JP6239388B2 - 漆製品の製造方法 - Google Patents

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本発明は、例えば食器、容器、装飾品等の漆を主成分とする塗料又はカシュー塗料を使用して作製される製品に好適な漆製品の製造方法に関するものである。
我が国及びアジアでは昔から広く樹木としてのウルシから天然樹脂塗料材料の漆を採取し(以下、塗料としては「漆」と表記する)、これを主成分とした塗料としている(以下、漆塗料とする)。従来から主として漆塗料は例えば木材や竹を芯として例えば食器や容器や装飾品を作製する際にその表面をコーティングする役割を果たすものである。また、漆塗料の代替品としてカシュー塗料も主として同様に食器や容器や装飾品を作製する際に表面をコーティングするために使用されている。従って、以下において「漆製品」という場合にはカシュー塗料を使用したものも含む概念である。原材料としての漆塗料の一例を特許文献1に、漆塗料を用いた製品の一例を特許文献2に示す。
特公平6−23334号公報 特開平7−47799号公報
これら漆塗料又はカシュー塗料(以下漆塗料等)はいずれも上記のように必ず木材や竹等をベースとしてその上に塗布したり、あるいはそれら木材や竹等を芯とするものであって塗料だけを固めて単独で工業製品化するという発想はない。しかし、漆塗料は一般に高級品というイメージがあり、漆だけで構築した製品の工業化ができるのであれば新たな需要が見込まれる。そのため例えば木材や竹のような芯を用いずに漆塗料等だけで食器や容器や装飾品等を製品化する技術が求められていた。
本発明の目的とするところは、芯を用いずに漆塗料等だけで食器や容器や装飾品等の漆製品を製造する製造方法を提供することにある。
上記目的を達成するために、第1の手段では、非浸透性かつ可撓性のある基材の表面に漆を主成分とする塗料又はカシュー塗料(以下漆塗料等)を塗布し、これを乾燥・硬化させた後にその上層に再度前記漆塗料等を塗布し、これを乾燥・硬化するという塗布工程を繰り返すことで前記漆塗料等を塗り重ねた積層体を前記基材上に形成し、次いで前記基材を撓ませることで前記積層体を前記基材から離型させて漆製品を得るようにしたことをその要旨とする。
このような構成であれば、塗布工程を経て漆塗料等を塗り重ねた積層体は基材を変形させることで基材から離型させられ、少なくとも積層体の基材に密着していた面が基材の外面形状に一致した漆製品を得ることができる。これによって、基材を型として芯がない漆塗料やカシュー塗料だけで構築された漆製品を製造することが可能となる。積層体は塗り重ねを多くすることで厚くもなり、また塗り重ねが少なかれば非常に薄い漆製品を得ることもできる。
ここに、漆塗料とは油分のない生漆だけではなく油分を添加させた有油漆や他の塗料や調整剤を添加させた漆を含む概念である。カシュー塗料もカシュー油を重合したものだけでなく、他の塗料や調整剤を添加させたカシュー塗料を含む概念である。
また、漆塗料等を塗布する際の塗布厚みは塗料の種類や粘度で一定ではないが、通常塗布直後の状態で20〜100μm程度の厚みとなる。
漆塗料及びカシュー塗料はいずれも乾燥して固化すると可撓性を有しながらもゴムのような弾性はなく硬化する性質を有する。但し、乾燥工程は漆が湿度の多い雰囲気中で酸化かされて乾燥するのに対して、カシュー塗料は湿度は要しない。そのため、乾燥させるための環境や装置は漆塗料を用いる場合とカシュー塗料を用いる場合では異なる。
漆塗料等が塗布される基材は非浸透性かつ可撓性があれば形状は問わない。非浸透性とあるのは浸透性があると漆塗料等が基材と強く結着されて離型ができなくなるからである。また、基材に可撓性が必要なのは撓めることで両者の接着界面をずらして積層体を離型させるためである。局所的には固い基材であっても厚み方向に対して長さ及び幅方向を相対的に大きく形成することで全体としては曲げる力に対して十分な可撓性を有するようにすることはできる。そのため、多くの素材がここで基材として使用できるが、普通の石英ガラスのように極端に可撓性のないような素材は好適ではない。
また、第2の手段では前記第1の手段に加え、前記基材はプラスチック又はエラストマーであることをその要旨とする。
これらの材料は非浸透性かつ可撓性を有する形状とすることが容易であり、任意の形状に成形しやすいから基材としてよい。
プラスチックとしては、例えば、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、PBT樹脂、シリコーン樹脂、ポリプロピレン(PP)、ポリ塩化ビニリデン等が挙げられる。また、エラストマーは合成ゴムも含む概念である。
また、第3の手段では第1又は第2の手段に加え、前記基材は透明又は半透明の素材であることをその要旨とする。
このような構成であれば、漆塗料等を塗り重ねて積層体を作製する場合に積層体を離型した際に外面となる第1層目の漆塗料等を目視することができ、どのような形状であるいはどのような色で成形されるかを認識しながら工程を行うことが可能となる。
また、第4の手段では第1〜第3のいずれかの手段に加え、前記基材の前記漆塗料等が塗布されて前記積層体が形成される領域は第1層目の前記漆塗料等が部分的に塗布されない部分を有し、第1層目の前記漆塗料等は第1層目の前記漆塗料等が部分的に塗布されない部分に塗布されることとなる第2層目以降の前記漆塗料等とは異なる色であることをその要旨とする。
このような構成であれば、漆塗料等を塗り重ねて積層体を作製する場合に積層体を離型した際に最も外面となる第1層目の漆塗料等を最初に塗布することができ、模様や文字を第1層目に塗布した場合に、もしうまく描けずに失敗したとしても容易にやり直しができることとなる。一方、従来のような芯に塗り重ねていくような方式では最後の塗布工程がそのまま最も外側に露出することとなり、もしこの段階で描くのを失敗すると場合によってはそれまでの工程が無駄になる可能性もあったが、そのような不具合が解消されることとなる。
更に、従来では最後に模様なり文字なりを塗布するのであるが、その場合に塗料の乗り具合が均一にならず、表面を滑らかにする研ぎ出し作業を必要とするケースが多いが、このように第1層目に基材上に塗布できることから均一な厚みで模様や文字を表現することが可能となる。
第2層目以降の漆塗料等が基材に直接塗布されるような塗り方であるのであれば異なる色は2色以上であってもよい。
また、第5の手段では第1〜第4のいずれかの手段に加え、前記積層体を前記基材から離型させた後に加工を施すようにしたことをその要旨とする。
これによって、基材から離型させた積層体に例えばペンダントやキーホルダー用の孔を加工したり、櫛や笄の歯を削り出すことが可能となる。
本発明によれば、芯を用いずに漆塗料等だけを使用した食器や容器や装飾品等の漆製品を製造することができる。
(a)〜(e)は本発明の実施の形態の製造工程において製品を得るまでの流れを説明する説明図。 実施の形態の製造工程を説明するブロック図。
以下、本発明の漆製品の製造方法を具体化した実施の形態について図面に基づいて説明する。
図1(a)に示すように、本実施の形態では基材の一例として容器状の抜き型1を使用してこの抜き型1の内側形状に対応した容器状の製品用の積層体を形成させるものとする。抜き型1は胴部1aの横断面が円形形状となる500μm程度の厚みで形成されたポリプロピレン製の滑らか外面を有する有底容器である。底面1bから上部寄りの屈曲部1cまでの内周面が積層体形成領域となる。抜き型1上部には補強用のフランジ1dが全周にわたって一体的に形成され、抜き型1下部には底面1bから下方に向かって糸底部1eが全周にわたって一体的に形成されている。
本実施の形態では漆塗料を使用するものとする。ここで使用する漆塗料は赤色の着色した第1の塗料(中国産生漆に辰砂を混ぜて調整したベースに3重量%程度のテレピン油を添加して攪拌した溶液)と黒色に着色した第2の塗料(中国産生漆に鉄粉を混ぜて調整したベースに3重量%程度のテレピン油を添加して攪拌した溶液)を使用した。これらの塗料を塗布した場合の厚みは概ね30〜60μm程度となる。
図2は漆製品の製造工程のブロック図である。以下、この図2に基づいて製造工程を説明する。本実施の形態の製造工程は第1の層の塗布・乾燥工程、第2〜15の層の塗布・乾燥工程、離型工程、仕上げ工程から構成されている。
1)第1の層の塗布・乾燥工程
まず抜き型1の積層体形成領域に第1の塗料を抜き型1上にランダム模様3を描くように筆にて塗布する。一種の絵付け作業である。このランダム模様3は抜き型1が透明であるため、外からも目視可能となる。図1(b)は第1の塗料を塗布した状態の抜き型1の正面図である。このように塗布した後、湿度90%以上の雰囲気の暗室に12時間静置して乾燥・硬化させた。
b)第2〜15の層の塗布・乾燥工程
第1の層が乾燥した上から積層体形成領域の全域に及ぶように第2の塗料を塗布する。そして、1)と同様の条件で乾燥・硬化させる。この第2の塗料の塗布と乾燥の工程を14回繰り返す。図1(c)は第2の塗料を塗布した状態の抜き型1の正面図である。最も上層(抜き型1から最も遠い層)が乾燥・硬化した段階でトータル15層からなる積層体5が形成される。本実施の形態では積層体5の厚みは500μm程度に構成される。
c)離型工程
抜き型1の上部のフランジ1dの180度対向する位置を指で挟み持って内側に向かってこれら指で圧力をかけるようにして抜き型1を撓ませる。この動作によって積層体5は抜き型1から外される(図1(d)の状態)。
d)仕上げ工程
図1(d)に示すように、積層体5は小口側に漆塗料を塗布した際のバリ6が残ってしまう。そこで、図示しないグラインダーのような研削手段によってバリ6を削り、小口部に化粧として第1の塗料を塗布し、上記と同様に乾燥させて製品としての小鉢7が完成する(図1(e)の状態)。
以上のように構成することで本実施の形態の漆製品の製造方法では次のような効果が奏される。
(1)漆製品を製造するに際して芯となる木や竹が不要であるとともに、非常に薄手であるにも関わらず防水性も靱性も高い容器を提供することができ、従来にない用途が期待できる。
(2)本来最後に描くべき模様をまず最初に描くことができるため、絵や模様を描くのを最後に失敗してしまうということがない。このような工法であれば最初に失敗しても抜き型1を代えてやり直せばよいわけであり、絵付け作業における失敗に寛容である。また、絵や模様は抜き型1上に延展されるため、きれいに均一な厚みとなった模様を得ることができる。
(3)抜き型1は上方ほど開いたテーパ型となっており、離型工程で抜き型1を撓ませると積層体5が自動的に抜き型1は上方に飛び出てくるため作業性がよい。
尚、この発明は、次のように変更した態様で具体化することも可能である。
・基材の形状や素材は適宜変更可能である。上記のような抜き型1でなくとも例えば割り型を使用すれば抜けにくい形状であっても成形可能である。
・使用する漆塗料の質や色は適宜変更可能である。
・上記小鉢7は製品の一例であって、他の製品を製造することも可能である。
・漆塗料を重ねる際の回数や一回に塗布する際の塗料の厚みも適宜変更可能である。
・漆塗料の代わりにカシュー塗料を使用してもよい。
・上記では黒を背景に抜き型1に接した第1の層の赤色の模様を浮かび上がらせるような意匠であったが、例えば第2層もランダム模様で黄色の漆塗料で塗布することで赤と黄と黒の三色の意匠を創作することも可能である。つまり、第1の層を抜き型1に塗布する際になるべく透明な部分が残るようにすることで、第1の層の更に上層に塗布したいくつかの層も完成後に目視可能に露出させることができるわけである。これによっていくつもの色で構築された意匠を製品の外面に形成させることが可能である。
・上記仕上げ工程以降で製品を得た後に加工を施してもよい。例えば、キーホルダーを作製した場合にキーリングを取り付けるための孔を設けたり、櫛や笄の歯を削り出すようにして最終段階の製品とすることも可能である。その場合に加工部分に追加的に漆塗料を塗布してもよい。
その他、本発明の趣旨を逸脱しない態様で実施することは自由である。
1…基材としての抜き型、5…積層体、7…漆製品としての小鉢。

Claims (5)

  1. 非浸透性かつ可撓性のある基材の表面に漆を主成分とする塗料又はカシュー塗料(以下漆塗料等)を塗布し、これを乾燥・硬化させた後にその上層に再度前記漆塗料等を塗布し、これを乾燥・硬化するという塗布工程を繰り返すことで前記漆塗料等を塗り重ねた積層体を前記基材上に形成し、次いで前記基材を撓ませることで前記積層体を前記基材から離型させて漆製品を得るようにしたことを特徴とする漆製品の製造方法。
  2. 前記基材はプラスチック又はエラストマーであることを特徴とする請求項1に記載の漆製品の製造方法。
  3. 前記基材は透明又は半透明の素材であることを特徴とする請求項1又は2に記載の漆製品の製造方法。
  4. 前記基材の前記漆塗料等が塗布されて前記積層体が形成される領域は第1層目の前記漆塗料等が部分的に塗布されない部分を有し、第1層目の前記漆塗料等は第1層目の前記漆塗料等が部分的に塗布されない部分に塗布されることとなる第2層目以降の前記漆塗料等とは異なる色であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の漆製品の製造方法。
  5. 前記積層体を前記基材から離型させた後に加工を施すようにしたことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の漆製品の製造方法。
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