JP6205854B2 - 真空浸炭処理方法 - Google Patents
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Description
従来にあってはこの浸炭処理のために長時間を要しており、その間に消費するエネルギーも多大であり、生産性向上とエネルギー節減とによるコスト低減とが求められていた。
これにより生産性を高め得るとともにエネルギーを節減して生産コストを低減することができる。
従って高温浸炭処理に際しては結晶粒の粗大化を抑制することが必要である。
結晶粒の粗大化を抑制する技術として、浸炭処理前の製造工程でAlNやNb(C,N)といった窒化物粒子をピン止め粒子として析出分散させ、粒界をピン止めする技術が知られている。
例えば下記特許文献1,特許文献2等にこの種の技術が開示されている。
しかし予め溶解段階でN濃度を高くすることは困難である。
鋼中に析出するAlNやNb(C,N)等の窒化物粒子の析出量は、窒化物粒子の構成元素の溶解度積によって定まるから、N濃度を高くすることが困難な状況でも、AlやNb等を多く添加することで窒化物粒子を多く析出させることは可能である。
またたとえ浸炭前製造工程で鋼にAlN等を十分量析出させたとしても、真空下での高温浸炭処理では処理中に脱窒を起す問題があり、而して脱窒を起すと窒化物粒子の固溶が進んで減少するために、その部分から結晶粒の粗大化が生じてしまう。
下記特許文献3にこの種の技術が開示されている。
窒化性ガスの導入量が不十分であれば、真空浸炭処理中における脱窒や脱窒に起因した結晶粒粗大化を十分に抑制することができず、逆に窒化性ガスの導入量が過剰であれば、次の問題が生ずる。
またアンモニアガスは値段の高いガスであるとともに臭気も強く、危険物を扱う作業者も必要となる。
従ってこのようなアンモニアガスを過剰に用いることは望ましくない。
(3.33×10-5×C+7.33×10-5)×T−(3.58×10-2×C+7.37×10-2)・・・式(1)
(但し式(1)中、Cは前記鋼の表層のC濃度(質量%)を表し、Tは処理温度(K)を表す)
尚本発明では、好ましくは上記窒化物粒子の総量Vが式(1)の値以上を維持するように窒化性ガスを導入することで、浸炭処理中の表層の結晶粒を結晶粒度番号4番超に維持するようにする。
結晶粒の粒成長は窒化物粒子即ちピン止め粒子によって抑制される。
その結晶粒の粒成長は、鋼の温度が高くなると生じ易くなる。従ってピン止めの粒子としての窒化物粒子の総量は、温度が高くなるのに連れて多くが必要である。
即ち結晶粒の粒成長抑制のために必要な窒化物粒子の総量は温度の関数となる。
従って結晶粒の粒成長抑制のために必要な窒化物粒子の総量は、鋼中のC濃度が高いほど多くが必要である。
つまり結晶粒の粒成長抑制に必要な窒化物粒子の総量は、温度TとC濃度との関数であることを知得した。
従って、式(1)で表される量を上回る量で鋼中(鋼の表面から深さ0.05mmまでの表層)に窒化物粒子を析出させておけば、結晶粒成長を抑制することができる。
本発明において、鋼の表層のAlの窒化物AlN,Nbの窒化物NbN,Tiの窒化物TiNの1種若しくは2種以上から成る析出窒化物粒子の総量Vが式(1)以上となるようにする、とはこのことを意味している。
本発明ではAlとNとの溶解度積を表す式として
log([Al]S×[N]S)=1.03−6770/T・・・式(2)
を用いる。この式(2)はW.C.Leslieの式として知られた式(W.C.Leslie,R.L.Rickett,C.L.Dotson and W.C.Walton:Trans.ASM,46(1954),1470.)である。AlとNとの溶解度積を表す式としては、このW.C.Leslieの式が広く用いられている。
log([Nb]S×[N]S)=2.89−8500/T・・・式(3)
を用いる(成田貴一,小山伸二:鉄と鋼,52(1966),788)。
更にTiとNとの溶解度積を表す式として
log([Ti]S×[N]S)=5.03−17800/T・・・式(4)
を用いる(有川正康,成田貴一:鉄と鋼,38(1952),739)。
[Al]T,[Nb]T,[Ti]T,[N]T:各元素の全量(介在物,晶出物は除く)
[Al]S,[Nb]S,[Ti]S,[N]S:各元素の固溶量
[Al]P,[Nb]P,[Ti]P,:各元素の析出量
[AlN],[NbN],[TiN]:各窒化物析出量
MAl,MNb,MTi,MN:各元素の原子量
logKAlN=log([Al]S×[N]S),logKNbN=log([Nb]S×[N]S),logKTiN=log([Ti]S×[N]S)=b−a/T
としたとき、
各窒化物中の元素量の関係から
(エ) [Al]S+[Al]P=[Al]T
(オ) [Nb]S+[Nb]P=[Nb]T
(カ) [Ti]S+[Ti]P=[Ti]T
(サ) [Al]S×[N]S=KAlN
(シ) [Nb]S×[N]S=KNbN
(ス) [Ti]S×[N]S=KTiN
(エ),(ク),(サ)より
[N]S+MN/MAl×{[Al]T−KAlN/[N]S}+MN/MNb×{[Nb]T−KNbN/[N]S}+MN/MTi×{[Ti]T−KTiN/[N]S}=[N]T
[N]S 2+(MN/MAl×[Al]T+MN/MNb×[Nb]T+MN/MTi×[Ti]T−[N]T)×[N]S−(MN/MAl×KAlN+MN/MNb×KNbN+MN/MTi×KTiN)=0
ここで
X=(MN/MAl×[Al]T+MN/MNb×[Nb]T+MN/MTi×[Ti]T−[N]T)
Y=−(MN/MAl×KAlN+MN/MNb×KNbN+MN/MTi×KTiN)
と置くと、
[N]S 2+X・[N]S+Y=0
また同様にして図13(B),(C)に示す式(6),式(7)が得られる。
そして下記式(8)で示すようにAlN,NbN,TiNの総量Vが鋼中(鋼の表層)の窒化物粒子の総量として求まる。
V=[AlN]+[NbN]+[TiN]・・・式(8)
換言すれば、窒化物粒子を上記の量で析出させるのに必要な量で窒化性ガスを熱処理炉に導入することで結晶粒粗大化を抑制することが可能となる。
また真空浸炭処理中に脱窒を起すことで、そこから粒成長を起してしまう問題も解決することが可能である。
更に高価なアンモニアガス等の使用量を少なくでき、窒化性ガスに要するコストを低減することが可能である。
尚本発明においては、窒化性ガスの導入量を変化させることで鋼中のN濃度がどの様に変動するか、その関係を予め知っておくことで、窒化性ガスの導入量を適正に制御することができる。
C:0.10〜0.40%
Cは部品の芯部強度を確保するために、0.10%以上必要であるが、多すぎると芯部の靭性を劣化させるので、0.40%を上限とする。
Siは脱酸のために0.05%以上を必要とするが、2.00%を超えると鍛造時に割れ等が発生して冷間加工性、温間加工性を非常に劣化するので、上限を2.00%とする。
MnはMnS等の介在物形態制御を図ると共に焼入性を確保するために必要な元素であり、そのためには0.30%以上必要である。しかし、多すぎると冷間加工性や温間加工性、更に機械加工性、特に被削性の劣化をもたらすので、2.00%を上限とする。
Crは強度或いは靭性を向上させる元素であり、0.30%以上含有させる。但し過剰に添加すると加工性の劣化を招くとともにコスト高をもたらすため、上限を3.00%とする。
NはAlやNb或いはTiと結合してピン止め粒子としての窒化物粒子を形成し、真空浸炭処理時に結晶粒成長を抑制するために有用な元素で、予め鋼中に0.005〜0.035%の範囲内で含有させておくことができる。
但し本発明は、鋼に予め添加されているNが少ない中で効果を発揮するものであり、この意味においてNの添加量は0.020%以下であることが好ましい。
Al,Nb,Tiは浸炭処理時に結晶が粒成長するのを抑制するのに有効な元素であり、そのためにAl:0.020〜0.100%,Nb:0.01〜0.20%,Ti:0.005〜0.20%のうちの1種又は2種以上を添加する。
但し多すぎると加工性を劣化させたり、粗大な窒化物生成をするため、上記の範囲内で各元素を添加する。
Moは強度を向上させる元素であり、必要に応じてこれを添加する。但し0.80%を超えて過剰に添加すると加工性の劣化を招くとともにコスト高をもたらすので、上限を0.80%以下とする。
Moの好ましい添加量は0.01〜0.30%である。
[I](式(1)の導出試験)
表1に示すように種々のAl,Ti,Nb,N量を有するJIS SCR420鋼において、形状がφ25×100mmの試験片を用い、図1に示すように種々の温度で1hrのガス浸炭を行って表層C濃度を0.2〜0.8%Cまで変化させ、結晶粒粗大化の有無を調査した。
尚、用いた浸炭ガスその他の浸炭処理条件は以下とした。
滴注式ガス浸炭炉を用い、滴注液CH3OH:600ml/h,調整ガス:C3H8,N2、処理時間120minとした。
またC濃度の測定は、試験片表面から0.05mmの旋削屑を採取し、JIS G 1211-3に準拠して燃焼分析にてC定量を行った。
また結晶粒粗大化の有無は、JIS G 0551の結晶粒度試験方法に準拠して判定した。
ここで表1に示す鋼は、鋼に含有されているN量の変化によって表層N濃度が0.008〜0.025%まで変化している。
尚表1の鋼において、P:≦0.030%,S:≦0.030%,Cu:≦0.30%,Ni:≦0.25%で含まれている場合は、これを不純物として表示を省いている。
更にTi添加鋼であるk,lについては、モル比でN量以下のTiはTiNとして晶出し、ピン止め粒子形成に寄与しないことから、残りのTiのみを表1中余剰Tiとして表示している。
またNについてはkがN:0.010%でlがN:0.009%である。
また介在物Al2O3として析出する分を含めて、当初鋼中の全Alの量は鋼aが0.050%で、bが0.026%,cが0.031%,dが0.035%,eが0.039%,fが0.050%,gが0.018%,hが0.021%,iが0.026%,jが0.033%,kが0.004%,lが0.004%,mが0.004%,nが0.004%。
これらの図において、図中右上りの直線は結晶粒が粗大化する領域と粗大化抑制される領域との境界を表している。
図2,図3及び図4の結果から、鋼中C濃度が高くなるほど結晶粒粗大化温度が低下していることが見て取れる。
従ってC濃度が高くなるほど、結晶粒粗大化抑制のためにより多くの窒化物粒子(ピン止め粒子)を生成し析出させておくことが必要である。
ここでaは直線の傾き、bは切片である。
つまり各C濃度において、結晶粒粗大化の有無は下記式
V=a×T+b
で整理でき、0.2%C,0.6%C,0.8%Cではそれぞれ以下の式となる。
V=8.00×10−5×T−8.08×10−2(0.2%C)
V=9.31×10−5×T−9.53×10−2(0.6%C)
V=1.00×10−4×T−1.02×10−1(0.8%C)
0.2%C,0.6%C,0.8%Cそれぞれの直線の傾きa,切片bからa,bのC濃度依存性を求めると、図5にも示しているように
a=3.33×10−5×C+7.33×10−5
b=−3.58×10−2×C−7.37×10−2
となる。
(3.33×10−5×C+7.33×10−5)×T−(3.58×10−2×C+7.37×10−2)・・・式(1)
にて表すことができる。
従って実際の鋼中(鋼の表層)の窒化物粒子の析出量Vが以下の式
V≧(式(1)の値)
を満たすことで、即ちそのようなVを浸炭処理中維持することで、結晶粒粗大化を防ぐことができる。
図中Aは溶解度積を表す曲線で、BはAl等XとNとの窒化物におけるX量(質量%)とN量(質量%)との関係(比率)を表している。
例えばAlとNとの窒化物を例にとった場合、曲線Aと直線Bとの交点P0とP1(P1は鋼中に含有されるAl量を横軸(x軸)の値x1とし、N量を縦軸(y軸)の値y1として(x1,y1)で特定される座標値)とを結ぶ線分のx軸成分が析出Al量となり、y軸成分が析出N量となる。
尚、曲線Aよりも下の領域がAl,Nの固溶領域となる。
表2に示す組成の各種鋼を真空溶製して950〜1250℃にてφ30mmまで熱間鍛造し、910℃×1hrの焼準を施した後、φ25×100mmの試験片を作製し、真空浸炭処理を行った。
尚[I]の試験片についても同様にして作製している。
尚表1について述べたのと同様に、表2において、P:≦0.030%,S:≦0.030%,Cu:≦0.30%,Ni:≦0.25%で含まれている場合は、これを不純物として表示を省いている。
また介在物Al2O3として析出しているOは表示を省略し、更にAlについては残りのAl(s-Al)についてのみピン止め粒子としての窒化物粒子形成用に有効な量としてこれを表示している。
更にTi添加鋼であるqについては、モル比でN量以下のTiはTiNとして晶出し、ピン止め粒子形成に寄与しないことから、残りのTiのみを表2中余剰Tiとして表示している。
また介在物Al2O3として析出する分を含めて、当初鋼中の全Alの量は鋼oが0.031%で、pが0.031%,qが0.032%,rが0.031%である。
即ち炉容積400Lの処理炉を用い、炉内を真空引きして1500Paの減圧状態とし、1273〜1323Kの範囲内で処理温度を種々変化させて真空浸炭処理を行った。
ここで処理J,K,Lと、処理G,H,Iと、処理A,B,C,D,E,F,M,N,Oとでは浸炭条件を図7に示すように異ならせてある。
またその際の窒化性ガスの導入による窒化の有無に関しては処理A,G,Jと、処理B,E,F,H,I,K,L,M,N,Oと、処理Cと、処理Dとで図7に示すように処理の内容を異ならせてある。
ここでCの定量はJIS G 1211-3に準拠して行い、Nの定量についてはJIS G 1228-5に準拠して行った。
これらの結果が表3及び表4に示してある。
また窒化物粒子形成元素としてのNb,Tiを添加した場合の1323K(1050℃)の処理温度の下での表層窒化物粒子量の変化が図12に示してある。
尚、ここでは処理温度が低くなるのに伴って浸炭期の長さを段階的に長くしてある。
このように鋼の表層のC濃度は、浸炭処理の進行に伴って変化する。従って結晶粒成長抑制のための窒化物粒子の必要量もこれに応じて浸炭処理中に変動する。
これらの図に示しているように、浸炭処理の全期間を通じて窒化物粒子の量が式(1)で表される曲線S1〜S4を上回っている処理例においては、何れも浸炭処理後における結晶粒が結晶粒度番号4超、即ち5以上を維持できている。
従って表3及び表4の各処理において、処理後の結晶粒の結晶粒度番号の値は、浸炭処理の全期間を通じて鋼の表層の結晶粒の結晶粒度番号が、その値以上を維持していることを併せて示している。
Claims (2)
- 質量%で
C:0.10〜0.40%
Si:0.05〜2.00%
Mn:0.30〜2.00%
Cr:0.30〜3.00%
N:0.005〜0.035%
窒化によりピン止め粒子を形成するピン止め粒子形成元素として、
Al:0.020〜0.100%
Nb:0.01〜0.20%
Ti:0.005〜0.20%
のうちの1種若しくは2種以上
を含有し、残部Fe及び不可避的不純物の組成を有する鋼を、処理炉内でA3点以上の温度に加熱して保持し、減圧状態の下で浸炭性ガスにて浸炭処理する真空浸炭処理方法であって、
前記鋼の表層の、Alの窒化物AlN,Nbの窒化物NbN,Tiの窒化物TiNの1種若しくは2種以上から成る窒化物粒子の総量V(質量%)が、浸炭処理中に以下の式(1)の値以上を維持するように浸炭処理中に前記処理炉内に窒化性ガスを導入し窒化雰囲気制御することを特徴とする真空浸炭処理方法。
(3.33×10-5×C+7.33×10-5)×T−(3.58×10-2×C+7.37×10-2)・・・式(1)
(但し式(1)中、Cは前記鋼の表層のC濃度(質量%)を表し、Tは処理温度(K)を表す) - 請求項1において、前記鋼が質量%で
Mo:0.80%以下
を更に含有する組成であることを特徴とする真空浸炭処理方法。
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