JP6234742B2 - プレストレスコンクリート構造物のグラウトの充填状態を評価する方法 - Google Patents
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Description
PC鋼材は、予め引張力を作用させることで、圧縮力には強く、引張力には弱いコンクリートの弱点を克服する役割を果たしている。
このPC構造物は、コンクリートの内部に設けられるシース管内に、PC鋼材を通し、PC鋼材に対し、引張力を作用させた状態とし、この状態で、シース管の内部にグラウトを充填することによって、構築される。
しかしながら、施工不良が発生した場合、シース管内に、グラウトの未充填領域、即ち、空隙が発生し、PC鋼材が、空隙内に露出することがある。
このような施工不良が発生すると、空隙に露出したPC鋼材が腐食を開始し、これによって、PC鋼材の破断が発生する。
このため、PC構造物におけるグラウトの充填の施工不良箇所を早期に調査し、未然に事故防止する必要があり、グラウトの充填状況を評価し、グラウトの未充填領域を効率よく検出する技術が求められている。
この従来技術は、シース管の外壁に1対の電極を配し、これら1対の電極が、シース管およびグラウトを介してキャパシタを構成するようにし、一方の電極に高周波を印加して、他方の電極で受信した高周波を解析することにより、グラウトの未充填領域を検出しようとするものである。
しかしながら、この従来技術では、シース管の外面に、予め電極を配置しておく必要があって、作業の煩雑性が高く、また、シース管全体としての未充填領域の有無を確認することはできても、未充填領域の位置を正確に特定することは困難であり、また、受信する高周波も、電極とPC鋼材の相対位置によって変化することもあり、受信結果の解析も容易ではない、という問題があった。
コンクリートの内部に金属製のシース管を有し、シース管の内部に予め引張力を作用させたプレストレスコンクリート鋼材が配置され、プレストレスコンクリート鋼材が配置されたシース管の内部にグラウトを充填して製造されるプレストレスコンリート構造物のグラウトの充填状態を評価する方法であって、
電磁誘導加熱により、シース管を加熱する加熱ステップと、
シース管の加熱によってコンクリートに拡散する熱量を、シース管の周囲のコンクリート表面の温度を計測することによって取得する計測ステップと、
コンクリート表面の計測温度が、グラウトが「健全」に充填されている状態のコンクリート表面の計測温度である基準温度より高い場合、その領域にはグラウトの未充填領域が存在することを判定する判定ステップと、
基準温度に対する、コンクリート表面の計測温度の差異からグラウトの充填率を特定する充填率特定ステップと、
未充填領域の有無、及び、グラウトの充填率の予測値の少なくとも一方を表示し、グラウトの充填状態を評価に供する評価ステップと
からなることを特徴とする。
計測ステップが、
コンクリート表面の温度を、赤外線サーモグラフィを介して計測する
ことを特徴とする。
充填率特定ステップにおいて、
グラウトの充填状態が「健全」の基準温度からの上昇率αが、下記式(1)によって得られ、
グラウト充填率βが、下記式(2)によって特定される請求項1または2に記載のプレストレスコンリート構造物のグラウトの充填状態を評価する方法:
ことを特徴とする。
加熱ステップにおいて、
電磁誘導の磁界が、シース管に到達し、かつ、シース管で遮断され、プレストレスコンクリート鋼材には到達しない
ことを特徴とする。
判定ステップが、
コンクリート表面の温度変化から、計測領域の温度上昇率を計算し、予め定められた基準上昇率より高い温度上昇率を有する計測領域には、グラウトの未充填領域が存在することを判定する
ことを特徴とする。
判定ステップが、充填率特定ステップを含み、
計算された温度上昇率に応じ、対応する計測領域のグラウト充填率を予測する
ことを特徴とする。
以下、実施例に基づき、本発明を詳細に説明する。
図1は本発明にかかるPC構造物のグラウトの充填状態を評価する方法の実施例1の構成を示す概念図、図2は図1に示したPC構造体の内部に、グラウトの未充填領域が発生した状態を示す側断面概念図、図3は図1の電磁誘導コイルにより発生する交番磁界を示す説明図、図4は図1に示したPC構造物のコンクリート表面の温度を計測する状態を示す概念図、図5は図4においてグラウトの充填率が50%である場合の概念図、図4においてグラウトの充填率が0%である場合の概念図、図7は図4から図6における表面温度の変化の概念の一例を示すグラフである。
加熱装置10は、高周波インバータ100と、高周波インバータ100から電流を供給される電磁誘導用コイルユニット101と、電磁誘導用コイルユニット101と後述のPC構造物との間に挟まれる保護ボード102とを具備する。
電磁誘導用コイルユニット101は、移動可能なユニットになっており、内部に、鉛直な中心軸を周回する図示しないコイル部を有し、高周波インバータ100からの電流の供給を受け、交番磁界を発生する。
この電磁誘導用コイルユニット101は、使用時に、後述の保護ボード102を挟んで、PC構造物の上面に載置される。
この保護ボード102は、電磁誘導用コイルユニット101がPC構造物2の上面に載置される際に、電磁誘導コイル部101が有する熱がPC構造物2に影響しないようにすると共に、電磁誘導コイル部101及びPC構造物の双方の接触による損傷を防止する。
制御部110は、温度計測装置11の全体の動作を制御するものであって、具体的には、予め定められたプログラムに応じ、温度計測、計算、評価、出力などを実行する。
温度計測部111は、赤外線サーモグラフィカメラであり、制御部110からの制御信号に応じて動作し、撮影対象、具体的には、PC構造物2の表面、言い換えれば、コンクリート20の表面の温度を計測する。
コンクリート20は、例えば、コンクリート構築物に使用されるコンクリートである。
このシース管21は、金属製であり、交番磁界による電磁誘導によって電流が発生する。
PC鋼材22は、シース管21の内部を、シース管の長さ方向に沿って、予め引張力を作用させた状態で配置されるものである。
グラウト23は、PC鋼材22の防錆効果を有する配合がなされたセメントペースト(非磁性体)であり、PC鋼材22が配置されたシース管21の空隙に充填される。
このグラウト23は、PC鋼材22の防錆と共に、PC鋼材22とシース管21とコンクリート20の一体性を実現し、PC構造物2の全体としての強度、耐用年数の向上に大きく寄与する。
本発明は、この未充填領域21aの存在を判定することにより、PC構造物のグラウトの充填状態を評価するものである。
まず、本発明では、図2に示したように、PC構造物2を横置きする。
このとき、シース管21内で、PC鋼材21が沈殿した位置になるようにする。
次に、PC構造物2の上面の温度計測位置または温度計測領域に、保護ボード102を挟んで、加熱装置10の電磁誘導用コイルユニット101を載置する。
次に、高周波インバータ100を作動させ、電磁誘導用コイルユニット101の図示しないコイル部で、図3に示したように、交番磁界101aを発生させる。
この交番磁界101aは、シース管21に作用して電磁誘導を引き起こし、シース管に誘導電流が発生させる。
一方、発生する交番磁界101aは、電磁誘導用コイルユニット101に対し、交番磁界101aが強く作用するシース管21の上側面より離れている上、シース管21によって遮断されるため、シース管21の内部のPC鋼材22には、作用しない、または、ほとんど作用しない。
このため、PC鋼材22には、PC鋼材22を加熱、または、加熱するような誘導電流は発生せず、電磁誘導による、品質を損なうような加熱はない。
この継続時間は、シース管21の加熱によって、シース管21の温度上昇が停止するかほぼ停止すると共に、周囲のコンクリート20の上面の表面温度には、変化が認められないか、ほとんど認められない程度の出力と時間とすることが望ましい。
次に、加熱した領域を上方から温度計測部111で撮影し、計測位置、具体的には、シース管21の直上位置の計測領域の表面温度を、経時時間に対応して計測し、温度変化を記録する。
次に、この最高温度が、予め定められた基準温度より高い場合、その計測領域の直下には、グラウト23の未充填領域が存在する、と判定する。
この基準温度は、グラウト23の充填の施工不良がなく、「健全」(充填100%)である基準領域で得られる最高温度を示す。
また、この基準温度として、熱伝導解析により取得された値としてもよい。
上記実施例は、以上のように、グラウト23の未充填領域の存在の有無を判定することによって、PC構造物2のグラウト23の充填状態を評価する。
図4に示したように、シース管21内に未充填領域が生じないようグラウト23を充填した場合を「健全(充填100%)」、図5に示したように、シース管21内に、シース管21の断面積換算で約50%の未充填領域が生じた場合を「半充填(充填50%)」、図6に示したように、シース管21内に、グラウトを全く充填しない場合を「充填なし(充填0%)」とする。
「健全」の場合、シース管21の内面全面にグラウト23が接触しているため、シース管21の熱は、シース管21の内面全体からグラウト23に効率よく拡散し、シース管21の外面からコンクリート20に拡散する熱量は、相対的に小さくなる。
空気の熱伝導率は約0.03W/m℃、コンクリート(グラウト)の熱伝導率は約2.0W/m℃であって、空気は断熱性が高い。
このため、シース管21の熱は、グラウト23に対し、未充填領域に面した内面からはほぼ拡散せず、シース管21の内面の半面(図5では下側半分)からしか拡散しない。
「充填なし」の場合、シース管21にはグラウトは充填されていないので、グラウトに拡散する熱はない。
このグラフは、温度変化の傾向を示すものであり、表面最高温度が、グラウトの充填状態に応じて変化、具体的には、充填状態が「健全」のときには表面最高温度が低く、充填状態が「半充填」から「充填なし」に変わるに従い、表面最高温度が高くなる。
このようなPC構造物の表面最高温度と、グラウトの充填状態の相関関係に基づき、本発明では、グラウトの充填状態が評価される。
図8は図4から図6における表面温度の実測値の一実施例を示すグラフ、図9は図8の0秒から3000秒区間を拡大したグラフである。
図8及び図9のグラフにおいて、温度上昇量のピークが認められる領域では、「健全」、「底面半充填」及び「充填なし」の値を示すマークの群によって、明らかに3本のラインが形成されている。
これらのラインのうち、一番上の群は、「充填なし」、真ん中のラインは、「底面半充填」、一番下のラインは、「健全」を示すものである。
この試験計測では、「健全」、「半充填」及び「充填なし」の3本のPC構造物が使用された。
これらの外寸は、長さ500mm、高さ165mm、奥行き165mmの長尺の四角柱である。
従って、このPC構造物におけるシース管からPC構造物の外表面までの最短距離、すなわち「かぶり」は、60mmとなる。
この3本のPC構造物の上面中央を、電磁誘導用コイルユニットを介し、出力1.6Wで180秒間電磁誘導によって加熱する。
この試験結果からも、本実施例では、PC構造物のグラウトの充填状態を適切に評価できることが確認できた。
図10はグラウトの充填状態が「健全」の場合のシース管及びPC鋼材の温度変化を示すグラフ、図11はグラウトの充填状態が「半充填」の場合のシース管及びPC鋼材の温度変化を示すグラフ、図12はグラウトの充填状態が「充填なし」の場合のシース管及びPC鋼材の温度変化を示すグラフである。
なお、図10から図12のグラフにおいて、経過時間の開始から500秒までの間は、明確にシース管とPC鋼材の温度変化に明確な相違が認められる領域では、シース管及びPC鋼材の値を示すマークの群によって、明らかに2本のラインが形成されている。
これらのラインのうち、上側のラインはシース管の温度、下側のラインはPC鋼材の温度変化を示すものである。
すなわち、この試験で用いられるPC構造物のシース管と、PC鋼材には、それぞれ熱電対を取り付けておき、それぞれの温度を計測できるようにした。
この結果、充填状態に応じ、シース管の最高到達温度は、図8及び図9における試験と同様に、グラウトの充填が少ないほど高くなる一方、全ての充填状態において、PC鋼材の最高到達温度には大きな相違がなく、その温度も、PC鋼材の品質に影響するほど高くはなく、電磁誘導による加熱は、PC鋼材には直接影響しないことがわかった。
図13は基準温度および実測温度の比と、グラウト充填率の関係を示すグラフである。
この基準温度からの上昇率αは、以下の式により求めた。
また、無次元化した割合αは、ここでは、「健全(充填率100%)」の基準温度からの温度上昇率を示すものである。
さらに、図13のグラフを利用し、上昇率αの数値から、充填率を予測することも可能である。
なお、実施例2の主要構成は、実施例1と同様であるので、重複する説明は省略し、相違点を中心に説明する。
この実施例2では、グラウトの部分的な充填状態の違いによる、表面温度の変化について検証する。
なお、図14から図16において、PC鋼材32は省略してある。
この実施例におけるPC構造物3の表面の計測位置は、一方の端部から250mm、一方の端部から150mmの2点であり、図14および図15では便宜上×印で示した。
グラウト33は、PC構造物3の両端から、それぞれ、200mmの領域まで充填されており、シース管31の中央部分には、未充填領域31aが、シース管31の両端領域には、健全領域31b、31cが形成される。
なお、実施例2では、表面温度の変化を比較するため、PC構造物3と同様の寸法で、グラウトを全く充填しない「充填なし」の試験体を作成する。
この充填なしの試験体の表面温度の計測位置は、一方の端部から250mmの位置とする。
この表面温度の変化は、図19に示した通りである。
なお、図19のグラフでは、一番下の群がPC構造物3の健全領域、真ん中の群がPC構造物3の未充填領域、一番上の群が充填なしの試験体の計測結果を示す。
図20のグラフによると、表面温度が最高温度に達する、加熱からtmax時間経過時の未充填領域の温度Tmax 2と、健全領域の温度Tmax 1は、Tmax 2>Tmax 1となる。
また、tmax時間から長時間t′経過時の未充填領域の温度T′2と、健全領域の温度T′1は、T′2>T′1となる。
1)グラウト自体は、加熱され、温度が上昇すると、直ちに放熱する傾向が強いので、グラウトの健全領域では、グラウトへの蓄熱は少なく、また、PC構造体の上面からの加熱による熱は、上面側のコンクリートからグラウトに伝わり、その熱は側面および下面側のコンクリートに速やかに伝わり、グラウトから放熱される。このように、グラウトの熱は、PC構造体のコンクリート全体に分散するので、PC構造体の上面の温度だけが局所的に大きく上昇しない。
4)表面温度の減少割合は、蓄熱した空気からの放熱の影響により、健全状態に比べ、未充填領域の方が小さい。
6)シース管内に蓄熱される熱量は、広い実充填領域(充填なし)>部分的な未充填領域>健全領域となる。
図21に示すように、電磁誘導用コイルユニット4によって均一に加熱が実行される領域の長さを示す均一加熱領域長をlとし、未充填領域長をlaとすると、空洞領域長係数γは、以下の式によって表される。
なお、β′はグラウト充填率、f(α)は式(2)で表される均一加熱領域長よりも十分に長い未充填領域を有する際のグラウト充填率、αは基準温度からの温度上昇率を示すものとする。
このため、上記の関係式を用いることによって、PC構造体のコンクリートの表面温度からグラウトの充填率を推測できるようになる。
また、上記の実施例では、PC構造物の表面温度を赤外線サーモグラフィで計測したが、他の温度計測手段を介して、温度を計測するようにしてもよい。
さらに、本発明は、本発明の範囲内で自由に設計変更し得るものであり、上記実施例に限定されるものではない。
10 加熱装置
100 高周波インバータ
101 電磁誘導用コイルユニット
102 保護ボード
11 温度計測装置
110 制御部
111 温度計測部
2 PC構造物
20 コンクリート
21 シース管
21a 未充填領域
22 PC鋼材
23 グラウト
3 PC構造物
30 コンクリート
31 シース管
31a 未充填領域
31b 健全領域
31c 健全領域
32 PC鋼材
33 グラウト
4 電磁誘導用コイルユニット
Claims (6)
- コンクリートの内部に金属製のシース管を有し、シース管の内部に予め引張力を作用させたプレストレスコンクリート鋼材が配置され、プレストレスコンクリート鋼材が配置されたシース管の内部にグラウトを充填して製造されるプレストレスコンリート構造物のグラウトの充填状態を評価する方法であって、
電磁誘導加熱により、シース管を加熱する加熱ステップと、
シース管の加熱によってコンクリートに拡散する熱量を、シース管の周囲のコンクリート表面の温度を計測することによって取得する計測ステップと、
コンクリート表面の計測温度が、グラウトが「健全」に充填されている状態のコンクリート表面の計測温度である基準温度より高い場合、その領域にはグラウトの未充填領域が存在することを判定する判定ステップと、
基準温度に対する、コンクリート表面の計測温度の差異からグラウトの充填率を特定する充填率特定ステップと、
未充填領域の有無、及び、グラウトの充填率の予測値の少なくとも一方を表示し、グラウトの充填状態を評価に供する評価ステップと
からなる上記のプレストレスコンリート構造物のグラウトの充填状態を評価する方法。 - 計測ステップが、
コンクリート表面の温度を、赤外線サーモグラフィを介して計測する
請求項1に記載のプレストレスコンリート構造物のグラウトの充填状態を評価する方法。 - 加熱ステップにおいて、
電磁誘導の磁界が、シース管に到達し、かつ、シース管で遮断され、プレストレスコンクリート鋼材には到達しない
請求項1から3のいずれかに記載のプレストレスコンリート構造物のグラウトの充填状態を評価する方法。 - 判定ステップが、
コンクリート表面の温度変化から、計測領域の温度上昇率を計算し、予め定められた基準上昇率より高い温度上昇率を有する計測領域には、グラウトの未充填領域が存在することを判定する
請求項1から4のいずれかに記載のプレストレスコンリート構造物のグラウトの充填状態を評価する方法。 - 判定ステップが、充填率特定ステップを含み、
計算された温度上昇率に応じ、対応する計測領域のグラウト充填率を予測する
請求項1から5のいずれかに記載のプレストレスコンリート構造物のグラウトの充填状態を評価する方法。
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