以下、本発明の例示的な実施形態が開示される。以下に示される実施形態の構成、ならびに当該構成によってもたらされる作用および結果(効果)は、あくまで一例である。本発明は、以下の実施形態に開示される構成以外によっても実現可能であるとともに、基本的な構成によって得られる種々の効果(派生的な効果も含む)を得ることが可能である。
図1は、実施形態に係る車高調整装置10の構成を説明する図であり、作動流体の流動がない状態を示す図である。
図示を省略した車両の各車輪には、それぞれ車高調整部として機能する空気ばね12FR,12FL,12RR,12RL(以下、各空気ばねを区別しない場合は単に「空気ばね12」と示す場合もある)が接続されている。各空気ばね12は、作動流体(例えば、空気)の給排にしたがって車両の車体に対して車輪の懸架状態を変化させる。また、空気ばね12内に封入した圧縮空気による弾性により車両の振動を吸収する機能を有する。なお、空気ばね12FR,12FLは、前輪車高調整部という場合もある。また、空気ばね12RR,12RLは、後輪車高調整部という場合もある。空気ばね12は、公知の構造が利用可能である。空気ばね12は、空気の弾性を利用するため金属ばねに比べて細かい振動を吸収しやすい。また、空気圧を制御することにより車高を一定に保つ、または所望の車高に調整したり、ばね定数を所望の値に変更したりすることができる。
前輪車高調整部である空気ばね12FR,12FLは、車高調整弁14FR,14FLを介して作動流体が流れる主流路16に接続されている。同様に、後輪車高調整部である空気ばね12RR,12RLは、車高調整弁14RR,14RLを介して作動流体が流れる主流路16に接続されている。車高調整弁14FR,14FL,14RR,14RLを区別しない場合は単に「車高調整弁14」と示す場合もある。また、本実施形態において、空気ばね12と車高調整弁14とを併せて車高調整部という場合もある。
本実施形態においては、車高調整弁14FR,14FLは、例えば金属や樹脂で形成される流路ブロック内に埋め込み配置されて、前輪バルブユニット18aを構成している。同様に、車高調整弁14RR,14RLは、流路ブロック内に埋め込み配置されて後輪バルブユニット18bを構成している。なお、別の実施形態では、各車高調整弁14を個別に配置してもよい。この場合、各車高調整弁14のレイアウトの自由度が向上する。また、4個の車高調整弁14を纏めてユニット化してもよい。この場合、ユニット化による部品点数の削減に寄与できる。
図1に示すように、前輪バルブユニット18aと後輪バルブユニット18bを別々のユニットで構成することで、前輪バルブユニット18aを前輪側に配置可能になる。その結果、前輪バルブユニット18aから前輪側の各空気ばね12への流路配管の長さを、全ての車高調整弁14を纏めてユニット化する場合に比べて短くすることができる。同様に、後輪バルブユニット18bを後輪側に配置可能となり、後輪バルブユニット18bから後輪側の各空気ばね12への流路配管の長さを、全ての車高調整弁14を纏めてユニット化する場合に比べて短くすることができる。その結果、流路配管の配索が容易になるとともに、流路配管の長さが短くなることで当該流路配管の破損等のリスクも軽減できる。
前輪バルブユニット18aの一端面には、主流路16が接続される第1ポート18a1が形成され、前輪バルブユニット18aの内部には、当該第1ポート18a1を一端とし、他端を第2ポート18a2とする主流路チャネル20が貫通形成されている。前輪バルブユニット18aの内部において、主流路チャネル20から副流路チャネル22が2本分岐形成されている。そして、車高調整弁14FRの一端は、副流路チャネル22のうち1本に接続され、車高調整弁14FRの他端は、第3ポート18a3を介して空気ばね12FRに接続されている。同様に、車高調整弁14FLの一端は、副流路チャネル22のもう1本に接続され、車高調整弁14FLの他端は、第4ポート18a4を介して空気ばね12FLに接続されている。
第2ポート18a2には、連通用主流路16a(主流路16)が接続されている。この連通用主流路16aは、後輪バルブユニット18bの第1ポート18b1に接続されている。後輪バルブユニット18bの内部には、第1ポート18b1を一端とする主流路チャネル20が形成されている。後輪バルブユニット18bの内部にも、主流路チャネル20から副流路チャネル22が2本分岐形成されている。そして、車高調整弁14RRの一端は、副流路チャネル22のうち1本に接続され、車高調整弁14RRの他端は、第2ポート18b2を介して空気ばね12RRに接続されている。車高調整弁14RLの一端は、副流路チャネル22のもう1本に接続され、車高調整弁14RLの他端は、第3ポート18b3を介して空気ばね12RLに接続されている。
なお、図1の場合、前輪バルブユニット18aは4ポートタイプを用い、後輪バルブユニット18bは3ポートタイプを用いた例を示したが、例えば、前輪側と後輪側とで、同じ4ポートタイプのバルブユニットを用いることも可能である。後輪バルブユニット18bとして前輪バルブユニット18aと同じ4ポートタイプを用いる場合は、第2ポート18a1に対応するポートをプラグキャップ(メクラ栓)で封止する。この場合、バルブユニットの共通化による部品種類の低減、設計コストの低減等に寄与することができる。
各車高調整弁14(14FR,14FL,14RR,14RL)は、同一タイプの開閉弁が利用可能であり、例えばON/OFF制御されるソレノイドおよびスプリングを有している。何れの制御弁もソレノイドが非通電状態にある場合に閉弁状態とされる常閉型電磁制御弁とすることができる。
主流路16は、回路バルブブロック24及びタンク接続主流路16bを介して圧力タンク26(作動流体の供給源)に接続されている。回路バルブブロック24は、コンプレッサ流出流路28aを介してコンプレッサユニット30の流出側に接続されている。また、回路バルブブロック24は、コンプレッサ流入流路28bを介してコンプレッサユニット30の流入側に接続されている。回路バルブブロック24は、複数の開閉弁、例えば4個の開閉弁を含む弁体ブロックとして構成されている。具体的に回路バルブブロック24は、第1開閉弁24a、第2開閉弁24b、第3開閉弁24c、第4開閉弁24dで構成されている。第1開閉弁24a及び第2開閉弁24bは、一端側がタンク接続主流路16b(主流路16)を介して圧力タンク26に接続される。第3開閉弁24cは、一端側がコンプレッサ流出流路28aを介してコンプレッサユニット30の流出側と接続されるとともに第2開閉弁24bの他端側に接続される。また、第3開閉弁24cの他端側が空気ばね12側(車高調整部側、前輪バルブユニット18a側)に接続されている。第4開閉弁24dは、一端側がコンプレッサ流入流路28bを介してコンプレッサユニット30の流入側に接続されるとともに第1開閉弁24aの他端側に接続される。また、第4開閉弁24dの他端側が空気ばね12側(車高調整部側、前輪バルブユニット18a側)と接続されている。
回路バルブブロック24に含まれる第1開閉弁24a、第2開閉弁24b、第3開閉弁24c、第4開閉弁24dは、同一タイプの開閉弁が利用可能であり、例えばON/OFF制御されるソレノイドおよびスプリングを有している。何れの開閉弁もソレノイドが非通電状態にある場合に閉弁状態とされる常閉型電磁制御弁とすることができる。
本実施形態の車高調整装置10は、第1圧力センサ32aと第2圧力センサ32bを備えている。図1の場合、例えば、回路バルブブロック24(複数の開閉弁)の上流側に第1圧力センサ32aが配置され、下流側に第2圧力センサ32bが配置されている。つまり、回路バルブブロック24(弁体ブロック)は、圧力タンク26側の圧力を検出する第1圧力センサ32a及び空気ばね12側(車高調整部側、前輪バルブユニット18a側)の圧力を検出する第2圧力センサ32bを含む。回路バルブブロック24は、例えば金属や樹脂で形成され、内部には第1開閉弁24a、第2開閉弁24b、第3開閉弁24c、第4開閉弁24dを上述したように接続するためのチャネルが形成されている。第1圧力センサ32aは、第1開閉弁24aの一端または第2開閉弁24bの一端をタンク接続主流路16b(主流路16)に接続するためのチャネルに接続されている(図1の場合は、第1開閉弁24aの一端から延びるチャネルに接続されている)。また、第2圧力センサ32bは、第3開閉弁24cの一端または第4開閉弁24dの一端を主流路16に接続するためのチャネルに接続されている(図1の場合は、第3開閉弁24cの一端から延びるチャネルに接続されている)。
第1圧力センサ32aは、例えば、第1開閉弁24a及び第2開閉弁24bが閉弁状態の場合、圧力タンク26側の静的圧力を正確に検出できる。また、第1開閉弁24aと第2開閉弁24bの少なくとも一方が開弁して作動流体が流動している場合は圧力タンク26側の動的圧力を検出できる。同様に、第2圧力センサ32bは、第3開閉弁24c及び第4開閉弁24dを閉弁状態にして、少なくとも前輪側の車高調整弁14FRまたは車高調整弁14FLを開弁状態にすれば、空気ばね12側の静的圧力を測定できる。また、第2圧力センサ32bは、第3開閉弁24c及び第4開閉弁24dを閉弁状態にするとともに、車高調整弁14RR及び車高調整弁14RLを閉弁状態にして、車高調整弁14FRまたは車高調整弁14FLの一方を開弁状態にする。その結果、前輪側の空気ばね12FRまたは空気ばね12FLのいずれか一方の静的圧力が検出できる。また車高調整弁14FR及び車高調整弁14FLの両方を開弁状態にすることで空気ばね12FR,12FL両方の平均静的圧力が検出できる。また、第2圧力センサ32bは、第3開閉弁24c及び第4開閉弁24dを閉弁状態にするとともに、車高調整弁14FR及び車高調整弁14FLを閉弁状態にして、車高調整弁14RRまたは車高調整弁14RLの一方を開弁状態にする。その結果、後輪側の空気ばね12RRまたは空気ばね12RLのいずれか一方の静的圧力が検出できる。また車高調整弁14RR及び車高調整弁14RLの両方を開弁状態にすることで空気ばね12RR,12RL両方の平均静的圧力が検出できる。さらに、第2圧力センサ32bは、第3開閉弁24c及び第4開閉弁24dを閉弁状態にするとともに、車高調整弁14FR、車高調整弁14FL、車高調整弁14RR、車高調整弁14RLを開弁状態にする。その結果、全ての車輪に対応する空気ばね12FR,12FL,12RR,12RLの全体としての静的圧力が検出できる。また、第2圧力センサ32bは、第3開閉弁24cや第4開閉弁24dが開弁状態の場合、空気ばね12側(車高調整部側、前輪バルブユニット18a及び後輪バルブユニット18b側)の動的圧力の測定が可能である。
このように、第1圧力センサ32aは、回路バルブブロック24の上流側(例えば圧力タンク26側)の圧力(静的圧力または動的圧力)を検出可能であり、第2圧力センサ32bは、回路バルブブロック24の下流側(例えば空気ばね12側)の圧力(静的圧力または動的圧力)を検出可能である。後述するが、圧力タンク26側の圧力と空気ばね12側の圧力の圧力差(差圧)により作動流体を圧力タンク26側から空気ばね12側へ流動させることで車高調整ができる。言い換えれば、圧力差が小さい場合は車高調整のための作動流体の流動が十分に行えなくなるので、コンプレッサユニット30の駆動が必要になる。そこで、車高調整装置10は、第1圧力センサ32a及び第2圧力センサ32bの検出結果に基づく圧力差(差圧)を取得(算出)して、その結果を利用してコンプレッサユニット30の駆動制御を行うことができる。例えば、車高上昇制御の場合、圧力タンク26側と空気ばね12側の圧力差が所定値(閾値)以上ある場合、その圧力差によって作動流体を空気ばね12側へ流動させることができる。この場合、コンプレッサ36を非駆動とすることができる。一方、圧力タンク26側と空気ばね12側の圧力差が所定値(閾値)未満になった場合で車高上昇制御を継続する場合は、そのタイミング(コンプレッサ36による圧送が必要になったタイミング)でコンプレッサ36を駆動することができる。
圧力タンク26は、例えば、金属製または樹脂製で、空気ばね12による車高調整制御時及び非制御時を含め流路系内で発生する圧力に十分に耐え得る耐圧性と容量を有している。また、圧力タンク26は、タンク本体26aの内圧が何らかの原因により設定圧(予め試験等により設定した圧力)以上になった場合に減圧するためのリリーフ弁26bを有する。
コンプレッサユニット30は、モータ34により駆動するコンプレッサ36、ドライヤ38、オリフィス40a及び逆止弁40bで構成される絞り機構40を主要構成としている。図1の場合、この他、リリーフ弁42、逆止弁44,46,48、フィルタ50,52等を含む例を示している。
コンプレッサユニット30は、車高上昇制御時に圧力タンク26側と空気ばね12側との圧力差が所定値(予め試験等により設定した値)以下になった場合や、車高下降制御時に空気ばね12側から圧力タンク26へ作動流体を汲み上げる(戻す)場合にモータ34によりコンプレッサ36を動作させて作動流体を圧送する。なお、本実施形態の車高調整装置10は、経路内の作動流体(当初から封入された空気)を圧力タンク26側と空気ばね12側との間で移動させることで車高調整を行うクローズドタイプの装置である。したがって、基本的には、装置内に外気は進入することなく湿度変動等の環境変化はないとみなせる。したがって、クローズドタイプの装置の場合、基本的には、ドライヤ38や絞り機構40は省略することができる。ただし、何らかの原因により装置内の作動流体(空気)が外部に漏れてしまう場合がある。そのような場合は、フィルタ52及び逆止弁48を介して外部から雰囲気(外気)を取り込み、装置内の作動流体を補充する。この場合、雰囲気(外気)は車高調整装置10内の構成部品に不利となる水分(湿気)を含んでいる場合がある。そのため、図1に示す車高調整装置10は、コンプレッサ36の下流側に、取り込んだ雰囲気の湿気を所定量取り除くドライヤ38や当該ドライヤ38における雰囲気の通過速度を調整するための絞り機構40が設けられている。なお、車高調整装置10内の圧力が何らかの原因で制限圧を超えた場合に減圧するために、コンプレッサユニット30はリリーフ弁42を有している。このリリーフ弁42は、例えばON/OFF制御されるソレノイドおよびスプリングを有し、ソレノイドが非通電状態にある場合に閉弁状態とされる常閉型電磁制御弁とすることができる。なお、本実施形態のリリーフ弁42は、非通電時の閉弁状態をいかなる場合も維持するものではなく、車高調整装置10内の圧力が制限圧(予め試験等により設定した圧力)を超えた場合に大気開放方向に作動流体の流動を許容する逆止弁54を含む。例えば、何らかの不具合が生じて車高調整装置10の内部圧力が制限圧を超えた場合は、逆止弁54の付勢力に逆らい開弁状態となり、自動的に制限圧以下になるように減圧が行われる。なお、リリーフ弁42は、後述する制御部からの制御信号に基づいて開弁状態に移行することも可能で、制限圧に拘わらず、車高調整装置10の内部圧力を減圧することができる。なお、コンプレッサ36は作動流体を空気ばね12側に供給する供給源としても機能する。
このように構成される車高調整装置10は、当該車高調整装置10に含まれる制御部(ECU)56によって、車高調整部(後述する空気ばねや車高調整弁等)等の車高調整に関する制御が実行される。例えば、ECU56は、コントローラー・エリア・ネットワーク(CAN;Controller Area Network)を介して取得した車高調整要求や各空気ばね12の伸縮(車高)状態を検出する車高センサ58の検出結果や第1圧力センサ32a及び第2圧力センサ32bの検出結果を取得可能である。
情報取得部として機能する車高センサ58は、各空気ばね12に個別に配置され、空気ばね12の伸縮状態を車高情報(車高値)として検出する。ECU56は、車高センサ58が取得した車高値を時間微分することで車高調整制御中の単位時間あたりの車高変化値、つまり、車高調整速度(車高上昇速度)を算出(取得)することができる。そして、ECU56は、車高調整速度に対応する停止後車高変化量を取得する。ECU56は、車高センサ58が検出した車高値及びそれに基づいて取得した車高調整速度を用いて、車高調整制御を実行する。つまり、ECU56は、空気ばね12の車高調整制御中に取得する車高情報(車高値)に基づいて、車高調整制御停止後の停止後車高変化量を取得する停止後変化取得部として機能する。
ECU56は、取得した情報に基づいて、車高調整弁14FR,14FL,14RR,14RL、第1開閉弁24a、第2開閉弁24b、第3開閉弁24c、第4開閉弁24d、リリーフ弁42等の開閉制御やモータ34の駆動制御を行う。なお、図1の場合、単一のECU56が各制御対象を統合的に制御する例を示しているが、各制御対象を個別制御する制御部やいくつかの制御対象をグループ化して制御する制御部を設け、それを統合的に制御する上位制御部を設けてもよい。
本実施形態の車高調整装置10においては、回路バルブブロック24の上流側に第1圧力センサ32aを配置し、下流側に第2圧力センサ32bを配置することで、圧力タンク26側および空気ばね12側の圧力状態が検出できる。特に車高上昇制御中の圧力状態がリアルタイムで検出できる。その結果、ECU56は、作動流体が圧力差により流動可能か否か正確に判定し、圧力差が不足の場合には、適切なタイミングで、必要な期間のみコンプレッサ36を駆動することができる。その結果、コンプレッサ36の駆動制御が適正化され、省電力制御やコンプレッサ36の駆動に起因する騒音や振動の軽減に寄与できる。なお、第1圧力センサ32aおよび第2圧力センサ32bを用いることによって、圧力タンク26側の圧力状態と空気ばね12側の圧力状態をリアルタイムに検出し、車高制御に反映させることができる。例えば、前述したように適切なタイミングでコンプレッサ36を駆動することで、常時スムーズな車高調整が実現できる。また、路面状況に応じたスムーズな車高調整も実現できる。その結果、乗り心地の向上や操作性の向上にも寄与できる。
また、適切なタイミングでコンプレッサ36を動作させることができるので、例えば車輪が縁石等に乗り上げるなどして、車体が左右に傾斜した場合でも適切な車高調整により車体を実質的な水平状態に保つことが可能で、搭乗者等の違和感や不安感を軽減することができる。また、ドアの開閉時にかかる力(ヒンジ部にかかる力)を車体が水平状態にある場合と同様に保つことが可能となり、ドアの開閉を容易にすることができる。また、乗降性を水平状態のときと同様にすることができる。
このように構成される車高調整装置10の車高上昇時及び車高下降時の制御を図2〜図4を用いて詳細に説明する。
まず、図2を用いて、車高上昇制御を行う場合に、圧力タンク26側の圧力が空気ばね12側の圧力より十分に高く、圧力タンク26側と空気ばね12側との圧力差によって作動流体(空気)が、圧力タンク26から各空気ばね12に流動可能な場合の車高調整装置10の動作を説明する。なお、ECU56は、圧力タンク26側の圧力を第1圧力センサ32aの検出結果に基づき取得し、空気ばね12側の圧力を第2圧力センサ32bの検出結果に基づき取得し、その圧力差を演算することにより、圧力差による作動流体(空気)の移動が可能か否かを判定する。
ところで、車高上昇調整制御を行う場合、車高調整速度は、そのシチュエーションに応じて、変化させることが好ましい。例えば、車両に乗降する場合に搭乗者の乗降負担を軽減するために車高を上昇させたい場合がある。このような場合は、迅速に車高上昇を完了して、乗降ができるようにすることが望ましい。また、車両走行中は走行状態(速度や走行路面の状態等)に応じて車高を上昇させた方が好ましい場合がある。この場合は、安定した走行を維持しつつ違和感のない上昇速度範囲内で車高を上昇させることが望ましい。
車高調整装置10が車高上昇制御を行う場合、ECU56は、回路バルブブロック24に含まれる第1開閉弁24a、第2開閉弁24b、第3開閉弁24c、第4開閉弁24dの開閉制御を行うとともに、車高調整弁14FR,14FL,14RR,14RLを開弁状態に制御する。
本実施形態の車高調整装置10は、回路バルブブロック24の第1開閉弁24a、第2開閉弁24b、第3開閉弁24c、第4開閉弁24dの開閉状態の組み合わせを変えることで、作動流体の流動態様(流動方向や流動量等)を切り替えることができる。例えば、圧力タンク26側から車高調整部側(空気ばね12側)へ両者間の圧力差により作動流体を流動させる場合、ECU56は、第1開閉弁24aと第4開閉弁24dを開弁して形成する第1流路系と、第2開閉弁24bと第3開閉弁24cを開弁して形成する第2流路系の少なくとも一方を利用することが選択できる。例えば、第1流路系の第1流動態様(流路開口径、流動抵抗による流動し易さ)と第2流路系の第2流動態様(流路開口径、流動抵抗による流動し易さ)が実質的に同じ場合で、ECU56が第1流路系または第2流路系のいずれか一方を選択した場合を考える。この場合、タンク接続主流路16bを介して圧力タンク26から流出した作動流体は、第1流路系または第2流路系を通過して第1速度態様(例えば低速上昇態様)で各空気ばね12側に供給可能となり、各車高調整弁14の開弁により空気ばね12が伸長して車高を低速で上昇させることができる。
また、ECU56が第1流路系と第2流路系の両方を選択した場合、いずれか一方を選択する場合に比べ、作動流体の流動し易さは実質的に2倍となり、第1速度態様より速い第2速度態様(例えば高速上昇態様)の作動流体が各空気ばね12側に供給可能となる。その結果、各車高調整弁14の開弁により空気ばね12が伸長して第1速度態様の場合より高速で車高上昇が実行できる。
このように、第1流路系と第2流路系の選択を行うことで、単位時間あたりの作動流体の流動し易さ(作動流体の流動量)の切り替えが可能になり、車高上昇速度を容易に変化させることができる。また、他の実施形態においては、第1開閉弁24a及び第4開閉弁24dの開弁で規定される第1流路系の第1流動態様と第2開閉弁24b及び第3開閉弁24cの開弁で規定される第2流路系の第2流動態様が異なるようにしてもよい。例えば開閉弁の開口径を第1流路系と第2流路系で異ならせる。その結果、ECU56が第1開閉弁24a及び第4開閉弁24dを開弁して第1流路系を選択した場合は、例えば低速上昇態様となる。また、ECU56が第2開閉弁24b及び第3開閉弁24cを開弁して第2流路系を選択した場合、例えば中速上昇態様となる。さらに、ECU56が第1流路系と第2流路系の両方を選択した場合は、高速上昇態様とすることができる。
また、上述したような第1流路系及び第2流路系の選択を1回の車高上昇過程中で複数回行ってもよい。例えば車高上昇初期期間の上昇速度を第1流路系または第2流路系の一方を用いた第1速度態様とし、中間期間で第1流路系と第2流路系の両方を用いて第1速度態様より速い第2速度態様とし、最終期間で再び第1速度態様としてもよい。このように、第1速度態様でゆっくりと車高上昇を開始することにより、上昇開始時のショックを軽減することができる。また、中間期間で第2速度態様の高速上昇に移行することで、車高上昇制御完了までの時間短縮を行い、最終期間で再度第1速度態様のゆっくりとした車高上昇に切り替えることで、上昇停止時のショックを軽減することができる。
ところで、本実施形態の車高調整装置10の場合は図2等に示すように、第2開閉弁24bの他端側と第3開閉弁24cの一端側が共に絞り機構40に接続されているが、第2開閉弁24bの他端側は第3開閉弁24cの一端側にも接続されている。つまり、圧力タンク26側と空気ばね12側との圧力差に基づいて作動流体を空気ばね12側へ流動させる場合、絞り機構40側、つまりコンプレッサユニット30とは関係なく、第1開閉弁24a及び第4開閉弁24dで形成される第1流路系または第2開閉弁24b及び第3開閉弁24cで形成される第2流路系のいずれか一方または両方を用いて作動流体を通過させることができる。言い換えれば、圧力差により作動流体を流動させる場合は、コンプレッサユニット30を経由させないで済む。したがって、作動流体を圧力差によって流動させる場合の流路がシンプル化され、流動時の圧損発生を軽減することができる。
車高調整装置10の場合、基本的には、圧力タンク26側の圧力と空気ばね12側との圧力差により作動流体を空気ばね12側に向けて流動させる。しかし、圧力タンク26側から空気ばね12側へ作動流体が流動した結果、作動流体を十分に流動させるだけの圧力差が圧力タンク26側と空気ばね12側の間になくなってしまう場合がある。また、車高上昇制御開始の時点で圧力タンク26側と空気ばね12側とで十分な圧力差(差圧)がない場合がある。そのような場合、ECU56は、コンプレッサユニット30のモータ34を駆動させてコンプレッサ36により圧力タンク26から作動流体を強制的に汲み上げ、空気ばね12側に圧送する。
図3は、車高上昇制御時にコンプレッサ36を用いて作動流体を空気ばね12側へ圧送する場合の車高調整装置10の動作を示している。例えば、第1圧力センサ32a及び第2圧力センサ32bの検出結果に基づき、圧力タンク26側と空気ばね12側との圧力差が所定値以下になった場合、ECU56は第1開閉弁24a、第2開閉弁24b、第3開閉弁24c、第4開閉弁24dの開閉状態を切り替えて、コンプレッサ36による作動流体の圧送を開始する。この開閉状態の切り替えの契機となる圧力差の所定値は、予め試験等により決定することができる。例えば、車高上昇速度が所定値より低くなるような差圧値を定めておくことができる。この場合、車高上昇が停止する前にコンプレッサ36による圧送を開始するようにすることが望ましい。
他の実施形態においては、コンプレッサ36による圧送の開始を車高センサ58からの検出結果に基づいて実行してもよい。すなわち、圧力タンク26側と空気ばね12側との圧力差が低下すると車高上昇速度も低下する。したがって、ECU56は、各車高センサ58から提供される車高値を時間微分して車高上昇速度を算出し、車高上昇速度が所定値(予め試験等により定めた下限上昇速度)以下になった場合に、コンプレッサ36による作動流体の圧送を開始するようにしてもよい。また、第1圧力センサ32a及び第2圧力センサ32bによる検出結果と、車高センサ58による検出結果の両方を用いて、コンプレッサ36の駆動開始を決定してもよい。
ECU56は、第1圧力センサ32a及び第2圧力センサ32bによる検出結果に基づく圧力差が所定値以下になった場合、または各車高センサ58の検出した車高値に基づく車高上昇速度が所定値以下になった場合、図3に示すように、第1開閉弁24aを開弁状態にし、第4開閉弁24dを閉弁状態にする。この状態で、圧力タンク26側とコンプレッサ36側が連通状態になる。また、第2開閉弁24bを閉弁状態にし、第3開閉弁24cを開弁状態にする。この様態で、コンプレッサ36側と空気ばね12側が連通状態になる。その結果、コンプレッサ36が駆動することで、圧力タンク26内の作動流体がタンク接続主流路16b、第1開閉弁24a、コンプレッサ流入流路28bを介して、コンプレッサ36に汲み上げられる。そして、汲み上げられた作動流体は圧縮されて、コンプレッサ流出流路28a、第3開閉弁24cを介して空気ばね12側へ圧送される。その結果、圧力タンク26側と空気ばね12側との間で十分な圧力差がない状態でも各空気ばね12の車高上昇制御が実行できる。なお、この場合、車高上昇速度は、コンプレッサ36の出力、つまりモータ34の出力によって定まる。そのため、ECU56は、要求される車高上昇速度、例えば、高速車高上昇要求や低速車高上昇要求に応じてモータ34の出力を制御する。また、前述したように、1回の車高上昇過程で、車高上昇速度を複数回変化させる場合も、ECU56は、モータ34の出力を制御すればよい。
なお、車高上昇制御前または車高上昇制御中に圧力タンク26側と空気ばね12側との圧力差がある場合でも車両重量が増加した場合、例えば乗員が増えた場合や積荷が増えた場合、空気ばね12が支えるべき荷重が増えるので空気ばね12が短縮する。その結果、空気ばね12側の圧力が上昇して、圧力タンク26側との間で圧力差(差圧)がなくなってしまう場合がある。このような場合も車高上昇速度は低下する。その状況は、第1圧力センサ32a及び第2圧力センサ32bまたは車高センサ58の検出値に基づいて検出可能である。したがって、ECU56は適切なタイミングでコンプレッサ36による圧送を開始することができる。
次に、図4を用いて車高下降制御時の車高調整装置10の動作を説明する。ECU56は、例えば、CANを介して取得した車高下降要求を取得した場合、第1開閉弁24a、第2開閉弁24b、第3開閉弁24c、第4開閉弁24dの開閉状態を切り変える。その結果、コンプレッサ36により作動流体を空気ばね12側から汲み上げて圧力タンク26に戻す(圧力タンク26へ向けて作動流体を圧送する)ことが可能になり、空気ばね12を短縮させて車高を下降させることができる。
ECU56は、車高下降制御を実行する場合、図4に示すように、第1開閉弁24aを閉弁状態にし、第4開閉弁24dを開弁状態にする。また、第2開閉弁24bを開弁状態にし、第3開閉弁24cの閉弁状態を維持する。また、車高調整弁14FR,14FL,14RR,14RLを開弁状態にする。その結果、空気ばね12側とコンプレッサ36は、第4開閉弁24d及びコンプレッサ流入流路28bを介して連通状態となる。また、コンプレッサ36の流出側は、コンプレッサ流出流路28a、第2開閉弁24b、タンク接続主流路16bを介して圧力タンク26と連通状態となる。そして、空気ばね12側の作動流体は、コンプレッサ36により汲み上げられ、圧力タンク26に圧送される。
車高下降制御の場合、車高下降速度はコンプレッサ36による作動流体の汲み上げ速度に依存する。つまり、ECU56は、モータ34の出力を任意に調整可能なので車高下降速度を任意に選択可能である。したがって、車高下降速度を早めたい場合ECU56は、モータ34の出力を増加し、車高下降速度を遅めたい場合には、モータ34の出力を減少させる。例えば、運転者を含む搭乗者が車両を駐車(停車)状態にして車両を離れようとする場合に、車両が休止状態に移行したことを示すようにしてもよい。この場合、運転者を含む搭乗者が車両の周囲に居る期間、例えば、車両の駆動源をオフにして、さらに降車してドアロックを行った後数秒以内に急速に車高を標準車高より下げることで車両が自ら休止したような演出をすることができる。また、走行中に車高を下げた方が安定した走行ができる場合には、安定した走行を維持しつつ違和感のない速度範囲内で車高を下降させることができる。
ところで、一般的なサスペンションは、基本的構成として車軸の位置決めを行うサスペンションアームと、車重を支えて衝撃を吸収するスプリングと、スプリングの振動を減衰するショックアブソーバー(ダンパ)で構成される。空気ばね12を用いたサスペンション装置も同様であり、図5に示すように、車体と車軸とを接続するように空気ばね12の近傍にはダンパ100が配置される。ダンパ100は、空気ばね12の振動を減衰する減衰部として機能する。空気ばね12が車高調整のために伸縮すると、ダンパ100は、その伸縮を抑制する抵抗力を発生しながら同様に伸縮する。例えば、空気ばね12が伸長して車高を上昇しようとする場合には、ダンパ100は、その伸長を抑制する抵抗力を発生する。ECU56は、ダンパ100の抵抗力に抗して空気ばね12を伸長させる必要があるため、より多くの作動流体を空気ばね12に供給する。空気ばね12の車高上昇調整が完了して伸長動作が停止すると、ダンパ100も伸長を停止するので抵抗力が消失する。つまり、空気ばね12は抵抗力の拘束から解放されて、過剰に供給された作動流体によって、目標車高で停止していたはずが、当該目標車高を超えてさらに伸長させられる。つまり、伸長側にオーバーシュートする。同様に、空気ばね12が短縮して車高を下降しようとする場合には、ダンパ100は、その短縮を抑制する抵抗力を発生する。ECU56は、ダンパ100の抵抗力に抗して空気ばね12を短縮させる必要があるため、より多くの作動流体を空気ばね12から汲み上げる。空気ばね12の車高下降調整が完了して短縮動作が停止すると、ダンパ100も短縮を停止するので抵抗力が消失する。つまり、空気ばね12は抵抗力の拘束から解放されて、過剰に汲み上げられた作動流体によって、目標車高で停止していたはずが、当該目標車高を超えてさらに短縮させられる。つまり、短縮側にオーバーシュートする。
車高上昇調整の場合及び車高下降調整の場合、いずれの場合もダンパ100は、伸縮速度が速い場合は伸縮速度が遅い場合に比べて大きな抵抗力を発生する。発明者らは、種々の試験(実験)により、伸縮速度が速い方が作動流体の供給量または汲み上げ量が多くなり、伸縮動作の停止後のオーバーシュート量が大きくなることを確認した。そして、この関係を車高調整制御に反映させることができれば正確な車高調整が実現できるとの結論を得た。
図6は、車高上昇調整を行った場合の目標車高値と実車高値の関係を説明する図である。図6(a)は、車高上昇調整の速度が遅い場合を示す例であり、図6(b)は車高上昇調整の速度が速い場合を示す例である。いずれの場合も、回路バルブブロック24の閉弁制御後やコンプレッサ36の停止後の作動流体の流動による空気ばね12の伸縮変動を考慮して目標車高値に対する許容範囲(不感帯)Aを設けている。例えば、実車高値が目標車高値に対する許容範囲の下限側の制御点Pに到達した時点で、ECU56は上昇制御を停止する。前述したように、調整速度が遅い場合は、ダンパ100に発生する抵抗力も小さいので、空気ばね12に過剰に供給される作動流体は僅かになる。その結果、図6(a)に示すように、車高調整制御停止後の停止後車高変化量は少なく、最終的に停止する車高値は、許容範囲Aに収まる。
一方、車高上昇調整の速度が速い場合、ダンパ100に発生する抵抗力が大きいので、空気ばね12に過剰に作動流体が供給される。車高上昇調整の速度が遅い場合と同様に実車高値が目標車高値に対する許容範囲の下限側の制御点Pに到達した時点でECU56が上昇制御を停止すると、前述したようにダンパ100からの解放により空気ばね12に対して過剰に供給されていた作動流体により実車高値は破線Mで示すように大きくオーバーシュートして許容範囲Aを外れてしまう。つまり、適切な車高調整ができず、乗員に違和感を与えてしまう場合がある。この場合、車高調整速度が大きいほど(急激に空気ばね12が伸長しようとするほど)、ダンパ100の抵抗力が大きくなるので、空気ばね12に過剰に供給される作動流体が増加する。オーバーシュート量B(停止後車高変化量)は、ECU56が上昇制御を停止した実車高値が許容範囲の下限側に到達したとき以降の変化量である。
そこで、本実施形態の車高調整装置10のECU56は、空気ばね12が伸縮している場合の変化速度(車高調整速度)に応じて、オーバーシュート量を推定して(考慮して、見越して)、車高調整制御の停止タイミングを修正して、「制御停止車高Q」を算出する(図6(b)参照)。つまり、早めに車高調整を終了させる。その結果、オーバーシュートが発生したとしても、本来、目標としていた車高(目標車高値)に実車高を合わせ込むように空気ばね12を停止させることができる。
具体的には、ECU56は、車高センサ58が取得した車高値を時間微分することにより、車高調整速度を取得(算出)する。そして、予め試験等による実測や演算により、車高調整速度と対応付けを行っておいたオーバーシュート量(停止後車高変化量)を取得する。この場合、実車高値が目標車高値に対する許容範囲の下限側の制御点Pに到達した時点で、車高上昇制御を停止した場合に発生するオーバーシュート量と車高調整速度との関係を求めて、例えば後述する図7に示すような制御マップを作成しておくことができる。
ところで、ダンパ100の中には、減衰力が大きな「ハードモード」と減衰力が小さな「ソフトモード」があり、いずれのかのモードを選択できる構成のものがある。この場合、減衰力が大きな「ハードモード」は、空気ばね12の伸縮を抑制する抵抗力が大きいため、その抵抗力に対応して発生するオーバーシュート量も大きくなる。一方、減衰力が小さな「ソフトモード」は、空気ばね12の伸縮を抑制する抵抗力が小さいため、その抵抗力に対応して発生するオーバーシュート量も小さい。したがって、制御マップは、「ハードモード用」の態様と、「ソフトモード用」の態様を準備することが望ましい。
さらに、空気ばね12は、前輪側と後輪側とで車高調整を行った場合に発生するオーバーシュート態様が異なる。例えば、車両においてエンジン等の駆動源やトランスミッション等の重量部品が搭載されるのは前輪側であることが多い。したがって、前輪側の空気ばね12は、支えるべき荷重が大きい。そのため、仮にダンパ100の抵抗力から解放された場合にオーバーシュートが発生したとしても、その発生量は少なくなる傾向がある。逆に、後輪側はトランク等の空間部分が多いため、空気ばね12が支えるべき荷重は小さい。そのため、仮にダンパ100の抵抗力から解放された場合に生じるオーバーシュート量が大きくなる傾向がある。したがって、制御マップは、「前輪用」の態様と「後輪用」の態様を準備することが望ましい。
図7は、ダンパ100の特性に応じた車高調整速度とオーバーシュート量の関係を示す図であり、「ハードリア用HR」と「ハードフロント用HF」及び「ソフトリア用SR」と「ソフトフロント用SF」を示している。なお、図7の制御マップは一例として線形の例を示しているが、ダンパ100の設定や空気ばね12の設定によって例えば非線形等になる場合もある。
図8は、図7に示す制御マップを用いたオーバーシュートを考慮した車高調整制御を説明するフローチャートである。ECU56は、所定の制御周期で図8のフローチャートの制御を繰り返し実行する。ECU56は、各車高センサ58からの車高情報(車高値)を取得する(S100)。続いて、ECU56は、取得した車高情報(車高値)を時間微分して車高調整速度を取得する(S102)。そして、ECU56は、現在のダンパ100の設定が「ハードモード」の場合(S104のY)、図7の制御マップを参照してハード用オーバーシュート量を取得する(S106)。この場合、前輪側の空気ばね12には、図7における「ハードフロント用HF」を参照してオーバーシュート量を取得する。また、後輪側の空気ばね12には、「ハードリア用HR」を参照してオーバーシュート量を取得する。また、S104において、現在のダンパ100の設定が「ハードモード」でない場合(S104のN)、図7の制御マップを参照してソフト用オーバーシュート量を取得する(S108)。この場合、前輪側の空気ばね12には、図7における「ソフトフロント用SF」を参照してオーバーシュート量を取得する。また、後輪側の空気ばね12には、「ソフトリア用SR」を参照してオーバーシュート量を取得する。
続いて、ECU56は、車両の状態や挙動に従い要求される目標車高と取得したオーバーシュート量に基づいて車高制御のために制御値を修正して制御停止車高Qを取得する(S110)。ECU56は、取得した制御停止車高Qに基づき車高制御を開始する(S112)。つまり、回路バルブブロック24の各開閉弁の開閉制御や必要に応じてコンプレッサ36の制御を実行する。そして、車高が到達したことを契機に、回路バルブブロック24の閉弁制御をする。またコンプレッサ36が作動している場合は、コンプレッサ36の作動停止制御を行い、一旦このフローを終了し、次の制御周期でS100からの処理を繰り返す。
このように、実際に車高調整中の車高調整速度に基づいて、オーバーシュート量を取得して制御停止車高Qを取得して車高調整を行うことにより、実車高を目標車高に合わせ込むことができる。なお、車高調整中の車高調整速度を用いることで、例えば、車高調整中に乗員数の変化や積み荷の変更が発生した場合でも、その変化は車高調整速度に反映される。つまり、増加すれば車高調整速度が遅くなり、減少すれば車高調整速度が速くなる。したがって、車高調整速度の変化に対応したオーバーシュート量が取得できる。その結果、車両の運行や使用状態に応じて実車高を目標車高に精度よく合わせ込むことができる。
また、従前では、目標車高に対してオーバーシュートが発生してしまった場合(目標車高と実車高の差異が大きい場合)、その差異分を修正する制御が必要になるが、本実施形態の車高調整装置10の場合、実車高を目標車高に合わせ込むことができるので、差異が小さく、差異分を修正する制御が不要または実行するとしても極短時間で完了する。その結果、ECU56や回路バルブブロック24、コンプレッサ36等の追加作動が不要または軽減され、制御のシンプル化、動作音の抑制等に寄与できる。また、差異分を修正する制御が実質的に行われないようにできる。つまり、狙った目標車高に迅速に合わせ込むことが可能で、車高調整時間の短縮化に寄与できる。
なお、上述の例では、車高上昇調整時のオーバーシュート量を考慮した制御を説明したが、車高下降調整の場合も同様に車高調整速度に基づいて、オーバーシュート量を取得して制御停止車高を取得して車高調整を行うことで同様の効果を得ることができる。
また、上述の例では、ダンパ100の存在に起因したオーバーシュートの発生を説明したが、ダンパ100の影響が少ない場合でも、車高調整速度が早くなるとオーバーシュート量が増加する。特に、本実施形態の車高調整装置10は、車高上昇調整のときにECU56が回路バルブブロック24において第1流路系と第2流路系の両方を選択した場合、車高調整速度は大きくなる。したがって、オーバーシュート量も増加する。ただし、上述したような車高調整速度に基づく制御停止車高を用いて制御を行うことにより、実車高と目標車高に差異が生じることが抑制できる。なお、車高下降調整の場合、車高調整速度は、コンプレッサ36の汲み上げ速度に依存する。車高下降調整についても車高調整速度が大きい場合には、車高調整速度に基づく制御停止車高を用いて制御を行うことにより、実車高と目標車高に差異が生じることが抑制できる。
上述した実施形態では、車高調整速度に基づき、オーバーシュート量を取得して最終的な制御停止車高を取得する例を示した。別の実施形態においては、車高情報に基づく車高調整速度から直接制御停止車高を取得するようにしてもよい。この場合、車高調整速度と制御停止車高との関係が規定された制御マップを準備すればよい。
上述した本実施形態の車高調整装置10は、4個の第1開閉弁24a、第2開閉弁24b、第3開閉弁24c、第4開閉弁24dを備え、作動流体の流路を切り替えている。図1〜図4に示すように、第1開閉弁24a、第2開閉弁24b、第3開閉弁24c、第4開閉弁24dはシンプルな構成で比較的安価な2ポートタイプの開閉弁を利用することができる。そして、図2〜図4で説明したように、第1開閉弁24a、第2開閉弁24b、第3開閉弁24c、第4開閉弁24dの開閉状態の組み合わせにより作動流体の流動態様(流動経路や流動方向)の切り替えが実現可能であり、コスト軽減や流路設計の簡略化に寄与できる。
また、上述した実施形態では、車高上昇制御を行う場合、ECU56は、第1開閉弁24aと第4開閉弁24dの開弁により形成する第1流路系と、第2開閉弁24bと第3開閉弁24cの開弁により形成する第2流路系の少なくとも一方を選択する例を説明した。別の実施形態では、車高上昇制御を行う場合、ECU56は、常に第1流路系と第2流路系の両方を利用してもよい。この場合、作動流体の流れ易さが向上し、第1流路系と第2流路系のいずれか一方を選択する場合に比べて車高上昇速度が増加し、迅速な車高調整が可能となる。また、回路バルブブロック24の車高上昇制御時の開閉弁の選択制御が不要になり、制御ロジックが簡略化される。
上述した各実施形態において、車高調整制御(上昇制御または下降制御)を行う場合、各空気ばね12を同時に上昇または下降させる例を説明したが、各車高調整弁14を個別に制御して各空気ばね12の調整を行ってもよい。例えば、後輪バルブユニット18b側を閉弁状態にして前輪バルブユニット18a側を開弁状態にして作動流体の供給を行えば、前輪側の空気ばね12FR,12FLによる前輪側のみの車高調整ができる。同様に前輪バルブユニット18a側を閉弁状態にして、後輪バルブユニット18b側を開弁状態にして作動流体の供給を行えば、後輪側の空気ばね12RR,12RLによる後輪側のみの車高調整ができる。また、車高調整弁14FR,14RRを開弁状態にして、車高調整弁14FL,14RLを閉弁状態にして作動流体の供給を行えば、右車輪側の空気ばね12FR,12RRのみの車高調整ができる。逆に車高調整弁14FL,14RLを開弁状態にして、車高調整弁14FR,14RRを閉弁状態にして作動流体の供給を行えば、左車輪側の空気ばね12FL,12RLのみの車高調整ができる。この場合も回路バルブブロック24の第1流路系と第2流路系の選択により車高調整速度が調整できるので、4輪同時の車高調整時と同様の効果を得ることができる。
また、上述した実施形態では、クローズドタイプの車高調整装置10について説明したが、実質的に同様な装置、例えば、雰囲気(外気)を取り入れて、コンプレッサ36で圧縮して圧力タンク26を介して空気ばね12側に供給する装置にも適用可能であり、同様の効果を得ることができる。また、圧力タンク26を介さず、コンプレッサ36から空気ばね12側に作動流体を供給する装置にも適用可能であり、同様の効果を得ることができる。
本発明において実施形態及び変形例を説明したが、これらは、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。