図1に示されるとおり、本発明に係る偏光板の製造方法は、下記工程:
基材フィルムの少なくとも一方の面にポリビニルアルコール系樹脂層を形成して積層フィルムを得る樹脂層形成工程S10、
積層フィルムを延伸して延伸フィルムを得る延伸工程S20、
延伸フィルムのポリビニルアルコール系樹脂層を二色性色素で染色して偏光子層を形成することにより偏光性積層フィルムを得る染色工程S30、
偏光性積層フィルムにおける基材フィルム側の面とは反対側の面に第1保護フィルムを貼合して多層フィルムを得る第1貼合工程S40、
多層フィルムから基材フィルムを剥離除去して偏光板(片面保護フィルム付偏光板)を得る剥離工程S50
をこの順で含む。
後述するように、本発明に係る偏光板の製造方法は、片面保護フィルム付偏光板における偏光子層上に第2保護フィルムを貼合して両面保護フィルム付偏光板を得る第2貼合工程S60を含むこともできる。以下、図面を参照しながら各工程について詳細に説明する。
〔1〕樹脂層形成工程S10
図2を参照して本工程は、基材フィルム30の少なくとも一方の面にポリビニルアルコール系樹脂層6を形成して積層フィルム100を得る工程である。このポリビニルアルコール系樹脂層6は、延伸及び染色を経て偏光子層5(図4)となる層である。ポリビニルアルコール系樹脂層6は、ポリビニルアルコール系樹脂を含有する塗工液を基材フィルム30の片面又は両面に塗工し、乾燥させることにより形成することができる。このような塗工によりポリビニルアルコール系樹脂層6を形成する方法は、薄膜の偏光子層5を得やすい点で有利である。樹脂層形成工程S10は、典型的には、長尺の基材フィルム30の巻回し品であるフィルムロールから基材フィルム30を連続的に巻出し、これを搬送させながら連続的に行われる。フィルム搬送はガイドロール等を用いて行うことができる。
(基材フィルム)
基材フィルム30は熱可塑性樹脂から構成することができ、中でも透明性、機械的強度、熱安定性、延伸性等に優れる熱可塑性樹脂から構成することが好ましい。このような熱可塑性樹脂の具体例は、例えば、鎖状ポリオレフィン系樹脂、環状ポリオレフィン系樹脂(ノルボルネン系樹脂等)のようなポリオレフィン系樹脂;ポリエステル系樹脂;(メタ)アクリル系樹脂;セルローストリアセテート、セルロースジアセテートのようなセルロースエステル系樹脂;ポリカーボネート系樹脂;ポリビニルアルコール系樹脂;ポリ酢酸ビニル系樹脂;ポリアリレート系樹脂;ポリスチレン系樹脂;ポリエーテルスルホン系樹脂;ポリスルホン系樹脂;ポリアミド系樹脂;ポリイミド系樹脂;及びこれらの混合物、共重合物等を含む。
基材フィルム30は、1種又は2種以上の熱可塑性樹脂からなる1つの樹脂層からなる単層構造であってもよいし、1種又は2種以上の熱可塑性樹脂からなる樹脂層を複数積層した多層構造であってもよい。基材フィルム30は、後述する延伸工程S20にて積層フィルム100を延伸する際、ポリビニルアルコール系樹脂層6を延伸するのに好適な延伸温度で延伸できるような樹脂で構成されることが好ましい。
鎖状ポリオレフィン系樹脂としては、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂のような鎖状オレフィンの単独重合体の他、2種以上の鎖状オレフィンからなる共重合体を挙げることができる。鎖状ポリオレフィン系樹脂からなる基材フィルム30は、安定的に高倍率に延伸しやすい点で好ましい。中でも基材フィルム30は、ポリプロピレン系樹脂(プロピレンの単独重合体であるポリプロピレン樹脂や、プロピレンを主体とする共重合体)、ポリエチレン系樹脂(エチレンの単独重合体であるポリエチレン樹脂や、エチレンを主体とする共重合体)等からなることがより好ましい。
基材フィルム30を構成する熱可塑性樹脂として好適に用いられる例の1つであるプロピレンを主体とする共重合体は、プロピレンとこれに共重合可能な他のモノマーとの共重合体である。
プロピレンに共重合可能な他のモノマーとしては、例えば、エチレン、α−オレフィンを挙げることができる。α−オレフィンとしては、炭素数4以上のα−オレフィンが好ましく用いられ、より好ましくは、炭素数4〜10のα−オレフィンである。炭素数4〜10のα−オレフィンの具体例は、例えば、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−デセンのような直鎖状モノオレフィン類;3−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテンのような分岐状モノオレフィン類;ビニルシクロヘキサン等を含む。プロピレンとこれに共重合可能な他のモノマーとの共重合体は、ランダム共重合体であってもよいし、ブロック共重合体であってもよい。
上記他のモノマーの含有量は、共重合体中、例えば0.1〜20重量%であり、好ましくは0.5〜10重量%である。共重合体中の他のモノマーの含有量は、「高分子分析ハンドブック」(1995年、紀伊国屋書店発行)の第616頁に記載されている方法に従い、赤外線(IR)スペクトル測定を行うことにより求めることができる。
上記の中でも、ポリプロピレン系樹脂としては、プロピレンの単独重合体、プロピレン−エチレンランダム共重合体、プロピレン−1−ブテンランダム共重合体又はプロピレン−エチレン−1−ブテンランダム共重合体が好ましく用いられる。
ポリプロピレン系樹脂の立体規則性は、実質的にアイソタクチック又はシンジオタクチックであることが好ましい。実質的にアイソタクチック又はシンジオタクチックの立体規則性を有するポリプロピレン系樹脂からなる基材フィルム30は、その取扱性が比較的良好であるとともに、高温環境下における機械的強度に優れている。
環状ポリオレフィン系樹脂は、環状オレフィンを重合単位として重合される樹脂の総称であり、例えば、特開平1−240517号公報、特開平3−14882号公報、特開平3−122137号公報等に記載されている樹脂が挙げられる。環状ポリオレフィン系樹脂の具体例を挙げれば、環状オレフィンの開環(共)重合体、環状オレフィンの付加重合体、環状オレフィンとエチレン、プロピレンのような鎖状オレフィンとの共重合体(代表的にはランダム共重合体)、及びこれらを不飽和カルボン酸やその誘導体で変性したグラフト重合体、並びにそれらの水素化物である。中でも、環状オレフィンとしてノルボルネンや多環ノルボルネン系モノマーのようなノルボルネン系モノマーを用いたノルボルネン系樹脂が好ましく用いられる。
ポリエステル系樹脂は、エステル結合を有する樹脂であり、多価カルボン酸又はその誘導体と多価アルコールとの重縮合体からなるものが一般的である。多価カルボン酸又はその誘導体としては2価のジカルボン酸又はその誘導体を用いることができ、例えばテレフタル酸、イソフタル酸、ジメチルテレフタレート、ナフタレンジカルボン酸ジメチルが挙げられる。多価アルコールとしては2価のジオールを用いることができ、例えばエチレングリコール、プロパンジオール、ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサンジメタノールが挙げられる。
ポリエステル系樹脂の代表例として、テレフタル酸とエチレングリコールの重縮合体であるポリエチレンテレフタレートが挙げられる。ポリエチレンテレフタレートは結晶性の樹脂であるが、結晶化処理する前の状態のものの方が、延伸等の処理を施しやすい。必要であれば、延伸時、又は延伸後の熱処理等によって結晶化処理することができる。また、ポリエチレンテレタレートの骨格にさらに他種のモノマーを共重合することで、結晶性を下げた(もしくは、非晶性とした)共重合ポリエステルも好適に用いられる。このような樹脂の例として、例えば、シクロヘキサンジメタノールやイソフタル酸を共重合させたものが挙げられる。これらの樹脂も、延伸性に優れるので、好適に用いることができる。
ポリエチレンテレフタレート及びその共重合体以外のポリエステル系樹脂の具体例を挙げれば、例えば、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリトリメチレンナフタレート、ポリシクロへキサンジメチルテレフタレート、ポリシクロヘキサンジメチルナフタレートである。
(メタ)アクリル系樹脂は、(メタ)アクリロイル基を有する化合物を主な構成モノマーとする樹脂である。(メタ)アクリル系樹脂の具体例は、例えば、ポリメタクリル酸メチルのようなポリ(メタ)アクリル酸エステル;メタクリル酸メチル−(メタ)アクリル酸共重合体;メタクリル酸メチル−(メタ)アクリル酸エステル共重合体;メタクリル酸メチル−アクリル酸エステル−(メタ)アクリル酸共重合体;(メタ)アクリル酸メチル−スチレン共重合体(MS樹脂等);メタクリル酸メチルと脂環族炭化水素基を有する化合物との共重合体(例えば、メタクリル酸メチル−メタクリル酸シクロヘキシル共重合体、メタクリル酸メチル−(メタ)アクリル酸ノルボルニル共重合体等)を含む。好ましくは、ポリ(メタ)アクリル酸メチルのようなポリ(メタ)アクリル酸C1−6アルキルエステルを主成分とする重合体が用いられ、より好ましくは、メタクリル酸メチルを主成分(50〜100重量%、好ましくは70〜100重量%)とするメタクリル酸メチル系樹脂が用いられる。
セルロースエステル系樹脂は、セルロースと脂肪酸とのエステルである。セルロースエステル系樹脂の具体例は、セルローストリアセテート、セルロースジアセテート、セルローストリプロピオネート、セルロースジプロピオネートを含む。また、これらの共重合物や、水酸基の一部が他の置換基で修飾されたものも挙げられる。これらの中でも、セルローストリアセテート(トリアセチルセルロース)が特に好ましい。セルローストリアセテートは多くの製品が市販されており、入手容易性やコストの点でも有利である。
ポリカーボネート系樹脂は、カルボナート基を介してモノマー単位が結合された重合体からなるエンジニアリングプラスチックであり、高い耐衝撃性、耐熱性、難燃性、透明性を有する樹脂である。基材フィルム30を構成するポリカーボネート系樹脂は、光弾性係数を下げるためにポリマー骨格を修飾したような変性ポリカーボネートと呼ばれる樹脂や、波長依存性を改良した共重合ポリカーボネートであってもよい。
以上の中でも、延伸性や耐熱性等の観点から、ポリプロピレン系樹脂が好ましく用いられる。
基材フィルム30には、上記の熱可塑性樹脂の他に、任意の適切な添加剤を含むことができる。添加剤としては、例えば、紫外線吸収剤、酸化防止剤、滑剤、可塑剤、離型剤、着色防止剤、難燃剤、核剤、帯電防止剤、顔料、着色剤等が挙げられる。基材フィルム30中の熱可塑性樹脂の含有量は、好ましくは50〜100重量%、より好ましくは50〜99重量%、さらに好ましくは60〜98重量%、特に好ましくは70〜97重量%である。
基材フィルム30の厚みは通常、強度や取扱性等の点から1〜500μmであり、好ましくは1〜300μm、より好ましくは5〜200μm、さらに好ましくは5〜150μmである。
(ポリビニルアルコール系樹脂層の形成)
基材フィルム30に塗工する塗工液は、好ましくはポリビニルアルコール系樹脂の粉末を良溶媒(例えば水)に溶解させて得られるポリビニルアルコール系樹脂溶液である。ポリビニルアルコール系樹脂としては、ポリ酢酸ビニル系樹脂をケン化したものを用いることができる。ポリ酢酸ビニル系樹脂としては、酢酸ビニルの単独重合体であるポリ酢酸ビニルのほか、酢酸ビニルとこれに共重合可能な他の単量体との共重合体が例示される。酢酸ビニルに共重合可能な他の単量体としては、例えば、不飽和カルボン酸類、オレフィン類、ビニルエーテル類、不飽和スルホン酸類、アンモニウム基を有するアクリルアミド類等が挙げられる。
ポリビニルアルコール系樹脂のケン化度は、80.0〜100.0モル%の範囲であることができるが、好ましくは90.0〜99.5モル%の範囲であり、より好ましくは94.0〜99.0モル%の範囲である。ケン化度が80.0モル%未満であると、偏光板の耐水性及び耐湿熱性が低下する。ケン化度が99.5モル%を超えるポリビニルアルコール系樹脂を使用した場合、二色性色素の染色速度が遅くなり、生産性が低下するとともに十分な偏光性能を有する偏光板が得られないことがある。
ケン化度とは、ポリビニルアルコール系樹脂の原料であるポリ酢酸ビニル系樹脂に含まれる酢酸基(アセトキシ基:−OCOCH3)がケン化工程により水酸基に変化した割合をユニット比(モル%)で表したものであり、下記式:
ケン化度(モル%)=100×(水酸基の数)÷(水酸基の数+酢酸基の数)
で定義される。ケン化度は、JIS K 6726−1994に準拠して求めることができる。ケン化度が高いほど、水酸基の割合が高いことを示しており、従って結晶化を阻害する酢酸基の割合が低いことを示している。
ポリビニルアルコール系樹脂は、一部が変性されている変性ポリビニルアルコールであってもよい。例えば、ポリビニルアルコール系樹脂をエチレン、プロピレン等のオレフィン;アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸等の不飽和カルボン酸;不飽和カルボン酸のアルキルエステル、アクリルアミド等で変性したものが挙げられる。変性の割合は30モル%未満であることが好ましく、10%未満であることがより好ましい。30モル%を超える変性を行った場合には、二色性色素が吸着しにくくなり、十分な偏光性能を有する偏光板が得られにくい傾向がある。
ポリビニルアルコール系樹脂の平均重合度は、好ましくは100〜10000であり、より好ましくは1500〜8000であり、さらに好ましくは2000〜5000である。ポリビニルアルコール系樹脂の平均重合度もJIS K 6726−1994に準拠して求めることができる。
上記塗工液を基材フィルム30に塗工する方法は、ワイヤーバーコーティング法;リバースコーティング、グラビアコーティングのようなロールコーティング法;ダイコート法;カンマコート法;リップコート法;スピンコーティング法;スクリーンコーティング法;ファウンテンコーティング法;ディッピング法;スプレー法等の方法から適宜選択することができる。
塗工層(乾燥前のポリビニルアルコール系樹脂層)の乾燥温度及び乾燥時間は塗工液に含まれる溶媒の種類に応じて設定される。乾燥温度は、例えば50〜200℃であり、好ましくは60〜150℃である。溶媒が水を含む場合、乾燥温度は80℃以上であることが好ましい。
ポリビニルアルコール系樹脂層6は、基材フィルム30の一方の面のみに形成してもよいし、両面に形成してもよい。両面に形成すると偏光性積層フィルム300(図4参照)の製造時に発生し得るフィルムのカールを抑制できるとともに、1枚の偏光性積層フィルム300から2枚の偏光板を得ることができるので、偏光板の生産効率の面でも有利である。
積層フィルム100におけるポリビニルアルコール系樹脂層6の厚みは、好ましくは3〜30μmであり、より好ましくは5〜20μmである。この範囲内の厚みを有するポリビニルアルコール系樹脂層6であれば、後述する延伸工程S20及び染色工程S30を経て、二色性色素の染色性が良好で偏光性能に優れ、かつ十分に薄い(例えば厚み10μm以下の)偏光子層5を得ることができる。
塗工液の塗工に先立ち、基材フィルム30とポリビニルアルコール系樹脂層6との密着性を向上させるために、少なくともポリビニルアルコール系樹脂層6が形成される側の基材フィルム30の表面に、コロナ処理、プラズマ処理、フレーム(火炎)処理等を施してもよい。また同様の理由で、基材フィルム30上にプライマー層等を介してポリビニルアルコール系樹脂層6を形成してもよい。
プライマー層は、プライマー層形成用塗工液を基材フィルム30の表面に塗工した後、乾燥させることにより形成することができる。この塗工液は、基材フィルム30とポリビニルアルコール系樹脂層6との両方にある程度強い密着力を発揮する成分を含み、通常は、このような密着力を付与する樹脂成分と溶媒とを含む。樹脂成分としては、好ましくは透明性、熱安定性、延伸性等に優れる熱可塑樹脂が用いられ、例えば(メタ)アクリル系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂等が挙げられる。中でも、良好な密着力を与えるポリビニルアルコール系樹脂が好ましく用いられる。より好ましくは、ポリビニルアルコール樹脂である。溶媒としては通常、上記樹脂成分を溶解できる一般的な有機溶媒や水系溶媒が用いられるが、水を溶媒とする塗工液からプライマー層を形成することが好ましい。
プライマー層の強度を上げるために、プライマー層形成用塗工液に架橋剤を添加してもよい。架橋剤の具体例は、エポキシ系、イソシアネート系、ジアルデヒド系、金属系(例えば、金属塩、金属酸化物、金属水酸化物、有機金属化合物)、高分子系の架橋剤を含む。プライマー層を形成する樹脂成分としてポリビニルアルコール系樹脂を使用する場合は、ポリアミドエポキシ樹脂、メチロール化メラミン樹脂、ジアルデヒド系架橋剤、金属キレート化合物系架橋剤等が好適に用いられる。
プライマー層の厚みは、0.05〜1μm程度であることが好ましく、0.1〜0.4μmであることがより好ましい。0.05μmより薄くなると、基材フィルム30とポリビニルアルコール系樹脂層6との密着力向上の効果が小さい。
プライマー層形成用塗工液を基材フィルム30に塗工する方法は、ポリビニルアルコール系樹脂層形成用の塗工液と同様であることができる。プライマー層形成用塗工液からなる塗工層の乾燥温度は、例えば50〜200℃であり、好ましくは60〜150℃である。溶媒が水を含む場合、乾燥温度は80℃以上であることが好ましい。
〔2〕延伸工程S20
図3を参照して本工程は、積層フィルム100を延伸して、延伸された基材フィルム30’及びポリビニルアルコール系樹脂層6’からなる延伸フィルム200を得る工程である。延伸は通常、一軸延伸である。延伸工程S20は、典型的には、長尺の積層フィルム100を搬送させながら、又は、長尺の積層フィルム100の巻回し品であるフィルムロールから積層フィルム100を連続的に巻出し、これを搬送させながら連続的に行われる。フィルム搬送はガイドロール等を用いて行うことができる。
積層フィルム100の延伸倍率は、所望する偏光特性に応じて適宜選択することができるが、好ましくは、積層フィルム100の元長に対して5倍超17倍以下であり、より好ましくは5倍超8倍以下である。延伸倍率が5倍以下であると、ポリビニルアルコール系樹脂層6’が十分に配向しないため、偏光子層5の偏光度が十分に高くならないことがある。一方、延伸倍率が17倍を超えると、延伸時にフィルムの破断が生じ易くなるとともに、延伸フィルム200の厚みが必要以上に薄くなり、後工程での加工性及び取扱性が低下するおそれがある。
延伸処理は、一段での延伸に限定されることはなく多段で行うこともできる。この場合、多段階の延伸処理のすべてを染色工程S30の前に連続的に行ってもよいし、二段階目以降の延伸処理を染色工程S30における染色処理及び/又は架橋処理と同時に行ってもよい。このように多段で延伸処理を行う場合は、延伸処理の全段を合わせて5倍超の延伸倍率となるように延伸処理を行うことが好ましい。
延伸処理は、フィルム長手方向(フィルム搬送方向)に延伸する縦延伸であることができるほか、フィルム幅方向に延伸する横延伸又は斜め延伸等であってもよい。縦延伸方式としては、ロールを用いて延伸するロール間延伸、圧縮延伸、チャック(クリップ)を用いた延伸等が挙げられ、横延伸方式としては、テンター法等が挙げられる。延伸処理は、湿潤式延伸方法、乾式延伸方法のいずれも採用できるが、乾式延伸方法を用いる方が、延伸温度を広い範囲から選択することができる点で好ましい。
延伸温度は、ポリビニルアルコール系樹脂層6及び基材フィルム30全体が延伸可能な程度に流動性を示す温度以上に設定され、好ましくは基材フィルム30の相転移温度(融点又はガラス転移温度)の−30℃から+30℃の範囲であり、より好ましくは−30℃から+5℃の範囲であり、さらに好ましくは−25℃から+0℃の範囲である。基材フィルム30が複数の樹脂層からなる場合、上記相転移温度は該複数の樹脂層が示す相転移温度のうち、最も高い相転移温度を意味する。
延伸温度を相転移温度の−30℃より低くすると、5倍超の高倍率延伸が達成されにくいか、又は、基材フィルム30の流動性が低すぎて延伸処理が困難になる傾向にある。延伸温度が相転移温度の+30℃を超えると、基材フィルム30の流動性が大きすぎて延伸が困難になる傾向にある。5倍超の高延伸倍率をより達成しやすいことから、延伸温度は上記範囲内であって、さらに好ましくは120℃以上である。
延伸処理における積層フィルム100の加熱方法としては、ゾーン加熱法(例えば、熱風を吹き込み所定の温度に調整した加熱炉のような延伸ゾーン内で加熱する方法。);ロールを用いて延伸する場合において、ロール自体を加熱する方法;ヒーター加熱法(赤外線ヒーター、ハロゲンヒーター、パネルヒーター等を積層フィルム100の上下に設置し輻射熱で加熱する方法)等がある。ロール間延伸方式においては、延伸温度の均一性の観点からゾーン加熱法が好ましい。
延伸工程S20に先立ち、積層フィルム100を予熱する予熱処理工程を設けてもよい。予熱方法としては、延伸処理における加熱方法と同様の方法を用いることができる。予熱温度は、延伸温度の−50℃から±0℃の範囲であることが好ましく、延伸温度の−40℃から−10℃の範囲であることがより好ましい。
また延伸工程S20における延伸処理の後に、熱固定処理工程を設けてもよい。熱固定処理は、延伸フィルム200の端部をクリップにより把持した状態で緊張状態に維持しながら、ポリビニルアルコール系樹脂の結晶化温度以上で熱処理を行う処理である。この熱固定処理によってポリビニルアルコール系樹脂層6’の結晶化が促進される。熱固定処理の温度は、延伸温度の−0℃〜−80℃の範囲であることが好ましく、延伸温度の−0℃〜−50℃の範囲であることがより好ましい。
〔3〕染色工程S30
図4を参照して本工程は、延伸フィルム200のポリビニルアルコール系樹脂層6’を二色性色素で染色してこれを吸着配向させ、偏光子層5とする工程である。本工程を経て基材フィルム30’の片面又は両面に偏光子層5が積層された偏光性積層フィルム300が得られる。染色工程S30は、典型的には、長尺の延伸フィルム200を搬送させながら、又は、長尺の延伸フィルム200の巻回し品であるフィルムロールから延伸フィルム200を連続的に巻出し、これを搬送させながら連続的に行われる。フィルム搬送はガイドロール等を用いて行うことができる。
二色性色素としては、具体的にはヨウ素又は二色性有機染料が挙げられる。二色性有機染料の具体例は、例えば、レッドBR、レッドLR、レッドR、ピンクLB、ルビンBL、ボルドーGS、スカイブルーLG、レモンイエロー、ブルーBR、ブルー2R、ネイビーRY、グリーンLG、バイオレットLB、バイオレットB、ブラックH、ブラックB、ブラックGSP、イエロー3G、イエローR、オレンジLR、オレンジ3R、スカーレットGL、スカーレットKGL、コンゴーレッド、ブリリアントバイオレットBK、スプラブルーG、スプラブルーGL、スプラオレンジGL、ダイレクトスカイブルー、ダイレクトファーストオレンジS、ファーストブラックを含む。二色性色素は、1種のみを単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
染色工程S30は、二色性色素を含有する液(染色浴)に延伸フィルム200を浸漬することにより行うことができる。染色浴としては、上記二色性色素を溶媒に溶解した溶液を使用できる。染色溶液の溶媒としては、一般的には水が使用されるが、水と相溶性のある有機溶媒がさらに添加されてもよい。染色浴における二色性色素の濃度は、0.01〜10重量%であることが好ましく、0.02〜7重量%であることがより好ましい。
二色性色素としてヨウ素を使用する場合、染色効率を向上できることから、ヨウ素を含有する染色浴にヨウ化物をさらに添加することが好ましい。ヨウ化物としては、例えばヨウ化カリウム、ヨウ化リチウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化亜鉛、ヨウ化アルミニウム、ヨウ化鉛、ヨウ化銅、ヨウ化バリウム、ヨウ化カルシウム、ヨウ化錫、ヨウ化チタン等が挙げられる。染色浴におけるヨウ化物の濃度は、好ましくは0.01〜20重量%である。ヨウ化物の中でも、ヨウ化カリウムを添加することが好ましい。ヨウ化カリウムを添加する場合、ヨウ素とヨウ化カリウムとの割合は重量比で、好ましくは1:5〜1:100であり、より好ましくは1:6〜1:80である。染色浴の温度は、好ましくは10〜60℃であり、より好ましくは20〜40℃である。
なお、染色工程S30中に延伸フィルム200に対してさらに追加の延伸処理を施してもよい。この場合における実施態様としては、1)上記延伸工程S20において、目標より低い倍率で延伸処理を行った後、染色工程S30における染色処理中に、総延伸倍率が目標の倍率となるように延伸処理を行う態様や、後述するように、染色処理の後に架橋処理を行う場合には、2)上記延伸工程S20において、目標より低い倍率で延伸処理を行った後、染色工程S30における染色処理中に、総延伸倍率が目標の倍率に達しない程度まで延伸処理を行い、次いで、最終的な総延伸倍率が目標の倍率となるように架橋処理中に延伸処理を行う態様等を挙げることができる。
染色工程S30は、染色処理に引き続いて実施される架橋処理工程を含むことができる。架橋処理工程は、架橋剤を含有する液(架橋浴)に染色処理後の延伸フィルムを浸漬することにより行うことができる。架橋剤としては、例えば、ホウ酸、ホウ砂のようなホウ素化合物、グリオキザール、グルタルアルデヒド等が挙げられる。架橋剤は1種のみを使用してもよいし2種以上を併用してもよい。架橋浴としては、架橋剤を溶媒に溶解した溶液を使用できる。溶媒としては、水が使用できるが、水と相溶性のある有機溶媒をさらに含んでもよい。架橋浴における架橋剤の濃度は、好ましくは1〜20重量%であり、より好ましくは6〜15重量%である。
架橋浴はヨウ化物をさらに含むことができる。ヨウ化物の添加により、偏光子層5の面内における偏光特性をより均一化させることができる。ヨウ化物の具体例は上記と同様である。架橋浴におけるヨウ化物の濃度は、好ましくは0.05〜15重量%であり、より好ましくは0.5〜8重量%である。架橋浴の温度は、好ましくは10〜90℃である。
なお架橋処理は、架橋剤を染色浴中に配合することにより、染色処理と同時に行うこともできる。また、組成の異なる2種以上の架橋浴を用いて、架橋浴に浸漬する処理を2回以上行ってもよい。架橋処理中に延伸処理を行ってもよい。架橋処理中に延伸処理を実施する具体的態様は上述のとおりである。
染色工程S30の後、後述する第1貼合工程S40の前に洗浄工程及び乾燥工程を行うことが好ましい。洗浄工程は通常、水洗浄工程を含む。水洗浄処理は、イオン交換水、蒸留水のような純水に染色処理後の又は架橋処理後のフィルムを浸漬することにより行うことができる。水洗浄温度は、通常3〜50℃、好ましくは4〜20℃である。洗浄工程は、水洗浄工程とヨウ化物溶液による洗浄工程との組み合わせであってもよい。洗浄工程の後に行われる乾燥工程としては、自然乾燥、送風乾燥、加熱乾燥等の任意の適切な方法を採用し得る。例えば加熱乾燥の場合、乾燥温度は通常20〜95℃である。
偏光性積層フィルム300が有する偏光子層5の厚みは、好ましくは10μm以下であり、より好ましくは7μm以下である。偏光子層5の厚みを10μm以下とすることにより、薄型の偏光板を得ることができる。偏光子層5の厚みは通常、2μm以上である。本発明によれば、偏光子層5の厚みが10μm以下と薄く、偏光子層5及び第1保護フィルムからなる偏光板にコシがない場合であっても、偏光子層5に凝集破壊が生じたり、偏光子層5の剥離面が白化したりする不具合を抑制して、基材フィルム30’をきれいに剥離することができる。
〔4〕第1貼合工程S40
図5を参照して本工程は、偏光性積層フィルム300における基材フィルム30’側の面とは反対側の面(すなわち偏光子層5上)に第1保護フィルム10を貼合して多層フィルム400を得る工程である。第1貼合工程S40は、典型的には、長尺の偏光性積層フィルム300を搬送させながら、又は、長尺の偏光性積層フィルム300の巻回し品であるフィルムロールから偏光性積層フィルム300を連続的に巻出し、これを搬送させながら連続的に行われる。フィルム搬送はガイドロール等を用いて行うことができる。
偏光性積層フィルム300が基材フィルム30’の両面に偏光子層5を有する場合は通常、両面の偏光子層5上にそれぞれ第1保護フィルム10が貼合される。この場合、これらの第1保護フィルム10は同種の保護フィルムであってもよいし、異種の保護フィルムであってもよい。
第1保護フィルム10は、第1接着剤層15を介して偏光子層5上に貼合することができる。第1接着剤層15を形成する接着剤は、紫外線、可視光、電子線、X線のような活性エネルギー線の照射によって硬化する硬化性化合物を含有する活性エネルギー線硬化性接着剤(好ましくは紫外線硬化性接着剤)や、ポリビニルアルコール系樹脂のような接着剤成分を水に溶解又分散させた水系接着剤であることができる。
活性エネルギー線硬化性接着剤を用いて第1保護フィルム10を貼合する場合、第1接着剤層15となる活性エネルギー線硬化性接着剤を介して第1保護フィルム10を偏光子層5上に積層した後、紫外線、可視光、電子線、X線のような活性エネルギー線を照射して接着剤層を硬化させる。中でも紫外線が好適であり、この場合の光源としては、低圧水銀灯、中圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、ケミカルランプ、ブラックライトランプ、マイクロウェーブ励起水銀灯、メタルハライドランプ等を用いることができる。水系接着剤を用いる場合は、水系接着剤を介して第1保護フィルム10を偏光子層5上に積層した後、加熱乾燥させればよい。
偏光子層5に第1保護フィルム10を貼合するにあたり、第1保護フィルム10及び/又は偏光子層5の貼合面には、偏光子層5との接着性を向上させるために、プラズマ処理、コロナ処理、紫外線照射処理、フレーム(火炎)処理、ケン化処理のような表面処理(易接着処理)を行うことができ、中でも、プラズマ処理、コロナ処理又はケン化処理を行うことが好ましい。
第1保護フィルム10は、例えば、鎖状ポリオレフィン系樹脂(ポリプロピレン系樹脂等)、環状ポリオレフィン系樹脂(ノルボルネン系樹脂等)のようなポリオレフィン系樹脂;セルローストリアセテート、セルロースジアセテートのようなセルロースエステル系樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレートのようなポリエステル系樹脂;ポリカーボネート系樹脂;(メタ)アクリル系樹脂等からなるフィルムであることができる。
第1保護フィルム10は、位相差フィルム、輝度向上フィルムのような光学機能を併せ持つ保護フィルムであることもできる。例えば、上記熱可塑性樹脂からなるフィルムを延伸(一軸延伸又は二軸延伸等)したり、該フィルム上に液晶層等を形成したりすることにより、任意の位相差値が付与された位相差フィルムとすることができる。
第1保護フィルム10における偏光子層5とは反対側の表面には、ハードコート層、防眩層、反射防止層、帯電防止層、防汚層のような表面処理層(コーティング層)を形成することもできる。表面処理層は、第1貼合工程S40の実施に先立って第1保護フィルム10上に予め形成しておいてもよいし、第1貼合工程S40実施後又は後述する剥離工程S50実施後に形成してもよい。また第1保護フィルム10は、滑剤、可塑剤、分散剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、帯電防止剤、酸化防止剤のような添加剤を1種又は2種以上含有することができる。
第1保護フィルム10の厚みは、偏光板の薄型化の観点から、好ましくは90μm以下、より好ましくは50μm以下、さらに好ましくは35μm以下、特に好ましくは30μm以下である。第1保護フィルム10の厚みは、強度及び取扱性の観点から、通常5μm以上である。本発明によれば、第1保護フィルム10の厚みが35μm以下と薄く、偏光子層5及び第1保護フィルム10からなる偏光板にコシがない場合であっても、偏光子層5に凝集破壊が生じたり、偏光子層5の剥離面が白化したりする不具合を抑制して、基材フィルム30’をきれいに剥離することができる。
〔5〕剥離工程S50
図6を参照して本工程は、多層フィルム400から基材フィルム30’を剥離除去して偏光板(片面保護フィルム付偏光板500)を得る工程である。偏光性積層フィルム300が基材フィルム30’の両面に偏光子層5を有し、これら両方の偏光子層5に第1保護フィルム10を貼合した場合には、この剥離工程S50により、1枚の偏光性積層フィルム300から2枚の片面保護フィルム付偏光板500が得られる。剥離工程S50は、典型的には、長尺の多層フィルム400を搬送させながら、又は、長尺の多層フィルム400の巻回し品であるフィルムロールから多層フィルム400を連続的に巻出し、これを搬送させながら連続的に行われる。フィルム搬送はガイドロール等を用いて行うことができる。
図7に示されるように本発明では、多層フィルム400の搬送経路上にロール40を設置しておき、多層フィルム400を当該搬送経路に沿って連続的に搬送して、ロール40を通過するときに多層フィルム400をその基材フィルム30’とは反対側で(図7の例では、第1保護フィルム10側で、すなわち、多層フィルム400の第1保護フィルム10がロール40側となるように)ロール40に巻き掛けた状態とし、この巻き掛けた状態にある多層フィルム400から基材フィルム30’を剥離する。ロール40としては、搬送されるフィルムを支持するために用いられる、回転自在の一般的なロールを用いることができる。
多層フィルム400から基材フィルム30’を剥離した後の片面保護フィルム付偏光板500の搬送方向とは異なる搬送方向となるように剥離後の基材フィルム30’の搬送経路を設定することによって、ロール40上にある多層フィルム400から連続的に基材フィルム30’を剥離していくのであるが、この際、基材フィルム30’の剥離点Hにおいて多層フィルム400の基材フィルム30’とは反対側の面(図7の例では、第1保護フィルム10側の表面)とロール40とが接触した状態を維持しながら基材フィルム30’を剥離する。すなわち、剥離後の基材フィルム30’にある程度の張力Aを与えることで基材フィルム30’を引っ張るようにして多層フィルム400から基材フィルム30’を剥離していくのであるが、このときにこの張力Aによって、剥離点Hで多層フィルム400がロール40の表面から浮いた状態とならないように制御しながら連続的に基材フィルム30’を剥離する。
多層フィルム400をロール40に巻き掛けた状態とは、ロール40を通過するときにおいて、多層フィルム400の基材フィルム30’とは反対側の面(図7の例では、第1保護フィルム10側の表面)が、面でロール40の表面に接している状態をいう。この状態は、図7を参照して、基材フィルム30’が剥離される前の多層フィルム400の搬送方向の外挿線を基準としたときの、基材フィルム30’を剥離した後の多層フィルム400(すなわち、片面保護フィルム付偏光板500)の搬送方向のロール40側への剥離点Hにおける傾き角度φpを0°超(90°未満)とすることによって達成できる。傾き角度φpは、好ましくは20°以上である。
上記の方法によれば、基材フィルム30’の剥離方向と偏光子層5の配向方向とがなす角度によらず、また、剥離点Hにおける多層フィルム400と片面保護フィルム付偏光板500とがなす角度(すなわち、上記の傾き角度φp)と、多層フィルム400と基材フィルム30’とがなす角度(図7に示される傾き角度φk)との関係性によらず、多層フィルム400から基材フィルム30’をスムーズに剥離することができ、基材フィルム30’の剥離による偏光子層5の凝集破壊や偏光子層5の剥離面の白化のような不具合を効果的に抑制することができる。φkは、上記外挿線を基準としたときの、剥離後の基材フィルム30’の搬送方向のロール40側とは反対側への剥離点Hにおける傾き角度である。
基材フィルム30’の剥離時に、剥離点Hにおいて多層フィルム400の基材フィルム30’とは反対側の面(図7の例では、第1保護フィルム10側の表面)とロール40とが接触した状態を維持するための1つの有効な方法は、基材フィルム30’を剥離する前の多層フィルム400の張力(ライン張力)Bを剥離後の基材フィルム30’の張力Aよりも十分に大きくすることである。張力A及びBは、B≧10×Aの関係を満たすことが好ましく、B≧12×Aの関係を満たすことがより好ましい。張力Bを張力Aよりも十分に大きくすることにより、多層フィルム400をロール40に巻き掛けた状態、及び剥離点Hにおいて多層フィルム400の基材フィルム30’とは反対側の面とロール40とが接触した状態を維持しながら、剥離点Hでの基材フィルム30’の剥離を行うことができる。なお、基材フィルム30’を剥離して得られる片面保護フィルム付偏光板500の張力は、基材フィルム30’を剥離する前の多層フィルム400の張力Bと同じである。
図7を参照して、張力Aは、例えば剥離後の基材フィルム30’の搬送経路上であってロール40の下流側に配置されたニップロール60の回転速度の調整によって剥離後の基材フィルム30’の搬送速度を調整することにより制御できる。張力Bは、例えば多層フィルム400及び片面保護フィルム付偏光板500の搬送経路上におけるロール40の前後に配置されたニップロール50の回転速度とニップロール70の回転速度との比の調整により制御できる。
多層フィルム400をロール40に巻き掛けた状態、及び剥離点Hにおいて多層フィルム400の基材フィルム30’とは反対側の面とロール40とが接触した状態を維持するための他の有効な方法は、ロール40にサクションロールを用いることである。サクションロールを用いれば、それによる吸引によって当該ロールに巻き掛けた多層フィルム400(及び片面保護フィルム付偏光板500)をロール表面に密着させることができるので、上記の状態を維持しやすい。サクションロールとは、ロール表面(周面)に多数の吸気孔を有し、この吸気孔からの吸気によりロール表面に搬送物を吸着させて搬送物を保持しつつ、ロールを回転させることにより搬送物を搬送するロールをいう。サクションロールを用いる場合、張力A及びBは、必ずしもB≧10×Aの関係を満たす必要はない。
多層フィルム400をロール40に巻き掛けた状態、及び剥離点Hにおいて多層フィルム400の基材フィルム30’とは反対側の面とロール40とが接触した状態を維持するために有効なさらに他の方法は、多層フィルム400がロール40を通過する前に、第1保護フィルム10側にさらに樹脂フィルムを貼合してフィルム補強を行うことである。フィルム補強により多層フィルム400のコシが強くなり、変形しにくくなるので、基材フィルム30’を引っ張るようにして多層フィルム400から剥離するときに、剥離点Hで多層フィルム400がロール40の表面から浮いた状態になることを抑制できる。この方法を用いる場合においても、張力A及びBは、必ずしもB≧10×Aの関係を満たす必要はない。この方法を用いる場合は、補強のために第1保護フィルム10側に貼合された樹脂フィルムが、剥離点Hにおいてロール40に接触した状態を保つことになる。
ロール40の直径は、200mmφ以上であることが好ましく、250mmφ以上であることがより好ましい。ロール40の直径がこの範囲であると、基材フィルム30’を多層フィルム400から剥離するときに、剥離点Hにおいて多層フィルム400の基材フィルム30’とは反対側の面とロール40とが接触した状態を維持しやすい。
剥離点Hにおいて多層フィルム400の基材フィルム30’とは反対側の面とロール40とが接触した状態を維持して安定的に基材フィルム30’の剥離を行えるよう、剥離点Hの位置を検知するためのセンサーを設置することが好ましい。センサーの設置により、多層フィルム400がロール40に巻き掛けられる手前の、ロール40の表面から浮いた状態で基材フィルム30’が剥離されたり、多層フィルム400がロール40への巻き掛けを解かれた後、ロール40の表面から浮いた状態で基材フィルム30’が剥離されたりすることを防止できる。例えば、剥離点の基準位置を予め設定し、その基準位置から所定距離離れた上流側に一つのセンサーを、また基準位置から所定距離離れた下流側にもう一つのセンサーを設置しておき、上流側のセンサーが剥離点を検知したら剥離点が下流側へ移動し、また下流側のセンサーが剥離点を検知したら剥離点が上流側へ移動するように設定しておけば、剥離点が常に基準位置近傍に来るよう操業条件が自動的に調整される。操業条件としては、多層フィルム400及び片面保護フィルム付偏光板500の搬送速度、剥離後の基材フィルム30’の搬送速度、張力A、張力Bが挙げられる。
剥離後の基材フィルム30’搬送方向の剥離点Hにおける傾き角度φkは、通常0°超であり、好ましくは20°以上であり、より好ましくは40°以上である。傾き角度φkを20°以上に設定することにより、張力Aを過度に大きくすることなく、基材フィルム30’をスムーズに剥離しやすくなる。傾き角度φkは、通常90°未満である。
上述のように、第1貼合工程S40で得られる多層フィルム400は、基材フィルム30’の両面それぞれに、偏光子層5及び第1保護フィルム10が積層されたフィルム、すなわち、第1保護フィルム10/偏光子層5/基材フィルム30’/偏光子層5/第1保護フィルム10(第1接着剤層15は割愛して記載)の層構成を有するフィルムであることができる。この場合、2段の剥離工程を経て1枚の多層フィルム400から2枚の片面保護フィルム付偏光板500を得る。1段目の剥離工程では、上記構成の多層フィルム400から「第1保護フィルム10/偏光子層5/基材フィルム30’」の層構成を有するフィルムを剥離して、片面保護フィルム付偏光板500を得る(1段目の剥離工程において、図7における基材フィルム30’は、第1保護フィルム10/偏光子層5/基材フィルム30’に置き換えられる)。2段目の剥離工程では、剥離された「第1保護フィルム10/偏光子層5/基材フィルム30’」の層構成を有するフィルムから基材フィルム30’を剥離して、さらに片面保護フィルム付偏光板500を得る。
1段目及び2段目の剥離工程のいずれにおいても、本発明に従う上記方法を用いて第1保護フィルム10/偏光子層5/基材フィルム30’又は基材フィルム30’を剥離することにより、偏光子層5の凝集破壊や偏光子層5の剥離面の白化のような不具合を効果的に抑制することができる。
〔6〕第2貼合工程S60
図8を参照して本工程は、片面保護フィルム付偏光板500における偏光子層5上に第2保護フィルム20を貼合して両面保護フィルム付偏光板600を得る、任意の工程である。第2貼合工程S60は、典型的には、長尺の片面保護フィルム付偏光板500を搬送させながら、又は、長尺の片面保護フィルム付偏光板500の巻回し品であるフィルムロールから片面保護フィルム付偏光板500を連続的に巻出し、これを搬送させながら連続的に行われる。フィルム搬送はガイドロール等を用いて行うことができる。
第2保護フィルム20は、第2接着剤層25を介して偏光子層5上に貼合することができる。第2保護フィルム20及び第2接着剤層25の構成や材質、並びに第2保護フィルム20の貼合方法については、それぞれ第1保護フィルム10及び第1接着剤層15、並びに第1保護フィルム10の貼合方法についての記載が引用される。
以下、実施例及び比較例を示して本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。
<実施例1>
(1)プライマー層形成工程
ポリビニルアルコール粉末(日本合成化学工業(株)製の「Z−200」、平均重合度1100、ケン化度99.5モル%)を95℃の熱水に溶解し、濃度3重量%のポリビニルアルコール水溶液を調製した。得られた水溶液に架橋剤(田岡化学工業(株)製の「スミレーズレジン650」)をポリビニルアルコール粉末6重量部に対して5重量部の割合で混合して、プライマー層形成用塗工液を得た。
次に、厚み90μmの基材フィルム(未延伸ポリプロピレンフィルム、融点:163℃)を連続的に搬送させながら、その片面にコロナ処理を施した後、そのコロナ処理面に小径グラビアコーターを用いて上記プライマー層形成用塗工液を連続的に塗工し、80℃で10分間乾燥させることにより、厚み0.2μmのプライマー層を形成した。
(2)積層フィルムの作製(樹脂層形成工程)
ポリビニルアルコール粉末((株)クラレ製の「PVA124」、平均重合度2400、ケン化度98.0〜99.0モル%)を95℃の熱水に溶解し、濃度8重量%のポリビニルアルコール水溶液を調製し、これをポリビニルアルコール系樹脂層形成用塗工液とした。
上記(1)で作製したプライマー層を有する基材フィルムを連続的に搬送させながら、そのプライマー層表面にリップコーターを用いて上記ポリビニルアルコール系樹脂層形成用塗工液を連続的に塗工した後、80℃で20分間乾燥させることにより、プライマー層上にポリビニルアルコール系樹脂層を形成して、基材フィルム/プライマー層/ポリビニルアルコール系樹脂層からなる積層フィルムを得た。
(3)延伸フィルムの作製(第1延伸工程)
上記(2)で作製した積層フィルムに対し、連続的に搬送させながら、フローティングの縦一軸延伸装置を用いて160℃で5.8倍の自由端一軸延伸を実施し、延伸フィルムを得た。延伸後のポリビニルアルコール系樹脂層の厚みは5.0μmであった。
(4)偏光性積層フィルムの作製(染色工程)
上記(3)で作製した延伸フィルムを連続的に搬送させながら、ヨウ素とヨウ化カリウムとを含む26℃の染色浴(水100重量部あたりヨウ素を0.35重量部、ヨウ化カリウムを10重量部含む)に連続的に浸漬してポリビニルアルコール系樹脂層の染色処理を行った。
次いで、ホウ酸とヨウ化カリウムとを含む78℃の架橋浴(水100重量部あたりホウ酸を9.5重量部、ヨウ化カリウムを5重量部含む)に滞留時間が300秒間となるように連続的に浸漬して架橋処理を行った。その後、8℃の純水で10秒間洗浄し、40〜50℃で200秒間乾燥させることにより、基材フィルム上に偏光子層を有する偏光性積層フィルムを得た。
(5)多層フィルムの作製(貼合工程)
厚み15μmの環状ポリオレフィン系樹脂フィルム(日本ゼオン(株)製の「ZF14」)を連続的に搬送させながら、その片面にカチオン重合性のエポキシ系化合物である硬化性化合物と光カチオン重合開始剤とを含む紫外線硬化性接着剤((株)ADEKA製の「KR−70T」)を、硬化後の接着剤層の厚みが1.0μmとなるように小径グラビアコーターを用いて連続的に塗工し、引き続き、貼合ロールを用いて、その塗工した接着剤層上に上記(4)で作製した偏光性積層フィルムをその偏光子層側で連続的に貼合した。その後、基材フィルム側から150mJ/cm2の積算光量で紫外線を照射することにより接着剤層を硬化させ、多層フィルムを得た。
(6)偏光板の作製(剥離工程)
図7を参照して、上記(5)で作製した多層フィルム400を連続的に搬送させながら、ロール40を通過するときに多層フィルム400をその第1保護フィルム10側で(多層フィルム400の第1保護フィルム10がロール40側となるように)ロール40に巻き掛けた状態とし、この巻き掛けた状態にある多層フィルム400から、剥離点Hにおいて第1保護フィルム10とロール40とが接触した状態を維持しながら基材フィルム30’を連続的に剥離して、片面保護フィルム付偏光板500を得た。この際、剥離後の基材フィルム30’の張力A、並びに多層フィルム400及び片面保護フィルム付偏光板500の張力Bは表1のとおりとした。また、傾き角度φpは20°、傾き角度φkは70°、ロール40の直径は250mmφとした。ロール40には、搬送されるフィルムを支持するために用いられる、サクションロールではない回転自在の通常のロールを用いた(表1における「ロールの種類」の欄では「通常」と記載している)。基材フィルム30’を連続的に剥離しているとき、目視で剥離点Hを観察したが、第1保護フィルム10とロール40とは接触した状態を保っているように見えた。このことは、剥離点Hの拡大写真からも確認された。
<実施例2〜3、比較例1〜2>
張力A及び張力Bを表1のとおりとしたこと以外は、実施例1と同様にして片面保護フィルム付偏光板500を作製した。ただし、実施例3においては、ロール40にサクションロールを用い、それによる吸引によって当該ロールに巻き掛けた多層フィルム400及び片面保護フィルム付偏光板500をロール表面に密着させながら基材フィルム30’を剥離した。
比較例1及び2では、剥離点Hにおいて第1保護フィルム10とロール40とが接触しておらず、目視で確認できる程度に多層フィルム400がロール表面から浮いた状態にあった。
〔剥離性の評価〕
(1)剥離状態の評価
基材フィルム30’を剥離除去して得られた片面保護フィルム付偏光板500の剥離面(偏光子層面)を目視で観察し、次の基準に従って剥離状態を評価した。結果を表1に示す。
A:凝集破壊及び白化が認められない、
B1:凝集破壊が認められる、
B2:白化が認められる。
(2)剥離安定性の評価
基材フィルム30’の剥離安定性を目視で観察し、次の基準に従って評価した。結果を表1に示す。
A:安定、
B:不安定。ここで、Bは、剥離時に剥離力が細かく強弱を繰り返し、剥離点Hが前後に変動したり、剥離角度が不安定になったりする状態で、ジッパリングとも呼んでいる。Aは、このようなジッパリングを起こさずに剥離している状態である。