図1はこの発明の実施例に係る無段変速機の制御装置を全体的に示す概略図である。
図1において符号10はエンジン(内燃機関。駆動源)を示す。エンジン10は駆動輪12を備えた車両14に搭載される(車両14は駆動輪12などで部分的に示す)。
エンジン10の吸気系に配置されたスロットルバルブ16は車両運転席床面に配置されるアクセルペダル18との機械的な接続が絶たれて電動モータなどのアクチュエータからなるDBW(Drive By Wire)機構20に接続され、DBW機構20で開閉される。
スロットルバルブ16で調量された吸気はインテークマニホルド(図示せず)を通って流れ、各気筒の吸気ポート付近でインジェクタ(図示せず)から噴射された燃料と混合して混合気を形成し、吸気バルブ(図示せず)が開弁されたとき、当該気筒の燃焼室(図示せず)に流入する。燃焼室において混合気は点火されて燃焼し、ピストンを駆動してクランクシャフト22を回転させた後、排気となってエンジン10の外部に放出される。
クランクシャフト22の回転はトルクコンバータ24を介して無段変速機(Continuously Variable Transmission)Tに入力される。無段変速機Tはクランクシャフト22にトルクコンバータ24を介して接続された主入力軸(入力軸)26と、主入力軸26に対して平行に配置された第1副入力軸28および第2副入力軸30と、第1副入力軸28および第2副入力軸30の間に配置された無段変速機構32とを備える。
無段変速機構32は第1副入力軸28、より正確にはその外周側シャフトに配置された第1プーリ32aと、第2副入力軸30、より正確にはその外周側シャフトに配置された第2プーリ32bと、その間に掛け回される無端可撓性部材、例えば金属製のベルト32cからなる。
第1プーリ32aは、第1副入力軸28の外周側シャフトに相対回転不能で軸方向移動不能に配置された固定プーリ半体32a1と、第1副入力軸28の外周側シャフトに相対回転不能で固定プーリ半体32a1に対して軸方向に相対移動可能な可動プーリ半体32a2と、可動プーリ半体32a2の側方に設けられて油圧(作動油の圧力)を供給されるときに可動プーリ半体32a2を固定プーリ半体32a1に向けて押圧する、ピストンとシリンダとスプリングからなる油圧アクチュエータ32a3を備える。
第2プーリ32bは、第2副入力軸30の外周側シャフトに相対回転不能で軸方向移動不能に配置された固定プーリ半体32b1と、第2副入力軸30の外周側シャフトに相対回転不能で固定プーリ半体32b1に対して軸方向に相対移動可能な可動プーリ半体32b2と、可動プーリ半体32b2の側方に設けられて油圧(作動油の圧力)を供給されるときに可動プーリ半体32b2を固定プーリ半体32b1に向けて押圧する、ピストンとシリンダとスプリングからなる油圧アクチュエータ32b3を備える。
図2は無段変速機構32、より具体的には、その第1、第2プーリ32a,32bに設けられた規制手段を示す説明図である。図2に示す如く、第1、第2プーリ32a,32bの可動プーリ半体32a2,32b2の内側には、各プーリの最小狭まり幅を機械的に規制するための閉じ側ストッパ(規制手段。図1で省略)32a4,32b4が設けられる。具体的には、閉じ側ストッパ32a4,32b4は固定プーリ半体32a1,32b1側においてプーリ軸(第1、第2副入力軸28,30)と同軸に設けられた円筒状の突き当て部材(突き当て)と、可動プーリ半体32a2,32b2側に設けられた溝とからなり、過度なプーリ側圧が供給された場合にあっても、固定プーリ半体32a1,32b1と可動プーリ半体32a2,32b2で形成されるプーリ溝が所定幅を超えて狭まるのを防ぐことができる。
ここで、閉じ側ストッパ32a4,32b4は、後述するプーリ側圧の異常、特にプーリ側圧が最大値となる異常が発生した場合であっても、第1、第2プーリ32a,32bとベルト32cとの間に過度の滑りが発生するのを防止するように配設される。即ち、閉じ側ストッパ32a4,32b4を設けない場合、プーリ側圧が最大値となる異常が発生すると、当該異常が発生した方のプーリのベルト巻き掛け半径が過度に拡大される結果、異常の発生していない方のプーリを引き寄せる方向に力が作用し、異常の発生していない方のプーリにおいて、ベルト巻き掛け半径が縮小すると共にベルトの滑りが発生してしまう。従って、この発明の実施例においては、上記のように第1、第2プーリ32a,32bの溝の狭まり幅を機械的に規制する閉じ側ストッパ32a4,32b4を設けることとし、ベルト32cの滑りによる不都合を回避するようにした。
なお、第1、第2プーリ32a,32bの溝が閉じ側ストッパ32a4,32b4によって機械的に規制される際のベルト巻き掛け半径は、無段変速機Tのトルク伝達経路(より正確には、トルクの入力経路)を切り替える際(後述)に設定されるベルト巻き掛け半径よりも大きい値に設定される。従って、無段変速機構32の継続使用によってベルト32cが伸長した場合であっても、無段変速機構32の変速制御を適切に実行することができ、無段変速機Tのトルク伝達経路の切り替えも適切に制御することができる。
また、第1、第2プーリ32a,32bの可動プーリ半体32a2,32b2の外側には、各プーリの最大広がり幅を機械的に規制するための開き側ストッパ(図1で省略)32a5,32b5が設けられる。
図1に戻って説明を続けると、主入力軸26にはLOW摩擦クラッチ34aおよびHIGH摩擦クラッチ34bからなる入力切替機構34が設けられる。また、主入力軸26には第1減速ギア36が相対回転自在に支持されると共に、第1副入力軸28には第1減速ギア36に噛合する第2減速ギア38が固設される。従って、LOW摩擦クラッチ34aを係合すると、主入力軸26から入力されるエンジン10のトルクは第1、第2減速ギア36,38で減速された後、第1副入力軸28を介して第1プーリ32aに入力される。なお、この明細書において、第1、第2減速ギア36,38および第1副入力軸28を介して主入力軸26から第1プーリ32aへとトルクを伝達する経路を減速入力経路と呼ぶ。
さらに、主入力軸26には第1増速ギア40が相対回転自在に支持されると共に、第2副入力軸30には第1増速ギア40に噛合する第2増速ギア42が相対回転自在に支持される。従って、HIGH摩擦クラッチ34bを係合すると、主入力軸26から入力されるエンジン10のトルクは第1、第2増速ギア40,42で増速された後、第2副入力軸30を介して第2プーリ32bに入力される。なお、この明細書において第1、第2増速ギア40,42および第2副入力軸30を介して主入力軸26から第2プーリ32bへとトルクを伝達する経路を増速入力経路と呼ぶ。
第2副入力軸30にはドグクラッチからなる前後進切替機構44が設けられる。即ち、前後進切替機構44のスリーブ(図示せず)が紙面右側に移動すると第2増速ギア42が第2副入力軸30に係合され、主入力軸26の回転がそのまま(反転されることなく)第2副入力軸30に入力される結果、車両14が前進する。一方、前後進切替機構44のスリーブが紙面左側に移動するとリバースドライブギア44aが第2副入力軸30に係合され、主入力軸26の回転はリバースドリブンギア44b、リバースアイドルギア44c、リバースドライブギア44aによって反転されて第2副入力軸30に入力される結果、車両14が後進する。
中間出力軸46には第1増速ギア40に噛合する第3減速ギア48が相対回転自在に支持されると共に、第3減速ギア48を中間出力軸46に結合するLOW側ドグクラッチ50およびそのシフトフォーク(LOW側シフトフォーク、図示せず)が設けられる。なお、上記したLOW側ドグクラッチ50およびLOW側シフトフォークが第1噛合式クラッチ機構に相当する。
また、中間出力軸46には第1ファイナルドライブギア52が固設され、第1ファイナルドライブギア52はディファレンシャル機構54のファイナルドリブンギア56に噛合し、ディファレンシャル機構54から左右の駆動輪12に向けて伸びる出力軸58に接続される。
なお、この明細書において、第2副入力軸30、前後進切替機構44、第1、第2増速ギア40,42、第3減速ギア48、中間出力軸46、第1ファイナルドライブギア52、ファイナルドリブンギア56およびディファレンシャル機構54を介して第2プーリ32bから出力軸58へとトルクを伝達する経路を第1出力経路と呼ぶ。
第1副入力軸28には第2ファイナルドライブギア60が相対回転自在に支持されると共に、第2ファイナルドライブギア60を第1副入力軸28に結合するHIGH側ドグクラッチ62およびそのシフトフォーク(HIGH側シフトフォーク、図示せず)が設けられる。なお、上記したHIGH側ドグクラッチ62およびHIGH側シフトフォークが第2噛合式クラッチ機構に相当する。
なお、この明細書において、第1副入力軸28、第2ファイナルドライブギア60、ファイナルドリブンギア56およびディファレンシャル機構54を介して第1プーリ32aから出力軸58へとトルクを伝達する経路を第2出力経路と呼ぶ。
また、上記した第1、第2、第3減速ギア36,38,48、第1、第2増速ギア40,42、第1、第2ファイナルドライブギア52,60およびファイナルドリブンギア56がこの実施例に係る副変速機構に相当する。
ここで、副変速機構を構成する各ギアのギア比は、以下の通りに設定される。即ち、減速入力経路(第1減速ギア36から第2減速ギア38)のギア比をired、増速入力経路(第1増速ギア40から第2増速ギア42)のギア比をiind、無段変速機構32の第1プーリ32aから第2プーリ32bへの最小変速比をiminとすると、ired×imin=iindとなるように設定される。また、第1出力経路(第2増速ギア42から第1増速ギア40、第1増速ギア40から第3減速ギア48(第1ファイナルドライブギア52)、第1ファイナルドライブギア52からファイナルドリブンギア56)のギア比をiout1、第2出力経路(第2ファイナルドライブギア60からファイナルドリブンギア56)のギア比をiout2、とすると、imin×iout1=iout2となるように設定される。
従って、無段変速機構32の第1プーリ32aから第2プーリ32bへの変速比を最小変速比iminに設定した場合、減速入力経路と第1出力経路とで構成される伝達経路、より正確には、減速入力経路から第1プーリ32a、ベルト32c、第2プーリ32bおよび第1出力経路を通るトルク伝達経路(LOWモードにおけるトルク伝達経路)の変速比と、増速入力経路と第2出力経路とで構成される伝達経路、より正確には、増速入力経路から第2プーリ32b、ベルト32c、第1プーリ32aおよび第2出力経路を通るトルク伝達経路(HIGHモードにおけるトルク伝達経路)の変速比とが同一の変速比となる。
ここで、上記構成を備えた無段変速機Tの変速モードについて説明する。LOWモードでは、入力切替機構34のLOW摩擦クラッチ34aおよびLOW側ドグクラッチ50が係合される一方、HIGH摩擦クラッチ34bおよびHIGH側ドグクラッチ62は解放される。また、前後進切替機構44は前進側(第2増速ギア42係合)に切り替えられる。
従って、LOWモードにおけるエンジン10のトルクの伝達経路は、エンジン10→クランクシャフト22→トルクコンバータ24→主入力軸26→LOW摩擦クラッチ34a→減速入力経路(より具体的には、第1減速ギア36→第2減速ギア38→第1副入力軸28)→第1プーリ32a→ベルト32c→第2プーリ32b→第1出力経路(より具体的には、第2副入力軸30→前後進切替機構44→第2増速ギア42→第1増速ギア40→第3減速ギア48→LOW側ドグクラッチ50→中間出力軸46→第1ファイナルドライブギア52→ファイナルドリブンギア56→ディファレンシャル機構54)→出力軸58→駆動輪12となる。
また、LOWモードからHIGHモードへの移行中、より正確には、直結LOWモードでは、LOW摩擦クラッチ34aおよびHIGH側ドグクラッチ62が係合される一方、HIGH摩擦クラッチ34bおよびLOW側ドグクラッチ50は解放される。また、ベルト32cを介してエンジン10からのトルクが伝達されないように第1、第2プーリ32a,32bの側圧はトルクゼロ側圧(後述)に低減される。
従って、直結LOWモードにおけるエンジン10のトルクの伝達経路は、エンジン10→クランクシャフト22→トルクコンバータ24→主入力軸26→LOW摩擦クラッチ34a→第1減速ギア36→第2減速ギア38→第1副入力軸28→HIGH側ドグクラッチ62→第2ファイナルドライブギア60→ファイナルドリブンギア56→ディファレンシャル機構54→出力軸58→駆動輪12となる。
また、HIGHモードでは、入力切替機構34のHIGH摩擦クラッチ34bおよびHIGH側ドグクラッチ62が係合される一方、LOW摩擦クラッチ34aおよびLOW側ドグクラッチ50は解放される。
従って、HIGHモードにおけるエンジン10のトルクの伝達経路は、エンジン10→クランクシャフト22→トルクコンバータ24→主入力軸26→HIGH摩擦クラッチ34b→増速入力経路(より具体的には、第1増速ギア40→第2増速ギア42→前後進切替機構44→第2副入力軸30→第2プーリ32b→ベルト32c→第1プーリ32a→第2出力経路(より具体的には、第1副入力軸28→HIGH側ドグクラッチ62→第2ファイナルドライブギア60→ファイナルドリブンギア56→ディファレンシャル機構54)→出力軸58→駆動輪12となる。
このように、LOWモードとHIGHモードとでは無段変速機構32におけるトルク伝達経路が反転するように構成されており、これによって無段変速機T全体におけるオーバーオール変速比を拡大することが可能となる。
また、HIGHモードからLOWモードへの移行中、より正確には、直結HIGHモードでは、HIGH摩擦クラッチ34bおよびLOW側ドグクラッチ50が係合される一方、LOW摩擦クラッチ34aおよびHIGH側ドグクラッチ62は解放される。また、直結LOWモード同様、ベルト32cを介してエンジン10からのトルクが伝達されないように第1、第2プーリ32a,32bの側圧はトルクゼロ側圧(後述)に低減される。
従って、直結HIGHモードにおけるエンジン10のトルクの伝達経路は、エンジン10→クランクシャフト22→トルクコンバータ24→主入力軸26→HIGH摩擦クラッチ34b→第1増速ギア40→第3減速ギア48→LOW側ドグクラッチ50→中間出力軸46→第1ファイナルドライブギア52→ファイナルドリブンギア56→ディファレンシャル機構54→出力軸58→駆動輪12となる。
図3はこの発明の実施例に係る無段変速機Tのオーバーオール変速比を示す説明図である。図3に示すように、この発明の実施例においては、無段変速機構32と副変速機構(第1〜第3減速ギア36,38,48、第1、第2増速ギア40,42、第1、第2ファイナルドライブギア52,60、ファイナルドリブンギア56)とを組み合わせたことにより、無段変速機構32を大型化することなく無段変速機T全体としてのオーバーオール変速比を拡大することができる。
図4は無段変速機Tの動作、より具体的には、無段変速機TがLOWモードからHIGHモードへとトルク伝達経路を切り替える際の動作を模式的に示す説明図である。なお、図4では、便宜のため無段変速機Tの構成を簡略化して示す。
先ず、図4(a)に示すLOWモードでは、上記した通り、エンジン(図3において「ENG」と示す)10からの駆動力(トルク)は減速入力経路を介して無段変速機構32の第1プーリ32aに入力され、ベルト32cおよび第2プーリ32bを伝い、第1出力経路および出力軸58を介して駆動輪(図3において「TYRE」と示す)12に伝えられる。
LOWモードからHIGHモードへの切り替えが開始されると、先ずHIGH側シフトフォークを動作させてHIGH側ドグクラッチ62を係合させる(図4(b))。HIGH側ドグクラッチ62が係合されたことを確認すると、次いでLOW側シフトフォークを動作させてLOW側ドグクラッチ50を解放する(図4(c)(d))。なお、この実施例においては、無段変速機Tのモード切替が実行される間は無段変速機構32の変速比を最小変速比iminに維持し、LOWモードにおけるトルク伝達経路とHIGHモードにおけるトルク伝達経路の変速比を同一にすることでLOW側/HIGH側ドグクラッチ50,62の係合/解放によるショックが発生するのを防止する。
より具体的には、HIGH側ドグクラッチ62が係合された後(図4(c))、第1、第2プーリ32a,32bに供給される側圧を制御することで無段変速機構32のベルト32cを介して伝達されるエンジン10のトルクを低減させるトルクダウン制御を実行し、トルクダウン制御が完了してベルト32cを介して伝達されるトルクがゼロとなった後、LOW側ドグクラッチ50を解放して直結LOWモードを確立する(図4(d))。
その後、HIGH摩擦クラッチ34bを係合させ、エンジン10のトルクが増速入力経路を介して無段変速機構32の第2プーリ32bに入力されるようにする(図4(e))。さらに、LOW摩擦クラッチ34aを解放させると共に、第1、第2プーリ32a,32bに供給される側圧を制御して無段変速機構32のベルト32cを介して伝達されるエンジン10のトルクを増加させるトルクアップ制御を実行し、HIGHモードへの切り替えが完了する(図4(f))。なお、上記したトルクダウン制御やトルクアップ制御は本願の発明の要旨と直接の関係を有しないため、詳細な説明は省略する。
図1に戻って説明を続けると、車両運転席にはレンジセレクタ70が設けられ、運転者が例えばP,R,N,Dなどのレンジのいずれかを選択することで前後進切替機構44の切り替えが行われる。即ち、運転者のレンジセレクタ70の操作によるレンジ選択は変速機油圧供給機構72のマニュアルバルブに伝えられ、車両14を前進あるいは後進走行させる。
図示は省略するが、変速機油圧供給機構72にはオイルポンプ(送油ポンプ)が設けられ、エンジン10で駆動されてリザーバに貯留された作動油を汲み上げて油路に吐出する。
油路は無段変速機構32の第1、第2プーリ32a,32bの油圧アクチュエータ32a3,32b3、前後進切替機構44のクラッチ、トルクコンバータ24のロックアップクラッチに電磁弁を介して接続される。
エンジン10のカム軸(図示せず)付近などの適宜位置にはクランク角センサ74が設けられ、ピストンの所定クランク角度位置ごとにエンジン回転数NEを示す信号を出力する。吸気系においてスロットルバルブ16の下流の適宜位置には絶対圧センサ76が設けられ、吸気管内絶対圧(エンジン負荷)PBAに比例した信号を出力する。
DBW機構20のアクチュエータにはスロットル開度センサ78が設けられ、アクチュエータの回転量を通じてスロットルバルブ16の開度THに比例した信号を出力する。
前記したアクセルペダル18の付近にはアクセル開度センサ80が設けられて運転者のアクセルペダル操作量に相当するアクセル開度APに比例する信号を出力する。上記したクランク角センサ74などの出力は、エンジンコントローラ82に送られる。
主入力軸26にはNTセンサ(回転数センサ)84が設けられ、主入力軸の回転数NTを示すパルス信号を出力する。
無段変速機構32の第1副入力軸28にはN1センサ(回転数センサ)86が設けられて第1副入力軸28の回転数N1、換言すれば第1プーリ32aの回転数に応じたパルス信号を出力する。また、第2副入力軸30にはN2センサ(回転数センサ)88が設けられて第2副入力軸30の回転数N2、換言すれば第2プーリ32bの回転数に応じたパルス信号を出力する。
第2ファイナルドライブギア60の付近には車速センサ(回転数センサ)90が設けられて車両14の走行速度を意味する車速Vを示すパルス信号を出力する。また、前記したレンジセレクタ70の付近にはレンジセレクタスイッチ92が設けられ、運転者によって選択されたP,R,N,Dなどのレンジに応じた信号を出力する。
変速機油圧供給機構72において、無段変速機構32の第1、第2プーリ32a,32bに通じる油路にはそれぞれ第1、第2油圧センサ94,96が配置され、第1、第2プーリ32a,32bの油圧アクチュエータ32a3,32b3のピストン室(図示せず)に供給される油圧に応じた信号を出力する。また、図示は省略するが、前後進切替機構44のクラッチのピストン室やトルクコンバータ24のロックアップクラッチのピストン室に連結される油路にもそれぞれ油圧センサが配置され、各供給油圧に応じた信号を出力する。
第1、第2噛合式クラッチ機構、より具体的には、LOW側/HIGH側ドグクラッチ50,62の付近には第1、第2ストロークセンサ98,100が設けられ、LOW側/HIGH側ドグクラッチ50,62の移動量に応じた信号を出力する。
上記したNTセンサ84などの出力は、図示しないその他のセンサの出力も含め、シフトコントローラ102(制御手段)に送られる。エンジンコントローラ82とシフトコントローラ102はCPU,ROM,RAM,I/Oなどで構成されるマイクロコンピュータを備えると共に、相互に通信自在に構成される。
エンジンコントローラ82は上記したセンサ出力に基づいて目標スロットル開度を決定してDBW機構20の動作を制御し、燃料噴射量や点火時期を決定してインジェクタあるいは点火プラグなどの点火装置の動作を制御する。
シフトコントローラ102は第1、第2油圧センサ94,96の出力に基づきプーリ供給油圧(側圧)を算出し、算出された側圧に応じて変速機油圧供給機構72の種々の電磁弁を励磁・消磁することにより第1、第2プーリ32a,32bの油圧アクチュエータ32a3,32b3のピストン室への油圧の給排を制御して無段変速機構32の動作を制御すると共に、前後進切替機構44とトルクコンバータ24の動作を制御する。
以上がこの発明の実施例に係る無段変速機Tの構成であるが、ここで、この発明が解決しようとする課題について、図を参照しながら再度説明する。図5は上記したトルク伝達経路の切り替え中にプーリ側圧異常が発生した場合の事象を説明するための説明図である。
図4に示すLOWモードからHIGHモードへの切り替え時を例にとって説明すると、図4(b)に示すように、LOW側ドグクラッチ50とHIGH側ドグクラッチ62がいずれも係合している、いわゆる共噛みの状態において、何らかの要因、例えば、プーリ油圧を供給する油圧供給機構72の電磁弁などの故障により、第1、第2プーリ32a,32bに供給される側圧のうちいずれか一方に異常が発生すると、無段変速機構32の変速比が変化し、LOWモードにおけるトルク伝達経路とHIGHモードにおけるトルク伝達経路の変速比が異なるものとなる結果、共噛みしたLOW側ドグクラッチ50,HIGH側ドグクラッチ62やベルト32cが破損するおそれが生じる。
即ち、上記したように、この発明の実施例においては、無段変速機構32の変速比が最小変速比iminとなるときにLOWモードにおける伝達経路とHIGHモードにおけるトルク伝達経路の変速比が同一となるように各ギアのギア比が設定されており、この状態でトルク伝達経路の切り替えを行うように構成していることから、伝達経路の切り替え時、第1、第2ドグクラッチ50,62が共噛みしている場合にプーリ側圧異常、より具体的には、プーリ側圧が最大値となる異常が発生してトルク伝達経路の変速比が変化すると、図5に示すような循環トルクが発生し、LOW側/HIGH側ドグクラッチ50,62やベルト32cが破損するおそれがある。
従って、かかる場合、従来の制御であれば車両14をインターロック状態として車輪12をロックすると共に、エンジン10を停止するように構成される。また、エンジン10の停止を回避するために、インターロック状態となったときにLOW摩擦クラッチ34aを解放するように構成することも考えられるが、循環トルクが発生していることから車輪12のロックまでは回避することができない可能性がある。
しかしながら、インターロック状態となって車輪12がロックされると、その後に車両14を走行させることができなくなるため、可能な限りインターロック状態となるのを回避しつつ、LOW側/HIGH側ドグクラッチ50,62やベルト32cの破損を防止することが望まれる。
従って、この発明は、トルク伝達経路の切り替え時に第1、第2プーリ32a,32bに供給されるプーリ側圧に異常が発生した場合であっても、インターロック状態となって車輪12がロックされることを回避しつつ、ギアやベルト32cを保護するようにした無段変速機の制御装置を提供することを目的とする。
図6はこの実施例におけるシフトコントローラ102の動作を説明するフロー・チャートである。なお、図6の処理は所定時間ごとに繰り返し実行される。
以下説明すると、S10において無段変速機TがLOWモードとHIGHモードとの間で切り替えされる移行状態にあるか否か判断する(S:処理ステップ)。なお、図示は省略するが、S10の判断に先駆けてシフトコントローラ102は、アクセル開度センサ80、車速センサ90の出力から得られるアクセル開度APおよび車速Vに基づき、予め用意された変速マップを検索して無段変速機Tの目標変速比を算出し、算出された目標変速比に基づいて無段変速機Tのトルク伝達経路(入力経路)を切り替えるべきか否かを判断する。
より正確には、S10は無段変速機Tが図4(b)で示した状態にあるか否かを判断するものであり、第1、第2ストロークセンサ98,100の出力からLOW側/HIGH側ドグクラッチ50,62が係合中(共噛み中)であるか否かを判断する。
S10で否定されるときは、仮に側圧異常が発生して無段変速機構32の変速比が変化した場合であっても、循環トルクが発生するおそれはないため以下の処理はスキップされる。
他方、S10で肯定されるときはS12に進み、第1、第2プーリ32a,32bに供給される側圧のうちのうちいずれか一方のプーリ側圧に異常が発生しているか判断する。なお、プーリ側圧が抜けてしまう異常が発生した場合については、ベルト32cを介してトルクが伝達されることはなく、従って上記した循環トルクが発生するという不都合も生じないことから、S12におけるプーリ側圧の異常とは、具体的にはプーリ側圧の値が最大値となる異常を指す。
S12で否定されるときはインターロック状態となるおそれがないことから以下の処理をスキップする一方、S12で肯定されるときはS14に進み、異常が発生しているのは第1プーリ32aか否か判断する。
ここで、S12,S14におけるプーリ側圧異常判断について説明すると、シフトコントローラ102は、N1,N2センサ86,88の出力から得られる第1、第2プーリ32a,32bの回転数N1,N2と、適宜算出される第1、第2プーリ32a,32bのプーリ推力に基づいてプーリ側圧に異常が発生しているか否か判断する。
即ち、第1、第2プーリ32a,32bのプーリ側圧に異常が発生した場合、無段変速機構32の変速比が変化し、第1、第2プーリ32a,32bの回転数N1,N2のうち少なくともいずれかが予期せず変化する。従って、プーリ回転数N1,N2に基づいてプーリ側圧に異常が発生したか否かを容易に検出することができる。ただし、回転数N1,N2に基づく判断のみではプーリ側圧が抜けたことによる異常とプーリ側圧の値が最大値になったことによる異常の判別、および第1、第2プーリ32a,32bのうちいずれのプーリに異常が発生しているのかの判別を正確に行うことができない。そこで、回転数N1,N2の変化から側圧異常の発生が検出された場合、無段変速機構32の変速比とトルク比とから第1、第2プーリ32a,32bのプーリ推力を算出し、算出されたプーリ推力を目標推力と比較することによりプーリ側圧の異常判断を行う。
あるいは、第1、第2油圧センサ94,96の出力に基づいて第1、第2プーリ32a,32bに供給されるプーリ側圧の異常の発生を検出すると共に、側圧異常の発生が検出された場合は、上記同様に第1、第2プーリ31a,32bのプーリ推力を算出して目標推力と比較することによってプーリ側圧の異常判断を行うようにしても良い。
S14で肯定されて第1プーリ32aに異常が発生していると判断されたときはS16に進み、異常が発生していない第2プーリ32bに供給される側圧の値を最小値に設定する。一方、S14で否定されて第2プーリ32bに異常が発生していると判断されたときはS18に進み、異常が発生していない第1プーリ32aに供給される側圧の値を最小値に設定する。
即ち、LOW側/HIGH側ドグクラッチ50,62がいずれも係合されている状態で一方のプーリ(例えば第1プーリ32a)の側圧の値が最大値となる異常が発生した場合、図5に示して説明した循環トルクが発生してしまうが、この発明の実施例においては、かかる場合に他方のプーリ(例えば第2プーリ32b)の側圧の値をすばやく最小値まで低減させることにより、無段変速機構32を介して伝達されるトルクを可能な限り低減させて循環トルクの発生を抑制するようにした。また、異常が発生した方のプーリ(例えば第1プーリ32a)のプーリ溝は規制手段(例えば閉じ側ストッパ32a4)によって機械的に規制されるため、異常が発生した方のプーリのベルト巻き掛け半径が過度に大きくなるのを防ぐことができ、よってプーリ側圧異常によるベルト32cの滑りを最小限に防止することができる。従って、車両14がインターロック状態となるのを回避すると共に、ベルト32cを保護することができる。
S16またはS18の処理が完了すると、次いでプログラムはS20に進み、車両のフロントパネル(図示せず)などに設けられた警告灯やアラームなどの機器を用い、車両14の運転者に対してプーリ側圧異常が発生している旨を伝える警告を発した後、S22に進んで車両14が停止したか否か判断する。
S22の判断は肯定されるまで繰り返され、肯定されて車両14が停止したと判断されるときはS24に進み、直結モードを確立する。即ち、第1、第2プーリ32a,32bに供給される側圧の一方に異常が発生すると、他方のプーリ側圧を最小値に設定した場合であっても、異常が発生している方のプーリとベルト32cを介して出力軸58に伝達されるトルクを完全に零とすることはできず、また、ベルト32cの滑りも完全に防止することはできないため、異常が発生しているプーリとベルト32cを介することなくエンジン10のトルクを出力軸58に伝達できるように無段変速機Tを直結モードに切り替え、プログラムを終了する。
即ち、第1プーリ32aの側圧に異常があると判断されたときは、HIGH側ドグクラッチ62とLOW摩擦クラッチ34aを解放すると共に、HIGH摩擦クラッチ34bを係合して直結HIGHモードを確立する(LOW側ドグクラッチ50は係合状態が維持される)。他方、第2プーリ32bの側圧に異常があると判断されたときは、LOW側ドグクラッチ50とHIGH摩擦クラッチ34bを解放すると共に、LOW摩擦クラッチ34aを係合して直結LOWモードを確立する(HIGH側ドグクラッチ62は係合状態が維持される)。
上記の如く、この発明の実施例においては、車両14に搭載されるエンジン(内燃機関。駆動源)10に接続される主入力軸(入力軸)26と、第1プーリ32a、第2プーリ32bおよび前記第1、第2プーリ32a,32bの間に掛け回される無端可撓性部材(ベルト)32cを有すると共に、前記主入力軸26と前記車両14のエンジン10に接続される出力軸58との間に介挿されて前記主入力軸26から入力される前記エンジン10のトルク(駆動力)を無段階に変速する無段変速機構32と、前記主入力軸26から入力される前記エンジン10のトルクを減速して前記無段変速機構32に入力する減速入力経路(第1減速ギア36→第2減速ギア38→第1副入力軸28)と、前記主入力軸26から入力される前記エンジン10のトルクを増速して前記無段変速機構32に入力する増速入力経路(第1増速ギア40→第2増速ギア42→第2副入力軸30)と、前記減速入力経路と増速入力経路のうち、前記主入力軸26から入力されるトルクが伝達されるべき入力経路を選択的に切り替える切替機構(入力切替機構34。LOW摩擦クラッチ34a,HIGH摩擦クラッチ34b)と、前記減速入力経路を介して前記無段変速機構32に伝達される前記トルクを前記出力軸58に出力する第1出力経路(第2副入力軸30→前後進切替機構44→第2増速ギア42→第1増速ギア40→第3減速ギア48→中間出力軸46→第1ファイナルドライブギア52→ファイナルドリブンギア56→ディファレンシャル機構54)と、前記増速入力経路を介して前記無段変速機構32に伝達される前記トルクを前記出力軸58に出力する第2出力経路(第1副入力軸28→第2ファイナルドライブギア60→ファイナルドリブンギア56→ディファレンシャル機構54)と、前記第1出力経路に介挿されて前記無段変速機構32と前記出力軸58とを係合する第1噛合式クラッチ機構(LOW側シフトフォーク、LOW側ドグクラッチ50)と、前記第2出力経路に介挿されて前記無段変速機構32と前記出力軸58とを係合する第2噛合式クラッチ機構(HIGH側シフトフォーク、HIGH側ドグクラッチ62)と、前記第1、第2プーリ32a,32bに供給される側圧(プーリ側圧)を制御する制御手段(シフトコントローラ102)とを備えた無段変速機Tの制御装置において、前記車両14の走行状態に応じて前記無段変速機Tの変速比を算出する変速比算出手段(シフトコントローラ102)と、前記算出された変速比に基づいて前記入力経路を切り替えるべきか否か判断する切替判断手段(シフトコントローラ102)と、前記LOW側/HIGH側ドグクラッチ50,62の係合状態を検出する検出手段(第1、第2ストロークセンサ98,102)と、前記入力経路を切り替えるべきと判断されたとき、前記第1、第2プーリ32a,32bに供給される側圧が最大値となる側圧の異常が生じているか否かを判断する側圧異常判断手段と(シフトコントローラ102,S12)と、前記第1、第2プーリ32a,32bの溝の狭まり幅を規制する規制手段(閉じ側ストッパ32a4,32b4)とを備えると共に、前記制御手段は、前記検出手段によって前記LOW側/HIGH側ドグクラッチ50,62がいずれも係合していると検出され、かつ、前記側圧異常判断手段によって前記第1、第2プーリ32a,32bのうちいずれか一方に供給される側圧が異常であると判断されたとき、前記第1、第2プーリのうちの他方の側圧を低減させる(シフトコントローラ102,S16,S18)ように構成したので、トルク伝達経路の切り替え実行中にプーリ側圧に異常が発生した場合であっても車両14がインターロック状態となることを回避することができると共に、ギア(より具体的には、LOW側/HIGH側ドグクラッチ50,62)や無端可撓性部材(ベルト32c)の破損を防止することができる。
また、規制手段は、前記第1、第2プーリ32a,32bの溝に設けられた突き当て(突き当て部材)を備えるように構成したので、上記した効果に加え、プーリ側圧に異常、特にプーリ側圧が最大値となってしまう異常が発生した場合であっても、プーリ溝の幅が過度に狭まるのを確実に防ぐことができ、ベルト32cの破損をより一層確実に防止することができる。
また、前記第1プーリ32aと第2プーリ32bの回転数N1,N2およびプーリ推力に基づいて前記第1、第2プーリ32a,32bに供給される側圧が異常であると判断する(S12,S14)ように構成したので、上記した効果に加え、プーリ側圧の異常をより適切に検出することができる。また、プーリ側圧の異常を判断するために専用のセンサを設ける必要がないことから、構造を簡略化することができる。
また、第1プーリ32aと第2プーリ32bに供給される側圧およびプーリ推力に基づいて第1、第2プーリに供給される側圧が異常であると判断する(S12,S14)ように構成したので、上記同様、プーリ側圧の異常をより適切に判断することができる。
また、前記第1、第2プーリ32a,32bのうちいずれか一方に供給される側圧が異常であると判断されたとき、第1、第2プーリ32a,32bのうちの他方に供給される側圧を低減させるとともに、前記LOW側/HIGH側ドグクラッチ50,62のうちいずれか、より具体的には、LOW側/HIGH側ドグクラッチ50,62のうち、異常が検出された方のプーリとベルト32cを介して出力軸58にトルクを伝達する伝達経路に介挿されるドグクラッチを解放し、よって前記ベルト32cを介して伝達される前記トルクを零とする(S24)ように構成、換言すれば、プーリ側圧の異常が判断されたときは直結モードを確立するように構成したので、上記した効果に加え、プーリ側圧に異常が発生した場合であっても当該異常が発生したプーリやベルト32cを使用せずに車両14を走行させることが可能となり、従って車両14がインターロック状態となるのを回避することができると共に、LOW側/HIGH側ドグクラッチ50,62やベルト32cの破損をより一層防止することができる。
また、前記規制手段は、前記規制手段(閉じ側ストッパ32a4,32b4)によって規制されるときの前記第1、第2プーリ32a,32bの巻き掛け半径が前記入力経路を切り替えるときに設定される前記第1、第2プーリ32a,32bの巻き掛け半径よりも大きくなるように設けられるように構成したので、上記した効果に加え、継続使用によってベルト32cが伸長した場合であっても、無段変速機構32の変速制御を適切に行うことができる。
なお、上記した実施例において、無段変速機Tの具体的な構成について説明したが、これに限られるものではなく、この発明の要旨は図3に簡略化して示した無段変速機Tの構成に相当するものであればどのような無段変速機Tに対しても妥当する。
また、無端可撓性部材32cとしてベルトを例にとって説明したが、これに変えて、例えば、金属製のチェーンを用いるようにしても良い。