JP6216509B2 - サイジング剤付着炭素繊維束及びその製造方法並びにこのサイジング剤付着炭素繊維束を用いる圧力容器の製造方法 - Google Patents
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0.8< I/S <2.0 ・・・(1)
の関係を満たすことを特徴とするフィラメントワインド成形用のサイジング剤付着炭素繊維束。
前記炭素繊維束に前記サイジング剤が0.8〜3.0質量%付着してなり、かつカソードルミネッセンス法により測定される前記炭素繊維束の外層部のサイジング剤発光カウント数(S)と、カソードルミネッセンス法により測定される前記炭素繊維束の内層部のサイジング剤発光カウント数(I)とが下式(1)
0.8< I/S <2.0 ・・・(1)
の関係を満たすサイジング剤付着炭素繊維束を得る工程と、
前記サイジング剤付着炭素繊維束に樹脂を含浸させて樹脂含浸炭素繊維束を得る工程と、
前記樹脂含浸炭素繊維束を、中空部を有するライナーの外表面に巻回する工程と、
前記樹脂含浸炭素繊維束に含浸している前記樹脂を硬化する工程と、
を有することを特徴とする圧力容器の製造方法。
本発明のサイジング剤付着炭素繊維束は、その外層部におけるカソードルミネッセンス法により測定されるサイジング剤発光カウント数(S)と、内層部におけるカソードルミネッセンス法(以下、「CL法」ともいう)により測定されるサイジング剤発光カウント数(I)とが下式(1)
0.8< I/S <2.0 ・・・(1)
の関係を満たすことを特徴としている。なお、以下、I/Sをサイジング剤発光強度比ともいう。
本発明のサイジング剤付着炭素繊維束の製造方法は、
複数の炭素繊維フィラメントからなる炭素繊維束をサイジング浴に浸漬する工程と、
該サイジング浴から引き揚げた炭素繊維束に気体を吹き付けることにより、炭素繊維束に付着しているサイジング剤の一部を除去する工程と、
を有して成る。上記工程を経て製造されるサイジング剤付着炭素繊維束は、その外層部におけるカソードルミネッセンス法により測定されるサイジング剤発光カウント数(S)と、内層部におけるカソードルミネッセンス法により測定されるサイジング剤発光カウント数(I)とが下式(1)
0.8< I/S <2.0 ・・・(1)
の関係を満たすことを特徴としている。
本発明で用いられる炭素繊維は特に限定されないが、ピッチ系、レーヨン系、ポリアクリルニトリル(PAN)系等の炭素繊維が使用できる。操作性及び工程通過性、機械強度を向上させるには、PAN系の炭素繊維が好ましい。また、炭素繊維束のフィラメント数は、1000〜50000フィラメントが好ましく、3000〜30000フィラメントが特に好ましい。単繊維フィラメントの直径は、4〜15μmが好ましく、5〜11μmが特に好ましい。ストランド引張強度は、400〜600kgf/mm2が好ましく、450〜550kgf/mm2が特に好ましい。弾性率は、20〜35kgf/mm2が好ましく、24〜30kgf/mm2が特に好ましい。
炭素繊維の製造に用いる前駆体繊維としては、PAN系繊維が好ましく用いられる。具体的には、アクリロニトリルを90質量%以上、好ましくは95質量%以上含有し、その他の単量体を10質量%以下含有する単量体を単独又は共重合した紡糸原液を紡糸口金から紡出して製造する、PAN系の粗原料繊維が好ましい。その他の単量体としては、イタコン酸、フマル酸、(メタ)アクリル酸エステルが例示される。
得られた前駆体繊維は、引き続き加熱空気中、220〜300℃、好ましくは230〜260℃で熱処理して耐炎化繊維を得る。この時の処理は、一般的に、延伸倍率0.85〜1.30の範囲で処理されるが、高強度・高弾性率の炭素繊維を得るためには、延伸倍率0.95〜1.30がより好ましい。
上記耐炎化繊維は、従来の公知の方法によって炭素化される。例えば、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下、好ましくは酸素濃度が0.05体積ppm未満の不活性ガス雰囲気下で昇温し、炭素化炉で徐々に温度を高めると共に、耐炎化繊維の張力を制御して焼成する。焼成温度は、600〜2000℃が好ましく、1000〜1700℃が特に好ましい。不活性ガスは、窒素が廉価であるため好ましい。
本発明において用いられるサイジング剤としては、複合材料に用いるマトリックス樹脂に応じて選択することが好ましい。例えば、エポキシ樹脂、エポキシ変性ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、ポリアミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリビニルピロリドン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂等を単独で又は2種類以上を混合して用いることができる。
サイジング剤が付着した炭素繊維束は、そのサイジング剤の一部が除去される。サイジング剤の除去は、サイジング剤が付着した炭素繊維束を連続的に走行させながら、炭素繊維束に向けて気体を吹き付けることによって行われる。より具体的には、炭素繊維束を平ローラーの円周面に接触させ、かつ、平ローラーの円周面に接触する炭素繊維束に向けて気体を吹き付けることによって行われる。これにより、炭素繊維束の外層側に付着しているサイジング剤の一部が除去される。その結果、炭素繊維束の内層部に十分な量のサイジング剤を含むとともに、外層部のサイジング剤付着量が減じられたサイジング剤付着炭素繊維束が得られる。
0.8< I/S <2.0 ・・・式(1)
の関係を満たしており、下式(2)
0.9< I/S <1.8 ・・・式(2)
の関係を満たすことが好ましく、下式(3)
1.0< I/S <1.6 ・・・式(3)
の関係を満たすことが特に好ましい。
本発明においてCFRP製圧力容器は、本発明のサイジング剤付着炭素繊維束を用いてFW成形法により製造される。即ち、炭素繊維束に樹脂を含浸させながらライナー等に巻き付けた後、この樹脂を硬化させることによって製造される。このFW成形法は、工程中のローラーやガイドとの擦過によって炭素繊維束の損傷を引起し易い。炭素繊維束が損傷すると工程通過性や工程安定性が低下するだけでなく、得られる炭素繊維複合材料の性能も低下する。
CL法によるサイジング剤の発光カウントの測定には、トプコン製 カラー蛍光電子顕微鏡を使用した。サイジング剤付着炭素繊維束をカーボンテープ上に固定して測定サンプルとした。測定条件は、加速電圧5kV、絞り径50μm、電流モードLCT−S、ピクセルサイズ3、分光機スリットオープン、1000倍とし、グレーティング分光法により280±10nmで3分間の積算発光量を測定した。
長さ504mm、外径160mm、肉厚2mmのボンベ形状アルミニウムライナーに、サイジング剤付着炭素繊維束を、以下の樹脂組成から成る樹脂に含浸させながら、バックテンション4kg/束、ワインディング速度0.5m/secの速度でフープ層を1.6cmピッチで1層巻き付けた後、ヘリカル層を1層積層した。その後、120℃の硬化炉で11時間硬化させて、破壊強度評価用圧力容器を得た。
樹脂組成:
ビスフェノールA型エポキシ樹脂 ・・・100質量部
4−メチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸無水物・・・80質量部
ビスフェノールA型エポキシ樹脂としては、油化シェルエポキシ株式会社製のEPON828(商品名)を使用した。4−メチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸無水物としては、LINDAU CHEMICAL INC.製のLindride52(商品名)を使用した。
Algor FEA ソフトウェアを使用し、有限要素解析で圧力容器の理論破壊圧(P0)を計算した。この理論破壊圧(P0)と上記実破壊圧(P1)の値から下式(3)
タンク破壊強度発現率(%) = P1/P0 × 100 ・・・式(3)
によりタンク破壊強度発現率を計算した。
炭素繊維束の臨界張力は、毛管浸透法により求めた。試験液としては、JIS K6768に記載の液体、水(73.0mN/m)、メタノール(22.6mN/m)、ホルムアミド(58.0mN/m)、エチレングリコールモノエチルエーテル(30.0mN/m)を使用した。
サイジング剤付着炭素繊維束のチョップを約5g採取し、質量(W1)を測定した。予め恒量にした坩堝の質量(W2)を量った後、前記チョップを坩堝に入れ、窒素雰囲気下で450±5℃の熱風循環式乾燥機内で30分熱処理を行った。デシケーター内で室温まで冷却し、炭素繊維チョップが入った坩堝の質量(W3)を測定した。下式(4)
サイジング剤付着量(%)=(W1+W2-W3)/(W3-W2)×100 ・・・式(4)
によりサイジング剤付着量を計算した。
サイジング剤付着炭素繊維束の樹脂含浸ストランド強度は、JIS・R・7608に規定された方法により測定した。
サイジング剤付着炭素繊維束を、125gの重りを乗せたウレタンシートの間を50フィート/分の速度で2分間走行させ、ウレタンシートに溜まった炭素繊維量を測定した。
サイジング剤付着炭素繊維束を、200gの張力をかけながら、5本のピンガイドの間を50フィート/分の速度で2分間走行させた後、125gの重りを乗せたウレタンシートの間を通し、ウレタンフォームに溜まった炭素繊維量を測定した。
アクリロニトリル95質量%/アクリル酸メチル4質量%/イタコン酸1質量%よりなる共重合体紡糸原液を、常法により湿式紡糸し、水洗・オイリング・乾燥後、トータル延伸倍率が14倍になるようにスチーム延伸を行い、0.65デニールの繊度を有するフィラメント数24,000の前駆体繊維を得た。得られた前駆体繊維を加熱空気中で延伸しながら、240〜250℃の温度範囲内で耐炎化処理を行い、次いで窒素雰囲気中、300〜1200℃の温度範囲内で炭素化処理を行い、未電解処理炭素繊維束を得た。前記未電解処理炭素繊維束を、10質量%の硫酸アンモニウム水溶液を電解質溶液とし、シャワーを用いて電解質溶液水面を乱流状態としたオーバーフロー浴に含浸した後、総電気量50クーロン/gの電気条件で電解酸化処理を施した。電解酸化処理を施した炭素繊維束の臨界張力は76mN/mであった。
実施例1で得た電解酸化処理後の炭素繊維束を、不飽和ポリエステルを主剤とするサイジング浴(濃度33g/l)にディップ方式により3回浸漬した。3回目の浸漬後においてローラー表面上を走行している炭素繊維束にブロワーを用いて圧縮空気を吹き付けた。乾燥工程を経た後、ワインダーを用いてボビンに巻き取り、密度1.79g/cm3、ストランド強度4600MPa、サイジング剤発光強度比(I/S)が1.0のサイジング剤付着炭素繊維束を得た。得られたサイジング剤付着炭素繊維束のサイジング剤付着量及びサイジング剤発光強度比(I/S)、ファズ、MPFを表1に示した。
実施例1で得た炭素繊維前駆体繊維を用い、得られた前駆体繊維を加熱空気中で延伸しながら、240〜250℃の温度範囲内で耐炎化処理を行い、次いで窒素雰囲気中、300〜1300℃の温度範囲内で炭素化処理を行い、未電解処理炭素繊維を得た。
実施例3で得た電解酸化処理後の炭素繊維束を、不飽和ポリエステルを主剤とするサイジング浴(濃度32g/l)にディップ方式により3回浸漬した。2回目及び3回目の浸漬後においてローラー表面上を走行している炭素繊維束にブロワーを用いて圧縮空気を吹き付けた。乾燥工程を経た後、ワインダーを用いてボビンに巻き取り、密度1.81g/cm3、ストランド強度4600MPa、サイジング剤発光強度比(I/S)が1.2のサイジング剤付着炭素繊維を得た。得られたサイジング剤付着炭素繊維束のサイジング剤付着量及びサイジング剤発光強度比(I/S)、ファズ、MPFを表1に示した。
実施例1で得た電解酸化処理前の炭素繊維束に、電解液を炭素繊維束に含浸させることなく、電解質溶液として8質量%の硫酸アンモニウム水溶液を電解質水溶液として用い、総電気量30クーロン/gの電気条件で電解酸化処理を行った。電解酸化処理を施した炭素繊維束の臨界張力は75mN/mであった。
実施例1で得た電解酸化処理前の炭素繊維束に、8質量%の硫酸アンモニウム水溶液を電解質溶液として用い、実施例1と同様に電解液を炭素繊維束に含浸させた。その後、総電気量15クーロン/gの電気条件で電解酸化処理を施した。電解酸化処理を施した炭素繊維束の臨界張力は66mN/mであった。
実施例1で得た電解酸化処理前の炭素繊維束に、電解液を炭素繊維束に含浸させることなく、電解質溶液として8質量%の硫酸アンモニウム水溶液を電解質溶液として用い、総電気量10クーロン/gの電気条件で電解酸化処理を施した。電解酸化処理を施した炭素繊維束の臨界張力は40mN/mであった。
Claims (6)
- サイジング剤を含むサイジング浴に臨界張力が70〜90mN/mである炭素繊維束を浸漬して前記炭素繊維束に前記サイジング剤を付着させた後、気体を吹き付けて前記炭素繊維束に付着する前記サイジング剤の一部を除去することを特徴とする、臨界張力が70〜90mN/mである炭素繊維束にサイジング剤が0.8〜3.0質量%付着してなり、かつカソードルミネッセンス法により測定される炭素繊維束の外層部のサイジング剤発光カウント数(S)と、カソードルミネッセンス法により測定される炭素繊維束の内層部のサイジング剤発光カウント数(I)とが下式(1)
0.8< I/S <2.0 ・・・(1)
の関係を満たすフィラメントワインド成形用のサイジング剤付着炭素繊維束の製造方法。 - 前記炭素繊維束に前記サイジング剤を付着させる前に、電解槽内の電解液が乱流状態である電解槽に炭素繊維束を通して電解処理することにより、臨界張力が70〜90mN/mの炭素繊維束を得る表面処理工程をさらに有する請求項1に記載のフィラメントワインド成形用のサイジング剤付着炭素繊維束の製造方法。
- 前記サイジング浴に前記炭素繊維束を浸漬する回数が2〜10回である請求項1又は2に記載のフィラメントワインド成形用のサイジング剤付着炭素繊維束の製造方法。
- サイジング剤を含むサイジング浴に臨界張力が70〜90mN/mである炭素繊維束を浸漬して前記炭素繊維束に前記サイジング剤を付着させた後、気体を吹き付けて前記炭素繊維束に付着する前記サイジング剤の一部を除去することにより、
前記炭素繊維束に前記サイジング剤が0.8〜3.0質量%付着してなり、かつカソードルミネッセンス法により測定される前記炭素繊維束の外層部のサイジング剤発光カウント数(S)と、カソードルミネッセンス法により測定される前記炭素繊維束の内層部のサイジング剤発光カウント数(I)とが下式(1)
0.8< I/S <2.0 ・・・(1)
の関係を満たすサイジング剤付着炭素繊維束を得る工程と、
前記サイジング剤付着炭素繊維束に樹脂を含浸させて樹脂含浸炭素繊維束を得る工程と、
前記樹脂含浸炭素繊維束を、中空部を有するライナーの外表面に巻回する工程と、
前記樹脂含浸炭素繊維束に含浸している前記樹脂を硬化する工程と、
を有することを特徴とする圧力容器の製造方法。 - 前記炭素繊維束に前記サイジング剤を付着させる前に、電解槽内の電解液が乱流状態である電解槽に炭素繊維束を通して電解処理することにより、臨界張力が70〜90mN/mの炭素繊維束を得る表面処理工程をさらに有する請求項4に記載の圧力容器の製造方法。
- 前記サイジング浴に前記炭素繊維束を浸漬する回数が2〜10回である請求項4又は5記載の圧力容器の製造方法。
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