特許文献1の方法はコンクリートが外部に露出した(外気に触れた)構造物特有のコンクリートの剥離による落下を防止する方法であり、上記した、躯体から吊り支持された天井材の落下に適する方法ではない。
特許文献2では平面上、天井面の全面を覆う面積を持つ落下防止網を水平に設置しているが、この落下防止網は建物(放送スタジオ)に対する外部からの電磁波の影響を低減するための電磁シールドを兼ねている関係で(段落0007)、天井面から距離を置いた、天井面と床面の中間のレベルに配置されている(請求項1、段落0009)。結果として、落下防止網上に物体が落下したときに物体が持つ運動エネルギにより落下防止網が受ける衝撃が大きくなるため、落下防止網が破損し、物体を受け止める能力を発揮できない可能性が高い。
本発明は上記背景より、躯体から吊り支持された天井材に適し、天井材が落下したときの衝撃を受けにくく、破損しにくい形態の天井材の落下防止装置を提案するものである。
請求項1に記載の発明の天井材の落下防止装置は、上部の躯体から懸垂した吊り材に支持される天井材の下面に直接、もしくは間接的に接触し得る状態で配置され、前記上部の躯体の周囲に位置する周囲の躯体の内、少なくとも一方向に対向する側面間に架設される伸縮可能な補強材と、この補強材の長さ方向両端部を前記周囲の躯体に定着させる定着部材とを備え、前記定着部材が前記補強材の端部を保持する受け材と、この受け材を貫通して前記周囲の躯体に定着され、前記受け材を前記周囲の躯体に密着させる定着材からなり、前記受け材が板状であり、前記補強材に面で接触しながら、前記補強材を前記躯体の側面に面で接触させ、前記補強材を前記周囲の躯体の側面との間に挟持することを構成要件とする。
「天井材の下面に直接、もしくは間接的に接触し得る状態で配置され」とは、補強材が天井材の下面に直接、接触している場合と、後述の台座、あるいは例えば補強材を被覆、もしくは保護するための何らかの線材や面材を介して間接的に接触している場合の他、図4〜図10に示すように天井材が落下、もしくは降下した直後に接触する状態になる程度に、補強材が天井材の直下に配置されている場合があることを言う。補強材が天井材に接触していなくとも、天井材との間のクリアランスは天井材の落下等があったときに直ちに直接、もしくは間接的に接触可能な程度の大きさに留まる。いずれの場合にも天井材が平常時の状態から僅かでも落下、もしくは降下しようとすれば、補強材が天井材を直ちに受け止める状態にある。天井材は吊り材の下端部に支持される野縁受けに接続される野縁に接続されることにより吊り材に支持される。
「上部の躯体」は鉄筋コンクリート造の場合であれば、上階側のスラブ等であり、鉄骨造の場合であれば、梁や桁、トラス等の構造部材である。「周囲の躯体」は上部の躯体の下面側を周囲から包囲する壁、梁、桁等の構造部材を指し、柱を含む。補強材が架設される「周囲の躯体」は既設の構造物であるか、新設の構造物であるかを問わず、鉄筋コンクリート造であるか鉄骨造であるか等の構造種別も問わない。「周囲の躯体の対向する側面」は周囲の躯体が互いに対向する面を指す。
補強材が天井材の下面に直接、もしくは間接的に接触し得る状態で配置されることで、天井材が吊り材等から落下し、補強材に受け止められたときに天井材が運動エネルギを持つことがないため、補強材が受ける衝撃は小さく、補強材が破損する可能性は低い。補強材の破損の可能性が低いことで、補強材が確実に天井材を受け止めることが可能になり、天井材が補強材から下方へ落下することによる人への被害の発生と、床面への落下による破損と飛散が防止される。天井材が野縁や野縁受け、または吊り材ごと落下した場合にも、補強材の端部が周囲の躯体に定着されていることと、補強材自身が伸縮可能であることで、補強材が平常時より伸長するだけで済ませることが可能であるため、天井材の床面上への落下防止の確実性は高い。
補強材には軽量で、高強度の繊維材と、耐火性と耐熱性に優れる鋼材があり、繊維材は例えば炭素繊維、アラミド繊維、ポリエステル繊維、ビニロン繊維等、引張力の作用方向に補強効果を発揮する補強繊維シート、もしくは補強繊維メッシュ等であり、繊維素材の種類は限定されず、エポキシ樹脂その他の樹脂を補強繊維シート等に含浸させた連続繊維補強材を含む。繊維材は面状の場合はシート、もしくはメッシュ等の形で使用され、線状の場合はストランド、あるいはケーブル状に加工された形で使用される。繊維材は主に面状(帯状)、もしくは線状(棒状)等の形状に形成されるが、形態は問われない。鋼材には主に高張力の鋼板や鋼製ワイヤ等があるが、繊維材と同様に形態は問われない。
繊維材は引張強度の発揮可能な方向で分類すれば、1軸方向強化繊維、2軸方向強化繊維、多軸方向強化繊維がある。繊維材は面状か線状かを問わず、周囲の躯体の側面が対向する方向に架設される。繊維材は1軸方向強化繊維であるか、2軸、あるいは多軸方向強化繊維であるかを問わず、基本的には補強材としての引張強度の発揮方向を周囲の躯体の対向する側面間の方向に向けて架設される。補強材の長さ方向は主に引張強度の発揮方向であるが、2軸方向強化繊維と多軸方向強化繊維の場合には、必ずしも長さ方向が引張強度の発揮方向に一致している必要はない。
請求項1における「補強材が少なくとも一方向に対向する側面間に架設される」とは、補強材6が図2−(a)、(b)に示すように天井材3の下方に平面上、一方向にのみ架設される場合と、図1−(b)、図2−(c)、(d)に示すように二方向以上(複数の方向)に架設される場合があることを言う。
天井面の平面形状が正方形でない長方形である場合、補強材の架設状態での撓み量を低減する効果を得る上では、補強材は短辺方向に架設される方が有利である。補強材の長さ方向中央部の撓み量は架設方向のスパン(架設区間長)が小さい程、小さいことによる。但し、撓み量を低減しようとすれば、補強材の張力を増す必要から、補強材の端部を周囲の躯体に定着させる定着材の軸部に作用する引き抜き力が増大するため、補強材に与えられる張力は架設方向に応じ、補強材の撓み量を一定程度以内に抑えながら、定着材の引き抜き力が過大にならないよう調整される。
補強材は伸縮可能で、天井材の下面に直接、もしくは間接的に接触し得る状態にあることで、平常時から天井材を支持、あるいは保持した状態、または支持、あるいは保持し得る状態にあり、天井材の落下があったときにも、補強材に生じる張力が僅かに増加する程度の変化で済むため、補強材の撓み量が格別、増加することはない。補強材が天井材の下面に直接、接触する場合、補強材は天井材の下面に接着させられることもある。
補強材6の長さ方向の端部を周囲の躯体4に定着させる定着部材7は、例えば図3−(a)〜(d)に示すように補強材6の端部を貫通しながら周囲の躯体4に定着されるアンカー(アンカーボルト)、ボルト等の定着材71を含む、受け材72や連結部材9の複数の部材から構成される。周囲の躯体4が鉄筋コンクリート造の場合には、定着部材7(定着材71)はコンクリート中に埋設されるアンカー(アンカーボルト)になるが、鉄骨造の場合には鉄骨部材(鋼材)を貫通するか、鉄骨部材に溶接されるボルト等になる。定着材71がアンカーの場合、定着材71はコンクリート中に埋設される軸部71aとコンクリートの表面から突出する頭部71bを持つ。ボルト(アイボルト)の場合も、定着材71は軸部71aと頭部71bからなる。
請求項1における「補強材を躯体に定着させる定着部材」とは、図3〜図13に示すように定着部材7が補強材6を直接、躯体4に定着させる定着材71を含む複数の部材から構成されること(請求項1〜請求項5)を言う。定着部材7が定着材71を主な構成要素とする場合(請求項1)には、図3に示すように定着部材7(定着材71)が直接、補強材6を周囲の躯体4に定着させる。
定着部材7が定着材71を含む複数の部材から構成される場合(請求項2〜請求項5)には、図4〜図6に示すように図3の例と同様に定着材71が補強材6を周囲の躯体4に定着させる場合(請求項2、請求項3)の他、図7〜図13に示すように定着部材7を構成する連結部材9の一部である連結材91が補強材6を連結部材9の一部であるつなぎ材92に接続し、定着材71がつなぎ材92を周囲の躯体4に定着させる場合(請求項4、請求項5)がある。
周囲の躯体4が鉄筋コンクリート造の場合、周囲の躯体4は前記のように既存の場合と新設の場合があり、既存の場合、定着材71(定着部材7)は軸部71aにおいてあと施工アンカーとしてコンクリート中に埋設されて定着され、新設の場合には定着材71は軸部71aにおいてコンクリートの打設時に埋設され、そのまま定着される。いずれの場合も、定着材71の軸部71aの軸方向と補強材6の長さ方向が平行である場合には、定着材71は主に軸部71aの表面に生ずる摩擦力と付着力によって補強材6の張力に抵抗するが、軸部71aに凹凸が形成されているような場合には抵抗力に支圧力が加算される。
請求項2に記載の発明の天井材の落下防止装置は、上部の躯体から懸垂した吊り材に支持される天井材の下面に直接、もしくは間接的に接触し得る状態で配置され、前記上部の躯体の周囲に位置する周囲の躯体の内、少なくとも一方向に対向する側面間に架設される伸縮可能な補強材と、この補強材の長さ方向両端部を前記周囲の躯体に定着させる定着部材とを備え、前記定着部材が前記補強材の端部が連結される連結部材と、この連結部材に接続された状態で前記周囲の躯体に定着される定着材からなり、前記定着材が前記周囲の躯体に接合される軸部と、この軸部に分離自在に連結され、前記周囲の躯体の表面に露出する頭部からなり、前記連結部材が前記定着材の前記軸部、もしくは前記頭部に螺合して接続されることを構成要件とする。
図3に示すように定着材71に補強材6の張力を分散させる板(プレート)等の受け材72が付属し、受け材72が定着材71の頭部71bの軸部71a側に配置される場合には、受け材72が補強材6の張力を分散して負担し、補強材6の破断を防止する働きをするため、必ずしも定着材71の頭部71bに上記の面積を与える必要はない。この場合、定着部材7は補強材6の端部を保持する受け材72と、受け材72を貫通して周囲の躯体4に定着され、受け材72を周囲の躯体4側へ押圧し、受け材72を周囲の躯体4に密着させる定着材71から構成される(請求項1)。図3では定着材71の軸部71aが補強材6を貫通しているが、軸部71aは補強材6を貫通しないこともある。
定着材71に受け材72が付属する場合に、図3−(a)、(b)に示すように補強材6の長さ方向(架設方向)と定着材71の軸方向が平行な場合には、補強材6が天井材3に平行な区間と、天井材3に垂直な、受け材72に重なる区間に区分されることで、天井材3に平行な区間と垂直な区間の境界に角部が形成される。この角部は受け材72が常に負担する張力による応力の集中により破断し易くなるため、破断に対する安全性を高める上では、補強材6に角部が形成されないよう、補強材6の方向が変化する境界における受け材72の補強材6との接触面は曲面状に形成される。図3−(c)、(d)は受け材72自体を曲面を有する形状に、薄肉の板から形成(加工)した様子を示している。
定着部材7は図4、図5に示すように補強材6の端部が連結される連結部材9と、連結部材9に接続された状態で周囲の躯体4に定着される定着材71からなる場合もある(請求項2)。補強材6が線状の場合に、補強材6の端部を直接、定着材71の頭部71bに巻き付ける等により連結することができる場合以外、定着材71との連結状態で定着材71との間で張力の伝達が図られるよう、補強材6の端部には図4−(a)、(b)に示すように定着材71との接続(連結)に適した、挿通孔(連結部62a)を有する定着部62が形成されるか、接続される。
図4は補強材6が線状の場合に、挿通孔を有する定着部62が補強材6の端部に接続されている様子を示しているが、挿通孔を有する定着部62は補強材6が面状(帯状)の場合にも形成、あるいは接続可能である。例えば面状の補強材6の端部を幅方向に複数の束に区分し、その区分された束毎に定着部62を形成するか、接続することも可能である。
補強材6の端部に、挿通孔を有する定着部62が形成等される場合、定着部62の挿通孔には図4に示すように連結部材9の一端が挿通し、連結部材9の他端は定着材71の軸部71a、もしくは頭部71bに螺合等により接続される。図4は連結部材9が定着部62の挿通孔に挿通するリング9aを持つボルト(アイボルト)である場合の例を示している。図4に示す連結部材9(アイボルト)は軸部9bにおいて定着材71の軸部71aや頭部71bにナット等により接続される。図4におけるアイボルトは図5の例(請求項3)における連結材91に当たる。アイボルトの軸部9bが定着材71の軸部71aに接続される場合、頭部71bがナットを兼ねることもある。
図4に示す例では補強材6が線状、もしくは帯状等の場合に、補強材6の軸方向と定着材71の軸部71aの軸方向が一致し、補強材6と定着部62、及び定着材71の軸部71aが同一直線上に位置するため、補強材6の端部に応力集中の発生がなく、連結部材9のいずれかの部分に曲げモーメントやせん断力を発生させることがない利点がある。この場合、補強材6の張力は主に定着材71の軸部71aに生じるコンクリートとの付着力と摩擦力により周囲の躯体4に負担される。軸部71aに生じる付着力等には、軸部71aの形状によっては支圧力が付加される。
連結部材9は図5、図6に示すように補強材6の端部が直接、連結される連結材91と、連結材91と定着材71の双方に連結されるつなぎ材92からなる場合もある(請求項3)。図5は連結部材9が連結材91としての、図4におけるアイボルトと、つなぎ材92としての鋼材(形鋼)等の金物からなる場合の例を示している。つなぎ材92としての鋼材の種類(形態)は問われない。図6は連結部材9が補強材6の一部区間を被覆する連結材91としての被覆材と、つなぎ材92としての鋼材(形鋼)からなる場合の例を示している。
図4、図5の例では補強材6の端部が連結部材9、もしくは連結材91(アイボルト)に接続されることで、1本の線状の補強材6が1本の状態で対向する周囲の躯体4、4間に架設されるが、図6の例ではつなぎ材92としての溝形鋼のフランジを、補強材6の長さ方向に直交する水平方向に対向させた状態で、連結材91としての被覆材を両フランジに挿通させることで、1本の補強材6を水平方向に並列させた状態で架設している。図6の例では1本の補強材6が水平方向に並列することで、天井材3を受け止める上では、並列する補強材6の幅に相当する幅を持つ面状(帯状)の場合と同等の能力を持つため、少ない補強材6の使用量でありながら、天井材3を受け止めることができ、補強材6の使用効率が向上する利点がある。
補強材6の端部(定着部62)が定着される周囲の躯体4は鉄筋コンクリート造の場合には、前記のように壁、梁、柱等であるが、例えば補強材6の架設方向に直交する水平方向に隣接する柱41、41間に連続する壁がなく、補強材6の端部を直接、周囲の躯体4に定着させることができない場合には、図7〜図13に示すように補強材6の端部に接続されたつなぎ材92が周囲の躯体4としての柱41に重なる区間において柱41に密着して接合されることにより補強材6が間接的に周囲の躯体4に定着される(請求項4)。この場合、つなぎ材92は少なくとも隣接する柱41、41間に跨る長さを持ち、定着材71はつなぎ材92の、柱41に重なる区間に配置され、つなぎ材92を貫通して柱41に定着されることによりつなぎ材92を柱41に接合する。
この場合、補強材6は図7〜図13に示すように基本的にはつなぎ材92の、柱41に重なる区間以外の区間に接続(連結)され、つなぎ材92は上記のように柱41に重なる区間において定着材71により柱41に接合される。補強材6が接続されるつなぎ材92の区間の背面側(周囲の躯体4側)には柱41がなく、定着されるべき躯体4が存在しないため、補強材6の端部(定着部62)には定着材71は接続されず、補強材6の端部には補強材6をつなぎ材92に接続するためのボルト(アイボルト)等の連結材91が接続(連結)される。
つなぎ材92は柱41の、補強材6が架設される側の面に接合される場合と、その面に交差する面に接合される場合(請求項5)がある。「補強材6が架設される側の面」は請求項1で言う「対向する側面5」であるが、本項目では特に周囲の躯体4としての柱41が補強材6の架設方向に対向する面をなす意味で対向面51と言う。柱41の対向面51に交差する面を以下、交差面52と言う。
つなぎ材92が柱41の対向面51に接合される場合には、つなぎ材92は図7〜図10に示すように対向面51に重なる面において定着材71により接合される。つなぎ材92が柱41の交差面52に接合される場合には、図11〜図13に示すように交差面52に平行な面をなし、交差面52に重なる接合板92bがつなぎ材92の背面側である柱41側に突設され、この接合板92bが定着材71により柱41に接合される。接合板92b、92bは補強材6の長さ方向に直交する方向に柱41を挟み込むように並列してつなぎ材92の背面側に突設される。
図7、図8に示すようにつなぎ材92が柱41の対向面51に接合される場合、定着材71の軸部71aが補強材6の長さ方向に平行になるため、定着材71は軸部71aに生じる付着力と摩擦力等により補強材6の張力に抵抗するが、図11〜図13に示すように接合板92bにおいて交差面52に接合される場合には、軸部71aのせん断力により補強材6の張力に抵抗することになる。
定着材71が軸部71aに生じる付着力等の抵抗力により補強材6の張力に抵抗する場合には、張力により軸部71aに生じる引き抜き力の作用方向と軸部71aの方向が一致することで、引き抜き力が抵抗力を上回ることがあれば、可能性として軸部71aが躯体(コンクリート)4から抜け出すことが想定される。これに対し、定着材71が軸部71aのせん断力で抵抗する請求項5では仮に軸部71aにおける付着力が低下し、引き抜き力が抵抗力を上回ったときにも軸部71aの抜け出しの可能性はないため、抜け出しに対する安全性が高い利点がある。請求項5(図11〜図13)ではまた、つなぎ材92がその背面側に突設された接合板92bにおいて柱41に接合されることで、図7等の場合に露出する定着材71がつなぎ材92の表面側に露出しないため、つなぎ材92の柱41への接合状態での見栄えが向上する利点もある。
補強材6は張力を与えられた状態で、天井材3の下面に接触した状態で配置されているとしても、補強材6が水平に、あるいは水平に近い状態で架設されている場合には、補強材6の張力は平常時に天井材3を上部の躯体1側へ押し付けるようには作用しにくいため、天井材3が吊り材2から離脱したとき、または吊り材2が上部の躯体1から離脱したときに、天井材3等を受け止めた補強材6が垂れ下がり、更なる振動時に落下する可能性が想定され得る。このような場合に、補強材6が離脱した天井材3を受け止めたときに、補強材6の垂れ下がりを防止するために、図14、図15に示すように天井材3と補強材6との間に、天井材3と補強材6の双方に接触し、補強材6の張力を天井材3に付与する台座10を介在させることがある(請求項6、7)。
この場合、天井材3と補強材6との間に台座10が介在することで、補強材6は下に凸の曲線状に、あるいは多角形状に架設されるため、補強材6の張力が天井材3に鉛直方向上向きに作用し、天井材3を押し上げた状態に保つことが可能になる。この結果、天井材4は平常時から落下が阻止された状態になるため、天井材3の吊り材2からの離脱があったときにも、天井材3自体の落下に対する安全性が向上する。
また天井材3が吊り材2から落下することがあったとしても、天井材3が補強材6に密着した状態にあることで、落下による衝撃が補強材6に作用することはないため、天井材3等を受け止めた補強材6が垂れ下がり、更なる振動時に落下する可能性は低下する。請求項6、7では天井材3の下面と補強材6との間に台座10が介在することで、補強材6と天井材3の下面との間には実質的にクリアランスが存在しない状態になる。
台座10は補強材6から上向きの力を受けることで、天井材3と補強材6に挟まれ、両者から圧縮力を受けた状態になり、天井材3と補強材6に挟まれた状態で安定するため、台座10を使用する上では補強材6が面状であるか、線状であるかは問われない。
補強材6は張力を与えられた状態で、対向する周囲の躯体4、4間に架設されるが、架設区間の距離、すなわち周囲の躯体4、4の対向する側面5、5間距離が大きくなれば、長さ方向中央部の撓み量が生じ易くなり、撓み量の大きい区間に配置された台座10に作用する圧縮力が小さくなる。そこで、図15−(a)に示すように予め補強材6の架設曲線が懸垂曲線になるように補強材6の長さ方向の位置に応じて各台座10の高さを相違させることで、補強材6に撓みを生じさせずに済みながら、全台座10に作用する圧縮力を一定の範囲内に納めることが可能になる。
この結果、天井材3の各部が補強材6から上向きに受ける力が均等になるため、天井材3の各部の落下に対する安全性を補強材6の長さ方向の位置に拘わらず、均等にすることができ、天井材3のいずれかの部位の落下の可能性が他の部位の可能性より高まるようなことがなくなる。また全台座10に作用する圧縮力がほぼ一様になることで、隣接する台座10、10間に生じる補強材6の張力もほぼ一様になり、補強材6の一部の区間の張力が過大になることがない。
補強材が天井材の下面に直接、もしくは間接的に接触し得る状態で配置されることで、天井材が吊り材から落下し、補強材に受け止められたときに、補強材が受ける衝撃を小さくすることができるため、補強材が損傷する可能性が低下し、落下した天井材を確実に受け止めることが可能になる。結果として、天井材が補強材から落下することによる人への被害の発生と、床面への落下による破損と飛散を防止することができる。
また補強材の端部が周囲の躯体に定着されていることと、補強材自身が伸縮可能であることで、天井材が野縁や野縁受け、または吊り材ごと落下した場合にも、補強材が平常時より伸長するだけで済ませることができるため、天井材の床面上への落下防止の確実性が高い。
図1は上部の躯体(以下、上部躯体)1から懸垂した吊り材2に支持される天井材3の下面に配置され、上部躯体1の周囲に位置する周囲の躯体(以下、周囲躯体)4の内、少なくとも一方向に対向する側面5、5間に架設される補強材6と、補強材6の長さ方向両端部を周囲躯体4に定着させる定着部材7とを備える天井材の落下防止装置8の概要を示す。図示しないが、吊り材2の下端部には基本的に野縁受けが支持され、野縁受けに野縁が接続され、天井材3は野縁に支持される。
補強材6は伸縮可能で、主に面状(帯状)の場合と線状(棒状)の場合があり、天井材3の下面に直接、もしくは間接的に接触(密着)し得る状態で対向する側面5、5間に架設(張架)される。補強材6が天井材3に間接的に接触するとは、図14、図15に示すように天井材3と補強材6との間に台座10等が介在することを言う。補強材6が天井材3の下面に接触し得る状態は図4〜図10に示すように天井材3が落下等した直後に補強材6に接触する状態になる程度に、補強材6が天井材3下面の直下にクリアランスを置いて配置されていることを言い、「間接的に」とは、天井材3の下面と補強材6との間に補強材6を被覆等する何らかの部材が介在することを言う。
図1−(b)は図1−(a)の天井面を見上げた様子を示している。図1−(b)の右側は補強材6を天井面の長辺方向にのみ架設した様子を、左側は短辺方向と長辺方向の二方向に架設した様子を示している。補強材6の端部を周囲躯体4に定着させる定着部材7は補強材6に直接、もしくは間接的に接続されながら、補強材6を周囲躯体4に定着される役目を果たせればよく、形態は問われない。定着部材7は周囲躯体4に直接、定着される場合と、図3に示すように周囲躯体4に直接、定着される定着材71と、補強材6を保持しながら定着材71に接続される受け材72から構成される場合と、図4以降に示すように定着材71と補強材6の双方に接続(連結)される連結部材9から構成される場合がある。
周囲躯体4は主に鉄骨造と鉄筋コンクリート造の場合があるが、定着部材7の形態は周囲躯体4の構造種別に応じて決まる。周囲躯体4が鉄骨造の場合、定着部材7、または定着材71には主に周囲躯体4に螺合や溶接により接合されるボルトが使用され、鉄筋コンクリート造の場合には主にコンクリート中に埋設されるアンカー(アンカーボルト)が使用される。鉄筋コンクリート造の場合には、周囲躯体4が既存であるか新設であるかに応じて定着部材7、または定着材71としてのアンカーの形態が決まり、既存の場合はコンクリートに穿設された削孔内にアンカー(定着材71)の軸部71aが挿入され、挿入前、または挿入後に、削孔内にモルタル、コンクリート、接着剤等の充填材が充填される。周囲躯体4が新設のコンクリート造の場合にはコンクリートの打設時にアンカー(定着材71)が配置され、そのまま軸部71aがコンクリート中に埋設される。
図2−(a)〜(d)は方形状の平面を持つ天井面下への、面状(帯状)の補強材6の配置要領例を示す。(a)、(b)は帯状の補強材6を天井面下の短辺方向に架設した場合で、(a)は幅方向に隣接する補強材6、6間に隙間を形成することなく、例えば隣接する補強材6、6の幅方向の一部を互いに重複させながら配置した場合、(b)は隣接する補強材6、6間に隙間を形成して配置した場合である。(c)は隣接する補強材6、6間に隙間を形成して短辺方向と長辺方向の各方向に配置しながら、短辺方向と長辺方向の補強材6、6を交差部分で互いに重ねた場合、(d)は隣接する補強材6、6間に隙間を形成することなく、短辺方向と長辺方向の各方向毎に、幅方向互いに重複させながら配置し、短辺方向と長辺方向の補強材6、6を互いに重ねた場合である。(c)の例では短辺方向と長辺方向の補強材6、6は網代状に交互に重ね合わせられることもある。
図3は定着部材7が定着材71と、面状の補強材6の端部を保持しながら、補強材6を周囲躯体4の側面に密着させる受け材72からなる場合の、定着部材7の構成例を示す。定着材71は周囲躯体4中に埋設される軸部71aと、軸部71aに連続するか、軸部71から分離自在に連結され、周囲躯体4の表面に露出する頭部71bからなり、軸部71aが受け材72を貫通して周囲躯体4に定着されたときに、頭部71bが受け材72を周囲躯体4側へ押圧し、周囲躯体4の側面5に密着させようとする。受け材72は周囲躯体4の側面5側へ押圧されることで、補強材6に与えられている張力を維持しながら、補強材6を周囲躯体4の側面5に密着させる。頭部71bが軸部71aに螺合するナットであれば、頭部71bの回転に伴い、受け材72に加えられる、周囲躯体4側へ向かう力が調整される。
図3−(a)は受け材72を補強材6の端部に面で接触するプレート状に形成した場合の例を示す。この例では定着材71の軸部71aが受け材72を貫通して周囲躯体4中に定着され、頭部71bが受け材72の表面に密着し、周囲躯体4側へ圧力を及ぼすことで、補強材6が周囲躯体4の表面である側面5と受け材72の背面との間に挟持され、拘束される。定着材71の軸部71aは補強材6を貫通する場合と貫通しない場合がある。補強材6の、受け材72に重なる部分と天井材3の下面側に位置する(天井材3の下面に接触する)部分とは互いに直交等、互いに角度をなすことから、角度をなす隅角部は補強材6に与えられる張力が集中し易く、破断し易いため、図3−(a)では補強材6の破断を回避する目的で、受け材72上端部を周囲躯体4側から天井材3側へかけてを凸の曲面状、もしくは多角形状に形成している。
図3−(b)は(a)における補強材6端部の、受け材72の下端より下に位置する部分に補強材6より断面積の大きい芯材を埋め込む等により抜け止め61を形成し、抜け止め61を受け材72に上向きに係止させることで、補強材6の受け材72からの抜け出しを生じにくくした場合の例を示す。(c)は(a)における受け材72の上端部自体を曲面状に形成し、(a)における受け材72上端部の曲面の曲率を小さくし、補強材6の破断を生じにくくした場合の例を示す。(d)は(c)における受け材72の上端部を対向する周囲躯体4の側面5側へ延長させ、補強材6が天井材3の下面に密着した状態を維持するような役目を受け材72の上端部に持たせた場合の例を示している。(d)の場合、補強材6が天井材3に密着したときに、上端部が弾性変形した状態になるような形状を上端部に与えておくことで、受け材72上端部の上面が常に補強材6を天井材3の下面に密着させようとするため、受け材72の上端部が補強材6を上向きに押し上げる働きをすることになる。
図4は定着部材7が補強材6の端部が連結される連結部材9と、連結部材9に接続された状態で周囲躯体4に定着される定着材71からなる場合の例を示す。ここでは補強材6が線状の例を示しているが、線状の場合、補強材6の端部には連結部材9に連結されるための定着部62が形成されるか、一体的に接続される。定着部62は例えば連結部材9が図示するようなリング9aを有するアイボルトである場合の、リング9aに挿通して閉じる連結部62aを持ち、連結部62aがリング9aに連結された状態で補強材6の端部に形成されるか、接続される。連結部62aはリング9aが挿通する挿通孔を有する。リング9aがフック型の場合には、連結部62aは閉じた状態で形成された後にもリング9aに連結可能である。図4−(a)は連結部材9(アイボルト)を水平方向に見た様子を、(b)は連結部材9を底面側から見たときのリング9aを通る断面を示している。
図4は連結部材9がアイボルトの単体である場合の例を示しているが、連結部材9は補強材6側と定着材71側にそれぞれの形態に適した形状の部位を有していれば、形態を問わない。アイボルトの場合、連結部材9は軸部9bにおいて定着材71の軸部71aに螺合等により接続され、定着材71の頭部71bであるナットにより締結される。あるいは連結部材9の軸部9bは定着材71の軸部71aに突き合わせられた状態で、頭部71bのナットが両軸部71a、9bに跨って螺合することにより連結部材9が定着材71に接続(連結)される。
図5は図4における連結部材9が補強材6の端部が直接、連結される連結材91と、連結材91と定着材71の双方に接続されるつなぎ材92からなる場合の例を示している。図5は連結材91がアイボルトである場合の例を示しているが、この例においても連結材91は補強材6側と定着材71側にそれぞれの形態に適した形状の部位を有していれば、形態を問わない。図5の例は図4の例における連結部材9(アイボルト)が連結材91に置き換わり、連結部材9と定着材71との間につなぎ材92が介在した形に相当する。図5−(a)は連結部材9(つなぎ材92)を水平方向に見た様子を、(b)はつなぎ材92を底面側から見たときのリング9aを通る断面を示している。
図5はつなぎ材92が溝形鋼等の形鋼である場合の例を示しているが、つなぎ材92も連結材91(アイボルト)側と定着材71側にそれぞれの形態に適した形状の部位を持てば、形態を問わず、図8等に示すようにつなぎ材92には山形鋼その他の鋼材も使用される。図5の例ではつなぎ材92の一方のフランジに連結材91の軸部9bを挿通させ、付属するナットにより接続(連結)し、他方のフランジに定着材71の軸部71aを挿通させ、ナットである頭部71bにより接続(連結)している。
図6は連結部材9が補強材6の端部が連結される連結材91と、連結材91と定着材71の双方に接続されるつなぎ材92からなる場合の例として、連結材91が線状の補強材6の一部の区間を被覆する被覆材(被覆管)である場合の例を示している。この例では定着材71の軸部71aはつなぎ材92のウェブを貫通して周囲躯体4に定着されている。補強材6は連結材91としての被覆材の区間においてつなぎ材92としての溝形鋼の対向するフランジを貫通することで、(b)に示すように補強材6の長さ方向に直交する水平方向に並列した状態で架設されている。図6−(a)はつなぎ材92を水平方向に見たときのウェブを通る断面を、(b)はつなぎ材92を底面側から見た様子を示している。
図6ではつなぎ材92としての溝形鋼の対向するフランジを補強材6の長さ方向に直交する水平方向に並列させ、両フランジに補強材6(連結材91)を挿通させることで、1本の補強材6を水平方向に並列させ、2本の状態で架設することを可能にしている。1本の補強材6が架設方向に直交する水平方向に並列した状態で架設されることで、並列する補強材6の幅と同等の幅を持つ帯状の補強材6と同等の、天井材3の保持能力を持つことが可能になっている。
図6では補強材6が連結材91(被覆材)の区間においてつなぎ材92(溝形鋼)のフランジを貫通することで、連結材91には補強材6に与えられる張力が補強材6の軸方向に直交する方向に作用し、補強材6を破断させようとするせん断力として作用する。このため、連結材91(被覆材)は補強材6に与えられる張力に伴い、つなぎ材92(溝形鋼)のフランジを貫通する部分に作用するせん断力による破断に対して補強材6を保護する役目も持っている。
図7〜図13は連結部材9を構成するつなぎ材92が周囲躯体4としての隣接する柱41、41間に跨る長さを持ち、定着材71がつなぎ材92の柱41に重なる区間に配置され、つなぎ材92が柱41に重なる区間において柱41に密着して接合された場合の例を示す。つなぎ材92は3本以上の柱41に跨ることもある。つなぎ材92は1本で複数本の柱41間に跨る長さを持つ場合と、隣接する柱41、41間に跨る長さを持たない場合があり、後者の場合、つなぎ材92は柱41に重なる区間において、または柱41、41間の中間区間において互いに連結されて1本化する。
つなぎ材92は図7〜図10に示すように柱41の、補強材6が架設される側の面(側面5)である対向面51に接合される場合と、図11〜図13に示すように対向面51に直交する面等、交差する面である交差面52に接合される場合がある。柱41の対向面51は周囲躯体4の側面5であるが、柱41は補強材6の架設方向に直交する水平方向には連続しないことから、図7〜図13の例では柱41の側面5を特に対向面51と呼ぶ。補強材6の端部(定着部62)はつなぎ材92には連結材91を介して接続される。
周囲躯体4が補強材6端部の定着位置(定着レベル)に、補強材6の架設方向に直交する水平方向に連続した面(側面5)を持たない場合、例えば補強材6の定着位置に壁も梁も存在せず、間隔を置いて配列する柱41、41しかないような場合、補強材6の端部は周囲躯体4としての柱41に定着されることになる。このような場合に、柱41に連結部材9を構成するつなぎ材92が材軸を柱41、41の隣接する方向(水平方向)に向けて接合されることで、つなぎ材92に接続された補強材6が周囲躯体4に間接的に定着されることになる。つなぎ材92は隣接する柱41、41間に架設され、周囲躯体4を兼ねる梁としての役目を持つ。
つなぎ材92は柱41に重なる区間においてつなぎ材92の一部を貫通する定着材71により柱41に接合されるため、補強材6は図7−(a)等に示すように原則的につなぎ材92の柱41に重なる区間以外の区間に連結部材9を構成する連結材91により接続されることになる。但し、図4に示す例のように連結材91が定着材71に連結(接続)される場合、または図5に示す例のように連結材91と定着材71がつなぎ材92の異なる部位(位置)に接続される場合には、つなぎ材92の柱41に重なる区間に補強材6が接続されることもある。
図7はつなぎ材92である溝形鋼のフランジを鉛直方向に対向させた状態で、ウェブの背面(外周面)を柱41の対向面51に密着させ、この対向面51に密着した区間においてウェブを貫通する定着材71を用いてウェブを対向面51に接合し、対向面51に密着した区間以外の区間に線状の補強材6を連結材91を用いて接続した場合の例を示している。図7−(b)は(a)をx−x線方向に見た様子を、(c)は(b)のy−y線の断面を示しているが、(a)では連結材91を簡略化して示している。以下、図8〜図12においても同様である。図7−(b)、(c)中、符号42は図7−(c)に示すように柱41の対向面51の反対側の面に寄った位置に存在する周囲躯体4の一部としての梁、もしくは壁(垂れ壁)を示す。
図7の例では(c)に示すように図5に示す例と同様に、連結部材9を構成する、アイボルト等の連結材91が補強材6をつなぎ材92に接続(連結)している。つなぎ材92は基本的に柱41の対向面51に密着した区間において、柱41(周囲躯体4)に接合されるため、柱41には複数本の定着材71を用いて集中的に接合される。つなぎ材92は柱41に接合されることで柱41に定着される。補強材6はつなぎ材92の長さ方向(軸方向)には適度な間隔を置いて配列し、つなぎ材92のウェブ等に接続されるボルト等の連結材91に端部の定着部62において連結される。補強材6は連結材91を介してつなぎ材92に接続され、つなぎ材92が定着材71により柱41に接合されることで、間接的に柱41に定着される。
図7ではつなぎ材92の対向面51に密着した区間が複数本の定着材71で集中的に柱41に接合され、それ以外の区間に補強材6が接続されることで、対向面51に密着した区間とそれ以外の区間ではつなぎ材92に作用する荷重の向きが逆になるため、対向面51に密着した区間からそれ以外の区間に移行する部分を補強、もしくは補剛するために、この移行部分の境界にウェブとフランジに直交する面をなすリブ92aを突設している。図7−(a)では(c)に示す、補強材6をつなぎ材92に接続するための連結材91(アイボルト)に接続される補強材6端部の定着部62を省略している。
図8は図7における溝形鋼のつなぎ材92を山形鋼に置き換えた場合の例を示す。この例においても図7と同様に柱41の対向面に密着する区間においてつなぎ材92のウェブが定着材71により接合され、対向面51に密着した区間以外の区間に線状の補強材6を連結材91により接続し、対向面51に密着した区間からそれ以外の区間に移行する部分の境界にリブ92aを突設している。図8−(b)は(a)をx−x線方向に見た様子を、(c)は(b)のy−y線の断面を示している。
図9は(b)に示すように図7におけるつなぎ材92である溝形鋼の一方のフランジを柱41の対向面51に密着させて接合し、他方のフランジに補強材6の端部(定着部62)を図4に示す連結部材9、あるいは図5に示す連結材91(アイボルト)を用いて接続した場合の例を示す。(a)は補強材6を軸方向に見たときの様子を、(b)は(a)のy−y線の断面を示す。
図10は(b)に示すように図7におけるつなぎ材92である溝形鋼をT形鋼に置き換え、フランジを柱41の対向面51に密着させて接合し、ウェブに補強材6の端部(定着部62)を連結材91を用いて接続した場合の例を示す。ここに示す連結材91は図5に示す連結材91(アイボルト)のリングに相当する屈曲部を有するU字形の断面形状に形成された(折り曲げ加工された)帯状の板であり、この連結材91を屈曲部以外の平坦部においてボルトによりつなぎ材92(T形鋼)のウェブに接続している。(a)は補強材6を軸方向に見たときの様子を、(b)は(a)のy−y線の断面を示す。
図11〜図13はつなぎ材92が柱41の、補強材6が架設される側の面(対向面51)に交差する面(交差面52)に接合された場合の例を示している。図11は図7と同様に溝形鋼のつなぎ材92のウェブを柱41の対向面51に密着させて接合した場合、図12は図9と同様に溝形鋼のつなぎ材92の一方のフランジを柱41の対向面51に密着させて接合した場合、図13は図10と同様にT形鋼のフランジを柱41の対向面51に密着させて接合した場合である。
いずれの場合も、柱41の対向面51に密着する部分の背面側である柱41側に、柱41の互いに対向する交差面52、52に重なる接合板92b、92bが互いに対向して溶接等により突設され、つなぎ材92は接合板92b、92bにおいて柱41を補強材6の架設方向に直交する水平方向に挟み込んだ状態で定着材71により柱41に接合される。図11等に示すように柱41が方形断面の場合、交差面52に重なる接合板92bは対向面51に直交する平面を持つ板になるが、柱41が円形断面のような場合には接合板92bは柱41の表面形状に沿った曲面状に形成される。その場合に、つなぎ材92の、対向面51に密着する区間の背面(柱41)側に隙間が生ずるようであれば、隙間には充填材(フィラー)等が介在させられる。
図11−(b)は図11−(a)の柱41を通るx−x線の断面を示し、(b)のy−y線の断面は図7−(c)に示す例と同様になる。図12−(b)は図12−(a)のx−x線の断面を示し、(b)のy−y線の断面は図9−(b)に示す例と同様になる。図13−(b)は図13−(a)のx−x線の断面を示し、(b)のy−y線の断面は図10−(b)に示す例と同様になる。
図11〜図13の例では、補強材6の架設方向に直交する水平方向に柱41を挟んで対向する接合板92b、92bが柱41に接合され、接合板92bを貫通する定着材71の軸部71aが補強材6に与えられる張力の作用方向に直交等、交差する方向を向くことで、補強材6の張力を軸部71aのせん断力で抵抗するため、補強材6の張力を負担したときの抜け出しに対する安定性が高い利点がある。
図7〜図10に示す例においても、図11−(a)に示すようにつなぎ材92の背面側(柱41側)に並列する接合板92b、92bを突設し、つなぎ材92を柱41の対向面51と交差面52に接合することもある。その場合、つなぎ材92が柱41に二方向に接合されるため、つなぎ材92の柱41への接合状態での安定性を高めることができる。または対向面51と交差面52に使用される定着材71の本数を減らすことができる。図11中の二点鎖線は図11に示す例において、つなぎ材92を柱41の対向面51に定着材71を用いて接合する場合があることを意味している。
図14、図15は天井材3と補強材6との間に、天井材3と補強材6の双方に接触し、補強材6の張力を天井材3に付与する台座10を介在させた場合の例を示す。台座10は天井材3の下面と補強材6との間に介在させられることで、補強材6に与えられている張力を増加させる働きをする。台座10は補強材6の張力を上向きに受けることで、天井材3を上向きに押し上げ、落下しにくい状態に保つと共に、落下したときにも天井材3を補強材6に保持させた状態に保つ役目を果たす。図4〜図6に示すように天井材3の下面と補強材6との間にクリアランスがある状態は、天井材3と補強材6との間に事後的に台座10が介在させられること、あるいは介在させられていることを表している。
図14−(a)は補強材6を周囲躯体4の対向する側面5、5間にほぼ水平な状態で架設(張架)した場合の台座10の配置例を示す。ここでは特に補強材6を天井面の短辺方向と長辺方向に交差させながら架設した様子を示しているが、補強材6の架設状態で台座10の安定性が確保されれば、補強材6は短辺方向と長辺方向のいずれかにのみ架設されることもある。図14−(b)の右側は短辺方向の補強材6の配置状態を、左側は両方向の補強材6の配置状態を示している。補強材6が二方向に架設される場合、台座10は平面上、二方向の補強材6、6の交点位置に配置される。台座10は補強材6の架設方向が一方向か二方向かを問わず、補強材6から上向きの力を受け、天井材3から反力を下向きに受けることで、高さ方向に圧縮力を受けた状態になる。
図15−(a)は補強材6を周囲躯体4の対向する側面5、5間に懸垂曲線状に架設し、補強材6の長さ方向の各部における天井材3との間の距離の大きさに応じた高さを有する台座10を二方向の補強材6、6の交点位置に配置した場合の例を示す。図15−(b)の右側は短辺方向の補強材6の配置状態を、左側は両方向の補強材6の配置状態を示している。
図15の例では補強材6の長さ方向の各部(二方向の補強材6、6の交点位置)に配置される台座10が天井材3と補強材6との間の距離に応じた高さを有することで、全台座10がほぼ均等に補強材6から上向きの力を受けることができるため、平常時にいずれか特定の台座10が受ける圧縮力が過大になることがない。従っていずれか特定の台座10に接触している補強材6の張力が過大になることもなく、補強材6の破断に対する安全性が向上する利点がある。
図16〜図18は台座10の具体的な製作例を示す。図16−(a)、(b)は箱形、もしくはブロック状の立体形状を有する本体の底面側に二方向の線状の補強材6、6が入り込む溝10aを形成した台座10の製作例を、(c)、(d)は(a)、(b)に示す台座10を一方向に連結した形に形成した台座10の製作例を示す。台座10が中実断面であるか、中空断面であるかは問われない。台座10は例えば合成樹脂、金属、木材等から製作される。
溝10aを二方向に形成する場合、二方向の補強材6、6が溝10a内で段差が付いた状態で交差するよう、図16−(a)、(c)に示すように各方向の溝10a、10aの底の深さは相違させられる。台座10が一方向の補強材6に保持される場合、溝10aは一方向にのみ入れられれば足りる。
図17−(a)、(b)は図16−(a)、(b)に示す形状の台座10の上面側の平面積を下面側の平面積より大きくし、角錐台形状に形成することで、台座10に偏った荷重が作用したときの転倒に対する安定性を高めた場合の台座10の製作例を示す。(c)、(d)は図17−(a)、(b)に示す形状の台座10の上面と下面を円形状にし、円錐台形状に形成した場合の台座10の製作例を示す。
図18−(a)は台座10の軽量化を図るために、台座10を中空状に形成し、底面側の溝10a以外の部分に補強と補剛のためのリブ10bを突設した場合の製作例を示す。この例ではリブ10bを台座10の背面側に格子状に形成しているため、溝10aは補強材6が通過する一部のリブ10bに底面側から形成されている。
図14〜図18では台座10が線状の補強材6に適した形状の例を示しているが、台座10は補強材6が面状(帯状)の場合にも使用される。例えば面状の補強材6の幅の範囲内に台座10の幅が納まれば、面状の補強材6は台座10の全幅を保持できるため、台座10を安定させた状態で天井材3に密着させた状態に保持することが可能である。この場合、台座10の底面側に溝10aを形成する必要はない。