以下、本発明を実施するための形態(以下「実施形態」という)について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。なお、各図において、共通する部分には同一の符号を付し重複した説明を省略する。
≪第1実施形態≫
<スクロール圧縮機S>
まず、第1実施形態に係るスクロール圧縮機Sについて、図1から図4を用いて説明する。図1は、第1実施形態に係るスクロール圧縮機Sの縦断面図である。図2は、第1実施形態に係るスクロール圧縮機Sのバイパス弁7付近(図1のA部付近)の部分拡大断面図である。図3は、第1実施形態に係るスクロール圧縮機Sの背圧弁8付近(図1のB部付近)の部分拡大断面図である。図4は、第1実施形態に係るスクロール圧縮機Sの逆止弁10付近(図1のC部付近)の部分拡大断面図である。ちなみに、第1実施形態に係るスクロール圧縮機Sの直径は、例えば、10mmから1000mm程度である。
図1から図4に示すように、第1実施形態に係るスクロール圧縮機Sは、チャンバ1と、固定スクロール2と、旋回スクロール3と、フレーム4と、オルダムリング5(図3参照)と、クランク軸6と、バイパス弁7(図2参照)と、背圧弁8(図3参照)と、モータ9と、逆止弁10(図4参照)と、旋回軸受20と、フレーム軸受30と、副軸受40と、吸込パイプ50(図4参照)と、吐出パイプ55と、シャフトバランス60と、カウンターバランス65と、ハーメチック端子70と、を備えている。
チャンバ1は、円筒状の筒チャンバ1aと、筒チャンバ1aの上部に溶接される上チャンバ1bと、筒チャンバ1aの下部に溶接される底チャンバ1cと、で構成され、その内部に密閉されたチャンバ内空間120を形成している。また、筒チャンバ1aの下部には、副軸受40を支持する下フレーム1dが溶接またはロウ付けされて固定配置されている。また、上チャンバ1bには、固定スクロール2(後述する吸込穴2s(図4参照))に圧入する吸込パイプ50が溶接またはロウ付けされて固定配置されている。また、筒チャンバ1aの側面に吐出パイプ55が溶接またはロウ付けされて固定配置される。また、上チャンバ1bには、チャンバ1の内部に配置されるモータ9に電力を供給するためのハーメチック端子70が溶接またはロウ付けされて固定配置されている。
チャンバ1の内部には、スクロール圧縮機Sを構成する固定スクロール2、旋回スクロール3、フレーム4、クランク軸6、モータ9等が配置される。また、チャンバ1の内部には、組み立ての適当な段階で油を封入するようになっている。これにより、チャンバ1の底部(下フレーム1dと底チャンバ1cの間、または、後述するカウンターバランス65と底チャンバ1cの間)に、貯油部125が形成される。
旋回スクロール3は、旋回鏡板3aの上面側に渦巻状の旋回ラップ3bが立設されている。また、旋回鏡板3aの背面には、クランク軸6の偏心部であるピン部6aが挿入される軸受部3cが形成されており、旋回スクロール3の軸受部3cおよびクランク軸6のピン部6aで、旋回軸受20が形成されている。
固定スクロール2は、固定台板2tの下面に渦巻状の固定溝2cが穿設され、固定台板2tの上部に固定鏡板2aが設けられ、固定台板2tの下部に固定ラップ2bが設けられている。また、図4に示すように、固定スクロール2には、吸込穴2sが設けられている。また、固定スクロール2には、固定溝2cを延長した固定溝連結部2n(後述する図5,6等参照)が設けられている。吸込穴2sは、固定溝連結部2n(後述する図5,6等参照)を介して固定溝2cと接続する。
旋回スクロール3は、固定スクロール2と相対向して旋回自在に配置されており、固定スクロール2の固定溝2cに旋回スクロール3の旋回ラップ3bを噛合わせて(換言すれば、固定ラップ2bおよび旋回ラップ3bを噛合わせて)、両者間に圧縮室100が形成されている。
ここで、固定溝2cは、旋回ラップ3bが噛み合う部分と定義するものとする。これにより、固定溝2cの最外部である固定溝開口部は、旋回ラップ3bの内外線の巻き終わり部と対向する2箇所を繋ぐ部分(後述する図5のF1−F1、図5のF参照)となる。また、固定溝連結部2nと固定溝2cの渦巻きの外側は、吸込穴2sと通じる空間となるため、吸込室90(後述する図5,6参照)を形成する。この結果、圧縮室100は、吸込室90の内部で形成される。
また、図4に示すように、吸込穴2sには、スクロール圧縮機Sの外部から作動流体を固定スクロール2へ導入する吸込パイプ50が圧入されている。また、スクロール圧縮機Sの停止直後の作動流体の逆流を防止するために、逆止弁10が吸込パイプ50の下部に設けられている。なお、スクロール圧縮機Sの外部から吸込室90へ通じる作動流体の流路(吸込流路)の構成、および、逆止弁10の構成については、図4から図7を用いて後述する。
図1に戻り、さらに、固定スクロール2の固定鏡板2aの中央付近には、圧縮室100で圧縮した作動流体を吐出させる吐出穴2dが形成されている。これにより、チャンバ1の内部のチャンバ内空間120は、吐出圧の吐出空間となる。
また、固定スクロール2の吐出穴2dよりも外周側(図1のA部参照)には、図2に示すように、固定鏡板2aを貫通するバイパス穴2eが複数形成され、そのバイパス穴2eの上部には、各々バイパス掘込み2fが形成されている。このバイパス掘込み2fには、バイパス弁7が設けられている。この結果、バイパス穴2eと、バイパス掘込み2fと、バイパス掘込み2fに設けられたバイパス弁7と、によって、バイパス弁流路が構成されている。
バイパス掘込み2fに設けられたバイパス弁7について、図2を用いて更に説明する。バイパス弁7は、バイパス弁板7aと、バイパス弁座7bと、バイパス弁ばね7cと、ばね押さえ7dと、スペーサ7eと、リテーナ7fと、を備えている。
バイパス掘込み2fには、バイパス弁板7aが配置されている。また、バイパス掘込み2fの底部には、バイパス弁板7aと当接するバイパス弁座7bが設けられている。バイパス弁板7aは、バイパス弁ばね7cによって、バイパス弁座7bへ極めて小さな荷重で押し付けられている。バイパス弁ばね7cは、その上端をばね押さえ7dの突起へ挿入する。そして、そのばね押さえ7dの上面を、スペーサ7eを介してリテーナ7fで押える。これにより、ばね押さえ7dを位置決めする。なお、ばね押さえ7d、スペーサ7eおよびリテーナ7fには、上下を貫通する穴が設けられている。以上のようにして、バイパス弁7が構成される。以上説明した構成から明らかな通り、バイパス弁7は、圧縮室100の圧力が吐出圧(チャンバ内空間120(図1参照)の圧力)以上になると開口する。
これより、バイパス弁7を途中にはさむバイパス弁流路は、バイパス穴2eが臨む圧縮室100の圧力が吐出圧(チャンバ内空間120(図1参照)の圧力)を超えないように動作する。これにより、過圧縮条件下での過圧縮抑制を行い、スクロール圧縮機Sの効率向上を目的としている。また、運転状況によって発生する液圧縮を回避し、固定ラップ2bおよび旋回ラップ3bの損傷を防いで、スクロール圧縮機Sの信頼性の向上を図ることも目的としている。すなわち、液圧縮による極端な昇圧が起こらないように圧縮室100内から液体を排出する流路の役割を担っている。
図1に戻り、固定スクロール2は、後述するオルダムリング5やクランク軸6をフレーム4に装着したうえで、固定スクロール2の外辺部である固定台板2tの下面をフレーム4にねじ固定する。このとき、旋回スクロール3の旋回ラップ3bと固定スクロール2の固定ラップ2bとが噛合うように配置され、旋回スクロール3の軸受部3cにクランク軸6のピン部6aが挿入されている。これによって、旋回スクロール3の背面(旋回スクロール3とフレーム4との間)には、中間圧となる背圧室110が形成される。
フレーム4は、その外周側がチャンバ1(筒チャンバ1a)の内壁面に溶接で固定されており、クランク軸6を回転自在に支持するフレーム軸受30を備えている。なお、固定スクロール2の固定台板2tの外周部には、上下方向に延びる溝が形成されており、同様にフレーム4の外周部にも上下方向に延びる溝が形成されており、固定スクロール2がフレーム4にねじ固定されると、チャンバ内空間120の上部空間(固定スクロール2の上側の空間)とモータ9が配置される空間(フレーム4の下側の空間)とを連通するようになっている。
オルダムリング5(図3参照)は、旋回スクロール3の下面側とフレーム4の間に配置されており、旋回スクロール3の下面側に形成された溝とフレーム4に形成された溝に装着されている。オルダムリング5は、旋回スクロール3を自転することなく、クランク軸6のピン部6aの偏心回転を受けて旋回運動をさせる働きをする。
クランク軸6は、上側がフレーム4に設けられたフレーム軸受30に支持され、下側が副軸受40で支持されている。クランク軸6は、フレーム軸受30で支持される位置よりも上側に、偏心部であるピン部6aが形成され、旋回スクロール3の軸受部3cにピン部6aが挿入され、旋回軸受20を構成する。ピン部6aと軸受部3cとの間には、旋回軸受室115が形成される。
また、クランク軸6には、中央を縦に貫通する給油穴6bと、下端に圧入する給油パイプ6xが設けられている。これにより、給油パイプ6xと給油穴6bと旋回軸受室115によって、貯油部125と旋回軸受20を繋ぐ旋回軸受給油路が形成される。また、詳細な説明を省略するが、給油穴6bからフレーム軸受30へ給油することができるようになっている。
副軸受40は、ボール40aと、ボールホルダ40bと、を備えて構成され、クランク軸6がたわんでも片当りが生じない構成となっている。具体的に述べると、クランク軸6は、ボール40aの中央に設ける穴へ回転自在に挿入され、ボール40aを内部に装着したボールホルダ40bは、下フレーム1dへねじ止めまたは溶接により固定される。なお、詳細な説明を省略するが、給油穴6bから副軸受40へ給油することができるようになっている。
また、クランク軸6のフレーム4よりも下部には、回転バランスを取るためのシャフトバランス60およびカウンターバランス65が直接的または後述するロータ9aを介して間接的にクランク軸6へ焼き嵌めまたは圧入されている。
モータ9は、クランク軸6に固定されたロータ9aと、筒チャンバ1aに焼き嵌めまたは圧入または溶接したステータ9bと、を備えて構成され、モータ9に電力を供給するモータ線でハーメチック端子70と接続されている。
さらに、固定スクロール2の外周側(図1のB部参照)には、図3に示すように、固定スクロール2には、背圧室110から圧縮室100へと接続する背圧弁流路が設けられている。この背圧弁流路は、旋回軸受20やフレーム軸受30を潤滑またはシールして背圧室110へ流入した油を、圧縮室100へ流し出す働きをする。また、背圧弁流路の途中にある背圧弁8によって、背圧室110の圧力(背圧)を制御する。この背圧弁流路は、周囲溝2uを介して背圧室110に臨む背圧室穴2gと、固定スクロール2の上面側から開ける背圧掘込み2hと、背圧横穴2iと、圧縮室100に臨む圧縮室穴2jと、背圧掘込み2hと、背圧掘込み2hに設けられた背圧弁8と、によって構成される。
背圧掘込み2hに設けられた背圧弁8について、図3を用いて更に説明する。背圧弁8は、背圧弁板8aと、背圧弁座8bと、背圧弁ばね8cと、背圧弁キャップ8dと、を備えている。
背圧掘込み2hには、背圧弁板8aが配置されている。また、背圧掘込み2hの底部には、背圧弁板8aと当接する背圧弁座8bが設けられている。背圧弁板8aは、背圧弁ばね8cによって、背圧弁座8bへ押し付けられている。背圧弁ばね8cは、その上端を背圧弁キャップ8dの突起へ挿入する。背圧弁キャップ8dは、背圧掘込み2hに圧入され固定されている。
ここで、背圧弁板8aを背圧弁座8bに押し付けるこの押付荷重は、所定の値に設定する。この値を背圧弁座8bにおけるシール領域面積で割った値が、背圧弁8で設定する差圧となる。この差圧の最適値は、過圧縮を抑制するバイパス弁流路(図2参照)を設置すれば、広範囲な運転時でもある一定値となることが力のつり合い計算から導き出されるため、その値に設定する。その設定差圧は、背圧弁ばね8cの圧縮量で決まることになる。本実施形態では、その値は、背圧弁ばね8cの上端を挿入する背圧弁キャップ8dの背圧掘込み2hへの挿入量で決める。以上のようにして、背圧弁8が構成される。
この結果、背圧弁流路は、背圧弁流路が臨む圧縮室100の平均圧力よりも、背圧弁8で設定する差圧だけ高くなるように背圧を制御する。このような背圧弁8の動作により、背圧は、吸込穴2sにおける圧力である吸込圧よりも高く、吐出穴2dの圧力である吐出圧よりも低い、中間圧を保持するようになっている。これにより、背圧室110は、後述する吐出圧となっている旋回軸受室115とともに、旋回スクロール3を固定スクロール2へ押付ける手段の一つとなっている。
次に、スクロール圧縮機Sの圧縮動作に伴う作動流体の一般的な流れについて、吸込パイプ50からスクロール圧縮機Sに流入した作動流体が、吐出パイプ55から吐出されるまでの流れに沿って説明する。
図1に示すように、モータ9でクランク軸6を回転させ、旋回スクロール3を旋回運動させる。これにより、固定スクロール2と旋回スクロール3との間に圧縮室100が形成される。これにつれて、スクロール圧縮機Sの外部の作動流体が、吸込パイプ50および吸込穴2sを経て吸込室90に流入し、吸込室90内で形成される圧縮室100へ流入する。このように、スクロール圧縮機Sの運転時における作動流体の流れは、外部(吸込パイプ50)から圧縮室100へ向かう順流となる。
形成された圧縮室100は、旋回スクロール3の旋回運動で、固定スクロール2の中央へ移送しつつ容積が縮小する。これによって、圧縮室100内部の作動流体を圧縮し、吐出穴2dからチャンバ内空間120へ流出する。これにより、チャンバ1の内部全域であるチャンバ内空間120が吐出圧となる。その後、作動流体は、固定スクロール2とフレーム4の外周部の溝により、チャンバ内空間120の上部空間(固定スクロール2の上側の空間)からモータ9が配置される空間(フレーム4の下側の空間)へ流入し、吐出パイプ55から外部へ吐出される。
なお、過圧縮条件では、圧縮室100の内部の圧力が吐出圧よりも高くなろうとする。この場合、前述のように、図2に示すバイパス弁7が開いて、圧縮室100内の作動流体がバイパス弁流路を通り、チャンバ内空間120へ流出する。これによって、過圧縮を回避または低減することができる。このような構成により、過圧縮を抑制でき、スクロール圧縮機Sの性能が向上するという効果がある。
<吸込流路および逆止弁の構成>
次に、スクロール圧縮機Sの外部から吸込室90(圧縮室100)へ通じる作動流体の流路(吸込流路)とその吸込流路の内部に設けられ吸込流路の開閉を行う逆止弁10の構成について、図4から図7を用いて更に説明する。図5は、第1実施形態に係るスクロール圧縮機について、固定スクロール2の下面直下断面D1−D1(図4参照)からみた横断面図である。図6は、第1実施形態に係るスクロール圧縮機について、固定溝中心と吸込穴中心を通る断面E1−E1(図5参照)からみた縦断面図である。図7は、第1実施形態に係るスクロール圧縮機について、固定溝開口部F1−F1(図5参照)の法線方向から吸込流路側を見た矢視図(図7において一点鎖線で囲んで示す図)と、吸込流路付近の縦断面図である。なお、図4から図7は、逆止弁10が開弁(全開)した状態を図示している。
図6に示すように、吸込流路は、スクロール圧縮機Sの外部と吸込室90を接続する作動流体の流路であり、吸込管路(50)と、吸込口空間(2s,2w)と、から構成される。吸込管路は、吸込パイプ50から構成される。吸込口空間は、吸込穴2sと、切込み部2wと、から構成される。
また、吸込口空間(吸込穴2s、切込み部2w)は、後述する逆止弁10のピストン弁体10aで仕切られている。以下の説明において、ピストン弁体10aよりも吸込端弁座10b側(図4および図6では紙面の上側)の吸込口空間を外側吸込口空間と称し、ピストン弁体10aよりもテラス弁座10c側(図4および図6では紙面の下側)の吸込口空間を内側吸込口空間と称するものとする。
図4に示すように、吸込穴2sは、固定スクロール2の上面側から設けられ、固定台板2tを貫通せずに途中で止めた有底の円形(図5参照)の穴である。また、吸込穴2sの底部(未貫通部)には、吸込穴2sよりも小径の吸込掘り込み2s1が、吸込穴2sと同心位置に設けられている。なお、吸込掘り込み2s1も固定台板2tを貫通せずに途中で止めた有底の掘り込みである。ちなみに、吸込穴2sの底部(未貫通部)で吸込掘り込み2s1が設けられていない外周側が後述するテラス弁座10cとなる。
図5および図6に示すように、固定溝連結部2nは、固定溝2cを延長して吸込穴2sと接続するように設けられている。即ち、固定溝連結部2nは、固定溝2cと同様に、固定台板2t(固定スクロール2)の下面に穿設され、吸込穴2sと通じるように設けられている。吸込穴2sと通じるように固定溝連結部2nを形成することにより、吸込穴2s(吸込掘り込み2s1)の底部(未貫通部)うちの一部が削除される。この削除された部分を切込み部2wと称するものとする。
また、図6に示すように、固定溝連結部2nは、固定溝2cと同一の深さの部分の他に、吸込穴2sとの開口部を垂直方向に増大させる固定溝掘り込み部2n1が設けられている。これにより、吸込口空間(吸込穴2s、切込み部2w)と、吸込室90(固定溝連結部2n、固定溝掘り込み部2n1)と、を接続する吸込室開口部を拡大できるため、吸込流路抵抗を低減できるという効果がある。
なお、吸込室開口部とは、吸込口空間(吸込穴2s、切込み部2w)と、吸込室90(固定溝連結部2n、固定溝掘り込み部2n1)と、を接続する部分であるが、厳密に定義するならば、ピストン弁体10aの側面である円筒面と対向する吸込穴2sの内周面を軸方向に延長した面のうちで吸込室90と接する部分であり、図5において吸込穴2sの円弧に沿って点G1−G1を結ぶ曲線(実線)と、図6において固定溝掘り込み部2n1の高さ(深さ)と、によって規定される面である。
次に、吸込口空間(吸込穴2s、切込み部2w)を構成する吸込穴2sに設けられ、吸込流路の開閉を行う逆止弁10について説明する。逆止弁10は、ピストン弁体10aと、吸込端弁座10bと、テラス弁座10cと、を備えて構成されている。
図4および図5に示すように、ピストン弁体10aは、横断面が円形の柱状弁体であり、吸込穴2sに挿入される。ここで、ピストン弁体10aの外周面と吸込穴2sの内周面の間には、適度な隙間(例えば、10μm〜100μm)が設けられている。これによって、ピストン弁体10aは、吸込穴2sの軸方向(図4において紙面の上下方向)を滑らかに移動することが可能となる。
図4および図6に示すように、ピストン弁体10aを吸込穴2sに挿入した後、吸込パイプ50が吸込穴2sの途中まで圧入される。これにより、ピストン弁体10aの移動範囲は、吸込パイプ50の圧入側端面である吸込端弁座10bと、吸込穴2sの底部(未貫通部)のうち切込み部2wとならずにテラス状に残ったテラス弁座10cと、によって規定される。なお、図4において、ピストン弁体10aがテラス弁座10cにより移動範囲が規定された状態を実線で示し、ピストン弁体10aが吸込端弁座10bにより移動範囲が規定された状態を破線で示している。
ピストン弁体10aが吸込端弁座10bと当接した場合、吸込流路は閉じる。これより、吸込端弁座10bは閉弁座の役割を担う。逆に、ピストン弁体10aが吸込端弁座10bから離れた場合は、吸込流路が開く。そして、ピストン弁体10aがテラス弁座10cと当接した場合、吸込流路が最も大きく開口し、吸込流路抵抗が最も小さくなる。これより、テラス弁座10cは、吸込流路が最大開口した時にピストン弁体10aが当接する開弁座の役割を担う。
ここで、ピストン弁体10aの厚さ方向(図4の紙面においては上下方向)の長さが短いと、ピストン弁体10aの外周面と吸込穴2sの内周面の隙間によりピストン弁体10aが吸込穴2s内で可能となる傾斜角が大きくなる。傾斜角が大きくなると、ピストン弁体10aが吸込穴2s内を滑らかに移動することができなくなるおそれがある。このため、ピストン弁体10aの厚さ方向の長さをある程度長くすることが求められる。一方で、厚さ方向の長さを長くすると、ピストン弁体10aの質量が大きくなり、慣性が増大して、弁動作が機敏に行われなくなる。このため、ピストン弁体10aは、テラス弁座10c側の面に、弁体掘り込み10a1が設けられている。これにより、ピストン弁体10aの厚さ方向の長さを確保するとともに、ピストン弁体10aの質量の増加を抑制することができるので、逆止弁10の開閉動作を滑らかにできるという効果がある。
また、後述するように、ピストン弁体10aのテラス弁座10c側の面に作動流体が噴き込む場合、弁体掘り込み10a1に作動流体が入り込むことによって、ピストン弁体10aを押し上げる作用が向上する。
<逆止弁の動作>
(圧縮機運転開始時における逆止弁の動作)
次に、第1実施形態に係るスクロール圧縮機Sが備える逆止弁10の動作について説明する。まず、スクロール圧縮機Sの運転時の逆止弁10の動作を、起動前から時間の経過に沿って説明する。
図4に示すように、ピストン弁体10aが挿入されている吸込穴2sは垂直であるため、スクロール圧縮機Sの起動前のピストン弁体10aは、重力により可動範囲の下限である開弁座のテラス弁座10cに付勢されている。即ち、スクロール圧縮機Sの起動前は、吸込流路抵抗が最小の状態となっている。これより、スクロール圧縮機Sの起動によって、スクロール圧縮機Sの外部から圧縮室100(吸込室90)へ向かう作動流体の順流が生じたとき、吸込流路通過後の吸込圧の低下が小さく、スクロール圧縮機Sの起動が容易に行われるという効果がある。
なお、この効果は、吸込穴2sが垂直に形成され、ピストン弁体10aの開弁動作の方向と向きを持つ開弁動作ベクトルが垂直方向下向きのベクトルであることで生じている。このため、開弁動作ベクトルの方向が、垂直方向下向きではなく、水平成分を有する傾斜方向であっても垂直成分が下向きであれば、ピストン弁体10aは重力により吸込穴2sを滑り落ちて底側にある開弁座に付勢され、同様の効果が生じる。
さらに、スクロール圧縮機Sの起動後(運転時)において、作動流体の順流は、吸込パイプ50から吸込穴2sに入り、ピストン弁体10aに衝突した後、直角に向きを変えるため、ピストン弁体10aは、作動流体の順流からテラス弁座10cへ付勢する力を受ける。これより、ピストン弁体10aは、スクロール圧縮機Sの運転時も、起動前から継続して、開弁座であるテラス弁座10cへ安定して付勢される。即ち、スクロール圧縮機Sの運転時も、吸込流路抵抗が最小の状態となっている。
これにより、圧縮室100(吸込室90)へ入る作動流体の圧力低下が抑制され、圧縮に要する仕事量を抑制することができる。さらに、作動流体の順流の方向を変えるピストン弁体10aがテラス弁座10cへ付勢されて静止しているため、ピストン弁体10aが上下方向(可動方向)に振動することを防止し、吸込流路抵抗が変動することを防止することができるので、吸込流路を流れる作動流体の流れを定常流とすることができる。このため、流路抵抗が一段と低減し、圧縮室100(吸込室90)へ入る作動流体の圧力低下が一段と抑制される。以上より、スクロール圧縮機Sの圧縮に要する仕事を低減でき、圧縮機効率が向上するという効果がある。
(圧縮機運転停止直後における逆止弁の動作)
次に、スクロール圧縮機Sの運転停止直後の逆止弁10の動作を説明する。スクロール圧縮機Sが運転を停止した直後には、圧縮室100内に高圧の作動流体が残留している。圧縮室100内に残留する作動流体は、運転時と同様に、旋回ラップ3bに対して旋回運動と逆向きに回すトルクをかける。運転時にはモータ9がその作動流体によるトルクに対抗するトルクを与えていたため、逆向きの回転は発生しない。しかし、スクロール圧縮機Sの運転を停止すると、モータ9による対抗トルクが働かないため、旋回スクロール3は逆向きに旋回運動を開始する。
この結果、圧縮室100内に残留する作動流体は、体積が増大し、それに伴って圧力が低下する。最終的には、固定溝2c(旋回ラップ3bが噛み合う部分)の最外部である固定溝開口部(図5のF1−F1、図6のF参照)から吸込室90に噴き出される。このような作動流体の噴き出しは、チャンバ1内の高圧作動流体が吐出穴2dから圧縮室100へ順次供給されるため、スクロール圧縮機Sの運転停止時に圧縮室100に残留していた作動流体が吸込室90に噴き出した後も継続する。この結果、旋回スクロール3にトルクが継続してかかるため、旋回スクロール3の逆旋回速度が瞬時に加速し、作動流体の逆流の噴出速度が瞬時に大きくなる。
このように発生するスクロール圧縮機Sの運転停止直後の作動流体の逆流は、固定溝開口部(図5のF1−F1、図6のF参照)を全断面として、図5において矢印で示す開口方向(固定溝開口部F1−F1の垂直方向である噴き出し方向)に高速で噴出する。そして、固定溝開口部から噴き出された作動流体は、吸込室90を介して、吸込口空間(吸込穴2s、切込み部2w)に逆流する。
このような吸込口空間(吸込穴2s、切込み部2w)側へ噴き付ける作動流体の逆流のうちで、内側吸込口空間へ噴き込む作動流体の逆流は、内側吸込口空間へ流入すると流れが止まるため、動圧を発生させる。そして、ピストン弁体10aの開弁座(テラス弁座10c)側の圧力をその動圧分だけ上昇させる。この結果、その動圧とピストン弁体10aの横断面積の積で求められる力が、ピストン弁体10aを持ち上げて閉弁動作を起こす力となる。
一方で、外側吸込口空間へ噴き込む作動流体の逆流は、内側吸込口空間の場合と同様に、動圧を発生させる。そして、ピストン弁体10aの閉弁座(吸込端弁座10b)側の圧力をその動圧分だけ上昇させる。この結果、その動圧とピストン弁体10aの横断面積の積で求められる力が、ピストン弁体10aを押し下げて開弁動作を起こす力となる。
第1実施形態に係るスクロール圧縮機Sでは、作動流体の逆流によって外側吸込口空間に発生する動圧よりも、内側吸込口空間に発生する動圧が高くなるように、内側吸込口空間と外側吸込口空間を配置する。これにより、作動流体の逆流時に、速やかに逆止弁10の閉弁動作が発生し、ピストン弁体10aは閉弁座である吸込端弁座10bへ速やかに付勢される。この結果、逆止弁10は閉弁状態となり、吸込流路は閉口する。よって、作動流体は、逆止弁10が閉弁動作中のわずかな時間に流れ出る分を除き、作動流体の逆流を阻止することができる。これにより、スクロール圧縮機Sの運転停止直後の作動流体の逆流を抑制できるため、逆流によって生じるおそれのある異音発生や、ラップ損傷や、モータ駆動回路の故障を回避することができるという効果がある。
より好適には、動圧によって発生する力だけでなく、ピストン弁体10aにかかる重力も考慮して、内側吸込口空間と外側吸込口空間を配置する。しかし、動圧によって発生する力に比べてピストン弁体10aにかかる重力は非常に小さいため、ピストン弁体10aにかかる重力を無視して内側吸込口空間と外側吸込口空間を配置してもよい。
ちなみに、例えば、特許文献1のように、従来のスクロール圧縮機の逆止弁は、閉弁動作のために、ピストン弁体(柱状弁体)にばね等による復元力を作用させていた。これに対し、第1実施形態に係るスクロール圧縮機Sの逆止弁10は、復元力を発生させる手段が不要となり、部品コストが低減し、組立時の工数も削減できるという効果もある。
ところで、作動流体の逆流によって発生する外側吸込口空間と内側吸込口空間の動圧の大小関係は、各空間に噴き込む作動流体の大小関係によって概略決定する。
そこで、第1実施形態に係るスクロール圧縮機Sは、内側吸込口空間へダイレクトに噴き込む作動流体が、逆流によって吸込流路側へ噴き付ける作動流体の5割以上となるようになっている。換言すれば、外側吸込口空間へ噴き込む作動流体は、吸込流路側へ噴き付ける作動流体の5割未満となる。これにより、確実に内側吸込口空間で発生する動圧の方が外側吸込口空間で発生する動圧よりも大きくなる。よって、逆止弁10は、確実に閉弁動作を行うことができ、確実に作動流体の逆流を抑制することができる。これにより、スクロール圧縮機Sの運転停止直後の作動流体の逆流を確実に抑制できるため、逆流によって生じるおそれのある異音発生や、ラップ損傷や、モータ駆動回路の故障を確実に回避することができるという効果がある。
第1実施形態に係るスクロール圧縮機Sでは、内側吸込口空間へダイレクトに噴き込む作動流体が、逆流によって吸込流路側へ噴き付ける作動流体の5割以上となるようにするため、以下のような具体的な手法をとった。
即ち、図5に示すように、ピストン弁体10aが開弁座であるテラス弁座10cへ付勢された開弁状態時において、固定溝2cの最外部である固定溝開口部(図5のF1−F1、図6のF参照)の開口方向である噴き出し方向(図5の矢印参照)に垂直な投影面PPを設定する。
噴き出し方向(図5の矢印参照)から固定溝開口部(図5のF1−F1、図6のF参照)を投影面PPに投影し、噴付け領域とする。即ち、噴付け領域は、図5,7の幅L1および図7の高さH1で示される領域であり、図7において右上がりのハッチングで示す。
また、噴き出し方向(図5の矢印参照)からピストン弁体10aの開弁座側の吸込口空間である内側吸込口空間(図5のG1−G1、図6のG参照)を投影面PPに投影し、内側吸込口領域とする。即ち、内側吸込口領域は、図5,7の幅L2および図7の高さH2で示される領域であり、図7において右下がりのハッチングで示す。
そして、噴付け領域と内側吸込口領域の積領域を噴込み領域とする。即ち、噴込み領域は、図5,7の幅L3および図7の高さH2で示される領域であり、図7においてクロスハッチングで示す。
そして、噴込み領域の面積(図7においてL3×H2)が、噴付け領域の面積(図7においてL1×H1)の5割以上となるように、吸込口空間(吸込穴2s、切込み部2w)と逆止弁10を配した。
前述のように、スクロール圧縮機Sの運転停止直後の作動流体の逆流は、固定溝開口部(図5のF1−F1、図6のF参照)を全断面として、噴き出し方向(図5の矢印参照)に噴出する。したがって、噴込み領域の面積が噴付け領域の面積の5割以上とすることにより、固定溝開口部から噴き出し方向に噴き出した作動流体の5割以上が内側吸込口空間へダイレクトに噴き込むこととなる。したがって、内側吸込口空間へダイレクトに噴き込む作動流体が、逆流によって吸込流路側へ噴き付ける作動流体の5割以上となるようにすることができる。
また、第1実施形態に係るスクロール圧縮機Sは、固定溝2cの溝深さ(図7のH1)が、固定溝2cの溝幅(図5のL1)以下となるように(H1≦L1)、低いラップとしている。このようにスクロール圧縮機Sを構成すると、押除け容積が小さくなる。一方、開弁座であるテラス弁座10cの固定台板2tの下面からの高さ(図7のH2)は、吸込流路の流路抵抗低減の観点からできるだけ下げることが望ましいが、下げすぎると固定スクロール2の固定台板2tの下面が変形するおそれがある。固定台板2tの下面は、図3に示すように、固定スクロール2がフレーム4へ取り付けられる面である。また、旋回鏡板3aが付勢する面でもある。さらに、固定ラップ2bの歯先面ともなっており、最重要な面の一つである。よって、固定台板2tの下面からのテラス弁座10cの高さ(H2)は、流路抵抗低減の観点からできるだけ低く、かつ、変形防止の観点から所定以上の高さが要求されることにより、望ましい高さ(H2)となる(図4、図6、図7参照)。このため、固定溝2cの溝深さ(H1)を固定溝2cの溝幅(L1)以下となるようにすることにより、内部吸込口空間へ多くの作動流体の逆流を噴き込ませることが容易となり、逆止弁10の閉弁動作を一層確実にすることができる効果がある。
また、作動流体を二酸化炭素とすると、必要な押除け容積は小さくてすむため、低いラップ(H1)の設計が容易になる。これより、内部吸込口空間へ多くの作動流体の逆流を噴き込ませることが一層容易となり、逆止弁10の閉弁動作をより一層確実にすることができる効果がある。
≪第2実施形態≫
次に、第2実施形態に係るスクロール圧縮機Sについて、図8から図10を用いて説明する。図8は、第2実施形態に係るスクロール圧縮機Sの逆止弁10付近(図1のC部付近)の部分拡大断面図である。図9は、第2実施形態に係るスクロール圧縮機Sについて、固定スクロール2の下面直下断面D2−D2(図8参照)からみた横断面図である。図10は、第2実施形態に係るスクロール圧縮機Sについて、固定溝開口部F2−F2(図9参照)の法線方向から吸込流路側を見た矢視図(図10において一点鎖線で囲んで示す図)と、吸込流路付近の縦断面図である。なお、図8から図10は、逆止弁10が開弁(全開)した状態を図示している。
図8に示すように、第2実施形態に係るスクロール圧縮機Sは、吸込パイプ50を固定スクロール2の側面へ圧入し、筒チャンバ1a側からスクロール圧縮機S外へ取り出す構成となっている。これに伴って、吸込口空間を構成する吸込穴2sや吸込掘り込み2s1の中心軸は、水平方向となる。よって、吸込穴2sに挿入されるピストン弁体10aは、水平方向に移動して開閉弁動作を行う。なお、図8において、ピストン弁体10aがテラス弁座10cにより移動範囲が規定された状態を実線で示し、ピストン弁体10aが吸込端弁座10bにより移動範囲が規定された状態を破線で示している。
図9に示すように、固定溝2cと吸込流路を接続する固定溝連結部2nは、固定溝2cの延長溝よりも水平方向外周側に拡大した固定溝横拡大部2n2を設ける。これにより、吸込口空間(吸込穴2s、切込み部2w)と、吸込室90(固定溝連結部2n、固定溝横拡大部2n2)と、を接続する吸込室開口部を拡大できるため、吸込流路抵抗が低減し、圧縮機効率が向上するという効果がある。その他の構成は、第1実施形態と同様であり、説明を省略する。
<逆止弁の動作>
(圧縮機運転開始時における逆止弁の動作)
次に、第2実施形態に係るスクロール圧縮機Sが備える逆止弁10の動作について説明する。
スクロール圧縮機Sの運転時において、作動流体の順流によって、ピストン弁体10aが押されて開弁動作する。ピストン弁体10aは、最終的に開弁座であるテラス弁座10cに当接するまで移動し(図8において実線で示すピストン弁体10aの位置)、そこに安定して付勢される。これにより、第1実施形態に係るスクロール圧縮機Sの場合と同様に、スクロール圧縮機Sの運転時における吸込流路抵抗が低減し、圧縮機効率が向上するという効果がある。
(圧縮機運転停止直後における逆止弁の動作)
第2実施形態に係るスクロール圧縮機Sでは、内側吸込口空間へダイレクトに噴き込む作動流体が、逆流によって吸込流路側へ噴き付ける作動流体の5割以上となるようにするため、以下のような具体的な手法をとった。
即ち、図9に示すように、ピストン弁体10aが開弁座であるテラス弁座10cへ付勢された開弁状態時において、固定溝2cの最外部である固定溝開口部(図9のF2−F2参照)の開口方向である噴き出し方向(図9の矢印参照)に垂直な投影面PPを設定する。
噴き出し方向(図9の矢印参照)から固定溝開口部(図9のF1−F1)を投影面PPに投影し、噴付け領域とする。即ち、噴付け領域は、図9,10の幅L4および図10の高さH4で示される領域であり、図10において右上がりのハッチングで示す。
また、噴き出し方向(図9の矢印参照)からピストン弁体10aの開弁座側の吸込口空間である内側吸込口空間(図9のG2−G2参照)を投影面PPに投影し、内側吸込口領域とする。即ち、内側吸込口領域は、図9,10の幅L5および図10の高さH5で示される領域であり、図10において右下がりのハッチングで示す。
そして、噴付け領域と内側吸込口領域の積領域を噴込み領域とする。即ち、噴込み領域は、図9,10の幅L3および図10の高さH4,H5で示される領域であり、図10においてクロスハッチングで示す。
そして、噴込み領域の面積(図10においてL6×H4(H5))が、噴付け領域の面積(図10においてL4×H4)の5割以上となるように、吸込口空間(吸込穴2s、切込み部2w)と逆止弁10を配した。
このような構成により、第1実施形態と同様に、スクロール圧縮機Sが停止した直後に生じる作動流体の逆流時では、内部吸込口空間へ外部吸込口空間よりも確実に多くの作動流体を噴き込ませることができる。これにより、確実に内側吸込口空間で発生する動圧の方が外側吸込口空間で発生する動圧よりも大きくなる。よって、逆止弁10は、確実に閉弁動作を行うことができ、確実に作動流体の逆流を抑制することができる。これにより、スクロール圧縮機Sの運転停止直後の作動流体の逆流を確実に抑制できるため、逆流によって生じるおそれのある異音発生や、ラップ損傷や、モータ駆動回路の故障を確実に回避することができるという効果がある。
また、第2実施形態に係るスクロール圧縮機Sでは、ピストン弁体10aの移動方向(閉弁動作ベクトル、閉弁動作ベクトル)が水平となるため、ピストン弁体10aにかかる重力が閉弁動作を阻害することが無く、閉弁動作をより確実に実現できるという特有の効果がある。
さらに、ピストン弁体10aは、特許文献1のようにバネ等で付勢されているものではないため、弱い作動流体の順流であっても、ピストン弁体10aを開弁座であるテラス弁座10cに当接するまで移動させることが可能となり、開弁動作をより一層確実に実現するとともに、そこに安定して付勢させることができるため、開弁状態を安定して継続できる。したがって、第2実施形態に係るスクロール圧縮機Sは、特許文献1に記載の従来のスクロール圧縮機と比較して、運転時における吸込流路抵抗が一層確実に低減し、圧縮機効率が一層確実に向上するという効果がある。
≪第3実施形態≫
次に、第3実施形態に係るスクロール圧縮機Sについて、図11を用いて説明する。図11は、第3実施形態に係るスクロール圧縮機が備える逆止弁10のピストン弁体10aの斜視図である。第3実施形態に係るスクロール圧縮機Sは、ピストン弁体10aの形状が第1〜2実施形態と異なっている。その他の構成は、第1〜2実施形態と同様であり、説明を省略する。
第3実施形態のピストン弁体10aは、テラス弁座10c側の面に弁体掘り込み10a1と、テラス弁座10c側の側面に弁体掘り込み10a1と連通する切り込み10a2と、が設けられている。このような切り込み10a2を設けることにより、内部吸込口領域の面積を増大させることができ、内部吸込口空間側に発生する動圧を増大させ、作動流体の逆流時の閉弁動作をより確実にすることができる。
また、切り込み10a2の深さは、弁体掘り込み10a1の深さと等しくしてもよく、図11に示すように、切り込み10a2の深さは、弁体掘り込み10a1の深さよりも浅くしてもよい。これにより、ピストン弁体10aのテラス弁座10c側の面に作動流体が噴き込む場合、弁体掘り込み10a1に作動流体が入り込むことによって、ピストン弁体10aを押し上げる作用が向上する。
≪第4実施形態≫
次に、第4実施形態に係るスクロール圧縮機Sについて、図12および図13を用いて説明する。図12は、第4実施形態に係るスクロール圧縮機Sについて、固定溝2cの中心と吸込穴2sの中心を通る断面E1−E1(図5参照)からみた縦断面図である。図13は、第4実施形態に係るスクロール圧縮機Sが備える逆止弁10の弁体引っ張りばね10dの上面図である。第4実施形態に係るスクロール圧縮機Sは、逆止弁10の形状が異なっている。その他の構成は、第1実施形態または第2実施形態と同様であり、説明を省略する。
第4実施形態の逆止弁10は、ピストン弁体10aと、吸込端弁座10bと、テラス弁座10cと、引っ張り逆止弁ばね10dと、を備えて構成されている。引っ張り逆止弁ばね10dは、ピストン弁体10aをテラス弁座10cへと付勢する。
引っ張り逆止弁ばね10dは、引っ張り逆止弁ばね10dの自然長よりも伸ばした状態で吸込掘り込み2s1とピストン弁体10aの弁体掘り込み10a1の各底面間に設けるため、各底面と引っ張り逆止弁ばね10dの両端を固定する。その固定方法は、引っ張り逆止弁ばね10dの両端部にばね軸中心を通るばね端直線部10d1を設け(図13参照)、そのばね端直線部10d1を各底面へ固定する部材を設けるというものである。弁体掘り込み10a1側は、ばね端直線部10d1を予め通した固定ピン10d2をピストン弁体10aに圧入する。他方の吸込掘り込み2s1側は、くの字型のアングル10d3でばね端直線部10d1をまず固定し、そのアングル10d3を切込み部2wの側面にアングル固定ピン10d4で固定する。
この結果、最も開口する閉弁状態(吸込流路抵抗が最小となる状態)であるピストン弁体10aがテラス弁座10cへ着座している時もピストン弁体10aがテラス弁座10cへ付勢される。よって、順流の乱れなどで、一時的に、内部吸込口空間側の圧力が高くなり、ピストン弁体10aを上げる力が増大しても、ピストン弁体10aにかかるトータルの力の向きを安定して下向きにすることが可能となる。よって、ピストン弁体10aはテラス弁座10cへ安定して着座するため、吸込流路抵抗の最小化を安定して実現できる。よって、吸込圧の低下を安定して最小にできるため、圧縮機効率を安定して高くできるという効果がある。
≪変形例≫
なお、本実施形態(第1〜4実施形態)に係るスクロール圧縮機Sは、上記実施形態の構成に限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の変更が可能である。
本実施形態に係るスクロール圧縮機Sは、圧縮機、凝縮器、膨張弁、蒸発器を備える冷凍サイクル(ヒートポンプサイクル)を備える冷凍サイクル装置の圧縮機として用いることができる。なお、冷凍サイクル装置としては、ヒートポンプ給湯機、冷凍機、空気調和機などがある。本実施形態に係るスクロール圧縮機Sを用いることにより、冷凍サイクル装置の効率が向上する。
ところで、本実施形態に係るスクロール圧縮機Sは、噴付け領域に対する噴込み領域の面積割合を5割以上にすることで、作動流体の逆流時に、逆止弁が確実に閉弁動作をして、吸込流路を閉口させるものとして説明したが、5割以上は吸込流路閉口の十分条件であって必要条件ではない。
例えば、内部吸込口空間に噴き込まなかった作動流体の流れの多くが外部吸込口空間に流れず、別の空間へ流れ込むような構成の圧縮機の場合は、上記割合(噴付け領域に対する噴込み領域の面積割合)が5割より低い場合(例えば3割程度)でも、閉弁動作をさせることができる。また、内部吸込口空間に噴き込まなかった作動流体の流れの多くが外部吸込口空間に流れ込んでも、外部吸込口空間の側で動圧を発生せず(もしくは、発生しても小さく)吸込管路へ滑らかに作動流体が逆流した場合は、上記割合(噴付け領域に対する噴込み領域の面積割合)が5割より低い場合でも、閉弁動作をさせることができる。
つまり、内部吸込口空間で発生する動圧が、外部吸込口空間で発生する動圧よりも大きくなれば、閉弁動作を実現し、作動流体の逆流を抑制することが可能である。