃以上とする必要がある。また、炉内温度の上限はあまり高くしても熱損失となるので1200℃を上限とした。好ましい炉内温度は、800〜1000℃である。
したがって、タール除去炉16は、ダクトD10から供給された排ガス内のタールを燃焼・熱分解する。これにより、タール除去炉16は、排ガスからタールを除去する。すなわち、タール除去炉16は、排ガスを無害化する。
タール除去炉16は、無害化した排ガスをダクトD4に供給する。ダクトD4に供給された排ガスは、流動床ブロワ6を介して熱風発生炉1に供給されるか、排気調節弁12を介して大気中に放散される。ここで、タール除去炉16から排出される排ガスは、気流加熱塔8及びタール除去炉16によって高温にされている。したがって、石炭事前処理装置Aは、気流加熱塔8及びタール除去炉16から発生した熱量(顕熱)は、流動床乾燥分級機2のための熱源として有効活用される。コークス炉17は粗粒炭及び塊成炭を乾留することでコークスを作製する。
流量調節弁18は、ダクトD1とダクトD14(熱風供給ライン)とを連結し、ダクトD14はダクトD10に連結されている。流量調節弁18は気流加熱塔8が停止した際に開放され、熱風発生炉1からの熱風をダクトD14に供給する。ダクトD14は、熱風をダクトD10に供給する。ダクトD14は、ダクトD10のうち、ダクトD11、D12との連結点よりも上流側に連結されることが好ましい。これにより、ダクトD11、D12からダクトD10内に導入された排ガスをより確実に加熱し、かつ当該排ガスの流速を向上させることができる。
流量調節弁18の開度は、ダクトD10内の流速(空塔速度)が9.0m/s以上となり、かつ温度が150℃以上となるように設定されることが好ましい。これにより、気流加熱塔8が停止してもダクトD10内に微粉炭及びタールが堆積しないようにすることができる。
このように、本実施形態では、ダクトD10内の排ガスの流速及び温度を向上させる熱風として、熱風発生炉1から発生した熱風を使用する。その理由は以下のとおりである。第1に、熱風発生炉1から発生した熱風は高温かつ大流量である。第2に、ダクトD10内の排ガスの流速及び温度が低下している場合、流動床乾燥分級機2はターンダウンしている。したがって、熱風発生炉1による熱風供給量に余裕がある。第3に、ダクトD1内は正圧、ダクトD10内は負圧に維持されているので、両者を連結するだけで熱風がダクトD10内に導入される。第4に、熱風発生炉1から発生した熱風はタール及び微粉炭のいずれも含まないクリーンなガスである。これらの理由により、本実施形態では、ダクトD10内の排ガスの流速及び温度を向上させる熱風として、熱風発生炉1から発生した熱風を使用する。
なお、気流加熱塔8の停止時にダクトD10内の排ガスの流速及び温度を向上させることができるのであれば、その手段は特に問われない。例えば、熱風発生炉1とは別個の熱風発生炉を用意し、この熱源発生炉からの熱風をダクトD10内に供給してもよい。ただし、この方法では別途の熱風発生炉を用意する手間がかかる。さらに、熱風発生炉1の熱風を使用することで、上記のメリットが得られる。したがって、熱風発生炉1の熱風を使用することが好ましい。
なお、ダクトD1〜D5によって流動床ガス循環ラインが構築されている。すなわち、流動床乾燥分級機2から発生した排ガスは、流動床ガス循環ラインによって熱風発生炉1に循環され、熱風発生炉1の熱風として再利用される。
また、ダクトD6〜D9によって気流搭循環ラインが構築されている。すなわち、気流加熱塔8から発生した排ガスは、熱風発生炉11に循環され、熱風発生炉11の熱風として再利用される。
<3.石炭事前処理方法>
次に、石炭事前処理装置Aを用いた石炭事前処理方法について説明する。この石炭事前処理方法では、湿炭ホッパ3から原料炭を流動床乾燥分級機2に供給する。ついで、流動床乾燥分級機2は、熱風発生炉1から供給された熱風を用いて原料炭を乾燥する。ついで、流動床乾燥分級機2は、当該熱風を用いて原料炭を微粉炭及び粗粒炭に分級する。流動床乾燥分級機2は、粗粒炭を気流加熱塔8に供給する。気流加熱塔8は、熱風発生炉11から供給された熱風を用いて粗粒炭を加熱する。気流加熱塔8は、粗粒炭及び排ガスを固気分離器9に供給する。固気分離器9は、粗粒炭を排ガスから分離して石炭搬送ライン15に供給し、排ガスを気流加熱塔循環ブロワ10及び排気調節弁12に供給する。気流加熱塔循環ブロワ10は、排ガスを熱風発生炉11に供給する。一方、排気調節弁12は、排ガスをダクトD10に供給する。
一方、流動床乾燥分級機2から排出された排ガスは、固気分離器5に供給される。固気分離器5は、排ガスから微粉炭を分離し、混練機13に供給する。また、固気分離器5は、排ガスをダクトD3に供給する。混練機13は、バインダ13−1であるタールと微粉炭とを混練することで混練物を作製する。混練機13は、混練物を塊成機14に供給する。混練機13から発生した排ガスは、ダクトD13に供給される。ダクトD13は、排ガスをダクトD12に供給する。
塊成機14は、混練物を塊成することで塊成炭を作製する。そして、塊成機14は、塊成炭を石炭搬送ライン15に供給する。塊成機14から発生した排ガスは、ダクトD12に供給される。ダクトD12は、混練機13及び塊成機14から発生した排ガスをダクトD10に供給する。
石炭搬送ライン15は、粗粒炭及び塊成炭をコークス炉17に供給する。コークス炉17は、粗粒炭及び塊成炭を乾留することでコークスを作製する。石炭搬送ライン15から発生した排ガスはダクトD11に供給される。ダクトD11は、排ガスをダクトD10に供給する。ダクトD10は、気流加熱塔8、混練機13、塊成機14、及び石炭搬送ライン15から発生した排ガスをタール除去炉16に供給する。タール除去炉16は、排ガスを無害化し、ダクトD4に供給する。ダクトD3、D4は、無害化された排ガスを流動床ブロワ6に供給する。また、排気調節弁7は、開放された際に、ダクトD3、D4内の排ガスを大気中に放散する。これにより、コークスが作製されるとともに排ガスが循環される。
ここで、流動床乾燥分級機2の負荷率が小さくなった場合、気流加熱塔8が停止される。さらに、流動床乾燥分級機2から排出される粗粒炭の温度も低下する。これにより、気流加熱塔8からは排ガスが排出されなくなる。一方、流動床乾燥分級機2がターンダウンするので、混練機13、塊成機14、及び石炭搬送ライン15から発生する排ガスの流量も小さくなる。したがって、ダクトD10内の排ガスの流速及び温度が低くなる。
そこで、本実施形態では、流量調節弁18を開放することで、熱風発生炉1からの熱風をダクトD14に供給する。ダクトD14は、熱風をダクトD10に供給する。これにより、ダクトD10内の排ガスの流速及び温度が向上する。ここで、流量調節弁18の開度は、ダクトD10内の排ガスの流速が9.0m/s以上となり、かつ温度が150℃以上となるように調整されることが好ましい。
次に、ダクトD10内の排ガスの好ましい流速及び温度を確認するために、以下の実施例及び比較例を実施した。なお、上述した構成を有する石炭事前処理装置Aを実施例として使用し、図2に示す石炭事前処理装置Bを参考例及び比較例として使用した。石炭事前処理装置Bは、石炭事前処理装置AからダクトD14及び流量調節弁18を除去したものである。
実施例及び比較例のいずれにおいても、ダクトD10の内径を750mmとし、ダクトD10を水平方向に伸ばした。そして、操業条件、具体的には、気流加熱塔8の運転の有無、熱風のダクトD10への供給の有無、熱風のダクトD10への供給量、及び流動床乾燥分級機2への原料炭投入量(負荷率)を変動させた。そして、それぞれの操業条件の下でダクトD10内に単位時間当りに導入される排ガス及び熱風の総流量、ダクトD10内の排ガス流速(空塔速度)、排ガス温度、及び堆積厚みを測定した。
ここで、ダクトD10内に単位時間当りに導入される排ガス及び熱風の総流量は以下のように測定した。すなわち、図1のa,b,c,dで示す各位置を単位時間あたりに通過する排ガス(または熱風)の流量を測定した。流量の測定はピトー管または熱線式流速計を用いて行われた。そして、それらの総和をダクトD10内に単位時間当りに導入される排ガス及び熱風の総流量とした。また、ダクトD10内の排ガス温度は以下のように測定した。すなわち、図1のa,b,c,dで示す各位置の排ガス(または熱風)温度を測定した。測定は熱電対を用いた。そして、各位置の温度に当該位置での流量を乗じ、これにより得られた値の総和を各位置での流量の総和で除算した。そして、これにより得られた値をダクトD10内の排ガス温度とした。また、ダクトD10内の排ガス流速はダクトD10の直径を750mmとしたときの空塔速度とした。堆積厚みは、定期修繕のタイミングに合せて実測し、堆積物の表面からダクトD10の底面(中心軸の鉛直下方の面)までの距離とした。また、負荷率は流動床乾燥分級機2への原料炭投入量の基準値を161(t/h)とし、石炭投入量をこの基準値で除算することで求めた。
その結果を表1及び図3に示す。図3中の点Pは、堆積厚みとタール除去炉入側ダクト(ダクトD10)内の排ガスの空塔速度との対応関係を示す。
実施例及び比較例によれば、気流加熱塔8の停止時に熱風をダクトD10に供給することで、ダクトD10内での微粉炭及びタールの堆積が抑制されることがわかる。さらに、ダクトD10内の流速が9.0m/s以上であり、かつ温度が150℃以上である場合に、堆積が観察されなかったこともわかる。
以上により、本実施形態によれば、石炭事前処理装置Aは、気流加熱塔8の停止時にダクトD10に熱風を供給するので、ダクトD10内の微粉炭及びタールの堆積を抑制することができる。したがって、ダクトD10の修繕(上述したように、この修繕には非常に手間がかかる。)のために石炭事前処理装置Aの操業を停止する必要がなくなり、ひいては、石炭事前処理装置Aの連続運転時間を長くすることができる。さらに、修繕作業の負荷低減が図れる。
さらに、石炭事前処理装置Aでは、ダクトD14は、熱風発生炉1とダクトD10とを連結するので、熱風発生炉1からの熱風を利用してダクトD10内の排ガスの流速及び温度を向上させることができる。
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。